(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】腎機能を改善させるための心臓補助デバイスの使用
(51)【国際特許分類】
A61M 60/33 20210101AFI20240904BHJP
A61M 60/178 20210101ALI20240904BHJP
A61M 60/139 20210101ALI20240904BHJP
A61M 60/237 20210101ALI20240904BHJP
A61M 60/515 20210101ALI20240904BHJP
A61M 60/857 20210101ALI20240904BHJP
A61M 60/865 20210101ALI20240904BHJP
【FI】
A61M60/33
A61M60/178
A61M60/139
A61M60/237
A61M60/515
A61M60/857
A61M60/865
(21)【出願番号】P 2021565892
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 US2020031861
(87)【国際公開番号】W WO2020227521
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-05-01
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフィー ノーム
(72)【発明者】
【氏名】クラン ジェラルド ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】パークス ランディ
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-509950(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0238671(US,A1)
【文献】特表2015-514531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓内にポジショニングされて稼働され、心室、心房
、心房および心室、または両心房および両心室を負荷軽減するよう構成された、第一の
血液ポンプと;
前記患者の下大静脈内にポジショニングされ
、かつ
前記患者の前記下大静脈内の血液をポンプ送りすることによって
前記患者の下大静脈内で稼働されるよう構成された、第二の
血液ポンプと;
該第一
の血液ポンプおよび
該第二の
血液ポンプの両方を稼働させるよう構成されたコントローラと
を具備し、
該第一
の血液ポンプおよび
該第二の
血液ポンプが、同時に稼働された時に
前記患者の腎静脈における目標圧力降下を実現するよう構成されている、
患者の腎機能を改善するためのシステム。
【請求項2】
前記コントローラが、
前記第一の
血液ポンプから動脈圧を、そして
前記第二の
血液ポンプから静脈圧を受け取ること;
腎静脈における圧力降下が該腎静脈における目標圧力降下を下回っていると決定すること;および
該腎静脈における該目標圧力降下を実現するため、該第一の
血液ポンプおよび該第二の
血液ポンプのうち少なくとも1つの稼働を調整すること
を行うよう構成されている、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
目標圧力降下が、
前記患者の腎臓による尿産生を増加させるのに充分
な所定の量である、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
尿産生を刺激
し、腎臓からの尿内容物を調節するため、心臓からの血流を増加させ、かつ腎受容体または別の臓器の受容体に結合する少なくとも1つの体液性因子の産生を刺激する
所定のレートで、
前記第一の
血液ポンプを稼働させるよう構成された、コントロールユニット
をさらに具備する、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記第二の
血液ポンプが、
ポンプモーターと;
該ポンプモーターの遠位にありローターを囲んでいるポンプハウジングと;
該ポンプハウジングの遠位に延在するカニューレと;
該第二の
血液ポンプの稼働中に、該第二の
血液ポンプを
前記患者の下大静脈に係留するよう構成された係留デバイスと
を具備する、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記係留デバイスが、
前記カニューレの一部分を囲んでいるバルーンである、請求項
5記載のシステム。
【請求項7】
前記バルーンが、膨張時に
前記患者の下大静脈を部分的に閉塞するよう構成されている、請求項
6記載のシステム。
【請求項8】
前記第二の
血液ポンプが、
前記腎静脈が
前記患者の下大静脈に接続する位置にインレットがポジショニングされる状態でポジショニングされる、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記第一の
血液ポンプが、動脈圧を測定するよう構成された第一圧力センサーをさらに具備する、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記第二の
血液ポンプが、静脈圧を測定するよう構成された第二圧力センサーを具備する、請求項
9記載のシステム。
【請求項11】
前記第一
の血液ポンプおよび
前記第二の
血液ポンプの両方が同時に稼働している時に、測定される静脈圧と測定される動脈圧との差が増加する、請求項
10記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2019年5月8日に提出された米国特許出願第16/406,896号「Use of Cardiac Assist Device to Improve Kidney Function」に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
腎臓は体内で動脈の流体圧をコントロールするうえで中心的な役割を果たす。腎臓は、水分の排出量(利尿)を変化させることによって、そして塩分の排出量(ナトリウム利尿)も変化させることによって、腎排出量を調節する。その調節は腎排出量曲線(
図1)に反映され、その曲線において尿排出量は動脈圧に応じて変動する。正常な状態において、腎臓それ自体が、血圧もしくは流速の増減または塩分濃度の変化に応じて尿排出量および腎血流を増減させて自己調節することができる。しかし、損傷または腎機能のその他の変化によって自己調節が損なわれる可能性がある。例えば、腎機能が損なわれると、循環中の水分および塩分のレベルが上昇して、動脈圧が上昇する可能性がある。逆に、心不全または冠疾患は心拍出量を劇的に減少させる可能性があり、それは腎動脈への血流を減少させて尿排出を損なう。
