(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】通信システム、通信方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 47/38 20220101AFI20240905BHJP
H04L 49/9057 20220101ALI20240905BHJP
H04W 28/06 20090101ALI20240905BHJP
H04W 84/18 20090101ALI20240905BHJP
【FI】
H04L47/38
H04L49/9057
H04W28/06
H04W84/18
(21)【出願番号】P 2020201894
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-11-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2020年電子情報通信学会総合大会 オンライン開催(https://www.ieice-taikai.jp/2020general/jpn/) 開催日 令和2年3月20日 (2)電子情報通信学会大会講演論文集(CD-ROM)、2020、総合大会A-2-7,pp.28、電子情報通信学会 開催日 令和2年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121131
【氏名又は名称】西川 孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】稲本 義雄
(72)【発明者】
【氏名】石橋 功至
(72)【発明者】
【氏名】谷津 崚太
(72)【発明者】
【氏名】土屋 創太
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 秀樹
【審査官】羽岡 さやか
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-177847(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0103580(US,A1)
【文献】特開2014-039257(JP,A)
【文献】特表2001-505386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/00-69/40
H04W 28/06
H04W 84/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の端末を経由して順次伝達するようにパケットの送信が行われる通信システムであって、
送信対象となる情報を複数個の情報ブロックに分割して、複数個の前記情報ブロックを暗号化した複数個の暗号化ブロックと1つの初期暗号ブロックとからなる暗号化パケットを生成する所定の台数の情報端末と、
所定の台数の前記情報端末それぞれから送信されてくる所定の個数の前記暗号化パケットの全てを保持して、特定の前記暗号化ブロックごとに纏めて延伸した後に圧縮を行うことで複数個の圧縮系列を取得する中継端末と、
前記中継端末から送信されてくる複数個の前記圧縮系列から、所定の台数の前記情報端末それぞれにおいて送信対象とされた前記情報を復元する宛先端末と
を備える通信システム。
【請求項2】
前記情報端末は、前記暗号化ブロックに対して順にブロックインデックスを付与し、
前記中継端末は、前記ブロックインデックスが同一である前記暗号化ブロックごとに纏めることで圧縮の処理対象を延伸する
請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記中継端末は、
前記ブロックインデックスで纏められた所定の個数の前記暗号化ブロックに対してベクトル作用素を適用して、圧縮処理が行われる際の処理対象となる被圧縮系列を生成する被圧縮系列生成処理部と、
前記被圧縮系列生成処理部において生成された複数個の前記被圧縮系列それぞれに対して誤り訂正符号を用いた圧縮処理を行う圧縮処理部と
を有する
請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記被圧縮系列生成処理部は、生成した前記被圧縮系列が規定の長さとなるようにゼロパディングを行う
請求項3に記載の通信システム。
【請求項5】
前記圧縮処理部は、最後尾の前記ブロックインデックスが付与されている前記暗号化ブロックから生成された前記被圧縮系列に対しては圧縮処理を施さずに、そのまま前記宛先端末へ送信させる
請求項3に記載の通信システム。
【請求項6】
前記宛先端末は、前記圧縮処理部において圧縮が施されていない前記被圧縮系列を用いて、前記ブロックインデックスが最後尾の1つ前である前記圧縮系列から順に、圧縮を元の状態に戻す処理の処理対象となる前記圧縮系列が復号された補助情報系列と、その処理対象の前記圧縮系列よりも前記ブロックインデックスが1つ前の前記被圧縮系列との相関を利用して、その処理対象の前記圧縮系列の圧縮を元の状態に戻すことで、前記情報を復元する
請求項5に記載の通信システム。
【請求項7】
複数の端末を経由して順次伝達するようにパケットの送信が行われる通信システムが、
送信対象となる情報を複数個の情報ブロックに分割して、複数個の前記情報ブロックを暗号化した複数個の暗号化ブロックと1つの初期暗号ブロックとからなる暗号化パケットを、所定の台数の情報端末において生成することと、
所定の台数の前記情報端末それぞれから送信されてくる所定の個数の前記暗号化パケットの全てを保持して、特定の前記暗号化ブロックごとに纏めて延伸した後に圧縮を行うことで複数個の圧縮系列を中継端末において取得することと、
前記中継端末から送信されてくる複数個の前記圧縮系列から、所定の台数の前記情報端末それぞれにおいて送信対象とされた前記情報を宛先端末において復元することと
を含む通信方法。
【請求項8】
複数の端末を経由して順次伝達するようにパケットの送信が行われる通信システムのコンピュータに、
送信対象となる情報を複数個の情報ブロックに分割して、複数個の前記情報ブロックを暗号化した複数個の暗号化ブロックと1つの初期暗号ブロックとからなる暗号化パケットを、所定の台数の情報端末において生成することと、
所定の台数の前記情報端末それぞれから送信されてくる所定の個数の前記暗号化パケットの全てを保持して、特定の前記暗号化ブロックごとに纏めて延伸した後に圧縮を行うことで複数個の圧縮系列を中継端末において取得することと、
前記中継端末から送信されてくる複数個の前記圧縮系列から、所定の台数の前記情報端末それぞれにおいて送信対象とされた前記情報を宛先端末において復元することと
