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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電流・電位計測装置及び電極
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/22 20060101AFI20240905BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20240905BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C23F13/22
C23F13/02 H
C23F13/02 B
C23F13/02 A
G01N27/00 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020164676
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056755
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000232759
【氏名又は名称】日本防蝕工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 充浩
(72)【発明者】
【氏名】小泉 文人
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/063737(WO,A1)
【文献】特開2000-192265(JP,A)
【文献】特開平08-283969(JP,A)
【文献】特開平07-026389(JP,A)
【文献】特開平04-169843(JP,A)
【文献】特開2014-227575(JP,A)
【文献】特開2002-302781(JP,A)
【文献】特開平10-185800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F13/00-13/22
G01N17/00-19/10
E01D1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
犠牲陽極により防食された防食対象物の防食状態及び前記犠牲陽極の消耗度合いを把握する電流・電位計測装置であって、
前記防食対象物と電気的に接続される筒状のプローブ電極と、前記プローブ電極に電気的に絶縁され、且つ、前記プローブ電極の一端側に連結され前記プローブ電極と棒状に一体に形成され非可逆系の照合電極とを備え、前記防食対象物と略同一の腐食環境に配置される電極部と、
前記犠牲陽極と前記プローブ電極との間に流れる電流を測定すると共に、前記プローブ電極の電位を前記照合電極によって測定する測定部と、を備える、
電流・電位計測装置。
【請求項2】
前記プローブ電極は、前記防食対象物と略同一の素材により棒状に形成され、表面側において絶縁材料により覆われた絶縁部と、前記素材が露出した露出部と、が形成されている、
請求項1に記載の電流・電位計測装置。
【請求項3】
前記露出部は、所定面積を有するように形成されている、
請求項2に記載の電流・電位計測装置。
【請求項4】
前記電極部において前記プローブ電極と前記照合電極とが棒状に一体に形成され、
前記プローブ電極において、一端側に前記露出部が形成されると共に、前記照合電極が電気的に絶縁されて連結されている、
請求項2又は3に記載の電流・電位計測装置。
【請求項5】
前記電極部は、前記照合電極に連結して貫入部材が設けられ、前記照合電極及び前記露出部は、土中に埋設される、
請求項2から4のうちいずれか1項に記載の電流・電位計測装置。
【請求項6】
前記照合電極及び前記露出部は、水中又は土中に設置される、
請求項2から4のうちいずれか1項に記載の電流・電位計測装置。
【請求項7】
犠牲陽極により防食された防食対象物の防食状態及び前記犠牲陽極の消耗度合いを把握する電流・電位計測装置であって、
前記防食対象物と電気的に接続されるプローブ電極と、前記プローブ電極に電気的に絶縁され、且つ、前記プローブ電極に連結された照合電極とを備え、前記防食対象物と略同一の腐食環境に配置される電極部と、
前記犠牲陽極と前記プローブ電極との間に流れる電流を測定すると共に、前記プローブ電極の電位を前記照合電極によって測定する測定部と、を備え、
