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特許7549640ストレスタンパク質誘導剤を使用して獲得細胞抵抗性を誘導するための組成物、キット及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】ストレスタンパク質誘導剤を使用して獲得細胞抵抗性を誘導するための組成物、キット及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/26 20060101AFI20240904BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20240904BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K31/409
A61K31/7016
A61P1/16
A61P9/00 ZNA
A61P11/00
A61P13/12
A61P39/00
A61P43/00 107
A61P43/00 121
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022202892
(22)【出願日】2022-12-20
(62)【分割の表示】P 2021093465の分割
【原出願日】2015-09-28
(65)【公開番号】P2023054797
(43)【公開日】2023-04-14
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】62/057,047
(32)【優先日】2014-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/212,232
(32)【優先日】2015-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522256406
【氏名又は名称】フレッド ハッチンソン キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ゼーガー
(72)【発明者】
【氏名】アリ・シー・エム・ジョンソン
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535522(JP,A)
【文献】特開2004-002404(JP,A)
【文献】特表2001-510456(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0247681(US,A1)
【文献】虚血再灌流腎におけるHeme Oxygenase-1(HO-1)の役割,埼玉医科大学雑誌,2002年,第29巻, 第2号,pp.135-147
【文献】ZAGER; ET AL,HEME PROTEIN-INDUCED TUBULAR CYTORESISTANCE: EXPRESSION AT THE PLASMA MEMBRANE LEVEL,KIDNEY INTERNATIONAL,1995年05月,VOL:47, NR:5,PAGE(S):1336-1345
【文献】NATH; ET AL,INDUCTION OF HEME OXYGENASE IS A RAPID,PROTECTIVE RESPONSE IN RHABDOMYOLYSIS IN THE RAT,J. CLIN. INVEST.,1992年07月,VOL:90, NR:1,PAGE(S):267-270
【文献】JOHNSON; ET AL,PARENTERAL IRON FORMULATIONS DIFFERENTIALLY AFFECT MCP-1,HO-1 AND NGAL GENE EXPRESSION AND RENAL RES,AM. J. PHYSIOL. RENAL. PHYSIOL.,2010年08月,VOL:299, NR:2,PAGE(S):F426 - F435
【文献】Free Radical Biology & Medicine,2011年,Vol.51,pp.876-883
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences,2008年07月22日,Vol.105, No.29,pp.10256-10261
【文献】International Journal of Biochemistry,1988年,Vol.20, No.6,pp.543-558
【文献】KAIZU; ET AL,PRECONDITIONING WITH TIN-PROTOPORPHYRIN IX ATTENUATES ISCHEMIA/REPERFUSION INJURY IN THE RAT KIDNEY,KIDNEY INTERNATIONAL,2003年04月,VOL:63,NR:4,PAGE(S):1393-1403
【文献】ZAGER; ET AL,PROXIMAL TUBULE HAPTOGLOBIN GENE ACTIVATION IS AN INTEGRAL COMPONENT OF THE ACUTE KIDNEY INJURY "STRESS RESPONSE",AM. J. PHYSIOL. RENAL. PHYSIOL.,2012年07月,VOL:303, NR:1,PAGE(S):F139 - F148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00-33/44
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器を損傷から保護するためのキットであって、前記キットが治療有効量の(i)鉄又は鉄錯体及び(ii)Sn-プロトポルフィリンであるプロトポルフィリンを含み、予定された傷害に基づく損傷から、臓器を保護する医薬として使用され、臓器への予定された傷害が起こる前に投与され、前記治療有効量は、臓器に損傷を生じずに、損傷から臓器を保護し、予定された傷害が、外科手術、化学療法又はX線造影剤の毒性である、前記キット。
【請求項2】
鉄錯体が、鉄スクロースである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
予定された傷害が外科手術である、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
予定された傷害が心臓外科手術である、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
臓器が心臓、腎臓、肝臓又は肺である、請求項1に記載のキット。
【請求項6】
臓器が心臓である、請求項1に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は臓器に損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導することにより臓器を保護するための組成物、キット及び方法を提供する。組成物、キット及び方法はヘムタンパク質と、場合により、ヘムタンパク質代謝に影響を与える物質を利用することができる。ストレスタンパク質をアップレギュレートする他の化合物(例えば鉄やビタミンB12)も使用してもよい。
【背景技術】
【0002】
生体臓器は損傷を受けると、有害事象(即ち傷害)が持続又は再発したとしてもより十分に自己防衛できるように保護応答を誘発することができる。例えば、一連の腎損傷は保護応答を誘発することができ、18時間経過後に続発するより重症型の腎損傷に対して腎臓を保護する。この保護は長時間(数日間~数週間)持続することができる。この保護現象は当分野で「虚血プレコンディショニング」又は「獲得細胞抵抗性」と呼ばれている。
【0003】
特に事前に分かっている傷害が迫っているときに、臓器を先制的に保護するためにこの獲得細胞抵抗性現象を利用することが考えられている。例えば、外科手術、心肺バイパス手術又はX線造影剤の毒性投与等の傷害の前に臓器を保護するためにこの現象を誘導することができる。しかし、保護しようとする臓器に容認できない損傷を生じずに制御下に獲得細胞抵抗性を誘導するためのメカニズムが確立していないため、このアプローチはまだ臨床用に展開されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は臓器に損傷を生じずに獲得細胞抵抗性の誘導を可能にする組成物、キット及び方法を提供する。臓器に損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導することができるので、特に事前に分かっている傷害が近付いているときに、臓器を先制的に保護するためにこの現象を臨床状況で使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
理論に拘泥するものではないが、組成物、キット及び方法は保護性ストレスタンパク質の発現をアップレギュレートすることにより獲得細胞抵抗性を誘導する。特定の実施形態では、保護しようとする臓器に損傷を生じないような濃度又はアプローチでヘムタンパク質を投与することにより獲得細胞抵抗性を誘導する。鉄及び/又はビタミンB12等の他の化合物を投与することにより獲得細胞抵抗性の誘導を実現することもできる。
【0006】
損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導するアプローチとしては、治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12(B12)を投与する方法;ヘムタンパク質、鉄及び/又はB12の生物学的半減期を延長させる方法;ヘムタンパク質、鉄及び/又はB12の作用を増強する方法;並びにヘムタンパク質、鉄及び/又はB12投与に伴う毒性を低減する方法が挙げられる。これらのアプローチの各々を単独で又は組み合わせて実施することができる。
【0007】
上記アプローチは治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/もしくはB12を投与する方法;ヘムタンパク質、鉄及び/もしくはB12をヘムタンパク質分解阻害剤と併用投与する方法;修飾ヘムタンパク質、鉄及び/もしくはB12を投与する方法;並びに/又は適切な組成物と送達経路を選択する方法の1種以上により実施することができる。
【0008】
代表的なヘムタンパク質としては、低分子量ヘムタンパク質、急速排出型ヘムタンパク質及びミオグロビンが挙げられる。鉄の代表的な1形態としては、鉄スクロースが挙げられる。代表的なヘムタンパク質分解阻害剤としては、プロトポルフィリン、金属プロトポルフィリン及びヘマチンが挙げられる。代表的な修飾ヘムタンパク質及びヘムタンパク質分解阻害剤としては、PEG化ヘムタンパク質及びヘムタンパク質分解阻害剤と、亜硝酸化ヘムタンパク質及びヘムタンパク質分解阻害剤が挙げられる。代表的な組成物としては遅放性デポ剤が挙げられる。代表的な送達経路としては、静脈内、皮下又は筋肉内注射が挙げられる。代表的な毒性低減方法としては、マンニトール、グリシン及び生理食塩水の投与が挙げられる。その他の例、実施形態及び組み合わせについては詳細な説明の欄に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】グリセロール傷害の18時間前に溶媒(対照)、ミオグロビン(Mgb)又はミオグロビンとSn-プロトポルフィリン(SnPP)の併用(Mgb+SnPP)を投与後のヘムオキシゲナーゼmRNA発現(図1A)を示す。同図から明らかなように、ミオグロビンを単独投与すると、代表的な細胞保護分子であるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)が誘導され、HO-1と一過性ヘムオキシゲナーゼ阻害剤(SnPP)を併用すると、ミオグロビンにより誘導されるHO-1mRNA及びタンパク質の増加が激増する。
図1B】グリセロール傷害の18時間前に溶媒(対照)、ミオグロビン(Mgb)又はミオグロビンとSn-プロトポルフィリン(SnPP)の併用(Mgb+SnPP)を投与後のタンパク質発現(図1B)を示す。同図から明らかなように、ミオグロビンを単独投与すると、代表的な細胞保護分子であるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)が誘導され、HO-1と一過性ヘムオキシゲナーゼ阻害剤(SnPP)を併用すると、ミオグロビンにより誘導されるHO-1mRNA及びタンパク質の増加が激増する。
図2】左はグリセロール誘発急性腎不全後の細胞レベルの腎損傷を示す。プレコンディショニングを行わない場合には重度の損傷が認められる(広範囲の壊死、左上;多量の円柱形成、左下)が、グリセロール注射の18時間前にミオグロビン+SnPPを前投与すると、本質的に正常な腎組織検査結果が得られた(右上下)。
図3】N-Mgb+SnPPが保護性ストレスタンパク質であるインターロイキン10(IL-10)のmRNAを上昇させることを示す。
図4】N-Mgb+SnPPがハプトグロビンmRNA(左)及びタンパク質レベル(右)を上昇させることを示す。
図5】ミオグロビンFeと等モル量の亜硝酸イオンの結合がミオグロビン毒性の発現に及ぼす影響の評価を示す。ケラチノサイト無血清培地で正常(対照)条件下又は10mg/mLのウマ骨格筋ミオグロビンもしくは(10mg/mlのミオグロビンに等モル量の亜硝酸Naを加えることにより生成した)亜硝酸化ミオグロビンの存在下にHK-2細胞(正常ヒト腎臓に由来する近位尿細管細胞株)をインキュベートした。18時間インキュベーション後に、細胞損傷の重症度(細胞死%)をMTTアッセイにより評価した。ミオグロビンは対照培養細胞に比較して40%の細胞死(MTT細胞取り込みの40%低下)を誘導した。ミオグロビンに亜硝酸イオンを結合させると、細胞死は75%低下した。従って、亜硝酸イオンの結合はミオグロビンの細胞毒性作用を低減させることが可能である。
図6】血漿中ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)とN-ミオグロビン投与量の用量反応関係を示す。亜硝酸化ミオグロビン0mg/kg、1mg/kg、2mg/kg又は5mg/kg+SnPP(1μmolの一定用量)を正常マウスに筋肉内(IM)注射した。18時間後に、血漿中HO-1濃度をELISAにより評価した。N-ミオグロビン投与量と血漿中HO-1濃度の間には強い用量反応関係が認められた。従って、HO-1アッセイはN-Mgb/SnPPによるHO-1誘導の潜在的バイオマーカーとして有用である。
図7】N-ミオグロビン用量を25倍まで変動させた場合に正常な血清クレアチニン濃度が維持されることを示す。マウスに(SnPPを1μmolの一定用量に保持しながら)亜硝酸化ミオグロビン1mg/kg、3mg/kg、6mg/kg、12mg/kg又は25mg/kgを2時間皮下輸液した。18時間後に、血清クレアチニン濃度を測定することにより潜在的腎損傷を評価した。いずれのN-Mgb用量でも有意な上昇は認められず、過度の毒性はないと判断された(n=2~4匹/群)。
図8】N-Mgb-SnPP投与から18時間後の腎組織検査結果を示す。上段2図は対照マウス(C)とN-Mgb-SnPP投与から18時間後のマウス(Rx)に由来するPAS染色腎臓切片を示す。投与群のマウスに由来する尿細管上皮細胞は正常な組織学的外観を維持し、刷子縁が完全に無傷である(管腔側膜の濃い染色)。下段2図はヘマトキシリン・エオジン染色した切片を示す。N-Mgb-SnPPを前投与した場合には組織損傷が認められない。
図9】正常マウスにN-Mgb-SnPPを投与することによるHO-1の相乗的な誘導を示す。左図は投与から4時間後のHO-1mRNAレベルを示す。N-Mgb単独とSnPP単独では若干のmRNA増加が誘導されたが、併用投与すると、20倍のHO-1mRNA増加が認められる。投与から18時間後には相乗的なHO-1タンパク質増加が認められた(P値vs対照)。GAPDH,グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ;HO-1,ヘムオキシゲナーゼ1;mRNA,メッセンジャーRNA;N-Mgb,亜硝酸化ミオグロビン;SnPP,錫プロトポルフィリン。
図10】正常マウスにN-Mgb-SnPPを投与することによるIL-10の相乗的な誘導を示す。左図は投与から4時間後のIL-10mRNAレベルを示す。N-Mgb単独とSnPP単独ではIL-10mRNA増加は最低限しか又は全く誘起されなかった。一方、併用投与すると、10倍のIL-10mRNA増加が認められた。右図に示すように、18時間の時点で評価した場合にIL-10タンパク質増加が誘導されたのは、併用投与した場合のみであった(P値vs対照)。
図11】正常マウスにN-Mgb-SnPPを投与後のハプトグロビンmRNA及びタンパク質発現を示す。N-Mgb+SnPPを併用すると、注射から4時間後に各々単剤よりも著しく大きなハプトグロビンmRNA増加が誘起された。一方、投与から18時間後までにN-Mgb単独とN-Mgb+SnPPで同等のハプトグロビンタンパク質増加が誘導された。従って、N-Mgb+SnPPの併用投与により生じたハプトグロビン増加の要因はN-Mgbであったと思われる(P値vs対照)。
図12】横紋筋融解症誘発AKIのグリセロールモデルで被験物質により誘導された保護の程度を示す。BUN及びクレアチニン濃度から明らかなように、対照マウス(C)は顕著なAKIを生じた。SnPPでは有意な保護が付与されなかったが、N-Mgbでは若干の保護効果が誘導された。一方、N-Mgb-SnPPを併用投与すると、グリセロール投与から18時間後に正常なBUN及びクレアチニン濃度となったことから、完全な機能的保護が付与されたと判断された(横実線により正常濃度を示す)。
図13】N-Mgb+SnPP(Rx)を併用投与すると、AKIのマレイン酸塩モデルに対して顕著な保護が付与されることを示す。マレイン酸塩を注射すると、BUNとクレアチニンの顕著な上昇を生じた。投与群(Rx)ではほぼ完全な保護効果が付与された(横線は正常なBUN及びクレアチニン濃度を表す)。P値vs不投与群(No Rx)。
図14】マレイン酸塩により誘発させた心毒性がN-Mgb+SnPPの前投与により低減されることを示す。マウスにN-ミオグロビン1mg/kg+SnPP1μmol又は溶媒をIV注射により投与した。18時間後に、マレイン酸塩800mg/kgをIP投与した。マレイン酸塩注射から18時間後に血漿中トロポニンI濃度を(ELISAにより)測定することにより心筋損傷の程度を判定した。マレイン酸塩注射により血漿中トロポニン濃度は10倍に上昇した。マレイン酸塩により誘発させたトロポニン上昇はN-Mgb+SnPP前投与により75%低減された。
図15】N-Mgb+SnPP(Rx)投与により片側虚血再灌流(I/R)誘発進行性腎疾患に対する保護が付与されることを示す。18時間前にN-Mgb-SnPPを前投与した後又は前投与せずにマウスを30分間左腎虚血させた。虚血から2週間後に(腎臓重量により判定した)腎臓質量はI/Rにより38%減少した。前投与(Rx)した場合には腎臓質量減少が12%に止まったことから、有意保護が付与されたと判断された。虚血から2週間後の左腎臓でNGALmRNA及びタンパク質レベルが著しく低下したことからも保護が示唆された。
図16】(SnPP用量は1μmolの一定として)N-Mgbの用量増加と腎皮質及び血漿中のHO-1/ハプトグロビンタンパク質濃度の用量反応関係を示す。N-Mgbの用量を増加させながら腹腔内投与すると、血漿及び腎皮質中の各タンパク質の濃度が上昇した。HO-1及びハプトグロビンの腎臓中濃度に対する血漿中濃度の相関係数は夫々0.57及び0.82であった。投与量とHO-1及びハプトグロビンタンパク質の血漿中濃度の相関は夫々r=0.85及びr=0.75であった。
図17】N-MgbのIP投与量とグリセロール投与から18時間後のBUN/クレアチニン濃度の用量反応関係を示す。(SnPP用量は1μmolの一定として)N-Mgbの用量を増加させると、グリセロール誘発AKIに対する保護の程度が増した。図16に示す結果と合わせて分析すると、血漿及び腎皮質中のHO-1/ハプトグロビン濃度とグリセロール誘発AKIに対する保護の程度の間に強い直接的な関係があることは明白である。横線は正常なBUN及びクレアチニン濃度を表す。右図に示すように、試験した用量範囲で18時間後の血漿中クレアチニン濃度が正常に維持されたことから、腎臓はこれらの投与量に十分に耐えられたと判断された。
図18】N-Mgb/SnPPを併用投与した場合の肝臓と心臓におけるHO-1、ハプトグロビン(Hapto)及びIL-10遺伝子発現のアップレギュレーションを示す。投与による増加度を対照値に対する増加倍率として表す。各々肝臓(上段2図)と心臓(下段2図)の両方で増加した。個々の数値を表9及び10に示す。
図19】N-Mgb-SnPPによるプレコンディショニングが虚血後肝損傷と肝毒性損傷を軽減させることを示す。乳酸脱水素酵素(LDH)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血漿中濃度により肝虚血再灌流(I/R)損傷の程度を判定した。N-Mgb-SnPPを前投与すると、LDH濃度とALT濃度(左図及び中央図)はいずれも有意に低下した。腹腔内グリセロール注射により誘発させた肝毒性損傷の程度も低下した(右図)。
図20】N-Mgb-SnPPを前投与しない場合(上)とした場合(下)とで虚血から18時間後に得られた肝臓切片の肉眼的外観を示す。肝虚血は白っぽい灰色の肝臓外観から判断されるように広範囲の肉眼的壊死を誘起した(上)。一方、N-Mgb-SnPPを前投与すると、肝臓はほぼ正常な外観を維持した(下)。
図21-1】ビタミンB12とFeスクロースが各々4時間以内に顕著なHO-1タンパク質増加を誘導することを示す。
図21-2】ビタミンB12とFeスクロースが各々4時間以内に顕著なHO-1タンパク質増加を誘導し、それらのIV注射から18時間持続することを示す。
図22】マレイン酸塩を注射した対照(C)ではBUN及びPCrが顕著に上昇することから明らかなように、マレイン酸塩注射により重度のAKIが生じたことを示す。SnPP単独でもFeS単独でも腎損傷の重症度はさほど変わらなかった。一方、FeS+SnPPを併用すると、BUN/PCr濃度が75%低下したことから明らかなように、顕著な保護が付与された(横線は正常マウスにおけるBUN/PCr濃度の平均値を表す)。
図23】IRI誘発から18時間以内にBUN及びPCr濃度が4倍に上昇したことを示す。FeS+SNPPを前投与すると、有意な保護が付与され、BUN及びPCr濃度は50%低下した。横線は正常マウスにおけるBUN/PCr濃度の平均値を表す。
図24】マレイン酸塩注射により重度のAKIが誘発されたことを示す。BUN/PCrの低下から明らかなように、この損傷はFeS+B12の前投与により著しく軽減された。横線は正常マウスにおけるBUN/PCr濃度の平均値を表す
図25】グリセロール注射から18時間以内に重度腎不全が生じたことを示す。18時間後のBUN及びPCr濃度の著しい低下から明らかなように、FeS+B12を前投与すると実質的な機能的保護が付与された。横線は正常マウスのBUN/PCr濃度の平均値を表す。
図26】注射から4時間後に評価した場合にHO-1mRNAが顕著且つ有意に増加したことを示す。18時間までにHO-1mRNAレベルは正常値に戻った。
図27】4時間のmRNA増加がHO-1タンパク質濃度の有意増加と相関することを示す。これらの濃度は特にFeS投与の場合には18時間の時点でも高いままであった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
生体臓器は損傷を受けると、有害事象(即ち傷害)が持続又は再発したとしてもより十分に自己防衛できるように保護応答を誘発することができる。この保護現象は当分野で「虚血プレコンディショニング」又は「獲得細胞抵抗性」と呼ばれている。
【0011】
特に事前に分かっている傷害が迫っているときに、臓器を先制的に保護するためにこの獲得細胞抵抗性現象を利用することが考えられている。例えば、外科手術、バルーン血管形成術、誘発性心臓もしくは脳虚血再灌流障害又はX線造影剤の毒性等の傷害の前に臓器を保護するためにこの現象を誘導することができる。上記の代わりに又は上記に加え、低温保存損傷及び/又は再移植虚血再灌流障害を予防又は抑制するために、臓器ドナー(例えば、腎臓、肝臓)にこの現象を誘導することもできる。しかし、自己防衛させようとする臓器に損傷を生じずに制御下に獲得細胞抵抗性を首尾よく誘導するためのメカニズムが本開示以前には確立していないため、これらのアプローチはまだ臨床用に展開されていない。
【0012】
本開示は保護しようとする臓器に損傷を生じずに獲得細胞抵抗性の誘導を可能にする組成物、キット及び方法を提供する。臓器に損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導することができるので、特に事前に分かっている傷害が接近しているときに、臓器を先制的に保護するためにこの現象を臨床状況で使用することができる。
【0013】
理論に拘泥するものではないが、組成物、キット及び方法は保護性ストレスタンパク質の発現をアップレギュレートすることにより獲得細胞抵抗性を誘導する。保護しようとする臓器に損傷を生じないような濃度又はアプローチでヘムタンパク質を投与することにより獲得細胞抵抗性を誘導することができる。特定の実施形態では、ヘムタンパク質に利用される経路と同一又は同様の生体経路を介してストレスタンパク質をアップレギュレートする化合物を投与することにより獲得細胞抵抗性の誘導を実現することもできる。このような化合物としては、例えば鉄や、ビタミンB12及び対応する代謝産物が挙げられる。
【0014】
「傷害」は臓器に損傷を生じる可能性のある事象である。代表的な傷害としては、ショック(低血圧)、腎低灌流、外科手術、誘発性心臓又は脳虚血再灌流、心肺バイパス手術、バルーン血管形成術、X線造影剤の毒性投与、化学療法、薬物投与、腎毒性薬物投与、鈍的外傷、穿刺、毒素、喫煙等が挙げられる。
【0015】
「損傷」とは臓器内の細胞死、臓器内の細胞損傷、臓器内の構造損傷及び/又は1以上の関連する対照群、条件もしくは基準レベルと比較した場合の臓器の機能低下により判断される臓器への有害作用である。
【0016】
臓器に「損傷がない」、臓器に「損傷を生じずに」、「臓器を損傷しない」等の表現は、臓器への影響が適切な医学的判断の範囲内で妥当な投与の利益対危険比に見合うことを意味する。特定の実施形態において、損傷がないことは、その時点で公知の臓器機能検査に従い、適切な統計比較を使用して臓器の機能が関連する対照群、条件又は基準レベルと統計的有意差のないことを示すことにより実証できる。代表的な臓器機能アッセイとしては、臓器機能に対応するマーカーを測定する方法;臓器の出力を測定する方法;及び1以上の関連する対照群、条件又は基準レベルと比較した臓器の性能計測値を測定する方法が挙げられる。
【0017】
獲得細胞抵抗性を誘導することにより、本願に開示する組成物、キット及び方法は傷害により誘発される損傷等の損傷から臓器を保護する。「損傷から臓器を保護する」等の表現は保護性ストレスタンパク質の発現をアップレギュレートすること;臓器機能を完全又は部分的に維持すること(例えば臓器の出力を測定する;臓器の性能計測値を測定する);臓器細胞損傷を抑制すること(特定の実施形態では、循環系への細胞内タンパク質の漏出の低下により現れる);及び1以上の関連する対照群、条件又は基準レベルと比較して臓器内の細胞死を抑制することの1以上を意味する。
【0018】
損傷及び対応する保護の有無を評価するために使用することができる多数のアッセイを本願に開示し、臓器機能の動物及びヒトモデルで使用することができる。臓器の損傷がないこと及び/又は保護は対象からの関連する測定値を基準レベルと比較することにより確認することができる。基準レベルとしては、臓器機能のカットオフポイント及び/又は異常値を規定するために例えば識別限界又は危険を定める閾値に従って規定された「正常」又は「対照」レベル又は値を挙げることができる。基準レベルは臓器損傷のない対象に典型的に認められる徴候のレベルとすることができる。「基準レベル」の他の用語としては、「指標」、「ベースライン」、「標準」、「健康」、「損傷前」等を挙げることができる。このような正常レベルはスコアを出力するためにある徴候を単独で使用するのか又は他の徴候と組合せた式で使用するのかに応じて変動させることができる。あるいは、事前に試験した対象のうちで臨床的に妥当な期間にわたって臓器損傷を生じなかった対象からのスコアのデータベースから基準レベルを得ることができる。例えば臓器損傷状態が分かっているコントロール対象又は集団から基準レベルを得ることもできる。実施形態によっては、臓器損傷の治療を受けたことがある1以上の対象から基準レベルを得ることもできるし、損傷後に治療の結果として臓器機能の改善を示した対象から基準レベルを得ることもできる。実施形態によっては、臓器損傷の治療を受けていない1以上の対象から基準レベルを得ることもできる。損傷重症度のアルゴリズム又は集団検査の指数計算値から基準レベルを得ることもできる。
【0019】
