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特許7549910歯質強化方法及び歯のホワイトニング方法
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  • 特許-歯質強化方法及び歯のホワイトニング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】歯質強化方法及び歯のホワイトニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/24 20060101AFI20240905BHJP
   A61K 8/21 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240905BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K8/24
A61K8/21
A61K8/98
A61K8/64
A61Q11/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022565319
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2021042794
(87)【国際公開番号】W WO2022113931
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2020194765
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520173222
【氏名又は名称】株式会社西尾
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】西尾 秀俊
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-223930(JP,A)
【文献】特表平10-510550(JP,A)
【文献】特開2008-260702(JP,A)
【文献】特開平11-005722(JP,A)
【文献】特開2005-263678(JP,A)
【文献】特開2005-263777(JP,A)
【文献】特開昭58-219107(JP,A)
【文献】特表2008-542403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1処理剤を被施術者の歯の表面に塗布して、前記歯の表面を覆うペリクルを剥がし、剥がされたペリクルを第2処理剤を用いて前記歯の表面から拭き取る第1の工程と、
リン酸カルシウムを主成分とする第3処理剤に前記被施術者の唾液を混ぜて石灰膜形成剤を調製する石灰膜形成剤調製工程と、
前記石灰膜形成剤を、前記第1の工程において前記ペリクルを拭き取った前記歯の表面に塗布し、その後、余分な前記石灰膜形成剤を前記第2処理剤を用いて前記歯の表面から拭き取る第2の工程と、
を含み、
前記第1処理剤は、酸性クレンジング剤であり、
前記第2処理剤は、ポリリン酸を含む液体である
ことを特徴とする歯面処理方法。
【請求項2】
前記第2の工程後にフッ素を含む第4処理剤を歯の表面に塗布する第3の工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載の歯面処理方法。
【請求項3】
前記第1の工程において前記ペリクルを拭き取った前記歯の表面に、ホワイトニング剤を塗布する追加の工程をさらに含み、前記追加の工程の後に前記第2の工程を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の歯面処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の前記歯面処理方法において使用する歯面処理剤セットであって、
第1容器に収容された前記第1処理剤と、
前記第1容器とは異なる第2容器に収容された前記第2処理剤と、
前記第1容器及び第2容器とは異なる第3容器に収容された前記第3処理剤と、
を含む
ことを特徴とする歯面処理剤セット。
【請求項5】
前記第1容器~第3容器とは異なる第4容器に収容されたフッ素を含む第4処理剤をさらに含み、
前記歯面処理方法は、前記第2の工程後に前記第4処理剤を塗布する第3の工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項4に記載の歯面処理剤セット。
【請求項6】
前記第1容器~第4容器とは異なる第5容器に収容されたホワイトニング剤をさらに含み、
前記歯面処理方法は、前記第1の工程において前記ペリクルを拭き取った前記歯の表面に、前記ホワイトニング剤を塗布する追加の工程をさらに含み、前記追加の後に前記第2の工程を行う
ことを特徴とする請求項5に記載の歯面処理剤セット。
【請求項7】
前記ホワイトニング剤は、過酸化水素及びポリリン酸ナトリウム含む
ことを特徴とする請求項6に記載の歯面処理剤セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯質強化方法及び該歯質強化方法を含む歯のホワイトニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
虫歯予防処置の1つの方法として、歯質強化を図る方法があり、その方法の1つとしてフッ素を歯面に塗布することが従来から一般的に行われている。
【0003】
ところで、歯の表面のエナメル質は、人体の中で一番硬い組織であり、約96%がリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4(OH))の結晶からできている。このハイドロキシアパタイトは、分子レベルではカルシウム、リン酸、水酸基から構成されているが、酸に弱いという性質を有している。
