(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】センサシステム、リーダ、及びセンサ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20240905BHJP
A61B 5/1486 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61B5/00 C
A61B5/00 N
A61B5/1486
(21)【出願番号】P 2023509178
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013031
(87)【国際公開番号】W WO2022202773
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2021047975
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】三宅 丈雄
(72)【発明者】
【氏名】高松 泰輝
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0012008(US,A1)
【文献】米国特許第5703576(US,A)
【文献】PARK, Jihun et al.,Soft, smart contact lenses with integrations of wireless circuits, glucose sensors, and displays,Science Advances,American Association for the Advancement of Scienc,2018年01月24日,Vol. 4, No. 1,ISSN 2375-2548
【文献】LI, Changsheng et al.,Transfer Characteristics of the Nonlinear Parity-Time-Symmetric Wireless Power Transfer System at De,Energies,Multidisciplinary Digital Publishing Institute,2020年10月05日,Vol. 13, Issue 19,ISSN 1996-1073
【文献】SCHINDLER, Joseph et al.,Experimental study of active LRC circuits with PT symmetries,Physical Review A,米国,American Physical Society,2011年10月13日,Vol. 84, Issue 4,ISSN 1094-1622
【文献】KAZEMI, Hamidreza et al.,Ultra-Sensitive Radio Frequency Biosensor at an Exceptional Point of Degeneracy induced by Time Modu,[online],2020年07月19日,[検索日 2022.04.27], インターネット:<https://doi.org/10.48550/arXiv.1909.03344>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/1486
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーダ側共振回路と、センサ側共振回路とを有するセンサシステムであって、
前記リーダ側共振回路は、LCR並列共振回路であり、かつ、ゲイン回路であり、
前記センサ側共振回路は、感知対象に応じて抵抗値が変化するセンサ素子を抵抗部分として有するLCR並列共振回路であり、かつ、ロス回路であり、
前記リーダ側共振回路と前記センサ側共振回路は、互いに磁界共振結合によって無線的に接続されてゲイン-ロス結合回路を構成しており、かつ、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路および前記センサ側共振回路が形成される、センサシステム。
【請求項2】
前記リーダ側共振回路における抵抗部分の抵抗値、コイル部分のインダクタンス、及びキャパシタ部分のキャパシタンス、並びに、前記センサ側共振回路におけるコイル部分のインダクタンス、及びキャパシタ部分のキャパシタンスの少なくとも1つは可変であり、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路における前記抵抗値、前記インダクタンス、及び前記キャパシタンス、並びに、前記センサ側共振回路における前記インダクタンス、及び前記キャパシタンスの少なくとも1つが調整される、請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項9】
リーダ側共振回路とセンサ側共振回路とを有するセンサシステムに使われ、前記リーダ側共振回路を有するリーダであって、
前記リーダ側共振回路は、LCR並列共振回路であり、かつ、ゲイン回路であり、
前記センサ側共振回路は、感知対象に応じて抵抗値が変化するセンサ素子を抵抗部分として有するLCR並列共振回路であり、かつ、ロス回路であり、
前記リーダ側共振回路と前記センサ側共振回路は、互いに磁界共振結合によって無線的に接続されてゲイン-ロス結合回路を構成しており、かつ、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路および前記センサ側共振回路が形成される、リーダ。
【請求項10】
前記リーダ側共振回路における抵抗部分の抵抗値、コイル部分のインダクタンス、及びキャパシタ部分のキャパシタンス、並びに、前記センサ側共振回路におけるコイル部分のインダクタンス、及びキャパシタ部分のキャパシタンスの少なくとも1つは可変であり、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路における前記抵抗値、前記インダクタンス、及び前記キャパシタンス、並びに、前記センサ側共振回路における前記インダクタンス、及び前記キャパシタンスの少なくとも1つが調整される、請求項9に記載のリーダ。
【請求項17】
リーダ側共振回路とセンサ側共振回路とを有するセンサシステムに使われ、前記センサ側共振回路を有するセンサであって、
前記リーダ側共振回路は、LCR並列共振回路であり、かつ、ゲイン回路であり、
前記センサ側共振回路は、感知対象に応じて抵抗値が変化するセンサ素子を抵抗部分として有するLCR並列共振回路であり、かつ、ロス回路であり、
前記リーダ側共振回路と前記センサ側共振回路は、互いに磁界共振結合によって無線的に接続されてゲイン-ロス結合回路を構成しており、かつ、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路および前記センサ側共振回路が形成される、センサ。
【請求項18】
前記リーダ側共振回路における抵抗部分の抵抗値、コイル部分のインダクタンス、及びキャパシタ部分のキャパシタンス、並びに、前記センサ側共振回路におけるコイル部分のインダクタンス、及びキャパシタ部分のキャパシタンスの少なくとも1つは可変であり、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路における前記抵抗値、前記インダクタンス、及び前記キャパシタンス、並びに、前記センサ側共振回路における前記インダクタンス、及び前記キャパシタンスの少なくとも1つが調整される、請求項17に記載のセンサ。
【請求項27】
前記感知対象から受ける物理量は、熱、光、電流、電圧、電界、磁界、速度、振動、圧力を含む力、及びひずみを含む形状変化の少なくともいずれか1つを含む、請求項19に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界共振結合によって互いにワイヤレスに接続されたリーダ側共振回路とセンサ側共振回路とを有するセンサシステム、リーダ、及びセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
計測装置に接続されたリーダ側共振回路と、コンタクトレンズ上に形成したセンサ側共振回路とを無線接続することによって、涙に含まれる微量のグルコース(0~1.0(mM)程度)を計測し、その値から血糖値の変化を推定しようとするセンサシステムが知られている(例えば、非特許文献5)。
【0003】
非特許文献5では、コンタクトレンズ上にセンサ側共振回路が形成され、該共振回路の抵抗部分がセンサ素子(グルコース感知素子)である。リーダ側共振回路とセンサ側共振回路は、磁界共振結合によって互いに無線的に接続されており、それにより、センサ側共振回路に生じたグルコース濃度に応じた信号が、リーダ側共振回路を通じて計測可能となっている。
【0004】
非特許文献5のセンサシステムでは、リーダ側共振回路とセンサ側共振回路がいずれもロス回路である。このような2つのロス回路が結合した回路は、ロス-ロス結合回路と呼ばれている。
【0005】
「ロス回路」は、インダクタンス:L(コイルに蓄えられる磁場のエネルギーを表す比例定数)とキャパシタンス:C(コンデンサに蓄えられる電荷のエネルギーを表す比例定数)、さらに抵抗:R(エネルギー損失を表す定数)によって構成される回路であって、特定の共振周波数においてエネルギーを損失する回路である。
一方、「ロス回路」と反対の性質を持つ回路として、「ゲイン回路」がある。
「ゲイン回路」は、インダクタンス:Lと、キャパシタンス:C、さらに負性抵抗:-R(エネルギー利得を表す定数)によって構成される回路であって、特定の共振周波数においてエネルギーを供給する回路である。
【0006】
ロス-ロス結合回路は、一般的な散逸系共振回路によって構成可能であり、実装が簡便であるという利点を有するので、非特許文献5のセンサシステムでは、ロス-ロス結合回路が採用されている。しかし、ロス-ロス結合回路は、読み取り側の共振負荷とセンサ側の共振負荷を重ね合わせた値を検出するため、微弱な信号を十分に検出することができない。涙液中のグルコースは非常に微量であって、センサ素子で得られる電気信号も非常に微弱である。よって、非特許文献5のようなロス-ロス結合回路では、好ましいセンサシステムの製品を実際に提供することは困難である。
【0007】
一方、特許文献1に記載されたセンサシステムでは、リーダ側共振回路がゲイン回路であり、センサ側共振回路がロス回路であり、これらゲイン回路とロス回路とが磁界共振結合によって無線的に接続されて、ゲイン-ロス結合回路が構成されている。ゲイン-ロス結合回路は、ロス側の共振負荷で散逸するエネルギーをゲイン側の発振回路で補うという特性を持ち、結果として共振周波数付近で、損失のない理想的なLC回路(保存系)を構築するという利点を有する。
【0008】
特許文献1のセンサシステムは、眼圧の変化を感知するためのものであって、外部のリーダ側共振回路と、コンタクトレンズ上に形成されたセンサ側共振回路とが無線的に接続されている。センサ側共振回路は、センサ素子を含んだLCR共振回路である。該センサ素子は、眼圧を感知する素子である。眼圧の変化に対応して眼球が膨張/収縮すると、それに応じてセンサ素子が変形し、その変形に応じてセンサ素子のキャパシタンスが変化する。即ち、該センサ素子は一種の可変キャパシタである。センサ素子のキャパシタンスの変化は、リーダ側共振回路にも現れ、その変化をベクトルネットワークアナライザ(VNA)などを用いて測定することにより、眼圧の変化を検出している。
【0009】
特許文献1のセンサシステムでは、リーダ側共振回路は、コイルとキャパシタと抵抗が直列的に接続されたLCR直列共振回路であり、センサ側共振回路もまた、コイルとセンサ素子(可変キャパシタ)と抵抗が直列的に接続されたLCR直列共振回路である。リーダ側共振回路とセンサ側共振回路は、それぞれのコイル同士の磁界共振結合によって互いに無線的に接続されている。
【0010】
特許文献1のセンサシステムにおけるゲイン-ロス結合回路では、さらに、ゲイン回路とロス回路のパリティ・時間対称性が保たれるように、2つの共振回路中のキャパシタンス値とインダクタンス値と抵抗値が決定されている。このようなパリティ・時間対称性を有するゲイン-ロス結合回路によれば、共振周波数を尖鋭化することができるので、高感度な無線計測を実現することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2020/012008A1号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】”Generalized parity-time symmetry condition for enhanced sensor telemetry”, NATURE ELECTRONICS, 1, 297-304, (2018)。
