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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240904BHJP
【FI】
B62D6/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021015142
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118550
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038395(JP,A)
【文献】特開2020-040524(JP,A)
【文献】特開2008-155703(JP,A)
【文献】特開2005-280368(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0317698(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の目標進行路における道路曲率と自車速とに基づき、該自車両を水平なカーブ路に沿って走行させるための目標ヨーレートを設定する目標ヨーレート演算部と、
前記目標ヨーレート演算部で設定した前記目標ヨーレートと前記自車速とに基づき基準ハンドル角を設定する基準ハンドル角演算部と、
前記基準ハンドル角演算部で設定した前記基準ハンドル角に基づいてフィードフォワード目標ハンドル角を設定するフィードフォワード目標ハンドル角演算部と
を備える運転支援制御装置において、
前記自車速とヨーレートセンサで検出した実ヨーレートと横加速度とに基づいて、カーブ路走行時に前記自車両に作用する横力成分を求め、該横力成分と前記目標ヨーレート演算部で設定した前記目標ヨーレートとに基づいて推定ヨーレートを設定する推定ヨーレート演算部と、
前記目標ヨーレート演算部で設定した前記目標ヨーレートと前記推定ヨーレート演算部で設定した前記推定ヨーレートとの比率からフィードフォワード補正ゲインを設定するフィードフォワード補正ゲイン演算部と
を更に備え、
前記フィードフォワード目標ハンドル角演算部は、前記基準ハンドル角演算部で設定した前記基準ハンドル角を前記フィードフォワード補正ゲイン演算部で設定した前記フィードフォワード補正ゲインで補正して前記横力成分を加味した前記フィードフォワード目標ハンドル角を設定する
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記フィードフォワード補正ゲイン演算部で設定した前記フィードフォワード補正ゲインを適用するか否かの条件を判定する条件判定部を更に有し、
前記フィードフォワード目標ハンドル角演算部は、前記条件判定部で前記フィードフォワード補正ゲインを適用するための条件が不成立と判定された場合、前記フィードフォワード目標ハンドル角を前記基準ハンドル角演算部で設定した前記基準ハンドル角で設定する
ことを特徴とする請求項1記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記条件判定部で判定する条件は、前記道路曲率と前記自車速とハンドル角速度とであり、
前記条件判定部は、前記道路曲率が所定曲率以上で、且つ前記自車速が所定車速以上で、且つ前記ハンドル角速度が所定角速度以下の場合に条件成立と判定する
ことを特徴とする請求項2記載の車両の運転支援装置。
【請求項4】
ハンドル角センサで検出した実ハンドル角と前記自車速とに基づいて前記自車両の進行方向における所定時間経過後の目標点を求め、前記目標進行路の前記道路曲率に対する前記目標点の横位置偏差を0にするフィードバック目標ハンドル角を設定するフィードバック目標ハンドル角演算部と、
前記フィードフォワード目標ハンドル角演算部で設定した前記フィードフォワード目標ハンドル角と前記フィードバック目標ハンドル角演算部で設定した前記フィードバック目標ハンドル角とを加算して、ステアリングを駆動させる指示ハンドル角を設定する指示ハンドル角演算部と
