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特許7549967流動接触分解プロセスにおける流動接触分解残油のリサイクル方法及び精製油の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】流動接触分解プロセスにおける流動接触分解残油のリサイクル方法及び精製油の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/18 20060101AFI20240905BHJP
   B01J 29/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C10G11/18
B01J29/08 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020043167
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021143290
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】根岸 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】千代田 範人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 真実
(72)【発明者】
【氏名】山田 輝行
(72)【発明者】
【氏名】金丸 康之
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-173582(JP,A)
【文献】特開2008-173583(JP,A)
【文献】特開2010-082547(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103703105(CN,A)
【文献】特開昭54-127382(JP,A)
【文献】特開2016-155960(JP,A)
【文献】特開2012-246356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 11/18
B01J 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて分解油を得、前記分解油を蒸留塔で分離し、精製油を得る流動接触分解プロセスにおいて、前記精製油の一種である前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を分離装置により分離処理を行い、前記分離処理後の流動接触分解残油のうち、前記流動接触分解触媒の含有量が製品規格値超の流動接触分解残油を前記分離装置から直接、前記流動接触分解装置に再度供給する前記流動接触分解残油のリサイクル方法であって、
前記流動接触分解触媒の摩耗強度が2~5%である、流動接触分解残油のリサイクル方法。
【請求項2】
粒子径が50μm以下の前記流動接触分解触媒の割合が15~23質量%である、請求項1に記載の流動接触分解残油のリサイクル方法。
【請求項3】
原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて分解油を得、前記分解油を蒸留塔で分離し、精製油を得る、精製油の製造方法であって、
前記精製油の一種である前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を分離装置により分離処理を行い、前記分離処理後の流動接触分解残油のうち、前記流動接触分解触媒の含有量が製品規格値超の流動接触分解残油を前記分離装置から直接、前記流動接触分解装置に再度供給する前記流動接触分解残油のリサイクル工程を含み、前記流動接触分解触媒の摩耗強度が2~5%である、精製油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解プロセスにおける流動接触分解残油のリサイクル方法及び精製油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動接触分解反応は、流動接触分解装置において、高温で重質油をはじめとする原料油を流動接触分解触媒に接触させることにより、原料油を分解して、ガソリンや灯油・軽油などの付加価値の高い分解油を得る反応である。
【0003】
重質油を原料油として流動接触分解反応を行うと、プロパン、ブタンなどを主成分とする液化石油ガス(Liquid Petroleum Gas(LPG))、ガソリン、軽質分解軽油(Light Cycle Oil(LCO))、重質分解軽油(Heavy Cycle Oil(HCO))、及び流動接触分解残油(Slurry Oil(SLO))からなる分解油が製造される。
【0004】
前記分解油は、流動接触分解装置から蒸留塔に移送され、蒸留塔において常圧蒸留を行い、常圧留出分であるLPG、ガソリン、LCO、HCOと、残油であるSLOが分離される。SLOは分解油のなかでも最も重質な留分であり、その後、バンカーC重油等の重油基材として用いられる。
【0005】
流動接触分解装置としては、流動接触分解触媒に原料油を接触させて前記原料油を分解し、分解油を生成するライザー、分解油と流動接触分解触媒とを分離する反応塔、及び分離した流動接触分解触媒上に堆積したカーボン(コーク)を燃焼することで触媒を再生する再生塔を備えるものが従来からよく知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
