(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】セロトニン、ドパミン、及びノルアドレナリンからなる群より選択される神経伝達物質の、神経細胞及び脳におけるアベイラビリティーを高めるための、レモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 36/85 20060101AFI20240904BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240904BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240904BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240904BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
A61K36/85
A61P25/00
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2021526672
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2019081392
(87)【国際公開番号】W WO2020099595
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-14
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504201040
【氏名又は名称】フィンゼルベルク・ゲーエムベーハー ウント コンパニイ・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファイステル、ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルブロエル、ベルント
(72)【発明者】
【氏名】フィエビッチ、ベルント エル.
(72)【発明者】
【氏名】アッペル、クルト
【審査官】清野 千秋
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-514705(JP,A)
【文献】特開2005-126366(JP,A)
【文献】特開2004-059463(JP,A)
【文献】特開2002-233330(JP,A)
【文献】特開2010-202606(JP,A)
【文献】Avicenna J Phytomed,2017年,7 (4),353-365
【文献】Neuroscience Letters,2016年,616,75-79
【文献】International Journal of Molecular Sciences,2017年,18,895
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/85
A61P 25/00
A61P 25/22
A61P 25/24
A61P 25/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物を含む、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療のための、又はアルツハイマーの発症前段階としての認知能力を増強するための薬剤であって、
前記抽出物が、20~40体積%のアルコール濃度のアルコール-水抽出物であり、
前記抽出物の精油の含有率は、添加剤を除く前記抽出物に対して0.05重量%未満である、薬剤。
【請求項2】
注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療のための、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記抽出物が、植物体の一部及び/若しくは抽出物の形態の他の植物と組み合わせて用いられる、並びに/又は化学合成物質と組み合わせて用いられることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
経口摂取される、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
飲料調合物(例えば、インスタント調合物から調製される飲料調合物)として経口摂取される、又は錠剤、カプセル剤、トローチ剤、チュアブル製剤、ウエハー、若しくは融合錠剤として経口摂取される、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
前記抽出物のベルバスコシドの含有率が、添加剤を除いた前記抽出物に対して、少なくとも2重量%である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
前記抽出物のフラボノイドの含有率が、添加剤を除いた前記抽出物に対して、少なくとも0.05重量%である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
前記抽出物の精油の含有率が、添加剤を除いた前記抽出物に対して、0.01重量%未満である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
レモンバーベナ(lemon verbena;植物種:Aloysia citriodora PALAU)は、植物学的にはクマツヅラ科(Verbenaceae)のコウスイボク属(Aloysia)に属する。
【0002】
レモンバーベナには文献において様々な同義語が存在する:Aloysia triphylla (L'Herit.) Kuntze/Lippia citriodora Kunth/Verbena triphylla L'Herit。これらは、欧州薬局方の研究論文にも記載されている(欧州薬局方第1834章)。
【0003】
Aloysia citriodora (従前はLippia citriodora)という学名は、「citriodora」という語によって、その葉の特有の柑橘系風味の香り及び味を表している。同義語であるAloysia triphylla (従前はVerbena triphylla)という学名は、「triphylla」、すなわち「3つの葉」という語により、枝上の葉の配置を表している。
【0004】
レモンバーベナの正式な国際名は以下である。
ドイツ語: Zitronenverbene、Zitronenstrauch
オーストラリア語:Luiserkraut
英語: lemon verbena、lemon-scented verbena
フランス語: verveine citronelle、verveine odorante
オランダ語: Citroenverbena、Citroenstruik
ポルトガル語: limonette、buona Luisa
スペイン語: cedron、hierba Luisa
【0005】
口語的なドイツ語では、「Zitronenkraut」(レモンハーブ)や「Verbenenkraut」(バーベナ)との語がしばしば誤って並列的に使用される。主にフランスの文献の一部には、クマツヅラ科(Verbenaceae)のすべての属が「vervein」という名のもとに組み込まれることもあり、また一方でバーベナ属種(Verbena spp.)、すなわち鉄ハーブ(Eisenkrauter)の同義語として使われることもあり、さらにはレモンバーベナにも使われる。したがって、Aloysia citriodoraやVerbena officinalisといった種に対する「vervein」という語の明確な割り当ては必ずしも一義的に導き出せず、常に個別の事例の文脈に応じて明らかにしなければならない。
【0006】
クマツヅラ科(Verbenaceae)の中で、コウスイボク属(beebrushes(Aloysia))は、「アステカスイートハーブ(Aztec sweet herb)」(Lippia dulcis TREV.)又は「メキシカンオレガノ(Mexican oregano)」(Lippia graveolens H.B. & K.)に代表されるスイートハーブ(Lippia)とも、伝統的な薬草である「クマツヅラ(common vervain)」(Verbena officinalis L.)の属する約250のバーベナ(Verbena)とも異なる。
【0007】
植物学的には、最も顕著な特徴は、バーベナ(Verbena)はほとんどが一年生草本として生長し、70cm程度にしか達せず、アステカスイートハーブは這生で地表近くに育ち、高さ20cm程度にまで生長するのに対し、コウスイボク属(Aloysia)の植物は高さ6mにもなる多年生落葉低木として成長することである。
【0008】