を更に有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が自動操舵制御によりカーブ路を走行するに際し、水平路面の走行において設定するフィードフォワードハンドル角を、横力成分を加味した値に補正するようにした車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の車両には、運転中における運転者の負担を軽減し、快適性の向上を図るべく、様々な運転支援機能が備えられている。この運転支援機能の1つに自動操舵制御がある。自動操舵制御としては、ステレオカメラ等の前方認識センサによって、自車両前方の道路形状を認識し、自車両を走行車線の中央に沿って走行するように制御する車線維持(ALK:Active Lane Keep))制御が知られている。
【0003】
又、自動運転においては、GPS衛星を代表とするGNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)衛星等の測位衛星に基づいて自車位置情報(位置座標)を取得し、これを高精度道路地図(ダイナミックマップ)にマップマッチングさせることで、道路地図から自車両前方の道路形状を取得し、自車両を地図上の走行車線の中央に沿って走行するように操舵制御を行う自動操舵制御の技術も知られている。
【0004】
例えば特許文献1(特開2019-38395号公報)には、自車速、道路曲率、及び自車両の挙動をモデル化した車両モデル(例えば、2輪モデル)に基づいてFF(フィードフォワード)目標ハンドル角を設定する。又、道路曲率に対する自車両のヨー角(対車線ヨー角)を求め、この対車線ヨー角を0にするFB(フィードバック)目標ハンドル角を設定する。そして、FF目標ハンドル角にFB目標ハンドル角を加算して、指示ハンドル角を算出し、この指示ハンドル角に従って操舵を行う自動操舵制御の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-38395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自車両が、水平路面で且つ外乱の影響を全く受けないカーブ路を、ALK制御機能を利用した運転支援によって走行する場合には、FBハンドル角はほぼ0となるので、FF目標ハンドル角がほぼ指示ハンドル角となる。従って、自車両は道路曲率に応じた指示ハンドル角(=FF目標ハンドル角)で、図5に破線で示す車線中央を走行させることができる。又、例えば、自車両に対し、路面横断勾配(路面カント)や横風等の横力外乱がカーブ路の求心方向へ作用した場合、自車両に、一点鎖線で示すような片流れ現象(カーブ内側方向へ流される現象)が発生するが、この片流れ現象はFB目標ハンドル角によって修正されるため、自車両は車線中央方向へ戻される。
【0007】
しかし、自動操舵制御において、常に片流れ現象を補償するフィードバック制御が実行されると、フィードバック制御系の負担が大きくなり、制御遅れが生じ易くなってしまうため、図5に二点鎖線で示すように車体にふらつきが発生し易くなり、走行安定性が損なわれ易くなる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、自動操舵制御によってカーブ路を走行するに際し、横力外乱の成分によって生じる片流れ現象を低減し、フィードバック制御系の負担を軽減して、制御遅れを抑制し、良好な走行安定性を得ることのできる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、自車両前方の目標進行路における道路曲率と自車速とに基づき、該自車両を水平なカーブ路に沿って走行させるための目標ヨーレートを設定する目標ヨーレート演算部と、前記目標ヨーレート演算部で設定した前記目標ヨーレートと前記自車速とに基づき基準ハンドル角を設定する基準ハンドル角演算部と、前記基準ハンドル角演算部で設定した前記基準ハンドル角に基づいてフィードフォワード目標ハンドル角を設定するフィードフォワード目標ハンドル角演算部とを備える車両の運転支援装置において、前記自車速とヨーレートセンサで検出した実ヨーレートと横加速度とに基づいて、カーブ路走行時に前記自車両に作用する横力成分を求め、該横力成分と前記目標ヨーレート演算部で設定した前記目標ヨーレートとに基づいて推定ヨーレートを設定する推定ヨーレート演算部と、前記目標ヨーレート演算部で設定した前記目標ヨーレートと前記推定ヨーレート演算部で設定した前記推定ヨーレートとの比率からフィードフォワード補正ゲインを設定するフィードフォワード補正ゲイン演算部とを更に備え、前記フィードフォワード目標ハンドル角演算部は、前記基準ハンドル角演算部で設定した前記基準ハンドル角を前記フィードフォワード補正ゲイン演算部で設定した前記フィードフォワード補正ゲインで補正して前記横力成分を加味した前記フィードフォワード目標ハンドル角を設定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水平なカーブ路に沿って走行させるための目標ヨーレートに横力成分を加味してフィードフォワード目標ハンドル角を設定するようにしたので、自動操舵制御によってカーブ路を走行するに際し、フィードフォワード制御によって横力外乱の成分によって生じる片流れ現象を低減することができ、その分、フィードバック制御系の負担を軽減することができる。