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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】心不全の治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/18 20060101AFI20240905BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K38/18 ZNA
A61P9/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022209465
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2021037079の分割
【原出願日】2012-10-08
(65)【公開番号】P2023036871
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2011/001691
(32)【優先日】2011-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2011/081699
(32)【優先日】2011-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512197526
【氏名又は名称】ゼンスン(シャンハイ)サイエンス アンド テクノロジー カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】No.68 Ju Li Road,Zhangjiang Hi-Tech Park,Shanghai 201203,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ヅォウ,ミンドン
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/142141(WO,A1)
【文献】Jabbour, A. et al.,Parenteral administration of recombinant human neuregulin-1 to patients with stable chronic heart failure produces favourable acute and chronic haemodynamic responses,European Journal of Heart Failure,2010年09月01日,Vol.13, No.1,p.83-92
【文献】佐藤 幸人 ほか,循環器疾患における血中BNP、NT-proBNP測定の意義,日本心臓病学会誌,2008年,第2巻,第3号,p.163-177
【文献】蔦本 尚慶,BNP、NT-proBNPの有用性―心腎連関,医学のあゆみ,2010年,第232巻,第5号,p.459-465
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00-45/08
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性心不全の治療法に使用するための医薬組成物であって、
上記医薬組成物はニューレグリンを含み、
上記治療法は、
a)治療前に患者に、NYHA心臓機能分類のテストを実施する工程と、
b)上記患者が上記NYHA心臓機能分類によってNYHAクラスIIIと分類された場合にのみ、当該患者に対して上記医薬組成物を投与する工程とを含み、
上記医薬組成物が、0.6μg/kg/日の上記ニューレグリンの投与量となるように上記患者に投与されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
上記ニューレグリンがニューレグリン-1であるか、または上記ニューレグリンがニューレグリン-1のEGF様ドメインを含むか、または上記ニューレグリンが配列番号1のアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
上記慢性心不全は、虚血性、先天性、リューマチ性、突発性、ウイルス性、または毒性によるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
上記治療法の長期的な利益は、心不全の診断または予後のバイオマーカーの発現量によって示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
上記バイオマーカーはNT-proBNPまたはBNPであることを特徴とする請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
上記ニューレグリンは、上記患者に対して10日間連続で投与されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
上記ニューレグリンは、上記患者に対して1日あたり10時間にわたって投与されることを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
上記ニューレグリンは、上記患者に対して点滴により投与されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔1.技術分野〕
本発明は、ヒトの心不全の予防、治療、または遅延のための薬剤を調製するためのニューレグリンタンパク質の使用、および上記薬剤を利用したヒトの心不全の予防、治療、または遅延のための方法に関する。特に、本発明は、ニューレグリンタンパク質を含む上記薬剤を利用した、慢性心不全患者の特定集団における心不全の予防、治療、または遅延のための方法を提供する。
【0002】
〔2.背景技術〕
約500万人のアメリカ人が心不全に罹患しており、毎年、新たに55万人以上の患者が心不全の症状を有すると診断されている。心不全の現在の薬物治療は、血管を拡張し、血圧を下げ、心臓の負荷を軽減する血管拡張剤であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤を主に使用している。死亡率の割合は大きく低下しているが、ACE阻害剤を使用した場合の実際の死亡率の低下は平均すると3~4%しか低下しておらず、潜在的な副作用もいくつかある。心不全を予防または治療する他の選択肢に関係した制限はさらにある。例えば、心臓移植は薬物治療よりも明らかに高額かつ侵襲的であり、ドナーの心臓の入手の可能性によってさらに制限される。両心室ペースメーカー等の機械装置の使用も同様に侵襲的かつ高額である。したがって、現在の治療法の欠陥を考慮した新たな治療法の必要性がある。
【0003】
期待されている新規な治療法の1つは、心不全を患っているまたは心不全にかかるリスクがある患者へのニューレグリン(以下、「NRG」とする)投与を行うものである。NRGはEGF様成長因子ファミリーであり、NRG1、NRG2、NRG3、およびNRG4ならびにこれらのアイソフォームを含む構造的に関連している、成長因子のファミリーおよび分化因子のファミリーを含んでおり、乳がん細胞分化および乳タンパク質の分泌の刺激、神経堤細胞からシュワン細胞への分化誘導、アセチルコリン受容体の骨格筋細胞合成の刺激、および心臓細胞の生存およびDNA合成の促進等の一連の生物学的反応に関連する。心室肉柱の形成および後根神経節の発達に重度の欠陥がある、ニューレグリン遺伝子を標的にしたホモ接合体マウス胚の生体内研究では、ニューレグリンが心臓および神経の発達に不可欠であることが示された。
【0004】