【0003】
多くの人々が急性腎疾患、腎不全、および他の腎障害で苦しんでいる。一部の腎障害は、CTスキャン、血管造影、ならびに他の検査手技中に用いられる造影剤、色素、および他の媒質によって引き起こされるかまたは増悪すると考えられている。それらの状態には、例えば、造影剤誘発性腎症および腎原性全身性線維症、または一般的な腎毒性が含まれる。糖尿病、心疾患、血液疾患、および他の血管疾患がある患者は、そうした障害に対する易罹患性が高まっている可能性がある。頻繁にみられる腎障害の1つの指標は、乏尿(急性の尿排出量低下)として公知である急性状態を伴う、腎糸球体濾過率(GFR)および腎排出量の低下である。
【0004】
特に手術時、心機能が弱っているかつ/または既存の腎臓状態がある患者は、心臓バイパスを受けることが必要である可能性がある。それら患者の心臓は、手術のストレスの結果として、全身にストレッサーを放出する。心臓から放出されるストレッサーのタイプおよび量は、手術(例えばCABG、弁置換、弁修復など)の長さおよび性質によってさまざまである。患者は、手術中または手術直後のいずれかに、回復の指標として腎排出量をモニターされることがある。例えば、患者の回復を測るため、クレアチニン上昇または濾過率低下がモニターされることがある。フラットなライン圧を提供する、ECMOなど現在のシステムは、腎機能を改善させず、むしろ腎臓を高圧状態に置くことによって損傷する可能性がある。高リスクの心疾患患者(例えば STEMI、CS、PCI)は、急性の腎疾患、腎不全、または腎障害をきたすことも多く、回復の指標として腎排出量をモニターすることは、これらの患者にとって特に重要である。
【0005】
特に血管疾患の症例において、腎臓の機能性を改善できる、改善された方法およびシステムを提供することが望ましい。とりわけ、腎排出量の改善、さまざまな作用物質の腎毒性の低減、およびコントロールされた腎臓自己調節のうち、1つまたは複数を提供できるシステムまたは方法を提供することが望ましい。尿排出量を増加させそして望ましくないストレッサーを体外に出す処理を増加させるため、腎臓に入るフローを増加できるシステムまたは方法を提供することが望ましい。腎臓に入るフローの増加がもはや必要ないほど、腎臓に入るフローが充分であるかを決定するため、腎臓パラメータをモニターできるシステムまたは方法を提供することもまた望ましい。
【発明の概要】
【0006】
概要
前述の問題点のうち1つまたは複数に対処するための方法およびシステムを本明細書に提供する。腎排出量は腎臓を通る血流を増加させることによって増加できる。腎臓を通る血流は、心臓を負荷軽減しかつ腎臓の上流の動脈圧を維持または増加させるか;腎臓の下流の静脈圧を維持または低減させるか;または、両者の組み合わせによって調節できる――その選択は、腎臓を横切る圧力勾配を維持または増加させるために行われる。心臓を負荷軽減しかつ腎臓の上流の動脈圧を増加することの少なくとも1つの利点は、(腎動脈もしくはその付近にあるか、または、糸球体もしくはネフロン構成要素のいずれかもしくはその付近にある)腎受容体上で、または脈管組織中の他の受容体上で働く、1つまたは複数の体液性因子の放出が増加することである。腎臓に結合するこれら体液性因子の増加は、望ましくないストレッサーを体外に出す処理を行う腎臓の能力を有利に増加させる。同様に、腎臓の下流の静脈圧を低減することの少なくとも1つの利点は、腎臓を通る血流(体液性因子を含む)を増加させ、それにより腎排出量を増加させることである。本明細書に提供する方法およびシステムはまた、第二血液ポンプをオフにできるかを決定するために腎臓パラメータをモニターすることによって、腎臓のモニタリングにも対処する。例えば、腎臓を横切る圧力勾配、または腎静脈における静脈圧降下をモニターすることによる少なくとも1つの利点は、患者が腎機能を充分に取り戻したら、第二血液ポンプをオフにすることを決定できることである。1つの実施例において、第一および第二血液ポンプはImpella(登録商標)ポンプとして公知である血液ポンプの1つであってもよく、かつ、第一血液ポンプは、例えば別紙Aにおいて同定されているいずれかの技法を用いるなどによって、心臓の左側もしくは右側(または両方)に適用されてもよい。
【0007】
いくつかの実施形態において、患者における腎機能を調節するための方法が提供される。同方法における段階には、例えば第一血液ポンプなどの第一の機械的補助デバイスを患者の心臓内に挿入する段階、および、大動脈圧を増加させるように第一血液ポンプを稼働させる段階が含まれる。例えば、血液ポンプは患者の左心内または右心内に導入されてもよい。左心室への適用において、ポンプのインレットは左心室内にポジショニングされ、かつポンプのアウトレットは大動脈内にある。代替的に、血液ポンプは、ポンプのインレットが左心房内にあり、かつポンプのアウトレットが左心室内にあるように、左心房内に挿入されてもよい。代替的に、血液ポンプは、心臓を負荷軽減しかつ心拍出量を維持または増加させる任意のポジションに挿入されてもよい。同方法はまた、例えば第二血液ポンプなどの第二の機械的補助デバイスを患者の下大静脈内に挿入する段階、および、第一血液ポンプが稼働している間に第二血液ポンプを稼働させる段階も含む。例えば、第二血液ポンプは、下大静脈付近もしくは下大静脈内、下大静脈の入口内、または腎静脈内に置かれる。第二血液ポンプのインレットは、患者の腎静脈と下大静脈との間の接合部内に置かれてもよい。別の実施例において、第二血液ポンプの稼働が第二血液ポンプのインレットの上流(腎静脈内を含む、ポンプと腎臓との間)で圧力降下を作り出すよう、第二血液ポンプは下大静脈を部分的に閉塞するように構成される。これらの実施形態において、第一および第二血液ポンプの稼働は、患者の腎静脈内または下大静脈内の位置で目標圧力降下を実現する。このように第一および第二血液ポンプが同時に稼働されてもよい――腎臓の動脈側にある第一ポンプは、腎臓の上流の圧力を増加させ、一方で、腎臓の遠位(下流)に位置する第二ポンプは、腎臓を負荷軽減してそれにより腎静脈内の圧力を低減させる。他の適合形態において、血液ポンプの1つは持続的に稼働され、かつ、血液ポンプの他方は目標圧力降下を実現するため選択的にオンおよびオフにされる。第一血液ポンプおよび第二血液ポンプはまた、異なるスピードで異なる時間にわたって稼働されてもよい。例えば、第一血液ポンプが約40,000 rpmで最大6時間にわたって稼働されてもよく、第二血液ポンプが30,000 rpmで約3時間にわたって稼働されてもよい。代替的に、第一および第二血液ポンプの両方が、同様のスピードで同じ時間にわたって稼働されてもよい。
【0008】
