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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/184 20060101AFI20240904BHJP
   B62D 1/187 20060101ALI20240904BHJP
   F16H 25/12 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B62D1/184
B62D1/187
F16H25/12 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021011255
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114814
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】横倉 保志
(72)【発明者】
【氏名】赤石 和也
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-059851(JP,A)
【文献】特開2007-055575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/184
B62D 1/187
F16H 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に沿う第1軸線回りに回転可能にステアリングシャフトを支持するコラムユニットと、
車体に取り付けられ、左右方向に沿う第2軸線回りに回動可能に前記コラムユニットを支持するフロントブラケットと、
前記コラムユニットに対して前記左右方向の両側に位置するとともに、前記第2軸線を中心とする円弧状に延びるチルトガイド孔が形成された側板部を有し、前記フロントブラケットの後方において前記車体に取り付けられるリヤブラケットと、
前記フロントブラケットに対する前記コラムユニットの前記第2軸線回りの移動を規制するロック状態、及び前記フロントブラケットに対する前記コラムユニットの前記第2軸線回りの移動を許容するロック解除状態を切り替えるロック機構と、を備え、
前記ロック機構は、
前記コラムユニット及び前記チルトガイド孔を前記左右方向に貫通し、前記左右方向に沿う第3軸線回りに回転可能に前記コラムユニットに支持されたロッドと、
カム部を有し、前記ロッドに固定された駆動カムと、
前記チルトガイド孔の内側に保持された保持部、及び前記チルトガイド孔の外側で前記カム部と前記左右方向で向かい合うとともに、前記ロッドの回転に伴い前記カム部に摺動するカム従節部を有する従動カムと、を備え、
前記カム部及び前記カム従節部のうち一方の部材は、
前記ロック状態にあるとき前記カム部及び前記カム従節部のうち他方の部材に係合するロック位置規制面と、
前記第3軸線回りの周方向において、前記ロック位置規制面から離れて設けられ、前記ロック解除状態にあるとき前記他方の部材に係合する解除位置規制面と、を備え、
前記解除位置規制面は、前記周方向において前記ロック位置規制面から離れるに従い前記左右方向で前記他方の部材に向けて延びる傾斜面とされ、
前記他方の部材は、
前記左右方向で前記一方の部材側を向く頂面と、
前記頂面に連なるとともに、前記周方向で前記解除位置規制面側を向く第1側面と、を備え、
前記第1側面は、前記周方向に対する角度が前記解除位置規制面における前記周方向に対する角度よりも小さく、
前記ロック解除状態にあるとき、前記他方の部材は、前記解除位置規制面に乗り上げ可能に構成されているステアリング装置。
【請求項2】
前後方向に沿う第1軸線回りに回転可能にステアリングシャフトを支持するコラムユニットと、
車体に取り付けられ、左右方向に沿う第2軸線回りに回動可能に前記コラムユニットを支持するフロントブラケットと、
前記コラムユニットに対して前記左右方向の両側に位置するとともに、前記第2軸線を中心とする円弧状に延びるチルトガイド孔が形成された側板部を有し、前記フロントブラケットの後方において前記車体に取り付けられるリヤブラケットと、
前記フロントブラケットに対する前記コラムユニットの前記第2軸線回りの移動を規制するロック状態、及び前記フロントブラケットに対する前記コラムユニットの前記第2軸線回りの移動を許容するロック解除状態を切り替えるロック機構と、を備え、
前記ロック機構は、
前記コラムユニット及び前記チルトガイド孔を前記左右方向に貫通し、前記左右方向に沿う第3軸線回りに回転可能に前記コラムユニットに支持されたロッドと、
カム部を有し、前記ロッドに固定された駆動カムと、
前記チルトガイド孔の内側に保持された保持部、及び前記チルトガイド孔の外側で前記カム部と前記左右方向で向かい合うとともに、前記ロッドの回転に伴い前記カム部に摺動するカム従節部を有する従動カムと、を備え、
前記カム部及び前記カム従節部のうち一方の部材は、
前記ロック状態にあるとき前記カム部及び前記カム従節部のうち他方の部材に係合するロック位置規制面と、
前記第3軸線回りの周方向において、前記ロック位置規制面から離れて設けられ、前記ロック解除状態にあるとき前記他方の部材に係合する解除位置規制面と、を備え、
前記解除位置規制面は、前記周方向において前記ロック位置規制面から離れるに従い前記左右方向で前記他方の部材に向けて延びる傾斜面とされ、
前記他方の部材は、
前記左右方向で前記一方の部材側を向く頂面と、
前記頂面に連なるとともに、前記周方向で前記解除位置規制面側を向く第1側面と、を備え、
前記第1側面は、前記周方向に対する角度が前記解除位置規制面における前記周方向に対する角度よりも小さく、
前記ロック位置規制面は、前記周方向において前記解除位置規制面から離れるに従い前記左右方向で前記他方の部材に向けて延びるとともに、前記周方向に対する角度が前記解除位置規制面よりも小さい傾斜面とされ、
前記他方の部材は、前記頂面に連なるとともに、前記ロック状態において前記ロック位置規制面に当接する第2側面を備えているステアリング装置。
【請求項3】
前記従動カムは、前記チルトガイド孔に対して外側に位置するとともに、前記カム従節部が形成されたベース部を備え、
前記ベース部において、前記周方向の一部には、前記第3軸線回りの前記保持部の取付向きを判断する表示部が設けられている請求項1又は請求項2に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置には、運転者の体格差や運転姿勢に応じてステアリングシャフトの傾斜角度(水平面に対する傾斜角度)を調整するチルト機能を備えたものがある。ステアリング装置は、コラムユニットによってステアリングシャフトを前後方向に沿う軸線回りに回転可能に保持している。コラムユニットの前端部は、左右方向に沿う軸線回りに回動可能にフロントブラケットに支持されている。一方、コラムユニットの後端部は、ロッドを介してリヤブラケットに支持されている。具体的に、リヤブラケットには、上下方向に延びるチルトガイド孔が形成されている。ステアリング装置では、フロントブラケットに対する回動に伴い、ロッドがチルトガイド孔内を上下動することで、コラムユニット(ステアリングシャフト)の傾斜角度が調整される。