を含む通信処理を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信システム、通信方法、およびプログラムに関し、特に、より効率良く通信を行うことができるようにした通信システム、通信方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユーザーエクスペリエンスの向上やサービスのメンテナンスコストの削減などを図る手段として、無線通信を介してデバイスを接続する技術、いわゆるモノのインターネット(IoT: Internet of Things)が注目されている。例えば、顧客情報を収集するスマートメータはIoTの典型である。
【0003】
また、IoTでは、拡張性の高さや実用上の利便性などの理由で、複数の端末を経由したマルチホップ伝送が採用されている。ところが、マルチホップ伝送ではネットワーク内において、最終的な宛先地点となるゲートウェイとの間に1台の端末しか通信が確立できない経路が発生すると、そのリンクが通信のボトルネックになってしまう。
【0004】
特に、マルチホップ伝送において多元接続を実現する通信規格の一つである受信機駆動型媒体アクセス制御(RI-MAC: Reciver-Initiated Medium Access Control)プロトコル(非特許文献1参照)では、ボトルネック端末がゲートウェイにパケットを送信している間、ボトルネック端末周辺でパケットを保持する全ての端末は、ボトルネック端末にパケットを送信できないため、送信待機状態になる。このため、ボトルネック端末の伝送すべきパケット数が増大するにつれて、各端末にパケットが滞留し、結果としてネットワーク全体のパケット収集効率が低下するという問題が生じる。
【0005】
この問題点への解決策のひとつとして、ボトルネック端末がその周辺の端末から受信するパケットを一定数保持しておき、その後、個々のパケットを1つのパケットとすることでオーバーヘッドを削減し、伝送効率を向上するパケットアグリゲーションが考えられる(非特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、一般的に、プリアンブルなどのヘッダ部とデータ部とでは、データ部の方がヘッダ部に比べて十分長く、ヘッダの削減による効果は限定的である。このため、ボトルネック端末における伝送効率のさらなる向上のためには、データ部をなんらかの手法で圧縮し、伝送時間を短縮することが効果的であると考えられる。ところが、顧客の情報を伝送するようなシステムでは、プライバシー保護の観点から、パケット生成時に暗号化が施されている。一般に暗号化は、0および1の出現確率を均等とするように、つまりエントロピーを最大化するように設計されており、情報理論により、このような情報を圧縮することはできないことが知られている。
【0007】
これに対し、非特許文献3では、スレピアン・ウォルフの定理(非特許文献4参照)を利用することで、ブロック暗号による暗号化を施されたパケットに対して圧縮を可能とする暗号化後圧縮(EtC: Encryption-then-Compression)手法が提案されている。この手法では、直前の被圧縮系列と誤り訂正符号とを用いることで、個々の暗号ブロックごとに圧縮を施し、スレピアン・ウォルフ型の問題として復号を行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】J. Fujiwara, R. Okumura, K. Mizutani, H. Harada, S. Tsuchiya, and T. Kawata, “Ultra-low power MAC protocol complied with RIT in IEEE 802.15.4e for wireless smart utility networks,” in Proc. 2016 IEEE 27th Annu. Int. Symp. Pers., Indoor, Mobile Radio Commun. (PIMRC), Valencia, Spain, 2016, pp. 1-6.
【文献】M. Zhao and Y. Yang “Bounded relay hop mobile data gathering in wireless sensor networks,” IEEE Trans. Comput., vol. 61, no. 2, pp.265-277 Feb. 2012.
【文献】D. Klinc, C. Hazay, A. Jagmohan, H. Krawczyk, and T. Rabin, “On compression of data encrypted with block ciphers,” IEEE Trans. Inf. Theory, vol. 58, no. 11, pp. 6989-7001, Nov. 2012.
【文献】D. Slepian and J. Wolf, “Noiseless coding of correlated information sources,” IEEE Trans. Inf. Theory, vol. IT-19, no. 4, pp. 471-480, Jul. 1973.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、誤り訂正符号の性能はその符号長に依存することが知られており、一般に符号長が長いほど性能がよい。このため、暗号ブロック長が短い場合には、誤り訂正符号の性能限界により、ゲートウェイにおける解凍・復号誤り確率が上昇することになる。そこで、解凍・復号誤りを低減させるとともに、パケット伝送に要するエネルギーの低減を図ることで、より効率良く通信を行えるようにすることが求められている。
【0010】
本開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、より効率良く通信を行うことができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一側面の通信システムは、複数の端末を経由して順次伝達するようにパケットの送信が行われる通信システムであって、送信対象となる情報を複数個の情報ブロックに分割して、複数個の前記情報ブロックを暗号化した複数個の暗号化ブロックと1つの初期暗号ブロックとからなる暗号化パケットを生成する所定の台数の情報端末と、所定の台数の前記情報端末それぞれから送信されてくる所定の個数の前記暗号化パケットの全てを保持して、特定の前記暗号化ブロックごとに纏めて延伸した後に圧縮を行うことで複数個の圧縮系列を取得する中継端末と、複数個の前記圧縮系列から、所定の台数の前記情報端末それぞれにおいて送信対象とされた前記情報を復元する宛先端末とを備える。
【0012】
本開示の一側面の通信方法は、複数の端末を経由して順次伝達するようにパケットの送信が行われる通信システムが、送信対象となる情報を複数個の情報ブロックに分割して、複数個の前記情報ブロックを暗号化した複数個の暗号化ブロックと1つの初期暗号ブロックとからなる暗号化パケットを、所定の台数の情報端末において生成することと、所定の台数の前記情報端末それぞれから送信されてくる所定の個数の前記暗号化パケットの全てを保持して、特定の前記暗号化ブロックごとに纏めて延伸した後に圧縮を行うことで複数個の圧縮系列を中継端末において取得することと、前記中継端末から送信されてくる複数個の前記圧縮系列から、所定の台数の前記情報端末それぞれにおいて送信対象とされた前記情報を宛先端末において復元することとを含む。
