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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240904BHJP
   F02D 41/18 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
F02D45/00 366
F02D41/18
F02D45/00 372
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023571619
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2022036442
(87)【国際公開番号】W WO2024069852
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亮輔
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0162243(US,A1)
【文献】特開平03-213639(JP,A)
【文献】特開2010-038794(JP,A)
【文献】特開平05-321731(JP,A)
【文献】特開2007-182843(JP,A)
【文献】特開2018-123768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる車両用制御装置であって、
エンジンの吸気通路に設けられるエアフロセンサと、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記エアフロセンサからの出力信号を第1流量データとして読み込む制御システムと、
を有し、
前記制御システムは、
複数の前記第1流量データから標準偏差および平均値を算出し、
前記標準偏差を前記平均値で除して前記第1流量データの変動係数を算出し、
前記第1流量データになまし処理を施して第2流量データを算出し、
前記変動係数が大きくなるにつれて補正係数を大きく算出し、
前記第2流量データに前記補正係数を乗じることにより、前記吸気通路の吸入空気流量を示す補正流量データを算出する、
車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、
前記変動係数が大きくなるにつれて、前記吸入空気流量の増加側に前記補正流量データを算出する、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記エアフロセンサの前記出力信号は、前記吸入空気流量の変化に対して非線形に変化する、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンを備えた車両には、吸入空気流量を検出する流量センサとして、熱線式やカルマン渦式等のエアフロセンサが設けられている(特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開平7-247895号公報
【文献】日本国特許出願公開2001-123879号公報
【文献】日本国特許出願公開平10-220306号公報
【文献】日本国特許出願公開平2-241948号公報
【文献】国際公開第2013/103018号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの運転領域によっては、吸気通路内で吸入空気の脈動が発生することから、エアフロセンサの出力信号が大きく振動してしまう虞がある。このように、エアフロセンサの出力信号が大きく振動することは、出力信号を受信した制御システムによる吸入空気流量の算出精度を低下させる要因であった。また、吸入空気流量の算出精度が低下することは、空燃比の制御精度を低下させる要因であることから、吸入空気流量の算出精度を高めることが求められている。
【0005】
本発明の目的は、吸入空気流量の算出精度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態の車両用制御装置は、車両に設けられる車両用制御装置であって、エンジンの吸気通路に設けられるエアフロセンサを有する。前記車両用制御装置は、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記エアフロセンサからの出力信号を第1流量データとして読み込む制御システムを有する。前記制御システムは、複数の前記第1流量データから標準偏差および平均値を算出し、前記標準偏差を前記平均値で除して前記第1流量データの変動係数を算出し、前記第1流量データになまし処理を施して第2流量データを算出する。前記制御システムは、前記変動係数が大きくなるにつれて補正係数を大きく算出し、前記第2流量データに前記補正係数を乗じることにより、前記吸気通路の吸入空気流量を示す補正流量データを算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、制御システムは、第1流量データの変動係数を算出し、第1流量データになまし処理を施して第2流量データを算出し、変動係数に基づいて第2流量データを補正することにより、吸気通路の吸入空気流量を示す補正流量データを算出する。これにより、吸入空気流量の算出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態である車両用制御装置を備えた車両の一例を示す図である。