【文献】”Sensitive readout of implantable microsensors using a wireless system locked to an exceptional point”, NATURE ELECTRONICS, 2, 335-342, (2019)。
【文献】”Soft contact lens biosensor for in situ monitoring of tear glucose as non-invasive blood sugar assessment”, Talanta, 83, 960-965, (2011)。
【文献】”A contact lens with embedded sensor for monitoring tear glucose level”, Biosens Bioelectron, 26, 7, 3290, (2011)。
【文献】”Wireless smart contact lens for diabetic diagnosis and therapy”, Sci. Adv., 6:eabb2891, (2020)。
【文献】”Wearable smart sensor systems integrated on soft contact lenses for wireless ocular diagnostics”, Nature Communications, 8:14997, (2017)。
【文献】”Integrated contact lens sensor system based on multifunctional ultrathin MoS2 transistors”, Matter, 4, 1-17, (2020)。
【文献】”Soft, smart contact lenses with integrations of wireless circuits, glucose sensors, and displays”, Sci. Adv., 4, eaap9841, (2018)。
【文献】”Tear Glucose Dynamics in Diabetes Mellitus”, Current Eye Research, 31, 895-901, (2006)。
【文献】”Real Spectra in Non-Hermitian Hamiltonians Having PT Symmetry”, Phys. Rev. Lett. 80, 5243, (1998)。
【文献】”Observation of PT-Symmetry Breaking in Complex Optical Potentials”, Phys. Rev. Lett., 103, 093902, (2009)。
【文献】”Dynamically encircling an exceptional point in anti-PT-symmetric systems: asymmetric mode switching for symmetry-broken states”, Light: Science & Applications, 8:88, (2019)。
【文献】”Optomechanically-induced transparency in parity-time-symmetric microresonators”, Scientific Reports, 5:9663, (2015)。
【文献】”Parity-time-symmetric whispering-gallery microcavities”, Nature Physics, 10, 394-398, (2014)。
【文献】”A phonon laser operating at an exceptional point”, NaturePhotonics, 12, 479-484, (2018)。
【文献】”Enhanced sensitivity at higher-order exceptional points”,Nature, 548, 187-191, (2017)。
【文献】”Implementation of PT symmetric devices using plasmonics: principle and applications”, Optics Express, 19, 19, 18004-18019, (2011)。
【文献】”Observation of resonance trapping in an open microwave cavity”, Phys. Rev. Lett., 85, 2478, (2000)。
【文献】”Experimental Observation of the Topological Structure of Exceptional Points”, Phys. Rev. Lett., 86, 787, (2001)。
【文献】”Single-mode laser by parity-time symmetry breaking”, Science, 346, 6212, 972-975, (2014)。
【文献】”Reversing the pump dependence of a laser at an exceptional point”, Nature Communications, 5, 4034, (2014)。
【文献】”An integrated parity-time symmetric wavelength-tunable single-mode microring”, Nature Communications, 8:15389, (2017)。
【文献】”Exceptional Points in Atomic Spectra”, Phys. Rev. Lett. 99, 173003, (2007)。
【文献】”Observation of PT phase transition in a simple mechanicalsystem”, American Journal of Physics, 81, 173, (2013)。
【文献】”An invisible acoustic sensor based on parity-time symmetry”, Nature Communications, 6, 5905, (2015)。
【文献】”Experimental Demonstration of an Acoustic Asymmetric Diffraction Grating Based on Passive Parity-Time-Symmetric Medium”, Phys. Rev. Applied, 12, 034040, (2019)。
【文献】”Experimental study of active LRC circuits with PT symmetries”, Phys. Rev. A 84, 040101(R), (2011)。
【文献】”Noninvasive Glucose Sensor Based on Parity-Time Symmetry”, Phys. Rev. Applied, 11, 044049, (2019)。
【文献】”Noninvasive Self-diagnostic Device for Tear Collection and Glucose Measuremnt”, Scientific Reports, 9, 4747, (2019)。
【文献】"Analysis and Optimization of Wireless Power Transfer Efficiency Considering the Tilt Angle of a Coil", Journal of Electromagnetic Engineering and Science 2018, 18, 13, (2018)。
【文献】Daniel A. del Portal, MD, Frances Shofer, PhD, Mark E. Mikkelsen, MD, MSCE, Philip J. Dorsey, Jr., MD, MPH, David F. Gaieski, MD, Munish Goyal, MD, Marie Synnestvedt, PhD, Mark G. Weiner MD, Jesse M. Pines, MD, MBA, MSCE, “Emergency Department Lactate Is Associated with Mortality in Older Adults Admitted With and Without Infections”, Academic Emergency Medicine, Vol. 17, Issue 3, 2010。
【文献】Masashi Hotta, Akinori Nobu, Takayuki Haruyama, Tohru yuki, Mitsuo Hano, “Effect of Water and/or Dielectric Materials for Resonant Type Wireless Power Transfer System”, The Japanese Journal of the Institute of Industrial Applications Engineers, Vol. 2, No. 2, pp. 23-31, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、グルコース感知用の酵素電極のような、抵抗値の変化(とりわけ、高い抵抗値領域での微小な変化、即ち、低い電流値の微小な変化)によって対象物を感知するセンサ素子(以下、「可変抵抗センサ素子」ともいう)を、特許文献1のセンサ側共振回路(LCR直列共振回路)に組み込むことは、技術的に困難である。その理由は、センサ素子におけるグルコース反応を共振に必要な交流で計測することが困難であり、かつ、それに加えて、ゲイン回路(LCR直列共振回路)において高い負性抵抗を実装することが困難であるからである。また、特許文献1には、2つのLCR並列共振回路を磁界共振結合したシステムの概念も示されているが、センサ側共振回路中の抵抗部分を高抵抗な可変抵抗センサ素子とすることについては、全く記載が無く、また、信号受信を可能とするような具体的な回路も例示されていない。
【0014】
以上のように、涙液中のグルコースのみならず種々の感知対象を感知する可変抵抗センサ素子をセンサ側共振回路に抵抗部分として配置し、かつ、ワイヤレスで高感度に信号を受信し得るセンサシステムは未だ提供されていない。
【0015】
本発明の課題は、上記の問題を解決し、可変抵抗センサ素子をセンサ側共振回路に有し、かつ、ワイヤレスで高感度に感知信号を受信し得るセンサシステム、リーダ、及びセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によれば、
リーダ側共振回路と、センサ側共振回路とを有するセンサシステムであって、
前記リーダ側共振回路は、LCR並列共振回路であり、かつ、ゲイン回路であり、
前記センサ側共振回路は、感知対象に応じて抵抗値が変化するセンサ素子を抵抗部分として有するLCR並列共振回路であり、かつ、ロス回路であり、
前記リーダ側共振回路と前記センサ側共振回路は、互いに磁界共振結合によって無線的に接続されてゲイン-ロス結合回路を構成しており、かつ、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路および前記センサ側共振回路が形成される、
センサシステムが提供される。
【0017】
本発明の一態様によれば、
リーダ側共振回路とセンサ側共振回路とを有するセンサシステムに使われ、前記リーダ側共振回路を有するリーダであって、
前記リーダ側共振回路は、LCR並列共振回路であり、かつ、ゲイン回路であり、
前記センサ側共振回路は、感知対象に応じて抵抗値が変化するセンサ素子を抵抗部分として有するLCR並列共振回路であり、かつ、ロス回路であり、
前記リーダ側共振回路と前記センサ側共振回路は、互いに磁界共振結合によって無線的に接続されてゲイン-ロス結合回路を構成しており、かつ、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路および前記センサ側共振回路が形成される、リーダが提供される。
【0018】
本発明の一態様によれば、
リーダ側共振回路とセンサ側共振回路とを有するセンサシステムに使われ、前記センサ側共振回路を有するセンサであって、
前記リーダ側共振回路は、LCR並列共振回路であり、かつ、ゲイン回路であり、
前記センサ側共振回路は、感知対象に応じて抵抗値が変化するセンサ素子を抵抗部分として有するLCR並列共振回路であり、かつ、ロス回路であり、