土中に埋設される前記電極部と、
水中に設置される他の前記電極部と、を備える、
電流・電位計測装置。
【請求項8】
前記測定部は、前記電極部の測定結果に基づいて前記防食対象物の防食状態を判定する、
請求項1から7のうちいずれか1項に記載の電流・電位計測装置。
【請求項9】
外部電源方式の陽極により防食された防食対象物の防食状態及び陽極から通電される電流を把握する電流・電位計測装置であって、
前記防食対象物と電気的に接続される筒状のプローブ電極と、前記プローブ電極に電気的に絶縁され、且つ、前記プローブ電極の一端側に連結され前記プローブ電極と棒状に一体に形成された非可逆系の照合電極とを備え、前記防食対象物と略同一の腐食環境に配置される電極部と、
前記陽極と前記プローブ電極との間に流れる電流を測定すると共に、前記プローブ電極の電位を前記照合電極によって測定する測定部と、を備える、
電流・電位計測装置。
【請求項10】
犠牲陽極により防食された防食対象物の防食状態及び前記犠牲陽極の消耗度合いを把握する電流・電位計測装置に備えられる電極であって、
前記防食対象物と電気的に接続される筒状のプローブ電極と、
前記プローブ電極に電気的に絶縁され、且つ、前記プローブ電極の一端側に連結され前記プローブ電極と棒状に一体に形成され非可逆系の照合電極と、を備え、前記防食対象物と略同一の腐食環境に配置される、電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気防食された金属部材の防食状態、及び防食材の寿命を把握するためのパーマネント型の電流・電位計測装置及び電極に関する。
【背景技術】
【0002】
水中や土中に設置される鋼製の構造物の腐食を防止するために、一般的に犠牲陽極等を用いた電気防食が行われている。犠牲陽極には、鋼材よりも電気化学的にイオン化傾向が大きいアルミニウム、亜鉛、マグネシウム等の金属やそれらの合金が使用される。犠牲陽極が構造物に取り付けられると、犠牲陽極から構造物に防食電流が流れて犠牲陽極自体が腐食することで、構造物の腐食を防止する。犠牲陽極は、経時的に消耗する性質があるため定期的に更新する必要がある。防食対象物の防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを把握するため、防食対象物の電位や犠牲陽極から発生する電流の計測が行われている。
【0003】
土中における犠牲陽極による防食対象物の防食状態は、例えば、土中において電位の基準点を与える照合電極を設置し、防食対象物の電位を照合電極で測定することで判定される。照合電極には、例えば、測定器のマイナス端子が接続され、防食対象物には、測定器のプラス端子が接続される。
【0004】
土中における防食状態の電位測定においては、土中の電解質の電気抵抗が測定値に影響を与える。防食対象物の電位を照合電極で測定すると、測定された電位にはIRドロップ(おもに防食電流と電解質の電気抵抗との積)が含まれる。IRドロップによる測定誤差を低減するために、構造物と同素材により形成されたプローブと呼ばれる電極が用いられる(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術によれば、防食された土中の防食対象物に電気的に接続されたプローブと照合電極と、測定部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-185800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
桟橋等の水上構造物を支持する橋脚に複数の鋼管杭が用いられる。鋼管杭は犠牲陽極により防食されている。桟橋においては、複数の鋼管杭は、陸側の奥まった場所に設けられているため、防食状態を把握することが困難である。そのため、桟橋の海側の前面に沿った鋼管杭が防食状態を把握するための測定対象となっており、他の鋼管杭の防食状態は把握しきれていないのが実状である。
【0007】
また、照合電極やプローブの配線は、煩雑な作業を伴う。鋼管杭の土中部の防食状態を把握するために照合電極等を土中等へ埋設する必要があり、定期的な交換及びメンテナンスの際には、設置場所を事前に掘削する必要がある。特許文献1に記載された方法を桟橋等の鋼管杭に適用しようとすると、照合電極やプローブの設置や交換がしにくく、鋼管杭の防食状態の把握が困難となる虞がある。