特定の実施形態において、「基準レベル」とは臓器機能の標準化値を意味することができ、如何なる損傷にも結び付かないレベル;特定のタイプの損傷に結び付けられるレベル;損傷の重症度に結び付けられるレベル;又は診断時、治療開始時もしくは治療中の1時点の特定の対象に結び付けられるレベルを表す。基準レベルは種々の試験場所で有用な汎用基準レベルでもよいし、臓器機能を測定するために使用する試験場所と特定のアッセイに固有の基準レベルでもよい。所定の実施形態において、基準レベルは(i)臓器損傷もしくは特定の型の臓器損傷をもたない個体;又は(ii)臓器損傷もしくは特定の型の臓器損傷をもたない個体群から得られる。対象における臓器損傷の自然進行又は退行をモニターするために対象の基準レベルを治療中の対象の時点と関連付けることもできる。
【0020】
特定の実施形態では、「データセット」から基準レベルを得ることができる。データセットとは所望の条件下の試料(又は試料集団)の評価により得られる1組の数値を表す。データセットの数値は例えば試料からの測定値を実験的に取得し、これらの測定値からデータセットを構成することにより得ることができ、あるいは実験室等のサービス供給元又はデータセットが保存されているデータベースもしくはサーバーからデータセットを取得することにより得ることもできる。
【0021】
保護性ストレスタンパク質のアップレギュレーション。理論に拘泥するものではないが、多数のストレスタンパク質のアップレギュレーションにより獲得細胞抵抗性が誘導される。「アップレギュレーション」とは着目遺伝子もしくは核酸分子の発現又はタンパク質の活性の増加を意味し、例えばアップレギュレートされていない以外は同一又は同等の遺伝子又はタンパク質の発現又は活性と比較した遺伝子発現又はタンパク質活性の増加を意味する。
【0022】
アップレギュレーションにより獲得細胞抵抗性を誘導することができる代表的なストレスタンパク質としては、ヘムオキシゲナーゼ(HO)、ハプトグロビン、ヘモペキシン、ヘプシジン、α1アンチトリプシン(AAT)、インターロイキン10(IL-10)、熱ショックタンパク質、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)及びHMG-CoA還元酵素が挙げられる。
【0023】
ヘムオキシゲナーゼ(HO)はヘム代謝の律速酵素である。HOには、HO-1(例えば配列番号1)、HO-2(アイソフォームA、例えば配列番号2;アイソフォームB、例えば配列番号3;アイソフォームC、例えば配列番号4)、及びHO-3(例えば配列番号5)の3種類の異なるアイソザイムがある。HO-1はヘムタンパク質、重金属、低酸素症及び種々の酸化還元感受性経路により誘導されるような種々の型の組織ストレス後にその発現がアップレギュレートされるアイソザイムである。HO-2は構成的に発現されるアイソザイムである。HO-3は最近同定されたアイソザイムであり、その機能は現時点では不明である。
【0024】
ハプトグロビン(例えば配列番号6)は分子量86,000~400,000の血漿タンパク質であり、血流中に遊離されるヘモグロビンの代謝に重要な役割を果たす。ヘモグロビンは血液中に過剰に遊離されると尿細管を通って尿中に排泄され、鉄損失のみならず、尿細管の障害の原因となる。ハプトグロビンは生体内でヘモグロビンと選択的且つ強固に結合してヘモグロビン-ハプトグロビン複合体を形成するので、鉄の回収と腎障害の予防に重要な機能を果たす。
【0025】
ヘモペキシン(Hpx;例えば配列番号7)はアルブミン、免疫グロブリン及び血漿中プロテアーゼに次いで血漿中に多量に存在する60kDaタンパク質である。ヘモペキシンはβ1B糖タンパク質と呼ばれることも多い。ヘモペキシンはヘムに対する親和性が高く(K<10-12M)、Hpxの生物学的役割はヘムの輸送に関係があり、ヘムにより誘発される酸化的損傷と、ヘムに結合した鉄の損失を防ぐと考えられている。ヘモペキシンは血漿からの遊離のヘムと結合して構造変化をもたらし、形成されたヘム-Hpx複合体は肝臓内の受容体に対する親和性が高いため、受容体を介するエンドサイトーシスによりに取り込まれ、ヘムはエンドソーム内の低pHで放出される。その後、Hpxは循環系に戻り、更に輸送過程を経ることができる。
【0026】
ヘモペキシンは200アミノ酸を各々20アミノ酸残基リンカーにより連結させた2つの相同領域に折畳まれている。2領域間の配列一致度は25%である。リンカーペプチドに由来するHis213とC末端領域のループに由来するHis270の2個のヒスチジンがヘム鉄と配位し、安定なビスヒスチジルFe(III)錯体を形成する。残基番号は成熟タンパク質に基づく。Hpxの化学的性質についてはClin.Chim.Acta,312,2001,13-23とDNA Cell Biol.,21,2002,297-304に記載されている。
【0027】
ヘプシジン(プレプロペプチド;例えば配列番号8)は鉄恒常性を調節する主要なシグナルである(Philpott,Hepatology 35:993(2002);Nicolas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:4396(2002))。ヒトヘプシジン濃度が高いと鉄濃度が低下し、低いと鉄濃度が上昇する。ヘプシジン遺伝子の突然変異の結果、ヘプシジン活性が失われ、重度の鉄過剰症である若年性ヘモクロマトーシスに結び付けられる(Roetto et al.,Nat.Genet.,33:21-22,2003)。マウスでの研究によると、正常な鉄恒常性の制御におけるヘプシジンの役割が立証されている(Nicolas et al.,Nat.Genet.,34:97-101,2003;Nicolas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:4596-4601,2002;Nicolas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98:8780-8785,2001)。
【0028】
また、ヘプシジンが炎症時の鉄貯蔵に関与しているというデータも蓄積しつつある(例えばWeinstein et al.,Blood,100:3776-36781,2002;Kemna et al.,Blood,106:1864-1866,2005;Nicolas et al.,J.Clin.Invest.,110:1037-1044,2002;Nemeth et al.,J.Clin.Invest.,113:1271-1276,2004;Nemeth et al.,Blood,101:2461-2463,2003及びRivera et al.,Blood,105:1797-1802,2005参照)。ヘプシジン遺伝子発現は感染等の炎症性刺激後に強くアップレギュレートされ、脊椎動物の自然免疫系の急性期反応を誘導することが認められている。マウスにおいて、ヘプシジン遺伝子発現はリポ多糖(LPS)、ターペンタイン、フロイント完全アジュバント及びアデノウイルス感染症によりアップレギュレートされることが示されている。ヘプシジン発現は炎症性サイトカインであるIL-6により誘導される。細菌、真菌及びウイルス感染症を含む慢性炎症性疾患をもつ患者でヘプシジン発現と炎症の貧血の間に強い相関も認められた。
【0029】
ヒトヘプシジンは抗微生物作用と鉄制御作用をもつ25アミノ酸ペプチド(例えば配列番号9)であり、新規抗微生物ペプチドを研究する2つのグループにより別々に発見された(Krause et al.,FEBS Lett.480:147(2000);Park et al.,J.Biol.Chem.276:7806(2001))。これはLEAP-1(肝臓で発現される抗微生物ペプチド)とも呼ばれている。その後、鉄により制御される肝特異的遺伝子を探求する過程でマウスで83アミノ酸プレプロペプチドと、ラット及びヒトで84アミノ酸プレプロペプチドをコードするヘプシジンcDNAが同定された(Pigeon et al.,J.Biol.Chem.276:7811(2001))。先ず24残基N末端シグナルペプチドが切断されてプロヘプシジンとなった後に更にプロセシングされ、血液中と尿中に存在する成熟ヘプシジンとなる。ヒト尿では、25アミノ酸が主体であるが、もっと短い22アミノ酸と20アミノ酸のペプチドもある。
【0030】
成熟ペプチドは8個のシステイン残基が4個のジスルフィド結合として連結されている点に注目すべきである。ヘプシジンの構造はHunter et al.,J.Biol.Chem.,277:37597-37603(2002)により解析され、尿から精製した天然ヘプシジンとHPLC保持時間が同一の化学合成ヘプシジンを使用してNMRにより解析されている。Hunterらはその解析結果として、ヘプシジンは隣接するジスルフィド結合(C1-C8、C2-C7、C3-C6、C4-C5)を含むヘアピン型ループ構造で折畳まれていると報告している。
【0031】
α1アンチトリプシン(AAT;例えば配列番号10)は肝細胞により分泌される糖タンパク質であり、通常では血清中と大半の組織中に高濃度で存在し、セリンプロテアーゼの阻害剤として作用する。AATによるプロテアーゼ阻害は組織タンパク分解の調節の必須要素であり、AAT欠損は複数の疾患の病理に関係がある。抗プロテアーゼとしてのその作用以外に、AATは多数の炎症メディエーターと酸化種ラジカルに対する優れた阻害能をもつため、重要な抗炎症性の生物学的機能をもつと思われる(Brantly M.Am J Respir Cell Mol.Biol.,2002;27:652-654)。
【0032】
インターロイキン10(IL-10;例えば配列番号11)はマクロファージ、単球、Th2型及び制御性T細胞及びB細胞等の複数の細胞種により産生される多面的サイトカインである。IL-10は免疫抑制性と抗炎症性をもつサイトカインであり、多数の骨髄系及びリンパ系細胞活性を制御し、T細胞とナチュラルキラー(NK)細胞による複数の炎症性サイトカインの産生を直接阻害する。IL-10はB細胞増殖因子とも呼ばれ、自己免疫、抗体産生、腫瘍形成及び移植寛容において作用する。Eur.J.Immunogenet.1997 24(1):1-8。IL-10は更に、感染に対するマクロファージ反応を変化させると同時に同一細胞上のFc受容体を刺激する。Annals Allergy Asthma Immunol.1997 79:469-483;J.Immunol.1993 151:1224-1234;及びJ.Immunol.1992 149:4048-4052。
【0033】
熱ショックタンパク質は急激な温度上昇に暴露された哺乳動物細胞で大半の細胞タンパク質の発現が著しく低下するのに反して多量に発現されることが当初に認められた。それ以来、このようなタンパク質はグルコース欠乏を含む種々のタイプのストレスに応答して産生されるとみなされている。
【0034】
熱ショックタンパク質はその非天然状態にある他のタンパク質と結合することができ、特にリボソームから抜け出る又は小胞体内に押出される新生ペプチドと結合することができる。Hendrick and Hartl.,Ann.Rev.Biochem.62:349-384(1993);Hartl.,Nature 381:571-580(1996)。更に、熱ショックタンパク質はサイトゾル、小胞体及びミトコンドリアでタンパク質の正しい折り畳みと会合に重要な役割を果たすことが示されており、この機能に鑑みて「分子シャペロン」と呼ばれる。Frydman et al.,Nature 370:111-117(1994);Hendrick and Hartl.,Ann.Rev.Biochem.62:349-384(1993);Hartl,Nature 381:571-580(1996)。
【0035】
熱ショックタンパク質の例としては、BiP(別称grp78(例えば配列番号12))、hsp/hsc70(例えば配列番号13)、gp96(grp94)(例えば配列番号14)、hsp60(例えば配列番号15)、hsp40(例えば配列番号16)、hsp70/72(例えば配列番号17)、及びhsp90(アイソフォーム1、例えば配列番号18;アイソフォーム2、例えば配列番号19)が挙げられる。
【0036】
リポカリンは細菌からヒトに至る多様な生物に存在する細胞外リガンド結合タンパク質のファミリーである。リポカリンは疎水性低分子の結合と輸送、栄養素輸送、細菌増殖調節、免疫応答の調節、炎症及びプロスタグランジン合成等の多くの異なる機能をもつ。
【0037】
好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL;例えば配列番号20)はヒト好中球リポカリン(HNL)、N-ホルミルペプチド結合タンパク質及び25kDa α2ミクログロブリン関連タンパク質とも呼ばれ、単量体、ホモ二量体又はゼラチナーゼBやマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)等のタンパク質とのヘテロ二量体として存在することができる24kDaタンパク質である。三量体のNGALも同定されている。NGALは活性化されたヒト好中球の特定の顆粒から分泌される。マウス(24p3/ウテロカリン)とラット(α2ミクログロブリン関連タンパク質/neu関連リポカリン)でも相同のタンパク質が同定されている。構造データによると、NGALはリポカリンの特徴である8本のβ鎖からなるβバレル構造をとるが、NGALはリポカリンに通常見られるよりも高極性で正電荷をもつアミノ酸残基が内部の非常に大きな空洞に並んでいることが確認された。NGALは細菌由来リポ多糖やホルミルペプチド等の親油性低分子物質と結合すると考えられており、炎症のモジュレーターとして機能するらしい。
【0038】
NGALは急性腎障害又は疾患の初期マーカーである。NGALは活性化されたヒト好中球の特定の顆粒により分泌される以外に、尿細管上皮細胞損傷に応答してネフロンからも産生され、尿細管間質(TI)損傷のマーカーである。NGAL濃度は軽度の「亜臨床」腎虚血後でも虚血又は腎毒性からの急性尿細管壊死(ATN)で上昇する。更に、NGAL慢性腎疾患(CKD)と急性腎障害(AKI)の場合に腎臓により発現されることが知られている(例えばDevarajan et al.,Amer.J.Kidney Diseases 52(3);395-399(September 2008);及びBolignano et al.,Amer.J.Kidney Diseases 52(3):595-605(September 2008)参照)。尿中NGAL濃度の上昇は進行性腎不全の予測因子であると示唆されている。NGALは動物及びヒトモデルの両方で虚血又は腎毒性損傷の直後に尿細管により顕著に発現されることが既に立証されている。NGALは尿中に急速に分泌されるので容易に検出・測定することができる。NGALはプロテアーゼ耐性であるため、尿細管におけるNGAL発現の忠実なマーカーとして尿中で回収できると思われる。
【0039】
HMG-CoA還元酵素はメバロン酸経路を介して肝臓及び他の組織でコレステロール及び他のイソプレノイドの産生に中心的な役割を果たす。3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)からメバロン酸への変換はHMG-CoA還元酵素により触媒され、肝臓及び他の組織におけるコレステロール生合成経路の初期律速段階である。HMG-CoA還元酵素のストレス誘導性上昇はコレステロール合成をもたらし、血漿膜コレステロールが上昇する。
【0040】
保護性ストレスタンパク質の発現はヘムタンパク質の投与によりアップレギュレートされる。ヘムタンパク質はヘム補欠分子族(プロトポルフィリン環に中心Feが配位したもの。プロトポルフィリン環は4個のピロール環がメチン橋により連結されたものである。メチル基4個、ビニル基2個及びプロピオン酸側鎖2個も結合することができる。)を含むメタロプロテインである。特定の実施形態において、ヘムタンパク質は低分子量ヘムタンパク質である。「低分子量ヘムタンパク質」としては、分子量25kDa以下、24KDa以下、23kDa以下、22kDa以下、21kDa以下、20kDa以下、19kDa以下、18kDa以下、17kDa以下、16kDa以下、15kDa以下、14kDa以下、13kDa以下、12kDa以下、11kDa以下又は10kDa以下のものが挙げられる。別の実施形態において、ヘムタンパク質は静脈内投与した場合に迅速に排出される。「迅速に排出される」とは、尿中クリアランス速度が血清クレアチニン又は尿素の>50%である尿中排泄速度を意味する。別の実施形態において、ヘムタンパク質は静脈内投与した場合に迅速に排出される低分子量ヘムタンパク質である。ミオグロビン(例えば配列番号21)は本願に開示する組成物、キット及び方法で使用することができる1種のヘムタンパク質である。ヘムタンパク質と言う場合には、修飾ヘムタンパク質、変異体ヘムタンパク質及びD置換アナログヘムタンパク質を含む。ミオグロビンと言う場合には、本願の他の箇所に記載するような修飾ミオグロビン、変異体ミオグロビン及びD置換アナログミオグロビンを含む。
【0041】
ミオグロビンは横紋筋組織に存在し、ミオグロビンの空いた結合部位でOと可逆的に結合することにより酸素を貯蔵・放出するように機能する。この可逆的結合により、ミオグロビンは細胞ミトコンドリアの細胞内酸素源を構成する。別のヘムタンパク質であるヘモグロビンと異なり、ミオグロビンは天然では単量体としてしか存在しない。
【0042】
筋組織が損傷すると、血流中にミオグロビンが放出される。Zager,R.A.,Ren.Fail.,14,341-344(1992)に記載されているように、血液中の多量のミオグロビンは腎血管の狭窄を誘起することにより腎損傷を生じ、尿細管腔内に閉塞性の円柱を形成し、腸炎症を誘発する恐れがある。更に、Nathらの言説によると、ヘモグロビン等のヘムタンパク質は細胞外スペースに放出されると組織毒性を生じ、ミオグロビンは横紋筋融解症における腎不全の病因に直接関与している。J.Clin.Invest.,1992 Jul.(90)1:267-70。従って、ヘムタンパク質、特にミオグロビンは腎系統を損傷させる可能性がある。
【0043】
ミオグロビンを含むヘムタンパク質にはこれらの有害な作用があることが分かっていたため、ミオグロビン等のヘムタンパク質が臓器損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導するのに役割を果たすとは予想されなかった。従って、本開示の1態様は、保護の目的でミオグロビンを投与する臓器に損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導するようにミオグロビンを投与するための組成物、キット及び方法を同定することを含む。
【0044】
臓器損傷を生じずにヘムタンパク質投与により獲得細胞抵抗性を誘導することができるアプローチとしては、ヘムタンパク質の治療有効量を選択する方法;ヘムタンパク質の生物学的半減期を延長させる方法;ヘムタンパク質の作用を増強する方法;及びヘムタンパク質投与に伴う毒性を低減する方法が挙げられる。
【0045】
本願に開示する1実施形態はミオグロビン等のヘムタンパク質の治療有効量を選択することを含む。治療有効量、治療有効量の決定方法及び治療有効量の例について以下により詳細に説明する。
【0046】
ヘムタンパク質の生物学的半減期は、ヘムタンパク質をヘムタンパク質分解阻害剤と併用投与することにより延長させることができる。特定の実施形態において、ヘムタンパク質分解阻害剤はヘムタンパク質のポルフィリン環がHOにより開裂されるのを抑制又は阻止し、ヘムタンパク質の毒性のFe分が放出されるのを抑制又は阻止することができる。特定の実施形態では、ヘムタンパク質分解阻害剤をヘムタンパク質と併用投与することにより、ヘムタンパク質の投与量を減らすことができる。
【0047】
特定の実施形態では、ヘムとHOの結合を阻止するあらゆる化合物がヘムタンパク質分解阻害剤として機能することができる。例えば、鉄プロトポルフィリンIXの多数の合成アナログが知られている。これらの化合物は市販されており、及び/又は公知方法により容易に合成することができる。これらの化合物としては、例えば白金、亜鉛、ニッケル、コバルト、銅、銀、マンガン、クロム及び錫プロトポルフィリンIXが挙げられる。便宜上、これらの化合物をMe-プロトポルフィリン又はMePP(式中、Meは金属を表す)と総称することができ、具体的には金属の化学記号を利用し、例えばクロム、錫及び亜鉛プロトポルフィリン化合物を夫々Cr-プロトポルフィリン(CrPP)、Sn-プロトポルフィリン(SnPP)、Zn-プロトポルフィリン(ZnPP)と呼称する。
【0048】
ヘミン及び/又はヘマチンも競合的HO-1阻害剤として使用することができる。場合によっては、ヘミンとヘマチンは同義に使用され、第二鉄イオンが塩化物配位子に結合したプロトポルフィリンIXを意味する。ヘミンとヘマチンを区別し、Cl配位子形態をヘミンと呼び、塩化物ではなく水酸化物が鉄イオンと結合した同一化合物をヘマチンと呼ぶ場合もある。どちらも本開示の教示内の競合的HO-1阻害剤として使用することができる。実際に、上述したように、ヘムとHOの結合を阻止するあらゆる化合物がヘムタンパク質分解阻害剤として機能することができる。
【0049】
HOの作用を阻止すると、損傷を生じずに獲得細胞抵抗性の誘導を有利に助長できるということは予測外であった。例えば、Nathらはヘムタンパク質毒性のグリセロールモデルでマウスのHO-1遺伝子をノックアウトすると、腎損傷が悪化したと報告している。同著者らはHO-1が生体内でヘムタンパク質により誘発される急性毒性に対する極めて重要な保護剤であると述べている。Am.J.of Path.,2000 May 156(5):1527-1535。
【0050】
更に、損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導するためにMe-プロトポルフィリンをヘムタンパク質と併用できるということも予想外であった。これはMe-プロトポルフィリンが一般に種々の臓器損傷モデルで臓器に悪影響を与えると考えられているためである。例えば、Agarwalらはヘムタンパク質介在性腎損傷のHOベースインビボモデルでSn-プロトポルフィリンを前投与すると、腎損傷が悪化することを見出した。特に、Sn-プロトポルフィリンを前投与すると、3~5日目に血清クレアチニン値が上昇し、5日目にイヌリンクリアランスが低下した。シスプラチン投与から2日後に腎血行動態を試験した処、Sn-プロトポルフィリンを投与したラットでは腎血流速度が低下し、腎血管抵抗が増加し、ナトリウム排泄率が上昇することが実証された。Kidney Int.1995 Oct.48(4):1298-307。グリセロールモデル横紋筋融解症において、Nathらは腎臓がHOを誘導することにより多量のヘムタンパク質に応答することと、HOの作用を競合的阻害剤(この場合にはSn-プロトポルフィリン)で阻止すると、腎機能障害が悪化することを見出した。J.Clin.Invest.1992 Jul:90(1):267-70。FerenbachらとGoodmanらも同様にMe-プロトポルフィリンを使用してHOを阻害すると、腎損傷が悪化することを示している。夫々Nephron.Exp.Nephrol.2010 Apr.115(3):e33-7及びKidney Int.2007 Oct.72(8):945-53参照。従来技術のこれらの教示に鑑み、当業者は本願に開示するHO-1阻害の有益な効果を予想しなかったであろう。
【0051】
理論に拘泥するものではないが、ヘムタンパク質は酸化還元感受性転写因子を活性化させ、酸化還元感受性細胞保護タンパク質のアップレギュレーションをもたらす。この経路はMgbの鉄分により開始される。従って、本願で実証するように、鉄を介する尿細管細胞保護遺伝子シグナル伝達を誘導する代替アプローチも有効である。これらの代替アプローチとしては、鉄及び/又はビタミンB12の投与が挙げられる。B12を挙げる根拠はコバルトとシアン化物がいずれも独立してHO-1を誘導できるからである。即ち、シアン化物とコバルトはいずれもB12分子の主要部分であるので、B12はその両方を単剤として投与するための安全な方法である。
【0052】
修飾ヘムタンパク質及びヘムタンパク質分解阻害剤(例えばプロトポルフィリン、ヘミン、ヘマチン)としては、(a)タンパク質血清半減期及び/もしくは機能的インビボ半減期を延長させたもの、(b)タンパク質抗原性を低下させたもの、(c)タンパク質保存安定性を強化したもの、(d)タンパク質溶解度を高くしたもの、(e)循環時間を長くしたもの、並びに/又は(f)バイオアペイラビリティを高めたもの、例えば曲線下面積(AUC)を高めたものが挙げられる。
【0053】
特定の実施形態において、修飾ヘムタンパク質及びヘムタンパク質分解阻害剤(「修飾体」)としては、1以上のアミノ酸を非アミノ酸成分で置換えたものや、アミノ酸を官能基と共役させるか又は他の方法で官能基をアミノ酸と結合させたものが挙げられる。修飾アミノ酸は例えばグリコシル化アミノ酸、PEG化アミノ酸、ファルネシル化アミノ酸、アセチル化アミノ酸、ビオチン化アミノ酸、脂質部分と結合させたアミノ酸、又は有機誘導体化剤と結合させたアミノ酸とすることができる。アミノ酸は組換え生産中に例えば翻訳と同時又は翻訳後に修飾する(例えば哺乳動物細胞で発現中にN-X-S/TモチーフをN-結合型グリコシル化する)こともできるし、合成手段により修飾することもできる。修飾アミノ酸は配列の内部でもよいし、配列の末端でもよい。修飾体としては更に亜硝酸化ミオグロビン等の亜硝酸化ヘムタンパク質も挙げられる。
【0054】
その天然状態において、ミオグロビンは17kDaであるため、迅速に濾過され、腎臓により排泄される。ミオグロビンのサイズを大きくすることにより、その排泄を遅くすることができ、保護効果を延ばし、持続させることができる。1実施形態において、修飾タンパク質はPEG化ヘムタンパク質又はヘムタンパク質分解阻害剤である。
【0055】
PEG化はミオグロビン及び他の低分子量タンパク質のサイズを大きくするために使用することができる1つの方法である。PEG化はポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖を薬物やタンパク質等の他の分子と共有結合させる方法である。タンパク質のPEG化方法は数種類のものが文献に報告されている。例えば、タンパク質のリジン残基及びN末端の遊離アミン基をPEG化するためにN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)-PEGが使用されており;還元剤の存在下でタンパク質のアミノ末端をPEG化するためにアルデヒド基を有するPEGが使用されており;タンパク質のシステイン残基の遊離チオール基を選択的にPEG化するためにマレイミド官能基を有するPEGが使用されており;アセチル-フェニルアラニン残基の部位特異的PEG化を実施することができる。
【0056】
タンパク質又はペプチドをPEGと共有結合させる方法は生体内のタンパク質及びペプチドの循環半減期を延長させるために有用な方法であることが分かっている(Abuchowski,A.et al.,Cancer Biochem.Biophys.,1984,7:175-186;Hershfield,M.S.et al.,N.Engl.J.Medicine,1987,316:589-596;及びMeyers,F.J.et al.,Clin.Pharmacol.Ther.,1991,49:307-313)。PEGをタンパク質及びペプチドと結合させると、分子を酵素分解から保護できるだけでなく、生体からのそのクリアランス速度も低下する。タンパク質と結合させるPEGのサイズはタンパク質の循環半減期に大きな影響がある。PEG化がクリアランスを低下させる効力は一般にタンパク質と結合させるPEG基の数ではなく、改変後のタンパク質の総分子量に依存する。PEG化は分子の見掛けの分子量を増やすことにより血流からのクリアランス速度を低下させる。所定のサイズまで、タンパク質の糸球体濾過量はタンパク質のサイズに反比例する。通常では、PEGが大きいほど、結合させたタンパク質のインビボ半減期は長くなる。また、PEG化はタンパク質凝集を抑制し(Suzuki et al.,Biochem.Bioph.Acta vol.788,pg.248(1984))、タンパク質免疫原性を変化させ(Abuchowski et al.;J.Biol.Chem.vol.252 pg.3582(1977))、例えばPCT公開第WO92/16221号に記載されているようにタンパク質溶解度を高めることもできる。
【0057】
目標とする循環半減期をもつタンパク質を生産するのに適した種々のサイズのPEGが市販されている(Nektar Advanced PEGylation Catalog 2005-2006;及びNOF DDS Catalogue Ver 7.1)。mPEGスクシンイミジルスクシネート、mPEGスクシンイミジルカーボネート、及びmPEGプロピオンアルデヒド等のPEGアルデヒドを含む種々の活性化PEGが使用されている。
【0058】
別の実施形態において、修飾タンパク質は亜硝酸化ヘムタンパク質又は亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤である。亜硝酸イオンは一酸化窒素合成酵素(NOS)に非依存性の経路を介する一酸化窒素(NO)の生成の調節に関与している。無機亜硝酸イオンは酸素結合性ヘムタンパク質(ヘモグロビン及びミオグロビン)、デオキシヘモグロビン、デオキシミオグロビン、キサンチン酸化還元酵素、内皮型NOS、酸不均化、及びミトコンドリア電子伝達系のメンバー(例えばいずれも潜在的な電子供与体であるミトコンドリアヘムタンパク質)により種々のメカニズムを介してNOへの一電子還元を受けることができる。