レモンバーベナは、主にチリとウルグアイの地域に野生に見出される、南アフリカ原産の植物である。レモンバーベナは霜耐性がないことから、ヨーロッパでは主にフランスとスペインといった南部地域でしか栽培されていない。レモンバーベナの葉は通常薄緑であり、やや鋸歯状の縁を有し、披針形又は尖形であり、無毛である。葉の長さ(葉身)は3~10cmの幅があり、葉の幅は0.5~3cmとなりうる。葉には通常小さな点々(いわゆる油腺)が存在し、これは特徴的な精油を含んでおり、触れるとレモンのような風味を発する。
【0009】
アステカスイートハーブ又はクマツヅラ(common vervain)からは中空の植物体全体(茎、茎頂、葉、花)が使われるのに対し、レモンバーベナ(Aloysia citriodora)からは通常葉が使われる。現在の語句にはたびたび混乱があったが、欧州薬局方において、レモンバーベナの葉に言及する研究論文(欧州薬局方第1834章、monograph lemon verbena leaf)、及びクマツヅラ(common vervain)に言及する研究論文(欧州薬局方第1854章、monograph Verbena officinalis herba)の2つの別個の研究論文が現れており、これにより区別が可能である。また、アクテオシドと呼ばれる、欧州薬局方第1834章によるレモンバーベナの葉からの分析上のリード化合物は、この文献においてベルバスコシドという別名で記載されている。これはたびたび明確な割り当てをより困難なものとする。
【0010】
独国特許出願公開第102011078432号明細書では、多動性障害の治療における種々の植物からの精油及びその成分の使用について説明されている。特に、該明細書では[0014]段落においてクマツヅラ(common vervain)を「Verbena officinalis」と正確に訳しているが、[0036]、[0046]及び[0049]段落では、クマツヅラ(common vervain)は誤ってLippia citriodora Kunzeと同様とされている。実施例では、植物学的指定はもはや使用されておらず、特許請求の範囲ではVerbena officinalisに戻っている。これは、これらの語句がいかに不正確に使用されているかの一例である。
【0011】
伝統的に、レモンバーベナの生葉又は乾燥葉は香料又は薬草として使用される。説明されている治療的用途は、以下の特性を有する:抗酸化性、催乳性、鎮痛性、抗細菌性、解熱作用、筋弛緩性、及び利尿性。精油成分及びフラボノイド群は、非常に広範な有効物質に共に寄与しているといわれている。これと一致するように、欧州薬局方の研究論文では、乾燥全葉の品質説明において、レモンバーベナの葉について、最低含有量3mL/kgの精油及び2.5%のアクテオシド、並びにフラボノイドの存在に関するDCフィンガープリントの処方が記載されている。
【0012】
精油は有効成分群として引用されることが非常に多いが、精油の具体的成分の特徴的なクロマトグラフ分析はそれらの効果と結び付けて正確に説明されてはいない。そのため、レモンバーベナの精油成分はアロマセラピーに用いられている。特に、神経性不穏の症状やストレス関連疲労の治療において、お茶として経口摂取すると、これらは入眠遅延や軽度消化関連症状に用いられる物質として作用する。
【0013】
Wannmacherらは、レモンバーベナ茶調合物の推定される沈静効果及び抗不安効果を研究したが、40名の健常者を対象とするヒト無作為二重盲検並行群間試験において有意な効果は見られなかった(Wannmacher L. et al. - Plants employed in the treatment of anxiety and insomnia: II. Effect of infusions of Aloysia triphylla on experimental anxiety in normal volunteers. Fitoterapia 1990; 61: 449-453)。したがって、少量の精油を含む単なる水性抽出物では中枢神経系(CNS)に対して有意な効果は示されなかった。
【0014】
「Planox L」という名のもと、レモンバーベナの水性抽出物は、老化防止効果を有するものとして説明されている。これは上皮細胞に対する抗酸化性及び抗炎症性に基づくものとされており、これらは好ましくは表皮及び消化管領域でおこる。
【0015】
中国特許出願公開第107397011号明細書では、9種の異なる植物の混合物を用いた中国のハーブティーが記載されており、これらはリフレッシュ効果を有するものとして記載されている。これは水性抽出物である。バーベナとして記載されている成分はクマツヅラ(common vervain)であり、レモンバーベナではない。
【0016】
中国特許第102309622号明細書は、脳虚血に使用するためのバーベナからの個別のグリコシドに関する。段落[0007]以降に、対象の植物はクマツヅラ(common vervain;Verbena officinalis)であることが記載されている。
【0017】
Erping Xu et al., Saudi Pharmaceutical Journal 25 (2017) 660-665では、脳虚血における種々の植物成分の試験が記載されている。特に、バーベナの全グリコシドの調合物が試験されている。物質の混合物の組成は明らかではない。これらのグリコシドは、レモンバーベナではなく、クマツヅラ(common vervain)の英語名である「バーベナ(verbena)」に由来するものである。
【0018】
Carpinella et al. Phytotherapy Research 24 (2010), 259-263では、73の異なる植物の純エタノール抽出物が記載されており、これらは続いて水性画分及び油性画分に分離されている。適用された測定系、すなわち「アセチルコリンエステラーゼ阻害」はアルツハイマー病などの病気のスクリーニングに用いられている。
【0019】
独国特許出願公開第102007052223号明細書は、Verbena officinalis L.、すなわちクマツヅラ(common vervain)からの抽出物に関する;段落[0002]を参照のこと。
【0020】
国際公開第2005/058338号はレモンバーベナ抽出物に関する。得られた抽出物に対する精油を枯渇させることについては記載されていない。
【0021】
水性ルートで凍結乾燥により調製され、精油を含まない抽出物について、Ragoneらは、GABAA受容体親和性を介しておこる鎮静効果及び抗不安効果も前提としている。これはマウスでオープンフィールド試験により検証され、心臓温存(heart-sparing)陰性変力作用が示され、摘出されたラット心臓において実証された(Ragone MI, Sella M, Pastore A, Consolini AE. Sedative and Cardiovascular Effects of Aloysia citriodora Palau, on Mice and Rats. Latin American Journal of Pharmacy (Lat Am J Pharm) 2010; 29(1): 79-86.)。したがって、水性ルートで調製され精油画分を含まない乾燥抽出物においてもCNS活性が見出される可能性がある。
【0022】
このことは、加熱乾燥により水性ルートで乾燥抽出物を調製し、ラットに経口投与したVeisiらの試験により確認された。高架式十字迷路において、10mg/kg体重の抽出物による抗不安効果は観察されなかった一方(Veisi M, Shahidi S, Komaki A, Sarihi A.: Assessment of aqueous extract of Lemon verbena on anxiety-like behavior in rats. J Pharm Negative Results 2015; 6: 37-9)、不安促進効果(不安様行動)が観察された。
【0023】
Ceuterickらは、ロンドンにおいて、コロンビア人内での、抗不安、鎮静、及び抗うつ用途を有するレモンバーベナを含む薬草の民族植物学的使用についての評価を調査している(Ceuterick M., Vandebroek I., Torry B., Pieroni A. - Cross-cultural adaptation in urban ethnobotany: The Colombian folk pharmacopoeia in London, Journal of Ethnopharmacology 120 (2008) 342-359)。これらの物質については、生葉又は乾燥葉によるお茶、すなわち純粋に水性の抽出物の使用が一貫して記載されていた。これまで、CNSに影響する特性との相互関係において、レモンバーベナ葉抽出物の様々な成分に対する、生産方法(抽出剤など)の変更による影響は説明されてこなかった。また、CNSに影響する特性に関して、有効性に影響する成分群に対するさらなる分析的示唆は与えられていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上述の文献にはいずれも、精油を実質的に含まない、レモンバーベナの水性エタノールにより調製された抽出物の効果については記載されていない。