【0004】
歯の表面にはプラーク(歯垢)が付着し、このプラーク中の細菌が活動することによって酸を発生するが、歯のエナメル質を構成するハイドロキシアパタイトが酸に触れると、このハイドロキシアパタイトの結晶成分からカルシウムやリン酸が溶け出し(脱灰)、このことが虫歯の原因となる。
【0005】
そして、ハイドロキシアパタイトの結晶成分から溶け出したカルシウムは、唾液の中に溶け込むが、この唾液中に溶け込んだカルシウムは、プラークが産出する酸が無くなると、再びエナメル質に取り込まれて元のハイドロキシアパタイトに再結晶する(再石灰化)が、このとき、唾液中に少量のフッ素が存在すると、再石灰化が促進されて虫歯が予防される。すなわち、ハイドロキシアパタイトは、フッ素によってフルオロアパタイト(Ca110(PO)になり、耐酸性の高いフルオロアパタイトによってエナメル質が強化されて虫歯になりにくくなる。
【0006】
他方、歯科の分野においては、虫歯などの治療の他、審美的な観点から歯の歯面を白く見せたい(ホワイトニング)という要望がある。歯の黄ばみの原因としては、タバコのヤニなどの付着による着色汚れと、口内乾燥による唾液の減少に伴う口内の洗浄力の低下と、歯の薄肉化によるものなどが考えられる。
【0007】
ここで、歯の薄肉化と歯の黄ばみとの関係について説明すると、歯の磨き過ぎなどによって歯の半透明のエナメル質が薄くなってくると、歯の内部の象牙質と呼ばれる黄色がかった部分の色が透けて黄ばんで見えてしまう。
【0008】
ところで、歯のホワイトニング方法に関しては今までに種々の提案がなされている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2006-508892号公報
【文献】特開2009-062397号公報
【文献】特開2009-268689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~3において提案された歯のホワイトニング方法では、歯質を強化することができず、歯の磨き過ぎなどによる薄肉化によって歯が黄ばんで見えるという問題を解決することはできない。
【0011】
ところで、歯面は、その全体がペリクル(pellicle)と称される薄い有機性皮膜によって覆われているが、このペリクルによって覆われた歯面にフッ素を塗布しても、フッ素による歯質強化の効果が半減してしまう。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、歯質を簡単且つ効果的に強化することができる歯質強化方法と、この歯質強化方法によって歯質の強化を図りつつ歯を白くすることができる歯のホワイトニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る歯質強化方法は、リン酸カルシウムを主成分とする剤に被施術者自身の唾液を混ぜた溶剤(14)を歯(1)の表面に塗布することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、唾液に含まれるスタテリンとリン酸カルシウムに含まれるカルシウムとが反応することによって歯のエナメル質の再石灰化が促進され、歯面に強石灰化膜が形成されて歯質が効果的に強化される。そして、このような効果は、溶剤を歯の表面に単に塗布するだけで簡単に得られる。
【0015】
ここで、上記歯質強化方法において、前記溶剤(14)を歯(1)の表面に塗布した後にフッ素(16)を歯(1)の表面に塗布するようにしても良い。
【0016】
上記方法によれば、前工程において歯面に形成された強石灰化膜の結晶がフッ素によって細密化され、緻密化されて硬度が高くなった強石灰化膜によって歯面が効果的に保護され、これによって歯質が一層効果的に強化される。
【0017】
また、歯(1)の表面に前記フッ素(16)を塗布する以前に、歯面を被覆するペリクル(11)をクレンジング剤(12)によって剥がすようにしても良い。
【0018】
上記方法によれば、フッ素による歯質強化の効果が高められる。因みに、歯面にペリクルが残存する場合には、フッ素による歯質強化の効果が半減する。
【0019】
そして、本発明に係る歯のホワイトニング方法は、歯面を被覆するペリクル(11)をクレンジング剤(12)によって剥がす第1の工程と、ホワイトニング剤(13)を歯(1)の表面に塗布する第2の工程と、リン酸カルシウムを主成分とする剤に被施術者自身の唾液を混ぜた溶剤(14)を歯(1)の表面に塗布する第3の工程と、フッ素(16)を歯(1)の表面に塗布する第4の工程と、を経て歯(1)を白くすることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、歯面全体を覆うペリクルが第1の工程において剥がされ、次の第2の工程において、ペリクルが剥がされた歯面にホワイトニング剤が塗布されて歯が漂白される(ホワイトニング)。そして、次の第3の工程において、リン酸カルシウムを主成分とする剤に被施術者自身の唾液を混ぜた溶剤を歯の表面に塗布することによって、唾液に含まれるスタテリンとリン酸カルシウムに含まれるカルシウムとが反応することによって歯質が強化され、その後の第4の工程において、ペリクルが剥がされた歯面にフッ素を塗布することによって歯の表面のエナメル質の結晶が細密化されて歯質がさらに強化される。この結果、歯質の強化を図りつつ歯を白くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、歯質を簡単且つ効果的に強化することができる歯質強化方法と、この歯質強化方法によって歯質の強化を図りつつ歯を白くすることができる歯のホワイトニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1A図1Cは本発明に係る歯質強化方法をその工程順に示す説明図である。