流動接触分解触媒は粉末状の固体触媒であり、例えば、ゼオライトを主成分として含む固体触媒が広く使用されている(例えば、特許文献2)。流動接触分解反応においては、副生成物としてコークが流動接触分解触媒上に生成し、このコークが流動接触分解触媒の活性点を被覆、細孔を閉塞することにより触媒活性(分解活性)が低下することが知られている。
【0007】
流動接触分解装置では、コークにより活性が低下した流動接触分解触媒を、再生塔へ移送し、空気流通下、高温でコークを燃焼除去することで流動接触分解触媒を再生し、反応に再利用している。流動接触分解触媒再生時の再生塔の温度は、再生塔に移送される流動接触分解触媒中のコークの含有量に依存する。再生塔には通常、その材質、構造に応じた使用最高温度が設定されており、前記使用最高温度以下で運転しなければならないという制約がある。したがって、再生塔に持ち込まれるコークの量が多すぎる場合、再生塔の負荷が上昇し、再生処理がボトルネックとなる。この場合、原料油の供給量を減らさなければならないことがあり、流動接触分解プロセスの効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-102204号公報
【文献】特開2008-173583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した通り、流動接触分解触媒は粉末状であるため、分解油を流動接触分解装置から蒸留塔に移送する際に、流動接触分解触媒の一部が流動接触分解装置から飛散し、分解油とともに蒸留塔に送られる。流動接触分解触媒を含む分解油を蒸留すると、蒸留塔に送られた分解油に含まれる流動接触分解触媒のほぼ全量が流動接触分解残油に含まれることになる。
【0010】
上述した通り、蒸留によって得られる流動接触分解残油は、バンカーC重油等の製品となるが、これらの製品には不純物の含有量の規格値が定められており、製品中の流動接触分解触媒の含有量もその一つである。通常、蒸留において得られる流動接触分解残油は前記規格値超の流動接触分解触媒が含まれているため、液体サイクロンやセトラー等による分離処理により、流動接触分解触媒を分離する必要がある。
【0011】
しかしながら、前記分離処理によって流動接触分解残油と流動接触分解触媒とを完全に分離することは実質的に不可能であり、前記分離処理によって、流動接触分解触媒の含有量が前記規格値以下の製品となる流動接触分解残油留分と、前記規格値超の流動接触分解残油留分が得られることとなる。
【0012】
このような規格値超の流動接触分解残油留分は、再度流動接触分解装置の蒸留塔に戻すか、原油を精製する常圧蒸留装置等の上流の装置に送られ再度精製工程にかけるということが行われている。
【0013】
前者の場合、戻された流動接触分解残油留分はほとんど性状が変化することなく単に循環しているだけの状態にあり、後者の場合、装置の処理能力が決まっているため、流動接触分解残油を戻した分、原料の供給量を減らす必要がある。そこで、前記規格値超の流動接触分解残油留分を流動接触分解装置に再度供給(リサイクル)するという方法がある。
【0014】
本願の発明者らは、前記規格値超の流動接触分解残油留分を流動接触分解装置に再度供給する方法について検討を行ったところ、以下の課題を見出した。
【0015】
前記規格値超の流動接触分解残油留分を流動接触分解装置に再度供給する場合、前記流動接触分解残油留分は多少分解が進むものの、コーク生成を増加させる要因となる残留炭素等を多く含有していることから、流動接触分解触媒の活性低下、再生塔の負荷(具体的には温度や空気供給機の負荷)を上昇させる。その場合には、残炭・金属分を多く含む原料油の処理比率を低減するか、反応温度を低下させ分解率を下げて分解コークを低減させる、といった対応が必要となるが、いずれも収益面でデメリットが生じてしまい効率的ではない。
【0016】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、流動接触分解残油をリサイクルする流動接触分解プロセスにおいて、流動接触分解残油のリサイクル量を低減し、流動接触分解プロセスの効率を向上可能な流動接触分解残油のリサイクル方法、流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法、及び精製油の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて分解油を得、前記分解油を蒸留塔で分離し、精製油を得る流動接触分解プロセスにおいて、前記精製油の一種である前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を前記流動接触分解装置に再度供給する前記流動接触分解残油のリサイクル方法であって、前記流動接触分解触媒の摩耗強度が2~5%である、流動接触分解残油のリサイクル方法。
[2] 粒子径が50μm以下の前記流動接触分解触媒の割合が15~23質量%である、[1]に記載の流動接触分解残油のリサイクル方法。
[3] 前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を分離装置により分離処理を行い、前記分離処理後の流動接触分解残油のうち、前記流動接触分解触媒の含有量が製品規格値超の流動接触分解残油を前記分離装置から直接、前記流動接触分解装置に再度供給する[1]又は[2]に記載の流動接触分解残油のリサイクル方法。
