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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ガス供給装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20240905BHJP
   H01J 65/00 20060101ALI20240905BHJP
   H01J 61/33 20060101ALI20240905BHJP
   H01J 61/35 20060101ALI20240905BHJP
   B08B 5/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B01J19/12 C
H01J65/00 D
H01J61/33 F
H01J61/35 F
B08B5/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019237847
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021104496
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 章弘
(72)【発明者】
【氏名】常喜 祥子
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-158796(JP,A)
【文献】国際公開第98/007503(WO,A1)
【文献】特開2005-052469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02
B01J 14/00-19/32
B01J 9/00- 9/22
H01J 65/00
H01J 61/33
H01J 61/35
B08B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光が照射された後のガスを対象物に対して吹き付けることで、対象物に対する処理を行うガス供給装置であって、
ラジカル源となる原料物質を含有する原料ガスが流入されるガス流入口と、
前記ガス流入口から流入された前記原料ガスが通流するガス通流路と、
前記ガス通流路内の照射領域に向かって紫外光を発する光源と、
前記紫外光が照射された後の前記原料ガスである処理後ガスを外部に流出させるガス流出口と、
前記ガス流出口に対向する面である対象面に向かう前記紫外光の進行を抑制する遮光部とを備え、
前記光源は発光管を有してなり、
前記遮光部は、少なくとも前記発光管の前記対象面に近い側の側面に形成されていることを特徴とする、ガス供給装置。
【請求項2】
前記光源は、前記ガス流入口から前記ガス流出口に向かう第一方向に直交する第二方向を長手方向とする形状を呈し、前記第二方向に沿って延在する発光面を有していることを特徴とする、請求項1に記載のガス供給装置。
【請求項3】
前記遮光部は前記第二方向に延在することを特徴とする、請求項2に記載のガス供給装置。
【請求項4】
前記光源を内蔵する筒状の筐体を有し、
前記ガス通流路は、前記筐体の内壁に囲まれた領域に形成され、
前記ガス流出口は、前記筐体の面のうちの前記対象面に対向する面に、前記第二方向に沿って延伸する開口部からなり、
前記ガス流入口は、前記筐体の面のうち前記ガス流入口が形成されている面とは異なる面に、前記第二方向に沿って延伸する開口部からなることを特徴とする、請求項2又は3に記載のガス供給装置。
【請求項5】
前記光源は、前記ガス流入口から前記ガス流出口に向かう第一方向を長手方向とする形状を呈し、前記第一方向に沿って延在する発光面を有していることを特徴とする、請求項1に記載のガス供給装置。
【請求項6】
前記ガス通流路が、前記発光面に囲まれた領域、又は複数の前記発光面に挟まれた領域に形成されていることを特徴とする、請求項5に記載のガス供給装置。
【請求項7】
前記光源を内蔵する筒状の筐体を有し、
前記ガス通流路が、前記発光面と前記筐体の内壁とに挟まれた領域に形成されていることを特徴とする、請求項5に記載のガス供給装置。
【請求項8】
前記遮光部は、前記紫外光に対して反射性を示す反射部材からなることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項9】
前記光源から出射される前記紫外光は、主たる発光波長が230nm未満であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項10】