【0059】
例えばミオグロビン等においてヘム鉄に亜硝酸イオンが結合すると、このヘムタンパク質は熱ショックタンパク質(例えばHSP72)、HO-1、ハプトグロビン、ヘモペキシン、ヘプシジン、IL-10、AAT、NGAL及び/又はHMG-CoA還元酵素等のストレスタンパク質の発現をアップレギュレートする能力を高めることができる。本願に開示する亜硝酸イオンとFeの結合の結果、ヘムタンパク質投与に伴う毒性を低減させることもできる。理論に拘泥するものではないが、ストレスタンパク質の発現のアップレギュレーションは獲得細胞抵抗性を促進するのに役立つ。
【0060】
理論に拘泥するものではないが、本開示は糸球体濾過後にN-MgbとSnPPが近位尿細管に取り込まれ、酸化還元感受性転写因子を活性化させ、酸化還元感受性細胞保護タンパク質のアップレギュレーションをもたらすことを示唆するものであるので、特定の実施形態では亜硝酸化型の有効成分を使用する。同様に理論に拘泥するものではないが、この経路はMgbの鉄(Fe)分により開始される。亜硝酸イオンとMgbFeの結合は潜在的なFe毒性を抑えながらFeシグナル伝達を助長する。SnPPの併用投与もFeシグナル伝達を助長する。これらの同一経路はSnPP組織結合部位/シグナル伝達とスカベンジャー受容体を介したMgb取り込みにより腎外臓器で活性化させることができる。
【0061】
ヘムタンパク質、ヘムタンパク質分解阻害剤及び保護性ストレスタンパク質を含めて本願でタンパク質と記載する場合には、その変異体とD置換アナログも含む。
【0062】
本願に開示するタンパク質の「変異体」としては、本願に開示するタンパク質に比較して1カ所以上のアミノ酸付加、欠失、停止位置又は置換を有するタンパク質が挙げられる。
【0063】
アミノ酸置換は保存的置換でも非保存的置換でもよい。本願に開示するタンパク質の変異体としては、1カ所以上の保存的アミノ酸置換を有するものを挙げることができる。「保存的置換」とは以下の保存的置換グループ、即ちグループ1:アラニン(AlaないしA)、グリシン(GlyないしG)、Ser、Thr;グループ2:アスパラギン酸(AspないしD)、Glu;グループ3:アスパラギン(AsnないしN)、グルタミン(GlnないしQ);グループ4:Arg、リジン(LysないしK)、ヒスチジン(HisないしH);グループ5:Ile、ロイシン(LeuないしL)、メチオニン(MetないしM)、バリン(ValないしV);及びグループ6:Phe、Tyr、Trpのうちの1つのグループ内で行われる置換を意味する。
【0064】
また、類似する機能、化学構造又は組成によりアミノ酸を保存的置換グループに分けることもできる(例えば酸性、塩基性、脂肪族、芳香族、含硫)。例えば、脂肪族グループには、置換の目的でGly、Ala、Val、Leu及びIleを含むことができる。相互に保存的置換であるとみなされるアミノ酸を含む他のグループとしては、含硫:Met及びCys;酸性:Asp、Glu、Asn及びGln;小さい脂肪族で非極性又はやや極性の残基:Ala、Ser、Thr、Pro及びGly;極性で負電荷をもつ残基及びそのアミド:Asp、Asn、Glu及びGln;極性で正電荷をもつ残基:His、Arg及びLys;大きい脂肪族で非極性の残基:Met、Leu、Ile、Val及びCys;大きい芳香族残基:Phe、Tyr及びTrpが挙げられる。その他の情報はCreighton(1984)Proteins,W.H.Freeman and Companyに記載されている。
【0065】
本願に開示するタンパク質の変異体としては、本願に開示するタンパク質に対して少なくとも70%の配列一致度、少なくとも80%の配列一致度、少なくとも85%の配列一致度、少なくとも90%の配列一致度、少なくとも95%の配列一致度、少なくとも96%の配列一致度、少なくとも97%の配列一致度、少なくとも98%の配列一致度又は少なくとも99%の配列一致度をもつ配列も挙げられる。より特定的には、本願に開示するタンパク質の変異体としては、例えば配列番号1~29のいずれかに対して70%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して80%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して81%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して82%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して83%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して84%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して85%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して86%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して87%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して88%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して89%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して90%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して91%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して92%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して93%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して94%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して95%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して96%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して97%の配列一致度、例えば配列番号1~29のいずれかに対して98%の配列一致度、又は例えば配列番号1~29のいずれかに対して99%の配列一致度をもつタンパク質が挙げられる。
【0066】
ミオグロビンの変異体としては、例えば配列番号21に対して70%の配列一致度、例えば配列番号21に対して80%の配列一致度、例えば配列番号21に対して81%の配列一致度、例えば配列番号21に対して82%の配列一致度、例えば配列番号21に対して83%の配列一致度、例えば配列番号21に対して84%の配列一致度、例えば配列番号21に対して85%の配列一致度、例えば配列番号21に対して86%の配列一致度、例えば配列番号21に対して87%の配列一致度、例えば配列番号21に対して88%の配列一致度、例えば配列番号21に対して89%の配列一致度、例えば配列番号21に対して90%の配列一致度、例えば配列番号21に対して91%の配列一致度、例えば配列番号21に対して92%の配列一致度、例えば配列番号21に対して93%の配列一致度、例えば配列番号1に対して94%の配列一致度、例えば配列番号21に対して95%の配列一致度、例えば配列番号21に対して96%の配列一致度、例えば配列番号21に対して97%の配列一致度、例えば配列番号21に対して98%の配列一致度、例えば配列番号21に対して99%の配列一致度をもつミオグロビンタンパク質を挙げることができる。
【0067】
「配列一致度%」とは配列を比較することにより決定される2以上の配列間の関係を意味する。当分野において、「一致度」とはこのような配列の連鎖間の一致により決定されるタンパク質配列間の配列関連度も意味する。「一致度」(「類似度」と言うことも多い)は公知方法により容易に計算することができ、Computational Molecular Biology(Lesk,A.M.,ed.)Oxford University Press,NY(1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,ed.)Academic Press,NY(1994);Computer Analysis of Sequence Data,Part I(Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.)Humana Press,NJ(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology(Von Heijne,G.,ed.)Academic Press(1987);及びSequence Analysis Primer(Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.)Oxford University Press,NY(1992)に記載されている方法が挙げられる。配列一致度を決定するための好ましい方法は試験する配列間で最良の一致が得られるようにデザインされる。配列一致度及び類似度の決定方法は公共入手可能なコンピュータプログラムで体系化されている。配列整列と一致度百分率計算はLASERGENEバイオインフォマティクス計算プログラムパッケージ(DNASTAR,Inc.,Madison,Wisconsin)のMegalignプログラムを使用して実施することができる。デフォルトパラメータ(GAP PENALTY=10,GAP LENGTH PENALTY=10)を使用してClustal整列法(Higgins and Sharp CABIOS,5,151-153(1989))により配列の多重整列を行うこともできる。関連するプログラムとしては、GCGプログラムパッケージ(Wisconsin Package Version 9.0,Genetics Computer Group(GCG),Madison,Wisconsin);BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschul,et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990);DNASTAR(DNASTAR,Inc.,Madison,Wisconsin);及びSmith-Watermanアルゴリズムを搭載したFASTAプログラム(Pearson,Comput.Methods Genome Res.,[Proc.Int.Symp.](1994),Meeting Date 1992,111-20.Editor(s):Suhai,Sandor.Publisher:Plenum,New York,N.Y.)も挙げられる。本開示の文脈内では、当然のことながら、配列解析ソフトウェアを解析に使用する場合には、解析の結果は参照するプログラムの「デフォルト値」を基準とする。「デフォルト値」とは最初に初期化する際にソフトウェアで当初にロードされる数値又はパラメータの何らかのセットを意味する。
【0068】
「D置換アナログ」としては、本願に開示するタンパク質のうちで1以上のL-アミノ酸を1以上のD-アミノ酸で置換したものが挙げられる。D-アミノ酸は参照配列に存在するものと同一種のアミノ酸でもよいし、別のアミノ酸でもよい。従って、D-アナログは変異体でもよい。
【0069】
配列の例を本願に記載するが、公共データベースにより提供されている配列情報を使用してその他の近縁及び関連するタンパク質配列と、このようなタンパク質をコードする対応する核酸配列も同定することができる。
【0070】
鉄。鉄と言う場合には、鉄含有錯体における鉄分子又は鉄を含むことができる。「鉄含有錯体」又は「鉄錯体」は有機化合物と錯形成した(II)又は(III)酸化状態の鉄を含有する化合物である。鉄錯体としては、鉄高分子錯体、鉄-糖錯体及び鉄アミノグリコサン錯体が挙げられる。これらの錯体は市販されており、及び/又は当分野で公知の方法により合成することができる。
【0071】
鉄-糖錯体の例としては、鉄-単糖錯体、鉄-オリゴ糖錯体及び鉄-多糖錯体(例えば鉄カルボキシマルトース、鉄スクロース、鉄ポリイソマルトース(鉄デキストラン)、鉄ポリマルトース(鉄デキストリン)、鉄グルコン酸、鉄ソルビタール、鉄水素化デキストラン)が挙げられ、更にソルビタール、クエン酸及びグルコン酸等の他の化合物と錯形成したもの(例えば鉄デキストリン-ソルビトール-クエン酸錯体及び鉄スクロース-グルコン酸錯体)でもよいし、その混合物でもよい。
【0072】
鉄アミノグリコサン錯体の例としては、鉄コンドロイチン硫酸、鉄デルマチン硫酸、鉄ケラタン硫酸が挙げられ、更に他の化合物と錯形成したものでもよいし、その混合物でもよい。
【0073】
鉄高分子錯体の例としては、鉄ヒアルロン酸錯体、鉄タンパク質錯体及びその混合物が挙げられる。鉄タンパク質錯体としては、フェリチン、トランスフェリチン、及びフェリチン又はトランスフェリチンのアミノ酸置換体並びにその混合物が挙げられる。
【0074】
特定の実施形態は低分子量鉄錯体(例えば低分子量鉄スクロース錯体)を利用する。錯体の分子量は25,000未満とすることができ、非高分子とすることができる。その他の実施形態において、錯体の分子量は12,000未満又は5000未満又は2500未満とすることができる。当然のことながら、鉄錯体の分子量が小さいほど、従って、鉄錯体が小さいほど、錯体を迅速に患者の血液内に取り込むことができる。
【0075】
特定の実施形態において、特許請求の範囲及び具体的な実施形態の範囲内の鉄は鉄スクロースを意味する。
【0076】
ビタミンB12と代謝産物。ビタミンB12は金属イオンであるコバルトを含むという点でビタミンのうちでもユニークである。特定の実施形態としては、コリン環の内側に三価コバルトイオンが結合した有機金属化合物である水溶性シアノコバラミンが挙げられる。メチルコバラミンと5-デオキシアデノシルコバラミンは主に人体により使用される型のビタミンB12である。その他の型としては、アデノシルコバラミンとヒドロキシルコバラミンが挙げられる。ビタミンB12はあらゆる適切な合成又は天然資源と、全類似体、誘導体、塩及びプロドラッグ並びにその混合物から得られる。
【0077】
実施形態によっては、ビタミンB12のPO 基の少なくとも一部を切断することにより、利用可能なビタミンB12の誘導体を生成する。例えば、ビタミンB12のPO基はヌクレアーゼを使用して切断することができ、あるいはヌクレアーゼとホスファターゼを併用して除去することができる。ビタミンB12の誘導体は構造:
【0078】
【化1】
をとることができ、式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNとすることができ;RはOH又はHとすることができ;RはOH又はHとすることができる。
【0079】
実施形態によっては、ビタミンB12を糖-金属錯体とカップリングさせることができる。また、ビタミンB12の誘導体を糖-金属錯体とカップリングさせることもできる。ある種の実施形態において、糖-金属錯体は二糖類に由来することができる。例えば、糖-金属錯体はスクロースに由来することができる。他の例において、糖-金属錯体はラクトースに由来することができる。具体例では、糖-金属錯体を鉄スクロースとすることができる。ビタミンB12を鉄スクロースとカップリングさせることにより、単一構造を使用して鉄とビタミンB12を臓器に送達することができる。
【0080】
糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合は酸に不安定なヒドラジンリンカーを使用して形成することができる。また、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合は酸に不安定なヒドラゾンリンカーを使用して形成することもできる。ビタミンB12と共に使用されるヒドラゾンリンカーの例はBagnato JD,Eilers AL,Horton RA,Grisson CB:Synthesis and characterization of a cobalamin-colchicine conjugate as a novel tumor-targeted cytotoxid.J.Org.Chem.2004:69,8987-8996に記載されている。他の実施形態において、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合はポリエーテルを使用して形成することができる。例えば、ポリエチレングリコールを使用して糖-金属錯体をビタミンB12又はビタミンB12の誘導体と連結することができる。他の実施形態において、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合はペプチドリンカーを使用して形成することができる。具体例では、ポリグリシン-セリンリンカーを使用して糖-金属錯体をビタミンB12又はビタミンB12の誘導体と連結することができる。更に他の実施形態において、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合は1以上のペプチドを使用して形成することができる。他の具体例では、ポリアミドを使用して糖-金属錯体をビタミンB12又はビタミンB12の誘導体と連結することができる。特定の具体例では、プロテアーゼ耐性ポリアミドを使用して糖-金属錯体をビタミンB12又はビタミンB12の誘導体と連結することができる。
【0081】
場合により、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合は糖-金属錯体の複数部位で形成することができる。例えば、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合は糖-金属錯体の複数のヒドロキシル部位で形成することができる。他の実施形態において、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合は糖-金属錯体の単一部位で形成することができる。例えば、糖-金属錯体とビタミンB12又はビタミンB12の誘導体の結合は糖-金属錯体の単一のヒドロキシル部位で形成することができる。また、糖-金属錯体とビタミンB12の結合はビタミンB12のリン酸基と糖-金属錯体のヒドロキシル基で形成することができる。更に、糖-金属錯体とビタミンB12の誘導体の結合は糖-金属錯体のヒドロキシル基とビタミンB12からリン酸基を切断することにより得られる部位との間で形成することができる。
【0082】
糖-金属錯体とビタミンB12を結合させた構造の例は以下の形態:
【0083】
【化2】
をとることができ、式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNとすることができ;Aはリン酸基であり、Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。具体的な実施形態において、AはPOとるすことができ、Lはヒドラゾンリンカーとすることができ、Bは糖質構造とすることができ、MはFeとすることができる。実施形態によっては、Bは炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28とすることができる。特定の実施形態において、Bはスクロースに由来することができる。
【0084】
糖-金属錯体とビタミンB12の誘導体を結合させた構造の例は以下の形態:
【0085】
【化3】
をとることができ、式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNとすることができ;RはOH又はHとすることができ;Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。具体的な実施形態において、Lはヒドラゾンリンカーとすることができ、MはFeとすることができる。実施形態によっては、Bは炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28とすることができる。特定の実施形態において、Bはスクロースに由来することができる。
【0086】
糖-金属錯体とビタミンB12の誘導体を結合させた構造の他の例は以下の形態:
【0087】
【化4】
をとることができ、式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNとすることができ;RはOH又はHとすることができ;Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。具体的な実施形態において、Lはヒドラゾンリンカーとすることができ、MはFeとすることができる。実施形態によっては、Bは炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28とすることができる。特定の実施形態において、Bはスクロースに由来することができる。
【0088】
糖-金属錯体とビタミンB12の誘導体を結合させた構造の他の例は以下の形態:
【0089】
【化5】
をとることができ、式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNとすることができ;Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。具体的な実施形態において、Lはヒドラゾンリンカーとすることができ、MはFeとすることができる。実施形態によっては、Bは炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28とすることができる。特定の実施形態において、Bはスクロースに由来することができる。
【0090】
複数の糖-金属錯体とビタミンB12の誘導体を結合させた構造の例は以下の形態:
【0091】
【化6】
をとることができ、
式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNとすることができ;Lは第1のリンカーであり、Lは第2のリンカーであり、Bは第1の糖質構造であり、Bは第2の糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した第1の金属であり、Mは糖質構造と錯形成した第2の金属である。具体的な実施形態において、L及びLはヒドラゾンリンカーとすることができ、M及びMはFeとすることができる。実施形態によっては、B及びBは炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28とすることができる。特定の実施形態において、B及びBはスクロースに由来することができる。
【0092】
実施形態によっては、糖-金属錯体は二糖類に由来することができる。例えば、糖-金属錯体はスクロースに由来することができる。他の例において、糖-金属錯体はラクトースに由来することができる。糖-金属錯体の構造の例は以下の形態をとることができる。
【0093】
【化7】
当然のことながら、上記構造は1個のFe原子がスクロース由来化合物と錯形成している場合を示すが、必要に応じて基の電荷のバランスを取るように1個以上のFe原子をスクロース由来化合物の1個以上の繰り返し単位と錯形成させることができる。
【0094】
組成物。ヘムタンパク質(その修飾体、変異体及びD置換アナログを含む)、ヘムタンパク質分解阻害剤(例えばHO-1阻害剤、プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチン)、鉄及びビタミンB12(個々に及び総称して「有効成分」と言う。)を組成物に配合して単独で又は組合せて提供することができる。特定の実施形態において、組成物は少なくとも1種のヘムタンパク質及び/又は少なくとも1種のヘムタンパク質分解阻害剤と、少なくとも1種の医薬的に許容可能な担体を含有する。有効成分の塩及び/又はプロドラッグも使用することができる。
【0095】
医薬的に許容可能な塩は有効成分の活性を維持する医薬用に許容可能なあらゆる塩を含む。医薬的に許容可能な塩とは、酸、別の塩、又は酸もしくは塩に変換されるプロドラッグの投与の結果として生体内で形成され得るあらゆる塩も意味する。
【0096】
適切な医薬的に許容可能な酸付加塩は無機酸又は有機酸から製造することができる。このような無機酸の例は塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸及びリン酸である。適切な有機酸は脂肪族、脂環族、芳香族、芳香脂肪族、複素環族、カルボン酸及びスルホン酸類の有機酸から選択することができる。
【0097】
適切な医薬的に許容可能な塩基付加塩としては、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛から製造される金属塩又はN,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、リジン、アルギニン及びプロカインから製造される有機塩が挙げられる。
【0098】
プロドラッグは投与後に例えばタンパク質の開裂や生物学的に不安定な基の加水分解により治療活性化合物に変換される有効成分を含む。
【0099】
実施形態によっては、組成物は組成物の少なくとも0.1%w/v、組成物の少なくとも1%w/v、組成物の少なくとも10%w/v、組成物の少なくとも20%w/v、組成物の少なくとも30%w/v、組成物の少なくとも40%w/v、組成物の少なくとも50%w/v、組成物の少なくとも60%w/v、組成物の少なくとも70%w/v、組成物の少なくとも80%w/v、組成物の少なくとも90%w/v、組成物の少なくとも95%w/v、又は組成物の少なくとも99%w/vの有効成分を含有する。
【0100】
他の実施形態では、有効成分を組成物の一部として提供することができ、例えば組成物の少なくとも0.1%w/w、組成物の少なくとも1%w/w、組成物の少なくとも10%w/w、組成物の少なくとも20%w/w、組成物の少なくとも30%w/w、組成物の少なくとも40%w/w、組成物の少なくとも50%w/w、組成物の少なくとも60%w/w、組成物の少なくとも70%w/w、組成物の少なくとも80%w/w、組成物の少なくとも90%w/w、組成物の少なくとも95%w/w、又は組成物の少なくとも99%w/wとすることができる。
【0101】
特定の実施形態は亜硝酸化ヘムタンパク質と共に亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含有する。特定の実施形態は亜硝酸化ヘムタンパク質と共に亜硝酸化プロトポルフィリンを含有する。特定の実施形態は亜硝酸化ヘムタンパク質と共に亜硝酸化金属プロトポルフィリンを含有する。特定の実施形態は亜硝酸化ヘムタンパク質と共に亜硝酸化SnPPを含有する。特定の実施形態は亜硝酸化ヘムタンパク質と共に亜硝酸化ヘミンを含有する。特定の実施形態は亜硝酸化ヘムタンパク質と共に亜硝酸化ヘマチンを含有する。これらの典型的な実施形態の特定形態において、亜硝酸化ヘムタンパク質はミオグロビンである。特定の実施形態は更にヘムタンパク質(例えばミオグロビン又は亜硝酸化ミオグロビン)と共に2種以上の亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤(例えば亜硝酸化プロトポルフィリン、亜硝酸化ヘミン及び/又は亜硝酸化ヘマチン)を含有する。その他の特定の実施形態では、組合せの全成分が亜硝酸化されている訳ではないヘムタンパク質分解阻害剤の組合わせを提供する。
【0102】
特定の実施形態は場合により金属プロトポルフィリン、SnPP及び/又はビタミンB12と共に鉄を含有する。鉄は鉄スクロースとすることができる。これらの実施形態は更にヘムタンパク質(例えばミオグロビン又は亜硝酸化ミオグロビン)及び/又はヘムタンパク質分解阻害剤(例えばプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチン及び/又はそれらの硝酸化形態)を含有する。実施形態がビタミンB12と共に鉄を利用する場合には、鉄とB12を錯形成又は架橋させて単一単位とすることができる。
【0103】
代表的な一般に使用される医薬的に許容可能な担体としては、ありとあらゆる吸収遅延剤、酸化防止剤、結合剤、緩衝剤、増量剤ないしフィラー、キレート剤、コーティング剤、崩壊剤、分散媒、ジェル剤、等張剤、滑沢剤、保存剤、塩類、溶媒もしくは補助溶媒、安定剤、界面活性剤及び/又は送達媒体が挙げられる。
【0104】
代表的な酸化防止剤としては、アスコルビン酸、メチオニン及びビタミンEが挙げられる。
【0105】
代表的な緩衝剤としては、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酒石酸緩衝液、フマル酸緩衝液、グルコン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、乳酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液及び/又はトリメチルアミン塩が挙げられる。
