(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】香料組成物
(51)【国際特許分類】
C11B 9/00 20060101AFI20240905BHJP
C11D 3/50 20060101ALI20240905BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C11B9/00 Z
C11D3/50
A61Q13/00 102
A61K8/86
(21)【出願番号】P 2020164551
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】市川 晶子
(72)【発明者】
【氏名】関口 孝治
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-76012(JP,A)
【文献】特開2018-30915(JP,A)
【文献】特開2003-231625(JP,A)
【文献】特開昭59-76011(JP,A)
【文献】国際公開第2020/153223(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B、C11C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香料、および
保香剤を0.5~50%含む、香料組成物であって、
前記保香剤が、式(1)で表される共重合体からなることを特徴とする、
香料組成物。
Z-[O-(PO)
a-[(PO)
b/(EO)
c]-H]
n・・・・(1)
(式(1)中、
Zは、炭素数1~8かつ1~6個の水酸基を有する化合物から全ての前記水酸基を除いた残基を示し、
nは1~6の数を示し、
POはオキシプロピレン基を示し、
EOはオキシエチレン基を示し、
aおよびbは、それぞれ独立して前記オキシプロピレン基POの付加モル数を示し、
cは前記オキシエチレン基EOの付加モル数を示し、
aは0~100の数を示し、bは1~100の数を示し、cは1~200を示し、a+b+cは10
以上、100以下であり、
(PO)b/(EO)cは前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOがランダム付加していることを示し、b/c=1/5~5/1であり、
前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOのランダム率xが0.1≦x≦
0.97である。)
【請求項2】
前記共重合体のゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出される重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが式(2)の関係を満足する、請求項1記載の
香料組成物。
5≦Mz/Mw≦60 ・・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保香剤およびそれを含む香料組成物に関する。詳しくは、初期の香調のバランスを長時間持続させ、また低温下と高温下での香調のバランスの変化が抑制された保香剤、およびそれを含む香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
香料は、芳香剤、オーデコロン、香水などの芳香製品、クリーム、化粧水、制汗剤などの化粧品、リンス、コンディショナーなどのヘアケア製品、入浴剤、食品などの製品、衣料用洗浄剤、人体用洗浄剤、住居用洗浄剤、シャンプーなどの洗浄剤にも幅広く配合されている。これら製品では、揮発性の高いシトラスやハーバルなどの香調をもつ成分から、揮発性の低いジャスミンやバニラなどの香調をもつ成分まで、多種類の有香成分を混合した調合香料が使用されている。このような調合香料では、複雑に混合した香調を持続させるため、香粧品香料や食品香料等、調合香料全体の揮発度を遅延する保香剤が添加されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のロドデンドロール誘導体を保香剤として配合することにより、残香性及び香り立ちが改善され、所望の香気の持続性を高められる香料組成物が開示されている。しかし、特許文献1に記載されている保香剤は、それ自体が香気を有しており、香料組成物とした際に目的の香調から乖離する可能性があった。
【0004】
一方、特許文献2には、グリセリルエーテル誘導体を保香剤として配合することにより、香り立ち、残香性を高め、保香効果に優れ、香料組成物の香質の変調をきたさない保香剤およびその組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-90259
【文献】特開2003-238985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
香料を使用した芳香製品、化粧品、洗浄剤などは使用される場面が多岐にわたっているため、環境や状況により使用される温度条件は様々である。しかし高温下では揮発性の高い成分ほど早期に揮散するため、高温下では香調のバランスが崩れ、目的の香調から変化しやすくなる。従来の保香剤では、低温下と高温下では揮発成分のバランスが変わり、温度によって香調のバランスに差が出る可能性があった。
【0007】
これらの背景から、初期の香調のバランスを長時間変えることなく持続させ、低温下と高温下での香調のバランスに差がない保香剤、およびこれを含有する香料組成物が求められる。