第一血液ポンプを用いることの少なくとも1つの利点は、心臓の左室もしくは右室(もしくは両方)、または左房もしくは右房(もしくは両方)を負荷軽減し、それにより、腎動脈を通る血液循環を改善するだけでなく、(腎動脈もしくはその付近にあるか、または、糸球体もしくはネフロン構成要素のいずれかもしくはその付近にある)腎受容体上で、または脈管組織中の他の受容体上で働く、1つまたは複数の体液性因子の放出もまた刺激することである。そうした刺激は腎排出量を増加させて、腎臓の自己調節を操作および維持することを助け、かつ、腎臓を毒性および損傷から保護することも助ける。第一血液ポンプの配置および稼働は、左心室を負荷軽減しそれによって左室圧(および左房圧)と左室容量とを低減させるため、もしくは右心室を負荷軽減して右室圧(および右房圧)と右房容量とを低減させるため、またはその両方を行うために、用いられてもよい。
【0009】
心室から動脈内に血液をポンプ送りして心臓(大動脈または肺動脈のいずれか)から血液を運び去ることによって心室を負荷軽減することの少なくとも1つの利点は、動脈圧が全体的に増加することであり、それは脈管構造内における拍動性を増加させかつ腎動脈および腎臓に入る血液のフローを増加させて、それにより糸球体濾過率を増加させる。例えばImpella(登録商標)ポンプなどの第一ポンプを患者の心臓内で稼働させることの別の利点は、腎臓を高圧状態に絶えず維持することを伴わずに、拡張期血圧を増加させることである――腎臓は拡張期血圧によってかなりの血流を受け取る。例えばImpella(登録商標)ポンプなどで心臓を負荷軽減することのまた別の利点は、心臓組織(または動脈組織)における1つまたは複数の体液性因子の産生と、そうした1つまたは複数の因子の循環中への放出とを、アップレギュレートすることである。大多数の体液性因子は心臓の左房内で産生される――心臓の負荷軽減は、左房を減圧して体液性因子の産生(例えばANP産生)をブーストする。腎臓および/または他の臓器の受容体まで流れた体液性因子は、腎臓または他の臓器の受容体を作動させて、その臓器の機能増加を刺激する。腎臓まで流れた体液性因子は、腎受容体を作動させて、腎臓から出る尿の増加を刺激する。例えば、放出された体液性因子が腎受容体または他の臓器の受容体に結合する。体液性因子は、腎動脈(および腎臓のネフロン)に達すると、1つまたは複数の腎受容体に結合し、それによって、糸球体内のメサンギウム細胞に直接向かい合った求心性および/または遠心性の細動脈を作動させて、それによって腎血流を増加または低減させる。腎血流を増加させると、たとえ腎灌流圧が変化しても、糸球体濾過率が増加もしくは低減され、または維持される。加えて、または代替的に、体液性因子は尿細管壁を活性化してグルコース、塩分、もしくは他の電解質を尿中に排出および/または吸収もしくは再吸収させる可能性があり、その際に、周囲の脈管および組織からの水分は尿中の電解質レベルの変化に受動的に従い、それは、たとえ腎灌流圧の変化ならびに血中の電解質、グルコース、および微量元素の変化に直面している時でも、対応する調節(尿排出量および尿内容物の増加/低減/維持)を引き起こす。この効果による影響を受ける腎臓内の受容体には、いくつか例を挙げると、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、NT-proBNP、カテコールアミン受容体、アデノシン受容体、アンギオテンシン受容体(AT1、AT2)、プロスタグランジン受容体、アルファケトグルタル酸受容体、グルタミン酸受容体などが含まれる。例えば、腎受容体は腎臓のネフロン、尿細管、髄質、または皮質内に配されている。
【0010】
いくつかの実施形態において、心臓内で第一血液ポンプを稼働させると、腎動脈内の動脈圧が維持または増加される。他の実施形態において、下大静脈内で第二血液ポンプを稼働させると、腎静脈圧が維持または低減される。例えば、1つの実施形態において、第一血液ポンプは動脈圧を増加させるために稼働され、一方で、第二血液ポンプは腎静脈圧を低減させるために稼働される。別の実施例において、第一血液ポンプは動脈圧を維持させるために稼働され、一方で、第二血液ポンプは腎静脈圧を低減させるために稼働される。また別の実施例において、第一血液ポンプは動脈圧を増加させるために稼働され、一方で、第二血液ポンプは腎静脈圧を維持させるために稼働される。
【0011】
いくつかの実施形態において、患者の腎静脈または下大静脈内の位置における目標圧力降下は、腎臓を通る血流を増加させかつ腎排出量を増加させる。例えば、目標圧力降下は約4mmHg~約8mmHgである。別の実施例において、目標圧力降下は約5mmHg~約7mmHgである。1つの実施例において、目標圧力降下は約6mmHgである。目標圧力降下と、この目標圧力降下を実現するために必要な時間とは、特定の患者のベースラインと患者の状態とによってさまざまに異なる可能性がある。例えば、特定の患者について、実現可能な最大の圧力降下が、目標圧力降下より低い可能性がある(例えば2mmHg)。別の実施例において、別の患者について、目標圧力降下は実現可能であるが、実現するには第一および第二血液ポンプを稼働させる時間をより長くすることを要する可能性がある。目標圧力降下と、それを実現するために必要な時間とは、用いられる機械的循環支持デバイスのタイプによってもさまざまに異なる可能性がある――例えば、拡張期血圧の増加を提供するImpella(登録商標)ポンプは、大動脈内バルーンポンプまたは他のタイプの機械的循環システムより所要時間が短くなると考えられる。
【0012】
いくつかの実施形態において、目標圧力降下は、腎臓を横切る血圧降下に対応する。1つの実施例において、目標圧力降下は85mmHg~95mmHgである。目標圧力降下と、目標圧力降下を実現するために必要な時間とは、特定の患者のベースラインと患者の状態とによってさまざまに異なる可能性がある。目標圧力降下と、それを実現するために必要な時間とは、用いられる機械的循環支持デバイスのタイプによってもさまざまに異なる可能性がある――例えば、拡張期血圧の増加を提供するImpella(登録商標)ポンプは、大動脈内バルーンポンプまたは他のタイプの機械的循環システムより所要時間が短くなると考えられる。
【0013】
いくつかの実施形態において、第一および第二血液ポンプを組み合わせた稼働は、腎臓から出る尿の増加を刺激するために体液性因子を腎受容体まで流す。
【0014】
いくつかの実施形態において、第一血液ポンプ(例えばImpella(登録商標)ポンプ)は、ポンプモーターを具備し、それとともにポンプモーターの遠位のポンプハウジングも具備する。ポンプハウジングはローターを囲み、そしてポンプハウジングの遠位にカニューレが延在する。いくつかの実施例において、非外傷性延長部がカニューレから遠位方向に延在する。例えば、非外傷性延長部はピッグテール形状である。
