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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電子源およびイオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/06 20060101AFI20240905BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01J37/06 Z
H01J37/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021019225
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022122125
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 裕章
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-281221(JP,A)
【文献】特開平02-075131(JP,A)
【文献】特表2017-502469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/06
H01J 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部でプラズマが生成されるプラズマ生成容器に向けて熱電子を放出する電子放出面を有するカソードを備える電子源であって、
前記カソードの外部に配置された熱源と、
前記カソードと同電位とされており、前記電子放出面の外縁の少なくとも一部を前記電子放出面から離間した状態で覆うカバー部を有するカバー部材と、を備え、
前記カソードは、前記電子放出面に対する裏面側に形成され、前記熱源に加熱される被加熱面を有し、
前記カソードは、前記カバー部に覆われる第一の領域と、前記カバー部に覆われない第二の領域と、を有し、
前記カソードは、
前記第二の領域が、前記第一の領域に対して、前記カソードから前記プラズマ生成容器に向かう方向に沿った、前記被加熱面から前記電子放出面までの厚さ寸法が小さい領域を有する、または、前記第二の領域が、前記第一の領域に対して、前記方向に沿った、前記熱源から前記被加熱面までの距離が短い領域を有し、
前記第二の領域における前記電子放出面が、前記第一の領域における前記電子放出面よりも高温となって前記熱電子を放出し得る、電子源。
【請求項2】
記第二の領域は、電子放出面の外縁から中心に向かうにつれて、前記電子放出面から前記被加熱面までの厚さ寸法を次第に小さくするように形成される請求項1に記載の電子源。
【請求項3】
前記カバー部は、板状に形成されるとともに、前記カバー部材の外方で前記カバー部と最も近接する位置に配置された部材に沿うよう位置付けられており、前記部材はアノード電極である請求項1または2に記載の電子源。
【請求項4】
内部でプラズマが生成されるプラズマ生成容器と、前記プラズマ生成容器に取り付けられ、前記プラズマ生成容器に向けて熱電子を放出する電子放出面を有するカソードと、を備えるイオン源であって、
前記カソードの外部に配置された熱源と、
前記カソードと同電位とされており、前記電子放出面の外縁の少なくとも一部を前記電子放出面から離間した状態で覆うカバー部を有するカバー部材と、を備え、
前記カソードは、前記電子放出面に対する裏面側に形成され、前記熱源に加熱される被加熱面を有し、
前記カソードは、前記カバー部に覆われる第一の領域と、前記カバー部に覆われない第二の領域と、を有し、
前記カソードは、
前記第二の領域が、前記第一の領域に対して、前記カソードから前記プラズマ生成容器に向かう方向に沿った、前記被加熱面から前記電子放出面までの厚さ寸法が小さい領域を有する、または、前記第二の領域が、前記第一の領域に対して、前記方向に沿った、前記熱源から前記被加熱面までの距離が短い領域を有することによって、
前記第二の領域における前記電子放出面が、前記第一の領域における前記電子放出面よりも高温となって前記熱電子を放出し得る、イオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子源およびイオン源に関し、特に内部でプラズマが生成されるプラズマ生成容器に電子を供給する電子源、および当該電子源を備えるイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
内部でプラズマが生成されるプラズマ生成容器とプラズマ生成容器に電子を供給する電子源を備えたイオン源として、特許文献1に示されたイオン源が知られている。特許文献1のイオン源は、半導体製造工程等で使用されるイオン注入装置においてイオンビームを生成するために使用されるものであり、熱電子を放出するカソードとカソードを外部から加熱するフィラメントを備えている。つまり、特許文献1のイオン源は、カソードから放出された熱電子をプラズマ生成容器に供給することで、プラズマ生成容器に導入された原料ガスを電離させてプラズマを生成するものである。
