(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】風力発電装置制御部、風力発電装置、風力発電装置制御方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F03D 7/04 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
F03D7/04 E
(21)【出願番号】P 2020035737
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】320005154
【氏名又は名称】日本製鋼所M&E株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-017198(JP,A)
【文献】特開2017-180151(JP,A)
【文献】特開2010-200533(JP,A)
【文献】特開2006-296189(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0233349(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/308126(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/368465(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、を備える風力発電装置の発電出力を制御する制御部であって、
前記制御部は、前記発電機による発電出力が定格値を目指すように制御する定格出力モードを有し、
前記定格出力モードにおける風車のロータ回転数が、風速の低下に伴ない、ロータ回転数が定格ロータ回転数よりも低いロータ回転数低下の状態とな
って定格出力を下回ってから所定時間経過した場合、
予め定めた時間において、定格出力モードよりも低い発電出力目標低減に応じて発電機にかかるトルクを低下させて風車のロータ回転数の低下を抑制する第1の制御と、次いで、
予め定めた時間において、風車のロータ回転数の低下が抑制された状態で発電機にかかるトルクを増加させて発電出力を一時的に増加させる第2の制御とを有
し、その後、通常の制御に戻す一時発電出力増加処理を行うことを特徴とする風力発電装置制御部。
【請求項2】
前記制御部は、前記風車の制御部のブレードの取り付け角度を変更するピッチ制御を行うことを特徴とする請求項1記載の風力発電装置制御部。
【請求項3】
前記制御部は、前記一時発電出力増加処理中に、前記ピッチ制御を通常時と異なるものに設定可能とする請求項2記載の風力発電装置制御部。
【請求項4】
前記した所定のロータ回転数低下の状態は、前記定格出力モード時の風車のロータ回転数に対し、所定のロータ回転数または所定の比率でロータ回転数が低下した状態をいう請求項1~3のいずれか1項に記載の風力発電装置制御部。
【請求項5】
前記した所定のロータ回転数低下の状態は、ピッチ角度によって判断することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の風力発電装置制御部。
【請求項6】
風車のロータ回転数の低下の抑制が、風車のロータ回転数の低下量の減少、ロータ回転数の維持または増加である請求項1~
5のいずれか1項に記載の風力発電装置制御部。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2の制御において風車のロータ回転数が増加する際に、増加した風車のロータ回転数が、定格出力モードにおける定格ロータ回転数以下となるように、前記第1の制御における前記トルクの低下量および第2の制御におけるトルクの増加量を定めることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の風力発電装置制御部。
【請求項8】
風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、請求項1~
7のいずれか1項に記載の風力発電装置制御部と、を備える風力発電装置。
【請求項9】
風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、を備える風力発電装置の発電出力を制御する風力発電装置制御方法であって
発電機による発電出力が定格値を目指すように制御する定格出力モードを有し、
定格出力モードにおける風車のロータ回転数が、風速の低下に伴ない、ロータ回転数が定格ロータ回転数よりも低いロータ回転数低下の状態とな
って定格出力を下回ってから所定時間経過した場合、
予め定めた時間において、定格出力モードよりも低い発電出力目標低減に応じて発電機にかかるトルクを低下させて風車のロータ回転数の低下を抑制する第1の制御と、次いで、
予め定めた時間において、風車のロータ回転数の低下が抑制された状態で発電機にかかるトルクを増加させて発電出力を一時的に増加させる第2の制御とを有
