(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】近接効果補正方法、原版製造方法および描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240904BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
H01L21/30 541M
G03F7/20 504
G03F7/20 521
H01L21/30 502D
(21)【出願番号】P 2021010415
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】香川 譲徳
(72)【発明者】
【氏名】馬越 俊幸
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-094379(JP,A)
【文献】特開2000-243685(JP,A)
【文献】特開2005-294742(JP,A)
【文献】特開2006-047155(JP,A)
【文献】特開2007-095835(JP,A)
【文献】特開2011-022617(JP,A)
【文献】特開2012-019066(JP,A)
【文献】特開2014-130077(JP,A)
【文献】特開2019-176049(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0018325(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームの照射によって基板上にパターンを描画するための描画情報を取得し、
前記基板の表面形状に関する表面形状情報を取得し、
前記描画情報を複数のメッシュに分割し、
前記メッシュ毎に前記表面形状情報に含まれる情報からスロープまたは段差が存在するか否かを判定し、
前記スロープまたは前記段差が存在する前記メッシュに対して前記取得された描画情報および表面形状情報に基づいて、前記電子ビームが前記基板中で後方散乱することで生じる後方散乱ビームのエネルギー分布を算出し、
前記算出されたエネルギー分布に基づいて前記電子ビームの必要エネルギー量を算出する、
ことを含む近接効果補正方法。
【請求項2】
前記表面形状情報は、段差によって異なる高さを有するように前記基板の表面上に配置された複数のフラット部の配置状態を示す第1配置情報と、前記複数のフラット部の高さを示す高さ情報とを含む請求項1に記載の近接効果補正方法。
【請求項3】
前記エネルギー分布の算出は、前記描画情報と、前記第1配置情報と、前記高さ情報と、前記基板の表面上に配置されたスロープ部の傾斜角度と、前記スロープ部の傾斜向きとに基づく請求項2に記載の近接効果補正方法。
【請求項4】
前記描画情報を前記基板の表面の複数の領域にそれぞれ対応する複数の分割情報に分割することをさらに含み、
前記エネルギー分布の算出は、前記分割情報毎に行われ、
前記必要エネルギー量の算出は、前記算出された分割情報毎のエネルギー分布を積算した積算エネルギー分布に基づいて行われる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の近接効果補正方法。
【請求項5】
前記算出されたエネルギー分布は異方性をもった分布である請求項1に記載の近接効果補正方法。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の近接効果補正方法を用いて算出された必要エネルギー量に基づいて電子ビームの照射量を制御し、
前記制御された照射量の電子ビームを基板上に照射して前記基板上にパターンを描画する、
ことを含む原版製造方法。
【請求項7】
前記算出されたエネルギー分布は異方性をもった分布である請求項6に記載の原版製造方法
。
【請求項8】
算出された電子ビームの必要エネルギー量に基づいて、パターンを描画するために基板上に照射される電子ビームの照射量を制御する制御部を備え、
前記必要エネルギー量は、前記電子ビームが前記基板中で後方散乱することで生じる後方散乱ビームのエネルギー分布に基づくエネルギー量であり、
前記後方散乱ビームのエネルギー分布は、前記パターンを描画するための描画情報と、前記基板の表面形状に関する表面形状情報と
を取得し、前記描画情報を複数のメッシュに分割し、前記メッシュ毎に前記表面形状情報に含まれる情報からスロープまたは段差が存在するか否かを判定し、前記スロープまたは前記段差が存在する前記メッシュに対して前記取得された描画情報および表面形状情報を用いることにより算出されたエネルギー分布である、
描画装置。
【請求項9】
前記算出されたエネルギー分布は異方性をもった分布である請求項8に記載の描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、近接効果補正方法、原版製造方法および描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム描画装置を用いて半導体プロセス用の原版を作製する場合がある。この場合、原版用の基板の表面形状によっては、基板中での電子ビームの後方散乱による近接効果を適切に補正することが困難となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板の表面形状にかかわらず近接効果を適切に補正することが可能な近接効果補正方法、原版製造方法および描画装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一の実施形態によれば、近接効果補正方法は、電子ビームの照射によって基板上にパターンを描画するための描画情報を取得することを含む。前記方法はさらに、前記基板の表面形状に関する表面形状情報を取得することを含む。前記方法はさらに、前記取得された描画情報および表面形状情報に基づいて、前記電子ビームが前記基板中で後方散乱することで生じる後方散乱ビームのエネルギー分布を算出することを含む。前記方法はさらに、前記算出されたエネルギー分布に基づいて前記電子ビームの必要エネルギー量を算出することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】実施形態による描画装置の一例を示す図である。
【
図1B】実施形態による描画装置の他の一例を示す図である。
