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特許7549572ポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ、ポリカーボネート系樹脂組成物、射出発泡成形体及びその製造方法
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  • 特許-ポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ、ポリカーボネート系樹脂組成物、射出発泡成形体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】ポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ、ポリカーボネート系樹脂組成物、射出発泡成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20240904BHJP
   C08J 9/32 20060101ALI20240904BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20240904BHJP
   B29C 44/34 20060101ALI20240904BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240904BHJP
   B29C 45/80 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08J3/22 CET
C08J9/32 CEY
B29C44/00 D
B29C44/34
B29C45/00
B29C45/80
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021509609
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013793
(87)【国際公開番号】W WO2020196781
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019062978
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】内田 壮一
(72)【発明者】
【氏名】三枝 一範
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/171031(WO,A1)
【文献】特開2010-222407(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038615(WO,A1)
【文献】特開2012-140608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/22
C08J 9/32
B29C 44/00
B29C 44/34
B29C 45/00
B29C 45/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張性マイクロカプセル(A)及びキャリア樹脂組成物(B)を含有するポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ(C)であって、
キャリア樹脂組成物(B)は、重量平均分子量が1,000以上180,000未満であり且つ20℃で固体のポリスチレン系樹脂を含むキャリア樹脂組成物(B1)であるか、
キャリア樹脂組成物(B)は、20℃で固体のポリスチレン系樹脂、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含むキャリア樹脂組成物(B2)であるか、或いは、
キャリア樹脂組成物(B)は、重量平均分子量が1,000以上10,000以下であり且つ20℃で固体のポリエステル系共重合体、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含むキャリア樹脂組成物(B3)であることを特徴とする、ポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂は、ガラス転移温度が25℃以上130℃以下である、請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項3】
前記キャリア樹脂組成物(B1)は、重量平均分子量が1,000以上180,000未満のポリスチレン系樹脂100重量部に対して、重量平均分子量が1,000以上20,000以下のアクリル系可塑剤を0重量部以上3重量部未満含む、請求項1又は2に記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項4】
前記キャリア樹脂組成物(B2)において、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量が1,000以上450,000以下である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項5】
前記キャリア樹脂組成物(B)の130℃におけるせん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下である、請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項6】
前記キャリア樹脂組成物(B)はポリカーボネート系樹脂と相溶性を有する請求項1~5のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項7】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)は、コアシェル構造を有し、沸点が10℃以上330℃以下である化合物の1種以上で構成されたコアと、前記コアを内包するシェルで構成されており、
前記シェルは、ニトリル系単量体、(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体、ジエン系単量体、カルボキシル基を有するビニル系単量体、並びにメチロール基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される1種以上の反応性官能基を有する単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構造単位を有する樹脂で構成されている、請求項1~6のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項8】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)は、最大膨張温度が180℃以上300℃以下である、請求項1~7のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項9】
前記シェルを構成する樹脂において、カルボキシル基を含有する単量体及びアミノ基を含有する単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構造単位の濃度が12mmol/g以下である、請求項7に記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項10】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)の平均粒子径が0.5μm以上50μm以下である、請求項1~9のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項11】
前記マスターバッチ(C)は、前記熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、キャリア樹脂組成物(B)を20重量%以上70重量%以下含む、請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂用マスターバッチを1~15重量%、ポリカーボネート系樹脂を30~99重量%、並びにポリエステル系樹脂、ポリエステル-ポリエーテル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される1種以上の他の熱可塑性樹脂を0~55重量%を含有する、ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項13】
さらに無機化合物を含む、請求項12に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡成形したことを特徴とする、射出発泡成形体。
【請求項15】
請求項12又は13に記載のポリカーボネート系樹脂組成物を、射出発泡成形させる射出発泡成形体の製造方法。
【請求項16】
前記ポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形機に供給し、初期充填厚みまで充填した後に、金型のコアをバックさせることを特徴とする、請求項15に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂組成物の射出発泡成形体の外観を良好にすることが可能な熱膨張性マイクロカプセルを含むポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ、ポリカーボネート系樹脂組成物、射出発泡成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の射出発泡成形には、重曹等の熱分解型の化学発泡剤が多く使用されている。また、加熱により膨張して発泡する熱膨張性マイクロカプセルも樹脂の射出発泡成形に用いられている。そして、通常、基材樹脂への分散性や作業性の観点から熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーに化学発泡剤や熱膨張性マイクロカプセルを20~60重量%含有させたマスターバッチで使用することが多い。例えば、特許文献1には、エチレン・α-オレフィン共重合体及び熱分解型発泡剤を主成分とする発泡剤マスターバッチが記載されている。また、特許文献2には、熱膨張性マイクロカプセル、オレフィン重合体を含むキャリア樹脂及び滑剤を含有するマスターバッチが記載されている。
【0003】
樹脂の射出発泡成形には、二酸化炭素や窒素等の超臨界流体を射出成形機のシリンダ内の溶融樹脂に直接含浸させ、発泡させる物理発泡という方法もある。例えば、特許文献3には、海相を構成する樹脂(A)と島層を構成する樹脂(B)とを混練した海島構造の樹脂組成物を射出成形機内で溶融・混練し、溶融状態の樹脂組成物中に超臨界流体を注入し射出成形することで発泡成形体を作製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-142146号公報
【文献】特開2017-082244号公報
【文献】特開2015-151461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発泡剤のマスターバッチを用いてポリカーボネート系樹脂を発泡させると、重曹等の熱分解型発泡剤がガス発生時に水分や金属成分を発生するため、ポリカーボネート系樹脂の加水分解が促進されて、射出発泡成形体の表面に加水分解で生じた低分子由来の白化が発生し、外観不良となる問題があった。特許文献2に記載の熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチを用いてポリカーボネート系樹脂を発泡させると、キャリア樹脂がオレフィン重合体を含むため、射出発泡成形体の表面にオレフィン系の非相溶成分由来による白化が発生し、外観不良となる問題があった。特許文献3に記載のような物理発泡でポリカーボネート系樹脂を発泡させると、含浸ガス由来の白化が発生してしまい、外観不良となる問題があった。
【0006】
