(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】L-分枝鎖アミノ酸生産能が強化された微生物及びそれを用いてL-分枝鎖アミノ酸を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240904BHJP
C12N 15/77 20060101ALI20240904BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240904BHJP
C12P 13/06 20060101ALI20240904BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20240904BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240904BHJP
C07K 14/34 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/77 Z
C12N15/113 Z
C12P13/06 C
C12P13/06 B
C12P13/08 D
C12N15/31
C07K14/34
(21)【出願番号】P 2022543795
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 KR2021006262
(87)【国際公開番号】W WO2021235855
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0061175
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12704P
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12705P
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12706P
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【氏名又は名称】小合 宗一
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ビョン フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン ヒェ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジン スク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ソン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キョンリム
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュ ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン ジュン
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523787(JP,A)
【文献】特表2019-528075(JP,A)
【文献】特表2018-502589(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110885364(CN,A)
【文献】J. Microbiol. Biotechnol.,2016年,Vol.26, No.5,p.807-822
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12N 15/77
C12N 15/113
C12P 13/06
C12P 13/08
C12N 15/31
C07K 14/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸代謝調節因子A(regulato
r
of acetate metabolism A)の
プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを含むL-分枝鎖アミノ酸生
産微生物であって、
前記微生物はコリネバクテリウム・グルタミカムであり、
前記ポリヌクレオチドは、配列番号3~5から選択されるいずれかのヌクレオチド配列を含む、
微生物。
【請求項2】
前記微生物が、さらに該ポリヌクレオチドに作動可能に連結された酢酸代謝調節因子A遺伝子を含む、
請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
請求項
1に記載の微生物を培地で培養するステップを含む、
L-分枝鎖アミノ酸を生産する方法。
【請求項4】
前記培地又は微生物から
L-分枝鎖アミノ酸を回収又は分離するステップをさらに含む、
請求項
3に記載
の方法。
【請求項5】
酢酸代謝調節因子Aのプロモーター活性を有
し、
且つ、配列番号3~5から選択されるいずれかのヌクレオチド配列を含む、
ポリヌクレオチド。
【請求項6】
L-分枝鎖アミノ酸を製造するための請求項5記載のポリヌクレオチドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A)の活性が強化されたL-分枝鎖アミノ酸生産微生物及びそれを用いたL-分枝鎖アミノ酸生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸は、タンパク質の基本構成単位であり、薬品原料や食品添加剤、動物飼料、栄養剤、殺虫剤、殺菌剤などの重要素材として用いられる。特に、分枝鎖アミノ酸(Branched Chain Amino Acids, BCAA)とは、必須アミノ酸であるL-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシンを総称するものであり、前記分枝鎖アミノ酸は、抗酸化効果及び筋肉細胞のタンパク質合成作用を直接促進する効果があることが知られている。
【0003】
一方、微生物を用いた分枝鎖アミノ酸の生産は、主にエシェリキア属微生物又はコリネバクテリウム属微生物により行われ、ピルビン酸から様々な段階を経て2-ケトイソカプロン酸(2-ketoisocaproate)を前駆体として生合成されることが知られている(特許文献1,2,3)。しかし、前記微生物によるL-分枝鎖アミノ酸の生産には、工業的な大量生産が容易でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第10316297号明細書
【文献】米国特許第10526586号明細書
【文献】米国特許第10072278号明細書
【文献】米国特許第7662943号明細書
【文献】米国特許第10584338号明細書
【文献】米国特許第10273491号明細書
【文献】韓国登録特許第10-1117022号公報
【文献】韓国登録特許第10-0924065号公報
【文献】国際公開第2008/033001号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【文献】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【文献】"Manual of Methods for General Bacteriology" by the American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)
【文献】Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999
【文献】Sambrook et al, Molecular Cloning, a Laboratory Manual (1989), Cold Spring Harbor Laboratories
【文献】Biotechnology and Bioprocess Engineering, June 2014, Volume 19, Issue 3, pp 456-467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした背景の下、本発明者らは、微生物を用いたL-分枝鎖アミノ酸生産能を向上させるために鋭意努力した結果、微生物の酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A, 以下、RamA)の発現を強化すると、分枝鎖アミノ酸生産能が大幅に向上することを確認し、本出願を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A)の活性が強化されたL-分枝鎖アミノ酸生産微生物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本出願は、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目、36番目、37番目、41番目及び43番目のヌクレオチドから選択される少なくとも1つの位置に相当する位置において、他のヌクレオチドへの置換を有し、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを含むL-分枝鎖アミノ酸生産微生物を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本出願は、前記微生物を培地で培養するステップを含む、L-分枝鎖アミノ酸を生産する方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目、36番目、37番目、41番目及び43番目のヌクレオチドから選択される少なくとも1つのヌクレオチドが他のヌクレオチドに置換された、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本出願のポリヌクレオチドを含む、L-分枝鎖アミノ酸を生産する微生物を培養すると、L-分枝鎖アミノ酸を高効率で生産することができる。