前記リーダ側共振回路と前記センサ側共振回路は、互いに磁界共振結合によって無線的に接続されてゲイン-ロス結合回路を構成しており、かつ、
前記ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、前記リーダ側共振回路および前記センサ側共振回路が形成される、センサが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、リーダ側共振回路が、並列共振回路であるようにかつゲイン回路であるように構成され、センサ側共振回路が、並列共振回路であるようにかつロス回路であるように構成され、該センサ側共振回路における抵抗部分として可変抵抗センサ素子が配置されている。そして、リーダ側共振回路とセンサ側共振回路とが無線的に磁界共振結合されて、ゲイン-ロス結合回路が構成されている。さらに、該ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を満たすように、リーダ側共振回路(ゲイン回路)とセンサ側共振回路(ロス回路)が形成される。以上の構成によって、可変抵抗センサ素子をセンサ側共振回路中に用いながらも、共振周波数を尖鋭化することができ、該可変抵抗センサ素子によって生じる微小な感知信号を、リーダ側共振回路が高感度に受信し得るものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のセンサシステムの構成を示すブロック図である。
【
図3】ロス-ロス結合回路およびゲイン-ロス結合回路において、結合係数kを0から0.05まで変化させた時の、それぞれのナイキストプロットを示すグラフ図である。
【
図4】ロス-ロス結合回路およびゲイン-ロス結合回路において、結合係数kを0から0.05まで変化させた時の、インピーダンスプロットを示すグラフ図である。
【
図5】3次元座標上に位置する共振回路モデルを示す図である。
【
図6】垂直方向の距離の変化と、結合係数の変化との関係を示すグラフ図である。
【
図7】ロス-ロス結合回路およびゲイン-ロス結合回路のそれぞれの磁界共鳴結合システムを示すブロック図である。
【
図8】ロス共振器およびゲイン共振器の、それぞれの反射係数特性(インピーダンス形式)を示すグラフ図である。
【
図9】リーダ側共振回路(ゲイン回路)として製作したクラップ発振回路の好ましい一例を示す図である。
【
図10】クラップ発振回路の分解と、FETと発振用キャパシタの直列回路変形を示す図である。
【
図11】FETと発振用キャパシタの等価回路図である。
【
図12】直列入力インピーダンスの並列回路変換を示す図である。
【
図13】実際に作製したゲイン共振器(クラップ発振回路)の外観を示す図である。
【
図14】V
G1を変化させたときのインピーダンス変化を示すグラフ図である。
【
図15】ロス-ロス結合回路における共振器間の距離変化と反射係数(インピーダンス実部)の変化を示すグラフ図である。
【
図16】ロス-ロス結合回路における共振器間の距離変化と反射係数(インピーダンス虚部)の変化を示すグラフ図である。
【
図17】ゲイン-ロス結合回路における共振器間の距離変化と反射係数(インピーダンス実部)の変化を示すグラフ図である。
【
図18】ゲイン-ロス結合回路における共振器間の距離変化と反射係数(インピーダンス虚部)の変化を示すグラフ図である。
【
図19】各結合系のインピーダンス実部成分を示すグラフ図である。
図19(a)は、ロス-ロス結合回路に関するものであり、
図19(b)は、ゲイン-ロス結合回路に関するものである。
【
図20】磁界共鳴結合系を等価回路に変換したイメージ図である。
【
図21】上記パラメータを使用し、入力インピーダンス実部の絶対値を計算した結果を示す図である。
【
図22】入力インピーダンス実部の初期値に対する相対的な変化率を示す図である。
【
図23】アンペロメトリー法による反応特異性評価の概要を示すブロック図である。
【
図24】各濃度における電流の平均値・標準偏差(100秒間)を算出した結果の挿入図である。
【
図25】共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスの等価回路図である。
【
図26】共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスの構成を示す概要図である。
【
図27】周波数掃引による無線電力伝送システムの概要図である。
【
図28】周波数掃引による平滑コンデンサ上の直流電圧の変化を示すグラフ図である。
【
図29】グルコースセンサの入力インピーダンス実部成分であり、グルコース濃度を0.1~0.6(mM)に変化させたときの計測結果(周波数掃引回数5回における平均値)を示す図である。
【
図30】磁界共鳴結合系において、PT対象性保存領域を利用した高感度なバイオセンシングのコンセプト図である。
【
図31】グルコース濃度を0.1~0.6(mM)に変化させたときの(周波数掃引回数5回における平均値)結果を示す図である。
【
図32】この周波数特性をスミスチャート上にプロットしたものである。
【
図33】グルコース濃度を0.1~0.6(mM)に変化させたときの(周波数掃引回数5回における平均値)を示している。
【
図34】この周波数特性をスミスチャート上にプロットしたものである。
【
図35】グルコース濃度を0.1~0.6(mM)に変化させたときの(周波数掃引回数5回における平均値)である。
【
図36】この周波数特性をスミスチャート上にプロットしたものである。
【
図37】これらの実験結果を振幅変調度の観点から比較したグラフ図である。
【
図38】血中ラクテート濃度計測の実験概要図である。
【
図39】血中ラクテートの実際の計測システム図である。
【
図40】PT対称性を有する磁界共鳴結合系の入力インピーダンス実部の実測値を示している。
【
図41】PBSのラクテート濃度を0.0から4.0(mM)まで変化させた時、LOD酵素修飾繊維とAg/AgClとの間で発電性能がどのように変化するかをアンペロメトリー法にて計測した結果を示すグラフ図である。
【
図42】PBS中のラクテート濃度を0~4.0(mM)に変化させたときの計測結果(周波数掃引回数5回における平均値)である。
【
図43】閾値を境にインピーダンス実部が反転することを示す図である。
【
図44】この現象をスミスチャート上に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例としての回路の構成例を挙げながら、本発明を詳細に説明する。
図1に構成の一例を示すように、本発明によるセンサシステムは、リーダ側共振回路10とセンサ側共振回路20を有する。
図1の例では、リーダ側共振回路10の抵抗部分13の両端に、接続された被測定デバイスについて、伝送および反射電力の周波数特性を測定するための装置30が接続されている。
本発明によるリーダは(図示しない)、リーダ側共振回路10とセンサ側共振回路20とを有するセンサシステムの一部として使われる。リーダは、リーダ側共振回路10を有する。リーダは、高周波計測器である装置30(後述するVNAなど)と合わせて計測装置として用いられる場合がある。
本発明によるセンサは(図示しない)、リーダ側共振回路10とセンサ側共振回路20とを有するセンサシステムの一部として使われる。センサは、センサ側共振回路20を有する。なお、一つのリーダが複数のセンサを読み取ってもよいし、一つのセンサが複数のリーダに読み取られてもよい。
【0022】
(リーダ側共振回路)
リーダ側共振回路10は、コイル部分11と、キャパシタ部分12と、抵抗部分13とが並列に接続された共振回路(即ち、LCR並列共振回路)である。
【0023】
(ゲイン回路)
リーダ側共振回路10は、ゲイン回路であるように構成される。ゲイン回路については、上記したとおりである。
〔LCR並列共振回路がゲイン回路であるように構成される〕とは、具体的には、LC共振回路に負性抵抗(-R)を挿入することにより、特定の共振周波数においてエネルギーを供給する回路構成を意味する。
【0024】
(センサ側共振回路)
センサ側共振回路20もまた、コイル部分21と、キャパシタ部分22と、抵抗部分としてのセンサ素子(感知対象に応じて抵抗値が変化する可変抵抗センサ素子)23とが、並列に接続された共振回路(即ち、LCR並列共振回路)である。
可変抵抗センサ素子23は、感知対象の物質(例えば、涙液中のグルコースなど)との化学反応や、感知対象から受ける物理量(熱、光、電流、電圧、電界、磁界、速度、振動、力(圧力を含む)、及び形状変化(ひずみを含む)など)に応じて抵抗値が変化するように構成されたものである。
可変抵抗センサ素子23は、感知対象から機械的・電気的・(生)化学的に影響を受けて、抵抗値が変化する。
よって、可変抵抗センサ素子23の抵抗値の変化、または、それに応じた電流値の変化や電圧値の変化から、感知対象の状態(濃度の値や変化、存在の有無、物理量の値や変化など)を知ることが可能である。
例えば、可変抵抗センサ素子23は、脳波、心電図、筋電図、眼電図、網膜電図、および皮膚電図などによってあらわされる物理量に応じて、その抵抗値が変化するように構成することもでき、これにより上記物理量を検知することができる。
他の例として、可変抵抗センサ素子23は、血圧、心拍、脈拍、眼圧、血中酸素濃度、及び汗などの生体関連の物理量に応じて、その抵抗値が変化するように構成することもでき、これにより上記生体物理量も検知することができる。さらには、食品の腐敗による化学変化および温度変化、食品の熟成度および鮮度、並びに食品の冷凍(冷蔵)温度により可変抵抗センサ素子23の抵抗値が変化するように構成することもでき、これにより上記に列挙した物理量をも検知することができる。
【0025】
(ロス回路)
センサ側共振回路20は、ロス回路であるように構成される。ロス回路については、上記したとおりである。
〔LCR並列共振回路がロス回路であるように構成される〕とは、具体的には、特定の共振周波数においてエネルギーを損失するように回路が構成されることを意味する。
【0026】
(ゲイン-ロス結合回路)
リーダ側共振回路(ゲイン回路)10とセンサ側共振回路(ロス回路)20は、磁界共振結合によって互いに無線的に接続され、ゲイン-ロス結合回路を構成している。k1は結合係数である。
磁界共振結合(磁気共鳴結合ともいう)は、リーダ側共振回路10のコイル部分11とセンサ側共振回路20のコイル部分21との間の電磁誘導によって、リーダ側共振回路10とセンサ側共振回路20が互いに電気的に接続された状態をいい、あらかじめ共振周波数を一致させた2つの共振回路が、高周波磁界を媒体としてエネルギー的に接続された状態をいう。磁界共振結合の技術それ自体は、従来公知の技術を参照することができる。
【0027】
(パリティ・時間対称性)
本発明では、リーダ側共振回路10とセンサ側共振回路20とによるゲイン-ロス結合回路が、パリティ・時間対称性(以下、PT対称性ともいう)を有するように構成される。
本発明において、(ゲイン-ロス結合回路がPT対称性を有する)とは、ロス側の共振負荷で散逸するエネルギーをゲイン側回路で補うことにより、結果として共振周波数付近で保存系(ハミルトン系)が構築され、これにより、ゲイン-ロス結合回路として構成したシステムが、損失のない理想的なLC回路のように振舞う状態をいう。
ゲイン-ロス結合回路がPT対称性を有するためには、ロス側(センサ側)の共振回路の抵抗成分(R)とゲイン側(リーダ側)の共振回路の負性抵抗成分(-R)について、それぞれの絶対値を等しく設計する必要があり、なおかつ、それぞれのインダクタンス成分(L)とキャパシタンス成分(C)が回路的に同等の値を示す必要がある。
本発明では、前記の条件が満たされるように、リーダ側共振回路10のコイル部分11とキャパシタ部分12と抵抗部分13のそれぞれの値が選択され、かつ、センサ側共振回路20のコイル部分21とキャパシタ部分22と可変抵抗センサ素子23のそれぞれの値が選択されて、ゲイン-ロス結合回路にPT対称性が付与される。
すなわち、ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、リーダ側共振回路10およびセンサ側共振回路20が形成される。
【0028】
本発明では、センサ側共振回路20の抵抗値R23は、可変抵抗センサ素子23の抵抗値であるから、感知対象を感知することで変化する。しかし、PT対称性が成立する条件には幅があるので、可変抵抗センサ素子23の抵抗値の変化が所定の範囲内であれば、PT対称性は維持される。
よって、本発明では、PT対称性が成立した状態下において、可変抵抗センサ素子23によって感知対象の存在を検出することが可能である。換言すると、本発明では、PT対称性が保たれる範囲内で抵抗値が変化するような可変抵抗センサ素子23を用いることが好ましい。
