(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物および制振ゴム
(51)【国際特許分類】
C08L 23/16 20060101AFI20240905BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240905BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240905BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240905BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240905BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08L23/16
C08K3/36
C08L91/00
C08K5/14
C08K5/09
F16F15/08 D
(21)【出願番号】P 2020057872
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有野 恭巨
(72)【発明者】
【氏名】市野 光太郎
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087254(JP,A)
【文献】特開2010-174127(JP,A)
【文献】特開2007-099942(JP,A)
【文献】特開2012-151074(JP,A)
【文献】特開平09-227736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレンに由来する構造単位(a1)と、炭素数3以上のα-オレフィンに由来する構造単位(a2)と、非共役ポリエンに由来する構造単位(a3)とを有するエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を100質量部、
(B)シリカを1~400質量部、
(C
)低粘度パラフィン系プロセスオイ
ルを10~100質量部
、
(D)過酸化物系架橋剤を(D)1~10質量部
、および
ステアリン酸を
含
み、
前記シリカ(B)が疎水性シリカを含み、
前記低粘度パラフィン系プロセスオイルの、JIS K2283に準拠して測定される40℃での動粘度が10~80mm
2
/sである、
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載のエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物の架橋体。
【請求項3】
請求項
2に記載の架橋体を含む制振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物(以下「EPDM系組成物」とも記載する。)に関し、より詳細には制振ゴムおよびその製造に好ましく用いられるEPDM系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種振動を抑制する制振ゴムは、自動車、住宅、産業用機器、電気機器等に幅広く使用されている。ゴム材料としては、近年、耐熱性等への要求から、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)を過酸化物架橋したものが、広く適用されるようになっている。
【0003】
制振ゴムには、減衰性能(防振性能)、およびその他の性能が求められており、これまで種々の開発がなされている。
たとえば特許文献1には、油展EPDM、低粘度EPDMおよび所定量のジクミルパーオキサイドまたは所定量のジクミルパーオキサイドおよびイオウを含有するEPDM組成物が、耐熱性に優れ、かつ高温度の減衰係数、強度、伸び等の低下を効果的に防止できると記載されている。
【0004】
特許文献2には、EPDM等に、2種類の所定のオレフィン系重合体を配合した組成物が開示されており、この組成物により、制振特性、低温柔軟性等に優れた加硫ゴムを製造できると記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、EPDMを主成分とするゴム組成物を過酸化物加硫したゴム部材において、ゴム組成物に含まれる有機過酸化物およびカーボンブラックの種類および量をそれぞれ調整することで、室温から高温に至るまでの広い温度範囲で高い減衰特性を持ち、減衰性能の温度依存性が小さいゴム部材を提供できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-143905号公報
【文献】特開2005-29654号公報
【文献】特開2019-147906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のEPDM系の制振ゴムには、広範な温度領域で良好な減衰性能を発揮させるという観点から、さらなる改善の余地があった。
そこで本発明は、実用的な機械特性を有しつつ、広範な温度領域(たとえば-20~80℃)で良好な減衰性能を発現し、その温度依存性が小さい制振ゴム、およびこのような制振ゴムを製造するためのEPDM系組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、EPDM系組成物にナフテン系プロセスオイルまたは低粘度パラフィン系オイルを配合することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