【0012】
また、本出願により製造されたアミノ酸は、動物飼料又は動物飼料添加剤だけでなく、ヒトの食品又は食品添加剤、医薬品など、様々な製品に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本出願をより詳細に説明する。なお、本出願で開示される一態様の説明及び実施形態は、共通事項について他の態様の説明及び実施例にも適用される。また、本出願の詳細な説明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。さらに、以下の具体的な説明に本出願が限定されるものではない。
【0014】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本出願に含まれることが意図されている。
【0015】
本出願の一態様は、酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A)の活性が強化されたL-分枝鎖アミノ酸生産微生物を提供する。
【0016】
本出願における「酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A)」とは、本出願の標的タンパク質であって、酢酸代謝に関する調節タンパク質(regulatory protein)を意味し、ramA遺伝子によりコードされる。
【0017】
本出願において、前記酢酸代謝調節因子Aは、その発現が強化され、その発現強化によりL-分枝鎖アミノ酸生産能の向上がもたらされる。
【0018】
本出願における、酢酸代謝調節因子A活性の「強化」とは、酢酸代謝調節因子Aの活性を内在性活性に比べて向上させることを意味する。前記強化は、活性化(activation)、上方調節(up-regulation)、過剰発現(overexpression)、増加(increase)などと混用される。ここで、活性化、強化、上方調節、過剰発現、増加には、本来なかった活性を示すようになることや、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することが全て含まれる。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前に親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用される。ポリペプチドの活性が内在性活性に比べて「強化」、「上方調節」、「過剰発現」又は「増加」するとは、形質変化の前に親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性及び/又は濃度(発現量)に比べて向上及び/又は増加することを意味する。
【0019】
前記強化は、外来ポリペプチドの導入により達成してもよく、内在性ポリペプチドの活性強化及び/又は濃度(発現量)増加により達成してもよい。前記酢酸代謝調節因子Aの活性が強化されたか否かは、当該ポリペプチドの活性、発現量又は当該ポリペプチドから生産される産物の量の向上/増加により確認することができる。
【0020】
前記酢酸代謝調節因子Aの活性の強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的ポリペプチドの活性を改変前の微生物より強化できるものであれば、いかなるものでもよい。具体的には、分子生物学における通常の方法であって、当該技術分野における通常の知識を有する者に周知の遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を用いたものであるが、これらに限定されるものではない(例えば、非特許文献1、2など)。
【0021】
具体的には、本出願の酢酸代謝調節因子A活性の強化は、1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させること、2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列をポリペプチドの発現を向上させる配列に置換すること、もしくは変異を導入すること、3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変すること、4)ポリペプチドの活性が強化されるように前記ポリペプチドのアミノ酸配列を改変すること、5)ポリペプチドの活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を改変すること(例えば、ポリペプチドの活性が強化されるように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列を改変すること)、6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチド又はそれをコードする外来ポリヌクレオチドを導入すること、7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化すること、8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾すること、又は9)前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせにより行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0022】
より具体的には、前記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させることは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターを宿主細胞内に導入することにより行われる。あるいは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞の染色体に1コピー又は2コピー以上導入することにより行われてもよい。前記染色体への導入は、宿主細胞の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターを宿主細胞内に導入することにより行われるが、これに限定されるものではない。前記ベクターについては後述する。
【0023】
前記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列(又は発現調節領域)をポリペプチドの発現を向上させる配列に置換すること、もしくは変異を導入することは、例えば前記発現調節領域の活性がさらに強化されるように、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、遺伝子の発現調節配列をポリペプチドの発現を向上させる配列に置換することにより行われる。前記発現調節領域には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列、エンハンサーなどが含まれる。上記方法は、具体的には、本来のプロモーターに代えて強力な異種プロモーターを連結するものであるが、これに限定されるものではない。
【0024】
公知の強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(特許文献4)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(特許文献5)、O2プロモーター(特許文献6)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変することは、例えば内在性開始コドンに比べてポリペプチドの発現率が高い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0026】
前記4)及び5)のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を改変することは、ポリペプチドの活性が強化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列又は前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より高い活性を有するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列、又は活性が増加するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列に置換することにより行われるが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記置換は、相同組換えによりポリヌクレオチドを染色体内に挿入することにより行われるが、これに限定されるものではない。ここで、用いられるベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーについては後述する。
