(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】田植機
(51)【国際特許分類】
G05G 7/00 20060101AFI20240905BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20240905BHJP
B60K 20/02 20060101ALI20240905BHJP
F16H 63/10 20060101ALI20240905BHJP
B60T 7/04 20060101ALI20240905BHJP
B60T 7/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
G05G7/00 Z
A01C11/02 330A
A01C11/02 313C
B60K20/02 H
F16H63/10
B60T7/04 C
B60T7/08 B
(21)【出願番号】P 2022050689
(22)【出願日】2022-03-25
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】荒井 毅
(72)【発明者】
【氏名】石山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山崎 仁史
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-185125(JP,A)
【文献】特開2009-255915(JP,A)
【文献】特開2012-68978(JP,A)
【文献】特開2002-274342(JP,A)
【文献】特開2001-314111(JP,A)
【文献】特開平9-172824(JP,A)
【文献】特開2005-245306(JP,A)
【文献】特開2013-63021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 7/00
A01C 11/02
B60K 20/02
F16H 63/10
B60T 7/04
B60T 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行する走行車体と、
前記走行車体の後部に取り付けられた苗植付部とを備えた田植機であって、
前記走行車体は、車体の前端部に配置されたハンドル部と、機体の動力源から供給される回転動力を変速して走行用の回転動力を出力する静油圧式無段変速機と、前記静油圧式無段変速機の出力を調整する変速ロッドと、前記走行車体を微速で前進させる微速前進レバーと、前記微速前進レバーの操作を前記変速ロッドに伝達する操作伝達部とを備え、
前記ハンドル部は、左右方向へと略水平に延びる水平延伸部と、前記水平延伸部の左右両端部から湾曲して下方へと延びる左右一対の湾曲部とを備えて正面視略逆U字状に形成され、
前記走行車体が停止した状態で、前記微速前進レバーが操作されると、前記操作伝達部により前記変速ロッドが移動されて前記静油圧式無段変速機の油圧ポンプの油の吐出量を変化させる斜板の傾斜角度が変更され、前記静油圧式無段変速機から、前記走行車体が微速で走行する回転速度の回転動力が出力されるよう構成され、
前記微速前進レバーは
、前記水平延伸部の下面に固定され、さらに、前記ハンドル部の上端部よりも下方の位置で、且つ、前記ハンドル部の前端部よりも後方の位置に配置され
、
前記操作伝達部は、前記微速前進レバーが所定の操作速度以上で操作された場合に、前記微速前進レバーの操作が、前記変速ロッドに伝達されることを防止する伝達防止手段を備えたことを特徴とする田植機。
【請求項2】
前記走行車体は、走行車輪を制動するブレーキ装置と、
前記ブレーキ装置を作動させるブレーキペダルと、
前記ブレーキペダルに連結された走行停止レバーとを備え、
前記走行停止レバーは、前記走行車体の前部に配置され、
前記微速前進レバーが操作された状態で、前記走行停止レバーが操作されると、前記走行車輪が前記ブレーキ装置により制動されるとともに、前記微速前進レバーによる微速前進操作に優先して前記変速ロッドが移動されて、前記静油圧式無段変速機の回転動力の出力が停止されるよう構成されたことを特徴とする請求項
1に記載の田植機。
【請求項3】
前記苗植付部に補充する苗が載置される予備苗枠と、
前記予備苗枠の上方に配置され、空の苗箱を略直立姿勢で収容可能な空箱ラックを備え、
前記空箱ラックは、収容された苗箱の前後左右を囲う枠体を有し、
前記枠体は、左右方向に延びる前後一対の左右延伸部と、前記前後一対の左右延伸部を連結するように前後方向に延びる左右一対の前後延伸部とを備え、
前記左右延伸部が、前記前後延伸部に対して低い位置となるよう構成されたことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の田植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体の前側から前進操作を行うことが可能な田植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機体の前端部に、正面視略逆U字状のハンドル部を備え、機体の前側から前進操作を可能とした田植機が知られている。
【0003】
この従来の田植機は、田植機の後部に配置された苗植付部が大変重いため、圃場の畔を乗り越えさせて機体を圃場から出し入れする際に、作業者が、機外に降りた状態で機体の前方から主変速レバーに手をのばして機体を前進操作しながら、ハンドル部を押し下げる。これにより、機体の前部が浮き上がることを防止しつつ、圃場の畔を乗り越えさせることができる。
【0004】
しかしながら、主変速レバーの操作を誤ると、機体が急加速して作業者と接触してしまう恐れがある。
【0005】
このような状況に照らして、特許文献1には、作業者がハンドル部を押し下げて下方へ回動させることにより、静油圧式無段変速機から走行用の動力を出力させ、機体を微速で前進させることができる田植機が開示されている。
【0006】
特許文献1に記載された田植機のハンドル部は、スプリングにより上方へ付勢されており、作業者が手を離すと、ハンドル部が上方へ回動されて、機体が停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ハンドル部を下方へ押し下げながら機体を微速前進させる間に、万一作業者が躓くなどして前屈みに倒れてしまった場合、ハンドル部が作業者の体重により下方へ押し下げられたままになる。
【0009】
また、特許文献1に記載の田植機においては、ハンドル部が押し下げられている間、ブレーキ装置による走行車輪の制動が解除されるよう構成されているため、作業者が手を伸ばして機体停止ペダルを押し下げ操作してもブレーキ装置が作動しない。
【0010】
このため、作業者が体勢を立て直してハンドル部から離れるまで、作業者がハンドル部に覆い被さった状態で機体が前進し続けてしまう恐れがあり、作業者の安全性を向上するために、改善の余地が存在した。
【0011】
したがって、本発明は、機体を微速前進させながらも、作業者の安全性を向上することができる田植機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のかかる目的は、
圃場を走行する走行車体と、
前記走行車体の後部に取り付けられた苗植付部とを備えた田植機であって、
前記走行車体は、車体の前端部に配置されたハンドル部と、機体の動力源から供給される回転動力を変速して走行用の回転動力を出力する静油圧式無段変速機と、前記静油圧式無段変速機の出力を調整する変速ロッドと、前記走行車体を微速で前進させる微速前進レバーと、前記微速前進レバーの操作を前記変速ロッドに伝達する操作伝達部とを備え、
前記走行車体が停止した状態で、前記微速前進レバーが操作されると、前記操作伝達部により前記変速ロッドが移動されて前記静油圧式無段変速機の油圧ポンプの油の吐出量を変化させる斜板の傾斜角度が変更され、前記静油圧式無段変速機から、前記走行車体が微速で走行する回転速度の回転動力が出力されるよう構成され、
前記微速前進レバーは、正面視略逆U字状をなす前記ハンドル部の近傍であって、前記ハンドル部の上端部よりも下方の位置で、且つ、前記ハンドル部の前端部よりも後方の位置に配置されたことを特徴とする田植機によって達成される。
【0013】
本発明においては、ハンドル部の近傍に配置された微速前進レバーが操作されることにより、変速ロッドが移動されて、静油圧式無段変速機の油圧ポンプの斜板の傾斜角度が変更され、静油圧式無段変速機から微速で走行する動力が出力されるよう構成されている。したがって、作業者は、機体を圃場から出し入れする際などに、微速前進レバーを操作して機体を微速で前進させることができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、微速前進レバーがハンドル部の上端部よりも下方に位置しているから、作業者が機体の前方に立って、ハンドル部の近傍に設けられた微速前進レバーを操作している間に、万一躓くなどして前屈みに倒れてしまった場合でも、作業者が微速前進レバーに接触しにくい。したがって、作業者が躓いてハンドル部に覆い被さった状態で機体が前進し続けてしまうことを防止できるため、安全性を向上できる。
【0015】
加えて、本発明によれば、微速前進レバーがハンドル部の前端部よりも後方に位置しているから、万一、作業者が、機体の前端部と、機体の前方に位置する障害物との間に挟まれてしまった場合でも、作業者が微速前進レバーに接触しにくい。したがって、微速前進レバーが作業者に接触し、操作された状態で保持されてしまうことを防止できるため、安全性を向上できる。
【0016】