【0015】
いくつかの実施形態において、第二血液ポンプは、ポンプモーターを具備し、それとともにポンプモーターの遠位のポンプハウジングも具備する。ポンプハウジングはローターを囲み、そしてポンプハウジングの遠位にカニューレが延在する。いくつかの実施例において、非外傷性延長部がカニューレから遠位方向に延在する。例えば、非外傷性延長部はピッグテール形状である。
【0016】
いくつかの実施形態において、第二ポンプは、非外傷性延長部の遠位先端が腎静脈の出口に隣接した下大静脈内部のポイントまで延在するように、下大静脈内部にポジショニングされる。例えば、非外傷性延長部の遠位先端は、腎静脈が下大静脈に接続するポイントの0~2センチメートルの間に延在する。腎静脈が下大静脈に接続するポイントの0~2センチメートルの間に遠位先端が延在することの少なくとも1つの恩典は、腎静脈に隣接する望ましい位置にポンプのインレットを安定させることができることである。
【0017】
他の実施形態において、腎機能を改善させるためのシステムは、患者の心臓を負荷軽減するよう構成された第一の機械的補助デバイスと、腎静脈圧を低減するよう構成された第二の機械的補助デバイスとを具備する。例えば、第一の機械的補助デバイスは、少なくとも1つの心室、少なくとも1つの心房、もしくは少なくとも1つの心房および心室、または、患者の両心房および両心室を負荷軽減するよう構成される。第一および第二の機械的補助デバイスは、同時に稼働された時に腎静脈における目標圧力降下を実現するよう構成される。1つの実施例において、機械的補助デバイスの1つまたは両方は血液ポンプである。別の実施例において、第二の機械的補助デバイスはバルーンポンプである。
【0018】
いくつかの実施形態において、腎機能を改善するためのシステムは、第一の機械的補助デバイスから動脈圧を、そして第二の機械的補助デバイスから静脈圧を受け取るよう構成されたコントローラ(例えばAutomated Impella Controller(登録商標))もまた含む。コントローラは、腎静脈における圧力降下が腎静脈における目標圧力降下に近いかを決定し、かつ、第一の機械的補助デバイスおよび第二の機械的補助デバイスのうち少なくとも1つの稼働の調整をコントロールする。1つの実施例において、稼働の調整は、腎静脈における目標圧力降下を実現することを助ける。別の実施例において、目標圧力降下が実現されている時、稼働の調整は、機械的補助デバイスのうち1つまたは両方をオフにする段階を含む。1つの実施例において、システムは2つのコントローラ(例えば2つのAutomated Impella Controller(登録商標))を含む;各コントローラは1つの機械的補助デバイス(例えばImpella(登録商標)ポンプ)に関連付けられ、かつそれぞれの機械的補助デバイスからデータを受け取る。
【0019】
いくつかの実施形態において、目標圧力降下は、尿産生を増加させるよう構成される。例えば、コントローラは、腎臓からの尿産生と尿液合成(urinary fluid composition)とを刺激および/または調節するため、心臓からの血流を増加させ、かつ腎受容体または別の臓器の受容体に結合する少なくとも1つの体液性因子の産生を刺激するそれぞれのレートで、機械的補助デバイスのうち1つまたは複数を稼働させるよう構成される。
【0020】
いくつかの実施形態において、第二の機械的補助デバイスは、ポンプモーターと、ポンプモーターの遠位のポンプハウジングとを具備する。ポンプハウジングはローターを囲み、そしてポンプハウジングの遠位にカニューレが延在する。1つの実施例において、第二の機械的補助デバイスは、第二の機械的補助デバイスの稼働中に第二の機械的補助デバイスを下大静脈に係留するよう構成された係留デバイスもまた具備する。係留デバイスはカニューレの一部分を囲む。係留デバイスは選択的に作動されてもよい。例えば、係留デバイスはバルーンである。バルーンは下大静脈を部分的に閉塞するために膨張されてもよい。代替的に、係留デバイスは、下大静脈の壁と係合する展開可能アームを具備する。例えば、係留デバイスはニチノール製の自己伸展ケージである。
【0021】
いくつかの実施形態において、第二の機械的補助デバイスは、腎静脈が下大静脈に接続する位置にインレットがポジショニングされる状態でポジショニングされる。
【0022】
いくつかの実施形態において、第一および第二の機械的補助デバイスの各々は、それぞれ動脈圧および静脈圧を測定するための圧力センサーを具備する。1つの実施例において、圧力センサーは、第一および第二の機械的補助デバイスの各々に一体化されている。例えば、第一および第二の機械的補助デバイスは、差圧センサーまたは光学式圧力センサーを具備するImpella(登録商標)ポンプである。別の実施例において、別個の圧力センサーワイヤまたはSwan-Ganzカテーテルが第一および第二の機械的補助デバイスの各々に沿って挿入される。また別の実施例において、機械的補助デバイスのうち1つは一体化されたセンサーを含み、一方で、機械的補助デバイスの他方は一体化されたセンサーを含まず、代わりに、別個の圧力センサーワイヤまたはSwan-Ganzカテーテルと組み合わせて用いられる。
【0023】
いくつかの実施形態において、第一および第二の機械的補助デバイスの両方が同時に稼働している時に、測定される静脈圧と測定される動脈圧との差が増加する。例えば、測定される静脈圧と測定される動脈圧との差が約1%増加する。別の実施例において、その差が約5%増加する。
【0024】
また別の実施形態において、患者における腎機能を改善するための方法は、第一血液ポンプを患者の心臓内に挿入する段階、および第一血液ポンプを稼働させる段階を含む。同方法はさらに、第二血液ポンプを患者の下大静脈内に挿入する段階、および第一血液ポンプの稼働中に第二血液ポンプを稼働させる段階を含む。同方法はまた、腎臓パラメータをモニターする段階、および、腎臓パラメータが目標レベルに達した時に第二血液ポンプの稼働を終了させる段階も含む。例えば、腎臓パラメータについての目標レベルは大動脈圧の関数である。例えば、腎臓パラメータは、血液中のクレアチニンレベルもしくはANP濃度、または腎静脈圧である。1つの実施例において、腎静脈圧についての目標レベルは15mmHg未満である。別の実施例において、腎臓パラメータは腎臓を横切る圧力降下である。
【0025】
いくつかの実施形態において、腎臓パラメータは、動脈圧を測定する段階および静脈圧を測定する段階、ならびに、測定された動脈圧と測定された腎静脈圧との圧力差を計算する段階によって、決定される。いくつかの実施形態において、患者における腎機能を改善するための方法はまた、計算された圧力差が閾値に達したことを決定する段階も含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、第一血液ポンプは第一コントローラと連絡しており、かつ第二血液ポンプは第二コントローラと連絡している。例えば、第一および第二コントローラはAutomated Impella Controller(登録商標)(AIC)である。1つの実施形態において、測定された動脈圧と測定された腎静脈圧との圧力差を決定するため、第一コントローラと第二コントローラとが連絡する。