【0003】
チルト機能を備えるステアリング装置には、フロントブラケットに対するコラムユニットの回動を規制するロック状態、及びフロントブラケットに対するコラムユニットの回動を許容するロック解除状態を切り替えるロック機構が搭載されている。例えば、下記特許文献1には、ロック機構として、ロッドに固定された駆動カムと、リヤブラケットに保持された従動カムと、を備えた構成が開示されている。従動カムは、チルトガイド孔内に保持された係合突部によって、リヤブラケットに対する回り止めがなされている。
この構成によれば、ロッドの回転に伴い、駆動カム及び従動カム同士が摺動しながら相対回転することで、駆動カム及び従動カム間の距離が拡大又は縮小する。この際、駆動カム及び従動カム間の距離が拡大することで、リヤブラケットによってコラムユニットが締め付けられて上述したロック状態となる。一方、駆動カム及び従動カム間の距離が縮小することで、リヤブラケットによるコラムユニットの締め付けが緩められて上述したロック解除状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-196436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従動カムは、ロック機構のロック状態及びロック解除状態の切り替えに際し、駆動カムと従動カムとの間に作用する摩擦力等に起因して、チルトガイド孔の内周縁と係合突部の外周面との隙間分回動しようとする。この際、従動カムの回動に伴い係合突部がチルトガイド孔の内周縁に衝突することで、チルトガイド孔の内周縁に圧痕が形成される可能性がある。チルトガイド孔の内周縁に圧痕が形成された状態でコラムユニットを上下動させると、係合突部が圧痕を通過する際に、係合突部が圧痕に引っ掛かる可能性がある。その結果、チルト位置を調整する際に異音が発生したり、ユーザに対して違和感を与えたりする原因になる。
【0006】
また、ロック解除状態において、駆動カム及び従動カムの周方向での相対移動を規制するためには、駆動カムに形成された係合面と従動カムに形成された規制面とを周方向で面接触させる構成が一般的である。
しかしながら、係合面と規制面とを面接触させる構成では、駆動カムや従動カムの僅かな製造ばらつきによって、係合面と規制面との接触位置が変動する可能性がある。係合面と規制面との接触面積が小さくなってしまった場合には、規制面を介して係合突部とチルトガイド孔の内周縁との間との間に大きな荷重が作用する可能性がある。その結果、上述したようにチルトガイド孔の内周縁に圧痕が形成される可能性がある。
【0007】
本開示は、製造ばらつきに関わらず、ユーザに対して良好な操作感を与えることができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
本開示の一態様に係るステアリング装置は、前後方向に沿う第1軸線回りに回転可能にステアリングシャフトを支持するコラムユニットと、車体に取り付けられ、左右方向に沿う第2軸線回りに回動可能に前記コラムユニットを支持するフロントブラケットと、前記コラムユニットに対して前記左右方向の両側に位置するとともに、前記第2軸線を中心とする円弧状に延びるチルトガイド孔が形成された側板部を有し、前記フロントブラケットの後方において前記車体に取り付けられるリヤブラケットと、前記フロントブラケットに対する前記コラムユニットの前記第2軸線回りの移動を規制するロック状態、及び前記フロントブラケットに対する前記コラムユニットの前記第2軸線回りの移動を許容するロック解除状態を切り替えるロック機構と、を備え、前記ロック機構は、前記コラムユニット及び前記チルトガイド孔を前記左右方向に貫通し、前記左右方向に沿う第3軸線回りに回転可能に前記コラムユニットに支持されたロッドと、カム部を有し、前記ロッドに固定された駆動カムと、前記チルトガイド孔の内側に保持された保持部、及び前記チルトガイド孔の外側で前記カム部と前記左右方向で向かい合うとともに、前記ロッドの回転に伴い前記カム部に摺動するカム従節部を有する従動カムと、を備え、前記カム部及び前記カム従節部のうち一方の部材は、前記ロック状態にあるとき前記カム部及び前記カム従節部のうち他方の部材に係合するロック位置規制面と、前記第3軸線回りの周方向において、前記ロック位置規制面から離れて設けられ、前記ロック解除状態にあるとき前記他方の部材に係合する解除位置規制面と、を備え、前記解除位置規制面は、前記周方向において前記ロック位置規制面から離れるに従い前記左右方向で前記他方の部材に向けて延びる傾斜面とされ、前記他方の部材は、前記左右方向で前記一方の部材側を向く頂面と、前記頂面に連なるとともに、前記周方向で前記解除位置規制面側を向く第1側面と、を備え、前記第1側面は、前記周方向に対する角度が前記解除位置規制面における前記周方向に対する角度よりも小さい。
【0009】
ロック機構がロック状態からロック解除状態に移行する過程において、保持部は、チルトガイド孔の内周縁と保持部の外周面との間の隙間分だけ回動しようとする。これにより、保持部が解除接触部を介してチルトガイド孔の内周縁に押し込まれる。
そこで、本態様によれば、第1側面における周方向に対する角度が、解除位置規制面における周方向に対する角度よりも小さい構成とした。そのため、ロック解除状態にあるとき、他方の部材は、頂面と第1側面との稜線部が解除位置規制面に線接触し易い。これにより、他方の部材と解除位置規制面とを周方向で面接触させる設計で製造する場合に比べ、製造ばらつきの影響を受け難い。よって、カム部とカム従節部との間に作用する荷重を安定させることができる。
しかも、他方の部材と解除位置規制面とを周方向で面接触させる設計で製造する場合に比べ、解除位置規制面におけるボルト周方向に対する角度を大きくできる。そのため、稜線部と解除位置規制面との接触部分において、解除位置規制面の法線方向に作用する荷重のうち、周方向に沿う荷重成分を小さくできる(左右方向に沿う荷重成分を大きくできる)。その結果、保持部とチルトガイド孔の内周縁との間に作用する面圧を安定できるので、チルトガイド孔の内周縁に圧痕等が形成されるのを抑制できる。これにより、チルト位置を変更する際に、保持部がチルトガイド孔の内周縁上を摺動する場合であっても、異音の発生やユーザに与える違和感を軽減できる。よって、ユーザに対して良好な操作感を与えることができる。
【0010】
上記態様のステアリング装置において、前記ロック解除状態にあるとき、前記他方の部材は、前記解除位置規制面に乗り上げ可能に構成されていることが好ましい。