【0013】
本開示の一側面のプログラムは、複数の端末を経由して順次伝達するようにパケットの送信が行われる通信システムのコンピュータに、送信対象となる情報を複数個の情報ブロックに分割して、複数個の前記情報ブロックを暗号化した複数個の暗号化ブロックと1つの初期暗号ブロックとからなる暗号化パケットを、所定の台数の情報端末において生成することと、所定の台数の前記情報端末それぞれから送信されてくる所定の個数の前記暗号化パケットの全てを保持して、特定の前記暗号化ブロックごとに纏めて延伸した後に圧縮を行うことで複数個の圧縮系列を中継端末において取得することと、前記中継端末から送信されてくる複数個の前記圧縮系列から、所定の台数の前記情報端末それぞれにおいて送信対象とされた前記情報を宛先端末において復元することとを含む通信処理を実行させる。
【0014】
本開示の一側面においては、送信対象となる情報が複数個の情報ブロックに分割されて、複数個の情報ブロックを暗号化した複数個の暗号化ブロックと1つの初期暗号ブロックとからなる暗号化パケットが、所定の台数の情報端末において生成される。そして、所定の台数の情報端末それぞれから送信されてくる所定の個数の暗号化パケットの全てが保持されて、特定の暗号化ブロックごとに纏めて延伸した後に圧縮を行うことで複数個の圧縮系列が中継端末において取得され、複数個の圧縮系列から、所定の台数の情報端末それぞれにおいて送信対象とされた情報が宛先端末において復元される。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一側面によれば、より高効率で通信を行うことができる。
【0016】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本技術を適用した通信システムの一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【
図3】パケット生成、パケット分割、および初期暗号ブロックについて説明する図である。
【
図6】暗号化パケット送信処理について説明する図である。
【
図7】暗号化パケット送信処理について説明する図である。
【
図9】被圧縮系列生成処理について説明する図である。
【
図10】被圧縮系列生成処理について説明する図である。
【
図12】パケット伝送処理について説明する図である。
【
図13】宛先端末の構成例を示すブロック図である。
【
図16】第1のシミュレーション諸元の一例を示す図である。
【
図17】情報パケットのエントロピーと復号誤り確率との関係のシミュレーション結果を示す図である。
【
図18】シミュレーションにおけるパケット伝送の動作フローの一例を示す図である。
【
図19】第2のシミュレーション諸元の一例を示す図である。
【
図20】消費エネルギーについてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図21】本技術を適用したコンピュータの一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
<通信システムの構成例>
図1は、本技術を適用した通信システムの一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【0020】
図1に示されている通信システム11は、M台の情報端末(SN:Source Node)12
1乃至12
M、1台の中継端末(RN:Relay Node)13、および、1台の宛先端末(DN:Destination Node)14が通信ネットワークを介して接続されて構成される。
【0021】
例えば、通信システム11では、複数の端末を経由して順次伝達するようにパケットを送信するマルチホップ通信が行われるが、宛先端末14との間では中継端末13のみが通信を確立するように通信ネットワークが構成されている。従って、通信システム11は、M台の情報端末121乃至12Mおよび中継端末13が通信ネットワークを介して接続されるとともに、中継端末13および宛先端末14が通信ネットワークを介して接続される接続構成となっている。
【0022】
情報端末121乃至12Mは、送信対象となる情報を、プライバシー保護のために暗号化して暗号化パケットを取得し、暗号化パケットを中継端末13へ送信する。このとき、情報端末121乃至12Mが送信する情報の宛先は宛先端末14であるが、情報端末121乃至12Mは通信ネットワークを介して中継端末13のみと接続され、宛先端末14とは接続されない接続構成となっている。そのため、通信システム11では、情報端末121乃至12Mは、中継端末13に対してのみパケット送信可能となっている。
【0023】
中継端末13は、情報端末121乃至12Mそれぞれから送信されてくる暗号化パケットを収集し、それらの暗号化パケットを一括して圧縮する暗号化後圧縮を行うことによって圧縮系列を取得して、圧縮系列を宛先端末14へ送信する。例えば、通信システム11では、中継端末13は、宛先端末14に対してのみパケット送信可能となっている。以下では、中継端末13において暗号化パケットを集約することを、パケットアグリゲーションと称する。
【0024】
宛先端末14は、中継端末13から送信されてくる圧縮系列から、情報端末121乃至12Mそれぞれにおいて送信対象とされた情報を復元する。例えば、宛先端末14は、情報端末121乃至12Mそれぞれが情報を暗号化するのに用いる暗号鍵について既知であり、それらの暗号鍵を用いて暗号化パケットを復号することができる。
【0025】
このように構成される通信システム11において、中継端末13に対して暗号化パケットの転送が集中する状況となっても、それらの暗号化パケットを一括して圧縮することによって、より高効率で通信を行うことが可能となる。なお、本実施の形態においては、情報端末121乃至12Mと中継端末13との間のパケット伝送、および、中継端末13と宛先端末14との間のパケット伝送において、誤りは発生しないものとして説明を行う。
【0026】
<情報端末の構成例および処理例>
図2乃至
図7を参照して、情報端末12の構成例、および、情報端末12において行われる各処理の処理例について説明する。
【0027】
図2は、情報端末12の構成例を示すブロック図である。情報端末12は、パケット生成部21、パケット分割部22、初期暗号ブロック生成部23、暗号化処理部24、および暗号化パケット送信部25を備えて構成される。
【0028】
パケット生成部21は、送信対象となる情報を送信するためにパケット化して情報パケットを生成し、パケット分割部22に供給する。例えば、m番目の情報端末12
mのパケット生成部21