図2】エンジンの一例を示す図である。
図3】車両用制御装置の構成例を示す図である。
図4】電子制御ユニットの基本構造の一例を示す図である。
図5】スロットルバルブ等によって制御される吸入空気流量の一例を示す図である。
図6】エアフロセンサの出力挙動の一例を示す図である。
図7】空気過剰率と第1流量データの変動係数との関係の一例を示す図である。
図8】データ補正制御の実行手順の一例を示したフローチャートである。
図9】第2流量データの補正状況を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
[車両]
図1は本発明の一実施形態である車両用制御装置10を備えた車両11の一例を示す図である。図1に示すように、車両11には、エンジン12および変速機13からなるパワーユニット14が搭載されている。パワーユニット14の出力軸15には、プロペラ軸16およびデファレンシャル機構17を介して後輪18が連結されている。なお、図示するパワーユニット14は、後輪駆動用のパワーユニットであるが、これに限られることはなく、前輪駆動用や全輪駆動用のパワーユニットであっても良い。
【0011】
[エンジン]
図2はエンジン12の一例を示す図である。図2に示すように、エンジン12は、シリンダブロック20と、これに取り付けられるシリンダヘッド21と、を有している。シリンダブロック20には、クランク軸22が回転可能に支持されるとともに、クランク軸22に連結されるピストン23が往復動可能に収容されている。また、シリンダヘッド21には、吸気ポート24に向けて吸入空気を案内する吸気系25が接続されており、排気ポート26から排出された排気ガスを案内する排気系27が接続されている。さらに、シリンダヘッド21には、燃焼室28内に燃料を噴射するインジェクタ29が取り付けられており、燃焼室28内の混合気に点火する点火デバイス30が取り付けられている。なお、点火デバイス30は、イグナイタや点火プラグ等によって構成される。
【0012】
エンジン12の吸気系25は、エアクリーナボックス31、スロットルバルブ32、吸気マニホールド33、タンブルバルブ34、およびこれらの部品を連結する吸気管35,36によって構成されている。また、エンジン12の排気系27は、排気マニホールド40、触媒コンバータ41、消音器42、およびこれらの部品を連結する排気管43,44によって構成されている。エアクリーナボックス31に取り込まれた吸入空気は、スロットルバルブ32、吸気マニホールド33、タンブルバルブ34および吸気ポート24を経て、燃焼室28に供給される。そして、燃焼室28から排出される排気ガスは、排気マニホールド40、触媒コンバータ41および消音器42を経て、外部に放出される。
【0013】
吸気系25の吸気ポート24には、吸気ポート24内を2つの流路24a,24bに区画する隔壁プレート45が設けられている。図2に示すように、タンブルバルブ34を閉じることにより、タンブルバルブ34によって流路24aが閉塞される。これにより、吸気マニホールド33から吸気ポート24に流入する吸入空気は、吸気ポート24の流路24bを経て燃焼室28に案内される。このようにタンブルバルブ34を閉じることにより、吸入空気の流速を高めるとともに吸入空気を燃焼室28の内壁に沿って流すことができ、燃焼室28およびシリンダボア46内に強いタンブル流を発生させることができる。
【0014】
エンジン12には、排気系27から吸気系25に排気ガスの一部(以下、EGRガスとして記載する。)を供給するEGRデバイス50が設けられている。なお、EGRとは「Exhaust Gas Recirculation」である。EGRデバイス50は、排気系27の排気管43に接続されるEGR上流配管51と、吸気系25の吸気マニホールド33に接続されるEGR下流配管52と、EGR上流配管51とEGR下流配管52との間に設けられるEGRバルブ53と、を有している。また、EGR上流配管51には、EGRガスを冷却するEGRクーラ54が設けられている。EGRバルブ53が開かれると、矢印Geで示すように、排気系27からEGR上流配管51およびEGR下流配管52を介して吸気系25にEGRガスが供給される。一方、EGRバルブ53が閉じられると、EGR上流配管51とEGR下流配管52との間が遮断されるため、排気系27から吸気系25に対するEGRガスの供給が停止される。
【0015】
[制御システム]