【0003】
このイオン源においては、カソードの近傍にはカソードに対して正電位に保持されるアノード電極が配置されている。また、アノード電極はカソードから放出された熱電子が通過しうる開口を備えている。より詳細には、カソードおよびアノード電極は、プラズマ生成容器に対し、カソードから放出された熱電子がアノード電極の開口を通過してプラズマ生成容器の内部に到達し得るように位置付けられている。
尚、アノード電極を設けることなく、プラズマ生成容器をカソードに対して正電位に保持することで熱電子がプラズマ生成容器内に供給される構成としてもよい。この場合においても、カソードから放出された熱電子が、プラズマ生成容器またはプラズマ生成容器に取り付けられた部材に形成された開口を通過する構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-183040
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、熱電子を放出するカソードはタングステンやタンタルなどの金属により形成されており、加熱されたカソードからは熱電子が放出されるとともに、カソードを形成する金属も気化して周囲に放出されることになる。また、カソードを形成する金属は、プラズマ生成容器内またはアノード電極付近で生成したプラズマ中の粒子がカソードに衝突し、カソードの表面がスパッタされることによっても周囲に放出される。そして、カソードから周囲に放出された金属粒子は、アノード電極等に形成された熱電子が通過する開口付近に付着して堆積することになる。このようにして、アノード電極等のカソードと電位の異なる部材の開口付近に金属粒子が堆積していくと、当該部材の開口領域を堆積した金属が狭めていくことになる。したがって、カソードから放出された電子がプラズマ生成容器内に十分に到達しにくくなることから、プラズマの生成効率が経時的に低下していく。そこで、プラズマ生成容器内に電子を十分に供給するため、カソードに印加する電圧値を大きくするなどの操作を行うとカソードからの金属の気化が更に促進され、その結果、当該部材の開口付近に金属粒子が堆積する速度が速まることになる。さらには、当該部材の開口付近において、堆積した金属によって当該部材とカソードとが近接することで、当該部材とカソードとの間で短絡するおそれもある。
【0006】
このように、従来のイオン源においては、カソードから気化した金属またはカソードからスパッタされた金属がアノード電極等の部材に形成された開口付近に堆積することによって、プラズマの生成効率が経時的に低下し、最終的には当該部材とカソード間の短絡を引き起こすおそれがあった。すなわち、従来のイオン源においては、カソードから気化した金属によるプラズマ生成効率の経時的な低下、および、カソードとカソードの近傍に配置された部材間の短絡によって、カソードからプラズマ生成容器へ長期間にわたって安定して熱電子を供給することができなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、カソードからプラズマ生成容器に長期間にわたって安定して熱電子を供給できる電子源およびイオン源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における電子源は、内部でプラズマが生成されるプラズマ生成容器に向けて熱電子を放出する電子放出面を有するカソードを備える電子源であって、前記カソードと同電位とされており、前記電子放出面の外縁の少なくとも一部を覆うカバー部を有するカバー部材をさらに備え、前記カソードは、前記カバー部に覆われる第一の領域と、前記第一の領域に対して前記電子放出面が高温となって前記熱電子を放出し得る第二の領域を有するよう形成されている。
【0009】
この構成によれば、本発明の電子源は、電子放出面の外縁の少なくとも一部を覆うカバー部を有するカバー部材を備えていることから、カソードからカソードを形成する金属が放出された場合には、当該金属の少なくとも一部はカバー部に堆積する。つまり、カバー部によって当該金属がカバー部材の外部に放出されることが抑制される。さらに、カバー部はプラズマ生成容器内のプラズマ中の粒子が電子放出面に到達することを防ぐことから、カソードがプラズマによりスパッタされることで発生する金属粒子も低減される。本発明の電子源においてはさらに、カバー部はカソードと同電位とされていることから、カバー部に当該金属が堆積していく場合であっても、カバー部とカソードとの間で短絡することはない、したがって、本発明の電子源によれば、当該金属が電子源の周囲に堆積することが抑制され、その結果、カソードから放出された金属が電子源の周囲に配置された部材に堆積することによって従来発生していた当該部材とカソード間の短絡が抑制される。
また、カソードは、カバー部に覆われる第一の領域と、第一の領域に対して電子放出面が高温となって熱電子を放出し得る第二の領域を有するよう形成されている。したがって、カバー部に覆われない第二の領域は、第一の領域よりも高温となって相対的により多くの熱電子を放出することから、第一の領域がカバー部に覆われることによってプラズマ生成容器に供給される熱電子が少なくなることを抑制できる。