【
図2A】実施形態による描画装置を適用可能なマスクブランクの一例を示す断面図である。
【
図2B】実施形態による描画装置を適用可能なテンプレートブランクの一例を示す断面図である。
【
図2C】実施形態による描画装置を適用可能なマスクブランクの他の一例を示す断面図である。
【
図3】実施形態による近接効果補正方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示される描画データの取得工程の一例を説明するための説明図である。
【
図5】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示される表面形状データの取得工程の一例を説明するための説明図である。
【
図6】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示される描画データのメッシュへの分割工程の一例を説明するための説明図である。
【
図7】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示される傾斜角度情報および傾斜向き情報の一例を説明するための説明図である。
【
図8】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示されるスロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図9】実施形態による近接効果補正方法において、
図8よりも詳細にスロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図10】実施形態による近接効果補正方法において、
図9に続く、スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図11】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示されるスロープ部における積算エネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図12】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示される必要エネルギー量の算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図13】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示されるスロープ部の傾斜角度および傾斜向きの算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図14】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示されるフラット部の境界部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図15】実施形態による近接効果補正方法において、
図3のフローチャートに示されるフラット部における積算エネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
【
図16A】実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。
【
図16B】
図16Aに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。
【
図16C】
図16Bに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。
【
図16D】
図16Cに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。
【
図16E】
図16Dに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。
【
図17A】実施形態によるテンプレートの製造方法を示す断面図である。
【
図17B】
図17Aに続く、実施形態によるテンプレートの製造方法を示す断面図である。
【
図17C】
図17Bに続く、実施形態によるテンプレートの製造方法を示す断面図である。
【
図17D】
図17Cに続く、実施形態によるテンプレートの製造方法を示す断面図である。
【
図17E】
図17Dに続く、実施形態によるテンプレートの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1Aから
図17Eにおいて、同一または類似する構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0008】
(描画装置)
図1Aは、実施形態による描画装置1の一例を示す図である。
図1Bは、実施形態による描画装置1の他の一例を示す図である。
図1Aおよび
図1Bに示される描画装置1は、例えば、半導体プロセスに用いられる原版を製造する際に、電子ビームEBの照射によって後述する基板6上(すなわち、基板6上のレジスト膜9)にパターンを描画するために用いることができる。基板6は、電子ビームEBの照射による原版の製造に適用できるものであれば具体的な態様は特に限定されない。例えば、
図2A~
図2Cにおいて後述するように、基板6は、マスクブランク6A,6Cまたはテンプレートブランク6Bであってもよい。より詳しくは、
図1Aおよび
図1Bに示される描画装置1は、基板6の表面形状の違いによって後方散乱ビームによるレジスト膜9中の蓄積エネルギー分布(以下、後方散乱ビームのエネルギー分布と呼ぶ)が異なることを考慮して、後方散乱による近接効果を適切に補正するために用いることができる。
【0009】
図1Aに示される描画装置1は、計算機2と、制御装置3と、電子照射ユニット4と、ステージ5とを備える。計算機2は、近接効果補正における各種の計算処理(例えば、後述する後方散乱ビームのエネルギー分布の算出および必要エネルギー量の算出)を行う。
図1Aにおいて、計算機2は、更に、近接効果補正以外の描画のための計算処理を行ってもよい。
【0010】
図1Bに示される描画装置1では、計算機2が描画装置1の外部に配置されている。
