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特許7549912導電性部材の製造方法、および層間熱伝導材料の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】導電性部材の製造方法、および層間熱伝導材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20240905BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20240905BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C01B32/168
D06M11/83
H01B13/00 501Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022571986
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2021042904
(87)【国際公開番号】W WO2022137950
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2020212289
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年9月10日にフラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会が発行した第59回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム講演要旨集の第111頁にて発表 令和2年9月18日にフラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会が主催の第59回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウムにて発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513135989
【氏名又は名称】株式会社シーディアイ
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 翼
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-136874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
D06M
H01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に配向したカーボンナノチューブを備えるカーボンナノチューブフォレストと、前記カーボンナノチューブに担持された微粒子とを含む修飾カーボンナノチューブフォレストの紡績体を備えるカーボンナノチューブ連続体に、めっきして、前記カーボンナノチューブ連続体の内部に位置する前記カーボンナノチューブに、めっき系物質を堆積させることを備える、導電性部材の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブフォレストが備える前記カーボンナノチューブは、その隣接間隙D1と前記微粒子の平均粒径D2とを用いて下記式(1)により定義される比Rが3以上であることを特徴とする導電性部材の製造方法。
R=D1/D2 (1)
ここで、前記隣接間隙D1は、前記修飾カーボンナノチューブフォレストの数密度A(単位:本/m2)および前記カーボンナノチューブの平均直径D3を用いて、下記式(2)により表され、前記平均粒径D2および前記平均直径D3は、それぞれ、前記修飾カーボンナノチューブフォレストを電子顕微鏡により観察して測定された、10カ所以上の前記微粒子の直径の算術平均および10カ所以上の前記カーボンナノチューブの直径の算術平均である。
D1=A-1/2-D3 (2)
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ連続体が糸形状を有することにより前記導電性部材は糸状導電性部材である、請求項1に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ連続体は撚りかけられている、請求項2に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項4】
電流容量が105A/cm2以上である、請求項2または請求項3に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項5】
長手方向の導電率を測定したときに、300Kから450Kの範囲での抵抗温度係数が1.8×10-3-1以下である、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項6】
長手方向で測定された導電率に基づき算出される比導電率が、400K以上で銅線の比導電率よりも高い、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項7】
前記糸状導電性部材から前記めっき系物質を除いた材料に相当するブランクカーボンナノチューブ連続体を基準として、引張強度が1.0倍以上であり、ヤング率が1.5倍以上である、請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載される製造方法により製造された導電性部材を備えることを特徴とする、層間熱伝導材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾カーボンナノチューブフォレスト(修飾CNTフォレスト)、当該修飾CNTフォレストの紡績体を備えるカーボンナノチューブ連続体(CNT連続体)、当該CNT連続体を備えるガス透過性シート、当該ガス透過性シートを備える燃料電池の触媒電極、上記の修飾CNTフォレストまたはCNT連続体を備える導電性部材および糸状導電性部材、当該導電性部材を備える層間熱伝導材料、および上記の修飾CNTフォレストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、「CNTフォレスト」とは、複数のカーボンナノチューブ(CNT)の合成構造(以下、かかる合成構造を与えるCNTの個々の形状を「一次構造」といい、上記の合成構造を「二次構造」ともいう。)の一種であって、複数のCNTが長軸方向の少なくとも一部について一定の方向(具体的な一例として、基板が備える面の1つの法線にほぼ平行な方向が挙げられる。)に配向するように成長してなるCNTの集合体を意味する。特許文献1および非特許文献1には、塩化鉄を用いてCNTフォレストを製造する方法(気相触媒法)が開示されている。非特許文献2には、基材上に触媒微粒子を設け、その触媒微粒子からCNTを成長させることによりCNTフォレストを得る方法(固相触媒法)が開示されている。
【0003】
また、本明細書において、CNTフォレストの一部のCNTをつまみ、そのCNTをCNTフォレストから離間するように引っ張ることによって、CNTフォレストから複数のCNTを連続的に引き出すこと(本明細書において、この作業を従来技術に係る繊維から糸を製造する作業に倣って「紡績」ともいう。)によって形成される、複数のCNTが紡績方向に沿って互いにつながった構造を有する構造体を「CNT連続体」という。特許文献2には、複数のCNTが連続して糸状の全体形状を有する二次構造(本明細書においてこのCNT連続体を「CNTヤーン」という。)について開示がある。CNTヤーンを構成するCNTは、CNTヤーンの延在方向(紡績方向に相当する。)に沿って配向している。また、特許文献2には、複数のCNTが連続してウェブ状の全体形状を有する二次構造(本明細書においてこのCNT連続体を「CNTウェブ」という。)について開示がある。CNTウェブを構成するCNTは、CNTウェブの面内方向の一つ(紡績方向に相当する。)に沿って配向している。図29は、気相触媒法により製造されたCNTフォレストからCNTウェブが紡ぎ出されている状態を示す図である。
【0004】
特許文献3には、延在方向に沿って延びる複数の炭素繊維であって、各炭素繊維がカーボンナノチューブを含む前記複数の炭素繊維と、前記複数の炭素繊維に担持された複数の金属粒子であって、前記複数の金属粒子は、前記延在方向において前記炭素繊維の全体に分散し、各炭素繊維を他の炭素繊維に電気的に接続する前記複数の金属粒子と、を備えるカーボンナノチューブ電極が開示されている。
【0005】
特許文献4には、複数のカーボンナノチューブの端部同士が接合されたカーボンナノチューブ繊維の表面に金属が被着した金属被着ナノチューブ繊維を撚り合わせた金属複合カーボンナノチューブ撚糸であって、前記のカーボンナノチューブ繊維に被着した金属同士の接触部が融着した構造である、金属複合カーボンナノチューブ撚糸が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-196873号公報
【文献】特許第5664832号公報
【文献】特開2020-102352号公報
【文献】特開2018-53408号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Adrian Ghemes, Yoshitaka Minami, Junichi Muramatsu, Morihiro Okada, Hidenori Mimura, Yoku Inoue. Fabrication and mechanical properties of carbon nanotube yarns spun from ultra-long multi-walled carbon nanotube arrays. Carbon 2012;50:4579-4587.
