(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】プリント配線板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20240905BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20240905BHJP
C09D 123/26 20060101ALI20240905BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240905BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20240905BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240905BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240905BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H05K1/03 630H
H05K1/03 610L
H05K1/03 610J
C09J123/26
C09D123/26
C09D5/02
C09D163/00
C09J163/00
B32B15/085 Z
B32B15/08 J
(21)【出願番号】P 2024516349
(86)(22)【出願日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2023030701
(87)【国際公開番号】W WO2024048444
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2022136989
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 和史
(72)【発明者】
【氏名】大藤 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】吉野 剛正
(72)【発明者】
【氏名】伏井 雄一郎
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100772(JP,A)
【文献】特開2016-28133(JP,A)
【文献】特開2021-181558(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126520(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047289(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/116967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D、C09J、H05K1/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶樹脂またはポリイミド樹脂からなる基材と、塗膜と、金属箔とがこの順に積層された積層体を含むプリント配線板であって、
塗膜が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)と、水性媒体とを含有する塗工剤から得られ、
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸成分を
2~
8質量%含有し、
エポキシ化合物(B)は、エポキシ当量が
80~300であり、
1分子中にエポキシ基を2個以上有し、含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して0.2質量部以上、5質量部未満であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項2】
エポキシ化合物(B)が、1分子中にエポキシ基を3個以上有するエポキシ化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
エポキシ化合物(B)が、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルおよびグリセロールポリグリシジルエーテルから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸エステル成分を3~25質量%含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプリント配線板。
【請求項5】
プリント配線板が、液晶樹脂またはポリイミド樹脂からなる基材と、塗膜と、銅箔とを貼り合わせてヒートシール加工を行って得られたものであり、基材と銅箔とを引張速度50mm/分で90°の方向に剥離した際の接着強度が、0.8kN/m以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプリント配線板。
【請求項6】
塗膜の、周波数10GHzで測定した比誘電率が3.0以下であり、誘電正接が0.01以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工剤、塗膜および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板においては、伝送信号の高速化が進んでおり、高周波領域で優れた誘電特性(低誘電率、低誘電正接)を有する材料が要求されている。このような要求に対して、プリント配線板を構成する基材の樹脂として、ポリイミド樹脂や誘電特性に優れた液晶樹脂(LCP)が提案されている。
【0003】
特許文献1には、液晶樹脂基材と熱可塑性樹脂基材との接着に優れる水性接着剤が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された水性接着剤を使用して基材と銅箔とを接着して得られる積層体においては、接着性や繰り返しハンダ耐熱性がさらに向上するとともに、接着剤層の誘電特性が向上して、伝送損失が抑制されることが求められている。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題に鑑みて、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と金属箔との接着性に優れ、誘電特性に優れる塗膜を形成することができ、得られる積層体の伝送損失を低く抑制することができる塗工剤を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の酸変性ポリオレフィン樹脂と、特定のエポキシ化合物とを特定割合で含有し、さらに水性媒体を含有する塗工剤が、上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
