(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】レーザ走査装置及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/082 20140101AFI20240904BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240904BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B23K26/082
B23K26/00 M
G02B26/10 104Z
(21)【出願番号】P 2021051330
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淳
(72)【発明者】
【氏名】西川 定希
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-528011(JP,A)
【文献】特許第6833153(JP,B1)
【文献】特開2009-258559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/082
B23K 26/00
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラーと、前記ミラーを回転駆動させる駆動源と、を有し、レーザ源から出射されたレーザビームを第1方向に偏向可能なガルバノスキャナと、
前記ミラーの回転軸に取り付けられたスケールと、前記回転軸を中心に点対称に設けられた第1及び第2ヘッドと、を備えたロータリーエンコーダと、
回転駆動するミラーを使用せずに前記第1方向と直交する第2方向にレーザビームを偏向可能な走査手段と、
前記ガルバノスキャナを制御する第1制御手段と、
前記走査手段を制御する第2制御手段と、を備え、
前記第2制御手段は、
前記第1ヘッドからの出力と、前記第2ヘッドからの出力とに基づいて、前記ミラーの倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差を求め、当該求められた誤差を補償するように前記走査手段を制御する、
ことを特徴とするレーザ走査装置。
【請求項2】
前記第2制御手段は、
前記第1ヘッドからの出力と、前記第2ヘッドからの出力と、を加算平均して前記ロータリーエンコーダの並進方向の変位を求め、
求められた前記ロータリーエンコーダの並進方向の変位と、予め記憶している前記ロータリーエンコーダの並進方向の変位と前記ミラーの倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差との関係を示すモデルと、に基づいて、前記ミラーの倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差を求める、
ことを特徴とする請求項
1記載のレーザ走査装置。
【請求項3】
前記走査手段は、第1走査手段であり、
前記ガルバノスキャナと協働して前記レーザビームの照射位置を前記第1方向に位置決めする第2走査手段と、
前記第2走査手段を制御する第3制御手段と、を備え、
前記第1及び第2走査手段の応答速度は、前記ガルバノスキャナの応答速度よりも速く、
前記第1制御手段は、前記ガルバノスキャナのミラーの回転角度の指令値と前記
ロータリーエンコーダの検出値との偏差に基づいて、前記ミラーの回転角度をフィードバック制御し、
前記第3制御手段は、前記偏差に基づく目標位置からのレーザビームの照射位置のずれを補償するように前記第2走査手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載のレーザ走査装置。
【請求項4】
第2ミラーと、前記第2ミラーを回転させる第2駆動源と、前記第2ミラーの回転角度を検出す
る検出手段と、を有し、前記レーザ源から出射されたレーザビームを前記第2方向に偏向可能な第2ガルバノスキャナと、
前記第2ガルバノスキャナを制御する第4制御手段と、を備え、
前記第1及び第2走査手段の応答速度は、前記第2ガルバノスキャナの応答速度よりも速く、
前記第4制御手段は、前記第2ガルバノスキャナのミラーの回転角度の指令値と前
記検出手段の検出値との偏差に基づいて、前記第2ガルバノスキャナのミラーの回転角度をフィードバック制御し、
前記第2制御手段は、前記第2ガルバノスキャナのミラーの回転角度の指令値と前
記検出手段の検出値との偏差を補償するように前記
第1走査手段を制御する、
ことを特徴とする請求項
3記載のレーザ走査装置。
【請求項5】
前記第