本発明は、上述した従来の問題を解決するため、白化の発生が抑制され、外観の良好な、ポリカーボネート系樹脂組成物の射出発泡成形体を得ることができる熱膨張性マイクロカプセルを含むポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ、ポリカーボネート系樹脂組成物、射出発泡成形体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱膨張性マイクロカプセル(A)、キャリア樹脂組成物(B)を含有するポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ(C)であって、キャリア樹脂組成物(B)は、重量平均分子量が1,000以上180,000未満であり且つ20℃で固体のポリスチレン系樹脂を含むキャリア樹脂組成物(B1)であるか、キャリア樹脂組成物(B)は、20℃で固体のポリスチレン系樹脂、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含むキャリア樹脂組成物(B2)であるか、或いは、キャリア樹脂組成物(B)は、重量平均分子量が1,000以上10,000以下であり且つ20℃で固体のポリエステル系共重合体、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含むキャリア樹脂組成物(B3)であることを特徴とする、ポリカーボネート系樹脂用マスターバッチに関する。
【0008】
前記ポリスチレン系樹脂は、ガラス転移温度が25℃以上130℃以下であることが好ましい。
【0009】
前記キャリア樹脂組成物(B1)は、重量平均分子量が1,000以上180,000未満のポリスチレン系樹脂100重量部に対して、重量平均分子量が1,000以上20,000以下のアクリル系可塑剤を0重量部以上3重量部未満含んでもよい。
【0010】
前記キャリア樹脂組成物(B2)において、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量が1,000以上450,000以下であってもよい。
【0011】
前記キャリア樹脂組成物(B)の130℃におけるせん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であることが好ましい。
【0012】
前記キャリア樹脂組成物(B)はポリカーボネート系樹脂と相溶性を有することが好ましい。
【0013】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)は、コアシェル構造を有し、沸点が10℃以上330℃以下である化合物の1種以上で構成されたコアと、前記コアを内包するシェルで構成されており、前記シェルは、ニトリル系単量体、(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体、ジエン系単量体、カルボキシル基を有するビニル系単量体、並びにメチロール基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される1種以上の反応性官能基を有する単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構造単位を有する樹脂で構成されてもよい。
【0014】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)は、最大膨張温度が180℃以上300℃以下であることが好ましい。
【0015】
前記シェルを構成する樹脂において、カルボキシル基を含有する単量体及びアミノ基を含有する単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構造単位の濃度が12mmol/g以下であることが好ましい。
【0016】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)の平均粒子径が0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0017】
前記マスターバッチ(C)は、前記熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、キャリア樹脂組成物(B)を20重量%以上70重量%以下含むことが好ましい。
前記マスターバッチ(C)がキャリア樹脂組成物(B1)を含む場合は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、キャリア樹脂組成物(B1)を20重量%以上70重量%以下含むことが好ましい。
前記マスターバッチ(C)がキャリア樹脂組成物(B2)を含む場合は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリスチレン系樹脂を15重量%以上40重量%以下、前記アクリル系可塑剤を5重量%以上30重量%以下含むことが好ましい。
前記マスターバッチ(C)がキャリア樹脂組成物(B3)を含む場合は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリエステル系共重合体を15重量%以上40重量%以下、前記アクリル系可塑剤を5重量%以上30重量%以下含むことが好ましい。
【0018】
本発明は、また、前記のマスターバッチを1重量%以上5重量%以下、ポリカーボネート系樹脂を30重量%以上99重量%以下、並びにポリエステル-ポリエーテル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される1種以上の他の熱可塑性樹脂を0重量%以上55重量%以下を含有するポリカーボネート系樹脂組成物に関する。
【0019】
前記ポリカーボネート系樹脂組成物は、さらに無機化合物を含んでもよい。
【0020】
本発明は、また、前記のポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡成形したことを特徴とする射出発泡成形体に関する。
前記射出発泡成形体の比重は、0.3g/cm3以上1.2g/cm3以下であることが好ましい。
前記射出発泡成形体の発泡倍率は、1.1倍以上3.0倍以下であることが好ましい。
【0021】
本発明は、また、前記樹脂組成物を射出発泡成形したことを特徴とする、電化製品の筐体、携帯電話筐体、パソコンハウジング、自動車のフェンダー、自動車のドアパネル、自動車のバックドアパネル、自動車のガーニッシュ、自動車のピラー、又は自動車のスポイラーに関する。
【0022】
本発明は、また、前記のポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡成形させる射出発泡成形体の製造方法に関する。
【0023】
本発明は、また、前記のポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形機に供給し、初期充填厚みまで充填した後に、金型のコアをバックさせることを特徴とする射出発泡成形体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、白化の発生が抑制され、外観の良好な、ポリカーボネート系樹脂組成物の射出発泡成形体を得ることができるポリカーボネート系樹脂用マスターバッチ、ポリカーボネート系樹脂組成物、及び射出発泡成形体を提供することができる。また、本発明によれば、白化の発生が抑制され、外観の良いポリカーボネート系樹脂組成物の射出発泡成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、射出発泡成形体を作製する際に用いられる金型のキャビティに関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は以下に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0027】
<熱膨張性マイクロカプセル(A)>
熱膨張性マイクロカプセル(A)は、液状の低沸点化合物を熱可塑性ポリマーのシェルで包んだカプセル状の発泡剤であり、射出成形機のシリンダ内の加熱で気化した低沸点化合物の圧力によって、膨張したカプセルが発泡剤として機能する。熱膨張性マイクロカプセル(A)としては、例えば、特開2011-16884号公報に記載されているものを好適に用いてもよい。具体的には、熱膨張性マイクロカプセル(A)は、コアシェル構造を有し、コアは沸点が10℃以上330℃以下である化合物の1種以上で構成され、シェルはコアを内包しており、熱可塑性樹脂で構成されている。
【0028】
コアは、沸点が10℃以上330℃以上である化合物の中から選択した1種以上で構成すればよい。コアを構成する化合物としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類等が挙げられる。炭化水素類としては、特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、及び、これらの炭化水素の構造異性体等が挙げられる。コアを構成する化合物は、好ましくは、沸点が10℃以上330℃以下の炭化水素の1種以上であり、より好ましくは沸点が30℃以上280℃以下の炭化水素の1種以上であり、さらに好ましくは沸点が30℃以上200℃以下の炭化水素の1種以上である。沸点が10℃以上の化合物を用いることで、熱膨張性マイクロカプセル(A)のマスターバッチ化がしやすい。また、沸点が330℃以下の化合物を用いることで、重合時に分散性が良好になり、熱膨張性マイクロカプセルを製造しやすい。
【0029】
熱膨張性マイクロカプセル(A)のシェルを構成する熱可塑性樹脂の単量体成分としては、例えば、ニトリル系単量体、(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体、ジエン系単量体、カルボキシル基を有するビニル系単量体、並びにメチロール基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される1種以上の反応性官能基を有する単量体からなる群より選択される1種以上の単量体を用いることができる。
【0030】
ニトリル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明において、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレートであってもよく、アクリレートであってもよい。
【0032】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、p-ニトロスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0033】
ジエン系単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。
【0034】
カルボキシル基を有するビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、及びその無水物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸モノエステル等が挙げられる。
【0035】
メチロール基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される1種以上の反応性官能基を有する単量体(以下において、単に「反応性官能基を有する単量体」とも記す。)としては、例えば、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ビニルグリシジルエーテル、プロペニルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、p-ヒドロキシスチレン、ブロックイソシアネート等が挙げられる。ブロックイソシアネートとしては、例えば、イソシアネート化合物(ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等)のフェノール、アルコール、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、オキシム、ジメチルピラゾール、メチルエチルケトンオキシム、カプロラクタム等によるブロックイソシアネート等が挙げられる。本発明において、「(メタ)アクリルアミド」は、メタクリルアミドであってもよく、アクリルアミドであってもよい。