【0027】
前記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドを導入することは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより行われる。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列が限定されるものではない。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前述したように導入したポリヌクレオチドが発現することにより、ポリペプチドが生成されてその活性が増加する。
【0028】
前記7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化することは、宿主細胞内で転写又は翻訳が増加するように、内在ポリヌクレオチドのコドンを最適化するか、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化することにより行われる。
【0029】
前記8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾することは、例えば分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が保存されているデータベースと比較し、配列の類似性の程度に応じて鋳型タンパク質候補を決定し、それを基に構造を確認し、改変又は化学的に修飾する露出部分を選択して改変又は修飾することにより行われる。
【0030】
このような酢酸代謝調節因子A活性の強化は、対応するポリペプチドの活性又は濃度(発現量)が野生型や改変前の微生物菌株で発現する酢酸代謝調節因子Aの活性又は濃度に比べて増加するか、当該ポリペプチドから生産される産物の量が増加することにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
より具体的には、本出願における「遺伝子発現調節配列」とは、「遺伝子発現調節領域」ともいい、標的遺伝子を発現させることができるように、それに作動可能に連結された配列を意味し、本出願の変異型ポリヌクレオチドが含まれる。前述したように、本出願の遺伝子発現調節配列とは、遺伝子の転写を行うためのプロモーター、エンハンサーなどを意味し、それ以外にも、転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節するDNAなどがさらに含まれる概念である。
【0032】
本出願の一具体例として、前記遺伝子発現調節配列はプロモーターであるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本出願の一具体例として、プロモーターに変異を導入するか、活性が強いプロモーターに置換することにより酢酸代謝調節因子Aの発現が強化されるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本出願における「プロモーター」とは、標的遺伝子のmRNAへの転写開始活性を有し、ポリメラーゼ(polymerase)に対する結合部位を含む、コード領域の上流(upstream)の翻訳されないヌクレオチド配列、すなわちポリメラーゼが結合して遺伝子の転写を開始させるDNA領域を意味する。前記プロモーターは、mRNA転写開始部位の5’部位に位置する。
【0035】
本出願における「作動可能に連結された(operatively linked)」とは、本出願のプロモーター活性を有するポリヌクレオチドが標的遺伝子の転写を開始及び媒介するように、前記遺伝子配列と機能的に連結されていることを意味する。作動可能な連結は当該技術分野で公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができ、部位特異的DNA切断及び連結は当該技術分野の切断及び連結酵素などを用いて作製することができるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本出願における前記標的遺伝子とは、微生物において発現を調節しようとする標的タンパク質をコードする遺伝子を意味し、具体的には、前記遺伝子は、酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A)をコードする遺伝子であるが、これに限定されるものではない。より具体的には、前記遺伝子はramA遺伝子であるが、これに限定されるものではない。
【0037】
また、前記ramA遺伝子は、内在性遺伝子又は外来遺伝子であってもよく、活性調節のための変異を含むものであってもよい。前記ramA遺伝子の配列は、米国国立衛生研究所のGenBankなどの公知のデータベースから当業者が容易に入手することができる。
【0038】
本出願の他の態様は、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目、36番目、37番目、41番目及び43番目のヌクレオチドから選択される少なくとも1つの位置に相当する位置において、他のヌクレオチドへの置換を有し、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを含むL-分枝鎖アミノ酸生産微生物を提供する。
【0039】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA鎖を意味する。
【0040】
前記「プロモーター」の説明を考慮すると、本出願における「プロモーター活性を有するポリヌクレオチド」は、「変異型ポリヌクレオチド」、「変異型プロモーター」、「変異型ramAプロモーター」などと混用され、本明細書においてはこれらの用語が全て用いられる。
【0041】
ここで、前記「変異」とは、遺伝的又は非遺伝的に安定した表現型の変化を意味し、本明細書において「突然変異」と混用される。
【0042】
具体的には、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、変異を含まないポリヌクレオチドに比べて変異した(向上した)プロモーター活性を有する。よって、本出願の変異型ポリヌクレオチドと作動可能に連結された標的遺伝子であるramA遺伝子の発現、及び前記ramA遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を調節する(向上させる)ことができ、さらに標的遺伝子以外の他の遺伝子の発現を調節することができる。
【0043】
本出願の目的上、前記プロモーター活性を有するポリヌクレオチドとは、アミノ酸、具体的には分枝鎖アミノ酸、より具体的にはロイシン、バリン、イソロイシンを含むアミノ酸の生産又は生産量の増加に関与するタンパク質の発現を増加させることのできるポリヌクレオチドを意味するが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本出願における「配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列」とは、酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A: RamA)をコードする遺伝子のプロモーター配列を意味する。
【0045】
本出願の前記プロモーター活性を有するポリヌクレオチドは、自然由来の配列でないプロモーター活性を有する変異型ポリヌクレオチドであり、作動可能に連結される標的タンパク質の発現を配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列より増大させることができる。
【0046】
具体的には、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列、すなわちramA遺伝子のプロモーター配列が変異したものであってもよく、前記配列の34番目、36番目、37番目、41番目及び43番目のヌクレオチドから選択される少なくとも1つのヌクレオチドが他のヌクレオチドに置換されたものであってもよい。
【0047】
より具体的には、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目のヌクレオチドがTに置換されるか、36番目のヌクレオチドがTに置換されるか、37番目のヌクレオチドがGに置換されるか、41番目のヌクレオチドがTに置換されるか、43番目のヌクレオチドがAに置換されるか、又はそれらの組み合わせを含むが、上記例に限定されるものではない。前記変異により、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号3~5から選択されるいずれかのヌクレオチド配列からなる(consist of)ものであってもよい。
