(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ビブリオ敗血症予防用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/741 20150101AFI20240905BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240905BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240905BHJP
A23K 10/18 20160101ALI20240905BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
A61K35/741 ZNA
A61P31/04
A61P31/04 171
A23L33/135
A23K10/18
C12N1/20 E
C12N15/11 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022115652
(22)【出願日】2022-07-20
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】10-2022-0008547
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.Microbiome, 2021, Vol.9, No.161 (https://doi.org/10.1186/s40168-021-01095-w 2021年7月20日掲載)
(73)【特許権者】
【識別番号】522242111
【氏名又は名称】ソガン ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ディベロプメント ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】SOGANG UNIVERSITY RESEARCH & BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】35 Baekbeom-ro,Mapo-gu,Seoul 04107(KR)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イ,ギュホ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボラム
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ユチョル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユラ
【審査官】玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/156251(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0163341(US,A1)
【文献】特表2013-505289(JP,A)
【文献】特開平07-126178(JP,A)
【文献】Frontiers in Cellular and Infection Microbiology,2021年,Vol.11,Article712028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテロイデス・ブルガタス菌株のみを有効成分として含む、ビブリオ敗血症感染予防用薬学的組成物であって、
前記ビブリオ敗血症が、ビブリオ・バルニフィカスによって誘発される、薬学的組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の薬学的組成物を、人間を除く哺乳動物の個体に投与する段階を含む、ビブリオ敗血症感染予防方法。
【請求項3】
バクテロイデス・ブルガタス菌株のみを有効成分として含む、ビブリオ敗血症感染予防用飼料添加剤であって、
前記ビブリオ敗血症が、ビブリオ・バルニフィカスによって誘発される、飼料添加剤。
【請求項4】
バクテロイデス・ブルガタス菌株のみを有効成分として含む、ビブリオ敗血症感染予防用健康機能食品であって、
