IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許7549939表面保護フィルム用基材、該基材を用いた表面保護フィルム、および表面保護フィルム付光学フィルム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】表面保護フィルム用基材、該基材を用いた表面保護フィルム、および表面保護フィルム付光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240905BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240905BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20240905BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20240905BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240905BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
C09J7/24
C09J7/25
C09J7/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020546689
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020711
(87)【国際公開番号】W WO2020054135
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2018169431
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【復代理人】
【識別番号】100193172
【弁理士】
【氏名又は名称】上川 智子
(72)【発明者】
【氏名】清水 享
(72)【発明者】
【氏名】中原 歩夢
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】関根 洋之
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面方向の位相差R0(550)と極角45°および方位角45°方向の位相差R45(550)とが下記の関係を満足し、
全光線透過率が80%以上であり、ヘイズが1.0%以下である、表面保護フィルム用基材と、粘着剤層と、を含む表面保護フィルムであって、該方位角が、該表面保護フィルムが適用される画像表示装置の長辺方向を0°としたときの方向であり、
該表面保護フィルム用基材が、ポリカーボネート、ポリエステル、および、アクリル系樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を含む、表面保護フィルム:
-5(nm)≦R45(550)-R0(550)≦13(nm)。
【請求項2】
前記表面保護フィルム用基材の正面方向の位相差R0(550)が20nm以下である、請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
前記表面保護フィルム用基材が、脂環式構造または負の固有複屈折を示す芳香族環構造を有する樹脂を含む、請求項1または2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
光学フィルムと、該光学フィルムに剥離可能に貼り合わせられた請求項1から3のいずれかに記載の表面保護フィルムと、を含む、表面保護フィルム付光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護フィルム用基材、該基材を用いた表面保護フィルム、および表面保護フィルム付光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム(例えば、偏光板、偏光板を含む積層体)には、当該光学フィルムが適用される画像表示装置が実際に使用されるまでの間、当該光学フィルム(最終的には、画像表示装置)を保護するために表面保護フィルムが剥離可能に貼り合わせられている。実用的には、光学フィルム/表面保護フィルムの積層体が表示セルに貼り合わせられて画像表示装置が作製され、当該積層体が貼り合わせられた状態で画像表示装置が光学試験(例えば、点灯試験)に供され、その後の適切な時点で表面保護フィルムが剥離除去される。表面保護フィルムは、代表的には、基材としての樹脂フィルムと粘着剤層とを有する。従来の表面保護フィルムによれば、光学検査の際に光漏れ、着色、虹ムラ等が発生し、光学検査の精度低下の原因となる場合がある。その結果、画像表示装置自体には問題がないにもかかわらず出荷前の光学検査で不良と判断されてしまう場合があり、これにより、画像表示装置の製造から出荷までの効率が低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-190406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、光学検査時の光漏れ、着色および虹ムラを良好に抑制し得る表面保護フィルム用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による表面保護フィルム用基材は、正面方向の位相差R0(550)と極角45°および方位角45°方向の位相差R45(550)とが下記の関係を満足する:
R45(550)-R0(550)≦13(nm)。
1つの実施形態においては、上記表面保護フィルム用基材は、上記正面方向の位相差R0(550)が20nm以下である。