【0048】
一具体例として、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目のヌクレオチドがTに置換され、36番目のヌクレオチドがTに置換され、かつ37番目のヌクレオチドがGに置換されたものであってもよい。ここで、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号5からなるものであってもよい。
【0049】
他の具体例として、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の41番目のヌクレオチドがTに置換され、かつ43番目のヌクレオチドがAに置換されたものであってもよい。ここで、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号4からなるものであってもよい。
【0050】
さらに他の具体例として、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目のヌクレオチドがTに置換され、36番目のヌクレオチドがTに置換され、37番目のヌクレオチドがGに置換され、41番目のヌクレオチドがTに置換され、かつ43番目のヌクレオチドがAに置換されたものであってもよい。ここで、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、配列番号3からなるものであってもよい。
【0051】
本出願のL-分枝鎖アミノ酸生産微生物は、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目のヌクレオチドがTに置換されるか、36番目のヌクレオチドがTに置換されるか、37番目のヌクレオチドがGに置換されるか、41番目のヌクレオチドがTに置換されるか、43番目のヌクレオチドがAに置換されるか、又はそれらの組み合わせを有し、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを含む微生物であってもよい。
【0052】
具体的には、本出願のL-分枝鎖アミノ酸生産微生物は、配列番号3~5から選択されるいずれかのヌクレオチド配列、又はそれと少なくとも80%以上100%未満の配列相同性を有するヌクレオチド配列からなる、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを含む微生物であってもよい。本出願の変異型ポリヌクレオチドに関する詳細な内容については後述する。
【0053】
本出願における「分枝鎖アミノ酸」とは、側鎖に分岐アルキル基を有するアミノ酸を意味し、バリン、ロイシン及びイソロイシンが含まれるものである。具体的には、本出願における前記分枝鎖アミノ酸は、L-分枝鎖アミノ酸であり、前記L-分枝鎖アミノ酸は、L-バリン、L-ロイシン及びL-イソロイシンであるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本出願における、「分枝鎖アミノ酸を生産する微生物」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が弱下又は強化された微生物であって、目的とする分枝鎖アミノ酸の生産のために遺伝的変異を起こすか、活性を強化した微生物であってもよい。本出願における前記「L-分枝鎖アミノ酸を生産する微生物」は、「分枝鎖アミノ酸を生産できる微生物」、「分枝鎖アミノ酸生産能を有する微生物」と混用される。
【0055】
本出願の目的上、前記微生物は、本出願の変異型ポリヌクレオチドを含み、分枝鎖アミノ酸を生産する微生物であればいかなるものでもよい。具体的には、前記分枝鎖アミノ酸を生産する微生物は、前記変異型ポリヌクレオチドを含み、目的とする分枝鎖アミノ酸生産能が向上したことを特徴とする微生物であってもよい。具体的には、本出願における、分枝鎖アミノ酸を生産する微生物、又は分枝鎖アミノ酸生産能を有する微生物は、分枝鎖アミノ酸生合成経路中の遺伝子の一部が強化もしくは弱下された微生物、又は分枝鎖アミノ酸分解経路中の遺伝子の一部が強化もしくは弱下された微生物であるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
一具体例として、本出願における、分枝鎖アミノ酸生産能を有するコリネバクテリウム属微生物とは、本出願の変異型ポリヌクレオチドを含むか、又は本出願のポリヌクレオチドをコードする遺伝子を含むベクターで形質転換されることにより、向上した分枝鎖アミノ酸生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を意味する。前記「向上した分枝鎖アミノ酸生産能を有するコリネバクテリウム属微生物」とは、形質転換前の親株又は非改変微生物に比べて分枝鎖アミノ酸生産能が向上した微生物を意味する。前記「非改変微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、天然菌株自体、本出願のポリヌクレオチドを含まない微生物、又は本出願のポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換されていない微生物を意味する。
【0057】
具体的には、前記コリネバクテリウム属微生物には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)などが含まれるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0058】
本出願のベクターには、好適な宿主内で標的ポリペプチドを発現させることができるように、遺伝物質を保有する人為的DNA分子であり、具体的には標的遺伝子を発現させることのできる、好適な発現調節領域に作動可能に連結された前記標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含むDNA産物が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0059】
本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pDC、pDCM2、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0060】
例えば、細胞内の染色体挿入用ベクターにより、標的ポリヌクレオチドを染色体に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0061】
本出願における「形質転換」とは、標的ポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞又は微生物に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドを発現/機能させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するか、機能するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的ポリペプチドをコードするDNA及び/又はRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入される。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現するが、これに限定されるものではない。
【0062】
本出願のさらに他の態様は、前記微生物を培地で培養するステップを含む、L-分枝鎖アミノ酸を生産する方法を提供する。
【0063】
また、前記L-分枝鎖アミノ酸を生産する方法は、標的物質を前記培地又は微生物から回収又は分離するステップをさらに含んでもよい。
【0064】
前記「ポリヌクレオチド」、「コリネバクテリウム属微生物」、「ベクター」及び「L-分枝鎖アミノ酸」については前述した通りである。
【0065】
本出願における「培養」とは、本出願の微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び/又は流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本出願における「培地」とは、本出願の微生物を培養するために必要な栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質や発育因子などを供給する。具体的には、本出願のコリネバクテリウム属微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられるものであればいかなるものでもよく、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本出願の微生物を培養することができる。
【0067】
具体的には、コリネバクテリウム属微生物の培養培地は、非特許文献3に開示されている。
【0068】
