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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】がん治療用医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/47 20060101AFI20240905BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240905BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K31/47
A61K39/395 E ZNA
A61K39/395 T
A61K47/68
A61P1/16
A61P35/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021512150
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2020014832
(87)【国際公開番号】W WO2020204033
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019070120
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10899
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10707
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10900
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11337
(73)【特許権者】
【識別番号】505368531
【氏名又は名称】株式会社カイオム・バイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】中村 康司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恒太
(72)【発明者】
【氏名】坂口 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】張 霊逸
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054820(WO,A1)
【文献】KUDO, Masatoshi et al.,Lenvatinib versus sorafenib in first-line treatment of patients with unresectable hepatocellular car,Lancet,2018年,Vol.391,pp.1163-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/47
A61K 39/395
A61K 47/68
A61P 1/16
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞がんを治療するための組合せ医薬であって、
レンバチニブ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物、及び
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、又は、ヒトDLK-1に対する結合活性を有し且つin vivoで抗腫瘍活性を有する、前記抗体に由来する抗体断片
を含む、前記組合せ医薬。
【請求項2】
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、又は、ヒトDLK-1に対する結合活性を有し且つin vivoで抗腫瘍活性を有する、前記抗体に由来する抗体断片を含む、肝細胞がんを治療するための医薬組成物であって、
レンバチニブ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物と組み合わせて用いるものである、
前記医薬組成物。
【請求項3】
レンバチニブ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、肝細胞がんを治療するための医薬組成物であって、
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、又は、ヒトDLK-1に対する結合活性を有し且つin vivoで抗腫瘍活性を有する、前記抗体に由来する抗体断片と組み合わせて用いるものである、
前記医薬組成物。
【請求項4】
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、又は、ヒトDLK-1に対する結合活性を有し且つin vivoで抗腫瘍活性を有する、前記抗体に由来する抗体断片を含む、肝細胞がんを治療する方法において使用される医薬組成物であって、
前記治療する方法が、レンバチニブ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物の投与を含むものである、
前記医薬組成物。
【請求項5】
レンバチニブ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、肝細胞がんを治療する方法において使用される医薬組成物であって、
前記治療する方法が、in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、又は、ヒトDLK-1に対する結合活性を有し且つin vivoで抗腫瘍活性を有する、前記抗体に由来する抗体断片の投与を含むものである、
前記医薬組成物。
【請求項6】
前記腫瘍が、肝細胞がんである、請求項1に記載の組合せ医薬、又は請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗体は、キメラ抗体又はヒト化抗体である、請求項1に記載の組合せ医薬、又は請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗体は、
(a) H鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号3~5で示されるアミノ酸配列であり、かつ、L鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号6~8で示されるアミノ酸配列である抗体、
(b) H鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号9~11で示されるアミノ酸配列であり、かつ、L鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号12~14で示されるアミノ酸配列である抗体、
(c) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号16で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号18で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(d) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号20で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号22で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(e) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号24又は26で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号28で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(f) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号30、32、34又は36で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号46で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(g) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号38、40、42又は44で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号46で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(h) 受託番号がFERM BP-10899であるハイブリドーマにより産生される抗体、
(i) 受託番号がFERM BP-10707であるハイブリドーマにより産生される抗体、
(j) 受託番号がFERM BP-10900であるハイブリドーマにより産生される抗体、及び
(k) 受託番号がFERM BP-11337であるハイブリドーマにより産生される抗体
からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の組合せ医薬、又は請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗体又は抗体断片が、抗腫瘍活性及び/又は殺細胞活性を有する化合物との複合体の形態である、請求項1に記載の組合せ医薬、又は請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組合せ医薬又は前記医薬組成物の投薬終了後においても、がん細胞の増殖を抑制し得る又は腫瘍を縮小若しくは消失させ得るものである、請求項1に記載の組合せ医薬、又は請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
肝細胞がんの治療用の薬剤を製造するための
レンバチニブ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物、及び
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、又は、ヒトDLK-1に対する結合活性を有し且つin vivoで抗腫瘍活性を有する、前記抗体に由来する抗体断片
の使用。
【請求項12】
レンバチニブ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物、及び
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、又は、ヒトDLK-1に対する結合活性を有し且つin vivoで抗腫瘍活性を有する、前記抗体に由来する抗体断片
を含む、肝細胞がんを治療するためのキット。
【請求項13】
前記抗体は、H鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号9~11で示されるアミノ酸配列であり、かつ、L鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号12~14で示されるアミノ酸配列である抗体であり、
前記抗体断片は、配列番号9~11で示されるアミノ酸配列と、配列番号12~14で示されるアミノ酸配列とを含むものである、