(A)エチレンに由来する構造単位(a1)と、炭素数3以上のα-オレフィンに由来する構造単位(a2)と、非共役ポリエンに由来する構造単位(a3)とを有するエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を100質量部、
(B)シリカを1~400質量部、
(C)ナフテン系プロセスオイルまたは低粘度パラフィン系プロセスオイルからなる群から選択される少なくとも1種の可塑剤を10~100質量部、および
(D)過酸化物系架橋剤を(D)1~10質量部
含むエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物。
【0010】
[2]
前記シリカ(B)が疎水性シリカを含む前記[1]のエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物。
【0011】
[3]
前記可塑剤(C)が前記ナフテン系プロセスオイルを含有する前記[1]または[2]のエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物。
【0012】
[4]
前記可塑剤(C)が前記低粘度パラフィン系プロセスオイルを含有する前記[1]~[3]のいずれかのエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物。
【0013】
[5]
前記[1]~[4]のいずれかのエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物の架橋体。
【0014】
[6]
前記[5]の架橋体を含む制振ゴム。
【発明の効果】
【0015】
本発明のEPDM系組成物によれば、実用的な機械特性を有しつつ、広範な温度領域(たとえば-20~80℃)で良好な減衰性能を発現し、その温度依存性が小さい制振ゴムを製造することができる。
【0016】
また、本発明の制振ゴムは、実用的な機械特性を有しつつ、広範な温度領域(たとえば-20~80℃)で良好な減衰性能を発現し、その温度依存性が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物(EPDM系組成物)等ついてさらに詳細に説明する。
【0018】
[エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体組成物]
<共重合体(A)>
本発明に係るEPDM系組成物は、ゴム成分として、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」とも記載する。)を含んでいる。
【0019】
前記共重合体(A)は、エチレンに由来する構造単位(a1)と、炭素数3以上のα-オレフィンに由来する構造単位(a2)と、非共役ポリエンに由来する構造単位(a3)とを有し、エチレンと、炭素数3以上のα-オレフィンと、非共役ポリエンとを共重合することにより得られる。
【0020】
前記α-オレフィンの炭素数は、3以上、好ましくは3~20、より好ましくは3~8である。
前記α-オレフィンの例としては、プロピレン、1-ブテン、4-メチルペンテン-1、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、9-メチルデセン-1、11-メチルドデセン-1および12-エチルテトラデセン-1が挙げられる。これらの中でも、プロピレン、1-ブテン、4-メチルペンテン-1、1-ヘキセンおよび1-オクテンが好ましく、プロピレンが特に好ましい。
【0021】
これらのα-オレフィンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記非共役ポリエンの例としては、
1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、8-メチル-4-エチリデン-1,7-ノナジエンおよび4-エチリデン-1,7-ウンデカジエン等の鎖状非共役ジエン;
メチルテトラヒドロインデン、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)、5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-イソブテニル-2-ノルボルネン、シクロペンタジエンおよびノルボルナジエン等の環状非共役ジエン;
2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン等のトリエン
が挙げられる。これらの中でも、5-エチリデン-2-ノルボルネンおよび5-ビニル-2-ノルボルネンが好ましい。
【0022】
これらの非共役ポリエンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エチレンに由来する前記構造単位(a1)と、α-オレフィンに由来する前記構造単位(a2)とのモル比((a1)/(a2))は、好ましくは40/60~90/10、より好ましくは50/50~80/20、さらに好ましくは55/45~70/30である。
【0023】
前記共重合体(A)中の、非共役ポリエンに由来する前記構造単位(a3)の割合は、好ましくは1.0~20.0質量%、より好ましくは3.0~15質量%、さらに好ましくは4.0~14質量%である。
【0024】
前記共重合体(A)の135℃、デカリン中で測定される極限粘度[η]は、通常、0.5~5.0dL/g、好ましくは0.5~4.0dL/gである。
前記共重合体(A)の例としては、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネンランダム共重合体が挙げられる。
【0025】
<シリカ(B)>
本発明に係るEPDM系組成物はシリカ(B)を含んでいる。
