(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】エチレン系樹脂組成物及びフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240904BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240904BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B27/32 Z
C08L23/08
(21)【出願番号】P 2022512565
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013614
(87)【国際公開番号】W WO2021200991
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020065433
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関谷 慶子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅生
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄太
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-096119(JP,A)
【文献】特開2018-070248(JP,A)
【文献】特表2017-527662(JP,A)
【文献】河野昭彦 他, ,直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の結晶化度とLLDPE/Ni複合材料の抵抗率-温度特性との関係,高分子論文集
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
B32B 27/32
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)~(5)を満たすエチレン系樹脂組成物
を含むフィルム。
(1)メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が
0.2g/10min以上
0.9g/10min以下であり、
(2)密度が915kg/m
3以上
933kg/m
3以下であり、
(3)メルトインデックス(I21:190℃、21.6kg荷重)が
1以上25以下であり、
(4)示差走査熱量測定(DSC測定)のDSC曲線から求められる全融解熱量(Ht)に対する120℃以上でのDSC曲線から求められる融解熱量(Hh)の比率である120℃以上融解熱量比(Hh/Ht)が
20%以上
45%以下であり、
(5)190℃における溶融張力が30mN以上65mN以下である。
【請求項2】
要件(1)~(5)に加えて、さらに、下記要件(6)を満たす請求項1に記載のエチレン系樹脂組成物
を含むフィルム。
(6)40μm厚の単層フィルムとしたときのMD弾性率が283MPa以上である。
【請求項3】
密度が917kg/m
3以上である請求項1に記載のエチレン系樹脂組成物
を含むフィルム。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載のフィルムからなる層を有する積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン系樹脂組成物及びそれを含むフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、菓子、スナック、薬品等の包装袋や、スタンディングパウチ、チューブ等の包装容器などの包装材として、ポリエチレン製のフィルムが用いられている。
【0003】
このようなポリエチレン製のフィルムの製造には、押し出したエチレン系樹脂組成物を含む材料を、無延伸成形または延伸成形する方法が用いられている。代表的な成形方法として、インフレーション法とTダイ(キャスティング法ともいう)が挙げられる。インフレーション法を用いた薄厚フィルムの製造方法として、押し出し成形された筒状成形物の内部に空気を吹き込み膨張させて薄膜化して薄厚のフィルムからなる筒状成形物とし、これを所定の大きさにカットして薄厚フィルムを得る方法が知られている。
【0004】
フィルムの強度は薄膜化により低下するため、薄膜化による強度低下を抑制し得るエチレン系樹脂組成物原料が求められている。
【0005】
特許文献1には、メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)、密度、メルトインデックス(I21:190℃、2.16kg荷重)とメルトインデックス(I2:190℃、2.16kg荷重)の比、メルトテンション(190℃)のそれぞれを特定の値とすることによって、成形加工性に優れ、フィルム強度にも優れるエチレン系フィルムを提供することができる、との開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
包装材を形成するフィルムに必要とされる特性として、内容物を守るフィルム強度に加えて、剛性(包装材への内容物の充填時の開口性、自立性等)が求められる場合がある。本発明は、このような要求に対応し得るエチレン系樹脂組成物及びそれを含むフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、適切な高分子量化と狭分子量分布化を行うことによって得られる物性を、エチレン系樹脂組成物が有することによって、エチレン系樹脂組成物を含むフィルムに強度と剛性の優れたバランスを付与することが可能である、との新たな知見を得た。本発明は、係る本発明者らの新たな知見に基づいて完成されたものである。本発明は、以下の事項により特定される。