【0036】
熱膨張性マイクロカプセル(A)のシェルによってポリカーボネート系樹脂等の樹脂成分の主鎖が分解することを抑制する観点から、前記シェルを構成する熱可塑性樹脂は、上述したニトリル系単量体、(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体、及びカルボキシル基を有するビニル系単量体からなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。また、前記シェルを構成する熱可塑性樹脂は、連鎖移動剤及び反応性官能基を有する単量体を適宜含んでもよい。
【0037】
連鎖移動剤としては、通常のラジカル重合で使用されるものであれば良く、特に限定されない。具体的には、メルカプタン系化合物を用いることができる。メルカプタン系化合物としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2-メルカプトベンゾチアゾール、ブロムトリクロルメタン、α-メチルスチレンダイマー、チオグリコール酸2-エチルヘキシル等が好適に使用できる。
【0038】
ポリカーボネート系樹脂等の樹脂成分の分解を発生させず、射出発泡成形体の表面性を向上させる観点から、前記シェルを構成する熱可塑性樹脂において、カルボキシル基を含有する単量体及びアミノ基を含有する単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構造単位の濃度が12mmol/g以下であることが好ましく、10mmоl/g以下がより好ましく、8mmоl/g以下がさらに好ましく、5mmоl/g以下がさらにより好ましく、3mmоl/g以下がさらにより好ましく、1mmol/g以下が特に好ましく、カルボキシル基を含有する単量体及び/又はアミノ基を含有する単量体を実質的に含まないことが最も好ましい。前記シェルを構成する熱可塑性樹脂のカルボキシル基の濃度の下限としては、0.001mmol/g以上であってもよい。
【0039】
ポリカーボネート系樹脂等の樹脂の主鎖の分解を抑制する観点から、熱膨張性マイクロカプセル(A)において、アルカリ性物質の濃度は、2000ppm以下が好ましく、より好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは800ppm以下である。2000ppmを超えると、ポリカーボネート系樹脂の分子量低下が起こり、成形体の強度が低下してしまうおそれがある。前記アルカリ性物質としては、例えば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物(塩)由来のイオン成分が挙げられ、具体的にはLi、Na、Mg、K、Ca、Ba等の金属の水酸化物(塩)由来のイオン成分が挙げられる。
【0040】
熱膨張性マイクロカプセル(A)のpHは、中性付近であることが望ましい。熱膨張性マイクロカプセル(A)は、一般的には、水系分散媒体中で、重合性単量体とコアを形成する低沸点化合物を含有する混合物にて懸濁重合を進行させることで、単量体で構成された熱可塑性樹脂のシェル内にコア成分として低沸点化合物を封入することで作製することができる。熱膨張性マイクロカプセル(A)のpHは、このような重合時に調整することが望ましく、一般的には、リン酸水素カリウム緩衝液を添加する方法が挙げられる。pHの好ましい範囲としては6.0以上8.0以下であり、より好ましい範囲は6.0以上7.5以下であり、さらに好ましい範囲は6.0以上7.0以下である。pHの測定方法は、ガラス電極法が挙げられる。ガラス電極法では、ガラス電極と比較電極の2本の電極を用い、電極間に生じた電位差を検出しpH値に変換する。
【0041】
ポリカーボネート系樹脂の分子量低下を起こさない観点から、熱膨張性マイクロカプセル(A)において、シェルを構成する熱可塑性樹脂は、下記の条件を満たすことが好ましい。ポリカーボネート系樹脂95重量部と、シェルを構成する熱可塑性樹脂5重量部を、φ30mm単軸押出機にて、300℃で混練して得られたペレットのTG/DTA測定による5%重量減少の温度が好ましくは200℃以上であり、より好ましくは220℃以上であり、さらに好ましくは240℃以上であり、特に好ましいくは260℃以上である。また、前記ペレットの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)が、ポリカーボネート系樹脂のMwとMnに対する、MwとMnの保持率の好ましい範囲はそれぞれ60%以上であり、より好ましい範囲は80%以上であり、さらに好ましい範囲は90%以上で、特に好ましい範囲は95%以上である。
【0042】
熱膨張性マイクロカプセル(A)は、(未膨張時の)平均粒子径が0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.7μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以上45μm以下であり、さらにより好ましくは1.0μm以上40μm以下であり、特に好ましくは1.0μm以上35μm以下である。熱膨張性マイクロカプセル(A)の加熱時の最大粒子径は、未膨張時の平均粒子径の約3倍以上5倍以下の範囲である。未膨張時の平均粒子径が0.5μm以上50μm以下であれば、膨張時の粒子径は約1.5μm以上250μm以下のサイズとなり、発泡時のシャルピー衝撃強度や面衝撃強度の強度低下を大きく抑制することができる。熱膨張性マイクロカプセル(A)の未膨張時の平均粒子径は、粒度分布測定装置、具体的には島津製作所製の粒度分布測定装置SALD-3000Jで測定することができる。
【0043】
熱膨張性マイクロカプセル(A)は、最大膨張温度(最大発泡温度とも称される。)は、180℃以上300℃以下が好ましく、より好ましくは190℃以上290℃以下であり、さらに好ましくは200℃以上280℃以下であり、特に好ましくは210℃以上270℃以下である。本発明において、熱膨張性マイクロカプセル(A)の最大膨張温度は、特許第5484673号に記載されている測定方法で測定することができる。具体的には、バーキンエルマー社製のTMA-7型を用いて「TMA測定」を行う。サンプル約0.25mgを容器に入れて、昇温速度5℃/minで昇温し、その高さの変位を連続的に測定し、容器内のサンプルの高さの変位が最大となった時の温度を最大膨張温度とする。熱膨張性マイクロカプセル(A)の最大膨張温度が上述した範囲であると、ポリカーボネート系樹脂の成形温度とマッチングすることから、低密度且つ強度が高い射出発泡成形体が得られやすい。
【0044】
<キャリア樹脂組成物(B)>
キャリア樹脂組成物(B)は、後述する構成を有することで、ポリカーボネート系樹脂と実質的に相溶しやすく、且つ130℃におけるせん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下になりやすい。特に、キャリア樹脂組成物(B)が後述する構成を有することで、キャリア樹脂組成物(B)でマスターバッチ化した熱膨張性マイクロカプセル(A)のマスターバッチを用いたポリカーボネート系樹脂組成物の発泡樹脂成形体において、白化が抑制され、外観が良好になる。本発明において、「ポリカーボネート系樹脂と実質的に相溶する」とは、具体的には、キャリア樹脂組成物(B)とポリカーボネート系樹脂の混合物の示差走査熱量測定(DSC)において、ガラス転移温度のピークが一つとなることをいう。
【0045】
キャリア樹脂組成物(B)の130℃におけるせん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であることにより、熱膨張性マイクロカプセル(A)がキャリア樹脂組成物(B)中に均一に分散したマスターバッチを得やすくなる。具体的には、130℃において、熱膨張性マイクロカプセル(A)とキャリア樹脂組成物(B)を混練してマスターバッチを作製する際、キャリア樹脂組成物(B)の粘性が適切な範囲になることによって、熱膨張性マイクロカプセル(A)にシェアがかからず、熱膨張性マイクロカプセル(A)を膨張させずにペレット化することが可能となる。キャリア樹脂組成物(B)の130℃におけるせん断粘度は、島津製作所製フローテスター(型式CFT-500C)を使用して測定することができる。具体的には、測定開始温度を50℃とし、直径1.0mm、長さ10mmのキャピラリー中をキャリア樹脂組成物(B)に一定荷重30kgfを与えて流動させ、10℃/minで昇温させ、測定温度が130℃となった時点での剪断粘度を測定する。
【0046】
キャリア樹脂組成物(B)は、マスターバッチの低温加工性を高める観点から、40℃以上100℃以下の温度範囲のいずれかの温度において、せん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であることが好ましい。
【0047】
キャリア樹脂組成物(B)は、重量平均分子量が1,000以上180,000未満であり且つ20℃で固体のポリスチレン系樹脂を含むキャリア樹脂組成物(B1)であるか、キャリア樹脂組成物(B)は、20℃で固体のポリスチレン系樹脂、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含むキャリア樹脂組成物(B2)であるか、或いは、キャリア樹脂組成物(B)は、重量平均分子量が1,000以上10,000以下であり且つ20℃で固体のポリエステル系共重合体、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり、且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含むキャリア樹脂組成物(B3)である。本発明の1以上の実施態様において、樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)によって測定する。
【0048】
《キャリア樹脂組成物(B1)》
キャリア樹脂組成物(B1)は、重量平均分子量が1,000以上180,000未満であり、且つ20℃で固体のポリスチレン系樹脂を含む。これにより、キャリア樹脂組成物(B1)は、130℃におけるせん断粘度が1.0×102Pa・s以上1.0×106Pa・s以下の範囲を満たしやすくなる。マスターバッチの加工性を高める観点から、キャリア樹脂組成物(B1)の130℃におけるせん断粘度は、1.0×103Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であることが好ましく、2.0×103Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であることがより好ましく、さらに好ましくは3.0×103Pa・s以上9.0x105Pa・s以下であり、さらにより好ましくは5.0×103Pa・s以上9.0x105Pa・s以下である。キャリア樹脂組成物(B1)は、重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり、且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に含有しない」は、キャリア樹脂組成物(B1)が、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体ののアクリル系可塑剤を0重量部以上3重量部未満含むことを意味し、好ましくは0重量部以上1重量部未満含む。
【0049】
キャリア樹脂組成物(B1)において、ポリスチレン系樹脂は重量平均分子量が1,000以上180,000未満であればよく、特に限定されない。前記ポリスチレン系樹脂は、1種のスチレン系単量体の単独重合体であってもよく、2種以上のスチレン系単量体の共重合体であってもよい。スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよく、その場合は、スチレン系単量体に由来する繰り返し単位が、全繰り返し単位中50重量%以上含まれていればよく、80重量%以上含まれていることが好ましい。
【0050】
前記スチレン系単量体としては、スチレンやスチレン系誘導体が挙げられる。前記スチレン誘導体としては、例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン等が挙げられる。これらのうち、スチレンが好ましい。