本態様によれば、ロック解除状態において、解除位置規制面における稜線部の接触位置を安定させることができる。そのため、ロック解除状態において、駆動カムと従動カムとの間でのがたつきを抑制できる。
【0011】
上記態様のステアリング装置において、前記ロック位置規制面は、前記周方向において前記解除位置規制面から離れるに従い前記左右方向で前記他方の部材に向けて延びるとともに、前記周方向に対する角度が前記解除位置規制面よりも小さい傾斜面とされ、前記他方の部材は、前記頂面に連なるとともに、前記ロック状態において前記ロック位置規制面に当接する第2側面を備えていることが好ましい。
本態様によれば、ロック状態にあるとき、第2側面とロック位置規制面との接触部分において、ロック位置規制面の法線方向に作用する荷重のうち、周方向に沿う荷重成分を大きくできる。これにより、保持部を確実にチルトガイド孔の内周縁に押し当てることができる。その結果、ロック状態において、保持部とチルトガイド孔の内周縁との間に作用する摩擦力を確保でき、コラムユニットが予期せず上下動するのを抑制できる。
【0012】
上記態様のステアリング装置において、前記従動カムは、前記チルトガイド孔に対して外側に位置するとともに、前記カム従節部が形成されたベース部を備え、前記ベース部において、前記周方向の一部には、前記第3軸線回りの前記保持部の取付向きを判断する表示部が設けられていることが好ましい。
本態様によれば、各ステアリング装置間において、従動カムの取付向きを一定にし易い。そのため、従動カムの製造ばらつきによって、保持部(解除接触部及びロック接触部)とチルトガイド孔の内周縁との接触条件が各ステアリング装置間でばらつくのを抑制できる。その結果、ロック機構の性能ばらつきが生じるのを抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
上記各態様によれば、製造ばらつきに関わらず、ユーザに対して良好な操作感を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るステアリング装置の斜視図である。
図2図1のII-II線に対応する断面図である。
図3図1のIII-III線に対応する断面図である。
図4図2のIV-IV線に対応する断面図である。
図5】カム機構の斜視図である。
図6】カム機構の展開図である。
図7】実施形態に係るステアリング装置の動作説明図である。
図8】実施形態に係るステアリング装置の動作説明図である。
図9】実施形態に係るステアリング装置の動作説明図である。
図10】実施形態に係るステアリング装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態や変形例において、対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。なお、以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
【0016】
[ステアリング装置1]
図1は、ステアリング装置1の斜視図である。
図1に示すように、ステアリング装置1は、車両に搭載されている。ステアリング装置1は、ステアリングホイール2の回転操作に伴って車輪の舵角を調整する。
【0017】
ステアリング装置1は、コラムユニット11と、ステアリングシャフト12と、ブラケット(フロントブラケット13及びリヤブラケット14)と、調整機構15と、を備えている。コラムユニット11及びステアリングシャフト12は、それぞれ第1軸線O1上に配置された筒状に形成されている。したがって、以下の説明では、コラムユニット11及びステアリングシャフト12の第1軸線O1の延びる方向を単にシャフト軸方向といい、第1軸線O1に直交する方向をシャフト径方向といい、第1軸線O1回りの方向をシャフト周方向という場合がある。
【0018】
本実施形態のステアリング装置1は、第1軸線O1が前後方向に対して傾斜した状態で車両に搭載される。具体的に、ステアリング装置1の第1軸線O1は、後方に向かうに従い上方に延在している。但し、以下の説明では、便宜上、ステアリング装置1において、シャフト軸方向でステアリングホイール2に向かう方向を単に後方とし、ステアリングホイール2とは反対側に向かう方向を単に前方(矢印FR)とする。また、シャフト径方向のうち、ステアリング装置1が車両に取り付けられた状態での上下方向を単に上下方向(矢印UPが上方)とし、左右方向を単に左右方向とする。
【0019】
<コラムユニット11>
図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
図1図2に示すように、コラムユニット11は、アウタコラム21と、インナコラム22と、を有している。
アウタコラム21は、ブラケット13,14を介して車体に取り付けられている。アウタコラム21は、保持筒部24と、締付部25と、を備えている。
【0020】
保持筒部24は、第1軸線O1に沿って延びる筒状に形成されている。保持筒部24の後部において、シャフト周方向の一部(本実施形態では、アウタコラム21の下部)には、スリット28が形成されている。スリット28は、アウタコラム21をシャフト径方向に貫通するとともに、アウタコラム21の後端面で開放されている。
【0021】
図2に示すように、締付部25は、保持筒部24のうち、スリット28を間に挟んで左右方向で向かい合う位置からそれぞれ下方に延びている。各締付部25には、締付部25を左右方向に貫通する貫通孔31が形成されている。
【0022】
図3は、図1のIII-III線に沿う断面図である。
図3に示すように、インナコラム22は、第1軸線O1に沿って延びる筒状に形成されている。インナコラム22の外径は、保持筒部24の内径よりも小さくなっている。インナコラム22は、保持筒部24内に挿入されている。インナコラム22は、保持筒部24に対してシャフト軸方向に移動可能に構成されている。インナコラム22内において、前端部及び後端部には、それぞれ軸受34が圧入等によって取り付けられている。
【0023】
<ステアリングシャフト12>
ステアリングシャフト12は、リヤシャフト40及びフロントシャフト41を備えている。リヤシャフト40は、インナコラム22内に挿入されている。リヤシャフト40は、インナコラム22内において、軸受34を介して第1軸線O1回りに回転可能に支持されている。リヤシャフト40の後端部は、インナコラム22の後端開口部を通じて後方に突出している。リヤシャフト40の後端部には、ステアリングホイール2(図1参照)が連結される。
【0024】
フロントシャフト41は、リヤシャフト40の前端部に第1自在継手43を介して連結されている。すなわち、フロントシャフト41は、リヤシャフト40に対して揺動可能に構成されている。フロントシャフト41の前端部は、第2自在継手(不図示)を介してステアリングギヤボックス(不図示)に連結される。ステアリング装置1では、ステアリングシャフト12の回転力がステアリングギヤボックスに伝達されることで、車輪が操舵される。