【0025】
本発明の目的は、レモンバーベナのさらなる適用分野を見出すことである。この目的は、神経障害又は脳障害の治療又は予防のためのレモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、レモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物の標準化された調製、及び神経伝達物質に影響することで発揮される特定のCNS介在性臨床像との相互関係におけるこれらの効果を説明する。したがって、これまでの適用分野は、注意欠陥障害、及び/又はアルツハイマーの発症前段階としての認知能力の向上の適応の範囲も含むように拡大されうる。
【0027】
注意欠陥・多動性障害(ADHD)は幼少期に始まる精神障害であり、注意力、衝動性、そしてしばしば多動性の問題を特徴とする。欧州の全小児のうち10%までがADHDの症状を示す(女児よりも男児に顕著に多い)。程度の差はあるが、症状は成人まで持続することもある。ADHDを有する青年のうち30~70%では成人まで障害が持続する(持続性)。
【0028】
成人期には、多動性は変化した特徴を呈し、内面の不穏がより増強されたものとなる。ADHD患者は、たびたび、鬱病、不安障害、自己イメージや自尊心の障害、対人恐怖症等、他の様々な精神障害も示す。現在のエビデンスによると、注意欠陥・多動性障害は、病気を発症させやすい遺伝的性質を伴う多因子性の障害の症状である。
【0029】
神経生物学レベルでは、ADHDはしばしば線条体-前頭葉機能障害として説明される。影響を受ける脳の領域、より正確には前頭葉の領域は、意欲、認知(情報変換)、感情、及び運動行動が調節される、又はこれらの相互作用が調整される領域である。大脳前頭葉に加えていわゆる線条体(大脳に属する大脳基底核の一部)の領域も影響を受けるため、医師らは線条体-前頭葉機能障害と呼んでいる。
【0030】
ドイツにおける2009年~2014年の推定罹患率によると、ADHDの診断頻度は、0~17歳の患者では5.0%から6.1%に、18~69歳の患者では0.2%から0.4%に増加していることが示されている。これは小児や青年に最も広く認められる慢性疾患の一つである。これは女児よりも男児に多くみられ、青年よりも小児に多くみられる。9歳程度の男児において罹患率13.9%となり最大となる。(Bachmann CJ, Philipsen A, Hoffmann F: ADHD in Germany: trends in diagnosis and pharmacotherapy - a country-wide analysis of health insurance data on attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD) in children, adolescents and adults from 2009-2014. Dtsch Arztebl Int 2017; 114: 141-8. DOI: 10.3238/arztebl.2017.0141)。
【0031】
ADHDの診断を受けた成人に対するADHDの薬剤の処方は増えているが(メチルフェニデートが最も多く処方され、次にアトモキセチンとリスデキサンフェタミンが続く)、小児と青年に対する処方率は減っている。代替薬の必要性が非常に大きい。
【0032】
ADHDの治療薬としては、脳におけるドパミン代謝に影響する刺激薬が主に用いられている。これにはメチルフェニデートやアンフェタミン誘導体(DL-アンフェタミン)が含まれ、これらは前世紀半ばから用いられている。患者の約2/3がこの薬剤に応答する。さらに、ドパミン又はノルアドレナリンに影響する抗鬱剤も治療に用いられうる。
【0033】
ADHDの原因の一つに、脳内のシグナル処理異常が挙げられる。この障害は神経伝達物質であるノルアドレナリンやドパミンの欠陥又は有効性低減に基づく。例えば、注意力はノルアドレナリンを介して制御され、意欲はドパミンを介して制御される。これと対応して、シグナル処理の支障は、患者に、同時に一つの物事に集中することを困難にさせ、外部刺激をその重要性や非重要性に応じて選別することを困難にさせる、すなわち、容易に注意力を散漫にさせ、過度の刺激をもたらす。加えて、ADHDには神経伝達物質であるセロトニンが関与していることが報告されている。セロトニンは衝動性を制御するため、障害があると、衝動性が高まり、欲求不満に対する耐性が低下し、各状況に対する患者の行動的適応性に乏しくなる。
【0034】
現在注意欠陥・多動性障害の治療に最もよく使用されている物質であるメチルフェニデートは、シナプス前部のドパミン及びノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、シナプス間隙におけるこれらの濃度を高める。これにより、受容体上のシグナル濃度が高まり、特に交感神経系の緊張を高める。そのため、選択的にノルアドレナリン及びドパミン(及びセロトニンも若干)の再取り込みを阻害する物質はADHDの治療候補として期待される。しかしながら、この有効成分は広範な副作用を有する可能性がある点にも特徴がある。以下のような高頻度の副作用が知られる:鼻咽頭炎、食欲不振、体重及び身長増加の中程度の減少(小児に長期間適用した場合)、精神的インバランス、不安、鬱、神経過敏、心不整脈など。
【0035】
臨床的経験によると、メチルフェニデートが精神病の小児の行動及び思考障害の症状を増大させ得ることが示唆されている。6歳未満の小児に対する推奨治療はない。この副作用は長期投与において観察される可能性が最も高い。慢性的な不適切な使用は、メチルフェニデートの効果を失う(耐性を発達させる)だけでなく、精神的依存性にもつながる可能性がある。
【0036】
認知(情報変換)は線条体-前頭葉機能障害のなかでも測定可能な基準である。「認知」はしばしば多様な意味で使われるが、「認知」とは包括的な意味合いで考えることを意味する。ヒトの多くの認知プロセスは意識的であるが、「認知(cognition)と「意識(consciousness)」とは同義ではない。ヒトによるプロセスの中には、無意識であっても認知に基づくものもある。この一例として、無意識学習が挙げられる。ヒトの認知能力としては、例えば、注意力、記憶、学習、創造性、計画性、方向感覚、想像力、議論、自己観察力、意欲、信仰等が挙げられる。認知能力は精神医学、心理学、哲学、神経科学など様々な科学により研究される。
【0037】
したがって、認知能力は複雑なプロセスであり、脳のパフォーマンスに関する測定可能なパラメータで定量化されうる。学習能力は、記憶(記憶された入力の量及び持続期間)及び反応性への影響の両方、論理的操作の実行能力(速さ、正確さ)、又は空間的思考能力(例えば、新たな又は変更された状況における方向的曲面において)を含む。このような認知能力の障害は、特に軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)の症候群により説明される。MCIは加齢に伴う認知機能及び認知能力の減少という特定の状態を表す。健常人において、MCIの試験は将来の認知症の事前的指標とみなせる可能性がある。
【0038】
驚くべきことに、レモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物がラットの大脳皮質のシナプトソームでノルアドレナリン及びドパミンの高い再取り込み阻害特性とセロトニン阻害を有することが明らかになった。加えて、in vitroの結果を通して見出されたADHDにおける適合性が、線虫を用いたin vivo実験、並びにマウスにおけるEEG記録及びマウスの行動モデル(モリス水迷路)を用いたin vivo実験において確認された。
【0039】
特に、認知分野はレモンバーベナの水-エタノール抽出物の経口投与によって有利に支援されることが新たに見出された。
【0040】
また、インスタント調合物を飲むなどの、レモンバーベナ抽出物の規則的用量の摂取は、ADHD患者に顕著な治療効果をもたらすことが見出された。
【0041】
したがって、本発明は、ADHD及び/又は認知障害及び/又は軽度認知障害及び/又はストレス関連疲労状態/ストレス障害の治療のための、Aloysia citriodora種(又はこの同義名称)の葉抽出物の使用に関する。
【0042】
本発明により治療又は予防しうる病気としては、身体表現性障害(燃え尽き症候群)、急性及び外傷後ストレス障害、慢性疲労症候群;神経障害の症状としての、神経性不穏(精神的ストレス)、不安、及び鬱病、並びに倦怠感及び脱力感などのストレス症状が挙げられる。
【0043】