請求項1に記載の組合せ医薬、又は請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記抗体は、H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号36で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号46で示されるアミノ酸配列からなる抗体であり、
前記抗体断片は、配列番号36で示されるアミノ酸配列と、配列番号46で示されるアミノ酸配列とを含むものである、
請求項1に記載の組合せ医薬、又は請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞がんの治療用の医薬及び方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
肝がんは、全世界におけるがん関連死亡原因の第2位であり、世界で年間約75万人が肝がんのために亡くなっている。年間新規患者数約78万人の約80%が、日本と中国を含むアジア地域に集中している。肝細胞がんは、肝がん全体の85~90%を占めており、日本国内においては、肝細胞がんの患者数は約4万2千人、年間死亡数は約2万6千人と報告されている。切除不能な肝細胞がんは、治療方法が限られており、予後が極めて悪く、アンメット・メディカル・ニーズが高い疾患である。
【0003】
切除不能な進行性の肝細胞がんに対する治療薬としては、複数の受容体チロシンキナーゼに対するマルチキナーゼ阻害剤が使用されている。具体的には、第1選択薬としてはソラフェニブやレンバチニブ、第2選択薬としてはレゴラフェニブやカボザンチニブが使用されている。
レンバチニブは、マルチキナーゼ阻害剤の一つで、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)であるVEGFR1、VEGFR2、VEGFR3や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)のFGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4に加え、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のPDGFRα、KIT、RETなどの腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼに対する選択的阻害活性を有する、経口投与可能な、チロシンキナーゼ阻害剤であり、2018年3月、日本において、世界に先駆けて、切除不能の進行性肝細胞癌の一次治療薬として承認された。2018年8月には米国、欧州において承認された。なお、レンバチニブは、薬剤として使用される場合、メシル酸塩の形態で使用されることが一般的である。
【0004】
切除不能肝細胞がんに対する1次治療としてレンバチニブとソラフェニブを比較したオープンラベル無作為化フェーズIII試験(REFLECT試験)の結果、レンバチニブ群の奏効率は40.6%を示し、ソラフェニブの12.4%よりも高く、また、REFLECT試験では、レンバチニブ群に割り付けられた日本人集団(81人)の奏効率は46.9%であった(非特許文献1参照)。
このように、レンバチニブは切除不能肝細胞がんに対して40.6%と高い奏効率を示しているが、残りの約60%の患者においては効果が認められていない。また、もう一つの1次治療薬であるソラフェニブでの奏効率はさらに低く12.4%であり、マルチキナーゼ阻害剤の単独療法での治療効果は限定的である。
【0005】
【文献】Kudo M, et al., Lancet, vol. 391(10126), p. 1163-1173, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、既存のマルチキナーゼ阻害剤よりも強力かつ持続的な抗腫瘍効果を発揮し得る、肝細胞がんの治療薬、治療方法等の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、肝細胞がん治療用の組合せ医薬等を提供するものである。
【0008】
(1)肝細胞がんを治療するための組合せ医薬であって、
レンバチニブ、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物、及び
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、若しくは当該抗体に由来する抗体断片
を含む、前記組合せ医薬。
(2)前記腫瘍が、肝細胞がんである、上記(1)に記載の組合せ医薬。
(3)前記抗体は、キメラ抗体又はヒト化抗体である、上記(1)又は(2)に記載の組合せ医薬。
【0009】
(4)前記抗体は、
(a) H鎖V領域(重鎖可変領域)のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号3~5で示されるアミノ酸配列であり、かつ、L鎖V領域(軽鎖可変領域)のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号6~8で示されるアミノ酸配列である抗体、
(b) H鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号9~11で示されるアミノ酸配列であり、かつ、L鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号12~14で示されるアミノ酸配列である抗体、
(c) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号16で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号18で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(d) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号20で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号22で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(e) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号24又は26で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号28で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(f) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号30、32、34又は36で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号46で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(g) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号38、40、42又は44で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号46で示されるアミノ酸配列からなる抗体、
(h) 受託番号がFERM BP-10899であるハイブリドーマにより産生される抗体、
(i) 受託番号がFERM BP-10707であるハイブリドーマにより産生される抗体、
(j) 受託番号がFERM BP-10900であるハイブリドーマにより産生される抗体、及び
(k) 受託番号がFERM BP-11337であるハイブリドーマにより産生される抗体
からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の組合せ医薬。
【0010】
(5)前記抗体又は抗体断片が、抗腫瘍活性及び/又は殺細胞活性を有する化合物との複合体の形態である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の組合せ医薬。
(6)前記組合せ医薬の投薬終了後においても、がん細胞の増殖を抑制し得る又は腫瘍を縮小若しくは消失させ得るものである、上記(1)~(5)のいずれかに記載の組合せ医薬。
(7)肝細胞がんの治療用の薬剤を製造するための
レンバチニブ、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物、及び
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、若しくは当該抗体に由来する抗体断片
の使用。
【0011】
(8)レンバチニブ、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物、及び
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、若しくは当該抗体に由来する抗体断片
を被験対象に投与することを特徴とする、肝細胞がんの治療方法。
(9)レンバチニブ、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物、及び
in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体、若しくは当該抗体に由来する抗体断片
を含む、肝細胞がんを治療するためのキット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肝細胞がんの治療に関して、既存のマルチキナーゼ阻害剤よりも強力かつ持続的な抗腫瘍効果を発揮し得る治療薬及び治療方法等を提供することができる。本発明の治療薬及び治療方法等は、例えば、これまで治療効果が期待できなかった患者に対しても効果を発揮し得るものである点で、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本実施例における、Hep3Bゼノグラフトモデルを用いたレンバチニブと抗hDLK-1抗体(HuBA-1-3D抗体)との併用効果測定試験の結果を示す図である。
図1B】本実施例における、Hep3Bゼノグラフトモデルを用いたレンバチニブと抗hDLK-1抗体(HuBA-1-3D抗体)との併用効果測定試験に関し、各個体の腫瘍体積の増減 (移植後38日間)の結果を示す図である。
図1C】本実施例における、Hep3Bゼノグラフトモデルを用いたレンバチニブと抗hDLK-1抗体(HuBA-1-3D抗体)との併用効果測定試験に関し、測定試験終了後に摘出した腫瘍の重量及び写真を示す図である。
図2A】本実施例における、HepG2ゼノグラフトモデルを用いたレンバチニブと抗hDLK-1抗体(HuBA-1-3D抗体)との併用効果測定試験の結果を示す図である。
図2B】本実施例における、HepG2ゼノグラフトモデルを用いたレンバチニブと抗hDLK-1抗体(HuBA-1-3D抗体)との併用効果測定試験に関し、レンバチニブ投与群、抗hDLK-1抗体投与群、レンバチニブ及び抗hDLK-1抗体投与群の腫瘍移植後34日目の腫瘍体積を示す図である。
図3】Hep3Bゼノグラフトモデル及びHepG2ゼノグラフトモデルを用いた、Hep3B及びHepG2のレンバチニブに対する感受性の結果を示す図である。Aは、Hep3Bゼノグラフトモデルを用いた結果、Bは、HepG2ゼノグラフトモデルを用いた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2019-070120号明細書(平成31年(2019年)4月1日出願)の全体を包含する。本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0015】

1.本発明の概要
