(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】電力用半導体素子のゲート駆動装置及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20240904BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240904BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M7/48 S
(21)【出願番号】P 2023561997
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042331
(87)【国際公開番号】W WO2023089711
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】浦壁 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 優介
(72)【発明者】
【氏名】小柳 公之
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 純一
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-204578(JP,A)
【文献】特開昭61-237513(JP,A)
【文献】特開2010-193563(JP,A)
【文献】特開2006-042512(JP,A)
【文献】国際公開第2020/183702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個直列に接続された電力用半導体素子のゲート駆動装置であって、
前記電力用半導体素子の各々に対応して設けられ、ゲート駆動電圧を出力するゲート駆動電圧出力部と、
前記ゲート駆動電圧出力部から出力された前記ゲート駆動電圧を対応する前記電力用半導体素子の各々のゲート端子に供給するゲート線と、
前記ゲート線の各々を互いに磁気結合する磁気結合部と、
前記電力用半導体素子の各々に対応して設けられ、当該電力用半導体素子についての電流流入端子と前記ゲート端子との間に接続されるコンデンサと、
を備える、ゲート駆動装置。
【請求項2】
前記電力用半導体素子についての電流流出端子と前記ゲート端子との間の寄生容量の値をC
1、前記電流流入端子と前記ゲート端子との間の寄生容量の値をC
2としたとき、
前記コンデンサは、
【数1】
を満たす容量値C
xを有する、請求項1に記載のゲート駆動装置。
【請求項3】
前記電力用半導体素子についての電流流出端子と前記ゲート端子との間の寄生容量の値をC
1、前記電流流入端子と前記電流流出端子との間に印加される電圧をV
1、前記ゲート端子と前記電流流出端子との間の最大許容印加電圧をV
maxとしたとき、
前記コンデンサは、
【数2】
を満たす容量値C
xを有する、請求項1または2に記載のゲート駆動装置。
【請求項4】
前記コンデンサの各々は、対応する前記電力用半導体素子に近接して配置される、請求項1~3のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項5】
前記電力用半導体素子の各々は、同一の冷却器によって冷却される、請求項1~4のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項6】
前記電力用半導体素子の電流流入端子は、ドレイン端子、コレクタ端子、またはアノード端子である、請求項1~5のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項7】
前記電力用半導体素子の電流流出端子は、ソース端子、エミッタ端子、またはカソード端子である、請求項1~6のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のゲート駆動装置と、
複数個直列に接続された前記電力用半導体素子と当該電力用半導体素子に対応する前記コンデンサとが設けられたアームを2個有し、前記電力用半導体素子のオンオフ動作に応じて電力変換動作を行う電力変換回路部と、
前記電力変換回路部の電力変換動作を制御する電力変換制御部と、
を備える、電力変換装置。
【請求項9】
前記電力用半導体素子の各々に対応して設けられ、当該電力用半導体素子についての電流流出端子と前記ゲート端子との間に接続されるスイッチをさらに備える、請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電力用半導体素子のオンオフ動作に関する1周期中における前記電力用半導体素子のオフ期間中に、当該オフ期間中にある前記電力用半導体素子が属する前記アームに設けられた前記スイッチのオン期間が少なくとも設けられるよう、前記スイッチのオンオフ動作を制御するスイッチ制御部をさらに備える、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記スイッチのオン期間は、当該スイッチが属する前記アームとは異なる前記アームに設けられた前記電力用半導体素子のオン期間よりも長く、当該スイッチが属する前記アームに設けられた前記電力用半導体素子のオフ期間よりも短い、請求項10に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体素子のゲート駆動装置及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数個直列に接続された電力用半導体素子である半導体スイッチング素子の各々をオンオフするゲート駆動装置として種々のものが提案されている。
【0003】
例えば、複数個直列接続されアームを構成する電圧駆動型半導体素子と、前記各アーム内の複数個の当該電圧駆動型半導体素子各々のゲート端子にゲート信号を供給するゲート駆動回路と、からなる半導体スイッチ回路において、前記ゲート駆動回路と前記各アーム内の各々の電圧駆動型半導体素子のゲート端子とを接続するゲート線を互いに磁気結合させたことを特徴とする直列接続された電圧駆動型半導体素子の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
例えば、電力変換器の各アーム当り複数個直列に接続される電圧駆動型半導体素子をオン・オフ駆動する駆動回路において、前記各電圧駆動型半導体素子のコレクタとゲート間に、等価回路がコンデンサと巻線との直列回路からなり、前記巻線が隣り合う駆動回路間で磁気結合されるバランス回路をそれぞれ接続し、素子電圧のばらつきを抑制することを特徴とする電圧駆動型半導体素子の電圧ばらつき抑制方式が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4396036号公報
【文献】特許第4639687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1(特許第4396036号公報)に記載された発明では、電圧駆動型半導体素子の各々ゲート線を磁気結合させて、電圧駆動型半導体素子がオンまたはオフする際に各ゲート線に流れる電流値が異なれば、その差分に応じてゲート線のインピーダンスを瞬時に変化させることで、各ゲート電流を一致させてスイッチングタイミングのばらつきを抑制させている。しかしながら、特許文献1(特許第4396036号公報)に記載された発明は、電圧駆動型半導体素子の各々のゲート閾値電圧(電圧駆動型半導体素子がオン動作し始めるゲートの電圧)が同一である場合はゲート電圧信号の遅延等によるゲート電圧の時間差を補正しオン動作あるいはオフ動作のスイッチングタイミングを揃える効果はあるものの、ゲート閾値電圧が異なる場合はその効果は小さい。多くの場合、ゲート閾値電圧は電圧駆動型半導体素子によってバラツキがあるので、オン動作及びオフ動作のスイッチングタイミングを揃える効果は乏しく、オン動作時及びオフ動作時における印加電圧の不均衡度が大きくなる。
【0007】
また、特許文献2(特許第4639687号公報)に記載された発明は、電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合にはオン動作あるいはオフ動作のスイッチングタイミングを揃える効果はあるものの、ゲート信号の伝達時間にバラツキがある場合にはオン動作及びオフ動作のスイッチングタイミングを揃える効果は乏しく、オン動作時及びオフ動作時における印加電圧の不均衡度が大きくなる。
【0008】
したがって、複数個直列に接続された電力用半導体素子のゲート駆動装置及びこれを備える電力変換装置においては、ゲート信号の伝達時間や電力用半導体素子の特性にバラツキがあっても、電力用半導体素子の各々のオン動作及びオフ動作についてのスイッチングタイミングを揃え、電力用半導体素子に印加される電圧の不均衡を抑制する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様によれば、複数個直列に接続された電力用半導体素子のゲート駆動装置は、電力用半導体素子の各々に対応して設けられ、ゲート駆動電圧を出力するゲート駆動電圧出力部と、ゲート駆動電圧出力部から出力されたゲート駆動電圧を対応する電力用半導体素子の各々のゲート端子に供給するゲート線と、ゲート線の各々を互いに磁気結合する磁気結合部と、電力用半導体素子の各々に対応して設けられ、当該電力用半導体素子についての電流流入端子とゲート端子との間に接続されるコンデンサと、を備える。