前記ビブリオ敗血症が、ビブリオ・バルニフィカスによって誘発される、健康機能食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敗血症予防用薬学的組成物に係り、さらに詳細には、ビブリオ敗血症予防用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品媒介病原体(foodborne pathogen)は、感染過程で宿主の胃腸管(GI)を通じて多くのストレスを受ける。pH、酸素、浸透圧濃度及び栄養素の変動する条件で生き残ると共に、宿主の免疫体系によって生成される抗菌剤と宿主上皮構造の障壁も克服しなければならない(Takiishi T,et al.,Tissue Barriers.5:e1373208.2017)。したがって、成功的な感染のために、病原体は、走化性を基盤とした運動性、腸粘液層の浸透、上皮表面に対する付着、群集化過程及び感染部位で毒性因子の生産及び/または分泌の過程が必要である。
病原体であるビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)の場合、多様な毒性因子に対する多くの報告があった。よく知られたリポ多糖(lipopolysaccharide)及び莢膜多糖(capsular polysaccharide)以外にも、免疫原性lipoprotein A(IlpA)、hemolysin/cytolysin(VvhA)、metalloprotease M(VvpM)、phospholipase A2(PlpA)、multifunctional、autoprocessing repeats-in-toxin(MARTX)は、壊死または細胞死を通じて免疫原性、細胞毒性及び細胞死を起こす多様な活性を示す(Jones MK,et al.,Disease and pathogenesis.Infect Immun.77:1723-33.2009)。このような毒性因子の生産は、宿主やバクテリアに由来した細胞外信号を感知して適切な条件で発現するように厳格に調節される。鉄イオン(Iron ions)、自己誘導剤(AI-2)及び環状ジペプチド(cyclo-Phe-Pro[cFP])は、V.vulnificusでこのような規定と関連した主要信号因子として報告された。現在までV.vulnificus病原性についてのほとんどの研究は、細胞、組織または器官レベルでモデル動物に対するバクテリア効果に焦点を合わせた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記V.vulnificusの感染過程で腸内共生菌(gut commensals)との相互作用についての研究は、まだ未開拓分野であると言える。
本発明は、前記問題点を含んで多様な問題点を解決するためのものであって、敗血症ビブリオ菌の病原性を効果的に減少させるバクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)を用いてビブリオ敗血症予防用薬学的組成物を提供することを目的とする。しかし、このような課題は、例示的なものであって、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一観点によれば、バクテロイデス・ブルガタス菌株、前記菌株の破砕物、または、前記菌株の培養上澄み液を有効成分として含むビブリオ敗血症感染予防用薬学的組成物が提供される。
本発明の他の一観点によれば、前記ビブリオ敗血症感染予防用薬学的組成物を個体に投与する段階を含むビブリオ敗血症感染予防方法が提供される。
本発明の他の一観点によれば、バクテロイデス・ブルガタス菌株を有効成分として含むビブリオ敗血症感染予防用飼料添加剤が提供される。
本発明の他の一観点によれば、バクテロイデス・ブルガタス菌株、前記菌株の破砕物、または、前記菌株の培養上澄み液を有効成分として含むビブリオ敗血症感染予防用健康機能食品が提供される。
【発明の効果】
【0005】
前記のようになされた本発明のビブリオ敗血症予防用薬学的組成物は、敗血症ビブリオ菌の病原性を効果的に減少させるので、ビブリオ敗血症治療剤の開発に活用可能である。また、抗生剤の誤濫用による抗生剤耐性菌の問題点、食品内の抗生剤残留問題、幅広い宿主範囲の問題点を解決することができる。もちろん、このような効果によって、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】マウス生体内のB.vulgatusの量を変化させたマウスモデルの確立を確認した結果を示すグラフである。
【
図2】B.vulgatusが減少したマウスに対する敗血症ビブリオ菌の致死率の変化を分析した結果を示すグラフである。
【
図3】本発明のB.vulgatusの追加投与時に、V.vulnificusによるマウス致死率に対する変化を分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
用語の定義:
本明細書で使われる用語「ビブリオ(Vibrio)」は、今まで34種が知られているが、グラム陰性菌であり、細胞状が棒状(rod-shape)であり、曲がっており、単立するか、数個が連結されて螺旋状になる特徴がある。身体の一側端部には、1個または複数個の鞭毛が出ており、これで活発に遊泳して動く。ビブリオは、野生種は海に広く分布し、淡水と土壌でも多く発見される。ビブリオ中には、ヒトや魚介類で病原性を示す種が多いが、病原性がある代表種としては、ビブリオ・コレレ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・バルニフィカス(V.vulnificus)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)がある。
本明細書で使われる用語「ビブリオ敗血症(Vibrio vulnificus sepsis)」は、ビブリオ菌に汚染された魚介類を生食するか、皮膚の傷を通じて感染された時に表われる急性疾患であって、海に生息する細菌であるビブリオ・バルニフィカスに感染されて発生する敗血症を意味する。
本明細書で使われる用語「バクテロイデス・ブルガタス」は、共生微生物で感染治療に抵抗性を示す菌叢を意味する。本発明において、ビブリオ敗血症菌の感染に対してバクテロイデス・ブルガタスを投与した実験マウスが対照群マウスよりもさらに高い感染抵抗性を示した。
【0008】
本発明の一観点によれば、バクテロイデス・ブルガタス菌株、前記菌株の破砕物、または、前記菌株の培養上澄み液を有効成分として含むビブリオ敗血症感染予防用薬学的組成物が提供される。
本発明の他の一観点によれば、前記ビブリオ敗血症感染予防用薬学的組成物を個体に投与する段階を含むビブリオ敗血症感染予防方法が提供される。
前記予防方法において、前記個体は、哺乳動物であり、前記哺乳動物は、霊長目、食肉目、長鼻目、偶蹄目、奇蹄目またはげっ歯目であり、ヒトを含んだ霊長目、犬、ライオン、虎、及び猫を含む食肉目、家ネズミ、ハムスター、マウス、及びギニーピッグを含むげっ歯目、ウサギ及びナキウサギを含むウサギ目、馬、ロバ、サイ、及びバクを含む奇蹄目、牛、鹿、ヤギ、羊、及び羚羊を含む偶蹄目、ゾウを含む長鼻目などの哺乳動物である。
本発明の他の一観点によれば、バクテロイデス・ブルガタス菌株を有効成分として含むビブリオ敗血症感染予防用飼料添加剤が提供される。
【0009】
本発明の他の一観点によれば、バクテロイデス・ブルガタス菌株、前記菌株の破砕物、または、前記菌株の培養上澄み液を有効成分として含むビブリオ敗血症感染予防用健康機能食品が提供される。
前記健康機能食品は、食品類、飲料、ガム、お茶及びビタミン複合剤からなる群から選択され、カプセル、錠剤、粉末、顆粒、液相、丸、片状、ペースト状、シロップ、ゲル、ゼリーまたはバー(bar)状の製剤であることを特徴とし、健康機能食品に適した多様な剤型、例えば、湯剤、ドリンク剤、散剤、丸剤、カプセル、錠剤(コーティング錠、糖衣錠、舌下錠など)、ゼリーなどの剤型が使われる。
本発明のビブリオ菌による感染性疾病の予防方法は、本発明の薬学的組成物を個体に直接投与するか、個体の飼料または飲用水に混合して、それを摂食させる方法を通じて行われる。本発明のビブリオ菌による感染性疾病の予防方法において、投与経路は、目的組織に到達することができる限り、経口または非経口の多様な経路を通じて投与され、具体的に、口腔、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻側内、吸入などを通じて通常の方式で投与される。
【0010】
本発明の方法で投与される薬学的組成物の適した総1日使用量は、正しい医学的判断範囲内で決定されうるということは当業者に自明である。特定の個体に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食餌、投与時間、投与経路及び組成物の分泌率、治療期間、具体的組成物と共に使われるか、同時使われる薬物を含めた多様な因子と医薬分野によく知られた類似因子とによって異なって適用することが望ましい。
本発明の一実施例において、ビブリオ菌による疾病は、ビブリオ敗血症及び魚類ビブリオ感染症であり、望ましくは、ビブリオ敗血症である。
本発明の薬学的組成物は、製薬上、許容可能な担体、賦形剤、添加剤などと混合して経口投与用または非経口投与用として製剤化する。製薬上、許容される担体または賦形剤の例は、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、澱粉、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、オリーブ油、ゴマ油、カカオバター、エチレングリコール、その他の常用されるものを含む。経口投与用固体組成物の例は、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤などを含む。このような固体組成物では、有効成分である植物抽出物が少なくとも1つの不活性希釈剤、例えば、ラクトース、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶性セルロース、澱粉、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合される。固体組成物は、通常の方法によって不活性希釈剤以外の添加物、例えば、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤、グルタミン酸またはアスパラギン酸のような溶解補助剤を含有することができる。錠剤または丸剤は、必要に応じてスクロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの物質からなるフィルムで被覆され、場合によっては、2個以上の層で被覆される。経口投与用液体組成物は、薬剤学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリクサー剤などを含み、一般的に使われる不活性希釈剤、例えば、精製水、エタノールなどを含みうる。この組成物は、不活性希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤などを含みうる。
【0011】
非経口投与用注射剤としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、エマルジョン化剤が含まれる。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば、注射用水及び注射用生理食塩水が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物性油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80などが含まれる。このような組成物は、また防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えば、乳糖)、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)のような補助剤を含みうる。これらは、例えば、精密濾過膜による濾過滅菌、高圧蒸気滅菌のような加熱滅菌、または殺菌剤配合などの通常の滅菌方法で無菌化される。注射剤は、溶液製剤、または使用時に溶解させて使える凍結乾燥製剤である。凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、グルコースなどの糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0012】
本発明の薬学的組成物は、経口投与方法または非経口投与方法で投与される。望ましくは、非経口投与方法、例えば、注射による投与(皮下注射、静脈注射、筋肉注射、腹腔内注射などで投与)、経皮投与、経粘膜投与(経直腸投与など)、経肺投与などである。もちろん、経口投与方法も使われる。
本発明の薬学的組成物の有効成分の投与量は、疾患の重症度、患者の年齢などによって決定することができるが、一般的には、0.005μg/kg~l00mg/kgの範囲であり、望ましくは、0.02μg/kg~5mg/kgの範囲である。しかし、本発明の薬学的組成物の投与量は、投与経路、患者の年齢、性別、体重、患者の重症度などの多様な関連因子に照らして決定されるものなので、前記投与量は、如何なる側面でも本発明の範囲を制限するものと理解されてはならない。
本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恵み/危険の比率で疾患の治療に十分な量を意味し、有効容量レベルは、環軸疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時使われる薬物を含んだ要素及びその他の医学分野によく知られた要素によって決定されうる。本発明による薬学的組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与され、従来の治療剤とは順次または同時に投与され、単一または多重投与される。前記要素をいずれも考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定されうる。具体的に、本発明の薬学的組成物の有効量は、環軸の年齢、性別、状態、体重、体内に活性成分の吸収度、不活性率及び排泄速度、疾病の種類、併用される薬物によって変わり、一般的には、体重1kg当たり1~500mgを毎日または隔日投与するか、1日1~3回に分けて投与することができる。しかし、投与経路、性別、体重、年齢などによって増減されうるので、前記投与量が如何なる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0013】