【0106】
キレート剤の1例はEDTAである。
【0107】
代表的な等張剤としては、三価以上の糖アルコール類を含む多価糖アルコール類が挙げられ、例えばグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール又はマンニトールが挙げられる。
【0108】
代表的な保存剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ハロゲン化ベンザルコニウム、塩化ヘキサメトニウム、アルキルパラベン(例えばメチルパラベンやプロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール及び3-ペンタノールが挙げられる。
【0109】
安定剤とは、増量剤から始まり、有効成分を可溶化させるか又は変性もしくは容器壁への付着を防ぐのに役立つ添加剤に至るまでの機能に対応することができる広義の医薬品添加剤を意味する。典型的な安定剤としては、多価糖アルコール類;アルギニン、リジン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸及びスレオニン等のアミノ酸;ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイニシトール、ガラクチトール、グリセロール及びシクリトール(例えばイノシトール)等の有機糖類又は糖アルコール類;PEG;アミノ酸ポリマー;尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム等の含硫還元剤;低分子量ポリペプチド(即ち<10残基);ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;キシロース、マンノース、フルクトース及びグルコース等の単糖類;ラクトース、マルトース及びスクロース等の二糖類;ラフィノース等の三糖類;並びにデキストラン等の多糖類を挙げることができる。安定剤は典型的には有効成分重量を基にして0.1~10,000重量部の範囲で存在する。
【0110】
本願に開示する組成物は例えば注射、吸入、輸液、灌流、洗浄又は経口による投与用に製剤化することができる。本願に開示する組成物は更に静脈内、皮内、動脈内、リンパ節内、リンパ管内、腹腔内、病変内、前立腺内、膣内、直腸内、局所、髄腔内、腫瘍内、筋肉内、膀胱内、経口及び/又は皮下投与用に製剤化することができ、より特定的には静脈内、皮内、動脈内、リンパ節内、リンパ管内、腹腔内、病変内、前立腺内、膣内、直腸内、髄腔内、腫瘍内、筋肉内、膀胱内及び/又は皮下注射用に製剤化することができる。
【0111】
注射用では、ハンクス液、リンゲル液又は生理食塩水を含む緩衝液等で組成物を水溶液として製剤化することができる。水溶液には懸濁化剤、安定剤及び/又は分散剤等の製剤添加物を添加することができる。あるいは、使用前に適切な溶媒(例えば滅菌パイロジェンフリー水)で再構成する凍結乾燥及び/又は粉末形態の製剤とすることもできる。特定の実施形態は静脈内投与用に製剤化される。
【0112】
経口投与用では、組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ジェル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤等として製剤化することができる。例えば散剤、カプセル剤及び錠剤等の経口固体製剤に適した医薬品添加剤としては、結合剤(トラガカントガム、アラビアガム、コーンスターチ、ゼラチン)、フィラー(例えばラクトース、スクロース、マンニトール及びソルビトール等の糖類;リン酸二カルシウム、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム;トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)等のセルロース調製物);顆粒化剤;及び結合剤が挙げられる。必要に応じてコーンスターチ、ジャガイモ澱粉、アルギン酸、架橋ポリビニルピロリドン、寒天又はアルギン酸もしくはその塩(例えばアルギン酸ナトリウム)等の崩壊剤を加えてもよい。必要に応じて、標準技術を使用して固体剤形に糖衣又は腸溶コーティングしてもよい。ペパーミント、ウィンターグリーン油、チェリーフレーバー、オレンジフレーバー等の着香剤も使用できる。
【0113】
組成物をエアゾールとして製剤化することができる。1実施形態において、エアゾールは無水、液体又は乾燥粉末インヘラーの一部として提供される。適切な噴射剤(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切なガス)と共に加圧パック又はネブライザーからのエアゾールスプレーを使用することもできる。加圧エアゾールの場合には、定量を送達するように弁を設けることにより用量単位を配量することができる。ヘムタンパク質とラクトースや澱粉等の適切な粉末基剤の粉末混合物を収容したインヘラー又はインサフレーター用ゼラチンカプセル及びカートリッジを製剤化することもできる。
【0114】
組成物をデポ製剤として製剤化することもできる。デポ製剤は(例えば許容可能な油脂に分散したエマルションとして)適切なポリマーもしくは疎水性材料又はイオン交換樹脂を使用して製剤化することもできるし、やや難溶性の誘導体(例えばやや難溶性の塩)として製剤化することもできる。
【0115】
また、少なくとも1種の有効成分を含有する固体ポリマーの半透過性マトリックスを利用した徐放システムとして組成物を製剤化することもできる。種々の徐放性材料が定着しており、当分野に通常の知識をもつ者に周知である。徐放性システムはその化学的性質に応じて投与後数週間から100日間までにわたって有効成分を放出する。デポ製剤は注射;非経口注入;点滴注入;又は軟組織、体腔への移植により投与することができ、場合によっては細い針での注射により血管内に投与することもできる。
【0116】
デポ製剤は種々の生体内崩壊性ポリマーを含むことができ、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(カプロラクトン)、並びに望ましいラクチド対グリコリド比、平均分子量、多分散度及び末端基化学構造の(ラクチド)-(グリコリド)共重合体(PLG)が挙げられる。種々のグレードを使用して種々のポリマー種を種々の比でブレンドすると、原料ポリマーの各々に由来する特徴を得ることができる。
【0117】
使用する溶媒(例えばジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、トリアセチン、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、フェノール又はその組合せ)を変え、放出特性を調節するために微粒子サイズ及び構造を変えることができる。他の有用な溶媒としては、水、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、安息香酸エチル及び安息香酸ベンジルが挙げられる。
【0118】
代表的な放出調節剤としては、界面活性剤、可溶化剤、内相粘度増加剤、錯形成剤、表面活性分子、補助溶媒、キレート剤、安定剤、セルロース誘導体、(ヒドロキシプロピル)メチルセルロース(HPMC)、酢酸HPMC、酢酸セルロース、プルロニック系(例えばF68/F127)、ポリソルベート類、Span(R)(Croda Americas,Wilmington,Delaware)、ポリビニルアルコール(PVA)、Brij(R)(Croda Americas,Wilmington,Delaware)、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)、塩類及び緩衝液を挙げることができる。
【0119】
微粒子の外相境界を形成する医薬品添加剤(例えばポリソルベート類、ジオクチルスルホコハク酸塩、ポロキサマー、PVAを含む界面活性剤)も粒子安定性や崩壊速度等の性質、水和及びチャネル構造、界面輸送並びに反応速度を有利に変えることができる。
【0120】
本願に開示する徐放性デポ製剤のその他の製法では、マンニトール、スクロース、トレハロース及びグリシンを含む安定化添加剤をポリソルベート類、PVA及びジオクチルスルホコハク酸塩等の他の成分と共にTris、クエン酸塩又はヒスチジン等の緩衝液中で利用することもできる。元の懸濁液と同様のサイズ及び性能特徴に再構成する非常に低含水率の粉末を製造するために凍結乾燥サイクルを使用することもできる。
【0121】
本願に開示するあらゆる組成物は投与の効果を上回る著しく有害、アレルギー性又は不利な反応を生じないものを含む他のあらゆる医薬的に許容可能な担体を有利に含有することができる。医薬的に許容可能な担体及び製剤の例はRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990に開示されている。更に、米国FDA生物学的製剤基準部(Office of Biological Standards)及び/又は他の該当する米国外の監督機関により定められた滅菌度、発熱性、一般安全性及び純度標準を満たすように製剤を製造することができる。
【0122】
キット。本願に記載する有効成分及び/又は組成物の1種以上を収容した1個以上の容器を含むキットも本願に開示する。各種実施形態において、キットは本願に記載する有効成分及び/又は組成物と併用する1種以上の有効成分及び/又は組成物を収容した1個以上の容器を含む。このような容器には医薬品又はバイオ製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関により規定された形式の文書を添付することができ、文書は機関により人体投与用の製造、使用又は販売を承認されていることを表示する。
【0123】
場合により、本願に記載するキットは更に本願に開示する方法でキットを使用するための説明書を含む。各種実施形態において、キットは有効成分及び/又は組成物の投与準備;有効成分及び/又は組成物の投与;キットの使用に伴う結果を解釈するのに適した基準レベル;関連する廃棄物の適切な廃棄等に関する説明書を含んでいてもよい。説明書は印刷版説明書としてキットに同梱することもできるし、説明書をキット自体の一部に印刷することもできる。説明書はシート、パンフレット、小冊子、CD-ROM又はコンピュータ読取り可能なデバイスの形態でもよいし、ウェブサイトのように遠隔地に説明書の手引きを提供することもできる。説明書は英語でもよいし、及び/又は如何なる国語もしくは地域の言語でもよい。各種実施形態では、考えられる副作用と、対象の症状に基づいてキットの成分の持続使用を禁じる禁忌を表示することができる。保護しようとする臓器の種類と臓器が受ける可能性のある傷害の種類に従ってキットと説明書を特別に作成することもできる。
【0124】
各種実施形態において、パッケージ、有効成分及び/又は組成物、並びに説明書は小型でコンパクトなキットに同梱され、有効成分及び/又は組成物の各々の印刷版使用説明書を添付する。2種類以上の有効成分及び/又は組成物を提供する各種実施形態では、有効成分及び/又は組成物の使用順序をキットに表示することができる。
【0125】
各種実施形態において、本願に記載するキットはキットを有効に使用するために必要な医療用具の一部又は全部を含むため、このような医療用具を探し集める必要がなくなる。このような医療用具としては、シリンジ、アンプル、チューブ、フェイスマスク、無針送液デバイス、注射キャップ、スポンジ、滅菌粘着テープ、クロラプレップ、手袋等を挙げることができる。本願に記載するキットはいずれも内容物を変えることができる。特定のキットは静脈内投与により組成物を投与するための材料を提供する。
【0126】
使用方法。上述したように、本願に開示する組成物、キット及び方法は損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導することにより臓器を損傷から保護するために使用することができる。組成物、キット及び方法には多数の潜在的用途があり、本願にはその一部を記載する。
【0127】
本願に開示する方法はその塩とプロドラッグを含めて本願に開示する有効成分を臓器に投与することを含む。臓器に投与するには治療有効量を送達する。治療有効量としては、有効量、予防処置及び/又は治療処置を提供する量が挙げられる。
【0128】
臓器は対象の一部であり、一般には体内にあり、特定の重要な機能をもつ。臓器の例としては、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、脳、肺、腸、胃等が挙げられる。特定の実施形態では、治療有効量を臓器に直接投与することができる。
【0129】
臓器が帰属する対象に治療有効量を投与することにより、治療有効量を臓器に投与することもできる。対象としては、ヒト、飼育動物(イヌ、ネコ、爬虫類、鳥類等)、家畜(ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、ニワトリ等)及び研究動物(サル、ラット、マウス、魚類等)が挙げられる。対象に投与するには治療有効量を送達する。従って、特に指定しない限り、臓器への投与は対象に投与して臓器に生理的に送達することもできるし、臓器に直接投与することもできる。
【0130】
「有効量」は臓器又は対象に所望の生理的変化を生じるために必要な有効成分又は組成物の量である。有効量は研究目的で投与することが多い。本願に開示する有効量は損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を誘導することにより臓器を損傷から保護する。
【0131】
「予防処置」とは臓器損傷の徴候もしくは症状を示していないか又は臓器損傷の初期徴候もしくは症状しか示していない臓器に投与し、それ以上の臓器損傷を抑制、防止又は発生の危険を低減する目的で投与する処置を意味する。従って、予防処置は臓器損傷に対する未然防止処置の役割を果たす。
【0132】
「治療処置」とは臓器損傷の症状又は徴候を示す臓器に投与する処置を意味し、臓器損傷の悪化を抑制する目的で臓器に投与される。
【0133】
特定の臓器(又は対象)に投与する実際の投与量は標的、体重、病態の重症度、事前に分かっている場合に迫っている傷害、保護を必要とする臓器の種類、過去又は同時治療介入、対象の特発性疾患及び投与経路を含む身体的及び生理的因子等のパラメータを考慮して医師、獣医又は研究者が決定することができる。
【0134】
組成物中の有効成分の量及び濃度と組成物の投与量は、臨床関連因子、組成物に対する有効成分の溶解度、有効成分の効能と活性、及び組成物の投与方法、加えて特に有効成分が修飾(例えば亜硝酸化、PEG化)されているか又はヘムタンパク質分解阻害剤(例えばHO-1阻害剤)と併用投与されるかに基づいて選択することができる。
【0135】
治療有効量の本願に開示する有効成分を含有する組成物は臨床的に安全且つ有効な方法で臓器を保護するために対象に静脈内投与することができ、組成物を1回又は2回以上に分けて投与することが挙げられる。例えば、1日に0.05mg/kg~5.0mg/kgを1回又は2回以上に分けて対象に投与することができる(例えば用量0.05mg/kg QD(1日1回)、0.10mg/kg QD、0.50mg/kg QD、1.0mg/kg QD、1.5mg/kg QD、2.0mg/kg QD、2.5mg/kg QD、3.0mg/kg QD、0.75mg/kg BID(1日2回)、1.5mg/kg BID又は2.0mg/kg BID)。所定の臓器及び適応症では、有効成分の1日総投与量を0.05mg/kg~3.0mg/kgとし、1日1回~3回に分けて対象に静脈内投与することができ、例えば60分間QD、BID又はTID(1日3回)静脈内輸液投与を使用して1日総投与量0.05~3.0mg/kg/日、0.1~3.0mg/kg/日、0.5~3.0mg/kg/日、1.0~3.0mg/kg/日、1.5~3.0mg/kg/日、2.0~3.0mg/kg/日、2.5~3.0mg/kg/日及び0.5~3.0mg/kg/日の組成物を投与する。特定の1例では、例えば92~98%wt/wtまでのヘムタンパク質を含有する組成物を1.5mg/kg、3.0mg/kg、4.0mg/kgの1日総投与量で対象にQD又はBID静脈内投与することができる。
【0136】
その他の有用な用量は多くの場合には0.1~5μg/kg又は0.5~1μg/kgとすることができる。他の例では、投与量として1μg/kg、5μg/kg、10μg/kg、15μg/kg、20μg/kg、25μg/kg、30μg/kg、35μg/kg、40μg/kg、45μg/kg、50μg/kg、55μg/kg、60μg/kg、65μg/kg、70μg/kg、75μg/kg、80μg/kg、85μg/kg、90μg/kg、95μg/kg、100μg/kg、150μg/kg、200μg/kg、250μg/kg、350μg/kg、400μg/kg、450μg/kg、500μg/kg、550μg/kg、600μg/kg、650μg/kg、700μg/kg、750μg/kg、800μg/kg、850μg/kg、900μg/kg、950μg/kg、1000μg/kg、0.1~5mg/kg、又は0.5~1mg/kgを挙げることができる。他の例では、投与量として1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、65mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、85mg/kg、90mg/kg、95mg/kg、100mg/kg、150mg/kg、200mg/kg、250mg/kg、350mg/kg、400mg/kg、450mg/kg、500mg/kg、550mg/kg、600mg/kg、650mg/kg、700mg/kg、750mg/kg、800mg/kg、850mg/kg、900mg/kg、950mg/kg、1000mg/kg又はそれ以上を挙げることができる。
【0137】
上記各用量の有効成分は1種のヘムタンパク質単独、2種以上のヘムタンパク質の組合わせ、1種のヘムタンパク質分解阻害剤単独、2種以上のヘムタンパク質分解阻害剤の組合わせもしくは1種以上のヘムタンパク質と1種以上のヘムタンパク質分解阻害剤の組合わせ、鉄及び/又はビタミンB12とすることができる。特定の実施形態において、本願に記載する用量等の用量となるように組合わせて配合する場合には、組合わせにおける各成分は上記用量となるように組合わせにおける成分の数と種類に応じて例えば1:1、1:1.25、1:1.5、1:1.75、1:8、1:1.2、1:1.25、1:1.3、1:1.35、1:1.4、1:1.5、1:1.75、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6:1:7、1:8、1:9、1:10、1:15、1:20、1:30、1:40、1:50、1:60、1:70、1:80、1:90、1:100、1:200、1:300、1:400、1:500、1:600、1:700、1:800、1:900、1:1000、1:1:1、1:2:1、1:3:1、1:4:1、1:5:1、1:10:1、1:2:2、1:2:3、1:3:4、1:4:2、1:5:3、1:10:20、1:2:1:2、1:4:1:3、1:100:1:1000、1:25:30:10、1:4:16:3、1:1000:5:15、1:2:3:10、1:5:15:45、1:50:90:135、1:1.5:1.8:2.3、1:10:100:1000又はその他の有益な比等の比で提供することができる。組合わせにおける成分は同一組成物に配合して提供することもできるし、別の組成物に配合して提供することもできる。
【0138】
治療有効量は治療レジメンの期間中に単回又は複数回投与することにより達成することができる(例えばQID(1日4回)、TID、BID、1日1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、6日おき、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1カ月に1回、2カ月に1回、3カ月に1回、4カ月に1回、5カ月に1回、6カ月に1回、7カ月に1回、8カ月に1回、9カ月に1回、10カ月に1回、11カ月に1回、又は1年に1回)。
【0139】
特定の実施形態では、次回傷害の48時間以内、次回傷害の46時間以内、次回傷害の44時間以内、次回傷害の42時間以内、次回傷害の40時間以内、次回傷害の38時間以内、次回傷害の36時間以内、次回傷害の34時間以内、次回傷害の32時間以内、次回傷害の30時間以内、次回傷害の28時間以内、次回傷害の26時間以内、次回傷害の24時間以内、次回傷害の22時間以内、次回傷害の20時間以内、次回傷害の18時間以内、次回傷害の16時間以内、次回傷害の14時間以内、次回傷害の12時間以内、次回傷害の10時間以内、次回傷害の8時間以内、次回傷害の6時間以内、次回傷害の4時間以内、又は次回傷害の2時間以内に組成物を投与する。特定の1実施形態では、次回傷害の18時間以内に組成物を投与する。
【0140】
他の特定の実施形態では、次回傷害の少なくとも48時間前、次回傷害の少なくとも46時間前、次回傷害の少なくとも44時間前、次回傷害の少なくとも42時間前、次回傷害の少なくとも40時間前、次回傷害の少なくとも38時間前、次回傷害の少なくとも36時間前、次回傷害の少なくとも34時間前、次回傷害の少なくとも32時間前、次回傷害の少なくとも30時間前、次回傷害の少なくとも28時間前、次回傷害の少なくとも26時間前、次回傷害の少なくとも24時間前、次回傷害の少なくとも22時間前、次回傷害の少なくとも20時間前、次回傷害の少なくとも18時間前、次回傷害の少なくとも16時間前、次回傷害の少なくとも14時間前、次回傷害の少なくとも12時間前、次回傷害の少なくとも10時間前、次回傷害の少なくとも8時間前、次回傷害の少なくとも6時間前、次回傷害の少なくとも4時間前、又は次回傷害の少なくとも2時間前に組成物を投与する。特定の1実施形態では、次回傷害の少なくとも18時間前に組成物を投与する。
【0141】
移植保護。特定の実施形態では、移植時に臓器を損傷から保護する。組成物は(i)臓器摘出前の臓器ドナーに;(ii)摘出した臓器に移植前に、及び/又は(iii)臓器移植レシピエントに投与することができる。この使用方法は第1の個体対象から第2の個体対象に移植することが可能なあらゆる臓器に適用することができる。特定の実施形態では、対象から摘出後又は第2の対象に移植する前の臓器に治療有効量を直接送達することができる。
【0142】
腎臓系保護。外科手術、心肺バイパス手術又はX線造影剤の毒性を受けている個体等の大きな危険に曝されている患者におけるAKIの発生を予防又は軽減することが可能な薬剤は本開示以前には存在していなかった。急性腎不全は罹病率及び死亡率の両方と長期腎臓透析の必要性の主要な危険因子であることに注目すべきである。連邦政府はその末期腎疾患/医療保険プログラムで腎臓透析に何十億ドルも費やしている。従って、AKI/急性腎不全の予防は極めて重要でありながら、全く対処されていない臨床上の課題であった。
【0143】
「急性腎障害」(AKI)は「急性腎不全」(ARF)又は「急性腎臓不全」とも呼ばれ、腎臓の損傷により腎機能が急速に低下し、その結果、通常であれば腎臓により排泄される窒素系老廃物(尿素及びクレアチニン)及び非窒素系老廃物が滞留する疾患又は病態を意味する。腎機能障害の重症度と持続期間に応じて、この蓄積は代謝性アシドーシス(血液の酸性化)や高カリウム血症(カリウム濃度上昇)等の代謝障害、体液バランスの変化、多くの他の臓器系/臓器系不全に及ぼす影響、血管内容量の過負荷、昏睡及び死を伴う。乏尿又は尿閉(尿生産の低下又は停止)を特徴に挙げることができるが、非乏尿性のARFが生じる場合もある。AKIは院内で重大な合併症であり、長期入院と高死亡率に繋がる。心疾患と心臓外科手術はいずれもAKIの一般的な原因である。患者がAKIになると、その死亡率は高い。
【0144】
AKIは種々の原因の帰結であると考えられ、a)腎前性原因(血液供給に存する原因)として、通常ではショックや脱水及び体液減少又は過剰な利尿薬使用に起因するハイポボレミア即ち循環血液量減少;肝不全により腎灌流が低下する肝腎症候群;ネフローゼ症候群の合併症として生じる場合があるアテローム塞栓症や腎静脈血栓症等の血管の問題;感染症(通常では敗血症)及び感染症に起因する全身炎症;重度火傷;心膜炎及び膵炎に起因する肺分画症;並びに降圧剤及び血管拡張薬による低血圧が挙げられ;b)腎性腎損傷として、腎虚血(一過性血流量低下又は停止)、毒素又は投薬(例えばある種のNSAID、アミノグリコシド系抗生物質、ヨード造影剤、リチウム、大腸内視鏡検査の前処置としてリン酸ナトリウムによる腸管処置に起因するリン酸腎症);ミオグロビンが血液中に放出されて腎臓に悪影響を及ぼす病態であり、損傷(特に圧挫損傷又は過度の鈍的外傷)、スタチン、刺激剤及びある種の他の薬物に起因する場合もある横紋筋融解症即ち筋組織の破壊;鎌状赤血球病や紅斑性狼瘡等の種々の病態に起因し得る溶血即ち赤血球の破壊;高カルシウム血症又は「円柱腎症」に起因する多発性骨髄腫;抗糸球体基底膜病/グッドパスチャー症候群、ウェゲナー肉芽腫症又は全身性エリテマトーデスに合併する急性ループス腎炎等の種々の原因に起因し得る急性糸球体腎炎が挙げられ;更にc)腎後性原因(尿管閉塞に存する閉塞性原因)として、正常な膀胱排尿を妨害する投薬(例えば抗コリン薬);良性前立腺肥大もしくは前立腺癌;腎臓結石;腹部悪性腫瘍(例えば卵巣癌、大腸癌);尿カテーテルの閉塞;又は結晶尿の原因となり得る薬物及びミオグロビン尿症と膀胱炎の原因となり得る薬物が挙げられる。
【0145】
本開示の方法は、獲得細胞抵抗性を誘導することにより腎臓を保護することを含む。上述したように、用量範囲を特定するために動物モデルを使用して先ず適切な治療有効量を決定することができる。有効成分の治療有効量の特定例としては、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、80mg/kg、90mg/kg及び100mg/kgが挙げられる。
【0146】
代表的な腎損傷の動物モデルとしては、グリセロール誘発腎不全(横紋筋融解症を模倣);虚血再灌流誘発ARF(腎血流量低下により誘発され、組織虚血と尿細管細胞死をもたらす変化をシミュレート);ゲンタマイシン、シスプラチン、NSAID、イホスファミド誘発ARF等の薬物誘発モデル(夫々の薬物の臨床投与に起因する腎不全を模倣);ウラン、二クロム酸カリウム誘発ARF(労働災害を模倣);S-(1,2-ジクロロビニル)-L-システイン誘発ARF(汚染水誘発腎機能障害をシミュレート);敗血症誘発ARF(感染症誘発腎不全を模倣);及びX線造影剤誘発ARF(心臓カテーテル検査時にX線造影剤を使用中の患者における腎不全を模倣)が挙げられる。これらのモデルに関するより詳細な情報については、Singh et al.,Pharmacol.Rep.2012,64(1):31-44参照。
【0147】
公知の腎機能検査としては、超音波;CTスキャン;並びに乳酸脱水素酵素(LDH)、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、クレアチニンクリアランス、イオタラム酸クリアランス、糸球体濾過速度及びイヌリンクリアランスの測定が挙げられる。
【0148】
肝保護。代表的な肝損傷の動物モデルとしては、虚血再灌流障害;肝毒素(四塩化炭素、チオアセトアミド、ジメチル又はジエチルニトロサミン)を使用した化学誘発肝線維症;胆管結紮;住血吸虫症モデル;コンカナバリンA肝炎モデル;誘導型HCVトランスジェニックマウス;種々の遺伝モデル;経胃管的エタノール注入モデル(Tsukamoto-Frenchモデル);及びメチオニン・コリン欠乏モデルが挙げられる。
【0149】
更に、所定の治療薬を含む多数の肝毒性化合物は細胞毒性を誘発する。肝毒性化合物は直接的な化学的攻撃により又は毒性の代謝産物の産生により肝細胞毒性を生じることができる。以下の薬物、即ちエンフルラン、フルロキセン、ハロタン及びメトキシフルラン等の麻酔薬;コカイン、ヒドラジド類、メチルフェニデート及び三環系等の向神経精神薬;フェニトインやバルプロ酸等の抗てんかん薬;アセトアミノフェン、クロルゾキサゾン、ダントロレン、ジクロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、サリチル酸系、トルメチン及びゾキサゾラミン等の鎮痛薬;アセトヘキサミド、カルブタミド、グリピジド、メタヘキサミド、プロピルチオウラシル、タモキシフェン、ジエチルスチルベストロール等のホルモン類;アムホテリシンB、クリンダマイシン、ケトコナゾール、メベンダゾール、メトロニダゾール、オキサシリン、パラアミノサリチル酸、ペニシリン、リファンピシン、スルホンアミド類、テトラサイクリン及びジドブジン等の抗微生物薬;アミオダロン、ジルチアゼム、αメチルドパ、メキシレチン、ヒドラザリン、ニコチン酸、パパベリン、ペルヘキシリン、プロカインアミド、キニジン及びトカインアミド(Tocainamide)等の心臓血管薬;並びにアスパラギナーゼ、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、メトトレキサート、マイトマイシン、6-MP、ニトロソウレア、タモキシフェン、チオグアニン及びビンクリスチン等の免疫抑制薬及び抗新生物薬;更にジスルフィラム、ヨウ化物イオン、オキシフェニサチン、ビタミンA及びパラアミノ安息香酸等のその他の薬物を使用して直接的な化学的攻撃により細胞毒性を誘発することができる。