前記原料物質が、酸素原子を含む物質であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス供給装置に関し、より詳細には、紫外光が照射された後のガスを対象物に対して吹き付けることで、対象物に対する処理を行うための、ガス供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物の表面に付着した有機化合物を除去することを目的として、ガスに対して真空紫外光を照射することで当該ガスを活性化し、この活性化したガスを対象物の表面に吹き付ける技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-98357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、樹脂材料からなる対象物に対しても、表面処理を行いたいという事情がある。例えば、前記対象物に対して活性化したガスを吹き付けることで、対象物にカルボニル基やヒドロキシ基が導入され、親水性を付与することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された装置によれば、一部の真空紫外光が対象物にも照射されてしまう結果、対象物を構成する樹脂の分子構造が分解されるおそれがある。この結果、対象物に対して充分な親水性を付与できない場合があるという課題がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、樹脂材料からなる対象物に対して、より効果的な表面処理が可能な、ガス供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガス供給装置は、
ラジカル源となる原料物質を含有する原料ガスが流入されるガス流入口と、
前記ガス流入口から流入された前記原料ガスが通流するガス通流路と、
前記ガス通流路内の照射領域に向かって紫外光を発する光源と、
前記紫外光が照射された後の前記原料ガスである処理後ガスを外部に流出させるガス流出口と、
前記ガス流出口に対向する面である対象面に向かう前記紫外光の進行を抑制する遮光部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本明細書中において、「ラジカル」とは、不対電子を持つ化学種(原子、分子)を総称した概念を指す。これらの一例として、O(3P)、ヒドロキシラジカル(・OH)、水素ラジカル(・H)、・NH2、・NHなどが挙げられる。このうち、ラジカルとしてO(3P)が予定されている場合、原料物質は酸素原子を含む物質であり、原料ガスとしては例えば酸素を含む混合ガスや空気が挙げられる。
【0009】
上記ガス供給装置によれば、対象面に向かう紫外光の進行を抑制する遮光部が備えられているため、前記対象面が、樹脂材料からなる対象物の表面である場合であっても、ラジカルを含む処理後ガスが吹き付けられる一方、紫外光の照射は抑制される。これにより、対象物に対して所望の表面処理を行うことができる。
【0010】
樹脂表面に親水性の官能基が多く付与されると、紫外光の照射によって樹脂の主鎖が分解されやすくなり、樹脂表面が荒れたり、親水性が低下するおそれがある。しかし、上記の構成によれば、対象物に対して親水性を付与するための表面処理の目的で用いられる場合であっても、対象物の表面に対して照射される紫外光の光量を大きく低下できるため、表面の荒れや親水性の低下という現象の発現を抑制できる。
【0011】
前記遮光部としては、紫外光を反射する材料で構成されていても構わないし、紫外光を吸収する材料で構成されていても構わない。遮光部の具体的な材料としては、Al、Al合金、ステンレス、シリカ、シリカアルミナなどの部材、誘電体多層膜などからなるフィルタなどの紫外光に対して反射特性を示す材料や、その他一般的な金属、金属酸化物、又は樹脂などの紫外光に対して吸収特性を示す材料を利用することができる。
【0012】
前記光源は発光管を有してなり、
前記遮光部は、少なくとも前記発光管の前記対象面に近い側の側面に形成されているものとしても構わない。
【0013】
例えば、発光管が、ガス流入口からガス流出口に向かう第一方向を長手方向とした形状を呈している場合には、ガス流出口側の端部に係る面(側面)に遮光部が形成されているものとして構わない。また、例えば、発光管が、前記第一方向に直交する方向である第二方向を長手方向とした形状を呈している場合には、第二方向に延伸する発光管の面のうち、ガス流出口の側に対向する領域に遮光部が形成されているものとして構わない。