1つの実施形態においては、上記表面保護フィルム用基材は、全光線透過率が80%以上であり、ヘイズが1.0%以下である。
1つの実施形態においては、上記表面保護フィルム用基材は、ポリカーボネート、ポリエステル、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂およびセルロース樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を含む。1つの実施形態においては、上記表面保護フィルム用基材は、脂環式構造または負の固有複屈折を示す芳香族環構造を有する樹脂を含む。
本発明の別の局面によれば、表面保護フィルムが提供される。この表面保護フィルムは、上記表面保護フィルム用基材と粘着剤層とを含む。
本発明のさらに別の局面によれば、表面保護フィルム付光学フィルムが提供される。この表面保護フィルム付光学フィルムは、光学フィルムと、該光学フィルムに剥離可能に貼り合わせられた上記表面保護フィルムと、を含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、正面方向の位相差R0(550)と極角45°および方位角45°方向の位相差R45(550)との差を所定値以下とすることにより、光学検査時の光漏れ、着色および虹ムラを良好に抑制し得る表面保護フィルム用基材を実現することができる。特に、大型の画像表示装置の光学検査において、端部の光漏れを顕著に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0008】
A.表面保護フィルム用基材
本発明の実施形態による表面保護フィルム用基材は、正面方向の位相差R0(550)と極角45°および方位角45°方向の位相差R45(550)とが下記の関係を満足する:
R45(550)-R0(550)≦13(nm)。
[R45(550)-R0(550)]は、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下であり、特に好ましくは1nm以下である。一方、[R45(550)-R0(550)]は、好ましくは-5nm以上であり、より好ましくは-3nm以上であり、さらに好ましくは-1nm以上である。[R45(550)-R0(550)]の絶対値は、小さければ小さいほど好ましい。[R45(550)-R0(550)]がこのような範囲であれば、光学検査時の光漏れ、着色および虹ムラを良好に抑制し得る表面保護フィルム用基材を実現することができ、特に、大型の画像表示装置の光学検査において、端部の光漏れを顕著に抑制することができる。例えば、光学検査は、光学フィルム/表面保護フィルムの積層体が表示セルに貼り合わせられた画像表示装置をロール搬送しながら画像表示装置ごとにカメラ(例えば、偏光フィルターを取り付けたカメラ)で撮影することにより、画像表示装置の点灯欠点等を検査する。ここで、画像表示装置が大型である場合には、カメラの画角が非常に大きくなる。画像表示装置の長辺方向の画角は、1つの実施形態においては45°以上であり、別の実施形態においては60°以上であり、さらに別の実施形態においては70°以上であり、さらに別の実施形態においては82°以上であり得る。本発明の実施形態によれば、このように画角が非常に大きい場合であっても端部(または周縁部)の光漏れを顕著に抑制することができる。本発明の実施形態による表面保護フィルム用基材(実質的には、当該基材を含む表面保護フィルム)が適用される画像表示装置のサイズは、好ましくは25インチ以上であり、より好ましくは35インチ以上であり、さらに好ましくは40インチ以上である。画像表示装置が大型であるほど、本発明の効果(特に、端部の光漏れ防止)が顕著となる。さらに、本発明の実施形態によれば、画像表示装置が高精細であるほど、検査精度の向上が顕著となる。なお、本明細書において「R0(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した正面方向の位相差である。R0(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re=(nx-ny)×dによって求められる。したがって、「R0(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した正面方向の位相差である。ここで、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率である。また、「R45(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した極角45°および方位角45°方向の位相差である。ここで、方位角は画像表示装置の長辺方向を0°としたときの方向である。本明細書において角度に言及するときは、基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方の方向を包含する。
【0009】
表面保護フィルム用基材の正面方向の位相差R0(550)は、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは15nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは5nm以下である。正面方向の位相差R0(550)は小さいほど好ましく、その下限は理想的には0nmであり、例えば0.3nmであり得る。R0(550)がこのような範囲であれば、本発明の表面保護フィルム用基材を用いた表面保護フィルムを画像表示装置の光学検査に供した場合に、光漏れ、着色および虹ムラを良好に抑制することができる。その結果、画像表示装置の光学検査の精度を顕著に向上させることができ、画像表示装置の製造から出荷までの効率を向上させることができる。このような正面方向の位相差R0(550)は、基材を構成する材料と延伸条件とを適切に組み合わせて設定することにより実現され得る。