3制御手段は、前
記検出手段からの出力に基づいて、前記第2ミラーの倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差を求め、当該求められた誤差を補償するように前記第2走査手段を制御する、
ことを特徴とする請求項
4記載のレーザ走査装置。
【請求項6】
レーザ源と、
前記レーザ源を制御するショット制御部と、
請求項1乃至
5のいずれか1項記載のレーザ走査装置と、を備えた、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
前記レーザ走査装置は、請求項4
又は5記載のレーザ走査装置であり、
前記第1及び第2走査手段は、それぞれ音響光学素子を含み、
前記第
2及び第
3制御手段は、それぞれ、前記音響光学素子の駆動を開始する際に前記ショット制御部にレーザビームの出射を許可する許可信号を出力し、
前記ショット制御部は、前記第
2及び第
3制御手段の両方から前記許可信号を出力されることによって、前記レーザ源にレーザビームを出射させるショット信号を出力可能となり、
前記ショット信号の出力タイミングは、前記第
2及び第
3制御手段の両方から許可信号が前記ショット制御部に出力されたタイミングよりも、遅くなるように構成されている、
ことを特徴とする請求項
6記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査装置及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザビームを用いてプリント基板等の対象物に対して穴明け加工を行うレーザ加工装置において、ガルバノスキャナと、音響光学偏光素子(以下、AODともいう)と、を組み合わせて使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1記載のレーザ加工装置では、加工用のレーザビームの光路系に、測定用のレーザビームの光路系を重畳して配置している。上記加工用のレーザビームの光路系には、加工用のレーザ源、AOD、ガルバノスキャナが配置されている。また、測定用のレーザビームの光路系には、計測用レーザ源、2次元フォトセンサアレイ、計測用レーザ源から出射されたレーザビームをAODに入射させる第1のダイクロイックミラー、AODから出射された計測用レーザ光を2次元フォトセンサアレイへと入射させる第2のダイクロイックミラーが配置されており、上記2次元フォトセンサアレイによりAODの偏向角を計測するように構成されている。
【0004】
そして、加工機コントローラから加工指令を受けると、目標位置にレーザビームが照射されるようにガルバノスキャナを動作させ、ガルバノスキャナのミラーの回転角度に基づいて算出される目標位置までの距離がAODの偏向範囲に入ると、残りの移動量をAODによって位置決めするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載のレーザ加工装置のように、ガルバノスキャナにAODを組み合わせてレーザビームの位置決めを行うと、AODの応答速度は、ガルバノスキャナの応答速度よりも速いため、レーザビームの位置決め速度を向上させることができる。しかしながら、近年、プリント基板の加工等においては微細化が進んでおり、より高い加工精度が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、高い加工精度のレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ミラーと、前記ミラーを回転駆動させる駆動源と、を有し、レーザ源から出射されたレーザビームを第1方向に偏向可能なガルバノスキャナと、前記ミラーの回転軸に取り付けられたスケールと、前記回転軸を中心に点対称に設けられた第1及び第2ヘッドと、を備えたロータリーエンコーダと、回転駆動するミラーを使用せずに前記第1方向と直交する第2方向にレーザビームを偏向可能な走査手段と、前記ガルバノスキャナを制御する第1制御手段と、前記走査手段を制御する第2制御手段と、を備え、前記第2制御手段は、前記第1ヘッドからの出力と、前記第2ヘッドからの出力とに基づいて、前記ミラーの倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差を求め、当該求められた誤差を補償するように前記走査手段を制御する、ことを特徴とするレーザ走査装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高い加工精度のレーザ加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の概略図。