本出願における炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、具体的にはグルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができ、それ以外に、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。これらの構成成分又は前駆体は、培地に回分式又は連続式で添加することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0071】
また、本出願の微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加することにより、培地のpHを調整することができる。さらに、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培地の好気状態を維持するために、培地中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0072】
本出願の培養において、培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃に維持し、約10~160時間培養するが、これらに限定されるものではない。
【0073】
本出願の培養により生産されたL-分枝鎖アミノ酸は、培地中に分泌されるか、又は細胞内に残留する。
【0074】
本出願のL-分枝鎖アミノ酸生産方法は、本出願の微生物を準備するステップ、前記菌株を培養するための培地を準備するステップ、又はそれらの組み合わせ(任意の順序,in any order)を、例えば前記培養するステップの前にさらに含んでもよい。
【0075】
本出願のL-分枝鎖アミノ酸生産方法は、前述したように培養した培地(培養培地)又は本出願の微生物からL-分枝鎖アミノ酸を回収するステップをさらに含んでもよい。前記回収するステップは、前記培養するステップの後にさらに含んでもよい。
【0076】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば回分、連続、流加培養方法などに応じて、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて目的とするL-分枝鎖アミノ酸を回収(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLC、SMB又はそれらの組み合わせが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするL-分枝鎖アミノ酸を回収することができる。
【0077】
また、本出願のL-分枝鎖アミノ酸生産方法は、精製ステップをさらに含んでもよい。前記精製は、当該技術分野で公知の好適な方法により行うことができる。例えば、本出願のL-分枝鎖アミノ酸生産方法が回収ステップと精製ステップの両方を含む場合、前記回収ステップと前記精製ステップは、順序に関係なく連続的又は非継続的に行ってもよく、同時に又は1つのステップとして統合して行ってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0078】
本出願の一態様は、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列の34番目、36番目、37番目、41番目及び43番目のヌクレオチドから選択される少なくとも1つのヌクレオチドが他のヌクレオチドに置換された、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを提供する。
【0079】
前記「ポリヌクレオチド」及び「プロモーター」については前述した通りである。
【0080】
また、本出願の変異型ポリヌクレオチド配列は、従来公知の突然変異誘発法、例えば方向性進化法(direct evolution)や部位特異的突然変異誘発法(site-directed mutagenesis)などにより改変してもよい。
【0081】
よって、本出願の変異型ポリヌクレオチドには、配列番号3のヌクレオチド配列に対して、34番目の配列はTに固定され、36番目の配列はTに固定され、37番目の配列はGに固定され、41番目の配列はTに固定され、43番目の配列はAに固定され、それ以外の配列とは少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性(homology)又は同一性(identity)を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが含まれてもよい。
【0082】
また、本出願の変異型ポリヌクレオチドには、配列番号4のヌクレオチド配列に対して、41番目の配列はTに固定され、43番目の配列はAに固定され、それ以外の配列とは少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性(homology)又は同一性(identity)を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが含まれてもよい。
【0083】
さらに、本出願の変異型ポリヌクレオチドには、配列番号5のヌクレオチド配列に対して、34番目の配列はTに固定され、36番目の配列はTに固定され、37番目の配列はGに固定され、それ以外の配列とは少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性(homology)又は同一性(identity)を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが含まれてもよい。
【0084】
ここで、相同性又は同一性を有するヌクレオチド配列は、上記範疇のうち100%の同一性を有する配列を除くものであってもよく、100%未満の同一性を有する配列であってもよい。
【0085】
前記配列と相同性を有する配列であって、実質的に配列番号3~5から選択されるいずれかのヌクレオチド配列と同一又は相当する生物学的活性を有するポリヌクレオチド配列であれば、34番目、36番目、37番目、41番目又は43番目の位置以外の一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたポリヌクレオチド配列を有するものも本出願に含まれることは言うまでもない。
【0086】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が類似する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0087】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全部又は一部分とハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションには、ポリヌクレオチドにおいて一般のコドン又はコドン縮退を考慮したコドンを有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることは言うまでもない。
【0088】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献4のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献5)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献6)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献7)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献8、9及び10を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0089】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献11に開示されているように、非特許文献6などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義することができる。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献12に開示されているように、非特許文献13の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含んでもよい。
【0090】
また、本出願の変異型ポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は前記ポリヌクレオチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、ポリヌクレオチド配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。さらに、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1のポリヌクレオチド配列において少なくとも1つのヌクレオチドが他のヌクレオチドに置換され、プロモーター活性を有するポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、非特許文献2)に具体的に記載されている。例えば、相同性(homology)もしくは同一性(identity)の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性もしくは同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性もしくは同一性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0091】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0092】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0093】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献14参照)。