【0010】
表面保護フィルム用基材の極角45°および方位角45°方向の位相差R45(550)は、好ましくは30nm以下であり、より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは12nm以下であり、特に好ましくは7nm以下である。R45(550)がこのような範囲であれば、上記所望の[R45(550)-R0(550)]が実現しやすくなり、その結果、大型の画像表示装置の光学検査において、端部の光漏れを顕著に抑制することができる。このようなR45(550)は、R0(550)と同様に、基材を構成する材料と延伸条件とを適切に組み合わせて設定することにより実現され得る。
【0011】
表面保護フィルム用基材の厚み方向位相差Rth(550)は、好ましくは-90nm~+90nmであり、より好ましくは-50nm~+50nmであり、さらに好ましくは-20nm~+20nmである。「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth=(nx-nz)×dによって求められる。したがって、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。ここで、「nz」は厚み方向の屈折率である。
【0012】
表面保護フィルム用基材は、面内位相差(正面方向の位相差)が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、面内位相差が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、面内位相差が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0013】
表面保護フィルム用基材の全光線透過率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。さらに、表面保護フィルム用基材のヘイズは、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.7%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下であり、特に好ましくは0.3%以下である。全光線透過率またはヘイズがこのような範囲であれば、本発明の表面保護フィルム用基材を用いた表面保護フィルムを画像表示装置の光学検査に供した場合に、優れた視認性を確保することができる。その結果、画像表示装置の光学検査の精度を顕著に向上させることができる。
【0014】
表面保護フィルム用基材は、MIT試験における破断までの折り曲げ回数が好ましくは500回以上であり、より好ましくは700回以上であり、さらに好ましくは900回以上であり、特に好ましくは1100回以上である。すなわち、表面保護フィルム用基材は、好ましくは優れた可撓性または耐折り曲げ性を有し得る。このような構成であれば、貼り合わせ時および剥離時の操作性に優れ、かつ、割れが抑制された表面保護フィルムを得ることができる。本発明の実施形態によれば、このような優れた可撓性または耐折り曲げ性と上記のような非常に小さい正面方向の位相差R0(550)とを両立することができる。なお、MIT試験は、JIS P 8115に準拠して行われ得る。
【0015】
表面保護フィルム用基材は、吸水率が好ましくは5%以下であり、より好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは2%以下である。また、表面保護フィルム用基材は、40℃および92%RHの環境下に24時間放置した後の透湿度が、好ましくは400g/m・24h以下であり、より好ましくは160g/m・24h以下であり、さらに好ましくは130g/m・24h以下であり、特に好ましくは90g/m・24h以下である。吸水率または透湿度がこのような範囲であれば、加湿環境下における浮きを抑制することができる。その結果、長距離輸送(例えば、輸出)時の品質安定性が確保され得る。なお、吸水率は、JIS K 7209に準拠して測定され得る。透湿度は、JIS Z 0208に準拠して測定され得る(温湿度条件:40℃、90%RH)。
【0016】
表面保護フィルム用基材は、ガラス転移温度(Tg)が好ましくは145℃以上であり、より好ましくは160℃以上である。Tgがこのような範囲であれば、表面保護フィルムを作製する際に粘着剤層を表面保護フィルム用基材に直接塗工することにより形成することができる。言い換えれば、所定のフィルム上に形成した粘着剤層を表面保護フィルム用基材に転写する必要がない。したがって、非常に優れた製造効率で表面保護フィルムを作製することができる。一方、表面保護フィルム用基材のTgの上限は、例えば200℃であり得る。
【0017】
表面保護フィルム用基材の弾性率は、好ましくは、引張速度100mm/minにおいて50MPa~350MPaである。弾性率がこのような範囲であれば、搬送性および操作性に優れた表面保護フィルムを得ることができる。本発明の実施形態によれば、優れた弾性率(強さ)と上記のような優れた可撓性または耐折り曲げ性(柔らかさ)とを両立することができる。なお、弾性率は、JIS K 7127:1999に準拠して測定される。
【0018】
表面保護フィルム用基材の引張伸度は、好ましくは70%~200%である。引張伸度がこのような範囲であれば、搬送中に破断しにくいという利点を有する。なお、引張伸度は、JIS K 6781に準拠して測定される。
【0019】