[4] 原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて分解油を得、前記分解油を蒸留塔で分離し、精製油を得る流動接触分解プロセスにおいて、前記精製油の一種である前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を前記流動接触分解装置に再度供給する際の前記流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法であって、前記流動接触分解触媒の摩耗強度を変更することにより行う、流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法。
[5] 原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて分解油を得、前記分解油を蒸留塔で分離し、精製油を得る、精製油の製造方法であって、前記精製油の一種である前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を前記流動接触分解装置に再度供給する前記流動接触分解残油のリサイクル工程を含み、前記流動接触分解触媒の摩耗強度が2~5%である、精製油の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、流動接触分解残油をリサイクルする流動接触分解プロセスにおいて、流動接触分解残油のリサイクル量を低減し、流動接触分解プロセスの効率を向上可能な流動接触分解残油のリサイクル方法、流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法、及び精製油の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る流動接触分解残油をリサイクルする流動接触分解プロセスにおいて使用される装置の構成を示す構成図である。
図2】流動接触分解触媒の摩耗強度を測定可能な摩耗強度測定装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0021】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。
流動接触分解残油(以下、「SLO」ということもある。)は、原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて得られる分解油を蒸留処理した際の残油であり、沸点範囲が200~600℃、引火点が85~100℃の留分を意味する。
製品SLOとは、前記SLOを分離装置により分離処理を行うことにより得られる処理液の上層を分離することにより得られる、流動接触分解触媒の濃度が製品の規格値以下の留分を意味する。製品SLOは、通常、重油基材として用いられる。
リサイクルSLOとは、前記製品SLOを分離した後の前記処理液であって原料油の一部として流動接触分解装置に再度供給するSLOを意味する。通常リサイクルSLO中の流動接触分解触媒の濃度は、製品の規格値超である。
【0022】
流動接触分解触媒の摩耗強度[%]は、触媒化成技報 Vol.13,No.1(1996)に記載の摩耗強度測定方法に準拠し、図2に示される流動接触分解装置の触媒管とサイクロンを模した摩耗強度測定装置を用いて次のとおり測定される値である。以下、図2を用いて説明する。
測定対象のFCC触媒を500℃で5時間の乾燥処理を行った後、乾燥重量3gを測りとり、0.3gの添加水を加えた後、摩耗強度測定装置の触媒管66に導入する。ついで触媒管66内の窒素の流速(線速)を0.104m/sになるように流量調節器63により調整し、測定を開始する。測定開始から12時間後~42時間後までにサイクロン67から飛散し、レシーバー68で捕集した微粒子のFCC触媒の量[g]を測定し、平均摩耗量とする。この数値を用いて、以下の式で求めた数値が摩耗強度である。
摩耗強度(%)=平均摩耗量÷摩耗強度測定装置へ投入した触媒量(3g)×100
すなわち、摩耗強度の数値が低いほど、摩耗強度が高いFCC触媒である。
【0023】
流動接触分解触媒の粒径分布は、JIS Z8815に準拠して測定することができる。
【0024】
本実施形態の流動接触分解残油のリサイクル方法においては、原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて分解油を得、前記分解油を蒸留塔で分離し、精製油を得る流動接触分解プロセスにおいて、前記精製油の一種である前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を前記流動接触分解装置に再度供給する。本実施形態においては、前記流動接触分解触媒の摩耗強度が2~5%であることを特徴とする。
以下、流動接触分解触媒、流動接触分解装置、蒸留塔、及び分離装置について説明を行う。
【0025】
<流動接触分解触媒>
本実施形態の流動接触分解触媒(以下、「FCC触媒」ともいう。)は、摩耗強度が2~5%である。摩耗強度は2~4%であることが好ましく、2~3%であることがさらに好ましい。
摩耗強度が前記範囲の上限値以下であると、流動接触分解反応において、FCC触媒同士が衝突したときにFCC触媒の割れや削れ等が発生しづらくなり、分解油と共に蒸留塔へ移送されるFCC触媒の量を低減することが可能となる。蒸留塔へ移送されるFCC触媒の量が低減されると、SLO中に含まれるFCC触媒の含有量が低減する。結果として、製品SLOの収量が向上し、それに伴いリサイクルSLOの量を低減することが可能となる。そして、リサイクルSLOの量を低減することにより、その分、通常の原料油の処理量を低減する必要がないため、流動接触分解プロセスの効率が向上する。
摩耗強度が前記範囲の下限値以上であると、FCC装置内の管壁、分離装置の内壁の摩耗による損傷を抑制することができる。
【0026】