NRGsはEGF受容体ファミリーに結合する。EGF受容体ファミリーは、EGFR、ErbB2、ErbB3およびErbB4を含み、これらはそれぞれ、細胞増殖、細胞分化、および細胞生存等の複数の細胞機能において重要な役割を果たしている。これらは、タンパク質チロシンキナーゼ受容体であり、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通キナーゼドメインおよび細胞質チロシンキナーゼドメインからなる。ErbB3またはErbB4の細胞外ドメインにNRGが結合した後、構造変化を引き起こし、ErbB3、ErbB4、およびErbB2との間でヘテロダイマー形成が生じるか、またはErbB4自身のホモダイマー形成が生じる。これにより、細胞膜の内側において受容体のC末端ドメインのリン酸化が引き起こされる。リン酸化された細胞内ドメインは、その後、細胞内において、さらなるシグナルタンパク質と結合し、対応する下流のAKTまたはERKシグナル経路を活性化し、一連の細胞反応を引き起こす。一連の細胞反応としては、例えば、細胞増殖、細胞分化、細胞アポトーシス、細胞移動、または細胞接着、の刺激もしくは低下が挙げられる。これらの受容体の中でも、心臓では、主にErbB2およびErbB4が発現している。
【0005】
NRG-1のEGF様ドメイン(50アミノ酸から64アミノ酸の大きさ)は、これらの受容体と結合し、活性化するのに十分であることが示されている。これまでの研究では、ニューレグリン-1β(NRG-1β)がErbB3およびErbB4と高い親和性で直接結合できることが示されている。オーファン受容体であるErbB2は、ErbB3のホモダイマーまたはErbB4のホモダイマーよりも高い親和性で、ErbB3およびErbB4とヘテロダイマーを形成し得る。神経発生における研究では、交感神経系の形成には、完全なNRG-1β、ErbB2およびErbB3シグナル経路が必要であることが示されている。NRG-1βまたはErbB2もしくはErbB4の標的破壊は、心臓発生の欠陥のため、胚致死となる。近年の研究では、成体の通常の心臓機能の維持とともに、心臓血管発生におけるNRG-1β、ErbB2およびErbB4の役割もまた脚光を浴びている。NRG-1βは、成体心筋における筋節組織化を増強することが示されている。臨床試験において、ならびに心不全の異なる動物モデルにおいて、組換えNRG-1β EGF様ドメインの投与は、心筋作用の悪化を有意に改善するか、心筋作用の悪化から有意に防御する。これらの結果は、心不全治療の主要な化合物としてNRG-1を有望なものにした。しかしながら、NRG-1による治療が心不全の患者へ長期的な利益を提供できるかどうか、および上記利益がすべての慢性心不全患者またはある一部の人々に提供され得るのかどうか、についてより多くの証拠が依然として必要である。
【0006】
〔3.発明の概要〕
心不全治療のためのニューレグリンの人体臨床試験において、出願人は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心臓機能分類で評価すること、または患者のNT-proBNPまたはBNPの血漿レベルを測定することで、ニューレグリンによる有意な治療利益を受けつけ得る心不全患者を選択可能であることを発見した。そのような利益には死亡率の大幅な低下が含まれる。
【0007】
出願人は、NRGは、心筋細胞の分化、筋節および細胞骨格構造の組織化、ならびに細胞接着を増強することを発見した。出願人は、臨床試験において、ならびに心不全の異なる動物モデルにおいて、NRGが心筋作用の悪化を有意に改善するか、心筋作用の悪化から有意に防御することも発見した。ニューレグリン、ニューレグリンポリペプチド、ニューレグリン誘導体、またはニューレグリンの活性を模倣している化合物は、本発明の範囲に含まれる。
【0008】
つまり、本発明の第1の態様では、有効量のニューレグリンを含む医薬組成物が慢性心不全患者の治療のために与えられ、上記患者は上記医薬組成物から有意な利益を得た。ある実施形態では、上記利益は死亡率の有意な低下である。ある実施形態では、上記利益は、再入院の有意な減少である。ある実施形態では、上記利益は、慢性心不全の改善を示すバイオマーカーレベルの改善である。ある実施形態では、上記医薬組成物は導入レジメンで上記患者に投与される。ある最適化実施形態では、上記導入レジメンは、上記医薬組成物を少なくとも3、5、7または10日間連続で投与することを含んでいる。ある最適化実施形態では、上記医薬組成物は、上記導入レジメン後の少なくとも3、6、または12か月間、管理レジメン(maintenance regimen)において上記患者に投与される。ある最適化実施形態では、上記管理レジメンでは、上記医薬組成物を3、5、7、または10日毎に投与することを含んでいる。
【0009】
第2の態様では、本発明は、慢性心不全患者の生存を改善または死亡率を低下させるための方法を提供し、有効量のニューレグリンを含んだ医薬組成物を上記慢性心不全患者へ投与することを含んでいる。ある実施形態では、上記医薬組成物は導入レジメンで上記患者に投与される。ある最適化実施形態では、上記導入レジメンは、上記医薬組成物を少なくとも3、5、7または10日間連続で投与することを含んでいる。ある最適化実施形態では、上記医薬組成物は、上記導入レジメン後の少なくとも3、6、または12か月間、管理レジメンにおいて上記患者に投与される。ある最適化実施形態では、上記管理レジメンでは、上記医薬組成物を3、5、7、または10日毎に投与することを含んでいる。
【0010】
本発明の第3の態様では、薬剤的有効量のニューレグリンが、NT-proBNPの血漿レベルがニューレグリンによる治療前に好ましい治療域内にある慢性心不全患者を治療するために使用される。ある実施形態では、上記好ましい治療域は、4000fmol/ml以下である。別の実施形態では、上記好ましい治療域は、1600fmol/ml~4000fmol/mlの間である。さらに別の実施形態では、上記好ましい治療域は1600fmol/ml以下である。別の好ましい実施形態では、上記血漿レベルは免疫測定法によって計測される。
【0011】
本発明の第4の態様では、薬剤的有効量のニューレグリンが、NYHA心臓機能分類によって特定の心臓機能クラスに分類された慢性心不全患者を治療するために使用される。ある実施形態では、上記特定の心臓機能クラスはNYHAクラスIIである。ある実施形態では、上記特定の心臓機能クラスはNYHAクラスIIIである。
【0012】
第5の態様では、本発明は、ニューレグリンによる治療を受ける心不全患者の選択方法を示している。この方法は、上記患者のNT-proBNPの血漿レベルを測定することを含んでいる。ある実施形態では、4000fmol/ml以下のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。別の実施形態では、1600fmol/ml~4000fmol/mlの間のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。さらに別の実施形態では、1600mol/ml以下のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。
【0013】
第6の態様では、本発明は、ニューレグリンによる治療を受ける心不全患者の選択方法を示している。この方法は、NYHA心臓機能分類によって心臓機能クラスを評価することを含んでいる。ある実施形態では、NYHAクラスIIが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。別の実施形態では、NYHAクラスIIIが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。