【文献】Toshiya Kinoshita, Motoyuki Karita, Takayuki Nakano, Yoku Inoue. Two step floating catalyst chemical vapor deposition including in situ fabrication of catalyst nanoparticles and carbon nanotube forest growth with low impurity level. Carbon 2019;144:152-160.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、CNTフォレストが他の物質によって修飾された修飾CNTフォレスト、当該修飾CNTフォレストの紡績体を備えるCNT連続体、当該CNT連続体を備えるガス透過性シート、当該ガス透過性シートを備える燃料電池の触媒電極、上記の修飾CNTフォレストまたはCNT連続体を備える導電性部材および糸状導電性部材、当該導電性部材を備える層間熱伝導材料、ならびに上記の修飾CNTフォレストの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、提供される本発明は次の態様を含む。
[1]所定の方向に配向したカーボンナノチューブを備えるカーボンナノチューブフォレストと、前記カーボンナノチューブに担持された微粒子とを備え、紡績可能であることを特徴とする修飾カーボンナノチューブフォレスト。
【0010】
[2]前記カーボンナノチューブの隣接間隙D1と前記微粒子の平均粒径D2とを用いて下記式(1)により定義される比Rが3以上である、上記[1]に記載の修飾カーボンナノチューブフォレスト。
R=D1/D2 (1)
ここで、前記隣接間隙D1は、前記修飾カーボンナノチューブフォレストの数密度A(単位:本/m2)および前記カーボンナノチューブの平均直径D3を用いて、下記式(2
)により表され、前記平均粒径D2および前記平均直径D3は、それぞれ、前記修飾カーボンナノチューブフォレストを電子顕微鏡により観察して測定された、10カ所以上の前記微粒子の直径の算術平均および10カ所以上の前記カーボンナノチューブの直径の算術平均である。
D1=A-1/2-D3 (2)
【0011】
[3]前記微粒子は導電性を有する、上記[1]または上記[2]に記載の修飾カーボンナノチューブフォレスト。
【0012】
[4]前記微粒子は酸化物を含む、上記[1]から上記[3]のいずれか1項に記載の修飾カーボンナノチューブフォレスト。
【0013】
[5]上記[1]から上記[4]のいずれか1項に記載の修飾カーボンナノチューブフォレストの紡績体を備える、カーボンナノチューブ連続体。
【0014】
[6]前記カーボンナノチューブ連続体がウェブ形状を有する、上記[5]に記載のカーボンナノチューブ連続体。
【0015】
[7]前記カーボンナノチューブ連続体は糸形状を有する、上記[5]に記載のカーボンナノチューブ連続体。
【0016】
[8]撚りかけられている、上記[7]に記載のカーボンナノチューブ連続体。
【0017】
[9]上記[6]に記載されるウェブ形状を有するカーボンナノチューブ連続体を備え、前記カーボンナノチューブ連続体を構成するカーボンナノチューブの少なくとも一部は、その配向方向に交差する方向に隙間を有して隣り合うこと
を特徴とするガス透過性シート。
【0018】
[10]前記カーボンナノチューブは、PtおよびCoからなる群から選ばれる一種以上の元素を含む微粒子を担持する、上記[9]に記載のガス透過性シート。
【0019】
[11]上記[9]または上記[10]に記載のガス透過性シートを備える燃料電池の触媒電極。
【0020】
[12]上記[1]から上記[3]のいずれか1項に記載の修飾カーボンナノチューブフォレストと、前記修飾カーボンナノチューブフォレストの内部に位置するカーボンナノチューブに堆積しためっき系物質を備えることを特徴とする導電性部材。
【0021】
[13]上記[12]に記載される導電性部材を備える、層間熱伝導材料。
【0022】
[14]上記[5]から上記[8]のいずれかに記載されるカーボンナノチューブ連続体と、前記カーボンナノチューブ連続体の内部に位置するカーボンナノチューブに堆積しためっき物質とを備えることを特徴とする導電性部材。
【0023】
[15]前記カーボンナノチューブ連続体のカーボンナノチューブは導電性を有する微粒子を担持する、上記[14]に記載の導電性部材。
【0024】
[16]上記[1]から上記[4]のいずれかに記載の修飾カーボンナノチューブフォレストの製造方法であって、金属元素含有物質を気相状態にしてカーボンナノチューブフォレストに供給し、前記金属元素含有物質を分解して金属基物質を生成し、前記金属基物質から形成された微粒子を、前記カーボンナノチューブフォレストに担持させることを備えることを特徴とする修飾カーボンナノチューブフォレストの製造方法。
【0025】
[17]上記[6]または上記[7]に記載される糸形状を有するカーボンナノチューブ連続体と、前記カーボンナノチューブ連続体を構成するカーボンナノチューブの少なくとも一部に堆積しためっき系物質とを備える糸状導電性部材。
【0026】
[18]電流容量が105A/cm2以上である、上記[17]に記載の糸状導電性部材。
【0027】
[19]長手方向の導電率を測定したときに、300Kから450Kの範囲での抵抗温度係数が1.8×10-3-1以下である、上記[17]または上記[18]に記載の糸状導電性部材。
【0028】
[20]長手方向で測定された導電率に基づき算出される比導電率が、400K以上で銅線の比導電率よりも高い、上記[17]から上記[19]のいずれかに記載の糸状導電性部材。
【0029】
[21]前記糸状導電部材から前記めっき系物質を除いた材料に相当するブランクカーボンナノチューブ連続体を基準として、引張強度が1.0倍以上であり、ヤング率が1.5倍以上である、上記[17]から上記[20]のいずれかに記載の糸状導電性部材。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、修飾CNTフォレスト、当該修飾CNTフォレストの紡績体を備えるCNT連続体、当該CNT連続体を備えるガス透過性シート、当該ガス透過性シートを備える燃料電池の触媒電極、上記の修飾CNTフォレストまたはCNT連続体を備える導電性部材および糸状導電性部材、当該導電性部材を備える層間熱伝導材料、ならびに上記の修飾CNTフォレストの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】CNTフォレストから修飾CNTフォレストを得る製造装置の一例を概念的に示す図である。
図2】CNTフォレストの側面の一部の観察結果を示す図である。
図3】修飾CNTフォレストの側面の一部の観察結果を示す図である。
図4図3の部分拡大図である。
図5図4に示される側面について反射電子像により観察した結果を示す図である。
図6】CNTフォレストの一部を除去して得られた断面の一部の観察結果を示す図である。
図7図6に示される側面について反射電子像により観察した結果を示す図である。
図8】修飾CNTフォレストが紡績される様子を概念的に示す図である。
図9】(a)修飾CNTフォレストを紡績して得られたCNTヤーンに撚りかけしてCNT撚糸を作製している様子を示す図、(b)修飾CNTフォレストを紡績する装置の構成を概念的に示す図である。
図10】CNT撚糸の観察結果を示す図である。
図11図10の部分拡大図である。
図12】(a)CNT撚糸の断面の観察図、(b)図12(a)の断面の中心部分を部分的に拡大して反射電子により観察した図である。
図13】硫酸銅浴の電気めっきによりCNT撚糸にめっきする装置の構成を概念的に示した図である。
図14】修飾CNTフォレストの観察結果を示す図である。
図15】修飾CNTフォレストの観察結果を示す図である。
図16】修飾CNTフォレストの観察結果を示す図である。
図17】修飾CNTフォレストの観察結果を示す図である。
図18】微粒子の粒径の測定結果を示すヒストグラムである。
図19】導電性部材の外観の観察図である。
図20図19の導電性部材の拡大観察図である。
図21】電流密度を5mA/cm2としてめっきすることを含んで作製された導電性部材の断面を示す観察図である。
図22】銅微粒子による修飾なしに作製された比較用導電性部材の断面を示す観察図である。
図23】(a)電流密度を4mA/cm2としてめっきすることを含んで作製された導電性部材の断面を示す観察図、(b)図23(a)の断面の中心部分を部分的に拡大して観察した図である。
