(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】単結晶カソード材料の簡易エッチング
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240904BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240904BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240904BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2022572506
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021034209
(87)【国際公開番号】W WO2021242831
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-01-19
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505348359
【氏名又は名称】ウスター ポリテクニック インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マ,シャオツー
(72)【発明者】
【氏名】グラツ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】フー,ジンジャオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァナピュティ,パナワン
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536645(JP,A)
【文献】特開2009-289553(JP,A)
【文献】特表2012-517675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
H01M 4/00 - 4/62
C22B 1/00 -61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶性粒子を含む充電材
料を加熱することであって、前記多結晶性粒子が粒界により
画定される、
加熱することと、
前記充電材
料に酸溶液を添加することであって、前記酸溶液が前記酸溶液中の酸のタイプに基づいてあらかじめ決められた比を有する、添加することと、
エッチングされた粒界の除去から生じる単結晶を形成すべく加熱後に残留する粒界をエッチングするために、前記酸溶液と共に前記充電材
料をアジテートすることと、
を含む、二次バッテリー用の充電材料をエッチングする方法。
【請求項2】
前記充電材
料に前記酸溶液を添加する前、前記粒界の少なくとも一部分を増強するために前記充電材
料を加熱することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記充電材
料を加熱すること
により、前記多結晶性粒子の前記粒界を成長させることにより前記多結晶性粒子を融合する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
リチウム含有率をほぼ1.0のモル比に復元するために水酸化リチウム又は炭酸リチウムの少なくとも1つと共に焼結することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
加熱時に失われたリチウムの量を決定することと、
前記充電材料でリチウム
比を1.0モルにするために前記失われたリチウムに適応する追加のリチウム化合物を添加することと、
前記単結晶充電材料における前記リチウム比を復元するために、ほぼ870°~910℃で前記追加のリチウム化合物と共に焼結することと
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記充電材
料の前記多結晶性粒子が、粒界でバインドされたサブ粒子により
画定され、前記単結
晶が、前記粒界での材料のエッチング除去から形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酸溶液と共に前記充電材
料をアジテートすることが、前記エッチングの工程時に100℃に加熱することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記充電材
料を加熱することが、前記酸溶液によ
る後続のエッチングに耐えるように部分的に
画定された粒界の融合をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アジテートすることが、単結晶性粒子を形成すべく前記粒界で前記多結晶性粒子を分離するために加熱から非融合状態で残留する前記粒界をエッチングするための前記酸溶液と共に前記充電材