表面保護フィルム用基材は、上記のような所望の特性を有し得る限り、任意の適切な材料で構成され得る。表面保護フィルム用基材は、代表的には樹脂フィルムで構成され得る。フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリビニルアルコール、ポリフマル酸エステル、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、シクロオレフィン系樹脂(例えば、ノルボルネン系樹脂)、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、セルロース樹脂(例えば、トリアセチルセルロース)、アクリル系樹脂およびポリウレタンが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。1つの実施形態においては、上記の樹脂は、脂環式構造または負の固有複屈折を示す芳香族環構造を有していてもよい。脂環式構造としては、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造が挙げられる。負の固有複屈折を示す芳香族環構造としては、例えば、フルオレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、カルバゾール構造、フタルイミド構造が挙げられる。これらの構造を有する樹脂は、得られるフィルムの複屈折が小さく、フィルム化した際の位相差を抑制することができる。
【0020】
表面保護フィルム用基材は、例えば、上記樹脂から形成されたフィルムをそのまま用いたフィルムであり得る。樹脂からフィルムを形成する方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法、熱プレス法等が挙げられる。押出成形法またはキャスト塗工法が好ましい。得られるフィルムの平滑性を高め、良好な光学的均一性を得ることができるからである。成形条件は、使用される樹脂の組成や種類、表面保護フィルム用基材に所望される特性等に応じて適宜設定され得る。
【0021】
また例えば、表面保護フィルム用基材は、上記樹脂から形成されたフィルムに延伸処理を施したフィルムであってもよい。フィルムの延伸方法は、代表的には二軸延伸であり、より詳細には逐次二軸延伸または同時二軸延伸である。正面方向の位相差R0(550)が小さい表面保護フィルム用基材が得られるからである。逐次二軸延伸または同時二軸延伸は、代表的にはテンター延伸機を用いて行われる。したがって、フィルムの延伸方向は、代表的にはフィルムの長さ方向および幅方向である。
【0022】
延伸温度は、表面保護フィルム用基材に所望されるR0(550)、R45(550)および厚み、使用される樹脂の種類、使用されるフィルムの厚み、延伸倍率等に応じて変化し得る。具体的には、延伸温度は、フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、好ましくはTg+5℃~Tg+50℃であり、より好ましくはTg+10℃~Tg+40℃である。このような温度で延伸することにより、本発明の実施形態において適切な特性を有する表面保護フィルム用基材が得られ得る。
【0023】
延伸倍率は、表面保護フィルム用基材に所望されるR0(550)、R45(550)および厚み、使用される樹脂の種類、使用されるフィルムの厚み、延伸温度等に応じて変化し得る。二軸延伸(例えば、逐次二軸延伸または同時二軸延伸)を採用する場合には、第1の方向(例えば、長さ方向)の延伸倍率と第2の方向(例えば、幅方向)の延伸倍率とは、好ましくはその差ができる限り小さく、より好ましくは実質的に等しい。このような構成であれば、R0(550)、R45(550)が小さい表面保護フィルム用基材が得られ得る。二軸延伸(例えば、逐次二軸延伸または同時二軸延伸)を採用する場合には、延伸倍率は、第1の方向(例えば、長さ方向)および第2の方向(例えば、幅方向)のそれぞれについて、例えば1.1倍~3.0倍であり得る。
【0024】
延伸速度は、好ましくは10%/秒以下であり、より好ましくは7%/秒以下であり、さらに好ましくは5%/秒以下であり、特に好ましくは2.5%/秒以下である。このような小さい延伸速度で延伸することにより、R0(550)およびR45(550)が小さい表面保護フィルム用基材が得られ得る。延伸速度の下限は、例えば1.2%/秒であり得る。延伸速度が小さすぎると、生産性が実用的でなくなる場合がある。なお、二軸延伸(例えば、逐次二軸延伸または同時二軸延伸)を採用する場合には、第1の方向(例えば、長さ方向)の延伸速度と第2の方向(例えば、幅方向)の延伸速度とは、好ましくはその差ができる限り小さく、より好ましくは実質的に等しい。このような構成であれば、R0(550)およびR45(550)をより小さくすることができる。
【0025】
表面保護フィルム用基材は、市販の樹脂フィルムをそのまま用いてもよく、市販の樹脂フィルムを上記のような延伸処理に供することにより形成されてもよい。
【0026】
表面保護フィルム用基材の厚みは、代表的には10μm~100μmであり、好ましくは20μm~70μmである。
【0027】
表面保護フィルム用基材は、上記のとおり正面方向の位相差を有するので、遅相軸を有し得る。表面保護フィルム用基材(実質的には、表面保護フィルム)が画像表示装置に適用された場合、表面保護フィルム用基材の遅相軸方向は、画像表示装置の長辺方向に対して、好ましくは30°以下であり、より好ましくは15°以下であり、さらに好ましくは5°以下であり、特に好ましくは2°以下である。このような構成であれば、光学検査時の光漏れ、着色および虹ムラを良好に抑制することができ、特に、大型の画像表示装置の光学検査において、端部の光漏れを顕著に抑制することができる。なお、遅相軸は正面方向の位相差が実質的に存在する場合に発現するものであり、正面方向の位相差が0に近づき実質的に存在しない場合には、遅相軸の影響は小さくなる。
【0028】
B.表面保護フィルム