【0014】
一例として、前記光源は、前記ガス流入口から前記ガス流出口に向かう第一方向に直交する第二方向を長手方向とする形状を呈し、前記第二方向に沿って延在する前記発光面を有しているものとしても構わない。この場合において、前記遮光部は前記第二方向に延在するものとして構わない。
【0015】
上記構成において、前記ガス供給装置は、前記光源を内蔵する筒状の筐体を有し、
前記ガス通流路は、前記筐体の内壁に囲まれた領域に形成され、
前記ガス流出口は、前記筐体の面のうちの前記対象面に対向する面に、前記第二方向に沿って延伸する開口部からなり、
前記ガス流入口は、前記筐体の面のうち前記ガス流入口が形成されている面とは異なる面に、前記第二方向に沿って延伸する開口部からなるものとして構わない。
【0016】
別の一例として、前記光源は、前記ガス流入口から前記ガス流出口に向かう第一方向を長手方向とする形状を呈し、前記第一方向に沿って延在する前記発光面を有しているものとして構わない。
【0017】
この場合、前記ガス通流路が、前記発光面に囲まれた領域、又は複数の前記発光面に挟まれた領域に形成されているものとしても構わない。また、別の態様として、前記ガス供給装置は、前記光源を内蔵する筒状の筐体を有し、前記ガス通流路が、前記発光面と前記筐体の内壁とに挟まれた領域に形成されているものとしても構わない。
【0018】
前記光源から出射される前記紫外光は、主たる発光波長が230nm未満であるものとしても構わない。
【0019】
本明細書において、「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。例えば所定の発光ガスが封入されているエキシマランプなどのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ光強度を示す光源においては、通常は、相対強度が最も高い波長(主ピーク波長)をもって、主たる発光波長として構わない。
【0020】
上記光源としては、例えば、発光ガスとして、Xe、Ar、Kr、ArBr、ArF、KrCl、及びKrBrからなる群に属する少なくとも一種の材料を含むガスを採用した、エキシマランプとすることができる。例えば、発光ガスとしてXeを含むエキシマランプによれば、紫外光の主たる発光波長が172nmである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のガス供給装置によれば、樹脂材料からなる対象物に対して、より効果的な表面処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ガス供給装置の一構成例を模式的に示す断面図である。
図2図1に示すガス供給装置が備える光源の構成例を模式的に示す断面図である。
図3】Xeを含む発光ガスが封入されたエキシマランプの発光スペクトルと、酸素(O2)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
図4】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図5】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図6A図5に示すガス供給装置が備える光源の構成例を模式的に示す断面図である。
図6B図5に示すガス供給装置が備える光源の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図7】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図8A】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図8B図8Aに示すガス供給装置を、図8Aとは異なる平面で切断したときの模式的な平面図である。
図8C図8Aに示すガス供給装置を、図8Aとは異なる平面で切断したときの模式的な平面図である。
図9】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図10】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図11】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図12】ガス供給装置の別の構成例を模式的に示す断面図である。
図13】参考例のガス供給装置の構成を模式的に示す断面図である。