図3は車両用制御装置10の構成例を示す図である。図3に示すように、車両用制御装置10には、スロットルバルブ32、タンブルバルブ34、EGRデバイス50、インジェクタ29および点火デバイス30を制御するため、電子制御ユニット60からなる制御システム61が設けられている。電子制御ユニット60は、吸気系25を流れる吸入空気流量を算出する吸気流量算出部62、スロットルバルブ32の開度を制御するスロットル制御部63、およびインジェクタ29の燃料噴射量を制御するインジェクタ制御部64を有している。また、電子制御ユニット60は、点火デバイス30の点火時期を制御する点火制御部65、タンブルバルブ34の開度を制御するタンブル制御部66、およびEGRバルブ53の開度を制御するEGR制御部67を有している。
【0016】
電子制御ユニット60に接続されるセンサとして、車速を検出する車速センサ70、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ71、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキセンサ72、およびエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ73がある。また、電子制御ユニット60に接続されるセンサとして、吸気管(吸気通路)35に設けられて吸入空気流量を検出するエアフロセンサ74、排気管43に設けられて空燃比を検出するフロントA/Fセンサ75、および排気管44に設けられて空燃比を検出するリアA/Fセンサ76がある。さらに、電子制御ユニット60には、制御システム61を起動する際に運転者によって操作されるスタートスイッチ77が接続されている。
【0017】
電子制御ユニット60の各制御部63~67は、各センサからの出力信号に基づいて、スロットルバルブ32、タンブルバルブ34、EGRデバイス50、インジェクタ29および点火デバイス30の制御目標を設定する。そして、電子制御ユニット60の各制御部63~67は、各制御目標に応じて設定された制御信号を、スロットルバルブ32、タンブルバルブ34、EGRデバイス50、インジェクタ29および点火デバイス30に向けて出力する。例えば、電子制御ユニット60は、エンジン回転数や要求駆動力に基づきスロットルバルブ32の目標開度を設定し、この目標開度に向けてスロットルバルブ32を制御する。また、電子制御ユニット60は、エアフロセンサ74からの出力信号に基づき吸入空気流量を算出し、この吸入空気流量に基づきインジェクタ29の燃料噴射量を制御する。つまり、電子制御ユニット60は、空気過剰率λを所定の目標値(例えば「1」)に収束させるように、算出された吸入空気流量に基づいてインジェクタ29の燃料噴射量を制御する。
【0018】
なお、空気過剰率λとは、理論空燃比からのズレを示す指標であり、実際の空燃比を理論空燃比で除した値である。つまり、空気過剰率λを「1」に制御することにより、理論空燃比の混合気を得ることができ、エンジン12の熱効率を高めることができる。また、空気過剰率λが「1」よりも大きい場合の混合気は、理論空燃比よりも燃料の薄いリーン混合気であり、空気過剰率λが「1」よりも小さい場合の混合気は、理論空燃比よりも燃料の濃いリッチ混合気である。
【0019】
図4は電子制御ユニット60の基本構造の一例を示す図である。図4に示すように、電子制御ユニット60は、プロセッサ80およびメインメモリ(メモリ)81等が組み込まれたマイクロコントローラ82を有している。メインメモリ81には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ80によってプログラムが実行される。プロセッサ80とメインメモリ81とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ82に複数のプロセッサ80を組み込んでも良く、マイクロコントローラ82に複数のメインメモリ81を組み込んでも良い。
【0020】
また、電子制御ユニット60には、入力回路83、駆動回路84、通信回路85、外部メモリ86および電源回路87等が設けられている。入力回路83は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。駆動回路84は、マイクロコントローラ82から出力される信号に基づき、前述したスロットルバルブ32やインジェクタ29等に対する駆動信号を生成する。通信回路85は、マイクロコントローラ82から出力される信号を、他の電子制御ユニット等に向けた通信信号に変換する。また、通信回路85は、他の電子制御ユニット等から受信した通信信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路87は、マイクロコントローラ82、入力回路83、駆動回路84、通信回路85および外部メモリ86等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等からなる外部メモリ86には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0021】