図1Bでは、描画装置1の外部の計算機2が近接効果補正における各種の計算処理を行い、また、描画装置1が、近接効果補正以外の描画のための計算処理を行う計算機(図示せず)を別途備えていてもよい。
【0011】
以降の描画装置1の説明は、特に明記しない限り
図1Aおよび
図1Bの描画装置1に共通の説明である。電子照射ユニット4は、電子光学鏡筒(図示せず)内に配置されている。基板6は、電子光学鏡筒に連通する真空チャンバ内においてステージ5上に載置されている。ステージ5は、モータ等の駆動装置によって例えば水平方向(X方向、Y方向)および鉛直方向(Z方向)に移動可能である。ステージ5が移動されることで、ステージ5上の基板6に対する電子ビームEBの照射位置が変更可能となっている。
【0012】
ここで、描画装置1の構成部についてさらに詳述する前に、描画装置1を適用可能な基板6の例について説明する。
図2Aは、実施形態による描画装置1を適用可能なマスクブランク6Aの一例を示す断面図である。
図2Bは、実施形態による描画装置1を適用可能なテンプレートブランク6Bの一例を示す断面図である。
図2Cは、実施形態による描画装置1を適用可能なマスクブランク6Cの他の一例を示す断面図である。マスクブランク6A,6Cは、フォトリソグラフィ用の原版であるフォトマスクの製造に用いられる基板6の例である。テンプレートブランク6Bは、ナノインプリントリソグラフィ用の原版であるテンプレートの製造に用いられる基板6の例である。
【0013】
図2Aおよび
図2Cに示すように、基板6としてのマスクブランク6A,6Cは、透光性基板61と、透光性基板61上に形成された遮光膜62とを有する。透光性基板61は、例えば、主成分として石英を含有していてもよい。遮光膜62は、例えば、主成分としてクロム(Cr)などの金属を含有していてもよい。一方、
図2Bに示すように、基板6としてのテンプレートブランク6Bは、例えば主成分として石英を含有することで、全体として透光性を有している。
【0014】
半導体装置用のデバイス基板(ウエハ)に形成された被加工膜の表面に段差またはスロープが存在する場合、一様にフラットな表面を有するフォトマスクまたはテンプレートを用いた場合は被加工膜を精度良く加工することが困難となる。具体的には、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィの場合、被加工膜上のレジスト膜に露光光の焦点を合わせることが困難となることで、被加工膜上のレジスト膜を適切に露光することが困難となる。テンプレートを用いたナノインプリントリソグラフィの場合、被加工膜であるデバイス基板上のレジストにテンプレートを適切に押し付けてパターンを転写することが困難となる。この結果、被加工膜に所望の精度で回路パターンを形成することが困難となる。そこで、段差やスロープが存在する被加工膜を精度良く加工する観点から、フォトマスクまたはテンプレート用の基板6A~6Cの表面は、被加工膜の表面形状に合わせた表面形状を有する。具体的には、
図2Aに示されるマスクブランク6Aの表面は、面内方向d1に平行なフラット部6aと、段差zdによってフラット部6aよりも高く形成されたフラット部6cと、両フラット部6a,6cを接続するスロープ部6bとを有する。なお、マスクブランク6Aをステージ5上に載置したときに、面内方向d1は水平方向に一致する。
図2Aに示されるスロープ部6bは直線状の傾斜平面であるが、
図2Aの符号6b’に示すように、スロープ部6b’は傾斜曲面であってもよい。
図2Bに示されるテンプレートブランク6Bおよび
図2Cに示されるマスクブランク6Cの表面は、段差zdによって異なる高さを有するように形成された互いに隣り合うフラット部6a,6cを有する。なお、テンプレートブランク6Bは、スロープ部を有していてもよい。
【0015】
ここで、原版(フォトマスク、テンプレート)を製造するために基板6上にパターンを描画する際には、基板6上にレジスト膜9を形成する。なお、
図16Aでは、基板6の一例としてのマスクブランク6A上にレジスト膜9を形成している。
図17Aでは、基板6の一例としてのテンプレートブランク6B上にレジスト膜9を形成している。そして、レジスト膜9が形成された基板6に電子ビームEBを照射することで、レジスト膜9にパターンを描画する。基板6に照射された電子ビームEBは、基板6中で後方散乱する。後方散乱によって生じた後方散乱ビームは、基板6上のレジスト膜9を再露光する。レジスト膜9の再露光によって、パターンの寸法が設計値から変動する近接効果が生じる。具体的には、パターン密度が高い箇所では、周辺からの後方散乱によるレジスト膜9の再露光量が大きくなるため、パターンの寸法が設計値よりも大きくなる。一方、パターン密度が低い箇所では、再露光量が少ないためパターンの寸法が設計値よりも小さくなる。パターンの寸法精度を確保するためには、近接効果を補正することが求められる。近接効果の補正においては、後方散乱ビームのエネルギー分布に基づいて、電子ビームEBの照射量を制御する。後方散乱ビームのエネルギー分布としては、ガウシアン分布が用いられることが多い。しかるに、
図2A~
図2Cに示される基板6A~6Cのように、表面に段差やスロープが存在する基板6上にパターンを描画する場合、後方散乱ビームのエネルギー分布が一様でなくなる。すなわち、フラット部と、スロープ部と、隣り合うフラット部同士の境界部との間で、後方散乱ビームのエネルギー分布は異なる。この場合、後方散乱ビームのエネルギー分布として常にガウシアン分布を用いると、近接効果を適切に補正することができない。これに対して、実施形態による描画装置1は、基板6の表面形状にかかわらず近接効果を適切に補正するように構成されている。
【0016】
具体的には、
図1A、
図1Bに示すように、計算機2には、描画データ7が入力される。描画データ7は、電子ビームEBの照射によって基板6上にパターンを描画するためのデータである。描画データ7は、例えば、原版の設計データに基づいて計算機2と異なる計算機で作成されたデータである。また、
図1A、
図1Bに示すように、計算機2には、表面形状データ8が入力される。表面形状データ8は、基板6の表面形状に関するデータである。表面形状データ8は、例えば、原版の設計データに基づいて計算機2と異なる計算機で作成されたデータである。計算機2に描画データ7および表面形状データ8を入力する方法は特に限定されず、例えば、データ通信による入力および記憶媒体を介した入力のいずれであってもよい。描画データ7および表面形状データ8の更なる詳細については、後述する近接効果方法の実施形態で説明する。