料を撹拌することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記充電材
料が、使用済みバッテリーのリサイクリングストリームからの多結晶性ニッケルマンガンコバルト(NMC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記充電材
料が、リファインバージン源からの多結晶性ニッケルマンガンコバルト(NMC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱することが、前記充電材料中の異なる充電材料化合物の組成比に基づく温度で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記加熱することが、
前記組成比に基づいて前記充電材
料の多結晶性形態を形成するための温度を同定することと、
前記粒界を増強して、前記多結晶性形態の粒界を成長させることにより前記多結晶性形態の融合又は分離のどちらかが起きるために、前記充電材
料の単結晶形態を形成するために前記同定された温度を超えて上昇した温度で加熱することと、
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記
同定された温度を超えて上昇した前記温
度が、前記
充電材料の多結晶性
形態を形成
するための前記温度を50°~60℃超える範囲内である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記加熱することが、後続のエッチングに応答する増強された粒界を有する多結晶性充電材料を形成するためにほぼ870°~910℃に加熱することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記加熱することが、より明確に
画定された粒界を形成するように又は粒界を一体的に融合するように粒界を増強する、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記酸溶液が、前記エッチングされた粒界から生じる一次粒子を形成するように前記粒界で少なくとも部分的に材料を溶解する、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記酸溶液が希鉱酸溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記酸溶液が、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸、及びヨウ化水素酸からなる群から選択される酸の希溶液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記酸溶液が、0.01~0.10g/mlの範囲を有する塩酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記酸溶液が、0.01~0.10g/mlの範囲を有する硫酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記酸溶液が、0.05~0.15g/mlの範囲を有するリン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記酸溶液が、0.03~0.13g/mlの範囲を有する硝酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
消耗した多結晶性NMC充電材料の
廃棄物ストリームから生じる使用済み材料を受け取ることであって、前記多結晶性NMC充電材料が、炭酸リチウム又は水酸化リチウムの少なくとも1つと共に焼結することから形成されたものである、受け取ることと、
前記
廃棄物ストリームからの前記使用済み材料を700°~950℃で加熱して粒界を成長させることと、
前記使用済み材料を希硫酸中で簡易エッチングしてエッチングされたNMC充電材料を生成することと、
前記エッチングされたNMC充電材料を洗浄及び乾燥することと、
前記廃棄物ストリームから収集された前記多結晶性NMC充電材料のモル比に基づいて、前記エッチングされたNMC充電材料に追加の炭酸リチウムを添加することと、
前記エッチングされたNMC充電材料を前記追加の炭酸リチウムと共に焼結して前記モル比に基づいて単結晶NMC充電材料を生成することと、
を含む、二次バッテリーの廃棄物ストリームから受け取った消耗した多結晶性NMC充電材料から単結晶NMC(ニッケル、マンガンコバルト)充電材料を生成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府からの受託研究開発に関する記述:
本発明は、米国先進バッテリーコンソーシアム(US Advanced Battery Consortium)(USABC)と連携して米国エネルギー省(US Department of Energy)により授与されたDE-EE0006250に基づいて政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に関する一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