図24】銅微粒子による修飾なしに比較用導電性部材の断面を示す観察図である。
図25】導電性部材の導電率(単位:S/cm)の測定結果を示すグラフである。
図26】導電性部材の比導電率(単位:S・m2・kg-1)の測定結果を示すグラフである。
図27】導電性部材の電流容量(単位:A/cm2)の測定結果を示すグラフである。
図28】導電性部材の比電流容量(単位:A・cm・kg-1)の測定結果を示すグラフである。
図29】気相触媒法により製造されたCNTフォレストからCNTウェブが紡ぎ出された状態を示す図である。
図30(A)】Cu(acac)2の使用量を10mgとして製造された、銅ナノ粒子を担持したCNTフォレストの二次電子像を示す図である。
図30(B)】Cu(acac)2の使用量を30mgとして製造された、銅ナノ粒子を担持したCNTフォレストの二次電子像を示す図である。
図30(C)】Cu(acac)2の使用量を100mgとして製造された、銅ナノ粒子を担持したCNTフォレストの二次電子像を示す図である。
図31(A)】Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の断面二次電子像を示す図である。
図31(B)】Cu-NPsを担持していないCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の断面二次電子像を示す図である。
図32(A)】Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の直交断面の透過電子像を示す図である。
図32(B)】図32(A)の高倍像を示す図である。
図33(A)】Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の平行断面の透過電子像を示す図である。
図33(B)】図33(A)の高倍像を示す図である。
図34(A)】Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸およびCu-NPsを担持していないCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の導電率を示すグラフである。
図34(B)】図34(A)の縦軸をリニアスケールにしたグラフである。
図35】各サンプルの電気抵抗率を300Kでの値で規格化した電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
図36】Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸および銅線の比導電率の温度依存性を示すグラフである。
図37】各サンプルの電流容量を示すグラフである。
図38】各サンプルの比導電率と比電流容量との関係を示すグラフである。
図39(A)】各サンプルの応力ひずみ線図である。
図39(B)】各種サンプルのヤング率と引張強度との関係を示すグラフである。
図40(A)】Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の引張破断部の二次電子像を示す図である。
図40(B)】Cu-NPsを担持していないCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の引張破断部の二次電子像を示す図である。
図41(A)】Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の二次電子像を示す図である。
図41(B)】Cu-NPsを担持していないCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の座屈部の二次電子像を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0033】
本発明の一実施形態に係る修飾CNTフォレスト(修飾カーボンナノチューブフォレスト)は、所定の方向に配向したCNTを備えるCNTフォレストと、CNTに担持された微粒子とを備え、紡績可能である。CNTフォレストは、特許文献1や非特許文献1に開示される製造方法(気相触媒法)、または非特許文献2に開示される製造方法(固相触媒法)により製造することができる。これらの場合において、所定の方向は、CNTフォレストを形成するための基板のCNTフォレスト形成面の法線方向に沿った方向である。
【0034】
修飾CNTフォレストは、CNTの隣接間隙D1と微粒子の平均粒径D2とを用いて下記式(1)により定義される比Rが3以上である。
R=D1/D2 (1)
【0035】
ここで、隣接間隙D1は、修飾CNTフォレストの数密度A(単位:本/m2)および
CNTの平均直径D3により、下記式(2)により表される。平均粒径D2および平均直径D3は、それぞれ、修飾CNTフォレストを側方から電子顕微鏡により観察して測定された、10カ所以上の微粒子の直径の算術平均および10カ所以上のカーボンナノチューブの直径の算術平均である。
D1=A-1/2-D3 (2)
【0036】
修飾CNTフォレストの隣接間隙D1は、微粒子を担持させる方法を適切に設定すれば、CNTフォレストの隣接間隙D1’に実質的に等しくすること(D1=D1’)ができる。非特許文献1に記載されるように、気相触媒法により製造されたCNTフォレストの隣接間隙D1’は、数密度Aが1013本/m2程度であり、平均直径D3が40nm程度
であることから、275nm程度となる。一方、非特許文献2に記載されるように、固相触媒法により製造されたCNTフォレストの隣接間隙D1’は、数密度Aが1.5×1015本/m2程度であり、平均直径D3が7nm程度であることから、20nm程度となる
。固相触媒法では、数密度Aが5×1015本/m2程度であり、平均直径D3が4nm程
度のCNTフォレストを製造することができるため、隣接間隙D1’を10nm程度とすることも可能である。
【0037】
微粒子の平均粒径D2は、隣接間隙D1よりも十分に小さいことが、修飾CNTフォレストの紡績性を安定的に確保する観点から重要である。具体的には、上記式(1)により定義される比Rが、3以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、7以上であることがさらに好ましく、8以上であることが特に好ましく、9以上であることが極めて好ましい。平均粒径D2が大きいと、修飾CNTフォレストにおいて配向方向と交差する方向に隣り合うCNTの間で、隣り合うCNTを連結するように微粒子が存在する可能性が高くなる。隣り合って配置されたCNTは紡績される際に離間すべきであるが、上記のように微粒子が隣り合うCNTを連結している場合には、隣り合って配置されたCNTが離間しにくくなることがあり、紡績不良の原因となりうる。
【0038】
上記のとおり、非特許文献1に基づくと、気相触媒法により製造されたCNTフォレストの隣接間隙D1’は275nm程度であるから、気相触媒法により製造されたCNTフォレストから形成された修飾CNTフォレストのCNTが担持する微粒子の平均粒径D2は、90nm以下となるときに比Rが3以上となる。また、非特許文献2に基づくと、気相触媒法により製造されたCNTフォレストの隣接間隙D1’は、20nm程度であるから、気相触媒法により製造されたCNTフォレストから形成された修飾CNTフォレストのCNTが担持する微粒子の平均粒径D2は、6.7nm以下となるときに比Rが3以上となる。気相触媒法では隣接間隙D1’が10nm程度のCNTフォレストも製造可能であり、この場合には、微粒子の平均粒径D2は3.3nm以下となるときに比Rが3以上となる。
【0039】
修飾CNTフォレストのCNTが担持する微粒子は導電性を有していてもよい。導電性を有する微粒子の典型例は金属系材料からなる場合である。微粒子が金属系材料からなる場合において、構成金属元素は特に限定されない。Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Co,Fe,Al,Ti,Zn,W,Crなどが例示される。
【0040】
修飾CNTフォレストのCNTが担持する微粒子は酸化物を含んでいてもよい。微粒子が含む酸化物の具体例として、アルミニウムの酸化物、チタンの酸化物が例示される。微粒子が含む酸化物を構成する金属元素は複数であってもよい。
【0041】
本発明の一実施形態に係る修飾CNTフォレストは、原料の1つであるCNTフォレストのCNTに所定の大きさの微粒子を担持させることができ、得られた修飾CNTフォレストが紡績性を有して入れば、どのような製造方法により製造されてもよい。次に説明する方法によれば、修飾CNTフォレストを効率的に製造することが可能である。