【0051】
前記共重合可能な他の単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトリル等の(メタ)アクリル系化合物;ブダジエン等のジエン系化合物及びその誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0052】
前記ポリスチレン系樹脂は、加工性の観点から、スチレンの単独重合体であることが好ましい。
【0053】
キャリア樹脂組成物(B1)において、ポリカーボネート系樹脂との相溶性を高める観点から、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は、150,000以下であることが好ましく、130,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることがさらに好ましく、80,000以下であることがさらにより好ましく、40,000以下であることが特に好ましい。また、マスタバッチの加工性を良好にする観点から、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は、2,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。
【0054】
前記ポリスチレン系樹脂は、20℃で固体であれば、特に限定されないが、ガラス転移温度が25℃以上130℃以下であることが好ましい。前記ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度が25℃以上であると、マスタバッチ作製時に、押出機の温度をコントロールしやすく、加工性が良好になる。また、前記ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度が130℃以下であると、マスタバッチの作製時に、キャリア樹脂組成物(B1)が適切な粘度を有しやすいため、熱膨張性マイクロカプセル(A)が破泡することなく、加工性が良好になる。
【0055】
《キャリア樹脂組成物(B2)》
キャリア樹脂組成物(B2)は、20℃で固体のポリスチレン系樹脂、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含む。これにより、キャリア樹脂組成物(B2)は、130℃におけるせん断粘度が1.0×102Pa・s以上1.0×106Pa・s以下の範囲を満たしやすくなる。マスターバッチの加工性を高める観点から、キャリア樹脂組成物(B2)の130℃におけるせん断粘度は、1.0×103Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であることが好ましく、2.0×103Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であることがより好ましく、さらに好ましくは3.0×103Pa・s以上9.0×105Pa・s以下であり、さらにより好ましくは5.0×103Pa・s以上9.0×105Pa・s以下である。
【0056】
キャリア樹脂組成物(B2)において、ポリスチレン系樹脂は、20℃で固体であれば、特に限定されないが、ガラス転移温度が25℃以上130℃以下であることが好ましい。前記ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度が25℃以上であると、マスタバッチ作製時に、押出機の温度をコントロールしやすく、加工性が良好になる。また、前記ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度が130℃以下であると、マスタバッチの作製時に、キャリア樹脂組成物(B2)が適切な粘度を有しやすいため、熱膨張性マイクロカプセル(A)が破泡することなく、加工性が良好になる。
【0057】
キャリア樹脂組成物(B2)において、ポリスチレン系樹脂は、特に限定されず、1種のスチレン系単量体の単独重合体であってもよく、2種以上のスチレン系単量体の共重合体であってもよい。スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよく、その場合は、スチレンに由来する繰り返し単位が、全繰り返し単位中50重量%以上含まれていればよく、80重量%以上含まれていることが好ましい。
【0058】
前記スチレン系単量体としては、スチレンやスチレン系誘導体が挙げられる。前記スチレン誘導体としては、例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン等が挙げられる。これらのうち、スチレンが好ましい。
【0059】
前記共重合可能な他の単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトリル等の(メタ)アクリル系化合物;ブダジエン等のジエン系化合物及びその誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0060】
前記ポリスチレン系樹脂は、加工性の観点から、スチレンの単独重合体であることが好ましい。
【0061】
キャリア樹脂組成物(B2)において、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1,000以上450,000以下であることが好ましく、1,000以上400,000以下であることがより好ましく、1,000以上350,000以下であることがさらにより好ましく、2,000以上200,000以下であること以下が特に好ましく、2,500以上180,000以下であることがアクリル系可塑剤の配合量を低減できるため最も好ましい。入手性及びアクリル系可塑剤と併用する観点から、キャリア樹脂組成物(B2)において、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は、100,000以上190,000以下であることが好ましい。なお、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量が180,000未満である場合、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して重量平均分子量が1,000以上20,000以下のアクリル系可塑剤を3重量部未満含む場合は、キャリア樹脂組成物(B1)に該当し、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して重量平均分子量が1,000以上20,000以下のアクリル系可塑剤を3重量部以上含む場合は、キャリア樹脂組成物(B2)に該当する。
【0062】
[アクリル系可塑剤]
アクリル系可塑剤は、重量平均分子量が1,000以上20,000以下である。これにより、ポリスチレン系樹脂、特に重量平均分子量が180,000以上のポリスチレン系樹脂と併用した場合、130℃におけるせん断粘度が1.0×102Pa・s以上1.0×106Pa・s以下のキャリア樹脂組成物(B2)を得ることができる。アクリル系可塑剤の重量平均分子量は、1,000以上18,000以下であることが好ましく、1,000以上15,000以下であることがより好ましく、1,000以上13,000以下であることがさらに好ましい。
【0063】
アクリル系可塑剤は、20℃で液体であれば、特に限定されないが、25℃における粘度が300mPa・s以上100,000mPa・s以下であることが好ましく、350mPa・s以上90,000mPa・s以下であることがより好ましく、400mPa・s以上80,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。アクリル系可塑剤の25℃における粘度が上述した範囲であると、130℃におけるせん断粘度が1.0×102Pa・s以上1.0×106Pa・s以下のキャリア樹脂組成物(B2)が得やすくなる。アクリル系可塑剤は、室温(20±5℃)において、液状であることが好ましい。アクリル系可塑剤の25℃における粘度は、JIS Z 8803-1991に準じてE型粘度計を用いて測定することができる。
【0064】
アクリル系可塑剤は、一般にアクリル系可塑剤として知られているものを用いることが可能であり、無官能タイプのアクリル系可塑剤を用いることが好ましい。アクリル系可塑剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体、(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル系単量体共重合体等が挙げられ、(メタ)アクリル酸エステル重合体が好ましい。アクリル系可塑剤は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を全繰り返し単位中50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましい。
【0065】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等の炭素数が10以下のアルキル基を有するアクリル酸アルキル類;メタクル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等の炭素数が10以下のアルキル基を有するメタクリル酸アルキル類等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせで用いてもよい。中でも、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸エチル及びアクリル酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0066】
前記芳香族ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等が挙げられる。
【0067】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、アクリル酸アルキルエステルの単独重合体、メタクリル酸アルキルエステルの単独重合体、アクリル酸アルキルエステル同士の共重合体、メタクリル酸アルキルエステル同士の共重合体、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルの共重合体を含む。
【0068】
アクリル系可塑剤としては、特に限定されないが、具体的には、東亞合成社製の製品名「UP-1000」、「UP-1010」、「UP-1020」、「UP-1021」及び「UP-1061」等の市販の無官能基タイプのアクリル系可塑剤を用いることができる。
【0069】
《キャリア樹脂組成物(B3)》
キャリア樹脂組成物(B3)は、重量平均分子量が1,000以上10,000以下であり且つ20℃で固体のポリエステル系共重合体、及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下であり且つ20℃で液体のアクリル系可塑剤を含む。これにより、キャリア樹脂組成物(B3)は、130℃におけるせん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下の範囲を満たしやすくなる。マスターバッチの加工性を高める観点から、キャリア樹脂組成物(B3)の130℃におけるせん断粘度は、1.0×10-4Pa・s以上9.0x105Pa・s以下であることが好ましく、3.0×10-4Pa・s以上8.0x105Pa・s以下であることがより好ましく、さらに好ましくは6.0×10-4Pa・s以上3.0x105Pa・s以下であり、さらにより好ましくは8.0×10-4Pa・s以上1.5x105Pa・s以下である。
【0070】
前記ポリエステル系共重合体としては、重量平均分子量が1,000以上10,000以下であり、且つ20℃で固体であればよく、特に限定されないが、例えば、特開2007-262290号公報に記載の末端が1価のアルコールで封止された構造を有するポリエステル化合物を用いることができる。
【0071】