前述のとおり、レンバチニブは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR1~3)や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR1~4)に加え、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のPDGFRα、KIT、RETなどの腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼに対する選択的阻害活性を有する、経口投与可能な、マルチキナーゼ阻害剤である。2018年3月、世界に先駆けて、切除不能の進行性肝細胞癌の一次治療薬として日本で承認され、2018年8月には米国及び欧州においても承認されたものである。REFRECT試験において、レンバチニブは40.6%と高い奏効率を示したが、残りの約60%の患者においては効果がみられず、レンバチニブ単独療法の治療効果は限定的である。
【0016】
本発明者は、既存のマルチキナーゼ阻害剤よりも強力かつ持続的な抗腫瘍効果を発揮し得る治療薬を開発するため、ヒト肝細胞がん由来Hep3B細胞株やHepG2細胞株を用いたゼノグラフト治療モデルによる実験及び検討を行った。その結果、レンバチニブと、ヒトDLK-1(delta-like 1 homolog (Drosophila);以下「hDLK-1」ということがある)に対する抗体とを組合せて投与することにより、レンバチニブや当該抗体の単独投与による場合と比べて、持続的、かつ顕著に強い腫瘍増殖抑制及び腫瘍縮小効果を発揮することを明らかにした。
【0017】
ここで、hDLK-1は、383残基のアミノ酸からなる1回膜貫通型のI型膜タンパク質で、肝細胞がん、小細胞肺がん、すい臓がん、乳がんなどの成人のがん、神経芽細胞腫、肝芽腫、横紋筋肉腫、ウイルス腫瘍などの小児がんに発現していることが知られている。一方で、正常な組織、臓器ではDLK-1の発現は副腎、下垂体などに限られており、大部分の臓器では発現していないため、がんの治療標的分子として適したものである。これまでに、優れた腫瘍縮小効果を含む腫瘍細胞増殖阻害、及び腫瘍細胞死誘導作用を示す、抗hDLK-1モノクローナル抗体が創製されており、複数のヒトがん細胞株を用いたゼノグラフト治療モデルにおいて、抗体の単独投与による抗腫瘍活性が示されている。
【0018】
本発明者が見出した、レンバチニブと抗hDLK-1抗体とを組合せた併用医薬・併用療法によれば、これまでマルチキナーゼ阻害剤の単独投与だけでは十分な治療効果が期待できなかった(不応答であった)肝細胞がんの患者に対しても、十分な治療効果が期待できる。本発明は、このようにして完成された。
【0019】

2.がん治療用の組合せ医薬
本発明の肝細胞がんを治療するための組合せ医薬(以下、「本発明の組合せ医薬」ということがある。)は、前述の通り、
・レンバチニブ、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物(以下、本明細書において「レンバチニブ等」ということがある。)と、
・in vivoで抗腫瘍活性を有する抗hDLK-1抗体、若しくは当該抗体に由来する抗体断片(以下、本明細書において「抗hDLK-1抗体等」ということがある。)とを
有効成分として含むことを特徴とするものである。
【0020】
なお、本発明は、(i) レンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等とを用いること、具体的には、例えば、レンバチニブ等及び抗hDLK-1抗体等の有効量を被験対象(肝細胞がんの患者又はその恐れ(発症リスク)のある患者、あるいはそのような非ヒト哺乳動物)に投与することを含む、肝細胞がんの治療方法、(ii) 肝細胞がんの治療用の薬剤を製造するためのレンバチニブ等及び抗hDLK-1抗体等の使用、(iii) 肝細胞がんの治療のためのレンバチニブ等及び抗hDLK-1抗体等の使用、並びに、(iv) 肝細胞がんの治療用のレンバチニブ等及び抗hDLK-1抗体等も含むものである。
本発明において、肝細胞がんの治療としては、例えば、肝細胞がんの進行抑制、予後改善、及び/又は再発防止等も含まれる。
【0021】
(1)レンバチニブ等
本発明の組合せ医薬の有効成分である、レンバチニブ等は、公知の市販のものを使用することができるが、限定はされず、独自に合成、抽出及び精製等したものを使用してもよい。独自に合成等する場合は、米国特許第7,612,092号明細書に記載の合成方法を参照することもできる。
なお、レンバチニブは、正式名称(IUPAC名)は、4-[3-クロロ-4-(シクロプロピルカルバモイルアミノ)フェノキシ]-7-メトキシ-キノリン-6-カルボキサミド(4-[3-chloro-4-(cyclopropylcarbamoylamino)phenoxy]-7-methoxy-quinoline-6-carboxamide)であり、下記構造式で表されるものである。
【0022】
【化1】
【0023】
本発明の組合せ医薬の有効成分としては、レンバチニブと共に又はレンバチニブに代えて、レンバチニブ誘導体を用いることもできる。当該誘導体としては、レンバチニブ由来の化学構造を有する等、当業者の技術常識に基づいてレンバチニブの誘導体と考えられるものであればよく、限定はされないが、抗腫瘍活性がレンバチニブと同程度のものが好ましい。本発明においては、単にレンバチニブという場合も、レンバチニブの誘導体を含み得る意味であるとする。
【0024】
本発明に用いるレンバチニブとしては、例えば、生体内で酸化、還元、加水分解、又は抱合などの代謝を受けるものも包含するほか、生体内で酸化、還元、又は加水分解などの代謝を受けてレンバチニブを生成する化合物(いわゆるプロドラッグ)も含まれる。本発明において、プロドラッグとは、薬理学的に許容し得る、通常プロドラッグにおいて使用される基で親化合物を修飾した化合物をいい、例えば、安定性や持続性の改善等の特性が付与され、腸管内等で親化合物に変換されて効果を発現することが期待できる化合物をいう。例えば、レンバチニブのプロドラッグは、対応するハロゲン化物等のプロドラッグ化試薬を用いて、常法により、当該化合物中のプロドラッグ化の可能な基(例えば、水酸基、アミノ基、その他の基)から選択される1以上の任意の基に、常法に従い適宜プロドラッグを構成する基を導入した後、必要に応じ、単離精製することにより製造することができる。ここで、上記プロドラッグを構成する基としては、限定はされないが、例えば、低級アルキル-CO-、低級アルキル-O-低級アルキレン-CO-、低級アルキル-OCO-低級アルキレン-CO-、低級アルキル-OCO-、及び低級アルキル-O-低級アルキレン-OCO-等が好ましく挙げられる。
【0025】
本発明の組合せ医薬の有効成分としては、レンバチニブやそのプロドラッグと共に、又はレンバチニブやそのプロドラッグに代えて、それらの薬理学的に許容し得る塩を用いることもできる。
当該薬理学的に許容し得る塩としては、限定はされないが、例えば、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩ともいう)、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、及びカンファースルホン酸塩など)、有機カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、及びクエン酸塩など)、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、無機酸塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、及び重炭酸塩など)、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが好ましく挙げられる。本発明に用いるレンバチニブの薬理学的に許容し得る塩の好ましい一態様としては、レンバチニブメシル酸塩が挙げられる。
【0026】
本発明に用いるレンバチニブは、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではない。また、レンバチニブは、S-体、R-体又はRS-体のいずれであってもよく、限定はされない。さらに、レンバチニブは、その種類により水和物や溶媒和物の形で存在する場合もあり、本発明においては当該水和物及び溶媒和物も、レンバチニブに含むものとし、本発明の組合せ医薬の有効成分として用いることができる。当該溶媒和物としては、限定はされないが、例えば、エタノールとの溶媒和物等が挙げられる。
【0027】
本発明の組合せ医薬において、有効成分としてのレンバチニブ等の含有割合は、限定はされず、適宜設定することができるが、例えば、組合せ医薬全体に対して、0.01~99重量%の範囲内とすることができ、好ましくは、0.01~30重量%、より好ましくは0.05~20重量%、さらに好ましくは0.1~10重量%の範囲内としてもよい。有効成分の含有割合が上記範囲内であることにより、本発明の組合せ医薬は、肝細胞がんの治療効果を十分に発揮することができる。
本発明の組合せ医薬は、レンバチニブ等以外にも、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、任意の他のマルチキナーゼ阻害剤等を含んでいてもよい。
【0028】
(2)抗hDLK-1抗体等
本発明の組合せ医薬の有効成分である、抗hDLK-1抗体(in vivoで抗腫瘍活性を有する、ヒトDLK-1に対する抗体)は、以下の説明記載に基づいて作製することができる。
【0029】
(i)抗原の調製
hDLK-1のアミノ酸配列(配列番号2)の情報は、例えばNCBI(GenBank)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に「Accession number:NP003827」として公表されている。なお、hDLK-1のアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号1)の情報は、同ウェブサイトに「Accession number:NM 003836」として公表されている。
抗原としては、hDLK-1のアミノ酸配列の少なくとも一部(全部又は一部)を含むポリペプチド又はペプチド(単にペプチドともいう)を使用することができ、好ましくは、hDLK-1の細胞外領域(FA-1)のアミノ酸配列の少なくとも一部(全部又は一部)を含むペプチドを使用することができる。hDLK-1の細胞外領域は、前述したように6つのEGF様モチーフ(EGF-1~EGF-6)を含む領域を言い、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちの第24番目~第244番目のアミノ酸を含む領域、好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちの「第24番目」から「第248~285番目」までのアミノ酸からなる領域(およそ225~262アミノ酸残基)のことを言う。
【0030】
ここで、抗原に用いるペプチドにつき、上記「アミノ酸配列の少なくとも一部」とは、長さが特に限定されるわけではなく、例えば、6つのEGF様モチーフのうちの1つ又は2つ以上を含む領域が好ましい。より好ましくは、例えば、EGF-1及びEGF-2を含む領域(すなわち配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちの第24番目~第91番目のアミノ酸からなる領域)、EGF-3及びEGF-4を含む領域(すなわち配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちの第92番目~第167番目のアミノ酸からなる領域)、並びに、EGF-4、EGF-5及びEGF-6を含む領域(すなわち配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちの第131番目~第244番目のアミノ酸からなる領域)である。