【0025】
<ブラケット13,14>
図1に示すように、フロントブラケット13は、ピボット軸50を介してアウタコラム21と車体との間を接続している。フロントブラケット13は、シャフト軸方向から見た正面視で下方に開口するU字状に形成されている。フロントブラケット13は、アウタコラム21の後端部を上方及び左右方向の両側から取り囲んでいる。フロントブラケット13のうち、左右方向の両側に位置するフロント側板部13aは、ピボット軸50によってアウタコラム21の前端部に接続されている。アウタコラム21は、ピボット軸50を中心として左右方向に延びる第2軸線O2回りに回動可能にフロントブラケット13に支持されている。
【0026】
リヤブラケット14は、後述するロックボルト(ロッド)80を介してアウタコラム21と車体との間を接続している。リヤブラケット14は、シャフト軸方向から見た正面視で下方に開口するU字状に形成されている。リヤブラケット14は、アウタコラム21を上方及び左右方向の両側から取り囲んでいる。具体的に、リヤブラケット14は、コラムユニット11に対して左右両側に配置されたリヤ側板部(側板部)54と、各リヤ側板部54同士を接続するブリッジ部55と、を備えている。
【0027】
図4は、図2のIV-IV線に対応する断面図である。
図4に示すように、各リヤ側板部54には、各リヤ側板部54を左右方向に貫通するチルトガイド孔56が形成されている。チルトガイド孔56は、上下方向に延びる長孔である。具体的に、チルトガイド孔56は、第2軸線O2を曲率中心とした後方に向けて凸の円弧状に形成されている。チルトガイド孔56内には、ロックボルト80が左右方向に貫通している。すなわち、ロックボルト80は、コラムユニット11のチルト動作(第2軸線O2回りのコラムユニット11の角度調整)の際に、チルトガイド孔56内を上下動する。
【0028】
図1図2に示すように、ブリッジ部55は、各リヤ側板部54の上端部同士を連結している。ブリッジ部55は、上方に向けて突のアーチ状に形成されている。ブリッジ部55は、コラムユニット11のチルト動作に際し、コラムユニット11の回動軌跡上に位置している。すなわち、ブリッジ部55には、コラムユニット11のチルト動作に際してコラムユニット11が下方から接近又は離間する。
【0029】
<調整機構15>
調整機構15は、アウタコラム21に対するインナコラム22(及びステアリングシャフト12)の前後方向の位置(テレスコ位置)、及びフロントブラケット13に対するコラムユニット11の第2軸線O2回りの位置(チルト位置)を調整する。具体的に、調整機構15は、ハンガブラケット60と、ロック機構61と、を備えている。
【0030】
ハンガブラケット60は、インナコラム22の外周面に下向きで固定されている。ハンガブラケット60は、例えば金属板に対してプレス加工を施すことで形成されている。ハンガブラケット60は、正面視において上方に向けて開口するU字状に形成されている。ハンガブラケット60は、左右方向で向かい合う一対の対向壁部60aを備えている。対向壁部60aの上端縁は、インナコラム22に溶接等によって固定されている。
【0031】
ハンガブラケット60は、保持筒部24のスリット28を通して保持筒部24の外部に露出している。対向壁部60aには、テレスコガイド孔60bが形成されている。テレスコガイド孔60bは、シャフト軸方向を長軸方向とする長孔である。テレスコガイド孔60bは、シャフト軸方向の一部において、左右方向から見て貫通孔31と重なり合っている。
【0032】
ロック機構61は、ロックボルト80と、操作レバー81と、カム機構82と、を備えている。
ロックボルト80は、チルトガイド孔56、貫通孔31及びテレスコガイド孔60bを通じて、各リヤ側板部54、締付部25及びハンガブラケット60を左右方向に貫通している。ロックボルト80は、テレスコ動作時において、テレスコガイド孔60b内を前後動することで、インナコラム22が前後動する。ロックボルト80は、チルト動作時において、チルトガイド孔56内を上下動することで、コラムユニット11とともに上下動する。なお、以下の説明では、第3軸線O3に直交する方向をボルト径方向といい、第3軸線O3回りの方向をボルト周方向という場合がある。
【0033】
ロックボルト80とハンガブラケット60との間には、付勢部材85が介在している。付勢部材85は、例えばダブルトーションスプリングである。付勢部材85は、ハンガブラケット60を介してコラムユニット11を上方に向けて付勢している。
【0034】
操作レバー81は、ロックボルト80から後方に向けて片持ちで延びている。具体的に、操作レバー81の基端部(前端部)は、ロックボルト80の左側端部(左右方向の第2側端部)に連結されている。操作レバー81は、先端部(後端部)を介して押し下げ又は引き上げることで、ロックボルト80とともに第3軸線O3回りに回動可能に構成されている。
【0035】
図5は、カム機構82の斜視図である。
図2図5に示すように、カム機構82は、操作レバー81と一方(左側)のリヤ側板部54との間に配置されている。カム機構82は、操作レバー81の回動操作に伴い、左右方向の厚さが変化するように構成されている。ステアリング装置1では、カム機構82の厚さが変化することで、各リヤ側板部54を介して各締付部25が左右方向で互いに接近又は離間するように(スリット28の左右方向の寸法が拡大又は縮小するように)構成されている。具体的に、カム機構82の厚さが増加するように操作レバー81を回動操作することで、各締付部25同士が各リヤ側板部54とともに接近して保持筒部24が縮径する。これにより、保持筒部24によってインナコラム22が挟持され、テレスコ動作及びチルト動作が規制される(ロック状態)。一方、ロック状態において、カム機構82の厚さが減少するように操作レバー81を回動操作することで、締付部25同士が各リヤ側板部54とともに離間して保持筒部24が拡径される。これにより、保持筒部24によるインナコラム22の挟持が解除され、テレスコ動作及びチルト動作が許容される(ロック解除状態)。
【0036】
<カム機構82>
カム機構82は、駆動カム90と、従動カム91と、を備えている。
駆動カム90は、操作レバー81の基端部に、例えばインサート成形等によって一体に固定されている。駆動カム90は、リヤ側板部54よりも硬度の高い材料により形成されている(例えば、鉄系材料の焼結材等)。
【0037】
駆動カム90は、駆動ベース100と、複数のカム部101と、を備えている。