哺乳類の腸管(intestinal tract)は、主にBacteroidetes、Firmicutes、Actinobacteria及びProteobacteria門に属す数百から数千種のバクテリアで構成された莫大な量の正常な微生物が生息する。モデルシステムの多様な病原体で病原体と腸内共生菌との相互作用が報告された。病原体進入に対する腸内共生菌の拮抗効果は、病原体に利用可能な資源の制限、粘膜集落で病原体の競争的排除、共生体の抗微生物化合物または付属物の抑制効果及び宿主防御システムの刺激を通じて達成される(Martens,E.C.et al.,Nat.Rev. Microbiol.16:457-70.2018)。したがって、腸内微生物群集の構成や豊かさの変化を経験した宿主動物は、植物媒介病原体に対する感受性が変更されたと表われた。宿主動物で増加した病原性は、Salmonella enterica Typhimurium、Listeria monocytogenes、V.cholerae及び病原性Escherichia coliによる感染で実験的に立証された(Ferreira,R.B.et al.,PLoS One.6:e20338.2011)。また、一部の病原体は、VI型分泌システムまたはバクテリオシンで直接死滅することにより、腸内微生物に影響を及ぼす能力を示した。したがって、前記病原体は、適時に生成された毒性因子を通じて宿主と相互作用しながら、腸内微生物群で直接・間接的に派生された潜在的防御メカニズムを克服する。
【0014】
現在、ビブリオ菌(Vibrio sp.)による疾病を治療するために、一部の抗生剤が使われているが、効果が高くなく、最近問題になっている抗生剤耐性問題などによって、適切であり、新たな抗生剤の開発が要求されている。一方、病原性微生物は、宿主(host)に毒性を示す多様な毒性因子(virulence factor)の生成を通じて宿主内で生存または増殖し、発病過程の間に多様な毒性因子が総体的に発現され、作用可能にする調節機転を発達させてきた。このような毒性因子の調節機転は、非常に精巧であり、調節機転を阻害することにより、毒性因子の生成を抑制することができる。これを通じて病原性微生物の毒性を弱化させ、宿主の免疫反応によって微生物の毒性を容易に阻害させうる。毒性因子の生成機転の阻害は、微生物の生長を人為的に阻害しないために、抗生剤耐性を誘発する可能性が非常に低くて、新たな病原性微生物治療戦略の1つであって、最近、専門家の間で注目されている。このような観点から腸内に存在する有用な共生微生物を用いて外部から侵入したビブリオ菌の活性を阻害する研究が関心を集めている。これにより、本発明者らは、腸内共生細菌であるバクテロイデス・ブルガタスによる食中毒細菌ビブリオ・バルニフィカスの病原性阻害効果を観察した。従来、ビブリオ・コレレのような腸内病原性細菌に対する抗菌活性を有するバクテロイデス・ブルガタスを用いて細菌感染性疾患を治療する組成物についての研究はあったが、感染過程で腸内共生菌との相互作用についての研究はほとんどなされていない。
【0015】
食品媒介病原菌であるビブリオ・バルニフィカスは、致命的な敗血症や胃腸炎を起こす前に腸環境に生息する正常な微生物叢と合い、感染のためには、腸内共生菌から派生された障壁を克服しなければならない。本発明では、ビブリオ・バルニフィカスがマウスの腸内微生物群集(gut microbiota)構造に及ぼす影響を調査した。V.vulnificus感染で死んだマウスの糞便サンプルで微生物群を分析した結果、擬間菌類(Bacteroidetes)、特に、代表的な腸内共生菌の1つであるバクテロイデス・ブルガタス種に属すバクテリアの量が減少したと表われた。擬間菌類は、腸内に重要な門(phylum)として知られており、そのうち、ほとんどの比率を占めているバクテロイデス・ブルガタスは、腸内共生細菌のLPS発現を減少させるか、病原性細菌による炎症反応を緩和させるなど、宿主の免疫力の保持に重要な役割を果たすと知られている(Yoshida et al.,Circulation.138:2486-2498.2018)。
結論的に、本発明者らは、敗血症ビブリオ菌が実験動物マウスに感染された時、前記マウスの腸内にバクテロイデス・ブルガタスが減少することを見つけ、これは、敗血症ビブリオ菌が細胞外に排出したcFP(cyclo-Phe-Pro)がバクテロイデス・ブルガタスのタンパク質であるObgEとの相互作用を通じて当該細菌の細胞死を誘導するものであることを証明した(Kim et al.,Microbiome.9(1):161.2021)。また、バクテロイデス・ブルガタスをマウスに追加的に投与した結果、敗血症ビブリオ菌に感染されたマウスの致死率が効果的に減少するということを確認して、本発明を完成した。したがって、本発明の薬学的組成物は、既存の抗生剤の耐性問題を解決し、ビブリオ敗血症を予防及び治療するための治療剤の開発に活用可能である。