mは、
図3の1段目に示すように、0および1の二値からなり、パケット系列長Lとなる情報パケットX
(m)を生成する。ここで、情報パケットX
(m)は、低いエントロピーHを持つものとする。
【0029】
パケット分割部22は、パケット生成部21から供給された情報パケットを複数個の情報ブロックに分割して、初期暗号ブロック生成部23に供給する。例えば、情報パケットがN個の情報ブロックに分割される場合、m番目の情報端末12
mのパケット分割部22
mは、
図3の2段目に示すように、パケット系列長Lの情報パケットX
(m)を、それぞれブロック系列長KとなるN個の情報ブロックx
n
(m)に分割する。ここで、パケット分割部22は、個々の情報ブロックx
n
(m)に対して順にブロックインデックスn(n=1~N)を付与する。
【0030】
初期暗号ブロック生成部23は、乱数を用いて初期暗号ブロックを生成し、パケット分割部22から供給された複数個の情報ブロックの先頭に付加して、暗号化処理部24に供給する。例えば、m番目の情報端末12
mのパケット分割部22
mは、
図3の3段目に示すように、N個の情報ブロックx
n
(m)のうちの、先頭となる情報ブロックx
1
(m)の前にブロック系列長Kの初期暗号ブロックy
0
(m)を付加する。
【0031】
暗号化処理部24は、初期暗号ブロック生成部23から供給された初期暗号ブロックおよび複数個の情報ブロックに対して暗号化処理を施すことによって、それぞれに対応する暗号化パケットを取得し、暗号化パケット送信部25に供給する。なお、m番目の情報端末12
mの暗号化処理部24
mによる暗号化処理については、
図4および
図5を参照して後述する。
【0032】
暗号化パケット送信部25は、暗号化処理部24から供給された暗号化パケットを、中継端末13へ送信する。なお、m番目の情報端末12
mの暗号化パケット送信部25
mによるパケット伝送処理については、
図6および
図7を参照して後述する。
【0033】
<暗号化処理>
図4および
図5を参照して、m番目の情報端末12
mが備える暗号化処理部24
mによる暗号化処理について説明する。例えば、暗号化処理部24
mは、CBC(Cipher Block Chaining)モードのブロック暗号による暗号化を行う。
【0034】
まず、
図4の1段目に示すように、暗号化処理部24
mは、初期暗号ブロックy
0
(m)を暗号化パケットY
(m)の1ブロック目の暗号化ブロックy
0
(m)とする。
【0035】
そして、
図4の2段目に示すように、暗号化処理部24
mは、情報ブロックx
1
(m)を暗号化対象として、暗号化ブロックy
0
(m)および情報ブロックx
1
(m)の系列間における排他的論理和を演算することにより、1番目のCBCブロックx^
1
(m)を算出する。同様に、暗号化処理部24
mは、n-1ブロック目の暗号化ブロックy
n-1
(m)およびn番目の情報ブロックx
n
(m)の系列間における排他的論理和を演算することにより、n番目のCBCブロックx^
n
(m)を算出すことができる。
【0036】
さらに、
図4の3段目に示すように、暗号化処理部24
mは、情報端末12
mにおける暗号鍵K
(m)を用いた暗号化実行関数F
K(m)[・]に対して、1番目のCBCブロックx^
1
(m)を入力することにより暗号化ブロックy
1
(m)を取得する。このように、暗号化処理部24
mは、情報ブロックx
1
(m)を暗号化対象として、暗号化パケットY
(m)の2ブロック目となる暗号化ブロックy
1
(m)を取得することができる。
【0037】
次に、
図5の1段目に示すように、暗号化処理部24
mは、情報ブロックx
2
(m)を暗号化対象として、2番目のCBCブロックx^
2
(m)を算出し、暗号化パケットY
(m)の3ブロック目となる暗号化ブロックy
2
(m)を取得する。以下、暗号化処理部24
mは、情報ブロックx
N
(m)を暗号化対象として、N番目のCBCブロックx^
N
(m)を算出し、暗号化パケットY
(m)のN+1ブロック目となる暗号化ブロックy
N
(m)を取得するまで順次、同様の処理を繰り返して行う。
【0038】
これにより、
図5の2段目に示すように、暗号化処理部24
mは、パケット系列長(N+1)Kとなる暗号化パケットY
(m)を取得することができる。
【0039】
そして、情報端末121乃至12Mそれぞれにおいて同様の暗号化処理が行われることによって暗号化パケットY(1)乃至Y(M)が取得され、情報端末121乃至12Mから中継端末13へ暗号化パケットY(1)乃至Y(M)が送信される。
【0040】
<暗号化パケット送信処理>
図6および
図7を参照して、m番目の情報端末12
mが備える暗号化パケット送信部25
mによる暗号化パケット送信処理について説明する。なお、上述した非特許文献1で提案されているRI-MACプロトコルに基づくパケット伝送について説明するが、その他、任意のプロトコルを用いてもよい。
【0041】
ここでは、
図6の1段目に示すように、情報端末12
mおよび中継端末13の時間tの経過に従って説明を行う。
【0042】
まず、
図6の2段目に示すように、情報端末12
mは、情報端末12
mにおいて暗号化パケットを生起することができる区間であるパケット生起区間T
Gのうち、任意のタイミングで暗号化パケットを生起する。
【0043】
そして、
図6の3段目に示すように、情報端末12
mは、暗号化パケットを生起した後、連続的に受信状態となる。
【0044】
一方、
図7の1段目に示すように、中継端末13は、所定の間隔で間欠的に起動する間欠間隔T
IDLEごとに起動し、暗号化パケット(DATA)を受信する準備ができたことを通知するRTR(Ready-To-Receive)信号を、情報端末12
1乃至12
Mの全てに送信する。その後、中継端末13は、短い時間だけ受信状態となる。
【0045】
そして、
図7の2段目に示すように、RTRを受信した情報端末12
mは、直ちに暗号化パケット(DATA)を中継端末13へ送信し、その送信が完了した後、直ちに休眠状態に移行する。
【0046】
これに応じ、
図7の3段目に示すように、中継端末13は、情報端末12
mから送信されてくる暗号化パケット(DATA)を受信する。そして、中継端末13は、暗号化パケット(DATA)の受信が完了した後も、宛先端末14への伝送のために連続的な受信状態となる。
【0047】
以上のように情報端末121乃至12Mは構成されており、情報パケットX(1)乃至(M)それぞれが、N個の情報ブロックx1
(1)乃至xN
(1)、N個の情報ブロックx1
(2)乃至xN
(2)、・・・、N個の情報ブロックx1
(M)乃至xN
(M)に分割される。さらに、情報ブロックx1
(1)乃至xN
(1)を暗号化した暗号化ブロックy1
(1)乃至yN
(1)と初期暗号ブロックy0