駆動ベース100は、第3軸線O3と同軸に配置された円板状に形成されている。駆動ベース100において、ボルト径方向の中央部には、ロックボルト80が貫通する通過孔100a(図2参照)が形成されている。駆動ベース100の外周部分には、複数の窪み部100bが形成されている。窪み部100bは、駆動ベース100を左右方向に貫通するとともに、駆動ベース100の外周面上で開口している。複数の窪み部100bは、ボルト周方向に間隔をあけて配置されている。駆動カム90は、駆動ベース100が操作レバー81の基端部に埋め込まれた状態で、操作レバー81に固定されている。
【0038】
カム部101は、駆動ベース100の外周部において、隣り合う窪み部100b間に位置する部分に設けられている。カム部101は、駆動ベース100が操作レバー81に埋め込まれた状態で、操作レバー81から右側(左右方向の第1側)に向けて突出している。なお、各カム部101は、何れも同様の構成であるため、以下の説明では一のカム部101を例にして説明する。
【0039】
カム部101は、ボルト径方向から見て台形状に形成されている。カム部101は、基端側から先端側(左側から右側)に向かうに従いボルト周方向の寸法が漸次小さくなっている。本実施形態のカム部101は、ボルト周方向で線対称に形成されている。
【0040】
図6は、カム機構82の展開図である。
図6に示すように、ボルト径方向から見て、カム部101の周面は、係合面(第2側面)101aと、逃げ面(第1側面)101bと、摺動面(頂面)101cと、を備えている。
係合面101aは、カム部101の周面のうち、ボルト周方向の一方側を向く面である。係合面101aは、駆動ベース100の表面(従動カム91と向かい合う面)に対して傾斜する傾斜面である。具体的に、係合面101aは、カム部101の先端側に向かうに従いボルト周方向の他方側に向けて延びている。駆動ベース100の表面に沿ってボルト周方向に延びる仮想線L1に対する係合面101aの角度は、θ1に設定されている。なお、係合面101aの角度θ1は、直角等であってもよい。
【0041】
逃げ面101bは、カム部101の先端側に向かうに従いボルト周方向の一方側に向けて延びる傾斜面である。仮想線L1に対する逃げ面101bの角度θ2は、係合面101aの角度θ1と同等になっている。但し、角度θ1,2は、互いに異なっていてもよい。
摺動面101cは、係合面101aと逃げ面101bとの先端同士を架け渡している。摺動面101cは、右側(図6中矢印RH)に向けて凸の湾曲面に形成されている。摺動面101cは、係合面101a及び逃げ面101bに対して稜線(例えば、図9における稜線部P)を介して連なっていてもよく、曲面を介して連なっていてもよい。
【0042】
図5に示すように、従動カム91は、駆動カム90とリヤ側板部54との間に配置されている。従動カム91には、従動カム91を左右方向に貫通する貫通孔91aが形成されている。従動カム91は、貫通孔91aを通じてロックボルト80が貫通した状態で、リヤ側板部54に取り付けられている。したがって、従動カム91は、操作レバー81の回動操作に伴い駆動カム90が第3軸線O3回り(ボルト周方向)に回転することで、駆動カム90に対して相対回転する。
【0043】
従動カム91は、保持部110と、従動ベース(ベース部)111と、複数のカム従節部112と、を備えている。保持部110は、チルトガイド孔56内に収容されている。保持部110は、チルトガイド孔56の内周縁に接触することで、リヤ側板部54に対する従動カム91の第3軸線O3回りの回転を規制する回り止め部材として機能する。保持部110は、左右方向から見て上下方向を長軸方向とする略長円形状に形成されている。保持部110の中央部には、貫通孔91aが貫通している。
【0044】
図4に示すように、保持部110の外周面は、上昇規制面110aと、下降規制面110bと、第1回転規制面110cと、第2回転規制面110dと、を備えている。
上昇規制面110aは、保持部110の外周面のうち上方を向く面である。上昇規制面110aは、上方に向けて凸の湾曲面に形成されている。なお、上昇規制面110aの曲率半径は、チルトガイド孔56の上端開口縁と同等に設定されていることが好ましい。
下降規制面110bは、保持部110の外周面のうち下方を向く面である。下降規制面110bは、下方に向けて凸の湾曲面に形成されている。なお、下降規制面110bの曲率半径は、チルトガイド孔56の下端開口縁と同等に設定されていることが好ましい。但し、各規制面110a,110bの曲率半径は適宜変更が可能である。
【0045】
第1回転規制面110cは、上昇規制面110a及び下降規制面110bの後端同士の間を架け渡している。第1回転規制面110cは、第1解除接触部115と、第1ロック接触部117と、を備えている。
第1解除接触部115は、第1回転規制面110cの上部を構成する。第1解除接触部115は、上昇規制面110aの第1端部から湾曲部118を介して連なっている。第1解除接触部115は、後方に向けて凸の湾曲面に形成されている。第1解除接触部115の曲率半径は、第1ロック接触部117の曲率半径よりも大きく、チルトガイド孔56の曲率半径よりも小さくなっている(曲率半径R=32mm程度)。図示の例において、第1解除接触部115は、第1回転規制面110cの上端から2/3程度の領域に亘って形成されている。
【0046】
第1ロック接触部117は、第1回転規制面110cの下部を構成する。第1ロック接触部117は、第1解除接触部115に対して後方に突出する湾曲面に形成されている。第1ロック接触部117の曲率半径は、下降規制面110bの曲率半径よりも小さくなっている。第1ロック接触部117の上端は、第1解除接触部115に連なっている。一方、第1ロック接触部117の下端は、下降規制面110bの前端に滑らかに連なっている。なお、本実施形態では、第1解除接触部115と第1ロック接触部117とが直接連なっている構成について説明したが、第1解除接触部115と第1ロック接触部117との間に平坦面を介在させてもよい。
【0047】
第2回転規制面110dは、上昇規制面110a及び下降規制面110bの前端同士の間を架け渡している。第2回転規制面110dは、保持部110のうち第1回転規制面110cに対して第3軸線O3を対象軸とした点対称となる位置に形成されている。すなわち、第2回転規制面110dは、第2解除接触部121及び第2ロック接触部123が下方から上方に連なって形成されている。したがって、一方、保持部110は、第3軸線O3を間に挟んで他の対角となる位置に、ボルト周方向の一方側を向く一対のロック接触部117,123が配置されている。保持部110は、第3軸線O3を間に挟んで一の対角となる位置に、ボルト周方向の他方側を向く一対の解除接触部115,121が配置されている。
【0048】
図5に示すように、従動ベース111は、保持部110から左側に連なっている。従動ベース111は、チルトガイド孔56の外側であって、リヤ側板部54の外側面に沿って配置されている。従動ベース111は、左右方向から見て第3軸線O3と同軸に配置された円板状に形成されている。従動ベース111の中央部には、貫通孔91aが貫通している。