【0014】
第7の態様では、本発明は、ニューレグリンによる治療を受ける心不全患者を選択するための診断キットを示している。ある実施形態では、上記診断キットは、心不全患者のNT-proBNPの血漿レベルを測定するための免疫測定試薬を含み、4000fmol/ml以下のレベルがニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。別の実施形態では、1600fmol/ml~4000fmol/mlの間のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。さらに別の実施形態では、1600mol/ml以下のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。
【0015】
本発明の第8の態様では、薬剤を調製するためのニューレグリンタンパク質の使用が提供された。上記薬剤は長期的な利益を得るために慢性心不全患者に投与することが可能である。ある実施形態では、上記長期的な利益は、生存の改善である。ある実施形態では、上記長期的な利益は、再入院の減少である。別の実施形態では、上記長期的な利益は、慢性心不全の長期的な予後を示すバイオマーカーの改善である。ある実施形態では、上記薬剤は、導入レジメンで上記患者に投与される。ある最適化実施形態では、上記導入レジメンは、薬剤を少なくとも3、5、7または10日間連続で投与することを含んでいる。ある最適化実施形態では、上記薬剤は、上記導入レジメン後の少なくとも3,6、または12か月間、管理レジメンにおいて上記患者に投与される。ある最適化実施形態では、上記管理レジメンでは、上記薬剤を3、5、7、または10日毎に投与することを含んでいる。
【0016】
本発明の第9の態様では、ニューレグリンタンパク質による慢性心不全の治療のためのコンパニオン診断テストが提供された。N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が、上記コンパニオン診断テストのバイオマーカーとして使用される。ある実施形態では、4000fmol/ml以下のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。別の実施形態では、1600fmol/ml~4000fmol/mlの間のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。さらに別の実施形態では、1600mol/ml以下のレベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者であることを示している。
【0017】
本発明の第10の態様では、ニューレグリンを使用した慢性心不全の治療法が提供されている。上記方法は、治療前の評価手順を含み、上記評価結果に従って、各患者がニューレグリン治療を受けるのに適しているかどうかを決定する。ある実施形態では、上記評価手順は、慢性心不全患者のNYHA心臓機能分類を含んでいる。別の実施形態では、上記評価手順は、各慢性心不全患者の血漿NT-proBNPまたは血漿BNPのテストを含んでいる。
【0018】
本発明の第11の態様では、慢性心不全患者がニューレグリンタンパク質治療に適しているかどうかを決定するためのコンパニオン診断キットが提供される。上記コンパニオン診断キットは、血漿NT-proBNPまたは血漿BNPの検査キット、および上記キットの使い方と検査結果に従って患者がニューレグリンタンパク質治療を受けるのに適しているかどうかを判断する方法の説明を備えている。
【0019】
〔4.発明の詳細な説明〕
開示内容を明確にするため、および限定しないように、以下の本発明の詳細な説明は以下に続く各項目に分かれている。本明細書で言及されたすべての刊行物は、引用された刊行物に関わる方法および/または物質を開示および記載するために参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0020】
A.定義
他に定義の無い限り、本明細書において用いられている全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術の当業者に一般的に理解されている意味と同じ意味を有している。本明細書において言及されている全ての特許、出願、公開された出願、および他の刊行物は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。この項目で説明されている定義が、本明細書に参照によって組み込まれている特許、出願、公開された出願、および他の刊行物に説明された定義に反する場合、または矛盾する場合には、この項目において説明されている定義が、参照によって本明細書に組み込まれている定義よりも優先する。
【0021】
本明細書において用いられる場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈で明らかに他のことを指示していない限り、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」の意味である。
【0022】
本明細書において用いられる場合、本発明において用いられている「ニューレグリン」または「NRG」は、ErbB2、ErbB3、ErbB4もしくはその組合せと結合し、活性化し得るタンパク質またはペプチドを表しており、全てのニューレグリンアイソフォーム、ニューレグリンEGF様ドメイン単独、ニューレグリンEGF様ドメインを含むポリペプチド、ニューレグリン変異体もしくは誘導体、および上述の受容体を同様に活性化する任意の種類のニューレグリン様遺伝子産物(詳細は後述する)を包含するが、これらに限定されるものではない。ニューレグリンはまた、NRG-1、NRG-2、NRG-3およびNRG-4タンパク質、ペプチド、断片、およびニューレグリンの活性を模倣する化合物を包含する。本発明において用いられるニューレグリンは、上述のErbB受容体を活性化することができ、それらの生物学的反応を調節する。例えば、骨格筋細胞においてアセチルコリン受容体の合成を刺激し、および/または心臓細胞分化、生存およびDNA合成を向上させる。ニューレグリンはまた、それらの生物学的活性を実質的に変化させない保存性アミノ酸置換を有するそれらのバリアントも包含する。アミノ酸の好適な保存性置換は、本技術の当業者に公知であり、結果として得られる分子の生物学的活性を通常変化させずに作成され得る。本技術の当業者は、通常、ポリペプチドの不可欠ではない領域における単一のアミノ酸置換は、生物学的活性を実質的に変化させないことを認めている(例えば、Watson et al. Molecular Biology of the Gene, 4th Edition, 1987, The Bejacmin/Cummings Pub. co., p.224参照)。好ましい実施形態において、本発明において用いられるニューレグリンは、ErbB2/ErbB4もしくはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーと結合し、これらを活性化する。ペプチドは、例えば、アミノ酸配列:SHLVKCAEKEKTFCVNGGECFMVKDLSNPSRYLCKCPNEFTGDRCQNYVASFYKAEELYQ(配列番号1)を含む、NRG-1β2アイソフォームの177-237残基を含むペプチドが挙げられるが、限定の目的で挙げるものではない。NRG-1β2アイソフォームの177-237残基を含む上記ペプチドは、上記受容体と結合し、これを活性化するのに十分であると証明された上記EGF様ドメインを含む。