(1)とからなる暗号化パケットY(1)が生成され、同様に、暗号化パケットY(2)乃至Y(M)が生成される。そして、情報端末121乃至12Mから中継端末13へ暗号化パケットY(1)乃至Y(M)が送信される。
【0048】
<中継端末の構成例および処理例>
図8乃至
図12を参照して、中継端末13の構成例、および、中継端末13において行われる各処理の処理例について説明する。
【0049】
図8は、中継端末13の構成例を示すブロック図である。中継端末13は、パケット受信部31、保持部32、被圧縮系列生成処理部33、圧縮処理部34、および送信部35を備えて構成される。
【0050】
パケット受信部31は、情報端末121乃至12Mそれぞれから送信されてくる暗号化パケットY(1)乃至Y(M)を全て受信して、保持部32に供給する。
【0051】
保持部32は、パケット受信部31から供給された暗号化パケットY(1)乃至Y(M)を全て保持する。
【0052】
被圧縮系列生成処理部33は、保持部32から暗号化パケットY
(1)乃至Y
(M)を読み出して、圧縮処理部34で圧縮処理が行われる際の処理単位となる被圧縮系列を生成する被圧縮系列生成処理を行い、被圧縮系列を圧縮処理部34に供給する。なお、被圧縮系列生成処理部33による被圧縮系列生成処理については、
図9および10を参照して後述する。
【0053】
圧縮処理部34は、被圧縮系列生成処理部33から供給された被圧縮系列ごとに圧縮処理を行うことによって圧縮系列を生成し、圧縮系列を送信部35に供給する。なお、圧縮処理部34による圧縮処理については、
図11を参照して後述する。
【0054】
送信部35は、圧縮処理部34から供給された圧縮系列を、宛先端末14へ送信する。なお、送信部35によるパケット伝送処理については、
図12を参照して後述する。
【0055】
<被圧縮系列生成処理>
図9および10を参照して、被圧縮系列生成処理部33による被圧縮系列生成処理について説明する。
【0056】
まず、
図9の1段目に示すように、保持部32には、暗号化パケットY
(1)乃至Y
(M)が全て保持されている。図示するように、暗号化パケットY
(m)は、N+1個の暗号化ブロックy
0
(m)乃至y
N
(m)から構成される。そして、通信システム11では、ブロックインデックスnが同一の暗号化ブロックy
n
(1)乃至y
n
(M)に着目して、被圧縮系列が生成される。
【0057】
例えば、
図9の2段目に示すように、ブロックインデックスn=0を処理対象とする場合、被圧縮系列生成処理部33は、破線で囲われている暗号化ブロックy
0
(1)乃至y
0
(M)を保持部32から読み出す。
【0058】
ここで、
図9の3段目に示すように、暗号化ブロックy
0
(1)のサイズは行×列が1×Kであり、その他の暗号化ブロックy
0
(2)乃至y
0
(M)についても同じサイズである。
【0059】
次に、
図10の1段目に示すように、被圧縮系列生成処理部33は、転置行列(・)
Tを用いて、暗号化ブロックy
0
(1)乃至y
0
(M)を転置させる。これにより、例えば、暗号化ブロックy
0
(1)は、行×列がK×1となるサイズの暗号化ブロックy
0
(1)Tに転置される。なお、その他の暗号化ブロックy
0
(2)乃至y
0
(M)も同様に、行×列がK×1となるサイズの暗号化ブロックy
0
(2)T乃至y
0
(M)Tに転置される。
【0060】
そして、
図10の2段目に示すように、被圧縮系列生成処理部33は、暗号化ブロックy
0
(1)T乃至y
0
(M)Tに対してベクトル作用素Vec(・)を適用し、それらを一列に並べた1つの系列とすることで、行×列がMK×1となるサイズの被圧縮系列Y
0を生成する。
【0061】
以下、同様に、被圧縮系列生成処理部33は、ブロックインデックス1乃至Nそれぞれの暗号化ブロックを処理対象として被圧縮系列生成処理を行うことで、被圧縮系列Y1乃至YNを生成する。例えば、被圧縮系列生成処理部33は、ブロックインデックスnの暗号化ブロックyn
(1)乃至yn
(M)を処理対象として、転置行列(・)Tを用いて置換させた暗号化ブロックyn
(1)T乃至yn
(M)Tに対してベクトル作用素Vec(・)を適用することで、被圧縮系列Ynを生成する。
【0062】
<圧縮処理>
図11を参照して、圧縮処理部34による圧縮処理について説明する。
【0063】
圧縮処理部34は、誤り訂正符号の検査行列であるパリティ検査行列を用いた圧縮処理を行う。符号化率Rの誤り訂正符号を用いたとき、被圧縮系列は圧縮率(1-R)で圧縮される。例えば、圧縮処理部34は、行×列が(1-R)MK×MKとなるパリティ検査行列Hを、被圧縮系列生成処理部33から供給された行×列がMK×1となるサイズの被圧縮系列Ynに適用することで、行×列が(1-R)MK×1の圧縮系列Sn
Tを取得することができる。
【0064】
そして、圧縮処理部34は、この様な圧縮処理を、被圧縮系列生成処理部33から供給される被圧縮系列Y0乃至YN-1に対して施すことにより圧縮系列S0
T乃至SN-1
Tを取得して、送信部35に供給する。ここで、圧縮処理部34は、宛先端末14において解凍および復号を行うことができるようにするために、被圧縮系列YNに対しては圧縮処理を施さずに、そのまま送信部35に供給する。即ち、先頭の被圧縮系列Y0から圧縮処理が施される場合、最後尾の被圧縮系列YNに対しては圧縮処理が施されない。
【0065】
<パケット伝送処理>
図12を参照して、送信部35によるパケット伝送処理について説明する。
【0066】
図12に示すように、宛先端末14は、間欠間隔T
IDLEごとにRTR信号を中継端末13に対して送信している。そして、中継端末13は、圧縮系列S
0乃至S
N-1および被圧縮系列Y
Nを取得してRTR信号を受信した直後に、圧縮系列S
0乃至S
N-1および被圧縮系列Y
Nを纏めて宛先端末14に送信する。宛先端末14では、圧縮系列S
0乃至S
N-1および被圧縮系列Y
Nの受信が完了した後、間欠間隔T
IDLEが開始される。
【0067】
以上のように中継端末13は構成されており、情報端末121乃至12Mそれぞれから送信されてくる暗号化パケットY(1)乃至Y(M)の全てが保持されて、ブロックインデックスnが同一である暗号化ブロックynごとに纏めることで圧縮の処理対象を延伸した後に圧縮を行うことで圧縮系列S0乃至SN-1が取得される。そして、中継端末13から宛先端末14へ圧縮系列S0乃至SN-1および被圧縮系列YNが送信される。
【0068】
<宛先端末の構成例および処理例>
図13乃至
図15を参照して、宛先端末14の構成例、および、宛先端末14において行われる各処理の処理例について説明する。
【0069】
図13は、宛先端末14の構成例を示すブロック図である。宛先端末14は、受信部41、および復号解凍処理部42を備えて構成される。
【0070】
受信部41は、中継端末13から纏めて送信されてくる圧縮系列S0乃至SN-1および被圧縮系列YNを受信して、復号解凍処理部42に供給する。
【0071】