また、本発明によれば、微速前進レバーがハンドル部から前側にはみ出ないため、微速前進レバーを備えた田植機であっても、機体の全長を抑えることができ、したがって、田植機をトラック等に積載するときに嵩張らない。
【0017】
本発明の好ましい実施形態においては、
前記操作伝達部は、前記微速前進レバーが所定の操作速度以上で操作された場合に、前記微速前進レバーの操作が、前記変速ロッドに伝達されることを防止する伝達防止手段を備えている。
【0018】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、微速前進レバーの操作を変速ロッドに伝達する操作伝達部が、微速前進レバーが所定の操作速度以上で操作された場合に微速前進レバーの操作が変速ロッドに伝達されることを防止する伝達防止手段を備えているから、作業者が誤って微速前進レバー36に接触してしまった場合などに、走行車体2が意図せず急発進してしまう事態を防止でき、より一層安全性を向上させることができる。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記走行車体は、走行車輪を制動するブレーキ装置と、
前記ブレーキ装置を作動させるブレーキペダルと、
前記ブレーキペダルに連結された走行停止レバーとを備え、
前記走行停止レバーは、前記走行車体の前部に配置され、
前記微速前進レバーが操作された状態で、前記走行停止レバーが操作されると、前記走行車輪が前記ブレーキ装置により制動されるとともに、前記微速前進レバーによる微速前進操作に優先して前記変速ロッドが移動されて、前記静油圧式無段変速機の回転動力の出力が停止されるよう構成されている。
【0020】
本発明のこの好ましい実施形態においては、微速前進レバーが操作された状態で、走行停止レバーが操作されると、ブレーキ装置が作動するとともに、微速前進レバーによる微速前進操作に優先して、静油圧式無段変速機による回転動力の出力が停止されるよう構成されている。
【0021】
かかる構成により、作業者は、圃場の畔を乗り越えさせて機体を圃場から出し入れする際に、ハンドル部を押し下げつつ、微速前進レバーを操作して機体を微速前進させ、機体を停止させたいときに、微速前進レバーを操作したままでも、走行停止レバーを操作して停止させることができる。したがって、圃場からの機体の出し入れを安全且つ容易に行うことができる。
【0022】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記苗植付部に補充する苗が載置される予備苗枠と、
前記予備苗枠の上方に配置され、空の苗箱を略直立姿勢で収容可能な空箱ラックを備え、
前記空箱ラックは、収容された苗箱の前後左右を囲う枠体を有し、
前記枠体は、左右方向に延びる前後一対の左右延伸部と、前記前後一対の左右延伸部を連結するように前後方向に延びる左右一対の前後延伸部とを備え、
前記左右延伸部が、前記前後延伸部に対して低い位置となるよう構成されている。
【0023】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、空の苗箱の前後左右を囲う枠体において、左右方向に延びる前後一対の左右延伸部は、前後方向に延びる左右一対の前後延伸部に対して低い位置となるよう構成されているから、作業者が枠体の前後から空の苗箱を出し入れする際に、苗箱の前後を囲う前後一対の左右延伸部に苗箱が接触しづらい。したがって、空箱ラックの枠体から苗箱を容易に出し入れすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、機体を微速前進させながらも、作業者の安全性を向上できる田植機を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる田植機の略左側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示された田植機の制御ブロック図である。
【
図4】
図4は、
図1に示された主変速レバーの操作範囲を示す模式的平面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示されたフロントカバー内に位置する主変速レバーの基端部の近傍を示す略左側面図である。
【
図6】
図6は、走行停止時におけるフロントカバー内に位置する操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図8】
図8(a)は、
図6に示された位置決め機構の分解斜視図であり、
図8(b)は、位置決め機構の切り欠き窓の拡大側面図であり、
図8(c)は、位置決め機構の長孔の拡大側面図である。
【
図9】
図9は、主変速レバーが前進領域に操作されたときの操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図10】
図10は、主変速レバーが後進領域に操作されたときの操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図13】
図13は、微速前進レバーが引き操作されたときのフロントカバー内に位置する操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図16】
図16は、本発明の他の好ましい実施形態に係る走行停止時における操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図17】
図17は、
図16に示された操作伝達部の上部の近傍を略後ろ上方から見た斜視図である。
【
図18】
図18は、
図16に示された実施形態に係る微速前進レバーがゆっくりと引き操作されたときの操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図19】
図19は、
図16に示された実施形態に係る微速前進レバーの素早く引き操作が開始されたときの操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図20】
図20は、
図16に示された実施形態に係る微速前進レバーの素早い引き操作が完了したときの操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図21】
図21は、
図16に示された実施形態に係るブレーキペダル及び走行停止レバーの近傍の拡大斜視図である。
【
図22】
図22は、
図16に示された実施形態において走行停止レバーが押し下げ操作されたときの操作伝達部の近傍の状態を示す略左側面図である。
【
図23】
図23は、本発明のさらに他の好ましい実施形態にかかる田植機の制御ブロック図である。
【
図25】
図25は、制御部による機体の位置を維持する制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施形態につき、詳細に説明を加える。
【0027】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる田植機1の略左側面図であり、
図2は、
図1に示された田植機1の略平面図である。なお、
図1においては、後に詳述する空箱ラック72は便宜上省略されている。
【0028】
また、
図3は、
図1に示された田植機1の制御ブロック図である。
【0029】
本明細書においては、
図1及び
図2に矢印で示されるように、田植機1の進行方向を「前」、その反対側を「後」といい、田植機1の進行方向である前方に向かって左側を「左」といい、その反対側を「右」という。
【0030】
田植機1は、走行車体2と、走行車体2の後部に取り付けられた苗植付部63と、苗植付部63に供給される予備の苗を収容する予備苗枠74と、圃場に肥料を供給する施肥装置26と、機体全体を制御する制御部87を備えている。
【0031】
走行車体2は、車体2の略中央に配置されたメインフレーム3と、メインフレーム3の後端部に取り付けられ、田植機1の幅方向に延びる後部フレーム6と、後部フレーム6に固定されたリンクベースフレーム10と、メインフレーム3の上方に配置されたフロアステップ60と、フロアステップ60の上方に設けられた操縦席48と、田植機1を操縦する操縦部49と、操縦席48の下方に設けられたエンジン7と、走行車輪としての左右一対の前輪8および左右一対の後輪9と、エンジン7から出力される回転動力を左右一対の前輪8および後輪9に伝達する動力伝達機構15と、後に詳述する操作伝達部32(
図6参照)が収容されたフロントカバー47を備えている。
【0032】
操縦部49は、走行車体2の前後進と車速を変更する主変速レバー35と、走行車体2の走行を停止させるブレーキペダル81と、左右一対の前輪8を操舵するステアリングホイール56を含む操舵機構28と、車体2の前端部に配置されたハンドル部17と、ハンドル部17の近傍に配置され、車体2を微速で前進させる際に操作される微速前進レバー36と、ブレーキペダル81に連結された走行停止レバー79(
図2参照)を備えている。走行停止レバー79は、微速前進レバー36の操作により車体2を微速前進させる間に、車体2の走行を停止させるレバーである。
【0033】
操舵機構28は、ステアリングホイール56の他、ステアリングシャフト83、ピットマンアーム及びタイロッド(図示せず)を備えている。
【0034】
動力伝達機構15は、
図1に示されるフロアステップ60の下方に設けられたベルト式動力伝達機構4と、ベルト式動力伝達機構4により伝達された回転動力を受ける動力静油圧式無段変速機25と、動力静油圧式無段変速機25から出力された動力を走行車輪8,9及び苗植付部63へ分配出力するミッションケース30を備えている。
【0035】
エンジン7から出力された回転動力は、ベルト式動力伝達機構4を介して静油圧式無段変速機25に伝達された後に、静油圧式無段変速機25内で変速されて、ミッションケース30に伝達される。以下において、静油圧式無段変速機を「HST」という。