【0023】
本明細書で用いられる場合、「上皮細胞増殖因子様ドメイン」または「EGF様ドメイン」は、ErbB2、ErbB3、ErbB4またはその組合せと結合し、これらを活性化し、そして、下記文献に開示されているEGF受容体結合ドメインと構造的な類似性を有している、ニューレグリン遺伝子によってコードされているポリペプチドモチーフを表している:WO 00/64400, Holmes et al., Science,256:1205-1210 (1992); U.S. Patent Nos. 5,530,109 and 5,716,930; Hijazi et al., Int. J. Oncol., 13:1061-1067 (1998); Chang et al., Nature, 387:509-512(1997); Carraway et al., Nature, 387:512-516 (1997); Higashiyama et al., J. Biochem., 122:675-680 (1997); およびWO 97/09425。これらの文献の内容はすべて、本明細書に参照によって組み込まれる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、ErbB2/ErbB4またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーと結合し、これらを活性化する。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG-1の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG-1の177-226、177-237、または177-240のアミノ酸残基に対応するアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG-2の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG-3の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG-4の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、米国特許第5,834,229に記載されているように、Ala Glu Lys Glu Lys Thr Phe Cys Val Asn Gly Gly Glu Cys Phe Met Val Lys Asp Leu Ser Asn Proのアミノ酸配列を含んでいる。
【0024】
ニューレグリンタンパク質は、医薬組成物の形態であることが好ましいが、その組成、投与量、および投与経路は、下記技術において公知の方法に従って決定することができる(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro (Editor) Mack Publishing Company, April 1997; Therapeutic Peptides and Proteins: Formulation, Processing, and Delivery Systems, Banga, 1999; and Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins, Hovgaard and Frkjr (Ed.), Taylor& Francis, Inc., 2000; Medical Applications of Liposomes, Lasic and Papahadjopoulos (Ed.), Elsevier Science, 1998; Textbook of Gene Therapy, Jain, Hogrefe & Huber Publishers, 1998; Adenoviruses: Basic Biology to Gene Therapy, Vol. 15, Seth, Landes Bioscience, 1999; Biopharmaceutical Drug Design and Development, Wu-Pong and Rojanasakul (Ed.), Humana Press, 1999; Therapeutic Angiogenesis: From Basic Science to the Clinic, Vol. 28, Dole et al. (Ed.), Springer-Verlag New York, 1999参照)。
【0025】
上記ニューレグリンタンパク質は、経口投与、直腸投与、局所投与、吸入投与、口腔投与(舌下投与等)、非経口投与(皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、または静脈内投与等)、経皮投与、またはその他の適した投与経路用に調製することができる。任意の特定の症例における最適な経路は、治療対象の病状の性質や重症度、および用いられる特定のニューレグリンタンパク質の性質によって決まる。上記ニューレグリンタンパク質は単独で投与することができる。または、上記ニューレグリンタンパク質は、薬学上許容される担体または添加剤とともに投与することが好ましい。この方法では、任意の適切な薬学上許容される担体または添加剤を使用することができる(Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro (Editor) Mack Publishing Company, April 1997等参照)。
【0026】
本発明によると、上記ニューレグリンタンパク質は、単独または他の薬剤、担体または添加剤と一緒に、陰茎海綿体注射、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射、皮内注射、経口投与、または局所投与等の任意の適した投与経路用に調整してもよい。この方法は、防腐剤を添加したアンプルまたは多回投与容器に入った単位投与形態の注射投与用の製剤を用いてもよい。上記製剤は、油性または水性賦形剤の、懸濁液、溶液または、乳濁液等の形態を取ってもよく、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤等の調剤を含んでもよい。また、活性成分は使用前に、適切な賦形剤、発熱性物質を除去した無菌の水、またはその他の溶液と構成するために粉状でもよい。本発明における局所投与は、泡、ゲル、クリーム、軟膏、皮膚貼付薬、または泥膏を使用してもよい。
【0027】
本発明で使用され得る薬学上許容される組成物、およびその投与方法は、米国特許第5,736,154;6,197,801B1;5,741,511;5,886,039;5,941,868;6,258,374B1;および5,686,102に記載されているものを含むが、これらに限定されるわけではない。
【0028】
治療または予防での薬用量は、治療対象の症状の重症度および投与経路によって変わる。投与量、そしておそらく投与頻度も、個々の患者の年齢、体重、症状、および反応によって変わる。
【0029】
なお、主治医は、毒性または有害な効果のために、いつどのように治療をやめたり、中断したり、またはより少ない投与量に治療を調整したりするのかを認識しているものである。その反対に、主治医は、臨床反応が十分でない場合(毒性の副作用を除く)、いつどのようにより多い投与量に治療を調整するのかも認識しているものである。
【0030】