【0010】
ここで、上記ゲート駆動装置において、電力用半導体素子についての電流流出端子とゲート端子との間の寄生容量の値をC1、電流流入端子とゲート端子との間の寄生容量の値をC2としたとき、コンデンサは、Cx/(C1+C2)≧5×10-5を満たす容量値Cxを有してもよい。
【0011】
また、上記ゲート駆動装置において、電力用半導体素子についての電流流出端子とゲート端子との間の寄生容量の値をC1、電流流入端子と電流流出端子との間に印加される電圧をV1、ゲート端子と電流流出端子との間の最大許容で印加電圧をVmaxとしたとき、コンデンサは、Vmax/(V1-Vmax)×C1≧Cxを満たす容量値Cxを有してもよい。
【0012】
また、上記ゲート駆動装置において、コンデンサの各々は、対応する電力用半導体素子に近接して配置されてもよい。
【0013】
また、上記ゲート駆動装置において、電力用半導体素子の各々は、同一の冷却器によって冷却されてもよい。
【0014】
また、上記ゲート駆動装置において、電力用半導体素子の電流流入端子は、ドレイン端子、コレクタ端子、またはアノード端子であってもよい。
【0015】
また、上記ゲート駆動装置において、電力用半導体素子の電流流出端子は、ソース端子、エミッタ端子、またはカソード端子であってもよい。
【0016】
また、本開示の一態様によれば、電力変換装置は、上記ゲート駆動装置と、複数個直列に接続された電力用半導体素子と当該電力用半導体素子に対応するコンデンサとが設けられたアームを2個有し、電力用半導体素子のオンオフ動作に応じて電力変換動作を行う電力変換回路部と、電力変換回路部の電力変換動作を制御する電力変換制御部と、を備える。
【0017】
ここで、上記電力変換装置において、電力用半導体素子の各々に対応して設けられ、当該電力用半導体素子についての電流流出端子とゲート端子との間に接続されるスイッチをさらに備えてもよい。
【0018】
ここで、上記電力変換装置において、電力用半導体素子のオンオフ動作に関する1周期中における電力用半導体素子のオフ期間中に、当該オフ期間中にある電力用半導体素子が属するアームに設けられたスイッチのオン期間が少なくとも設けられるよう、スイッチのオンオフ動作を制御するスイッチ制御部をさらに備えてもよい。
【0019】
ここで、上記電力変換装置において、スイッチのオン期間は、当該スイッチが属するアームとは異なるアームに設けられた電力用半導体素子のオン期間よりも長く、当該スイッチが属するアームに設けられた電力用半導体素子のオフ期間よりも短くてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示の一態様によれば、複数個直列に接続された電力用半導体素子のゲート駆動装置及びこれを備える電力変換装置において、ゲート信号の伝達時間や電力用半導体素子の特性にバラツキがあっても、電力用半導体素子の各々のオン動作及びオフ動作についてのスイッチングタイミングを揃え、電力用半導体素子に印加される電圧の不均衡を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置を示す回路図である。
【
図2】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置における磁気結合部を例示する図である。
【
図3】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置におけるゲート電流の流れ始めの状態を例示する図である。
【
図4】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置において
図3の状態の後に電力用半導体素子Q
Aが電力用半導体素子Q
Bよりも先にオン動作した場合のゲート電流の流れを例示する図である。
【
図5】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置において
図4の状態の後に電力用半導体素子Q
Aが電力用半導体素子Q
Bよりも先にオフ動作した場合のゲート電流の流れを例示する図である。
【
図6】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置を備える電力変換装置を示す図である。
【
図7】
図6に示す電力変換装置内に設けられるアームを示す回路図である。
【
図8A】2つの電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間や2つの電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合におけるオフ動作時の印加電圧の不均衡度の定義を説明する図である。
【
図8B】2つの電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間や2つの電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合におけるオン動作時の印加電圧の不均衡度の定義を説明する図である。
【
図9】電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間にバラツキがある場合における、ゲート線の磁気結合が無い形態、ゲート線の磁気結合がある特許文献1(特許第4396036号公報)による形態、ゲート線の磁気結合及びコンデンサがある特許文献2(特許第4639687号公報)による形態、及び本開示の一実施形態のそれぞれについての不均衡度についてのシミュレーション結果を比較例示する図である。
【
図10】電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合における、ゲート線の磁気結合が無い形態、ゲート線の磁気結合がある特許文献1(特許第4396036号公報)による形態、ゲート線の磁気結合及びコンデンサがある特許文献2(特許第4639687号公報)による形態、及び本開示の一実施形態のそれぞれについての不均衡度についてのシミュレーション結果を比較例示する図である。
【
図11】電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間にバラツキがありなおかつ電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合における、ゲート線の磁気結合が無い形態、ゲート線の磁気結合がある特許文献1(特許第4396036号公報)による形態、ゲート線の磁気結合及びコンデンサがある特許文献2(特許第4639687号公報)による形態、及び本開示の一実施形態のそれぞれについての不均衡度についてのシミュレーション結果を比較例示する図である。
【
図12】MOSFETの寄生容量を説明する回路図である。
【
図13】電力用半導体素子の電流容量と電力用半導体素子の寄生容量との関係を説明する図である。
【
図14】異なる仕様の電力用半導体素子の電流容量と入力容量Cissとの関係を例示する図である。
【
図15】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置により、ゲート閾値電圧が異なる2つの電力用半導体素子を駆動する場合において電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサの容量比C
x
*と印加電圧の不均衡度との関係を示す図である。
【
図16】本開示の一実施形態による3個直列に接続された電力用半導体素子をオンオフ駆動するゲート駆動装置を示す回路図である。
【
図17】本開示の一実施形態において2個直列接続された電力用半導体素子を有するアームにより構成されるレグを示す回路図である。
【
図18A】
図17に示すレグ内の各アームにおける電力用半導体素子への印加電圧を例示する図である。
【
図18B】
図17に示すレグ内の各電力用半導体素子のゲート-ソース間電圧を例示する図である。
【
図19A】本開示の一実施形態の変形例によるゲート駆動装置を示す回路図である。
【
図19B】本開示の一実施形態の変形例によるゲート駆動装置内に設けられるスイッチをMOSFETで構成した場合を示す回路図である。
【
図20】本開示の一実施形態の変形例において2個直列接続された電力用半導体素子を有するアームにより構成されるレグを備える電力変換装置を示す回路図である。
【
図21A】
図20に示す電力変換器内の上アーム内の電力用半導体素子がオンして下アーム内の電力用半導体素子がオフする場合におけるスイッチ制御部の動作を説明する図である。
【
図21B】
図20に示す電力変換器内の上アーム内の電力用半導体素子がオフして下アーム内の電力用半導体素子がオンする場合におけるスイッチ制御部の動作を説明する図である。
【
図22A】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置におけるコンデンサの配置例を示す透過斜視図である。