【0008】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、防食対象物の防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを把握するための電流・電位計測装置及び電極の施工性及び利便性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、犠牲陽極により防食された防食対象物の防食状態及び前記犠牲陽極の消耗度合いを把握するための電流・電位計測装置であって、前記防食対象物と略同一の腐食環境に配置され前記防食対象物と電気的に接続されるプローブ電極と、前記プローブ電極に電気的に絶縁され、且つ、前記プローブ電極に連結された照合電極とを備える電極部と、前記犠牲陽極と前記プローブ電極との間に流れる電流を測定すると共に、前記プローブ電極の電位を前記照合電極によって測定する測定部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、電流・電位計測装置における電極部においてプローブ電極と照合電極とが一体に形成されているため、防食対象物と略同一の腐食環境への電極部の設置を容易にし、長期にわたって電流・電位の計測を容易にすることができる。
【0011】
本発明の前記プローブ電極は、前記防食対象物と略同一の素材により棒状に形成され、表面側において絶縁材料により覆われた絶縁部と、前記素材が露出した露出部と、が形成されていてもよい。
【0012】
本発明によれば、電極部において棒状の防食対象物と略同一の素材によりプローブ電極が形成されているため、装置構成を簡略化できる。
【0013】
本発明の前記露出部は、所定面積を有するように形成されていてもよい。
【0014】
本発明によれば、プローブ電極における露出部が所定面積に形成されていることにより、プローブ電極に流入する電流に基づいて防食電流密度を算出できる。
【0015】
本発明は、前記電極部において前記プローブ電極と前記照合電極とが棒状に一体に形成され、前記プローブ電極において、一端側に前記露出部が形成されると共に、前記照合電極が電気的に絶縁されて連結されていてもよい。
【0016】
本発明によれば、電極部においてプローブ電極と照合電極が棒状に一体に形成されているため、防食対象物と略同一の腐食環境への電極部の設置を容易にできる。
【0017】
本発明の前記電極部は、前記照合電極に連結して貫入部材が設けられ、前記照合電極及び前記露出部は、土中に埋設されてもよい。
【0018】
本発明によれば、照合電極に貫入部材が設けられていることにより、電極部を土中に容易に埋設することができる。
【0019】
本発明の前記照合電極及び前記露出部は、水中又は土中に設置されてもよい。
【0020】
本発明によれば、照合電極及びプローブ電極を水中だけでなく、土中にも容易に設置できる。
【0021】
本発明は、土中に埋設される前記電極部と、水中に設置される他の前記電極部と、を備えていてもよい。
【0022】
本発明によれば、水中と土中に電極部を簡便に設置できる。
【0023】
本発明の前記測定部は、前記電極部の測定結果に基づいて前記防食対象物の防食状態を判定してもよい。
【0024】
本発明によれば、電極部を用いた測定結果を用いて防食対象物の防食状態を判定できる。
【0025】
本発明は、前記犠牲陽極に代えて外部電源方式の陽極が接続されていてもよい。
【0026】
本発明によれば、電流・電位計測装置は、外部電源方式により電気防食された防食対象物の防食状態及び陽極(不溶性タイプ)から通電される電流を把握するために適用することができる。
【0027】
本発明は、犠牲陽極により防食された防食対象物の防食状態を及び犠牲陽極の消耗度合いを把握するための電極であって、前記防食対象物と略同一の腐食環境に配置され前記防食対象物と電気的に接続されるプローブ電極と、前記プローブ電極に電気的に絶縁され、且つ、前記プローブ電極に連結された照合電極と、を備える電極である。
【0028】