【0036】
ミッションケース30に伝達された回転動力は、ミッションケース30の内部で一対の前輪8及び一対の後輪9を駆動する走行用の動力と、苗植付部63を駆動する作業用の動力とに分けて伝動される。ミッションケース30はメインフレーム3の前部に固定されている。
【0037】
走行用の動力は、前輪ファイナルケース13及び前輪車軸31を介して、左右一対の前輪8に伝達される他、
図1及び
図2に示される左右一対の後輪伝動軸14、左右一対の後輪ギアケース51及び左右一対の車軸82を介して、一対の後輪9に伝達される。その結果、走行車体2が前進又は後進する。
【0038】
一方、作業用の動力は、走行車体2の後部に設けられた植付クラッチ(図示せず)まで伝達され、植付クラッチが入れられた際に、さらに苗植付部63へ伝達される。
【0039】
植付クラッチの入切は、主変速レバー35に設けられた植付入切スイッチ19(
図3参照)の押圧操作に基づき、制御部87により植付クラッチモータ27が駆動されることにより切り換えられる。
【0040】
苗植付部63は、
図1に示されるように、昇降リンク装置5により上下に回動可能に走行車体2の後部に取り付けられている。昇降リンク装置5は、上部リンクアーム85及び左右一対の下部リンクアーム86を備えている。
【0041】
上部リンクアーム85及び下部リンクアーム86の前側の端部は、車体2のリンクベースフレーム10に取り付けられ、他端部は苗植付部63の下部に位置する上下リンクアーム11に取り付けられている。
【0042】
制御部87によって電子油圧バルブ88(
図3参照)が制御されて、
図1に示される昇降油圧シリンダ12が油圧で縮められると、上部リンクアーム85が後ろ上がりに回動され、苗植付部63が非作業位置まで上昇される。苗植付部63が非作業位置にあるときには、その下端部がメインフレーム3の底部と略同一の高さに位置する。
【0043】
これに対して、制御部87により電子油圧バルブ88が制御されて、昇降油圧シリンダ12が油圧で伸ばされると、上部リンクアーム85が後ろ下がりに回動され、苗植付部63が、苗の植付けが可能な作業位置(
図1参照)まで下降される。
【0044】
電子油圧バルブ88の制御は、主変速レバー35に設けられたフィンガーレバー(図示せず)の操作を検出するフィンガーレバーセンサ16(
図3参照)の検出信号に基づき行われる。
【0045】
苗植付部63は、土付きのマット状の苗(以下、「苗マット」という。)を載置する苗載置台65と、苗載置台65の後方かつ下方に設けられた複数の植付装置64を備えている。
【0046】
複数の植付装置64は田植機1の幅方向に並べて配置され、各植付装置64は、前後方向に並ぶ左右二対の植付具69を備えている。
【0047】
植付クラッチが入れられて、
図1に示される駆動軸67が回転されると、
図1および
図2に示される前側の植付具69と後ろ側の植付具69とが、駆動軸67まわりに回転しつつ、交互に苗載置台65の下端部に位置する苗を取出し、圃場に植え付ける。
【0048】
図2に示されるように、本実施形態においては、計4列の植付具69が左右方向に並べて設けられているため、田植機1が圃場に苗を植え付けつつ、直進走行すると、圃場に4条の苗列が形成される。
【0049】
左右の各予備苗枠74は、
図1及び
図2に示される支持フレーム77を介して車体2に取り付けられている。
【0050】
制御部87は、CPU(Central Processing Unit)を有する処理部91と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有する記憶部92を備えている(
図3参照)。記憶部92には、田植機1全体を制御する種々のプログラム及びデータが格納されている。
【0051】
図4は、
図1に示された主変速レバー35の操作範囲を示す模式的平面図であり、
図5は、
図1に示されたフロントカバー47内に位置する主変速レバー35の基端部35bの近傍を示す略左側面図であり、
図6は、走行停止時におけるフロントカバー47内に位置する操作伝達部32の近傍の状態を示す略左側面図である。
【0052】
図6には、車体2が停止しているとき(中立の状態)の主変速アーム33、操作伝達部32及び変速ロッド34が示されている。
【0053】
また、
図7は、HST25の近傍を示す図面であり、
図7(a)は、HST25の近傍の模式的説明図であり、
図7(b)は、HST25の近傍の略左側面図であり、
図7(c)は、HST25の近傍の略平面図である。
【0054】
操縦部49には、主変速レバー35の操作範囲を画定するレバーパネル77が設けられている(
図4参照)。レバーパネル77には、主変速レバー35の操作範囲に沿って形成された開口78が設けられており、前後進レバー20は、開口78を貫通した状態で、開口78の形状に沿って前後左右に操作される。
【0055】
主変速レバー35の操作範囲には、走行車体2を前進させる前進領域と、走行車体2を停止させる中立領域と、走行車体2を後進させる後進領域が含まれている。
【0056】
主変速レバー35が前進領域内に位置する場合、主変速レバー35がより前方の位置に操作されるほど、前進時の車速が高く調整される。また、主変速レバー35が後進領域内に位置する場合、主変速レバー35がより後方の位置に操作されるほど、後進時の車速が高く調整される。
【0057】
主変速レバー35の前下方の基端部35bには主変速アーム38が取り付けられている。
【0058】
主変速レバー35が前方に操作されると、主変速アーム38が揺動支点39を中心に前下がりに揺動されて、主変速アーム38の前部に連結された主変速ロッド33(
図5及び
図6参照)が下方へ移動される。なお、主変速アーム38には中立復帰プレート93が取り付けられており、ブレーキペダル81が踏み操作されると、中立復帰プレート93により主変速アーム38が揺動されて、主変速レバー35が中立領域に戻される。
【0059】
主変速レバー35が前方に操作されて主変速ロッド33が下方へ移動されると、後に詳述する操作伝達部32(
図6参照)の動作により、HST25に連結された変速ロッド34(
図6及び
図7参照)が後方へ移動(スライド)される(
図9参照)。
【0060】
これに対し、主変速レバー35が後方に操作されると、主変速アーム38が揺動支点39を中心に前上がりに揺動されて、主変速ロッド33が上方へ移動される。
【0061】
主変速ロッド33が上方へ移動されると、
図6に示される操作伝達部32の動作により、HST25に連結された変速ロッド34が前方へ移動(スライド)される(
図10参照)。
【0062】
すなわち、主変速レバー35が中立領域に操作され走行車体2が停止している状態で、主変速レバー35が前進領域に操作されると、変速ロッド34が後方へ移動され、主変速レバー35が後進領域に操作されると、変速ロッド34が前方へ移動される。
【0063】
変速ロッド34の後ろ側の端部は、
図7(a)及び
図7(c)に示されるように、HST25のトラニオンアーム25cの先端部に取り付けられている。主変速レバー35の前後操作に伴い、変速ロッド34が前後に移動されると、トラニオンアーム25cの基端部に連結されたトラニオン軸25aが回動される。
【0064】
トラニオン軸25aには、
図7(a)に示されるHST25の可動斜板25dが連結されており、トラニオン軸が回動されると、可動斜板25dの傾斜角度が変化し、それにより、
図7(a)及び
図7(c)に示される出力軸25gの回転数が変化する。
【0065】
詳細には、エンジン7の作動により、HST25への入力軸25bが回転すると、
図7(a)に示される可変容量型の油圧ポンプ25eが回転される。
【0066】
このとき、変速ロッド34が、車体2が停止する中立領域から前進側(後方)又は後進側(前方)に移動されている場合には、油圧ポンプ25eから可動斜板25dの傾斜角度に応じた量の油が吐出される。
【0067】
油圧ポンプ25eから吐出された油は、
図7(a)に示される油圧回路25hを通じて油圧モータ25fに供給され、油圧モータ25fによってHST25の出力軸25gが回転駆動される。
【0068】
出力軸25gの回転は、車体2の前進時と後進時とで逆向きであり、出力軸25gの回転数は可動斜板25dの傾斜角度、すなわち、変速ロッド34の前後位置に応じて無段階に変化する。
【0069】
これに対して、主変速レバー35が中立領域に操作されて変速ロッド34が前後方向における中立の位置にある場合(
図6参照)、HST25への入力軸25bの回転に伴い油圧ポンプ25eが回転しても、油圧ポンプ25eから油が吐出されない。したがって、HST25の出力軸25gが回転しないため、走行車体2が走行しない。
【0070】
以上、主変速レバー35が前後に操作された際のHST25の出力の変化について詳述したが、変速ロッド34は、以下のようにして、主変速レバー35の前後操作に応じて、操作伝達部32により前後に移動される。
【0071】
操作伝達部32は、
図6に示されるように、主変速ロッド33の下端部及び変速ロッド34の前端部が取り付けられた位置決め機構41と、フロントカバー47内に設けられたカバー内フレーム40に固定されたステー66と、ステー66に固定されたカム回動軸46aまわりに回動するカム46と、カム第一ピン59によりカム46に連結された作動アーム42と、移動ピン44により作動アーム42と連結された切換アーム43を備えている。作動アーム42の後部には長孔42aが形成されており、カム第一ピン59は長孔42a内に挿入されている。
【0072】
図8(a)は、
図6に示された位置決め機構41の分解斜視図であり、
図8(b)は、位置決め機構41の切り欠き窓41b1の拡大側面図であり、