すなわち、本発明の電子源は、プラズマ生成容器におけるプラズマの生成効率を低下させることなく、長期間にわたって安定して熱電子を供給できることになる。
【0010】
また、本発明の電子源においては、前記カソードは、前記電子放出面に対する裏面側に形成され、前記カソードの外部に配置された熱源により加熱される被加熱面を有し、前記第二の領域は、前記第一の領域に対して、前記電子放出面から前記被加熱面までの厚さ寸法を小さくすることで形成される構成としてもよい。
【0011】
この構成によれば、相対的により多くの熱電子を放出する第二の領域を、第一の領域に対して、カソードの電子放出面から前記被加熱面までの厚さ寸法を小さくすることで形成できる。
【0012】
また、本発明の電子源においては、前記カソードは、前記電子放出面に対する裏面側に形成され、前記カソードの外部に配置された熱源により加熱される被加熱面を有し、前記第二の領域は、前記第一の領域に対して、前記熱源から前記被加熱面までの距離を大きくすることで形成されている構成としてもよい。
【0013】
この構成によれば、相対的により多くの熱電子を放出する第二の領域を、第一の領域に対して、熱源から被加熱面までの距離を大きくすることで形成できる。
【0014】
また、本発明の電子源においては、前記カバー部は、板状に形成されるとともに、前記カバー部材の外方で前記カバー部と最も近接する位置に配置された部材に沿うよう位置付けられている構成としてもよい。
【0015】
この構成によれば、カバー部が板状に形成され、カバー部と最も近接する位置に配置された部材に沿うよう位置付けられていることから、カバー部材の内方の空間をより大きく確保することができる。したがって、カバー部材の内方により大きなカソードを配置することができ、ひとつのカソードをより長時間にわたって使用できるようになる。
【0016】
また、本発明におけるイオン源においては、内部でプラズマが生成されるプラズマ生成容器と、前記プラズマ生成容器に取り付けられ、前記プラズマ生成容器に向けて熱電子を放出する電子放出面を有するカソードと、を備えるイオン源であって、前記カソードと同電位とされており、前記電子放出面の外縁の少なくとも一部を覆うカバー部を有するカバー部材をさらに備え、前記カソードは、前記カバー部に覆われる第一の領域と、前記第一の領域に対して前記電子放出面が高温となって前記熱電子を放出し得る第二の領域を有するよう形成されている。
【0017】
この構成によれば、本発明のイオン源は、電子放出面の外縁の少なくとも一部を覆うカバー部を有するカバー部材を備えていることから、カソードからカソードを形成する金属が放出された場合には、当該金属の少なくとも一部はカバー部に堆積する。つまり、カバー部によって当該金属がカバー部材の外部に放出されることが抑制される。さらに、カバー部はプラズマ生成容器内のプラズマ中の粒子が電子放出面に到達することを防ぐことから、カソードがプラズマによりスパッタされることで発生する金属粒子も低減される。本発明のイオン源においてはさらに、カバー部はカソードと同電位とされていることから、カバー部に当該金属が堆積していく場合であっても、カバー部とカソードとの間で短絡することはない、したがって、本発明の電子源によれば、当該金属が電子源の周囲に堆積することが抑制され、その結果、カソードから放出された金属が電子源の周囲に配置された部材に堆積することによって従来発生していた当該部材とカソード間の短絡が抑制される。
また、カソードは、カバー部に覆われる第一の領域と、第一の領域に対して電子放出面が高温となって熱電子を放出し得る第二の領域を有するよう形成されている。したがって、カバー部に覆われない第二の領域は、第一の領域よりも高温となって相対的により多くの熱電子を放出することから、第一の領域がカバー部に覆われることによってプラズマ生成容器に供給される熱電子が少なくなることを抑制できる。
すなわち、本発明のイオン源は、プラズマ生成容器におけるプラズマの生成効率を低下させることなく、長期間にわたって安定して熱電子を供給できることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子源およびイオン源によれば、カソードからプラズマ生成容器に長期間にわたって安定して熱電子を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態における電子源およびイオン源を示す縦断面図。
図2】本発明の第一変形例を示すイオン源の縦断面図。
図3】本発明の第二変形例を示す電子源の縦断面図。