【
図22B】電力用半導体素子としてIGBTを有するパワーモジュールを例示する斜視図である。
【
図23】本開示の一実施形態によるゲート駆動装置に設けられる冷却器を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面を参照して、電力用半導体素子のゲート駆動装置及び電力変換装置について説明する。各図面において、同様の部材には同様の参照符号が付けられている。また、理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。図示される形態は実施をするための1つの例であり、これらの形態に限定されるものではない。
【0023】
本開示の各実施形態によるゲート駆動装置は、複数個直列に接続された電力用半導体素子をオンオフ駆動する。電力用半導体素子の例としては、MOSFET、IGBT、サイリスタ、GTO、トランジスタなどがある。MOSFETはその端子としてゲート端子、ドレイン端子及びソース端子を有する。IGBTはその端子としてゲート端子、コレクタ端子及びエミッタ端子を有する。トランジスタはその端子としてベース端子、コレクタ端子及びエミッタ端子を有する。サイリスタ及びGTOはその端子としてゲート端子、アノード端子及びカソード端子を有する。電力用半導体素子の「電流流入端子」は、MOSFETの「ドレイン端子」、IGBT及びトランジスタの「コレクタ端子」、サイリスタ及びGTOの「アノード端子」がそれぞれ対応する。電力用半導体素子の「電流流出端子」は、MOSFETの「ソース端子」、IGBT及びトランジスタの「エミッタ端子」、サイリスタ及びGTOの「カソード端子」がそれぞれ対応する。電力用半導体素子の「制御端子」は、MOSFET、IGBT、サイリスタ及びGTOの「ゲート端子」、トランジスタの「ベース端子」がそれぞれ対応する。
【0024】
以下、一例として、電力用半導体素子がMOSFETで構成される場合について説明するが、IGBT、サイリスタ、GTO、あるいはトランジスタであっても本開示の各実施形態は適用可能である。また電力用半導体素子をIGBTで構成する場合は、電流流入端子である「ドレイン」は「コレクタ」に、電流流出端子である「ソース」は「エミッタ」にそれぞれ読み替えられて本開示の各実施形態が適用される。また電力用半導体素子をトランジスタで構成する場合は、制御端子である「ゲート」は「ベース」に、電流流入端子である「ドレイン」は「コレクタ」に、電流流出端子である「ソース」は「エミッタ」にそれぞれ読み替えられて本開示の各実施形態が適用される。また。電力用半導体素子をサイリスタあるいはGTOで構成する場合は、電流流入端子である「ドレイン」は「アノード」に、電流流出端子である「ソース」は「カソード」にそれぞれ読み替えられて本開示の各実施形態が適用される。
【0025】
図1は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置を示す回路図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。
【0026】
本開示の一実施形態によるゲート駆動装置1は、複数個直列に接続された電力用半導体素子をオンオフ駆動するものであるが、ここでは、一例として、2個直列に接続された電力用半導体素子QA及びQBをオンオフ駆動する例について説明する。
【0027】
電力用半導体素子QAにはダイオードDAが逆並列に接続される。同様に、電力用半導体素子QBにはダイオードDBが逆並列に接続される。
【0028】
ゲート駆動装置1は、ゲート駆動電圧出力部11-A及び11-Bと、ゲート線12-A及び12-Bと、磁気結合部13と、コンデンサ14-A及び14-Bとを備える。
【0029】
ゲート駆動電圧出力部11-Aは、電力用半導体素子QAに対応して設けられ、ゲート信号のオン信号に対応する正のゲート駆動電圧(例えば10V)、及びゲート信号のオフ信号に対応する0Vまたは負のゲート駆動電圧を出力する。ゲート駆動電圧出力部11-Bは、電力用半導体素子QBに対応して設けられ、ゲート信号のオン信号に対応する正のゲート駆動電圧(例えば10V)、及びゲート信号のオフ信号に対応する0Vまたは負のゲート駆動電圧を出力する。ゲート駆動電圧出力部11-Aおよび11-Bは、入力されるオンまたはオフ信号を絶縁あるいは電圧レベルを変換して、電力用半導体素子QA、QBに対応したゲート駆動電圧を出力する。なお、説明を簡明なものとするために、これ以降、ゲート信号のオフ信号は0Vのゲート駆動電圧が対応するものとして説明するが、ゲート信号のオフ信号は負のゲート駆動電圧であってもよい。
【0030】
ゲート線12-Aは、ゲート駆動電圧出力部11-Aから出力されたゲート駆動電圧を、対応する電力用半導体素子QAの制御端子であるゲート端子21-Aに供給する。電力用半導体素子QAのゲート端子に正のゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QAはオンし、電力用半導体素子QAのゲート端子に0Vのゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QAはオフする。
【0031】
ゲート線12-Bは、ゲート駆動電圧出力部11-Bから出力されたゲート駆動電圧を、対応する電力用半導体素子QBの制御端子であるゲート端子21-Bに供給する。電力用半導体素子QBのゲート端子に正のゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QBはオンし、電力用半導体素子QBのゲート端子に0Vのゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QBはオフする。
【0032】
磁気結合部13は、ゲート線12-Aとゲート線12-Bとを磁気結合する。
図2は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置における磁気結合部を例示する図である。磁気結合部13は、磁性体30を有する。磁性体30には、ゲート線12-A及び12-Bが巻き付けられる。例えば、
図2に示すようにゲート電流Ig
1が流れると、磁性体30に磁束Φ1が発生してゲート線12-Bを横切る。同様に、ゲート電流Ig
2が流れると磁性体30に磁束Φ2が発生してゲート線12-Aを横切る。これによってゲート線12-Aとゲート線12-Bが磁気結合される。磁性体30へのゲート線12-Aの巻数N
1と磁性体30へのゲート線12-Bの巻数N
2を同じとして、ゲート電流Ig
1とゲート電流Ig
2とが等しいときに|Φ1|=|Φ2|となるようにし、ゲート電流Ig
1とゲート電流Ig
2とが逆極性のときにΦ1とΦ2とが逆極性となるようにする。
【0033】
例えば電力用半導体素子QAと電力用半導体素子QBとのオフ動作のタイミングが揃わず電力用半導体素子QAが電力用半導体素子QBよりも先にオフ動作をした場合、ゲート電流Ig1がゲート電流Ig2よりも先に流れ出したときに磁束Φ1と磁束Φ2とは等しくはならないため、磁性体30には|Φ1-Φ2|の磁束が発生し、磁気結合する。このときゲート線12-AにはインダクタンスL1が発生しゲート線12-BにはインダクタンスL2が発生し、これらインダクタンスL1及びL2は|Φ1-Φ2|に比例する。ゲート電流Ig1とゲート電流Ig2とのアンバランス分が大きいほど、インダクタンスL1と及びL2も大きくなる。また、インダクタンスL1及びL2が増加するほど、ゲート線12-A及び12-Bのインピーダンスが増加するため、ゲート電流Ig1及びIg2が流れにくくなる。これにより、ゲート電流Ig1とゲート電流Ig2とのアンバランス分に応じてゲート線12-A及び12-Bのインピーダンスが変化し、ゲート電流Ig1とゲート電流Ig2とが一致するように動作させることができる。
【0034】
このように磁気結合部13には、電力用半導体素子QAと電力用半導体素子QBとのオフ動作のタイミングが揃わなくてもゲート電流Ig1とゲート電流Ig2とが一致するように動作させる機能があるが、本開示の実施形態では、コンデンサ14-A及び14-Bを電力用半導体素子QA及びQBに対応して設けることにより、電力用半導体素子QA及びQBに対するゲート信号の伝達時間や2つの電力用半導体素子QA及びQBの特性にバラツキがあったとしても電力用半導体素子QAと電力用半導体素子QBとのオンオフ動作のタイミングのずれをより確実に補正する。
【0035】
コンデンサ14-Aは、電力用半導体素子QAに対応して設けられ、当該電力用半導体素子QAについての電流流入端子であるドレイン端子22-Aと制御端子であるゲート端子21-Aとの間に接続される。コンデンサ14-Bは、電力用半導体素子QBに対応して設けられ、当該電力用半導体素子QBについての電流流入端子であるドレイン端子22-Bと制御端子であるゲート端子21-Bとの間に接続される。
【0036】
ここで、一例として、電力用半導体素子Q
Aが電力用半導体素子Q
Bよりも早くオンオフの動作をしたときの磁気結合部13並びにコンデンサ14-A及び14-Bを介した電流の流れについて、
図3~
図5を参照して説明する。
【0037】