【0031】
抗原とするペプチドの作製方法は、化学合成でも、大腸菌などを用いる遺伝子工学的手法による合成でもよく、当業者に周知の方法を用いることができる。
ペプチドの化学合成を行う場合は、ペプチドの合成の周知方法によって合成することができる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置(例えば、島津製作所製:PSSM-8など)を使用してもよい。
【0032】
ペプチドを遺伝子工学的に合成する場合は、まず、当該ペプチドをコードするDNAを設計し合成する。当該設計及び合成は、例えば、全長hDLK-1遺伝子を含むベクター等を鋳型とし、所望のDNA領域を合成し得るように設計したプライマーを用いて、PCR法により行うことができる。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによってタンパク質発現用組換えベクターを得、この組換えベクターを目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することによって形質転換体を得る(Molecular cloning 4th Ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))。
【0033】
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。さらに、動物ウイルス、昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。組換えベクターの作製は、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位等に挿入してベクターに連結すればよい。形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞又は昆虫が挙げられる。ヤギ等の哺乳動物を宿主として使用することも可能である。宿主への組換えベクターの導入方法は公知である。
【0034】
そして、前記形質転換体を培養し、その培養物から抗原として使用されるペプチドを採取する。「培養物」とは、培養上清、培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物の、いずれをも意味するものである。
培養後、目的ペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりペプチドを抽出する。また、目的ペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、ペプチドの単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、目的のペプチドを単離精製することができる。
【0035】
本発明においては、無細胞合成系を用いたin vitro翻訳により抗原となるペプチドを得ることもできる。この場合は、RNAを鋳型にする方法とDNAを鋳型にする方法(転写/翻訳)の2通りの方法を用いることができる。無細胞合成系としては、市販のシステム、例えばExpressway TMシステム(インビトロジェン社)、PURESYSTEM(登録商標;ポストゲノム研究所)、TNTシステム(登録商標;プロメガ社)等を用いることができる。
上記のごとく得られたペプチドは、適当なキャリアタンパク質、例えば牛血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ヒトチログロブリン、ニワトリガンマグロブリン等に結合することも可能である。
【0036】
また抗原は、hDLK-1のアミノ酸配列(配列番号2)又は前述したその部分配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。例えば、hDLK-1のアミノ酸配列又はその部分配列のうち1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個~10個、さらに好ましくは1個~5個))のアミノ酸が欠失しており、1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個~10個、さらに好ましくは1個~5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されており、あるいは、1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個~10個、さらに好ましくは1個~5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるペプチドを使用することもできる。
【0037】
本発明において、細胞等に導入するための遺伝子としては、hDLK-1タンパク質若しくはその部分断片又はこれらの変異型のタンパク質又は断片をコードする遺伝子が挙げられる。そのような遺伝子としては、例えば、配列番号1に示される塩基配列又はその部分配列を有するものを使用することができる。
また、細胞等に導入するための遺伝子としては、配列番号1に示される塩基配列に相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし且つhDLK-1活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、又はその部分配列を使用することも可能である。
【0038】
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイズさせた後の洗浄時の条件であって、バッファーの塩(ナトリウム)濃度が10~500mMであり、温度が42℃~72℃、好ましくは、上記塩濃度が50~300mMであり、温度が55~68℃での条件をいう。
遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばGeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標) Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)を用いて行うことができる。
【0039】
(ii)ポリクローナル抗体の作製
調製した抗原を、免疫のため哺乳動物に投与する。哺乳動物は特に限定はされず、例えばラット、マウス及びウサギなどを挙げることができ、なかでもマウスが好ましい。
抗原の動物一匹あたりの投与量は、アジュバントの有無により適宜設定することができる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、足蹠、皮下、腹腔内等に注入することにより行うことができる。また、免疫の間隔については、特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1週間間隔で、1~10回、好ましくは2~3回免疫を行う。そして、最終の免疫日から3~7日後に、酵素免疫測定法(ELISA又はEIA)や放射性免疫測定法(RIA)等で抗体価を測定し、所望の抗体価を示した日に採血して、抗血清を得ることができる。上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより、精製することができる。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0040】
(iii)モノクローナル抗体の作製
・抗体産生細胞の採取
本発明の抗hDLK-1抗体は、限定はされないが、モノクローナル抗体であることが好ましい。
調製した抗原を、免疫のため哺乳動物、例えばラット、マウス及びウサギなどに投与する。抗原の動物一匹あたりの投与量は、アジュバントの有無により適宜設定することができる。アジュバントとしては上記と同様である。免疫手法も前記と同様である。そして、最終の免疫日から1~60日後、好ましくは1~14日後に、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞及び末梢血細胞などが挙げられるが、なかでもリンパ節細胞及び脾臓細胞が好ましい。
【0041】
・細胞融合
ハイブリドーマ(抗体産生細胞株)を得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を用いることができる。用いる細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。
ミエローマ細胞としては、例えば、P3-X63-Ag8.653、P3-X63-Ag8(X63)、P3-X63-Ag8.U1(P3U1)、P3/NS I/1-Ag4-1(NS1) 及びSp2/0-Ag14(Sp2/0)等のマウスミエローマ細胞株が挙げられる。ミエローマ細胞の選択は、抗体産生細胞との適合性を適宜考慮して行うことができる。
【0042】
次いで、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM及びRPMI-1640培地などの動物細胞用培地中で、1×106~1×107個/mLの抗体産生細胞と2×105~2×106個/mLのミエローマ細胞とを混合する。抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比(抗体産生細胞:ミエローマ細胞)は、限定はされないが、通常、1:1~10:1とすることが好ましく、より好ましくは3:1である。次に、細胞融合促進剤の存在下で融合反応を行う。細胞融合促進剤として、例えば、平均分子量1,000~6,000ダルトン(D)のポリエチレングリコールなどを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0043】
・ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などに適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に播き、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリーマとして得ることができる。
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、hDLK-1に反応する抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定はされない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採取し、ELISA、EIA及びRIAなどによってスクリーニングすることができる。
【0044】
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行うことができる。hDLK-1に強い反応性を示す抗体をフローサイトメトリー等により判定し、これを産生するハイブリドーマを選択し、クローンとして樹立する。
【0045】
・モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマを培養し、得られる培養物からモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法、又は腹水形成法等を採用することができる。「培養」とは、ハイブリドーマを培養皿又は培養ボトル中で生育させること、あるいはハイブリドーマを下記のように動物の腹腔内で増殖させることを意味する。