本実施形態のFCC触媒は、粉末状の固体触媒であり、ゼオライトを主成分とする。ゼオライトとしては、ソーダライトケージ構造を有するゼオライト、βゼオライト、ZSM-5型ゼオライト等のゼオライトを含むことが好ましく、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを含むことがより好ましい。
FCC触媒の全質量に対するゼオライトの含有量は23~40質量%であることが好ましく、25~38質量%であることがより好ましく、28~35質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
本明細書において、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとは、ソーダライトケージ構造、すなわちアルミニウム及びケイ素四面体を基本単位とし、頂点の酸素をアルミニウム又はケイ素が共有することにより形成される立体的な正八面体の結晶構造の各頂点を切り落とした、四員環や六員環等により規定される十四面体結晶構造により構成される空隙を有し、このソーダライトケージ同士が結合する場所や方法が変化することによって、種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有するものを意味する。
【0028】
上記ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとしては、ソーダライト、A型ゼオライト、EMT、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライト等から選ばれる一種以上を挙げることができ、安定化Y型ゼオライトであることが好ましい。
【0029】
安定化Y型ゼオライトは、Y型ゼオライトを出発原料として合成され、Y型ゼオライトと比較して、結晶化度の劣化に対して耐性を示すものであり、一般には、Y型ゼオライトに対し高温での水蒸気処理を数回行った後、必要に応じて、塩酸等の鉱酸、水酸化ナトリウム等の塩基、フッ化カルシウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤で処理することにより作製される。
上記方法で得られた安定化Y型ゼオライトは、水素、アンモニウムあるいは多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用することができる。また、安定化Y型ゼオライトとして、より安定性に優れたヒートショック結晶性アルミノシリケートゼオライト(特許第2544317号公報参照)を使用することもできる。
【0030】
本実施形態のFCC触媒は、さらに結合剤、粘土鉱物等を含むことが好ましい。
結合剤としては、例えば、シリカゾルが例として挙げられる。シリカゾルを使用することにより、FCC触媒を造粒するときの成形性が向上し、容易に球状化することを可能にする。また、造粒後のFCC触媒の流動性及び耐摩耗性を容易に向上することができる。FCC触媒の全質量に対する結合剤の含有量は15~35質量%であることが好ましく、18~32質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、カオリナイト、ハロイサイト、ベントナイト、アタパルガイト、ボーキサイト等を挙げることができる。また、本実施形態のFCC触媒においては、シリカ(上述のゾルの形態で添加されるシリカを除く)、シリカ-アルミナ(上述のゼオライトを除く)、アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシア、リン-アルミナ、シリカ-ジルコニア、シリカ-マグネシア-アルミナ等の通常のFCC触媒に使用される公知の無機酸化物の微粒子を上記粘土鉱物と併用することができる。
FCC触媒の全質量に対する粘土鉱物と無機酸化物の含有量の和は40~55質量%であることが好ましく、43~52質量%であることがより好ましく、45~50質量%であることがさらに好ましい。
FCC触媒の全質量に対する粘土鉱物の含有量は30~50質量%であることが好ましく、32~47質量%であることがより好ましく、34~45質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
また、本実施形態のFCC触媒は、ゼオライト安定性向上剤を含んでいてもよい。ゼオライト安定性向上剤は、ゼオライト結晶の崩壊を抑制する機能を有する。ゼオライト安定性向上剤としてはリン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、第一リン酸アルミニウム及びその他の水溶性リン酸塩等のリン系ゼオライト安定性向上剤、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム及びホルミウム等の希土類金属系ゼオライト安定性向上剤があげられる。FCC触媒がゼオライト安定性向上剤を含む場合、FCC触媒の全質量に対するゼオライト安定性向上剤の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0033】
FCC触媒は一定の大きさに造粒された上で、流動接触分解反応に使用される。
FCC触媒の全質量に対する粒子径が50μm以下のFCC触媒の割合は、15~23質量%であることが好ましく、15~22質量%であることがより好ましく、15~21質量%であることがさらに好ましい。粒子径が50μm以下のFCC触媒の割合を前記範囲の上限値以下とすることで、FCC触媒の飛散量を抑制しやすく、流動接触分解残油中のFCC触媒量を低減しやすい。粒子径が50μm以下のFCC触媒の割合を前記範囲の下限値以上とすることで、触媒流動性を良好に保つことができる。