復号解凍処理部42は、圧縮系列S0乃至SN-1および被圧縮系列YNを復号するとともに、圧縮されたデータを元の状態に戻す(以下、解凍と称する)ための復号解凍処理を行って、情報端末121乃至12Mそれぞれにおいて送信対象とされた情報を復元する。これにより、復号解凍処理部42は、情報ブロックx1
(1)乃至xN
(1)、情報ブロックx1
(2)乃至xN
(2)、・・・、情報ブロックx1
(M)乃至xN
(M)を取得して、出力する。
【0072】
<復号解凍処理>
図14および
図15を参照して、復号解凍処理部42による復号解凍処理について説明する。
【0073】
まず、
図14の1段目に示すように、復号解凍処理部42は、圧縮されていない被圧縮系列Y
Nを構成する暗号化ブロックy
N
(1)T乃至y
N
(M)Tそれぞれに対して暗号化実行逆関数F
-1
K(m)[・]を適用する。これにより、復号解凍処理部42は、暗号化ブロックy
N
(1)T乃至y
N
(M)TをCBCブロックx^
N
(1)T乃至x^
N
(M)Tに復号する。このとき、復号解凍処理部42は、情報端末12
1乃至12
Mそれぞれが情報を暗号化するのに用いる暗号鍵K
(1)乃至K
(M)について既知であり、暗号鍵K
(1)乃至K
(M)を暗号化実行逆関数F
-1
K(m)[・]に入力する。また、CBCブロックx^
N
(1)T乃至x^
N
(M)Tが一列に並べられた1つの系列、即ち、CBCブロックx^
N
(1)T乃至x^
N
(M)Tに対してベクトル作用素Vec(・)が適用された系列を、補助情報系列X^
Nとする。
【0074】
ここで、
図14の2段目に示すように、補助情報系列X^
Nと、圧縮系列S
N-1
Tを圧縮する前の被圧縮系列Y
N-1とは相関を持っている。つまり、被圧縮系列Y
N-1は、補助情報系列X^
Nとベクトル作用素Vec(・)が適用された情報ブロックx
N
(1)T乃至x
N
(M)Tとの系列間における排他的論理和と等しくなっている。
【0075】
このことを利用して、
図15の1段目に示すように、復号解凍処理部42は、スレピアン・ウォルフ型解凍器により圧縮系列S
N-1
Tを解凍し、被圧縮系列Y
N-1を取得することができる。
【0076】
そして、
図15の2段目に示すように、復号解凍処理部42は、被圧縮系列Y
N-1および補助情報系列X^
Nの排他的論理和を求めることでブロックインデックスNの情報ブロックx
N
(1)T乃至x
N
(M)Tを取得することができる。以下、復号解凍処理部42は、被圧縮系列Y
N-1から得られる補助情報系列X^
N-1を用いて圧縮系列S
N-2
Tを解凍することで被圧縮系列Y
N-2を取得して、被圧縮系列Y
N-2および補助情報系列X^
N-1の排他的論理和を求めることで情報ブロックx
N-1
(1)乃至x
N-1
(M)を取得する処理を行い、ブロックインデックス1の情報ブロックx
1
(1)乃至x
1
(M)を取得するまで順次、同様の処理を繰り返して行う。
【0077】
そして、復号解凍処理部42は、情報端末121乃至12Mそれぞれにおいて送信対象とされた情報をパケット化した情報パケットX(1)乃至X(M)を取得することで、それらの情報を復元することができる。
【0078】
このように、復号解凍処理部42は、圧縮されていない被圧縮系列YNを用いて、圧縮系列SN-1から順に解凍処理対象とし、解凍処理対象の圧縮系列Snが復号された補助情報系列X^nと、解凍処理対象の1つ前の圧縮系列Sn-1を圧縮する前の被圧縮系列Yn-1との相関を利用して、処理対象の圧縮系列Snを解凍する。
【0079】
以上のように宛先端末14は構成されており、中継端末13から送信されてくる圧縮系列S0乃至SN-1および被圧縮系列YNから、情報端末121乃至12Mそれぞれにおいて送信対象とされた情報が復元(復号および解凍)される。
【0080】
以上のように構成される通信システム11は、中継端末13において暗号化後圧縮を適用する際に、ブロックインデックスnが同一である暗号化ブロックynごとに纏めて延伸することで、暗号化後圧縮の性能を向上させることができる。さらに、通信システム11は、中継端末13において暗号化パケットを一括して圧縮した圧縮系列Sを宛先端末14へ送信することで、従来と比較して低消費エネルギーを達成することができる。
【0081】
特に、通信システム11は、中継端末13に転送が集中するような構成であっても、転送すべきデータ量を削減し、伝送効率の向上とともに消費電力の削減を図ることができ、より効率良く通信を行うことができる。
【0082】
<通信システムにおける効果>
図16乃至
図20を参照して、通信システム11において本技術を適用することによる効果について説明する。
【0083】
まず、情報パケットのエントロピーと復号誤り確率との関係について行った第1のシミュレーションの結果から示される効果について説明する。
【0084】
図16は、第1のシミュレーション諸元の一例を示す図である。通信システム11に適用される技術を提案手法とし、提案手法と比較するための従来手法としては、上述した非特許文献3で開示されている技術を適用した。
【0085】
例えば、
図16に示すように、従来手法においてはLDPC行列の構成法としてGallager構成を用いてシミュレーションを行い、提案手法においてはLDPC行列の構成法としてGallager構成およびIEEE802.11n規格を用いてシミュレーションを行った。以下では、提案手法においてLDPC行列の構成法がGallager構成で行われたシミュレーションを提案手法(Gallager)と称し、提案手法においてLDPC行列の構成法がIEEE802.11n構成で行われたシミュレーションを提案手法(IEEE802.11n)と称する。なお、Low-Density Parity-Check (LDPC)符号については、非特許文献5『R. C. Gallager, Low-Density Parity-Check Codes. Cambridge, MA, USA: MIT Press, 1963.』に開示されている。
【0086】
図17は、提案手法および従来手法において、情報パケットを圧縮率0.5となるように暗号化後圧縮を行ったシミュレーション結果を示す図である。
図17において、横軸は、情報パケットを圧縮する際の圧縮率の理論限界であるエントロピーを示し、縦軸は、解凍・復号したパケットが元のパケットと1ビットでも異なる確率である解凍・復号誤り確率を示している。
【0087】
従来手法では、128ビットの暗号化ブロックを64ビットの系列に圧縮するように暗号化後圧縮を行うシミュレーションを行った。提案手法(Gallager)では、1920ビットの被圧縮系列を960ビットの系列に圧縮するように暗号化後圧縮を行うシミュレーションを行った。提案手法(IEEE802.11n)では、1920ビットの被圧縮系列の後部に24ビットだけビット0を追加するゼロパディングを行った後、1944ビットの系列を972ビットの系列に圧縮するように暗号化後圧縮を行うシミュレーションを行った。