背景
Liイオンバッテリー(LIB)は、とくに、LIBを備えている又はそれにより直接駆動される電気車両(EV)及びプラグイン電気車両(PHEV)との関連で、最近何十年にもわたり広く適用されてきた。LIBは、ポータブル電子機器、電気車両、及びグリッドストレージで主パワー源として広く使用されてきた。LIBに対する需要の継続は、そのホストデバイスが有用なライフサイクルの終了に達するにつれてリサイクリングに利用可能な使用済みLIBの絶え間ない流れをもたらすであろう。
【0003】
LIBの広範な使用は、LIBの原料の対応する需要をもたらす。これによりリチウム、コバルト、ニッケルなどのクリティカルメタルの消費が促進され、これらの金属の地質学的埋蔵量全体の需要が喚起される。一方、寿命末期LIBは毎年蓄積する。それゆえ、LIBリサイクリングの世界市場は、実質的に増加すると予測される。さらに、使用済みLIBはニッケルやコバルトなどの重金属を含有するので、それは発癌性及び変異原性物質として分類され、有機電解質はヒトの健康及び環境に有害な影響をもたらす可能性がある。経済及び環境との関わりを考慮すると、使用済みLIBの適正な取扱いは、収益性及び生産性を高める。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
二次バッテリーからの充電材料のリサイクリング及び合成では、より長い充電サイクル寿命を有するバッテリーを製造するために単結晶(SC)充電材料が生成される。充電材料粒子は、融合して多結晶性粒子を生成するために加熱が行われる。得られるより明確に画定された粒界は、相対的に弱い鉱酸溶液により容易にエッチングされる。酸溶液は、粒界の材料を除去して粒界に沿って二次粒子を一次粒子として分離する。得られる単結晶(単結晶性)充電材料粒子は、洗浄及び濾過されるとともに、いずれかの必要とされるリチウムに適応するように典型的には再焼結されて、より大きな表面積、より高いリチウム拡散性、及びより低いカチオン秩序化を有する充電材料をもたらす。
【0005】
層状リチウム遷移金属酸化物LiNixMnyCozO2(x+y+z=l、NMC)は、20世紀に最初に導入されて以来、電子デバイス及び電気車両で使用されてきてきた。商業化に成功したため、NMCを有する膨大な数の使用済みLiイオンバッテリーが毎年発生している。資源的及び環境的観点の両方から、使用済みLiイオンバッテリーのリサイクリングはきわめて重要である。多くのリサイクリングアプローチは、同一の組成、構造、及び類似の電気化学的性能を有する新しいカソード材料の再生に成功している。ここでは、革新的簡易アプローチを適用してエッチングにより多結晶性LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2カソード材料を高性能単結晶LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2カソード材料にアップグレードする。得られる単結晶材料の粒子サイズは、秩序立った結晶性構造を有しておおよそ600~700nmである。単結晶粒子は、多結晶性粒子よりも約10%高い卓越したレート性能及び0.5Cで300サイクル後に容量保持の約85%増強を示す。単結晶カソード材料の改善は、たとえば多結晶性NMC111と比較して、より大きな表面積、1.5倍のリチウム拡散係数、及び50%低いカチオン混合をはじめとする多くの因子が寄与する。
【0006】
本明細書での構成は、部分的には、電気車両及びバッテリー駆動ユーティリティー装置でよく見られるような二次バッテリー(リチャージャブル)が経時的に繰返し充放電サイクルに耐えうるときに利益が得られるという観測に基づく。残念ながら、二次バッテリーの多結晶性カソード充電材料への従来のアプローチは、サイクル容量が繰返し充電によるフェーディングを受けて、カソード材料の劣化及び貯蔵容量の能力低下に伴って全体寿命が低減するとともに、放電サイクルで利用可能な電気エネルギーが低減するという短所を抱える。それゆえ、本明細書での構成は、より長い充電サイクル寿命を有する単結晶充電材料を生成することにより、従来の多結晶性充電材料の以上に記載の短所を実質的に克服する。
【0007】
本開示のアプローチは、さまざまな多結晶性カソード材料に使用されうる。NMCカソード材料は、例として本明細書で利用される。多結晶性NMC材料を有する従来のリチウムイオンバッテリーでは、とりわけNiリッチNMCカソード材料の場合、多結晶性NMC粒子がサイクリング時に容易にクラックを生じて容量フェーディングを加速するので、サイクリング容量は急速にフェードする。そのほか、二次粒子は、表面積が小さく且つリチウム拡散の拡散距離が大きいという欠点を有するので、性能を限定する傾向もある。
【0008】