その結果、自動操舵制御時における制御遅れが抑制され、良好な走行安定性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】運転支援装置を搭載する車両の概略構成図
図2】運転支援制御ユニットの機能ブロック図
図3】2輪モデルを示す説明図
図4】基準ハンドル角マップの概念図
図5】路面横断勾配を有するカーブ路を走行する自車両に横力外乱が作用している状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1において、車両(自車両)1は、左右前輪FL,FRと左右後輪RL,RRとを有し、この左右前輪FL,FRが操舵輪であり、ラック&ピニオン機構等のステアリング機構2にタイロッド3を介して連設されている。又、このステアリング機構2に、先端にハンドル4を固設するステアリング軸5が連設されている。運転者がハンドル4を操作すると、ステアリング機構2を介して前輪FL,FRが転舵される。
【0013】
又、ステアリング軸5に電動パワーステアリング(EPS)装置6のEPSモータ7が、図示しない伝達機構を介して連設されている。EPS装置6はEPSモータ7とEPS制御ユニット(EPS_ECU)8とを有しており、このEPS_ECU8にて、EPSモータ7がステアリング軸5に付加するアシストトルクを制御する。
【0014】
このEPS_ECU8は、CAN(Controller Area Network)通信等を用いた車内ネットワークを通じて、後述する運転支援制御ユニット(DSS(Driving Support System)_ECU)11、及びナビゲーション制御装置(ナビ_ECU)17と双方向通信自在に接続されている。
【0015】
EPS_ECU8は、DSS_ECU11がアクティブ状態のときは、このDSS_ECU11にて設定した指示ハンドル角に対応するEPSトルクを設定する。そして、EPS_ECU8は、このEPSトルクでEPSモータ7を駆動させ、自車両1を誘導するために設定した前方の目標進行路(一般的には車線中央)を走行するように操舵制御を行う。又、DSS_ECU11が非アクティブ状態のとき、すなわち、運転者自らのハンドル操作で自車両Mを走行させる際においてEPS_ECU8は、運転者がハンドル4に加える操舵トルクをアシストするアシストトルクを設定する。
【0016】
DSS_ECU11には、自動操舵制御を行う際に必要とする各種パラメータとして、ステアリング軸5に取り付けられてハンドル4のハンドル角θhを検出するハンドル角センサ12、自車両1に作用する実ヨーレートγrealを検出するヨーレートセンサ13、自車両1の車速(自車速)Vを検出する車速センサ14、自車両Mに作用する横方向の加速度(横加速度)Axを検出する横加速度センサ15等、自車両1に作用する挙動を検出するセンサ類からの信号が入力される。更に、ナビ_ECU17で検出した自車両M前方の目標進行(車線中央)上の道路曲率1/Rが読込まれる。
【0017】
又、ナビ_ECU17は、測位電波受信部を有し、受信アンテナ17aで受信したGNSS測位衛星から位置情報に基づき自車位置(位置座標)を逐次取得する。又、このナビ_ECU17に高精度道路地図(ダイナミックマップ)データを備える道路地図データベース18が接続されている。この道路地図データベース18はハードディスク等の大容量記憶媒体に設けられており、記憶されている高精度道路地図データは、道路や構造物の形状や車線情報等の静的な地図データに、各道路における交通規制,事故,渋滞,車両,歩行者,信号等の動的に変化する情報が重ね合わされて構成されており、動的情報は周辺環境の変化に応じて更新される。
【0018】
又、静的地図データとしては、車線幅の中央に沿って所定間隔毎に設定したノードに記憶されている道路地図データがある。この道路地図データには、道路の位置情報(緯度、経度、標高)、道路形状情報(カーブ/直線の種別、カーブの曲率半径データ)が含まれている。
【0019】