【0017】
計算機2は、入力によって取得された描画データ7および表面形状データ8に基づいて、電子ビームEBが基板6中で後方散乱することで生じる後方散乱ビームのエネルギー分布を算出する。計算機2は、算出されたエネルギー分布に基づいて、基板6上に照射される電子ビームEBの必要エネルギー量を算出する。必要エネルギー量は、基板6の表面形状にかかわらず近接効果を適切に補正するために必要とされる電子ビームEBのエネルギー量である。計算機2は、算出された必要エネルギー量を示すデータを制御装置3に出力する。計算機2による必要エネルギー量の算出例については、後述する近接効果方法の実施形態で説明する。
【0018】
制御装置3は、計算機2から入力された必要エネルギー量を示すデータ(すなわち、算出された必要エネルギー量)に基づいて、基板6上に照射される電子ビームEBの照射量を制御する。すなわち、制御装置3は、必要エネルギー量の電子ビームEBのエネルギーが基板6上のレジスト膜9に供給されるように電子ビームEBの照射量を調節する。
【0019】
電子照射ユニット4は、制御装置3で制御された照射量の電子ビームEBを基板6上に照射して基板6上のレジスト膜9にパターンを描画する。電子照射ユニット4は、例えば、電子ビームEBを放出する電子銃と、放出された電子ビームEBの軌道を制御する電子光学系(偏向器、電磁レンズ等)とを備える。
【0020】
もし、描画データ7のみに基づいて算出された後方散乱ビームのエネルギー分布および当該エネルギー分布に基づく必要エネルギー量を用いる場合、基板6の表面に段差やスロープが存在する場合に近接効果を適切に補正することができない場合がある。何故ならば、描画データ7は、段差やスロープなどの基板6の表面形状の情報を含まないため、描画データ7のみに基づく後方散乱ビームのエネルギー分布は、基板6の表面形状を考慮できないからである。これに対して、実施形態による描画装置1によれば、描画データ7および表面形状データ8の双方を考慮して算出された後方散乱ビームのエネルギー分布および当該エネルギーに基づく必要エネルギー量を用いることで、基板6の表面形状にかかわらず近接効果を適切に補正することができる。
【0021】
(近接効果補正方法)
以下、実施形態による描画装置1を適用した近接効果補正方法の実施形態について説明する。
図3は、実施形態による近接効果補正方法の一例を示すフローチャートである。
【0022】
図3に示すように、先ず、計算機2は、描画データ7を取得する(ステップS1)。
図4は、
図3のフローチャートに示される描画データ7の取得工程の一例を説明するための説明図である。
図4に示すように、描画データ7は、基板6の表面に対応する二次元の領域を示し、領域内に定義されたパターンPを有する。描画データ7上のパターンPは、基板6の表面の対応する位置(すなわち座標)に描画される。描画データ7は、二次元のデータであるため、基板6の表面上の段差やスロープなどの高さ方向の情報をもたない。
【0023】
また、
図3に示すように、計算機2は表面形状データ8を取得する(ステップS2)。表面形状データ8の取得は、描画データ7の取得と前後が入れ替わってもよく、または同時であってもよい。
図5は、
図3のフローチャートに示される表面形状データ8の取得工程の一例を説明するための説明図である。
図5に示すように、表面形状データ8は、少なくとも、フラット部配置情報と、高さ情報とを含む。フラット部配置情報は、段差によって異なる高さを有するように基板6の表面上に配置された複数のフラット部の配置状態(例えば、位置)を示す情報である。より具体的には、フラット部配置情報は、描画データに対応した二次元の領域を示し、領域内に定義されたフラット部を有する。高さ情報は、フラット部の高さを示す情報である。高さ情報は、複数のフラット部のうちの1つのフラット部の高さを基準とした相対的な高さを示す情報である。
図5に示すように、表面形状データ8は、後述するスロープ部配置情報をさらに含んでもよい。表面形状データ8は、テーブル形式のデータであってもよい。
【0024】
描画データ7および表面形状データ8を取得した後、
図3に示すように、計算機2は、描画データ7を複数のメッシュに分割する(ステップS3)。メッシュは、基板6の表面の複数の領域にそれぞれ対応するように描画データ7を分割したデータである。
図6は、
図3のフローチャートに示される描画データのメッシュへの分割工程の一例を説明するための説明図である。より具体的には、
図6に示すように、メッシュMは、描画データ7を網目状に分割したデータである。各メッシュMは、基板6の表面上の対応する領域への描画に用いられる。
【0025】
描画データ7をメッシュMに分割した後、
図3に示すように、計算機2は、メッシュM毎に、表面形状データ8としてメッシュMに対応するスロープ部配置情報が存在するか否かを判定する(ステップS4)。スロープ部配置情報は、
図5に示すように、スロープ部の配置状態(例えば、位置)を示す情報である。
【0026】
メッシュMに対応するスロープ部配置情報が存在する場合(ステップS4:Yes)、
図3に示すように、計算機2は、表面形状データ8としてメッシュMに対応する傾斜角度情報および傾斜向き情報が存在するか否かを判定する(ステップS5)。
図7は、
図3のフローチャートに示される傾斜角度情報および傾斜向き情報の一例を説明するための説明図である。傾斜角度情報は、
図7に示すように、スロープ部の傾斜角度θを示す情報である。傾斜向き情報は、スロープ部の向きを示す情報である。より具体的には、
図7に示される例において、傾斜向き情報は、スロープ部の高さが減少する二次元上の方向を、二次元上の基準方向d2とのなす角度で表現した情報である。例えば、
図7に示されるスロープ部aは、スロープ部aの高さが減少する二次元上の方向が基準方向d2と一致すため、傾斜向きが0[度]である。一方、
図7に示されるスロープ部dは、スロープ部dの高さが減少する二次元上の方向が基準方向d2と反対であるため、傾斜向きが180[度]である。
【0027】
メッシュMに対応する傾斜角度情報および傾斜向き情報が存在する場合(ステップS5:Yes)、計算機2は、傾斜角度情報から傾斜角度を取得し、また、傾斜向き情報から傾斜向きを取得する。そして、