図3は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置におけるゲート電流の流れ始めの状態を例示する図であり、
図4は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置において
図3の状態の後に電力用半導体素子Q
Aが電力用半導体素子Q
Bよりも先にオン動作した場合のゲート電流の流れを例示する図であり、
図5は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置において
図4の状態の後に電力用半導体素子Q
Aが電力用半導体素子Q
Bよりも先にオフ動作した場合のゲート電流の流れを例示する図である。
【0038】
図3に示すように、例えばゲート駆動電圧出力部11-Aがゲート駆動電圧出力部11-Bよりも先にオンのゲート信号である正のゲート駆動電圧を出力すると、ゲート駆動電圧出力部11-Aから出力された電流I
A1が磁気結合部13に流れることで電流I
B1が誘発される。電流I
A1により電力用半導体素子Q
Aのゲート端子21-Aに正のゲート駆動電圧が印加されて電力用半導体素子Q
Aがオンし、
図4に示すようにコンデンサ14-Aを介して電流I
A2が流れて磁気結合部13により電流I
B2がさらに誘発され、この電流I
B2により電力用半導体素子Q
Bのゲート端子21-Bに正のゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子Q
Bのオン動作が電力用半導体素子Q
Aの動作と揃うようにアシストされる。その後、ゲート駆動電圧出力部11-Aがゲート駆動電圧出力部11-Bよりも先にオフのゲート信号である0Vのゲート駆動電圧を出力すると、ゲート端子21-Aからゲート駆動電圧出力部11-Aに向かって流れる電流が磁気結合部13に流れることで電流が誘発される。電力用半導体素子Q
Aのゲート端子21-Aの電圧は0Vになって電力用半導体素子Q
Aはオフし、
図5に示すように電力用半導体素子Q
Aのドレイン端子からコンデンサ14-Aを経由して磁気結合部13に電流I
A3が流れ、この電流I
Aにより電流I
B3がさらに誘発されて電力用半導体素子Q
Bのゲート端子21-Bの電圧は0Vになることで電力用半導体素子Q
Bのオフ動作が電力用半導体素子Q
Aの動作と揃うようにアシストされる。
【0039】
上述のゲート駆動装置1は、複数個直列に接続された電力用半導体素子が設けられたアームが複数個直列に接続されて構成される電力変換装置においても、電力用半導体素子をオンオフ駆動することができる。
【0040】
図6は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置を備える電力変換装置を示す図である。また、
図7は、
図6に示す電力変換装置内に設けられるアームを示す回路図である。ここでは、一例として、2個直列接続された電力用半導体素子Q
A及びQ
Bにてアーム50を構成する例について説明する。
【0041】
本開示の一実施形態による電力変換装置100は、上述のゲート駆動装置1と、複数個直列に接続された電力用半導体素子と当該電力用半導体素子に対応するコンデンサとが設けられたアーム50を4個有し、電力用半導体素子のオンオフ動作に応じて電力変換動作を行う電力変換回路部2と、電力変換回路部2の電力変換動作を制御する電力変換制御部3と、を備える。
【0042】
図7に示すように、アーム50は、例えば2個直列接続された電力用半導体素子Q
A及びQ
Bと、電力用半導体素子Q
A及びQ
B の各々に対応するコンデンサ14-A及び14-Bとで構成される。電力用半導体素子Q
Aのドレイン端子22-Aとゲート端子21-Aとの間にコンデンサ14-Aが接続される。電力用半導体素子Q
Bのドレイン端子22-Bとゲート端子21-Bとの間にコンデンサ14-Bが接続される。電力用半導体素子Q
Aのドレイン端子からは端子P
1が引き出され、電力用半導体素子Q
Bのソース端子からは端子P
2が引き出されている。電力変換回路部2は、あるアーム50の端子P
2が他のアーム50の端子P
1に接続され、その接続点は負荷300の一方の端子に接続されている。
図6に示す例では、2個のアーム50が直列に接続されて1個のレグ60を構成し、2個のレグ60で電力変換回路部2が構成される。
【0043】
直列に接続されたアーム50で構成されるレグ60には、直流電源200が接続される。また、レグ60内の直列に接続されたアーム50の間にある端子T1ともう一方のレグ60内の直列に接続されたアーム50の間にある端子T2との間には、負荷300が接続される。
【0044】
アーム50に対応して、ゲート駆動装置1が設けられる。各アーム50内の電力用半導体素子QAと電力用半導体素子QBは、対応するゲート駆動装置1によってオンオフ駆動される。すなわち、ゲート駆動電圧出力部11-A及びゲート駆動電圧出力部11-Bは、ゲート駆動電圧をそれぞれ生成し、電力用半導体素子QA及びQBのゲート端子への印加電圧を制御する。
【0045】
電力変換制御部3は、各ゲート駆動装置1内のゲート駆動電圧出力部11-A及び11-Bから出力されるゲート駆動電圧の大きさを制御するものである。すなわち、電力変換制御部3は、例えば正側端子T1から負荷300へ流れる電流の検出値iと制御目標値である電流指令i*との偏差がなくなるように、各ゲート駆動装置1内のゲート駆動電圧出力部11-A及び11-Bから正のゲート駆動電圧(例えば10V)または0Vのゲート駆動電圧を出力するよう制御するためのゲート指令信号を生成する。生成されたゲート指令信号はゲート駆動電圧出力部11-A及び11-Bへ送信される。これを受けてゲート駆動電圧出力部11-A及び11-Bは、ゲート信号のオン信号に対応する正のゲート駆動電圧(例えば10V)、及びゲート信号のオフ信号に対応する0Vのゲート駆動電圧を電力用半導体素子QA及びQBのゲート端子へ出力する。ゲート端子に印加されるゲート駆動電圧の大きさに応じて電力用半導体素子QA及びQBはオン動作及びオフ動作を行う。これにより、電力変換回路部2は、直流電源200から供給される直流電力を所望の電力に変換して負荷300へ供給する電力変換動作を行うことになる。
【0046】
電力変換装置100内には演算処理装置(プロセッサ)が設けられる。この演算処理装置は、電力変換制御部3及び後述するスイッチ制御部4を有する。演算処理装置が有する電力変換制御部3及びスイッチ制御部4は、例えば、プロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。例えば、電力変換制御部3をコンピュータプログラム形式で構築する場合は、演算処理装置をこのコンピュータプログラムに従って動作させることで、当該機能を実現することができる。電力変換制御部3及びスイッチ制御部4の処理を実行するためのコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録された形で提供されてもよい。またあるいは、電力変換制御部3及びスイッチ制御部4を、当該機能を実現するコンピュータプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。
【0047】
続いて、各電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間や各電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合におけるオン動作時及びオフ動作時の印加電圧の不均衡度について説明する。
【0048】
図8Aは、2つの電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間や2つの電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合におけるオフ動作時の印加電圧の不均衡度の定義を説明する図であり、
図8Bは、2つの電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間や2つの電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合におけるオン動作時の印加電圧の不均衡度の定義を説明する図である。
【0049】
図8Aに示すように、電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのオフ時における現象として、電力用半導体素子Q
Aのゲート電位を正のある電位から負のある電位にしたときに電力用半導体素子Q
Aのドレイン-ソース間電圧が0[V]からVds
A[V]になり、電力用半導体素子Q
Bのゲート電位を正のある電位から負のある電位にしたときに電力用半導体素子Q
Bのドレイン-ソース間電圧が0[V]からVds
B[V]になったとする。このとき、オフ動作時の印加電圧の不均衡度をΔVds
off[%]を式1のように定義する。
【0050】
【0051】
また、
図8Bに示すように、電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのゲート電位の負のある電位のときの電力用半導体素子Q