尚、図示しないが、上述した車内ネットワークには、EPS_ECU8、DSS_ECU11、ナビ_ECU17以外に、エンジン、電動モータ等の駆動源を制御する駆動源制御ユニット、変速機制御ユニット、及びブレーキ制御を含む車両操縦安定制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)装置等、自車両1の自動運転等における走行状態を制御するユニット類が相互通信自在に接続されており、これら各制御ユニットはCPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやデータマップ等の固定データ等が記憶されている。
【0020】
一方、符号19は前方認識装置であり、自車両1前方の外部情報である走行環境情報を取得する。この前方認識装置19は、上述と同様マイクロコンピュータを主体に構成されていると共に、メインカメラ20aとサブカメラ20bとからなるステレオカメラで構成された車載カメラ20を有している。
【0021】
前方認識装置19は、車載カメラ20で撮像した前方の走行環境情報画像を画像処理して、例えば、自動操舵制御(ALK制御)においては、走行車線の左右を区画する区画線を認識し、自車両1を走行車線の中央に沿って走行させるために必要な画像情報を生成する。尚、区画線等の前方の走行環境情報を取得できるものであれば、前方認識装置19はステレオカメラに代えて、ミリ波レーダ、超音波レーダ、ライダー(LiDAR:light detection and ranging)等を採用してもよく、或いは、これらと単眼カメラとを組み合わせて採用しても良い。
【0022】
DSS_ECU11は、ナビ_ECU17で取得した自車位置情報を読込み、自車両1を、道路地図上に設定した目的地までの誘導路の一部の区間、或いは全区間において、走行車線に沿って走行するように操舵制御を行う。同時に、前方認識装置19からの走行環境情報に基づいて走行車線を区画する左右区画線を認識し、走行車線の中央を走行するようにALK制御を行う。そして、自車両Mがカーブ路を走行するに際しては、道路地図情報或いは前方認識装置19からの走行環境情報に基づき、当該カーブ路に設定した目標進行路(車線中央)の道路曲率を求める。
【0023】
この場合、カーブ路が路面横断勾配(路面カント)を有し、或いはカーブ路の内側方向へ横風が発生していると、それが横力外乱となり、自車両Mはカーブ路の内側方向への片流れ現象を受けることになる。そのため、DSS_ECU11では、自車両Mに作用する横力成分をフィードフォワード制御で補償することで、制御応答性、及びフィードバック制御系の負担を軽減するようにしている。
【0024】
図2に示すように、DSS_ECU11には、自動操舵制御を実行する機能として、目標ヨーレート演算部21、基準ハンドル角演算部22、推定ヨーレート演算部23、FF(フィードフォワード)補正ゲイン演算部24、条件判定部25、FF目標ハンドル角演算部26、FB(フィードバック)目標ハンドル角演算部27、指示ハンドル角演算部28が備えられている。
【0025】
次に、図2に示すDSS_ECU11の各機能の作用について説明する。
【0026】
目標ヨーレート演算部21は、車速センサ14で検出した自車速Vとナビ_ECU17或いは前方認識装置19で検出した自車両M前方の目標進行路(車線中央)上の道路曲率1/Rとに基づいて、水平なカーブ路を走行する際の目標ヨーレートγtgtを、図3に示す車両モデル式の代表である2輪モデル式から算出する。
【0027】
図3において、lf,lr:重心から前後輪軸までの距離、m:車体重量、V:自車速、Ff,Fr:前後輪のコーナリンクフォース、γ:ヨーレート、β:車体の横滑り角、δ:操舵角である。尚、操舵角δは、δ=θh/Nから求める。ここで、θh:ステアリング軸5の回転角度(ハンドル角)、N:ステアリングギヤ比である。ステアリングギヤ比Nは固定値であるため、操舵角δはハンドル角θhから一律に求めることができる。
【0028】
又、前後輪のコーナリンクフォースFf,Frは、前後輪の横滑り角をβf,βrとした場合、
Ff=-2Kfβf
Fr=-2Krβf
となる。ここで、Kf,Kr:前後1輪辺りのタイヤコーナリングパワー(比例定数)である。
【0029】
2輪モデル式は以下の(1)式、(2)式からなり、この式に自車速Vと道路曲率1/Rから求めた操舵角δを代入し、連立して解くことで、目標ヨーレートγtgtを算出する。尚、(1)式、(2)式では、目標ヨーレートγtgtをγで表している。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、I:ヨー慣性モーメントである。