【0042】
本発明の一実施形態に係る修飾CNTフォレストの製造方法は、金属元素含有物質を気相状態にしてCNTフォレストに供給し、金属元素含有物質を分解して金属基物質を生成し、金属基物質から形成された微粒子を、CNTフォレストに担持させることを備える。
【0043】
CNTフォレストは、公知の方法により製造することができる。具体例として、特許文献1および非特許文献1に記載される気相触媒法による製造方法、非特許文献2に記載される固相触媒法が挙げられる。これらの製造方法により製造されたCNTフォレストは紡績可能である。
【0044】
金属元素含有物質は、気相状態において分解可能であって、分解生成物である金属基物質から微粒子を形成することが可能な物質である。金属元素含有物質として、銅(II)アセチルアセトナート、白金アセチルアセトナートなどの有機金属錯体、金属ハロゲン化物が例示される。
【0045】
金属元素含有物質は供給段階では気相である必要はなく、取り扱い性を高める観点から固相や液相であることが好ましい場合もある。この場合において、金属元素含有物質を気相状態にするために、金属元素含有物質を加熱したり、金属元素含有物質が配置された空間を減圧にすることが好ましいこともある。金属元素含有物質の分解は、外部からエネルギーを加えることにより生じる。具体的には、金属元素含有物質を加熱してもよいし、金属元素含有物質に対してレーザ照射したり、電子線などの高エネルギー線を照射したりしてもよい。
【0046】
金属元素含有物質の分解生成物である金属基物質は、合金、金属間化合物を含む金属系材料から構成されていてもよいし、酸化物から構成されていてもよい。生成した金属基物質が凝集したり、自己触媒として機能したりすることにより、微粒子が形成される。
【0047】
図1は、CNTフォレストから修飾CNTフォレストを得る製造装置の一例を概念的に示す図である。製造装置100は、その内部が反応室RCとなるガラス管10およびガラス管10の側面を覆うように設けられるヒータ20を備え、反応室RCには金属元素含有物質RSが配置され、金属元素含有物質RSの周囲にCNTフォレスト30が配置される。
【0048】
反応室RCを減圧とすると共にヒータ20により加熱して、金属元素含有物質RSを気相状態とする。気相状態となった金属元素含有物質RSは拡散してCNTフォレスト30へと供給され、金属元素含有物質RSが熱分解して金属基物質が生成し、金属基物質に基づく微粒子がCNTフォレスト30のCNTにより担持されて、修飾CNTフォレスト40が得られる。
【0049】
微粒子の粒径は、反応室RCに配置する金属元素含有物質RSの量、反応室RCの全圧、反応室RCの温度などにより調整することが可能である。これらのパラメータの具体的な数値範囲は、修飾CNTフォレストの隣接間隙D1により設定される平均粒径D2を実現できるように、金属元素含有物質RSの種類に応じて適宜設定される。なお、これらのパラメータを調整することにより、CNTの微粒子の担持密度を設定することも可能である。
【0050】
本実施形態に係る製造方法では、微粒子の原料となる金属元素含有物質を気相状態にしてカーボンナノチューブフォレストに供給するため、微粒子によるCNTの修飾を、CNTフォレストを構成するCNTに対して均一性高く生じさせることができる。すなわち、本実施形態に係る製造方法によれば、CNTフォレストの内部に位置するCNTについても、微粒子による修飾が安定的に実現され、しかも、得られた修飾CNTフォレストは紡績可能性を有することができる。これに対し、例えば特許文献2では、カーボンナノチューブ電極を製造する際に、AgナノメタルインクをCNTフォレストに滴下する。このため、CNTフォレストを構成するCNTのうち、外側に位置するCNTほど微粒子(特許文献2ではAg)が多く付着し、CNTフォレストの内部に位置するCNTには微粒子が付着しにくい。また、特許文献2に開示される方法では、CNTフォレストを構成するCNTに微粒子を付着させるために、CNTフォレストに液体(インク)を滴下する。この際、CNTフォレストを構成するCNTは液体の凝集力によって互いに接触する。互いに接触したCNTの間には強い相互作用が働くため、もはや分離することは不可能である。すなわち、特許文献2に係る修飾CNTフォレストが紡績可能性を有することはありえない。
【0051】
図2は、CNTフォレストの側面の一部の観察結果を示す図である。以下、ことわりのない「観察」は電子顕微鏡による観察または光学顕微鏡による観察を意味する。図2は二次電子像である。このCNTフォレストは気相触媒法により製造されたものであって、その数密度Aは1013本/m2程度であり、CNTの平均直径D3は35nm程度である。
したがって、CNTフォレストの隣接間隙D1は280nm程度である。図3は、図2のCNTフォレストと同じ製造方法により製造されたCNTフォレストから形成された修飾CNTフォレストの側面の一部の観察結果を示す図である。図4図3の部分拡大図である。
【0052】
図3に示されるように、CNTフォレストのCNTは微粒子を担持しても形態的に変化しない。それゆえ、修飾CNTフォレストの隣接間隙D1はCNTフォレストの隣接間隙D1’に実質的に等しい。図3に示される修飾CNTフォレストは、気相触媒法により製造されたCNTフォレストから形成されたものであるから、その隣接間隙D1は280nm程度である。また、図4に示されるように、CNTに担持される微粒子の直径は100nmよりも十分に小さい。実施例において後述するように、微粒子の平均粒径D2は29.2nmである。したがって、図4に示される修飾CNTフォレストにおいて比Rは9以上であり、修飾CNTフォレストは紡績性を特に安定的に有しているといえる。
【0053】
図5は、図3に示される側面について反射電子像により観察した結果を示す図であり、CNTに付着した微粒子(Cu系導電性物質からなる)は輝点として観察されている。図6は、CNTフォレストの一部をCNTの配向方向を含む面で除去して得られた断面の一部(すなわち、CNTフォレストの内部)の観察結果を示す図である。図7は、図6に示される側面について反射電子像により観察した結果を示す図であり、CNTに付着した微粒子は輝点として観察されている。図5図7とを対比すると、図5の方がやや輝点の密度が高いが、図7においても十分な数の輝点が観察され、修飾CNTフォレストは、その内部に位置するCNTについても微粒子を担持していることが確認される。
【0054】
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ連続体(CNT連続体)は、上記の修飾CNTフォレストの紡績体を備える。図8は、修飾CNTフォレストが紡績される様子を概念的に示す図である。基板SB上の修飾CNTフォレスト40の側面の一部に位置するCNT50が方向Dに引き出されることにより、方向D(紡績方向)に配向したCNT50が連続的につながり、CNT連続体60が形成される。図8に示されるように、修飾CNTフォレスト40を構成するCNT50に付着した微粒子70は、紡績されても、その状態を維持する。このため、修飾CNTフォレスト40を紡績して得られたCNT連続体60を構成するCNT50も、微粒子70による修飾が均一性高く実現されている。
【0055】
CNT連続体の形状は、紡績プロセスによって決定される。その形状は、ウェブ形状を有していてもよいし、糸形状を有していてもよい。
【0056】
ウェブ形状を有するCNT連続体(CNTウェブ)は、修飾CNTフォレストの側面の一つを収束させないように引き出すことによって得られる。引き出されたCNTウェブは、例えばドラムに巻き取ることにより、継続的に紡績することが可能である。
【0057】
CNTウェブを構成するCNTは、紡績方向に沿うように配向している。紡績方向(すなわち配向方向)で隣り合うCNTの連結状態は、それぞれの端部において他のCNTとの間に生じるファンデルワールス力によって保持されている。このため、CNTウェブを構成するCNTは、その端部以外の部分において、紡績方向に交差する方向(交差方向)に隣り合うCNTと連結しておらず、交差方向に隣り合うCNTの間には隙間がある。すなわち、CNTウェブは、これを構成するCNTが微粒子より修飾されていながらメッシュのような構造を有する。この隙間の長さは、CNTフォレストの数密度や紡績方法(特に紡ぎ出すときの張力)に依存するが、例えば数nm~数μmの範囲に設定することができる。このため、CNTウェブの隙間を適切に調整することにより、気体は透過するが液体は通さないガス透過性シートを形成することができる。
【0058】