A及びQ
Bがオフ状態のドレイン-ソース間電圧の平均値をVds
ave[V]とし、電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのゲート電位を負のある電位から正のある電位にして電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのオンした時に発生するいずれか一方の電力用半導体素子のドレイン-ソース間電圧の跳ね上がりである最大上昇電圧とVds
ave[V]との差をVp[V]としたとき、オン動作時の印加電圧の不均衡度をΔVds
on[%]を式2のように定義する。
【0052】
【0053】
ここで、ゲート線の磁気結合が無い場合、特許文献1(特許第4396036号公報)におけるゲート線の磁気結合がある場合、特許文献2(特許第4639687号公報)におけるゲート線の磁気結合及びコンデンサがある場合、及び本開示の一実施形態のそれぞれについての不均衡度を、
図9~
図11に示すシミュレーションにて比較検討する。3.3kV耐圧のSiC-MOSFET電力用半導体素子Q
A及びQ
Bを直列に接続した場合に3.6kVの電圧を印加したとき750Aの電流が流れたものとしてシミュレーションを行った。また、シミュレーションでは、磁気結合部を構成するトランスの1次インダクタンス及び2次インダクタンスの各値を70μHとし、当該トランスの結合係数kを0.97とし、特許文献2(特許第4639687号公報)及び本開示の一実施形態において設けられるコンデンサの容量値C
xを220pFとしている。
【0054】
図9は、電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間にバラツキがある場合における、ゲート線の磁気結合が無い形態、ゲート線の磁気結合がある特許文献1(特許第4396036号公報)による形態、ゲート線の磁気結合及びコンデンサがある特許文献2(特許第4639687号公報)による形態、及び本開示の一実施形態のそれぞれについての不均衡度についてのシミュレーション結果を比較例示する図である。
【0055】
図9では、電力用半導体素子Q
Aに対するゲート信号のオン信号が電力用半導体素子Q
Bに対するゲート信号のオン信号よりも250ns早く出力され、電力用半導体素子Q
Aに対するゲート信号のオフ信号が電力用半導体素子Q
Bに対するゲート信号のオフ信号よりも250ns早く出力されたものとしてシミュレーションを行った。
図9に示すように、電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間にバラツキがある場合は、本開示の一実施形態が、電力用半導体素子Q
Aと電力用半導体素子Q
Bとでオン動作のタイミング及びオフ動作のタイミングを揃える効果が最も高いことが分かる。
【0056】
図10は、電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合における、ゲート線の磁気結合が無い形態、ゲート線の磁気結合がある特許文献1(特許第4396036号公報)による形態、ゲート線の磁気結合及びコンデンサがある特許文献2(特許第4639687号公報)による形態、及び本開示の一実施形態のそれぞれについての不均衡度についてのシミュレーション結果を比較例示する図である。
【0057】
図10では、電力用半導体素子Q
Aが第1のゲート閾値電圧V
thAを有し、電力用半導体素子Q
Bが第1のゲート閾値電圧よりも高い第2のゲート閾値電圧V
thBを有する場合(すなわちV
thA<V
thBである場合)についてシミュレーションを行った。
図10に示すように、電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合は、本開示の一実施形態が、電力用半導体素子Q
Aと電力用半導体素子Q
Bとでオン動作のタイミング及びオフ動作のタイミングを揃える効果が最も高いことが分かる。
【0058】
図11は、電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間にバラツキがありなおかつ電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合における、ゲート線の磁気結合が無い形態、ゲート線の磁気結合がある特許文献1(特許第4396036号公報)による形態、ゲート線の磁気結合及びコンデンサがある特許文献2(特許第4639687号公報)による形態、及び本開示の一実施形態のそれぞれについての不均衡度についてのシミュレーション結果を比較例示する図である。
【0059】
図11では、電力用半導体素子Q
Aが第1のゲート閾値電圧V
thAを有し、電力用半導体素子Q
Bが第1のゲート閾値電圧よりも高い第2のゲート閾値電圧V
thBを有する場合(すなわちV
thA<V
thBである場合)において、電力用半導体素子Q
Bに対するゲート信号のオン信号が電力用半導体素子Q
Aに対するゲート信号のオン信号よりも250ns早く出力され、電力用半導体素子Q
Bに対するゲート信号のオフ信号が電力用半導体素子Q
Aに対するゲート信号のオフ信号よりも250ns早く出力されたものとしてシミュレーションを行った。
図11に示すように、電力用半導体素子に対するゲート信号の伝達時間にバラツキがありなおかつ電力用半導体素子の特性にバラツキがある場合は、本開示の一実施形態が、電力用半導体素子Q
Aと電力用半導体素子Q
Bとでオン動作のタイミング及びオフ動作のタイミングを揃える効果が最も高いことが分かる。
【0060】
このように、本開示の一実施形態によれば、複数個直列に接続された電力用半導体素子のゲート駆動装置及びこれを備える電力変換装置において、ゲート信号の伝達時間や電力用半導体素子の特性にバラツキがあっても、電力用半導体素子の各々のオン動作及びオフ動作についてのスイッチングタイミングを揃え、電力用半導体素子に印加される電圧の不均衡を抑制することができる。
【0061】
続いて、本開示の一実施形態において電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサについて、より詳細に説明する。
【0062】
図12は、MOSFETの寄生容量を説明する回路図である。一般に、電力用半導体素子の各端子間には寄生容量が存在する。
図12に示すように、例えばMOSFETにおいては、ソース端子とゲート端子との間に寄生容量C
gsが存在し、ドレイン端子とゲート端子との間に寄生容量C
dgが存在し、ドレイン端子とソース端子との間に寄生容量C
dsが存在する。
【0063】
図13は、電力用半導体素子の電流容量と電力用半導体素子の寄生容量との関係を説明する図である。一般に、電力用半導体素子は、電流容量や耐電圧に応じて寄生容量が変化する。すなわち、電力用半導体素子の電流容量が増大すると、電力用半導体素子の半導体チップ面積は増大するので、寄生容量の値は大きくなる。例えば、電力用半導体素子の電流容量が「1」であるときの寄生容量の値を「1」としたとき、電力用半導体素子の電流容量がその4倍となると半導体チップ面積は4倍になるので寄生容量の値も4倍になる。
【0064】
電力用半導体素子であるMOSFETのドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値をCx[F]とする。MOSFETのドレイン端子とソース端子との間に印加されるドレイン-ソース間電圧Vds[V]は分圧され、ゲート端子とのソース端子との間に式3に示すようなゲート-ソース間電圧Vgs1[V]が現れる。
【0065】
【0066】
MOSFETのドレイン-ソース間電圧Vds[V]が大きい場合(例えば1800V)、ドレイン端子とゲート端子との間の寄生容量の値Cdg[F]はCx[F]と比較して小さい値となり、ドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値Cx[F]は、ゲート-ソース間電圧Vgs1[V]に影響を与える程度の大きさが必要であるため、式3の分子における値Cdg[F]を無視する。ゲート端子とソース端子との間の寄生容量の値Cgs[F]は、ドレイン端子とゲート端子との間の寄生容量の値Cdg[F]及びドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値Cx[F]と比較して大きな値となるため、式3の分母における値Cdg[F]及びCx[F]は無視できる。一方で、ゲート端子とソース端子との間の寄生容量の値Cgs[F]とドレイン端子とゲート端子との間の寄生容量の値Cdg[F]との和は、一般にMOSFETのデータシートに規定される入力容量Ciss[F]に相当することから、式3の分母は、ドレイン端子とゲート端子との間の寄生容量の値Cdg[F]とゲート端子とソース端子との間の寄生容量の値Cgs[F]との和とする。ゲート-ソース間電圧Vgs[V]は、ドレインーソース間電圧Vds[V]の変化に従い影響を受ける。その影響の度合いは、式3に示すMOSFETの寄生容量の値とドレイン端子とゲート端子との間に設けられたコンデンサの容量値Cx[V]との比で決まる。したがって、本開示の実施形態では、式3に準じて、MOSFETのドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値Cx[F]は式4で表される値Cx