図3に示すように、計算機2は、傾斜角度、傾斜向きに応じた関数に基づいて、スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布を算出する(ステップS6)。
【0028】
図8は、
図3のフローチャートに示されるスロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
図8には、スロープ部に照射された1ショットの電子ビームEBが基板6中で後方散乱する領域Bと、後方散乱で生じた後方散乱ビームのエネルギー分布Dとが、断面図および平面図として示されている。また、
図8には、スロープ部との比較として、フラット部に照射された1ショットの電子ビームEBが基板6中で後方散乱する領域Aと、後方散乱で生じた後方散乱ビームのエネルギー分布Cとが示されている。
図8に示される例において、フラット部にける後方散乱ビームのエネルギー分布Cはガウシアン分布である。これに対して、
図8に示すように、スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布Dは、ガウシアン分布Cとは異なる分布として算出される。より具体的には、
図8に示される例において、スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布Dは、ガウシアン分布Cに対してエネルギー量のピークがスロープ部の傾斜向きd3側にずれた分布として算出される。
【0029】
図9は、
図8よりもさらに詳細にスロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
図9に示される描画データ7は、
図4および
図6に示される描画データ7のうちのスロープ部に対応する一部のデータである。エネルギー分布の算出工程(ステップS6)において、計算機2は、先ず、
図9に示すように、スロープ部に対応する各メッシュMにおけるパターン面積率を算出する(ステップS61)。パターン面積率は、個々のメッシュM毎にメッシュMの面積に対するパターンPの面積の比を示した0以上1以下の数値である。
図9に示すように、パターンPが占める領域が大きいメッシュMほど、パターン面積率は大きい。
【0030】
図10は、
図9に続く、スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。パターン面積率を算出した後、
図10に示すように、計算機2は、スロープ部に対応する各メッシュMにおける後方散乱ビームのエネルギー分布を算出する(ステップS62)。言い換えれば、計算機2は、各メッシュMのそれぞれに対応するスロープ部上の領域に各メッシュMのそれぞれに含まれるパターンPに応じた電子ビームEBを照射した場合に生じる後方散乱ビームのエネルギー分布を算出する。各メッシュMにおける後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、例えば、スロープ部を対象とした後方散乱ビームのエネルギー分布のモンテカルロシミュレーションに基づいて得られた関数または当該関数を近似(すなわち単純化)した関数にしたがう。各メッシュMにおける後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、実験結果に基づいて得られたメッシュM毎のエネルギー量を示すテーブルに基づいて行ってもよい。
【0031】
図10は、着目されるメッシュM1~M3のそれぞれに含まれるパターンPにしたがって各メッシュM1~M3のそれぞれに対応するスロープ部上の領域に照射される電子ビームEBによって生じる後方散乱ビームのエネルギー分布を示している。
図10において各メッシュM1~M3,Mに記述された数値は、各メッシュM1~M3,Mに対応する後方散乱ビームのエネルギー量を示している。より具体的には、
図10において各メッシュM1~M3,Mに記述されたエネルギー量は、最大値を1に換算した値である。なお、
図10においては、着目されるメッシュM1~M3のエネルギー量が各メッシュM1~M3のそれぞれに対応するパターン面積率(
図9参照)と一致している。
図10において、各メッシュM1~M3,Mは、後方散乱ビームのエネルギー量の大きさに概ねしたがった密度のドットで塗りつぶされている。また、
図10には、各メッシュM1~M3,Mのそれぞれに対応するスロープ部上の領域の高さを表すために、スロープ部が模式的に示されている。
図10に示すように、パターンPが含まれない、すなわちパターン面積率が0のメッシュM1であって、パターンPが含まれるメッシュM2,M3から離れたメッシュM1においては、エネルギー量が0となる。何故ならば、メッシュM1は、自らのパターンPにしたがって照射される電子ビームEBによる後方散乱を生じさせないだけでなく、他のメッシュ内のパターンPにしたがって照射される電子ビームEBによる後方散乱の影響も受けないからである。一方、パターン面積率が0.3のメッシュM2においては、メッシュM2に含まれるパターンPにしたがって照射される電子ビームEBによって生じる後方散乱ビームにより、メッシュM2およびその周囲のメッシュMにわたるエネルギー分布が算出される。これは、メッシュM2のパターンPにしたがった電子ビームEBの後方散乱が、メッシュM2だけでなく周囲のメッシュMにも影響を及ぼすことによる。パターン面積率が最大値1のメッシュM3においては、メッシュM3に含まれるパターンPにしたがって照射される電子ビームEBによって生じる後方散乱ビームにより、さらに広範囲のメッシュM3,Mにわたるエネルギー分布が算出される。
図10に示すように、スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布は、着目されるメッシュM2,M3を中心とした等方的な分布ではなく、スロープ部の傾斜向きd3側に偏在する異方性をもった分布である。
【0032】
スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布を算出した後、
図3に示すように、計算機2は、積算エネルギー分布を算出する(ステップS7)。積算エネルギー分布は、算出されたメッシュ毎のエネルギー分布を積算した分布である。
図11は、
図3のフローチャートに示されるスロープ部における積算エネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