さらに詳細には、単結晶材料を規定するために二次バッテリー用充電材料をエッチングする本方法は、粒界により画定される多結晶性粒子を含む充電材料を受け取ることと、粒界の少なくとも一部分を増強するために充電材料を加熱することと、を含む。充電材料に弱酸溶液が添加され、酸溶液は、適切な溶解強度を提供するために酸溶液中の酸のタイプに基づいてあらかじめ決められた比を有する。エッチングされた粒界の除去から生じる単結晶を形成するために、酸溶液と共に充電材料をアジテートすることにより、加熱後に残留する粒界をエッチングする。使用可能な単結晶充電材料は、充電材料でリチウム割当て分を1.0モルにするために失われたリチウムに適応する追加のリチウム化合物を添加して、リチウムの比を復元するために添加されたリチウム化合物と共に焼結することにより形成される。
【0009】
図面の簡単な説明
本発明の上記及び他の目的、特徴、及び利点は、さまざまな図全体を通して同じ参照文字が同一部分を参照する添付図面に例示されるように、本発明の特定の実施形態の下記説明から明らかになるであろう。図面は、必ずしも原寸通りとは限らず、その代わりに、本発明の原理を例示することに重点が置かれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本明細書での構成の使用に好適なリサイクリング環境のコンテキスト図である。
【
図2A】本明細書に規定される多結晶材料粒子のSEM(走査電子顕微鏡)画像である。
【
図2B】本明細書に規定される多結晶材料粒子のSEM(走査電子顕微鏡)画像である。
【
図3A】単結晶(単結晶性)充電材料粒子のSEM画像を示す。
【
図3B】単結晶(単結晶性)充電材料粒子のSEM画像を示す。
【
図4】多結晶性充電材料粒子から単結晶材料を形成する模式図を示す。
【
図5A】本来のNMC111充電材料を用いて本明細書に規定される単結晶充電材料のスキャンを示す。
【
図5B】本来のNMC111充電材料を用いて本明細書に規定される単結晶充電材料のスキャンを示す。
【
図5C】本来のNMC111充電材料を用いて本明細書に規定される単結晶充電材料のスキャンを示す。
【
図5D】本来のNMC111充電材料を用いて本明細書に規定される単結晶充電材料のスキャンを示す。
【
図5E】本来のNMC111充電材料を用いて本明細書に規定される単結晶充電材料のスキャンを示す。
【
図5F】本来のNMC111充電材料を用いて本明細書に規定される単結晶充電材料のスキャンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
以下の説明は、バージン調達又はリサイクルカソード材料のどちらかの多結晶性充電材料源からの単結晶充電材料の生成例を提示する。以下の例は、NMC(ニッケル、マンガン、コバルト)バッテリー化学を描くが、他のバッテリー配合物及び比も、本明細書に開示されるアプローチに基づく利益を享受しうる。
【0012】
図1は、本明細書での構成の使用に好適なリサイクリング環境のコンテキスト図である。
図1のフローシーケンス100を参照して、特許請求されたアプローチは、先行技術のバッテリー寿命及び充電容量の問題を克服する。配置されたリチウムイオンバッテリー(LIB)101は、工程102に示されるように、いくつかの充電サイクルを受けて究極的には許容できないほど劣化した性能をもたらす。バッテリーの取外しは、工程104に示されるカソード充電材料110、セパレーター112、及びアノード充電材料114をはじめとする構成材料をもたらす。本明細書での構成は、伝統的カソード粒子を大きな表面積及びより大きなLi拡散係数を有する高性能単結晶粒子にアップグレードする簡易法を提供することにより、サイクル特性さらにはレート特性に優れたリチウム二次バッテリーを構成することを目指す。
【0013】
本明細書でのアプローチの一般的概観は下記を含む。約2~3から約10~15ミクロンまでの粉末形態122として現れるカソード粒子120は、工程106に描かれるように、バッテリー101の物理的粉砕及びアジテーションから生じる。バッテリー101は、リサイクリングストリームを規定するために多結晶性カソード充電材料を利用するが、バージン又は他の形態の多結晶材料もまた、本明細書に開示されるアップグレーディングに基づく利益を享受しうる。特定配置では、1:1:1比のNMC充電材料が利用されるが(NMC111)、いずれの好適な比及び組成物も採用されうる。
【0014】
NMC多結晶性カソード材料122’は、工程130に示されるように、希酸124中に分散されて撹拌される。次いで、得られるエッチングされた粉末132は、濾過され、酸残留物を除去するために脱イオン水で数回洗浄され、そして工程134に示されるようにオーブン中で乾燥される。乾燥粉末132’は、工程136に示されるように、エッチング及び洗浄時の損失を補償するために追加のLi2CO3又はLiOHと混合されて再焼結され、そして得られる単結晶カソード材料150は、工程138に開示される新しいバッテリー構築での使用に好適な粉末となる。
【0015】
図2A及び2Bは、本明細書に規定される充電材料粒子中の粒界のSEM(走査電子顕微鏡)画像である。