細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO2濃度)で7~14日間培養し、その培養上清から抗体を取得することができる。
【0046】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、2~3週間後に腹水を採取することが好ましい。
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0047】
・抗腫瘍活性を有するクローンの選別
本発明に用いる抗hDLK-1抗体は、in vivoで抗腫瘍活性を有する抗体である。
ここで、「抗腫瘍活性」とは、腫瘍細胞(癌細胞)を死滅させる活性又は腫瘍成長を阻害する活性を意味する。本発明において、抗腫瘍活性としては、例えば、腫瘍血管新生阻害活性が好ましく挙げられる。本発明の抗hDLK-1抗体が抗腫瘍活性を発揮しうるヒト腫瘍(腫瘍細胞)の種類としては、hDLK-1の発現が確認されている公知のヒト腫瘍が挙げられる。
【0048】
in vivoでの抗腫瘍活性の確認は、例えば、所望の腫瘍細胞をマウスの皮下に移植した担癌マウスを用い、このマウスに前記のとおり得られた抗体を投与することにより行うことができる。この場合、抗体の投与は、腫瘍細胞の移植直後から行ってもよいし(Preventionモデル)、移植に腫瘍が所定の体積になったのを確認してから行ってもよい(Treatmentモデル)。投与方法は、何ら限定はされないが、例えば、3日に1回、20mg/kg体重、腹腔内投与としてもよい。Preventionモデルの場合は、腫瘍形成頻度と腫瘍体積により抗腫瘍活性の有無及びレベルを評価することができる。Treatmentモデルの場合は、腫瘍体積及び腫瘍重量により抗腫瘍活性の有無及びレベルを評価することができる。
【0049】
本発明において、in vivoで抗腫瘍活性を有する抗hDLK-1抗体としては、特に限定はされないが、例えば、WO2008/056833、WO2009/116670、WO2014/054820の各公報に開示されている、抗hDLK-1を用いることができる。
より具体的には、例えば、以下の(a)~(k)の抗hDLK-1抗体が挙げられ、それらの少なくとも1種を用いることができる。
【0050】
(a) H鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号3~5で示されるアミノ酸配列であり、かつ、L鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号6~8で示されるアミノ酸配列である抗体。
(b) H鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号9~11で示されるアミノ酸配列であり、かつ、L鎖V領域のCDR1~3のアミノ酸配列が、それぞれ順に、配列番号12~14で示されるアミノ酸配列である抗体。
【0051】
(c) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号16で示されるアミノ酸配列(対応する塩基配列は配列番号15)からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号18(対応する塩基配列は配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなる抗体。なお、当該抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域中の各CDR配列は、上記(a)の抗体と同一である。
(d) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号20で示されるアミノ酸配列(対応する塩基配列は配列番号19)からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号22(対応する塩基配列は配列番号21)で示されるアミノ酸配列からなる抗体。なお、当該抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域中の各CDR配列は、上記(b)の抗体と同一である。
【0052】
(e) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号24又は26で示されるアミノ酸配列(対応する塩基配列は配列番号23又は25)からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号28(対応する塩基配列は配列番号27)で示されるアミノ酸配列からなる抗体(ヒト化抗体)。なお、当該抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域中の各CDR配列は、上記(a)の抗体と同一である。
(f) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号30、32、34又は36で示されるアミノ酸配列(対応する塩基配列は配列番号29、31、33又は35)からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号46(対応する塩基配列は配列番号45)で示されるアミノ酸配列からなる抗体(ヒト化抗体)。なお、当該抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域中の各CDR配列は、上記(b)の抗体と同一である。
【0053】
(g) H鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号38、40、42又は44で示されるアミノ酸配列(対応する塩基配列は配列番号37、39、41又は43)からなり、かつ、L鎖V領域のアミノ酸配列が配列番号46(対応する塩基配列は配列番号45)で示されるアミノ酸配列からなる抗体(ヒト化抗体)。なお、当該抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域中の各CDR配列は、上記(b)の抗体と同一である。
【0054】
(h) 受託番号がFERM BP-10899であるハイブリドーマにより産生される抗体。
(i) 受託番号がFERM BP-10707であるハイブリドーマにより産生される抗体。
(j) 受託番号がFERM BP-10900であるハイブリドーマにより産生される抗体。
(k) 受託番号がFERM BP-11337であるハイブリドーマにより産生される抗体。
【0055】
ここで、上記(f)の抗体に関しては、配列番号32に示されるアミノ酸配列は、配列番号30に示されるアミノ酸配列の第24番目のアラニン(A)がグリシン(G)に置換されたものであり、
配列番号34に示されるアミノ酸配列は、配列番号30に示されるアミノ酸配列の第74番目のスレオニン(T)がリジン(K)に置換されたものであり、
配列番号36に示されるアミノ酸配列は、配列番号30に示されるアミノ酸配列の、第24番目のアラニン(A)がグリシン(G)に置換され、かつ、第74番目のスレオニン(T)がリジン(K)に置換されたものである。
【0056】
同様に、上記(g)の抗体に関しては、配列番号40に示されるアミノ酸配列は、配列番号38に示されるアミノ酸配列の第24番目のアラニン(A)がグリシン(G)に置換されたものであり、
配列番号42に示されるアミノ酸配列は、配列番号38に示されるアミノ酸配列の第74番目のスレオニン(T)がリジン(K)に置換されたものであり、
配列番号44に示されるアミノ酸配列は、配列番号38に示されるアミノ酸配列の、第24番目のアラニン(A)がグリシン(G)に置換され、かつ、第74番目のスレオニン(T)がリジン(K)に置換されたものである。
【0057】
このような、上記(f)及び(g)の抗体(ヒト化抗体)における、アミノ酸置換がなされた改変抗体は、より一層アビィディティー(Avidity;抗原結合活性)の高い抗体であり、例えば、細胞表面における抗原の発現量が少ない癌細胞との結合活性の保持を可能とするものである。また、当該改変抗体は、液剤処方中及びサルやヒトの血中(血漿中)等において長期安定的な抗原結合活性を保持し得るものである。
【0058】
また、上記(h)~(k)の抗体に関しては、受託番号がFERM BP-11337であるハイブリドーマは、「Mouse-Mouse hybridoma BA-1-3D」と称し2011年2月1日付けで、受託番号がFERM BP-10707であるハイブリドーマは、「Mouse-Mouse hybridoma: M3-1」と称し2006年10月18日付で、受託番号がFERM BP-10899であるハイブリドーマは、「Mouse-Mouse hybridoma DI-2-14」と称し2007年8月21日付で、受託番号がFERM BP-10900であるハイブリドーマは、「Mouse-Mouse hybridoma DI-6」と称し2007年8月21日付で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)(受託証発行当時の国際寄託当局の名称)に、寄託されたものである。
本発明に用い得る抗hDLK-1抗体としては、例えば、上述した種々の抗hDLK-1抗体が結合(認識)する部位(例えばエピトープ)に結合する抗hDLK-1抗体など、上述した種々の抗hDLK-1抗体と競合し得る抗体も好ましく挙げられる。
【0059】
・抗hDLK-1抗体のエピトープ
抗hDLK-1抗体のエピトープ(抗原決定基)は、抗原であるhDLK-1の少なくとも一部であればよく限定はされないが、例えば、配列番号2に示されるhDLK-1のアミノ酸配列中の、第24番目~第91番目のアミノ酸からなる領域(hDLK-1のEGF-1~EGF-2を含む領域)、第92番目~第167番目のアミノ酸からなる領域(hDLK-1のEGF-3~EGF-4を含む領域)、若しくは第131番目~第244番目のアミノ酸からなる領域(hDLK-1のEGF-4~EGF-6を含む領域)の少なくとも一部であることが好ましい。なかでも、hDLK-1のEGF-1~EGF-2を含む領域がより好ましい。当該領域を認識する(当該領域と結合する)抗hDLK-1抗体は、例えば、腫瘍細胞内へのインターナリゼーション活性が高く、後述するイムノコンジュゲート等の用途に極めて有用なものである。
【0060】
(iv)遺伝子組換え抗体、及び抗体断片
・遺伝子組換え抗体
抗hDLK-1抗体の好ましい態様の一つとして、遺伝子組換え抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体としては、限定はされないが、例えば、キメラ抗体及びヒト化抗体等が挙げられる。
キメラ抗体(すなわちヒト型キメラ抗体)は、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に連結(接合)した抗体であり(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855, (1984) 等を参照)、キメラを作製する場合は、そのように連結した抗体が得られるよう、遺伝子組換え技術によって容易に構築できる。
【0061】