【
図2】AODによる高速高精度位置決めの原理を説明する概念図。
【
図4】ロータリーエンコーダの並進変位からミラーの倒れ変位を算出するモデルを表す図。
【
図5】レーザ加工装置の動作を示すタイムチャート。
【
図6】他のミラーの倒れ振動の検出方法を説明するための模式図。
【
図7】他のミラーの倒れ振動の検出方法を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザ走査装置及びレーザ加工装置について、図面に基づいて説明をする。なお、以下の説明において、X軸方向、Y軸方向とは、加工対象を平面視で視た際の状態を基準とする。
【0012】
<レーザ加工装置の概略構成>
図1に示すように、本実施の形態に係るレーザ加工装置1は、レーザ源2と、レーザ源2から出射されたレーザビームを走査するレーザ走査装置4と、を備えている。また、レーザ走査装置4は、レーザ源2から出射されたレーザビームの位置決めを行う走査部3、走査部3によって位置決めされたレーザビームを目標位置へ集光させるFθレンズ5、制御部6等を備えている。上記レーザ源2は、例えば、炭酸ガス(CO
2)レーザ発振器などによって構成されており、後述するショット制御部7からショット信号が入力されることによって、レーザパルスを出射するようになっている。
【0013】
走査部3は、レーザビームの光路上において、レーザ源2の下流側に配置されており、2つの走査部9,10を備えている。第1走査部9は、第2走査部10の上流側に設けられており、第2走査部10に比して、レーザビームの走査範囲(位置決め範囲)が狭い一方で、位置決め速度については第2走査部10よりも速い走査部となっている。
【0014】
より具体的には、上記第1走査部9は、X軸方向の位置決めを行う第1音響光学素子(以下、第1AODという)11と、Y軸方向の位置決めを行う第2音響光学素子(以下、第2AODという)12と、を備えて構成されている。第2走査部10は、X軸方向の位置決めを行う第1ガルバノスキャナ13と、Y軸方向の位置決めを行う第2ガルバノスキャナ15と、を備えて構成されている。
【0015】
上記ガルバノスキャナ13,15は、それぞれミラー(以下、スキャナミラー、ガルバノミラーとも言う)13a,15aの回転角度を軸回転用モータ13b,15bによって調整可能に構成されており、X軸方向の位置決めを行う第1ガルバノスキャナ13のミラー13aの回転軸13cと、Y軸方向の位置決めを行う第2ガルバノスキャナ15のミラー15aの回転軸15cとが直交するように配置されている。なお、各ガルバノスキャナ13,15には、ミラー13a,15aの回転角度を検出する検出手段として、ロータリーエンコーダ13d,15dが設けられている。
【0016】
また、AOD11,12は、それぞれ、レーザビームに対して透明で屈折率の大きな結晶と、結晶の一端に接着され超音波を発生させるトランスデューサと、トランスデューサを駆動する高周波信号源と、を備えている。トランスデューサを動作させない場合、AOD11,12に入射したレーザビームは、0次回折光としてAOD11,12を透過する。トランスデューサにより、結晶に対して超音波を伝搬させると、超音波の波長に対応して結晶の屈折率が変化し、屈折率の空間的な変化が位相型の回折格子として作用する。この結果、AOD11,12に入射したレーザビームは回折され、光路が偏向した1次回折光としてAOD11,12から出射する。
【0017】
本実施の形態において、上述したガルバノスキャナ13,15の応答帯域(応答速度)が、約10[kHz]であるのに対し、AOD11,12は、100[kHz]以上の応答帯域(応答速度)を有している。このため、AOD11,12は、ガルバノスキャナ13,15に対して、位置決め可能な範囲は小さいが、10倍以上の速さで位置決めすることができる。
【0018】
レーザ加工装置1の制御部6は、レーザビームの走査位置を指令する位置決め制御装置16と、第1走査部9(第1AOD11及び第2AOD12)を制御するAOD制御装置17と、第2走査部10を制御するガルバノ制御装置18と、を備えて構成されている。また、ガルバノ制御装置18は、第1及び第2ガルバノスキャナ13,15のそれぞれに対応したフィードバック(FB)演算部19a,19bと、ガルバノ駆動アンプ20a,20bと、を備えている。AOD制御装置17は、第1及び第2AOD11,12にそれぞれ対応した、AOD制御部21a,21bと、ドライバ22a,22bと、詳しくは後述するミラー倒れ振動補正演算部23a,23bと、を備えている。なお、位置決め制御装置16には、レーザ源2を制御する上述のショット制御部7が設けられている。