前記シリカ(B)としては、親水性シリカおよび疎水性シリカが挙げられ、広範な温度領域(たとえば-20~80℃)での制振ゴムの減衰性能をさらに高める観点からは、これらの中でも疎水性シリカが好ましい。
【0026】
疎水性シリカは、疎水化剤で表面処理されたシリカ粒子である。
前記疎水化剤の例としては、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0027】
また、シリカ(B)を含む本発明に係るEPDM系組成物を用いた制振ゴムは、補強材としてカーボンブラック等を含むEPDM系組成物が用いられた制振ゴムと比べて、伸びに優れている。
【0028】
前記シリカ(B)の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは1~50nm、より好ましくは2~45nm、さらに好ましくは5~40nmである。平均粒子径が前記範囲内であると、組成物中におけるシリカの分散性に優れる。
【0029】
前記シリカ(B)の、BET法により測定される比表面積は、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは100~400m2/gである。
上記表面処理前のシリカとしては、公知の方法で製造されたものを用いることでき、乾式法又は高温加水分解法により製造されたものが好ましい。
【0030】
疎水化剤による表面処理方法は、特に限定されず、公知の方法を適用できる。
る。
親水性シリカの市販品の例としては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL(登録商標)シリーズの50、200、300、380が挙げられる。
【0031】
疎水性シリカの市販品の例としては、日本アエロジル(株)製のAEROSILシリーズのRX50、RX200、RX300、R8200、NX90Sが挙げられる。
本発明に係るEPDM系組成物のシリカ(B)の含有量は、共重合体(A)100質量部に対して1~400質量部、好ましくは10~200質量部である。
【0032】
<可塑剤(C)>
本発明に係るEPDM系組成物は、低粘度パラフィン系プロセスオイルおよびナフテン系プロセスオイルからなる群から選択される少なくとも1種の可塑剤(C)(以下、単に「可塑剤(C)」とも記載する。)を含んでいる。
【0033】
低粘度パラフィン系プロセスオイルの、JIS K2283に準拠して測定される40℃での動粘度は、通常10~100mm2/sであり、好ましくは10~80mm2/sであり、より好ましくは10~60mm2/sである。
【0034】
低粘度パラフィン系プロセスオイルの市販品の例としては、ダイアナプロセスオイルPW-32(商品名、出光興産(株)製)、サンパー110、120(商品名、日本サン石油(株)製)、およびJOMOプロセスP200(商品名、ジャパンエナジー(株)製)が挙げられる。
【0035】
低粘度パラフィン系プロセスオイルを含有する本発明に係るEPDM系組成物においては、パラフィン系プロセスオイルの流動点が低く、EPDM系組成物のガラス転移温度がより低温側に移動することから、前記組成物の架橋体を含む制振ゴムは、高粘度のパラフィン系プロセスオイルを含有する場合よりも、広い温度領域(例えば-20℃~80℃)で減衰性能が高く、その温度依存性が小さく、かつ機械強度が高くなる、と推察される。
【0036】
また、ナフテン系プロセスオイルの、JIS K2283に準拠して測定される40℃での動粘度は、通常10~450mm2/sである。
ナフテン系オイルの市販品の例としては、ダイアナプロセスオイルシリーズのNS100、NS-90(商品名、出光興産(株)製)、およびサンセン415(商品名、日本サン石油(株)製)が挙げられる。
【0037】
ナフテン系オイルを含有する本発明に係るEPDM系組成物は、ナフテン系プロセスオイルの流動点が低く、EPDM系組成物のガラス転移温度がより低温側に移動すること、また、前記組成物の架橋体を含む制振ゴムは、ナフテン系プロセスオイルに含まれるアロマ成分により架橋密度が低下することから、高粘度のパラフィン系プロセスオイルを含有する場合よりも、広い温度領域(例えば-20℃~80℃)で減衰性能が高く、その温度依存性が小さくなる、と推察される。
【0038】
本発明に係るEPDM系組成物の可塑剤(C)の含有量は、共重合体(A)100質量部に対して10~100質量部、好ましくは10~90質量部、より好ましくは10~80質量部である。
【0039】
<過酸化物系架橋剤(D)>
本発明に係るEPDM系組成物は、過酸化物系架橋剤(D)を含んでいる。
前記過酸化物系架橋剤(D)の例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルヒドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシン)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-モノ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが挙げられる。これらの中でも、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明に係るEPDM系組成物中の前記過酸化物系架橋剤(D)の量は、共重合体(A)100質量部に対して1~10質量部、好ましくは2~10質量部、より好ましくは3~10質量部である。
【0041】
<任意成分>