適切なものであれば如何なる投与経路でも使用可能である。剤形は、錠剤、トローチ剤、カシェ剤、分散剤、懸濁液、溶液、カプセル、膏薬等を含む。Remington's Pharmaceutical Sciencesを参照されたい。従来の薬物合成技術に従って、実際の使用においては、単独または他の薬剤と組み合わせた上記ニューレグリンを、混合剤中の活性成分として、β-シクロデキストリン、および2-ヒドロキシ-プロピル-β-シクロデキストリン等の医薬担体または添加剤と組み合わせてもよい。上記担体は、局所または非経口等の投与に望ましい広範囲の調製形態を取ってよい。静脈注射または注入等の非経口用投与形態用の組成物の調製では、水、グリコール、油、緩衝液、砂糖、防腐剤、リポソーム、その他当業者に公知の類似の製薬媒体を用いてもよい。そのような非経口組成物として、例えば、5%w/vのデキストロース、通常の生理的食塩水、またはその他の溶液が挙げられるが、これらに限定するものではない。投与される、単独または他の薬剤と組み合わせた上記ニューレグリンタンパク質の総投与量を、約1~2000mlの範囲の静脈注射用流体のバイアルで投与してもよい。希釈液の量は上記総投与量によって変わる。
【0031】
本発明は本発明の治療レジメンを実行するためのキットも提供する。そのようなキットは、薬学上許容される形態で、単独または他の薬剤と組み合わせた治療に効果的な量の上記ニューレグリンタンパク質の1つまたは複数の容器を備えている。好ましい剤形は、無菌生理的食塩水、デキストロース溶液、緩衝液、またはその他の薬学上許容される無菌流体との組み合わせであり得る。また、上記組成物は、凍結乾燥または乾燥させてもよく、この場合、上記キットは、注射用溶液にするために上記化合物を元に戻すため、無菌であることが好ましい薬学上許容される溶液を容器内にさらに含んでもよい。薬学上許容される溶液の例としては、生理的食塩水およびデキストロース溶液が挙げられる。
【0032】
別の実施形態では、本発明のキットは、上記組成物を注射するため、無菌形態で包装されていることが好ましい針または注射器、および/または包装されたアルコールパッドをさらに備えている。医師または患者によって組成物を投与するための説明が含まれていてもよい。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「治療する」、「治療」および「治療している」は、疾患、不調または病気の症状を改善、またはそうでなければ良い方へ変化させる任意の方法を表している。治療の効果は、完全にまたは部分的に病気またはその症状を防ぐという点から予防的でもよく、および/または病気および/または上記病気に起因する有害な効果の部分的または完全な治癒という点から治療的でもよい。治療には本明細書の組成物の任意の薬学的利用も含まれている。
【0034】
本明細書で用いられる場合、「心不全」は、代謝組織が必要とする速度で、心臓が血液を送り出さない心臓機能の異常を意味している。心不全は、鬱血性心不全、心筋梗塞、不整頻拍、家族性肥大型心筋症、虚血性心疾患、突発性拡張型心筋症、心筋炎等の広範囲の疾患状態を含む。上記心不全は、限定されるわけではないが、虚血性、先天性、リューマチ性、ウイルス性、毒性または特発性の形態を含む多くの要因から起こり得る。慢性心肥大は、鬱血性心不全および心停止の前兆となる重大な疾患状態である。
【0035】
本明細書で用いられる場合、「タンパク質」は、文脈で明らかに他のことを指示していない限り、「ポリペプチド」または「ペプチド」と同義である。
【0036】
本明細書で用いられる場合、「血漿」は、文脈で明らかに他のことを指示していない限り、「血清」と同義である。
【0037】
本明細書で用いられる場合、「長期的な利益」は、治療または干渉後に、該治療または干渉によっておこる短期間では見られない利益を意味している。慢性心不全患者にとって、長期的な利益とは、生存の改善、再入院の減少、または長期的な予後を示すバイオマーカーの改善であってもよい。ある実施形態では、上記利益を観察する期間は約6カ月である。ある実施形態では、上記利益を観察する期間は約1年である。ある実施形態では、上記利益を観察する期間は約2年である。その他の実施形態では、上記利益を観察する期間は約3年、5年、10年、またはそれ以上である。
【0038】
本明細書で用いられる場合、「生存」は、ある患者が生存している期間または確率を意味し、生存期間や生存率として表現され得る。生存期間は、診断または治療から死亡するまでの期間である。生存率は、診断または治療後の一定期間に生存している人々の割合を意味している。各患者にとって、治療または干渉によって生存期間が延びることは利益と見なすことができる。患者集団または大規模の集団にとって、平均生存期間の延長または生存率の増加は利益と見なすことができる。
【0039】
本明細書で用いられる場合、「再入院」は、一定期間内に病院に入院した患者の入院回数または入院頻度を意味している。病院への入院はあらゆる疾患によるものでもよいが、治療を受けている疾患と同じ疾患のみによるものでもよい。各患者にとって、一定期間内の再入院の回数の減少は利益と見なすことができる。患者集団または大規模集団にとって、再入院の合計回数または平均回数の減少は利益と見なすことができる。
【0040】
本明細書で用いられる場合、「N末端脳性ナトリウム利尿ペプチド」または「NT-proBNP」は不活性残N末端proBNPを意味しており、後者は、主に左心壁の心筋細胞から放出されるホルモン活性ナトリウム利尿ペプチドであるBNPのプロホルモンである。心筋壁の伸縮および緊張に応じて、プロホルモンproBNPは、タンパク質分解切断によって、BNPとホルモン不活性残NT-proBNPに分かれる。
【0041】
BNPおよびNT-proBNP血漿レベルは、心不全が疑われるまたは心不全にかかった場合の日々の管理において有望な項目である。臨床でのBNPおよびNT-proBNPの使用についての多くの研究は、その診断特性について扱っており、BNPおよびNT-proBNPの予後値を裏付けるのにますます多くの証拠が利用できるようになっている。NT-proBNPはBNPよりも血中での半減期が約6倍長いので、心不全の診断または予後マーカーとしてより広く利用される。血漿NT-proBNPレベルは、市販のキットで分析可能である。例を示すために、Roche社またはBiomedica社の市販のキットを挙げるが、これに限定されるわけではない。本発明の例では、NT-proBNPレベルは、Biomedica社(オーストリア)のキットによって検知された。
【0042】
血中のBNPおよびNT-proBNPレベルは、予後が良くない患者では両マーカーの値が概して高くなるので、心不全のスクリーニングおよび診断のために用いられ、さらに心不全の予後を定めるのに有用である。本発明では、BNPまたはNT-proBNPの血漿レベルが、ニューレグリンによる心不全治療に適した患者を示すことを発見した。実際、心不全の任意の診断または予後マーカーは、患者がニューレグリンによる心不全治療に適しているかどうかを決定するために利用可能である。本発明で特定されたNT-proBNP血漿レベルは、ニューレグリンから有意な治療利益を得るであろう心不全患者を選択するための制限というより、ガイドラインとして利用されるべきである。例えば、5000fmol/mlの血漿レベルを利用すると、ニューレグリンによる治療利益を得るであろう心不全患者を選択することはやはり可能であるが、こうした患者の中には、より少ない治療利益しか得られない患者もいる。
【0043】