ヒト化抗体を作製する場合は、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものでCDRはマウス由来のものからなる、再構成した可変領域を作製する(いわゆるCDRグラフティング(CDR移植))。次に、これらのヒト化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。ヒト化抗体の作製法は、例えば、Nature, 321, 522-525 (1986);J. Mol. Biol., 196, 901-917 (1987);Queen C et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 10029-10033 (1989);特表平4-502408号公報(特許第2828340号公報;クイーンら) 等を参照することができる。さらに本発明においては、上記ヒト化抗体のH鎖又はL鎖のV領域の一部(CDR配列を除く)のアミノ酸(好ましくは1~数個、より好ましくは1~2個のアミノ酸)を他のアミノ酸置換した、改変型のアミノ酸も包含される。改変ヒト化抗hDLK-1抗体としては、より一層アビィディティー(Avidity;抗原結合活性)の高いヒト化抗体にすることもでき、例えば、細胞表面における抗原の発現量が少ない癌細胞との結合活性の保持を可能とするものである。また、改変ヒト化抗hDLK-1抗体は、液剤処方中及びサルやヒトの血中(血漿中)等において長期安定的な抗原結合活性を保持し得るものとすることもできる。
【0062】
上記キメラ抗体及びヒト化抗体は、例えば、抗体Fc領域におけるN-グリコシド結合複合型糖鎖が該糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖であるものが好ましく、詳しくは、該フコースの1位がN-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にα結合していない糖鎖を抗体分子のFc領域に有する遺伝子組換え抗体分子からなる抗体が挙げられる。このような抗体であれば、ADCC活性を飛躍的に向上させることができる。なお、この点(抗体Fc領域におけるN-グリコシド結合複合型糖鎖の特徴)は、前述したポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体についても同様に好ましい。
【0063】
・抗体断片
本発明においては、抗hDLK-1抗体の断片も、本発明の抗hDLK-1抗体と共に、又は本発明の抗hDLK-1抗体に代えて、用いることができる。ここで、当該抗体断片は、本発明の抗hDLK-1抗体(マウス抗体以外のヒト化抗体等を含む)と同様に、hDLK-1に対する結合活性を有するものであることが好ましく、またin vivoで抗腫瘍活性を有するものや、本発明の抗hDLK-1抗体と同じエピトープを認識するものも好ましいが、特にこれらに制限はされない。
当該抗体断片としては、抗hDLK-1ポリクローナル抗体又は抗hDLK-1モノクローナル抗体の一部分の領域(すなわち、本発明の抗hDLK-1抗体に由来する抗体断片)を意味し、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv(variable fragment of antibody)、一本鎖抗体(H鎖、L鎖、H鎖V領域、及びL鎖V領域等)、scFv、diabody(scFv二量体)、dsFv(ジスルフィド安定化V領域)、並びに、相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)を少なくとも一部に含むペプチド等が挙げられる。
【0064】
Fabは、抗体分子をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体とがジスルフィド結合で結合した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。また、抗体のFabをコードするDNAを、原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することもできる。
F(ab')2は、抗体分子をタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabがヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。また、後述するFabをチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させて、作製することもできる。
【0065】
Fab'は、上記F(ab')2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。また、抗体のFab'断片をコードするDNAを、原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、Fab'を製造することもできる。
scFvは、1本のH鎖V領域(VH)と1本のL鎖V領域(VL)とを適当なペプチドリンカー(P)を用いて連結した、VH-P-VLないしはVL-P-VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。scFvは、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築して、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させて、製造することができる。
【0066】
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。diabodyは、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAをPのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築して、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させて、製造することができる。
【0067】
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、該システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基は、Reiterらにより示された方法(Protein Engineering, 7, 697-704, 1994)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。dsFvは、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築して、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させて、製造することができる。
【0068】
CDRを含むペプチドは、VH又はVLのCDR(CDR1~3)の少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接又は適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。CDRを含むペプチドは、抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入して、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させて、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)及びtBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によって製造することもできる。
【0069】
本発明に用いる抗体断片としては、そのままの形状でN-グリコシド結合複合型糖鎖が該糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖である抗体Fc領域の一部または全部を含む抗体断片でもよく、また、上述した抗体断片とN-グリコシド結合複合型糖鎖が該糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖である抗体Fc領域の一部または全部との融合タンパク質であってもよい。このような抗体断片であれば、ADCC活性を飛躍的に向上させることができるため、好ましい。
本発明に用いる抗体断片の具体例としては、限定はされないが、例えば、前述した各種抗hDLK-1抗体における、H鎖V領域のCDR1~3とL鎖V領域のCDR1~3とを含むものや、H鎖V領域の全体とL鎖V領域の全体とを含むもの等が挙げられる。
【0070】
(v)抗体-薬剤複合体
本発明に用いる抗hDLK-1抗体、及び抗体断片は、抗腫瘍活性及び/又は殺細胞活性を有する化合物と複合体を形成した形態であってもよい。なお、予め、抗体分子や抗体断片分子と、抗腫瘍活性及び/又は殺細胞活性を有する化合物とを、それぞれ調製したのち、これらを複合化させて得られたものは、一般に、イムノコンジュゲートと称される。また、遺伝子組換え技術を用い、抗腫瘍活性及び/又は殺細胞活性を有する化合物としてのタンパク質トキシンを、遺伝子上で抗体や抗体断片の遺伝子と連結させて、1つのタンパク質(融合タンパク質)として発現させて得られたものは、一般に、イムノトキシンと称される。
【0071】
抗腫瘍活性を有する化合物としては、例えば、ドキソルビシン、カリケアマイシン、マイトマイシンC、Auristatin Eなどが挙げられる。殺細胞活性を有する化合物としては、例えば、サポリン、リシン、緑膿菌外毒素、ジフテリアトキシン等が挙げられ、なかでもサポリン及び緑膿菌外毒素が好ましく用いられる。
当該複合体の作製方法としては、限定はされないが、例えば、ジスルフィド結合やヒドラゾン結合によって抗体と薬剤とをカップリングする方法などが挙げられる。
【0072】
本発明に用いる抗hDLK-1抗体は、hDLK-1を発現する標的腫瘍細胞内へのインターナリゼーション活性に優れたものである。そのため、予め、抗腫瘍活性及び/又は殺細胞活性を有する化合物を複合化させておくことにより、これら化合物を腫瘍細胞に直接かつ高選択的に作用させることができる。当該複合体は、標的腫瘍細胞への薬剤送達能に極めて優れたものである。
なお、細胞内へのインターナリゼーション活性は、抗体をローダミン等により蛍光標識し、細胞内への移行挙動及び抗体の局在性について蛍光顕微鏡等を用いて観察することにより評価することができる。
【0073】
(3)組合せ医薬
本発明の組合せ医薬は、レンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等とを有効成分としてそれぞれ含むものである。
本発明の組合せ医薬は、被験対象としてのヒト、又は非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、種々の投与経路、具体的には、経口、又は非経口(例えば静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、直腸投与、経皮投与)で投与することができる。
従って、本発明の組合せ医薬は、単独で用いることも可能であるが、投与経路に応じて慣用される方法により薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化して用いることができる。
【0074】
剤形としては、経口剤では、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、及びトローチ剤等が挙げられ、非経口剤では、例えば、注射剤(点滴剤を含む)、吸入剤、軟膏剤、点鼻剤、及びリポソーム剤等が挙げられる。
これら製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤のほか、必要に応じ、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、及び無痛化剤等が挙げられ、医薬品製剤の原料として用いることができる公知の成分を配合して常法により製剤化することが可能である。