図4】本発明の第三変形例を示す電子源の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電子源およびイオン源は、半導体製造工程等で使用されるイオンビーム照射装置に使用されるものである。まず、本発明の一実施形態における電子源10および電子源10を備えるイオン源100について説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態におけるイオン源100は、内部でプラズマが生成されるプラズマ生成容器101と、プラズマ生成容器101の内部に電子を供給する電子源10を備えている。プラズマ生成容器101は、全体が略直方体形状をなしており、互いに対向する第一の側壁101aおよび第二の側壁101bを備えている。第一の側壁101aにはプラズマ生成容器101の内部で生成されたプラズマからイオンビームを取り出すための開口であるビーム引出口102が形成されており、ビーム引出口102の外側には不図示の引出電極等から構成される電極群が配置されている。また、第二の側壁101bには、プラズマ生成容器101の内部で生成されるプラズマの原料となる原料ガスが導入されるガス導入口103が形成されている。すなわち、イオン源100は、ガス導入口103を通じて外部から導入された原料ガスを、電子源10から供給される電子により電離させることでプラズマを生成し、不図示の電極群の作用によって、当該プラズマ中の正イオンをイオンビームとしてビーム引出口102から取り出す構成である。
【0022】
プラズマ生成容器101は対向する第一の底壁101cおよび第二の底壁101dを備えており、第一の底壁101cには後述する電子源10の備えるカソード20から放出される熱電子が通過する開口部106aを備える開口部材106が配置されている。また、プラズマ生成容器101の外部には、プラズマ生成容器101内において、第一の底壁101c側から第二の底壁101d側に向かう磁場を生成する不図示の磁石が配置されており、カソード20から放出された熱電子はこの磁場に捕捉されてプラズマ生成容器101内を移動する
【0023】
プラズマ生成容器101の内部には、第二の底壁101d側に反射電極104が配置されており、反射電極104は第二の底壁101dに形成された開口を貫通するように位置付けられた支持部材105によって支持されている。また、プラズマ生成容器101に対して開口部材106の外方にはアノード電極50および電子源10が互いに離間した状態で配置されている。より詳細には、アノード電極50は、電子源10の備えるカバー部材30の一部を収容する開口部50bを有しており、電子源10は、カバー部材30が開口部50bから所定間隔離間するように配置されている。尚、本実施形態における開口部材106は、特許文献1における接地電極に相当するものと考えてもよいが、これに限定されるものではない。また、反射電極104を設けずに、第二の底壁101d側にも電子源10を配置し、第一の底壁101c側および第二の底壁101d側の両側からプラズマ生成容器101内に電子が供給される構成としてもよい。
【0024】
図1に示すように、本実施形態における電子源10は、プラズマ生成容器101の内部に向けて熱電子を放出する電子放出面21aを有するカソード20を備える。また、電子源10は、電子放出面21aの外縁の少なくとも一部を電子放出面21aから離間した状態で覆うカバー部32と、カソード20からわずかに離間した状態でカソード20の周囲を囲う側面部31とを有するカバー部材30をさらに備えている。また、本実施形態におけるカバー部材30は、カソード20の周囲を全域に亘って取り囲むカソードシールであり、カーボンまたは金属により形成され、イオン源100の運転中はカソード20と同電位とされている。尚、本実施形態においては、電子放出面21aの外形は円形であり、カバー部材30の側面部31は円筒形状を成しているが、これらの形状は限定されるものではない。
【0025】
カソード20は、熱電子を放出し得る本体部21と、本体部21のプラズマ生成容器101に対向する側に形成された電子放出面21aと、本体部21の電子放出面21aに対する裏面側に形成され、熱源であるフィラメント40により加熱される被加熱面21bを有している。また、カソード20は被加熱面21bの外縁から立設するように形成された円筒状の側部22を有しており、フィラメント40は、側部22と被加熱面21bにより画成された空間に配置されている。
【0026】
カソード20は、さらに、カバー部材30のカバー部32に覆われる第一の領域A1と、カバー部32に覆われておらず、第一の領域A1に対して電子放出面21aが高温となって熱電子を放出し得る第二の領域B1を有する。第二の領域B1は、第一の領域A1に対して、電子放出面21aの外縁から中心に向かうにつれて、本体部21の電子放出面21aから被加熱面21bまでの厚さ寸法Tを次第に小さくするように形成されており、具体的には、電子放出面21aはカソード20の略円錐形状を成す凹部として形成されている。この形状により、電子放出面21aのうち、第二の領域B1に含まれる領域は、第一の領域A1に含まれる領域よりも被加熱面21bからの距離が短くなって高温になりやすく、熱電子を相対的により多く放出できることになる。
【0027】