【0094】
特に、前記変異型ポリヌクレオチドは、配列番号3~5から選択されるいずれかのヌクレオチド配列、又はそれと少なくとも80%以上100%未満の配列相同性を有するヌクレオチド配列からなる(consist of)という表現は、前記ポリヌクレオチドをプロモーターとして標的遺伝子に連結して用いる場合に、制限酵素の使用のように標的遺伝子に連結する過程中に発生し得るヌクレオチドの追加、削除及び/又は変異などを排除するものではない。
【0095】
例えば、配列番号3~5から選択されるいずれかの配列番号で表されるヌクレオチド配列からなる、プロモーター活性を有する前記ポリヌクレオチドには、配列番号3~5から選択されるいずれかのヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより本出願のプロモーター活性を有するポリヌクレオチド配列も含まれる。
【0096】
本出願の変異型ポリヌクレオチドを含む微生物は、バリン、ロイシン又はイソロイシンを含む分枝鎖アミノ酸の生産量の増加を特徴とする。これは、野生型コリネバクテリウム属菌株が分枝鎖アミノ酸を極微量しか生産できないか、生産できないのに対して、本出願のプロモーター活性を有するポリヌクレオチドにより分枝鎖アミノ酸生産量を増加させることができるということに意義がある。
【0097】
実施例
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0098】
人工変異法による、バリン生産能が向上した変異株の選択
実施例1-1.UV照射による人工突然変異の誘発
代表的な分枝鎖アミノ酸であるバリンの生産能が向上した変異株を選択するために、寒天を含む栄養培地にバリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P(特許文献7)を塗抹し、30℃で36時間培養した。このようにして得られた数百個のコロニーに室温でUVを照射し、菌株のゲノムにランダム突然変異を誘発した。
【0099】
実施例1-2.突然変異誘発菌株の発酵力価評価及び菌株の選択
親株として用いたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに比べてL-バリンの生産能が向上した変異株を選択するために、ランダム突然変異を誘発した菌株を対象に発酵力価実験を行った。各コロニーを栄養培地で継代培養し、その後生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで72時間振盪培養した。その後、HPLCを用いてL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表1に示す。
栄養培地(pH7.2)
グルコース10g,肉汁5g,ポリペプトン10g,塩化ナトリウム2.5g,酵母エキス5g,寒天20g,尿素2g(蒸留水1リットル中)
生産培地(pH7.0)
グルコース100g,硫酸アンモニウム40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,リン酸水素二カリウム1g,硫酸マグネシウム7水塩0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド3mg,炭酸カルシウム30g(蒸留水1リットル中)
【0100】
【0101】
対照群であるKCCM11201P菌株に比べてバリン生産量が最も多く増加したA7菌株を選択した(表1参照)。
【実施例2】
【0102】
遺伝子シーケンシングによる変異の確認
バリン生産能が向上した前記A7菌株の主要遺伝子をシーケンシングし、KCCM11201P菌株及びコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067野生型菌株と比較した。その結果、前記A7菌株は、酢酸代謝調節因子A(regulators of acetate metabolism A, RamA)のプロモーター位置に変異を含むことが確認された。
【0103】
具体的には、A7菌株は、前記ramA遺伝子のプロモーター領域(配列番号1)に変異を含む配列番号2の塩基配列を有することが確認された。
【0104】
以下の実施例においては、前記ramA遺伝子のプロモーター領域の特定位置に挿入した変異による効果と、ramA遺伝子のプロモーターの改良及び置換によるRamA発現強化がコリネバクテリウム属微生物における分枝鎖アミノ酸であるバリン、イソロイシン、ロイシンの生成量に及ぼす影響を確認する。
【実施例3】
【0105】
変異を導入した菌株の作製及びバリン生産能の確認
実施例3-1.コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P菌株へのプロモーター変異の導入及びL-バリン生産能の評価
配列番号2で表されるramA遺伝子プロモーター変異型ポリヌクレオチドをコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに挿入するために、ターゲット変異を含むベクターを作製した。具体的には、前記A7菌株のゲノム(genomic)DNAをG-spin Total DNA抽出ミニキット(Intron社, Cat. No 17045)を用いて、キットのプロトコルに従って抽出した。前記ゲノムDNAを鋳型とし、PCRを行った。PCRの条件は、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で150秒間の重合を25サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。配列番号9及び10を用いて、1114bpのPCR産物(以下、「変異導入断片1」という)を得た。
【0106】
前述したように得られた変異導入断片1を制限酵素XbaI(New England Biolabs, Beverly, MA)で処理し、その後同じ制限酵素で処理したpDZベクター(特許文献8及び9)とT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いてライゲーションした。前述したように作製した遺伝子を大腸菌DH5αに形質転換し、その後それをカナマイシン含有LB培地から選択し、DNA-spinプラスミドDNA精製キット(iNtRON社)によりDNAを得て、変異導入断片1を含むベクターpDZ-Pm-ramAを作製した。
【0107】
【0108】
前記pDZ-Pm-ramAを染色体上での相同組換えによりコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに形質転換した(非特許文献15)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(Kanamycin)25mg/lを含有する培地から選択した。その後、2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号9及び10を用いたPCRにより、染色体上でramA上流領域内(配列番号1)プロモーターに変異が挿入された菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P-Pm-ramAと命名した。
【0109】
バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201PとKCCM11201P-Pm-ramAのバリン生成能を比較するために、フラスコ評価を行った。各菌株を栄養培地で継代培養し、その後生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで72時間振盪培養した。その後、HPLCを用いてL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表3に示す。
栄養培地(pH7.2)
グルコース10g,肉汁5g,ポリペプトン10g,塩化ナトリウム2.5g,酵母エキス5g,寒天20g,尿素2g(蒸留水1リットル中)
生産培地(pH7.0)
グルコース100g,硫酸アンモニウム40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,リン酸水素二カリウム1g,硫酸マグネシウム7水塩0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド3mg,炭酸カルシウム30g(蒸留水1リットル中)