【0008】
本発明の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)と、水性媒体とを含有し、
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸成分を0.1~10質量%含有し、
エポキシ化合物(B)は、エポキシ当量が500以下であり、含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して0.2質量部以上、5質量部未満であることを特徴とする。
本発明の塗工剤によれば、エポキシ樹脂(B)が、1分子中にエポキシ基を3個以上有するエポキシ化合物を含むことが好ましい。
本発明の塗工剤によれば、エポキシ樹脂(B)が、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルおよびグリセロールポリグリシジルエーテルから選択される1種以上であることが好ましい。
本発明の塗工剤によれば、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸エステル成分を3~25質量%含有することが好ましい。
本発明の塗工剤によれば、液晶樹脂またはポリイミド樹脂からなる基材と、塗工剤から得られる塗膜と、銅箔とを貼り合わせてヒートシール加工を行って得られる積層体において、基材と銅箔とを引張速度50mm/分で90°の方向に剥離した際の接着強度が、0.8kN/m以上であることが好ましい。
本発明の塗膜は、上記の塗工剤から得られるものである。
本発明の塗膜によれば、周波数10GHzで測定した比誘電率が3.0以下であり、誘電正接が0.01以下であることが好ましい。
本発明の積層体は、液晶樹脂またはポリイミド樹脂からなる基材と、上記の塗膜と、金属箔とがこの順に積層されたものである。
本発明のプリント配線板は、上記の積層体を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗工剤から得られる塗膜は、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と金属箔との接着性に優れ、さらには、繰り返しのハンダ処理に対する耐熱性に優れ、また誘電特性に優れていることから、積層体においては、伝送損失を低く抑えることができる。そのため、本発明の塗工剤は、従来では適用できなかった高周波対応のプリント配線板の積層に適用できる。さらに一般的に販売されているポリエステル樹脂基材などと金属箔との接着にも適用できるため、基材汎用性にも優れる塗工剤である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)と、水性媒体とを含有する。本発明の塗工剤において、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、水性媒体中に分散されていることが好ましい。
【0011】
<酸変性ポリオレフィン樹脂(A)>
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分とを共重合成分として含有する共重合体である。本発明の塗工剤は、ポリオレフィン樹脂が不飽和カルボン酸成分で酸変性されている酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を含有することにより基材への塗工性、造膜性が向上する。
【0012】
不飽和カルボン酸成分は、不飽和カルボン酸やその無水物で構成され、不飽和カルボン酸成分としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分の含有量は、0.1~10質量%であり、0.2~8質量%であることが好ましく、0.5~6質量%であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1質量%未満であると、水性媒体中に安定して分散できず、10質量%を超えると、形成される塗膜は、接着性や誘電特性に劣り、さらに、得られる積層体は、伝送損失が大きくなる。
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を構成するオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるオレフィン成分の含有量は、得られる塗膜の誘電特性の観点から、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と、金属箔との接着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有することが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、3~25質量%であることが好ましく、4~22質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましく、6~18質量%であることが特に好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。これらの中で、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と、金属箔との接着性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0018】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、上記成分以外に他の成分を酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の10質量%以下程度、含有してもよい。他の成分としては、1-オクテン、ノルボルネン類等の炭素数6を超えるアルケン類やジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0019】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、カルボキシル基の水酸基が、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基等で置換されたN-置換アミド構造を含有していてもよい。
【0020】
ポリオレフィン樹脂の融点は、50~150℃が好ましく、60~130℃がさらに好ましく、70~110℃がさらに好ましい。融点が上記の範囲未満であると、凝集力が弱くなり、接着性に劣る場合がある。また、上記の範囲を超えると、流動性が低下するため、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と、金属箔との接着性が低下する場合がある。