カソード20は、フィラメント40により加熱されることでプラズマ生成容器101の内部に向けて電子放出面21aから熱電子を放出するものである。電子源10およびイオン源100の運転中、カソード20は高温となり、カソード20からは、カソード20を形成するタングステン等の金属が気化することによって周囲に放出される。また、プラズマ生成容器101内またはアノード電極50付近で生成したプラズマに含まれる粒子によってカソード20がスパッタされることによってもカソード20を形成する金属粒子が周囲に放出される。これに対し、本実施形態における電子源10およびイオン源100においては、放出された金属の少なくとも一部はカバー部材32の内側に堆積することから、カバー部32によって当該金属が周囲に拡散することが抑制される。
【0028】
仮に、電子源10がカバー部材30を備えていない場合、または、カバー部材30がカバー部32を備えていない場合には、カソード20から放出された金属は、カソード20に最も近接する位置に配置されている部材であるアノード電極50の開口部50bに堆積することになる。したがって、開口部50bの開口領域が堆積した当該金属により狭められていき、カソード20から放出された熱電子がプラズマ生成容器101内に十分に到達しにくくなることから、プラズマ生成容器101内におけるプラズマの生成効率が経時的に低下していく。さらには、アノード電極50にはカソード20と異なる電位が与えられていることから、アノード電極50の開口部50bに当該金属が堆積していくことでアノード電極50とカソード20との距離が経時的に短くなり、最終的には短絡することになる。
【0029】
これに対し、本実施形態の電子源10およびイオン源100においては、カソード20から放出される金属の少なくとも一部はカバー部材31のうち主にカバー部32の内側に付着して堆積することになる。したがって、アノード電極50に当該金属が堆積することが抑制されることから、プラズマ生成容器101内におけるプラズマの生成効率が低下することが抑制され、さらにアノード電極50とカソード20との間で短絡が発生することも抑制される。その結果、本実施形態おける電子源10およびイオン源100においては、プラズマ生成容器101内に長期間にわたって安定して電子を供給することができるようになる。尚、カバー部材30は、カソード20と同電位とされているため、カバー部材30に当該金属が堆積してカソード20と接触した場合であっても短絡することはない。
【0030】
また、カソード20から放出された金属はプラズマ生成容器101の内部における金属汚染の原因となるが、本実施形態の電子源10およびイオン源100においては、カバー部32がプラズマ生成容器101に到達し得る当該金属の少なくとも一部を付着させ、プラズマ生成容器101内に到達することを妨げるため、プラズマ生成容器101の内部における金属汚染を低減させることもできる。
【0031】
また、仮に、電子放出面21a全体が平坦な形状である場合には、電子放出面21aから放出される熱電子の一部がカバー部32に遮られてプラズマ生成容器101の内部に到達することができなくなり、その結果、プラズマ生成容器101に供給される電子の数が低減し、プラズマの生成効率が低下することになる。これに対し、本実施形態の電子源10およびイオン源100においては、カバー部32に覆われない第二の領域B1が第一の領域A1よりも高温となって相対的により多くの熱電子を放出することになることから、全体として第一の領域A1がカバー部32に覆われることによってプラズマ生成容器101に供給される熱電子が少なくなるという事態を回避できる。換言すれば、本実施形態におけるカソード20は、電子放出面21aの第一の領域A1がカバー部32に覆われることでプラズマ生成容器101内に電子を供給できる量が減少する一方で、第一の領域A1と比較してより高温となることで相対的により多くの電子を放出し得る第二の領域B1を有するよう構成されたものである。すなわち、カソード20は、電子放出面21aの一部がカバー部32によって覆われるが、全体としてプラズマ生成容器101内に供給される電子が低減されることがないよう構成されたものである。
【0032】
したがって、本実施形態の電子源10およびイオン源100は、プラズマ生成容器101におけるプラズマの生成効率を低下させることなく熱電子を長期間にわたって安定して供給でき、カソード20から放出された金属による短絡を抑制できるとともに、プラズマ生成容器101におけるプラズマの生成効率を低下させることなく熱電子を供給できる。さらに、プラズマ生成容器101の当該金属による金属汚染を低減することもできる。
【0033】
次に、本実施形態の第一変形例である電子源11および電子源11を備えるイオン源101について説明する。電子源10およびイオン源100と同一の構成については、前述の実施形態と同一の符号を図2に付与し、説明は省略する。
図2に示すように、電子源11は、カソード201と前述の実施形態と同一のカバー部材30を備えており、カソード201は熱電子を放出する電子放出面211aとフィラメント40に加熱される被加熱面211bを有する本体部211を有する。また、電子源11は、被加熱面211bの外側においてカソード201を保持しる円筒状の保持部材231を備えている。すなわち、図1に示すように、電子源10においては、カソード20の側部22と本体部21が一体に形成されているのに対し、本変形例のように、カソード201と、カソード201とは別部材の保持部材231を使用し、被加熱面211bと保持部材231によって画成される空間にフィラメント40を配置する構成としてもよい。