【0049】
従動ベース111の外周面において、ボルト周方向の一部には表示部127が形成されている。表示部127は、リヤ側板部54への従動カム91の上下方向での取付向きを判断するものである。表示部127は、従動ベース111の外周面上で開口するとともに、従動ベース111を左右方向に貫通する溝である。本実施形態において、表示部127は、従動ベース111の外周面のうち、下方を向く部分に形成されている。なお、表示部127は、従動ベース111の外周面のうち、上方を向く部分に形成されていていてもよい。また、表示部127は、操作レバー81とリヤ側板部54との間を通じてボルト径方向から視認可能な構成であれば、溝に限られない。この場合、表示部127は、例えば着色等であってもよい。
【0050】
従動ベース111の外周面のうち、少なくとも右側の周縁部には、面取り部128が形成されている。面取り部128は、例えばR面取りである。但し、面取り部128は、C面取り等であってもよい。
【0051】
図5図6に示すように、カム従節部112は、従動ベース111のうち、カム部101と左右方向で向かい合う位置に形成されている。カム従節部112は、カム部101と係合する凹凸面である。カム従節部112は、ボルト周方向に間隔をあけて配置されている。具体的に、カム従節部112は、乗り上げ面131と、ロック位置規制面132と、遷移面133と、通過面134と、解除位置規制面135と、を備えている。
【0052】
乗り上げ面131は、従動ベース111の表面(駆動カム90と向かい合う面)と同一面上において、ボルト周方向に延びている。乗り上げ面131は、ロック機構61がロック状態にあるとき、摺動面101cが左右方向で当接する。
【0053】
ロック位置規制面132は、乗り上げ面131からボルト周方向の一方側に連なっている。ロック位置規制面132は、乗り上げ面131(従動ベース111の表面)に対して左側に向けて延びている。ロック位置規制面132は、ロック機構61がロック状態にあるとき、係合面101aとボルト周方向で向かい合っている。ロック位置規制面132は、係合面101aがボルト周方向で当接することで、従動カム91に対する駆動カム90のボルト周方向の一方側への回転を規制する。本実施形態において、ロック位置規制面132は、係合面101aに倣って延びる傾斜面である。すなわち、ロック位置規制面132において、従動ベース111の表面に沿って仮想線L1に平行な仮想線L2に対する角度θ3は、係合面101aの角度θ1と同等に設定されている。但し、ロック位置規制面132の角度θ3は、係合面101aの角度θ1と異なっていてもよい。
【0054】
遷移面133は、乗り上げ面131からボルト周方向の他方側に連なっている。遷移面133は、ボルト周方向の他方側に向かうに従い右側に向けて延びる傾斜面に形成されている。本実施形態において、遷移面133は、左側に向けて凸の湾曲面に形成されている。遷移面133は、ロック機構61がロック状態とロック解除状態との間を移行する際に、摺動面101cが摺動する(図8参照)。
【0055】
通過面134は、遷移面133からボルト周方向の他方側に連なっている。通過面134は、ボルト周方向に沿って直線状に延びる平坦面である。
【0056】
解除位置規制面135は、通過面134からボルト周方向の他方側に連なっている。解除位置規制面135は、通過面134に対して左側に向けて延びている。具体的に、解除位置規制面135は、ボルト周方向の他方側に向かうに従い左側に延びる傾斜面に形成されている。解除位置規制面135において、仮想線L2に対する角度θ4は、遷移面133よりも大きく、逃げ面101bの角度θ2及びロック位置規制面132の角度θ3よりも大きくなっている。解除位置規制面135は、ロック機構61がロック解除状態にあるとき、摺動面101cと逃げ面101bとの稜線部(境界部)Pが線接触した状態で摺動する摺動面である(図9参照)。
【0057】
隣り合うカム従節部112において、一のカム従節部112の解除位置規制面135と、他のカム従節部112のロック位置規制面132と、は接続面138を介して連なっている。接続面138は、従動ベース111に対して左側において、ボルト周方向に延びる平坦面である。
【0058】
次に、上述したステアリング装置1の作用について、ロック機構61の操作方法を主として説明する。以下の説明では、ステアリング装置1がロック状態にあるときを初期状態とする。
図6に示すロック状態において、ロック機構61は、ロック位置規制面132及び係合面101aがボルト周方向で当接した状態で、遷移面133及び摺動面101cが左右方向で当接している。これにより、駆動カム90及び従動カム91間のボルト周方向の一方側及び左右方向の移動が規制されている。一方、図4に示すように、従動カム91は、保持部110のロック接触部117,123がチルトガイド孔56の内周縁にボルト周方向で当接することで、リヤ側板部54に対するボルト周方向の一方側への回転が規制されている。
【0059】
この状態において、ステアリング装置1をロック解除状態とするには、操作レバー81を下方に押し下げる。図6に示すように、駆動カム90は、操作レバー81とともに従動カム91に対してボルト周方向の他方側に向けて回動する。これにより、カム部101が従動カム91に対してボルト周方向の他方側に移動する。
【0060】
図6図7に示すように、ロック状態からロック解除状態に移行する過程において、摺動面101cが遷移面133上を摺動しながら、カム部101がボルト周方向の他方側に移動する。これにより、左右方向において、駆動ベース100が従動ベース111に接近し、カム機構82の左右方向の厚さが縮小する。その結果、締付部25同士が各リヤ側板部54とともに離間して保持筒部24が拡径される。その後、図8に示すように、カム部101が通過面134に到達することで、カム機構82の厚さが最小となる。この状態において、保持筒部24によるインナコラム22の挟持が解除され、テレスコ動作及びチルト動作が許容される(ロック解除状態となる。)。
【0061】
図1図3に示すように、ステアリングホイール2のテレスコ位置を前方に変更するには、ロック解除状態において、ステアリングホイール2を前方に押し込む。すると、ステアリングホイール2がインナコラム22及びステアリングシャフト12とともに、アウタコラム21に対して前方に移動する。一方、ステアリングホイール2のテレスコ位置を後方に変更するには、ロック解除状態において、ステアリングホイール2を引き込む。すると、ステアリングホイール2がインナコラム22及びステアリングシャフト12とともに、アウタコラム21に対して後方に移動する。これにより、ステアリングホイール2のテレスコ位置を任意に調整できる。
【0062】