本明細書で用いられる場合、「ニューヨーク心臓協会」または「NYHA」の心臓機能分類は、心不全の程度を分類する簡易な方法である。この分類では、身体活動時に制限(制限/症状は正常な呼吸、および息切れ、および/または激痛の変化の度合いに関係する)を受ける程度に基づいて患者を4つのカテゴリー(I、通常の身体活動時において症状および制限(例えば、歩いたり階段を上る時等の息切れ)が全くない;II、軽い症状(軽い息切れおよび/または痛み)および通常の活動時における軽い制限;III、通常の活動以下の活動時(例えば、短距離(20~100m)の歩行)でも症状のために活動に著しく制限を受け、安静時のみ症状が安定する。;IV、寝たきりの患者が多く、安静時にも症状が出て大きく制限を受ける。)に分類する。
【0044】
本明細書で用いられる場合、「活性ユニット」、「EU」、または「U」は、最大反応の50%を誘導し得る規格品の量を意味する。すなわち、所定の活性物質について活性ユニットを決定するためには、EC50が測定されるべきである。例えば、生産品のあるバッチのEC50が0.1μgであった場合、これが1ユニットになるであろう。さらに、その生産品の1μgが用いられる場合、10EU(1/0.1)が用いられる。EC50は、本技術において公知の任意の方法によって決定することができ、本発明者らが用いている方法を含んでいる。この活性ユニットの決定は、遺伝子操作されている生産品および臨床に用いられる薬剤の品質管理において重要である。また、この活性ユニットの決定によって、異なる調製薬および/または異なるバッチナンバーからの生産品を、同一の基準によって定量することができる。
【0045】
以下は、NRGと細胞表面ErbB3/ErbB4分子との結合、およびErbB2リン酸化の間接媒介を介したNRG-1の生物学的活性を決定するための、例示的で、迅速で、感度が良く、流動性が高く、定量的な方法である(Michael D. Sadick et al., 1996, Analytical Biochemistry, 235:207-214 and WO03/099300等参照)。
【0046】
簡潔に言えば、キナーゼ受容体活性酵素免疫測定吸着法(KIRA-ELISA)と称される測定法は、2つの別々のマイクロタイタープレートを含んでおり、一方のマイクロタイタープレートは、細胞培養、リガンド刺激、および細胞溶解/受容体可溶化用であり、もう一方のマイクロタイタープレートは、受容体の捕捉とホスホチロシンELISA用である。上記測定法は、接着乳癌細胞系列であるMCF-7において、NRGに誘導されたErbB2の活性の分析のため実施され、健全な受容体の刺激を利用する。膜タンパク質は、Triton X-100溶解を介して可溶化され、受容体は、ErbB3またはErbB4と交差反応を起こさないErbB2特異的抗体がコーティングされたELISAウェルに捕捉される。受容体のリン酸化の程度は、抗ホスホチロシンELISAによって定量化される。再現性のある標準曲線は、ヘレグリンβ1(177-244)に対して約360pMのEC50で作成される。理想的なHRGβ1(177-244)サンプルが、KIRA-ELISAおよび定量的抗ホスホチロシンWestern Blot分析によって分析される場合、その分析結果は互いに非常に高い相関を示す。本レポートに記載の上記測定法は、HRGとErbB3および/またはErbB4との相互作用によるErbB2のチロシンリン酸化を明確に定量化することができる。
【0047】
遺伝子操作薬の大部分はタンパク質およびポリペプチドであるため、それらの活性はそのアミノ酸配列、またはその立体構成によって形成される活性中心によって評価することができる。タンパク質およびポリペプチドの活性力価は、その絶対量に一致しないため、化学薬品の重量単位(weight unit)のようにその重量単位で活性を評価することができない。しかしながら、遺伝子操作薬の生物学的活性は、概してその薬力学的特性に一致し、また所定の生物学的活性を介して確立された力価決定システムではその力価単位を求めることができる。したがって、生物学的活性の評価は、生物学的活性を有する物質の力価測定プロセスの一部になり得、遺伝子操作薬の品質管理の重要な要素である。遺伝子操作されている生産品および臨床に用いられる薬剤の品質管理にとって、生物学的活性基準を決定することは重要である。
【0048】
最大反応の50%を誘導し得る規格品の量は、活性ユニット(1EU)として規定される。したがって、異なる調製薬および異なるバッチナンバーからの生産品を、同一の基準によって定量することができる。
【0049】
B. 実施例
実施例1:CHFのラットの異なる経路でのNeucardin(商標)投与による生存率への効果
導入
この研究では、冠状動脈結紮(CAL)を誘導したCHFモデルを用いて、マイクロインジェクションポンプを用いたIV点滴または皮下(SC)ボーラスによるNeucardin(商標)の投与が生存率および心臓の血行動態に効果があるかどうかを、CALから4週間後に開始したNeucardin(商標)の投与から120日後に調べた。心臓機能およびCALからの回復を確認するためにエコー心電図検査および心臓リモデリングも利用した。
【0050】
2.方法
2.1. 試験動物:
系統、オリジン:ウィスターラット、Shanghai SLAC Laboratory Animal CO. LTD;体重200±10g、雄;
2.2 試験対象
2.2.1 Neucardin(商標)
ID:注射用組換えヒトニューレグリン-1(rhNRG-1, Neucardin(商標))
ロットナンバー:200607009
製造者:Zensun (Shanghai) Sci & Tech Co., Ltd
剤形:凍結乾燥粉末
外観:白またはオフホワイトのケーキ
ラベルに記載のrhNRG-1の容量:250μg/バイアル
比活性:4897U/バイアル
保存条件:2~8℃
2.2.2 賦形剤:
ID:組換えヒトニューレグリン-1のプラセボ
剤形:凍結乾燥粉末
外観:白またはオフホワイトのケーキ
組成:ヒト血清アルブミン、マンニトール、リン酸塩、塩化ナトリウム
保存条件:2~8℃
2.3 手順:
2.3.1 ラットCHFモデルの作成方法
ラットのLADを結紮する。簡潔に説明すると、塩酸ケタミン(100mg/kg、IP)でラットに麻酔をかけ、胸部を剃り殺菌した。ラットに気管挿管を行い、室内の空気で機械的に酸素を供給した(呼吸速度:60呼吸/分、1回呼吸量:20ml)。それから第4および第5肋間の間に左開胸術を行い、左側の胸骨線に沿って皮膚を切開した。第4肋骨を胸骨に向かって切除した。心臓嚢に穴を開け、心臓をむき出しにした。絹縫合糸(6-0)を用いて起点から約2mmのところでLADを結紮した。その後、胸腔内の空気を抜き、胸部を3層(肋骨、筋肉、および皮膚)で閉じた。その後、ラットが自然呼吸を再開できるようになり、麻酔が解けるとケージに戻した。ラットを4週間維持し、その後エコー心電図検査により評価し、30~45%のEF値を示す場合に正式の試験に加えた。全グループのラットは5つのケージに入れられ、標準的なエサを自由に食べられるようにし、純水も自由に飲めるようにした。室温を21±1℃に保ち、12時間周期で明/暗を切り替えた。
【0051】
2.3.2 マイクロインジェクションポンプによるIV点滴
賦形剤またはNeucardin(商標)のIV点滴を尾の静脈を介して行った。この手順を実施するために、ラットの体重に対応した適当なラット保定器を使用した。ラットを保定器付近に置き、装置内に静かに置いた。通常、ラットは保定器に補助なしで入った。その後、尾の静脈の血流を増やし、皮膚の角質層を軟化させるために、アルコールで湿らせたガーゼでラットの尾を拭いた。側面(側部)の2本の尾の静脈を特定し、針のべベルを上に向けて針が静脈にほぼ平行になるようにして、尾の終端から2~3cmの尾の静脈に針を2mm挿入した。針が尾の静脈に確実に入っているかを確認するために、針のハブに血液を抜き取った。上記針を医療用テープを使って尾に固定した。適当な速度(0.2~0.4ml/時)で、マイクロインジェクションポンプまたはボーラス注射による薬または賦形剤の注入を開始した。