図8(c)は、位置決め機構41の長孔41cの拡大側面図である。
【0073】
図8(c)には、後に詳述する長孔41cと移動ピン44との相対位置が示されている。
【0074】
位置決め機構41は、互いに連結された主プレート41a及び副プレート41bと、主プレート41a及び副プレート41bを連結して副プレート41bを(
図6において)時計回りに回動付勢するバネ50を備えている。
【0075】
主プレート41aには、移動ピン44が挿入された略逆Y字状の長孔41cと、バネ50の一端部が取り付けられた取付孔52と、2箇所の挿入孔54,55と、主変速ロッド33の下端部が取り付けられた取付孔57が形成されている。
【0076】
略逆Y字状の長孔41cは、
図8(c)において円弧状に延びる円弧状部41c1と、円弧状部41c1の略中央部から分岐するように略上方へ延びる切り欠き部41c2を有している。
【0077】
2箇所の挿入孔54,55には、カバー内フレーム40に固定された筒状の主回動軸41a1が挿入されている。また、主プレート41aの下部であって、挿入孔55の下方の位置には筒状の第一連結部材41a2が取り付けられている。
【0078】
副プレート41bには、バネ50の他端部が取り付けられた取付孔53と、主回動軸41a1が挿入された切り欠き窓41b1と、変速ロッド34の前端部が取り付けられた取付孔58が形成されている。また、副プレート41bには、第一連結部材41a2の内部に挿入される第二連結部材41b2が取り付けられている。
【0079】
主プレート41a及び副プレート41bは、バネ50により連結され、且つ、第二連結部材41b2が第一連結部材41a2に挿入された状態で、主回動軸41a1を中心に一体的に回動可能である。
【0080】
副プレート41bに形成された切り欠き窓41b1は、主回動軸41a1が挿入される主回動軸挿入部41b1aと、作動アーム42の下端部に固定された微速前進駆動ピン62が挿入されるピン挿入部41b1bを備えている。
【0081】
主回動軸挿入部41b1aは、
図8(b)に示されるように、主回動軸41a1よりも大きく形成されており、主回動軸41a1が挿入された状態でも、遊び空間Sが生じるよう構成されている。
【0082】
したがって、主プレート41aが移動及び回動していないときでも、副プレート41bは、遊び空間Sの分だけ第一連結部材41a2及び第二連結部材41b2を中心に(主プレート41aと独立して)回動可能である。
【0083】
略逆Y字状の長孔41cに挿入された移動ピン44は、主変速レバー35が中立領域にあるとき(換言すれば、車体2が停止しているとき)、
図8(c)に示される円弧状部41c1内の44aの位置に位置している。
【0084】
一方、切換アーム43は、ステー66に切換アーム回動軸45により取り付けられており、切換アーム回動軸45を中心に揺動可能に構成されている。切換アーム回動軸45の内部にはコイルバネ(不図示)が収容されており、切換アーム43は、このコイルバネにより
図6において反時計回りに揺動付勢されている。
【0085】
切換アーム43の後端部には切換アームピン43aが取り付けられている。
【0086】
切換アームピン43aは、カム46の周縁に当接しており、
図6に示される主変速レバー中立操作時(走行停止時)において、カム46に形成された引っ込み部(窪み)46c(
図13参照)内に位置している。また、カム46の引っ込み部46cの下方の位置には突起部46bが形成されている(
図13参照)。
【0087】
このため、主変速レバー中立操作時において、カム46は、引っ込み部46c内を略上方へ押圧する切換アームピン43aにより反時計回りに回動付勢されている。
【0088】
以上を踏まえて、以下に、主変速レバー35が前進領域又は後進領域に操作されたときの操作伝達部32の動作について詳述する。
【0089】
図9は、主変速レバー35が前進領域に操作されたときの操作伝達部32の近傍の状態を示す略左側面図であり、
図10は、主変速レバー35が後進領域に操作されたときの操作伝達部32の近傍の状態を示す略左側面図である。
【0090】
主変速レバー35が
図4に示された中立領域から前進領域に操作されて、主変速ロッド33が下方へ移動された場合、主プレート41aを含む位置決め機構41が主回動軸41a1を中心に一体的に(左側面視において)反時計回りに回転される。
【0091】
その結果、副プレート41bの下部に取り付けられた変速ロッド34が後方へ移動され、HST25の出力軸25gが、車体2が前進する方向に回転される。
【0092】
このとき、主プレート41aを含む位置決め機構41の反時計回りの回転に伴い、移動ピン44は、
図8(c)に示される円弧状部41c1内の44bの位置に位置する。
【0093】
これに対し、主変速レバー35が
図4に示された中立領域から後進領域に操作されて、主変速ロッド33が上方へ移動された場合、主プレート41aを含む位置決め機構41が主回動軸41a1を中心に一体的に(左側面視において)時計回りに回転される。
【0094】
その結果、副プレート41bの下部に取り付けられた変速ロッド34が前方へ移動され、HST25の出力軸25gが、車体2が後進する方向に回転される。
【0095】
このとき、主プレート41aを含む位置決め機構41の反時計回りの回転に伴い、移動ピン44は、
図8(c)に示される円弧状部41c1内の44cの位置に位置する。
【0096】
以上、主変速レバー35が操作された際の操作伝達部32の動きについて詳述したが、作業者は、田植機1を圃場から出し入れする際に、以下に詳述する微速前進レバー36を田植機1の前方から操作して、田植機1を微速で前進させ、圃場の畔を乗り越えさせることができる。なお、後に詳述するように、微速前進レバー36は、主変速レバー35が中立領域にあるときにのみ操作することができる。したがって、以下においては、主変速レバー35が中立領域にあることを前提に説明を進める。
【0097】
図11は、
図1に示された走行車体2の近傍の略斜視図であり、
図12は、
図1に示された走行車体2のハンドル部17の近傍の略正面図である。
【0098】
また、
図13は、微速前進レバー36が引き操作されたときのフロントカバー47内に位置する操作伝達部32の近傍の状態を示す略左側面図であり、
図14は、
図13に示された作動アーム42が省略された状態を示す略斜視図である。
【0099】
なお、
図12においては、便宜上、ブレーキペダル81及び走行停止レバー79は省略されている。
【0100】
ハンドル部17は、正面視(
図12参照)及び平面視(
図2参照)において略逆U字状の形状をなしており、略水平に左右方向に延びる水平延伸部17aと、水平延伸部17aの左右両端部からフロアステップ60へ延びる湾曲部17bを備えている。
【0101】
水平延伸部17aは、
図2に示されるように、田植機1の幅方向中央部の位置を示すセンターマスコット18よりも前方に位置している。
【0102】
微速前進レバー36は、ハンドル部17の水平延伸部17aの下面に固定されている。
【0103】
微速前進レバー36は、一般的な自転車に設けられたブレーキレバーと同様に、引き操作(詳細には支点36cを中心に右上がりに揺動操作)されると、微速前進レバー36に接続されたインナーワイヤ70がレバー36側に引っ張られるよう構成されている。
【0104】
インナーワイヤ70は
図12に示されるアウターワイヤ71の内側を延びており、一端部が微速前進レバー36に取り付けられ、他端部が
図6、
図13、
図14等に示されるカム第一ピン59に取り付けられている。
【0105】
このため、微速前進レバー36が引き操作されてインナーワイヤ70がレバー36側に引っ張られると、カム第一ピン59が略下方に移動される。
【0106】
カム第一ピン59はカム46及び作動アーム42に取り付けられているため、カム第一ピン59の移動に伴い、カム回動軸46aを中心にカム46が
図6及び
図13において時計回りに回動される。
【0107】
カム46が回動されると、カム46の引っ込み部46c内に位置していた切換アームピン43aは、引っ込み部46cの角部46c1(
図13参照)によって略下方へ押され、やがて角部46c1から離れて
図14に示される上下位置に保持される。なお、この上下位置は、
図6、
図9及び
図10に示された切換アームピン43aの位置よりも下方である。
【0108】
このため、切換アーム43は、カム46の時計回りの回動に伴い、切換アーム回動軸45を中心に左側面視で時計回りに回動される。それにより、移動ピン44が略前上方、すなわち、
図8(c)に示される切り欠き部41c2内の44dの位置に移動する。
【0109】
このとき、移動ピン44に連結された作動アーム42の上下方向略中央部もまた略前上方に移動する。また、カム第一ピン59の移動に伴い、作動アーム42の後部は略下方へ引っ張られるため、作動アーム42は、全体として
図13において時計回りに揺動され、作動アーム42の下端部に固定された微速前進駆動ピン62が略前方へ移動する。
【0110】
その結果、ピン挿入部41b1bの前部の内面が微速前進駆動ピン62により略前方へ押圧され、副プレート41bが、バネ50の付勢方向に反して、第一連結部材41a2及び第二連結部材41b2を中心に左側面視で反時計回りに回動される。
【0111】
したがって、微速前進レバー36が引き操作されたときには、副プレート41bの下部が後方へ移動され、その結果、変速ロッド34が後方へ移動されるため、上述のように、HST25から回転動力が出力されて走行車体2が前進する。
【0112】
ここで、副プレート41bが反時計回りに回動されると、主回動軸41a1が、
図8(b)に示されるように、副プレート41bに形成された切り欠き窓41b1の主回動軸挿入部41b1aの後面41b12に接触する。
【0113】