好ましくは、前記神経障害は、蓄積されたタンパク質又はペプチドに関連する神経変性疾患、特にアルツハイマー病又はパーキンソン病ではない。
【0044】
本発明はまた、ADHDの治療のための薬剤を製造するための、Aloysia citriodora種(又はこの同義名称で指定される種)の葉抽出物の使用にも関する。
【0045】
本発明はまた、認知能力及び/又は軽度認知障害の改善のための治療剤を製造するための、Aloysia citriodora(又はこの同義名称で指定される種)の葉抽出物の使用にも関する。
【0046】
本発明はまた、神経性不穏(精神的ストレス)のための治療剤を製造するための、Aloysia citriodora種(又はこの同義名称で指定される種)の葉抽出物の使用にも関する。
【0047】
以下、本発明を好ましい実施形態、及び好ましい実施形態に関連する個々の実施例によって説明する。本発明の好ましい使用では、上述の目的のため、欧州薬局方の品質基準に合致するレモンバーベナの乾燥切り葉を使用する。本発明のさらなる好ましい実施形態では、欧州薬局方のレモンバーベナの乾燥葉から調製された抽出物を使用する。または、レモンバーベナの葉と葉の抽出物とを共に使用することも可能である。
【0048】
レモンバーベナ抽出物を使用する際、例えばこれはアルコール-水抽出物である。この文脈において、「アルコール」とはいずれも水と混和性のある低級(C1~C4)アルコールである。
【0049】
好ましい溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びこれらの混合物が挙げられ、特にエタノールが好ましい。レモンバーベナ葉から抽出物を得るためのアルコール-水混合物の体積比は広い範囲内で変化しうる。前記体積比は体積%で99:1~1:99であることが好ましく、体積%で70:30~30:70であることがより好ましく、体積%で55:45~45:55であることが最も好ましい(抽出に用いる混合物全体における、アルコールの水に対する比(alcohol to water)に基づく)。好ましい比としては、それぞれ体積%で、アルコール:水として、10:90~70:30、10:90~60:40、20:80~70:30、又は20:80~60:40が挙げられる。
【0050】
好ましくは、抽出剤としてエタノールと水の混合物が用いられ、この混合比は体積%で70:30~30:70、特に体積%で60:40~40:60、又は体積%で55:45~45:55であることが特に好適である。別の実施形態では、特に好適な抽出剤として、体積%で10:90~30:90の量の水混合物が挙げられる。好ましい比は、それぞれ体積%で、エタノール:水として、10:90~70:30、10:90~60:40、20:80~70:30、又は20:80~60:40である。全ての体積%の値は21℃における体積に基づく。
【0051】
一方、他の混合物、例えば水と有機溶媒(ケトンや有機酸など)の混合物も抽出剤として使用することができる。選択された有機溶媒の特徴は、抽出プロセス後に蒸留、揮散又は凍結により濃縮された抽出物から除去されたということである。
【0052】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、上述の例示抽出剤により調製された抽出物はそのまま使用されるのではなく、一次抽出物としてさらに精製される。そのような処理工程は、
- 細胞成分の存在下での水性抽出物の酵素処理;
- 蒸留、好ましくは共沸蒸留による、精油画分と揮発性有機成分の除去
- 脂肪族炭化水素を用いた液液精製による、精油画分と植物樹脂やクロロフィル等の脂溶性成分の除去;
- n-ブタノール又は酢酸エチルを用いた液液抽出による極性の貴重成分の濃縮;
- 固相、例えば有機吸着ポリマー上での固液抽出による、極性の貴重成分の濃縮;
であってもよい。
【0053】
上記精製工程、及び上記一次抽出物からの抽出物画分の回収の実施は当業者に知られるいかなる方法で達成されてもよく、したがってここではさらなる説明を要しない。
【0054】
また、本発明の別の好ましい実施形態では、レモンバーベナ葉抽出物及び/又はかかる抽出物から調製された画分は、単独で用いても互いを組み合わせて用いてもよい。同様に、本発明によれば、レモンバーベナ葉抽出物及び/又はかかる抽出物から調製された画分は、単独で又は互いに組み合わせて、さらに化学合成物質と組み合わせて使用することもまた好ましい(例えば非選択的モノアミン再取り込み阻害剤(NSMRI)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(NARI)、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)、ドパミン再取り込み阻害剤(DRI)、選択的ノルアドレナリン-ドパミン再取り込み阻害剤(NDRI)、又はMAO阻害剤)。
【0055】
上述した実施形態における本発明の使用は、医薬製剤の形態での使用であってもよい。したがって、通常の医薬剤型での用量投与が可能である形態の、所定濃度のレモンバーベナ抽出物を含む、当業者に知られる通常の形態をとってよい。当業者に知られるように、剤型は投与経路(経口、静脈内、筋肉内、経鼻)に依存し、固形、半固形、噴霧状、気体状、又は所望の経路での投与を可能とする他の形態をとってよい。さらに、上述の剤型のうちの1つに係る本発明の使用は、栄養補助食品としての使用であってよい。
【0056】
以下の好ましい実施形態の例によって本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は、例としてレモンバーベナ抽出画分 対 50体積%エタノールによる一次抽出物を用いた、フラボノイド物質(黄)及びCQA成分(水色)の薄層フィンガープリント比較である。抽出物の同一の天然画分をアプライした。
【
図2a】
図2aはin vivoでのモリス水迷路行動試験を表す。
【
図2b】
図2bはモリス水迷路行動試験の試験セッティングを表す。
【
図2c】
図2cはマウス(n=6)認知試験モデルにおけるレモンバーベナ抽出物(20体積%及び55体積%エタノール)の認知能力に対する影響を示す。
【
図3a】
図3aはin vivoでの遠隔ステレオEEG決定を示す;本発明のレモンバーベナ抽出物(50体積%エタノール)を用いたときのn=7のラット;150mg/kg体重、65分以内の早いCNS活動。
【
図3b】
図3bは、1ml/kg体重で水を投与したラットの対照群での、in vivoにおける遠隔ステレオEEG決定を示す。
【
図3c】
図3cは本発明のレモンバーベナ抽出物(50体積%エタノール)を用いたときのin vivoにおける遠隔ステレオEEG決定を示す-合成活性物質及び欧州薬局方グレードのイチョウ抽出物と比較した、健康なラット(n=8)におけるバッチUB2010-98。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0058】
レモンバーベナ葉抽出物の調製及び特徴解析
<実施例1:水による抽出物>
15リットルの浸透水に1500gのレモンバーベナ葉(folia Aloysia citriodora)を80℃で2回混合し、時折攪拌しながら8時間抽出する(動的浸軟(bewegte Mazeration))。混合物を一晩放置し冷却する。溶出液を抽出した原料から分離し、セルロースフィルターを通して透明になるまで濾過する。濾液をプレートエバポレーターで蒸発させ、粘稠な濃厚抽出物を得る。全ての揮発成分を除去するために、水を添加した後蒸発プロセスを2回繰り返す。固形分71.4%にまで蒸発させた622gの濃厚抽出物に、190gのマルトデキストリン(乾燥剤)を添加する。この70%天然抽出物の調合物を噴霧乾燥し、ベージュの粉末を得る(スプレーヘッドの温度:185℃、スプレータワーからの出口温度:105℃)。得られる抽出物の調合物は、0.01%未満の精油、含有率0.06%のフラボノイド、及び1.8%のベルバスコシドの画分に特徴付けられるベージュの粉末である。
【0059】
<実施例2:20体積%エタノール水溶液による抽出物>
10リットルの20体積%エタノールに1700gのレモンバーベナ葉(folia Aloysia citriodora)を50℃で2回混合し、8時間浸透させる(動的抽出(bewegte Extraktion))。溶出液を抽出した原料から分離し、40μmセルロースフィルターを通して透明になるまで濾過する。濾液をSambayエバポレーターでエタノール画分から分離し、均一な濃厚抽出物を得る。減圧下で繰り返し水を添加し再度蒸発させることで、抽出物を揮発成分から分離する。固形分69.5%にまで蒸発させた611gの濃厚抽出物に、182gの乾燥剤を添加する。この70%天然抽出物の調合物は28%のマルトデキストリン及び2%のアエロジル(フュームドシリカ)を含んでおり、45℃の真空乾燥炉で乾燥される。続いて抽出物は目開き0.315mmのふるいミルで均一なベージュ-茶色の粉末に粉砕される。得られる抽出物の調合物は、0.01%未満の精油、含有率0.06%のフラボノイド、及び4.3%のベルバスコシドの画分に特徴付けられる。