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態として具現可能なものであって、以下の実施例は、本発明の開示を完全にし、当業者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。
【実施例】
【0016】
実験方法
菌株培養
本実験に使われたバクテリア種及び菌株は、V.vulnificus MO6-24/O、B.vulgatus JK001を使用した。まず、前記V.vulnificusは、2.5%塩化ナトリウム(sodium chloride)のLuria-Bertani(LB)培地で30℃に培養し、B.vulgatusは、Reinforced Clostridial medium(RCM)培地で37℃に嫌気環境で培養した。本発明に使われたバクテリア菌株に関する情報は、下記表1に要約した。
【0017】
【表1】
実験動物
動物実験は、4週齢雌ICRマウス(CrljOri:CD1[ICR]、OrientBio、Korea)を使用して行った。マウスは、12/12時間の明暗周期の条件で23℃及び50%の湿度を保持し、水と食べ物とに自在に給餌した(LabDiet 5L79、OrientBio、大韓民国)。2日間前記実験室の条件に順応した後、マウスに各実験に対する特定の条件を処理した。全体実験過程において、マウスは、大韓民国の西江大学校の機関指針及び法的要求事項(許可番号、IACUCSGU2015_03及びIACUCSGU2019_01)によって行った。
【0018】
Quantitative(定量)RT-PCR
PBSとcFPとをラットに注入した後、6時間から24時間ラットの大便サンプルを採取し、該採取した大便サンプルからバクテリアの総DNAを収得した。各サンプルから抽出したDNA 2.5ngでB.vulgatusの16s rDNAに特異的なプライマー(Wang et al.,Appl Environ Microbiol.62(4):1242-1247.1996)及びバクテリア汎用16s rDNA primer(Ziesemer et al.,Sci Rep.5:16498.2015)を使用してqRT-PCRを行った。前記qRT-PCRから収得したそれぞれのCT値を2-ΔΔCT方法を用いて正規化(normalization)した。本発明で使われたプライマーの核酸配列情報を下記表2に要約した。
【0019】
【0020】
マウス内臓微生物の分離
マウス内臓でバクテリアの純粋な培養物を得るために、7週齢の雌ICRマウスから収集した糞便サンプルをPBSに再懸濁した。その後、簡単に遠心分離して糞便破片を除去し、上澄み液を回収し、希釈された懸濁液をGAM(Gifu Anaerobic medium;BD Difco)、RCMまたはMRS寒天プレートに塗布し、37℃、嫌気性条件で24~48時間培養した。バクテリアコロニーは、27F(配列番号5)及び1492R(配列番号6)プライマーを使用して16S rDNA断片を増幅するように処理し、精製されたPCR産物は、785F(配列番号3)及び907R(配列番号4)プライマー(マクロゼン、大韓民国)を使用してDNAシーケンシング分析を行った。菌株は、B.vulgatusの16S rDNAの当該領域と97%以上の同一性を示し、MGM001と名付けられた(表1参照)。前記16S rRNAのDNA配列は、MT764994の受託番号でGenBankに寄託された。
マウス致死率のテスト
本発明者らは、cFP投与による敗血症ビブリオ菌に対する実験マウスの致死率を分析するために、12時間餓えた4週齢雌ICRマウスにcFPを投与した(マウス重量1g当たり110μg)。投与12時間後、各マウスに鉄デキストラン(iron dextran)(マウス重量1g当たり30μg)を腹腔に注射し、8.5%[w/vol.]の重炭酸ナトリウム(50μl)を胃内に注入した。その後、多様な菌数(104~108)の敗血症ビブリオ菌を胃内に注入して感染させ、24時間生存率を調査した。また、B.vulgatus投与時に、敗血症ビブリオ菌に対するマウスの致死率を調査するために、24時間餓えた4週齢雌ICRマウスに鉄デキストランを腹腔に注射し(ラット重量1g当たり30μg)、8.5%[w/vol.]の重炭酸ナトリウム(50μl)を胃内に注入した。その後、V.vulnificus及び/またはB.vulgatusを胃内に注入して感染させた。この際、注入したV.vulnificusは、LBSでB.vulgatusはRCMでOD595=1まで成長させて収得し、PBSで再懸濁し、24時間マウスの生存を分析した。
【0021】