【0008】
本発明の課題は、初期の香調のバランスを長時間変えることなく持続させ、低温下と高温下での香調のバランスの差が抑制される保香剤、およびそれを含む香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記(1)、(2)の香料組成物が上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
(1) 香料、および
保香剤を0.5~50%含み、
前記保香剤が、式(1)で表される共重合体からなることを特徴とする、香料組成物。
【0011】
Z-[O-(PO)a-[(PO)b/(EO)c]-H]n・・・・(1)
(式(1)中、
Zは、炭素数1~8かつ1~6個の水酸基を有する化合物から全ての前記水酸基を除いた残基を示し、
nは1~6の数を示し、
POはオキシプロピレン基を示し、
EOはオキシエチレン基を示し、
aおよびbは、それぞれ独立して前記オキシプロピレン基POの付加モル数を示し、
cは前記オキシエチレン基EOの付加モル数を示し、
aは0~100の数を示し、bは1~100の数を示し、cは1~200を示し、a+b+cは10以上、100以下であり、
(PO)b/(EO)cは前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOがランダム付加していることを示し、b/c=1/5~5/1であり、
前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOのランダム率xが0.1≦x≦0.97である。)
【0012】
(2) 前記共重合体のゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出される重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが式(2)の関係を満足する、(1)の香料組成物。
5≦Mz/Mw≦60 ・・・・(2)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、初期の香調のバランスを長時間変えることなく持続させ、低温下と高温下での香調のバランスの差が抑制された香料組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明にて定義されるMz/Mwを説明するためのモデルクロマトグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は、2以上、5以下を表す。
【0016】
(保香剤)
本発明の保香剤は、式(1)で示される化合物である。
Z-[O-(PO)a-[ (PO)b/(EO)c]-H]n ・・・・(1)
Zは、炭素数1~8(より好ましくは炭素数1~6)かつ1~6個の水酸基を有する化合物(Z(OH)n)から全ての水酸基を除いた残基であり、nは化合物(Z(OH)n)の水酸基の数であって、1~6である。
【0017】
化合物(Z(OH)n)の好適例は、残基Zの炭素数が1であればメタノール、炭素数が2であればエタノール、エチレングリコール、炭素数が3であればプロピレングリコール、グリセリン、炭素数が4であればブタノール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、炭素数が5であればトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キシリトール、炭素数が6であればヘキシレングリコール、ソルビタン、ジグリセリン、ソルビトール、炭素数7以上であればアルキルグルコシドやアルキルアルコールがあげられる。1~6個の水酸基を有する化合物(Z(OH)n)としては、n=1であれば、メタノール、エタノール、ブタノール、n=2であればエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、n=3であればグリセリン、トリメチロールプロパン、n=4であればエリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ジグリセリン、アルキルグリコシド、n=5であればキシリトール、n=6であればジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトールなどが挙げられる。また、1~6個の水酸基を有する化合物として、これらの混合物を用いても良い。nは好ましくは1~4であり、n=1~3が最も好ましく、n=1が特に好ましい。
【0018】
n=1の場合、式(1)において、Zは、R1である。R1は、炭素数1~8の炭化水素基である。R1で示される炭素数1~8の炭化水素基は、炭素と水素からなる官能基であり、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基から選ばれる1種であり、好ましくはアルキル基またはアルケニル基であり、炭素数1~6のアルキル基またはアルケニル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が最も好ましい。炭素数1~6のアルキル基としては直鎖でも分岐でも良いが、直鎖のものがより好ましい。炭素数1~6の直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などを挙げることができる。R1で示される炭素数1~8の炭化水素基は1種のみでも、2種以上でもよい。
【0019】
POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基、a,bはそれぞれPO、EOの平均付加モル数を示す。aは0~100の数を示し、bは1~100の数を示し、cは1~200を示し、a+b+cは10以上、100以下である。
(PO)b/(EO)cは、POとEOがランダム付加してなるポリオキシアルキレン基を示し、POとEOのモル比(b/c)は1/5~5/1、POとEOのランダム率xが0.1≦x≦1である。
【0020】
a+b+cが10未満であると、初期の香調のバランスを持続させる効果が不十分になる可能性がある。こうした観点から、a+b+cを10以上とするが、15以上とすることが更に好ましく,25以上が最も好ましい。
また、a+b+cが大きくなるにつれて粘度が上昇する。分散・配合のしやすさの観点から、a+b+cは100以下とすることが好ましい。
【0021】
また、PO、EOの全平均付加モル数n×(a+b+c)は、30以上とすることが好ましく、40以上とすることが更に好ましく、50以上とすることが最も好ましい。また、100以下とすることが好ましく、80以下とすることが最も好ましい。
【0022】
b/cが1/5未満であると、香料組成物とした際にべたつきが生じる可能性や、製剤安定性が低下する可能性がある。5/1を超えると、製剤安定性が低下する可能性がある。b/cは好ましくは1/4~3/1であり、より好ましくは1/3~2/1である。
【0023】
POとEOのランダム率xは、式(3)より求められる。
x=(b+c)/(a+b+c) ・・・(3)
ランダム率xは0.1≦x≦0.97とする。ランダム率xが0.1未満になると、香料組成物とした際にべたつきが生じる可能性や、製剤安定性が低下する可能性がある。0.1以上とするが、0.5以上が更に好ましく、0.6以上とすることが更に好ましく、0.8以上とすることが特に好ましく、0.85以上が最も好ましい。
また、ランダム率xは0.97以下であることが最も好ましい。
【0024】
(保香剤のGPC特性)
本発明の保香剤は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において、示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムによって得られる分子量に規定される。このクロマトグラムとは、屈折率強度と溶出時間との関係を表すグラフである。
【0025】
本発明の保香剤では、クロマトグラムから得られる重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが5≦Mz/Mw≦60であると、初期の香調のバランスを長時間変えることなく持続させ、低温下と高温下での香調のバランスの差異を抑制し、特には差がなくなるようにする。
【0026】
図1のクロマトグラムのモデル図を参照しつつ、Mz/Mwの算出方法について更に説明する。横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。ゲル浸透クロマトグラフに試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い、溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる極大点を過ぎると、溶出曲線は下降していく。
【0027】
Mwは、分子量を重みとして用いた加重平均、Mzは、分子量の2乗を重みとして用いた加重平均である。Mwは高分子量の存在に影響を受け、MzはMwよりもさらに大きく高分子量の存在に影響を受ける。そのため本発明の保香剤は
図1に示したクロマトグラムのようなMw、Mzが得られる。
【0028】
Mz/Mwが5より小さくなると、初期の香調のバランスを持続させる効果が不十分になる可能性がある。Mz/Mwが60より大きくなると、分子量分布における高分子量側の偏りが大きくなり粘度の上昇などが見られ、各製剤へ分散・配合しにくくなる。この観点から、Mz/Mwが60以下であることが好ましく、50以下であることがさらに好ましく、また、10以上であることが更に好ましく、30以上であることが特に好ましく、40以上であることが最も好ましい。
【0029】
本発明において、Mz/Mwを求めるためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、システムとしてSHODEX(登録商標) GPC101GPC専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI-71s、ガードカラムとしてSHODEX KF-G、カラムとしてHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得る。
【0030】
(保香剤の製造方法)
本発明の保香剤を製造する際には、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、ホスファゼン化合物などのP=N 結合を有する化合物、複合金属シアン化物錯体触媒など、公知である触媒を使用できる。好ましくは、触媒として、複合金属シアン化物触媒(以下、DMC触媒と略記する)の存在下で、炭素数3のアルキレンオキシド、すなわちプロピレンオキシドおよび、炭素数2のアルキレンオキシド、すなわちエチレンオキシドを開環付加させる。反応容器内に、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する開始剤とDMC触媒を加え、不活性ガス雰囲気の攪拌下、プロピレンオキシドまたはエチレンオキシドを連続もしくは断続的に添加し付加重合する。プロピレンオキシドやエチレンオキシドは加圧して添加しても良く、大気圧下で添加しても良い。