[吸入空気流量の算出誤差]
図5はスロットルバルブ32等によって制御される吸入空気流量の一例を示す図である。図5には、吸気管35つまり吸気系25を流れる吸入空気流量を示す流量データとして、第1流量データQA00Dおよび第2流量データQARが示されている。第1流量データQA00Dは、エアフロセンサ74から電子制御ユニット60の吸気流量算出部62に取り込まれる流量データ、つまりエアフロセンサ74から制御システム61に取り込まれる流量データである。この第1流量データQA00Dにはノイズ等が含まれることから、制御システム61は、第1流量データQA00Dに対してなまし処理を実施することにより、第1流量データQA00Dから第2流量データQARを算出する。なお、流量データの急激な変化を抑制するための「なまし処理」として、例えば、単純移動平均処理、加重移動平均処理あるいは指数移動平均処理を用いることが可能である。また、なまし処理としては、移動平均処理に限られることはなく、例えば、ローパスフィルタを用いたフィルタ処理であっても良い。
【0022】
図5に時刻t1で示すように、タンブルバルブ34が閉じられてEGRバルブ53が大きく開かれる場合や、時刻t2で示すように、タンブルバルブ34およびスロットルバルブ32が大きく開かれる場合には、第1流量データQA00Dが大きく振動している(符号a1,a2)。このような第1流量データQA00Dの振動現象は、吸気系25において発生する吸入空気の脈動によるものと考えられる。図5に符号a1,a2で示すように、第1流量データQA00Dが大きく振動することは、後述するように、第1流量データQA00Dに基づき算出される吸入空気流量の算出精度を低下させる要因であった。
【0023】
ここで、図6はエアフロセンサ74の出力挙動の一例を示す図である。図6に特性線L1で示すように、エアフロセンサ74の出力電圧(出力信号)は、吸入空気流量の変化に対して非線形に変化している。このため、吸気系25において吸入空気が脈動することにより、吸入空気流量が大きな振幅Ar1で振動した場合には、エアフロセンサ74の出力電圧も大きな振幅Vo1で振動することになる。しかしながら、エアフロセンサ74には応答遅れがあることから、エアフロセンサ74の出力電圧は振幅Vo1よりも小さな振幅Vo2で振動していた。そして、制御システム61は、応答遅れによって縮小された振幅Vo2の出力電圧に基づき、吸入空気流量が振幅Ar2で振動していると判断する。つまり、制御システム61は、吸入空気流量を振幅Ar1の中央値である「FL1」と判定すべきところ、振幅Ar2の中央値である「FL2」と少なく算出してしまう虞がある。すなわち、第1流量データQA00Dが大きく振動していた場合には、矢印x1で示すように、制御システム61によって吸入空気量が実際よりも少なく算出されてしまう虞がある。
【0024】
図7は空気過剰率λと第1流量データQA00Dの変動係数CoVとの関係の一例を示す図である。図7には、エンジン回転数を1200[rpm]に保持したときの空気過剰率λが破線で示されており、エンジン回転数を1600[rpm]に保持したときの空気過剰率λが一点鎖線で示されており、エンジン回転数を2000[rpm]に保持したときの空気過剰率λが実線で示されている。なお、第1流量データQA00Dの変動係数CoVとは、第1流量データQA00Dのバラツキ具合を示す指標であり、複数の第1流量データQA00Dから標準偏差および平均値を算出し、標準偏差を平均値で除算することで得られる値である。
【0025】
図7に示すように、第1流量データQA00Dの変動係数CoVが大きくなる状況とは、第1流量データQA00Dのバラツキが拡大する状況であり、吸入空気の脈動によって第1流量データQA00Dが大きく振動する状況である。前述したように、第1流量データQA00Dが大きく振動している場合には、吸入空気流量が実際よりも少なく算出されることから、インジェクタ29の燃料噴射量を適切に制御すること、つまり空気過剰率λを目標値に制御することが困難である。すなわち、第1流量データQA00Dの変動係数CoVが大きくなる状況においては、吸入空気流量が実際よりも少なく算出されることから、空気過剰率λを目標値である「1」に向けて制御した場合であっても、符号b1で示すように、空気過剰率λがリーン側にずれて空気過剰率λを目標値に収束させることが困難であった。
【0026】
[データ補正制御]
前述したように、エンジン12の運転状況によっては、吸気系25において吸入空気の脈動が発生し、第1流量データQA00Dが大きく振動する。そして、第1流量データQA00Dが大きく振動した場合には、実際の吸入空気流量よりも第2流量データQARに基づく吸入空気流量が少なくなることから、空気過剰率λを目標値に向けて適切に制御することが困難となっていた。そこで、制御システム61は、後述するデータ補正制御を実行することにより、第2流量データQARを補正して吸入空気流量の算出精度を高めている。