このガス透過性シートは、シートを構成するCNTが微粒子により修飾されているため、シートを透過する気体と微粒子との間に相互作用を生じさせることが可能である。しかも、ガス透過性シートは面内方向に導電性を有する。具体的には、CNTが紡績方向に配向していることに基づき、配向方向に沿った導電率が、配向方向に直交する方向の導電率よりも高い。したがって、CNTを修飾する微粒子として適当な導電性触媒材料(例えば、PtおよびCoを含むPt-Co合金など)を設定すれば、このガス透過性シートを燃料電池の触媒電極の構成要素として用いることが可能となる。
【0059】
糸形状を有するCNT連続体(CNTヤーン)は、修飾CNTフォレストの側面の一つからCNTウェブが形成されるようにCNTを引き出し、このCNTウェブを紡績方向に収束させてCNTをさらに引き出すことによって得られる。このようにして形成されたCNTヤーンを構成するCNTは、CNTヤーンの糸形状の延在方向に沿って配向している。このため、例えば軸長さが短いCNTを含む液状体をダイスから噴出させて作製された糸状の構造体に比べて、本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTヤーンは、糸形状の延在方向に沿った導電率が高く、また機械特性に優れる。
【0060】
前述のように、修飾CNTフォレストは、その内部に位置するCNTについても微粒子により修飾されているため、CNTヤーンは、その中心部に位置するCNTまで微粒子により修飾されている。これに対し、例えば特許文献3に開示される製造方法では、CNTアレイ(CNTフォレストに対応する。)から引き出されたCNT繊維(CNTヤーンに対応する。)に金属粒子を含む分散液を塗布することにより、CNTに金属粒子を付着させる。このため、CNT繊維の外側に位置するCNTほど金属粒子が付着しやすく、CNT繊維の中心部分に位置するCNTには金属粒子が付着しにくい。すなわち、本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTヤーンは、特許文献3に開示される製造方法により製造されたCNTヤーンよりも、微粒子の修飾がより均一的に実現されている。
【0061】
紡績して得られたCNTヤーンは、そのままボビンに巻き取ってもよいし、追加工しながら巻き取ってもよい。追加工の一つに、撚りかけが挙げられる。図9(a)は、修飾CNTフォレストを紡績して得られたCNTヤーンに撚りかけして撚糸(CNT撚糸)を作製している様子を示す図である。図9(b)は、修飾CNTフォレストを紡績する装置の構成を概念的に示す図である。図10は、CNT撚糸の観察結果を示す図であり、図11図10の部分拡大図である。図12(a)は、CNT撚糸の断面の観察図である。図12(b)は、図12(a)の断面の中心部分を部分的に拡大して反射電子により観察した図である。撚りかけすることにより、CNTヤーンの機械的強度が高まり、さらに電気特性(導電率)が向上する場合もある。図11および図12に示されるように、CNT撚糸は、その中心部に位置するCNTまで微粒子により修飾されている。
【0062】
本発明の一実施形態に係る導電性部材の製造方法は、上記のような導電性を有する微粒子を担持するCNTを有するCNT連続体にめっきして、CNT連続体の内部に位置するCNTにめっき物質を堆積させることを備える。
【0063】
めっき物質を堆積させるためのプロセスは電気めっきであってもよいし無電解めっきであってもよい。めっき物質は必要に応じ適宜設定される。めっきプロセスの限定されない例示として、硫酸銅浴を用いた電気めっきが挙げられる。図13は、硫酸銅浴の電気めっきによりCNT撚糸にめっきする装置の構成を概念的に示した図である。図13に示されるめっき装置100Aにおいて、マイカシート(雲母箔)110によって保持されたCNT撚糸120を硫酸銅浴130に浸漬させ、硫酸銅浴130に浸漬していないCNT撚糸120の一端をクリップ141で挟んで、クリップ141に接続された配線151を電源160の陰極端子161に電気的に接続する。コの字型の銅箔からなる陽極170を硫酸銅浴130に浸漬させ、硫酸銅浴130に浸漬していない陽極170の一部をクリップ142で挟んで、クリップ142に接続された配線152を電源160の陽極端子162に電気的に接続する。電源160から電流を流すことにより、CNT撚糸120に銅めっきが施されて、導電性部材200が得られる。
【0064】
こうして得られた導電性部材はそのままでも十分に高い導電性を有しているが、導電性部材を還元雰囲気で熱処理することによりめっき物質を還元して、導電性部材の導電性をさらに高めることができる。熱処理条件は適宜設定され、限定されない例示をすれば、水素気流(100sccm)下において700℃で1時間である。
【0065】
本発明の他の一実施形態に係る導電性部材は、上記の修飾CNTフォレストと、修飾カーボンナノチューブフォレストの内部に位置するカーボンナノチューブに堆積しためっき物質を備える。前述のように、修飾CNTフォレストを構成するCNTは金属元素含有物質の分解に基づき生成した微粒子を担持しているため、修飾CNTフォレストはその内部に位置するCNTも微粒子により修飾されている。それゆえ、修飾CNTフォレストにめっきすることにより、CNTフォレストの隙間を充填するようにめっき物質が堆積する。CNTに担持される微粒子が導電性を有していれば、めっき物質の堆積はより安定的に実現される。めっき物質として例えば熱伝導率が高い銅を選択すれば、めっきにより得られた導電性部材は、CNTの延在方向に高い熱伝導性を有するため、層間熱伝導材料として好適に用いることができる。
【0066】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0067】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
(実施例1)
【0068】
図1に示される製造装置および図13に示されるめっき装置を用いて、導電性部材を製造した。
【0069】
特許文献1などに示される製造方法により、下記の条件で成長高さ0.8mm程度のCNTフォレストを基板のCNT形成面上に得た。
・炭素源:アセチレン
・触媒:固体のFeCl2
【0070】
得られたCNTフォレストを構成するCNTは、直径が30nm~40nmであった。CNTフォレストを除去した後の基板におけるCNT形成面を観察したところ、CNTフォレストの数密度は1013本/m2程度であった。CNTフォレストを構成するCNTの
結晶性をラマン散乱測定により評価したところ、グラフェン面内振動モードのGピーク強度とそのディスオーダー振動に起因するDピーク強度の比IG/IDは2~3であった。
【0071】
図1に示される製造装置100を用いて、銅(II)アセチルアセトナート(Cu(acac)2)を金属元素含有物質RSとして、CNTフォレスト30を銅の微粒子で修飾
して修飾CNTフォレストを得た。具体的には、密閉可能な反応室RC内にCNTフォレスト30を配置し、その近傍に金属元素含有物質RSであるCu(acac)2を配置し
た。次に、反応室RCをアルゴンガスで封入してその圧力を30Torrに保持した。続いて、ヒータ20を用いて、反応室RC内を400℃の温度で15分間加熱した。200℃でCu(acac)2が分離して生成した銅の微粒子によりCNTフォレスト30のC
NTが修飾されて、修飾CNTフォレスト40が得られた。図3から図7に示される画像は、製造された修飾CNTフォレスト40の観察図である。これらの図において観察された微粒子は、Cu系の導電性材料からなるものであった。
【0072】
この方法と同じ方法で製造された修飾CNTフォレストについて走査型透過電子顕微鏡を用いて観察して、CNTの直径および微粒子の粒径を測定した。図14から図17は修飾CNTフォレストの観察結果を示す図であり、図18は微粒子の粒径の測定結果を示すヒストグラムである。図14から図17に示される画像から選ばれた任意の13本のCNTの直径を測定したところ、平均直径(平均直径D3)は36nmであり、標準偏差は8.6nmであった。上記の測定結果から、修飾CNTフォレストの数密度Aは1013本/m2程度であるから、修飾CNTフォレストの隣接間隙D1は280nm(=(1013- 2-1/2-36nm)であった。また、図14から図17に示される画像から選ばれた任
意の62個の微粒子について粒径の測定を行い、粒径の平均値(平均粒径D2)は29.2nmであり、その標準偏差は10.7nmであった。したがって、上記式(1)により定義される比Rは9.7となった。
【0073】
得られた修飾CNTフォレストを、図9に示されるように紡績して、CNT撚糸を得た。得られたCNT撚糸の直径は30~35μmであった。