図9および
図10に示される描画データ7からは、
図11に示される積算エネルギー分布が算出される。ただし、
図11において各メッシュに記述されている積算エネルギー量は、最大値を1として換算した値である。
【0033】
積算エネルギー分布を算出した後、
図3に示すように、計算機2は、算出された積算エネルギー分布に基づいて必要エネルギー量を算出する(ステップS8)。
図12は、
図3のフローチャートに示される必要エネルギー量の算出工程の一例を説明するための説明図である。
図12においては、ショット毎にスロープ部における必要エネルギー量(μC)を算出している。なお、
図12には、説明の便宜上、ショット毎の必要エネルギー量に対応するパターンP1が示されている。パターンP1が描画される基板6上のレジスト膜9は、電子ビームEBだけでなく、後方散乱ビームによっても露光される。すなわち、レジスト膜9には、電子ビームEBの照射エネルギーだけでなく後方散乱ビームのエネルギーも付与される。このため、必要エネルギー量は、後方散乱ビームのエネルギー量を加味して算出することが求められる。そこで、
図12に示すように、計算機2は、先ず、積算エネルギー分布にしたがった積算エネルギー量が加算されたショット毎の電子ビームEBの照射エネルギー量を定義する。定義された照射エネルギー量は、近接効果補正のための調整が未だなされていない調整前の照射エネルギー量である。
【0034】
次いで、計算機2は、調整前の照射エネルギー量の最大値に対して所定の割合(例えば50%)のエネルギー量を閾値として設定する。そして、計算機2は、閾値においてショット毎の照射エネルギー量の分布幅(
図12における横幅)が揃うように、ショット毎の照射エネルギー量を調整する。調整後の照射エネルギー量が、必要エネルギー量として算出される。算出された必要エネルギー量は、制御装置3において電子ビームEBの照射量の調整に用いられる。このようにして、近接効果が補正される。近接効果を補正しない場合、
図12に破線部で示されるパターンP2のように、設計データ上で幅が等しい隣り合う複数のパターンP2が、異なる幅のパターンとして描画されてしまう。一方、実施形態にしたがって近接効果を補正する場合、
図12に実線部で示されるパターンP1のように、設計データ上で幅が等しい隣り合う複数のパターンP1を、同じ幅のパターンP1として適切に描画することができる。
【0035】
なお、計算機2は、必要エネルギー量に基づいて調整された電子ビームEBの照射量を用いて、後方散乱ビームのエネルギー分布を再算出してもよい。この場合、計算機2は、再算出された後方散乱ビームのエネルギー分布に基づいて積算エネルギー分布を再算出し、再算出された積算エネルギー分布に基づいてショット毎の必要エネルギー量を再算出してもよい。このような必要エネルギー量の再算出は、必要に応じて繰り返してもよい。
【0036】
メッシュMに対応する傾斜角度情報および傾斜向き情報が存在しない場合(ステップS5:No)、
図3に示すように、計算機2は、スロープ部の傾斜角度および傾斜向きを算出する(ステップS9)。
図13は、
図3のフローチャートに示されるスロープ部の傾斜角度および傾斜向きの算出工程の一例を説明するための説明図である。スロープ部の傾斜角度および傾斜向きは、例えば、スロープ部配置情報および高さ情報に基づく一次関数または多項式を用いて算出してもよい。例えば、
図13に示すように、スロープ部配置情報および高さ情報に示されるスロープ部の下端のX座標(x1)およびZ座標(z1)と、スロープ部の上端のX座標(x2)およびZ座標(z2)とに基づいて、傾斜角度θおよび傾斜向きd3を算出してもよい。
図13に示される例において、傾斜角度θは、スロープ部の下端(x1,z1)と上端(x2,z2)との2点の座標を結ぶ一次関数の傾き(z2-z1)/(x2-x1)の逆正接(tan
-1)である。また、
図13に示される例において、傾斜向きd3は、一次関数のZ値が減少するx2からx1に向かう方向である。ステップS9の後は、ステップS6に移行する。
【0037】
メッシュMに対応するスロープ部配置情報が存在しない場合(ステップS4:No)、
図3に示すように、計算機2は、メッシュがスロープ部を介さずに隣り合うフラット部間の境界に対応するか否かを判定する(ステップS10)。メッシュがフラット部間の境界に対応する場合(ステップS10:Yes)、計算機2は、境界に位置する段差の大きさおよび境界からの距離に応じた関数に基づいて、フラット部間の境界部における後方散乱ビームのエネルギー分布を算出する(ステップS11)。
【0038】
図14は、
図3のフローチャートに示されるフラット部の境界部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
図14には、フラット部6L,6H間の境界部に照射された1ショットの電子ビームEBが基板6中で後方散乱する領域Bと、後方散乱で生じた後方散乱ビームのエネルギー分布Dとが、断面図および平面図として示されている。また、
図14には、フラット部6L,6H間の境界部との比較として、段差の無い完全なフラット部に照射された1ショットの電子ビームEBが基板6中で後方散乱する領域Aと、後方散乱で生じた後方散乱ビームのエネルギー分布Cとが示されている。
図14に示される例において、完全なフラット部にける後方散乱ビームのエネルギー分布Cはガウシアン分布である。これに対して、
図14に示すように、フラット部6L,6H間の境界部における後方散乱ビームのエネルギー分布Dは、ガウシアン分布Cとは異なる分布として算出される。より具体的には、
図14に示される例において、フラット部6L,6H間の境界部における後方散乱ビームのエネルギー分布Dは、ガウシアン分布Cに対して高さが高いフラット部6H側にエネルギー量が集中した分布として算出される。ただし、
図14は、高さが高いフラット部6H上にビーム中心が位置するように電子ビームEBを照射した場合の例である。高さが低いフラット部6L上にビーム中心が位置するように電子ビームEBを照射した場合は、
図14とは異なり、高さが低いフラット部6L側にエネルギー量が集中したエネルギー分布が算出される。
【0039】
フラット部6L,6H間の境界部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、
図9および