実施例1:B.vulgatus豊富度の変化を通じたV.vulnificusによるマウス致死率
本発明のV.vulnificusの導入は、糞便サンプルでB.vulgatusレベルの減少をもたらし、前記減少した組成は、V.vulnificus感染によって分泌されるcFPによって媒介されると仮定された。したがって、マウス糞便サンプルでB.vulgatusの豊かさに対するcFPの外因性添加効果を調査した。糞便サンプルは、マウスグラム当たり110μg cFPの濃度でcFPを経口投与した4週齢雌マウスから収集された。各糞便サンプルから抽出した総DNAは、B.vulgatusの16S rDNAに特異的なプライマーセット(Bv-F及びBv-R)またはeubacterial 16S rDNAに対する汎用プライマーセットを使用してq-PCRを行った(785F及び907R)。B.vulgatus 16S rDNAの相対的豊富度は、汎用プライマーセットを使用したPCRから派生された総16S rDNAの豊富度によって正規化された。その結果、2-[CT(B.vulgatus)-CT(総バクテリア)]推定値の中央値は、PBS処理対照群(n=20マウス)及びcFP処理マウス(n=20マウス)でそれぞれ0.1369(±0.0748)及び0.0619(±0.0766)に表われた(
図1)。したがって、B.vulgatusのレベルは、cFPを注入したマウスで約2.2倍減少したと表われた(P=0.006、two-sided Student’s t-test)。
【0022】
実施例2:B.vulgatus豊富度の変化を通じたV.vulnificusによるマウス致死率
本発明者らは、減少したレベルのB.vulgatusを含むマウスがV.vulnificusによる感染に対して他の感受性を示すか否かを調査した。マウスにcFPを経口投与し、cFP投与後、12時間10
4~10
8細胞(n=各処理当たりマウス7匹)(開かれた記号)の多様な容量で感染された。cFPがないDMSO細胞を注入した対照群マウス(各処理当たりマウス7匹)(閉まった記号)を使用して同じ実験を行った。その結果、V.vulnificusの最高容量(すなわち、10
8個細胞)に感染されれば、2つの条件いずれもでマウスが24時間以内に同等であり、早く死んだ(
図2)。同様に、最も低い容量のV.vulnificus(すなわち、10
4個細胞)で感染されたマウスは、cFPの外因性追加と関係なく類似した生存パターンを示した。しかし、死んだマウスの数は、cFPを事前投与した後、V.vulnificusの10
5-10
7細胞で感染させたcFP処理されたマウスセットでさらに多かった。V.vulnificusの10
6個細胞感染の場合、生存の差が0.001(ログ-順位検定)のP値で有意した。前記結果は、cFP投与によってバクテロイデス・ブルガタス菌が減少したマウスが敗血症ビブリオ菌の感染によって致死率も増加したことを示唆するものである。
【0023】
実施例3:バクテロイデス・ブルガタスの添加による敗血症ビブリオ菌のマウス致死率の調査
本発明者らは、前記観察した敗血症ビブリオ菌のマウス致死率の増加がバクテロイデス・ブルガタスの減少のためであるかを証明するために、実験動物マウスにバクテロイデス・ブルガタスの摂取量を増加させて敗血症ビブリオ菌によるマウス致死率を調査した。したがって、前記と同じ条件で敗血症ビブリオ菌を感染させたマウスにバクテロイデス・ブルガタスを、比率(1:20、1:50)を異ならせて投与した。その結果、添加したバクテロイデス・ブルガタスの数が増加するほどラットに対する敗血症ビブリオ菌の致死率が減少することを観察した(
図3)。前記結果は、敗血症ビブリオ菌が成功的にマウスに対する致死率を示すためには、ビブリオ菌が排出したcFPを通じて腸内共生細菌であるバクテロイデス・ブルガタスを減少させることが必要であり、この際、バクテロイデス・ブルガタスをさらに投与した場合、敗血症ビブリオ菌のマウスに対する致死率を減少させるということを実験的に立証したものである。
結論的に、前記結果は、敗血症ビブリオ菌が分泌したcFPによって腸内共生細菌であるバクテロイデス・ブルガタスが減少するにつれて、実験マウスの致死率が増加したが、前記バクテロイデス・ブルガタスをさらにマウスに投与する場合、敗血症ビブリオ菌による致死率が減少したので、前記バクテロイデス・ブルガタスは、敗血症ビブリオ菌の感染予防のための組成物として活用することができるということを示唆するものである。
本発明は、前述した実施例を参考にして説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他実施例が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されねばならない。
【配列表】