図14】実施例と参考例のガス供給装置を用いて対象物を処理したときの、対象物の表面における水接触角の変化の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るガス供給装置の実施形態につき、以下において説明する。なお、以下の各図は、あくまで模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比とは一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0024】
《構造》
図1は、ガス供給装置の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。図1に示すガス供給装置1は、筒状の筐体3と、筐体3内に配置された光源5と、処理対象となる原料ガスG1が流入されるガス流入口11と、この原料ガスG1が通流するガス通流路10とを備える。また、ガス供給装置1は、ガス通流路10に連絡され、ガス流入口11とは反対側の端部(後述する対象物40側の端部)に、ガス流出口12を備える。
【0025】
ガス供給装置1は、ガス通流路10内を通流する原料ガスG1に対して、光源5から発せされた紫外光L1を照射し、原料ガスG1に含まれるラジカル源となる原料物質に対して光化学反応を生じさせ、ラジカルを含む処理後ガスG2を生成して外部に排出する。ガス流出口12に対向する位置には、表面処理を行う対象となる対象物40が載置されており、この対象物40の表面(対象面)40aに対して、ラジカルを含む処理後ガスG2が吹き付けられる。すなわち、ガス供給装置1は、対象物40に対して表面処理を行うために、ラジカルを含むガス(処理後ガスG2)を生成して装置外に排出する装置である。
【0026】
ここで、原料ガスG1は、ラジカル源となる原料物質を含有するガスである。一例として、ラジカルとしてO(3P)が予定されている場合、原料物質は酸素原子を含む物質であり、原料ガスとしては例えば酸素を含む混合ガスや空気が挙げられる。ガス供給装置1に導入される原料ガスG1の種類は、生成したいラジカルに応じて適宜選択されるものとして構わない。
【0027】
光源5は、ガス通流路10に向かって紫外光L1を発する発光面5aを有する。この発光面5aは、ガス通流路10の形状に沿って、言い換えれば、原料ガスG1(又は処理後ガスG2)の通流方向に沿って形成されている。
【0028】
更に、図1に示すガス供給装置1において、光源5は、方向d2(以下、「第二方向d2」と称する。)を長手方向として延在する形状を呈している。ガス流入口11は、筐体3の対象物40とは反対側の面において、第二方向d2に延伸する開口部で構成されている。第二方向d2に延伸して開口されてなるガス流入口11から流入された原料ガスG1は、方向d3(以下、「第三方向d3」と称する。)、及び方向d1(以下、「第一方向d1」と称する。)に進行しながら、紫外光L1が照射された後、ガス流出口12から排出される。
【0029】
本実施形態では、光源5の例として、エキシマランプが採用される。この場合の構造の一例について、図2を参照して説明する。図2は、光源5を、第一方向d1及び第三方向d3で形成される平面(以下、「平面D13」と称する。)で切断したときの模式的な断面図である。
【0030】
図2に示す光源5は、第二方向d2に見たときに矩形状を呈し、第二方向d2に沿って延伸する発光管21を有する。発光管21の一方の外表面には第一電極31が配設され、発光管21の外表面であって第一電極31と対向する位置は第二電極32が配設される。第一電極31及び第二電極32のうち、少なくともガス通流路10側に位置する電極(ここでは第一電極31)は、紫外光L1が発光管21の外側に出射することへの妨げにならないよう、メッシュ形状(網目形状)又は線形状を呈している。これらの電極(31,32)には、不図示の給電線が接続されている。
【0031】
発光管21の第二電極32側の面、より詳細には、対象面40aに対向する面には、遮光部6が設けられている。この遮光部6は、紫外光L1を実質的に透過しない材料であればよく、例えば紫外光L1に対して反射性を有していても構わないし、吸光性を示していても構わない。なお、「実質的に透過しない」、とは、遮光部6に対して光を入射したときに、入射光量に対する遮光部6を透過した光の光量の比率が1/e(eはネイピア数)未満(約37%未満)であるものを指す。
【0032】