本発明によれば、防食対象物の防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを把握するための電極部においてプローブ電極と照合電極とが一体に形成されているため、防食対象物と略同一の腐食環境への電極部の設置を容易にし、電流・電位の計測を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、防食対象物の防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを把握するための電流・電位計測装置及び電極の施工性及び利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】従来行われていた防食対象物への電気防食の構成を示す図である。
図2】防食状態判定基準の一例を示す図である。
図3】電流・電位計測装置の構成を示す断面図である。
図4】測定部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ、本発明の電流・電位計測装置の実施形態について説明する。電流・電位計測装置は、犠牲陽極により電気防食された防食対象物の防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを把握判定するパーマネント型の装置である。先ず、電流・電位計測装置の原理を説明する。
【0032】
図1に示されるように、防食対象物Gは、例えば、杭式の桟橋等の構造物における橋脚である。防食対象物Gは、例えば、鋼管により構築された鋼管杭である。防食対象物Gは、下端部が海底Bより深い土中(海土中)に打設され、上端部において床版Dを支持している。
【0033】
防食対象物Gは、土中及び水中(海水中)に暴露されている。防食対象物Gには、防食用の犠牲陽極Pが設置されている。防食対象物Gは、海底の高さが異なるので、打設される位置により土中及び水中に暴露されている領域(面積)が異なる。防食対象物Gの防食状態は、防食対象物Gの土中での電位、防食対象物Gの水中での電位を照合電極Mで測定することにより判定される。
【0034】
水中における犠牲陽極Pによる防食対象物Gの防食状態は、例えば、水中において電位の基準点を与える照合電極Mを設置し、防食対象物Gの電位を照合電極Mで測定することで判定される。照合電極Mには、例えば、測定器Sのマイナス端子が接続され、防食対象物Gには、測定器Sのプラス端子が接続される。
【0035】
土中における犠牲陽極Pによる防食対象物Gの防食状態も同様に、土中において電位の基準点を与える照合電極Mを埋設し、防食対象物Gの電位を照合電極Mで測定することで判定される。
【0036】
図2に示されるように、防食対象物Gが鋼材で形成されており、犠牲陽極Pにより防食状態にある場合、防食対象物Gの電位を照合電極Mで計測し、海水銀・塩化銀照合電極基準に換算すると、例えば、-780(mV vs.Ag/AgCl[sw])以下の値が示される。
【0037】
桟橋においては、複数の防食対象物Gが陸側の奥まった場所に設置されているため、床版Dの前面(着船側)に沿って配置された防食対象物G以外の他の防食対象物Gに対しては、前記照合電極Mで電位を計測しにくい。そのため、以下に記載する電流・電位計測装置が桟橋に適用される。
【0038】
図3に示されるように、電流・電位計測装置1は、棒状に形成された電極部10と、電極部10を用いて防食対象物Gの防食状態を判定する測定部50と、を備える。電極部10は、床版Dに予め設けられた開口部Hに挿入される。
【0039】
電極部10は、防食対象物Gと略同一の腐食環境に設置される。ここに、防食対象物Gと略同一の腐食環境とは、防食対象物Gの近傍でなくても、防食対象物Gが設置された環境と比較して、例えば、水中であるなら、pH、塩化物イオン濃度、抵抗率、温度、溶存酸素濃度、流速、水深、陸からの距離等の環境に関連するパラメータが略同一とみなせる位置を示す。本実施例においては、防食対象物は鋼管杭であって、桟橋の前面(着船側)からの距離が同じである位置を、防食対象物Gと略同一の腐食環境として設定している。
【0040】
電極部10は、土中用の電極部11と、水中用の電極部12とを備える。土中用の電極部11は、海底Bより深い土中に貫入されて使用される。土中用の電極部11は、防食対象物と電気的に接続されるプローブ電極11Aと、プローブ電極に連結された照合電極11Gとを備える。
【0041】
プローブ電極11Aは、円形断面を有する筒状に形成されている。プローブ電極11Aは、防食対象物Gと略同一の素材により形成されている。防食対象物Gが鋼材にて形成された鋼管杭である場合には、プローブ電極11Aは、略同一の鋼材によって形成される。