【0060】
<実施例3:50体積%エタノール水溶液による抽出物>
10リットルの50体積%エタノールに1700gのレモンバーベナ葉(folia Aloysia citriodora)を50℃で2回混合し、8時間濾過する(動的抽出)。混合物を抽出した原料から分離し、40μmのセルロースフィルターを通して透明になるまで濾過する。濾液をプレートエバポレーターで予備蒸発させ、ロータリーエバポレーターで真空下、45℃で最終的に蒸発させ、無溶媒の濃厚抽出物を得る。全ての揮発成分を除去するために、水を添加してエバポレーション工程を2回繰り返す。固形分64.3%にまで蒸発させた750gの濃厚抽出物に、206gの乾燥剤を添加する。この70%天然抽出物の調合物は28%のマルトデキストリンと2%のアエロジル(フュームドシリカ)を含んでおり、45℃の真空乾燥炉で乾燥される。続いて抽出物は目開き0.315mmのふるいミルで均一な茶色の粉末に粉砕される。得られる抽出物の調合物は、0.01%未満の精油、含有率0.51%のフラボノイド、及び11.6%のベルバスコシドの画分に特徴付けられる。
【0061】
<実施例4:96体積%のエタノールによる抽出物>
15リットルの96体積%エタノールに1500gのレモンバーベナ葉(folia Aloysia citriodora)を室温(20℃)で2回混合し、時折攪拌しながら8時間抽出する(動的浸軟)。混合物を乾燥抽出物から分離し、40μmのセルロースフィルターを通して透明になるまで濾過する。クリアグリーン様の濾液をプレートエバポレーターで蒸発させ、濃厚抽出物を得る。全ての揮発成分を除去するために、水を添加してエバポレーション工程を2回繰り返す。固形分65.8%にまで蒸発させた190gの濃厚抽出物に、54gの乾燥剤を添加する。この70%天然抽出物の調合物は20%のマルトデキストリンと10%のアエロジルを含む。この親油性抽出剤では、増加したクロロフィル画分の結合及び乾燥のためにシリカを増量する必要がある。最後に、この物質は45℃の真空乾燥炉で乾燥され、ボールミルで粉末状に粉砕される。得られる抽出物の調合物は、0.01%未満の精油、含有率1.70%のフラボノイド、及び19.6%のベルバスコシドの画分に特徴付けられる緑-茶色の粉末である。
【0062】
【0063】
薬剤/抽出物比(drug-to-extract ratio)は濃度係数を示す。算術的には、これは天然の抽出物の収率の逆数である。
【0064】
全ての比較混合物は、レモンバーベナ葉の単一かつ同じバッチから生産された。このバッチは欧州薬局方グレードに対応していた(精油含有率0.5%;アクテオシド含有率5.6%)。それぞれの調製のバリエーションはいずれも、異なる溶液特性、外観、及び異なる極性成分含有率(フラボノイドやベルバスコシド(フェニルエタノイド))を有する、精油を含まない抽出物の調合物を生じた。フラボノイドの決定は、参照物質ヒペロシドを用いて白樺の葉で実施される欧州薬局方の方法と同様に、UV分光法によりグループ決定として行われた。ベルバスコシドはアクテオシドと同義であり、その決定は、欧州薬局方(1834)と同様にレモンバーベナ葉のアクテオシドHPLC法と同様に行われた。
【0065】
<実施例5:レモンバーベナ葉抽出物の、神経伝達物質であるノルアドレナリン、ドパミン及びセロトニンに影響する特性の決定>
ドパミン再取り込み試験、セロトニン再取り込み試験、及びノルアドレナリン再取り込み試験のため、Perovic及びMuller[Perovic S, Muller WE, 1995, Arzneimittelforschung 45; 1145-1148]に従い、ラットから新たに単離したシナプトソームを用いた。リガンドとしては、[3H]-ドパミン、[3H]-ノルアドレナリン、及び[3H]-セロトニンをそれぞれ使用した。試験物質をシナプトソーム及び対応するリガンドと共に暗所で37℃、15分インキュベーションした。続いて試料をGF/Cフィルタープレートに移動し、冷やして2回洗浄し、乾燥し、その後フィルターに結合した放射性物質をマイクロタイタープレートカウンター(Microbeta、Wallac、フィンランド)で計測した。100%再取り込みの決定のため、試験物質を用いないで実験を行った。対応する阻害剤(ドパミン再取り込み阻害にはGBR12909、ノルアドレナリン再取り込み阻害にはプロトリプチリン、及びセロトニン再取り込み阻害にはイミプラミン塩酸塩)とともにインキュベーションしたときの測定値を0%とみなした。
【0066】
Sommerらによれば、ADHDにおける抽出物の適合性の最初のスクリーニングにおいて、併用薬には、ドパミン又はノルアドレナリンの50μg/ml未満の範囲での平均再取り込み阻害が推奨されており、約20μg/mlは強力な例として推奨されている(Sommer et al.: Ein pflanzliches Arzneimittel im Vergleich zu Methylphenidat: Ein alternativer Weg in der zukunftigen Behandlung von ADHS?, GPT poster contribution to the GPT Phytokongress in September 2017 in Munster, Germany, Zeitschrift fur Phytotherapie Issue S 01・Volume 38・DOI: 10.1055/s-007-34868)。Markowitzらは、セロトニンに対する顕著に低い影響を見出し、ノルアドレナリン及びドパミンに対する効果を確認した(Moskowitz et al.: A Comprehensive In Vitro Screening of d-, l-, and dl-threo-Methylphenidate, Journal of child and adolescent Psychopharmacology 16, 2006, 687-698)。
【0067】
【0068】
驚くべきことに、試験した4つ全てのレモンバーベナ抽出物において、3つの神経伝達物質の再取り込み阻害の非常に高い能力が観察された。ノルアドレナリンに対して最も高い能力が観察され、4つ全ての抽出物において25μg/ml未満という非常に強力な再取り込み阻害が示される。また、4つの抽出物はいずれも用量依存的にドパミン再取り込み阻害能を有する。3つの水-エタノール抽出物は、最高30μg/mlという良好なIC50値を示す。水性抽出物でも良好な効果を示すが、水-エタノール抽出物に対して2.6倍以上効果が弱い。セロトニンに対する影響についても類似の構図がみられた。この場合でも、水性抽出物が最も低い活性を示した。水-エタノール抽出物は、良好(抽出物4)及び非常に良好(抽出物2)~中程度(抽出物3)の活性という、抽出剤に対する明らかな依存性を示す。しかしながら全体として、これらの抽出物はメチルフェニデートと比較して顕著に高いセロトニン再取り込み阻害活性を示す。したがって、セロトニンのノルアドレナリンに対する活性比(activity ratio of serotonin to noradrenaline)は、メチルフェニデートでは86倍であるが、抽出物2及び抽出物4ではこの場合約4.1倍である。このため、驚くべきことに、レモンバーベナ葉抽出物ではノルアドレナリン及びドパミンに影響する基本的に類似の活性プロファイルが見出され、またセロトニンに対しても改善された影響が見出される。試験された最も重要性の高い神経伝達物質群を考慮すると、これらの抽出物はADHDの治療に非常に好適な候補である。
【0069】
また、上述の結果を濃度係数(天然DER値(薬剤/抽出物比))及び抽出物のガレノス製剤特性との関係でとらえると、抽出物2や3のように極性が中等度の抽出物で好ましい範囲が得られる。ここで抽出剤としての純水と比較して、濃縮度はほぼ同一であり、ガレノス製剤特性は類似しているが、薬理特性には顕著な改善がみられる。これを96体積%エタノールの高親油性抽出剤による抽出物4と比較すると、抽出物4では抽出物2よりも3倍も濃縮度が高く、DERが12:1である。3つの神経伝達物質について得られたIC50値を、追加の濃縮度3で除算し、乾燥葉からの算術的に同程度の全濃縮度のIC50値を得る(ここでは天然DER=4:1)。
【0070】
【0071】
この数値比較によると、純粋エタノールによる親油性の抽出物(抽出物4)は、原料中の効果に決定的な成分を、中等度の極性を有する水性エタノール抽出物(抽出物2)と同程度含む(これらが同じ抽出物の収率に基づく場合;ここではDER=4:1)。5~10%の相対利得誤差を考慮すると、3つ全ての神経伝達物質に関して実質的に同じ結果が得られている。
【0072】