このとき、主変速レバー35は中立領域にあるため、主プレート41aは動かず、したがって、主回動軸挿入部41b1aの後面41b12により、副プレート41bの回動が途中で規制される。
【0114】
このように、切り欠き窓41b1により、副プレート41bの回動量が遊び空間Sの範囲に制限されて、変速レバー35の後方への移動量が限定されるため、微速前進レバー36が引き操作された際の走行車体2の前進走行速度が微速に抑えられる。換言すれば、微速前進レバー36が引き操作された際には、HST25から車体2が微速で前進する程度の回転速度の回転動力が出力される。
【0115】
したがって、作業者は、田植機1の外へ降りた状態で、田植機1の前方から微速前進レバー36を引き操作して、田植機1を微速で前進させ、圃場の畔を乗り越えさせることができる。
【0116】
なお、本実施形態においては、微速前進レバーが引き操作(換言すれば、握り操作)されたときの走行車体2の速度は、2km/h以下の速度である。
【0117】
微速前進レバー36は、一般的な自転車のブレーキレバーのように、引き操作されている間だけ支点36cを中心に右上がりに揺動された状態となり、作業者が手を離すと、図示しないバネにより微速前進レバー36の姿勢が元に戻るよう構成されている。
【0118】
このとき、作動アーム42が自重により左側面視において反時計回りに回動し、カム第一ピン59が上方へ移動するのに伴って、カム46が反時計回りに回動される。
【0119】
その結果、切換アームの後端部に取り付けられた切換アームピン43aは引っ込み部46c内に復帰する。
【0120】
一方、上述のように、主変速レバー35が中立領域にあるとき、すなわち、移動ピン44が
図8(c)に示された44aの位置にあるときに、微速前進レバー36が引き操作された場合には、移動ピン44は切り欠き部41c2内へ移動される。
【0121】
しかしながら、主変速レバー35が前進又は後進領域にあるとき、すなわち、移動ピン44が
図8(c)に示された44b又は44cの位置にあるときに、微速前進レバー36が引き操作された場合、移動ピン44の略上方への移動が円弧状部41c1により規制される。
【0122】
したがって、本実施形態においては、主変速レバー35が前進又は後進領域にあるときには、微速前進レバー36の引き操作により走行車体2を微速前進させることができない。
【0123】
微速前進レバー36は、
図12に示されるように、略水平に左右方向に延びるハンドル部17の水平延伸部17aの下面に固定されており、ハンドル部17の前端部17a1(
図1参照)よりも後方に配置されている。すなわち、微速前進レバー36は、ハンドル部17の上端部17a2よりも下方且つハンドル部17の前端部17a1よりも後方の位置に配置されている。
【0124】
このように、微速前進レバー36がハンドル部17の上端部17a2よりも下方に位置しているから、作業者が田植機1の前方に立って、ハンドル部17の近傍に設けられた微速前進レバー36を操作している間に、万一、躓くなどして前屈みに倒れてしまった場合でも、作業者が微速前進レバー36に接触しにくい。したがって、作業者が躓いてハンドル部17に覆い被さった状態で田植機1が前進し続けてしまうことを防止でき、安全である。
【0125】
また、微速前進レバー36がハンドル部17の前端部17a1よりも後方に位置しているから、万一、作業者が、田植機1の前端部と、田植機1の前方に位置する障害物との間に挟まれてしまった場合でも、作業者が微速前進レバー36に接触しにくい。
【0126】
したがって、微速前進レバー36が意図せず引き操作された状態が続いてしまう(換言すれば、微速前進レバー36が挟まれてメカロックされてしまう)ことを防止でき、安全である。
【0127】
さらに、微速前進レバー36がハンドル部17から前側にはみ出ないため、微速前進レバー36を備えた田植機1であっても、田植機1の全長を抑えることができ、したがって、田植機1をトラック等に積載するときに嵩張らない。
【0128】
図15は、
図11に示された空箱ラック72の拡大斜視図である。
【0129】
図11及び
図15に示されるように、右側の予備苗枠74の上方には、空になった苗箱を収容する空箱ラック72が配置されている。
【0130】
この空箱ラック72は、予備苗枠74に取り付けられた取付フレーム72aと、取付フレーム72aの上面に固定された角パイプ72bと、角パイプ72bの前後両端部に固定された前後一対のプレート72cと、一対のプレート72cの右面に溶接された主枠体72dと、主枠体72dの前後端部に跨るように溶接された副枠体72eと、主枠体72dと副枠体72eとに跨るように溶接された前後一対のレール支持枠72fと、レール支持枠72fにより支持されたレール部材72gと、空の苗箱を収容する第一の収容部73及び第二の収容部75を備えている。
【0131】
主枠体72dは、左右方向(機体幅方向)に延びる前後一対の左右延伸部72d1と、一対の左右延伸部72d1を連結するように前後方向に延びる左右一対の前後延伸部72d2と、右側の前後延伸部72d2と一対のプレート72cとを結ぶように延びる前後一対の接続体72d3を備えている。
【0132】
第一の収容部73は、
図15に示されるように、右側を右側の前後延伸部72d2により、左側を副枠体72eにより、前側及び後ろ側を一対の左右延伸部72d1の右部により、下側を前後一対のプレート72cの右部により、各々囲われている。
【0133】
第一の収容部73に投入された空の苗箱は、略上下方向に延びるように立たせられた状態(換言すれば、苗箱を立てた姿勢)で、一対のプレート72cの右部により支持されるとともに、右側の前後延伸部72d2の左面又は副枠体72eの右面に立て掛けられる。
【0134】
第二の収容部75は、
図15に示されるように、左側を左側の前後延伸部72d2により、右側を副枠体72eにより、前側及び後ろ側を一対の左右延伸部72d1の左部により、下側をレール部材72gにより、各々囲われている。
【0135】
第二の収容部75に投入された空の苗箱は、略上下方向に延びるように立たせられた状態で、レール部材72gにより支持されるとともに、左側の前後延伸部72d2の右面又は副枠体72eの左面に立て掛けられる。
【0136】
図15に示されるように、左右の各前後延伸部72d2及び副枠体72eは、各々、側面視において略逆U字状をなしており、前後一対の左右延伸部72d1は、左右一対の前後延伸部72d2及び副枠体72eよりも低く構成されている。換言すれば、前後一対の左右延伸部72d1は、左右一対の前後延伸部72d2及び副枠体72eよりも下方に位置している。
【0137】
したがって、作業者が田植機1の上に立って、空箱ラック72の後ろ側から、空の苗箱を第一又は第二の収容部73,75に収容する際や、田植機1の前方(機外)に立って空箱ラック72の前側から、空の苗箱を第一又は第二の収容部73,75より回収する際に、前後一対の左右延伸部72d1が邪魔にならず、空箱ラック72からの苗箱の出し入れを容易に行うことができる。
【0138】
また、第二の収容部75においては下方にレール部材72gが設けられているため、作業者は第二の収容部75に滑らせるように空の苗箱を投入できる。
【0139】
これに対し、第一の収容部73においては下方にレール部材が設けられていないため、作業者は、泥などにより汚れた苗箱を、第一の収容部73に投入することで、泥切り、水切りを行うことができる。
【0140】
なお、角パイプ72bの前後両端部は一対のプレート72cにより覆われているが、各プレート72cにおける角パイプ72bに当接する部分には水抜き孔72c1が形成されている。
【0141】
本実施形態においては、以上のように構成された苗箱ラック72が右側の予備苗枠74の上方のみに設けられているが、左右の各予備苗枠74の上方に各々、苗箱ラック72を設けてもよい。また、副枠体72e及び一対のレール支持枠72fを空箱ラック72に設けることは必ずしも必要でない。
【0142】
図16は、本発明の他の好ましい実施形態に係る走行停止時(=主変速レバー35が中立領域)における操作伝達部32’の近傍の状態を示す略左側面図であり、
図17は、
図16に示された操作伝達部32’の上部の近傍を略後ろ上方から見た斜視図である。
【0143】
図16及び
図17においては、切換アーム43’の形状を示すため、作動アーム42’及び主プレート41aが半透明に描かれている。
【0144】
本実施形態に係る田植機1000は、以下に述べる点を除き、
図1ないし
図15に示された前記実施形態に係る田植機1と同様に構成されている。また、以下において、前記実施形態の田植機1と同様に構成される各部には、同符号を用いて説明を省略する。
【0145】
本実施形態に係る操作伝達部32’においては、切換アーム43’の回動支点である切換アーム回動軸45’に代えて、カム46’の回動支点であるカム回動軸46a’にコイルバネ(=トルク・スプリング)68(
図17参照)が配置されている。
【0146】
カム46’は、コイルバネ68により、カム回動軸46a’を中心に左側面視において反時計回りに回動付勢されている。また、カム46’には引っ込み部46cが形成されていない。
【0147】
切換アーム43’の後端部には、切換アームピン43aは設けられておらず、
図17に示されるように、切換アーム43’の後端部が右側に湾曲した形状を有しており、カム46’の突起部46bにより、切換アーム43’の後端部が下方から支持されている。
【0148】
したがって、カム46’が反時計回りに回動するとき、切換アーム43’が連動して後ろ上がりに回動される。
【0149】
切換アーム43’は、その前後方向略中央部に、上方に突出する突出部43bを有しており、この突出部43bと、カム46’の上部とがスプリング76により連結されている。
【0150】