第二電極32は、好ましくは膜形状を呈しているが、メッシュ形状(網目形状)又は線形状を呈していても構わない。少なくとも後者の場合には、遮光部6は、図2に示すように、第二電極32を覆うように設けられる。一方、前者の場合であって、且つ第二電極32が紫外光L1を実質的に透過しない材料からなる場合には、発光管21の対象面40a側に位置する側面のうち、第二電極32が形成されていない領域にのみ設けられているものとしても構わない。この遮光部6の機能については後述される。
【0033】
発光管21は、合成石英ガラスなどの誘電体からなり、第一電極31と第二電極32とで挟まれた内部空間において発光空間が形成される。この発光空間内には、放電によってエキシマ分子を形成する発光ガス23Gが封入されている。
【0034】
なお、発光ガス23Gの材料によって、発光管21から発せられる紫外光L1の波長が決定される。言い換えれば、紫外光L1として得たい波長に応じて、発光ガス23Gの材料は適宜選択される。発光ガス23Gとしては、例えば、Xe、Ar、Kr、ArBr、ArF、KrCl、及びKrBrからなる群に属する少なくとも一種の材料を含むガスとすることができる。これらの材料によって発光ガス23Gを実現した場合、紫外光L1の主たる発光波長は、230nm未満となる。
【0035】
エキシマランプで構成された光源5は、不図示の点灯電源から給電線を介して第一電極31と第二電極32との間に、例えば50kHz~5MHz程度の高周波の交流電圧が印加されると、発光ガス23Gに対して、発光管21を介して前記電圧が印加される。このとき、発光ガス23Gが充填されている放電空間内で放電プラズマが生じ、発光ガス23Gの原子が励起されてエキシマ状態となり、この原子が基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる。発光ガス23Gとして、上述したキセノン(Xe)を含むガスを用いた場合には、このエキシマ発光は、172nm近傍にピーク波長を有する紫外光L1となる。
【0036】
上述したように、発光管21の、ガス通流路10の側の面にはメッシュ形状又は線形状を呈した第一電極31が形成されている。このため、第一電極31には隙間が存在し、紫外光L1はガス通流路10に向かって照射される。すなわち、光源5は、第二方向d2に沿って延在する発光管21の面によって形成される発光面5a(図1参照)を有する。
【0037】
図3は、Xeを含む発光ガス23Gが封入されたエキシマランプで構成された光源5の発光スペクトルと、酸素(O2)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。図3において、横軸は波長を示し、左縦軸はエキシマランプの光強度の相対値を示し、右縦軸は、酸素(O2)の吸収係数を示す。
【0038】
エキシマランプの発光ガス23GとしてXeを含むガスを用いる場合、図3に示されるように、光源5から出射される紫外光L1は、主たる発光波長が172nmであり、およそ160nm以上190nm以下の範囲内に帯域を有する。
【0039】
原料ガスG1として酸素(O2)を含むガスが採用された場合、光源5から出射された波長λの紫外光L1が照射され、酸素(O2)に吸収されると、以下の(1)式及び(2)式の反応が進行する。(1)式において、O(1D)は、励起状態のO原子であり、極めて高い反応性を示す。O(3P)は基底状態のO原子である。(1)式と(2)式の反応は、紫外光L1の波長成分に応じて生じる。
2 + hν(λ) → O(1D) + O(3P) ‥‥(1)
2 + hν(λ) → O(3P) + O(3P) ‥‥(2)
【0040】
すなわち、原料ガスG1に対して紫外光L1が照射されると、O(1D)やO(3P)といったラジカルを含む処理後ガスG2が生成される。光源5の発光面5aは、通流方向に沿って延在するため、処理後ガスG2がガス通流路10内を通流中も、引き続き紫外光L1が照射される。このため、処理後ガスG2に含まれる、未反応のラジカル源となる原料物質に対しても、次々と光化学反応が生じる。これにより、処理後ガスG2は、ラジカルを高濃度で含んだ状態のまま、ガス流出口12の近傍まで進行する。
【0041】
よって、図1に示すように、ガス流出口12に対向する位置に対象物40が載置されると、ガス流出口12から排出されたラジカルを含む原料ガスG1が、この対象物40の面(対象面40a)に対して吹き付けられる。これにより、対象面40aに対して処理が施される。
【0042】