これは、高い抽出コストによる経済効率を考慮しても(多くの材料の使用が必要:12倍と4倍)、利点とはいえない。また、抽出物2及び3に比べて抽出物4では外観(緑-茶色)、取り扱い性(吸湿性の乾燥抽出物)及び溶解性(水性媒体に実質的に不要)に関するガレノス製剤特性にも劣る。これは、96体積%エタノールで起こりやすい、葉からのクチクラワックス及びクロロフィル画分の移行に起因する。これらの問題は最大で50体積%又は60体積%エタノールを使用すると回避できる。
【0073】
さらなる精製
50体積%エタノールにより得られる一次抽出物に続いて、生産技術の観点から、強親油性、非極性及び極性親水性成分への分離が行われた。そのため、液液分離、固液相分離及びエタノール再沈殿などの公知の分離技術を用いて、全6個のサブフラクションを得た。これらを、回収率(=濃縮係数)、典型的な成分、及び薄膜クロマトグラフィーによるフィンガープリントについて調べた(
図1参照)。
【0074】
<実施例6:液液抽出>
実施例3と同様に調製した50体積%エタノールによる一次抽出物を脱塩水に固形分10%となるように再溶解し、持続的に攪拌した。n-ブタノールの一次溶液を、1/3ずつ3回添加し、次いで激しく攪拌した。続いて、分離ファンネル内での相分離を行った。前記3つのブタノール相を合わせて、真空下で溶媒がなくなるまでロータリーエバポレーターで蒸発させた。その後、この70%天然/30%乾燥剤(28%マルトデキストリン及び2%シリカ)の抽出物相を45℃の真空乾燥炉で乾燥させ、均一な粉末に粉砕した。残りの水相も同様に処理し、70%天然の抽出物粉末として乾燥させた。
【0075】
<実施例7:エタノール中での再沈殿>
実施例3と同様に調製された50体積%エタノールによる一次抽出物を、溶解形態のうちの全固形分が10重量%となるまで、96体積%エタノールに複数回にわけて添加した。60分間攪拌した後、溶液を6℃の低温下に24時間放置した。親水性物質が沈殿物として沈殿した。
【0076】
デカンテーションにより上部エタノール層を分離した後、沈殿物を水中に回収した。この混合物を溶媒がなくなるまで真空下でロータリーエバポレーターで蒸発させた。続いて、この70%天然/30%乾燥剤(28%マルトデキストリン及び2%シリカ)の抽出物相を45℃の真空乾燥炉で乾燥させ、均一な粉末に粉砕した。エタノール上清も溶媒がなくなるまで真空下でロータリーエバポレーターで蒸発させ、70%天然の抽出物粉末として乾燥させた。
【0077】
<実施例8:固液分布>
実施例3と同様に調製された50体積%エタノールによる一次抽出物を、全固形分が10重量%となるまで、脱塩水に再溶解させ、30分間攪拌した。溶液を低温下に一晩12時間放置した。少量の抽出物が不溶の固体として沈殿した。これを、折りたたんだフィルターでろ過して廃棄した。透明な溶出液をXAD-7HP型の吸着剤で満たされたガラスカラムに載せた。溶解した天然抽出物の添加量は吸着剤の乾燥重量に対して25重量%であった。吸着剤は非常に選択的であり、フラボノイド、フェノール等の極性の中程度のサイズの物質を結合し、糖、塩、アミノ酸等のより小さい分子を通過させる。吸着剤のフィルター効果により、吸着剤の内部に物質が保持される。これらを2ベッドボリュームの96体積%エタノールによる溶出により洗浄した。得られたエタノール性溶出液を溶媒がなくなるまで真空下でロータリーエバポレーターで蒸発させた。続いて、この70%天然/30%乾燥剤(28%マルトデキストリン及び2%シリカ)の抽出物相を45℃の真空乾燥炉で乾燥させ、均一な粉末に粉砕した。先に回収した、吸着剤を通過した水相も同様に処理して乾燥させ、70%天然画分と30%添加剤の乾燥抽出物粉末とした。
【0078】
【0079】
【0080】
また、成分に関する分析データも考慮すると、上記分画により、中等度の極性~極性-親油性物質への濃縮によって活性効果を高めることができることが示される。フラボノイド、カフェイン酸(CQA成分)及びベルバスコシドの成分グループの濃縮では、試験した3つのいずれの神経伝達物質においても再取り込み阻害が増加する。
【0081】
これは吸着剤樹脂分離により得られた抽出物9、10において特によくみられる。吸着剤は目的物質を水相(抽出物9)より選択的に分離し、これによりセロトニンとドパミンに対する活性が一次抽出物と比較して明らかに減少した。ノルアドレナリンが同程度に影響を受けたという事実はまた、個々のマーカー物質やマーカー物質群というよりも、全体的な抽出物が活性を決定することを示している。吸着剤からのエタノール抽出物相(抽出物10)は、製造技術のみによって3.2倍の濃縮を達成しうることが示唆される(分画により12.9、一次抽出物では4.0)。神経伝達物質に対する全体的な影響はちょうどこの度合いとほぼ一致して改善した。
【0082】
抽出物7及び8(エタノールへの再沈殿)を例にとると、各分画は、相対量分布がそれぞれ50%であり濃縮度に差がないとした場合、概ね同じ薬学活性が得られることを示している。ここでも、いくつかの分析マーカー物質(フラボノイド、ベルバスコシド)の異なる分布にもかかわらず、これらは効果に寄与するものの、唯一の活性物質というわけでは全くないことが見出されている。これらは全て抽出物調製方法に依存している。また、この実施例は、一次抽出物と比較して、本明細書で試験された3つ全ての神経伝達物質へのレモンバーベナ抽出物の影響をあらためて支持している。
【0083】
これらの入手可能な肯定的なin vitroデータを考慮すると、これがin vivoではどの程度示されるのかという疑問が生じる。これに適切なモデルは線虫C.elegansである。Caenorhabditis elegansは特に発生生物学及び遺伝学におけるモデル生物として研究されている線虫である。この重要な理由は、C.elegansは約1000の体細胞しか有しないにもかかわらず、20、000を超える遺伝子を有しており(ヒト:約40,000)、このうちの多くは哺乳類と類似の機能を有しているためである。この虫のゲノムにコードされるタンパク質の約半分はHomo sapiensのものと相同性を有し、このなかには多くの種類の周知のヒト疾患遺伝子も含まれる。したがって、C.elegansは代謝、目的遺伝子発現、及び神経の挙動に関する代表的なモデル生物である。この線虫の完全な神経系は約300の神経細胞からなり、2つの独立した部分から構成される:より大きな体性神経系及びより小さな咽頭神経系である。この線虫は、神経伝達物質として、アセチルコリン、グルタミン酸、GABA(γ-アミノ酪酸)及び、セロトニン、ドパミンなどの生体アミンを使用する。
【0084】
C.elegansは温和な気候帯の土地に生息し、細菌を餌とする。この生物は約1mmの長さに達し、透明なクチクラを有する。C.elegansは15~20日の短寿命である(気温及び餌量に依存する)。これらは、寒天プレート上でEscherichia coli細菌を餌として与えることにより良好な再現性で増殖させることができる。課題に応じて、規定の物質による変化した生産物が蛍光測定により直接検出できる、又は行動テストにより検出できるトランスジェニック虫が選択的に用いられる。
【0085】
<実施例9:ドパミン産生神経細胞の6-OHDA誘導性変性からの保護>
6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)はドパミン産生神経細胞を損傷し、これは様々な動物モデルで使用される。トランスジェニックC.elegans BZ555株はドパミン産生神経細胞において緑色蛍光タンパク質を発現する。そのため、6-OHDA誘導性神経変性又はその減少を蛍光顕微鏡で定量化することができる。この線虫を50mMの6-OHDAに暴露すると、神経変性により神経細胞の蛍光強度が減少する。選択的ノルアドレナリン-ドパミン再取り込み阻害剤(NDRI)であるブプロピオンを陽性対照として用いる。ブプロピオンは、ノルアドレナリン(NA)又はドパミン(DA)トランスポーター(再取り込み)の阻害を通して、ニューロトキシンである6-OHDAの神経細胞内への侵入及び神経細胞の損傷を防ぐ。実施例3に従い50%エタノールから得られた600μg/mlのレモンバーベナ抽出物で処置すると、陰性対照と比較して蛍光強度が約20%増加した(保護機能)。
【0086】
【0087】
動物モデルにおける6-OHDAによる神経細胞損傷はADHDの実験的設定として一般的に認識されている(Kostrzewa RM et al.: Pharmacological models of ADHD; J Neural Transm (Vienna) 2008; 115: 287-98)。ここで使用されたC.elegansモデルでは上記陽性対照によりこれが確認される。本発明のA.citriodora抽出物は陽性対照と同様にNA及びDAの再取り込みを阻害することが報告されている(上記実施例5を参照)。本発明のA.citriodora抽出物は陽性対照の保護機能の約1/3まで達成する。
【0088】
<実施例10:C.elegansモデルにおけるβ-アミロイド誘導性毒性に対する影響>