図1及び2を参照して、
図2Aは、多結晶性充電材料粒子120を示す。多結晶性粒子120は、明確に
画定された分離の不在下203で一緒にクラスター化されたより小さな一次粒子のアグロメレーション201として現れ、この場合、サブ粒子を分離するラインは、マージ又は消失すると思われる。これとは対照的に、
図2Bは、粒界204を増強及び成長させてサブ粒子210-1、210-2、210-3(一般に210)間に個別の明確に描出された分離を有する本明細書に規定される加熱後の多結晶性粒子を示す。明確に
画定された粒界204は、弱酸によるエッチングに応答して二次サブ粒子210を単結晶一次粒子として分離する。弱酸又は希酸は、以下でさらに考察されるように、粒界204を溶解する。
【0016】
図3A及び3Bは、単結晶(単結晶性)充電材料粒子のSEM画像を示す。
図2A~3Bを参照して、
図3Aでの粒子の各々は、明確に
画定された分離を有する単結晶一次粒子220であり、二次粒子を表す粒界をほとんど又はまったく伴わない。
図3Bは、一次単結晶性粒子220のより大きな拡大図を示す
【0017】
図4は、多結晶性充電材料粒子から単結晶材料を形成する模式図を示す。
図3A、3B、及び4を参照して、多結晶性粒子210は、点線230により示される明確に
画定された粒界及びかすかな境界232を表す粗表面により
画定された突出形状を有する。エッチング後、明確に
画定された粒界230は、エッチング(溶解)除去され、一次粒子220-2の完全分離234をもたらす。かすかな境界232は、エッチング除去されず、一次粒子220-1として残留する。そのため、多結晶性カソード材料210を加熱すると、粒界が増強されてより明確に
画定された粒界204が形成されるか、又は粒界が一体的に融合される。よりかすかな構造又は表面の異常に対しては、充電材料を加熱すると、酸溶液による後続のエッチングに耐えるように部分的に
画定された粒界の融合がもたらされうる。言い換えると、加熱により粒界が増強又はリファインされ、結果的に、後続のエッチングにより粒界204で一次粒子が除去される。
【0018】
図1~4への参照を継続して、多結晶性充電材料から単結晶へのアップグレーディングの完全な実現は、多結晶性粒子を含む充電材
料を受け取ることを含み、多結晶性粒子120は、粒界204により
画定される。エッチング前、初期加熱又は焼結が実施され、充電材
料は、粒界204の少なくとも一部分を増強するために加熱される。
【0019】
本明細書で採用される例では、プロセスに入る充電材料は、使用済みNMCバッテリーのリサイクリングストリームからの多結晶性ニッケルマンガンコバルト(NMC)である。しかしながら、充電材料は、リファインバージン源からのいずれの好適な多結晶性ニッケルマンガンコバルト(NMC)によっても満足されうるとともに、代替的に他のバッテリー化学を含みうる。
【0020】
初期加熱は、充電材料中の異なる充電材料化合物の組成比に基づく。温度は、同一バッテリー化学の多結晶性バージョンが形成される範囲を超えるべきであり、典型的には、多結晶性形成温度を50°~60℃超える範囲内の温度上昇で十分である。充電材料を加熱すると粒界が増強され、多結晶性粒子の粒界が成長することにより多結晶性粒子の融合又は分離のどちらかが起こる。NMC111の例では、加熱することは、後続のエッチングに応答する増強された粒界を有する多結晶性充電材料を形成するためにおおよそ870°~910℃に加熱することを含む。
【0021】
したがって、加熱工程は、組成比に基づいて、充電材料の多結晶性形態を形成するための温度を同定することと、充電材料の単結晶形態を形成するために同定温度を超えて上昇した温度で加熱して、後続のエッチングのために粒界を増強することと、をさらに含む。
【0022】
加熱後、酸溶液が酸溶液中の酸のタイプに基づいてあらかじめ決められた比を有するように、充電材料に酸溶液が添加される。撹拌及び/又は混合は、エッチングされた粒界の
除去から生じる単結晶を形成すべく加熱後に残留する粒界をエッチングするための酸溶液と共に充電材料をアジテートするために、温和な加熱と共に実施される。ほぼ100℃に加熱するとエッチングプロセスが促進される。
【0023】
エッチングのための酸選択は、粒子体又は粒子塊の溶解をほとんど又はまったく伴うことなく粒界をエッチングするために、バランスをとるように努める。相対的希酸又は弱酸溶液は、酸性強度に基づいて選択される。たとえば、前述の酸の多くは、完全又はほぼ完全溶解による充電材料の浸出のために、実質的により大きな濃度で採用されうる。選択される酸は、典型的には、下記:
塩酸HCl
硝酸HNO3
リン酸H3PO4
硫酸H2SO4
ホウ酸H3BO3
フッ化水素酸HF
臭化水素酸HBr
過塩素酸HClO4
ヨウ化水素酸HI
の1つ以上を含む鉱酸である。
【0024】
とくに有益な結果は、下記範囲:
塩酸HCl 0.01~0.10g/ml.
硝酸HNO3 0.03~0.13g/ml.
リン酸H3PO4 0.05~0.15g/ml.
硫酸H2SO4 0.01~0.10g/ml.