【0150】
胆汁の流れの停止である胆汁鬱滞を誘発する肝毒性化合物には複数の型のものがある。小葉中心性胆汁鬱滞は門脈炎症性変化を伴う。エリスロマイシン等の所定の薬物により胆管変化が生じると報告されており、純毛細胆管性胆汁鬱滞はタンパク同化ステロイド等の他の薬物に特有である。慢性胆汁鬱滞はメチルテストステロンやエストラジオール等の薬物に関係があるとされている。胆汁鬱滞性疾患は避妊薬ステロイド、男性ホルモンステロイド、タンパク同化ステロイド、アセチルサリチル酸、アザチオプリン、ベンゾジアゼピン、ケノデオキシコール酸、クロルジアゼポキシド、エリスロマイシンエストレート、フルフェナジン、フロセミド、グリセオフルビン、ハロペリドール、イミプラミン、6-メルカプトプリン、メチマゾール、メトトレキサート、メチルドパ、メチレンジアミン、メチルテストステロン、ナプロキセン、ニトロフラントイン、ペニシラミン、ペルフェナジン、プロクロロペラジン、プロマジン、チオベンダゾール、チオリダジン、トルブタミド、トリメトプリムスルファメトキサゾール、ヒ素、銅及びパラクアットを含む肝毒性化合物を使用して誘発させることができる。
【0151】
薬剤のうちには、主として胆汁鬱滞型であるが、肝毒性も生じるものもあるため、このような薬物により生じる肝損傷は混合型である。混合型肝損傷の原因となる薬物としては、例えばクロルプロマジン、フェニルブタゾン、ハロタン、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、アロプリノール、フェノバルビタール、ナプロキセン、プロピルチオウラシル、クロラムフェニコール、トリメトプリムスルファメトキサゾール、アミノン、ジソピラミド、アザチオプリン、シメチジン及びラニチジンが挙げられる。
【0152】
アルギニン/尿素/NOサイクルの酵素、硫化酵素及び/又はスペクトリン分解関連産物の1種以上の検出は肝損傷の診断に利用できる。これらのマーカーの例としては、アルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS)及びアルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)、硫化(エストロゲンスルホトランスフェラーゼ(EST))、スクアレン合成酵素(SQS)、肝臓グリコーゲンホスホリラーゼ(GP)、カルバモイルリン酸シンテターゼ(CPS-1)、αエノラーゼ1、グルコース調節タンパク質(GRP)及びスペクトリン分解産物が挙げられる。
【0153】
他の実施形態では、虚血による損傷等の肝損傷の診断手段としてのバイオマーカーの検出を既存検査と相関させることができる。これらのマーカーとしては、アルカリホスファターゼ(AP);5’-ヌクレオチダーゼ(5’-ND);γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(G-GT);ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP);アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST);アラニントランスアミナーゼ(ALT);フルクトース-1,6-二リン酸アルドラーゼ(ALD);LDH;イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH);オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OCT);ソルビトールデヒドロゲナーゼ(SDH);アルギナーゼ;グアナーゼ;クレアチンホスホキナーゼ(CPK);コリンエステラーゼ(ChE);プロコラーゲンタイプIIIペプチド濃度(PIIIP);肝性脳症における血中アンモニア濃度;壊死及びヘパトーマにおけるリガンド濃度;肝内皮細胞損傷によるヒアルロン酸濃度;ヘパトーマの検出用としてα-1-フェトプロテイン(AFP)濃度;肝臓への癌転移の検出用として癌胎児性抗原(CEA)濃度;ミトコンドリア、核内及び特定の肝臓膜タンパク質等の種々の細胞成分に対する抗体の増加;並びにアルブミン、グロビン、アミノ酸、コレステロール及び他の脂質等のタンパク質の検出を挙げることができる。また、遺伝性、後天性及び実験的に誘発させた肝障害の他のバイオマーカーを同定するには肝生検から採取した種々のミネラル、代謝産物及び酵素の生化学分析も有用であり得る。
【0154】
他の実施形態では、検出されたバイオマーカーの量を肝機能検査と相関させ、肝損傷を更に評価することができる。当業者に自明の通り、肝機能検査としては、ビリルビン、インドシアニングリーン(ICG)、スルホブロモフタレイン(BSP)及び胆汁酸等の有機アニオンの肝クリアランスの評価;ガラクトース及びICGクリアランスの測定による肝血流量の評価;並びにアミノピリン呼気検査とカフェインクリアランス検査を利用することによる肝ミクロソーム機能の評価が挙げられる。例えば、実質性肝疾患で認められるような黄疸の出現と重症度を確認し、高ビリルビン血症の程度を判定するためには血清ビリルビンを測定することができる。アミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)上昇は活動性肝細胞損傷の重症度を反映し、アルカリホスファターゼ上昇は胆汁鬱滞と肝浸潤で認められる(Isselbacher,K.and Podolsky,D.in Hartison’s Principles of Internal Medicine,12th edition.Wilson et al.eds.,2:1301-1308(1991))。
【0155】
肝機能を評価するために使用されるその他のスコアシステム及びパラメータとしては、以下のチャイルドピュースコアシステムが挙げられる。
【0156】
【表1】
【0157】
フィンガーチップ型光センサーを使用するインドシアニン血漿クリアランス検査と、Schindlら(Schindl M et al.2005,Archives of Surgery 140(2):183-189)により開発された術後肝機能スコアシステムを使用することができる。このシステムは術後に乳酸濃度、総ビリルビン、INR及び脳症に従って肝機能障害を等級付けする。合計スコア0、1~2、3~4、又は>4を使用して肝機能障害を夫々障害なし、軽度、中等度、又は重度に分類する。更に、胆汁酸塩とリン脂質の比を評価することもできる。
【0158】
心臓保護。代表的な心臓損傷の動物モデルとしては、心筋梗塞(MI)モデル、MI後リモデリングモデル、遺伝子治療モデル、細胞治療モデル、横大動脈狭窄(TAC)モデル、急性虚血発作モデル、腎・肢虚血モデル、ランゲンドルフ灌流モデル、及びドキソルビシン誘発心筋障害モデルが挙げられる。例えば、心臓血管研究所(Cardiovascular Research Laboratory),Baltimore,MDにより実施されている心臓損傷動物モデルも参照。
【0159】
心臓損傷の検出法としては種々のものを使用することができ、磁気共鳴画像検査(MRI)、超音波、X線コンピュータ断層撮影(CT)、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)及び/又はポジトロン断層撮影(PET)等の非侵襲性画像形成法が挙げられる。その他の方法としては、心エコー検査、心電図、Mikro-tip圧力カテーテル、テレメトリー、免疫組織化学検査及び分子生物学的検査を挙げることができる。米国特許第2002/0115936号は気管の動きをモニターすることにより心機能を評価するための方法及び装置について記載している。
【0160】
公知の心機能検査としては、PDH濃度、血漿中乳酸濃度及び/又は心臓糖質酸化の測定が挙げられる。非虚血性心臓損傷に関連するマーカーとしては、α2-HS糖タンパク質前駆体(例えば配列番号22);アスポリン;ATP合成酵素δサブユニット(ミトコンドリア);血管心外膜物質(例えば配列番号23);C6ORF142;炭酸脱水酵素1;炭酸脱水酵素3;セルロプラスミン;凝固因子IX;コラーゲンα3(VI)鎖;デルマトポンチン;EGF含有ファイブリン様細胞外マトリックスタンパク質1;フィブリノーゲンγ鎖;ファイブリン1;ファイブリン2;熱ショックタンパク質HSP90β(例えば配列番号24);ヘモグロビンαサブユニット;ヘモグロビンβサブユニット;Igα1鎖C領域;Igα2鎖C領域;Igγ2鎖C領域;Igλ鎖C領域;Igμ鎖C領域;潜在型トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質2;ミクロフィブリル結合糖タンパク質4;ミオシン2;血清アミロイドAタンパク質;ソルビン・SH3ドメイン含有タンパク質2(例えば配列番号25);及びソルビン・SH3ドメイン含有タンパク質2(例えば配列番号26)が挙げられる。
【0161】
虚血性心臓損傷に関連するマーカーとしては、α2-HS糖タンパク質前駆体(例えば配列番号22);α2-マクログロブリン;炭酸脱水酵素1;ヘモグロビンαサブユニット;ヘモグロビンβサブユニット;Igα1鎖C領域;Igα2鎖C領域;Igμ鎖C領域;Leiomodin-1(例えば配列番号27);ミオシン制御性軽鎖MRLC2(例えば配列番号28);Nexilin(例えば配列番号29);ピルビン酸デヒドロゲナーゼE1コンポーネントαサブユニット;血清アミロイドAタンパク質;及び体細胞マーカーが挙げられる。
【0162】
肺保護。急性肺損傷を含む肺損傷の動物モデルとしては、内毒素(LPS)の気管内注入、人工呼吸、低酸素血症、生菌(大腸菌)、高酸素症、ブレオマイシン、オレイン酸、盲腸結紮穿刺及び酸吸引による損傷誘発が挙げられる。肺損傷モデルに関するその他の情報については、世界最大の医薬品研究調査サービスのオンラインマーケットプレイスと称されるAssay Depot参照。
【0163】
肺損傷の症状としては、苦しく速い呼吸、低血圧及び息切れが挙げられる。あらゆる型の肺機能検査を使用することができる。肺機能検査は一般に主要な3種類に分けることができる。第1種の肺検査は一般にスパイロメトリーと呼ばれ、患者の異なる吸気及び呼気努力の呼吸量と呼吸数として測定値を提供する。また、検査の種々の段階における種々の流速もスパイロメトリー検査から得られる型のデータである。第2種の肺検査は患者の肺全体の吸気分布の均等性を判定するように意図された一連の手順である。このような検査により、患者の肺胞換気量が正常であっても肺動脈弁閉鎖不全症を判定することができる。第3種の肺検査は肺が肺胞膜を介して吸気を拡散させる能力に関し、このような検査は肺が酸素と二酸化炭素を交換することにより静脈血を動脈化する能力の指標を提供する。
【0164】
呼吸量は対象の気道に挿入した体積流量検知装置を使用して(例えばスパイロメーター又はタキメーターを利用して)評価することもできるし、胸腹壁の物理的可動域を測定することにより評価することもできる。歪みゲージ(体囲の変化の記録)又は患者の胸腹部の周囲に配置した弾性電磁誘導式導電体ループによる胸腹壁運動の記録を利用する技術も使用することができる。その後、ループのインダクタンスの記録を使用し、胸腹部区画の横断面積変化量を推定することができる。米国特許第4,308,872号はこの自己インダクタンスループ推定技術の1例である。このような方法は校正手順後に呼吸気量の定量的測定に使用することができる。
【0165】
特定の実施形態において、肺機能検査は呼吸量、動脈血ガス及び/又はA-aO(肺胞気動脈血酸素分圧較差)の測定を含む。
【0166】
敗血症に対する保護。敗血症ないし全身性炎症反応症候群(SIRS)は感染の存在を伴う全身炎症状態として特徴付けられる。敗血症は発熱、呼吸促迫及び低血圧を生じる傾向があり、心臓血管系、免疫系及び内分泌系の臓器を含む全臓器を損傷させる可能性がある。
【0167】
敗血症の動物モデルとしては、盲腸結紮穿刺(CLP)を単独で使用するか又は細菌(例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)又は肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae))の喉頭注入と併用して誘発させた敗血症が挙げられる。敗血症動物モデルとしては、リポ多糖(LPSないし内毒素)又はチモサン等のtoll様受容体(TLR)剤の静脈内又は腹腔内投与も挙げられる。他の敗血症モデルとしては、上行結腸ステント腹膜炎及び後期免疫賦活モデルが挙げられる。敗血症モデルに関するその他の情報については、世界最大の医薬品研究調査サービスのオンラインマーケットプレイスと称されるAssay Depot参照。
【0168】
敗血症に対する保護は血圧、血液ガス、サイトカイン測定及び本願の他の箇所に記載するような二次的臓器機能(例えば肺、肝、心、腎機能)を測定することにより確認することができる。
【0169】
以下、本開示の特定の実施形態を実証するために実施例を記載する。当分野に通常の知識をもつ者は本開示に鑑み、本開示の趣旨と範囲から逸脱しない限り、本願に開示する特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、その場合も同等の結果が得られることを理解するはずである。
【0170】
代表的な実施形態。
1.対象の臓器を損傷から保護するためのキットであって、前記キットが治療有効量のミオグロビン、鉄及び/又はビタミンB12を含み、前記治療有効量のミオグロビン、鉄及び/又はビタミンB12を対象に投与すると、臓器損傷を生じずに対象の臓器が損傷から保護される、前記キット。
2.対象の臓器を損傷から保護するためのキットであって、前記キットが治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を含み、前記治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を対象に投与すると、臓器損傷を生じずに対象の臓器が損傷から保護される、前記キット。
3.ヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12が組成物に配合されている、実施形態2に記載のキット。
4.ヘムタンパク質がヘムタンパク質変異体、ヘムタンパク質d置換アナログ、ヘムタンパク質修飾体又はその組み合わせである、実施形態2又は3のいずれか一項に記載のキット。
5.ヘムタンパク質が修飾ヘムタンパク質である、実施形態2から4のいずれか一項に記載のキット。
6.修飾ヘムタンパク質が亜硝酸化ヘムタンパク質又はPEG化ヘムタンパク質である、実施形態5に記載のキット。
7.ヘムタンパク質がミオグロビンである、実施形態2から6のいずれか一項に記載のキット。
8.ヘムタンパク質がミオグロビン変異体及び/又はミオグロビン修飾体である、実施形態2から7のいずれか一項に記載のキット。
9.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである、実施形態8に記載のキット。
10.更にヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含む、実施形態2から9のいずれか一項に記載のキット。
11.ヘムタンパク質分解阻害剤が組成物に配合されている、実施形態10に記載のキット。
12.ヘムタンパク質分解阻害剤とヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12が同一の組成物に配合されている、実施形態10又は11のいずれか一項に記載のキット。
13.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態10から12のいずれか一項に記載のキット。
14.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである、実施形態13に記載のキット。
15.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンであり、場合により亜硝酸化金属プロトポルフィリンである、実施形態13又は14のいずれか一項に記載のキット。
16.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態15に記載のキット。
17.更に投与説明書を含む、実施形態2から16のいずれか一項に記載のキット。
18.投与に起因する臓器損傷がないことを基準レベルとの比較により確認する、実施形態2から17のいずれか一項に記載のキット。
19.基準レベルとの比較により保護を判定する、実施形態2から18のいずれか一項に記載のキット。
20.基準レベルがキット内に提供されている、実施形態18又は19のいずれか一項に記載のキット。
21.臓器を傷害による損傷から保護する、実施形態2から20のいずれか一項に記載のキット。
22.傷害が予定されている、実施形態21に記載のキット。
23.予定された傷害の少なくとも8時間前に投与を行う、実施形態22に記載のキット。
24.予定された傷害が外科手術、誘発性心臓/脳虚血再灌流、心臓血管外科手術、バルーン血管形成術、化学療法、腎毒性薬物投与及び/又はX線造影剤の毒性である、実施形態22又は23のいずれか一項に記載のキット。
25.外科手術が臓器移植手術である、実施形態24に記載のキット。
26.傷害が敗血症である、実施形態21に記載のキット。
27.臓器が移植された臓器である、実施形態2から26のいずれか一項に記載のキット。
28.臓器が心臓、腎臓、肝臓又は肺である、実施形態2から27のいずれか一項に記載のキット。
29.臓器が心臓であり、心機能の改善及び/又は心臓酵素放出の抑制により保護を判定する、実施形態2から28のいずれか一項に記載のキット。
30.心臓酵素がトロポニンである、実施形態29に記載のキット。
31.臓器が腎臓であり、血中尿素窒素(BUN)又は血清クレアチニン上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態2から30のいずれか一項に記載のキット。
32.臓器が肝臓であり、肝酵素上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態2から31のいずれか一項に記載のキット。
33.臓器が肺であり、血液ガス悪化の抑制、酸素補給の必要性の低下又は人工呼吸器の必要性の低下により保護を判定する、実施形態2から32のいずれか一項に記載のキット。
34.対象の臓器に獲得細胞抵抗性を生じるためのキットであって、前記キットが治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を含み、前記治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を対象に投与すると、臓器損傷を生じずに対象の臓器に獲得細胞抵抗性を生じる、前記キット。
35.ヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12が組成物に配合されている、実施形態34に記載のキット。
36.ヘムタンパク質がヘムタンパク質変異体、ヘムタンパク質d置換アナログ、ヘムタンパク質修飾体又はその組み合わせである、実施形態34又は35のいずれか一項に記載のキット。
37.ヘムタンパク質が修飾ヘムタンパク質である、実施形態34から36のいずれか一項に記載のキット。
38.修飾ヘムタンパク質が亜硝酸化ヘムタンパク質又はPEG化ヘムタンパク質である、実施形態37のキット。
39.ヘムタンパク質がミオグロビンである、実施形態34から38のいずれか一項に記載のキット。
40.ヘムタンパク質がミオグロビン変異体及び/又はミオグロビン修飾体である、実施形態34から39のいずれか一項に記載のキット。
41.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである、実施形態40に記載のキット。
42.更にヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含む、実施形態34から41のいずれか一項に記載のキット。
43.ヘムタンパク質分解阻害剤が組成物に配合されている、実施形態42に記載のキット。
44.ヘムタンパク質分解阻害剤とヘムタンパク質が同一の組成物に配合されている、実施形態42又は43のいずれか一項に記載のキット。
45.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態42から44のいずれか一項に記載のキット。
46.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである、実施形態45に記載のキット。
47.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンである、実施形態45又は46のいずれか一項に記載のキット。
48.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態47に記載のキット。
49.更に投与説明書を含む、実施形態34から48のいずれか一項に記載のキット。
50.投与に起因する臓器損傷がないことを基準レベルとの比較により確認する、実施形態34から49のいずれか一項に記載のキット。
51.獲得細胞抵抗性により前記臓器を損傷から保護する、実施形態34から50のいずれか一項に記載のキット。
52.基準レベルとの比較により保護を判定する、実施形態51に記載のキット。
53.基準レベルがキット内に提供されている、実施形態50又は52のいずれか一項に記載のキット。
54.臓器を傷害による損傷から保護する、実施形態51から53のいずれか一項に記載のキット。
55.傷害が予定されている、実施形態54に記載のキット。
56.予定された傷害の少なくとも8時間前に投与を行う、実施形態55に記載のキット。
57.予定された傷害が外科手術、化学療法又はX線造影剤の毒性である、実施形態55又は56のいずれか一項に記載のキット。
58.外科手術が臓器移植手術である、実施形態57に記載のキット。
59.傷害が敗血症である、実施形態54に記載のキット。
60.臓器が移植された臓器である、実施形態34から59のいずれか一項に記載のキット。
61.臓器が心臓、腎臓、肝臓又は肺である、実施形態34から60のいずれか一項に記載のキット。
62.臓器が心臓であり、心機能の改善及び/又は心臓酵素放出の抑制により保護を判定する、実施形態51から61のいずれか一項に記載のキット。
63.心臓酵素がトロポニンである、実施形態62に記載のキット。
64.臓器が腎臓であり、BUN又は血清クレアチニン上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態51から63のいずれか一項に記載のキット。
65.臓器が肝臓であり、肝酵素上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態51から64のいずれか一項に記載のキット。
66.臓器が肺であり、血液ガス悪化の抑制、酸素補給の必要性の低下又は人工呼吸器の必要性の低下により保護を判定する、実施形態51から65のいずれか一項に記載のキット。
67.対象の臓器における保護性ストレスタンパク質の発現をアップレギュレートするためのキットであって、前記キットが治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を含み、前記治療有効量のヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を対象に投与すると、臓器損傷を生じずに対象の臓器における保護性ストレスタンパク質の発現がアップレギュレートされる、前記キット。
68.ヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12が組成物に配合されている、実施形態67に記載のキット。
69.ヘムタンパク質がヘムタンパク質変異体、ヘムタンパク質d置換アナログ、ヘムタンパク質修飾体又はその組み合わせである、実施形態67又は68のいずれか一項に記載のキット。
70.ヘムタンパク質が修飾ヘムタンパク質である、実施形態67から69のいずれか一項に記載のキット。
71.修飾ヘムタンパク質が亜硝酸化ヘムタンパク質又はPEG化ヘムタンパク質である、実施形態70に記載のキット。
72.ヘムタンパク質がミオグロビンである、実施形態67から71のいずれか一項に記載のキット。
73.ヘムタンパク質がミオグロビン変異体及び/又はミオグロビン修飾体である、実施形態67から72のいずれか一項に記載のキット。
74.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである、実施形態73に記載のキット。
75.保護性ストレスタンパク質がヘムオキシゲナーゼ、ハプトグロビン、ヘモペキシン、ヘプシジン、α1アンチトリプシン、インターロイキン10、熱ショックタンパク質、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン及びHMG-CoA還元酵素から選択される、実施形態67から74のいずれか一項に記載のキット。
76.更にヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含む、実施形態67から75のいずれか一項に記載のキット。
77.ヘムタンパク質分解阻害剤が組成物に配合されている、実施形態76に記載のキット。
78.ヘムタンパク質分解阻害剤とヘムタンパク質が同一の組成物に配合されている、実施形態76又は77のいずれか一項に記載のキット。
79.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態76から78のいずれか一項に記載のキット。
80.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである実施形態79に記載のキット。
81.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンである、実施形態79又は80のいずれか一項に記載のキット。
82.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態81に記載のキット。
83.更に投与説明書を含む、実施形態67から82のいずれか一項に記載のキット。
84.投与に起因する臓器損傷がないことを基準レベルとの比較により確認する、実施形態67から83のいずれか一項に記載のキット。
85.保護性ストレスタンパク質のアップレギュレーションにより臓器を損傷から保護する、実施形態67から84のいずれか一項に記載のキット。
86.基準レベルとの比較により保護を判定する、実施形態85に記載のキット。
87.基準レベルがキット内に提供されている、実施形態84又は86のいずれか一項に記載のキット。
88.臓器を傷害による損傷から保護する、実施形態85から87のいずれか一項に記載のキット。
89.傷害が予定されている、実施形態88に記載のキット。
90.予定された傷害の少なくとも8時間前に投与を行う、実施形態89に記載のキット。
91.予定された傷害が外科手術、化学療法又はX線造影剤の毒性である、実施形態89又は90のいずれか一項に記載のキット。
92.外科手術が臓器移植手術である、実施形態91に記載のキット。
93.傷害が敗血症である、実施形態88に記載のキット。
94.臓器が移植された臓器である、実施形態67から93のいずれか一項に記載のキット。
95.臓器が心臓、腎臓、肝臓又は肺である、実施形態67から94のいずれか一項に記載のキット。
96.前記臓器が心臓であり、心機能の改善及び/又は心臓酵素放出の抑制により保護を判定する、実施形態85から95のいずれか一項に記載のキット。
97.心臓酵素がトロポニンである、実施形態96に記載のキット。
98.臓器が腎臓であり、BUN又は血清クレアチニン上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態85から97のいずれか一項に記載のキット。
99.臓器が肝臓であり、肝酵素上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態85から98のいずれか一項に記載のキット。
100.臓器が肺であり、血液ガス悪化の抑制、酸素補給の必要性の低下又は人工呼吸器の必要性の低下により保護を判定する、実施形態85から99のいずれか一項に記載のキット。
101.ミオグロビン、ミオグロビン変異体、ミオグロビンd置換アナログ、ミオグロビン修飾体又はその組み合わせと、場合により鉄及び/又はビタミンB12を含有する組成物。
102.ミオグロビンが修飾ミオグロビンである、実施形態101に記載の組成物。
103.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである、実施形態102に記載の組成物。