また、ステアリングホイール2のチルト位置を上方に変更するには、ロック解除状態において、ステアリングホイール2を上方に押し上げる。すると、ロックボルト80がチルトガイド孔56内を上方に移動することで、ステアリングホイール2がコラムユニット11及びステアリングシャフト12とともに第2軸線O2回りの上方に回動する。
一方、ステアリングホイール2のチルト位置を下方に変更するには、ロック解除状態において、ステアリングホイール2を下方に引き下げる。すると、ロックボルト80がチルトガイド孔56内を下方に移動することで、ステアリングホイール2がコラムユニット11及びステアリングシャフト12とともに第2軸線O2回りの下方に回動する。これにより、ステアリングホイール2のチルト位置を任意の位置に調整できる。
【0063】
ここで、図4図10に示すように、保持部110の外周面とチルトガイド孔56の内周縁との間には、保持部110がチルトガイド孔56内を上下方向に移動できる程度の隙間Sを有している。したがって、ロック状態とロック解除状態との移行時には、カム部101とカム従節部112との間に作用する摩擦力等によって、保持部110がチルトガイド孔56内でボルト周方向に回動する。具体的に、ロック状態からロック解除状態に移行する際、保持部110がボルト周方向の他方側に向けて回動することで、ロック接触部117,123がチルトガイド孔56の内周縁から離間するとともに、解除接触部115,121がチルトガイド孔56の内周縁に接近又は当接する。そのため、チルト位置を変更する際には、解除接触部115,121がチルトガイド孔56の内周縁上を摺動する可能性がある。
【0064】
また、図8図9に示すように、カム部101が通過面134に到達した状態で、操作レバー81がさらに押し下げられる場合がある。この場合、従動カム91の解除位置規制面135がカム部101によってボルト周方向の他方側に押し込まれる。その結果、従動カム91が周方向の他方側に向けて回動しようとすることで、保持部110がチルトガイド孔56の内周縁に押し込まれる。これにより、保持部110は、解除接触部115,121を介してチルトガイド孔56の内周縁に押し込まれる。
【0065】
本実施形態において、解除接触部115,121の曲率半径は、ロック接触部117,123の曲率半径よりも大きく、チルトガイド孔56の曲率半径よりも小さくなっている。そのため、解除接触部115,121とチルトガイド孔56の内周縁との間に作用する圧力(面圧)は、ロック接触部117,123とチルトガイド孔56の内周縁との間に作用する面圧に比べて小さい。
【0066】
また、本実施形態では、解除位置規制面135の角度θ4が、逃げ面101bの角度θ2よりも大きくなっている。そのため、カム部101が通過面134と向かい合った状態から操作レバー81をさらに押し下げた際には、逃げ面101bと解除位置規制面135とが接触せずに、カム部101の稜線部Pが解除位置規制面135に線接触する。そして、操作レバー81の押し下げ操作に伴い、カム部101の稜線部Pは、解除位置規制面135上を摺動する。その後、操作レバー81は、カム部101が解除位置規制面135上を途中までせり上がった時点で、ボルト周方向の他方側への回動が規制される。なお、カム部101(稜線部P)と解除位置規制面135との接触部分において、解除位置規制面135の法線方向に作用する荷重は、ボルト周方向に沿う成分と、左右方向に沿う成分と、に分解される。
【0067】
テレスコ位置又はチルト位置を調整した後、ロック機構61を再びロック状態にするには、操作レバー81を引き上げる(ボルト周方向の一方側に回動させる)。すると、上述した動作と逆の動作を経てロック状態に移行する。すなわち、操作レバー81の回動に伴い、カム部101が従動カム91に対してボルト周方向の一方側に向けて移動する。すると、カム部101は、解除位置規制面135上を摺動した後、通過面134及び遷移面133を経て乗り上げ面131に到達する。そして、カム部101が遷移面133上をボルト周方向の一方側に向けて摺動する過程で、駆動ベース100が従動ベース111から徐々に離間する。その結果、カム機構82の厚さが徐々に増加する。これにより、保持筒部24によってインナコラム22が挟持され、テレスコ動作及びチルト動作が規制される(ロック状態)。なお、駆動カム90は、カム部101の係合面101aがロック位置規制面132に当接した時点で、従動カム91に対するボルト周方向の一方側への回動が規制される。
【0068】
カム部101の係合面101aがロック位置規制面132にボルト周方向で当接した後、さらに操作レバー81を引き上げることで、駆動カム90及び従動カム91が一体となってボルト周方向の一方側に向けて回動する。そして、ロック状態において、保持部110のロック接触部117,123がチルトガイド孔56の内周面に押し付けられることで、操作レバー81の第3軸線O3回りの回動が規制される。この際、ロック接触部117,123の曲率半径は、解除接触部115,121の曲率半径よりも小さい。そのため、ロック接触部117,123とチルトガイド孔56の内周縁との間に作用する面圧は、解除接触部115,121とチルトガイド孔56の内周縁との間に作用する面圧に比べて大きくなる。よって、ロック状態において、ロック接触部117,123とチルトガイド孔56の内周縁との間に作用する摩擦力を確保でき、コラムユニット11が予期せず上下動するのを抑制できる。
【0069】
このように、本実施形態において、従動カム91は、ロック状態にあるとき駆動カム90のカム部101が係合するロック位置規制面132と、ボルト周方向において、ロック位置規制面132から離れて設けられ、ロック解除状態にあるとき駆動カム90にボルト周方向で係合する解除位置規制面135と、を備えている。カム部101は、ロック解除状態において、従動カム91を向く摺動面101cと、ボルト周方向で解除位置規制面135側を向く逃げ面101bと、を備えている。
この構成によれば、ロック機構61がロック状態からロック解除状態に移行する過程において、保持部110は、チルトガイド孔56の内周縁と保持部110の外周面との間の隙間S分だけ回動しようとする。これにより、保持部110が解除接触部115,121を介してチルトガイド孔56の内周縁に押し込まれる。
【0070】
そこで、本実施形態では、逃げ面101bにおけるボルト周方向に対する角度θ2が、解除位置規制面135におけるボルト周方向に対する角度θ4よりも小さい構成とした。そのため、ロック解除状態にあるとき、カム部101は、摺動面101cと逃げ面101bとの稜線部Pが解除位置規制面135に線接触し易い。これにより、カム部101と解除位置規制面135とをボルト周方向で面接触させる設計で製造する場合に比べ、製造ばらつきの影響を受け難い。よって、カム部101と解除位置規制面135との間に作用する荷重を安定させることができる。