【0034】
<流動接触分解触媒の製造方法>
本実施形態のFCC触媒は、従来公知の方法により製造することができる。FCC触媒が、ゼオライト、結合剤、粘土鉱物、ゼオライト安定性向上剤を含有する場合、ゼオライト、結合剤、粘土鉱物、ゼオライト安定性向上剤をそれぞれ所定量含むスラリーを乾燥処理することにより製造することができる。
【0035】
本製造方法においては、まず、ゼオライト、結合剤、粘土鉱物、及びゼオライト安定性向上剤を含む水性スラリーを調製する。
前記スラリー中の固形分の含有量は5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。水性スラリー中の固形分の含有量が前記範囲内であると、水性スラリーの乾燥時に蒸発させる水分量が適当量となり、簡便に乾燥を行うことができる。また、スラリーの粘度上昇を招くことなく、簡便に輸送することができる。
【0036】
その後、水性スラリーを乾燥処理して、微小球体を得る。
水性スラリーの乾燥は、噴霧乾燥装置により、200~600℃のガス入口温度、及び100~300℃のガス出口温度の条件下で行うことが好ましい。
【0037】
本製造方法においては、上記乾燥処理して得られた微小球体に対し、さらに必要に応じて、公知の方法で洗浄処理及びイオン交換を行い、各種の原料から持ち込まれる過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等を除去してもよい。
【0038】
前記洗浄処理は、具体的には、水又はアンモニア水により行うことができ、水又はアンモニア水で洗浄することにより、可溶性不純物の含有量を低減させることができる。
【0039】
イオン交換処理は、具体的には、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液によって行うことができ、このイオン交換によって微小球体に残存するナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を低減させることができる。
【0040】
上述の洗浄処理は、通常イオン交換処理に先立って行われるが、洗浄処理及びイオン交換処理が好適に施される限りにおいては、イオン交換処理を先に行ってもよい。
【0041】
上記洗浄処理及びイオン交換処理は、アルカリ金属の含有量及び可溶性不純物の含有量が所望量以下になるまで行うこと好ましい。アルカリ金属の含有量及び可溶性不純物の含有量が所望量以下であることにより、触媒活性を向上させることができる。
【0042】
前記微小球体は、乾燥触媒基準で、アルカリ金属の含有量が、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。また、可溶性不純物の含有量が、2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
上述の洗浄処理、イオン交換処理を施された微小球体に対し、再度乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥処理は、100~500℃の温度で、微小球体の水分含有量が1~25質量%になるまで行うことが好ましい。
このようにして本実施形態のFCC触媒を製造することができる。
【0044】
<流動接触分解装置>
本実施形態の流動接触分解装置は、上述のFCC触媒を備える。
本実施形態の流動接触分解装置(以下、「FCC装置」ともいう。)は、流動接触分解触媒に原料油を接触させて前記原料油を分解することによって分解油を生成するライザー、分解油とFCC触媒とを分離する反応塔、及び分離したFCC触媒上に堆積したカーボン(コーク)を燃焼することによって触媒を再生する再生塔を備える。以下、図1を参照して、本実施形態のFCC装置の一例を説明する。図1は、FCC装置の一例を示す構成図である。FCC装置1はライザー10、反応塔20、及び再生塔30を備える。
【0045】
(ライザー)
ライザー10は、FCC触媒に原料油を接触させて前記原料油を分解することによって分解油を生成する装置である。ライザー10は、例えば、再生塔30で再生されたFCC触媒を供給する再生触媒移送ライン34及び原料油を供給する原料油供給ライン11、後述のリサイクルSLOを供給するリサイクルSLO供給ライン51と接続されている。また、原料油供給ライン上には、予熱装置12が備えられている。さらにライザー10の上方は、反応塔20と接続されている。
【0046】
(反応塔)
反応塔20は、分解油とFCC触媒とを分離する装置である。反応塔20は、例えば、サイクロン21、分解油排出ライン22、ストリッパー23及び反応後触媒移送ライン24を備える。サイクロンの上方は、分解油排出ライン22と接続されている。さらにストリッパー23の底部と再生塔30の下部とは反応後触媒移送ライン24で接続されている。
【0047】
(再生塔)
再生塔30は、反応塔20で分離したFCC触媒上のコークを燃焼させることによって触媒を再生する装置である。再生塔30は、例えば、エアブロワー31、エアグリッド32、サイクロン33、再生触媒移送ライン34及び排ガスライン35を備える。再生塔の底部とエアブロワー31はエアグリッド32を介して接続されている。さらに再生塔の上部にはサイクロン33が設置されており、サイクロンの上方は排ガスライン35と接続されている。
【0048】
<蒸留塔>
本実施形態の蒸留塔40は、流動接触分解装置で生成した分解油を液化石油ガス(LPG)、ガソリン、軽質分解軽油(LCO)、重質分解軽油(HCO)、及び流動接触分解残油(SLO)に分離する装置である。