【0075】
当該成分として使用可能な無毒性のものとしては、例えば、大豆油、牛脂、及び合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、及び固形パラフィン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコール、及びベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子;エタノール、及びイソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、及びポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);グルコース、及びショ糖等の糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられ、いずれもその塩またはその水和物であってもよい。
【0076】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、及び二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、及びメグルミン等が、崩壊剤としては、例えば、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、及びカルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、及び硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、及び桂皮末等が、それぞれ好ましく挙げられ、いずれもその塩又はそれらの水和物であってもよい。
【0077】
本発明の組合せ医薬の投与量は、一般には、製剤中の有効成分の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況や、投与経路、投与回数(/1日)、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。また、本発明の組合せ医薬は、有効成分であるレンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等とを実質的に同時に投与してもよいし、いずれかを先に他方を後に順番に投与してしてもよく限定はされない。また、これら投与は、組合せ医薬に含まれる量を一度に投与しても、連続的に投与してもよく、限定はされない。
本発明の組合せ医薬を、非経口剤又は経口剤として用いる場合について、以下に説明する。
【0078】
非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されないが、各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供され得る。当該非経口剤には、有効成分となるレンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコールや、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリアルコール等が挙げられる。
非経口剤の投与量(1日あたり)は、限定はされないが、例えば各種注射剤であれば、一般には、有効成分となるレンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等を、適用対象(被験者、患者等)の体重1kgあたり、0.01~1000mg、0.05~500mg、又は0.1~50 mg服用できる量とすることができ、あるいは0.5~20 mg服用できる量や1~10 mg服用できる量とすることもできる。
【0079】
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、前述した剤形のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。当該経口剤には、有効成分となるレンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0080】
経口剤の投与量(1日あたり)は、一般には、有効成分となるレンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等を、適用対象(被験者、患者等)の体重1 kgあたり、0.05~5000mg、0.1~1000mg、又は0.1~100 mg服用できる量とすることができ、あるいは0.5~50 mg服用できる量や1~10 mg服用できる量とすることもできる。また、経口剤中の有効成分の配合割合は、限定はされず、1日あたりの投与回数等を考慮して、適宜設定することができる。
【0081】
本発明の組合せ医薬は、肝細胞がんの治療に関して、既存のマルチキナーゼ阻害剤よりも強力かつ持続的な抗腫瘍効果を発揮し得るものであり、例えば、当該医薬の投薬終了後においても、がん細胞の増殖を抑制し得たり、腫瘍を縮小又は消失させ得るものである。これまで治療効果が期待できなかった肝細胞がん患者に対しても効果を発揮し得るものである点で、本発明の組合せ医薬は極めて有用である。
【0082】
3.キット
本発明は、レンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等とを構成要素として含む、肝細胞がんの治療用キットの形態を提供することもできる。
当該キットにおけるレンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等は、安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮し、例えば溶解した状態で備えられていてもよい。
当該キットは、レンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等以外にも、適宜、他の構成要素を含むことができる。例えば、抗体の標識物質、あるいは抗体又はその標識物を固定した固相化試薬などを含めることができる。抗体の標識物質とは、酵素、放射性同位体、蛍光化合物及び化学発光化合物等によって標識されたものを意味する。また、各種バッファー、滅菌水、各種細胞培養容器、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、ブロッキング剤(Bovine Serum Albumin (BSA), Skim milk, ヤギ血清等の血清成分)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、アジ化ナトリウム等の防腐剤、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよい。
【0083】
当該キットは、構成要素として少なくとも前述したレンバチニブ等と抗hDLK-1抗体等を備えているものであればよい。従って、肝細胞がんの治療に必須となる構成要素の全てが共にキットに備えられていてもよいし、個々別々に備えられていてもよく、限定はされない。
【0084】

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0085】
Hep3Bゼノグラフトモデルを用い、レンバチニブメシル酸塩と抗hDLK-1抗体との腫瘍形成阻害活性における併用効果を検討した。
ここで、レンバチニブメシル酸塩は、市販のものを使用した(以下、本実施例では、単に「レンバチニブ」と称する。)。本実施例で使用した抗hDLK-1抗体は、WO2014/054820公報に記載の「HuBA-1-3D-1-A24G/T73K抗体」(以下、本実施例では、単に「HuBA-1-3D抗体」と称する。)であり、当該抗体タンパク質をコードするDNAの構築は同公報(明細書中の実施例)に記載の方法に従い、その後、宿主細胞による当該抗体タンパク質の産生・調製についてはGlymaxX(登録商標)技術(ProBioGen AG;https://www.probiogen.de/genetic-glyco-engineering-adcc-glymaxx.htmlを参照)を用いて行った。なお、本実施例で用いたHuBA-1-3D-1-A24G/T73K抗体は、H鎖V領域が配列番号36に示されるアミノ酸からなり、L鎖V領域が配列番号46に示されるアミノ酸からなるものである。
【0086】
1×106のHep3B細胞を6~7週令雌のNOD/ShiJic-scidJclマウスの右脇腹皮下に移植(Day0)し、平均腫瘍体積が100mm3程度に達した段階(Day14)で、コントロール群(N=8, 103.5±18.1 mm3)と、レンバチニブ(3mg/kg 体重)投与群(N=8, 102.8±16.8 mm3)と、HuBA-1-3D抗体(1mg/kg 体重)投与群(N=8, 102.7±15.0 mm3)と、レンバチニブ(3mg/kg 体重)及びHuBA-1-3D抗体(1mg/kg 体重)の併用投与群(N=8, 102.5±12.5 mm3)(以下、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群)とに群分けを行い、同日より12日間、HuBA-1-3D抗体は週2回のペースで(計4回;Day 14, 18, 22, 25)、レンバチニブは週5回(5日間投与、2日間休薬)のペースで(計10回;Day 14, 15, 16, 17, 18, 21, 22, 23, 24, 25)、投薬を行った。週2回の頻度で腫瘍体積の計測を行い、1500mm3に達した個体は観察終了とした。
【0087】
その結果、癌細胞移植から25日目(投薬終了日、Day 25)における腫瘍体積は、コントロール群が557.5±240.5 mm3であったのに対して、レンバチニブ投与群が268.1±175.7 mm3、HuBA-1-3D抗体投与群が144.6±111.2 mm3、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群が66.2±59.1 mm3となり、いずれの投与群もコントロール群と比較して強い抗腫瘍活性が確認された。また、投薬終了後の薬効を検討したところ、癌細胞移植から31日目(投薬終了後6日、Day 31)においては、コントロール群が1282.8±448.3 mm3、レンバチニブ投与群が572.2±456.0 mm3、HuBA-1-3D抗体投与群が92.9±79.3mm3であったのに対して、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群が40.3±46.1 mm3となった。さらに、癌細胞移植から38日目(投薬終了後13日、Day 38)においては、レンバチニブ投与群が1148.5±591.0 mm3、HuBA-1-3D抗体投与群が402.3±364.4 mm3であったのに対して、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群が52.8±63.9 mm3となった。すなわち、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群は、レンバチニブ投与群やHuBA-1-3D抗体投与群と比較して、投薬終了後も強い抗腫瘍活性が持続することが確認された(図1A)。
【0088】
各個体の腫瘍体積の推移を図1Bに示す。投薬期間中、レンバチニブ投与群、HuBA-1-3D抗体投与群はコントロール群に比較して腫瘍体積の増加が抑制されていたが、投与期間終了後、レンバチニブ投与群とHuBA-1-3D抗体投与群では、ほぼすべての個体において腫瘍体積の増加が認められた。それに対し、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群においては、投薬期間が終了した後も、ほぼすべての個体において腫瘍体積の増加が抑制されていた。