【0074】
図13に示される装置を用いて、得られたCNT撚糸の一部を切断することにより用意された試料に対して銅めっきを行った。具体的な条件は次のとおりである。
・めっき浴:硫酸銅水溶液(田中貴金属社販売「ミクロファブCu300」)
・電流密度:4mA/cm2または5mA/cm2
・めっき時間:1時間
【0075】
CNT撚糸に銅めっきを堆積させてなる導電性部材を、水素気流(100sccm)において、700℃で1時間加熱した。こうして評価対象となる導電性部材を得た。図19は、こうして得られた導電性部材の外観の観察図であり、図20は導電性部材の外観の拡大観察図である。
【0076】
図21は電流密度を5mA/cm2としてめっきすることを含んで作製された導電性部
材の断面を示す観察図である。図22は、銅微粒子により修飾されていないCNTフォレストを紡績して得られたCNTヤーンに電流密度5mA/cm2でめっきすることを含ん
で作製された、比較用導電性部材の断面を示す観察図である。図23は電流密度を4mA/cm2としてめっきすることを含んで作製された導電性部材の断面を示す観察図である
図19は、銅微粒子により修飾されていないCNTフォレストを紡績して得られたCNTヤーンに電流密度4mA/cm2でめっきすることを含んで作製された、比較用導電性
部材の断面を示す観察図である。
【0077】
図21図22との対比、および図23図24との対比から明らかなように、修飾CNTフォレストを用いることにより、中心側における銅の存在密度が相対的に高い導電性部材が得られた。
【0078】
めっき条件を調整することにより、銅の体積割合(単位:vol%)が異なる複数の導電性部材を作製した。これらの導電性部材の導電率(単位:S/cm)および比導電率(単位:S・m2・kg-1)ならびに電流容量(単位:A/cm2)および比電流容量(単位:A・cm・kg-1)を測定した。その結果を図25から図28に示す。なお、図23から図28には、銅微粒子により修飾されていないCNTフォレストを紡績して得られたCNTヤーンの測定結果(Cu fractionが0vol%)および一般的な純銅配線の結果(Cu fractionが100vol%)も、対比のために示した。
【0079】
図23から図28に示されるように、導電性部材は、CNTのみから形成されたCNTヤーンよりも優れた電気特性を有していることが確認された。具体的には、導電性部材における銅の体積割合が30vol%以上であれば、実質的に銅と大差ない導電率、比導電率が得られ、銅の体積割合が35vol%以上であれば、実質的に銅と大差ない電流容量、比電流容量が得られた。
【0080】
(実施例2)
(1)紡績性CNTフォレスト合成
2ステップ浮遊触媒CVD法により基板上に垂直配向CNTを成長させた。紡績性CNTフォレストの合成方法の詳細は過去の報告に記述されている。第1ステップで、CNTの触媒前駆体となるフェロセンをエタノールに含有した溶液を超音波により霧化し、キャリアガスのArによってCVDチャンバー内のSi基板上に搬送する。700℃のSi基板上でフェロセンを熱分解し、in-situでFeナノ粒子を形成した。第2ステップで、炭素源ガスとしてアセチレン、CNT長尺化を目的として塩素ガスを供給した。CNTの成長温度を700℃、成長圧力を18Torrとして直径10nm、フォレスト長が300μm程度のCNTフォレストを合成した。こうして、得られたCNTフォレストは紡績可能であった。
【0081】
(2)CNTフォレストへのCuナノ粒子担持
CNTフォレストに銅ナノ粒子(以下、「Cu-NPs」ともいう。)を担持させた。Cu-NPsの前駆体であるCu(acac)2と紡績性CNTフォレストをCVDチャ
ンバー内に配置し、30Torrの100%Arの雰囲気で400℃で15分間保持した。このプロセスでは、Cu(acac)2が蒸発、拡散してCNT表面で熱分解する。そ
の後、CNT表面で熱分解し、Cu-NPsが核形成された。Cu(acac)2の蒸気
はCNTフォレストの内部まで均質に拡散するため、Cu-NPsもCNTフォレストの内部のCNTに一様に堆積した。Cu-NPsを担持したのち、真空排気し、100Torrのアルゴン:水素=4:1の雰囲気で350℃で1時間還元した。また、Cu(acac)2の量を変化させることで、CNTフォレストへのCu-NPs担持量を制御した
。以下、こうして得られた紡績可能なCNTフォレストを「Cu-NPs担持CNTフォレスト」ともいう。
【0082】
(3)Cu-NPs担持CNT撚糸の作製
実施例1と同様に、Cu-NPs担持CNTフォレストの一端を引き出すと、CNTバンドル(本明細書において、CNTフォレストの部分構造であって、数本のCNTが近接した部分を有し束状になっているものを意味する。)が連続的に引き出され、一方向に配向したCNTの連結体(CNTウェブ)が形成された。CNTウェブに撚りを加えながらスライダーで引き出すことでCNT撚糸を作製した。スピンドルの回転速度は14000rpm、引き出し速度は50mm/sとした。以下、こうして得られたCNT撚糸を「C
u-NPs担持CNT撚糸」ともいう。なお、対比のために、Cu-NPsを担持していないCNTフォレストからもCNT撚糸を作製した。以下、このCNT撚糸を「未担持CNT撚糸」という。
【0083】
(4)銅めっき処理
CNT撚糸に銅を析出させるため、硫酸銅溶液を用いて、Cu-NPs担持CNT撚糸および未担持CNT撚糸に電気めっき処理を施した。銅板をアノード、CNT撚糸をカソードとし、直流電流を供給した。電流密度を0.2A/dm2として2時間供給した。また、存在しうる酸化銅の還元処理およびCNTと銅の付き廻りを滑らかにするため、アルゴンを400sccm、水素を100sccm供給しながら500Torr、700℃で1時間の熱処理を行った。こうして、糸形状を有するCNT連続体(CNT撚糸)と、CNT撚糸を構成するCNTの少なくとも一部に堆積しためっき系物質とを備える糸状導電性部材(以下、「CNT/Cu-wire」ともいう。)を得た。本明細書において「めっき系物質」とは、めっき物質(めっきにより形成された物質)およびめっき物質に基づく物質(本実施例における銅めっきの還元体が相当する。)の総称を意味する。
【0084】
(5)特性評価
CNTの観察のため、電界放出形走査電子顕微鏡(日立製作所社製「SU-8030」)を用いた。CNT/Cu-wireの断面二次電子像の観察のため、クロスセクションポリッシャ(JEOL社製「IB-09020 CP」)を用いてCNT/Cu-wireの断面を良質に加工した。CNT/Cu-wireの高倍率での断面観察のため、透過型電子顕微鏡(JEOL社製「JEM-2100F」)を用いた。透過電子像の観察のため、FIB(JEOL社製「JIB-4700F」)を用いてCNT/Cu-wireの薄膜を作製した。導電率は大気圧下で四端子法を用いた。電流容量は高真空下で二端子法を用いて測定した。二端子法の測定長が短いと電極へ熱が逃げてしまうため、真の試料の電流容量を測定する目的として測定長を1cmとした。また、糸が破断したときの電流密度を電流容量とした。引張特性は引張試験機(島津製作所社製「EZ-L」)を用い、測定数は5、測定長は1cm、引張速度は0.05mm/minとした。引張ひずみは非接
触伸び計(島津製作所社製「TRViewX」)で測定した。
【0085】
以下、上記の製造方法で得られたCNT/Cu-wireの測定結果を示す。
(1)Cu-NPs担持CNTフォレストからのdry-spinning(乾式紡績)CNT撚糸
本実施例に係るCu-NPs担持方法によれば、前駆体量や温度などのパラメータでCu-NPsの担持量や粒径を制御可能である。Cu(acac)2は昇華性の有機化合物
であり、比較的低温で昇華、熱分解する。そのため、CNTフォレストの内部まで蒸気で拡散させ、CNTフォレスト全体にCNT表面上でCu-NPsを担持させる前駆体として好適であると言える。
【0086】
しかし、CNTフォレストの内部まで均質にCu-NPsを担持させる条件は注意深く制御する必要がある。チャンバー内の圧力や温度によってCu(acac)2の熱分解速
度が大きく変化する。温度が高い場合は熱分解速度が速いため、CNTフォレストの側面からCu-NPsの担持が進行し、CNTフォレストの内部へ担持できない結果となった。本実施例では、Cu-NPsの担持条件を丹念に吟味し、CNTフォレストの内部まで均質に担持した紡績性CNTフォレストを得た。
【0087】
Cu(acac)2の量を10mg、30mg、100mgと変化させたときのCu-
NPsを担持したCNTフォレストの二次電子像を図30(A)から図30(C)に示す。図30(A)に示されるように、Cu(acac)2の量が10mgと少ない場合では