【0019】
このため、レーザ加工装置1は、例えばプリント基板等のワークWの所定位置に対してレーザビームを照射して穴明け加工を行う場合、位置決め制御装置16によって第1及び第2ガルバノスキャナ13,15に対する指令値(CH1指令値、CH2指令値)がフィードバック演算部19a,19bへと出力される。フィードバック演算部19a,19bには、それぞれ第1及び第2ガルバノスキャナ13,15のロータリーエンコーダ13d,15dからミラー13a,15aの回転角度に対応した検出信号(CH1エンコーダ角度信号、CH2エンコーダ角度信号)が入力されており、フィードバック演算部19a,19bによって、位置決め制御装置16からの指令値(CH1指令値、CH2指令値)とロータリーエンコーダ13d,15dの検出値との偏差が演算される。そして、この偏差が0となるように、フィードバック演算部19a,19bによって、第1及び第2ガルバノスキャナ13,15がそれぞれ、フィードバック制御される。なお、上記位置決め制御装置16.第1フィードバック演算部19a,第1ガルバノ駆動アンプ20aは、第1ガルバノスキャナ13を制御する第1ガルバノ制御部(第2制御手段)18aを構成している。また、上記位置決め制御装置16.第2フィードバック演算部19b,第2ガルバノ駆動アンプ20bは、第2ガルバノスキャナ15を制御する第2ガルバノ制御部(第4制御手段)18bを構成している。
【0020】
上述した位置決め制御装置16からの指令値(CH1指令値、CH2指令値)とロータリーエンコーダ13d,15dの検出値との偏差(CH1偏差、CH2偏差)は、AOD制御部21a,21bでも演算される。そして、第1AOD11及び第2AOD12は、上記偏差(CH1偏差、CH2偏差)に基づく目標位置に対するレーザビームの照射位置のずれ(誤差)を補償するように制御されると共に、AOD制御部21a,21bは、ショット制御部7に対してレーザビームの出射を許可するショットOK信号を出力する。
【0021】
上記ショットOK信号を受信すると、ショット制御部7はレーザ源2に対してショット信号を出力する。レーザ源2はショット信号を受信するとレーザビームを出射する。レーザ源2から出射されたレーザビームは、不図示のコリメータやアパチャーなどで構成される光学処理部によってビームの外形が整形された後、第1走査部9へと入射する。第1走査部9に入射したレーザビームは、第1AOD11によってX軸方向に、第2AOD12によってY軸方向に偏向され、第2走査部10に入射する。
【0022】
第2走査部10に入射したレーザビームは、第1ガルバノスキャナ13によってX軸方向に、第2ガルバノスキャナ15によってY軸方向に偏向され、Fθレンズ5に入射する。そして、ワークW上の所定位置にて集光され、ワークWに穴明け加工が行われる。なお、上述した位置決め制御装置16、FB演算部19a,19b、AMP20a・20b、AOD制御部21a,21b、ドライバ22a,22b、ミラー倒れ振動補正演算部23a,23b、ショット制御部7は、それぞれ、レーザ加工装置1の制御プログラムの一つの機能(処理)として実現されても、独立した回路として実現されても良い。このため、制御部6は、上記制御プログラムが格納された少なくとも1つの記憶部と、当該制御プログラムを実行する少なくとも1つのCPUを備えている。
【0023】
<AODによる位置決め動作>
ついで、上述した第1AOD11及び第2AOD12による位置決め動作の原理について、
図2に基づいて説明をする。
図2は、それぞれ、ガルバノスキャナ単体にてレーザビームを位置決めした場合のガルバノスキャナ整定波形、AODの動作波形、ガルバノスキャナ整定波形とAODの動作波形との合成波形を示している。ガルバノスキャナ整定波形に示すように、ガルバノスキャナ単体にてレーザビームを位置決めする場合、レーザビームの照射位置は目標位置に向かって移動し、目標位置に到達したところで、許容範囲内の残留振動を伴って整定する。この残留振動は制御系の調整により抑制することは可能であるが、レーザビームの位置決め速度とトレードオフの関係にあり、完全にゼロにすることは難しい。
【0024】
これに対してガルバノスキャナにAODを組み合わせた場合、ガルバノスキャナ整定波形がAODの可動範囲内(例えば、本実施の形態では、プラス・マイナス50[μm])に入ったところで、応答速度の速いAODがガルバノスキャナ整定波形を打ち消すように動作することができる(AODの動作波形参照)。このため、ガルバノスキャナ整定波形がAODの可動範囲内に入ったところで、レーザビームの照射位置は目標位置Xに位置決めされる。そして、その後の残留振動もリアルタイムで検出し、その分を更新してAODの位置決めを繰返すことによって、上記残留振動についてもキャンセルすることができる(ガルバノスキャナ整定波形とAODの動作波形との合成波形参照)。