前記ポリエステル化合物は、例えば多価カルボン酸と多価アルコールとを公知の方法でエステル化反応させて得られる、末端にカルボキシル基を有するポリエステルと、1価アルコールとを反応させることにより製造することができる。
【0072】
前記エステル化反応は、例えばパラトルエンスルホン酸、リン酸等の酸触媒、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ジブチル錫オキサイド、塩化亜鉛等の金属触媒により促進することができる。特に前記エステル化反応の際には、前記金属触媒を使用することが好ましい。また、前記エステル化反応は、130~270℃の加熱下で行うことが好ましい。
【0073】
前記多価カルボン酸としては、好ましくは、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸を使用することができる。なかでも、前記ポリカーボネート樹脂(a)との相溶性、及び得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性を向上する観点から炭素数8~18の芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましい。
【0074】
前記芳香族ジカルボン酸としては、好ましくは、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、α,β-(4-カルボキシフェノキシ)エタン、4,4'-ジカルボキシジフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸あるいはこれらのエステル誘導体を使用することができる。
【0075】
前記多価アルコールとしては、好ましくは、脂肪族ジオール、脂肪族トリオール、2価フェノールを使用することができる。なかでも、前記ポリカーボネート樹脂(a)の溶融粘度を低下させる観点からジオールを使用することが好ましく、炭素数2~25の脂肪族ジオールを使用することがより好ましい。
【0076】
前記ジオールとしては、好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等を使用することができる。
【0077】
前記1価アルコールとしては、炭素数4~18の脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を有するものが好ましく、具体的にはブタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、2-メチルオクタノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これらは、1種または2種以上の混合物として使用できる。特に機械的強度と流動性付与のバランスから2-エチルヘキサノール使用することがより好ましい。
【0078】
前記ポリエステル化合物としては、1000~8000の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することが好ましく、特に2000~6000の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することがより好ましい。前記範囲の重量平均分子量を有するポリエステル化合物を使用することが、ポリカーボネート樹脂の流動性を改善することができる。
【0079】
前記ポリエステル化合物の融点は、140~220℃の範囲の融点を有するものが好ましく、特に150~180℃の範囲の融点を有するものを使用することがより好ましい。前記の範囲であれば、ポリカーボネート樹脂組成物をコンパウンド化する際、押出機のホッパー下でのブロッキングを防止できるため取り扱いやすく、使用するポリカーボネート樹脂の流動性を容易に改善できる。
【0080】
前記ポリエステル化合物の酸価は、2以下であることが好ましく、前記ポリエステル化合物の水酸基価は、15以下であることが好ましい。前記範囲の酸価や水酸基価であるポリエステル化合物を用いれば、ポリカーボネート樹脂と溶融混合する際、ポリカーボネート樹脂の分子量を低下させず、得られる成形品の機械的強度、耐衝撃性を保持し、着色等が起こらない。より好ましくは酸価が1以下、且つ水酸基価が5以下である。
【0081】
前記ポリエステル系共重合体としては、具体的には、特許第6397787号の表5に記載の芳香族ポリエステル等を用いることができる。
【0082】
<マスターバッチ(C)>
マスターバッチ(C)は、熱膨張性マイクロカプセル(A)及びキャリア樹脂組成物(B)を含む。マスターバッチ(C)において、キャリア樹脂組成物(B)が上述した構成を有することで、熱膨張性マイクロカプセル(A)と混合するキャリア樹脂組成物(B)の130℃におけるせん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下になりやすく、それゆえ、キャリア樹脂組成物(B)を用いて、発泡力を損なわずに熱膨張性マイクロカプセル(A)が均一に分散したマスターバッチを得ることができる。また、キャリア樹脂組成物(B)が上述した構成を有することで、キャリア樹脂組成物(B)がポリカーボネート系樹脂と実質的に相溶しやすく、それゆえ、マスターバッチ(C)を用いた場合、白化が抑制され、外観の良い射出発泡成形体を得ることができる。すなわち、上記で得られた熱膨張性マイクロカプセル(A)のマスターバッチ(C)を用いた射出発泡成形において、発泡力を損なわず、且つ外観が良い成形体が得られる。
【0083】
マスターバッチ(C)は、取扱い性、貯蔵安定性及び基材樹脂への分散性等の観点から、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下含むことが好ましく、より好ましくは30重量%以上70重量%以下含み、さらに好ましくは30重量%以上60重量%以下含む。
【0084】
マスターバッチ(C)は、ポリカーボネート系樹脂との相溶性及び加工性の観点から、キャリア樹脂組成物(B)を20重量%以上70重量%以下含むことが好ましく、より好ましくは30重量%以上70重量%以下含み、さらに好ましくは40重量%以上70重量%以下含む。
【0085】
マスターバッチ(C)がキャリア樹脂組成物(B1)を含む場合、ポリカーボネート系樹脂との相溶性及び130℃におけるせん断粘度、並びに、取扱い性、貯蔵安定性及び基材樹脂への分散性等の観点から、具体的には、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、キャリア樹脂組成物(B1)を20重量%以上70重量%以下含むことが好ましく、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上70重量%以下、キャリア樹脂組成物(B1)を30重量%以上70重量%以下含むことがより好ましく、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上60重量%以下、キャリア樹脂組成物(B1)を40重量%以上70重量%以下含むことがさらに好ましい。
【0086】
マスターバッチ(C)がキャリア樹脂組成物(B2)を含む場合、好ましくは、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリスチレン系樹脂を15重量%以上40重量%以下、前記アクリル系可塑剤を5重量%以上30重量%以下含む。アクリル系可塑剤の配合量が5重量%以上であると、マスターバッチ(C)の作製時に低せん断化効果が発揮しやすく、カプセルが破断することを防止することができる。また、アクリル系可塑剤の配合量が30重量%以下であると、発泡成形時の温度に対して可塑剤の熱分解量が増加することが抑制され、外観に悪影響を及ぼすことが防止される。より好ましくは、マスターバッチ(C)は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリスチレン系樹脂を12重量%以上45重量%以下、前記アクリル系可塑剤を8重量%以上25重量%以下含む。さらに好ましくは、マスターバッチ(C)は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリスチレン系樹脂を12重量%以上50重量%以下、前記アクリル系可塑剤を8重量%以上20重量%以下含む。特に好ましくは、マスターバッチ(C)は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリスチレン系樹脂を12重量%以上55重量%以下、前記アクリル系可塑剤を8重量%以上15重量%以下含む。
【0087】
マスターバッチ(C)がキャリア樹脂組成物(B3)を含む場合、好ましくは、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリエステル系共重合体を15重量%以上40重量%以下、前記アクリル系可塑剤を5重量%以上30重量%以下含む。アクリル系可塑剤の配合量が5重量%以上であると、マスターバッチ(C)の作製時に低せん断化効果が発揮しやすく、カプセルが破断することを防止することができる。また、アクリル系可塑剤の配合量が30重量%以下であると、発泡成形時の温度に対して可塑剤の熱分解量が増加することが抑制され、外観に悪影響を及ぼすことが防止される。より好ましくは、マスターバッチ(C)は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリエステル系共重合体を12重量%以上45重量%以下、前記アクリル系可塑剤を8重量%以上25重量%以下含む。さらに好ましくは、マスターバッチ(C)は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリエステル系共重合体を12重量%以上50重量%以下、前記アクリル系可塑剤を8重量%以上20重量%以下含む。特に好ましくは、マスターバッチ(C)は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を30重量%以上80重量%以下、前記ポリエステル系共重合体を12重量%以上55重量%以下、前記アクリル系可塑剤を8重量%以上15重量%以下含む。
【0088】
<ポリカーボネート系樹脂組成物>
ポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(G)及びマスターバッチ(C)を含み、ポリカーボネート系樹脂を主成分とする樹脂組成物である。ここで、「主成分」とは、ポリカーボネート系樹脂組成物に含まれるすべての組成のうち、ポリカーボネート系樹脂の含有量が最も多い大きいことを意味する。ポリカーボネート系樹脂組成物において、マスターバッチ(C)を除く成分を基材成分とも記す。
【0089】
ポリカーボネート系樹脂組成物において、マスターバッチ(C)の含有量は、最終製品の発泡倍率と発泡剤の種類や成形時の樹脂温度等によって適宜設定すればよい。ポリカーボネート系樹脂組成物中のマスターバッチ(C)の含有量は、1重量%以上20重量%以下が好ましく、2重量%以上15重量%以下がより好ましく、3重量%以上10重量%以下が特に好ましい。マスターバッチ(C)をこの範囲で使用することにより、経済的に発泡倍率が1.1倍以上で、且つ、均一微細気泡の発泡成形体が得られやすい。
【0090】
〈ポリカーボネート系樹脂(G)〉
ポリカーボネート系樹脂(G)とは、フェノール性水酸基を2個有する化合物(以下、2価フェノールという。)より誘導されるポリカーボネート系樹脂であり、通常2価フェノールとホスゲン、又は2価フェノールと炭酸ジエステルとの反応により得られる樹脂のことである。
【0091】
前記2価フェノールとしては、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等が挙げられる。これらの中でもビスフェノールAが好適であるが、これに限定されるものではない。
【0092】
ポリカーボネート系樹脂(G)は、耐衝撃性、耐薬品性及び成形加工性等の観点から、数平均分子量が10,000以上60,000以下のものが好ましく、10,000以上30,000以下のものがより好ましい。ポリカーボネート系樹脂組成物中のポリカーボネート系樹脂(G)の含有量は、30重量%以上99重量%以下が好ましく、30重量%以上80重量%以下がより好ましく、さらに好ましくは30重量%以上70重量%以下である。本発明の1以上の実施態様において、樹脂の数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)によって測定する。