[1] 下記要件(1)~(4)を満たすことを特徴とするエチレン系樹脂組成物。
(1)メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10min以上1.0g/10min以下であり、
(2)密度が915kg/m3以上935kg/m3以下であり、
(3)メルトインデックス(I21:190℃、21.6kg荷重)が45以下であり、
(4)示差走査熱量測定(DSC測定)のDSC曲線から求められる全融解熱量(Ht)に対する120℃以上でのDSC曲線から求められる融解熱量(Hh)の比率である120℃以上融解熱量比(Hh/Ht)が10%以上55%以下である。
[2] 要件(1)~(4)に加えて、さらに、下記要件(5)を満たす[1]に記載のエチレン系樹脂組成物。
(5)190℃における溶融張力が30mN以上である。
[3] 密度が917kg/m3以上である[1]または[2]に記載のエチレン系樹脂組成物。
[4] 上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のエチレン系樹脂組成物を含むフィルム。
[5] 上記[4]に記載のフィルムからなる層を有する積層フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度と剛性のバランスに優れ、包装材として好適な物性を有するエチレン系樹脂組成物及びそれを含むフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例及び比較例において得られた結果に基づく剛性と強度のバランスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔エチレン系樹脂組成物〕
本発明に係るエチレン系樹脂組成物は、下記要件(1)~(4)を満たす。
(1)メルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10min以上1.0g/10min以下。
(2)密度が915kg/m3以上935kg/m3以下。
(3)メルトインデックス(I21:190℃、21.6kg荷重)が45以下。
(4)DSC測定のDSC曲線から求められる全融解熱量(Ht)に対する120℃以上でのDSC曲線から求められる融解熱量(Hh)の比率である120℃以上融解熱量比(Hh/Ht)が10%以上55%以下。
【0012】
以下、各要件について説明する。
(1)メルトフローレート(MFR)
本発明に係るエチレン系樹脂組成物のMFRは0.1g/10min以上1.0g/10min以下である。このMFRの値は、JIS K7210に準拠して190℃、2.16kg荷重で測定された値である。
既存のインフレーション用ポリエチレンはフィルム強度と押出性に重点を置くという観点から、1.0g/10min以上2.0g/10min以下のMFRを有するものが使用されてきた。本発明において、MFRは、要件(2)~(4)とともにフィルムの強度と剛性との優れたバランスをとるという観点から、上記の既存の範囲の下限以下の範囲に設定される。
本発明に係るエチレン系樹脂組成物のMFRは、0.2g/10min以上であることが好ましい。一方、本発明に係るエチレン系樹脂組成物のMFRは、0.9g/10min以下であることが好ましく、0.8g/10min以下であることがより好ましく、0.7g/10min以下であることが更に好ましい。
【0013】
(2)密度
本発明に係るエチレン系樹脂組成物の密度はフィルムの剛性に影響を与える物性であり、要件(1)、要件(3)及び要件(4)とともにフィルムの強度と剛性との優れたバランスをとるという観点から、915kg/m3以上935kg/m3以下の範囲内とされる。本発明に係るエチレン系樹脂組成物の密度は、933kg/m3以下であることが好ましい。本発明に係るエチレン系樹脂組成物の密度は、917g/m3以上であることが好ましく、919kg/m3以上であることがより好ましく、925kg/m3を超えることが更に好ましい。。
【0014】
(3)メルトインデックス(I21)
本発明に係るエチレン系樹脂組成物のメルトインデックス(I21)は、要件(1)、要件(2)及び要件(4)とともにフィルムの強度と剛性との優れたバランスをとるという観点から、45以下とされる。メルトインデックス(I21)の値は、JIS K7210に準拠して、190℃、21.6kg荷重にて測定された値である。メルトインデックス(I21)は、40以下であることがより好ましく、35以下であることがより好ましく、25以下であることが更に好ましい。メルトインデックス(I21)の下限は特に限定されないが、1以上であることが好ましい。
【0015】
(4)DSC測定のDSC曲線から求められる全融解熱量(Ht)に対する120℃以上でのDSC曲線から求められる融解熱量(Hh)の比率である120℃以上融解熱量比(Hh/Ht)
本発明に係るエチレン系樹脂組成物のHh/Htは、全融解熱に対する120℃以上の成分量を表し、要件(1)~要件(3)とともにフィルムの強度と剛性との優れたバランスをとるという観点から、10%以上55%以下の範囲とされる。エチレン系樹脂組成物のHh/Htは、15%以上50%以下の範囲とすることが好ましく、20%以上45%以下の範囲とすることがより好ましい。
【0016】
(5)溶融張力
本発明にかかるエチレン系樹脂組成物の耐熱性の評価基準として、190℃における溶融張力が、30mN以上、すなわち、少なくとも30mNであることが好ましい。
溶融張力は、後述する方法によって測定する。