【0042】
プローブ電極11Aは、表面側において絶縁材料により覆われた絶縁部11Bが形成されている。絶縁部11Bは、例えば、炭素繊維入り強化無機系重防食材料等の高耐久性の無機系被覆材料によりコーティングされて形成されている。絶縁材料は、前記材料の他に、セラミックであってもよい。有機系材料であっても、例えば、長期使用に耐え得る実績があれば、パテ材等であってもよい。長期的に鋼材を絶縁被覆できる材料であれば、どのような材質でもよい。プローブ電極11Aは、下端側に鋼材が露出した露出部11Cが形成されている。露出部11Cは、所定面積を有するように形成されている。露出部11Cは、海底Bより深い土中に埋設される。プローブ電極11Aの上端(他端)側には、プローブ電極11Aと電気的に導通する端子11Dが設けられている。端子11Dは、測定部50に接続されている。
【0043】
プローブ電極11Aの下端(一端)側には、照合電極11Gが電気的に絶縁されて連結されている。照合電極11Gは、プローブ電極11Aと同径の円柱状に形成されている。照合電極11Gは、例えば、亜鉛もしくは亜鉛合金により形成されている。照合電極11Gは、プローブ電極11Aと同心に連結されている。照合電極11Gの上端とプローブ電極11Aの下端との間には、絶縁体となるセラミック及びシリコン製のワッシャ11Hが設けられている。ワッシャ11Hは、例えば、一対のシリコン製のワッシャと、一対のシリコン製のワッシャの間に配置されたセラミック製のワッシャとにより構成されている。
【0044】
照合電極11Gの上端には、導体11Kが連結されている。導体11Kは、例えば、銅製の円形断面を有する棒状体に形成されている。導体11Kの下端には、雄ネジが形成されており、照合電極11Gの上面に形成された雌ネジ穴に螺入されている。これにより、照合電極11Gと導体11Kとは、電気的に接続されている。導体11Kは、プローブ電極11Aの内部に挿通されている。導体11Kとプローブ電極11Aとの間には、例えば、ガラス管11Lが挿通されている。これにより、導体11Kとプローブ電極11Aとは電気的に絶縁されている。
【0045】
導体11Kの上端は、プローブ電極11Aの上端から突出している。導体11Kの上端には、雄ネジが形成されている。導体11Kの上端は、絶縁体となるセラミック及びシリコン製のワッシャ11Hを介してナット11Mが締め込まれている。これにより、プローブ電極11Aは、上端のナット11Mと下端の照合電極11Gとに挟持され、照合電極11Gと確実に連結される。導体11Kの上端は、金属地が剥き出しになっており端子として機能する。導体11Kの上端は、測定部50に接続されている。
【0046】
照合電極11Gの下端には、土中に打ち込むための金具11I(貫入部材)が連結されている。金具11Iは、例えば、金属により形成されている。金具11Iの上端と照合電極11Gの下端とが連結されている。金具11Iの上端と照合電極11Gの下端との間には、絶縁体となるセラミック及びシリコン製のワッシャ11Hが設けられている。
【0047】
金具11Iの上端と照合電極11Gの下端とは、例えば、絶縁体となるセラミック製の棒ボルト11Jにより固定されている。これにより、金具11Iと照合電極11Gとは電気的に絶縁されている。金具11Iは、下端に向かうほど断面が減少するテーパ形状に形成されている。金具11Iは、例えば、海底Bから土中に貫入しやすくなるように下端が尖って円錐状に形成されている。金具11Iは、円錐の他に、三角錐、四角錐を含む角錐の他、掘削することなく土中に貫入できるように形成されていればどのような形状であってもよい。また、硬質で、貫入部材として機能するものであれば、非金属であってもよく、例えば、硬質塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0048】
次に水中用の電極部12について説明する。水中用の電極部12は、土中用の電極部11と基本的に同じ構造を備える。以下、土中用の電極部11と重複する説明については適宜省略する。水中用の電極部12は、土中用の電極部11より短く形成されている。水中用の電極部12は、プローブ電極12Aと、照合電極12Gとを備える。
【0049】