また上述したように、本実施形態のガス供給装置1によれば、対象面40aに対向する位置には遮光部6が設けられている。このため、光源5から出射される紫外光L1が対象面40aに対して照射されるのが抑制でき、対象物40が樹脂材料からなる場合であっても、樹脂を構成する分子構造が紫外光L1によって分解されにくくなる。この結果については、実施例を参照して後述される。
【0043】
《変形例》
ガス供給装置1の構造は、種々の変形が可能である。以下、これらの構成例について説明する。
【0044】
〈1〉図4に示すように、ガス流入口11とガス流出口12とは、第一方向d1に関して対向する位置に配置されて、これらの間に光源5が配置されているものとしても構わない。この場合、光源5の面のうち、第一方向d1に関してガス流出口12と対向する領域には、遮光部6が設けられているものとして構わない。かかる構成によっても、光源5から出射された紫外光L1が、ガス流出口12を介して対象面40aに照射されることを抑制できる。
【0045】
〈2〉本発明において、ガス供給装置1が備える光源5の形状は限定されない。例えば、図5に示すように、第二方向d2から見たときに、光源5が円形状を呈しているものとしても構わない。このような光源5の具体的な構造の一例を図6A及び図6Bに示す。
【0046】
図6Aに示す光源5は、いわゆる「二重管構造」と呼ばれるエキシマランプである。より詳細には、光源5は、第二方向d2に延伸する発光管21を有し、この発光管21は、円筒形状を呈し外側に位置する外側管21aと、外側管21aの内側において外側管21aと同軸上に配置されており、外側管21aよりも内径が小さい円筒形状を呈した内側管21bとを有する。外側管21aと内側管21bとは、共に第二方向d2に係る端部において封止されている(不図示)。外側管21aと内側管21bの間には、第二方向d2から見たときに円環形状を呈する発光空間が形成され、この発光空間内に発光ガス23Gが封入されている。
【0047】
そして、第一電極31が外側管21aの外壁面上に配設され、第二電極32が内側管21bの内壁面上に配設されている。発光管21内で発生した紫外光L1を発光管21の外側に進行させるため、第一電極31はメッシュ形状又は線形状を呈している。なお、第二電極32は、膜形状を呈していても構わないし、第一電極31と同様にメッシュ形状又は線形状であっても構わない。
【0048】
図6Bに示す光源5は、いわゆる「一重管構造」と呼ばれるエキシマランプである。より詳細には、光源5は、第二方向d2に延伸する発光管21を有している。発光管21は、第二方向d2に係る端部において封止されており(不図示)、内側の空間内には発光ガス23Gが封入されている。そして、発光管21の内側(内部)には第二電極32が配設され、発光管21の外壁面には、網目形状又は線形状の第一電極31が配設される。
【0049】
〈3〉図7に示すように、ガス流出口12は、第一方向d1及び第三方向d3がなす平面(平面D13)に関して、光源5の外側に設けられていても構わない。この場合も、光源5の対象面40a側の面には、遮光部6が設けられているため、対象面40aに向かって紫外光L1が進行することが抑制される。
【0050】
〈4〉上記各実施形態では、光源5が第二方向d2に沿って延在するものとして説明した。しかし、ガス流入口11からガス流出口12に向かう第一方向d1に沿って、光源5が延在するものとしても構わない。
【0051】
図8Aは、ガス供給装置1の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。また、図8Bは、図8Aに示すガス供給装置1を、図8Aとは異なる平面である、第二方向d2及び第三方向d3がなす平面(以下、「平面D23」と称する。)で切断したときの模式的な断面図である。
【0052】
図8A及び図8Bに示すガス供給装置1が備える光源5は、第一方向d1に沿って延伸する発光管21を有する。なお、この光源5は、図6Aを参照して上述したのと同様に、二重管構造のエキシマランプに対応する。ただし、図6Aに示す構造とは異なり、内側管21bの内側に形成されている中空の筒状空間が、ガス通流路10を構成する。すなわち、図8Aに示すガス供給装置1では、発光管21の内側に向かって紫外光L1が進行する。よって、図6Aに示す構造とは異なり、第二電極32がメッシュ形状又は線形状を呈する。
【0053】