上記A項に記載の表面保護フィルム用基材は、表面保護フィルムに好適に用いられ得る。したがって、本発明の実施形態は、表面保護フィルムも包含する。本発明の実施形態による表面保護フィルムは、上記A項に記載の表面保護フィルム用基材と粘着剤層とを含む。
【0029】
粘着剤層を形成する粘着剤としては、任意の適切な粘着剤が採用され得る。粘着剤のベース樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂が挙げられる。このようなベース樹脂は、例えば、特開2015-120337号公報または特開2011-201983号公報に記載されている。これらの公報の記載は、本明細書に参考として援用される。耐薬品性、浸漬時における処理液の浸入を防止するための密着性、被着体への自由度等の観点から、アクリル系樹脂が好ましい。粘着剤に含まれ得る架橋剤としては、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物が挙げられる。粘着剤は、例えばシランカップリング剤を含んでいてもよい。粘着剤の配合処方は、目的および所望の特性に応じて適切に設定され得る。
【0030】
粘着剤層の貯蔵弾性率は、好ましくは1.0×10Pa~1.0×10Paであり、より好ましくは2.0×10Pa~5.0×10Paである。粘着剤層の貯蔵弾性率がこのような範囲であれば、ロール形成時のブロッキングを抑制することができる。なお、貯蔵弾性率は、例えば、温度23℃および角速度0.1rad/sでの動的粘弾性測定から求めることができる。
【0031】
粘着剤層の厚みは、好ましくは1μm~60μmであり、より好ましくは3μm~30μmである。厚みが薄すぎると、粘着性が不十分となり、粘着界面に気泡等が入り込む場合がある。厚みが厚すぎると、粘着剤がはみ出すなどの不具合が生じやすくなる。
【0032】
実用的には、表面保護フィルムが実際に使用される(すなわち、光学フィルムまたは画像表示装置に貼り合わせられる)までの間、粘着剤層表面にセパレーターが剥離可能に仮着されている。セパレーターを設けることにより、粘着剤層を保護するとともに、表面保護フィルムをロール状に巻き取ることが可能となる。セパレーターとしては、例えば、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチック(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン)フィルム、不織布または紙などが挙げられる。セパレーターの厚みは、目的に応じて任意の適切な厚みを採用することができる。セパレーターの厚みは、例えば10μm~100μmである。
【0033】
C.表面保護フィルム付光学フィルム
上記B項に記載の表面保護フィルムは、光学フィルム(最終的には、画像表示装置)が実際に使用されるまでの間、当該光学フィルムを保護するために用いられる。したがって、本発明の実施形態は、表面保護フィルム付光学フィルムも包含する。本発明の実施形態による表面保護フィルム付光学フィルムは、光学フィルムと、当該光学フィルムに剥離可能に貼り合わせられた上記B項に記載の表面保護フィルムとを含む。
【0034】
光学フィルムは、単一フィルムであってもよく積層体であってもよい。光学フィルムの具体例としては、偏光子、位相差フィルム、偏光板(代表的には、偏光子と保護フィルムとの積層体)、タッチパネル用導電性フィルム、表面処理フィルム、ならびに、これらを目的に応じて適切に積層した積層体(例えば、反射防止用円偏光板、タッチパネル用導電層付偏光板、位相差層付偏光板、プリズムシート一体型偏光板)が挙げられる。
【0035】
光学フィルムが偏光子を含む場合、偏光子の吸収軸方向と表面保護フィルム用基材の遅相軸方向とのなす角度は、好ましくは0°±30°または90°±30°であり、より好ましくは0°±15°または90°±15°であり、さらに好ましくは0°±5°または90°±5°である。当該角度がこのような範囲であれば、光学検査時の光漏れ、着色および虹ムラを良好に抑制することができ、特に、大型の画像表示装置の光学検査において、端部の光漏れを顕著に抑制することができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0037】
(1)R0(550)、厚み方向位相差Rth(550)およびR45(550)
実施例および比較例で得られた表面保護フィルム用基材を長さ4cmおよび幅4cmに切り出し、測定試料とした。当該測定試料について、Axometrics社製、製品名「Axoscan」を用いてR0(550)、厚み方向位相差Rth(550)およびR45(550)を測定した。測定波長は550nm、測定温度は23℃であった。
(2)虹ムラ
実施例および比較例で得られた表面保護フィルム用基材を、クロスニコル状態の2枚の偏光板の間に配置した。その際、表面保護フィルム用基材の長さ方向と一方の偏光板の透過軸方向とが平行となるように表面保護フィルム用基材を配置した。その状態で下側偏光板の下側から蛍光灯の光を照射し、虹ムラの有無を目視により観察した。以下の基準で評価した。
○:虹ムラは認められなかった
△:虹ムラがわずかに認められた
×:虹ムラが顕著に認められた
(3)輝度
市販の液晶テレビ(LG社製、49インチ、製品名「49SJ8000」)の視認側偏光板の上に、実施例および比較例で得られた表面保護フィルム用基材を、粘着剤を介して貼り合わせた。すなわち、実施例および比較例で得られた表面保護フィルム用基材を含む表面保護フィルムを貼り合わせた。その状態で、入力画像を全面白表示させて点灯させた。点灯させた液晶テレビの輝度を株式会社トプコンテクノハウス製 製品名「SR-UL2」を用いて測定した。また、SL-UL2のレンズ部に視認側偏光板とクロスニコルになるような軸配置で日東電工社製「REGQ1298DUHC3」を貼り付け、輝度を測定した。測定の方向は、正面方向、極角45°方位角45°方向、および、極角45°方位角135°方向の合計3か所であった。