【0021】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)としては、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸-無水マレイン酸共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン-プロピレン樹脂、酸変性エチレン-ブテン樹脂、酸変性プロピレン-ブテン樹脂、酸変性エチレン-プロピレン-ブテン樹脂、あるいはこれらの酸変性樹脂にさらに(メタ)アクリル酸エステル等でアクリル変性したエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体等が挙げられる。中でも、エチレン-(メタ)アクリル酸-無水マレイン酸共重合体が好ましい。さらに、酸変性ポリオレフィン樹脂は5~40質量%の範囲で塩素化されていてもよい。
【0022】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として、アルケマ社製のボンダインシリーズ、エボニックジャパン社製のベストプラストシリーズ、ダウ・ケミカル社製のプリマコールシリーズ、三洋化成社製のユーメックスシリーズ、三井化学社製のアドマーシリーズ、東洋紡社製のトーヨータックシリーズなどの市販品を使用することができる。また、市販の水系のものも使用することができ、日本製紙ケミカル社製のスーパークロンシリーズ、住友精化社製のザイクセンシリーズ、三井化学社製のケミパールシリーズ、東洋紡社製のハードレンシリーズ等を使用することができる。
【0023】
<エポキシ化合物(B)>
本発明の塗工剤は、接着性および耐熱性向上を目的として、エポキシ化合物(B)を含有するものである。
【0024】
エポキシ化合物(B)は、接着性および耐熱性向上の点から、分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましく、3個以上のエポキシ基を有するものを含むことがより好ましい。エポキシ化合物(B)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられ、高い接着性が得られることから、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、およびグリセロールポリグリシジルエーテルから選択される1種以上であることが好ましい。
【0025】
エポキシ化合物(B)のエポキシ当量(g/eq.)は、500以下であり、400以下が好ましく、300以下がより好ましく、200以下がさらに好ましく、150以下が特に好ましい。エポキシ化合物(B)のエポキシ当量が500を超えると、得られる塗膜は、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と金属箔との接着性や、誘電特性が低下し、さらに、得られる積層体は伝送損失が大きくなる。エポキシ当量の下限値は特に限定されないが、例えば、80である。
【0026】
エポキシ化合物(B)の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上、5質量部未満であり、0.5~4.5質量部であることが好ましく、1.0~4.0質量部であることがより好ましい。塗工剤は、エポキシ化合物(B)の含有量が0.2質量部未満であると、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と金属箔との接着性や、耐熱性、耐熱性の耐久性に劣るものとなり、5質量部以上であると、上記基材と金属箔との接着性が低下し、得られる塗膜は、誘電特性が低下し、さらに、得られる積層体は、伝送損失が大きくなる。
【0027】
<水性媒体>
本発明の塗工剤を構成する水性媒体は、水または、水を主成分とする液体である。水性媒体を用いることは環境面から好ましい。
水性媒体は、塩基性化合物や親水性有機溶媒を含有してもよい。水性媒体が親水性有機溶媒を含有することで、塗工剤は、基材への濡れ性が向上し、塗工性および造膜性が向上するという効果が奏される。
【0028】
親水性有機溶媒の含有量は、基材への適度な濡れ性付与のために、塗工剤全量に対して1~50質量%であることが好ましく、3~30質量%であることがより好ましく、5~25質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、またはトリメチルグリセリン等が挙げられる。
【0030】
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、またはピリジン等が挙げられる。
【0031】
<添加剤>
本発明の塗工剤は、目的に応じて性能をさらに向上させるために、エポキシ化合物(B)以外の架橋剤や硬化促進剤等の添加剤を含有してもよい。
【0032】
架橋剤としては、特に限定されず、例えば、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等が挙げられる。具体的には、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤も複数同時に使用してもよい。
【0033】
架橋剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対し、0.01~30質量部であることが好ましく、0.1~20質量部であることがより好ましく、0.5~10質量部であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が0.01質量部未満の場合には、形成される塗膜は、性能の向上が見込めなくなる傾向にあり、30質量部を超える場合には、形成される塗膜は、誘電特性が低下することがある。
【0034】
本発明の塗工剤は、硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤としては、特に限定されず、例えば、第三級アミン系硬化剤、第三級アミン塩系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、リン酸塩系硬化促進剤等が挙げられる。
【0035】
硬化促進剤の含有量は、エポキシ化合物(B)100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、3~70質量部であることがより好ましい。
【0036】
本発明の塗工剤は、さらに必要に応じて、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、耐候剤、難燃剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0037】
本発明の塗工剤は、不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。本発明は、不揮発性水性化助剤の使用を排除するものではないが、水性化助剤を用いずとも、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体中に微細かつ安定的に分散することができる。