β-アミロイド毒性に対する効果を試験するため、ヒトβ-アミロイド(Aβ1-42)を発現可能なトランスジェニックC.elegans CL4176株を用いた。Aβ発現は温度を上昇させることにより誘導できる。日齢を同期させて処置を行った虫を16℃で48時間インキュベーションした。温度を25℃に上げて24時間インキュベーションすると、これらの虫はAβオリゴマーの毒性の影響で麻痺し始めた。麻痺を2時間毎に評価した(Heinerらの実験セッティングに従う:Sideritis scardica extracts inhibit the aggregation of α-synuclein and β-amyloid peptides in Caenorhabditis elegans used as a model for neurodegenerative diseases. Planta Medica 81 - PW_127,2015)。このβ-アミロイドの毒性作用に対抗する物質は、この生物において麻痺を緩徐にするか、遅らせた。そのような物質は神経変性、特にアルツハイマー性認知症における神経変性を遅らせる。これらの線虫のちょうど50%が麻痺した時間の中央値(PT50)を比較値として使用した。
【0089】
【0090】
レモンバーベナ葉抽出物(50体積%エタノール)による処置はβ-アミロイド誘発性の麻痺を1.5時間遅らせた。この抽出物の個別の物質として生じるアクテオシドは保護的効果にプラスに寄与する(+1.8時間)。ADHDに適することが報告されているSideritis scardica(欧州特許第2229950号明細書)からの植物抽出物(50%エタノール)を同じモデルで試験して陽性対照として用いたところ、非常に顕著な効果が示された(+3.5時間)。
【0091】
<実施例11:β-アミロイド誘発性の神経細胞機能障害に対する影響>
β-アミロイド種は神経細胞に損傷を与え、神経により制御される行動の障害を引き起こしうる。トランスジェニックC.elegans CL2355株は全神経細胞レベルでヒトβ-アミロイドタンパク質を発現する。これは、誘引物質(ベンズアルデヒド)への走化性の低下など、認知障害を引き起こす。この実験では、走化性指数、すなわち寒天プレート上で誘引物質に向かって移動した虫の割合を測定した。対照株であるCL2122はβ-アミロイドを発現せず、行動障害を示さない。また走化性指数もこれに対応して高い。実験はHeinerらに従って行われた。
【0092】
【0093】
本発明のレモンバーベナ葉抽出物(50体積%エタノール)による処置は、2.3倍も増加した顕著な走化性指数を示した。未処置の試験株に対する改善は46%であった。これは、この認知能力に重要な神経細胞のβ-アミロイド誘発性変性の減少に起因する。この抽出物の個別の物質として生じるアクテオシドは、明らかに神経細胞保護効果に関与している(対照株CL2122の走化性指数の約88%に達した)。
【0094】
<実施例12:Morris水迷路(MWM:Morris water maze)における行動実験>
「Morris水迷路」動物モデルにより、特にストレス存在下において、学習能力、特に維持力の向上によって、認知能力の向上が可視化される。側部の独特のマーク(いわゆる外部キュー)を備えた、泥水で満たされた丸いプールで、試験動物、この場合マウスを、水面下に備えられた隠れたプラットフォームを独自に発見し、その空間的位置を記憶するように数日間学習させる。マウスを端から約30cm距離をおいて水に入れると、この動物はすぐに水泳行動で救助プラットフォームに到達しようとする。動物での従来の単純な迷路に対する、1980年代初頭から知られている本測定系の利点は、局所的な目印がなく全体的な目印しかないこと、及び本タスクには動物の避難行動による高いモチベーション要素が存在することである。この実験は主にストレス状態の動物における(空間的)学習(認識及び記憶)の試験、及びこれらに対して起こり得る影響の測定を目的としている。測定するパラメータには、プラットフォームを発見するまでの時間、そこにたどり着くまでの距離、及びプールの正しい四分円での相対的滞在時間が含まれる。これらのパラメータは学習効果により影響を受ける。そのため、発見までの時間及び行動距離は通常減少していき、四分円の滞在時間は長くなる。学習効果は神経伝達物質の異なる濃度によっても影響を受ける(博士論文、University of Freiburg 2004, Theresa Schweizer: 3,4-Diaminopyridin evozierte Freisetzung von Neurotransmittern aus Hirnschnitten von Ratten: Untersuchungen im Kortex und Hippocampus an alten Ratten, sowie an Ratten mit serotonergen Lasionen hippocampaler Afferenzen und intrahippocampalen Raphe-Transplantaten)。
【0095】
本試験の設定では、特に6個体の2群のマウスを試験した。第1の対照群は水で処置されたトランスジェニック動物(AD-B6株)から形成された。この株は遺伝的性質により生後50日後に高度のβ-アミロイド沈着を生ずるか、アルツハイマー病を発症した。他の2つの対照群は生後50日後に実施例2又は実施例3に従うレモンバーベナ抽出物の溶液で処置したトランスジェニック動物(AD-B6株)からなる。各ケースにおいて用量は天然抽出物400mg/kg体重とした。
【0096】
約95日齢でモリス水迷路による行動生物学試験を開始した(95~100日目)。試験は、4日間にわたり、毎日早い時間及び遅い時間に1回の試験/学習ユニットを含んだ。早い時間のユニットではプラットフォームなしでの30秒間のランから開始し、プラットフォームが通常位置する四分円(目標四分円)にマウスが滞在する時間を記録する。他の4回のランは隠されたプラットフォームを用いて4つの異なる開始地点から行われた。
【0097】
解析されたパラメータは、プラットフォームに到達するまでの時間(避難時間)であり、
図2に視覚的に評価されている。評価では、本発明の20体積%エタノールからのレモンバーベナ抽出物による処置が、記憶能力に著しく向上をもたらすことが示されている。したがって、避難時間は1日目の相対100%から、2日目には24.6%へ、3日目には22.4%にまで改善した。若干より脂溶性の50体積%エタノールによるレモンバーベナ抽出物では、いくらかの遅延をともなって増強され、同程度にまで達した。避難時間は1日目の相対100%から、2日目には42.0%へ、3日目には19.1%にまで改善した。したがって、レモンバーベナ抽出物で処置された動物では、プラットフォームに達するのが2、3日目に既に早まっており、4日目にはさらに顕著に早まっていた(p<0.05)。このモデルでは、4日目には、処置された動物と健康な動物とでは学習能力が同レベルにまで達していた。しかしながら、これらは、β-アミロイド斑を有するトランスジェニック動物と比べると顕著に異なっている。これらの結果は、驚くべきことに、レモンバーベナ抽出物が認知能力を向上させることができることを示している。
【0098】
<実施例13:健康なラットにおける脳波図プロファイル>
脳波図(Electroencephalography;ギリシャ語のencephalon=脳、graphein=書く、に由来)、略称EEGは、電圧の変動を記録することによる脳の全電気的活動を測定する医学診断の手順である。脳波図はそのような変動の視覚的説明として神経学における標準化された試験手順を提供する。臨床評価のためには異なる電極の組み合わせを有する少なくとも12個のチャネルにおいて登録を要する。得られるデータは異常なパターンを決定するために専門家により調査することができる。EEG解析のための広く用いられる数学的方法は、周波数ドメインへのフーリエ変換である。しばしばEEGは複数の周波数バンド(いわゆるEEGバンド)に分けられ、そのバンド数と正確な分け方は一部異なって表されることがある。周波数バンドの分割及びその境界は歴史的に調整されており、より最近の研究で有用とみなされる境界と常に一致するわけではない。そのため、例えばシータ(θ)バンドは、部分的な範囲の異なる意味を考慮するためにθ1とθ2の範囲に分けられた。特に、長期間及び睡眠時EEGではパターン認識を再現する支援された又は自動的な評価のために、ソフトウェアアルゴリズムを使用する。
【0099】