し、その後、通常の制御に戻す一時発電出力増加処理を行うことを特徴とする風力発電装置制御方法。
【請求項10】
風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、を備える風力発電装置の発電出力を制御する制御部で実行される制御プログラムであって、
請求項1~
7のいずれか1項に記載の制御および一時発電出力増加処理を前記制御部に実行させることを特徴とする制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発電出力を制御しつつ動作させる風力発電装置制御部、風力発電装置、風力発電装置制御方法および制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置では、風車のブレード取り付け角度を調整するピッチ制御、風車の向きを変えるヨー制御、発電機のトルク制御などにより、発電出力を制御しており、一般的には目標とする定格出力を設定し、この定格出力を目指した制御を行っている。
風速が定格風速よりも高い場合において、定格出力制御では、定格出力を超える状態では、ピッチ制御によって、風車のロータ回転数が定格ロータ回転数を超過しないような制御を行い、定格出力を下回る状態では、ピッチ制御およびトルク制御によって、風車のロータ回転数が定格ロータ回転数を下回らないような制御を行っており、さらに効率的な制御が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1では、風力タービンの機械的負荷が低下した場合に、ロータ回転速度調整プログラムが起動され、速度調整プログラムでは、初期ロータ回転速度設定値よりも大きい調整ロータ回転速度設定値を決定し、風力タービンの最大ロータ回転速度設定値が増加される。これによりエネルギー捕捉量が増加されるとしている。
【0004】
また、特許文献2では、定格発電出力に至る風速である第1の風速以上である場合に、ロータ回転速度を定格値に保持するとともに、第1の風速未満かつ、ロータ回転速度が定格ロータ回転速度に至る風速である第2の風速以上の場合に、風速の増加に従ってロータ回転速度の目標値であるロータ回転速度目標値を、定格ロータ回転速度より大きい値に上昇させる第1の運転モードと、風速の増加に従ってロータ回転速度目標値を定格ロータ回転速度より大きい値から定格ロータ回転速度まで減少させる第2の運転モードとを実行可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術では、風力発電システムの定格発電出力を上昇させ、より大きな発電出力を得ることが可能であるが、発電機や電力変換器等を含めた電機機器等の各要素が定格発電出力以上の運転を実施することになり、当初の設計値を上回る負荷が加わる場合には、その容量等に大きなマージンを備えている必要があるなどの課題がある。
【0008】
また、特許文献2の技術は、風車のロータ回転数が定格ロータ回転数に到達していない場合に,目標ロータ回転数を増加させる手法であり、ロータ回転数が一時的(瞬間的)に定格ロータ回転数を超過することとなるため,当初設計以上の荷重が負荷される可能性がある。さらには,山岳地形等、風力発電装置が山間部等に設置される場合、複雑な地形起伏に起因する風速の変動に伴い、ロータ回転数の大きな変動が発生する。
【0009】
以上のように上記特許文献では、高い発電量を得るために、一時的に目標ロータ回転数を高く設定することで発電量の増加を図っている。一般の風力発電装置においては、ロータ回転数が一定の許容値(閾値)を超過した場合、風車装置保護の観点から風車が緊急停止する。目標ロータ回転数を増加させる手法は過回転状態を誘発し、結果的に風車の稼働率を低下させるおそれがあり、運用上望ましくない。
【0010】
図3にロータの回転数と設定トルクの関係を示す。図中には、通常の設定トルクの制御値を示している。一般に、設定トルクはロータ回転数の2乗に比例させて付与することで、風車ロータの空力特性を最適に保つことが可能であり、ロータ回転数が低い場合にはこれに従う(最適トルクカーブ)。
一方、発電機およびその他の機器には装置保護上、ロータ回転数とトルクに制限があるため、すべてのロータ回転数で、最適トルクカーブを維持することは困難である。したがって、発電機等の機器要求により、定格ロータ回転数、定格トルクが設定され、このときの発電出力を定格出力という。また、定格出力を達成する風速を定格風速という。定格ロータ回転数と最適トルクカーブを維持できる最大ロータ回転数は一般に乖離するため、トルクが急激に増加する領域が発生する。
ここで、従来の制御装置においては、最適トルクカーブに沿って発電できるロータ回転数領域を広くすることで、発電出力を増加させるように制御している。しかし、一般に装置のロータ回転数には装置保護のための上限がある。さらに、従来の制御においては、特に風速が時間的に増加する場合について示されており、風速が低下する場合の設定について記載がなく、この場合、通常のトルク制御(