【0017】
本発明に係るエチレン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分としてのエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体であっても良いし、エチレンとその他のモノマーとのエチレン系共重合体であっても良い。エチレン系共重合体としては、特に、エチレンと炭素原子数3以上のα-オレフィンの共重合体(エチレン・α-オレフィン共重合体)が好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィンの具体例としては、プロピレン、ブテン、1-オクテン、1-ヘキセンが挙げられる。中でも、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましく、1-ヘキセンがより好ましい。このような共重合体は、チーグラーナッタ触媒やメタロセン触媒といった公知の触媒を用いて製造することができる。また、樹脂成分としてエチレンとα-オレフィンの共重合体に加えて、他の低密度ポリエチレンを用いてもよい。本発明では、市販のポリエチレン系樹脂から、上記各特性を満足するエチレン系重合体を含む樹脂の1種を、あるいは2種以上の組合せを選択して樹脂成分として使用することができる。エチレン・α-オレフィン共重合体を含むポリエチレン系樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレンを挙げることができる。
【0018】
本発明に係るエチレン系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じて、耐候安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、滑剤、顔料、流滴剤などの通常ポリオレフィン系樹脂組成物に添加される各種の添加剤の少なくとも1種を含有しても良い。
【0019】
<フィルム>
本発明に係るエチレン系樹脂組成物を用いることで、優れた強度と剛性のバランスを有し、包装材等として好適なフィルムを提供することができる。フィルムとしては、以下の形態のフィルムを挙げることができる。
(A)本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含む単層フィルムまたは積層フィルム。
(B)本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含む層の少なくとも一つと、樹脂成分が本発明に係るエチレン系樹脂組成物以外の他の材料を含む層の少なくとも一つを有する積層フィルム。
上記形態(A)における積層フィルムの層構成としては、異なるエチレン系樹脂組成物を含む2層の組合せの少なくとも1つ以上を有する多層構成を挙げることができる。
上記形態(B)において、複数の本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含む層を用いる場合には、これらの層は同一でも、異なっていてもよく、あるいは、異なる層の組合せを一つ以上有するものでもよい。同様に、複数の他の材料を含む層を用いる場合にも、これらの層は同一でも、異なっていてもよく、あるいは、異なる層の組合せを一つ以上有するものでもよい。
【0020】
上記の形態(B)の積層フィルムの層構成の例として、以下の層構成が挙げられる。
(a)その他の材料を含む層の片面、または両面に本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含む層を積層した層構成。
(b)2つのその他の材料を含む層の間に、本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含む層を挟持して積層した層構成。
なお、積層フィルムを構成する層の一部に基材としての機能を持たせてもよい。
【0021】
積層フィルム用の他の材料としては、熱可塑性樹脂からなるシートまたはフィルム、紙、アルミニウム箔等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂から積層フィルムの用途に応じて選択したものを用いればよい。熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリオレフィン〔高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE:エチレン・α-オレフィンランダム共重合体)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン;プロピレン単独重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(プロピレンランダム共重合体)などのポリプロピレン;ポリ4-メチル-ペンテン;ポリブテン等〕、ポリエステル〔ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等〕、ポリアミド〔ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等〕、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、あるいはこれらの2種以上の混合物等を例示することができる。これらのうちでは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等、延伸性、透明性が良好な熱可塑性樹脂が好ましい。
【0022】