しかしながら、脳波は測定することができるだけでなく、影響を与えることもできる。これは特にバイオフィードバックの特別な形態であるニューロフィードバックとして、向精神薬等の薬理学的活性物質の結果として起こすことができる(Dimpfel W et al. (1996) Source Density Analysis of Functional Topographical EEG: Monitoring of Cognitive Drug Action. Eur J Med Res 1: 283-290)。この評価はエレクトロファーマコグラムとも呼ばれる。ニューロフィードバックでは通常、従来のEEGよりもEEGバンドをより細分化してより詳細に解釈する。これらの周波数帯における振幅の増加はある種の精神的ストレスや精神活動と相関する。θ2波は例えば記憶及び学習能力、集中、及び/又は創作性と相関しうる。同様に詳細なキャリブレーションの後、ドパミン作動性、セロトニン作動性、コリン作動性、又はノルアドレナリン作動性のサブグループに分類される、神経伝達物質に仲介されるSNC活動について結論を出すこともできる。
【0100】
n=7の各Fischer-344ラットにおいて、「前頭葉」、「海馬」、「線条体」、及び「網様体」の4つの脳領域に4対のセミマイクロ電極を植え込んだ。測定可能な電位場の変化は無線で送信され、評価され、エレクトロファーマコグラムが得られた。
【0101】
動物を実施例3に従うレモンバーベナ乾燥抽出物の調合物の150mg/kg体重に相当する用量で処置した。この目的のために、各用量を水に溶解し1回投与した。対照実験として水を使用した。45分の投薬前観察期間の後、試験液をチューブで動物に経口投与し、その後動物のために5分間鎮静期間を設けた。その後、5時間の測定期間のための測定を開始した。高速フーリエ変換(FFT;fast Fourier Transformation)により周波数データを得て、60分間の平均を得た。対照(水)に対してウィルコクソン・マン・ホイットニーのU検定を使用して統計的評価を実施した。
【0102】
実施例3に従うレモンバーベナ50体積%エタノール抽出物の実験では、投与後1時間以内の複数の周波数バンドにおいて統計的に有意な変化がみられた(
図3、EEGグラフ参照)。特に、θ、α1、α2及びβ1周波数が影響を受けており、ノルアドレナリン作動性、セロトニン作動性、ドパミン作動性及びグルタミン作動性の系への影響が示唆される。この複雑な種類の活動はモノアミンオキシダーゼに対する阻害効果を有する薬剤で以前観察されている。例えば、抗鬱剤として承認されているモノアミンオキシダーゼ阻害剤であるモクロベミド、並びにドパミン-ノルアドレナリン再取り込み阻害剤であってセロトニン作動性受容体5-HT1A及び5ーHT2Bに対して追加的に作動性を有しADHD治療用途で承認されているメチルフェニデートにおいても、類似のエレクトロファーマコグラムが観察される。
【0103】
これらの結果は、レモンバーベナ抽出物がADHD治療に適することを示している。
【0104】
マウス血清において、ストレスホルモンであるコルチゾールの増加は観察されなかったため、この測定で通常みられる精神的ストレスは抽出物によって予防されたか少なくとも減少したと考えられる。
【0105】
また、イチョウ抽出物(薬局方グレード)のものと同様のEEGプロファイルが得られ、このことはレモンバーベナ抽出物の認知能力を改善する特性を示している。
【0106】
ラットEEGで見出されたデータは神経伝達物質の結合試験で得られたin vitroの結果を裏付けている。結論として、全ての前臨床データは総合してレモンバーベナ葉抽出物のCNS活性抽出物としての使用、好ましくは認知能力や注意欠陥・多動性症候群の改善の適用分野における使用の明確なエビデンスを提供している。
(付記)
本開示は以下の態様を含む。
<1> 神経障害又は脳障害の治療又は予防のためのレモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物であって、
前記抽出物が、10~60体積%のアルコール濃度のアルコール-水抽出物であり、
前記抽出物の精油の含有率は、添加剤を除く前記抽出物に対して0.05重量%未満である、
レモンバーベナ葉抽出物。
<2> 注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療のための、<1>に記載の使用のための抽出物。
<3> 精神的ストレスの予防、並びに/又は、ストレス関連疲労状態若しくはストレス障害、身体表現性障害(例えば、燃え尽き症候群)、急性及び外傷後ストレス障害、慢性疲労症候群、神経障害の症状としての、神経性不穏、精神的ストレス、不安、及び鬱、並びにストレス症状(例えば、疲労及び衰弱)の治療又は予防のための<1>に記載の使用のための抽出物。
<4> 認知能力を増強するための、<1>に記載の使用のための抽出物。
<5> 前記神経障害が、蓄積されたタンパク質又はペプチドと関連する神経変性疾患である、<1>に記載の使用のための抽出物。
<6> 前記抽出物が、レモンバーベナを水又はエタノールの混合物で抽出することにより得られ、好ましくはエタノール濃度が20~50v/vである混合物で抽出することにより得られる、<1>~<5>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<7> 前記抽出物が、
- 水と非混和性の適切な溶剤による液液処理;又は
- 適切な吸着剤樹脂又は吸着剤による固液処理、好ましくは極性成分を濃縮する前記固液処理、
により脂溶性成分を除去することにより、二次精製される、<1>~<6>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<8> 液体形態又は乾燥形態での抽出画分が用いられることを特徴とする、<1>~<7>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<9> 前記抽出物が、植物体の一部及び/若しくは抽出物の形態の他の植物と組み合わせて用いられる、並びに/又は化学合成物質と組み合わせて用いられることを特徴とする、<1>~<8>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<10> 前記調製物が経口摂取される、好ましくは飲料調合物、特にインスタント調合物から調製される飲料調合物として経口摂取される、さらに好ましくは錠剤、カプセル剤、トローチ剤、チュアブル製剤、ウエハー、又は融合錠剤として経口摂取される、<1>~<9>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<11> 前記抽出物のベルバスコシドの含有率が、添加剤を除いた前記抽出物に対して、少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%である、<1>~<10>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<12> 前記抽出物のフラボノイドの含有率が、添加剤を除いた前記抽出物に対して、少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも1.5重量%である、<1>~<11>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<13> 前記抽出物の精油の含有率が、添加剤を除いた前記抽出物に対して、0.01重量%未満である、<1>~<12>のいずれか1項に記載の使用のための抽出物。
<14> レモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物の製造方法であって、
濃度10~60体積%のアルコール及び水の混合物からなる抽出剤を用いた一次抽出工程;
植物体残渣の分離工程;
前記抽出剤の少なくとも一部の除去工程;
任意で、脂溶性成分の除去工程;
任意で、得られた液体粘性濃厚抽出物の、乾燥抽出物への乾燥工程;を含み、
前記抽出物の精油の含有率は、添加剤を除く前記抽出物に対して0.05重量%未満である、製造方法。
<15> 神経障害又は脳障害の非医学的治療又は非医学的予防、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の非医学的治療、精神的ストレスの非医学的治療、又は認知能力の非医学的増強、並びに/又はストレス関連疲労症状若しくはストレス障害、身体表現性障害(例えば、燃え尽き症候群)、急性及び外傷後ストレス障害、慢性疲労症候群、神経障害の症状としての、神経性不穏、精神的ストレス、不安、及び鬱、並びにストレス症状(例えば、疲労及び衰弱)の非医学的予防又は非医学的治療のためのレモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物の使用であって、
前記抽出物が、10~60体積%のアルコール濃度のアルコール-水抽出物であり、
前記抽出物の精油の含有率は、添加剤を除く前記抽出物に対して0.05重量%未満である、使用。
<16> レモンバーベナ(Aloysia citriodora)葉抽出物であって、前記抽出物は10~60体積%のアルコール濃度のアルコール-水抽出物であり、前記抽出物の精油の含有率は、添加剤を除く前記抽出物に対して0.05重量%未満である、レモンバーベナ葉抽出物。