図10に示される例と同様に、メッシュM毎に行う。各メッシュMにおける後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、例えば、フラット部6L,6H間の境界に位置する段差zdの大きさおよび境界からの二次元方向の距離に応じた関数に基づく。より具体的には、各メッシュMにおける後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、フラット部6L,6H間の境界部を対象としたモンテカルロシミュレーションに基づいて得られた関数または当該関数を近似(すなわち単純化)した関数にしたがってもよい。あるいは、各メッシュMにおける後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、実験結果に基づいて得られたメッシュM毎のエネルギー量を示すテーブルに基づいて行ってもよい。ステップS11の後は、ステップS6に移行する。
【0040】
メッシュがフラット部間の境界に対応しない場合(ステップS10:No)、計算機2は、メッシュが段差のない完全なフラット部に対応すると判断する。この場合、計算機2は、ガウス分布に基づいて、フラット部における後方散乱ビームのエネルギー分布を算出する(ステップS12)。ガウス分布にしたがったエネルギー分布は、例えば次式で表される。
g(x)=η×D(x’)×(1/πσ2)×exp{-(x-x’)2/σ2}
ただし、g(x)は、座標xにおける後方散乱ビームのエネルギー量すなわちエネルギー分布である。ηは、後方散乱係数である。D(x’)は、電子ビームEBの照射座標x’における電子ビームEBの照射量である。σは、後方散乱ビームの後方散乱半径である。
【0041】
ガウス分布にしたがったフラット部における後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、
図9および
図10に示される例と同様に、メッシュM毎に行う。ステップS12の後は、ステップS6に移行する。
図15は、
図3のフローチャートに示されるフラット部における積算エネルギー分布の算出工程の一例を説明するための説明図である。
図15は、ガウス分布にしたがった後方散乱ビームのエネルギー分布に基づいてステップS6で算出される積算エネルギー分布の例を示している。
【0042】
なお、後方散乱ビームのエネルギー分布の算出は、
図3に示される態様に限定されない。例えば、フラット部とスロープ部との境界部において、上述したモンテカルロシミュレーションに基づく関数や実験結果にしたがってエネルギー分布を算出してもよい。
【0043】
実施形態による近接効果補正方法によれば、描画データ7および表面形状データ8に基づいて後方散乱ビームのエネルギー分布を算出し、算出されたエネルギー分布に基づいて電子ビームの必要エネルギー量を算出することができる。これにより、基板6の表面形状にかかわらず近接効果を適切に補正することができる。
【0044】
また、実施形態による近接効果補正方法によれば、描画データ7と、表面形状データ8としてのフラット部配置情報、高さ情報およびスロープ部配置情報と、スロープ部の傾斜角度と、スロープ部の傾斜向きとに基づいて、スロープ部における後方散乱ビームのエネルギー分布を適切に算出することができる。
【0045】
また、実施形態による近接効果補正方法によれば、メッシュ毎の後方散乱ビームのエネルギー分布を積算した積算エネルギー分布に基づいて、必要エネルギー量を適切に算出することができる。
【0046】
また、実施形態による近接効果補正方法によれば、スロープ部、フラット部の境界部および完全なフラット部の別に応じた適切な算出方法で後方散乱ビームのエネルギー分布を算出することで、基板6の表面形状に応じた適切な近接効果の補正を行うことができる。
【0047】
(原版製造方法)
図3~
図15で説明した実施形態による近接効果補正方法は、原版の製造に用いることができる。以下、実施形態による近接効果補正方法を適用した原版製造方法として、フォトマスクの製造方法の実施形態およびテンプレートの製造方法の実施形態を順に説明する。
【0048】
図16Aは、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。フォトマスクの製造においては、先ず、
図16Aに示すように、
図2Aで説明したマスクブランク6A上にレジスト膜9を形成する。レジスト膜9の形成は、レジスト膜9のコーティングおよびコーティング後のプリベーキングを含む。なお、
図16Aに示される例において、レジスト膜9は、ポジ型である。レジスト膜9は、ネガ型であってもよい。
【0049】
図16Bは、
図16Aに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。レジスト膜9を形成した後、
図16Bに示すように、描画装置1によって、実施形態による近接効果補正方法を用いて調整された照射量の電子ビームEBを照射する。これにより、電子ビームEBが照射された部分のレジスト膜9が露光される。
【0050】
図16Cは、
図16Bに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。レジスト膜9を露光し、露光されたレジスト膜9をポストベーキングした後、
図16Cに示すように、レジスト膜9を現像する。レジスト膜9をの現像は、薬液を用いたウェットプロセスで行う。現像によって、露光された部分のレジスト膜9が除去され、レジスト膜9が除去された位置において部分的に遮光膜62が露出する。
【0051】
図16Dは、
図16Cに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。レジスト膜9を現像した後、現像されたレジスト膜9をマスクとして用いて遮光膜62をエッチング(すなわち、加工)する。エッチングはドライプロセスで行う。
【0052】
図16Eは、
図16Dに続く、実施形態によるフォトマスクの製造方法を示す断面図である。遮光膜62をエッチングした後、
図16Eに示すように、レジスト膜9を除去する。これにより、フォトマスク60Aが得られる。
【0053】
図17A~
図17Eは、実施形態によるテンプレート60Bの製造方法を示す断面図である。
図17A~