【0093】
ポリカーボネート系樹脂組成物は、さらに、ポリエステル系樹脂、ポリエステル-ポリエーテル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される1種以上の他の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0094】
〈ポリエステル系樹脂(H1)〉
ポリエステル系樹脂(H1)は、非晶性脂肪族ポリエステル、非晶性半芳香族ポリエステル、非晶性全芳香族ポリエステル等の非晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、結晶性脂肪族ポリエステル、結晶性半芳香族ポリエステル、結晶性全芳香族ポリエステル等の結晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、液晶性脂肪族ポリエステル、液晶性半芳香族ポリエステル、液晶性全芳香族ポリエステル等の液晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂等を用いることができる。
【0095】
結晶性熱可塑性ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4'-ジカルボキシレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート等の結晶性共重合ポリエステル等が挙げられる。中でもポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等を用いることが好ましい。ポリカーボネート系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂(H1)の含有量は、射出発泡成形体の外観を良好にする観点から、0~40重量%であることが好ましい。
【0096】
〈ポリエステル-ポリエーテル共重合体(H2)〉
ポリエステル-ポリエーテル共重合体(H2)は、芳香族ポリエステル単位とポリエーテル単位を含むことが好ましい。前記ポリエーテル単位は、例えば、下記一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)、一般式(5)及び一般式(6)で表されるものが挙げられる。これらの中でも、下記一般式(6)で表されるものが好ましい。
【0097】
【化1】
【0098】
前記一般式(1)中、-A-は、-O-、-S-、-SO-、-SO2-、-CO-、炭素数1~20のアルキレン基、又は炭素数6~20のアルキリデン基である。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。R9及びR10は、それぞれ炭素数1~5の2価の炭化水素基である。m及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、m及びnはそれぞれ0~70の整数であって、10≦m+n≦70である。m及びnはそれぞれ0~50の整数であることが好ましい。mは2~70の整数であることがより好ましい。
【0099】
【化2】
【0100】
前記一般式(2)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。R9及びR10は、それぞれ、炭素数1~5の2価の炭化水素基である。m及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、m及びnはそれぞれ0~70の整数であって、10≦m+n≦70である。m及びnはそれぞれ0~50の整数であることが好ましい。mは2~70の整数であることがより好ましい。
【0101】
【化3】
【0102】
前記一般式(3)中、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。R9及びR10は、それぞれ、炭素数1~5の2価の炭化水素基である。m及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、m及びnはそれぞれ0~70の整数であって、10≦m+n≦70である。m及びnはそれぞれ0~50の整数であることが好ましい。mは2~70の整数であることがより好ましい。
【0103】
【化4】
【0104】
前記一般式(4)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。R9及びR10は、それぞれ、炭素数1~5の2価の炭化水素基である。m及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、m及びnはそれぞれ0~70の整数であって、10≦m+n≦70である。m及びnはそれぞれ0~50の整数であることが好ましい。mは2~70の整数であることがより好ましい。
【0105】
【化5】
【0106】
前記一般式(5)中、R9は、炭素数1~5の2価の炭化水素基である。mはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、mは2~70の整数である。
【0107】
【化6】
【0108】
前記一般式(6)中、m及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、m及びnはそれぞれ0~50の整数であって、10≦m+n≦50である。
【0109】
前記芳香族ポリエステル単位は、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸エステルと、ジオールで構成された交互重縮合体である。前記芳香族ポリエステル単位は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート単位;ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート単位等が挙げられる。これらの中でも、ポリアルキレンテレフタレート単位が好ましく、ポリエチレンテレフタレート単位がより好ましい。前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等が例示される。中でも、テレフタル酸が好ましい。前記芳香族ジカルボン酸エステルとしては、前記芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルが挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸以外に、オキシ安息香酸等の他の芳香族オキシカルボン酸、及びアジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサン1,4-ジカルボン酸等の脂肪族、又は脂環族ジカルボン酸を併用してもよい。前記ジオールは、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の炭素数2~10のグリコールである。前記芳香族ポリエステルの溶液粘度としては、得られる成形品の耐衝撃性、耐薬品性や成形加工性の観点から、フェノール/テトラクロロエタン=1/1(重量比)混合溶媒中、25℃で濃度0.5g/dlにおける対数粘度(IV値)が0.3以上1.0以下であることが好ましい。
【0110】
ポリエステル-ポリエーテル共重合体の製造方法は、特に限定されないが、(1)芳香族ジカルボン酸、ジオール、及び、ポリエーテルを反応させる直接エステル化法、(2)芳香族ジカルボン酸ジアルキルエステル、ジオール、及び、ポリエーテルを反応させるエステル交換法、(3)芳香族ジカルボン酸ジアルキルエステルとジオールのエステル交換中、又は、エステル交換後に変性ポリエーテルを加えて、重縮合する方法、(4)高分子の芳香族ポリエステルを用い、ポリエーテルと混合後、溶融減圧下でエステル交換する方法等が挙げられる。
【0111】
ポリカーボネート系樹脂組成物中のポリエステル-ポリエーテル共重合体(H2)の含有量は、射出発泡成形体の外観を良好にする観点から、0~40重量%であることが好ましい。
【0112】
〈アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(H3)〉
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体は、外観の改善効果及び耐熱性維持の観点から、ポリカーボネート系樹脂組成物100重量%中、0~40重量%含まれていることが好ましく、より好ましい範囲は0~30重量%である。
【0113】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体中のブタジエンの含有量は、10~30重量%であればよい。
【0114】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体中のスチレンの一部をα-メチルスチレンに代替し通常のアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体よりも耐熱性を改良したものを用いてもよく、さらに耐熱性を改良したもので、フェニルマレイミドで変性したアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等も適宜使用することが可能である。
【0115】
ポリカーボネート系樹脂組成物は、射出発泡成形体の表面の白化を効果的に抑制し、外観を良好にする観点から、マスターバッチ(C)を1~15重量%、ポリカーボネート系樹脂(G)を30~99重量%、並びにポリエステル系樹脂、ポリエステル-ポリエーテル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される1種以上の熱可塑性樹脂を0~55重量%を含有することが好ましい。
【0116】
〈無機化合物(J)〉
射出発泡成形体の曲げ剛性、寸法安定性を向上させるために、前記ポリカーボネート系樹脂組成物は、さらに無機化合物(J)を含んでもよい。無機化合物としては、マイカ、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、カオリン、ガラスフレーク、板状アルミナ、合成ハイドロタルサイト、ワラストナイト、中空ガラスバルーン、炭素繊維、アラミド繊維、及びウィスカーからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、曲げ剛性向上効果及びポリカーボネート系樹脂への分散性の観点から、マイカ、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、カオリン、ガラスフレーク、中空ガラスビーズ、及び炭素繊維からなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、耐衝撃性、流動性及び製品外観のバランスの観点から、マイカ、タルク、ガラスフレーク、及びワラストナイトからなる群から選ばれる1種以上がさらに好ましい。
【0117】
無機化合物(J)は、耐衝撃性、耐熱性、剛性及び成形性等の観点から、ポリカーボネート系樹脂組成物中、5重量%以上45重量%以下含まれていることが好ましく、5重量%以上35重量%以下含まれていることがより好ましく、5重量%以上25重量%以下含まれていることがさらに好ましい。
【0118】
〈耐衝撃改質剤(K)〉
射出発泡成形体の耐衝撃性を更に向上させるために、前記ポリカーボネート系樹脂組成物は耐衝撃性改質剤をさらに含んでも良い。耐衝撃改良剤としては、多段グラフト重合体、ポリオレフィン系重合体、オレフィン-不飽和カルボン酸エステル共重合体、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0119】