に見いだされうる。
【0025】
酸溶液及び強度は、エッチングされた粒界から生じる一次粒子を形成するために粒界で材料を少なくとも部分的に溶解して、粒界204で二次粒子210を効果的に分離するように選択される。
【0026】
混合後、アジテーティングは、単結晶性粒子を形成すべく粒界で多結晶性粒子を分離するために加熱から非融合状態で残留する粒界をエッチングするための酸溶液と共に充電材料を撹拌することをさらに含む。言い換えると、加熱により増強又は成長させた粒界は、この時点では酸溶液によりかなり容易にエッチング及び溶解されうる。
【0027】
単結晶粒子の形成後、エッチングされた充電材料は、濾過され、洗浄され、そして新しい及び/又はリサイクルされたバッテリーでの使用に備えて乾燥される。単結晶性アップグレーディング時、リチウムの小部分は、典型的には加熱及びエッチングに起因して失われる。それゆえ、充電材料で理想的1.0モル比のリチウム含有率を復元するために、通常、少量(約5%)のリチウムが必要とされる。したがって、エッチングされた充電材料は、1.0のモル比のリチウム含有率を復元するために水酸化リチウム又は炭酸リチウムの少なくとも1つと共に焼結される。好適なリチウム化合物は、リサイクリング前に充電材料と共に以前に焼結されたリチウム化合物に基づく。
【0028】
洗浄及び乾燥後、加熱及びエッチング時に失われたリチウムの量が決定される。追加のリチウム化合物は、充電材料でリチウム割当て分を1.0モルにするために失われたリチウムに適応するように添加され、リチウムバランスのとれた充電材料は、リチウムの比を復元するために添加されたリチウム化合物と共にほぼ870°~910℃で焼結される。
【0029】
以上のアプローチのとくに有益な実現は、二次バッテリーの廃棄物ストリームからの消耗した多結晶性NMC充電材料から単結晶NMC(ニッケル、マンガンコバルト)充電材料を生成する方法を提供する。これは、リサイクリングストリームから生じる使用済み材料を受け取って消耗した多結晶性NMC充電材料を収集することを含み、リサイクリング用の多結晶性NMC充電材料は、炭酸リチウム又は水酸化リチウムの少なくとも1つと共に焼結することから以前に形成されたものとする。リサイクリングストリームからのこれらの使用済み充電材料は、以上の
図2~4に示されたように、粒界を成長させるために700°~950℃の範囲内で加熱される。簡易エッチングは、エッチングされたNMC充電材料を生成するように希硫酸を用いて使用済み材料で実施される。この結果として、溶解される粒界でバインドされたサブ粒子により
画定される充電材
料の多結晶性粒子が得られ、粒界での材料のエッチング除去から単結晶性粒子が形成されるようになる。
【0030】
エッチングされたNMC充電材料の洗浄及び乾燥により不純物及び残留物が除去され、充電材料は、加熱及びエッチングで失われたリチウムに起因してリチウムがわずかに枯渇する。それゆえ、廃棄物ストリームから収集された多結晶性NMC充電材料のモル比に基づいて、エッチングされたNMC充電材料に追加の炭酸リチウムが添加される。このことは、NMC充電材料の類似比、たとえば、111、811、622、又は他の好適な比を回復することを意味する。エッチングされたNMC充電材料を添加された炭酸リチウムと共に最終焼結すると、モル比(充電材料に対するリチウムのモル割当て分及び2つの異なる組成因子を互いに規定する構成NMC充電材料の比であることに留意されたい)に基づいて単結晶NMC充電材料が生成される。
【0031】
図5A~5Fは、本来のNMC111充電材料を用いて本明細書に規定される単結晶充電材料のスキャンを示す。
図5A~5Fを参照して、0.1mV/s~1.0mV/sの異なるスキャンレートを用いて本来のNMC111(501,503)及びSC-NMC111(502,504)のCVスペクトルを示す。
図5Aには、アニオニックピーク(
図5B)に対するピーク電流(I
(2/p))及びスキャンレート(ν)間のプロットが示される。
図5Cは、カソーディックピークを示す。
図5Dは、Li拡散係数値(D
Li+)を示す。本来のNMC111の新しいセル対200サイクルのEIS曲線は、
図6Eに示され、
図6Fは、SC-NMC111を示す。
【0032】