蒸留塔40としては、本分野において公知の蒸留塔を使用することができる。蒸留塔40は塔の中段付近において分解油排出ライン22を介して反応塔20と接続されている。また、塔底において流動接触分解残油移送ライン41と接続されている。なお、蒸留塔の還流ライン、予熱器、缶出液抜出ライン、流出液抜出ライン等の詳細な構造は、図1においては不図示であるが、上述した通り、蒸留塔40は本分野において公知の蒸留塔の構造を有する。
【0049】
<分離装置>
本実施形態の分離装置50は、遠心力等を利用して、蒸留により分離されたFCC触媒を含むSLOからFCC触媒を分離する装置である。
分離装置50としては、本分野において公知の液体サイクロン、セトラー等を使用することができる。分離装置50は流動接触分解残油移送ライン41を介して蒸留塔40と接続されている。また、分離装置50は、リサイクルSLO供給ライン51を介してライザー10と接続されている。さらに分離装置50は、製品SLO移送ライン52と接続されている。
【0050】
<流動接触分解プロセスにおける流動接触分解残油のリサイクル方法及び精製油の製造方法>
本実施形態の流動接触分解プロセス、並びに前記流動接触分解プロセスにおける流動接触分解残油のリサイクル方法、及び精製油の製造方法について説明する。
本実施形態の流動接触分解プロセスは、流動接触分解反応工程、蒸留工程、分離装置による分離工程、リサイクルSLOのリサイクル工程の4工程に大別される。以下、これの工程について説明する。
【0051】
(流動接触分解反応工程)
本実施形態において原料油の流動接触分解反応は、本分野において公知の方法によって実施することができる。原料油の流動接触分解反応は、FCC装置において、高温で原料油とFCC触媒を接触させることにより実施することができる。
【0052】
本実施形態において、分解される原料油としては、特に限定されず、常温・常圧で液体の炭化水素油(炭化水素混合物)を挙げることができる。
【0053】
前記炭化水素油としては、原油の常圧あるいは減圧蒸留で得られる軽油留分や常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油等から選ばれる一種以上を挙げることができ、コーカー軽油、溶剤脱瀝油、溶剤脱瀝アスファルト、タールサンド油、シェールオイル油、石炭液化油、GTL(Gas to Liquids)油、植物油、廃潤滑油、廃食油等から選ばれる一種以上も挙げることができる。
さらに、本実施形態において分解される原料油としては、上記炭化水素油を当業者に周知の水素化処理、すなわち、Ni-Mo系触媒、Co-Mo系触媒、Ni-Co-Mo系触媒、Ni-W系触媒などの水素化処理触媒の存在下、高温・高圧下で水素化脱硫した水素化処理油も挙げることができる。
【0054】
本実施形態の原料油の分解反応は、通常、垂直に据え付けられたライザー10、反応塔20、再生塔30からなるFCC装置1に、FCC触媒を連続的に循環させることにより行うことができる。なお、本明細書において、流動接触分解装置(FCC装置)には、残油流動接触分解装置(RFCC装置)も含まれる。すなわち、本明細書において、流動接触分解反応には、残油流動接触分解反応も含まれる。
【0055】
以下、FCC装置によって行われる流動接触分解反応を具体的に説明する。
ライザー10内には、揚送用流体が上方に向かって流通しており、再生触媒移送ライン34より供給されたFCC触媒は、揚送用流体とともにライザー10内を上方へ流れる。原料油は、予熱装置12によって所定の温度に加熱され、スチームを加えられた後、原料供給ライン11からライザー10に供給される。また、同様にしてリサイクルSLOが、リサイクルSLO供給ライン51からライザー10に供給される。ライザー10内に供給された原料油及びリサイクルSLOがFCC触媒と接触し、分解反応が起こる。分解反応により生成した分解油とFCC触媒は反応塔20へ移送される。
【0056】
ライザー10の運転条件としては、反応温度が400~600℃であることが好ましく、450~550℃であることがより好ましい。ライザー10における反応温度が400℃以上であると、原料油及びリサイクルSLOの分解反応が進行して、分解油の収率が向上する。また、ライザー10における反応温度が600℃以下であると、分解により生成するドライガスやLPGなどの軽質ガス生成量を軽減することができ、ガソリン留分の収率を相対的に増大させ易くなるため経済的である。
【0057】
反応圧力は常圧~0.49MPa(5kg/cm)であることが好ましく、常圧~0.29MPa(3kg/cm)であることがより好ましい。分解反応は、反応物のモル数に対し、生成物のモル数が増加する反応であるため、ライザー10における反応圧力が0.49MPa以下であると、熱力学的(平衡的)に有利となる。
【0058】
FCC触媒/(原料油+リサイクルSLO)の質量比は2~20であることが好ましく、4~15であることがより好ましい。ライザー10におけるFCC触媒/(原料油+リサイクルSLO)の質量比が2以上であると、ライザー10内の触媒濃度を適度に保つことができ、原料油の分解効率が向上する。ライザー10におけるFCC触媒/(原料油+リサイクルSLO)の質量比が20以下である場合も、炭化水素油の分解反応が効果的に進行し、触媒濃度の上昇に見合った分解反応を進行させ易くなる。
【0059】
ライザー10内で原料油及びリサイクルSLOの分解により生成した分解油は、サイクロン21に供給される。サイクロン21は、遠心力を利用して、分解油をFCC触媒から分離する。そして、分解油は、分解油排出ライン22により、反応塔20から排出され、蒸留塔40へと移送される。
【0060】