【0110】
【0111】
その結果、KCCM11201P-Pm-ramA菌株のL-バリン生産能は、KCCM11201Pに対して約23%増加することが確認された。
【0112】
実施例3-2.コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P菌株においてプロモーターを改良及び置換した菌株の作製、並びに作製した菌株のL-バリン生産能の評価
実施例3-1の結果から分かるように、ramA遺伝子プロモーター変異によりバリン生産能が向上することが確認されたので、さらにramA発現を増加させるために、配列番号2の変異型プロモーターに基づいて、ramAプロモーターの改良又は置換のためのベクターを作製した。
【0113】
変異を含むベクターを作製するために、5’末端と3’末端にxbaI制限酵素部位を有するように表4のプライマー3(配列番号11)~プライマー10(配列番号18)を合成した。
【0114】
改良されたramAプロモーターをPm1、Pm2、Pm3-ramAと命名し、Pm1-ramAの作製のために、配列番号11と配列番号13のプライマー対、及び配列番号12と配列番号14のプライマー対を用い、Pm2-ramAの作製のために、配列番号11と配列番号15のプライマー対、及び配列番号12と配列番号14のプライマー対を用いた。また、Pm3-ramAの作製のために、配列番号11と配列番号17のプライマー対、及び配列番号12と配列番号18からなるプライマー対を用いた。
【0115】
前述した各プライマーを用いて、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体DNAを鋳型とし、PCR[非特許文献16]を行った。
【0116】
ここで、PCR条件は、95℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
【0117】
次に、前述したように作製してxbaI制限酵素で処理したpDZ-Pm-ramAベクターに、前述したように得られたPCR産物をフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングは、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(Clontech)を用いて行った。大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。PCRにより前記標的遺伝子が挿入されたプラスミドで形質転換されたコロニーを選択し、その後プラスミド抽出法によりプラスミドを得て、最終的にpDZ-Pm1-ramA、pDZ-Pm2-ramA、pDZ-Pm3-ramAと命名した。
【0118】
【0119】
【0120】
また、これとは別に、ramAプロモーターを強いプロモーターであるPcj7に置換するために、5’末端と3’末端にxbaI制限酵素部位を有するように表4のプライマー11(配列番号19)~プライマー16(配列番号24)を合成した。
【0121】
配列番号19と配列番号20のプライマー対、配列番号21と配列番号22のプライマー対、及び配列番号23と配列番号24のプライマー対を用いて、前述した変異ベクターの作製(実施例3-1)と同様の方法でpDZ-Pcj7-ramAベクターを作製した。
【0122】
前記pDZ-Pm1-ramA、pDZ-Pm2-ramA、pDZ-Pm3-ramA、pDZ-Pcj7-ramAを染色体上での相同組換えによりコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに形質転換した(非特許文献15)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(Kanamycin)25mg/lを含有する培地から選択した。その後、2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号9及び10のプライマーを用いたPCRにより、染色体上でramAプロモーターが改良された菌株、及びPcj7プロモーターに置換された菌株を確認した。
【0123】
前記組換え菌株のうち、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P-Pm1-ramA、KCCM11201P-Pm2-ramA、KCCM11201P-Pm3-ramAをそれぞれCA08-1518、CA08-1519、CA08-1520と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms, KCCM)に2020年4月27日付けで寄託番号KCCM12704P、KCCM12705P、KCCM12706Pとして寄託した。
【0124】
また、前記Pcj7プロモーターに置換した菌株をKCCM11201P-Pcj7-ramAと命名した。その後、実施例3-1と同様に、バリン生産能の評価を行った。その結果を表5に示す。
【0125】
【0126】
表5の結果から、KCCM11201P菌株より改良されたプロモーターを含むKCCM11201P-Pm1-ramA(CA08-1518)、KCCM11201P-Pm2-ramA(CA08-1519)及びKCCM11201P-Pm3-ramA(CA08-1520)菌株において、それぞれ約27%、23%、19%のL-バリン生産増加率が確認され、強いプロモーターに置換されたKCCM11201P-Pcj7-ramA菌株と同等又はそれ以上のL-バリン生産能を示すことが確認された。
【0127】
実施例3-3:コリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V菌株においてramA遺伝子プロモーターを改良及び置換した菌株の作製、並びに作製した菌株のL-バリン生産能の評価
L-バリンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においてもL-バリン生産能の向上効果があることを確認するために、野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067に1種の変異[ilvN(A42V);非特許文献17]を導入することにより、L-バリン生産能が向上した菌株を作製した。
【0128】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型であるATCC14067菌株のゲノムDNAをG-spin Total DNA抽出ミニキット(Intron社, Cat. No 17045)を用いて、キットのプロトコルに従って抽出した。前記ゲノムDNAを鋳型とし、PCRを行った。ilvN遺伝子にA42V変異を導入するベクターを作製するために、配列番号25と配列番号26のプライマー対、及び配列番号27と配列番号28のプライマー対を用いて、遺伝子断片A、Bをそれぞれ得た。PCRの条件は、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃の重合を25サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
【0129】
その結果、断片A、Bのどちらも537bpのポリヌクレオチドが得られた。前記2つの断片を鋳型とし、配列番号25及び26を用いてオーバーラップ(Overlapping)PCRを行うことにより、1044bpのPCR産物(以下、「変異導入断片2」という)が得られた。
【0130】
前述したように得られた変異導入断片2を制限酵素XbaI(New England Biolabs, Beverly, MA)で処理し、その後同じ制限酵素で処理したpDZベクターとT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いてライゲーションした。前述したように作製した遺伝子を大腸菌DH5αに形質転換し、その後それをカナマイシン含有LB培地から選択し、DNA-spinプラスミドDNA精製キット(iNtRON社)によりDNAを得た。前記ilvN遺伝子のA42V変異導入を目的とするベクターをpDZ-ilvN(A42V)と命名した。
【0131】
【0132】
その後、前記pDZ-ilvN(A42V)を染色体上での相同組換えにより、野生型であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067に形質転換した(非特許文献15)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/lを含有する培地から選択した。その後、2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号25及び26を用いたPCRにより遺伝子断片を増幅し、次いで遺伝子配列分析により変異挿入菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vと命名した。
【0133】