Li拡散率を決定するために、2.8~4.6V(対Li/Li
+)の電位を印加したときの0.1mV/s~1.0mV/sの異なるCVスキャンレートを分析する。
図5Aは、両方のサンプルで得られたCV曲線を表示し、
図5B及び5Cは、ピーク電流(I”)及びスキャンレート(ν)間の対応するプロットを例示する。I
(2/P))対νの傾きは、Li拡散に比例し、傾きが急であるほど、Li拡散率は高い。アノーディックピークでは、カソーディックピークと比較して、充電時にLiイオンが構造からより容易に拡散し、放電時にLi層が収縮しリチウム化プロセスでより多くの作用力(電荷移動抵抗の増加)を必要とするので本来のNMC111とSC-NMC111との間に有意でない傾き差が観測される。とりわけ、SC-NMC111は、酸化反応のピークがより高い電圧に存在するので、本来のNMC111と比較してわずかに大きな分極を有する。これは、SC-NMC111の粒子サイズがナノ範囲にあるのに対して本来のNMC111がマイクロ範囲にあることから、電解質に接触するより大きな表面積を生じることに関連する。
【0033】
3.9V付近及び3.7V付近のピークは、それぞれ、Ni(Ni
2+/Ni
4+)及びCo(Co
3+/Co
4+)の酸化及び還元反応を表す。これらの識別可能なアノーディック(酸化)及びカソーディック(還元)ピークは、以下の式(ランドレス・セブシック式)を用いてLi拡散係数(D
Li+)を決定するために使用される。nは、1反応当たりの電子移動数であり(この場合はn=1)、Aは、電極表面積であり(本研究では1.13cm
2)、且つCは、電極上のLiイオンのバルク濃度である。仮定により、すべての電極面積は電解質で飽和され、電極表面積はBETの代わりに使用される。
I
p
2=(2.69*10
5)
2n
3A
2D
Li+νC
以上の式並びに
図5B及び5Cプロットからのピーク電流に従って、D
LI+は、最も速いレートによる1.0mV/sのスキャンレート及び最も顕著なI”に基づいて計算される。本来のNMC111及びSC-NMC111のアノーディックピークのD
LI+(
図5D)は、6.36×10
-10cm
2/s及び6.73×10
-10cm
2/sであり、これに対してカソーディックピークのD
LI+は、それぞれ1.63×10cm/s及び2.38×10cm/s(約1.5倍)である。明らかに、SC-NMC111は、リファインメントデータ及び電気化学的性能に一致してLi
+拡散率を改善する。注目に値する点として、SEM及びTEM画像により支持される表面積の増加によるより大きなアノーディック及びカソーディック分極に起因してSC-NMC111は、本来のNMC111と比較してより幅広いシグナルを有する。
【0034】
電気化学的性能の増加をさらに理解するために、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を研究した。
図5E及び5Fは、サイクル前及び後のSC-NMC111及び本来のNMC111のEISスペクトルを示す(新しいとは、バッテリーをサイクル前に試験したことを意味する)。R
SEIは、SEI層の抵抗であり、且つR
ctは、コインセルシステムでの電荷移動抵抗である。すべての抵抗値は、200サイクルの充放電後に増加する。しかしながら、200サイクル後、SC-NMC111のすべての抵抗値は、本来のNMC111よりも低いことから、SC-NMC111は、より良好な構造安定性を有することが示唆された。また、SC-NMC111の40%低いR
ctは、電極と電解質との間のイオン拡散に対するエネルギー障壁を低減するので、高容量に対する部分的寄与を提供する。発明者は、SC-NMC111の新しいセルのR
SEIが本来のNMC111よりもわずかに大きいことに注目している。これは、粒子表面の接触及び反応の可能性を増大させるSC-NMC111のより小さな粒子サイズに起因しうる。
【0035】
本明細書に規定されるシステム及び方法をそれらの実施形態を参照してとくに示して説明してきたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく本明細書において形態及び細部にさまざまな変更を加えうることは、当業者であれば理解されよう。