【0089】
観察終了日(Day38)に採取した腫瘍の重量と写真を図1Cに示す。腫瘍重量は、レンバチニブ投与群(N=7)が841.1±515.8 mg、HuBA-1-3D抗体投与群(N=8)が392.3±412.9 mg、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群(N=8)が22.9±40.5 mgとなり、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群は、レンバチニブ投与群やHuBA-1-3D抗体投与群と比較して、腫瘍重量が有意に小さかった。また、レンバチニブ投与群やHuBA-1-3D抗体投与群に比べて、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群の腫瘍は小さく、半数の個体において腫瘍の消失が確認された。
【実施例2】
【0090】
HepG2ゼノグラフトモデルを用い、レンバチニブメシル酸塩と抗hDLK-1抗体との腫瘍形成阻害活性における併用効果を検討した。
ここで、レンバチニブメシル酸塩は、市販のものを使用した(以下、本実施例では、単に「レンバチニブ」と称する。)。本実施例で使用した抗hDLK-1抗体は、WO2014/054820公報に記載の「HuBA-1-3D-1-A24G/T73K抗体」(以下、本実施例では、単に「HuBA-1-3D抗体」と称する。)であり、当該抗体タンパク質をコードするDNAの構築は同公報(明細書中の実施例)に記載の方法に従い、その後、宿主細胞による当該抗体タンパク質の産生・調製についてはGlymaxX(登録商標)技術(ProBioGen AG;https://www.probiogen.de/genetic-glyco-engineering-adcc-glymaxx.htmlを参照)を用いて行った。なお、本実施例で用いたHuBA-1-3D-1-A24G/T73K抗体は、H鎖V領域が配列番号36に示されるアミノ酸からなり、L鎖V領域が配列番号46に示されるアミノ酸からなるものである。
【0091】
5×106のHepG2細胞を7週令雌のNOD/ShiJic-scidJclマウスの右脇腹皮下に移植(Day0)し、平均腫瘍体積が100mm3程度に達した段階(Day10)で、コントロール群(N=8, 118.4±15.6 mm3)と、レンバチニブ(10mg/kg 体重)投与群(N=8, 118.8±15.2 mm3)と、HuBA-1-3D抗体(1mg/kg 体重)投与群(N=8, 119.8±12.9 mm3)と、レンバチニブ(10mg/kg 体重)及びHuBA-1-3D抗体(1mg/kg 体重)の併用投与群(N=8, 119.7±13.4 mm3)(以下、レンバチニブ+HuBA-1-3D抗体投与群)とに群分けを行い、同日より12日間、HuBA-1-3D抗体は週2回のペースで(計4回;Day 10, 13, 17, 21)、レンバチニブは週5回(5日間投与、2日間休薬)のペースで(計10回;Day 10, 11, 12, 13, 14, 17, 18, 19, 20, 21)、投薬を行った。週2回の頻度で腫瘍体積の計測を行い、1500mm3に達した個体は観察終了とした。
【0092】
その結果、癌細胞移植から21日目(投薬終了日、Day 21)における腫瘍体積は、コントロール群が596.1±201.6 mm3(N=8)であったのに対して、レンバチニブ(10mg/kg 体重)投与群が326.2±188.7 mm3 (N=8)、HuBA-1-3D (1mg/kg)投与群が116.4±42.4 mm3 (N=8)、レンバチニブ(10mg/kg 体重)+HuBA-1-3D(1mg/kg)抗体投与群が110.6±33.3 mm3 (N=8)となり、いずれの投与群もコントロール群と比較して強い抗腫瘍活性が確認された。さらに、投薬終了後の薬効を検討したところ、癌細胞移植から31日目(投薬終了後10日、Day 31)においては、コントロール群が1427.7±591.7 mm3 (N=8)、レンバチニブ(10mg/kg 体重)投与群が817.4±583.4 mm3 (N=8)、HuBA-1-3D(1 mg/kg)抗体投与群が394.0±169.8 mm3 (N=8)であったのに対して、レンバチニブ(10mg/kg 体重)+HuBA-1-3D抗体(1 mg/kg)投与群では240.8±90.7 mm3(N=8)となった。レンバチニブ(10mg/kg 体重)とHuBA-1-3D(1 mg/kg)の併用投与群では、HuBA-1-3D (1 mg/kg)投与群、レンバチニブ(10mg/kg 体重)投与群と比較して腫瘍体積は有意に小さく、併用投与による抗腫瘍効果の増強が確認された(図2A)。Day 31の時点で、コンロトール群においては8個体のうち腫瘍体積が1500mm3を超えた4個体についてはサクリファイスし、レンバチニブ投与群では8個体のうち腫瘍体積が1500mm3を超えた1個体についてサクリファイスした。Day 31の時点で併用効果が観察されたレンバチニブ(10mg/kg 体重)+HuBA-1-3D (1 mg/kg)投与群、およびレンバチニブ(10mg/kg 体重)投与群、HuBA-1-3D (1 mg/kg)投与群について、Day 34(投薬終了後13日)まで観察したところ、レンバチニブ(10mg/kg 体重)投与群(N=7)の腫瘍体積は796.2±461.7 mm3、HuBA-1-3D (1 mg/kg)投与群(N=8)が584.1±241.9 mm3であったのに対して、レンバチニブ(10mg/kg 体重)+HuBA-1-3D (1 mg/kg)投与群(N=8)では、358.0±168.1 mm3であり、レンバチニブ(10mg/kg 体重)とHuBA-1-3D(1 mg/kg)の併用投与群では、HuBA-1-3D (1 mg/kg)投与群、レンバチニブ(10mg/kg 体重)投与群と比較して腫瘍体積は有意に小さく、併用投与による抗腫瘍効果の増強が確認された(図2B)。
【0093】
[参考例1]
ヒト肝細胞がん由来の2種類の細胞株(Hep3BとHepG2)について、レンバチニブメシル酸塩(市販品;以下、本実施例では、単に「レンバチニブ」と称する。)に対する感受性をゼノグラフト治療モデルで比較した。
Hep3Bゼノグラフトモデルにおいては、細胞をNOD/SCIDマウス皮下に細胞を移植し、平均の腫瘍体積が100 mm3を超えた時点(Day 14)において、1群8匹に群分けを行い、同日から投与を開始した。投与は、マウス体重あたり10μL/gにて経口ゾンデを用いて経口投与し、週5回(5日間投与、2日間休薬)のペースで(計12回;Day 14, 15, 16, 17, 18, 21, 22, 23, 24, 25, 28, 29)、試験最終日まで実施した。移植から29日目(Day 29;試験最終日)における腫瘍体積(平均値±標準偏差)は、ビークル(注射用水)投与群が1050.3±553.8 mm3 (N=8)、レンバチニブ (3 mg/kg)投与群が400.9±160.9 mm3(N=8)、レンバチニブ (10 mg/kg)投与群が200.2±133.3 mm3 (N=8)、レンバチニブ (30 mg/kg)投与群が136.2±33.8 mm3 (N=8)であった。ビークル群を基準として、Day 29における腫瘍体積の比率(T/C)は、レンバチニブ投与群(3, 10, 30 mg/kg投与群)において、それぞれ順に、38.2%(P<0.05)、19.1%(P<0.05)、13.0%(P<0.05)であった(図3A)。
【0094】
一方、HepG2ゼノグラフトモデルにおいては、レンバチニブに対する感受性がHep3Bモデルと比較して低いことが判明した。細胞をNOD/SCIDマウス皮下に細胞を移植し、平均の腫瘍体積が100 mm3を超えた時点(Day 10)において、1群8匹に群分けを行い、同日から投与を開始した。投与は、マウス体重あたり10μL/gにて経口ゾンデを用いて経口投与し、週5回(5日間投与、2日間休薬)のペースで(計14回;Day 10, 11, 12, 13, 14, 17, 18, 19, 20, 21, 24, 25, 26, 27)、試験最終日の前日まで実施した。移植から28日目(Day 28;試験最終日)における腫瘍体積(平均値±標準偏差)は、ビークル(注射用水)投与群が1163.0±205.1 mm3 (N=8)、レンバチニブ (3 mg/kg)投与群が892.5±220.7 mm3 (N=8)、レンバチニブ (10 mg/kg)投与群が506.8±215.7 mm3 (N=8)、レンバチニブ (30 mg/kg)投与群が380.0±146.8 mm3 (N=8)であった。ビークル群を基準として、Day 28における腫瘍体積の比率(T/C)は、レンバチニブ投与群(3, 10, 30 mg/kg投与群)において、それぞれ順に、76.7%(P<0.05)、43.6%(P<0.05)、32.7%(P<0.05)であった(図3B)。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る治療薬及び治療方法等は、肝細胞がんの治療に関して、既存のマルチキナーゼ阻害剤よりも強力かつ持続的な抗腫瘍効果を発揮し得るものであり、例えば、これまで治療効果が期待できなかった患者に対しても効果を発揮し得るものである点で、極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0096】
配列番号23:組換えDNA
配列番号24:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号25:組換えDNA
配列番号26:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号27:組換えDNA
配列番号28:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号29:組換えDNA
配列番号30:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号31:組換えDNA
配列番号32:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号33:組換えDNA
配列番号34:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号35:組換えDNA
配列番号36:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号37:組換えDNA
配列番号38:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号39:組換えDNA
配列番号40:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号41:組換えDNA
配列番号42:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号43:組換えDNA
配列番号44:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
配列番号45:組換えDNA
配列番号46:合成コンストラクト(組換えタンパク質)
【0097】
【0098】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
【配列表】
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