リーダ側共振回路10における抵抗部分13の抵抗値、コイル部分11のインダクタンス、及びキャパシタ部分12のキャパシタンス、並びに、センサ側共振回路20におけるコイル部分21のインダクタンス、及びキャパシタ部分22のキャパシタンスの少なくとも1つは可変であり、ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、リーダ側共振回路10における抵抗値、インダクタンス、及びキャパシタンス、並びにセンサ側共振回路20におけるインダクタンス、及びキャパシタンスの少なくとも1つが調整される。この調整方法の一例については、
図9を用いて後述する。
なお実施の形態において、抵抗部分13の抵抗値が調整されることで、リーダ側共振回路10のインピーダンス実部成分が調整される。実施の形態において、コイル部分11のインダクタンス、及びキャパシタ部分12のキャパシタンスの少なくとも1つが調整されることで、リーダ側共振回路10のインピーダンス虚部成分が調整される。
なお、ゲイン-ロス結合回路がパリティ・時間対称性を有するように、リーダ側共振回路10およびセンサ側共振回路20が形成されるのであれば、リーダ側共振回路10における抵抗部分13の抵抗値、コイル部分11のインダクタンス、及びキャパシタ部分12のキャパシタンス、並びに、センサ側共振回路20におけるコイル部分21のインダクタンス、及びキャパシタ部分22のキャパシタンスの少なくとも一つは可変でなくてもよい。言い換えれば、これらの少なくとも一つは固定値であってもよい。
【0029】
リーダ側共振回路10とセンサ側共振回路20の各部(コイル部分、キャパシタ部分、抵抗部分)の実際の値は、特に限定はされないが、次に例示するような数値範囲のセットから選択すれば、汎用的な素子を用いて回路を構成し得るので好ましい。
(リーダ側共振回路10)
コイル部分11のインダクタンスL11:
L11は、L21と同等のインダクタンスを得る必要があるため、30~35(nH)程度が挙げられる(nHは、ナノヘンリーを示す単位記号である)。
キャパシタ部分12のキャパシタンスC12:
C12は、例えば、クラップ発振回路を構成する3つのキャパシタにより決定される。このとき、該クラップ発振回路を安定動作させるためには、各キャパシタC
1、C
2、C
3は、100~300(pF)程度の範囲であることが好ましい。このとき、合成容量であるC
12は、30~100(pF)程度である。
抵抗部分13の抵抗値R13:
抵抗値R13は、-700~-2000(Ω)程度が挙げられる。ここで、抵抗値に付与されたマイナス記号(即ち、抵抗値がマイナスであるということ)は、見かけ上、端子間に印加された電圧の増加に対して、電流が減少するような素子特性を示すことを表している。
上述したように、抵抗部分13の抵抗値R13、コイル部分11のインダクタンスL11、及びキャパシタ部分12のキャパシタンスC12の少なくとも1つは可変である。
なお、抵抗部分13の抵抗値R13、コイル部分11のインダクタンスL11、及びキャパシタ部分12のキャパシタンスC12は可変でなく、固定であってもよい。
(センサ側共振回路20)
コイル部分21のインダクタンスL21:
センサ側共振回路がコンタクトレンズに形成されるような例では、コイル部分は、該コンタクトレンズの外周縁(瞳孔に対応する中央の領域を避けた外周側の領域)を巡る円環状の回路パターンとして形成される。この円環状の回路パターンは、完全に閉じた円環ではなく、所定の小区間が欠落した円環状であり、その欠落した小区間の両端部である2つのコイル端部を通じて共振回路に接続可能なコイルとなっている。
本発明の実施例では、該コイル部分の巻き数は1である。涙液は、電極間でキャパシタンス成分を示すため、巻き数が2以上のコイル(アンテナ)をコンタクトレンズ上や含水率の高いソフトコンタクトレンズ内に実装すると、該涙液によるキャパシタンス成分が大きい外乱となり、予め設計した共振周波数が無視できない程に大きく変化してしまう。よって、本発明の実施例では、巻き数を1と定めている。
コンタクトレンズ上(またはその表層下)に形成される、コイル部分、抵抗部分、キャパシタ部分の配置構成自体は、従来公知の技術(いわゆる、スマートコンタクトレンズにおける回路構成やその形成方法)を参照することができ、それらの抵抗部分を、本発明に適合した可変抵抗センサ素子に置き換えることにより、本発明のセンサシステムのセンサ側共振回路を構成することができる。
図26は、コンタクトレンズ上への形成に適したセンサ側共振回路の構成の一例を示した図である。同図に示すように、円環状の銅箔回路パターン(コイル部分:L)と、共振回路用のキャパシタ(C)と、可変抵抗センサ素子(酵素修飾電極(作用電極)であるGODファイバとAg/AgClカウンター電極を有する2極型の2極式グルコースセンサ素子)とが、並列共振回路として配置されている。ブリッジダイオードや平滑用キャパシタは、全波整流や半波整流などの整流を目的として適宜に設けることができる。
前記のようなコンタクトレンズ上(またはその表層下)への回路形成の例では、L21は、該コンタクトレンズの直径内に収まるような1巻きコイルにより決定される。よって、コンタクトレンズ上に実装される1巻きコイルという条件下では、L21は、30~35(nH)程度が挙げられる。
キャパシタ部分22のキャパシタンスC22:
C22は、C12と同等の容量であることが必要であるので、30~100(pF)程度が挙げられる。
可変抵抗センサ素子(抵抗部分)23の抵抗値R23:
本発明の実施例で用いた酵素修飾電極(国際公開WO2012-002290号に記載されたカーボンナノチューブフィルム(2極式グルコースセンサ素子))を用いる場合、該2極式グルコースセンサ素子を組み込んだロス共振器の抵抗値R23は、約+700~+2000(Ω)を示す。この抵抗値を初期値として、可変抵抗センサ素子23の抵抗値R23は、約5(Ω)/0.1(mM)程度の変化を示す。
【0030】
(可変抵抗センサ素子の構成)
可変抵抗センサ素子は、上記したように、種々の感知対象(物質や物理量)を感知し得るように構成されたものであってよい。例えば、上記感知対象が、流体に含まれた物質(水などの液体に溶解した物質など)の場合、該可変抵抗センサ素子は、感知対象の物質を含んだ流体(溶液や懸濁液)と反応して自体の抵抗を変化させるように構成され得る。
【0031】
前記の流体としては、涙液、唾液、汗、尿、糞便、呼気、血液、リンパ液、間質液、細胞液、組織液、臓器液、および、これら以外の体液からなる群から選ばれる1以上の流体が例示される。
感知対象は、特に限定はされず、例えば:
涙液中、血液中、唾液中、間質液中のグルコース;
汗中、唾液中、間質液中、血液中のラクテート;
呼気中、汗中のアルコール;
汗中、唾液中、涙液中のコルチゾール;
涙液中、汗中、唾液中、間質液中のたんぱく質;
涙液中の抗体;
唾液中のバクテリア;
汗中のアドレナリンやストレス物質
などが挙げられる。
さらに、感知対象の一例として、代謝物(グルコース、ラクテート、ウレアなど)、イオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素など)、アルコール、ストレスマーカー(コルチゾール、カテコールなど)、癌マーカー(エクソソームなど)、及び炎症マーカー(マトリックスメタロプロテイナーゼ、プロカルシトニン、フェリチンなど)などが挙げられる。
【0032】
上記した感知対象の中でも、涙液中のグルコースは、極めて微量であり変化量も微小であり、かつ、(眼球表面にセンサを配置し、該センサと外部の計測装置とを有線で接続するといった回路)を構成することが困難であるから、本発明によるセンサシステムの有用性が特に顕著となる感知対象の1つである。
【0033】
前記した流体中の感知対象を感知し得る可変抵抗センサ素子の具体的な例としては、酵素電極、その他の化学抵抗器(金属酸化物、グラフェン、導電性高分子を用いたもの)などが挙げられ、グルコース選択反応性を持つ酵素電極を作用電極として用いたセル式センサ(2極型や3極型のもの)、グラフェン表面にグルコース反応酵素を修飾し、チャネルとして利用するFET型センサ、などが挙げられる。前記酵素電極は、回路の簡略化という点からは2極型のものが好ましく、例えば、国際公開WO2012-002290号に記載されたカーボンナノチューブフィルムは、グルコースを感知するための好ましい2極型の酵素電極となり得る。
【0034】
前記国際公開WO2012-002290号(または、その対応日本出願の特許第5652724号公報、またはその対応米国出願の米国特許第8921084号明細書)に記載されたカーボンナノチューブフィルムの主たる構成は、複数のカーボンナノチューブが集合して形成されたカーボンナノチューブ集合体と、前記複数のカーボンナノチューブ集合体に含まれる複数の酵素とを含むカーボンナノチューブフィルム(より好ましくは、カーボンナノチューブ自立フィルム)である。
このカーボンナノチューブフィルムは、デバイス全体の形態が薄く柔軟なフィルム状の2極型酵素電極であり得るという特徴から、コンタクトレンズの表面や涙液が浸透し得るソフトコンタクトレンズの表層下に好ましく配置し得るものである。よって、このカーボンナノチューブフィルムは、本発明によるセンサシステムをスマートコンタクトレンズに適用する場合には、センサ側共振回路のセンサ素子として好ましく利用することができる。
【0035】
種々の物理量(熱、光、電流、電圧、電界、磁界、速度、振動、力(圧力含む)、及び形状変化(ひずみ含む)など)に応じて抵抗値が変化する可変抵抗センサ素子としては、形状変化に応じて抵抗値が変化するひずみゲージ、温度変化に応じて抵抗値が変化する測温抵抗体、光の強度に応じて抵抗値が変化する光導電素子(CdSセル)、圧力に応じて抵抗値が変化するピエゾ抵抗素子などが例示される。
【0036】
感知対象が存在する場所は、特に限定はされず、例えば、生体(動物(人間、家畜、愛玩動物など)や植物)のみならず、鉱物、河川、海洋、人工物(装置、建造物など)、大気、惑星の表面や内部、宇宙空間などが挙げられる。
【0037】
センサ側共振回路20をどの様なセンサデバイスの態様として実施するかは、感知対象およびそれが存在する場所に応じて適宜に決定することができる。センサデバイスは、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスとして用いられてもよい。
実施の形態の1つの例として、センサ側共振回路20は、物体の表面または内部に位置している。物体とは、生体(動物、人体を含む)、衣服、寝具、おむつ、建造物、農作物、インプラント、ガラス、食品容器、及びその他高分子物質などを含んでいる。
センサ側共振回路20は、電磁界が透過出来る物体の表面や内部に形成される。物体の材質は、磁界共振結合への影響度が小さい材質である。例えば、センサ側共振回路20は、コンタクトレンズに位置している。センサ側共振回路20は、例えば、コンタクレンズの表面に設けられたり、コンタクレンズの内部へ埋め込まれたりされる。
感知対象が涙液中のグルコースの場合、センサデバイスは、コンタクトレンズ上にセンサ側共振回路20が形成された態様が好ましい。
別の例として、センサ側共振回路20は、人体の表面や体内に位置している。センサ側共振回路20は、例えば、生体(皮膚、臓器、血管、脳内、及び歯など)の表面に設けられたり、体内へ埋め込まれたりされる。 感知対象が人間の汗に含まれた生化学物質である場合、センサデバイスは、皮膚に貼り付けるパッチ型センサデバイスなどの態様が例示される。
感知対象が動物の血液に含まれた生化学物質である場合、センサデバイスは、いわゆる埋め込み型デバイス(生体内の目的の臓器や血管内に埋め込まれるデバイス)などの態様が例示される。
さらに別の例として、センサ側共振回路20は、例えば、高分子やガラスなどの表面に設けられたり、高分子やガラスなどの内部へ埋め込まれたりする
また、センサ側共振回路20は、複数設けられていてもよい。たとえば、睡眠に関連するデータを計測する際に、脳波、心拍、血圧、脈拍、動作、およびその他睡眠に関するパラメータを測定できるするように、複数のセンサ側共振回路20が設けられていてもよい。
睡眠に関連するデータを計測する場合、センサ側共振回路20が設けられた複数のセンサ側共振回路20(センサ)を寝間着に埋め込んだり、身体に直接装着したり、寝具(枕やマットなど)に埋め込んだりしてもよい。
また、センサ側共振回路20の別の用途として、食品関連事業に使用されてもよい。センサ側共振回路20(センサ)は、食料品のパッケージ(食品容器含む)に取り付けられたり埋め込まれたりしていてもよい。この場合、センサにより、食品の熟成度や鮮度など、さまざまなパラメータを測定することができる。例えば、センサは食品の化学変化を検出することができる。センサは、食品が腐っていることを検出することもできる。別の例として、センサは、冷凍または冷蔵商品の温度変化を検出することもできる。このようにセンサを使用することにより、食品の劣化を事前に検知し、食品ロスを軽減することができる。