(4)端部の光漏れ
市販の液晶テレビ(LG社製、49インチ、製品名「49SJ8000」)の視認側偏光板の上に、実施例および比較例で得られた表面保護フィルム用基材を、粘着剤を介して貼り合わせた。すなわち、実施例および比較例で得られた表面保護フィルム用基材を含む表面保護フィルムを貼り合わせた。その状態で、入力画像を全面白表示させて点灯させた。点灯中の液晶テレビを偏光サングラス越しに観察し、端部の光漏れについて以下の基準で評価した。なお、サングラスに貼りわされている偏光板の吸収軸はメガネの上下方向であった。
○:光漏れは認められなかった
△:光漏れがわずかに認められた
×:光漏れが顕著であった
【0038】
<実施例1>
市販のポリカーボネート樹脂フィルム(三菱ケミカル社製、商品名「DURABIO T7450A」)を105℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー温度230℃)、Tダイ(幅1700mm、温度230℃)、キャストロール(温度120℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み40μmのフィルムを作製し、表面保護フィルム用基材とした。このフィルムはフラットな波長分散特性を示した。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は5.6nmであり、Rth(550)は11.5nmであり、R45(550)は6.02nmであり、[R45(550)-R0(550)]は0.42nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0039】
<実施例2>
押出機の押出量およびキャストロールの速度を調整したこと以外は実施例1と同様にして表面保護フィルム用基材(厚み15μm)を得た。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は11.2nmであり、Rth(550)は17.8nmであり、R45(550)は11.9nmであり、[R45(550)-R0(550)]は0.7nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0040】
<実施例3>
市販のポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製 商品名「ユーピロンH-4000」を120℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー温度255℃)、Tダイ(幅1700mm、温度255℃)、キャストロール(温度130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み40μmのフィルムを作製し、表面保護フィルム用基材とした。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は2.6nmであり、Rth(550)は43.9nmであり、R45(550)は15.1nmであり、[R45(550)-R0(550)]は12.5nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0041】
<実施例4>
下記の原料を用いてポリマーアロイフィルムを作製した。
使用原料
FDPM:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン[9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン(またはフルオレン-9,9-ジプロピオン酸)のジメチルエステル]、特開2005-89422号公報の実施例1記載のアクリル酸t-ブチルをアクリル酸メチル[37.9g(0.44モル)]に変更したこと以外は同様にして合成したもの
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
EG:エチレングリコール
PC:ビスフェノールA型ポリカ-ボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロンH-4000」
【0042】
FDPM 1.00モル、BPEF 0.80モル、EG 2.20モルに、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物2×10-4モルおよび酢酸カルシウム・1水和物8×10-4モルを加え、撹拌しながら徐々に加熱溶融した。230℃まで昇温した後、トリメチルホスフェート14×10-4モル、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、270℃、0.13kPa以下に到達するまで、徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。所定の撹拌トルクに到達後、内容物を反応器から取り出し、フルオレン環含有ポリエステルのペレットを調製した。得られたペレットをH-NMRにより分析したところ、フルオレン環含有ポリエステルに導入されたジカルボン酸成分の100モル%がFDPM由来であり、導入されたジオール成分の80モル%がBPEF由来、20モル%がEG由来であった。得られたフルオレン環含有ポリエステルのガラス転移温度Tgは126℃、重量平均分子量Mwは43600であった。得られたフルオレン環含有ポリエステルとPCとを20/80(重量比)で二軸混練機で混練し、ポリマーアロイのペレットを作製した。
【0043】