図3中の実線に対応)に従うものと考えられ、定格ロータ回転数から最適トルクカーブを維持できる最大ロータ回転数の間で運転される場合、発電効率の低下は避けられない。
【0011】
本発明においては、時間的に変化する風速下において、特に定格ロータ回転数近傍で運転されている場合に、風速が時間的(一時的)に減少する場合に、発生する発電量減少を抑制できる制御内容を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の風力発電装置制御部のうち、第1の形態は、
風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、を備える風力発電装置の発電出力を制御する制御部であって、
前記制御部は、前記発電機による発電出力が定格値を目指すように制御する定格出力モードを有し、
前記定格出力モードにおける風車のロータ回転数が、風速の低下に伴ない、ロータ回転数が定格ロータ回転数よりも低いロータ回転数低下の状態となって定格出力を下回ってから所定時間経過した場合、予め定めた時間において、定格出力モードよりも低い発電出力目標低減に応じて発電機にかかるトルクを低下させて風車のロータ回転数の低下を抑制する第1の制御と、次いで、予め定めた時間において、風車のロータ回転数の低下が抑制された状態で発電機にかかるトルクを増加させて発電出力を一時的に増加させる第2の制御とを有し、その後、通常の制御に戻す一時発電出力増加処理を行うことを特徴とする。
【0013】
第2の形態の風力発電装置制御部は、前記形態の発明において、
前記制御部は、前記風車の制御部のブレードの取り付け角度を変更するピッチ制御を行うことを特徴とする。
【0014】
第3の形態の風力発電装置制御部は、前記形態の発明において、
前記制御部は、前記一時発電出力増加処理中に、前記ピッチ制御を通常時と異なるものに設定可能とする。
【0015】
第4の形態の風力発電装置制御部は、前記形態の発明において、
前記した所定のロータ回転数低下の状態は、前記定格出力モード時の風車のロータ回転数に対し、所定のロータ回転数または所定の比率でロータ回転数が低下した状態をいう。
【0016】
第5の形態の風力発電装置制御部は、前記形態の発明において、前記した所定のロータ回転数低下の状態は、ピッチ角度により判定されることを特徴とする。
【0020】
第6の形態の風力発電装置制御部は、前記形態の発明において、
風車のロータ回転数の低下の抑制が、風車のロータ回転数の低下量の減少、ロータ回転数の維持または増加である。
【0023】
第7の形態の風力発電装置制御部は、前記形態の発明において、
前記制御部は、前記第2の制御において風車のロータ回転数が増加する際に、増加した風車のロータ回転数が、定格出力モードにおける定格ロータ回転数以下となるように、前記第1の制御における前記トルクの低下量および第2の制御におけるトルクの増加量を定めることを特徴とする。
【0024】
本発明の風力発電装置は、風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、前記形態のいずれか一つに記載の風力発電装置制御部と、を備える。
【0025】
本発明の風力発電装置制御方法は、風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、を備える風力発電装置の発電出力を制御する風力発電装置制御方法であって
発電機による発電出力が定格値を目指すように制御する定格出力モードを有し、
定格出力モードにおける風車のロータ回転数が、風速の低下に伴ない、ロータ回転数が定格ロータ回転数よりも低いロータ回転数低下の状態となって定格出力を下回ってから所定時間経過した場合、予め定めた時間において、定格出力モードよりも低い発電出力目標低減に応じて発電機にかかるトルクを低下させて風車のロータ回転数の低下を抑制する第1の制御と、次いで、予め定めた時間において、風車のロータ回転数の低下が抑制された状態で発電機にかかるトルクを増加させて発電出力を一時的に増加させる第2の制御とを有し、その後、通常の制御に戻す一時発電出力増加処理を行うことを特徴とする。
【0026】
本発明の制御プログラムは、風車と、風車ロータの回転によって発電を行う発電機と、を備える風力発電装置の発電出力を制御する制御部で実行される制御プログラムであって、
前記形態のいずれか一つに記載の制御および一時発電出力増加処理を前記制御部に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
すなわち、本発明によれば、以下の効果を有している。
(1)本発明を適用することで、一定期間内に得られる発電量を増加できる。
(2)本発明において、目標ロータ回転数や実際のロータ回転数を増加させず、むしろ一時的に発電機にかかるトルクを低下させることで、得られる発電量を増加させる手法とすることで、目標ロータ回転数や実際のロータ回転数を増加させることで発生する風車荷重の増加や、過回転状態に陥ることで発生しやすくなる風車停止を招くおそれがない。