*(以下、「容量比Cx
*」と称する。)に一般化する。
【0067】
【0068】
MOSFETのドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値Cx[F]を式4に示すように一般化された容量比Cx
*で表すことで、直列接続されたMOSFETのオンオフ動作において、MOSFETの仕様が様々であっても、印加電圧の不均衡度ΔVdsoffまたはΔVdsonとドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値Cx[F]との関係を一意的に示すことができる。
【0069】
図14は、異なる仕様の電力用半導体素子の電流容量と入力容量Cissとの関係を例示する図である。
図14では、参考として、1.2kV-SiCダイオード/SiC-MOSFET及び1.2kV-SiCダイオード/Si-IGBTパワーモジュールの各々の電流容量とC
iss(IGBTの場合は入力容量C
ies)との関係を示している。MOSFETの電流容量に比例してC
issの値が変化することがわかる。電流容量の仕様によってC
issの値が異なることから、電流容量仕様の異なるMOSFETは、好適なドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値C
x[F]が異なる。しかし、一般化された容量比C
x
*で表すことで、電流容量値が違うMOSFETの印加電圧の不均衡度ΔVds
offまたはΔVds
onとドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの容量値C
x[F]との関係を統一して表すことができる。
【0070】
ここで、本開示の一実施形態において電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサの容量値の好適な範囲について説明する。
【0071】
まず、電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサの容量値の下限値について、MOSFETを例にとり説明する。
【0072】
図15は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置により、ゲート閾値電圧が異なる2つの電力用半導体素子を駆動する場合において電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサの容量比C
x
*と印加電圧の不均衡度との関係を示す図である。なお、
図15では、3.3kVSiCのMOSFETパワーモジュールに対応して設けられるコンデンサの容量比C
x
*に当該コンデンサの容量の値C
x[pF]を併記している。
【0073】
図15より、コンデンサの容量比C
x
*を大きくすればするほどオフ動作時の印加電圧の不均衡度ΔVds
offを抑制することができ、コンデンサの容量比C
x
*が5×10
-5以上からその効果は顕著になることがわかる。よって、本開示の実施形態では、例えば式5で表されるように、印加電圧の不均衡度の抑制の顕著な効果(例えば10%以上改善)を発揮するコンデンサの容量比C
x
*の下限値を5×10
-5に定めてもよい。
【0074】
【0075】
これをコンデンサの容量値Cx[pF]に換算すると、例えば、3.3kVSiCのMOSFETパワーモジュールの場合のコンデンサの容量値Cxは10pF以上、1.2kVSiCのMOSFETパワーモジュール(入力容量Cissが34nF)の場合のCxは1.7pF以上に設定することで、ゲート線の磁気結合が無い従来の形態に比べて10%以上、印加電圧の不均衡度を改善することができる。
【0076】
続いて、電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサの容量値の上限値について、MOSFETを例にとり説明する。
【0077】
MOSFETのドレイン-ソース間電圧Vds[V]が印加されている状態において、ゲート端子が不定(開放状態)になってしまった場合、ゲート端子には式6に示すような電圧Vgs2[V]が印加される。
【0078】
【0079】
一般に、MOSFETのデータシートには、ゲート-ソース間電圧Vgs[V]が過電圧になることで故障を発生させないために上限値Vgsmaxが定められている。この上限値Vgsmaxを式6のVgs2に設定すると式7が導き出せる。
【0080】
【0081】
ドレイン-ソース間電圧Vds[V]が高い領域においてCdg[F]は小さく、無視できるとし、式7をコンデンサの容量値Cx[F]について解くと式8が得られる。
【0082】
【0083】
このようにコンデンサの容量値Cx[F]については式8で示されるような上限値が存在する。
【0084】
例えば、ゲート駆動装置1で駆動する電力用半導体素子を3.3kV/750A-AllSiCのMOSFETパワーモジュールで構成する場合、Vgsmax=20V、Vds=1650V(=3.3kV/2)、Cgs=200nF(1.65kV)とすると、当該MOSFETに対応して設けられるコンデンサの上限値は2.45nFとなる。
【0085】
また例えば、ゲート駆動装置1で駆動する電力用半導体素子を1.2kV/400A-AllSiCのMOSFETパワーモジュールで構成する場合、Vgsmax=20V、Vds=600V(=1.2kV/2)、Cgs=32nF(600V)とすると、当該MOSFETに対応して設けられるコンデンサの上限値は 1.10nFとなる。
【0086】
このように、本開示の一実施形態においてMOSFETに対応して設けられるコンデンサの容量値Cx[F]については、式5を満たすような下限値が存在し、式8を満たすような上限値が存在する。IGBT、サイリスタ、GTO、トランジスタについてもMOSFETと同様に、各端子間に寄生容量が存在する。よって、電力用半導体素子がIGBT、サイリスタ、GTO、あるいはトランジスタで構成される場合であっても、当該電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサの容量値についてはMOSFETと同様に下限値及び上限値が存在する。
【0087】
MOSFETについて規定した式5を一般化すると式9となり、MOSFETについて規定した式8を一般化すると式10となる。式9及び式10において、電力用半導体素子についての電流流出端子とゲート端子との間の寄生容量の値をC1[F](MOSFETのCgs[F]が対応)とし、電流流入端子とゲート端子との間の寄生容量の値をC2[F](MOSFETのCdg[F]が対応)とし、電流流入端子と電流流出端子との間に印加される電圧をV1[V](MOSFETのVds[V]が対応)とし、ゲート端子と電流流出端子との間の最大許容印加電圧をVmax[V](MOSFETのVgsmax[V]が対応)としている。
【0088】
【0089】
【0090】
このように、本開示の一実施形態において電力用半導体素子に対応して設けられるコンデンサの容量値Cx[F]については、式9を満たすような下限値が存在し、式10を満たすような上限値が存在する。
【0091】
以上の通り、2個直列に接続された電力用半導体素子をオンオフ駆動する例について説明したが、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置1は、3個以上直列に接続された電力用半導体素子であってもオンオフ駆動することができる。
【0092】
図16は、本開示の一実施形態による3個直列に接続された電力用半導体素子をオンオフ駆動するゲート駆動装置を示す回路図である。一例として、3個直列に接続された電力用半導体素子Q
A、Q
B及びQ
Cをオンオフ駆動する例について説明する。
【0093】
電力用半導体素子QAにはダイオードDAが逆並列に接続される。同様に、電力用半導体素子QBにはダイオードDBが逆並列に接続され、電力用半導体素子QCにはダイオードDCが逆並列に接続される。
【0094】
ゲート駆動装置1は、ゲート駆動電圧出力部11-A、11-B及び11-Cと、ゲート線12-A、12-B及び12-Cと、磁気結合部13と、コンデンサ14-A、14-B及び14-Cとを備える。
【0095】
ゲート駆動電圧出力部11-Aは、電力用半導体素子QAに対応して設けられ、ゲート信号のオン信号に対応する正のゲート駆動電圧(例えば10V)、及びゲート信号のオフ信号に対応する0Vのゲート駆動電圧を出力する。ゲート駆動電圧出力部11-Bは、電力用半導体素子QBに対応して設けられ、ゲート信号のオン信号に対応する正のゲート駆動電圧(例えば10V)、及びゲート信号のオフ信号に対応する0Vのゲート駆動電圧を出力する。ゲート駆動電圧出力部11-Cは、電力用半導体素子QCに対応して設けられ、ゲート信号のオン信号に対応する正のゲート駆動電圧(例えば10V)、及びゲート信号のオフ信号に対応する0Vのゲート駆動電圧を出力する。
【0096】