【0034】
また、電子源11においては、カソード201の電子放出面211aは半球面状に形成されている。この場合においても、カソード201は本体部211における電子放出面211aから被加熱面211bまでの厚さ寸法Tを次第に小さくするように形成されており、前述の実施形態と同一の作用効果を奏することは明らかである。すなわち、本発明のおける電子放出面の形状は特定の形状に限定されるものではい。例えば、本発明の電子放出面は半球面状等の凹部を複数有する形状としてもよい。また、カバー部は、電子放出面の外縁のみを覆う形状に限定されるものではない。
【0035】
また、イオン源101においては、前述の実施形態におけるアノード電極50を備えてはいない。すなわち、本第一変形例においては、電子源11は、カバー部材30が開口部材16と所定間隔離間するように配置され、カソード201から放出された熱電子は開口部材106の開口部106aを通過してプラズマ生成容器101内に供給される。本第一変形例においても、カソード201からはカソード201を形成する金属が放出され得るが、放出された当該金属の少なくとも一部はカバー部32の内側に堆積し、プラズマ生成容器101内に到達する当該金属の量が低減される。
【0036】
次に、本実施形態の第二変形例である電子源12について説明する。
電子源12は、図1に示すイオン源100における電子源10と置き換え可能に構成されており、電子源10との主な違いは後述するようにカバー部材302の形状である。図3に示すように、電子源12は、カソード202およびカバー部材302を備えている。また、図1および図3に示すように、アノード電極50は、プラズマ生成容器101に近づくにつれて開口幅を狭めるように傾斜する傾斜部50aを有している。図3に示すように、電子源12においては、カバー部材302のカバー部322は、板状に形成されるとともに、カバー部材302の外方でカバー部322と最も近接する位置に配置された部材であるアノード電極50の傾斜部50aに沿うよう位置付けられている。尚、本変形例においては、カバー部322は傾斜部50aに平行になるように形成されているが、アノード電極50の傾斜部50aに沿うことは平行であることに限定されるものではい。
【0037】
図3においては、電子源10におけるカソード20の電子放出面21aが二点鎖線により示されている。カバー部322がカバー部322と最も近接する位置に配置された部材であるアノード電極50に沿うよう位置付けられていることで、カバー部材302の内方の空間をカソード20の厚さ方向についてより大きく確保することができる。しがたって、図3における電子放出面21aと、カソード202の電子放出面212aの位置関係からも明らかなように、カソード20と比較してより大きなカソード202を、具体的には、プラズマ生成容器101に向かう方向のカソード20の厚さ寸法がより大きなカソード202を使用することができるようになる。その結果、ひとつのカソード202をより長時間にわたって使用できるようになる。
【0038】
次に、本実施形態の第三変形例である電子源13について説明する。
図4に示すように、電子源13は、一対のカソード203、203を備えている。各カソード203は後述する被加熱面213bの外縁から立設するように形成され、被加熱面213bとともにフィラメント43を収容する空間を画成する円筒状の保持部233を有している。また、電子源13は、カソード203、203の外縁の一部を覆うカバー部323を有するとともに、カソード203と同電位とされたカバー部材303を備えている。
【0039】
各カソード203は、熱電子を放出する電子放出面213aと、電子放出面213aに対する裏面側に形成され、カソード203の外部に配置された熱源であるフィラメント43により加熱される被加熱面213bをそれぞれ備えている。本変形例では各被加熱面213bに対向するようにそれぞれ配置された二つのフィラメント43、43が配置されている。
【0040】
電子源13においても、カバー部323に覆われる第一の領域A2と、第一の領域A2に対して電子放出面313aが高温となって熱電子を放出し得る第二の領域B2を有するよう形成されている。本変形例においては、第二の領域B2は、第一の領域A2に対して、フィラメント43から被加熱面302までの距離Dを短くすることで形成されている。
このように、相対的により多くの熱電子を放出する第二の領域B2を、第一の領域A2に対して、熱源であるフィラメント43から被加熱面302までの距離を短くすることで形成することもできる。
【0041】
また、本発明は前記実施形態および前記変形例に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
10 電子源
100 イオン源
101 プラズマ生成容器
20 カソード
30 カバー部材
32 カバー部
40 フィラメント
A1 第一の領域
B1 第二の領域


図1
図2
図3
図4