(3)本発明を適用することで、発電出力低減時の電力の低下を抑制することが可能であり、結果的に期間内の発電電力の変動を緩和することで風力発電設備の電力品質を改善できる特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態における風力発電装置の概略を示す図である。
【
図2】同じく、風力発電装置を制御する制御部の機能ブロックを示す図である。
【
図3】トルクと風車ロータ回転数の関係を示すグラフである。
【
図4】トルクと風車ロータ回転数の関係を示すグラフを利用した発電出力目標低減時の設定トルクを説明する図である。
【
図5】本実施形態の一例の制御方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】シミュレーション結果を示すハブ高さ風速、風車ロータ回転数、ピッチ角度、発電出力およびトルクの時間的変化を示すグラフである。
【
図7】他のシミュレーション結果を示すハブ高さ風速、風車ロータ回転数、ピッチ角度、発電出力およびトルクの時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
本発明の一実施形態である風力発電装置1は、
図1に示すように、タワー2にナセル3が地面に垂直な縦軸によって回転可能に取り付けられ、ナセル3に、ハブ4が取り付けられている。ハブにはブレード5が取り付けられており、ハブ4とブレード5からなるロータは、水平軸によって回転可能となっている。ロータは、ナセル3内に設置した発電機6に図示しない増速機などによって連結されている。
【0030】
さらに、風力発電装置1の発電出力を制御する制御部10を有している。ナセル3の上方には、ハブ風速を測定する図示しない風速計が設置され、制御部10に測定結果が送信される。風速計の設置箇所は特に限定されない。さらに、風力発電装置では、風速計を備えず、外部の計測データなどを入手するようにしてもよい。
また、制御部10は、ナセル3外に設置する他に、ナセル3内に設置されるものでもよく、また、タワー2内や、ネットワークを介してナセル3内の機器と接続されるものであってもよい。制御部10は、本発明の風力発電装置制御部に相当する。この実施形態では、風車発電装置は、水平軸風車発電装置となっているが、本発明としては水平軸の装置に限定されない。
【0031】
制御部10は、
図2に示すように、CPU11と、風力発電装置1を制御する制御プログラムや、風力発電装置1の動作パラメータ、各種設定データなどが格納された記憶部12とを有している。記憶部12には、ROMやRAM、不揮発メモリ、HDD、SSDなどが用いられる。制御プログラムは、記憶部12に格納することができ、また、取り外し可能なUSBメモリなどの記憶部に格納されているものであってもよい。
【0032】
CPU11では、風力発電制御プログラムが記憶部12などから読み出されるなどして実行される。
記憶部12には、定格動作モード時のピッチ制御、トルク制御、トルク-風車ロータ回転数の調整カーブ、などのパラメータや、一時発電出力増加処理における第1の制御に移行するためのロータ回転数低下状態の基準や、第1の制御におけるトルクの低下量、第1の制御を行う時間、第2の制御におけるトルクの増加量、第2の制御を行う時間、一時発電出力増加処理を行う際の発電出力目標低減量、発電出力目標低減後の待機時間などのデータが格納される。これらのデータはオペレータによって変更可能としてもよい。
【0033】
制御部10は、風力発電装置1全体の制御を行うことができ、発電機6における発電出力制御として、ブレード5の取り付け角度を変更するピッチ制御や、ナセルのヨー制御、発電機6のトルク制御などを行うことができる。
【0034】
風力発電装置1では、通常、定格出力を目指して定格出力モードによって運転が行われる。定格出力モードの手順を説明する。
定格出力モードの開始に伴って、現況の風車ロータ回転数を取得し、主として前記ロータ回転数に基づいて定格出力(ロータ回転数)制御を行う。発電出力制御では、ブレード5の取り付け角度を変更するピッチ制御やナセルの向きを調整するヨー制御、発電機6のトルク制御などによって、風力発電装置1の発電出力が定格値を目標とするように制御する。定格出力を維持できない場合には、
図3に示すトルク-ロータ回転数の調整カーブに従って制御を行うことができる。
【0035】
次に、本発明の実施形態における一時発電出力増加処理について説明する。
定格風速近傍(ただし、定格風速以上)で運転されている場合、ロータ回転数、負荷トルクはそれぞれ、定格ロータ回転数、定格トルクに対応する運転点で運転される。ここから風速が時間的に低下する場合、風から得られる空力トルクが減少するため、運転点は
図3のトルク曲線に従って負荷トルクが低下していく。このとき、ロータ回転数に対して負荷トルクが大きく減少することから、おおきな発電出力低下が発生する。