[本発明1001]
患者における腎機能を調節するための方法であって、
第一血液ポンプを患者の心臓内に挿入する段階;
大動脈圧を増加させるように該第一血液ポンプを稼働させる段階;
第二血液ポンプを該患者の下大静脈内に挿入する段階;および
該第二血液ポンプと該第一血液ポンプとを稼働させる段階
を含み、
該第一および第二血液ポンプの稼働が、該患者の腎静脈内または下大静脈内の位置で目標圧力降下を実現する、方法。
[本発明1002]
第二血液ポンプを稼働させる段階が、第一血液ポンプがポンプ送りしている間に該第二血液ポンプをポンプ送りさせることを含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
第一血液ポンプを稼働させる段階が、腎動脈内の動脈圧を維持または増加させる、本発明1002の方法。
[本発明1004]
第二血液ポンプを稼働させる段階が、腎静脈圧を維持または低減させる、本発明1003の方法。
[本発明1005]
動脈圧を増加させるために第一血液ポンプを稼働させる段階、および腎静脈圧を低減させるために第二血液ポンプを稼働させる段階を含む、本発明1004の方法。
[本発明1006]
前記位置が、患者の腎静脈と下大静脈とが接続する血管接合部である、本発明1002の方法。
[本発明1007]
目標圧力降下が、腎臓を通る血流を増加させかつ腎排出量を増加させる、本発明1002の方法。
[本発明1008]
目標圧力降下が約4mmHg~約8mmHgである、本発明1007の方法。
[本発明1009]
目標圧力降下が約5mmHg~約7mmHgである、本発明1007の方法。
[本発明1010]
目標圧力降下が、腎臓を横切る血圧降下に対応する、本発明1002の方法。
[本発明1011]
第一および第二血液ポンプを組み合わせた稼働が、腎臓から出る尿の増加を刺激するために体液性因子を患者の腎受容体まで流す、本発明1002の方法。
[本発明1012]
第一血液ポンプが、
ポンプモーターと;
該ポンプモーターの遠位にありローターを囲んでいるポンプハウジングと;
該ポンプハウジングの遠位に延在するカニューレと;
該カニューレから遠位方向に延在する非外傷性延長部と
を具備する、本発明1001の方法。
[本発明1013]
第二血液ポンプが、
ポンプモーターと;
該ポンプモーターの遠位にありローターを囲んでいるポンプハウジングと;
該ポンプハウジングの遠位に延在するカニューレと
を具備する、本発明1001の方法。
[本発明1014]
第二血液ポンプが、カニューレから遠位方向に延在する非外傷性延長部をさらに具備する、本発明1012の方法。
[本発明1015]
非外傷性延長部の遠位先端が腎静脈の出口に隣接した位置まで延在するように、第二ポンプが下大静脈内部にポジショニングされる、本発明1012の方法。
[本発明1016]
第一血液ポンプが患者の心室内に挿入される、本発明1001の方法。
[本発明1017]
腎機能の調節が手術中または手術後に生じる、本発明1001の方法。
[本発明1018]
心室、心房、または心房および心室、または両心房および両心室を負荷軽減するよう構成された、第一の機械的循環支持デバイスと;
静脈内にポジショニングされるよう、かつ静脈内の血液をポンプ送りすることによって稼働されるよう構成された、第二の機械的循環支持デバイスと;
該第一および第二の機械的循環支持デバイスの両方を稼働させるよう構成されたコントローラと
を具備し、
該第一および第二の機械的循環支持デバイスが、同時に稼働された時に腎静脈における目標圧力降下を実現するよう構成されている、
腎機能を改善するためのシステム。
[本発明1019]
コントローラが、
第一の機械的循環支持デバイスから動脈圧を、そして第二の機械的循環支持デバイスから静脈圧を受け取ること;
腎静脈における圧力降下が該腎静脈における目標圧力降下を下回っていると決定すること;および
該腎静脈における該目標圧力降下を実現するため、該第一の機械的循環支持デバイスおよび該第二の機械的循環支持デバイスのうち少なくとも1つの稼働を調整すること
を行うよう構成されている、本発明1018のシステム。
[本発明1020]
目標圧力降下が、腎臓による尿産生を増加させるのに充分である、本発明1018のシステム。
[本発明1021]
腎臓からの尿産生と尿液合成(urinary fluid composition)とを刺激および/または調節するため、心臓からの血流を増加させ、かつ腎受容体または別の臓器の受容体に結合する少なくとも1つの体液性因子の産生を刺激するレートで、第一の機械的循環支持デバイスを稼働させるよう構成された、コントロールユニット
をさらに具備する、本発明1018のシステム。
[本発明1022]
第一および第二の機械的循環支持デバイスが血液ポンプである、本発明1018のシステム。
[本発明1023]
第二の機械的循環支持デバイスが、
ポンプモーターと;
該ポンプモーターの遠位にありローターを囲んでいるポンプハウジングと;
該ポンプハウジングの遠位に延在するカニューレと;
該第二の機械的循環支持デバイスの稼働中に、該第二の機械的循環支持デバイスを下大静脈に係留するよう構成された係留デバイスと
を具備する、本発明1018のシステム。
[本発明1024]
係留デバイスが、カニューレの一部分を囲んでいるバルーンである、本発明1023のシステム。
[本発明1025]
バルーンが、膨張時に下大静脈を部分的に閉塞するよう構成されている、本発明1024のシステム。
[本発明1026]
第二の機械的循環支持デバイスが、腎静脈が下大静脈に接続する位置にインレットがポジショニングされる状態でポジショニングされる、本発明1018のシステム。
[本発明1027]
第一の機械的循環支持デバイスが、動脈圧を測定するよう構成された第一圧力センサーをさらに具備する、本発明1018のシステム。
[本発明1028]
第二の機械的補助デバイスが、静脈圧を測定するよう構成された第二圧力センサーを具備する、本発明1027のシステム。
[本発明1029]
第一および第二の機械的循環支持デバイスの両方が同時に稼働している時に、測定される静脈圧と測定される動脈圧との差が増加する、本発明1028のシステム。
[本発明1030]
患者における腎機能を改善するための方法であって、
第一血液ポンプを患者の心臓内に挿入する段階;
該第一血液ポンプを稼働させる段階;
第二血液ポンプを該患者の下大静脈内に挿入する段階;