【0031】
また、反応温度は、50℃~150℃が好ましく、70℃~110℃がより好ましい。反応温度が150℃より高いと、触媒が失活するおそれがある。反応温度が50℃より低いと、反応速度が遅く生産性に劣る。
【0032】
本発明における開始剤としては、式(1)において、Z(OH)nとして、炭素数1~8かつ水酸基の数xが1~6の化合物もしくはそれら化合物にオキシプロピレン付加したものを使用することができる。開始剤としては、例えば、ブタノール、ブチルプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ジグリセリン、アルキルグリコシド、キシリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトールなどが挙げられる。ZがR1である場合には、開始剤としては、R1で示される炭素数1~8の炭化水素基を有する1価アルコール(R1OH)を使用することができる。
【0033】
開始剤およびプロピレンオキシド、エチレンオキシドに含まれる微量の水分量については特に制限はないが、開始剤に含まれる水分量については、0.5wt%以下、プロピレンオキシド、エチレンオキシドについては0.01wt%以下であることが望ましい。
【0034】
DMC触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、生成する保香剤に対して、0.0001~0.1wt%が好ましく、0.001~0.05wt%がより好ましい。DMC触媒の反応系への投入は初めに一括して導入してもよいし、順次分割して導入してもよい。重合反応終了後、複合金属錯体触媒の除去を行う。触媒の除去はろ別や遠心分離、合成吸着剤による処理など公知の方法により行うことが出来る。
【0035】
本発明におけるDMC触媒は公知のものを用いることができるが、たとえば、式(4)で表わすことができる。
Md[M’y(CN)z]e(H2O)f・(R)g ・・・(4)
式(4)中、MおよびM’は金属、Rは有機配位子、d、e、yおよびzは金属の原子価と配位数により変わる正の整数であり、fおよびgは、金属の配位数により変わる正の整数である。
【0036】
金属Mとしては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)、W(VI)などがあげられ、なかでもZn(II)が好ましく用いられる。
金属M’としては、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、V(V)などがあげられ、なかでもFe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)が好ましく用いられる。
有機配位子Rとしてはアルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが使用でき、アルコールがより好ましい。好ましい有機配位子は水溶性のものであり、具体例としては、tert-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などが挙げられる。特に好ましくはtert-ブチルアルコールが配位したZn3[Co(CN)6]2である。
【0037】
(香料組成物)
本発明の保香剤と香料とを配合し、適当な形状にして、香料組成物として用いてもよい。本発明の保香剤と配合できる香料としては、公知の香料を含むいかなる香料でも制限無く使用でき、例えば、天然香料、合成香料、保香性香料等を挙げることができる。
【0038】
また、本発明の保香剤が効果を発揮する香調としては、いかなるものでも制限なく使用できる。例えば、シトラス、フルーティ、グリーン、フローラル、アルデヒド、スパイシー、ウッディ、スイート、モッシー、ムスキー、アンバー、アニマル、ハーバル、マリン、およびミントノートなどを使用することができるが、これらの中でも、シトラス、フルーティ、グリーン、アルデヒド、ハーバル、ミントノートの香調が特に好ましい。
【0039】
本発明の保香剤は、一種類の香料と配合して香料組成物とするこも、二種類以上の香料を調合した調合香料と配合して香料組成物とすることもできるが、二種類以上の香料を調合した調合香料と配合したほうが香調のバランスを効果的に持続することが出来るため好ましい。
本発明の香料組成物に配合できる香料としては、公知の有香成分を含むいかなる香料でも制限無く使用できる。例えば、1,4-シネオール、1,8-シネオール、1-オクテン-3-オール、1-ペンテン-3-オール、2,6-ジメチル-5-ヘプテナール、2,6-ジメチルヘプタン-2-オール、2,6-ノナジエナール、2-エチルヘキサノール、リナロール、テルピノーレン、デカナール、ウンデカナール、2-メチルウンデカナール、2-メチル吉草酸エチル、2-メチル酪酸エチル、8-メルカプトメントン、L-メントール、p-クレジルメチルエーテル、p-サイメン、α-ピネン、β-ピネン、アセトアルデヒドエチルフェニルエチルアセタール、アセトアルデヒドフェニルエチルプロピルアセタール、アセト酢酸エチル、イソ吉草酸イソプロピル、イソ吉草酸シス-3-ヘキセニル、イソ吉草酸プロピル、イソ吉草酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、エチルイソアミルケトン、オクタナール、オクタナールジメチルアセタール、オクタン酸エチル、オシメン、カプリル酸アリル、カプロン酸アリル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カロン、ギ酸エチル、サリチル酸エチル、サリチル酸メチル、シス-3-ヘキセン-1-オール、シネンサール、ジヒドロミルセノール、ジメチルオクテノン、テルピノーレン、トランス-2-ヘキセナール、トランス-2-ヘキセノール、トランス-3-ヘキセノール、ノナナール、ファラオン、ブッコキシム、プレゴン、プロピオン酸エチル、プロピオン酸シス-3-ヘキセニル、ヘキサナール、ヘプタン酸エチル、ペリラアルデヒド、ベンズアルデヒド、ミルセノール、ミルセン、メチルパンプルムース、メチルヘプテノン、ラビエノキシム、リファローム、リモネン、リモネンオキサイド、ルバフラン、安息香酸メチル、吉草酸エチル、酢酸、酢酸1-オクテン-3-イル、酢酸リナリル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、酢酸シス-3-ヘキセニル、酢酸トランス-2-ヘキセニル、酢酸ブチル、酢酸プレニル、酢酸ヘキシル、酢酸ミルセニル、酪酸アミル、酪酸アリル、酪酸イソアミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸プロピル、酪酸メチル、レモン油、オレンジ油、ライム油、セージ油、バジル油、ラベンダー油、グレープフルーツ油、ベルガモット油、ユーカリ油およびマンダリン油などが挙げられる。
【0040】
香料の配合量(合計量)は、目的や、香料の成分により異なるが、通常0.01%~50%、好ましくは0.1~30%である。
【0041】
本発明の保香剤と香料を混合し、香料組成物として用いる場合、本発明の保香剤の配合量は、本発明の性能を妨げない範囲で、自由に選択されて良いが、好ましくは香料組成物全重量を100%としたときに、保香剤が0.5~50%の量で配合されると良く、初期の香調のバランスを長時間持続させる観点からより好ましくは1~30%、さらに好ましくは1~20%で配合される。
【0042】
本発明の保香剤を含有する香料組成物に対しては、通常添加可能な添加剤を更に加えることができる。こうした添加剤としては、溶剤、界面活性剤、炭化水素油、エステル油、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン油等の油分、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール等の保湿剤、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール等の防腐剤、エチレンジアミン四酢酸塩、エデト酸等のキレート剤、ジステアリン酸エチレングリコール等のパール化剤、パラメトキシケイ皮酸エステル、メトキシジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤、増粘剤、酸化防止剤、pH調整剤、植物抽出物、アミノ酸、ビタミン類、色素などを適宜配合することができる。
【0043】
香料組成物は、前記の保香剤、香料および必要に応じて前記の他の添加剤を配合するが、その際に用いる他の添加剤は、使用目的や形状に応じて、前記の添加剤を任意の種類、添加量をとり、通常知られた方法で、適宜配合し、その後、一般的な香料組成物の製造方法で香料組成物の形状を、粉末、顆粒、錠剤、溶液、固体、ジェル、ペースト、クリームなどの任意の形状に加工することができる。本発明の香料組成物は、様々な製品の調香に用いることができる。例えば、芳香剤、香水などの芳香製品、入浴剤や消臭芳香剤などトイレタリー製品、柑橘系果物の外表皮など食品への利用、また化粧箱、包装紙、ちり紙、折り紙などの紙製品のほか、リンス、コンディショナー、ヘアムース、ヘアカラーなどのヘアケア製品に用いられる。また、プラスチック、皮革製品、ゴムあるいは繊維などの表面に塗布され、またはそれらの材質中に練り込んで使用することもできる。あるいはボールペン用インキ、塗料、絵の具、クレヨンなどに配合して利用することもできる。このように、本発明の香料組成物を種々の製品として広く利用できる。対象としては、人体用以外に、家畜用あるいはペット用等にも好適に使用できる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(複合金属シアン化物錯体触媒の合成)
塩化亜鉛2.1gを含む2.0mlの水溶液中に、カリウムヘキサシアノコバルテートK3Co(CN)6を0.84g含む15mlの水溶液を、40℃にて攪拌しながら15分間かけて滴下した。滴下終了後、水16ml、tert-ブチルアルコール16gを加え、70℃に昇温し、1時間攪拌した。室温まで冷却後、濾過操作(1回目濾過)を行い、固体を得た。この固体に、水14ml、tert-ブチルアルコール8.0gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(2回目濾過)を行い、固体を得た。
【0045】
さらに再度、この固体にtert-ブチルアルコール18.6g、メタノール1.2gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(3回目濾過)を行い、得られた固体を40℃、減圧下で3時間乾燥し、複合金属シアン化物錯体触媒0.7gを得た。
【0046】