最後に、前記コリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vを対象に、実施例3-1、3-2と同様にそれぞれのベクターを形質転換させた菌株を作製し、それぞれコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V-Pm1-ramA、CJ7V-Pm2-ramA、CJ7V-Pm3-ramA及びCJ7V-Pcj7-ramAと命名した。作製した菌株のL-バリン生産能を比較するために、実施例3-1と同様に培養してL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表7に示す。
【0134】
【0135】
表7に示すように、改良されたプロモーターを含むCJ7V-Pm1-ramA、CJ7V-Pm2-ramA及びCJ7V-Pm3-ramA菌株において、それぞれ約23%、18%、14%のL-バリン生産増加率が確認され、強いプロモーターに置換された菌株であるCJ7V-Pcj7-ramAと同等又はそれ以上のL-バリン生産能を示すことが確認された。
【0136】
実施例3-4:コリネバクテリウム・グルタミカムCJ8V菌株においてramA遺伝子プロモーターを改良及び置換した菌株の作製、並びに作製した菌株のL-バリン生産能の評価
L-バリンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においてもL-バリン生産能の向上効果があることを確認するために、実施例3-3と同様に野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869に1種の変異[ilvN(A42V)]を導入することにより、L-バリン生産能を有するようになった変異株を作製し、前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vと命名した。
【0137】
最後に、前記コリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vを対象に、実施例3-1、3-2と同様にそれぞれのベクターを形質転換させた菌株を作製し、それぞれコリネバクテリウム・グルタミカムCJ8V-Pm1-ramA、CJ8V-Pm2-ramA、CJ8V-Pm3-ramA及びCJ8V-Pcj7-ramAと命名した。作製した菌株のL-バリン生産能を比較するために、実施例3-1と同様に培養してL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表8に示す。
【0138】
【0139】
表8に示すように、CJ8V菌株より改良されたプロモーターを含むCJ8V-Pm1-ramA、CJ8V-Pm2-ramA及びCJ8V-Pm3-ramA菌株において、それぞれ約21%、16%、10%のL-バリン生産増加率が確認され、強いプロモーターに置換されたCJ8V-Pcj7-ramA菌株と同等又はそれ以上のL-バリン生産能を示すことが確認された。
【実施例4】
【0140】
L-ロイシン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11661P、KCCM11662P菌株におけるプロモーター変異導入株の作製及びL-ロイシン生産能の評価
前記pDZ-Pm1-ramA、pDZ-Pm2-ramA、pDZ-Pm3-ramA、pDZ-Pcj7-ramAを染色体上での相同組換えによりコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11661P、KCCM11662Pに形質転換した(非特許文献15)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(Kanamycin)25mg/lを含有する培地から選択した。その後、2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号9及び10を用いたPCRにより、染色体上でramAプロモーターが改良された菌株、及びPcj7に置換された菌株を確認し、前記組換え菌株をそれぞれコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11661P-Pm1-ramA、KCCM11661P Pm2-ramA、KCCM11661P-Pm3-ramA、KCCM11661P-Pcj7-ramA、KCCM11662P-Pm1-ramA、KCCM11662P Pm2-ramA、KCCM11662P-Pm3-ramA及びKCCM11662P-Pcj7-ramAと命名した。
【0141】
作製した菌株を次の方法で培養し、ロイシン生産能を比較した。
【0142】
各菌株を栄養培地で継代培養し、その後生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで72時間振盪培養した。その後、HPLCを用いてL-ロイシンの濃度を分析した。分析したL-ロイシンの濃度を表9に示す。
<栄養培地(pH7.2)>
グルコース10g,肉汁5g,ポリペプトン10g,塩化ナトリウム2.5g,酵母エキス5g,寒天20g,尿素2g(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース50g,硫酸アンモニウム20g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)20g,リン酸水素二カリウム1g,硫酸マグネシウム7水塩0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,炭酸カルシウム15g(蒸留水1リットル中)
【0143】
【0144】
その結果、改良されたプロモーターを含むKCCM11661P-Pm1-ramA、KCCM11661P Pm2-ramA、KCCM11661P-Pm3-ramA菌株は、KCCM11661Pよりそれぞれ11%、7%、11%のL-ロイシン生産増加率が確認され、強いプロモーターに置換されたKCCM11661P-Pcj7-ramA菌株と同等のL-ロイシン生産能を示すことが確認された。
【0145】
また、改良されたプロモーターを含むKCCM11662P-Pm1-ramA、KCCM11662P Pm2-ramA、KCCM11662P-Pm3-ramA菌株は、KCCM11662Pよりそれぞれ10%、6%、10%のL-ロイシン生産増加率が確認され、強いプロモーターに置換されたKCCM11662P-Pcj7-ramA菌株と同等のL-ロイシン生産能を示すことが確認された。
【実施例5】
【0146】
L-イソロイシン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11248P菌株においてramA遺伝子プロモーターを改良及び置換した菌株の作製、並びにL-イソロイシン生産能の評価
L-イソロイシンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においてもL-イソロイシン生産能の向上効果があることを確認するために、L-イソロイシン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11248P菌株を対象に、実施例3-1、3-2と同様にそれぞれのベクターを形質転換させた菌株を作製し、それぞれコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11248P-Pm-ramA、KCCM11248P-Pm1-ramA、KCCM11248P-Pm2-ramA、KCCM11248P-Pm3-ramA及びKCCM11248P-Pcj7-ramAと命名した。前記KCCM11248P-Pm-ramA、KCCM11248P-Pm1-ramA、KCCM11248P-Pm2-ramA、KCCM11248P-Pm3-ramA及びKCCM11248P-Pcj7-ramA菌株を次の方法で培養してイソロイシン生産能を評価した。
【0147】
種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで48時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,要素1.5g,KH2PO44g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース50g,(NH4)2SO412.5g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KH2PO4 1g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0148】
培養終了後に、HPLCを用いてL-イソロイシンの濃度を測定した。測定したL-イソロイシン濃度を表10に示す。
【0149】
【0150】
その結果、改良されたプロモーターを含むKCCM11248P-Pm1-ramA、KCCM11248P-Pm2-ramA、KCCM11248P-Pm3-ramA菌株は、KCCM11248Pよりそれぞれ39%、32%、18%のL-イソロイシン生産増加率が確認され、強いプロモーターに置換されたKCCM11248P-Pcj7-ramA菌株と同等又はそれ以上のL-イソロイシン生産能を示すことが確認された。
【0151】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0152】
【0153】
【0154】
【配列表】