104.ミオグロビンがミオグロビン変異体である、実施形態101から103のいずれか一項に記載の組成物。
105.更にヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含有する、実施形態101から104のいずれか一項に記載の組成物。
106.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態105に記載の組成物。
107.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである、実施形態106に記載の組成物。
108.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンである、実施形態106又は107のいずれか一項に記載の組成物。
109.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態108に記載の組成物。
110.ヘムタンパク質及びヘムタンパク質分解阻害剤と、場合により鉄及び/又はビタミンB12を含有する組成物。
111.ヘムタンパク質が修飾ヘムタンパク質である、実施形態110に記載の組成物。
112.修飾ヘムタンパク質が亜硝酸化ヘムタンパク質又はPEG化ヘムタンパク質である、実施形態111に記載の組成物。
113.ヘムタンパク質がミオグロビンである、実施形態110から112のいずれか一項に記載の組成物。
114.ヘムタンパク質がミオグロビン変異体及び/又はミオグロビン修飾体である、実施形態110から113のいずれか一項に記載の組成物。
115.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである、実施形態114に記載の組成物。
116.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態110から115のいずれか一項に記載の組成物。
117.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである、実施形態116に記載の組成物。
118.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンである、実施形態116又は117のいずれか一項に記載の組成物。
119.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態118に記載の組成物。
120.対象の臓器を損傷から保護する方法であって、前記臓器に損傷が生じる前にヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を含有する組成物の治療有効量を臓器に投与することを含み、投与により、臓器損傷を生じずに対象の臓器を損傷から保護する、前記方法。
121.組成物が修飾ヘムタンパク質を含有する、実施形態120に記載の方法。
122.修飾ヘムタンパク質が亜硝酸化ヘムタンパク質又はPEG化ヘムタンパク質である、実施形態121に記載の方法。
123.ヘムタンパク質がミオグロビンである、実施形態120から122のいずれか一項に記載の方法。
124.ヘムタンパク質がミオグロビン変異体及び/又はミオグロビン修飾体である、実施形態120から123のいずれか一項に記載の方法。
125.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである、実施形態124に記載の方法。
126.組成物が更にヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含有する実施形態120から125のいずれか一項に記載の方法。
127.ヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含有する第2の組成物を対象に投与することを更に含む、実施形態120から126のいずれか一項に記載の方法。
128.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態126又は127のいずれか一項に記載の方法。
129.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである、実施形態128に記載の方法。
130.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンである、実施形態128又は129のいずれか一項に記載の方法。
131.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態130に記載の方法。
132.投与に起因する臓器損傷がないことを基準レベルとの比較により確認する、実施形態120から131のいずれか一項に記載の方法。
133.基準レベルとの比較により保護を判定する、実施形態120から132のいずれか一項に記載の方法。
134.損傷が傷害による損傷である、実施形態120から133のいずれか一項に記載の方法。
135.傷害が予定されている、実施形態134に記載の方法。
136.予定された傷害の少なくとも8時間前に投与を行う、実施形態135に記載の方法。
137.予定された傷害が外科手術、化学療法又はX線造影剤の毒性である、実施形態135又は136のいずれか一項に記載の方法。
138.外科手術が臓器移植手術である、実施形態137に記載の方法。
139.傷害が敗血症である、実施形態134に記載の方法。
140.臓器が移植された臓器である、実施形態120から139のいずれか一項に記載の方法。
141.臓器が心臓、腎臓、肝臓又は肺である、実施形態120から140のいずれか一項に記載の方法。
142.臓器が心臓であり、心機能の改善及び/又は心臓酵素放出の抑制により保護を判定する、実施形態120から141のいずれか一項に記載の方法。
143.心臓酵素がトロポニンである、実施形態142に記載の方法。
144.臓器が腎臓であり、BUN又は血清クレアチニン上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態120から143のいずれか一項に記載の方法。
145.臓器が肝臓であり、肝酵素上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態120から144のいずれか一項に記載の方法。
146.臓器が肺であり、血液ガス悪化の抑制、酸素補給の必要性の低下又は人工呼吸器の必要性の低下により保護を判定する、実施形態120から145のいずれか一項に記載の方法。
147.対象の臓器に獲得細胞抵抗性を生じる方法であって、ヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を含有する組成物の治療有効量を対象に投与することを含み、投与により、臓器損傷を生じずに獲得細胞抵抗性を生じる、前記方法。
148.組成物が修飾ヘムタンパク質を含有する実施形態147に記載の方法。
149.修飾ヘムタンパク質が亜硝酸化ヘムタンパク質又はPEG化ヘムタンパク質である、実施形態148に記載の方法。
150.ヘムタンパク質がミオグロビンである、実施形態147から149のいずれか一項に記載の方法。
151.ヘムタンパク質がミオグロビン変異体及び/又はミオグロビン修飾体である、実施形態147から150のいずれか一項に記載の方法。
152.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである、実施形態151に記載の方法。
153.組成物が更にヘムタンパク質分解阻害剤を含有する、実施形態147から152のいずれか一項に記載の方法。
154.ヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含有する第2の組成物を対象に投与することを更に含む、実施形態147から153のいずれか一項に記載の方法。
155.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態153又は154のいずれか一項に記載の方法。
156.前記ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである、実施形態155に記載の方法。
157.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンである、実施形態155又は156のいずれか一項に記載の方法。
158.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態157に記載の方法。
159.投与に起因する臓器損傷がないことを基準レベルとの比較により確認する、実施形態147から158のいずれか一項に記載の方法。
160.獲得細胞抵抗性により臓器を損傷から保護する、実施形態147から159のいずれか一項に記載の方法。
161.基準レベルとの比較により保護を判定する、実施形態160に記載の方法。
162.損傷が傷害による損傷である、実施形態160又は161のいずれか一項に記載の方法。
163.傷害が予定されている、実施形態162に記載の方法。
164.予定された傷害の少なくとも8時間前に投与を行う、実施形態163に記載の方法。
165.予定された傷害が外科手術、化学療法又はX線造影剤の毒性である、実施形態163又は164のいずれか一項に記載の方法。
166.外科手術が臓器移植手術である、実施形態165に記載の方法。
167.傷害が敗血症である、実施形態162に記載の方法。
168.臓器が移植された臓器である、実施形態147から167のいずれか一項に記載の方法。
169.臓器が心臓、腎臓、肝臓又は肺である、実施形態147から168のいずれか一項に記載の方法。
170.臓器が心臓であり、心機能の改善及び/又は心臓酵素放出の抑制により保護を判定する、実施形態160から169のいずれか一項に記載の方法。
171.心臓酵素がトロポニンである、実施形態170に記載の方法。
172.臓器が腎臓であり、BUN又は血清クレアチニン上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態160から171のいずれか一項に記載の方法。
173.臓器が肝臓であり、肝酵素上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態160から172のいずれか一項に記載の方法。
174.臓器が肺であり、血液ガス悪化の抑制、酸素補給の必要性の低下又は人工呼吸器の必要性の低下により保護を判定する、実施形態160から173のいずれか一項に記載の方法。
175.対象の臓器における保護性ストレスタンパク質の発現をアップレギュレートする方法であって、ヘムタンパク質、鉄及び/又はビタミンB12を含有する組成物の治療有効量を対象に投与することを含み、投与により、臓器損傷を生じずに、対象の臓器における保護性ストレスタンパク質の発現をアップレギュレートする、前記方法。
176.保護性ストレスタンパク質がヘムオキシゲナーゼ、ハプトグロビン、ヘモペキシン、ヘプシジン、α1アンチトリプシン、インターロイキン10、熱ショックタンパク質、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン及び/又はHMG-CoA還元酵素から選択される、実施形態175に記載の方法。
177.組成物が更に修飾ヘムタンパク質を含有する、実施形態175又は176のいずれか一項に記載の方法。
178.修飾ヘムタンパク質が亜硝酸化ヘムタンパク質又はPEG化ヘムタンパク質である、実施形態177に記載の方法。
179.ヘムタンパク質がミオグロビンである、実施形態175から178のいずれか一項に記載の方法。
180.ヘムタンパク質がミオグロビン変異体及び/又はミオグロビン修飾体である、実施形態175から179のいずれか一項に記載の方法。
181.修飾ミオグロビンが亜硝酸化ミオグロビン又はPEG化ミオグロビンである実施形態180のいずれか一項に記載の方法。
182.組成物が更にヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含有する実施形態175から181のいずれか一項に記載の方法。
183.ヘムタンパク質分解阻害剤、場合により亜硝酸化ヘムタンパク質分解阻害剤を含有する第2の組成物を対象に投与することを更に含む、実施形態175から182のいずれか一項に記載の方法。
184.ヘムタンパク質分解阻害剤がヘムオキシゲナーゼ阻害剤である、実施形態182又は183のいずれか一項に記載の方法。
185.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤がプロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンであり、場合により亜硝酸化プロトポルフィリン、ヘミン及び/又はヘマチンである、実施形態184に記載の方法。
186.ヘムオキシゲナーゼ阻害剤が金属プロトポルフィリンである、実施形態184又は185のいずれか一項に記載の方法。
187.金属プロトポルフィリンがSn-プロトポルフィリンである、実施形態186に記載の方法。
188.投与に起因する臓器損傷がないことを基準レベルとの比較により確認する、実施形態175から187のいずれか一項に記載の方法。
189.保護性ストレスタンパク質の発現のアップレギュレートにより、臓器を損傷から保護する、実施形態175から188のいずれか一項に記載の方法。
190.基準レベルとの比較により保護を判定する、実施形態189に記載の方法。
191.損傷が傷害による損傷である、実施形態189又は190のいずれか一項に記載の方法。
192.傷害が予定されている、実施形態191に記載の方法。
193.予定された傷害の少なくとも8時間前に投与を行う、実施形態192に記載の方法。
194.予定された傷害が外科手術、化学療法又はX線造影剤の毒性である、実施形態192又は193に記載の方法。
195.外科手術が臓器移植手術である、実施形態194に記載の方法。
196.傷害が敗血症である、実施形態191に記載の方法。
197.臓器が移植された臓器である、実施形態175から196のいずれか一項に記載の方法。
198.臓器が心臓、腎臓、肝臓又は肺である、実施形態175から197のいずれか一項に記載の方法。
199.臓器が心臓であり、心機能の改善及び/又は心臓酵素放出の抑制により保護を判定する、実施形態189から198のいずれか一項に記載の方法。
200.心臓酵素がトロポニンである、実施形態199に記載の方法。
201.臓器が腎臓であり、BUN又は血清クレアチニン上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態189から200のいずれか一項に記載の方法。
202.臓器が肝臓であり、肝酵素上昇の阻止又は抑制により保護を判定する、実施形態189から201のいずれか一項に記載の方法。
203.臓器が肺であり、血液ガス悪化の抑制、酸素補給の必要性の低下又は人工呼吸器の必要性の低下により保護を判定する、実施形態189から202のいずれか一項に記載の方法。
204.組成物が静脈内送達、経口送達、皮下送達又は筋肉内送達用に製剤化されている、実施形態1から203のいずれか一項に記載の実施形態。
205.組成物が遅放性デポ剤として製剤化されている、実施形態1から204のいずれか一項に記載の実施形態。
206.下記構造:
【0171】
【化8】
(式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNであり;RはOH又はHであり;RはOH又はHである。)を含む組成物。
207.前記B12が構造:
【0172】
【化9】
(式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNであり;RはOH又はHであり;RはOH又はHである。)を有する、実施形態1から205のいずれか一項に記載の実施形態。
208.対象に投与することにより臓器に投与するのではなく、臓器に直接投与する、上記実施形態のいずれか一項に記載の実施形態。
209.下記構造:
【0173】
【化10】
(式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNであり;Aはリン酸基であり、Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。)を含む組成物。
210.AがPOであり、Lがヒドラゾンリンカーであり、Bが糖質構造であり、MがFeである、実施形態209に記載の組成物。
211.Bが炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28である、実施形態209又は210に記載の組成物。
212.Bがスクロースに由来する、実施形態209、210又は211に記載の組成物。
213.下記構造:
【0174】
【化11】
(式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNであり;RはOH又はHであり;Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。)を含む組成物。
214.Lがヒドラゾンリンカーであり、MがFeである、実施形態213に記載の組成物。
215.Bが炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28である、実施形態213又は214に記載の組成物。
216.Bがスクロースに由来する実施形態213、214又は215に記載の組成物。
217.下記構造:
【0175】
【化12】
(式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNであり;RはOH又はHであり;Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。)を含む組成物。
218.Lがヒドラゾンリンカーであり、MがFeである、実施形態217に記載の組成物。
219.Bが炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28である、実施形態217又は218に記載の組成物。
220.Bがスクロースに由来する、実施形態217、218又は219に記載の組成物。
221.下記構造:
【0176】
【化13】
(式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNであり;Lはリンカーであり、Bは糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した金属である。)を含む組成物。
222.Lがヒドラゾンリンカーであり、MがFeである、実施形態221に記載の組成物。
223.Bが炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28である、実施形態221又は222に記載の組成物。
224.Bがスクロースに由来する、実施形態221、222又は223に記載の組成物。
225.下記構造:
【0177】
【化14】
(式中、Rは5’-デオキシアデノシル、CH、OH又はCNであり;Lは第1のリンカーであり、Lは第2のリンカーであり、Bは第1の糖質構造であり、Bは第2の糖質構造であり、Mは糖質構造と錯形成した第1の金属であり、Mは糖質構造と錯形成した第2の金属である。)を含む組成物。
226.L及びLが各々独立してヒドラゾンリンカーであり、M及びMが各々独立してFeである、実施形態225に記載の組成物。
227.B及びBが各々独立して炭素原子数10~16、酸素原子数9~15、及び水素原子数16~28である、実施形態225又は226に記載の組成物。
228.B及びBが各々独立してスクロースに由来する、実施形態225、226又は227に記載の組成物。
【実施例
【0178】
[実施例1] 腎保護。以下のプロトコールを使用して図1~4及び表1~7に記載するデータを取得した。
【0179】
AKIのグリセロールモデル。これは広く使用されている横紋筋融解症誘発AKIのモデルであり、50年間にわたって世界中で利用されている。このモデルを使用して予防介入がAKIに対する保護を付与するか否かを試験した。基本的に、プロトコールは以下の通りである。Charles River Laboratories,Wilmington,MAから入手した雄性CD-1マウス(35~45グラム)を試験した。マウスを標準飼育条件下に維持し、一般に試験の1~3週間前に収容した。マウスを円筒形拘束ケージに入れた後、被験物質(下記参照)又は被験物質溶媒を尾静脈に注射した。次にマウスを元のケージに戻した。18時間後にマウスにイソフルラン吸入により短時間麻酔し、高張(50%)グリセロールを9ml/kg体重の用量で筋肉内注射した。用量を二等分し、半量ずつ各後足の筋肉に注射した。次にマウスを元のケージに戻した。18時間後にマウスにペントバルビタール(50~100mg/kg)を深麻酔し、腹部正中切開により開腹し、腹部大静脈から血液試料を採取し、腎臓を切除した。腎臓断面切片を作製し、その後の組織学的解析に備えてホルマリン固定した。市販のアッセイキットを使用して終末血液試料をBUN及びクレアチニンについて解析した。残りの腎臓組織から皮質を剥離した後、皮質組織からタンパク質及びRNAを抽出した。タンパク質試料はHO-1濃度の解析用に取っておき、RNA試料をRT-PCRに供し、HO-1mRNAと他のストレス遺伝子mRNA(例えばNGAL、ハプトグロビン、ヘモペキシン、ヘプシジン)のレベルを定量した。
【0180】
被験製剤:凍結保存ウマ骨格筋(ミオグロビン)(Sigma Chemicals)を被験物質として使用した。
【0181】
ミオグロビン+SnPP:乾燥ミオグロビン5mgにPBS0.9ml+ストックSnPP溶液(50μmol/ml)0.1mlを加えた。得られた最終濃度はミオグロビン5mg/ml+SnPP5μmol/mlであった。ミオグロビン1mg+SnPP1μmolに相当するこの溶液200μlを尾静脈に注射した。
【0182】
亜硝酸化ミオグロビン:ミオグロビンに対して1~5モル/モル比となるように亜硝酸Naをミオグロビンに加えた(例えばミオグロビン1μmol当たり亜硝酸塩1~5μmol)。得られた最終濃度はミオグロビン5~10mg/ml+亜硝酸塩0.04~0.4mg/mlであった。この溶液200μlを尾静脈に注射した。
【0183】
ミオグロビン+PEG:PBS中20mg/ml Mgbのストック溶液に100mg/mlのPEG6000を加えた(250μl)。これを皮下注射剤として背側首に投与した(合計250μl注射)。Mgb/PEG+SnPP併用では、これにSnPPを3mg/mlの濃度で加えた。
【0184】
これらを試験材料とし、上記のようにグリセロールAKIモデルに対する保護を評価するためにマウスに投与した。
【0185】
各被験物質の単独効果:ミオグロビン+SnPPがミオグロビン単独又はSnPP単独よりも効果が大きいか否かを評価するために、ミオグロビン+SnPP、SnPP単独又はミオグロビン単独で上記と同一の溶液を調製した。これらを上記グリセロールモデルで使用した。
【0186】
ミオグロビンとミオグロビン+SnPPとSnPP単独投与から4時間後の結果を比較した実験。ミオグロビン+SnPPがHO-1mRNA及びHO-1タンパク質レベル上昇を誘導するのに相乗的な効果があることを確認するために、上記組合せの各々を単独で尾静脈注射により投与した。4時間後にマウスを上記のように屠殺し、HO-1mRNA及びタンパク質レベルを評価するために腎臓を摘出した。方法に関するその他の情報については、Zager et al.,Am J Physiol Renal Physiol.2014 Jul 30.Pii参照。
【0187】
【表2】
【0188】
表2に示すように、(ELISAによると)4時間の時点でHO-1タンパク質発現は優先的に増加している。タンパク質合成はmRNA誘導後となり、更に時間が必要になるが、注射からちょうど4時間後であるため、mRNA増加のほうがタンパク質増加よりも大きい。
【0189】
【表3】
【0190】
表3はミオグロビン単独及びミオグロビンとSnPPの併用の注射から約18時間後(一晩)のHO-1mRNA誘導(HO-1/GAPDHmRNA)を比較して示す。
【0191】
【表4】
【0192】
表4は対照、ミオグロビン単独及びミオグロビンとSnPPの併用の注射から約18時間後(一晩)のHO-1タンパク質誘導(HO-1/GAPDHmRNA)を比較して示す。
【0193】
【表5】
【0194】
図1A及び1Bはグリセロール傷害の18時間前に溶媒(対照)、ミオグロビン(Mgb)又はミオグロビンとSnPPの併用(Mgb+SnPP)を投与後のHOmRNA発現(図1A)及びタンパク質発現(図1B)を示す。データから明らかなように、ミオグロビンによるHO-1誘導はSnPPの併用投与により強化されている。
【0195】
表5は担体対照と比較してミオグロビン単独又はミオグロビンとPEGの併用に暴露後のハプトグロビンタンパク質発現の誘導を示す。データから明らかなように、ミオグロビン+PEGはミオグロビン単独よりも細胞保護ハプトグロビン発現の著しく大きな増加を誘導する。
【0196】
【表6】
【0197】
表6は肝臓、腎臓、肺及び心臓損傷の高感度マーカーである血漿中LDH濃度を示す。ミオグロビン+SnPPは4時間の時点でLDH上昇を生じなかった。
【0198】
【表7】
【0199】
図2左はグリセロール傷害後の細胞レベルの腎損傷を示し、図2右はミオグロビンとSnPPの併用による前投与の保護効果を示す。
【0200】
図3はN-Mgb+SnPPが保護性ストレスタンパク質であるインターロイキン10(IL-10)を優先的に上昇させることを示す。
【0201】
図4はN-Mgb+SnPPが保護性ストレスタンパク質であるハプトグロビンを優先的に上昇させることを示す。
【0202】
[実施例2] 肝保護。傷害から24時間後の血漿中LDH濃度により肝毒性損傷を評価した。肝傷害は9ml/kgのグリセロール注射とした(これは腎損傷を生じるために使用されるものと同一のモデルである)。肝損傷により血漿中LDHは3.5単位/mlから114単位/mlまで上昇した。ミオグロビン/SnPP前投与により、血漿中LDH濃度は75%低下した。
【0203】
【表8】
【0204】
実施例1及び2に記載したデータから明らかなように、ヘムタンパク質、修飾ヘムタンパク質及びヘムタンパク質とヘムタンパク質分解阻害剤の併用は、腎臓と肝臓をグリセロール傷害による損傷から保護する。保護は損傷のマーカー(LDH)、臓器機能(BUN及びクレアチニン)及び保護性ストレスタンパク質(HO-1及びハプトグロビン)の誘導により立証される。
【0205】
[実施例3] 図5はミオグロビンFeと等モル量の亜硝酸イオンの結合がミオグロビン毒性の発現に及ぼす影響の評価を示す。ケラチノサイト無血清培地で正常(対照)条件下又は10mg/mLのウマ骨格筋ミオグロビンもしくは(10mg/mlのミオグロビンに等モル量の亜硝酸Naを加えることにより生成した)亜硝酸化ミオグロビンの存在下にHK-2細胞(正常ヒト腎臓に由来する近位尿細管細胞株)をインキュベートした。18時間インキュベーション後に、細胞損傷の重症度(細胞死%)をMTTアッセイにより評価した。ミオグロビンは対照培養細胞に比較して40%の細胞死(MTT細胞取り込みの40%低下)を誘導した。ミオグロビンに亜硝酸イオンを結合させると、細胞死は75%低下した。従って、亜硝酸イオンの結合はミオグロビンの細胞毒性作用を低下させることが可能である。
【0206】
図6は血漿中ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)とN-ミオグロビン投与量の用量反応関係を示す。亜硝酸化ミオグロビン0mg/kg、1mg/kg、2mg/kg又は5mg/kg+SnPP(1μmolの一定用量)を正常マウスにIM注射した。18時間後に、血漿中HO-1濃度をELISAにより評価した。N-ミオグロビン投与量と血漿中HO-1濃度の間には強い用量反応関係が認められた。従って、HO-1アッセイはN-Mgb/SnPPによるHO-1誘導の潜在的バイオマーカーとして有用である。
【0207】
図7はN-ミオグロビン用量を25倍まで変動させた場合に正常な血清クレアチニン濃度が維持されることを示す。マウスに(SnPPを1μmolの一定用量に保持しながら)亜硝酸化ミオグロビン1mg/kg、3mg/kg、6mg/kg、12mg/kg又は25mg/kgを2時間皮下輸液した。18時間後に、血清クレアチニン濃度を測定することにより潜在的腎損傷を評価した。いずれのN-Mgb用量でも有意な上昇は認められず、過度の毒性はないと判断された(n=2~4匹/群)。
【0208】