図2図2A図2Dは本発明に係る歯のホワイトニング方法をその工程順に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
[歯質強化方法]
先ず、本発明に係る歯質強化方法を以下に説明する。
【0025】
図1A図1Cは本発明に係る歯質強化方法をその工程順に示す説明図であり、本実施の形態では、以下の3つの工程が順次実行される。
【0026】
図1A 第1の工程:
第1の工程においては、歯1の表面(歯面)の全体を覆っている薄いペリクル(有機性皮膜)11が剥がされる。具体的には、図示のように、酸性のクレンジング剤12を歯1の表面に塗布して光(レーザー光やプラズマ光)を当て、その後に剥がれたペリクル11と余分なクレンジング剤12をポリリン酸の液体で拭き取る。すると、歯面の全体を覆っていたペリクル11が剥がされる。
【0027】
図1B 第2の工程:
第2の工程においては、第1の工程においてペクリル11が剥がされた歯1の表面に、リン酸カルシウムを主成分とする剤に被施術者自身の唾液を混ぜた溶剤14を塗布して光(レーザー光やプラズマ光)を当て、その後に余分な溶剤14をポリリン酸の液体で拭き取る。すると、歯1の表面が強石灰化膜15によってコーティングされる。
【0028】
ここで、剤(液体剤または粉体剤)に含まれるリン酸カルシウムは、リン酸(HPO)とカルシウム(Ca)が化学的に結合したものである。このリン酸カルシウムを含む剤に被施術者自身の唾液を混ぜると、唾液に含まれるスタテリンとカルシウムとが結合して歯1の表面に強石灰化膜15が形成され、この強石灰化膜15によって歯質が強化される。
【0029】
図1C 第3の工程:
第3の工程においては、第2の工程において表面に強石灰化膜15がコーティングされた歯1の表面にフッ素16を塗布し、その後、余分なフッ素16を拭き取る。すると、歯1の表面にコーティングされた強石灰化膜15の結晶が細密化されて歯質がさらに強化される。
【0030】
具体的には、唾液中に少量のフッ素が存在すると、再石灰化が促進されて虫歯が予防される。すなわち、歯1の表面を覆う硬いエナメル質を構成するハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4(OH))は、フッ素16によってフルオロアパタイト(Ca110(PO)になり、耐酸性の高いフルオロアパタイトによってエナメル質が強化されて虫歯になりにくくなる。
【0031】
本実施の形態に係る歯質強化方法によれば、以上の第1~第3の工程を順次実施することによって、歯質が効果的に強化されて虫歯の発生を防ぐことができる。
【0032】
なお、本実施の形態における第1の工程(ペリクル11の剥ぎ取り)と第3の工程(フッ素16の塗布)は、必須の工程ではなく、必要に応じて適宜実施すれば良い。
【0033】
[歯のホワイトニング方法]
次に、本発明に係る歯のホワイトニング方法を以下に説明する。
【0034】
図2A~2Dは本発明に係る歯のホワイトニング方法をその工程順に示す説明図であり、本実施の形態に係る歯のホワイトニング方法においては、以下の4つの工程を経て歯がホワイトニング(漂白)される。
【0035】
ここで、以下に示す第1、第3及び第4の工程は、歯質強化方法を説明する図1の第1、第2及び第3の工程と同じであり、本実施の形態に係る歯のホワイトニング方法は、歯質強化方法を説明する図1の第1の工程(ペリクル11の剥ぎ取り)と第2の工程(溶剤14の塗布による強石灰化膜15の形成)との間に、第2の工程として歯のホワイトニング工程を組み込んだものである。すなわち、本実施の形態に係る歯のホワイトニング方法は、以下の第1~第4の工程が順次実施される。
【0036】
図2A 第1の工程:
この第1の工程は、歯質強化方法における第1の工程(図1A)と同じであるため、これについての再度の説明は省略する。
【0037】
図2B 第2の工程:
この第2の工程においては、前記第1の工程においてペリクル11が表面から剥がされた歯1の表面に、過酸化水素にポリリン酸ナトリウムを加えたホワイトニング剤13を塗布する。すると、ホワイトニング剤13の漂白作用によって歯1が漂白されて白くなり、その後に余分なホワイトニング剤13を歯1の表面から拭き取る。なお、ホワイトニング剤13としては、他の任意のものを使用することができる。
【0038】
図2C 第3の工程:
第3の工程においては、第2の工程において白くなった歯1の表面に、リン酸カルシウムを主成分とする剤に被施術者自身の唾液を混ぜた溶剤14を塗布して光(レーザー光やプラズマ光)を当て、その後に余分な溶剤14をポリリン酸の液体で拭き取る。すると、歯1の表面が強石灰化膜15によってコーティングされる。この第3の工程は、前記歯質強化方法において説明した図1Bの第2の工程と同じであるため、これについてのさらに詳細な説明は省略する。
【0039】
図2D 第4の工程:
第4の工程においては、第3の工程において表面に強石灰化膜15がコーティングされた歯1の表面にフッ素16を塗布し、その後に余分なフッ素16を拭き取る工程であって、前記歯質強化方向において説明した図1Cの第3の工程と同じであるため、これについての再度の説明は省略する。
【0040】
本発明方法によれば、以上の第1~第4の工程を順次実施することによって、歯質の強化を図りつつ、歯1を白くすることができるという効果が得られる。
【0041】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、請求の範囲および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
図1
図2