【0088】
このシミュレーション結果について、例えば、エントロピー0.25に着目する。従来手法および提案手法(Gallager)を比較すると、理論上では圧縮率0.25まで誤りなく、圧縮可能なパケットを圧縮率0.5で圧縮できることが示されている。一方で、従来手法では、解凍・復号誤り確率がほとんど1である(即ち、ほぼ全てに誤りが生じる)のに対し、提案手法では、解凍・復号誤り確率が10-4以下であることが示されている。
【0089】
また、提案手法(IEEE802.11n)の性能として、エントロピー0.31付近になって初めて解凍・復号誤りが発生することがシミュレーション結果により示されている。このように、提案手法(IEEE802.11n)で、提案手法(Gallager)よりも圧縮性能を向上させることができるという結果が示された。
【0090】
以上のことより、提案手法(Gallager)において、誤り訂正符号に基づく圧縮手法では、被圧縮系列の長さが長いほど圧縮性能は理論限界に漸近するという効果を得ることができた。このように、パケットアグリゲーションにより、被圧縮系列を伸長することが可能であることが示された。
【0091】
また、提案手法(IEEE802.11n)において、ゼロパディングにより追加されたビットを解凍・復号時に確定ビットとして利用可能(圧縮手法として、復号側もどこにゼロを追加したか知っているため)であることが示された。これにより、誤り訂正符号に基づく解凍・復号アルゴリズムでは、確定ビットが利用可能である場合には、性能向上を図ることができるという効果を得ることができた。さらに、IEEE802.11n規格のLDPC符号の構成法は、数値解析に基づき、誤り訂正能力が向上するように設計された構成法であることが示された。
【0092】
次に、
図1に示したようなネットワークモデルにおける消費エネルギーを評価する第2のシミュレーションの結果から示される効果について説明する。
【0093】
例えば、
図18に示すような動作フローに基づいたパケット伝送を行ったときに、上述した非特許文献1で提案されているRI-MACプロトコルの一種であるIRDT(Intermittent Receiver-driven Data Transmission)の適用時における消費エネルギーを求めるシミュレーションを行った。なお、IRDTについては、特許文献6『T. Hatauchi, Y. Fukuyama and T. Shikura, “A power efficient access method by polling for wireless mesh networks,” IEEJ Trans.Electron. Inf. Syst., vol. 128, pp. 1761-1766, Dec. 2008.』で開示されている。
【0094】
図19は、第2のシミュレーション諸元の一例を示す図である。本実施の形態で説明したように通信システム11に適用される技術を提案手法とし、提案手法と比較するための従来手法としては、上述の特許文献6で開示されている技術が用いられている。
【0095】
例えば、
図19に示すように、従来手法においては収集パケット数を1としてシミュレーションを行い、提案手法においては収集パケット数を15および30としてシミュレーションを行った。以下では、提案手法において収集パケット数15で行われたシミュレーションを提案手法(15)と称し、提案手法において収集パケット数30で行われたシミュレーションを提案手法(30)と称する。
【0096】
図20は、提案手法および従来手法において、
図18に示したようにパケット伝送を実行したシミュレーション結果を示す図である。なお、パケットに関するシミュレーション諸元は、上述の
図17と同様とした。
図20において、横軸は、受信側となる中継端末13がRTR信号を送信する時間間隔である間欠間隔T
IDLEを示し、縦軸は、宛先端末14に正しく受信されたパケットあたりのネットワーク全体の消費エネルギーを示している。
【0097】
例えば、任意の間欠間隔TIDLEに対し、提案手法(15)および提案手法(30)は、どちらとも従来手法よりも低い消費エネルギーを達成することがシミュレーション結果により示されている。
【0098】
これは、中継端末13においてパケットアグリゲーションを行うことによって、パケット伝送時のオーバーヘッドを緩和すること、主に情報端末12における送信待ち時間を短縮することができ、パケット衝突や送信待機時の消費エネルギーの削減などによって実現されるものと考えられる。また、中継端末13において暗号化後圧縮を行うことによって、送信パケット長が短くなるため、パケット送信に要するエネルギーを削減可能であることによって実現されるものと考えられる。
【0099】
ここで、パケットアグリゲーションによるオーバーヘッドの削減について説明する。
【0100】
従来手法では、中継端末13は、情報端末12から1パケットが送信されてくるごとに、その1パケットの宛先端末14への転送を実行していた。このため、中継端末13は、1パケットを転送するたびに宛先端末14とのリンク構築・データ転送を実行する必要があり、中継端末13が送信機として動作する時間が増加する結果、中継端末13がRTR信号をブロードキャストする時間間隔が増加することになる。それに伴って、情報端末12におけるRTR信号の受信待ち時間が増加してしまい、情報端末12の消費エネルギーが増加することになっていた。
【0101】
これに対し、提案手法では、パケットアグリゲーションを適用することで、中継端末13が宛先端末14とのリンク構築する回数を削減することができる結果、中継端末13が、RTR信号をブロードキャストする時間間隔を短縮することができる。従って、情報端末12におけるRTR信号の受信待ち時間を減少することができ、情報端末12の消費エネルギーを削減することができる。
【0102】
以上のように、本技術を適用した通信システム11では、任意のエントロピーのパケットに対して、従来の暗号化後圧縮(EtC)と比較して解凍誤り確率を低減することができとともに、従来手法と比較してパケット伝送に要するエネルギーの低減を図ることができる。
【0103】
<コンピュータの構成例>
次に、上述した一連の処理(通信方法)は、ハードウェアにより行うこともできるし、ソフトウェアにより行うこともできる。一連の処理をソフトウェアによって行う場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、汎用のコンピュータ等にインストールされる。
【0104】
図21は、上述した一連の処理を実行するプログラムがインストールされるコンピュータの一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【0105】
プログラムは、コンピュータに内蔵されている記録媒体としてのハードディスク105やROM103に予め記録しておくことができる。
【0106】