プローブ電極12Aは、円形断面を有する筒状に形成されている。プローブ電極12Aは、防食対象物Gと略同一の素材により形成されている。プローブ電極12Aは、表面側において絶縁材料により覆われた絶縁部12Bが形成されている。プローブ電極12Aは、下端側に防食対象物Gと略同一の素材が露出した露出部12Cが形成されている。水中での使用を想定した時の露出部12Cの面積は、例えば100cm程度であり、防食対象物の面積と比較すると極めて小さいため、比較的短期間でエレクトロコーティングが形成され、流入する電流は低減し、防食対象物Gと同程度の防食電流密度に達する。
【0050】
露出部12Cは、所定面積を有するように形成されている。露出部12Cは、水中に暴露される。プローブ電極12Aの上端(他端)側には、プローブ電極12Aと電気的に導通する端子12Dが設けられている。端子12Dは、測定部50に接続されている。
【0051】
プローブ電極12Aの下端(一端)側には、照合電極12Gが電気的に絶縁されて連結されている。照合電極12Gは、例えば、亜鉛もしくは亜鉛合金により形成されている。照合電極12Gは、亜鉛や亜鉛合金以外に、ヒステリシスが無い、交換電流密度が大きい等、照合電極としての要件を備えていれば、他の材料の中から選定してもよい。照合電極12Gの上端とプローブ電極12Aの下端との間には、絶縁体となるセラミック及びシリコン製のワッシャ12Hが設けられている。
【0052】
照合電極12Gの上端には、導体12Kが連結されている。照合電極12Gと導体12Kとは、電気的に接続されている。導体12Kは、プローブ電極12Aの内部に挿通されている。導体12Kとプローブ電極12Aとの間には、ガラス管12Lが挿通されている。導体12Kの上端は、プローブ電極12Aの上端から突出している。
【0053】
導体12Kの上端には、雄ネジが形成されている。導体12Kの上端は、絶縁体となるセラミック及びシリコン製のワッシャ12Hを介してナット12Mが締め込まれている。導体12Kの上端は、金属地が剥き出しになっており端子として機能する。導体12Kの上端は、測定部50に接続されている。
【0054】
測定部50は、犠牲陽極Pとプローブ電極11A、12Aとの間に流れる電流を測定すると共に、プローブ電極11A、12Aの電位を照合電極11Gによって測定する。測定部50は、犠牲陽極Pとプローブ電極11A、12Aとの間に流れる電流を測定する電流計51と、照合電極11Gで防食対象物Gの電位を測定する電圧計52と、照合電極12Gで防食対象物Gの電位を測定する電圧計53と、を備える。電流計51、電圧計52、及び電圧計53とは、一体の装置であってもよい。
【0055】
図4に示されるように、測定部50は、電流計51、電圧計52,53による電極部10の測定結果に基づいて、防食対象物Gの防食状態を判定する演算部54と、演算部54の判定結果を表示する表示部55と、各種データを記憶する記憶部56とを更に備えてもよい。
【0056】
演算部54は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0057】
演算部54は、例えば、予め定められた基準と測定結果とを比較して、犠牲陽極Pの消耗度合い、交換の必要性、防食対象物Gの防食状態を判定する。
【0058】
表示部55は、演算部54の判定結果に基づいて、所定の表示を行う。表示部55は、判定結果に基づいて犠牲陽極Pの交換、防食対象物Gの修理等を促す表示画像を画面上に表示する。表示部55は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイ等の表示装置である。
【0059】
記憶部56は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置である。演算部54、表示部55、及び記憶部56は、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等の情報処理端末により実現されてもよい。情報処理端末は、ネットワークに接続されていてもよく、ネットワークにより送信された電極部10の測定結果により判定結果を出力してもよい。
【0060】
次に、電流・電位計測装置1の使用方法について説明する。ユーザは、棒状の電極部10を床版Dに形成された開口部Hから挿入する(図3参照)。ユーザは、土中用の電極部11を海中に沈め、土中用の電極部11の金具11Iが海底Bに到達した後、電極部11の頂部を下方向に押し込み、所定距離沈下させて照合電極11Gと露出部11Cを土中に埋設する。
【0061】