不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、または常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0038】
「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を製造時(酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散化時)に用いず、得られる水性分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。不揮発性水性化助剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)に対して5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%未満であり、0質量%であることが特に好ましい。
【0039】
不揮発性水性分散化助剤としては、例えば、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子等が挙げられる。
【0040】
<塗工剤>
本発明の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)と、水性媒体とを含有するものであり、カルボキシル基を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、水性媒体に分散していることが好ましい。
【0041】
本発明の塗工剤における、不揮発成分の含有率は、塗工条件、目的とする塗膜の厚みや性能等により適宜選択でき、特に限定されないが、粘度を適度に保ち、かつ良好な造膜性を発現させる点で、1~60質量%であることが好ましく、3~55質量%であることがより好ましく、5~50質量%であることがさらに好ましく、10~45質量%であることが特に好ましい。
本発明の塗工剤の粘度は、基材へ塗工性の観点から、1~2000mPa・sであることが好ましく、3~1000mPa・sであることがより好ましく、5~500mPa・sであることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の塗工剤を製造する方法は、特に限定されず、上記の原料を混合する方法が挙げられ、それらの混合順序は任意である。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、水性媒体に分散した水性分散体の状態で混合してもよい。
【0043】
<塗膜>
本発明の塗工剤は、フィルムや不織布等の基材に対して、公知の塗工方法を用いて塗工し、本発明の塗膜とすることができる。例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により、基材表面に均一に塗工し、乾燥のための加熱処理に供することにより、均一な塗膜を基材表面に密着させて形成することができる。加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、経済性等を考慮して、適宜に選択される。
【0044】
本発明の塗膜は、厚みが1~30μmであることが好ましく、2~20μmであることがより好ましく、3~15μmであることがさらに好ましい。厚みが上記範囲となるようにすることで、形成された塗膜は高い接着性を有する。
【0045】
塗膜の厚みを調節するためには、塗工に用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする厚みに適した濃度の塗工剤を使用することが好ましい。塗工剤の濃度は、調製時の仕込み組成により調節することができ、また、一旦調製した塗工剤を適宜希釈あるいは濃縮して調節してもよい。
【0046】
本発明の塗膜は、誘電特性に優れるものであり、周波数10GHzで測定した比誘電率が3.0以下であり、誘電正接が0.01以下であることが好ましく、比誘電率が2.8以下であり、誘電正接が0.008以下であることがより好ましく、比誘電率が2.6以下であり、誘電正接が0.006以下であることがさらに好ましい。
【0047】
<積層体>
本発明の積層体は、本発明の塗膜を含むものであり、例えば、各種基材表面、接着層またはプライマー層に、本発明の塗膜を含む積層体が挙げられる。
本発明の塗工剤は、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材と金属箔との接着性に優れることから、積層体は、液晶樹脂やポリイミド樹脂からなる基材上に、本発明の塗工剤から形成される塗膜、および金属箔をこの順に含有するものが好ましい。
【0048】
(基材)
基材を構成する液晶樹脂とは、樹脂が高温での溶融や溶媒への溶解により流動状態となった際に、分子鎖がほぼ規則的に整列している状態(液晶性)を示す高分子を指す。たとえば、全芳香族ポリエステル、芳香族ポリアゾメチン、芳香族脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルカーボネート、全芳香族又は非全芳香族ポリエステルアミドなどのうちの一部の樹脂が液晶性を示すことが知られている。
【0049】
液晶樹脂として知られるポリエステルとして、パラヒドロキシ安息香酸とその他の成分とを直鎖状に重縮合したものが挙げられる。具体的には、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸とを重縮合したポリエステル、フェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸とを重縮合したポリエステル、2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸とを重縮合したポリエステルなどが挙げられる。
【0050】
液晶樹脂は市販品が入手可能である。例えば、ポリプラスチック社製ベクトラシリーズ「A950、E951SX」や、住友化学社製スミカスーパーシリーズ「E5204L、E6807LHF」や、ユニチカ社製ロッドランシリーズ「LC5030G、LC5030MF」などが挙げられる。これらは、フィラーを混合して弾性や強度を向上させたものであってもよいし、エステルアミド化させて弾性率を向上させたものであってもよい。
液晶樹脂からなる基材についても市販品が入手可能であり、例えば、クラレ社製ベクスターシリーズなどが挙げられる。
【0051】
ポリイミド樹脂からなる基材としては、フィルム形態のものが挙げられる。例えば、ジアミン類とテトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液を、ポリイミドフィルム作製用基材に塗布、乾燥して前駆体フィルムとした後に、基材から剥がす又はそのまま高温熱処理して脱水閉環反応を行わせることによって得られるポリイミドフィルムなどが挙げられる。
【0052】