該第一血液ポンプの稼働中に該第二血液ポンプを稼働させる段階;
腎臓パラメータをモニターする段階;および
該腎臓パラメータが目標レベルに達した時に該第二血液ポンプの稼働を終了させる段階
を含む、方法。
[本発明1031]
腎臓パラメータが、血液中のクレアチニンレベルまたはANP濃度である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
腎臓パラメータについての目標レベルが大動脈圧の関数である、本発明1030の方法。
[本発明1033]
腎臓パラメータが腎静脈圧である、本発明1030の方法。
[本発明1034]
腎静脈圧についての目標レベルが15mmHg未満である、本発明1033の方法。
[本発明1035]
腎臓パラメータが、腎臓を横切る圧力降下である、本発明1030の方法。
[本発明1036]
腎臓パラメータが、
動脈圧を測定する段階;
静脈圧を測定する段階;および
測定された該動脈圧と測定された該腎静脈圧との圧力差を計算する段階
によって決定される、本発明1030の方法。
[本発明1037]
計算された圧力差が閾値に達したことを決定する段階
をさらに含む、本発明1036の方法。
[本発明1038]
第一血液ポンプが第一コントローラと連絡しており、かつ第二血液ポンプが第二コントローラと連絡している、本発明1037の方法。
[本発明1039]
測定された動脈圧と測定された腎静脈圧との圧力差を決定するため、第一コントローラと第二コントローラとが連絡する、本発明1038の方法。
[本発明1040]
第一血液ポンプが患者の心室内に挿入される、本発明1030の方法。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以上および他の目的と利点とは、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて検討することによって明らかになるであろう;添付の図面全体にわたって、同様の参照符号は同様の部分を参照する。
【0028】
【
図1】尿排出量が動脈圧に従って変動する、例示的な腎排出量曲線を示す。
【
図2】本明細書に開示するシステムの例示的態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスが全体的に理解されうるよう、ある特定の例示的態様を説明する。本明細書に説明する態様および特徴は、心臓内心臓ポンプシステムとの併用について具体的に説明するが、理解されるであろう点として、以下に概説するすべてのコンポーネントおよび他の特徴は、任意の好適な様式において互いに組み合わせられてもよく、かつ、電気生理学検査およびカテーテルアブレーション用デバイス、血管形成術およびステント留置用デバイス、血管造影用カテーテル、末梢挿入中心カテーテル、中心静脈カテーテル、正中線カテーテル、末梢カテーテル、下大静脈フィルター、腹部大動脈瘤治療デバイス、血栓摘出術デバイス、TAVR送達システム、心臓治療および心臓補助用デバイスなど、他のタイプの医療用デバイスに適合および適用されてもよい;そうしたデバイスには、バルーンポンプ、外科的切開を用いて植込みされる心臓補助デバイス、ならびに静脈式または動脈式に導入される他の任意のカテーテルおよびデバイスも含まれる。
【0030】
本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、腎臓を通る血流の増加、そしてひいては腎排出量の増加を実現するために、腎臓の上流の動脈圧を維持または増加させること;腎臓の下流の静脈圧を維持または低減させること;または両者を組み合わせることによって、腎機能の改善を可能にする。
【0031】
図1に、尿排出量が動脈圧に従って変動する、例示的な腎排出量曲線を示す。例えば、上述したように、より高い動脈圧は腎臓への血流を増加させる。動脈血は体液性因子を腎臓まで運び、ゆえに、より高い動脈圧は、より大量の体液性因子が腎臓に達して腎臓上の受容体に結合し、ひいては腎機能および尿排出量を増加させることをもたらす。
【0032】
図2に、同様のもしくはより高い動脈圧、同様のもしくはより低い静脈圧、または両者の組み合わせのいずれかを提供するよう構成された、システム200の例示的態様を示す。より高い動脈圧(例えば腎臓などの臓器へのインプット)は、その臓器を通る血流の増加をもたらす。例えば腎臓の場合、より高い動脈圧は、腎臓を通る血流の増加、ひいては腎臓の尿排出量の増加をもたらす。同様に、より低い静脈圧(例えば腎臓のアウトプットなど、臓器のアウトプットにおける圧力)は、その臓器を通る血流の増加をもたらす。例えば腎臓の場合、より高い動脈圧は、腎臓を通る血流の増加、ひいては腎臓の尿排出量の増加をもたらす。より高い動脈圧(例えば腎臓などの臓器へのインプット)とより低い静脈圧(例えば腎臓のアウトプットなど、臓器のアウトプットにおける圧力)との組み合わせは、その臓器を通る血流の、同様の増加またはより大きな増加をもたらす。臓器が腎臓である時、より高い動脈圧とより低い静脈圧との組み合わせは、腎臓の尿排出量の増加をもたらす。システム200はポンプ202とポンプ222とを具備する。例えば、ポンプ202および222はImpella(登録商標)ポンプである。代替的に、ポンプ202および222は、伸展可能ポンプ、大動脈内バルーンポンプ、または体外膜型酸素化(ECMO)など、他の機械的循環補助デバイスである。
【0033】
ポンプ202および222は、例えば
図2における腎臓250など、臓器へのインプットおよびアウトプットをコントロールする。例えば、腎臓250は左腎または右腎であってもよい。1つの実施例において、ポンプ202とポンプ222との組み合わせは両腎へのインプットおよびアウトプットをコントロールする。例えば、1つまたは両方の血液ポンプを稼働させることは、例えば腎臓などの臓器を通る血液の流量(flow quantity)および流速(flow rate)を変化させる。例えば、1つまたは両方の血液ポンプを稼働させることは、腎臓を通る血液の流量および流速を変化させる。
【0034】
図2に示すように、ポンプ202は、
ハウジング208内のモーター204
およびローター206と
、カニューレ210と、遠位延長部212と、カテーテル214とを備えた第一血液ポンプである。
図2の実施例に示すように、ポンプ202は、遠位延長部212が左心室内にあり、かつローター206とローターハウジング208とが大動脈内にある状態で置かれる。ポンプ202は稼働時に、血液をインレット216を通して引き、カニューレ210に通し、そしてハウジング208(ローターシュラウドとも呼ばれる)を通して出して、心臓を負荷軽減する。遠位延長部212は心室内でポンプ202を安定させるように作用する。例えば、遠位延長部212はピッグテールまたはj字形である。ポンプ202は稼働時に左心室を負荷軽減しかつ大動脈内の圧力を増加させ、それによって下流の動脈圧を増加させる。ポンプ202は、ある範囲の流速と、それに関連する大動脈圧の増加とをもたらす、ある範囲のスピードで稼働してもよい。例えば、ポンプ202は約1.5 L/分~6 L/分の流速で稼働される。1つの実施例において、ポンプ202は約5 L/分の流速で稼働される。ポンプ202は、大腿動脈を介して、または鎖骨下静脈を介して、患者体内に経皮的に挿入されてもよい。
【0035】
図2に示すように、ポンプ222は、
ハウジング228内のモーター
223およびローター226と
、カニューレ220と、遠位延長部
242と、カテーテル224とを備えた第二血液ポンプである。
図2の実施例に示すように、ポンプ222は下大静脈内に置かれる。ポンプ222は稼働時に、血液をインレット236を通して引き、カニューレ220に通し、そしてローターハウジング228(ローターシュラウドとも呼ばれる)を通して出す。
ローター226を備えるローターハウジング228
は下大静脈内の、インレット236の下流にあり、インレット236もまた下大静脈内にある。1つの実施例において、例えば
図2に示すように、ポンプ222は、下大静脈内で、または下大静脈と腎静脈との間の接合部で、ポンプ222を安定させる遠位延長部242を含む。例えば、遠位延長部242はピッグテールまたはj字形である。ポンプ222は、インレット236と、血液がそれを通ってポンプから出るローターハウジング228との間で、カニューレ上にポジショニングされた、係留機構240もまた含む。係留機構240は、下大静脈に沿った望ましいポジションにポンプ222を係留すること、および、係留機構にわたるポンプ222の稼働を可能にするため下大静脈を部分的に閉塞することとの、両方を行ってもよい。例えば、係留機構240は、腎静脈の下流の約1~5センチメートルの間でポンプ222を係留する。別の実施例において、係留機構240は、腎静脈の下流の約2~3センチメートルの間でポンプ222を係留する。1つの実施例において、係留機構240は、下大静脈を少なくとも部分的に閉塞するために選択的に膨張させることができるバルーンである。例えば、カニューレ220上のバルーンのサイズ、形状、材料、およびポジションは、下大静脈内で異なるレベルの閉塞を実現するために選択される。別の実施例において、係留機構240は伸展可能ケージである。例えば、係留機構240は、挿入のためシースによって囲まれ、そしてシースがインサイチューで除去されたら自己伸展する、自己伸展ケージ(例えばニチノール)である。ケージは、下大静脈の壁に対して突っ張って、ポンプ222を所定のポジションに確実固定する。1つの実施例において、ケージは、下大静脈を部分的に閉塞するため、カニューレに沿って近位方向および遠位方向にテーパーしていてもよく、かつ生体適合性のカバー材料でカバーされていてもよい。
【0036】
下大静脈の部分的な閉塞は、下大静脈内および/または腎静脈内の位置からポンプインレット236の下流の位置まで血液を引くポンプ222の稼働との組み合わせによって、圧力降下をもたらす。圧力降下は、ポンプ222の上流の下大静脈(例えば腎静脈のすぐ近く)における圧力降下として、または腎静脈における圧力降下として、測定されてもよい。代替的に、圧力降下は、腎臓に入っていく動脈圧と腎臓から出てくる(例えば腎静脈内の)静脈圧との間の、腎臓を横切る降下として測定されてもよい。
【0037】
ポンプ222は、大腿動脈を介して、または鎖骨下静脈を介して、患者体内に経皮的に挿入されてもよい。1つの実施例において、ポンプ222とポンプ202とは、異なる経皮アクセスポイントを通って挿入される。代替的に、ポンプ222とポンプ202とは、同じ経皮アクセスポイント(例えば鎖骨下静脈)を通って挿入される。
【0038】
1つの実施例において、各ポンプ(例えばポンプ202、222)は圧力センサーを含む。例えば、両方のポンプが、差圧センサー、圧電式圧力センサー、または光学式圧力センサーなど、一体化された圧力センサーを含む。別の実施例において、両方のポンプが、圧力センサーワイヤ上で導入される別個の圧力センサー、またはSwan-Ganzカテーテルを含む。代替的に、ポンプのうち1つは一体化された圧力センサーを含み、他方のポンプは別個の圧力センサーを用いる。ポンプ202は、圧力を検出するための一体化された圧力センサーを含んでもよい。例えば、ポンプ202は、センサーの1つの側がインレットエリアの外側上の血圧にさらされ、かつ、センサーの別の側がカニューレ210内側の血液の圧力にさらされる、差圧センサーを含んでいてもよい。この実施例において、センサーは、2つの圧力間の差に比例する電気信号を生成し、そしてその電気信号は、コントローラ(例えばAutomated Impella(登録商標)コントローラ)上での表示用に生成される。代替的に、ポンプ202は、圧力を測定するためのSwan-Ganzカテーテルとともに患者体内に導入されてもよい。同様に、ポンプ222は、圧力を検出するための一体化された圧力センサーを含んでもよい。例えば、ポンプ222は、センサーの1つの側がインレットエリアの外側上の血圧にさらされ、かつ、センサーの別の側がカニューレ220内側の血液の圧力にさらされる、差圧センサーを含んでいてもよい。この実施例において、センサーは、2つの圧力間の差に比例する電気信号を生成し、そしてその電気信号は、コントローラ(例えばAutomated Impella(登録商標)コントローラ)上での表示用に生成される。代替的に、ポンプ222は、圧力を測定するためのSwan-Ganzカテーテルとともに患者体内に導入されてもよい。
【0039】
各ポンプ(例えばポンプ202および222)は、ポンプと、ポンプに関連付けられたセンサー(例えば一体化されたセンサーまたは別個のセンサーのいずれか)とからデータを受け取り、そして、心拍出量および/または腎排出量についての情報をユーザー(例えば医療専門家)向けの表示用に生成する、例えばAutomated Impella Controller(登録商標)などのコントローラに接続されてもよい。
図3の実施例に関して後述するように、コントローラからの情報は、1つまたは複数のポンプの稼働を停止するか、およびいつ停止するかを、決定するために用いられる。
【0040】
図3に関して後述するように、ポンプ202の稼働中にポンプ222を稼働させることによって、腎臓250にインプットされる動脈圧と腎臓250からアウトプットされる静脈圧との両方を調整することができる。このデュアルポンプ稼働の少なくとも1つの利点は、心拍出量と腎臓250への動脈圧インプットとを両方とも増加でき、かつ/または、腎臓250から出る静脈圧を低減できることである。したがって、ポンプ222の稼働中にポンプ202を稼働させることは、腎臓への血流を増加させ、かつ、腎臓に達する体液性因子の量を増加させる。ポンプ202の稼働中にポンプ222を稼働させることは、腎臓から出る血流を増加させる。このデュアルポンプ稼働の少なくとも1つの利点は、尿排出量を増加でき、かつストレス因子を取り除けることである;ストレス因子には、例えば手術に起因するストレス因子が含まれる。