前記多段グラフト重合体とは、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト重合させたものである。ゴム状重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものが好ましく、より好ましくは-40℃以下のものである。このようなゴム状重合体の具体例としては、例えばポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体等のジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸2-エチルヘキシル、ジメチルシロキサン-アクリル酸ブチルゴム、シリコン系/アクリル酸ブチル複合ゴム等のアクリル系ゴム、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等のオレフィン系ゴム、ポリジメチルシロキサン系ゴム、ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサン共重合体系ゴム等が挙げられる。ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、ブタジエン-アクリル酸ブチル共重合体、ブタジエン-アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体が例示出来る。耐衝撃性の面より、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリル酸ブチル共重合体が好ましく使用される。ブタジエン-アクリル酸ブチル共重合体のうちでも、アクリル酸ブチル50~70重量%とブタジエン30~50重量%を含む共重合体が耐候性、耐衝撃性から好ましい。ゴム状重合体の平均粒子径にも特に限定はないが、0.05μm以上2.00μm以下の範囲のものが好ましく、0.1μm以上0.4μm以下がより好ましい。また、ゲル含有量についても特に限定はないが、10重量%以上99重量%以下、さらには80重量%以上96重量%以下の範囲のものが好ましく使用される。
【0120】
前記多段グラフト重合体の製造に使用されるビニル系単量体としては、例えば芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。芳香族ビニル系単量体、及び(メタ)アクリル酸エステルとしては、それぞれ、アクリル系可塑剤についての説明時に列挙したものを適宜に用いることができる。シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を用いることができる。
【0121】
前記多段グラフト重合体は、具体的には、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体、及びポリオルガノシロキサンからなる群より選ばれる1種以上のゴム状重合体10~90重量%、並びに、前記ゴム状重合体の存在下に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、及び(メタ)アクリル酸エステル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル系単量体を重合して得られる重合体により構成されるグラフト成分10~90重量%で構成されたものであることが好ましい。有機リン系乳化剤を用いて製造された多段グラフト重合体を用いることが特に好ましい。
【0122】
前記多段グラフト重合体としてコア/シェルグラフト重合体を調製する場合、ゴム状重合体及びビニル系単量体の合計量を100重量%とした場合、ゴム状重合体10重量%以上90重量%以下、ビニル系単量体が10重量%以上90重量%以下であることが好ましく、ゴム状重合体30重量%以上85重量%以下、ビニル系単量体が15重量%以上70重量%以下であることがより好ましい。ゴム状重合体の割合が10重量%未満では耐衝撃性が低下しやすくなり、一方、90重量%を超えると耐熱性が低下する傾向が生ずる。
【0123】
耐衝撃改質剤の量としては、耐衝撃性、耐熱性、剛性及び成形性等の観点から、ポリカーボネート系樹脂組成物中、0~20重量%であることが好ましく、0~15重量%であることがより好ましく、0~10重量%であることがさらに好ましい。
【0124】
<射出発泡成形体>
前記ポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡することで、白化が抑制され、外観が良好な射出発泡成形体が得られる。具体的には、前記射出発泡成形体は、前記ポリカーボネート系樹脂組成物を金型内で発泡させる方法で作製することができる。金型内で発泡させる方法としては、特に限定されないが、例えば、コアバック法、、ショートショット法、フル充填法等が挙げられる。中でも、固定型(キャビティとも称される。)と任意の位置に前進及び後退が可能な可動型(コアとも称される。)とから構成される金型を使用し、樹脂組成物を初期充填厚みまで射出完了後、可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)が好ましい。コアバック法によれば、表面に非発泡層が形成されることで外観の数μm~数十μmオーダーの凹凸を平滑にし、かつ内部の発泡層が均一微細気泡になりやすく、軽量性に優れた射出発泡成形体が得られやすいことから、好ましい。
【0125】
コアバック法において、可動型の後退は、一段階で行ってもよいし、二段階以上の多段階で行ってもよく、後退させる速度も適宜調整してもよい。例えば、固定型、及び、任意の位置に前進及び後退が可能な可動型から構成され、初期キャビティクリアランスt0(初期充填厚み)が1.5mm以上2.7mm以下の金型に射出充填する工程、及び、初期充填厚みまで射出充填完了後、コアバック後のキャビティクリアランスtfが2.0mm以上6.0mm以下となるように可動型を後退させて発泡させる工程を含むことが好ましい。
【0126】
コアバック法において、その他の成形条件としては、例えば、樹脂温度240℃以上280℃以下、金型温度60℃以上90℃以下、成形サイクル1秒以上60秒以下、射出速度10mm/秒以上400mm/秒以下、射出圧10MPa以上200MPa以下、背圧5MPa以上40MPa以下、スクリュ回転数10rpm以上200rpm以下等の条件であればよい。
【0127】
前記射出発泡成形体は、携帯電話、及びパソコンハウジング等の電化製品;自動車のフェンダー、ドアパネル、バックドアパネル、ガーニッシュ、ピラー、及びスポイラー等の車両用部材(外装・外板)等の用途に好適に利用できる。
【0128】
前記射出発泡成形体の比重は、成形体の軽量化と衝撃強度の観点から、0.3g/cm3以上1.2g/cm3以下であることが好ましい。射出発泡成形体の比重が0.3g/cm3未満であると、1.5mmを超える粗大気泡が増え衝撃強度が低下する傾向があり、1.2g/cm3を超えると軽量化が達成されにくい。比重は、JIS K 7112:1999に準拠し、水中置換法により算出することができる。射出発泡成形体の発泡倍率は、軽量化と衝撃強度の観点から、1.1倍以上3.0倍以下が好ましく、1.1倍以上2.5倍以下がより好ましく、1.1倍以上2.0倍以下がさらに好ましい。発泡倍率が1.1倍未満では、軽量性が得られ難い傾向があり、3.0倍を超える場合には、面衝撃強度の低下が著しくなる傾向がある。なお、本明細書において、発泡倍率とは、射出発泡成形体の厚み(コアバック後キャビティクリアランスtf)を初期キャビティクリアランスt0で除した値である。
【実施例
【0129】
以下に本発明を具体的な実施例と比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。下記において、特に指摘がない場合は、「部」は重量部を意味し、「%」は重量%を意味する。
【0130】
各種測定方法及び評価方法を下記に示した。
【0131】
(1)ガラス転移温度
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製 DSC220C)を用いて5℃/分の昇温条件にてガラス転移温度を測定した。
(2)重量平均分子量
樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)によって測定した。具体的には、システム:東ソー製HLC-8220、カラム:東ソー製TSKgel SuperHZM-H(x2本)、溶媒:THFを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めたものを用いた。
(3)平均粒子径
熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径(未膨張時)は、島津製作所製の粒度分布測定装置SALD-3000Jで測定した。
(4)ポリカーボネート系樹脂(PC)との相溶性
キャリア樹脂組成物(B)とポリカーボネート系樹脂の混合物の示差走査熱量測定(DSC)を行い、下記の基準でPCとの相溶性の有無を判断した。
相溶性有:DSCにおいて、ガラス転移温度のピークが一つである
相溶性無:DSCにおいて、ガラス転移温度のピークが二つである
(5)せん断粘度
キャリア樹脂組成物(B)の130℃におけるせん断粘度は、島津製作所製フローテスター「型式CFT-500C」を使用して測定した。具体的には、測定開始温度を50℃とし、直径1.0mm、長さ10mmのキャピラリー中をキャリア樹脂組成物(B)に一定荷重30kgfを与えて流動させ、10℃/minで昇温させ、測定温度が130℃となった時点での剪断粘度を測定した。
(6)粘度
アクリル系可塑剤の25℃における粘度は、JIS Z 8803-1991に準じてE型粘度計を用いて測定した。
(7)最大膨張温度
バーキンエルマー社製のTMA-7型を用いて「TMA測定」を行った。サンプル約0.25mgを容器に入れて、昇温速度5℃/minで昇温し、その高さの変位を連続的に測定し、容器内のサンプルの高さの変位が最大となった時の温度を最大膨張温度とした。
(8)マスターバッチの加工性
マスターバッチのペレットの断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製、型式「JSM-6060LA」)で観察し、熱膨張性マイクロカプセルの状態に基づいて、マスターバッチの加工性を評価した。
A:熱膨張性マイクロカプセルの発泡なく、分散も良好である
B:熱膨張性マイクロカプセルの発泡はないが、分散が不良である
C:熱膨張性マイクロカプセルの発泡があり、分散も不良であるか、カプセルが破れている
(9)射出発泡成形体の発泡倍率の評価
A:射出発泡成形体の厚みが1.9mm以上
B:射出発泡成形体の厚みが1.7mm以上1.9mm未満
C:射出発泡成形体の厚みが1.7mm未満
(10)射出発泡成形体の外観
平板形状の射出発泡成形体の表面を目視で観察し、外観を評価した。
A:白化がなく、且つ、白ブツもなく、外観が非常に良好である
B:白化がなく、白ブツが若干あるが、外観が良好である
C:白化がないが、白ブツが多く、外観が不良である
【0132】
<ポリエステル-ポリエーテル共重合体の製造例1>
攪拌機、ガス排出出口を備えた反応器に、ゲルマニウム系触媒で製造されたポリエチレンテレフタレート(IV=0.65)と、ビスフェノールAエチレンオキサイド30モル付加物(東邦化学社製、「ビスオール30EN」、一般式(6)で表されるポリエーテル単位に該当し、n+mは30である。)と、ポリエチレンテレフタレートとビスフェノールAエチレンオキサイド30モル付加物の合計量を基準として、二酸化ゲルマニウムを400ppm、安定剤(チバ・スペシャリティーケミカルズ製のイルガノックス1010)2000ppmとを仕込み、270℃で2時間保持した後、真空ポンプで減圧し、1torrで重縮合を実施し、所定の重合度に達したところで減圧を終了して反応を停止し製造されたものを取り出し、更に、水槽で冷却したストランドを、100℃に設定した熱風乾燥機中で後結晶化と乾燥を同時に行った後、粉砕器に投入してペレット化する事で、ペレット状態のポリエステル-ポリエーテル共重合体(H2)を得た。得られたポリエステル-ポリエーテル共重合体(H2)のポリエーテルの含有量は30重量%であり、IV値は0.45であった。なお、ポリエチレンテレフタレート及びポリエステル-ポリエーテル共重合体のIV値は、テトラクロロエタン/フェノール=50/50(重量比)の混合溶媒中、25℃、0.5g/dlでの対数粘度から算出したものである。
【0133】