(合成例1:実施例化合物1の合成)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備した5Lオートクレーブに、ブタノール56gと複合金属シアン化物錯体触媒0.03gを仕込み、窒素置換後、110℃へと昇温し、0.3MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、プロピレンオキシド176gを滴下し、反応槽内の圧力と温度の経時的変化を測定したところ、1時間後、反応槽内の圧力が急激に減少した。その後、反応槽内を90℃に保ちながら、0.5MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にプロピレンオキシド1054gとエチレンオキシド1164gの混合物を滴下した。添加終了後、90℃で1時間反応させ、75~85℃で1時間減圧処理後、ろ過を行った。得られた実施例化合物1について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
ただし、ブタノールはKHネオケム製、プロピレンオキシドは住友化学製、エチレンオキシドは日本触媒製のものを用いた。
【0047】
(合成例2~5:実施例化合物2~4の合成)
出発原料、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの平均付加モル数、ランダム率以外は、合成例1と同様の方法で化合物を合成した。得られた実施例化合物2~4について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0048】
(合成例6:参考例化合物の合成)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備した5Lオートクレーブに、ブタノール56gと触媒としての水酸化カリウム6.0gを仕込み、窒素置換後、110℃へと昇温し、0.5MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にプロピレンオキシド1230gとエチレンオキシド1164gの混合物を滴下した。添加終了後、110℃で1.5時間反応させ、75~85℃で1時間減圧処理後、反応物を5Lナスフラスコに移し、速やかに1N塩酸で中和し、窒素ガス雰囲気下で脱水後、ろ過を行った。
得られた参考例化合物について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0049】
(合成例7:比較例化合物の合成)
プロピレンオキシドとエチレンオキシドの平均付加モル数以外は、合成例6と同様の方法で化合物を合成した。得られた比較例化合物について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0050】
合成例1~7のクロマトグラムから求められるMz/Mw、化合物の特性を表1に示す。ただし、水酸基価はJIS K-1557-1に準拠して測定したものであり、分子量は水酸基価より算出したものである。
【0051】
【0052】
更に、比較例化合物として、市販品である、エチルヘキシルグリセリン(東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0053】
(実施例1~6、参考例、比較例1~2の調製)
表2の通り調合香料を調製した。調製した調合香料を用いて、表3、表4の通り各実施例、比較例組成物を調製した。表3、表4に示した組成で原料を配合し、室温で均一になるまで混合することによって、液状の組成物を得た。
【0054】
【0055】
(初期の香調バランスの持続性)
初期の香調バランスの持続性について官能評価を行った。表3,表4の通り調製した試料を直径55mmのろ紙に0.5g滴下し、ろ紙から蒸発する香りをかいだ。その後、25℃の室内に90分静置し、再度ろ紙から蒸発する香りをかいだ。滴下直後と90分後の香調のバランスを比較し、下記評点基準により3段階で評価した。10名の合計点を算出し、以下の評価基準により評価した
評点基準
3点: 滴下直後と90分後の香調のバランスに差がない
2点: 滴下直後と90分後の香調のバランスにほとんど差がない
1点: 滴下直後と90分後の香調のバランスに差がある
評価基準
◎: 25点以上
○: 20点以上、25点未満
△: 15点以上、20点未満
×: 15点未満
【0056】
(低温下と高温下での香調のバランス)
低温下と高温下での香調のバランスについて官能評価を行った。表3,表4の通り調製した試料を直径55mmろ紙へ0.5g滴下した。試験用のろ紙を各試料ごとに2枚準備し、50mLスクリュー管に封入した。4℃、40℃の恒温槽にそれぞれ5分静置した後、ヘッドスペースの香りをかいだ。4℃、40℃に静置したそれぞれの試料の香調のバランスを比較し、下記評点基準により3段階で評価した。10名の合計点を算出し、以下の評価基準により評価した
評点基準
3点: 低温下と高温下での香調のバランスに差がない
2点: 低温下と高温下での香調のバランスにほとんど差がない
1点: 低温下と高温下での香調のバランスに差がある
評価基準
◎: 25点以上
○: 20点以上、25点未満
△: 15点以上、20点未満
×: 15点未満
【0057】
【0058】
【0059】
実施例1~6より、本発明の実施例組成物は、初期の香調バランスの持続性、低温下と高温下での香調のバランスに優れていた。
これに対して、比較例1~2から明らかなように、本発明の保香剤に該当しない比較例化合物や、比較例物質は、初期の香調バランスの持続性、低温下と高温下での香調のバランスを満たさなかった。