図17Eに示すように、テンプレート60Bの製造方法は、フォトマスク60Aの製造方法と基本的に同じである。テンプレート60Bの製造方法は、エッチングで加工される対象が遮光膜62ではなくテンプレートブランク6Bである点が、フォトマスク60Aの製造方法と異なる。
【0054】
実施形態によるフォトマスク60A、テンプレート60Bの製造方法によれば、実施形態による近接効果補正方法を用いて調整された照射量の電子ビームEBを用いてマスクブランク6A、テンプレートブランク6Bを露光することができる。これにより、表面形状にかかわらず近接効果が適切に補正された高い寸法精度のパターンを有するフォトマスク60A、テンプレート60Bを得ることができる。このようなフォトマスク60A、テンプレート60Bを半導体プロセスに適用することで、表面に段差やスロープを有するデバイス基板に正確な寸法のパターンを形成することができ、半導体装置を適切に製造することができる。
【0055】
図1Aおよび
図1Bに示される計算機2の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、計算機2の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。また、計算機2の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0056】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置および方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置および方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【0057】
(付記)
(1)電子ビームの照射によって基板上にパターンを描画するための描画情報を取得し、
前記基板の表面形状に関する表面形状情報を取得し、
前記取得された描画情報および表面形状情報に基づいて、前記電子ビームが前記基板中で後方散乱することで生じる後方散乱ビームのエネルギー分布を算出し、
前記算出されたエネルギー分布に基づいて前記電子ビームの必要エネルギー量を算出する、
ことを含む近接効果補正方法。
(2)前記表面形状情報は、段差によって異なる高さを有するように前記基板の表面上に配置された複数のフラット部の配置状態を示す第1配置情報と、前記複数のフラット部の高さを示す高さ情報とを含む(1)に記載の近接効果補正方法。
(3)前記エネルギー分布の算出は、前記描画情報と、前記第1配置情報と、前記高さ情報と、前記基板の表面上に配置されたスロープ部の傾斜角度と、前記スロープ部の傾斜向きとに基づく(2)に記載の近接効果補正方法。
(4)前記表面形状情報はさらに、前記スロープ部の配置状態を示す第2配置情報を含み、
前記エネルギー分布の算出はさらに、前記第2配置情報および前記高さ情報に基づいて前記傾斜角度および前記傾斜向きを算出することを含む(3)に記載の近接効果補正方法。
(5)前記表面形状情報はさらに、前記傾斜角度を示す傾斜角度情報と、前記傾斜向きを示す傾斜向き情報とを含む(3)に記載の近接効果補正方法。
(6)前記スロープ部は傾斜平面を有する(3)から(5)のいずれかに記載の近接効果補正方法。
(7)前記スロープ部は傾斜曲面を有する(3)から(5)のいずれかに記載の近接効果補正方法。
(8)前記描画情報を前記基板の表面の複数の領域にそれぞれ対応する複数の分割情報に分割することをさらに含み、
前記エネルギー分布の算出は、前記分割情報毎に行われ、
前記必要エネルギー量の算出は、前記算出された分割情報毎のエネルギー分布を積算した積算エネルギー分布に基づいて行われる(1)乃至(7)のいずれかに記載の近接効果補正方法。
(9)前記エネルギー分布の算出は、前記基板の表面上のフラット部に対応する分割情報において、ガウシアン分布に基づく(8)に記載の近接効果補正方法。
(10)前記エネルギー分布の算出は、前記基板の表面上のスロープ部に対応する分割情報において、前記スロープ部の傾斜角度に応じた関数に基づく(8)または(9)に記載の近接効果補正方法。
(11)前記エネルギー分布の算出は、スロープ部を介さずに隣り合う前記基板の表面上の複数のフラット部間の境界に対応する分割情報において、前記境界に位置する段差の大きさおよび前記境界からの距離に応じた関数に基づく(8)から(10)のいずれかに記載の近接効果補正方法。
(12)
(1)乃至(11)のいずれかに記載の近接効果補正方法を用いて算出された必要エネルギー量に基づいて電子ビームの照射量を制御し、
前記制御された照射量の電子ビームを基板上に照射して前記基板上にパターンを描画する、
ことを含む原版製造方法。
(13)前記基板上にレジスト膜を形成することをさらに含み、
前記パターンの描画は、前記レジスト膜に行われる(12)に記載の原版製造方法。
(14)前記パターンが描画された前記レジスト膜を現像し、
前記現像されたレジスト膜をマスクとして用いて前記基板を加工し、
前記加工された基板から前記レジスト膜を除去する、
ことをさらに含む(13)に記載の原版製造方法。
(15)前記原版は、フォトマスクである(12)から(14)のいずれかに記載の原版製造方法。
(16)前記原版は、ナノインプリントリソグラフィ用のテンプレートである、(12)から(14)のいずれかに記載の原版製造方法。
(17)算出された電子ビームの必要エネルギー量に基づいて、パターンを描画するために基板上に照射される電子ビームの照射量を制御する制御部を備え、
前記必要エネルギー量は、前記電子ビームが前記基板中で後方散乱することで生じる後方散乱ビームのエネルギー分布に基づくエネルギー量であり、
前記後方散乱ビームのエネルギー分布は、前記パターンを描画するための描画情報と、前記基板の表面形状に関する表面形状情報とに基づくエネルギー分布である、
描画装置。
(18)前記描画情報と前記表面形状情報とに基づいて前記エネルギー分布を算出する第1算出部と、
前記算出されたエネルギー分布に基づいて前記必要エネルギー量を算出する第2算出部と、
をさらに備える(17)に記載の描画装置。
(19)前記制御部は、前記必要エネルギー量を算出する前記描画装置の外部の計算機から前記算出された必要エネルギー量を示す情報を取得する(17)に記載の描画装置。
【符号の説明】
【0058】
1:描画装置、2:計算機、3:制御装置、6 基板、7 描画データ、8 表面形状データ