、CNT表面上に形成されたCu-NPsの担持量は少なく、Cu-NPsが担持していないCNTも存在した。しかし、Cu-NPsを担持していないCNTフォレストと同様に紡績性は高かった。
【0088】
図30(C)に示されるように、Cu(acac)2の量が100mgと多い場合では
、CNT表面上のCu-NPsの担持量が非常に多かった。この場合、CNT同士がCu-NPsで結合され、CNTフォレスト全体が一つの結合体となっていた。CNTフォレスト端部を引き出すと、引き出されたCNTに隣接したCNTバンドルはCNTフォレストにより強く結合しているため、CNTフォレストから分離不能であった。このため、連続乾式紡績が生じず、Cu(acac)2の量が100mgの場合には、CNT撚糸の作
製は不可能であった。
【0089】
図30(B)に示されるように、Cu(acac)2の量を30mgとすることで、C
u-NPsがCNT表面にまんべんなく担持し、かつ紡績性も高いCNTフォレストが得られた。本実施例では、紡績してCNT撚糸を作製する必要があるため、Cu(acac)2の使用量を30mgとして製造したCNTフォレストを用いてCNT撚糸を作製した
【0090】
なお、本実施例では銅との複合化が目的であるためCu(acac)2を前駆体として
用いたが、他のアセチルアセトナート錯体(Pt(acac)2,Ni(acac)2,Zn(acac)2など)を用いることで、同様にCNTフォレストへ各種金属のナノ粒子
を担持できる。そのため、本実施例に係る方法は配線材料のみならず、電池やキャパシタの電極材などへの応用にも活用できる。
【0091】
本実施例では、CNTフォレストへCu-NPsを全体に担持し、引き出されたCNTウェブにもCu-NPsが均一に担持されているような乾式紡績が実現された。本実施例ではCNTバンドル間距離がCNT撚糸中より広い紡績性CNTフォレストの段階でCu-NPsを担持させているため、CNT撚糸を作製した後にCu-NPsを担持させた場合との対比で、CNT撚糸中へCu-NPsを均一に担持させることができる。本実施例に係る方法ではCNTフォレストにあらかじめナノ粒子を担持させているため、Cu-NPs担持CNTフォレストやCu-NPs担持CNTシート、Cu-NPs担持CNT撚糸など、応用の幅が広い。本実施例で用いた手法はハンドリング性が良く、ユーザーに利便性が良いのも利点である。
【0092】
(2)CNT/Cu-wireの構造分析
本実施例により得られたCNT/Cu-wireの表面は銅の光沢が観察された。図31(A)は、直径10nm程度のCNTを用いて、あらかじめCu-NPsを担持したCNT撚糸(Cu-NPs担持CNT撚糸)に銅を析出させた複合糸(以下、「Mixed
CNT/Cu-wire」と記載することもある。)の断面二次電子像を示す図である。図31(B)は、直径10nm程度のCNTを用いる点では共通するが、あらかじめCu-NPsを担持していないCNT撚糸(未担持CNT)に銅を析出した複合糸(以下、「Unmixed CNT/Cu-wire」と記載することもある。)の断面二次電子像を示す図である。なお、本明細書において、Mixed CNT/Cu-wireおよびUnmixed CNT/Cu-wireの総称として「CNT/Cu複合糸」を用いる場合がある。
【0093】
図31(A)に示されるように、Mixed CNT/Cu-wireは、CNT撚糸の外周部から内部まで均質に銅が析出していた。また、高倍像から、銅が緻密に析出していることがわかる。これに対して、Unmixed CNT/Cu-wireは、図31(B)に示されるように、CNT撚糸の外周部に銅が多く析出したコア-クラッド構造(CNT撚糸がコアで、銅がクラッドとなる)を形成していた。また、CNT撚糸の内部に島状に析出した銅も存在していた。図31(A)および図31(B)の対比により、CNT撚糸にCu-NPsをあらかじめ担持させてからめっき処理を施すことで、CNT撚糸の内部まで均質に銅を析出できることが確認された。
【0094】
めっき液中の銅イオンは表面エネルギー的に安定なCu-NPs表面で金属銅として析出しやすい。本実施例ではCNT撚糸全体にCu-NPsが形成されており、めっき時にCNT撚糸内部に拡散されている銅イオンがCu-NPs表面で金属銅として析出する。また、CNT撚糸のCNTバンドル間距離は200nm程度であることから、通電前のめっき液への含侵で十分に銅イオンがCNT撚糸の全体に拡散していると考えられる。さらに、めっき時の電流密度が低いため律速過程がイオン拡散ではなくCNT表面上での銅析出であることから、めっきが開始してもさらにイオンが内部に移動して析出が継続することで、本実施例では均質なCNT/Cu-wireを作製できたと考えられる。
【0095】
Mixed CNT/Cu-wireの直交断面(CNTの延在方向に対して直交する面での断面)の透過電子像を図32(A)に示し、その高倍像を図32(B)に示す。これらの図に示されるように、析出した銅の粒径は数百nmである。また、銅がCNTバンドル間に析出しており、CNT表面に密着していることがわかる。銅とCNTの間に空隙はほとんど見られなかったが、CNTバンドル間に数十nm程度のナノボイドが存在していた。また、高倍像(図32(B))から、銅マトリックスに覆われたCNTは少し潰れたような形状であることが観察された。この観察から、CNT表面に担持されたCu-NPsを起点に銅が電解析出を始めても、めっき終了時にはCNTを取り囲むように銅が析出していることが確認された。
【0096】
Mixed CNT/Cu-wireの平行断面(CNTの延在方向を含む面での断面)の透過電子像を図33(A)に示し、その高倍像を図33(B)に示す。これらの図に示されるように、CNTと銅が長手方向に連続的に密着していた。
(3)CNT/Cu-wireの電気伝導特性
【0097】
図34(A)にMixed CNT/Cu-wireおよびUnmixed CNT/Cu-wireの室温の導電率を示す。また、比較のためにCNT撚糸と銅線(純度99.99%)のデータも合わせて示す。図34(A)の横軸であるCNT/Cu-wireの銅の体積含有率は、CNT/Cu-wireと銅を析出する前のCNT撚糸の重量の増分からCNT/Cu-wire中に析出した銅の体積を計算し、CNT/Cu-wireの体積で除することで算出した。図34(B)は、図34(A)の縦軸をリニアスケールにしたグラフである。
【0098】
図34(A)に示されるように、Mixed CNT/Cu-wireの導電率は2.41×105S/cm、Unmixed CNT/Cu-wireの導電率は4.26×
104S/cmであった。CNT撚糸の導電率は2.35×102S/cmであり、銅線の導電率(4.5×105S/cm)より3桁小さい。CNT/Cu-wireの導電率は
銅の体積比率が高いほど増加した。図34(B)に示されるリニアスケールのプロットでは、Mixed CNT/Cu-wireは銅線とほぼ線形な関係であり、銅マトリクス中を移動する自由電子がキャリアとして支配的である。なお、Unmixed CNT/Cu-wireの導電率は線形関係より低い。図31(B)の断面二次電子像から、CNT/Cu-wireの内部に島状に析出した銅が見られるため、導電性に寄与していない銅が存在している。その結果、銅の含有率に対して導電率が低下したと考えられる。
【0099】
図35に各サンプルを300Kでの値で規格化した電気抵抗率の温度依存性を示す。図35に示されるように、銅線の電気抵抗率(破線)はフォノンの散乱により温度に比例して増加し、抵抗温度係数(TCR)は3.3×10-3-1であった。Mixed CNT/Cu-wireの電気抵抗率(実線)およびUnmixed CNT/Cu-wireの電気抵抗率(点線)は温度の上昇に伴い増加するが、TCRはそれぞれ1.2×10-3-1、2.0×10-3-1であり銅線より小さい。このことより、電子のフォノン散乱がCNTにより抑制されていると考えられる。また、CNTと銅マトリクスの接触面が多いMixed CNT/Cu-wireの方がUnmixed CNT/Cu-wireよりTCRが小さいことから、CNTと銅の界面近傍で自由電子のフォノン散乱が低減されていると予想される。図35に示されるように、長手方向の導電率を測定したときに、300Kから450Kの範囲での抵抗温度係数(TCR)は、1.8×10-3-1以下であることが好ましく、1.5×10-3-1以下であることがより好ましく、1.2×10-3-1以下であることが特に好ましい。
【0100】