微小な抵抗変化を検知できる本願のセンサシステムの使用例は、上記に限られず、プール・水槽などの水質調査、ストレスホルモンの検出によるメンタルヘルスケア、建造物の老朽化の検出、地震予知などの災害対策、スマート農業など、様々な分野で使用することができる。
【0038】
図1に例示するように、本発明のセンサシステムには、センサ側共振回路20中のセンサ素子23の抵抗値を、リーダ側共振回路10を通じて測定する測定装置30が接続される。また、センサ側共振回路20に対してワイヤレスに所定の周波数の電力を供給する給電装置も設けられる。これら測定装置や給電装置は、市販のものから適宜に選択して用いてもよいし、本発明のために構築したものであってもよい。
図1の例では、そのような測定装置および給電装置として、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)が用いられている。VNAは、接続された被測定デバイスに周波数掃引型の信号を加え、反射波および進行波の振幅と位相を計測することで、デバイスの周波数特性を評価する機能を有する。また、VNAは、周波数掃引により、デバイスにAC電力を供給する役目も担っている。下記の実施例では、アンリツ株式会社製のVNA(製品番号MS46122B)が用いられ、電力出力は3.2(mW)である。
【実施例】
【0039】
以下、可変抵抗センサ素子を抵抗部分として含んだセンサ側共振回路(ロス回路として構成したLCR並列共振回路)とリーダ側共振回路(ゲイン回路として構成したLCR並列共振回路)とを磁界共振結合によってロス-ゲイン結合回路として結合した場合において、PT対称性が成立することを証明し、共振周波数の尖鋭化(感度増幅)を確認した実験結果を示す。
【0040】
量子力学において、観測可能な物理量(オブザーバル)に対応する演算子はすべて実数であるので、そのエネルギー演算子(ハミルトニアン演算子)はエルミートであるという原理がある。
ここで、
は、系のエネルギーを表す物理量(オブザーバル)であるため,その固有値を解くことで系がとりえる固有エネルギーを特定することができる。
【0041】
一方、近年になり、エルミート演算子でなくてもその固有値が実数になりえることが分かってきた。これを実現する原理が、1998年にBenderとBoettcherによって提案されたPT対称性である(非特許文献10)。
ここで、パリティ(P)は、空間反転(x → -x)を意味し、時間(T)は、時間反転(t → -t)を意味する。
もし、対象となる物理系がこの2つのPT変換によって変わらないものであるならば、そのハミルトニアン演算子は、非エルミートであるにも関わらず、実数の固有値を持つことになる。即ち、PT対称性が満たされる条件下においては、一般に非エルミートなハミルトニアンが有する複素数の固有値が、実固有値(虚部成分が0)となる。
【0042】
このように複素固有値が実固有値に変わるポイントを、特異点(Exceptional Point(EP))と呼ぶ。EPでは、複数固有値の融合と非エルミート縮退が観測可能である。即ち、1つの系において、2つ以上の異なった固有値が同じエネルギー準位を持つ。このような非エルミート系におけるPT対称性は、これまで様々な物理系(例えば、結合導波路(非特許文献11、12)、微小共振器(非特許文献13、14、15、16)、プラズモニクス(非特許文献17)、マイクロ波共振器(非特許文献18、19)、レーザー(非特許文献20、21、22)、原子スペクトル(非特許文献23)、機械系(非特許文献24)、音響系(非特許文献25、26)など)に応用されている。なかでも、電気的な素子(コイル、キャパシタ、抵抗)から成る共振結合系への応用は、2011年にSchindlerらによってはじめて実証されており(非特許文献27)、この原理を用いた、眼圧センサ(非特許文献1)、マイクロ位置センサ(非特許文献2)、グルコースセンサ(非特許文献28)が報告されている。
【0043】
従来型の共振結合回路(ロス-ロス結合回路)を利用する多くのバッテリーフリー・パッシブセンサの場合、センサ側の変化を高感度に読み取るために、如何にして共振結合系によるエネルギー散逸を防ぎ、系のQ値(感度)を改善するかが課題となる。そのような課題に対して、PT対称性(ゲイン共振回路の利得とロス共振回路の損失との間におけるエネルギー的な釣り合いが保たれた状態)を導入することで、結果的にEP付近ではほとんど無損失(高Q値)な結合状態を作り出すことができる。
【0044】
本実施例では、磁界共鳴結合モデル(2つのLCR並列共振回路(一方の並列共振回路は、抵抗部分として可変抵抗センサを含んでいる)を並列に接続した構成)におけるPT対称性の数理的シミュレーションを実施し、対応する電気回路または電子回路を実構築することで、固有値が実部となるEPの存在を実験的に確認した。特に、EP付近では外界からの微弱な摂動(本稿ではグルコース濃度やラクテート濃度に伴う化学抵抗器のインピーダンス変化を取り扱う)に対する結合系の変化が著しく大きくなることを明らかにした。
【0045】
(パリティ・時間(PT)対称性共有結合によるセンサ駆動周波数の尖鋭化)
本実施例で使用した結合系は、2つのLCR並列共振回路により構成され、1次側のLCR並列共振回路をリーダ側共振回路、2次側のLCR並列共振回路をセンサ側共振回路として扱った(
図2)。
図2に示した等価回路図より、各キャパシタに蓄えられる電荷の振幅値に関する演算子(下記式12)を導出する。下記式12およびその詳細な導出過程は後述する。他の式とその詳細な導出過程も後述する。
【0046】
これは、磁界共鳴結合回路に複素正弦波要素を加えた結合モード解析と同義であり、ωについて行列式を解くことで系の固有値を計算することができる(下記式(46))。
【0047】
ここで、LCR並列共振回路の結合度合いをシミュレーションモデルにて変化させることで、ロス-ロス結合回路とゲイン-ロス結合回路におけるそれぞれの系の固有値変化を観測する。
使用した各構成要素は、次のとおりである。
銅製ループコイル(ワイヤ直径:0.238(mm)、ループ直径:13(mm))のインダクタンスL1、L2は、32(nH)である。
コイルに接続された積層セラミックコンデンサのキャパシティC1、C2は、90(pF)である。
2つのLCR並列共振回路同士の間の相互インダクタンスMは、
M=k(L1×L2)(1/2)
によって定義される。前記式中、kは結合係数を意味する。
【0048】
PT対称性を実現するためには、それぞれのリアクタンス素子(インダクター/キャパシタコイルとキャパシタ)を等しく、抵抗成分を正反対に設計する必要がある。
このとき、得られた算出式を用いて結合係数kを0から0.05まで変化させた時の、ナイキストプロットを
図3のグラフ図に示し、インピーダンスプロットを
図4のグラフ図に示す。
【0049】
図3、
図4のグラフ図より、ゲイン-ロス結合では、固有値の虚部成分がEP(k=0.017709)以降で0になり、結果として、結合系が実固有値を維持している。この実固有値を維持できる領域(k>0.017709)を「Exact-PT」と呼び、複素固有値を持つ領域(k<0.017709)を「Broken-PT」と呼ぶ。一方、ロス-ロス結合では、結合係数kの変化によって、虚部成分が0になる領域は存在しないことが見て取れる。
【0050】
一般的に、磁界共鳴結合は、近傍界における磁界結合を主体としており、結合係数は、1次コイルから発生した磁界がどの程度2次コイルに鎖交しているかを表す無次元数である。結合係数kは、コイル間の垂直方向距離d、水平方向の位置ずれl(lはLの小文字である)、傾斜角θ、透磁率μ
0、および、各共振回路のコイル半径r1、r2=13(mm)、巻き数N1、N2=1、インダクタンスL1、L2=32(nH)により定義可能である(
図5、下記式47、非特許文献30)。
【0051】
本実施例では、垂直方向距離以外のパラメータを固定した状態で、平行に配置した共振回路間の距離dを変化させたときの結合係数(シミュレーション値)を計算し、EPの距離を求めた(
図6のグラフ図)。
【0052】
次に、上記シミュレーション値に対応する電子回路を実際に構築し、共振回路同士の間の距離を変化させたときの入力インピーダンスをネットワークアナライザ上で観測する。
【0053】
ここで、実際に使用する共振回路は、ロス回路とゲイン回路の2種類に分けることができ、従来型の散逸系をロス-ロス結合回路、共振点付近においてPT対称性を実現する一部保存系をゲイン-ロス結合回路とする。このとき、各共振回路の等価回路は電気素子であるコイル(インダクタンス)Lとキャパシタ(キャパシタンス)Cと抵抗Rとを用いて、
図7のように表現することができ、共振点における各共振回路(ロス回路とゲイン回路)のインピーダンス実部は、プラス値またはマイナス値を示す。
図8は、ロス共振器およびゲイン共振器の、それぞれの反射係数特性(インピーダンス形式)を示すグラフ図である。
図8では、本実施例で作成した共振回路(ロス回路とゲイン回路)のインピーダンス特性を示している。
【0054】
ゲイン回路である共振回路を構成する等価的な負性抵抗は、これまでにオペアンプ(operational amplifier)やMOSFETを用いた帰還型発振回路により実装されているが、本実施例では、ゲート-ドレイン間容量の小さいデュアルゲートMOSFET(NXP Semiconductors 社製、製品番号BF992)を用いたクラップ発振回路を作成し(
図9)、周波数安定性の高い負性抵抗を実現した。
【0055】
使用した各パラメータは以下の通りである。
バイアス抵抗R1=4.7(kΩ)
R2=2.2(kΩ)
ソース抵抗Rs=120(Ω)
ソースキャパシタCs=180(pF)
バイパスキャパシタCi、Co=100(pF)
発振用キャパシタC1、C2=300(pF)
C3=270±(10~50)(pF)
インダクタンスL=32(nH)
【0056】
本実施例では、リーダ側共振回路10におけるキャパシタC3(抵抗部分)が可変であり、ゲイン-ロス結合回路がPT対称性を有するように、リーダの共振周波数を調整する。
【0057】
実装したクラップ発振回路は、回路変形によりLCR並列接続回路として取り扱うことができる。まず、簡易的に表現したクラップ発振回路を
図10(a)、(b)、(c)に順に示すように分解し、FETと発振用キャパシタC
1、C
2で構成された回路をキャパシタンス成分C
oと抵抗成分R
seriesの直列回路として表す(
図10(c)))。
【0058】
ここで、負性抵抗を計算するための等価回路図(
図11)を用いて、直列接続されたC
oとR
seriesのインピーダンスが計算可能である(下記式51)。
【0059】
ここで得られた定義式を用いて、インダクタンス側から見た場合の入力インピーダンスは、
図12(a)、(b)、(c)に順に変形して示すように、並列接続されたC
parallelとR
parallelとして表現可能である(下記式55、下記式56)。
【0060】
式55、式56より、ゲイン共振回路の負性抵抗Rparallelは、FETの相互コンダクタンスgm(ゲート電圧の変化量に対する、ドレイン電流の変化量の割合)、および、共振角周波数ω、発振用キャパシタC1、C2により定義され、マイナスの値を示すことが分かる。また、負性抵抗の値は、FETへの印加電圧により約-800~-1200(Ω)の範囲で調整可能である。
【0061】
一方で、ゲイン共振回路のキャパシタCseriesは、C1、C2、C3の合成キャパシタとして表現される。ここで、下記式56に示したQ値の絶対値が1より十分大きい場合、各並列素子の成分は、
Rparallel≒Rseries×Q2、
Cparallel≒Cseries
と近似できる。
以上より、作成したゲイン共振回路が、LCR並列接続回路と対応することが分かる。
【0062】
図13は、実際に作製したゲイン共振器(クラップ発振回路)の外観を示す図である。このゲイン共振器の負性抵抗(R
1)は、MOSFETに印加する電圧(V
G1,V
G2)により調整可能である。
図14は、V
G1を変化させたときのインピーダンス変化を示すグラフ図である。ゲイン共振器の調整機能を評価するため,V
G2を固定し(V
G2=6.0V)、V
G1を変化させた(V
G1=4.0~6.5V)ときのインピーダンス変化を確認した。
このとき,インピーダンス実部成分(Re(Z
in))は―17545(Ω)から-773(Ω)に変化し,共振周波数は88.08(MHz)から88.29(MHz)に変化した。
以上の結果より、本項で作製したゲイン共振器は、印加電圧に応じて負性抵抗値と共振周波数を調整可能であること分かった。以下の実験において,PT対称性を構築する場合はこのゲイン共振器を用いることとする。
【0063】