なお、第一電極31については、膜形状を呈していても構わないし、メッシュ形状や線形状を呈していても構わない。前者の場合には第一電極31が紫外光L1に対して反射性を示す金属材料で構成されるのが好ましい。また、後者の場合には、図8Cに示すように、第一電極31と筐体3の間に、紫外光L1を反射する反射部材33を備えるものとしても構わない。この反射部材33は、紫外光L1に対する高い反射率(例えば80%以上)を示す材料で構成されており、例えば、Al、Al合金、ステンレス、シリカ、シリカアルミナなどを利用することができる。これらの場合、発光管21から外側に進行する紫外光L1を、発光管21の内側に構成されるガス通流路10側に導くことができ、原料ガスG1に対する紫外光L1の照射光量が向上する。
【0054】
図8Aに示すガス供給装置1は、光源5のガス流出口12側の端部に遮光部6を有する。これにより、発光管21から第一方向d1に進行した紫外線L1が対象面40aに照射されることが抑制される。
【0055】
また、ガス流入口11からガス流出口12に向かう第一方向d1に沿って光源5が延在する場合においても、光源5の外側にガス通流路10が形成されているものとしても構わない(図9参照)。この場合においても、光源5のガス流出口12側の端部に遮光部6が設けられることで、対象面40aに向かって紫外光L1が進行することが抑制される。なお、この図9に示すガス供給装置1が備える光源5としては、上述した各タイプのエキシマランプを使用することができる。
【0056】
〈5〉ガス供給装置1は、複数の光源5を備えるものとしても構わない(図10図11参照)。例えば、図10に示すガス供給装置1は、第二方向d2に沿って延在する発光面5aを有した光源5を4つ備え、それぞれの光源5に挟まれた領域にガス通流路10が形成されている。各光源5は、対象面40a側の面において遮光部6が設けられている。
【0057】
また、図11に示すガス供給装置1は、第二方向d2に沿って延在する発光面5aを有した光源5を3つ備え、それぞれの光源5に挟まれた領域、及び光源5と筐体3に囲まれた領域にガス通流路10が形成されている。図11に示す光源5は、図5に示す光源5と同様に、第二方向d2から見たときに円形状を示しており、対象面40aに対向する領域に遮光部6が設けられている。
【0058】
図10に示すガス供給装置1は複数のガス流入口11を備え、ガス流入口11毎に、それぞれのガス流入口11から流入した原料ガスG1が通流するガス通流路10が設けられている。また、紫外光L1が照射された処理後ガスG2を流出させるガス流出口12が、ガス通流路10毎に設けられている。
【0059】
図11に示すガス供給装置1は、図10に示すガス供給装置1と同様に複数のガス流入口11を備えているが、流入された原料ガスG1は、ガス通流路10内で合流可能に構成されている。ガス通流路10を通流している間に、原料ガスG1は光源5からの紫外光L1が照射されて、ラジカルを含む処理後ガスG2として、ガス流出口12から対象物40に向かって吹き付けられる。
【0060】
ガス供給装置1が複数の光源5を備える場合においても、上述した実施形態と同様に、各光源5は、対象物40に対向する側に遮光部6が設けられているため、光源5から出射された紫外光L1が対象物40に照射される事態が抑制されている。
【0061】
なお、図10に示すガス供給装置1において、各光源5は第一方向d1に沿って延在する発光面5aを有する構成としても構わない。この場合、各光源5は、第一方向d1を長手方向とする形状を呈する。また、図10及び図11に示すガス供給装置1が備える光源5の数は任意である。
【0062】
〈6〉上記各実施形態において、ガス通流路10は、ガス流出口12側の端部において、ガス流入口11に近い位置(すなわち上流側)と比較して、流路断面積が小さい通流領域(狭小部)を有しているものとしても構わない。例えば、図12に示すガス供給装置1は、ガス流出口12側の端部において、流路断面積が連続的に縮小する狭小部13を備えている。
【0063】
ガス通流路10内を通流する原料ガスG1は、光源5からの紫外光L1が照射されることで、ラジカルを含む状態となる(処理後ガスG2)。この処理後ガスG2は、狭小部13に到達すると、狭小部13内を通流時に流速を速めながらガス流出口12に向かって進行した後、ガス流出口12から対象物40に向かって排出される。
【0064】
酸素ラジカル(O(3P))は、周囲に酸素ガス(O2)が存在すると、これに反応して、(3)式に従ってオゾン(O3)を生成する。かかる反応が生じると、O(3P)の濃度が低下してしまう。
O(3P) + O2 → O3 ‥‥(3)
【0065】
しかし、上記の構成によれば、ガス流出口12から排出される際に処理後ガスG2の流速が速められるため、上記(3)式の反応が充分進行しない時間内に、対象物40の表面(対象面40a)に到達することができる。この結果、対象面40aに対してラジカルを高濃度に含んだ状態で処理後ガスG2を吹き付けることができる。