【0025】
上記ガルバノスキャナ整定波形(ガルバノスキャナによって位置決めされたレーザビームの照射位置)と目標位置との間の差分(偏差)は、上述した位置決め制御装置16からの指令値(CH1指令値、CH2指令値)とロータリーエンコーダ13d,15dの検出値から求められる。このため、本実施の形態のように、上記偏差を打ち消すように(補償するように)にAODを動作させると、レーザビームの照射位置を上記目標位置Xへ到達させるための時間が速くなる。加えて、目標位置Xへ到達した後の残留振動の影響も排除することができる。従って、ガルバノスキャナ単体でレーザビームを位置決めする場合に比べて、より速く、かつ、正確にレーザビームを位置決めすることができる。
【0026】
<ミラー倒れ振動の補正>
ついで、ミラー倒れ振動について説明をする。
図3に示すように、ガルバノスキャナで位置決めするとき、ミラー及び回転軸を含む回転体の機械的なアンバランス、トルクのアンバランスなどにより、ミラーの回転軸をたわませる力が短時間に作用し、振動が発生することがある(以下、この振動をミラー倒れ振動という)。このミラー倒れ振動が起きると、本来の位置決め方向と直交する方向への位置決め誤差が現れる。
【0027】
このミラー倒れ振動は、上述した残留振動のようにガルバノスキャナのミラーの回転角度に関する指令値と、ガルバノスキャナのミラーの回転角度を検出するロータリーエンコーダの検出値との偏差としては現れないため、実機で発生すると発見が困難な現象である。本実施の形態では、従来、ガルバノスキャナのミラーの回転角度を検出するためだけに使用されていたロータリーエンコーダの2つのセンサの出力から、加算平均することにより並進成分を抽出する。そして、このロータリーエンコーダの並進成分を用いてミラー倒れ振動によるレーザ照射位置の誤差を定量的に把握する。
【0028】
具体的には、
図3に示すように、本実施の形態に係るロータリーエンコーダ13d,15dは、それぞれ、ミラー13a,15aの回転軸13c,15cを回転中心とした円板に複数のスリット25aが所定のピッチで設けられたスケール25を備えている。また、上記ロータリーエンコーダ13d,15dは、それぞれ、回転軸13c(15c)を中心として点対称、すなわち180度ずらして配置された2つのヘッド(検出部)26,27を備えている。これら第1及び第2のヘッド26,27は、それぞれ、光源(不図示)と、光電変換素子を有するセンサ(検出器)29,30と、を備えており、これらセンサ29,30からの出力により、円板の絶対回転角度を算出するアブソリュートロータリーエンコーダを構成している。
【0029】
上記第1及び第2センサ29,30は、点対称となるように180度ずらして配置されているため、その出力値は、以下の式(1)及び式(2)のように表すことができる。
【0030】
【0031】
また、上記式(1)及び式(2)から、ロータリーエンコーダ13d,15dの回転成分(回転変位)及び並進成分(並進変位)は、以下の式(3)及び式(4)のように表すことができる。
【0032】
【0033】
ついで、上記式(3)からロータリーエンコーダ13d,15dの並進変位からミラー倒れ振動を求める方法について説明をする。
図4は、ロータリーエンコーダ13d,15dの並進変位u
1(t),u
2(t)とミラー13a,15aの倒れ変位(倒れ振動)に基づくレーザ照射位置の誤差との関係を示すモデル(以下、ミラー倒れ振動モデルという)を示す図である。ガルバノスキャナ13,15のミラー13a,15aを含めた回転体(ロータ部)は、ミラー倒れ振動に関連する軸の曲げ変形モードの重ね合わせでモデル化することができる。各モードは、2次遅れ要素でよく近似できるので、低次のモードから順番に影響係数Ktとして加算し、入力をロータリーエンコーダの並進変位u(t)とすればミラー13a,15aの変位に基づくレーザ照射位置の誤差を逐次計算することができる。なお、2次遅れ要素は、以下の式(5)によって表すことができる。また、式(5)において、Kはゲイン定数、ζは減衰係数、ω
nは固有振動数である。
【0034】
【0035】