最後に、これら共振回路(ロス回路とゲイン回路)を用いて、散逸系(ロス-ロス結合回路)、および、一部保存系(ゲイン-ロス結合回路)を実際に構築し、共振回路同士の間の距離d(結合係数k)を変化させたときの結合系の変化を観測した。
【0064】
本実施例では、一対の共振回路から成る結合系を評価するため、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)を使用した反射係数の計測を実施した。
図7のように1次側共振回路(リーダ側共振回路)をVNAのポート1に接続し、入力インピーダンスを記録した。
従来型の散逸系(ロス-ロス結合回路)において、共振回路距離を変化させたときの反射係数変化をインピーダンス(実部/虚部)変化として示す(
図15、
図16)。
【0065】
共振回路間の距離が縮まるにつれて、コイル同士の相互インダクタンスが変化することから、結合系の共振周波数が2つに分かれる様子が見て取れる。これを強結合領域と呼ぶ。
【0066】
一方で、一部保存系(ゲイン-ロス結合回路)においても、共振周波数が2つに分岐するポイントが距離d=15(mm)付近で見て取れる(
図17、
図18)。
しかしながら、ロス-ロス結合回路と比較すると共振周波数付近のインピーダンス値スケールが約30倍に増大していることが分かる。また、周波数の狭帯域化(尖鋭化)が観測された。これは、尖鋭度Q=f
0/(f
2-f
1)を用いて評価可能であり(
図19)、各尖鋭度は以下の通りである。
【0067】
ロス-ロス結合回路:Q=109.35
ゲイン-ロス結合回路:Q=3074.21
また、距離d=15(mm)付近では、共振周波数付近において、ゲイン(利得)とロス(損失)のエネルギー的な釣り合いがとれたPT対称性が維持できていると推察できる。
従って、
図4で示した結合系におけるExact-PT領域(複素固有値の虚部成分が0)での固有値の状態は、実構築回路における急増した反射係数のインピーダンス値として観測可能である。
【0068】
(センサ側共振回路20の抵抗の抵抗変化量(Δr)とインピーダンス(Z
in)の関係)
本発明で構成する磁界共鳴結合系について、リーダ側から見た場合の入力インピーダンス(Z
in)を数式化し、センサ側抵抗で発生する微弱な抵抗変化(Δr)に対して振幅がどのように変化するかをシミュレーションすることで、本発明の優位性と汎用性を示す。
図20は、磁界共鳴結合系を等価回路に変換したイメージ図である。
図20のように磁界共鳴結合系を変換すると、Z
inは式(1A)のように示される。
ここで、L
n・C
n・R
nは、各共振器のインダクタンス、キャパシタンス、レジスタンスを表している。また、L
M(=k(L
1×L
2)
(1/2))は相互インダクタンスを意味しており、kは結合係数である。
このとき、各共振器のレジスタンス成分を変化させたときの入力インピーダンス変化についてシミュレーションを行う。リーダ側抵抗(R
1)を-2(kΩ)から2(kΩ)の範囲で変化させた。これは、リーダ側共振器の特性をゲインからロスの範囲で変化させるためである(R
1=-2(kΩ)~0(Ω):ゲイン、R
1=0(Ω)~2(kΩ):ロス)。
【0069】
次に、センサ側抵抗(R
2)を1(kΩ)から990(Ω)の範囲で変化させた。これは、センサ素子で発生する微弱な抵抗変化(Δr)を再現したパラメータである。また結合係数に関しては、
図3及び
図4を用いて説明した固有値シミュレーション結果から導かれた値(k
EP=0.017709)を利用することで、PT対称性において最も特異的な振幅変化が観測可能なEPを再現する。
【0070】
図21は、上記パラメータを使用し、入力インピーダンス実部の絶対値(|Re(Z
in)|)を計算した結果を示す図である。
図21は、―2000(Ω)≦R
1<0と、0≦R
1≦2000(Ω)の範囲で、領域が分けられており、それぞれゲイン-ロス結合/ロス-ロス結合を意味している。ここで|Re(Z
in)|について、リーダ側抵抗がR
1=-1(kΩ)、およびセンサ側抵抗がR
2=1(kΩ)のとき、急峻なピークを迎えていることが分かる。
これはリーダ側とセンサ側でゲインとロスの釣り合いが保たれており、結果としてk
EP=0.017709の条件においてシステムがEPに到達することを意味している。
【0071】
次に、センサ側で発生する化学抵抗変化(Δr)に対して、入力インピーダンス(Zin)がどのように変化するか確認する。まず、Δrに対する|Re(Zin)|の変化をΔRe(Zin)として以下のように定義する
ΔRe(Zin)=|Re(Zin(i))― Re(Zin(0))|
ここで、図中のEPからΔrだけ変化したときのΔRe(Zin)は、非常に大きな値を示すことが分かる。これは、ゲインとロスの均衡が保たれている状態(EP)から、ゲインとロスの均衡が崩壊した様子を表しており、ΔRe(Zin)の変化率は均衡崩壊に伴って指数関数的に減衰していく様子が見て取れる。
【0072】
以上より、EP付近でセンサ側の抵抗値(R2)が微弱に変化すると、入力インピーダンス実部(Re(Zin))が急激に変化することが分かった。これは、センサ側で発生する微弱な抵抗変化に対して、非常に特異的な振幅変調が可能であることを意味している。
【0073】
次に、Δrに対する|Re(Z
in)|の変化について、より詳しい数値解析を行う。
図22は、入力インピーダンス実部の初期値(Re(Z
in(0)))に対する相対的な変化率|ΔRe(Z
in)/ Re(Z
in(0))|を示す図であり、センサ側の抵抗変化量(Δr)に対する振幅変調度をシミュレーションした結果である。
ここで、センサ側で発生する抵抗変化はΔr=|R
2(i) ― R
2(0)|と定義する。また、センサの初期抵抗は、R
2(0)=1(kΩ)とした。このとき、各数値解析で用いたシステム構成とパラメータは以下の通りである。
PT-symmetric at EP(ゲイン-ロス結合、k/k
EP=1)、Broken PT-symmetric(ゲイン-ロス結合、k/k
EP=0.9972、k/k
EP=0.9887)、Conventional(ロス-ロス結合、k/k
EP=1)
まず、EPを実現するPT対称性結合系(k/k
EP=1、グレー実線)について、Δrが0から0.5(Ω)に変化する範囲で、入力インピーダンス実部の相対変化率は急激に増加することが分かる(グレー塗りつぶし部分)。
【0074】
しかしながら、その後は,変化率の増加傾向が指数関数的に減衰していき、|ΔRe(Zin)/ Re(Zin(0))|=100(%)に収束する様子が見て取れる。
この結果から、EP上ではセンサ側の抵抗変化量(Δr)が微弱な場合のみ、無限大に近い入力インピーダンス実部の変化(振幅変調度)が得られることが分かった。これは、上記で解説したように,リーダ側とセンサ側でゲインとロスの釣り合いが保たれている状態(EP)から、ゲインとロスの均衡が崩壊する変遷を表しており、EP付近において、その変化率が特に顕著であることを意味している。
【0075】
次に、Broken領域にあるPT対称性について考察する。
図3及び
図4で解説したように、PT対称性を満たす磁界共鳴結合系は、結合係数(k)の値により、Broken-PT領域とExact-PT領域に分けることができる。そこで、EPの比較対象として、2種類のBroken-PT(k/k
EP=0.9972(黒色実線)、k/k
EP=0.9887(黒色点線))を設定し、シミュレーションを行った。その結果、Broken-PTにおける入力インピーダンス実部の変化率は、EPの場合と比べて緩やかな増加を示し、その傾向はk/k
EPの減少に伴って減衰することが分かった。特に、k/k
EP=0.9887の場合、システムの変化率は線形に近い増加傾向を示している。一方で、Δrが0から0.5(Ω)に変化した場合、|ΔRe(Z
in)/ Re(Z
in(0))|=2.1(%)を示すことから、入力インピーダンス実部の変化率は低下していることが分かる。
ここで、既存の結合系(Conventional、グレー点線)においても、グルコース濃度の増加に伴った線形的な変化率が得られるが、Δrが0から0.5(Ω)に変化した場合、|ΔRe(Z
in)/ Re(Z
in(0))|=0.02(%)を示すことから、入力インピーダンス実部はほとんど変化しないと言える。これは、センサ側の抵抗変化量(Δr)に対して振幅の変調度が0に近いことを意味している。
【0076】
以上、上述したシミュレーション結果より、LCR並列共振回路を用いた磁界結合系にPT対称性を導入することで、センサ側の抵抗変化に応じた振幅変調度合の向上と調整が可能であることが分かった。とりわけ、Broken-PTを示すシステムでは、センサ側の抵抗変化に対して線形の振幅変調(AM:Amplitude Modulation)が可能であり、センサ側の抵抗変化が微弱であっても、リーダ側では増幅された変調度を得ることが出来る。この特性を活用すれば、生体信号や環境変化に応じて微弱な抵抗変化を及ぼすLCR共振器型センサの感度を向上させることができる。
一方、本発明はアナログ変調方式のみならず、デジタル変調方式にも応用可能である。例えば、振幅偏移変調(ASK:Amplitude Shift Keying)のような2値情報(“0:振幅小”or“1:振幅大”)を使った伝搬手法において、EP付近での特異的な振幅変化を応用することで、微弱な負荷抵抗の変化に対して、ほとんど100%の振幅変調度を示す2値情報を生成することが出来る。
【0077】
(共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスとグルコース計測)
対象生体物質の化学的変化を電気信号に変換し、数値化するデバイスを、バイオセンサと呼ぶ。中でも、酵素を用いたバイオセンサは、生体由来の材料で構成可能であり、かつ特定の化学反応のみを選択的に触媒する基質特異性を有していることから、医療分野での応用が期待されている。
【0078】
本実施例では、酵素を修飾した繊維(酵素修飾繊維)を有する可変抵抗センサ素子と無線給電素子を組み合わせた共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスを構築した。この酵素修飾繊維の詳細な構成は、国際公開WO2012-002290号に記載されたカーボンナノチューブフィルムを参照することができる。
酵素反応(GOD:グルコースオキシダーゼ)による電気化学的な特性変化を応用することで、グルコース濃度に依存した可変化学抵抗器を作成可能である。本実施例では、この化学抵抗器とLC共振回路を組み合わせることで、涙中グルコースのワイヤレス・センシングを実現するバイオセンサを実際に作製した。
【0079】
臨床試験による血糖値と涙中糖度の相関性は従来公知の研究で証明されており(非特許文献3、9、29)、涙液に含まれるグルコース濃度の平均値は、健常者0.16±0.03(mM)、糖尿病患者0.35±0.04(mM)であると報告されている。
また、ぶどう糖負荷試験による変動範囲は、それぞれ健常者0.10~0.30(mM)、糖尿病患者0.15~0.60(mM)である。
この微小な涙中グルコースの濃度変動を読み取り対象と定める。
【0080】
本実施例では、GOD酵素修飾繊維と銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)による電池を構築し、両極に電位を与えたときに酵素修飾繊維上で得られる電流値に起因した抵抗値をセンサが示す値と定める。
ここで、一定の電位が印加された状態で、溶液中のグルコース濃度を変化させると、酵素修飾繊維で反応特異性により電子受容性能が変化し、結果としてセンサの抵抗値が変化する仕組みである。
【0081】
実際に、人工涙液のグルコース濃度を0.0から1.0(mM)まで変化させた時、GOD酵素修飾繊維とAg/AgClとの間で発電性能がどのように変化するかをアンペロメトリー法にて計測した(
図23)。
図24は、各濃度における電流の平均値・標準偏差(100秒間)を算出した結果の挿入図である。これらの結果より、各濃度における電流の平均値は以下の通りであった。
5.89(μA):0(mM)、7.64(μA):0.1(mM)、9.12(μA):0.2(mM)、10.75(μA):0.3(mM)、12.50(μA):0.4(mM)、14.33(μA):0.5(mM)、16.24(μA):0.6(mM)、18.22(μA):0.7(mM)、19.76(μA):0.8(mM)、21.68(μA):0.9(mM)、23.21(μA):1.0(mM)
【0082】
以上より、GOD電極はグルコース濃度の変化に対して1.57(μA)/0.1(mM)のセンサ感度を有し、0~1.0(mM)のレンジでは線形増加を示すことが分かった。この酸化電流の変化は抵抗値変化と捉えることができ、LC共振回路に並列接続された可変抵抗Rとして扱うことが出来る(
図25)。