作動アーム42’は、前記実施形態よりも後部が長く形成され、カム第一ピン59によって、カム46’の後端部に取り付けられている。
【0151】
微速前進レバー36の引き操作により引っ張られるインナーワイヤ70は、本実施形態においてはカム46’に固定されたカム第二ピン80に取り付けられている。カム第二ピン80は、カム第一ピン59と同様に、カム回動軸46a’よりも後方に配置されており、微速前進レバー36が引き操作されると、カム46’は時計回りに回動される。
【0152】
副プレート41b’の切り欠き窓41b1’は、主回動軸41a1が挿入される主回動軸挿入部41b1aと、作動アーム42の下端部に固定された微速前進駆動ピン62が挿入されるピン挿入部41b1bに加え、非作用部41b1cを備えている。
【0153】
非作用部41b1cは、微速前進レバー36が素早く握られた(より詳細には、所定の操作速度以上で引き操作された)ときに微速前進駆動ピン62が移動する切り欠き領域である。
【0154】
なお、主プレート41aは前記実施形態と同様に構成されており、主変速レバー35が前後操作されたときに、同様にして、位置決め機構41’が回動されて、変速ロッド34が前後に移動され、HST25の出力が開始され、終了され、又は変更される。
【0155】
図18は、
図16に示された実施形態に係る微速前進レバー36がゆっくりと引き操作されたときの操作伝達部32’の近傍の状態を示す略左側面図である。
【0156】
また、
図19は、
図16に示された実施形態に係る微速前進レバー36の素早い引き操作が開始されたときの操作伝達部32’の近傍の状態を示す略左側面図であり、
図20は、
図16に示された実施形態に係る微速前進レバー36の素早い引き操作が完了したときの操作伝達部32’の近傍の状態を示す略左側面図である。
【0157】
本実施形態においては、微速前進レバー36が作業者によりゆっくりと(より詳細には、所定の操作速度未満で)引き操作された場合に、走行車体2’が微速で前進し、微速前進レバー36が素早く(より詳細には、所定の操作速度以上で引き操作された)引き操作された場合、走行車体2’が前進しないよう構成されている。
【0158】
具体的には、主変速レバー35が中立領域にある状態(
図16参照)で、微速前進レバー36(
図12参照)がゆっくりと引き操作された場合、インナーワイヤ70がレバー36側に引っ張られて、カム第一ピン59がゆっくりと略下方に移動される(
図18参照)。これにより、カム46’がゆっくりと左側面視において時計回りに回動される。
【0159】
このとき、切換アーム43’とカム46’を連結するスプリング76が、大幅に延びることなく、ゆっくりと後方側へ移動されるとともに、切換アーム43’がスプリング76に引っ張られ、切換アーム回動軸45’を中心に左側面視において時計回りに回動される。
【0160】
その結果、切換アーム43’の前部に取り付けられた移動ピン44が、略上方へ移動されて、
図8(c)に示された44aの位置から切り欠き部41c2内の44dの位置に切り換わる。
【0161】
同時に、カム46’の回動に伴い、作動アーム42’が、切り欠き部41c2内に位置する移動ピン44を中心に左側面視において時計回りに回動される。
【0162】
これにより、ピン挿入部41b1bの前面が、作動アーム42’の下端部に固定された微速前進駆動ピン62により略前方へ押圧され、副プレート41b’が、第一連結部材41a2及び第二連結部材41b2を中心に左側面視で反時計回りに回動される。
【0163】
微速前進レバー36が操作されるときには、主変速レバー35は中立領域にあるため、主プレート41aは動かず、主回動軸41a1が切り欠き窓41b1の主回動軸挿入部41b1aの後面41b12に接触し、副プレート41b’の回動が途中で規制される。
【0164】
すなわち、副プレート41b’の回動は、前記実施形態と同様に、
図8(b)に示された遊び空間Sの範囲内に制限される。
【0165】
なお、第一連結部材41a2及び第二連結部材41b2については、
図18又は
図8(a)を参照されたい。
【0166】
こうして副プレート41b’が所定の量だけ回動される結果、前記実施形態と同様に、変速ロッド34が、
図16に示された位置から
図18に示される位置まで僅かに後方へ移動され、走行車体2’が微速で前進する。
【0167】
これに対して、微速前進レバー36が素早く引き操作された場合には、カム第一ピン59が素早く略下方に移動され、カム46’が素早く左側面視において時計回りに回動される。
【0168】
このとき、切換アーム43’の慣性力によりスプリング76が大幅に伸び、切換アーム回動軸45’を中心とした切換アーム43’の回動が、微速前進レバー36がゆっくりと引き操作された場合よりも遅れて開始される。
【0169】
同時に、カム46’の素早い回動に伴い、後端部がカム46’に取り付けられた作動アーム42’が、移動ピン44を中心に左側面視において時計回りに素早く回動される。
【0170】
ここで、切換アーム43’の回動開始の遅れにより、作動アーム42’は、移動ピン44が
図8(c)において44aとして示された位置から切り欠き部41c2内に移動しないうちに、素早く回動される。
【0171】
このため、作動アーム42’の下端部に固定された微速前進駆動ピン62が、作動アーム42’の回動により、
図16に示された位置から
図19に示された位置へ移動された後、
図20に示されるように、非作用部41b1cに移動される。
【0172】
すなわち、作動アーム42’の回動支点である移動ピン44が切り欠き部41c2まで上昇しない状態で、微速前進駆動ピン62は、移動ピン44を中心に回動されるため、ピン挿入部41b1b内に移動されずに、非作用部41b1c内に移動される。
【0173】
非作用部41b1cは、ピン挿入部41b1bの下部から長く前方へ延びる形状をなすため、微速前進駆動ピン62は、非作用部41b1cの前面を前方へ押圧しない。
【0174】
したがって、副プレート41b’が回動されず、変速ロッド34が移動しないため、走行車体2’が前進しない。
【0175】
このように、本実施形態においては、微速前進レバー36が高速で引き操作された場合、本発明の「伝達防止手段」の一例であるスプリング76が大幅に伸びる。このため、切換アーム回動軸45’を中心とした切換アーム43’の回動が、微速前進レバー36がゆっくりと引き操作された場合よりも遅れて開始される。その結果、移動ピン44が切り欠き部41c2内に移動されない間に微速前進駆動ピン62が非作用部41b1c内に移動され、副プレート41b’が左側面視で反時計回りに回動されないため、走行車体2’が前進しない。
【0176】
したがって、作業者が誤って微速前進レバー36に接触してしまった場合などに、走行車体2’が意図せず急発進してしまう事態を防止できる。
【0177】
以上、微速前進レバー36について詳述したが、本実施形態においては、微速前進レバー36を引き操作した状態で、車体2’の前部に配置された走行停止レバー79を押し下げ操作することにより、以下のように、走行車体2’を停止させることができる。
【0178】
図21は、
図16に示された実施形態に係るブレーキペダル81及び走行停止レバー79の近傍の拡大斜視図であり、
図22は、
図16に示された実施形態において走行停止レバー79が押し下げ操作されたときの操作伝達部32’の近傍の状態を示す略左側面図である。
【0179】
図21においては、フロントカバー47及びフロアステップ60が説明の便宜上省略されている。
【0180】
ブレーキペダル81と走行停止レバー79は、連動ロッド84により連結されている。
【0181】
走行停止レバー79は、前方へ向けて配置されており、作業者により押し下げ操作(より詳細には、前下がりに回動操作)されると、ブレーキペダル81が連動して押し下げられるよう構成されている。
【0182】
ブレーキペダル81が押し下げられると、ミッションケース30内に設けられたブレーキ装置(図示せず)が作動し、一対の前輪8及び一対の後輪9が制動される。
【0183】
なお、走行車輪8,9を制動するブレーキ装置は、ブレーキペダル81の押し下げ操作をセンサで検出した際に、モータ又はソレノイドにより作動するよう構成できる他、ブレーキペダル81の押し下げ操作を、例えば一般的な自転車のブレーキのように機械的機構によりブレーキ装置に伝達し、ブレーキ装置を作動させるよう構成することも可能である。
【0184】
また、ブレーキペダル81が押し下げられると、ブレーキペダル81に取り付けられたブレーキステー89及びブレーキステー89の上端部に溶接されたブレーキシャフト90が、左側面視で時計回り(右側面視で反時計回り)に回動される。
【0185】
ブレーキシャフト90の左側の端部には、
図16、
図18、
図19、
図21及び
図22に示される中立復帰プレート93’が取り付けられており、ブレーキシャフト90の回動に伴い、中立復帰プレート93’が左側面視で時計回りに回動される。なお、走行停止レバー79が押し下げ操作された際のこれらの動きは
図21に太い矢印で示されている。
【0186】
図21及び
図22に示されるように、中立復帰プレート93’にはストッパ94が固定されている。このため、走行停止レバー79の押し下げ操作による中立復帰プレート93’の回動に伴い、ストッパ94が、回動支点94bを中心に左側面視で時計回りに回動されて、前方へ移動される。
【0187】
ストッパ94の前下部には、前上がりに傾斜した傾斜部94aが形成されている。
【0188】
微速前進レバー36の引き操作によって移動ピン44が切り欠き部41c2内に位置した状態(
図18参照)で、ストッパ94が前方へ移動されると、
図22に斜線で示された傾斜部94aが、移動ピン44の左部に取り付けられたハブ95に接触する。なお、ハブ95は、
図22の他、