サイクロン21によって分離されたFCC触媒はストリッパー23に供給される。ストリッパー23には、スチーム、窒素等が供給されている。ストリッパー23では、スチーム、窒素等によりFCC触媒上の炭化水素を除去する。そして、FCC触媒は、反応後触媒移送ライン24により反応塔20から排出され、再生塔30に移送される。
【0061】
ストリッパー23におけるストリッピング処理時の温度は、通常470~530℃であり、480~520℃であることが好ましく、490~510℃であることがより好ましい。ストリッピングに使用されるガスとしては、ボイラーにより発生されたスチームやコンプレッサー等により昇圧された窒素等の不活性ガスなどが使用される。
【0062】
エアブロワー31からエアグリッド32に空気が供給され、エアグリッド32から再生塔30内に空気が供給され、再生塔30に移送されたストリッピング処理後のFCC触媒上のコークは燃焼し、FCC触媒は再生される。再生したFCC触媒と、コークの燃焼により生じた排ガスとはサイクロン33により分離される。再生したFCC触媒は再生触媒移送ライン34により再生塔30から排出され、ライザー10に供給される。排ガスは、排ガスライン35により再生塔30から排出される。
【0063】
触媒再生塔の運転条件としては、再生温度が600~800℃であることが好ましく、700~750℃であることがより好ましい。
触媒再生塔における再生温度が600℃以上であると、コークの燃焼が充分に進み、触媒活性が充分に回復する。また、触媒再生塔における再生温度が800℃以下であると、装置材質への悪影響が低い。
【0064】
(蒸留工程)
分解油排出ライン22により、反応塔20から蒸留塔40へと移送された分解油は、蒸留塔40において、塔頂からDRY GAS、LPG、ガソリンが留出され、塔の中段からLCO、HCOが留出され、塔底からFCC触媒を含むSLOが留出され、各種精製油が製造される。
【0065】
(分離装置による分離工程及びリサイクルSLOのリサイクル工程)
蒸留工程で得られたFCC触媒を含むSLOは、流動接触分解残油移送ライン41により、分離装置50に移送される。分離装置による分離処理(遠心処理)により、SLO中のFCC触媒を沈降させる。一方、SLO中の全てのFCC触媒を沈降させることは、実質的に不可能である。したがって、沈降しなかったFCC触媒は、上記分離装置による分離処理によって得られた処理液中に懸濁している。処理液中のFCC触媒の含有量は、上層ほど低く、下層ほど高くなる。したがって、FCC触媒の含有量が製品規格値以下である処理液の上層は、製品SLOとして、製品SLO移送ライン52へ送られる。一方、製品SLOを分離した後の処理液は、リサイクルSLOとして、リサイクルSLO供給ライン51に送られ、流動接触分解装置1に再度供給される。リサイクルSLOは、再度流動接触分解反応に用いることで多少分解が進み軽質な留分の得率がアップすること、またリサイクルSLO中に含まれる触媒をFCC装置に戻すことができるため、本実施形態においては、リサイクルSLOを、分離装置50からリサイクルSLO供給ライン51を通して直接、FCC装置1に再度供給することが好ましい。
【0066】
なお、製品SLOは重油基材として用いられるため、C重油を使用する機器を保護するためにも、FCC触媒の含有量(製品の規格値)は0.45質量%以下が好ましい。
【0067】
<流動接触分解プロセスにおける流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法>
本発明の別の側面は、原料油を流動接触分解装置内で流動接触分解触媒に接触させて分解油を得、前記分解油を蒸留塔で分離し、精製油を得る流動接触分解プロセスにおいて、前記精製油の一種である前記流動接触分解触媒を含む流動接触分解残油を前記流動接触分解装置に再度供給する際の前記流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法であって、前記流動接触分解触媒の摩耗強度を変更することにより行う、流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法である。
【0068】
本実施形態における、流動接触分解触媒及び流動接触分解プロセスで使用される装置(流動接触分解装置、蒸留塔、及び分離装置)は上述したものと同様である。
【0069】
本実施形態においては、FCC触媒の摩耗強度を変更することによって、SLOをリサイクルする流動接触分解プロセスにおいて、SLOのリサイクル量を制御する。具体的には、摩耗強度の値が小さい触媒を使用することによって、SLOのリサイクル量を低減することができる。
【0070】
SLOのリサイクル量を制御するために、FCC装置内のFCC触媒の摩耗強度を変更する際、FCC装置内の全FCC触媒を所望の摩耗強度のFCC触媒と一度に入れ替えてもよく、FCC装置内の一部のFCC触媒を所望の摩耗強度のFCC触媒と定期的あるいは定常的に入れ替えてもよい。
【0071】
流動接触分解反応において、FCC触媒は上述のコークによる活性低下以外に、重金属の堆積、水熱劣化によっても活性が低下する。上述したとおり、コークにより活性が低下したFCC触媒は、FCC装置の再生塔内で、空気を流通させ、高温でコークを燃焼除去することによりFCC装置内で再生することが可能である。一方、重金属の堆積、水熱劣化によって活性が低下したFCC触媒は、FCC装置内で再生することは実質的に不可能である。そのため、重金属の堆積、水熱劣化によって活性が低下したFCC触媒の一部を定期的あるいは定常的に抜出し、必要量の新触媒を投入することにより、FCC装置内のFCC触媒の活性を維持するという方法(以下、「触媒メークアップ処理」ともいう。)がとられている。
【0072】