影響係数Ktの同定には、FEM解析や実験モード解析を用いることができる。また、何次までモードが必要かは実験によって決める。このようにして求めたパラメータによりミラー倒れ振動のモデルを決定する。第1及び第2ミラー倒れ振動補正演算部23a,23bは、それぞれ、上述した第1及び第2ガルバノスキャナ13,15のミラー倒れ振動モデルに第1及び第2ロータリーエンコーダ13d,15dの並進変位u1(t),u2(t)を入力し、ミラーの倒れ変位(ミラーの倒れ振動)に基づくレーザ照射位置の誤差を求め、それを反転させることでミラー倒れ振動による位置誤差の補正量(調整係数)kb1,kb2を求める。本実施の形態では、第1及び第2AOD制御部21a,21bは、上述したガルバノスキャナによって移動されたレーザビームの照射位置と目標位置との差分の補正量(調整係数Kr1,Kr2)に、上記補正量(調整係数)kb1,kb2を加味して、第1及び第2AOD制御部21a,21bを制御している。
【0036】
ついで、上記調整係数K
r1,K
r2に、調整係数k
b1,k
b2を加味して第1及び第2AOD制御部21a,21bを制御した場合のレーザ加工装置1の各部の動作について
図5に基づいて説明をする。
図5のCH1位置決め整定波形は、加工時に第1フィードバック演算部19aが第1ロータリーエンコーダ13dの検出値とCH1指令値との偏差が0となるように第1ガルバノスキャナ13のミラー13aの回転角度をフィードバック制御した際のレーザビームの照射位置のX軸方向の整定波形である。また、CH2位置決め整定波形は、加工時に第2フィードバック演算部19bが第2ロータリーエンコーダ15dの検出値とCH2指令値との偏差が0となるように第2ガルバノスキャナ15のミラー15aの回転角度をフィードバック制御した際のレーザビームの照射位置のY軸方向の整定波形である。
【0037】
更に、CH1ミラー倒れ振動は、第1ガルバノスキャナ13の倒れ振動によるレーザ照射位置の変化を、CH2ミラー倒れ振動は、第2ガルバノスキャナ15の倒れ振動によるレーザ照射位置の変化を示している。第1及び第2ガルバノスキャナ13,15が目標位置に向かって整定していく過程で、上記ミラー倒れ振動は発生する。また、ミラー倒れ振動は、ミラーの回転方向と直交する方向にレーザビームの照射位置を変位させる。このため、レーザビームの照射位置のX軸方向の位置決め偏差(目標位置に到達するまでの差分)及び誤差は、CH1位置決め整定波形にCH2ミラー倒れ振動を重畳させたものとなる。また、レーザビーム照射位置のY軸方向の位置決め偏差及び誤差は、CH2位置決め整定波形にCH1ミラー倒れ振動を重畳させたものとなる。
【0038】
第1AOD制御部21a、第2ミラー倒れ振動補正演算部23b、第1ドライバ22aは、本実施の形態において、第1AOD13を制御する第1AOD制御手段(第1制御手段)17aとして機能しており、この第1AOD制御手段17aは、加工コマンドを受けると、位置決め偏差、残留振動、ミラー倒れ振動の計算を行い、分担する移動量の計算を繰り返す。そして、補正量が可動範囲内に入ると、これら位置決め偏差、残留振動、ミラー倒れ振動をキャンセルするように逆位相で位置決め動作を行う(AOD1動作波形参照)。
【0039】
また、第2AOD制御部21b、第1ミラー倒れ振動補正演算部23a、第2ドライバ22bは、本実施の形態において、第2AOD15を制御する第2AOD制御手段(第3制御手段)17bとして機能しており、この第2AOD制御手段17bは、加工コマンドを受けると、位置決め偏差、残留振動、ミラー倒れ振動の計算を行い、分担する移動量の計算を繰り返す。そして、補正量が可動範囲内に入ると、これら位置決め偏差、残留振動、ミラー倒れ振動をキャンセルするように逆位相で位置決め動作を行う(AOD2動作波形参照)。
【0040】
このため、ガルバノスキャナの位置決め整定波形とAOD動作波形とを重畳したAOD1補正後波形及びAOD1補正後波形では、ガルバノスキャナの位置決め整定波形単体(ガルバノスキャナ単体で位置決めした場合)と比較して、目標位置への到達時間を速くすることができると共に位置決め精度も向上させることができる。
【0041】
また、上記第1及び第2AOD制御手段17a,17bは、それぞれ、第1及び第2AOD11,12の動作が開始したタイミングでショットOK信号を出力し、これら第1及び第2AOD制御手段17a,17bの両方からショットOK信号が出力されたことを条件にショットOK信号をショット制御部7に入力させる。
【0042】
ショット制御部7は、上記ショットOK信号を受けてレーザショットを開始するが、AODの特性上、AOD内の結晶中の弾性波が安定するのを待ってショット信号をレーザ源2に出力する。具体的には、
図5の例では、CH1ショットOK信号とCH2ショットOK信号のうちの遅い方であるCH2ショットOK信号が出力されたタイミング(CH1ショットOK信号、CH2ショットOK信号の両方が出力されたタイミング)よりも、ショット信号の出力が遅くなるようになっている。