【0036】
後述する理由により、風速の低下は一時的であることが多いが、本トルクカーブに従った制御を行った場合、風速の増減に合わせて激しい発電出力変動が発生することになる。このような定格風速近傍の運転状態において、風速の増加時は、最大発電出力が定格出力を超過しないよう制御されるため、最大発電出力は定格出力におおむね調整されるが、風速の減少時は、風速にしたがった発電出力となるため、風車設置サイトにおける乱流強度が高いほど、この運転領域での発電量(一定期間中に得られる発電出力の総和)は低下することとなる。
【0037】
そこで本実施形態においては、風速の低下に伴ない、ロータ回転数が定格ロータ回転数よりも(わずかに)低下した場合に、風車の目標発電出力を一般に風車に備えられた発電出力目標低減機能を利用して瞬間的に低下させることで、後述する推定原理により発電量の増加が可能である。
ロータ回転数の低下状態は予め基準を定めておき、その基準に従って制御を行うことができる。
一般的な可変ピッチシステムを有する可変速大型風車においては、目標発電出力を変更できる機能を有する。この機能は、通常、目標ロータ回転数と設定トルクを低下させることで実現され、風車制御製作者(製作メーカ)だけでなく、所有者が変更できることが多い。本実施形態では、動作中にこの機能を使用できるようにすることで、製作メーカ以外が容易に実施できる特徴を有する。また既存の制御システムを変更することなく適用できる特徴を有する。
【0038】
なお、目標発電出力を低下させる制御の過程で発電出力が一度低下するが、これは、既存の発電出力目標低減機能を利用した場合であり、目標ロータ回転数を定格ロータ回転数よりも増加させずに、実際のロータ回転数を一時的に(定格ロータ回転数を超過しない範囲で)増加させることが重要であるため、目標発電出力を定格出力のまま、負荷トルクを一時的に低下させることでロータ回転数を増加させる機能を設けてもよい。
【0039】
以下に、発電出力目標低減機能について説明する。
発電出力目標低減機能について、
図4を用いて説明する。発電出力目標低減機能は一般のピッチ制御、可変速大型風車に一般的に用いられている機能であり、通常、目標発電出力は定格出力に設定される。目標発電出力は系統要求や運転制御、運転状態により任意に低減する方向に変更が可能であり、目標発電出力を低下させた場合、ロータ回転数とトルクを同時に低下させる方向に制御(動作)する(
図4のA図、B図)。
【0040】
したがって、定格出力で運転されており、発電出力目標を低減させるよう指令した場合、風力発電装置はピッチ制御によりロータ回転数を低下させようとすると同時に、目標発電出力にあわせて現在の発電出力を低下させるために、設定トルクを低減させる。このとき、ピッチ制御はトルク制御に比べて制御効果が得られるまでに時間を要するために、一時的にロータ回転数が僅かに増加することとなる。ただし、この動作は、ロータ回転数が定格ロータ回転数よりも低下した場合に実施するため、この動作によるロータ回転数増加は、定格ロータ回転数を超過しない程度に制御される。(なお、目標ロータ回転数は、制御動作期間中、常に定格ロータ回転数以下であるため、目標値を超過した場合は直ちに目標値以下になるよう制御される。)
なお、
図3、
図4に示すグラフが一例であって、本願発明におけるロータ回転数とトルクの関係が図示したものに限定されるものではない。
【0041】
<推定原理>
風速が低下していく場合、ロータの回転数が下がってしまうと、ロータは運動エネルギーを失うため、次に風速が増加した場合に、得られる空力トルクは、ロータの加速と発電の両方に使用される。一方で風速の低下が僅かな場合は、ロータ回転数を高く保っておくことで、ロータの運動エネルギーを高く維持することができるため、次に風速が増加した場合に直ちに発電エネルギーを得ることが可能であるためと推定される。風速の変動が激しい場合、風速が低下した後すぐに風速が増加する状態が頻発する。
【0042】
<風速の低下が一時的である理由>
一般に特定サイトにおける風速は、気圧配置や温度等により決定されるため、それらが同一程度とみなせる時間内(10分から1時間程度)では概ね一定と考えられる。一方、山岳地等、地形形状が複雑な場所に風力発電装置が設置される場合、地形形状に起因して風の乱れ(乱流)が高くなる。これにより、平坦地形に設置される場合に比較して一定時間の平均の風速(平均風速)が同程度であっても、風速の変動(乱流強度)が大きくなることが知られている。このような風速変動は、上流に位置する地形(山岳)の剥離流れが起因しており、剥離に伴ない発生する大規模剥離渦や、地形せん断による細かい渦系が混合して連続的に対象地点に流入して変動する(数秒程度の間隔)。この風速変動は減少、増加を繰り返すことになるため、風速が低下した場合は、数秒から数十秒の間に復帰することが多い。
【0043】
以下に、本発明の一実施形態における一時発電出力増加処理の手順を