【0027】
以下、制御システム61によるデータ補正制御の実行状況について説明する。図8はデータ補正制御の実行手順の一例を示したフローチャートである。また、図8に示されるデータ補正制御の各ステップには、制御システム61を構成するプロセッサ80によって実行される処理が示されている。さらに、図8に示されるデータ補正制御は、制御システム61が起動された後に、制御システム61によって所定周期毎に実行される制御である。
【0028】
図8に示すように、ステップS10では、エアフロセンサ74からの出力電圧が、第1流量データQA00Dとして制御システム61に読み込まれる。ステップS11では、複数の第1流量データQA00Dから標準偏差SDおよび平均値Aveが算出される。続くステップS12では、以下の式(1)に示すように、標準偏差SDを平均値Aveで除算することにより、第1流量データQA00Dの変動係数CoVが算出される。なお、第1流量データQA00Dの変動係数CoVを算出する際には、直近の所定期間に亘って読み込まれた複数の第1流量データQA00Dが用いられる。
CoV=SD/Ave ・・(1)
【0029】
ステップS13では、以下の式(2)に基づいて、変動係数CoVから補正係数k1が算出される。次いで、ステップS14に進み、第1流量データQA00Dに対して移動平均処理等のなまし処理が施され、第1流量データQA00Dから第2流量データQARが算出される。続くステップS15では、以下の式(3)に示すように、第2流量データQARに補正係数k1が乗算され、吸入空気流量を示す補正流量データC_QARが算出される。なお、式(2)に含まれる定数a,bは、実験やシミュレーション等によって設定される定数である。
k1=a×CoV+b ・・(2)
C_QAR=QAR×k1 ・・(3)
【0030】
ここで、図9は第2流量データQARの補正状況を示すイメージ図である。なお、図9には、実際の吸入空気流量が「FL10」であったときの第2流量データQARおよび補正流量データC_QARが示されている。図9に示すように、第1流量データQA00Dの変動係数CoVが大きくなる場合には、第2流量データQARによって示される吸入空気流量が実際の「FL10」よりも少なくなる。しかしながら、第2流量データQARに補正係数k1を乗じることにより、矢印c1で示すように、補正流量データC_QARによって示される吸入空気流量が実際の「FL10」に近づけられる。すなわち、第1流量データQA00Dの変動係数CoVが大きくなるにつれて、吸入空気流量の増加側に補正流量データC_QARが算出されている。
【0031】
このように、複数の第1流量データQA00Dから変動係数CoVを算出し、この変動係数CoVに基づいて第2流量データQARを補正することにより、第2流量データQARから補正流量データC_QARが算出される。そして、補正流量データC_QARから得られた吸入空気流量に基づいて、インジェクタ29の燃料噴射量等が制御される。これにより、吸気系25を流れる吸入空気流量を精度よく算出することができ、空気過剰率λ等を適切に制御することができる。
【0032】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、1つの電子制御ユニット60によって制御システム61を構成しているが、これに限られることはなく、複数の電子制御ユニットによって制御システム61を構成しても良い。また、図示するエアフロセンサ74は、熱線式のエアフロセンサであるが、これに限られることはなく、カルマン渦式等のエアフロセンサであっても良い。また、図示するエンジン12は、ガソリンを燃料に用いたガソリンエンジンであるが、これに限られることはなく、ガソリン以外の燃料を用いたディーゼルエンジン等のエンジンであっても良い。
【0033】
また、変動係数CoVの算出に用いられる第1流量データQA00Dのサンプル数としては、予め設定されたサンプル数であっても良く、状況に応じて変化するサンプル数であっても良い。例えば、第1流量データQA00Dや第2流量データQARが急速に変化する状況では、第1流量データQA00Dのサンプル数を減らすことにより、変動係数CoVの応答性を高めても良い。また、第1流量データQA00Dや第2流量データQARが緩やかに変化する状況では、第1流量データQA00Dのサンプル数を増やすことにより、変動係数CoVの算出精度を高めても良い。
【符号の説明】
【0034】
10 車両用制御装置
11 車両
12 エンジン
35 吸気管(吸気通路)
61 制御システム
74 エアフロセンサ
80 プロセッサ
81 メインメモリ(メモリ)
QA00D 第1流量データ
QAR 第2流量データ
C_QAR 補正流量データ
CoV 変動係数
SD 標準偏差
Ave 平均値
k1 補正係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9