FCC装置内の一部のFCC触媒を所望の摩耗強度のFCC触媒と定期的あるいは定常的に入れ替えることによってSLOのリサイクル量を制御する場合、上述の触媒メークアップの新触媒として、所望の摩耗強度のFCC触媒を投入することが好ましい。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
<FCC触媒の摩耗強度の測定>
流動接触分解触媒の摩耗強度[%]は、触媒化成技報 Vol.13,No.1(1996)に記載の摩耗強度測定方法に準拠し、図2に示される流動接触分解装置の触媒管とサイクロンを模した摩耗強度測定装置を用いて次のとおり測定した。以下、図2を用いて説明する。
測定対象のFCC触媒を500℃で5時間の乾燥処理を行った後、乾燥重量3gを測りとり、0.3gの添加水を加えた後、摩耗強度測定装置の触媒管66に導入した。ついで触媒管66内の窒素の流速(線速)を0.104m/sになるように流量調節器63により調整し、測定を開始した。測定開始から12時間後~42時間後までにサイクロン67から飛散し、レシーバー68で捕集した微粒子のFCC触媒の量を測定し、平均摩耗量とした。この数値を用いて、以下の式で摩耗強度を求めた。
摩耗強度(%)=平均摩耗量÷摩耗強度測定装置へ投入した触媒量(3g)×100
すなわち、摩耗強度の数値が低いほど、摩耗強度が高いFCC触媒である。
【0075】
<粒子径が50μm以下の割合>
FCC触媒の粒径分布を、JIS Z8815に準拠して測定し、得られた粒径分布から、粒子径が50μm以下の割合を求めた。
【0076】
[製造例1]
シリカゾル(結合剤)42g(乾燥基準、SiO換算量)を25%硫酸で希釈し、撹拌することによりシリカゾルの懸濁液を得た。安定化Y型ゼオライト60g(乾燥基準)に蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。上記のシリカゾル水溶液に、カオリナイト(粘土鉱物)70.4g(乾燥基準)とアルミナ水和酸化物26g(乾燥基準)を加えて混合し、さらに上記のゼオライトスラリーおよび第一リン酸アルミニウム1g(乾燥基準、Al・2P換算量)とを加えて、ディスパサーを用いて10分間撹拌混合して水性スラリーを調製した。
得られた水性スラリーを210℃の入り口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで、60℃に加温された5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、さらに3Lの蒸留水で洗浄した。次いで、洗浄した微小球体を、乾燥基準での酸化ランタン含有量が0.3質量%となるように硝酸ランタン水溶液で15分間イオン交換し、次いで、3Lの蒸留水で洗浄した。その後、乾燥機中110℃で一晩乾燥することによりFCC触媒Aを得た。上述の方法でFCC触媒Aの摩耗強度、及び粒子径が50μm以下の割合を求めた。FCC触媒Aの組成と、摩耗強度及び粒子径が50μm以下の割合を表1に示す。
【0077】
[実施例1]
FCC触媒Aを、流動接触分解装置(実機)に充填し、表2に示す原料油を表3に示す条件の下で接触分解させた。得られた分解油を蒸留塔(実機)でLPG、ガソリン、LCO、HCO、SLOに分離した。このSLOを液体サイクロンに移送し、表4に示すFCC触媒含有量の製品SLOを分離し、製品SLO分離後のSLOをリサイクルSLOとして流動接触分解装置へ再度供給した。その結果、このFCC触媒Aを用いた実施例1では、製品SLO中のFCC触媒含有量を0.02質量%以下に保ったまま、リサイクルSLO量を14.5[KL/H]から10.5[KL/H]へ低減でき、再生塔の空気供給量上限と温度上限を超えない範囲で原料油の供給量を24,600[BPD]から25,200[BPD]へ増加させることができた。
【0078】
[比較例1]
触媒としてFCC触媒Aと同様に安定化ゼオライトを活性成分とする市販のFCC触媒Bを用いた以外は、実施例1と同様にして流動接触分解反応を行った。上述の方法で触媒Bの摩耗強度、及び粒子径が50μm以下の割合を求めた。FCC触媒Bの摩耗強度及び粒子径が50μm以下の割合を表1に示す。
表4に製品SLO中のFCC触媒の含有量[質量%]、原料油の供給量[BPD]、リサイクルSLOの量[KL/H]を示す。
この比較例では、製品SLO中のFCC触媒の含有量は実施例1の場合よりもやや高めであるにも関わらず、リサイクルSLO量は18.4[KL/H]と実施例1より多くなった。その結果、再生塔の空気供給量上限と温度上限を超えない範囲とするためには、原料油の供給量を24,000[BPD]と実施例1よりも低く抑えざるを得なかった。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る流動接触分解プロセスにおける流動接触分解残油のリサイクル方法、及び流動接触分解残油のリサイクル量の制御方法は、流動接触分解残油のリサイクル量を低減し、流動接触分解工程の効率を向上可能であるため有用である。
【符号の説明】
【0084】
1…流動接触分解装置、10…ライザー、11…原料油供給ライン、12…予熱装置、20…反応塔、21…サイクロン、22…分解油排出ライン、23…ストリッパー、24…反応後触媒移送ライン、30…再生塔、31…エアブロワー、32…エアグリッド、33…サイクロン、34…再生触媒移送ライン、35…排ガスライン、40…蒸留塔、41…流動接触分解残油移送ライン、50…分離装置、51…リサイクルSLO供給ライン、52…製品SLO移送ライン、61…電磁弁、62…調圧弁、63…流量調節器、64…圧力計、65…オリフィス板、66…触媒管、67…サイクロン、68…レシーバー、69…流量計、70…サンプル
図1
図2