ゲート線12-Aは、ゲート駆動電圧出力部11-Aから出力されたゲート駆動電圧を、対応する電力用半導体素子QAの制御端子であるゲート端子21-Aに供給する。電力用半導体素子QAのゲート端子に正のゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QAはオンし、電力用半導体素子QAのゲート端子に0Vのゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QAはオフする。
【0097】
ゲート線12-Bは、ゲート駆動電圧出力部11-Bから出力されたゲート駆動電圧を、対応する電力用半導体素子QBの制御端子であるゲート端子21-Bに供給する。電力用半導体素子QBのゲート端子に正のゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QBはオンし、電力用半導体素子QBのゲート端子に0Vのゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QBはオフする。
【0098】
ゲート線12-Cは、ゲート駆動電圧出力部11-Cから出力されたゲート駆動電圧を、対応する電力用半導体素子QCの制御端子であるゲート端子21-Cに供給する。電力用半導体素子QCのゲート端子に正のゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QCはオンし、電力用半導体素子QCのゲート端子に0Vのゲート駆動電圧が印加されることで電力用半導体素子QCはオフする。
【0099】
磁気結合部13は、ゲート線12-Aとゲート線12-Bとを磁気結合し、ゲート線12-Bとゲート線12-Cとを磁気結合する。
【0100】
コンデンサ14-Aは、電力用半導体素子QAに対応して設けられ、当該電力用半導体素子QAについての電流流入端子であるドレイン端子22-Aと制御端子であるゲート端子21-Aとの間に接続される。コンデンサ14-Bは、電力用半導体素子QBに対応して設けられ、当該電力用半導体素子QBについての電流流入端子であるドレイン端子22-Bと制御端子であるゲート端子21-Bとの間に接続される。コンデンサ14-Cは、電力用半導体素子QCに対応して設けられ、当該電力用半導体素子QCについての電流流入端子であるドレイン端子22-Cと制御端子であるゲート端子21-Cとの間に接続される。
【0101】
このように、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置1は、複数個直列に接続された電力用半導体素子の個数と同じ個数のゲート駆動電圧出力部、ゲート線及びコンデンサを設け、磁気結合部にてゲート線の各々について互いに磁気結合させる構成を有する。本開示の一実施形態によれば、電力用半導体素子についてゲート信号の伝達時間や電力用半導体素子の特性にバラツキがあっても、電力用半導体素子の各々のオン動作及びオフ動作についてのスイッチングタイミングを揃え、電力用半導体素子に印加される電圧の不均衡を抑制することができる。
【0102】
続いて、本開示の一実施形態の変形例について説明する。一例として、2個直列に接続された電力用半導体素子QA及びQBをオンオフ駆動する例について説明するが、3個以上直列に接続された電力用半導体素子をオンオフ駆動する場合であっても本変形例は適用可能である。
【0103】
本変形例を説明するに先立ち、本開示の実施形態のように電力用半導体素子に対応してコンデンサを設けることにより発生し得る電源短絡の可能性について説明する。
【0104】
図17は、本開示の一実施形態において2個直列接続された電力用半導体素子を有するアームにより構成されるレグを示す回路図である。また、
図18Aは、
図17に示すレグ内の各アームにおける電力用半導体素子への印加電圧を例示する図であり、
図18Bは、
図17に示すレグ内の各電力用半導体素子のゲート-ソース間電圧を例示する図である。
【0105】
図17に示すように、例えば2個直列接続された電力用半導体素子Q
A及びQ
Bと、電力用半導体素子Q
A及びQ
Bの各々に対応するコンデンサ14-A及び14-Bとで構成されるアームを2個直列することで構成されるレグ60において、端子T
1から負荷300の方向に負荷電流I
LOADが流れ出ていたとする。
図18A及び
図18Bに示すように、電力用半導体素子Q
Cのゲート-ソース間電圧V
gs-bt1及び電力用半導体素子Q
Dのゲート-ソース間電圧V
gs-bt2が例えば負の電圧V(-)に固定され、ダイオードD
C及びD
Dを介して電流が流れている状態において、電力用半導体素子Q
A及びQ
Bがオン動作すると、ダイオードD
C及びD
Dを介して流れる電流は減少し電力用半導体素子Q
A及びQ
Bを流れる電流が増加する。ダイオードD
C及びD
Dを介して流れる電流がゼロになると、下アーム50-2の印加電圧V
btが上昇し、上アーム50-1の印加電圧V
upが下降する。この印加電圧の変化により、コンデンサ14-C及び14-Dを介して電流が流れ込むと、磁気結合部13の寄生インダクタンスL
rやゲート抵抗R
gに起電圧が発生し、電力用半導体素子Q
Cのゲート-ソース間電圧V
gs-bt1及び電力用半導体素子Q
Dのゲート-ソース間電圧V
gs-bt2が上昇する。この電圧上昇が大きいと、電力用半導体素子Q
Cのゲート-ソース間電圧V
gs-bt1及び電力用半導体素子Q
Dのゲート-ソース間電圧V
gs-bt2が電力用半導体素子Q
C及び電力用半導体素子Q
Dのゲート閾値電圧を超えて誤ってオン動作してしまう可能性がある。この誤動作により電力用半導体素子Q
A、Q
B、Q
C及びQ
Dの全てがオンした状態となると、レグ60の上側電位Vpと下側電位0Vとが短絡する。
【0106】
そこで、本変形例では、電力用半導体素子のゲート端子とソース端子との間にスイッチを設け、当該スイッチが属するアームとは異なるアームに設けられた電力用半導体素子がオンの期間そのスイッチをオンし、これにより、印加電圧の変化によるゲート-ソース間電圧の持ち上がりを防止してレグ60の上側電位Vpと下側電位0Vとの短絡を回避する。
【0107】
図19Aは、本開示の一実施形態の変形例によるゲート駆動装置を示す回路図である。
図19Bは、本開示の一実施形態の変形例によるゲート駆動装置内に設けられるスイッチをMOSFETで構成した場合を示す回路図である。本変形例によれば、ゲート駆動装置1は、電力用半導体素子Q
Aについての電流流出端子であるソース端子23-Aと制御端子であるゲート端子21-Aとの間に接続されるスイッチSW
Aと、スイッチSW
Aのオンオフを制御するスイッチ制御部4とさらに備える。
図19Bに示す例では、スイッチSW
Aをnチャネル型MOSFETで構成したが、他の半導体スイッチング素子で構成してもよい。
図19A及び
図19Bに示す例では、スイッチ制御部4をゲート駆動電圧出力部11-A内に設けたが、ゲート駆動電圧出力部11-Aの外部にスイッチ制御部4を設けてもよい。
【0108】
図19A及び
図19Bに示す例では電力用半導体素子Q
Aに対応するスイッチSW
Aのみ示したが、スイッチは複数の電力用半導体素子の各々に対応して設けられる。
図20は、本開示の一実施形態の変形例において2個直列接続された電力用半導体素子を有するアームにより構成されるレグを備える電力変換装置を示す回路図である。
【0109】
図20に示すように、例えば2個直列接続された電力用半導体素子Q
A及びQ
B並びに電力用半導体素子Q
A及びQ
Bの各々に対応するコンデンサ14-A及び14-Bを有する上アーム50-1と、2個直列接続された電力用半導体素子Q
C及びQ
D並びに電力用半導体素子Q
C及びQ
Dの各々に対応するコンデンサ14-C及び14-Dを有する下アーム50-2とが2個直列されてレグ60が構成される。電力用半導体素子Q
Aについてのソース端子23-Aとゲート端子21-Aとの間にスイッチSW
Aが接続される。電力用半導体素子Q
Bについてのソース端子23-Bとゲート端子21-Bとの間にスイッチSW
Bが接続される。電力用半導体素子Q
Cについてのソース端子23-Cとゲート端子21-Cとの間にスイッチSW
Cが接続される。電力用半導体素子Q
Dについてのソース端子23-Dとゲート端子21-Dとの間にスイッチSW
Dが接続される。なお、
図20に示す例では、一例としてスイッチSW
A、SW
B、SW
c、及びSW
Dをnチャネル型MOSFETで構成する。nチャネル型MOSFETは、正の電圧(オン信号)がゲート端子に印加されるとオン動作する。
【0110】
図20の示す例では、スイッチSW
A、SW
B、SW
c、及びSW
Dのオンオフを制御するスイッチ制御部4は、電力変換制御部3内に設けられる。スイッチ制御部4は、電力用半導体素子のオンオフ動作に関する1周期中における電力用半導体素子のオフ期間中、当該オフ期間中の電力用半導体素子が属するアームに設けられたスイッチをオンするよう制御する。具体例について
図21A及び
図21Bを参照して説明する。
【0111】
図21Aは、
図20に示す電力変換器内の上アーム内の電力用半導体素子がオンして下アーム内の電力用半導体素子がオフする場合におけるスイッチ制御部の動作を説明する図である。また、
図21Bは、