【0032】
この目標ヨーレート演算部21で算出した目標ヨーレートγtgtは、基準ハンドル角演算部22とFF補正ゲイン演算部24とで読込まれる。
【0033】
基準ハンドル角演算部22では、目標ヨーレートγtgtと自車速Vとに基づき、基準ハンドル角マップを補間計算付きで参照し、走行車線の中央に沿って自車両Mを走行させるための基準となるハンドル角(基準ハンドル角)θhoを設定する。
【0034】
図4に基準ハンドル角マップの概念を示す。同図に示すように、基準ハンドル角θhoは、目標ヨーレートγtgtと自車速Vとの関係から、目標ヨーレートγtgtが大きく、且つ自車速Vが小さくなるに従い大きな値の基準ハンドル角θhoが設定される特性を有している。この基準ハンドル角θhoはFF目標ハンドル角演算部26で読込まれる。
【0035】
尚、この基準ハンドル角θhoは、以下に示す演算式から求めるようにしても良い。
θho=1/(1+As・V2)・(L/V)・γtgt
ここで、L:自車両Mのホイールベース、As:車両固有のスタビリティファクタであり、固定値として予めROM等に記憶されている。
【0036】
一方、推定ヨーレート演算部23は、横力外乱(横断勾配、横風等)を自車両Mが受けた状態でカーブ路を走行する際に発生するヨーレートを推定するものである。
【0037】
この推定ヨーレート演算部23では、先ず、自車速Vとヨーレートセンサ13で検出した実際のヨーレート(実ヨーレート)γrealと横加速度センサ15で検出した横加速度Axとに基づいて、以下に示す(3)式から、カーブ路走行時に自車両Mに作用する横力外乱の横力成分Y(図5参照)を求める。尚、横加速度Axには、カーブ路走行時の遠心加速度と外乱成分とが含まれている。
【0038】
【数2】
【0039】
すなわち、(3)式では、自車両Mがカープ路を走行している場合、横加速度(遠心加速度+外乱成分)Axが発生しているため、この横加速度Axを、実ヨーレートγrealと自車速Vとから求めた横方向の加速度から減算することで、横力外乱によって自車両Mに作用する横力成分Yを抽出する。
【0040】
そして、この推定ヨーレート演算部23では、上述した(1)式の右辺に横力成分Yを加算し、横力外乱(横断勾配、横風等)の影響を受けるカーブ路を走行する際の2輪モデル式を、以下に示す(4)式、(5)式のように設定する。尚、(4)式、(5)式では、推定ヨーレートγpresをγで表している。
【0041】
【数3】
【0042】
そして、この(4)式、(5)式を、ラプラス変換し、推定ヨーレートγpres(s)について解くと、(6)式になる。
【0043】
【数4】
【0044】
定常状態での推定ヨーレートγpres(s)を、最終値の定理を用いて表すと、(7)式のようになる。
【0045】
【数5】
【0046】
この(7)式が、横力外乱を受けた状態で操舵を行った際に、自車両Mに発生する推定ヨーレートγpresの定常状態となる。
【0047】
この推定ヨーレートγpresは、FF補正ゲイン演算部24で読込まれる。FF補正ゲイン演算部24では、目標ヨーレート演算部21で求めた目標ヨーレートγtgtと、推定ヨーレート演算部23で求めた推定ヨーレートγpresとの比率から、FF補正ゲインGcomを、以下の(8)式から算出する。このFF補正ゲインGcomはFF目標ハンドル角演算部26で読込まれる。
【0048】
【数6】
【0049】
又、条件判定部25では、FF補正ゲイン演算部24で設定したFF補正ゲインGcomを適用するための条件、すなわち、以下に示す(1)~(3)の運転条件が全て満足されているか否かを調べる。
【0050】
(1)道路曲率1/Rが所定曲率(しきい値)以上であること
FF目標ハンドル角θhffにおいて横力外乱を考慮しなければならないのは急カーブのみだからである。従って、この曲率(しきい値)は、道路曲率1/Rが急カーブか否かを判定するために設定する値である。
【0051】
(2)自車速Vが所定車速(しきい値)以上であること
低速走行時においては横力外乱の影響は小さく、フィードバック制御で充分に対応できるためである。従って、この車速(しきい値)は自車速Vが低速か否かを判定するために設定する値である。
【0052】
(3)ハンドル角速度ωhが所定角速度(一定値)以下であること