図36にMixed CNT/Cu-wireと銅線の比導電率の温度依存性を示す。Mixed CNT/Cu-wireの比伝導率(実線)は、室温(300K)では、電気伝導に寄与しないCNTのため、銅線の比導電率(破線)よりも小さい。しかしながら、Mixed CNT/Cu-wireのTCRは銅のTCRよりも小さいため、Mixed CNT/Cu-wireの比導電率は銅線の比導電率を370Kで逆転した。すなわち、400K以上では、Mixed CNT/Cu-wireの比伝導率が銅線の比導電率よりも高くなることが安定的に実現されることが確認された。
【0101】
一方で、図35に示されるように、CNT撚糸の電気抵抗率(一点鎖線)は温度の上昇に伴い線形的に減少し、そのTCRは-0.6×10-3-1であった。この負の線形的な電気抵抗の温度依存性はフリーデル振動による影響が考えられる。
【0102】
図37に各サンプルの電流容量を示す。Mixed CNT/Cu-wireの電流容量は1.3×105A/cm2、Unmixed CNT/Cu-wireの電流容量は5.32×104A/cm2であった。Mixed CNT/Cu-wireの電流容量は銅の体積含有率が56.7%であるにも関わらず、銅線(5.8×104A/cm2)より2.2倍程高い値を示した。CNT/Cu-wireに供給する電流密度を増加すると、CNT/Cu-wireのジュール熱の発生により電気抵抗が増加する。上述のように、CNT/Cu-wireの導電率は370K以上の高温帯で銅より高くなるため、電流密度に対するジュール加熱が銅線の場合より小さくなる。結果として温度上昇が低減し、電流容量が高くなった。このように、図37により、Mixed CNT/Cu-wireは、電流容量が105A/cm2以上であることが好ましいことが確認された。
【0103】
図38に各サンプルの比導電率と比電流容量との関係を示すグラフを示す。Mixed
CNT/Cu-wireの比導電率は4.31×104S・cm2/gであり、銅線(4.87×104S・cm2/g)と同程度でCNT撚糸(4.40×102S・cm2/g)より二桁以上高い。比導電率はほとんど銅の含有量に依存する結果となった。このことからも、複合材料中のキャリアは銅の自由電子であることをサポートしている。一方、Mixed CNT/Cu-wireの比電流容量は銅線の6.5×103A・cm/gより
3.6倍大きい2.32×104A・cm/gとなった。CNT/Cuにおける高温時の
抵抗上昇抑制により、銅線同様に電流は銅マトリクス部を流れているにもかかわらず輸送容量は大きく向上する結果となった。
【0104】
なお、CNT撚糸(2.85×104A・cm/g)が最も大きな値となった。CNT
撚糸は昇華温度が銅より極めて高く、また赤外放射率も高いため、銅より高い温度まで電流輸送でき、比導電率は銅より二けた小さいけれども高い比電流容量を示すことが知られている。以上から、Mixed CNT/Cu-wireは、軽量でありながら高導電率であり、銅線を凌駕する電流容量も有しているため、高電力供給が可能な細径配線として応用に期待できる。
【0105】
(4)CNT/Cu-wireの力学特性
表1にCNT撚糸(CNT yarn)、CNT/Cu複合糸および銅線の特性表を示す。
【0106】
【表1】
【0107】
図39(A)に直径10nm程度のCNTを用いて製造されたMixed CNT/Cu-wireおよびUnmixed CNT/Cu-wireの応力ひずみ線図を示す。また、比較のために、直径10nm程度のCNTを用いて製造されたCNT撚糸および銅線の応力ひずみ線もそれぞれ合わせて示す。Mixed CNT/Cu-wireの引張強度は699MPa、ヤング率は70.4GPaであった。銅線の引張強度は191MPa、ヤング率は83.5GPaであり、CNT撚糸の引張強度は666MPa、ヤング率は32.2GPaであった。Mixed CNT/Cu-wireの引張強度はCNT撚糸と比較して、銅との均質な複合化によって引張強度とヤング率がともに向上した。Unmixed CNT/Cu-wireの引張強度は182.9MPa、ヤング率は25.8GPaであり、引張強度とヤング率がともに減少した。図39(B)は、図39(A)の応力ひずみ線図から得られた、各種サンプルのヤング率と引張強度との関係を示すグラフである。図39(B)に示されるように、CNT撚糸を基準としたとき、Mixed CNT/Cu-wireはヤング率は顕著に増大し、引張強度も同等またはそれ以上であった。これに対し、Unmixed CNT/Cu-wireは引張強度が著しく減少し、ヤング率も低下した。すなわち、Mixed CNT/Cu-wireとUnmixed CNT/Cu-wireとの対比により、糸状導電部材であるMixed CNT/Cu-wireは、この糸状導電部材からめっき系物質を除いた材料に相当するブランクカーボンナノチューブ連続体、すなわちCNT撚糸を基準として、引張強度が1.0倍以上であり、ヤング率が1.5倍以上であることが好ましいことが示された。Mixed CNT/Cu-wireのヤング率は、CNT撚糸を基準として、2.0倍以上であることがより好ましい。
【0108】
Mixed CNT/Cu-wireの引張破断部の二次電子像を図40(A)に示し、Unmixed CNT/Cu-wireの引張破断部の二次電子像を図40(B)に示す。図40(A)に示されるように、Mixed CNT/Cu-wireの破断部は、CNTの引き抜けが短かった。一方、図40(B)に示されるように、Unmixed
CNT/Cu-wireは外周部(クラッド)の銅が破断して滑り、CNT撚糸の引き抜けが長かった。Mixed CNT/Cu-wireにおいては銅線に比べてヤング率および引張強度の大幅な向上が見られることから、CNT撚糸中に銅が均質に析出するだけでなくCNTバンドル表面との密着性も良く、銅はマトリックスとしてCNTバンドル間の荷重を良好に伝達していた。すなわち、図40(A)および図40(B)の対比により、Mixed CNT/Cu-wireは、銅を母材とする繊維強化複合材料と見なせることが確認された。
【0109】
図41(A)は、Cu-NPsを担持したCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の二次電子像を示す図である。図41(B)は、Cu-NPsを担持していないCNT撚糸に銅を析出させた複合糸の座屈部の二次電子像を示す図である。図41(A)に示されるように、Mixed CNT/Cu-wireは小さい曲率で変形可能である。この複合糸はCNTと銅が均質に混合した均質媒質であるため、柔軟であった。一方、図41(B)に示されるように、Unmixed CNT/Cu-wireは容易に座屈破壊する。これは、Unmixed CNT/Cu-wireでは中心部にCNT撚糸がそのまま存在するが、CNT撚糸部分は曲げによる圧縮荷重を負担できないことから、表面の銅からなる外周部(クラッド)が容易に座屈に至るためと考えられる。
【0110】
以上説明したように、実施例2では、CNTを均質に高い割合で含むCNT/Cu複合糸が製造された。CNTと銅の相乗効果により、それは、高い電気伝導率、低いTCR、高い電流容量、高い引張特性、高い柔軟性を有している革新的新材料である。均質CNT/Cu-wireは、ドローンのモーターやイヤホン、小型アクチュエーターの小型コイルやエネルギー密度の高い小型電子デバイスシステムのワイヤリングなど、新たな軽量配線材料として期待できる。また、均質複合材料を得るために本実施例において示された気相ナノ粒子堆積された乾式CNT紡績技術は、CNT応用に新たな側面を追加する新技術である。ナノ粒子を担持したCNTにより長繊維やシート、立体構造など多様な構造体を形成できるので、今後、多様な機能性を有するCNT応用が可能である。
【符号の説明】
【0111】
10 :ガラス管
20 :ヒータ
30 :CNTフォレスト
40 :修飾CNTフォレスト
50 :CNT
60 :CNT連続体
70 :微粒子
100 :製造装置
100A :めっき装置
110 :マイカシート
120 :CNT撚糸
130 :硫酸銅浴
141、142 :クリップ
151、152 :配線
160 :電源
161 :陰極端子
162 :陽極端子
170 :陽極
200 :導電性部材
D :方向
RC :反応室
RS :金属元素含有物質
SB :基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図25
図26
図27
図28
図29
図30(A)】
図30(B)】
図30(C)】
図31(A)】
図31(B)】
図32(A)】
図32(B)】
図33(A)】
図33(B)】
図34(A)】
図34(B)】
図35
図36
図37
図38
図39(A)】
図39(B)】
図40(A)】
図40(B)】
図41(A)】
図41(B)】