【0043】
より詳しくは、ショット制御部7からは、第1AOD制御手段17aの第1ドライバ22a及び第2AOD制御手段17bの第1ドライバ22に対して同期信号が出力されており、第1ドライバ22a及び第1ドライバ22は、この同期信号の立ち上がりに合わせて第1及び第2AOD11,12に対して移動量(指令値)を出力してレーザビームの目標追従を始める。ショット制御部7は、上記同期信号の立ち下がりに合わせてレーザ源2に対してショット信号を出力するようにしているため、AOD11,12による位置決めが完了した状態でレーザビームを出力でき、レーザビームの位置決め精度を向上させることができるようになっている。
【0044】
なお、上述した実施の形態では、回転駆動するミラーを使用せずにレーザビームを偏向可能な走査手段の例として第1及び第2第AOD11,12を挙げたが、走査手段はAODに限らず、回転駆動するミラーを使用せず、ガルバノスキャナよりも応答速度の速い走査手段であればどのようなものでも良い。例えば、電気光学偏向器(Electro-Optic Deflector:EOD)や、ピエゾアクチュエータによって駆動される直動型のミラー(例えば曲面ミラー)などでも良い。
【0045】
また、上述した実施の形態では、ロータリーエンコーダ13dを用いてミラーの倒れ振動を検出したが、このミラーの倒れ振動を検出する検出手段としては、他にも、レーザ位置検出素子(Position Sensitive Detector:PSD)50を用いても良い。例えば、
図6(a)に示すように、ミラー13aの裏面に設けられた微小な反射鏡51に対して検出用レーザ源52からレーザビームを照射し、この反射鏡51によって反射された反射光の変位をPSD50によって検出するようにしても良い。そして、当該レーザスポットの変位からミラーの倒れ振動を求めるようにしても良い。なお、レーザスポットは、上記反射鏡51の代わりに、ミラー13aの裏面の一部を鏡面研磨して形成しても良い。
【0046】
更に、ミラーの倒れ振動は、
図6(b)に示すように、ミラー13aの裏面に加速度ピックアップ(加速度センサ)60を設け、この加速度ピックアップの出力からミラ-の倒れ振動を検出するようにしても良い。
【0047】
また、
図7(a)に示すように、静電容量型非接触変位計や、レーザドップラー変位計などの非接触変位計70によって、ミラーの変位を計測し、ミラ-の倒れ振動を検出するようにしても良い。更に、
図7(b)に示すように、ミラー13aの裏面に歪みゲージ80を設け、この歪みゲージ80が検出したミラーの歪みから倒れ振動成分を検出するようにしても良い。
【0048】
<まとめ>
レーザ走査装置(4)は、ミラー(13a)と、前記ミラー(13a)を回転駆動させる駆動源(13b)と、と、を有し、レーザ源(2)から出射されたレーザビームを第1方向に偏向可能なガルバノスキャナ(13)と、
前記ミラー(13a)の倒れ方向の振動を検出可能な検出手段(13d,50,60,70,80)と、
回転駆動するミラーを使用せずに前記第1方向と直交する第2方向にレーザビームを偏向可能な走査手段(12)と、
前記ガルバノスキャナ(13)を制御する第1制御手段(18a)と、
前記走査手段(12)を制御する第2制御手段(17b)と、を備え、
前記第2制御手段(17b)は、前記検出手段(13d)からの出力に基づいて、前記ミラー(13a)の倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差を求め、当該求められた誤差を補償するように前記走査手段(12)を制御する。
【0049】
より具体的には、前記検出手段(13d)は、前記ミラー(13a)の回転軸(13c)に取り付けられたスケール(25)と、前記回転軸(13c)を中心に点対称に設けられた第1及び第2ヘッド(26,27)と、を備えたロータリーエンコーダであり、
前記第2制御手段(17b)は、前記第1ヘッド(26)からの出力と、前記第2ヘッド(27)からの出力とに基づいて、前記ミラーの倒れ方向の振動を求めている。
【0050】
更に具体的には、前記第2制御手段(17b)は、
前記第1ヘッド(26)からの出力と、前記第2ヘッド(27)からの出力と、を加算平均して前記ロータリーエンコーダ(13d)の並進方向の変位を求め、
求められた前記ロータリーエンコーダ(13d)の並進方向の変位と、予め記憶している前記ロータリーエンコーダ(13d)の並進方向の変位と前記ミラー(13a)の倒れ方向の変位に基づくレーザ照射位置の誤差との関係を示すモデルと、に基づいて、前記ミラー(13a)の倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差を求めている。