【0041】
図3に、腎機能を改善するための例示的な方法300を示す。段階302において、第一血液ポンプ(例えば
図2のポンプ202)が患者の心臓内に挿入される。段階304において、大動脈圧を増加させるように第一血液ポンプが稼働される。段階306において、第二血液ポンプ(例えば
図2のポンプ222)が患者の下大静脈内に挿入される。第二血液ポンプが挿入された後に係留機構が配置される(例えば
図2の係留機構240)。例えば、係留機構は、ポンプカニューレ(例えば
図2におけるポンプ222のカニューレ220)の一部分を囲むバルーンである。この実施例において、ポンプの一部分を囲んでいるバルーンは、ポンプを下大静脈内に係留しかつ下大静脈を部分的に閉塞するように膨張される。段階308において、第一血液ポンプの稼働中に第二血液ポンプが稼働される。段階312において、システムは、患者の腎静脈内または下大静脈内の位置において目標腎臓パラメータ(例えば腎静脈における血圧降下)が実現されたかを決定する。段階312における決定が、目標腎臓パラメータ(例えば腎静脈における血圧降下)が実現されたというものならば、第二血液ポンプの稼働が停止されてもよい(段階314)。段階312における決定が、目標腎臓パラメータ(例えば腎静脈における血圧降下)が実現されていないというものならば、第一血液ポンプの稼働を調整しかつ/または第二血液ポンプの稼働を調整するかについて、第二の決定が行われる(段階310)。例えば、第一血液ポンプ(例えば
図2のポンプ202)のスピードが、第二血液ポンプのスピードとは独立に修正(例えば増加または低減)されてもよい。1つの実施例において、第一血液ポンプのスピードは約1L/分だけ増加される。代替的に、第一血液ポンプのスピードは約2L/分だけ増加される。同様に、第二血液ポンプ(例えば
図2のポンプ222)のスピードが、第一血液ポンプのスピードとは独立に修正(例えば増加または低減)されてもよい。別の実施例において、第一血液ポンプおよび第二血液ポンプの両方のスピードが増加されてもよい。段階310における決定が、調整が必要ないというものならば、同方法は、目標腎臓パラメータが実現されたかの決定(段階312)に戻る。例えば、目標腎臓パラメータは、腎静脈内の圧力における目標圧力降下、または腎臓を横切る目標圧力降下であってもよい。例えば、動脈圧もしくは静脈圧のいずれか、またはその両方に対する効果を実現するため、より長い時間にわたって第一および第二血液ポンプを稼働させなければならない可能性がある。代わりに、段階310における決定が、第一血液ポンプおよび第二血液ポンプのいずれかまたは両方の稼働に対する調整が必要であるというものならば、同方法は、第一および第二血液ポンプが同時に稼働される段階308に戻る。
【0042】
例えば、ポンプコントローラ(例えば
図2のポンプ222および/またはポンプ202のコントローラ)は、腎臓からの尿産生と尿液合成とを刺激および/または調節するため、心臓からの血流を増加させるよう、かつ、腎受容体または別の臓器の受容体に結合する少なくとも1つの体液性因子の産生を刺激するよう、1つまたは両方の補助デバイス(例えば
図2のポンプ222および/またはポンプ202)をそれぞれのレートで稼働させるように構成される。1つの実施例において、
図2に関して上述したように、両方のポンプ(ポンプ222およびポンプ202)が単一のコントローラに接続される。コントローラは腎臓パラメータに関するデータを受け取ってもよい。例えば、腎臓パラメータは、腎臓の出口における圧力降下である。代替的に、腎臓パラメータは、腎臓を横切る圧力降下である。別の実施例として、腎臓パラメータは血中のクレアチニンレベルまたはANP濃度である。1つの実施例において、両方のポンプのコントローラは互いに通信する。
【0043】
1つの実施例において、コントローラはまた、腎臓パラメータを腎臓パラメータの閾値と比較してもよい。例えば、コントローラは、ほぼリアルタイムで持続的に腎臓パラメータを閾値と比較してもよい。代替的に、コントローラは周期的に比較を行ってもよい。閾値はユーザーによって入力されてもよい。代替的に、閾値は、コントローラによってデータベースから検索されてもよい。例えば、データベースは、目標腎臓パラメータ値についての公知の臨床データを用いた遠隔データベースである。1つの実施例において、コントローラは、腎臓パラメータに関する閾値に達したという指標を表示用に生成するよう構成される。例えば、コントローラがアラームを生成してもよい。別の実施例において、コントローラは医師にメッセージを送る。1つの実施例において、医師は、腎臓パラメータのモニタリングに基づいて、ポンプのうち1つまたは複数をオフにしてもよい。例えば、医師は、腎臓パラメータ(例えば腎静脈内の圧力)が閾値に達したら、ポンプ202の稼働を維持しながらポンプ222をオフにしてもよい。別の実施例において、コントローラは、腎臓パラメータが閾値に達したことを検出し、そしてポンプのうち1つまたは複数を自動的にオフにする。いつポンプをもう1つオフにするかを決定できることの、少なくとも1つの利点は、患者を安全に支持から離脱させることができること、および、必要以上に長く高血圧にさらすことによって臓器(例えば腎臓)を損傷させることなく、臓器(例えば腎機能)を改善できることである。
【0044】
以上は本開示の原理を例示したものにすぎず、本発明のシステム、方法、およびデバイスは、限定ではなく例示の目的で提示される本説明の態様以外でも実施されうる。理解されるべき点として、本明細書に開示するシステム、方法、およびデバイスは、心臓内心臓ポンプ用のシステムにおける使用について示されているが、他の埋め込み可能心臓ポンプまたは埋め込み可能心臓補助デバイス用のシステム、方法、およびデバイスに適用されてもよい。
【0045】
当業者には、本開示の検討後にバリエーションおよび修正が考えられるであろう。以上に説明または例証したさまざまな特徴は、そのコンポーネントも含めて、他のシステムに組み合わせまたは統合されてもよい。さらに、ある一定の特徴が省略されるかまたは実施されなくてもよい。以上に説明または例証したさまざまな実施形態が任意の様式で組み合わせられてもよい。
【0046】
変更、置換、および改変の例は当業者によって確認可能であり、かつ、本明細書に開示する情報の範囲から逸脱することなく行われうる。本明細書に挙げるすべての参照物は、その全内容が参照により組み入れられ、かつ本出願の一部をなす。