ポリイミド樹脂を構成するジアミン成分としては、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(PFMB)、2,2′-ジメチル‐4,4′-ジアミノビフェニル(DMDB)、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4′-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、1,4-ジアミノブタン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,7-ジアミノヘプタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,5-ジアミノペンタン、1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジアミノプロパン、1,11-ジアミノウンデカン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、ダイマージアミン等のジアミンを挙げることができる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
ポリイミド樹脂を構成するテトラカルボン酸成分としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)等のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ポリイミド樹脂基材としては、市販のポリイミドフィルムを用いてもよく、例えば、「カプトン」(東レ・デュポン社製の商品名)、「ユーピレックス」(宇部興産社製の商品名)等を使用することができる。また、変性ポリイミド(MPI)フィルムまたは変性ポリイミド(MPI)ワニスを塗布した基材も使用することができる。
【0055】
これらのポリイミドフィルムは、化学的あるいは物理的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、シランカップリング剤、アルミニウムアルコラート等による表面処理を挙げることができる。一方、物理的な表面処理としては、粗面化処理、プラズマ処理等を挙げることができる。但し、本発明の塗工剤は、表面処理を行わない基材に対しても、接着性に優れる。
【0056】
また、本発明の塗工剤は、その他の汎用樹脂基材と金属箔との接着性にも優れる。汎用樹脂基材としては、ポリエステル樹脂基材、ポリカーボネート樹脂基材、ポリフェニレンサルファイド樹脂基材、シクロオレフィン樹脂基材、ポリエチレン樹脂基材、ポリプロピレン樹脂基材、半芳香族ポリアミド樹脂基材などが挙げられる。
【0057】
(金属箔)
金属箔としては、特に限定されないが、銅、ニッケル、アルミニウム等からなるものが挙げられる。
【0058】
本発明の積層体は、例えば、ボンディングシート、樹脂付き銅箔、カバーレイフィルム、プリント配線板、銅張積層板、フラットケーブル、テープオートメイテッドボンディング用回路板、電磁波シールド材等に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各種の特性について、以下の方法で測定または評価した。
【0060】
1.接着強度
液晶樹脂基材、ポリイミド樹脂基材、またはポリエステル樹脂基材上に、それぞれ塗工剤を、バーコーターを用いて乾燥後の塗膜厚みが10μmになるように塗工した後、熱風乾燥機を用いて、100℃×1分間乾燥した。その後、塗工面に銅箔を貼り合わせ、温度200℃、圧力0.2MPaで60秒間のヒートシール加工を行った。その後、貼り合わせた積層体を10mm幅に切り出し、23℃の雰囲気下で、基材と銅箔とを引っ張り速度50mm/分で90度の方向に剥離した。接着性を次の基準で評価した。
◎:1.20kN/m以上
○:1.00kN/m以上、1.20kN/m未満
△:0.80kN/m以上、1.00kN/m未満
×:0.80kN/m未満
【0061】
2.比誘電率、誘電正接
離型フィルム(TOMBO社製、ナフロンPTFEテープ、厚み200μm)上に、塗工剤を乾燥後の塗膜厚みが30μmになるように塗工し、100℃/10分の条件で乾燥して塗膜を形成した。その後、離型フィルムから塗膜を引きはがし、測定用シートを作製した。得られたシートを、スプリットポスト誘電体共振器法で、23℃雰囲気下、周波数10GHzの条件で測定した。
比誘電率は、次の基準で評価した。
◎:2.60以下
○:2.60を超え、2.80以下
△:2.80を超え、3.00以下
×:3.00を超える
誘電正接は、次の基準で評価した。
◎:0.0060以下
○:0.0060を超え、0.0080以下
△:0.0080を超え、0.0100以下
×:0.0100を超える
【0062】
3.伝送損失(S21)
液晶樹脂基材の両面に、塗工剤を、バーコーターを用いて乾燥後の塗膜厚みが10μmになるように塗工した後、熱風乾燥機を用いて、100℃×1分間乾燥した。その後、両方の塗工面と銅箔を貼り合わせ、真空下、温度200℃、圧力3.0MPaで30分間のヒートシール加工を行った。その後、貼り合わせた積層体を特性インピーダンスが50Ωになるようにマイクロストリップ線路を形成し、10MHz~40GHzの間で伝送損失を測定した(キーサイトテクノロジー社、ネットワークアナライザE5227Bを使用)。伝送損失を次の基準で評価した。
○:30GHzにおける伝送損失の絶対値が5.0dB/100mm未満
×:30GHzにおける伝送損失の絶対値が5.0dB/100mm以上
【0063】
4.ハンダ耐熱性(耐熱性)
上記「1.接着強度」に記載の方法で、基材として液晶樹脂基材を用いた積層体を作製し、2.5cm×2.5cmのサンプル片を120℃で30分乾燥処理を行い、260℃で溶融したハンダ浴に1分間フローし、次の基準により、目視にてハンダ耐熱性を評価した。
○:膨れなし
△:やや膨れあり
×:大きな膨れあり
【0064】
5.繰り返しハンダ耐熱性(耐熱性の耐久性)
上記「4.ハンダ耐熱性(耐熱性)」に記載の方法でサンプルを作製し、260℃で溶融したハンダ浴に1分間フローを10回繰り返し、次の基準により、目視にて繰り返しハンダ耐熱性を評価した。
○:膨れなし
△:やや膨れあり
×:大きな膨れあり
【0065】
6.総合評価
○:上記「1.接着強度」、「2.比誘電率、誘電正接」、「3.伝送損失」、「4.ハンダ耐熱性(耐熱性)」、「5.繰り返しハンダ耐熱性(耐熱性の耐久性)」の何れにおいても、「△」以上の評価である。
×:上記「1.接着強度」、「2.比誘電率、誘電正接」、「3.伝送損失」、「4.ハンダ耐熱性(耐熱性)」、「5.繰り返しハンダ耐熱性(耐熱性の耐久性)」の何れかにおいて、「×」の評価がある。
【0066】
塗工剤の原料および基材として、下記のものを使用した。
I.酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体(E)