[実施例4] 緒言。急性腎障害(AKI)は罹病率、死亡率及び慢性腎疾患(CKD;Ishani et al.J Am Soc Nephrol 2009;20:223-8;Xue et al.J Am Soc Nephrol 2006;17:1135-42;Liangos et al.Clin J Am Soc Nephrol 2006;1:43-51;Wald et al.JAMA 2009;302:1179-85;Goldberg et al.Kidney Int 2009;76:900-6)の発症のよく知られた危険因子である。しかし、確立したAKIの予防方法は今のところ存在しない。虚血又は毒性損傷の最初の発作後に、腎臓が続発する損傷に対して顕著な抵抗性を生じることはよく知られている(例えばHonda et al.Kidney Int 1987;31:1233-8;Zager et al.Kidney Int 1984;26:689-700;Zager et al.Lab Invest 1995;72:592-600;Zager,Kidney Int 1995;47:1336-45;Zager,Kidney Int 1995;47:628-37)。この現象は細胞保護及び抗炎症性「ストレス」タンパク質(例えばヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、フェリチン、ハプトグロビン、ヘモペキシン、α1アンチトリプシン、インターロイキン10(IL-10))のアップレギュレーションを一因とし、「虚血プレコンディショニング」又は「獲得細胞抵抗性」状態と呼ばれている。Zager et al.J Am Soc Nephrol 2014;25:998-1012;Deng et al.Kidney Int 2001;60:2118-28;Zarjou et al.J Clin Invest 2013;123:4423-34;Nath et al.J Clin Invest 1992;90:267-70;Zager et al.Am J Physiol 2012;303:F1460-72;Fink,J Leukoc Biol 2009;86:203-4 Arredouani et al.Immunology 2005;114:263-71;Blum et al.J Am Coll Cardiol 2007;49:82-7;Galicia et al.Eur J Immunol 2009;39:3404-12;Zager et al.Am J Physiol 2012;303:F139-48;Zager et al.PLoS One 2014;9:e9838;Hunt & Tuder,Curr Mol Med 2012;12:827-35;Janciauskiene et al.J Biol Chem 2007;282:8573-82。
【0209】
獲得細胞抵抗性の顕著な保護性に鑑み、研究者らはヒトにおいて安全に再現する方法を追求してきた。この関連では、血圧カフを繰返し膨張・収縮させることにより上肢及び下肢虚血の反復発作を誘発する所謂「遠隔プレコンディショニング」が注目される。Yang et al.Am J Kidney Dis 2014;64:574-83;Mohd et al.J Surg Res 2014;186:207-16;Li et al.J Cardiothorac Surg 2013;8:43。その目的は未知の組織「コンディショニング因子」を全身循環に放出させ、(例えば脳、心臓、肝臓及び腎臓に)保護性の組織応答を誘発することである。このアプローチは魅力的であるにも拘わらず、成功に疑問が残るが、その理由は、(1)虚血後の四肢から放出され、「プレコンディショニング」を誘導する「因子」と、この状態を誘導するためにどの程度の因子放出が必要であるかが不明である;(2)このような因子が如何なる細胞経路により細胞抵抗性を誘導するように遠位臓器に作用するかが明らかにされていない;及び(3)所望のプレコンディショニングが所定の個体に実際に生じるか否かを判断することが困難であるという点にあると思われる。
【0210】
そこで、獲得細胞抵抗性を誘導する代替アプローチを検討した。この目的のために、明白な腎毒性又は腎外毒性を生じずに多数の尿細管細胞保護剤(例えばHO-1、ハプトグロビン及びIL-10)を顕著且つ相乗的にアップレギュレートする薬物レジメンとして、低用量亜硝酸化ミオグロビン(N-Mgb)+錫プロトポルフィリン(SnPP)を含むレジメンを開発した。薬物投与から18時間以内に、腎毒性AKI、アデノシン三リン酸(ATP)低下誘発AKI、及びAKI後のCKD結果への進行に対する顕著な抵抗が発現する。また、虚血後損傷と毒性損傷に対する肝保護も発現する。最後に、この細胞抵抗性状態の誘導は血漿中HO-1及びハプトグロビン濃度をその誘導の「バイオマーカー」として使用することにより非侵襲的に測定できることが分かった。
【0211】
方法。一般アプローチ。動物。全実験は雄性CD-1マウス(35~45g;Charles River Laboratories,Wilmington,Massachusetts)を使用して実施した。マウスを標準飼育条件下で収容し、常に飼料と水を自由に摂取できるようにした。使用したプロトコールは米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)のガイドラインに従い、所内の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Utilization Committee(IACUC))により承認された。
【0212】
細胞抵抗性誘導試薬。ウマ骨格筋(#Mb0360;Sigma)を主要な細胞抵抗性誘導剤として使用した。しかし、ミオグロビン(Mgb)は(特に等張性脱水及び酸性尿の条件下で)内在的な腎毒性の可能性があるため、2つのアプローチを使用してMgbの潜在的な有害作用を軽減させた。先ず、等モル量の亜硝酸ナトリウム(Na)を加えることによりMgbを亜硝酸化形態に変換した。これに関連して、亜硝酸イオンはその酸素又は窒素成分を介して1:1でミオグロビンFeと直接結合するアンビデントな分子である。Cotton et al.Advanced inorganic chemistry.Hobocken,NJ:Wiley-Interscience,1999:1355;Silaghi-Dumitrescu et al.Nitric Oxide 2014;42C:32-9。注目すべき点として、FeはMgbの細胞毒性作用の主要なメディエーターであり(Zager et al.J Clin Invest 1992;89:989-95;Zager & Burkhart,Kidney Int 1997;51:728-38)、この毒性は事前の亜硝酸イオンとの結合により実質的に低減される。Rassaf et al.Circ Res 2014;114:1601-10;Totzeck et al.Circulation 2012;126:325-34[J Clin Invest 1992;89:989-95];Totzeck et al.PLoS One 2014;22:e105951;Hendgen-Cotta et al.Proc Natl Acad Sci US A 2008;105:10256-61。
【0213】
Feによる毒性を低減できることに加え、亜硝酸イオンは恐らく一酸化窒素(NO)生成により「遠隔プレコンディショニング」のメディエーターであると考えられている。Rassaf,前出。これに関連して、ヘムタンパク質は亜硝酸イオンを直接還元し、その結果としてNOが生成される。Juncos et al.Am J Pathol 2006;169:21-31;Kellerman,J Clin Invest 1993;92:1940-9;Zager et al.Am J Physiol 2008;294:F187-97。従って、亜硝酸イオンをMgbと直接結合させることにより、Mgb注射とその後の近位尿細管エンドサイトーシス取り込みの結果、近位尿細管を標的として亜硝酸イオンとNOが直接送達される。
【0214】
第2に、ヘムFeがその細胞毒性の大部分を誘発するためには、先ずポルフィリン環内のその結合部位から解放されなければならない。このFe解放はHO-1によるポルフィリン環開裂を介して行われる。従って、潜在的なMgb細胞毒性を弱めるために、一過性HO-1阻害剤であるSnPPと併用投与した。これに関連して、Mgbに暴露した培養近位尿細管(HK-2)細胞又は生体内でヘムを投与したマウス近位尿細管セグメントにSnPPを加えると、Mgb毒性は85%も低下することが従来報告されている。Zager & Burkhart,Kidney Int 1997;51:728-38。この細胞保護作用はSnPPが虚血後急性腎不全(ARF)を軽減させるらしいという報告にも示されている。Juncos et al.Am J Pathol 2006;169:21-31;Kaizu et al.Kidney Int 2003;63:1393-403。
【0215】
腎皮質ヘムシグナル伝達に及ぼすMgb、SnPP及びMgb+SnPPの影響。次の仮設を立てた。(1)N-Mgbは強力なシグナル伝達分子であり、ヘム応答性エレメントと酸化還元感受性遺伝子のアップレギュレーションをもたらし、細胞保護作用を誘発する(例えばHO-1、ハプトグロビン、ヘモペキシン及びIL-10);(2)SnPPは独立してこのような遺伝子をアップレギュレートすることができる;(3)併用投与した場合に、N-Mgb+SnPP併用投与により相加的又は相乗的ヘム応答性エレメントのシグナル伝達を生じることができる。以下の実験によりこれらの仮説を試験した。
【0216】
マウス32匹を(1)対照マウス;(2)(尾静脈からボーラスとして)N-Mgb1mgを注射したマウス;(3)(尾静脈から)SnPP1mmolを投与したマウス;及び(4)N-Mgb+SnPPを併用投与したマウスの4群に同数ずつ分けた。4時間(n=16)又は18時間(n=16)後に、マウスにペントバルビタール(50mg/kg)を深麻酔し、腹部正中切開により開腹し、腎臓を摘出した。腎外臓器への潜在的な影響を調べるために、肝葉と心臓も摘出した。組織を氷冷後、タンパク質及びRNAを抽出し(RNeasy Plus Mini;Qiagen,Valencia,California)、酵素免疫測定法(ELISA)と逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に供し、HO-1、ハプトグロビン及びIL-10タンパク質及びメッセンジャーRNA(mRNA)を定量した。Zager et al.J Am Soc Nephrol 2014;25:998-1012;Zager et al.Am J Physiol 2012;303:F139-48。腎機能の評価として、対照マウスとN-Mgb+SnPPを投与してから18時間後のマウスの血中尿素窒素(BUN)と血漿中クレアチニン濃度を測定した。また、10%ホルマリンに固定した腎臓横断面切片(3mM)を切断し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)と過ヨウ素酸シッフ(PAS)試薬で染色し、潜在的損傷を更に評価した。
【0217】
細胞抵抗性の評価。横紋筋融解症誘発AKIのグリセロールモデル。マウス20匹を上記のように同数ずつ4群に分けた(対照、尾静脈注射によりN-Mgb、SnPP及びN-Mgb+SnPPを投与したマウス)。18時間後にマウスにイソフルランを短時間麻酔し、直ぐに50%グリセロール9mL/kgを二等分して各後足に注射した。グリセロール注射から18時間後に、マウスにペントバルビタールを麻酔し、開腹し、BUN及びクレアチニン評価用の血液試料を大静脈から採取し、腎臓を切除した。グリセロール投与後の対照群とN-Mgb+SnPPを前投与したグリセロール群の腎臓切片をH&Eで染色した。
【0218】
AKIのマレイン酸塩モデル。齧歯類に注射すると、マレイン酸塩は有機アニオントランスポーターを介して選択的に近位尿細管に取り込まれ、顕著な近位尿細管特異的ATP低下を誘発する。Kellerman,J Clin Invest 1993;92:1940-9;Zager et al.Am J Physiol 2008;294:F187-97。その結果、重度AKIに至る。以下の実験により、N-Mgb+SnPPの前投与がこの種の腎損傷に対して保護できるか否かを評価した。マウス12匹を同数ずつ2群に分け、N-Mgb-SnPP又は溶媒を注射した。18時間後に、全マウスにマレイン酸Na(600mg/kg)を腹腔内(IP)注射した。Zager et al.Am J Physiol 2008;294:F187-97。18時間後にマウスに麻酔し、BUN及びクレアチニン測定用に終末血液試料を下大静脈から採取した。
【0219】
虚血後AKIからCKDへの進行。30分間の片側腎虚血後に、損傷した腎臓は進行的な尿細管脱落、腸炎症及び線維症により発現されるCKDに移行し、腎臓質量(腎臓重量)の40%低下に至る。Zager et al.Am J Physiol 2011;301:F1334-45;Zager et al.Kidney Int 2013;84:703-12。N-Mgb-SnPP投与によって虚血後の疾患進行を軽減できるか否かを検証するために、マウス6匹にこれらの物質を前投与し、18時間後にペントバルビタールを麻酔し、体温37℃で腹部正中切開により左腎茎部閉塞を30分間実施した。
【0220】
右腎臓は無傷のままとした。腎虚血時間後、血管クランプを外し、腎臓チアノーゼの消失により完全な再灌流を確認した。次にマウスを縫合し、麻酔から覚醒させた。マウス6匹には同一の外科プロトコールを実施したが、N-Mgb-SnPPの前投与を行わず、対照として使用した。2週間後に腹部切開部を再び開き、腎臓を切除した。6匹の正常マウスからの左腎臓の重量に比較して(腎臓湿潤重量により測定した)左腎臓質量の低下により2群間の相対的な腎損傷度を評価した。腎損傷の追加マーカーとして腎皮質好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)mRNA及びタンパク質レベルも評価した。
【0221】
N-Mgb-SnPPのIP注射後の用量反応関係。(静脈内[IV]ボーラス注射に比較して)N-Mgb-SnPPの送達速度を遅くしても細胞保護タンパク質のアップレギュレーションと腎臓細胞抵抗性が誘導されるか否かを評価するために、N-Mgb0mg、1mg、2.5mg又は5mg+標準用量(1mmol)のSnPPをマウスに注射した(各々3匹ずつ;溶媒は生理食塩水1mL)。18時間後にマウスにペントバルビタールを麻酔し、血液試料を採取し、HO-1とハプトグロビンのmRNA及びタンパク質レベルの測定用に腎臓を切除した。血漿中HO-1及びハプトグロビン濃度が上昇して腎臓HO-1及びハプトグロビンアップレギュレーションの程度を反映したか否かを試験するために、血漿中HO-1及びハプトグロビン濃度も測定した。
【0222】
先に測定した血漿中及び腎臓中のHO-1及びハプトグロビン濃度が細胞抵抗性の程度と相関したか否かを評価するために、他のマウスにN-Mgb0mg、2.5mg又は5mg+SnPP1mmolを注射した(n=各群3匹)。18時間後に、全マウスを上記のように処置し、グリセロールAKIモデルとした。グリセロール注射の18時間後にBUN及び血漿中クレアチニン解析によりAKIの重症度を判定した。
【0223】
肝虚血実験。5葉の肝葉のうちの3葉への血流を(門脈三つ組で)25分間閉塞することにより、マウス14匹を従来報告されている部分肝虚血モデルとした。Zager et al.Am J Physiol Renal Physiol 2014;307:F856-68。マウスの半数には18時間前に上記のようにN-Mgb1mg+SnPP1mmolを前投与した。処置した肝葉3葉における正常な肝臓色の回復により虚血時間後の再灌流を評価した。18時間後にマウスに再麻酔し、再開腹し、虚血後肝損傷のマーカーとして血漿中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及び乳酸脱水素酵素(LDH)濃度の測定用に終末血液試料を採取した。
【0224】
肝毒性損傷。N-Mgb-SnPPが毒性型の肝損傷に対して保護できるか否かを評価するために、麻酔したマウス12匹に50%グリセロールを注射した。門脈循環を介する肝細胞取り込みを助長するようにグリセロール(8mg/kg)をIP注射により投与した。マウスの半数には18時間前に上記のようにN-Mgb-SnPP(Mgb1mg/SnPP1mmol)を前投与しておいた。IPグリセロール注射から4時間後にマウスがまだ麻酔下にあるときに腹部大静脈の横切開により屠殺した。血漿中ALT濃度により急性肝損傷の程度を測定した。
【0225】
計算及び統計。全数値は平均±平均の標準偏差として示す。統計比較は対応のないスチューデントのt検定により行った。複数の比較を行った場合には、ボンフェローニの補正を適用した。グリセロールAKIモデルにおける腎組織損傷の重症度は11から41まで(最低重症度から尿細管壊死と円柱形成が認められる最高重症度まで)の等級に分類した。組織検査結果をウィルコクソンの順位和検定により比較した。P値<0.05であれば統計的に有意であるとみなした。
【0226】
結果。IV N-Mgb+SnPP注射後の腎機能及び組織検査。N-Mgb1mg+SnPPのIV注射から18時間後にBUN上昇も血漿中クレアチニン上昇も認められなかった(対照vs.Mgb/SnPP投与群が夫々BUN,22±3vs25±3mg/dL;クレアチニン,0.32±0.03vs0.30±0.04mg/dL)。更に、PAS又はH&E染色によると、形態学的な腎損傷の徴候もなかった。特に、投与群には尿細管壊死又はヘム円柱形成の徴候が全く認められなかった(図8参照)。PAS染色によると、近位尿細管刷子縁は全く無傷であった(上段2図)。これに関連して、刷子縁のブレブ形成と近位尿細管腔内への突出は尿細管損傷の非常に高感度の光学顕微鏡マーカーであるとみなされる。Venkatachalam et al.Kidney Int 1978;14:31-49;Donohoe et al.Kidney Int 1978;13:208-22。従って、これらのデータから、腎臓はIV N-Mgb-SnPP投与に十分に耐えられることが分かった。
【0227】
HO-1、IL-10及びハプトグロビン発現に及ぼす単独及び併用下のIV N-Mgb及びSnPPの影響。腎臓HO-1評価。図9左に示すように、N-Mgb単独とSnPP単独では4時間HO-1mRNAレベルの若干の増加しか生じなかった。一方、N-Mgb+SnPP併用の注射から4時間後ではHO-1mRNAの20倍の増加が認められた。投与後18時間までに、これらのmRNA増加は対照値の7倍という顕著なHO-1タンパク質増加をもたらした。他方、N-Mgb単独又はSnPP単独では18時間の時点で比較的小幅のHO-1タンパク質増加しか認められなかった。つまり、これらの4時間mRNAと18時間HO-1タンパク質の増加はN-Mgb+SnPPが腎皮質HO-1遺伝子発現に相乗的な効果をもつことを示している。(その他のHO-1mRNA[18時間]及びタンパク質データ[4時間]を表8に示す。)
【0228】
【表9】
【0229】
腎臓IL-10評価。図10左に示すように、N-Mgb単独とSnPP単独では4時間の時点でIL-10mRNAレベルに殆ど又は全く影響がなかった。一方、N-Mgb+SnPP併用では注射から4時間後にIL-10mRNAが10倍に増加した。N-Mgb単独又はSnPP単独の注射から18時間後にIL-10タンパク質は増加せず、これらの結果に一致した。逆に、N-Mgb-SnPP併用の注射から18時間後にはIL-10タンパク質の>2倍の増加が認められた。(その他のIL-10mRNA[18時間]及びタンパク質データ[4時間]を表8に示す。)
【0230】
腎皮質ハプトグロビン評価。HO-1及びIL-10と同様に、N-Mgb+SnPPを併用すると、薬剤注射から4時間後に最大のハプトグロビンmRNA増加が誘導された(図11)。注射から18時間後に、N-Mgb-SnPP注射に応答して腎皮質ハプトグロビンタンパク質濃度の大幅(20倍)な増加が認められた。一方、N-Mgb単独でも18時間の時点でハプトグロビンタンパク質濃度は同等に増加した。従って、18時間後のハプトグロビンタンパク質増加の要因は併用療法のN-Mgb成分であったと思われる。(この大幅な増加から見て、併用療法によりそれ以上の増加は誘導されなかったものと考えられる)。その他のハプトグロビンmRNA(18時間)及びタンパク質データ(4時間)を表8に示す。
【0231】
グリセロールAKIモデルの重症度に及ぼすIV N-Mgb単独、SnPP単独及びN-Mgb+SnPPの影響。図12に示すように、SnPP単独を前投与しても、グリセロール誘発AKIの重症度には事実上全く影響がなかった。BUN/クレアチニン濃度によると、N-Mgb単独では若干の保護が誘導された。一方、N-Mgb+SnPPを併用した場合には、完全な機能的保護が認められた(BUN/クレアチニン濃度は正常値に維持された)。これと一致する組織学的保護も認められた(グリセロールvs.N-Mgb+SnPP投与群の組織検査スコア3.5±0.25vs1.25±0.25;P<0.05)。これに関連して、未投与グリセロール群は従来報告されているように広範な尿細管壊死と円柱形成形成を示した。Zager et al.Am J Physiol Renal Physiol 2014;307:F856-68。これらの変化はN-Mgb+SnPP前投与群では事実上なかった。
【0232】
マレイン酸塩AKIモデル。図13に示すように、マレイン酸塩を注射すると、BUN/クレアチニンが顕著に上昇することから明らかなように重度腎損傷を生じた。N-Mgb+SnPPを前投与すると、BUN/クレアチニン濃度がほぼ正常になることから明らかなように、この損傷に対するほぼ完全な保護が付与された。
【0233】
図14はマレイン酸塩により誘発させた心毒性がN-Mgb+SnPPの前投与により低減されることを示す。マウスにN-ミオグロビン1mg/kg+SnPP1μmol又は溶媒をIV注射により投与した。18時間後に、マレイン酸塩800mg/kgをIP投与した。マレイン酸塩注射から18時間後に血漿中トロポニンI濃度を(ELISAにより)測定することにより心筋損傷の程度を測定した。マレイン酸塩注射により血漿中トロポニン濃度は10倍に上昇した。N-Mgb+SnPPを前投与すると、マレイン酸塩により誘発させたトロポニン上昇は75%低減された。
【0234】
虚血後AKIモデル。虚血後2週間までに、対照片側虚血マウスでは虚血後左腎臓質量の38%の減少が認められた(図15)。一方、N-Mgb+SnPPを予防投与しておいたマウスでは12%の減少しか認められなかった(P<0.005)。この腎損傷の抑制はN-Mgb-SnPP前投与群におけるNGALmRNA及びタンパク質レベルの顕著な低下によっても確認された(図15)。
【0235】
腎皮質及び血漿中HO-1/ハプトグロビン濃度とグリセロール誘発AKIに対する保護の程度の用量反応関係。図16に示すように、用量を漸増させながらN-Mgbを正常マウスにIP投与すると、腎皮質及び血漿中のHO-1及びハプトグロビン濃度が漸増した。血漿中と腎皮質中のHO-1及びハプトグロビン濃度には有意な相関が認められた(例えば腎皮質と血漿中のハプトグロビン濃度ではr=0.82)。更に、これらのN-Mgb用量増加はグリセロールAKIモデルに対する漸進的(50%;100%)な保護と相関した(図17)。従って、これらのデータによると、血漿中HO-1又はハプトグロビン増加の程度はN-Mgb-SnPPによる腎臓遺伝子誘導と後発するARFに対する抵抗の程度のバイオマーカーとして利用できるのではないかと思われる。N-Mgb5mg(+標準用量のSnPP)を投与した場合にも、腎損傷の徴候は認められなかった(正常BUN,クレアチニン;図17右参照)。
【0236】
肝臓評価。N-Mgb/SnPP注射に応答した肝臓における肝臓HO-1、IL-10及びハプトグロビン発現。HO-1、IL-10及びハプトグロビンのmRNA(4時間)及びタンパク質レベル(18時間)を対照値と比較した増加倍率を図18上段に示す。各々顕著な増加が認められた。各被験物質を単独使用又は併用した場合の個々の値を表9に示す。
【0237】
【表10】
【0238】
N-Mgb+SnPPを併用注射した場合には、注射から4時間後に肝臓HO-1、IL-10及びハプトグロビンmRNAレベルはどちらかを単独で投与した場合よりも有意に高かった(表9)。この結果、18時間の時点で評価した肝臓HO-1、IL-10及びハプトグロビンタンパク質増加が大きくなった(各タンパク質のP<0.001vs対照組織)。
【0239】
肝虚血モデル。肝虚血は血漿中ALT及びLDH濃度の顕著な上昇を誘発した(図19参照)。LDH及びALT上昇はN-Mgb+SnPP前投与により夫々75%及び50%抑制された(肝臓HO-1、ハプトグロビン及びIL-10タンパク質増加に対応;表9)。図20(上)に示すように、虚血後肝臓の肉眼的断面に広範囲の壊死が認められた。N-Mgb+SnPPを前投与すると、著しく正常に近い肉眼的肝臓外観となった(図20(下))。
【0240】
肝毒性損傷。図19の右図に示すように、N-Mgb+SnPPを投与すると、血漿中ALT濃度により評価した場合にIPグリセロール誘発肝損傷の程度も抑制された。
【0241】
心臓HO-1、IL-10及びハプトグロビンmRNA及びタンパク質レベル。図18の下段に示すように、N-Mgb+SnPPを併用すると、4時間でHO-1、ハプトグロビン及びIL-10mRNAの3~4倍の増加が誘導され、18時間の時点でそれらのタンパク質濃度の3~15倍までの増加が誘導された。個々の数値を表10に示す。
【0242】
【表11】
【0243】
一般に、単剤に比較して併用投与のほうが著しく大きなmRNA及びタンパク質増加が認められた。
【0244】
考察。1992年にNathら(J Clin Invest 90:267-70)はラットにヘモグロビンを投与すると、後発する(24時間後)グリセロール介在性横紋筋融解症誘発ARFに対して顕著な保護を誘導できることを実証した。(1)ヘムを前投与すると、腎臓HO-1mRNA及びタンパク質レベルとHO-1酵素活性が著しく増加し、(2)グリセロール注射の時点(以降)に強力なHO-1阻害剤であるSnPPを投与することによりグリセロールモデルは著しく悪化したという2つの重要な所見に基づき、この保護応答はヘムを介するHO-1アップレギュレーションに起因するとみなされた。これらの独創的な所見が発表されて以来、強力な抗酸化・抗炎症分子としてのHO-1の役割は複数のAKIモデルで確立している(例えばシスプラチン、腎虚血、内毒素血症;Nath,Curr Opin Nephrol Hypertens 2014;23:17-24に記載)。更に、その保護効果は種々の型の腎外組織損傷で広く記載されている(例えば脳、肝臓、心臓、臓器移植)。Kusmic et al.J Transl Med 2014;12:89;Czibik et al.Basic Res Cardiol 2014;109:450;Sharp et al.Transl Stroke Res 2013;6:685-92;Le et al.CNS Neurosci Ther 2013;12:963-8;Huang et al.World J Gastroenterol 2013;21:2937-48;Liu et al.Crit Care Med 2014;42:e762-71;Wszola et al.Prog Transplant 2014;1:19-26。しかし、保護が生じる厳密なメカニズムはHOの保護作用の存在ほど明白ではない。ポルフィリン環のHO-1開裂により毒性が高く触媒性のあるFe(直接的な有害作用を発揮する;Zager & Burkhart,Kidney Int 1997;51:728-38)が放出されるので、HO-1活性増加の二次的な影響があると現在では考えられている。これらの影響としては、抗酸化物質であるビリベルジンとビリルビンの生成、細胞保護性の一酸化炭素の生成、及び触媒性のFeとの結合能の高いフェリチンの組織中濃度の増加(H)が挙げられる。Zarjou et al.J Clin Invest 2013;123:4423-34;Nath,Curr Opin Nephrol Hypertens 2014;23:17-24。HO-1誘導剤(例えばヘム)は多数の他の細胞保護経路(例えばハプトグロビン(Zager et al.Am J Physiol 2012;303:F139-48)、ヘモペキシン(Zager et al.Am J Physiol 2012;303:F1460-72)、α1アンチトリプシン(Zager et al.PLoS One 2014;9:e9838)及び(本開示に示すような)IL-10)もアップレギュレートするという事実から、細胞保護へのHO-1の関与を解明するのは更に複雑になる。従って、アップレギュレートされる組織保護性タンパク質が多数存在するため、組織損傷に及ぼすHO-1の影響を解明するのは難しい。
【0245】
SnPPとHO-1の相互作用も複雑である。第1に、HO-1の競合的阻害剤としてSnPPを投与すると、酵素「フィードバック阻害」により又は穏和な酸化促進状態の誘導とそれに均衡するHO-1産生によりHO-1mRNA及びタンパク質レベルを二次的に増加させることができる(例えばKaizu et al.Kidney Int 2003;63:1393-403)。第2に、SnPPのSn部分は直接的な酸化促進作用により独立してHO-1をアップレギュレートすることができる。Barrera-Oviedo et al.Ren Fail 2013;35:132-7。第3に、SnPPの作用を考慮するならば、二次的なHO-1誘導はSNPPに誘導されるHO-1阻害により潜在的に相殺され得ると認識することが重要である。一方、SnPPは半減期が比較的短いことも注目すべきである(2~4時間;Berglund et al.Hepatology 1988;8:625-31)。従って、HO-1増加を遅らせるならば(例えばグリセロール投与又はN-Mgb-SnPP投与の18時間後)、先にSnPPが排出されるのでその生物学的作用を自由に発揮できるはずである。この発想はアップレギュレートされたHO-1がSnPP投与から24時間後に細胞保護効果を発揮できたという報告により裏付けられる(例えば虚血性ARFに対する保護;Juncos et al.Am J Pathol 2006;169:21-31;Kaizu et al.Kidney Int 2003;63:1393-403)。