このとき、Rの変化は、LCR並列共振回路が共振した際のインピーダンス実部成分の値に影響を及ぼす。従って、グルコース濃度に起因した振幅変調(AM:Amplitude Modulation)が可能となる。実際に作成した共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスの概要図を
図26に示す。
【0083】
全波整流回路は、ブリッジダイオード(BAS4002A-RPP)、ダイオードキャパシタンスC
diode=2~5(pF)と、平滑化コンデンサC
smooth=22(μF)により構成される。GOD酵素修飾繊維とAg/AgClとの間に印加される直流電圧は、共振用キャパシタCから取り出した交流電圧を整流したものである。
具体的な整流方法は、共振用キャパシタに並列接続されたブリッジダイオードによる全波整流とコンデンサC
smoothによる平滑化によって実装される。即ち、前記の交流電圧は、並列接続されたブリッジダイオードにより全波整流され、平滑化コンデンサC
smoothにより直流電圧源として取り扱うことができる。1次共振回路から発生する高周波磁界は、ネットワークアナライザの周波数掃引により規定され、励振周波数と共振回路の固有周波数が一致した時、最も高い電力伝送効率を示す(
図27)。
例えば、共振周波数から離れた領域(A)では、平滑化コンデンサ両端で得られる電圧は0.5(V)程度に留まるのに対して、共振周波数近くの領域(B)では、所望の直流電圧が得られることになる(
図28)。
【0084】
以上より、本発明によるバイオセンサは、共振周波数付近において、GOD酵素修飾繊維とAg/AgClの間に直流電圧を印加し電気化学反応を促進することで、抵抗値が変化する仕組みである。
図29は、グルコースセンサの入力インピーダンス実部成分(Re(Z
in))であり、グルコース濃度を0.1~0.6(mM)に変化させたときの計測結果(周波数掃引回数5回における平均値)を示す図である。
図29の上(右)図は、
図29の下(左)図のインピーダンス実部成分(Re(Z
in))のピーク付近(点線丸枠部分)の拡大図である。
また、各濃度における共振時のRe(Z
in)をプロットした結果を挿入図に示す(周波数掃引回数5回における平均値と標準偏差)。ここで、各濃度変化に伴うRe(Z
in)の平均値は以下の通りであった。
1085(Ω):0.1(mM)、1084(Ω):0.2(mM)、1082(Ω):0.3(mM)、1080(Ω):0.4(mM)、1079(Ω):0.5(mM)、1077(Ω):0.6(mM)
これは、グルコース濃度に伴った酸化電流の増加、即ち化学抵抗値の減少を意味しており、センサ感度は1.6(Ω)/0.1(mM)である。
【0085】
(PT対称性保存領域における無線式グルコースセンシング)
磁界共鳴結合系において、PT対象性保存領域を利用した高感度なバイオセンシングのコンセプト図を示す(
図30)。
【0086】
まず、上述したバイオセンサをPDMS製のコンタクトレンズに包含することで、コンタクトレンズ型バイオセンサを作製する。
その後、眼球表面上で得られた涙中グルコースを利用し、ロス共振回路の負荷変調を誘発する。
最終的に、PT対称性が保存された磁界共鳴結合によって、その抵抗値変化をゲイン共振回路側で高感度に読み取るというアイデアである。ここで、
図30の実験環境を用いて、人口涙液のグルコース濃度変化をワイヤレスに計測した結果を示す。
【0087】
図30に示した磁界共鳴結合系を実験的に構築し、ロス-ロス結合における入力インピーダンス(Z
in)を計測した。リーダ/センサ間の伝送距離は14.9(mm)とし、リーダにはロス共振器、センサにはGOD電極を搭載した共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスを使用した。
【0088】
図31は、上記の設定で入力インピーダンス実部成分(Re(Z
in))を計測した結果を示す図である。
図31の上(右)図は、
図31の下(左)図のインピーダンス実部成分(Re(Z
in))の88(MHz)付近(点線丸枠部分)の拡大図である。
図31は、グルコース濃度を0.1(mM)~0.6(mM)に変化させたとき(周波数掃引回数5回における平均値)の結果を示している。
また
図31中に、各濃度における共振時のRe(Z
in)をプロットした結果を挿入図として示している(周波数掃引回数5回における平均値と標準偏差)。ここで、各濃度変化に伴うRe(Z
in)の平均値は以下の通りであった
545(Ω):0.1(mM)、546(Ω):0.2(mM)、547(Ω):0.3(mM)、548(Ω):0.4(mM)、549(Ω):0.5(mM)、550(Ω):0.6(mM)。
この結果より、センサ側で発生した化学抵抗器の変化が、磁界共鳴結合を介して、リーダ側で読み取り可能であることが実証された。また、そのセンサ感度は1.0(Ω)/0.1(mM)であった。
【0089】
図32は、この周波数特性をスミスチャート上にプロットしたものであり、
図32の右図は共振点付近(点線丸枠部分)の拡大図を示している。この結果から、リーダとグルコースセンサを磁界共鳴結合させることで、センサ側で検出したグルコース濃度を振幅変調として無線計測可能であると言える。
次に、ゲイン-ロス結合における入力インピーダンス(Z
in)を計測した。リーダ/センサ間の伝送距離は14.9(mm)とし、リーダにはゲイン共振器、センサにはGOD電極を搭載した共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスを使用した。
厳密なEPの実現については,ネットワークアナライザ上でインピーダンス特性を確認しながら、共振器間の距離を調整することで達成した。ゲイン共振器をリーダとして使用し、PT対称性(EP)を満たした場合の実験結果を
図33に示す。
【0090】
図33は、グルコース濃度を0.1~0.6(mM)に変化させたときのRe(Z
in)(周波数掃引回数5回における平均値)を示している。
図33の上(右)図は、
図33の下(左)図のインピーダンス実部成分(Re(Zin))の88(MHz)付近(点線丸枠部分)の拡大図である。また、
図33中に、各濃度において共振時のRe(Z
in)をプロットした結果を挿入図に示す(周波数掃引回数5回における平均値と標準偏差)。ここで、各濃度変化に伴うRe(Z
in)平均値は以下の通りであった。
-677.5(kΩ):0.1(mM)、-145.8(kΩ):0.2(mM)、-61.2(kΩ):0.3(mM)、-28.3(kΩ):0.4(mM)、-24.8(kΩ):0.5(mM)、-19.4(kΩ):0.6(mM)
図31と比較して、入力インピーダンス実部の周波数特性は狭帯域化されており、非常に急峻なピーク値を示すことが分かる。とりわけ、0.1(mM)におけるRe(Z
in)
の値は-677.5(kΩ)と大きく、EPに到達していると考えられる。従って、この初期値においては結合系がほとんど無損失(Z
in ≒ ∞)、かつ高Q値を示していると言える。
【0091】
図34は、この周波数特性をスミスチャート上にプロットしたものであり、
図34の右図は、OPEN(Re(Z
in)= ∞)付近(
図34の左図の点線丸枠部分)の拡大図を示している。反射係数の軌跡は、グルコース濃度が初期値(0.1 mM)のとき、共振点においてOPENに位置していることが分かる。
また、グルコース濃度が増加するのに伴ってこの軌跡は右上にシフトし、共振点がOPENから遠ざかる様子が窺える。ロス共振器から成る従来までの散逸系では、反射係数がOPENに位置すること決してなく、無損失な結合系の実装は不可能であった。しかしながら、PT対称性という概念を用いることで共振周波数における結合系の無損失化が可能となる。
また、
図33中の挿入図より、グルコース濃度が0.1~0.2(mM)に変化したとき、Re(Z
in)の変化率が特異的に大きくなることが分かる。一方で、0.2(mM)~0.6(mM)の範囲ではその変化率が徐々に緩慢になる傾向が確認できる。これは、EP付近における顕著なRe(Z
in)の変化率を意味している。
【0092】
一方、グルコース濃度が0.1(mM)の場合において、Re(Zin)のエラーバーが比較的大きくなっていることが分かる。これは、本発明で実施例として作製したクラップ発振回路や化学抵抗器における数値的ばらつき(意図しない誤差)がEPにおいて増幅されたことを表しており、裏を返せばEP付近でのシステム感度が非常に大きいと言い換えることが出来る。この数値的ばらつきが計測機器から発せられる周期的なノイズであると仮定すれば、複数回の計測結果(周波数掃引)を使って真値の抽出が可能である。
一方、ゲイン共振器をリーダとして使用し、PT対称性(Broken-PT領域上)を満たした場合の無線計測実験を行った。ここで、共振器間(リーダ/センサ)の距離は約15.0(mm)に設定した。これは、結合係数をkEP以下になるよう設定するためである(k/kEP<1)。厳密なBroken-PTの実現については、ネットワークアナライザ上でインピーダンス特性を確認しながら、共振器間の距離を調整することで達成した。
【0093】
図35は、グルコース濃度を0.1~0.6(mM)に変化させたときのRe(Z
in)(周波数掃引回数5回における平均値)であり、
図35中には各濃度における共振時のRe(Z
in)を挿入図として示している(周波数掃引回数5回における平均値と標準偏差)。ここで、各濃度変化に伴うRe(Z
in)の平均値は以下の通りであった
-20.7(kΩ):0.1(mM)、-18.1(kΩ):0.2(mM)、-16.1(kΩ):0.3(mM)、-13.9(kΩ):0.4(mM)、-12.1(kΩ):0.5(mM)、-10.6(kΩ):0.6(mM)
これより、PT対称性(EP)の場合と比較して、0.1(mM)におけるRe(Z
in)の値は-677.5(kΩ)から-20.7(kΩ)に低下していることが分かる。 即ち、共振時の反射係数がOPEN(Re(Z
in)= ∞)から遠ざかっていると言える。一方で、グルコース濃度の増加に対しては線形的な振幅変化を示しており、既存の結合系と比較して約2000倍のセンサ感度が確認できる(センサ感度:2(kΩ)/0.1(mM)。
【0094】
図36は、この周波数特性をスミスチャート上にプロットしたものであり、
図36中の右図には、OPEN(Re(Z
in)= ∞)付近(
図36左図の点線丸枠部分)の拡大図を示している。この結果より、Broken-PTを使用した無線計測では、センサ感度の向上および線形応答が実現可能であることが分かった。
【0095】
図37は、これらの実験結果を振幅変調度の観点から比較したグラフ図である。
図37は、入力インピーダンス実部の初期値(Re(Z
in(0)))に対する相対的な変化率(|ΔRe(Z
in)/ Re(Z
in(0))|)を示す図であり、グルコースの濃度変化に対応した振幅変調度を表す。丸印、ひし形印、四角印は実測値(周波数掃引回数5回におけるRe(Z
in)の平均値)、灰色実線はカーブフィッティング(
図22のシミュレーション結果を応用)を表している。このとき、EPを満たす結合系を丸印、Broken-PTにおける結合系をひし形印、既存のロス-ロス結合系を四角印としてプロットした。
【0096】
この図より、PT対称性を満たす結合系では、既存のロス-ロス結合系に比べて、入力インピーダンス実部の相対変化率(振幅変調度)が飛躍的に向上することが分かる。特に、EPを満たす結合系では、微弱なグルコース濃度の変化(Δr=0.1mM)に対して特異的な入力インピーダンス実部の変化が確認でき、その増加傾向は無限大である(|ΔRe(Zin)/ Re(Zin(0))|=78.47(%)。
これは、既存のロス‐ロス系の場合(|ΔRe(Zin)/ Re(Zin(0))|=0.19(%))と比べると著しい変化率である。その後、Δr=0.2~0.5mMにおいては入力インピーダンス実部の相対変化率(振幅変調度)が収束している様子が見て取れる。
【0097】
一方、Broken-PTを満たす結合系では、グルコース濃度の変化に対して、入力インピーダンス実部が線形的増加傾向を示すことが分かる。以上の結果から、PT対称性を満たす磁界共鳴結合系を用いることで、入力インピーダンス実部の変化率(振幅変調度)向上させることができた。
具体的には、振幅変調度の低さから読み取りが困難であった従来型のロス-ロス共振結合系に対して、グルコース濃度増加に伴った閾値的応答(EP)やグルコース濃度増加に伴った線形的応答(Broken-PT)を構築することが可能であり、振幅変調度の高い無線計測システムが実現できる。
【0098】
(血中ラクテートの計測)
PT対称性を用いた高感度な無線計測システムを、埋植型デバイスに応用することを目的として、血中ラクテート濃度の効果的な計測方法を実証する。
図38は、血中ラクテート濃度計測の実験概要図であり、皮膚組織を介した磁界共鳴結合系を示している。