【0052】
2.3.3 SCボーラス
賦形剤またはNeucardin(商標)のSCボーラスをラットの背中から行った。この手順を実施するために、ラットの体重に対応した適当なラット保定器を使用した。皮膚を消毒するためにアルコールで湿らせたガーゼでラットの背中を拭いた。針のべベルを上に向けて針が皮膚にほぼ平行になるようにして、ラットの背中に針を3~4cm皮下に挿入した。医療用テープを使って上記針を背中に固定し、灌流チューブにつないだ。その後、ラットを保定器付近に置き、装置内に静かに置いた。通常、ラットは補助なしで保定器に入った。保定器を閉めた後、ボーラス注射を開始した。
【0053】
2.3.4 実験グループおよび薬物注入
MIラットをEF値によって無作為に以下の4グループに分けた。
【0054】
グループA(IVおよびSCボーラスの対象実験):n=58ラット、マイクロインジェクションポンプによる賦形剤のIV点滴を、最初の10日間に毎日8時間、0.2ml/時のスピードで行い、賦形剤のSCボーラス(Neucardin(商標)と同量)を120日目まで5日毎に投与した。
【0055】
グループB(Neucardin(商標)のSCボーラス):n=58、マイクロインジェクションポンプによる賦形剤のIV点滴を、最初の10日間に毎日8時間、0.2ml/時のスピードで行い、Neucardin(商標)のSCボーラス(10μg/日)を120日目まで5日毎に投与した。
【0056】
グループC(Neucardin(商標)のIV点滴):n=57、マイクロインジェクションポンプによるNeucardin(商標)のIV点滴(0.625μg/kg/時)を、最初の10日間に毎日8時間、0.2ml/時のスピードで行い、賦形剤のSCボーラス(Neucardin(商標)と同量)を120日目まで5日毎に投与した。
【0057】
グループD(Neucardin(商標)のIV点滴およびSCボーラス):n=57、マイクロインジェクションポンプによるNeucardin(商標)のIV点滴(0.625μg/kg/時)を、最初の10日間に毎日8時間、0.2ml/時のスピードで行い、賦形剤のSCボーラス(Neucardin(商標)と同量)を1日目、6日目、11日目に投与し、その後16日目から最終日まで5日毎にNeucardin(商標)のSCボーラス(10μg/日)を投与した。
【0058】
2.3.5 取得データ
生存率;エコー心電図検査パラメーター;血行動態パラメーター;
3. 結果
3.1 生存率
表1は各グループ間の生存率を示している。各生存率は、グループA(賦形剤のIV点滴およびSCボーラス)では48.3%、グループB(Neucardin(商標)のSCボーラス)では62.1%、グループC(Neucardin(商標)のIV点滴)では64.9%、グループD(Neucardin(商標)のIV点滴およびSCボーラス)では82.5%だった。グループB、C、Dの生存率または死亡ラットの平均生存期間は、グループAと比較して向上または期間が長く、グループDの効果が最も高かった。
【0059】
【表1】
【0060】
3.2 エコー心電図検査パラメーター
エコー心電図検査パラメーターを表2に示した。冠状動脈結紮から4週間後および試験物質の投与前に、CHFラットをEF値に関して無作為に4グループに分けた。表2に示す通り、処置前(BT)は4グループ間に大きな違いはなかった。投与開始から120日後では、EF値はそれぞれ、賦形剤グループでは30.7±3.1、SCボーラスによるNeucardin(商標)グループでは32.9±4.1、IV点滴によるNeucardin(商標)グループでは33.5±3.4、そしてIV点滴とSCボーラスによるNeucardin(商標)グループでは36.2±4.8であった。処置後は、グループB、C、およびDのEF値およびFS値が、グループAのEF値およびFS値よりも高かった。
【0061】
【表2】
【0062】
3.3 血行動態パラメーター
表3は、121日目に、4グループの麻酔をかけた動物のMAP、HR、±dp/dt、LVEDP、およびLVSPの計測値を示している。Neucardin(商標)がSCボーラスまたはIV点滴のいずれか一方によって投与された場合(グループBおよびC)、Neucardin(商標)は、グループAと比較して、dp/dtをそれぞれ19.6%および27.1%、-dp/dtをそれぞれ22.5%および29.8%、有意に上昇させた。Neucardin(商標)がIV点滴およびSCボーラスの両方によって投与された場合(グループD)では、賦形剤の場合と比較して、平均動脈圧(MAP、112.3±5.5mmHg)、左心室収縮期圧(LVSP、139.4±9.8mmHg)、+dp/dt(7012.1±903.0mmHg/秒)、-dp/dt(-4353.2±847.6mmHg/秒)の顕著な上昇がみられた。興味深いことに、MAP、LVSP、+dp/dt、および-dp/dtのこれらの値は、賦形剤が投与されたラットよりも、それぞれ10.6%、9.2%、38.5%、および37.5%高かった。これらの結果は、血行動態パラメーターについて、グループB、C、およびDがグループAよりも良いことを示しており、グループDの効果が最も高いことを示した。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
4. 結論
IV点滴およびSCボーラスによるNeucardin(商標)の組み合わせ投与の場合でも、どちらか一方の経路でのみ当該ペプチドの投与を行った場合でも、賦形剤で処置されたラットと比較して、いずれもCALによってCHFを誘導したラットの生存率は上がり、心臓機能パラメーターが向上した。
【0066】
実施例2:標準治療に基づいた慢性心不全患者における組換えヒトニューレグリン1の効果と安全性を評価するための、無作為化二重盲検多施設プラセボ対照試験
慢性心不全への組換えヒトニューレグリン-1の注入効果を評価するために、標準的な治療に基づいた、フェーズII、二重盲検多施設プラセボ対照標準治療に基づいた試験を、中国の複数の臨床施設で実施した。合計195人のNYHAクラスIIまたはIIIの安定した慢性心不全患者を入院させて、3つのグループ(プラセボ、0.6μg/kgのrhNRG-1、1.2μg/kgのrhNRG-1)に無作為に分けた。グループ間において人口統計学上または治療経歴に大きな差はなかった。スケジュールに従って、まず病院にて10日間連続で患者に薬を投与し、11日目のフォローアップ後に退院させた。30日目および90日目に別の出張フォローアップを行った。最後の患者が入院してから1年後に電話インタビューを実施した。
【0067】
治験薬:
仕様:Neucardin(商標)、7054Dalの分子量(1μg=0.14nmol)のニューレグリン-1 β2アイソフォームのEGF様ドメインを含む61アミノ酸ポリペプチド。250μg(5000EU)/バイアル(1μg=20EU)。
【0068】
調製:注射用。
【0069】
投与形態:点滴。
【0070】
保存:3~8℃で、利用が制限され、光が当たらない安全な場所。
【0071】
プラセボ:
仕様:Neucardin(商標)の賦形剤(活性組換えヒトニューレグリン-1タンパク質を含まない250μg/バイアル)。
【0072】
【表5】
【0073】
試験手順
