(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ベイク中華まんの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 35/00 20160101AFI20240905BHJP
【FI】
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2023223889
(22)【出願日】2023-12-15
【審査請求日】2024-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524012543
【氏名又は名称】株式会社神楽坂五〇番
(72)【発明者】
【氏名】永山 浩志
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-14986(JP,A)
【文献】特開2017-169524(JP,A)
【文献】特開2017-175990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
オーブンでの焼成工程において、一定の時間加熱した後、上下段を入れ替えて、底面を焼成することを特徴とする請求項1の中華まんの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中華まんの品質向上とフードロス削減に繋がる製造方法に関する。(中華まんとは、肉まん・豚まん・あんまん等の総称であり、包子もその範囲に含まれる)
【背景技術】
【0002】
中華まんは、肉、きゃべつ、たまねぎのみじん切り等の具材を醤油、調味料、ごま油等で調味して作った餡を、発酵させた小麦粉の皮部生地で包み、蒸煮加熱したものである。
【0003】
中華まんの製造工程は、非加熱の肉を他の具材や調味料と混ぜ合わせた餡を皮部生地に包み(包餡、ともいう)、2次発酵工程をとり、蒸煮加熱するという基本的な点において、ほぼ共通している。
【0004】
中華まんを製造する際、包餡後の蒸煮加熱により、皮部生地に餡の水分が浸潤し、皮部表皮の破れや見た目を損なうため、皮部と餡の比率は、一般的に6対4の割合で構成されることが主であり、形状や見た目(外見)で品質が安定する利点があるため実用に適している。
【0005】
しかし、生地の割合が多いため、喫食の段階で、生地の部分だけを食することが起こるため食味を損なうという欠点があった。
【0006】
そのため、品質の向上を目的とし、生地に対する餡の比率を高めたり餡の油脂配合比率をあげると、仕上がりの際、生地への肉汁の浸潤が発生し、製造した商品をすべて正規品として販売できなくなるという問題があった。ロス率が高くなると製造原価に影響を及ぼし、ひいては経営に影響を及ぼすこととなる。
【0007】
消費者の嗜好に対しても、肉片が大きく、油脂を多く含み、且つ生地に対する餡の比率が高い、食べ応えのある中華まんを安定的に量産することが求められている。
【0008】
従来、中華まんに関係する技術やパンの製造方法において、蒸煮加熱後の製品を麦芽液に浸漬した後、オーブンで加熱調理を行う製造工程はなく、また、中華まん製造への好適性を謳った報告もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006―320219号公報
【文献】特開2008―173036号公報
【文献】特開2018―14986号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、餡の重量比を皮部生地よりも大きく設定した場合に発生する中華まんの肉汁の浸潤に起因する不適格品のアップサイクルと、それに伴うフードロスの低減、経営効率の改善につながる製造方法を提供することにある。
【発明の概要】
【0011】
解決しようとする問題点は、生地に対する餡の比率を高めた際に障害となる蒸煮加熱後の肉汁の浸潤により皮部表皮の染み出した不適格品の廃棄ロスを削減し、商品価値を高め、新たな商品として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、蒸煮加熱後の中華まんを希釈した麦芽液に浸漬した後、オーブンで加熱することを特徴とする。浸漬することにより、肉汁の浸潤によって外見上、正規品として販売に適さないと判断される製品を、新たな価値品質の商品として蘇生させることが可能となりフードロスを少なくすることが出来る。
【0013】