本発明のEPDM系組成物は、上述の各成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋助剤、架橋剤(ただし、過酸化物系架橋剤(D)を除く。)、可塑剤(ただし、可塑剤(C)を除く。)、無機充填剤(補強剤)、老化防止剤、加工助剤、活性剤、吸湿剤、帯電防止剤、着色剤、滑剤および増粘剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでもよい。また、本発明のEPDM系組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、共重合体(A)以外のポリマー(以下「任意のポリマー」とも記載する。)、例えばエラストマーおよび/またはゴムをさらに含んでもよい。以下に説明する各成分は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0042】
《架橋助剤》
前記過酸化物系架橋剤(D)には、好ましくは架橋助剤が併用される。
架橋助剤としては、例えば、イオウ;p-キノンジオキシム等のキノンジオキシム系架橋助剤;エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のアクリル系架橋助剤;ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系架橋助剤;マレイミド系架橋助剤;ジビニルベンゼン;酸化マグネシウム、酸化亜鉛2種(JIS K1410)(例えば、「ZnO#1」;ハクスイテック(株)製)、亜鉛華(例えば、「META-Z 102」(商品名;井上石灰工業(株)製))などの酸化亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。
【0043】
本発明のEPDM系組成物が架橋助剤を含有する場合、架橋助剤の含有量は、過酸化物系架橋剤(D)1モルに対して、通常は0.5~10モル、好ましくは0.5~7モル、より好ましくは1~5モルである。
【0044】
《架橋剤》
前記過酸化物系架橋剤(D)以外の架橋剤(以下「他の架橋剤」と記載する。)としては、例えば、硫黄系化合物、フェノール樹脂、ヒドロシリコーン系化合物、アミノ樹脂、キノンまたはその誘導体、アミン系化合物、アゾ系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物が挙げられる。
【0045】
前記硫黄系化合物を用いる場合、その具体例としては、硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄、モルフォリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジチオカルバミン酸セレンが挙げられる。
【0046】
架橋剤として硫黄系化合物を用いる場合、加硫促進剤を併用することが好ましい。加硫促進剤としては、例えば、
N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N'-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-モルホリノジチオ)ペンゾチアゾール)、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4-モルフォリノチオ)ベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;
ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン、ジオルソトリルグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;
アセトアルデヒド・アニリン縮合物、ブチルアルデヒド・アニリン縮合物等のアルデヒドアミン系加硫促進剤;
2-メルカプトイミダゾリン等のイミダゾリン系加硫促進剤;
ジエチルチオウレア、ジブチルチオウレア等のチオウレア系加硫促進剤;
テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;
ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸テルル等のジチオ酸塩系加硫促進剤;
エチレンチオ尿素(例えば、サンセラー22C(商品名;三新化学工業社製))、N,N'-ジエチルチオ尿素、N,N'-ジブチルチオ尿素等のチオウレア系加硫促進剤;
ジブチルキサトゲン酸亜鉛等のザンテート系加硫促進剤;
その他、亜鉛華
が挙げられる。
【0047】
本発明のEPDM系組成物が加硫促進剤を含有する場合、加硫促進剤の含有量は、共重合体(A)および必要に応じて配合される架橋が必要な任意のポリマーの合計100質量部に対して、通常は0.1~20質量部、好ましくは0.2~15質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部である。
【0048】
《軟化剤(可塑剤)》
本発明のEPDM系組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記可塑剤(C)以外の可塑剤(軟化剤)が少量含まれていてもよい。
【0049】
そのような可塑剤としては、例えば、
プロセスオイル(前記可塑剤(C)を除く。)、潤滑油、パラフィン油、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤;
コールタール等のコールタール系軟化剤;
ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤;
蜜ロウ、カルナウバロウ等のロウ類;
リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸またはその塩;
ナフテン酸、パイン油、ロジンまたはその誘導体;
テルペン樹脂、石油樹脂、クマロンインデン樹脂等の合成高分子物質;
ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート等のエステル系軟化剤;
その他、マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、炭化水素系合成潤滑油、トール油、サブ(ファクチス)
が挙げられる。
【0050】
《無機充填剤(補強材)》
無機充填剤(補強材)としては、例えば、炭酸カルシウム(例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、活性化炭酸カルシウム)、タルク(例えば、微粉タルク)、クレー、微粉ケイ酸、カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが好ましい。
【0051】
本発明のEPDM系組成物が無機充填剤を含有する場合、無機充填剤と前記シリカ(B)との合計の含有量は、共重合体(A)および任意のポリマーの合計100質量部に対して、通常は0.1~200質量部、好ましくは10~200質量部である。
【0052】
《老化防止剤(安定剤)》
本発明のEPDM系組成物は、老化防止剤(安定剤)を含有することにより、当該組成物から形成される(架橋)成形体の寿命を長くすることができる。老化防止剤としては、例えば、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イオウ系老化防止剤が挙げられる。
【0053】
アミン系老化防止剤としては、例えば、フェニルブチルアミン、N,N-ジ-2-ナフチル-p―フェニレンジアミン等の芳香族第2アミン系老化防止剤が挙げられる。
フェノール系老化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]が挙げられる。
【0054】
イオウ系老化防止剤としては、例えば、ビス[2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル]スルフィド等のチオエーテル系老化防止剤;ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等のジチオカルバミン酸塩系老化防止剤;2-メルカプトベンゾイルイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートが挙げられる。
【0055】
本発明のEPDM系組成物が老化防止剤を含有する場合、老化防止剤の含有量は、共重合体(A)および任意のポリマーの合計100質量部に対して、通常は0.3~10質量部、好ましくは0.5~7.0質量部である。
【0056】
《加工助剤》
加工助剤としては、一般的に加工助剤としてゴムに配合されるものを広く用いることができる。加工助剤としては、例えば、リシノール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、エステル類が挙げられる。これらの中でも、ステアリン酸が好ましい。
【0057】
本発明のEPDM系組成物が加工助剤を含有する場合、加工助剤の含有量は、共重合体(A)および任意のポリマーの合計100質量部に対して、通常は10質量部以下、好ましくは8.0質量部以下である。
【0058】
《活性剤》
活性剤としては、例えば、ジ-n-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モノエラノールアミン等のアミン類;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、レシチン、トリアリルートメリレート、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸の亜鉛化合物等の活性剤;過酸化亜鉛調整物;クタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、合成ハイドロタルサイト、特殊四級アンモニウム化合物が挙げられる。
【0059】
本発明のEPDM系組成物が活性剤を含有する場合、活性剤の含有量は、共重合体(A)および任意のポリマーの合計100質量部に対して、通常は0.2~10質量部、好ましくは0.3~5質量部である。
【0060】
《吸湿剤》
吸湿剤としては、例えば、酸化カルシウム、シリカゲル、硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、ホワイトカーボンが挙げられる。
【0061】
本発明のEPDM系組成物が吸湿剤を含有する場合、吸湿剤の含有量は、共重合体(A)および任意のポリマーの合計100質量部に対して、通常は0.5~15質量部、好ましくは1.0~12質量部である。
【0062】
《他のポリマー》
本発明のEPDM系組成物は、共重合体(A)以外の他のポリマー(任意のポリマー)をさらに含有してもよい。
【0063】
架橋が必要な他のポリマーとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴムが挙げられる。
【0064】
架橋が不要な他のポリマーとしては、例えば、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体(SBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩ビ系エラストマー(TPVC)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、その他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等のエラストマーが挙げられる。