あるいはまた、プログラムは、ドライブ109によって駆動されるリムーバブル記録媒体111に格納(記録)しておくことができる。このようなリムーバブル記録媒体111は、いわゆるパッケージソフトウェアとして提供することができる。ここで、リムーバブル記録媒体111としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory),MO(Magneto Optical)ディスク,DVD(Digital Versatile Disc)、磁気ディスク、半導体メモリ等がある。
【0107】
なお、プログラムは、上述したようなリムーバブル記録媒体111からコンピュータにインストールする他、通信網や放送網を介して、コンピュータにダウンロードし、内蔵するハードディスク105にインストールすることができる。すなわち、プログラムは、例えば、ダウンロードサイトから、ディジタル衛星放送用の人工衛星を介して、コンピュータに無線で転送したり、LAN(Local Area Network)、インターネットといったネットワークを介して、コンピュータに有線で転送することができる。
【0108】
コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)102を内蔵しており、CPU102には、バス101を介して、入出力インタフェース110が接続されている。
【0109】
CPU102は、入出力インタフェース110を介して、ユーザによって、入力部107が操作等されることにより指令が入力されると、それに従って、ROM(Read Only Memory)103に格納されているプログラムを実行する。あるいは、CPU102は、ハードディスク105に格納されたプログラムを、RAM(Random Access Memory)104にロードして実行する。
【0110】
これにより、CPU102は、上述したフローチャートにしたがった処理、あるいは上述したブロック図の構成により行われる処理を行う。そして、CPU102は、その処理結果を、必要に応じて、例えば、入出力インタフェース110を介して、出力部106から出力、あるいは、通信部108から送信、さらには、ハードディスク105に記録等させる。
【0111】
なお、入力部107は、キーボードや、マウス、マイク等で構成される。また、出力部106は、LCD(Liquid Crystal Display)やスピーカ等で構成される。
【0112】
ここで、本明細書において、コンピュータがプログラムに従って行う処理は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に行われる必要はない。すなわち、コンピュータがプログラムに従って行う処理は、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含む。
【0113】
また、プログラムは、1のコンピュータ(プロセッサ)により処理されるものであっても良いし、複数のコンピュータによって分散処理されるものであっても良い。さらに、プログラムは、遠方のコンピュータに転送されて実行されるものであっても良い。
【0114】
さらに、本明細書において、システムとは、複数の構成要素(装置、モジュール(部品)等)の集合を意味し、すべての構成要素が同一筐体中にあるか否かは問わない。したがって、別個の筐体に収納され、ネットワークを介して接続されている複数の装置、及び、1つの筐体の中に複数のモジュールが収納されている1つの装置は、いずれも、システムである。
【0115】
また、例えば、1つの装置(または処理部)として説明した構成を分割し、複数の装置(または処理部)として構成するようにしてもよい。逆に、以上において複数の装置(または処理部)として説明した構成をまとめて1つの装置(または処理部)として構成されるようにしてもよい。また、各装置(または各処理部)の構成に上述した以外の構成を付加するようにしてももちろんよい。さらに、システム全体としての構成や動作が実質的に同じであれば、ある装置(または処理部)の構成の一部を他の装置(または他の処理部)の構成に含めるようにしてもよい。
【0116】
また、例えば、本技術は、1つの機能を、ネットワークを介して複数の装置で分担、共同して処理するクラウドコンピューティングの構成をとることができる。
【0117】
また、例えば、上述したプログラムは、任意の装置において実行することができる。その場合、その装置が、必要な機能(機能ブロック等)を有し、必要な情報を得ることができるようにすればよい。
【0118】
また、例えば、上述したそれぞれの処理における個々の処理内容(ステップ)は、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。さらに、1つのステップに複数の処理が含まれる場合には、その1つのステップに含まれる複数の処理は、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。換言するに、1つのステップに含まれる複数の処理を、複数のステップの処理として実行することもできる。逆に、複数のステップとして説明した処理を1つのステップとしてまとめて実行することもできる。
【0119】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、プログラムを記述するステップの処理が、本明細書で説明する順序に沿って時系列に実行されるようにしても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで個別に実行されるようにしても良い。つまり、矛盾が生じない限り、各ステップの処理が上述した順序と異なる順序で実行されるようにしてもよい。さらに、このプログラムを記述するステップの処理が、他のプログラムの処理と並列に実行されるようにしても良いし、他のプログラムの処理と組み合わせて実行されるようにしても良い。
【0120】
なお、本明細書において複数説明した本技術は、矛盾が生じない限り、それぞれ独立に単体で実施することができる。もちろん、任意の複数の本技術を併用して実施することもできる。例えば、いずれかの実施の形態において説明した本技術の一部または全部を、他の実施の形態において説明した本技術の一部または全部と組み合わせて実施することもできる。また、上述した任意の本技術の一部または全部を、上述していない他の技術と併用して実施することもできる。
【0121】
なお、本実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0122】
11 通信システム, 121乃至12M 情報端末, 13 中継端末, 14 宛先端末, 21 パケット生成部, 22 パケット分割部, 23 初期暗号ブロック生成部, 24 暗号化処理部, 25 暗号化パケット送信部, 31 パケット受信部, 32 保持部, 33 被圧縮系列生成処理部, 34 圧縮処理部, 35 送信部, 41 受信部, 42 復号解凍処理部