図17や
図21等に示されている。
【0189】
傾斜部94aがハブ95に接触した結果、移動ピン44が、
図22に示されるように、円弧状部41c1内の44aの位置(
図8(c)も参照)まで押し下げられる。これにより、走行停止レバー79の押し下げ操作前にピン挿入部41b1b内に位置していた微速前進駆動ピン62は、非作用部41b1cへ移動される。
【0190】
このため、副プレート41b’が、微速前進レバー36の引き操作による回動の前の姿勢(
図16参照)に戻る。その結果、副プレート41b’の下部に取り付けられた変速ロッド34が、車体2’が微速で前進する前後位置から、車体2’が停止する前後位置まで前方に移動され、HST25の走行用の動力の出力が停止される。
【0191】
このように、本実施形態においては、微速前進レバー36が引き操作された状態で、走行停止レバー79が押し下げ操作されると、走行車輪8,9が制動されるとともに、微速前進レバー36による微速前進操作に優先して、HST25の走行用動力の出力が停止される。その結果、走行車体2’が直ちに停止する。
【0192】
かかる構成により、作業者は、圃場の畔を乗り越えさせて田植機1000を圃場から出し入れする際に、ハンドル部17を押し下げつつ、微速前進レバー36を引き操作して田植機1000を微速前進させ、田植機1000を停止させたいときに、走行停止レバー79を押し下げて停止できる。したがって、圃場からの田植機1000の出し入れを安全且つ容易に行うことができる。
【0193】
なお、通常、微速前進レバー36の操作により車体2’を微速前進させるのは機体を圃場へ出し入れする際であるので、植付クラッチはオフされている。したがって、微速前進レバー36の操作時にHST25から出力される動力は、通常、作業用の動走行車輪8,9にのみ伝達され、苗植付部63には伝達されない。
【0194】
また、微速前進レバー36は、ハンドル部17の近傍において右上がりに揺動操作されるため、作業者は、田植機1000の前方に立ち、右手でハンドル部17を押し下げつつ微速前進レバー36を引き操作し、田植機1000を停止させる際に、左手で走行停止レバー79を押し下げ操作することが望ましい。これにより、田植機1000を容易に前進操作・停止操作できる。
【0195】
さらに、走行停止レバー79は、
図18,
図21等に示されるロック解除レバー98が上方に引き操作されることにより、押し下げ操作前の姿勢に戻るように構成されている。
【0196】
したがって、作業者は、走行停止レバー79を操作して田植機1000を停止させた後、ロック解除レバー98を操作して、さらに微速前進レバー36を引き操作することにより、田植機1000の微速前進を再開させることができる。
<第二実施形態の技術的意義>
図16ないし
図22に示された本実施形態によれば、前記実施形態と同様、
図2及び
図12に示されるように、微速前進レバー36がハンドル部17の上端部17a2よりも下方に位置しているから、作業者が田植機1000の前方に立って、ハンドル部17の近傍に設けられた微速前進レバー36を操作している間に、万一躓くなどして前屈みに倒れてしまった場合でも、作業者が微速前進レバー36に接触しにくい。したがって、作業者が躓いてハンドル部17に覆い被さった状態で田植機1000が前進し続けてしまうことを防止でき、安全である。
【0197】
さらに、本実施形態によれば、前記実施形態と同様、
図1に示されるように、微速前進レバー36がハンドル部17の前端部17a1よりも後方に位置しているから、万一、作業者が、田植機1000の前端部と、田植機1000の前方に位置する障害物との間に挟まれてしまった場合でも、作業者が微速前進レバー36に接触しにくい。したがって、微速前進レバー36が作業者に接触し、引き操作された状態で保持されてしまうことを防止でき、安全である。
【0198】
加えて、本実施形態によれば、微速前進レバー36がハンドル部17から前側にはみ出ないため、微速前進レバー36を備えた田植機1000であっても、田植機1000の全長を抑えることができ、したがって、田植機1000をトラック等に積載するときに嵩張らない。
【0199】
さらに、本実施形態によれば、微速前進レバー36の操作を変速ロッド34に伝達する操作伝達部32’が、微速前進レバー36が所定の操作速度以上で引き操作された場合に微速前進レバー36の操作が変速ロッド34に伝達されるのを防止する伝達防止手段の一例としてのスプリング76を備えているから、作業者が誤って微速前進レバー36に接触してしまった場合などに、走行車体2’が意図せず急発進してしまう事態を防止でき、より一層の安全を確保することができる。なお、本実施形態においては、所定の操作速度とは、微速前進レバー36が引き操作される前の状態から、完全に引き操作された状態に変化するまでの時間が2秒以上である場合に、車体2が微速前進するよう構成されているが、スプリング76の長さや固さを変更することにより、微速前進するか否かの引き操作速度の閾値を調整することができる。
【0200】
また、本実施形態によれば、予備苗枠74の上方に設けられた空箱ラック72において、苗箱の前後を囲う主枠体72dの部分である前後一対の左右延伸部72d1は、
図15に示されるように、苗箱の左右を囲う枠体の部分である左右一対の前後延伸部72d2及び副枠体72eよりも高さが低く構成されているから、作業者が主枠体72d及び副枠体72eの前後から空の苗箱を出し入れする際に、苗箱の前後を囲う主枠体72d及び副枠体72eの部分に苗箱が接触しづらい。したがって、空箱ラック72から苗箱を容易に出し入れすることができる。
【0201】
図23は、本発明のさらに他の好ましい実施形態にかかる田植機2000の制御ブロック図であり、
図24は、
図23に示された実施形態に係る変速ロッド34の近傍の略左側面図である。
【0202】
本実施形態に係る田植機2000は、以下に述べる点を除き、
図16ないし
図22に示された前記実施形態に係る田植機1000と同様に構成されている。また、以下において、前記実施形態の田植機1000と同様に構成される各部には、同符号を用いて説明を省略する。
【0203】
本実施形態においては、田植機2000は、主変速レバー35の前後方向の操作位置を検出する主変速レバーセンサ35aと、微速前進レバーセンサ36の引き操作を検出する微速前進レバーセンサ36aと、走行停止レバー79の押し下げ操作を検出する走行停止レバーセンサ79aを備えている。
【0204】
これらのセンサ35a、36a及び79aから出力される検出信号に基づき、制御部87’は、
図24に示されるHSTサーボモータ150を駆動して、ギア101をいずれかの方向に回転させることにより、ギア101にその前部が取り付けられた変速ロッド34を前後に移動させて、走行車体2’’を前進させ、後進させ、減速もしくは増速させ、又は停止させるよう構成されている。すなわち、本実施形態においては、HSTサーボモータ150及びギア101が本発明の「操作伝達部」の他の例である。
【0205】
例えば、主変速レバー35が中立領域から前進領域に操作されると、制御部87’は、HSTサーボモータ150を駆動してギア101を左側面視で反時計回りに回転させ、変速ロッド34を後方に移動させることにより、車体2’’を前進させる。
【0206】
同様に、主変速レバー35が中立領域にある状態で、微速前進レバーセンサ36が引き操作(換言すれば、一般的な自転車のブレーキのように握り操作)されると、制御部87’は、HSTサーボモータ150を駆動してギア101を左側面視で反時計回りに僅かに回転させる。
【0207】
その結果、変速ロッド34が後方に僅かに移動されて、可動斜板25dの傾斜角度が変化し、HST25の出力軸25gが、車体2’’が微速で前進する程度の回転数で回転される。
【0208】
本実施形態に係る田植機2000は、トラニオン軸25aの回動角度を検出するポテンショメータにより構成されたトラニオン軸センサ100(
図23参照)を備えている。
【0209】
制御部87’は、トラニオン軸センサ100の検出信号に基づき、トラニオン軸25aの回動角度が目標角度となるまで(=可動斜板25dの傾斜角度が目標角度となるまで)HSTサーボモータ150を駆動させるよう構成されている。
【0210】
また、微速前進レバー36の引き操作が微速前進レバーセンサ36aの検出信号により検出されている状態で、走行停止レバー79が押し下げ操作されると、ブレーキ装置が作動し、走行車輪8,9が制動される。
【0211】
同時に、走行停止レバー79の押し下げ操作が走行停止レバーセンサ79aにより検出され、制御部87’は、走行停止レバーセンサ79aの出力信号に基づき、HSTサーボモータ150を駆動し、ギア101を左側面視で時計回りに回転させる。
【0212】
その結果、変速ロッド34が、主変速レバー35の中立領域に対応する位置まで前方へ移動されて、可動斜板25dの傾斜角度が変化し、HST25の出力軸25gの回転が停止する。
【0213】
一方、
図25は、制御部87’による機体2000の位置を維持する制御を示すフローチャートである。
【0214】
本実施形態においては、機体2000が傾斜地に停車された際に、作業者がブレーキペダル81又は走行停止レバー79によりブレーキをかけ忘れた場合、制御部87’が以下のようにしてHSTサーボモータ150を駆動し、機体2000の位置を維持することができる。以下において、制御部87’による機体2000の位置を維持する制御を機体位置維持制御という。
【0215】
主変速レバー35が中立領域に操作されて機体2000が停車されると、制御部87’は、まず、車体2’’の傾斜角度を検出するIMU(慣性計測装置)99の検出信号に基づき、車体2’’のピッチ方向の傾斜角度A1が、機体2000の位置を維持可能な最大且つ所定の角度である最大維持角度Apを上回るか否かを判定する(ステップs1)。