【0066】
〈7〉上述した各構成例を相互に応用してガス供給装置1を実現しても構わない。
【0067】
《検証》
実施例及び参考例のガス供給装置を用いて、樹脂製の対象物40の表面を処理したときの、対象物40の表面(対象面40a)の親水性の程度を比較した。
【0068】
(実施例)
図8Aに示すガス供給装置1が採用された。具体的な条件は以下の通りである。
・光源5は、第一方向d1に係る長さが50mmの筒状体の側面形状を呈した発光面5aを有した、Xeエキシマランプであった(主たるピーク波長が172nm)。発光面5aに囲まれてなる領域(ガス通流路10)は、直径5mmの円形状であった。
・ガス流入口11及びガス流出口12は、いずれもガス通流路10と同じく直径5mmの円形状であった。
・光源5を構成する発光管21(図8B参照)の、ガス流出口12側の端部から1mmの間の領域に、ステンレス製の遮光部6が設けられていた。
【0069】
(参考例)
遮光部6を備えない点を除き、実施例と共通の条件とされた。参考例のガス供給装置100の模式的な構造を図13に示す。
【0070】
(実験内容)
実施例及び参考例のガス供給装置1において、いずれも発光面5aにおける照度50mW/cm2で紫外光L1をガス通流路10に対して照射しながら、99.5%の窒素ガスと0.5%の酸素ガスの混合ガスからなる原料ガスG1を、流量30L/min でガス流入口11から流入させた。そして、ガス流出口12からの離間距離が10mmの位置において、対象物40としての10mm×10mm×1mmの直方体形状のポリプロピレン製の樹脂板を、第三方向d3の向きに20mm/秒の速度で往復させた。対象物40がガス流出口12の直下を5回通過するたびに、対象物40の表面の水接触角を、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠した方法で測定した。
【0071】
図14は、上記実験結果を示すグラフである。なお、図14において、横軸は処理後ガスG2が吹き付けられた回数であり、縦軸は水接触角である。図14によれば、実施例及び参考例の双方とも、処理後ガスG2の吹付けが開始された直後は、徐々に水接触角が低下しており、親水性が付与され始めていることが分かる。しかし、参考例は、吹付け回数が10回を超えたあたりから、水接触角が上昇をし始めており、親水性が低下し始めていることが確認される。これに対し、実施例では、水接触角が引き続き低下傾向にあり、対象物40に対して高い親水性が付与されていることが分かる。
【0072】
上記の実験からは、参考例の場合には、光源5から出射された一部の紫外光L1が、樹脂製の対象物40に対して照射されることで、樹脂を構成する分子構造が分解され、親水性が低下したものと考えられる。この現象が生じた理由につき、本発明者らは、最表面の領域に導入されていた親水基を含む分子構造が分解されて気化された結果、それよりも下層に位置する、親水性の低い領域が最表面に現れたことで、親水性が低下したものと推察している。
【0073】
一方、実施例の場合には、ガス流出口12側において紫外光L1の進行を抑制する遮光部6が設けられていたため、樹脂の分子構造の分解が進行せず、対象面40aに対して親水基が導入された状態が維持されたものと考えられる。
【0074】
《別実施形態》
遮光部6は、光源5から出射される紫外光L1が対象物40の面(対象面40a)に対して照射されるのを抑制する目的で設けられる。かかる観点から、遮光部6は、少なくとも光源5と対象面40aとの間に介在していればよい。すなわち、遮光部6は、必ずしも光源5の面に形成されていなくても構わない。
【0075】
また、本発明に係るガス供給装置1は、樹脂製以外の対象物40に対する処理に利用することも可能である。本発明は、ガス供給装置1が、樹脂製以外の対象物40に対する表面処理に利用されることを排除するものではない。
【符号の説明】
【0076】
1 :ガス供給装置
3 :筐体
5 :光源
5a :発光面
6 :遮光部
10 :ガス通流路
11 :ガス流入口
12 :ガス流出口
13 :狭小部
21 :発光管
21a :外側管
21b :内側管
23G :発光ガス
31 :第一電極
32 :第二電極
33 :反射部材
40 :対象物
40a :対象面
100 :ガス供給装置
G1 :原料ガス
G2 :処理後ガス
L1 :紫外光
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14