また、上記のその他の材料としての熱可塑性樹脂フィルムは、無延伸フィルムであっても、延伸フィルムであっても良い。また、この熱可塑性樹脂フィルムは、1種または2種以上の熱可塑性樹脂の共押し出し成形、押出しラミネート、ドライラミネート、サーマルラミネート等で得られる積層体であっても良い。中でも、基材として熱可塑性樹脂フィルムを用いる場合は、二軸延伸熱可塑性フィルム、とくにポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドからなる二軸延伸熱可塑性フィルムが好ましい。
【0023】
本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含むフィルム(層)の厚みは、所望の用途に応じて、適宜決め得るが、通常、5~200μm、好ましくは20~180μmの範囲から選択することができる。
【0024】
本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含むフィルムの強度の評価基準としては、40μm厚の単層フィルムとした時のダートインパクトが221g以上、すなわち少なくとも221gであることが好ましい。ダートインパクトが221g以上であることで、フィルムが十分な強度を有し、包装袋等の包装材として適用した際、輸送時や落下時に袋が破れることを防止することができる。
【0025】
本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含むフィルムの剛性の評価基準としては、40μm厚の単層フィルムとした時のMD弾性率が283MPa以上、すなわち少なくとも283MPaであることが好ましい。MD弾性率が283MPa以上であることで、フィルムが十分な剛性を有し、包装袋等の包装材として適用した際、包装材中への内容物の充填時の良好な開口性、自立性を包装材に与えることができる。一方、MD弾性率の上限については特に制限されないが、5000MPa以下に設定することが製法上好ましい。
【0026】
<フィルム成形方法>
本発明に係るエチレン系樹脂組成物は、公知の溶融押出成形方法等によりフィルム化することができる。この溶融押出成形法としては、特に制限なく公知の方法が採用できる。フィルムを包装材としての用途に用いる場合は、インフレーション成形でフィルム化することが好ましい。このようにして得られたフィルムはそのまま無延伸フィルムとして、さらに延伸して延伸フィルムとして、食品包装用袋などの包装材を製造するためのフィルムに加工することができる。その場合、溶融押出成形されたフィルム(延伸原反といい、厚さによってはシートと称される厚手の成形体を含む)の厚みは、成形法によって異なる。インフレーション成形で作成する場合の延伸原反の厚さは、90μm~1000μmが好ましく、100μm~900μmがより好ましい。
溶融樹脂の冷却方法は空冷、水冷のどちらであってもよい。次いで当該延伸原反を縦方向または縦横2方向に延伸することで延伸フィルムを得ることができる。
【0027】
また、本発明に係るエチレン系樹脂組成物を含むフィルムと、その他の材料からなるフィルムを有する積層体フィルムの場合は、多層ダイを用いてこれらの材料を共押出し成形して得られる多層の延伸原反を包装材の原料として用いることができる。
【0028】
延伸原反を延伸して、薄膜化する方法としては、テンター法により縦横に同時又は逐次2軸延伸する方法、チューブラー法により縦横方法に同時2軸延伸する方法、または2つ以上のロールの回転速度比の違いによりフィルムの流れ方向に1軸延伸する方法などを例示できる。
【0029】
本発明に係るフィルムは、水物包装袋、液体スープ包袋、液体紙器、ラミ原反、特殊形状液体包装袋(スタンディングパウチなど)、規格袋、重袋、ラップフィルム、砂糖袋、油物包装袋、食品包装用などの各種包装用フィルム、プロテクトフィルム、輸液バック、農業用資材、バックインボックス、半導体材料、医薬品、食品などの包装に用いられるクリーンフィルムなどの用途に好適である。
【0030】
本発明に係るフィルムは、低温ヒートシール性に優れており、所望の剥離強度のヒートシールを幅広い温度範囲で行うことができる。
本発明に係るフィルムは、剛性と強度のバランスに加えて、優れた耐熱性と耐衝撃性のバランスを有することができるので、高温に曝されても欠陥が生じにくく且つ衝撃を受けても破れにくい。したがって、本発明に係るフィルムは、例えば食品や医療の分野など、耐熱性と耐衝撃性が要求される様々な用途において特に有用である。具体的には、例えばレトルト食品、医薬品、医療用器具、ペットフード等の加熱・殺菌処理が必要な流体又は固体の被包装物に対する包装材として、本発明に係るフィルムは特に好適に使用できる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0032】
実施例及び比較例では樹脂成分として以下のエチレン系樹脂組成物を用いた。
・エチレン・1-ヘキセン共重合体(商品名:エボリュー SP1510、株式会社プライムポリマー製、MFR(190℃、2.16kg荷重):1.0g/10min、密度:915kg/m3)
・エチレン・1-ヘキセン共重合体(商品名:エボリュー SP2020、株式会社プライムポリマー製、MFR(190℃、2.16kg荷重):2.3g/10min、密度:916kg/m3)
・エチレン・1-ヘキセン共重合体(商品名:エボリュー SP2520、株式会社プライムポリマー製、MFR(190℃、2.16kg荷重):1.9g/10min、密度:925kg/m3)
・エチレン・1-ヘキセン共重合体(商品名:エボリュー SP3210、株式会社プライムポリマー製、MFR(190℃、2.16kg荷重):0.58g/10min、密度:929kg/m3)
・エチレン・1-ヘキセン共重合体(商品名:エボリュー SP2090C、株式会社プライムポリマー製、MFR(190℃、2.16kg荷重):9.0g/10min、密度:920kg/m3)