図20に示す電力変換器内の上アーム内の電力用半導体素子がオフして下アーム内の電力用半導体素子がオンする場合におけるスイッチ制御部の動作を説明する図である。なお、電力用半導体素子のオンオフ切替え時の回路短絡を避けるため各ゲート信号にはデッドタイムが設けられる。
【0112】
スイッチ制御部4は、電力用半導体素子のオンオフ動作に関する1周期中における電力用半導体素子のオフ期間中に、当該オフ期間中にある電力用半導体素子が属するアームに設けられたスイッチのオン期間が少なくとも設けられるよう、スイッチのオンオフ動作を制御する。スイッチのオン期間は、当該スイッチが属するアームとは異なるアームに設けられた電力用半導体素子のオン期間よりも長く、当該スイッチが属するアームに設けられた電力用半導体素子のオフ期間よりも短くなるように制御される。
【0113】
例えば、
図21Aに示すように、上アーム50-1内の電力用半導体素子Q
A及びQ
Bに対するゲート信号Gate_1がオン期間中、下アーム50-2内の電力用半導体素子Q
C及びQ
Dに対するゲート信号Gate_2がオフ期間であるとする。
図21Aに示す例では、スイッチ制御部4は、電力用半導体素子Q
C及びQ
Dのオンオフ動作に関するゲート信号Gate_2の1周期中における電力用半導体素子Q
C及びQ
Dのオフ期間中に、当該オフ期間中にある電力用半導体素子Q
C及びQ
Dが属する下アーム50-2に設けられたスイッチSW
C及びSW
Dのオン期間が少なくとも設けられるよう、スイッチSW
C及びSW
Dのオンオフ動作を制御する。スイッチSW
C及びSW
Dのオン期間は、当該スイッチSW
C及びSW
Dが属する下アーム50-2とは異なる上アーム50-1に設けられた電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのオン期間よりも長く、当該スイッチSW
C及びSW
Dが属する下アーム50-2に設けられた電力用半導体素子Q
C及びQ
Dのオフ期間よりも短くなるように制御される。
【0114】
また例えば、
図21Bに示すように、下アーム50-2内の電力用半導体素子Q
C及びQ
Dに対するゲート信号Gate_2がオン期間中、上アーム50-1内の電力用半導体素子Q
A及びQ
Bに対するゲート信号Gate_1がオフ期間であるとする。
図21Bに示す例では、スイッチ制御部4は、電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのオンオフ動作に関するゲート信号Gate_1の1周期中における電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのオフ期間中に、当該オフ期間中にある電力用半導体素子Q
A及びQ
Bが属する上アーム50-1に設けられたスイッチSW
A及びSW
Bのオン期間が少なくとも設けられるよう、スイッチSW
A及びSW
Bのオンオフ動作を制御する。スイッチSW
A及びSW
Bのオン期間は、当該スイッチSW
A及びSW
Bが属する上アーム50-1とは異なる下アーム50-2に設けられた電力用半導体素子Q
C及びQ
Dのオン期間よりも長く、当該スイッチSW
A及びSW
Bが属する上アーム50-1に設けられた電力用半導体素子Q
A及びQ
Bのオフ期間よりも短くなるように制御される。
【0115】
このように、本変形例では、電力用半導体素子のゲート端子とソース端子との間にスイッチを設け、当該スイッチが属するアームとは異なるアームに設けられた電力用半導体素子がオンの期間そのスイッチをオンし、これにより、印加電圧の変化によるゲート-ソース間電圧の持ち上がりを防止してレグ60の上側電位Vpと下側電位0Vとの短絡を回避する。
【0116】
続いて、本開示の一実施形態及び変形例におけるMOSFETのドレイン端子とゲート端子との間に設けられるコンデンサの配置場所の例について説明する。
【0117】
コンデンサの各々は、電力用半導体素子の各々に対応して設けられるが、コンデンサの一方の端子と電力用半導体素子のゲート端子との間の接続配線や、コンデンサのもう一方の端子と電力用半導体素子のドレイン端子との間の接続配線が長いと、大きな寄生インピーダンスが発生してしまう。
図3~
図5を参照して説明したようにコンデンサに流れ込む電流により電力用半導体素子のオンオフ動作のタイミングを補正していることから、寄生インピーダンスが大きいとタイミング補正の効果が少なくなってしまう。そこで、コンデンサの各々は、対応する前記電力用半導体素子に近接して配置されるようにする。
図22Aは、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置におけるコンデンサの配置例を示す透過斜視図である。
図22Aでは、一例として1つの電力用半導体素子を有するパワーモジュール42を示している。例えば
図22Aに示すように、コンデンサ14が実装されたプリント基板41が、電力用半導体素子を有するパワーモジュール42に隣接して配置される。その際、コンデンサ14を、対応するパワーモジュール42内の電力用半導体素子に近接して配置する(例えば直上、直下、または真横に配置する)ことで、コンデンサ14の一方の端子と電力用半導体素子のゲート端子との間の接続配線、及びコンデンサ14のもう一方の端子と電力用半導体素子のソース端子との間の接続配線ができるだけ短くなるようにする。これにより、寄生インピーダンスを小さくすることができる。
図22Aでは、電力用半導体素子がMOSFETである場合を示したが、
図22Bは、電力用半導体素子としてIGBTを有するパワーモジュールを例示する斜視図である。例えば電力用半導体素子がIGBTである場合、パワーモジュール42には、IGBTのゲート端子21とコレクタ端子22とエミッタ端子23とが設けられている。コンデンサ14の一方の端子とIGBTのゲート端子21との間の接続配線、及びコンデンサ14のもう一方の端子とIGBTのコレクタ端子22との間の接続配線ができるだけ短くなるように、コンデンサ14を、対応するパワーモジュール42のIGBTに近接して配置する。
【0118】
続いて、本開示の一実施形態及び変形例において電力用半導体素子に印加される電圧の抑制効果をより一層高めることができる冷却器の設置について説明する。
【0119】
図23は、本開示の一実施形態によるゲート駆動装置に設けられる冷却器を例示する斜視図である。
【0120】
電力用半導体素子は、オンオフ動作時における自己発熱により温度が上昇する。よって、例えば設計上の制約や電力用半導体素子の配置位置によって、電力変換装置において電力用半導体素子ごとに温度差が生じる場合がある。電力用半導体素子の温度が上昇するとゲート閾値電圧が低下する。電力用半導体素子間に温度差があると、ゲート閾値電圧にバラツキが生じ、オン動作時及びオフ動作時における印加電圧の不均衡度が大きくなる。そこで、電力用半導体素子の各々が、同一の冷却器5によって冷却されるようにすることで、電力用半導体素子間の温度差を抑えてゲート閾値電圧にバラツキが生じないようにし、電力用半導体素子の各々のオン動作及びオフ動作についてのスイッチングタイミングを揃え、電力用半導体素子に印加される電圧の不均衡をより確実に抑制する。
【0121】
図23に示す例では、コンデンサ14-Aが実装されたプリント基板41-Aが、電力用半導体素子を有するパワーモジュール42-Aに隣接して配置され、コンデンサ14-Bが実装されたプリント基板41-Bが、電力用半導体素子を有するパワーモジュール42-Bに隣接して配置される。パワーモジュール42-A及び42-Bは、同一の冷却器5の上に配置されており、パワーモジュール42-A及び42-Bに対して冷却器5によって同様の冷却効果が得られるようにする。冷却器5の例としては、例えばヒートシンク、ヒートパイプ、風冷式熱交換器、水冷式熱交換器などがある。
【0122】
以上説明したように、本開示の一実施形態及び変形例によれば、ゲート線におけるゲート信号の伝達時間や電力用半導体素子の特性にバラツキがあったとしても、電力用半導体素子の各々のオン動作及びオフ動作についてのスイッチングタイミングを揃えることができ、電力用半導体素子に印加される電圧の不均衡を抑制することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 ゲート駆動装置
2 電力変換回路部
3 電力変換制御部
4 スイッチ制御部
5 冷却器
11-A、11-B、11-C、11-D ゲート駆動電圧出力部
12-A、12-B。12-C ゲート線
13 磁気結合部
14、14-A、14-B、14-C、14-D コンデンサ
21、21-A、21-B、21-C、21-D ゲート端子
22 コレクタ端子
22-A、22-B、22-C、22-D ドレイン端子
23 エミッタ端子
23-A、23-B、23-C、23-D ソース端子
30 磁性体
41、41-A、41-B プリント基板
42 パワーモジュール
50 アーム
50-1 上アーム
50-2 下アーム
60 レグ
100 電力変換装置
200 直流電源
300 負荷
DA、DB、DC、DD ダイオード
Lr 寄生インダクタンス
P1、P2 端子
QA、QB、QC、QD 電力用半導体素子
Rg ゲート抵抗
SWA、SWB、SWC、SWD スイッチ
T1、T2 端子