得られたポリマーアロイのペレットを80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製 シリンダー温度255℃)、Tダイ(幅1700mm、温度255℃)、キャストロール(温度125℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み160μmのポリマーアロイフィルムを作製した。このフィルムを、長さ方向および幅方向にそれぞれ2倍に同時二軸延伸した。延伸温度は170℃、延伸速度は長さ方向および幅方向ともに1.4%/秒であった。このようにして、表面保護フィルム用基材(厚み40μm)を得た。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は20nmであり、Rth(550)は85nmであり、R45(550)は28.1nmであり、[R45(550)-R0(550)]は8.1nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0044】
<実施例5>
市販のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム社製、製品名「TD80UL」)をそのまま用いて表面保護フィルム用基材(厚み80μm)とした。表面保護フィルム用基材のR0(550)は4.9nmであり、Rth(550)は52.6nmであり、R45(550)は8.7nmであり、[R45(550)-R0(550)]は3.8nmであった。表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0045】
<実施例6>
市販のシクロオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、製品名「ZF14」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして表面保護フィルム用基材(厚み40μm)を得た。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は2.0nmであり、Rth(550)は7.9nmであり、R45(550)は2.7nmであり、[R45(550)-R0(550)]は0.7nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0046】
<実施例7>
市販のアクリル樹脂(奇美実業社製、商品名「CM-205」)を100℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー温度230℃)、Tダイ(幅1700mm、温度230℃)、キャストロール(温度100℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み160μmのフィルムを作製した。このフィルムを、長さ方向および幅方向にそれぞれ2倍に同時二軸延伸した。延伸温度は146℃、延伸速度は長さ方向および幅方向ともに7.1%/秒であった。このようにして、表面保護フィルム用基材(厚み40μm)を得た。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は0.5nmであり、Rth(550)は-39nmであり、R45(550)は10.1nmであり、[R45(550)-R0(550)]は9.6nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0047】
<比較例1>
延伸温度を167℃としたこと以外は実施例4と同様にして表面保護フィルム用基材(厚み40μm)を得た。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は32nmであり、Rth(550)は91nmであり、R45(550)は45.1nmであり、[R45(550)-R0(550)]は13.1nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0048】
<比較例2>
厚みを80μmにしたこと以外は実施例3と同様にして表面保護フィルム用基材(厚み80μm)を得た。得られた表面保護フィルム用基材のR0(550)は5.6nmであり、Rth(550)は102.6nmであり、R45(550)は19.4nmであり、[R45(550)-R0(550)]は13.8nmであった。得られた表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0049】
<比較例3>
市販の超高位相差ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、商品名「ダイアホイルMRF38CK」)をそのまま用いて表面保護フィルム用基材(厚み38μm)とした。表面保護フィルム用基材のR0(550)は2950nmであり、Rth(550)は8989.4nmであり、R45(550)は3445.5nmであり、[R45(550)-R0(550)]は495.5nmであった。表面保護フィルム用基材を上記(2)~(4)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の実施例の表面保護フィルム用基材は、虹ムラが防止され、全光線透過率に優れ、かつ、端部の光漏れが抑制されていることがわかる。なお、着色についても虹ムラおよび光漏れと同様の結果が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の表面保護フィルム用基材は、表面保護フィルムに好適に用いられる。本発明の表面保護フィルムは、光学フィルム(最終的には、画像表示装置)が実際に使用されるまでの間、当該光学フィルムを保護するために用いられる。本発明の表面保護フィルム用基材および表面保護フィルムを用いることにより、画像表示装置の光学検査の精度を顕著に向上させることができる。