【0033】
以下の実施例及び比較例において、メルトフローレート(MFR)、メルトインデックス(I21)、密度(D)、DSC 120℃以上成分量(Hh/Ht)、MD及びTD弾性率、並びに溶融張力(190℃)は、下記の方法により測定した。
【0034】
<メルトフローレート(MFR:[g/10min])>
JIS K7210に準拠し、190℃、2.16kg荷重(kgf)の条件下で測定した。
<メルトインデックス(I21)>
メルトインデックス(I21)は、JIS K7210に準拠して、190℃、21.6kg荷重にて測定した。
【0035】
<密度[kg/m3]>
JIS K7112に準拠し、MFR測定時に得られるストランドを100℃で1時間熱処理し、更に室温で1時間放置した後に密度勾配管法で測定した。
【0036】
<ダートインパクト[g]>
ダートインパクトは、ASTM D1709に従って、以下の条件にて測定した。
試験片(40μm厚)をエアークランプ方式で締め付け、半球形のダートを一定の高さから落下させ、試験片が50%破壊する荷重[g]をグラフから読み取る。一水準の落下回数は10回として、A法を用いる。
【0037】
<Hh/Ht>
フィルムを構成する樹脂成分の融解熱量比は、DSC測定のDSC曲線から求められる全融解熱量(Ht)と、120℃以上でのDSC曲線から求められる融解熱量(Hh)から、120℃以上の成分量を示す比率である120℃以上融解熱量比(Hh/Ht)として計算して求めた。
【0038】
<弾性率>
フィルムからJIS K6781に準ずる大きさのダンベルを打ち抜き試験片とし、フィルムの引取方向と平行に打ち抜く場合をMD(縦方向)、フィルムの引取方向と直角に打ち抜く場合をTD(横方向)とする。万能材料試験機のエアチャックに試験片をセットし、チャック間距離80mm、引張速度200mm/分で引張試験を行い、初期応力の変位に対する傾きを弾性率とした。
【0039】
<溶融張力(190℃)[mN]>
190℃における溶融張力(190℃)は、一定速度で延伸したときの応力を測定することにより決定した。測定には東洋精機製作所社製キャピラリーレオメーター:キャピログラフ1Bを用いた。条件は樹脂温度190℃、溶融時間6分、バレル径9.55mmφ、押し出し速度15mm/分、巻取り速度24m/分(溶融フィラメントが切れてしまう場合には、巻取り速度を5m/分ずつ低下させる)、ノズル径2.095mmφ、ノズル長さ8mmとした。
【0040】
<インフレーション成形性>
目視により、成形時にバブルが揺れず安定しているか確認することによってインフレーション成形性を評価した。
【0041】
[実施例1~3、比較例1~3]
表1及び表2に示す各銘柄のエチレン系樹脂組成物単独、あるいは2種の混合物(2種の合計量を100%(質量基準)とする)について、MFR、メルトインデックス(I21)、密度、DSC 120℃以上成分量(Hh/Ht)、溶融張力(190℃)について測定した。
更に、各エチレン系樹脂組成物を下記成形条件で空冷インフレーション成形を行い、肉厚40μm、折り幅320mmのフィルム(無延伸)を製造した。
<成形条件>
・成形機:モダンマシナリー製、50mmφインフレーション成形機
・スクリュー:バリアタイプスクリュー
・ダイス:100nmφ(径)、3.5mm(リップ幅)
・エアーリング:2ギャップタイプ
・成形温度:200℃
・押出し量:28.8kg/h
・引取速度:20m/min
上記の空冷インフレーション成形時におけるインフレーション成形性を評価した。更に、こうして得られたフィルムについて、弾性率(MD及びTD弾性率)、並びに、ダートインパクトの測定を行った。
得られた結果を表1及び表2に示す。また、表1及び表2に示すMD弾性率とダートインパクトの結果に基づく剛性と強度のバランスを
図1に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
表1に示すとおり、要件(1)~(4)を満たす実施例1~3では、290g以上のダートインパクト及び317MPa以上のMD弾性率を達成しており、十分な強度と剛性を優れたバランスで有し、包装材として好適なポリエチレン系樹脂フィルムを得ることができた。更に、実施例1~3においては、ダートインパクトに加えて、溶融張力も30mN以上という評価基準を満たしており、これらの実施例において、十分な耐熱性と耐衝撃性をバランス良く有する包装材として好適なポリエチレン系樹脂フィルムを得ることができた。
これに対して、表2に示すとおり、MFR及びメルトインデックス(I21)が要件(1)及び要件(2)で規定された範囲よりもそれぞれ高く、Hh/Htが要件(4)で規定された範囲よりも低い比較例1では、ダートインパクトにおいて十分な値が得られているものの、MD弾性率は282MPaと低く、強度及び剛性に良好なバランスを得ることができなかった。一方、MFR及びメルトインデックス(I21)が要件(1)及び要件(2)で規定された範囲よりもそれぞれ高い比較例2では、MD弾性率において十分な値が得られているものの、ダートインパクトが220gと低く、強度及び剛性に良好なバランスを得ることができなかった。また、MFRが要件(1)で規定された範囲よりも大幅に高い比較例3では、ダートインパクト及び溶融張力における評価基準を満たしておらず、また、インフレーション成形性も「不安定」という評価であり、実施例1~3における目的とする物性を達成することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、強度と剛性の良好なバランスを有し、包装材として有用なエチレン系樹脂組成物及びそれを含むフィルムを提供することができる。