ここで、リーダ側にはゲイン共振器を使用し、センサ側には上記で示した共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスを使用した。このセンサを構成する酵素電極には、LOD:ラクテートオキシダーゼを利用することで、血中ラクテートの無線計測が可能となる。
【0099】
血中ラクテートは、敗血症のバイオマーカーとして利用されており、その濃度が2.0(mM)を上回るにつれ、患者の致死率が線形増加するという報告がある(非特許文献31)。敗血症が疑われる患者にとって、血中ラクテートのモニタリング、および閾値(2.0(mM)を越えた場合の注意喚起は、迅速な処置を施す上での重要な課題であると言える。
そこで本実施例では、本発明を無線式皮下埋植型デバイスとして応用し、血中ラクテート濃度(0~4.0(mM))を無線計測することを目的とする。
【0100】
図39は、血中ラクテートの実際の計測システム図である。
図39に示された皮膚組織(厚さ10.5 mm)は株式会社ケー・エー・シーより購入したものであり、表皮/真皮/皮下脂肪を含む。無線計測実験に際しては、アクリル板の上に脱脂綿付きのパッシブ型ラクテートセンサを設置し、その上に皮膚組織を置いた。このとき、パッシブ型ラクテートセンサの作用極(LOD)および対極(Ag/AgCl)は、脱脂綿に含まれるPBS溶液(pH=7.0)を介して接続されている。
本実験では、まず皮膚組織の有無により、磁界共鳴結合がどのような影響を受けるのかを確認した。
【0101】
図40は、PT対称性を有する磁界共鳴結合系の入力インピーダンス実部Re(Z
in)の実測値を示しており、皮膚組織が無い場合(灰色実線)と有る場合(黒色実線)の比較を目的とした図である。このとき、皮膚組織が無い状態では、ゲインとロスの釣り合いがとれており、かつ結合係数がk
EPに近いことから結合系がEP付近に到達していることが分かる(共振時のRe(Z
in)= -44(kΩ))。
一方で、これら共振器間に皮膚組織を挿入すると、入力インピーダンス実部の振幅が大幅に減衰した(共振時のRe(Z
in)= -11(kΩ)。これは、誘電体である皮膚組織により共振器間の誘電率が変化したためである。
【0102】
本実験で作製した磁界共鳴結合系は、磁界を主体としたエネルギー伝送を行う一方で、共振器近傍には固有の電磁界が分布すると考察される(非特許文献32)。従って、共振器近辺に誘電体が存在する場合においては、誘電損失が発生すると考えられる。
しかしながら、本研究で作製したゲイン共振器は、印加電圧により負性抵抗の値を適宜調整可能である。この機能を活かすことで、磁界共鳴結合系において再びEP状態を作り出すことができる(黒色点線)。
【0103】
以上の結果から、本研究で作製した磁界共鳴結合系においては共振器間に誘電体(皮膚組織)が存在しても、PT対称性(EP)を構築することができ、なおかつ振幅変調度の再調整が可能であると言える。この特性を活かすことで、センサ側の抵抗成分(共振時のRe(Zin))に合わせて、無線計測時のセンサ感度を任意に向上させることができる。
【0104】
最後に、共振回路搭載型2極式電気化学測定デバイスを応用したラクテートセンサを用いて、ラクテート濃度の高感度無線計測を実施する。
図41は、PBSのラクテート濃度を0.0から4.0(mM)まで変化させた時、LOD酵素修飾繊維とAg/AgClとの間で発電性能がどのように変化するかをアンペロメトリー法にて計測した結果を示すグラフ図である。
このとき、各濃度における電流の平均値・標準偏差(100秒間)を算出した結果を挿入図に示す。ここで、各濃度における電流の平均値は以下の通りであった。
4.36(μA):0(mM)、8.67(μA):0.5(mM)、12.56(μA):1.0(mM)、15.59(μA):1.5(mM)、17.89(μA):2.0(mM)、19.81(μA):2.5(mM)、21.77(μA):3.0(mM)、23.48(μA):3.5(mM)、24.96(μA):4.0(mM)
【0105】
上記の結果より、ラクテートの濃度変化に伴って酸化電流が増加傾向を示すことが分かった。
図42は、ラクテートセンサの入力インピーダンス実部成分(Re(Z
in))である。
図42は、PBS中のラクテート濃度を0~4.0(mM)に変化させたときの計測結果(周波数掃引回数5回における平均値)である。
図42の上(右)図は、
図42の下(左)図のインピーダンス実部成分(Re(Z
in))のピーク付近(点線丸枠部分)の拡大図である。また
図42中では、各濃度における共振周時のRe(Z
in)をプロットした結果を挿入図として示している(周波数掃引回数5回における平均値と標準偏差)。ここで、各濃度変化に伴うRe(Z
in)の平均値は以下の通りであった。
1081(Ω):0(mM)、1068(Ω):1.0(mM)、1061(Ω):2.0(mM)、1055(Ω):3.0(mM)、1052(Ω):4.0(mM)
【0106】
この結果より、作製したラクテートセンサが、ラクテート濃度の変化によって振幅変調(AM)を実現していると言える。血中ラクテートをバイオマーカーとする敗血症については、閾値(2.0 mM)を越えた場合に患者の致死率が上昇するという報告がある。
従って、PT対称性を用いた閾値判別型システムを応用することで、2.0(mM)の血中ラクテートをワイヤレスに計測可能である。閾値型の応答を観測するために、ラクテート濃度が2.0(mM)のときに反射係数がOPEN(Re(Z
in)=∞)となるよう、ゲイン共振器とラクテートセンサの距離を調整した。本システムを利用することで、ラクテート濃度が0~4.0(mM)に変化する過程で、インピーダンス実部(Re(Z
in))の符号が閾値(2.0mM)を境に反転する。
図43は、閾値を境にインピーダンス実部の符号が反転することを示す図である。
【0107】
この現象をスミスチャート上に示した図が
図44であり、
図44の右図にOPEN(Re(Z
in)=∞)付近(
図44左図の点線丸枠部分)の拡大図を示している。この図より、反射係数の軌跡がラクテート濃度の増加に伴い右上にシフトしている様子が窺える。ここで、OPEN(Re(Z
in)=∞)を基準とした場合、左側の円内部では正のRe(Z
in)、右側の円外部では負のRe(Z
in)が観測されることから、本システムの反射係数はEPを通過しながら、その極性符号を反転させるような振る舞いを示すことが分かる。
【0108】
この仕組みを活用することで、ラクテート濃度が0~2.0(mM)の範囲においては正のRe(Zin)、2.0~4.0(mM)の範囲においては負のRe(Zin)を示すような磁界共鳴結合系が構築可能である。これは、センサ側の微弱な抵抗変化に応じて、符号をスイッチさせるような特性を示すため、医療機関において敗血症検知を想定したバイオデバイスに応用可能である。
【0109】
(数式およびその導出過程)
上記説明で用いた数式およびその導出過程を以下に示す。各数式の後には、「(2)」など、その数式を示す番号を括弧書きで示している。
【0110】
図2より,電圧と電流の関係を導出する。
電流について行列変換を行う。
キルヒホッフの電流則にて各共振回路を数式化する。
【0111】
上記式(3)に上記式(2)を代入する。
ここで、キャパシタに蓄えられる電荷のエネルギー|a
n|
2を使って電圧V
nで表現する。
【0112】
このとき、|a
n|
2はパワーを意味し、a
nは、振幅値を意味する。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
上記式(10)、(11)より、共振結合系のエネルギーに関する演算子を行列表現する。
ここで、各キャパシタに蓄えられる振幅は、次式(12)で表される。
【0118】
上記式(12)の行列式を解くことで系の固有値を導く。
【0119】
上記式(13)において、固有値ωについて4次方程式を解く(フェラーリの解法)。
それぞれの項の係数を変数で表す。
【0120】
【0121】
【0122】
上記式(16)を上記式(15)に代入し、3次の項を削除する。
【0123】
【0124】
上記式(18)を、上記式(17)に代入する。
ty
2+(t
2/4)を上記式(19)の両辺に加えることで、下記式(20)のとおり、完全平方表現を作る。
【0125】
上記式(20)の2次方程式を完全平方に変換するためには、判別式が0になる必要がある。
【0126】
【0127】
【0128】
上記式(24)を上記式(23)に代入し、2次の項を削除する。
【0129】
上記式(25)における各項の係数を変数で表す。
上記係数P、Qを、上記式(25)に代入する。
ここで、sを以下の式で表現する。
上記式(27)を、上記式(26)に代入する。
上記式(28)より
上記式(30)を変形する。
上記式(31)を上記式(29)に代入する。
【0130】
2次式の解の公式を、上記式(32)に適用する。
蒸気式(33)より、三乗根を導出し、プラスを付加する。
同様に、上記式(30)を変形する。
上記式(35)を上記式(29)に代入する。
【0131】
2次式の解の公式を、上記式(36)に適用する。
上記式(37)より、三乗根を導出し、マイナスを付加する。
【0132】
上記式(34)と(38)を、上記式(27)に代入する。
前記式を、上記式(24)に代入する。
上記式(20)を変形する。
上記式(21)より以下の式が得られる。
【0133】
上記式(21)を、上記式(40)に代入する。
上記式(43))を、上記式(42)に代入する。
【0134】
二次式の解の公式を、上記式(44)に適用する。
上記式(45)を、上記式(16)に代入する。
【0135】
図5より、3次元座標上に位置する2つの共振回路間で発生する結合係数を以下の式で表す。
【0136】
図11より、電圧と電流の関係から以下の式を導出する。
上記式(49)より、下記式(50)が導かれる。
上記式(50)より、インピーダンスの実部、虚部は以下のように定義される。
【0137】
図12より、クラップ発振回路用の合成キャパシタは以下のように定義される。
上記式(51)、(52)より、インダクタンスから見た直列接続のインピーダンスは、以下のように表現できる。
【0138】
上記式(53)をアドミタンス形式に変換し、実部と虚部に分解する。
【0139】
式(54)を並列接続した抵抗R_parallelとキャパシタC_parallelで表現すると、式(55)、式(56)、式(57)のように表現することができる。ここで式(51)より、R_Seriesはマイナスの値をとるので、この並列型共振回路は負性抵抗を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によって、例えば、生体からの微弱な信号変化(共振回路の特性変化が小さいもの、上記実施例では、涙中グルコース濃度をモデルに実証)を無線で高感度に測ることが可能となる。
涙に含まれる生化学成分は、夾雑物を多く含むため、一般的に反応選択性を有する酵素電極が用いられる。しかし、涙中糖度は濃度が極端に低いため(0~1.0(mM))、得られる電流値は僅か5~25(μA)となり、抵抗値としては概ね160~32(kΩ)となる。
【0141】
コンタクトレンズを利用した涙中グルコース計測(公知技術)は、酵素センサ(非特許文献3、4、5)や、FET型センサ(非特許文献6、7)、化学抵抗器(非特許文献8)などに分類される。
【0142】
本発明では、本発明者による酵素電極に関する発明(国際公開WO2012-002290号に記載されたカーボンナノチューブフィルム)を用いて酵素センサを作製し、本発明の共振回路に組み込むことで、高感度な無線バイオセンシングに成功した。その結果、0.05(mM)単位の糖度を見分けることが可能となるため、糖尿病患者(日本における患者数は1000万人以上である)の健康管理に利用できる。ここで、健常者の涙中糖度は、0.05~0.2(mM)(空腹時では0.1~0.3(mM))であり、糖尿病患者の涙中糖度は、0.15~0.4(mM)(空腹時では、0.15~0.6(mM))と報告されている(非特許文献9)。
【0143】
本発明を応用することで、例えば、糖尿上網膜症(日本では、失明原因第2位の疾患である)などの合併症を誘発するリスクを数値データとして示せることに期待が持てる。
【0144】
この出願は、2021年3月22日に出願された日本出願特願2021-047975号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。以上、本発明の実施形態および実施例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0145】
10 リーダ側共振回路
11 コイル部分
12 キャパシタ部分
13 抵抗部分
20 センサ側共振回路
21 コイル部分
22 キャパシタ部分
23 抵抗部分(感知対象に応じて抵抗値が変化するセンサ素子)
30 接続デバイスの周波数特性を測定する装置