図5のフローチャートにより説明する。なお、以下の手順の制御方法は、制御部で動作するプログラムによって実行することができる。
制御開始に伴い、風車が定格風速近傍で運転されていることを判断するためにピッチ角度を取得し、その値が閾値以下(例えば最大開き角度+3deg以下)である場合、制御対象領域であると判断する(ステップs1)。有効ピッチ角度範囲である閾値は予め設定されて、記憶部12などに格納されており、必要に応じて読み出される。
【0044】
ピッチ角度が閾値以下でなければ(ステップs1、No)、待機する。
ピッチ角度が閾値以下であれば(ステップs1、Yes)、ロータの回転数が低下傾向であることを判断する(ステップs2)。ロータ回転数低下判断条件は予め設定されて、記憶部12などに格納されており、必要に応じて読み出される。ロータ回転数低下の状態は例えば所定の時間継続した場合に低下状態であると判断することができる。
【0045】
ロータ回転数の低下判断の実施については、上記では、ピッチ角度の状態で判断したが、その他に測定された風速の測定結果によって判断するものであってもよい。ロータ回転数の低下判断は、定格ロータ回転数に対する減少量や減少比率、低下してからの経過時間などによって判断することができるが、本発明としては、特定の条件に限定されるものではない。
【0046】
このプロセスにおいては、ロータ回転数の1秒平均値と瞬時値を用いて、1秒平均ロータ回転数が所定回転数以上(例えば18.7rpm以上)かつ瞬時ロータ回転数が所定ロータ回転数(例えば18.7rpm)を下回ったときにロータ回転数低下傾向と判断する。その後、発電出力を規定量低下(例えば、定格出力(例えば2000kW)から低下した発電出力目標低減(例えば1800kW)に設定する(ステップs3)。低下状態を維持し(ステップs4)、規定時間(この例において1秒)維持されたかを判断する(ステップs5)。規定時間は予め設定されて、記憶部12などに格納されており、必要に応じて読み出される。
【0047】
抑制時間が規定値に至らなければ(ステップs5、No)、発電出力制限を維持し(ステップs4)、抑制時間が規定値以上であるか(ステップs5)を繰り返す。発電出力制限は、本発明の第1の制御に相当する。
抑制時間が規定値以上である場合(ステップs5、Yes)、発電出力制限を解除する。さらに連続して制御が動作することが無いように、一定の規定時間(この例において10秒)経過(ステップs6)した後、再度監視状態に戻る。発電出力制限後、監視状態に戻る過程は本発明の第2の制御に相当する。すなわち、第2の制御は、定格状態に戻るようにトルクを戻すことによって行うことができる。ただし、第2の制御では、定格トルクとは異なるトルクに増加させるものであってもよい。
【0048】
なお、この例では、発電出力目標低減で、トルクの低減とともに、ピッチ制御により風車のロータ回転数を低下させるものとしているが、発電出力目標低減では、ピッチ制御を行わないようにしたり、調整量を小さくするようにしたり、通常時のピッチ制御とは異なるようにしたりしてもよく、予め通常時と異なるピッチ制御を行うかを設定可能にできるものとしてもよい。
ただし、発電出力目標低減においてピッチ制御を行うことで、風速の低下時にピッチをフェザー方向(発電出力を低下させる方向)にあらかじめ制御されることで、風速が後に急上昇した際に、ロータ回転数が急増しにくくなるために、過回転による風車運転停止リスクを低減できる。
【0049】
図6に本発明の効果をシミュレーションにより検証した結果について示す。
シミュレーションでは、
図8に示す条件で行った。解析ソフトには、Bladed Ver4.7(商標)を用いた。
シミュレーションでは同一の流入風(3次元乱流風)に対する風車挙動を解析しており、従来制御と当該制御状態について挙動の違いを示す。時間20秒頃の挙動において、当該制御ではロータ回転数の低下を検知して発電出力目標低減を行うため、発電出力が減少するとともに、ロータ回転数が僅かに増加する。この制御動作により、その後の発電出力は当該制御で増加することが確認できる。
【0050】
図7は同様に、時間10秒頃に作動した様子が確認できる。本事例においては、時間17秒頃において最大ロータ回転数に到達するが、従来制御に比べて当該制御では最大ロータ回転数が低下していることから、当該制御においては、発電量の増加だけでなく、その後に発生する突風に対して到達ロータ回転数を抑制する効果もある。これにより、電力の変動が緩和されるとともに、過回転による風車運転停止のリスクを低減できる。
【0051】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲が上記の説明の内容に限定されるものではなく、上記実施形態は、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 風力発電装置
2 タワー
3 ナセル
4 ハブ
5 ブレード
6 発電機
10 制御部
11 CPU
12 記憶部