【0216】
判定の結果、車体2’’のピッチ方向の傾斜角度が最大維持角度Ap以下である場合には、制御部87’は、機体位置維持制御を終了する。
【0217】
これに対し、車体2’’のピッチ方向の傾斜角度が最大維持角度Apを上回る場合、制御部87’は、後輪9が回転しているか否かを判定する(ステップs2)。
【0218】
具体的には、後輪9の回転を検出する後輪回転センサ29から検出信号を受信した場合
に、制御部87’は後輪9が回転していると判定する。
【0219】
判定の結果、後輪9が回転していない場合には、制御部87’は、機体位置維持制御を終了する。
【0220】
これに対して、判定の結果、後輪9が回転している場合、制御部87’は、HSTサーボモータ150の駆動を開始して、変速ロッド34の移動を開始する(ステップs3)。
【0221】
なお、後輪9が左側面視で時計回りに回転している場合には、車体2’’を前進させる方向(後ろ側)に変速ロッド34を移動させ、後輪9が左側面視で反時計回りに回転している場合には、車体2’’を後進させる方向(前側)に変速ロッド34を移動させる。
【0222】
次いで、制御部87’は、後輪回転センサ29の信号出力の有無に基づき、後輪9の回転が停止したか否かを判定する(ステップs4)。
【0223】
判定の結果、後輪9の回転が停止していない場合には、後輪9の回転が停止するまで判定が繰り返される。
【0224】
これに対して、判定の結果、後輪9の回転が停止している場合には、制御部87’は、そのときのトラニオン軸センサ100の検出信号に基づき、トラニオン軸25aの回動角度を維持するように、HSTサーボモータ150を駆動し続ける(ステップs5)。
【0225】
したがって、作業者が傾斜地で機体2000を停止させ、ブレーキをかけ忘れた場合でも、機体2000が斜面の下側に下がってしまうことを防止することができる。
【0226】
以後、制御部87’は、主変速レバー35が操作される等、何らかの操作が行われるまで(ステップs6)、HSTサーボモータ150を駆動し続ける。
【0227】
図26は、
図23に示された実施形態に係る田植機2000の略平面図であり、
図27は、
図26に示された第一ないし第三予備苗枠74a~74cの略側面図である。
【0228】
図26に示されるように、本実施形態においては第一ないし第四予備苗枠74aないし74dが機体2000の前部に設けられている。
【0229】
前後方向に並ぶ第一ないし第三予備苗枠74a~74cのうち、前側に位置する第一予備苗枠74aは、リンク機構74fにより第二予備苗枠74bに連結されている。そして、リンク機構74fを回動させることにより、第一予備苗枠74aが第二予備苗枠74bの前方に位置する状態と、第二予備苗枠74bの上方に位置する状態との間で切り換えることができる。
【0230】
一方、第二予備苗枠74bの後方に位置する第三予備苗枠74cは、第二予備苗枠74bの後端部に設けられた回動支点74gを中心に回動可能に構成されており、後方へ延びる姿勢と、上方へ延びる姿勢との間で切り換えることができる。
【0231】
したがって、前後方向に並ぶ3つの予備苗枠74a~74cを備えた機体2000であっても、第三予備苗枠74cを上方へ延びる姿勢に切り換えることで、作業者が機体2000の右側から乗り降りする際に第三予備苗枠74cが邪魔にならない。
【0232】
さらに、このように、第一及び第三予備苗枠74a、74cを移動させることができるから、第一ないし第三予備苗枠74a~74cを前後に真っ直ぐ並ぶように配置した場合、機体の高さを抑えることができるとともに、前後方向に苗箱をスライドさせることが可能になる。
【0233】
図26に示されるように、前後方向に並ぶ3つの予備苗枠74a~74cの機体幅方向内側には、レール74eが設けられている。第四予備苗枠74dは、レール74eに沿って前後方向にスライド可能に構成されている。
【0234】
したがって、例えば第四予備苗枠74dに、空の苗箱を積み重ねておくことにより、多数の空の苗箱をまとめて機体の前方に容易に送り出し、回収することができる。なお、レール74eは伸縮可能に構成されており、第四予備苗枠74dが後方にスライドされるにつれて、レール74eも短くなるため、レール74eが邪魔にならない。
【0235】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0236】
例えば、
図1ないし
図27に示された各実施形態においては、走行車体は、機体の動力源としてエンジン7を備えているが、動力源として、エンジンに代えて、又はエンジンとともに、電動モータを用いてもよい。
【0237】
この場合には、電動モータから出力された動力をHSTに入力して変速するよう構成することにより、各実施形態と同様にして、微速前進レバーにより機体を微速前進させることができる。
【0238】
さらに、
図1ないし
図27に示された各実施形態においては、HST25から出力された動力を、ミッションケース30内で走行用の動力と作業用の動力に分けて出力するよう構成されているが、ミッションケース30を設けることは必ずしも必要でない。
【0239】
したがって、例えば、HSTから、走行用の動力と作業用の動力を分けて出力するよう構成してもよい。
【0240】
加えて、
図1ないし
図27に示された各実施形態においては、ハンドル部17が回動されない固定式に構成されているが、ハンドル部を前下がりに回動可能に構成してもよい。
【0241】
この場合には、微速前進レバーが、ハンドル部の回動の前後にわたって、ハンドル部の上端部よりも下方且つ前端部よりも後方に位置するよう構成することにより、作業者の安全を確保することができる。
【0242】
さらに、
図16ないし
図27に示された各実施形態においては、微速前進レバー36が引き操作された際に、主変速レバー35は中立領域から動かないよう構成されているが、微速前進レバーの引き操作に連動して、主変速レバーが中立領域から前進領域に自動的に移動するよう構成してもよい。この場合には、走行停止レバーの押し下げ操作によるストッパの回動に連動して、主変速レバーが中立領域に自動的に戻されることが望ましい。
【0243】
また、
図23及び
図27に示された前記実施形態においては、
図25に示されるステップs1について、車体2’’のピッチ方向の傾斜角度A1が最大維持角度Apを上回るか否かを判定するよう構成されているが、ピッチ方向の傾斜角度A1を最大維持角度Apと比較することは必ずしも必要でなく、傾斜角度A1が任意の閾値を上回るか否かを判定し、上回る場合に、ステップs2に進むよう構成してもよい。
【0244】
加えて、
図23及び
図27に示された実施形態においては、
図25にステップs1として示されるように、制御部87’は、車体2’’のピッチ方向の傾斜角度A1が最大維持角度Apを上回るか否かを判定した結果、最大維持角度Apを上回る場合にのみ、後輪の回転の有無を判定するよう構成されているが、車体2’’のピッチ方向の傾斜角度A1が最大維持角度Apを上回るか否かを判定することは必ずしも必要でない。
【0245】
すなわち、主変速レバーが中立領域に操作されたときに、後輪の回転の有無を判定し、後輪が回転していることを条件として、HSTサーボモータの駆動を開始する(ステップs3)よう構成してもよい。
【符号の説明】
【0246】
1 田植機
2 走行車体
3 メインフレーム
4 ベルト式動力伝達機構
5 昇降リンク装置
6 後部フレーム
7 エンジン
8 前輪
9 後輪
10 リンクベースフレーム
11 上下リンクアーム
12 昇降油圧シリンダ
13 前輪ファイナルケース
14 後輪伝動軸
15 動力伝達機構
16 フィンガーレバーセンサ
17 ハンドル部
17a ハンドル部の前端部
17b ハンドル部の上端部
18 センターマスコット
19 植付入切スイッチ
20 副変速機構
21 前輪回転センサ
24 副変速レバー
25 HST
25a トラニオン軸
25b 入力軸
25c トラニオンアーム
25d 可動斜板
25e 油圧ポンプ
25f 油圧モータ
25g 出力軸
25h 油圧回路
26 施肥装置
27 植付クラッチモータ
28 操舵機構
29 後輪回転センサ
30 ミッションケース
31 前輪車軸
32 操作伝達部
33 主変速ロッド
34 変速ロッド
35 主変速レバー
36 微速前進レバー
37 ケーブル
38 主変速アーム
39 揺動支点
40 カバー内フレーム
41 位置決め機構
42 作動アーム
43 切換アーム
44 移動ピン
45 切換アーム回動軸
46 カム
46a カム回動軸
47 フロントカバー
48 操縦席
49 操縦部
50 バネ
51 後輪ギアケース
52 取付孔
53 取付孔
54 挿入孔
55 挿入孔
56 長孔
57 取付孔
58 取付孔
59 カム第一ピン
60 フロアステップ
61 モニタ
62 微速前進駆動ピン
63 苗植付部
64 植付装置
65 苗載置台
66 ステー
67 駆動軸
68 コイルバネ
69 植付具
70 インナーワイヤ
71 アウターワイヤ
72 空箱ラック
73 第一の収容部
74 予備苗枠
75 第二の収容部
76 スプリング
77 レバーパネル
78 開口
79 走行停止レバー
80 カム第二ピン
81 ブレーキペダル
82 後輪車軸
83 ステアリングシャフト
84 連動ロッド
85 上部リンクアーム
86 下部リンクアーム
87 制御部
88 電子油圧バルブ
89 ブレーキステー
90 ブレーキシャフト
91 記憶部
92 処理部
93 中立復帰プレート
94 ストッパ
95 ハブ
96 エンジン回転センサ
97 スロットルモータ
98 ロック解除レバー
99 IMU
100 トラニオン軸センサ
101 ギア
150 HSTサーボモータ
1000 田植機
2000 田植機