ユーザは、電極部11のスイッチ51Aを閉じて犠牲陽極Pとプローブ電極11Aとを導通させ、電流計51によりプローブ電流を測定する。プローブ電極11Aの露出部11Cは、一定の面積に形成されている。露出部11Cに流入する電流に基づいて、演算部54は、電気防食の設計や寿命予測に必要な防食電流密度を算出する。ユーザは、電圧計52によりプローブ電極11AのOFF電位を測定する。
【0062】
ユーザは、スイッチ51Aを開いてプローブ電極11Aと犠牲陽極Pとを電気的にオフ状態にする。演算部54は、オフ状態になった後にIRドロップが直ちに消失するので、IRドロップが消失した時点の電位をプローブ電極11AのOFF電位として算出する。ユーザは、同様に水中用の他の電極部12を水中に配置し、照合電極12Gと露出部12Cを水中に暴露させる。
【0063】
ユーザは、電極部12のスイッチ51Bを閉じて犠牲陽極Pとプローブ電極12Aとを導通させ、電流計51によりプローブ電流を測定する。演算部54は、プローブ電極12Aの露出部12Cに流入する電流と、露出部12Cの面積とに基づいて、電気防食の設計や寿命予測に必要な防食電流密度を算出する。
【0064】
ユーザは、電圧計53によりプローブ電極12AのOFF電位を測定する。ユーザは、スイッチ51Bを開いてプローブ電極12Aと犠牲陽極Pとを電気的にオフ状態にする。演算部54は、オフ状態になった時点の電位をプローブ電極12AのOFF電位として算出する。演算部54は、測定結果に基づいて防食対象物Gの防食状態を判定し、表示部55に判定結果が表示される。
【0065】
前述したように電流・電位計測装置1によれば、プローブ電極の絶縁部は、所定の被覆材等により高耐久絶縁されているため、メンテナンスコストを低減できる。電流・電位計測装置1によれば、装置の構造および構成材が加工性やメンテナンス性を考慮し棒、管、ネジ類のみによる単純な構造により構成されているため、施工性、利便性およびメンテナンス性が向上する。
【0066】
電流・電位計測装置1によれば、電極部10が棒状に形成されているため、床版Dに形成された開口部Hから電極部10を設置でき、陸側の奥まった場所に設置された鋼管杭等の防食対象物Gの防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを容易に把握することができる。
【0067】
電流・電位計測装置1によれば、照合電極11Gが土中に挿入されるように形成されているため、設置時の施工性を改善できる。電流・電位計測装置1によれば、照合電極11Gに金具11Iが設けられていることにより、土中への挿入を容易に行うことができる。
【0068】
電流・電位計測装置1によれば、電極部10に照合電極とプローブ電極が一体に設けられていることにより、測定時における電極部10の設置を容易に行うことができる。電流・電位計測装置1によれば、プローブ電極11A、12Aにおいて露出部11C、12Cに犠牲陽極Pから電流が流れ込む電極として機能する。電流・電位計測装置1によれば、露出部11C、12Cは、所定面積に形成されているため、露出部11C、12Cに流入する電流から、電気防食の設計や寿命予測に必要な防食電流密度を算出できる。
【0069】
電流・電位計測装置1によれば、プローブ電極11A、12Aにおいて露出部11C、12C以外の絶縁部11B、12Bは、絶縁被覆が剥離して露出部分が増加すると、流入電流が変化し、防食電流密度の精度が落ちるため、炭素繊維入り強化無機系重防食材料等の被覆材により高耐久絶縁被覆が施されている。電流・電位計測装置1によれば、照合電極11G、12Gとプローブ電極11A、12Aとが各々近傍に取り付けられているため、IRドロップによる誤差の影響を小さくすることができる。前記実施形態では、電流・電位計測装置1は電極部11及び電極部12の2本の電極部を用いて防食対象物Gの防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを把握したが、これに限らず複数本の電極部を組み合わせて使用すれば水深ごとに更に多くのデータを取得できる。また、土中と水中の各々に対する電流・電位計測装置1を一体に形成してもよい。更に、照合電極11G、12Gとプローブ電極11A、12Aの露出部11C、12Cの位置関係を上下反対にしてもよく、金具11I(貫入部材)自体を照合電極11G、12Gもしくはプローブ電極11A、12Aの露出部11C、12Cとして形成してもよい。このとき、電極部10内部の電気的接続はやや複雑になるが、耐久性を持った材料により構成することで、依然として施工性、利便性およびメンテナンス性を向上させることができる。