【0246】
上記考察に鑑み、N-Mgb+SnPPを併用すると、HO-1及び他の酸化還元感受性細胞保護タンパク質(例えばハプトグロビンやIL-10)の相加的又は相乗的増加を誘導できるのではないかという仮説を立てた。N-Mgb、SnPP又はN-Mgb+SnPP注射から4時間後と18時間後にHO-1、ハプトグロビン及びIL-10のmRNA及びタンパク質レベルを測定することによりこの仮説を試験した。図7~9に示すように、併用療法は一般に相乗的又は相加的な応答を誘導した。例えば注射から4時間後にHO-1mRNAの20倍の増加が認められ、N-Mgb又はSnPP単独で認められた増加の倍加を上回った。18時間後に、この初期のmRNA増加は7倍のHO-1タンパク質増加として現れた。IL-10でも定量的に同様の結果が認められた。特に注目すべき点はN-Mgb-SnPP投与から18時間後のハプトグロビンタンパク質の大幅(20倍)な増加であった。しかし、この場合には、N-Mgb単独とN-Mgb+SnPPを比較すると同等の腎臓ハプトグロビン増加が誘導されたため、N-Mgb-SnPP相互作用よりもN-Mgbが主要因であると思われた。明らかに、HO-1、IL-10及びハプトグロビン以外の他の酸化還元感受性細胞保護タンパク質もN-Mgb-SnPPプロトコールにより誘導されているようである(例えばα1アンチトリプシン、ヘモペキシン、ヘプシジン)。従って、複数の細胞保護タンパク質が呼応して細胞損傷応答を軽減させると考えるのは理に適っていると思われる。
【0247】
N-Mgb-SnPP投与後に細胞保護タンパク質の劇的な腎皮質増加が認められたことから、3種類のAKIに対する保護におけるこの投与の有効性を試験した。図12はグリセロールモデルにおける結果を示す。図から明らかなように、SnPPを投与単独した場合にBUN又はクレアチニン濃度の有意低下は誘導されなかった。N-Mgbを単独投与すると、若干の保護効果が認められた。一方、併用した場合には、グリセロール注射から18時間後に正常なBUN及び血漿中クレアチニン濃度が得られることから明らかなように、N-Mgb+SnPPの前投与によりほぼ完全な機能的保護が誘起された。更に、ほぼ正常な腎臓組織像が認められた。従って、これらの結果は細胞保護タンパク質の相乗的な増加がARFに対する相乗的な保護となり得るという原理を裏付けるものである。
【0248】
N-Mgb-SnPPを介する保護の範囲を更に検討するために、近位尿細管ATP低下介在性ARFのマレイン酸塩モデルを使用した。この場合も、劇的又はほぼ完全な保護が認められた(図13)。AKIが進行性慢性腎疾患の発症の発端となり得ることは現在周知であるため、通常では2週間で腎臓質量の40%減少を生じる既報の片側虚血後腎障害モデル(Zager et al.Kidney Int 2013;84:703-12;Zager et al.Am J Physiol Renal Physiol 2014;307:F856-68)でN-Mgb-SnPPの前投与がこのプロセスを阻止できるか否かを評価した。図15に示すように、腎臓質量減少が38%から12%に抑えられ、NGALmRNA及びタンパク質レベルが著しく低下したことから明らかなように、N-Mgb-SnPPの前投与により虚血後損傷は著しく軽減された。従って、3種類の異なるAKIモデルの各々で劇的な保護が認められた。腎臓は(例えば迅速濾過、Mgbエンドサイトーシスにより)これらの2種類の被験物質への暴露が最大になるが、それらのIV注射後にほぼ全細胞が一時的に暴露される。更に、プロトポルフィリンは種々の細胞と結合して取り込まれる。Anderson et al.J Pharmacol Exp Ther 1984;228:327-33。従って、本願に開示するN-Mgb-SnPPレジメンが腎外臓器でも保護応答をアップレギュレートできるか否かが問題であった。実際に、肝臓及び心臓組織は(表9及び10に示したように)N-Mgb-SnPP注射から4時間後と18時間後のいずれでもHO-1、IL-10及びハプトグロビンmRNA及びタンパク質増加を示したので、これは事実であった。メガリン-キュビリンを介するエンドサイトーシスは腎臓特異的経路であると考えられているので、N-Mgb単独で腎外組織に応答を誘導できることは予想外であった。このことから、恐らくスカベンジャー受容体を介して腎外取り込みが可能である(Canton et al.Nat Rev 2013;13:621-34)か、又は微細循環に存在しているときにN-MgbとSnPPは細胞内細胞保護遺伝子を活性化できると思われる。腎外保護が生じるか否かを試験するために、虚血後肝損傷の程度に及ぼすN-Mgb+SnPP前投与の影響を評価した。図18に示すように、LDH及びALTの両方の血漿中濃度の顕著な低下が認められた。更に、虚血後肝臓組織の肉眼的外観により明白な保護が明らかになった(図19)。損傷に対する肝抵抗性を更に試験するために、門脈循環を通って肝臓に達すると若干の肝損傷を生じるグリセロールのIP注射をマウスに行った。IPグリセロール注射から4時間以内に、血漿中ALTの上昇が生じたが、事前のN-Mgb-SnPP注射によりほぼ阻止された。
【0249】
ハプトグロビン又はHO-1の血漿中濃度がARFの状況で腎皮質ハプトグロビン及びHO-1増加のバイオマーカーとして利用できることは従来立証されている。Z Zager et al.Am J Physiol 2012;303:F139-48;Zager et al.J Am Soc Nephrol 2012;23:1048-2057。そこで、血漿中ハプトグロビン及びHO-1がN-Mgb-SnPP投与後の腎臓におけるこれらのタンパク質の誘導と細胞抵抗状態の出現のバイオマーカーにもなるか否かが問題であった。実際に、これは事実であった。図16に示すように、N-Mgb-SnPPの用量を増すにつれて血漿中ハプトグロビン及びHO-1濃度の用量依存的増加が生じ、これらの増加は腎皮質ハプトグロビン及びHO-1含有量と直接相関した。更に、N-Mgb-SnPPにより誘導される血漿中HO-1及び血漿中ハプトグロビンの増加とグリセロール投与後のBUN濃度の間には顕著な逆関係が認められた(血漿中HO-1及びハプトグロビン濃度に対するBUNのrは夫々-0.79及び-0.71)。従って、血漿中HO-1/ハプトグロビン増加は臨床試験においてN-Mgb-SnPPの生物学的活性を確証するものであると思われ、HO-1及びハプトグロビンの血漿中上昇度は後発するAKIに対する抵抗性の程度の予測因子でもあると思われる。
【0250】
予防ストラテジーを患者に適用することによる明白な懸念は潜在的な腎及び/又は腎外毒性である。しかし、この点では、SnPPがヒトで十分に耐えられると既に示されていることに注目すべきである(例えばBerglund et al.Hepatology 1988;8:625-31;Kappas et al.Pediatrics 1988;81:485-97;Reddy et al.J Perinatol 2003;23:507-12)。更に、亜硝酸塩を加えるとミオグロビンの細胞毒性作用が75%も顕著に低減することが細胞培養系で従来報告されている(未公開データ,2014)。N-Mgb+SnPPの安全性の潜在的なインビボ限界(追加図面参照)を評価するために、腎毒性が観測される前にマウスに投与できる最大量のN-Mgbを調べた。腎毒性を誘発せずに(SnPP用量は一定にして)25倍までのN-Mgb用量を(2時間かけて)投与することができた(18時間後にBUN及びクレアチニンが正常)。最後に、標準N-Mgb-SnPP投与量(N-Mgb1mg/SnPP1mmol)でもIP N-Mgb5mg(図17)でも明白な腎損傷は誘発されず(18時間BUN/クレアチニン又は組織検査)、肝臓ALT又は心臓トロポニン濃度も上昇しなかった。同時に、これらのデータは臨床応用での有用性を示すものである。
【0251】
結論。N-Mgbをその分解阻害剤(SnPP)と併用投与すると、腎臓で多数の細胞保護タンパク質が激増する。この応答の有効性は、記録された腎臓HO-1タンパク質増加がNrf-2を介する周知のHO-1誘導剤であるバルドキソロンメチルで達せられている増加の15倍であるという結果により明らかである。Wu et al.Am J Physiol 2011;300:F1180-92。その投与から18時間以内に、N-Mgb+SnPPは3種類の異なるAKIモデル、即ちグリセロール誘発横紋筋融解症、マレイン酸塩誘発近位尿細管ATP低下及び虚血後AKIからCKDへの進行に対して劇的な保護を誘起した。驚くべきことに、N-Mgb+SnPPを投与すると、肝臓で細胞保護タンパク質の相乗的な増加も誘導され、肝虚血再灌流障害と肝毒性に対する劇的な保護を生じた。最後に、N-Mgb+SnPPは心臓で細胞保護タンパク質をアップレギュレートすることができ、心臓保護作用もあると思われ、従って、広範囲な細胞保護効果があると思われる。注目すべき点として、これらの応答は各々識別し得る腎、肝又は心毒性を生じずに誘導された。従って、これらのデータから、N-Mgb+SnPP併用投与は心肺バイパス手術、大動脈瘤修復又は他の複雑でハイリスクな外科手術中に発生し得るような腎及び腎外の両方の損傷に対して保護するための臨床予防ストラテジーを提供できると思われる。従って、このストラテジーは多数のまだ対処されていない重大な臨床上の課題を潜在的に解決できると思われる。
【0252】
[実施例5] 血漿中ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1;イヌ用ELISA)、BUN、血漿中クレアチニン及び乳酸脱水素酵素(LDH)濃度の測定用として、雌雄1匹ずつ2匹の雑種犬からベースライン採血を行った。HO-1アッセイ用にベースラインスポット尿試料も採取した。次に亜硝酸化イヌミオグロビン5mg/kg+SnPP3.75mg/kgを添加した生理食塩水/40mM NaHCOを50ml/50分でイヌ1に輸液した。イヌ2にはイヌN-ミオグロビン2.5mg/kg+SnPP7.5mg/kgを投与した。4時間後と26時間後に、繰返し血液試料を採取した。輸液から26時間後に第2の尿試料も採取した。表11に示すように、この輸液により、(投与前とBUN及び血漿中クレアチニン濃度を基準として)腎損傷なしに血漿中及び尿中HO-1濃度の大幅な増加が誘起された。LDH値は変わらないままであり、明白な腎/腎外組織損傷はないと思われた。
【0253】
【表12】
【0254】
[実施例6] 腎臓におけるヘムオキシゲナーゼ1誘導に及ぼすFeスクロースとシアノコバラミン(ビタミンB12)の影響。ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)アップレギュレーションは腎臓及び腎外臓器におけるN-ミオグロビン/SnPPの細胞保護活性の非常に重要なメディエーターである。そこで、HO-1アップレギュレーションを誘発することができ、従って、毒性と虚血型の損傷に対する組織保護の出現に寄与することができる他の薬剤を探索した。FeはN-Mgbの活性の非常に重要なメディエーターであるため、HO-1濃度に及ぼすFe-糖ポリマー(Feスクロース;分子量34~61kDa)の影響を評価した。
【0255】
代替及び/又は補完的ストラテジーとして、腎臓におけるHO-1誘導に及ぼすシアノコバラミン(ビタミンB12)の影響を検討した。B12試験の根拠はコバルトとシアン化物がいずれも独立してHO-1を誘導できるからである。即ち、シアン化物とコバルトはいずれもB12分子の主要部分であるので、B12はその両方を単剤として投与するための安全な方法であると思われる。
【0256】
方法。雄性CD-1マウス(25~40グラム)(Charles River,Wilmington,MA)を全実験で使用した。標準飼育条件下で収容し、飼料と水を自由に摂取できるようにした。全実験はNIHガイドラインに従い、フレッド・ハッチンソン癌研究センター(Fred Hutchinson Cancer Research Center)のIACUCにより承認された。
【0257】
AKI重症度に及ぼすFeスクロース(FeS)/錫プロトポルフィリン(SnPP)の影響。AKIのマレイン酸塩モデル。齧歯類に注射すると、マレイン酸塩は有機アニオントランスポーターを介して比較的選択的に近位尿細管細胞に取り込まれる。細胞内蓄積が生じると、マレイン酸塩はスクシニルCoA:3-オキソ酸CoAトランスフェラーゼの好ましい基質となる。この結果、マレイン酸補酵素Aが形成される。その後、マレイン酸塩CoAが安定なチオエーテルに変換される結果、重度の補酵素A(CoA)低下に至る。脂肪酸が「活性化」後にクレブス回路を介して代謝され、ATPを生成するには十分な濃度のCoAが不可欠である。この過程を経ないと、近位尿細管ATP低下と細胞損傷を生じる。また、マレイン酸塩はグルタチオン(GSH)のスルフヒドリル基と結合し、GSH低下と潜在的な酸化尿細管ストレスに至る。
【0258】
以下の実験ではFeS、SnPP又はFeS+SnPP併用によりこの型の急性腎障害(AKI)を軽減できるか否かを試験した。マウス27匹に1)溶媒(リン酸緩衝生理食塩水,PBS;n=10);2)FeS1mg(American Regent,Shirley,NY;n=3);3)SnPP1μmol(Frontier Scientific,Logan,UT;n=7)又はFeS+SnPP(n=7)のうちの1種200μLを尾静脈注射した。18時間後に、全マウスにマレイン酸Na(800mg/kg;PBS500μl中)をIP注射した。18時間後に、マウスにペントバルビタール(50mg/kg IP)を深麻酔し、開腹し、腹部大静脈から血液試料を採取した。血中尿素窒素(BUN)と血漿中クレアチニン(PCr)濃度を測定することにより腎損傷の重症度を評価した。
【0259】
AKの腎虚血再灌流障害(IRI)モデル。以下の実験ではFeS+SnPP併用によりAKIの腎動脈閉塞モデルを軽減できるか否かを評価した。マウスに上記のようにPBS(n=9)又はFeS+SnPP(n=8)200μlを尾静脈注射した。18時間後に、マウスにペントバルビタール(40~50mg/kg IP)を深麻酔し、開腹し、腎茎部を確認し、両腎茎部を微小血管クランプで閉塞した。体温は常に36~37℃に維持した。22分間の両側腎虚血後にクランプを外し、正常な腎臓の色が再び現われること(組織チアノーゼの消失)により均一な再灌流を目視確認した後、腹腔をシルク縫合糸で2層縫合した。18時間後に、マウスに再び麻酔し、再び開腹し、大静脈から終末血液試料を採取した。BUNとPCr濃度により腎損傷の重症度を判定した。
【0260】
AKIの重症度に及ぼすFeS/B12の影響。AKIのグリセロールモデル。マウスにPBS溶媒(n=6)又はFeS+1μmol B12の併用(n=6;B12はAlfa Aesar,Ward Hill,MAから入手)を尾静脈注射した。18時間後に、マウスにイソフルランを浅麻酔した後、横紋筋融解症AKIのグリセロールモデルを誘発させた(50%グリセロール9ml/kgを二等分し、後足上部にIM注射により投与した)。グリセロール注射から18時間後に、マウスにペントバルビタールを深麻酔し、終末大静脈血試料を採取した。終末BUN及びPCr濃度により腎損傷重症度を判定した。
【0261】
AKIのマレイン酸塩モデル。マウスにFeS+B12の併用又は溶媒(n=6/群)を尾静脈注射した。18時間後に、上記のようにマレイン酸塩をIP注射した。マレイン酸塩注射から18時間後に終末BUN及びPCr評価によりAKIの重症度を判定した。
【0262】
ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の腎皮質誘導に及ぼすFeS、SnPP及びB12の影響。以下の実験では、細胞保護タンパク質HO-1の可能な誘導に及ぼすFeS、SnPP及びB12の影響を評価した。この目的のために、マウスにこれらの被験物質を各々上記のように注射した。4時間後又は18時間後にマウスに麻酔し、腹部正中切開により腎臓を摘出した。腎皮質を氷冷下に剥離し、タンパク質及びmRNAを抽出した。次に試料をELISAによりHO-1タンパク質について定量し、GAPDHレベルに対する比としてHO-1mRNAをRT-PCRにより定量した。正常マウス5匹から対照値を得た。
【0263】
結果。AKIの重症度に及ぼすFeS/SnPPの影響。マレイン酸塩誘発AKI:図22に示すように、マレイン酸塩を注射した対照(C)でBUN及びPCr増加が顕著であることから明らかなように、マレイン酸塩を注射すると重度のAKIを生じた。SnPP単独でもFeS単独でも腎損傷の重症度は有意に変化しなかった。一方、FeS+SnPPを併用すると、BUN/PCr濃度が75%低下することから明らかなように、顕著な保護が付与された(横線は正常マウスにおけるBUN/PCr濃度の平均値を表す)。
【0264】
腎虚血再灌流(IRI)誘発AKI:IRI誘発から18時間以内に、BUN及びPCr濃度は4倍に上昇した(図23)。FeS+SNPPを前投与すると、有意な保護が付与され、BUN及びPCr濃度は50%低下した。横線は正常マウスにおける平均BUN/PCr濃度を表す。
【0265】
AKI重症度に及ぼすFeS/B12の影響。マレイン酸塩誘発AKI:この場合も、マレイン酸塩を注射して重度AKIを誘発させた(図24)。FeS+B12を前投与すると、BUN/PCrの低下から明らかなように、この損傷は著しく軽減された。横線は正常マウスにおける平均BUN/PCr濃度を表す。
【0266】
AKIのグリセロールモデル:グリセロール注射から18時間以内に重度腎不全が生じた(図25)。18時間BUN及びPCr濃度の両者の顕著な低下から明らかなように、FeS+B12を前投与すると、実質的な機能的保護が付与された。横線は正常マウスの平均BUN/PCr濃度を表す。
【0267】
腎皮質HO-1mRNA及びタンパク質レベル。図26に示すように、被験物質は各々注射から4時間後に評価した場合にHO-1mRNAの顕著且つ有意な増加が誘導された。18時間までに、HO-1mRNAレベルは正常値に戻った。図27に示すように、4時間mRNA増加はHO-1タンパク質濃度の有意な増加と相関した。これらの濃度は特にFeS投与の場合には、18時間の時点で高いままであった。
【0268】
予言的実施例。予言的実施例1。デポ製剤が静脈内(IV)ミオグロビン/SnPP及び/又はFe-S及び/又はB12投与と比較して潜在的毒性が低く且つ同等以上の細胞保護を付与するか否かを評価する。種々の用量のミオグロビンとSnPP及び/又はFe-S及び/又はB12を懸濁液として100mg/mlのPEG(PEG5000)に加える。この実験を実施するには2つの根拠がある。第1に、筋肉内(IM)又は皮下(SQ)注射することにより、ミオグロビンとSnPP及び/又はFe-S及び/又はB12は(IV注射後の瞬時の全身ミオグロビン/SnPP及び/又はFe-S及び/又B12暴露に比較して)比較的ゆっくりと吸収される。デポPEG注射によりミオグロビン及び/又はFe-S及び/又はB12吸収を遅くすることにより、ミオグロビン及び/又はFe-S及び/又はB12への腎臓暴露が遅くなり、より持続的になる。この結果、ミオグロビン及び/又はFe-S及び/又はB12取り込みが促進されると同時に、迅速なミオグロビン及び/又はFe-S及び/又はB12の腎臓負荷(その結果、尿細管腔内に閉塞性の円柱形成を生じる)によって生じ得るような腎毒性の可能性が低下する。第2に、PEGは浸透剤であり、腎排泄される。尿浸透圧の急性上昇はそれだけで細胞保護タンパク質を誘導できると共に、尿流率増加を生じることにより保護を付与できるので、相加的又は相乗的な有益な効果を観測できる。
【0269】
予言的実施例2。ヘマチンはHOを阻害し、SnPPと同様に、(酵素フィードバック阻害により)HO生成の増加を誘導することができる。従って、ヘマチンはSnPP投与の有益な効果を再現するはずである。重要な点として、ヘマチンは臨床疾患であるポルフィリン症の治療用としてFDAにより承認されている。従って、ヘマチンがSnPPと同等に有効であるならば、後続試験及び臨床開発にヘマチンを選択することができる。
【0270】
予言的実施例3。HOが実験的敗血症及び内毒素血症に対して保護作用があることは十分に立証されている。本願に開示する組成物、キット及び方法に従ってHO-1をアップレギュレートした後、18時間後にマウスにエンドトキシンチャレンジを行う。2時間後と24時間後に敗血症の重症度を血漿中と腎臓中の炎症性サイトカイン(TNF、MCP-1)濃度により判定する。また、内毒素血症も腎損傷の原因となるので、BUN及びクレアチニン濃度により腎機能障害の重症度を試験する。エンドトキシンを注射したナイーブマウスと結果を比較する。これに成功するならば、敗血症の危険の高い患者(例えばICU患者)への本願開示の保護ストラテジーの実用性は大幅に拡大するであろう。
【0271】
予言的実施例4。継続中の試験により、鉄及び/又はビタミンB12は種々の臓器系を傷害から保護するのに有効であることが実証されよう。
【0272】
「遠隔プレコンディショニング」は他の臓器をプレコンディショニングするために(例えば血圧カフを膨らませることにより)足に虚血を生じる方法であり、非常に限られた成功しか得られていないが、本願に開示する組成物、キット及び方法はこれとは区別される。特定の実施形態では、本願に開示する組成物、キット及び方法を「遠隔薬理学的プレコンディショニング」(RPR)と呼ぶことができる。
【0273】
当分野に通常の知識をもつ者に自明の通り、本願に開示する各実施形態は明記しているその特定の要素、工程、成分又は構成要素を含むことができ、あるいは本質的にこれらから構成することができ、あるいはこれらから構成することができる。従って、「包含する」なる用語は「含む、~から構成される、又は本質的に~から構成される」と同義であると解釈すべきである。前半部と後半部を繋ぐ用語である「含む」とは、包含するが、限定されないという意味であり、明記していない要素、工程、成分又は構成要素を包含することも許容している。前半部と後半部を繋ぐ用語である「~から構成される」とは明記していない要素、工程、成分又は構成要素を除外する。前半部と後半部を繋ぐ用語である「本質的に~から構成される」とは実施形態の範囲を、明記している要素、工程、成分又は構成要素と、この実施形態に重大な影響を与えない要素、工程、成分又は構成要素に制限するものである。重大な影響とは開示する組成物、キット又は方法が予定された傷害から臓器を保護する能力を統計的に有意に低下させるようなものである。
【0274】
特に指定しない限り、本明細書と特許請求の範囲で使用する成分の量、分子量等の性質、反応条件等を表す全数値はいずれの場合も「約」なる用語が付いていると理解すべきである。従って、特に指定しない限り、本明細書と特許請求の範囲に記載する数値パラメータは概数であり、本発明により獲得しようとする所望の性質に応じて変動することができる。特許請求の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではないが、最低限でも、各数値パラメータは少なくとも報告する有効数字に鑑み、通常の丸め方を適用することにより解釈すべきである。更に明瞭にする必要がある場合には、「約」なる用語は明記する数値又は範囲と共に使用するときに当業者が妥当に割り当てる意味であり、即ち記載値の±20%、記載値の±19%、記載値の±18%、記載値の±17%、記載値の±16%、記載値の±15%、記載値の±14%、記載値の±13%、記載値の±12%、記載値の±11%、記載値の±10%、記載値の±9%、記載値の±8%、記載値の±7%、記載値の±6%、記載値の±5%、記載値の±4%、記載値の±3%、記載値の±2%、又は記載値の±1%の範囲内までで明記する数値又は範囲よりも多少大きいか又は多少小さい数値又は範囲を意味する。
【0275】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは概数であるが、具体例に記載する数値は可能な限り正確に報告する。但し、如何なる数値もその夫々の試験測定値に存在する標準偏差により必然的に生じる所定の誤差を内在的に含む。
【0276】
本発明を説明する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈)で使用する不定冠詞、定冠詞及び同類の指示語は本願で特に指定する場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、単数と複数の両方に対応すると解釈すべきである。本願で数値範囲を記載する場合には、その範囲内に該当する個々の数値を個別に表す省略法として利用する目的に過ぎない。本願で特に指定しない限り、個々の数値を本願に個別に記載しているものとして本明細書に組み入れる。本願で特に指定する場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、本願に記載する全方法はあらゆる適切な順序で実施することができる。本願に記載するありとあらゆる例又は例示的文言(例えば「等の」)の使用は本発明をより明瞭にする目的に過ぎず、それ以外の内容で請求されている本発明の範囲に制限を加えるものではない。本明細書中の如何なる文言も本発明の実施に不可欠な請求外の要素を表すと解釈すべきではない。
【0277】
本願に開示する発明の択一的要素又は実施形態のグループを制限として解釈すべきではない。各グループメンバーを個々に又はそのグループの他のメンバーもしくは本願に記載する他の要素とのあらゆる組合せにおいて言及及び請求することができる。便宜及び/又は特許性の理由からあるグループの1以上のメンバーをあるグループに組み入れることもできるし、削除することもできる。このような組み入れ又は削除が行われる場合には、明細書は変更後のグループを含むものとみなされ、従って、添付の特許請求の範囲で使用される全マーカッシュグループの文言を満足する。
【0278】
本発明を実施するために本発明者らが知る限り最良の実施形態を含めて、本願には本発明の所定の実施形態を記載する。当然のことながら、記載するこれらの実施形態の変形も上記記載を通読後に当分野に通常の知識をもつ者に容易に理解されよう。本発明者は当業者がこのような変形を適宜利用するものと予想し、また、本発明者らは本願に具体的に記載する以外の方法で本発明が実施されることも想定している。従って、準拠法により許可される範囲において本発明は添付の特許請求の範囲に記載する主題の全変形及び等価物を包含する。更に、本願で特に指定する場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、可能な全てのその変形における上記要素のあらゆる組合せを本発明に包含する。
【0279】
更に、本明細書の随所で特許、印刷刊行物、雑誌論文及び他の文書に何度も言及している(本願の参考資料)。これらの参考資料は各々その参考とする教示についてその開示内容全体を個々に本願に援用する。
【0280】
本願に示す詳細事項は例示であり、本発明の好ましい実施形態を具体的に説明する目的に過ぎず、本発明の種々の実施形態の原理と概念的側面の最も有用で理解し易い説明であると考えられるものを提供するために提示する。この点については、本発明の基本的な理解に必要である以上に詳細に本発明の構造細部を示そうとするものではなく、本発明の複数の形態を実際にどのように具体化できるかは説明を図面及び/又は実施例と勘案することにより当業者に容易に理解されよう。
【0281】
後続する実施例で明瞭・明白に変更されている場合又はその意味を適用すると構文の意味が通らなくなるかもしくは本質的に意味が通らなくなる場合を除き、本開示で使用する定義と説明は後続するあらゆる構文に適用されるものとする。用語の構文により意味が通らなくなる場合又は本質的に意味が通らなくなる場合には、Webster’s Dictionary,3rd Edition又はOxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology(Ed.Anthony Smith,Oxford University Press,Oxford,2004)等の当分野に通常の知識をもつ者に公知の辞書から定義を参照されたい。
【0282】
終わりに、当然のことながら、本願に開示する発明の実施形態は本発明の原理を例証するものである。利用できる他の変形も本発明の範囲に含まれる。従って、限定するものではないが、例えば本発明の代替構成も本願の教示に従って利用することができる。従って、本発明は厳密に図示及び記載通りの内容に制限されない。
図1A
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【配列表】
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