しかも、カム部101と解除位置規制面135とをボルト周方向で面接触させる設計で製造する場合に比べ、解除位置規制面135におけるボルト周方向に対する角度θ4を大きくできる。そのため、稜線部Pと解除位置規制面135との接触部分において、解除位置規制面135の法線方向に作用する荷重のうち、ボルト周方向に沿う荷重成分を小さくできる(左右方向に沿う荷重成分を大きくできる)。その結果、解除接触部115,121とチルトガイド孔56の内周縁との間に作用する面圧を安定させることができるので、チルトガイド孔56の内周縁に圧痕等が形成されるのを抑制できる。これにより、チルト位置を変更する際に、保持部110がチルトガイド孔56の内周縁上を摺動する場合であっても、異音の発生やユーザに与える違和感を軽減できる。よって、ユーザに対して良好な操作感を与えることができる。
【0071】
本実施形態では、ロック解除状態にあるとき、カム部101が解除位置規制面135上に乗り上げ可能に構成されている。
この構成によれば、ロック解除状態において、解除位置規制面135における稜線部Pの接触位置を安定させることができる。そのため、ロック解除状態において、駆動カム90と従動カム91との間でのがたつきを抑制できる。
【0072】
本実施形態では、ロック状態において、カム部101の係合面101aがロック位置規制面132に当接する構成とした。
この構成によれば、ロック状態にあるとき、係合面101aとロック位置規制面132との接触部分において、ロック位置規制面132の法線方向に作用する荷重のうち、ボルト周方向に沿う荷重成分を大きくできる。これにより、ロック接触部117,123を確実にチルトガイド孔56の内周縁に押し当てることができる。その結果、ロック状態において、ロック接触部117,123とチルトガイド孔56の内周縁との間に作用する摩擦力を確保でき、コラムユニット11が予期せず上下動するのを抑制できる。
【0073】
本実施形態のステアリング装置1では、従動ベース111の外周面に表示部127が設けられている構成とした。
この構成によれば、各ステアリング装置1間において、従動カム91の取付向きを一定にし易い。そのため、従動カム91の製造ばらつきによって、保持部110(解除接触部115,121及びロック接触部117,123)とチルトガイド孔56の内周縁との接触条件が各ステアリング装置1間でばらつくのを抑制できる。その結果、ロック機構61の性能ばらつきが生じるのを抑制できる。
【0074】
本実施形態のステアリング装置1では、従動ベース111の周縁部に面取り部128が形成されている構成とした。
この構成によれば、例えば操作レバー81の自重等によって従動カム91の軸線が第3軸線O3に対して傾いて配置されたとしても、従動ベース111の周縁部とリヤ側板部54の外側面との間に作用する面圧を低減できる。これにより、チルト位置を調整する際等、従動ベース111がリヤ側板部54の外側面上を摺動する場合であっても、ユーザに与える違和感を軽減できる。
【0075】
以上、本開示の好ましい実施例を説明したが、本開示はこれら実施例に限定されることはない。本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は上述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
例えば、上述した実施形態では、第1軸線O1が前後方向に交差している構成について説明していたが、この構成のみに限られない。第1軸線O1は、車両の前後方向に一致していてもよい。
【0076】
上述した実施形態では、保持部110のうち、第3軸線O3を間に挟んで対角となる位置に解除接触部115,121及びロック接触部117,123を一対ずつ備える構成について説明したが、この構成に限られない。解除接触部115,121及びロック接触部117,123は、少なくとも一つ備えていればよい。
【0077】
上述した実施形態では、操作レバー81を引き上げることでロック解除状態からロック状態に移行する構成(いわゆる引きロックタイプ)について説明したが、操作レバー81を押し下げることでロック解除状態からロック状態に移行する構成(いわゆる押しロックタイプ)を採用してもよい。その場合、同一の回転規制面(例えば、第1回転規制面110c)において、解除接触部(例えば、第1解除接触部115)及びロック接触部(例えば、第1ロック接触部117)が、引きロックタイプとは逆の位置に配置される。
上述した実施形態では、カム部(他方の部材)101を突起形状とし、カム従節部(一方の部材)112をカム部101が摺動する凹凸面とする構成について説明したが、この構成に限られない。すなわち、カム従節部(他方の部材)112を突起形状とし、カム部(一方の部材)101をカム従節部112が摺動する凹凸面としてもよい。
【0078】
上述した実施形態のステアリング装置1は、テレスコ機能及びチルト機能の双方を備える構成について説明したが、チルト機能を少なくとも備えていればよい。
上述した実施形態では、コラムユニット11が筒状である構成について説明したが、この構成に限られない。コラムユニット11は、ステアリングシャフト12を回転可能に保持する構成であればよい。
上述した実施形態では、スリット28の間隔を拡縮させることによってインナコラム22の移動を規制及び解除する場合について説明したが、この構成のみに限られない。
【0079】
上述した実施形態では、保持部110が、互いに形状の異なる解除接触部115,121及びロック接触部117,123を備える構成について説明したが、この構成に限られない。解除接触部115,121及びロック接触部117,123は、それぞれ同一の形状であってもよい。この場合、保持部110は、外形が一様な矩形状や長円形状に形成されていてもよい。
上述した実施形態では、ロック解除状態において、カム部101が解除位置規制面135上に乗り上げる構成について説明したが、この構成に限られない。カム部101は、稜線部Pが解除位置規制面135に接触する構成であれば、解除位置規制面135に乗り上げる構成でなくてもよい。
【0080】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1:ステアリング装置
11:コラムユニット
12:ステアリングシャフト
13:フロントブラケット
14:リヤブラケット
54:リヤ側板部(側板部)
56:チルトガイド孔
61:ロック機構
80:ロックボルト(ロッド)
90:駆動カム
91:従動カム
101:カム部(他方の部材、一方の部材)
101a:係合面(第2側面)
101b:逃げ面(第1側面)
101c:摺動面(頂面)
110:保持部
111:従動ベース(ベース部)
112:カム従節部(一方の部材、他方の部材)
127:表示部
132:ロック位置規制面
135:解除位置規制面
O1:第1軸線
O2:第2軸線
O3:第3軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10