試験参加者の基準には、比較的安定した病態(臨床兆候、臨床症状、および1か月以上目標量または最大許容量でCHFの許容される標準治療を受けた場合も含む)の、LVEFが40%以下の、18歳~65歳の間のCHF(NYHAクラスIIまたはIII)患者が含まれた。主な除外基準には、急性心筋梗塞、肥大性心筋症、収縮性心膜炎、重度の心臓弁膜症または先天性心疾患、重度の肺高血圧症、収縮期血圧が90mmHgより低い、または収縮期血圧が160mmHgより高い、重度の不整脈、過去6カ月以内に心臓手術または脳血管イベントがあった、閉所恐怖症、または妊娠中の女性患者を含めた。参加したすべての患者は同意書に署名した。
【0074】
10日間連続でプラセボまたはrhNRG-1(0.6または1.2μg/kg/日)が投与される3グループに患者を無作為に分け、11日目のフォローアップ後に退院させた。30日目および90日目の2回、別の出張フォローアップを行った。治療前と11日目、30日目、および90日目に各患者の血液サンプルを採取した。NT-proBNP測定法(Biomedica社製キット)を用いて、NT-proBNPをコア研究所で検査した。最後の患者が入院してから1年後に、再入院の情報を収集するために電話インタビューを行い、調査者の署名入りの特別フォームにすべての電話インタビューを記録した。
【0075】
プラセボグループにおいて入手可能な再入院情報を有する48人の患者のうち、12人(25.0%)の患者は心不全が悪化したため少なくとも1回は再入院した。0.6μg/kgグループでは、46人の患者のうちたった4人(8.7%)の患者が病院へ再入院した(プラセボと比較して、P=0.05);1.2μg/kgグループの再入院率は22.0%(11/50)であった。再入院の平均回数は、プラセボグループで、1患者あたり0.458(22/48)であったが、0.6μg/kgグループ(8/41)、1.2μg/kgグループ(19/50)では、再入院の平均回数はプラセボグループよりそれぞれ57.4%、17.0%減少した。
【0076】
プラセボグループでは、NT-proBNPは、ベースラインと比較して、試験中ほぼ同じであった。11日目で、rhNRG-1の投与グループのNT-proBNPが大きく上昇した(0.6μg/kgグループで、1853±1512から2399±1841fmol/mlへ、P<0.01;1.2μg/kgグループで、1562±1275から2774±1926fmol/mlへ、P<0.01)。しかし、この上昇は一時的なものであり、心機能の向上が見られることから心臓の機能の悪化に起因するものではなく、NT-proBNPは、1.2μg/kgグループでは、30日目および90日目にベースラインレベルに低下した。さらに、0.6μg/kgグループでは、ベースラインと比較して、NT-proBNPが30日目(1323±1124fmol/ml、P=0.01)および90日目(1518±1403fmol/ml、P=0.01)に大きく低下した。
【0077】
これらの結果はrhNRG-1による治療が、再入院を減らし、NT-proBNPの血漿レベルを下げることから、rhNRG-1が慢性心不全患者へ長期的な利益を与えることができることを示した。
【0078】
実施例3:標準治療に基づいた慢性心不全患者における組換えヒトニューレグリン1の無作為化二重盲検多施設プラセボ対照生存試験
慢性心不全への組換えヒトニューレグリン-1の注入効果を評価するために、標準治療に基づいた、フェーズII、二重盲検多施設プラセボ対照試験を、中国の複数の臨床施設で実施した。合計351人のNYHAクラスIIIまたはIVの安定した慢性心不全患者を入院させて、プラセボまたはrhNRG-1グループ(0.6μg/kg)に無作為に分けた。グループ間において人口統計学上または治療経歴に大きな差はなかった。スケジュールに従って、病院にて10日間連続で患者に薬を投与し、11日目のフォローアップ後に退院させ、3週目から25週目の間、週に1回、外来患者として投薬を行った。治療前(ベースライン)および各フォローアップ時に、各患者の血液サンプルを採取した。NT-proBNP測定法(Biomedica社製キット)を用いて、NT-proBNPをコア研究所で検査した。試験から52週目に生存情報を収集した。
【0079】
治験薬:
仕様:Neucardin(商標)、7054Dalの分子量(1μg=0.14nmol)のニューレグリン-1 β2アイソフォームのEGF様ドメインを含む61アミノ酸ポリペプチド。250μg(5000EU)/バイアル(1μg=20EU)。
【0080】
調製:注射用。
【0081】
投与形態:点滴または静脈注入。
【0082】
保存:3~8℃で、利用が制限され、光が当たらない安全な場所。
【0083】
プラセボ:
仕様:Neucardin(商標)の賦形剤。250μg/バイアルであって、活性組換えヒトニューレグリン-1タンパク質を含まない。
【0084】
【表6】
【0085】
試験参加者の基準には、比較的安定した病態(臨床兆候、臨床症状、および1か月以上目標量または最大許容量でCHFの許容される標準治療を受けた場合も含む)の、LVEFが40%以下の、18歳~80歳の間のCHF(NYHAクラスIIIまたはIV)患者が含まれた。主な除外基準には、急性心筋梗塞、肥大性心筋症、収縮性心膜炎、重度の心臓弁膜症または先天性心疾患、重度の肺高血圧症、収縮期血圧が90mmHgより低い、または収縮期血圧が160mmHgより高い、重度の不整脈、過去6カ月以内に心臓手術または脳血管イベントがあった、閉所恐怖症、または妊娠中の女性患者を含めた。参加したすべての患者は同意書に署名した。
【0086】
プラセボグループの52週目の全死因死亡率は15.91%で、176人の患者のうち28人が死亡し、その一方で、rhNRG-1グループでは全死因死亡率は9.71%で、試験を終えた175人の患者のうち16人が死亡した(ハザード比=0.425、95%CI 0.222-0.813、p=0.0097)。心臓血管イベントによる死亡率を検討すると、プラセボグループの52週目の死亡率は14.77%で、176人の患者のうち26人が死亡し、rhNRG-1グループでは、9.71%だった。この結果から、プラセボグループが慢性心不全の従来の標準治療を続けても、rhNRG-1を投与した死亡率は、プラセボグループと比較して約40%下がったことが分かった。
【0087】
NT-proBNPのベースラインの階層化に基づいた全死因死亡率も分析した。NT-proBNPレベルを、1600fmol/ml以下、1600fmol/mlより高くかつ4000fmol/ml以下、または4000fmol/mlより高い、の3層に分けた場合、rhNRG-1の死亡率に対するプラセボグループの死亡率は、それぞれ1.49%対8.49%、8.96%対23.33%、および26.67%対28.00%だった。NT-proBNPレベルを、4000fmol/ml以下、または4000fmol/mlより高い、に階層化した場合、rhNRG-1グループの死亡率に対するプラセボグループの死亡率は、それぞれ5.22%対14.89%(p=0.0092)、および26.67%対28.00%だった。この結果は、rhNRG-1が慢性心不全患者の生存率を実質的に向上させることができるという統計的有意性を示している。
【0088】
さらに、NYHA心臓機能クラスのベースラインで、患者をクラスIIIまたはIVに階層化した。クラスIIIの全死因死亡率は、rhNRG-1グループで6.06%(132人の患者のうち8人が死亡)、プラセボグループで15.49%(142人の患者のうち22人が死亡)(p=0.0189)である。一方、クラスIVの全死因死亡率は、rhNRG-1グループグループで20.93%(43人の患者のうち9人が死亡)、プラセボグループで17.65%(34人の患者のうち6人が死亡)(p=0.7789)である。
【配列表】
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