E-1:酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)の水性分散体(E-1)の製造
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100gの酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)[エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体、エチレン92質量%、アクリル酸エチル6質量%、無水マレイン酸2質量%、融点105℃]、80gのイソプロパノール、4.0gのN,N-ジメチルエタノールアミン、および220gの水をガラス容器内に仕込み、130℃で60分間加熱撹拌をおこなった。その後、撹拌しつつ室温まで冷却したのち、150gの水を加え、エバポレータを用いて水およびイソプロパノールを減圧留去することによって、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)粒子の水性分散体(E-1)を得た。
【0067】
E-2:酸変性ポリオレフィン樹脂(A-2)の水性分散体(E-2)の製造
酸変性ポリオレフィン樹脂(A-2)[エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体、エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%、融点83℃]を用いた。それ以外は、水性分散体(E-1)の場合と同様の操作で、水性分散体(E-2)を得た。
【0068】
E-3:酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)の水性分散体(E-3)の製造
プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=81.8/18.2(質量比)、重量平均分子量85,000)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。
その後、系内温度を180℃に保って、撹拌下、不飽和カルボン酸としての無水マレイン酸35.0gとラジカル発生剤としてのジ-t-ブチルパーオキサイド6.0gとをそれぞれ2時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)[質量比:プロピレン75.4/エチレン16.8/無水マレイン酸7.8、融点70℃]を得た。
得られた樹脂を用いて、特願2005-506371記載の方法と同様にして、乳白色の酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)の水性分散体(E-3)を得た。
【0069】
E-4:酸変性ポリオレフィン樹脂(A-4)の水性分散体(E-4)の製造
酸変性ポリオレフィン樹脂(A-4)[エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン80質量%、アクリル酸20質量%、融点79℃]を用いた。それ以外は、水性分散体(E-1)の場合と同様の操作で、水性分散体(E-4)を得た。
【0070】
II.エポキシ化合物(B)
B-1:ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX-614、4官能エポキシ化合物(エポキシ基を4個有する)、エポキシ当量167)
【0071】
B-2:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX-832、2官能エポキシ化合物(エポキシ基を2個有する)、エポキシ当量284)
【0072】
B-3:ジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX-421、3官能エポキシ化合物、エポキシ当量159)
【0073】
B-4:グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX-313、2官能エポキシ化合物と3官能エポキシ化合物の複合体、エポキシ当量141)
【0074】
B-5:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX-861、2官能エポキシ化合物、エポキシ当量551)
【0075】
III.銅箔
接着強度測定用:日立金属ネオマテリアル社製、厚み30μm
伝送損失測定用:福田金属箔粉工業社製、電解銅箔、厚み12μm
【0076】
IV.基材
ヒドロキシナフトエ酸等とパラヒドロキシ安息香酸とから得られる芳香族系ポリエステル液晶樹脂基材:クラレ社製、ベクスター CTQ―50、厚み50μm
ポリイミド樹脂基材:宇部興産社製、ユーピレックス-S、厚み50μm
ポリエステル樹脂基材:ユニチカ社製、エンブレットS-50、厚み50μm
【0077】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)の水性分散体(E-1)とエポキシ化合物(B-1)を固形分質量比が100/1になるように混合し、その混合液100質量部に対して、イソプロパノールを20質量部添加することにより塗工剤を作製した。
【0078】
実施例2~9、比較例1~4
表1に記載のように、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、エポキシ化合物(B)の種類、または固形分質量比(含有量)を変更して、塗工剤を作製した。
【0079】
実施例、比較例で作製した塗工剤の構成、各種特性の評価結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
実施例1~9の塗工剤は、液晶樹脂基材やポリイミド樹脂基材と、銅箔との接着性に優れていた。得られた塗膜は、比誘電率や誘電正接の値も低く優れた誘電特性を有しており、得られた積層体は、伝送損失が低く抑えられており、耐熱性(ハンダ耐熱性)にも優れていた。塗工剤は、さらにポリエステル樹脂基材と銅箔との接着性にも優れるものであった。
【0082】
比較例1の塗工剤は、エポキシ化合物の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったことから、接着性に劣り、また、耐熱性にも劣っていた。
比較例2の塗工剤は、エポキシ化合物の含有量が本発明で規定する範囲を超えており、塗膜は誘電特性に劣り、積層体は伝送損失が大きいものであった。
比較例3の塗工剤は、エポキシ当量が500を超えるエポキシ化合物を用いたため、接着性に劣っていた。また、得られた積層体は伝送損失も大きいものであった。
比較例4の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸成分の含有量が本発明で規定する範囲を超えていたため、高い接着性を得ることができず、塗膜は誘電特性にも劣っており、積層体は伝送損失も大きいものであった。