実施例及び比較例で使用したポリスチレン系樹脂、ポリエステル系共重合体、アクリル系可塑剤及び熱膨張性マイクロカプセルは以下のとおりである。
(1)ポリスチレン系樹脂1:スチレンの単独重合体、重量平均分子量(Mw):10,000、数平均分子量(Mn):5,000、Mw/Mn:2.0、20℃で固体、ガラス転移温度(Tg):68℃
(2)ポリスチレン系樹脂2:スチレンの単独重合体、重量平均分子量(Mw):20,000、数平均分子量(Mn):8,000、Mw/Mn:2.5、20℃で固体、ガラス転移温度(Tg):86℃
(3)ポリスチレン系樹脂3:スチレンの単独重合体(PSジャパン株式会社製、グレード名:680)、重量平均分子量(Mw):180,000、20℃で固体、ガラス転移温度(Tg):102℃
(4)ポリスチレン系樹脂4:スチレンの単独重合体(東洋スチレン株式会社製)、重量平均分子量(Mw):150,000、20℃で固体、ガラス転移温度(Tg):100.4℃
(5)ポリエステル系共重合体1:特開2007-262290号公報に記載の末端が1価のアルコールで封止された構造を有するポリエステル化合物、20℃で固体、融点:199℃、重量平均分子量:1300、Mw/Mn:2.7
(6)ポリエステル系共重合体2:特開2007-262290号公報に記載の末端が1価のアルコールで封止された構造を有するポリエステル化合物、20℃で固体、融点:212℃、重量平均分子量:2400、Mw/Mn:2.7
(7)アクリル系可塑剤:東亜合成株式会社製「アルフォン UP1020」、重量平均分子量2000、20℃で液体、25℃における粘度500mPa・s、オールアクリル、無官能基
(8)熱膨張性マイクロカプセル:株式会社クレハ製「マイクロスフェアー S2640D」、平均粒子径21μm、最大膨張温度249℃
【0134】
(実施例1)
<熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチの作製>
ポリスチレン系樹脂1及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表1に示す重量割合で混合した後、重量式フィーダーにセットし、同方向噛み合い二軸押出機(テクノベル製、25mm押出機)に供給し、130℃で溶融混練し、ストランドを水冷後、ペレタイザーで切断することによって、ペレット状の熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-1)を得た。
【0135】
<ポリカーボネート系樹脂組成物の作製>
ポリカーボネート系樹脂(三菱化学株式会社製「S-2000」、数平均分子量23,000)を50部、熱可塑性ポリエステル系樹脂(株式会社ベルポリエステルプロダクツ製「ベルペット EFG70」、ポリエチレンテレフタレート)を15部、上記で得られたポリエステル-ポリエーテル共重合体(H2)を15部、無機化合物(マイカ、株式会社ヤマグチマイカ製「YM-21S」、数平均粒子径27μm)15部を同方向噛み合い二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44)に供給し、280℃にて溶融混練し、ストランドを水冷後、ペレタイザーで切断することによってペレット状の基材成分となるポリカーボネート系樹脂組成物を得た。得られた基材成分のポリカーボネート系樹脂組成物95部と、上記で得られた熱膨張性マイクロカプセル(A)のマスターバッチ(C-1)5部をハンドブレンドしてポリカーボネート系樹脂組成物(I-1)を得た。
【0136】
<射出発泡成形体の作製>
上記で得られたポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡成形して射出発泡成形体を作製した。具体的には、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-1)を型締力180tで、コアバック機能及びシャットオフノズルを有する電動の射出成形機(東洋機械金属(株)製)に供給し、シリンダ温度270℃、背圧10MPaで溶融混練した後、60℃に設定された固定型と前進及び後退が可能な可動型とから構成され、図1に示す縦160mm×横160mmの平板形状のキャビティ(初期キャビティクリアランスt0=1.5mmを有し、底面部の中心位置にφ8mmのダイレクトゲート)を有する金型中に、射出速度100mm/秒で射出充填した。初期充填厚み(初期キャビティクリアランスt0)まで射出充填完了後に、底面部が所望の厚みとなるように(クリアランスがコアバック後キャビティクリアランスtfが2.0mmとなるように)可動型を後退させて、キャビティ内のポリカーボネート系樹脂組成物を発泡させた。発泡完了後40秒間冷却してから射出発泡成形体を取り出した。
【0137】
(実施例2)
ポリスチレン系樹脂1の代わりにポリスチレン系樹脂2を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-2)、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-2)及び射出発泡成形体を作製した。
【0138】
(実施例3)
ポリスチレン系樹脂3、アクリル系可塑剤及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表1に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-3)、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-3)及び射出発泡成形体を作製した。
【0139】
(実施例4)
ポリスチレン系樹脂4、及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表1に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-4)、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-4)及び射出発泡成形体を作製した。
【0140】
(実施例5)
ポリスチレン系樹脂4、アクリル系可塑剤及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表1に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-5)、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-5)及び射出発泡成形体を作製した。
【0141】
(実施例6)
ポリエステル系共重合体1、アクリル系可塑剤及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表2に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-6)、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-6)及び射出発泡成形体を作製した。
【0142】
(実施例7)
ポリエステル系共重合体2、アクリル系可塑剤及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表2に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-7)、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-7)及び射出発泡成形体を作製した。
【0143】
(比較例1)
ポリスチレン系樹脂3及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表1に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチ(C-8)、ポリカーボネート系樹脂組成物(I-8)及び射出発泡成形体を作製した。
【0144】
(比較例2)
ポリエステル系共重合体1及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表2に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチの作製を試みたところ、混合物が押出機内を通過するものの、ペレットの形状のマスターバッチを得ることができなかった。比較例2では、ポリエステル系共重合体1の融点が高く、且つアクリル系可塑剤も含まなかったため、キャリア樹脂組成物の130℃における剪断粘度を測定することができず、それゆえ、ペレットの形状のマスターバッチを得ることもできなかった。
【0145】
(比較例3)
ポリエステル系共重合体2及び熱膨張性マイクロカプセルを下記表2に示す重量割合で混合した以外は、実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチの作製を試みたところ、混合物が押出機内を通過するものの、マスターバッチペレットの形状とならなかった。比較例3では、ポリエステル系共重合体2の融点が高く、且つアクリル系可塑剤も含まなかったため、キャリア樹脂組成物の130℃における剪断粘度を測定することができず、それゆえ、ペレットの形状のマスターバッチを得ることもできなかった。
【0146】
実施例及び比較例でのマスターバッチの加工性を上述した通りに評価し、その結果を下記表1及び2に示した。また、実施例及び比較例の射出発泡成形体の外観を上述したとおりに評価し、その結果を下記表1及び2に示し、表1及び2には、発泡倍率も示した。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
上記表1から分かるように、重量平均分子量が1,000以上180,000未満のポリスチレン系樹脂を含むか、或いは、ポリスチレン系樹脂及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下のアクリル系可塑剤を含み、ポリカーボネート系樹脂と実質的に相溶し、且つ130℃におけるせん断粘度が1.0×102Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であるキャリア樹脂組成物(B1)又はキャリア樹脂組成物(B2)を用いた実施例1~5では、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチの加工性が良好であるとともに、該マスターバッチを用いたポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡成形した射出発泡成形体の表面に白化が発生しておらず、白ブツもなく、外観が非常に良好であった。
【0150】
一方、表1から分かるように、キャリア樹脂組成物(B)がアクリル系可塑剤を含まず、重量平均分子量が180,000超えるポリスチレン系樹脂を含む比較例1では、膨張性マイクロカプセルのマスターバッチの加工性が悪いとともに、該マスターバッチを用いたポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡成形した射出発泡成形体の表面に白ブツが多く存在しており、外観が悪かった。
【0151】
また、表2から分かるように、重量平均分子量が1,000以上10,000以下のポリエステル系共重合体及び重量平均分子量が1,000以上20,000以下のアクリル系可塑剤を含み、ポリカーボネート系樹脂と実質的に相溶し、且つ130℃におけるせん断粘度が1.0×10-4Pa・s以上1.0×106Pa・s以下であるキャリア樹脂組成物(B3)を用いた実施例6~7では、ポリカーボネート系樹脂組成物を射出発泡成形した射出発泡成形体の表面に白化が発生しておらず、外観が良好であった。特に、実施例7では、熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチの加工性も良好であった。
【0152】
一方、表2から分かるように、キャリア樹脂組成物(B)がアクリル系可塑剤を含まず、重量平均分子量が1,000以上10,000以下のポリエステル系共重合体を含む比較例2及び3では、押出機内を通過するものの、ポリエステル系共重合体の融点が高く、且つアクリル系可塑剤も含まなかったため、マスターバッチペレットの形状とならない結果であった。
図1