過渡応答成分が推定ヨーレートγpresに含まれないようにするためである。尚、このハンドル角速度ωhは、ハンドル角センサ12で検出した実際のハンドル角(実ハンドル角)θhを時間微分して求める。
【0053】
そして、この運転条件の全てが満足されている場合、条件成立と判定し、条件判定フラグFをセットする(F←1)。又、(1)~(3)に記載されている運転条件の内の1つでも満足されなかった場合、条件不成立と判定し条件判定フラグFをクリアする(F←0)。
【0054】
FF目標ハンドル角演算部26は、基準ハンドル角θhoとFF補正ゲインGcomと条件判定フラグFの値とを読込む。そして、先ず、条件判定フラグFの値を参照し、F=1の場合はFF補正ゲイン演算部24で設定したFF補正ゲインGcomを読込む。又、F=0の場合はFF補正ゲインGcomを1に設定する(Gcom←1)。
【0055】
そして、基準ハンドル角θhoをFF補正ゲインGcomで補正(乗算)してFF目標ハンドル角θhffを設定する(θhff←θho・Gcom)。FF補正ゲインGcomは、カーブ路の内側ヘ向かう横力外乱を考慮した値であり、基準ハンドル角θhoにFF補正ゲインGcomを乗算することで、予め横力外乱の因子を含めたFF目標ハンドル角θhffを設定することができる。又、条件判定フラグFがクリアされている場合(F=0)、FF補正ゲインGcomは1に設定されるため、FF目標ハンドル角θhffはそのまま基準ハンドル角θhoで設定される(θhff←θho)。
【0056】
一方、FB目標ハンドル角演算部27は、ハンドル角センサ12で検出した実ハンドル角θhと自車速Vとに基づいて自車両Mの進行方向における所定時間経過後の位置(目標点)を求める。そして、目標進行路(車線中央)の道路曲率に対する目標点の横位置偏差Δcを求め、この横位置偏差Δcを0にするFB目標ハンドル角θhfbを算出する。
【0057】
指示ハンドル角演算部28は、フィードフォワード制御系のFF目標ハンドル角θhffとフィードバック系のFB目標ハンドル角θhfbとを加算して指示ハンドル角θhiを設定し(θhi←θhff+θhfb)、EPS_ECU8へ送信する。
【0058】
EPS_ECU8は、指示ハンドル角θhi(=δ・N)に対応するEPS付加トルクTepを求め、このEPS付加トルクTepに対応する駆動信号にてEPSモータ7を駆動制御して、自車両Mを目標進行路(車線中央)の道路曲率に沿って走行させる。
【0059】
このように、本実施形態によれば、自動操舵制御によってカーブ路を走行するに際して、自車両Mが受ける横力外乱(横断勾配、横風等)をフィードフォワード制御系で補償するようにしたので、その分、フィードバックバック制御系の負担を軽減させることができ、制御遅れを抑制することができる。その結果、横力外乱によって生じる片流れ現象が応答性良く低減され、良好な走行安定性を得ることができる。
【0060】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば条件判定部25で判定する運転条件は例示であり、これに路面摩擦係数(路面μ)の情報等、他の条件を加えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…自車両、
2…ステアリング機構、
3…タイロッド、
4…ハンドル、
5…ステアリング軸、
6…EPS装置、
7…EPSモータ、
12…ハンドル角センサ、
13…ヨーレートセンサ、
14…車速センサ、
15…横加速度センサ、
17…ナビ_ECU、
17a…受信アンテナ、
18…道路地図データベース、
19…前方認識装置、
20…車載カメラ、
20a…メインカメラ、
20b…サブカメラ、
21…目標ヨーレート演算部、
22…基準ハンドル角演算部、
23…推定ヨーレート演算部、
24…FF補正ゲイン演算部、
25…条件判定部、
26…FF目標ハンドル角演算部、
27…FB目標ハンドル角演算部、
28…指示ハンドル角演算部、
Ax…横加速度(遠心加速度)、
F…条件判定フラグ、
FL,FR…左右前輪、
Gcom…FF補正ゲイン、
M…自車両、
1/R…道路曲率、
RL,RR…左右後輪、
Tep…EPS付加トルク、
V…自車速、
Y…横力成分、
Δc…横位置偏差、
γpres…推定ヨーレート、
γreal…実ヨーレート、
γtgt…目標ヨーレート、
δ…操舵角、
θh…実ハンドル角、
θhfb…FB目標ハンドル角、
θhff…FF目標ハンドル角、
θhi…指示ハンドル角、
θho…基準ハンドル角、
ωh…ハンドル角速度
図1
図2
図3
図4
図5