【0070】
次に、電流・電位計測装置1の他の用途について述べる。土中に埋設された構造物である埋設配管は、一般に絶縁材によって全体が被覆されている。絶縁材により形成された塗膜が健全であれば、埋設配管は腐食しない。しかしながら、経年的に塗膜が劣化し、埋設配管の金属素地が露出すると、配管は腐食する。よって、被覆された埋設配管は、電気防食されることが望ましい。電気防食された被覆配管は、照合電極によって定期的に防食状態が確認され、維持管理がなされる。
【0071】
埋設配管が犠牲陽極方式によって電気防食され、埋設配管の被覆が完全な状態であり、且つ、金属素地が露出していない場合、犠牲陽極から防食電流は流れない。但し、施工時の損傷や経年劣化等により、塗膜に欠陥が生じた場合は、犠牲陽極と埋設配管との電位差、土壌抵抗率等に応じた防食電流が金属素地部に流入し、電気防食が行われる。電流・電位計測装置1は、埋設配管の防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを把握する際にも適用される。例えば、埋設配管と犠牲陽極との間の距離が長いほど防食電流は流れにくくなる。
【0072】
そのため、防食電流が到達し難い箇所、すなわち、隣り合う犠牲陽極と犠牲陽極の中間点であって、犠牲陽極から最も離れた埋設配管の近傍に、電流・電位計測装置1の電極部10が埋設配管の中心と同じ深度に達するように差し込まれる。その結果、電流・電位計測装置1によって、その地点における所要防食電流(防食電流密度)および電位を確認することができ、防食対象物の防食状態を適正に把握することができる。土中の被覆された埋設配管に対する使用を想定した時の露出部11Cの面積は、例えば10cm程度としてもよい。
【0073】
実施例に係る電流・電位計測装置1によれば、鋼管杭もしくは埋設配管に対して計測された電流から防食電流密度を算出できる。前述した防食電流密度を電気防食の設計時に想定した電流密度と比較することによって、犠牲陽極の消耗が、設計時に想定された消耗度合いに比して早いか否かが把握される。例えば、犠牲陽極の消耗が、設計時に想定された消耗度合いに比して早い場合、犠牲陽極の実際の寿命は設計寿命より短くなる。犠牲陽極の消耗が、設計時に想定された消耗度合いに比して遅い場合、犠牲陽極の実際の寿命は設計寿命より長くなる。
【0074】
なお、上述した実施形態における測定部50が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0075】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。
【0076】
また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0077】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態においては、電流・電位計測装置1において電極部10は、床版Dに予め設けられた開口部Hに挿入されるものを例示したが、開口部Hは、既存の床版Dに後から形成して既存の防食対象物Gの防食状態及び犠牲陽極の消耗度合いを判定してもよい。また、上記実施形態においては、犠牲陽極Pによる防食を例示したが、本発明は、犠牲陽極に代えて外部電源方式の陽極が接続されて防食された防食対象物の防食状態及び陽極(不溶性タイプ)から通電される電流を把握するために適用してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 電流・電位計測装置、10、11、12 電極部、11A、12A プローブ電極、11B、12B 絶縁部、11C、12C 露出部、11D、12D 端子、11G、12G 照合電極、11H、12H ワッシャ、11I 金具、11J 棒ボルト、11K、12K 導体、11L、12L ガラス管、11M、12M ナット、50 測定部、51 電流計、51A、51B スイッチ、52、53 電圧計、54 演算部、55 表示部、56 記憶部、B 海底、D 床版、G 防食対象物、H 開口部、M 照合電極、P 犠牲陽極、S 測定器
図1
図2
図3
図4