【0051】
このように、本実施の形態では、ガルバノスキャナ13のロータリーエンコーダ13dをミラー13aの回転角度の検出のみならず、ミラー13aの倒れ振動を検出にも利用している。そして、この倒れ振動に起因するレーザビームの照射位置の誤差を、ミラーを使用しない走査手段12によって補償することによって、レーザビームの照射位置の精度を向上させることができる。
【0052】
また、前記ガルバノスキャナ(13)と協働して前記レーザビームの照射位置を前記第1方向に位置決めする第2走査手段(11)と、
前記第2走査手段を制御する第3制御部(17a)と、を備え、
前記第1及び第2走査手段(12,11)の応答速度は、前記ガルバノスキャナ(13)の応答速度よりも速く、
前記第1制御手段(18a)は、前記ガルバノスキャナ(13)のミラー(13a)の回転角度の指令値と前記検出手段(13d)の検出値との偏差に基づいて、前記ミラー(13a)の回転角度をフィードバック制御し、
前記第3制御手段(17a)は、前記偏差に基づく目標位置からの前記レーザビームの照射位置のずれを補償するように前記第2走査手段(11)を制御する。
【0053】
更に、第2ミラー(15a)と、前記第2ミラー(15a)を回転させる第2駆動源(15b)と、前記第2ミラー(15a)の回転角度を検出する第2検出手段(15d)と、を有し、前記レーザ源(2)から出射されたレーザビームを前記第2方向に偏向可能な第2ガルバノスキャナ(15)と、
前記第2ガルバノスキャナ(15)を制御する第4制御部(18b)と、を備え、
前記第1及び第2走査手段(11,12)の応答速度は、前記第2ガルバノスキャナ(15)の応答速度よりも速く、
前記第4制御手段(18b)は、前記第2ガルバノスキャナ(15)のミラー(15a)の回転角度の指令値と前記第2検出手段(15d)の検出値との偏差に基づいて、前記第2ガルバノスキャナ(15)のミラー(15)の回転角度をフィードバック制御し、
前記第2制御手段(17b)は、前記偏差に基づく目標位置からのレーザビームの照射位置のずれを補償するように前記走査手段(11)を制御する。
【0054】
このため、ガルバノスキャナ13,15に比較して応答速度の速い走査手段11,12と協働してレーザビームの照射位置の位置決めを行うことができ、レーザ照射位置が目標位置に到達するまでの時間を短くすることができると共に、残留振動を走査手段11,12によって補償することができるため、レーザビームの位置決め精度を向上させることができる。
【0055】
前記第2制御手段(17b)は、前記第2検出手段(15d)からの出力に基づいて、前記第2ミラー(15a)の倒れ方向の振動に基づくレーザ照射位置の誤差を求め、当該求められた誤差を補償するように前記第2走査手段(12)を制御する。
【0056】
このように、倒れ振動に起因するレーザビームの照射位置の誤差を、ミラーを使用しない走査手段11によって補償することによって、レーザビームの照射位置の精度を向上させることができる。
【0057】
また、前記第1及び第2走査手段(11,12)は、それぞれ音響光学素子を含み、
前記第2及び第3制御手段(17b,17a)は、それぞれ、前記音響光学素子(11,12)の駆動を開始する際に前記ショット制御部(7)にレーザビームの出射を許可する許可信号を出力し、
前記ショット制御部(7)は、前記第2及び第3制御手段(17b,17a)の両方から前記許可信号を出力されることによって、前記レーザ源(2)にレーザビームを出射させるショット信号を出力可能となり、
前記ショット信号の出力タイミングは、前記第2及び第3制御手段(17b,17a)の両方から許可信号が前記ショット制御部に出力されたタイミングよりも、遅くなるように構成されている。
【0058】
このため、第1及び第2AOD11,12内の結晶が安定した後、レーザパルスをショットすることができ、高精度にレーザビームを位置決めすることができる。
【符号の説明】
【0059】
2:レーザ源
4:レーザ走査装置
7:ショット制御部
11:第2走査手段(第1AOD)
12:走査手段(第2AOD)
13/15:ガルバノスキャナ
13a/15a:ミラー
13b/15b:駆動源(モータ)
13d/15d:検出手段(ロータリーエンコーダ)
17a:第3制御手段(第1AOD制御手段)
17b:第2制御手段(第2AOD制御手段)
18a:第1制御手段(第1ガルバノ制御手段)
18b;第4制御手段(第2ガルバノ制御手段)
25:スケール
26:第1ヘッド
27:第2ヘッド