本発明は、希釈した麦芽液の温度が、70℃から80℃であることを特徴とする。希釈した麦芽液の温度が低い場合、十分な攪拌がなされず皮部生地に焼きムラが発生し品質が安定しない。一方、高温になりすぎると麦芽液が煮詰まり食味を劣化させる場合がある。この温度設定の範囲で加熱させることにより、皮部生地全体にムラなく浸透させることが出来る。
【0014】
本発明は、中華まんの全体重量に対して、餡の重量比率が、55パーセントから60パーセントまで包餡が可能とすることを特徴とする。従来、中華まんの餡の比率を55パーセントから60パーセントにした場合、蒸煮加熱後皮部生地への肉汁の浸潤が発生し、底面が抜け落ちたり亀裂が入る等形状の変質が起こり製品歩留まりを低減させる要因となっていた。しかし、請求項1、請求項2の工程を付加させることにより、新たな品質の製品として商品化できるため歩留まりを改善することが出来る。
【0015】
本発明は、オーブンでの焼成工程において、一定時間焼成した後、上下段を入れ替え更に底面を再度焼成することを特徴とする。加熱・希釈した麦芽液に浸漬させることにより、通常の中華まんに比べ皮部底面の水分量が多いため、底面の焼成が必要となる。また、加熱工程での大掛かりな機械装置の必要もなく、上下移動と底面焼成により簡単にムラなく焼成することが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、蒸煮加熱による肉汁の浸潤により、外見上、正規品として販売に適さないと判断される製品を、新たな価値品質の商品として蘇生させることが可能となる。中華まんの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来の中華まんの製造工程を示したフローチャートである。
【
図2】従来の中華まんの製造工程に焼成工程を付加したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
蒸煮加熱された中華まんを麦芽液に浸漬させたのちに、オーブンで焼成させることで均一に焼き色がつき、染み出した肉汁により変色した部分を焼き目の色に同化させることができる。
すなわち、本発明の中華まんは、従来の中華まんとは異質の、パン類とも異なる新しい中華まんである。
【実施例1】
【0019】
〔
図2〕は、本発明の中華まん製造におけるフローチャートであって、1~5は、〔表1〕と同様である。以降、6は希釈・加温した麦芽液に浸漬、7は焼成、8は焼成中に行う位置変更を示すものである。
【0020】
〔
図3〕は、焼成時間と温度の設定による商品の仕上がり状態を検証した結果であって、希釈した麦芽液の温度を70℃から80℃に加温することで、皮部生地全体にムラなくモルト液を浸透させることができる。希釈した麦芽液の温度が低い場合には、十分な攪拌がなされず、一方、高温になると麦芽液が煮詰まり風味を阻害する場合がある。
焼成温度は、180℃、時間は15分が均一に仕上がる。焼成時間、温度の設定において、使用する機器により変化するため詳細については省略する。ただし、上下段を移動させることで一般的な機種でも品質上安定した製品化が可能である。
【0021】
〔参考写真〕は、生地重量40パーセントに対して餡重量60パーセント(当社規格における餡重量比最大値)と当社従来品との比較検証した画像である。当社従来品と比較して明らかに餡の比率が高くなり、喫食した際、生地と餡がバランスよく摂食されるため食味は向上される。
【0022】
〔参考写真〕で示した焼成前の比較において明らかなとおり、餡の重量比が生地より大きい場合、肉汁の染み出す現象が増加し、販売不適格品を多く発生させるため、フードロスにつながると同時に、事業の収益性にも多大な影響を及ぼすものである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、中華まん蒸煮加熱時の肉汁の浸潤による染み出しが発生した製品を希釈した麦芽液に浸漬させた後、焼成させることにより、表皮が均一に発色するため、形状や餡の素材を問わず製造方法を提供することができる。
【要約】
【課題】餡の重量比が大きく皮部生地への浸潤がみられる中華まんであっても、皮部を焼成させることで新たな品質の中華まんとして製品化できる加工方法を提供する。
【解決手段】蒸煮加熱した中華まんで、皮部生地に肉汁の浸潤がみられる製品を希釈後一定の温度に加熱した麦芽液に浸漬させる。取り出した後、オーブンで加熱し皮部表皮をムラなく焼き色をつける。オーブンで加熱する際、上下段を入れ替え更に底面を焼成させることにより皮部表皮全体の食感が均一化されると同時に余分な水分を除去することで微生物の増殖を防ぐと共に品質を維持できる。この工程を付加させることで、これまで廃棄されていた製品が、新たな規格基準の商品として市場に提供できるため歩留まりを改善できる。
【選択図】
図2