【0065】
本発明のEPDM系組成物が任意のポリマーを含有する場合、任意のポリマーの含有量は、共重合体(A)100質量部に対して、通常は100質量部以下、好ましくは80質量部以下である。
【0066】
(EPDM系組成物組成物の製造方法)
本発明に係るEPDM系組成物は、その原料として上述した共重合体(A)、シリカ(B)、可塑剤(C)および過酸化物系架橋剤(D)を使用することを除いて、ゴム組成物の従来公知の製造方法によって製造することができる。
【0067】
本発明に係るゴム組成物の製造方法としては、たとえばバンバリーミキサー、ニーダー、インターミックスのようなインターナルミキサー(密閉式混合機)類により、上述した共重合体(A)、シリカ(B)、可塑剤(C)および必要に応じて前記任意成分を、80~170℃の温度で3~10分間混練する。得られた配合物を冷却し、そこへ前記過酸化物系架橋剤(D)および必要に応じて任意成分を加えて、オープンロール等のロール類、あるいはニーダーを使用して、ロール温度を、架橋が実質的に進行しない温度、たとえば40~80℃で5~30分間混練した後、分出しすることにより製造することができる。
【0068】
[架橋体および制振ゴム]
本発明の架橋体は、本発明の組成物を架橋したものである。
本発明の架橋体は、通常のゴム材料を加硫(架橋)するときと同様に、未加硫の本発明に係る組成物を調製し、次いで(または同時に)所望の形状に成形し、次いで加硫(架橋)することにより製造できる。
【0069】
本発明に係る制振ゴムは、本発明の組成物から得られる架橋体を含んでいる。
本発明の制振ゴムは、OA機器、家電製品(洗濯機等)、自動車、工作機械、産業機械、床材、制振パネル、カーエアコン、カーオーディオ、カーナビ等の制振部材、トーショナルダンパー、プロペラシャフトブッシュ等の材料として好ましく用いることができる。制振成形体等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
[測定方法]
架橋前の組成物(以下「未加硫ゴム」とも記載する。)およびその架橋体の物性を、以下の方法で測定した。
【0071】
〔未加硫ゴム特性〕
<ムーニー粘度>
ムーニー粘度計((株)島津製作所製SMV202型)を用い、JIS K6300に準拠して、未加硫ゴムのムーニー粘度ML(1+4)100℃を測定した。
【0072】
<加硫速度>
測定装置としてMDR2000P(ALPHA TECHNOLOGIES社製)を用い、温度170℃かつ時間20分の測定条件下で、加硫速度(tc90)を以下のとおり測定した。
【0073】
サンプルを測定装置にセットし、一定温度および一定のせん断速度の条件下で得られるトルク変化を測定し、加硫曲線を得た。この加硫曲線からトルクの最小値S'Minおよび最大値S'Maxを求め、測定開始時を基準としてトルクが(S'Max-S'Min)×0.9となるまでの時間(分)をtc90とした。
【0074】
〔加硫ゴム特性〕
未加硫ゴムから、プレス成形機を用いて170℃で15分間加硫を行なって、厚さ2mmのシート(架橋体)を得た。
【0075】
<硬さ>
JIS K6253に準拠して、前記シート(架橋体)の硬さ(タイプAデュロメータ硬さ)を測定した。ただし、厚さ2mmのシート6枚を、平らな部分を積み重ねて厚さ約12mmとしたものを、試験片として用いた。試験片として、異物の混入したもの、気泡のあるもの、およびキズのあるものは用いなかった。また、試験片の測定面の寸法は、押針先端が試験片の端から12mm以上離れた位置で測定できる大きさとした。
【0076】
<引張特性>
JIS K6251に従い、測定温度23℃、引張速度500mm/分の条件で前記シート(架橋体)の引張試験を行い、切断時引張強さ(TB)〔MPa〕および切断時伸び(EB)〔%〕を測定した。
【0077】
<架橋密度>
前記シート(架橋体)を、トルエン中に37℃で72時間浸漬して膨潤させたときの重量変化を測定し、Flory-Rehner式に従い、架橋密度を求めた。
【0078】
〔加硫ゴムの動的粘弾性〕
未加硫ゴムから、プレス成形機を用いて170℃で15分間加硫を行なって、厚さ3mmのシート(架橋体)を作製し、さらに動的粘弾性測定に必要な45mm×10mm×3mmの短冊片を切り出し、試験片とした。ANTONPaar社製MCR301を用いて、10rad/sの周波数で、-20~80℃の範囲で動的粘弾性測定を行った。
実施例等で使用した原料は以下のとおりである。
【0079】
《共重合体(A)》
・(三井EPT 3070(商品名)(エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン三元共重合体、三井化学(株)製)
《シリカ》
・アエロジル200(商品名)(シリカ、日本アエロジル(株)製)
・アエロジルRX200(商品名)(疎水性シリカ、日本アエロジル(株)製)
《可塑剤》
・ダイアナプロセスオイルPW-380(商品名)(パラフィン系プロセスオイル、動粘度(40℃):約380mm2/s)
・ダイアナプロセスオイルPW-100(商品名)(パラフィン系プロセスオイル、動粘度(40℃):約103mm2/s)
・ダイアナプロセスオイルPW-32(商品名)(パラフィン系プロセスオイル、動粘度(40℃):約31mm2/s)
・ダイアナプロセスオイルNS-100(商品名)(ナフテン系プロセスオイル、動粘度(40℃):約95mm2/s)
・ダイアナプロセスオイルNS-90S(商品名)(ナフテン系プロセスオイル、動粘度(40℃):約97mm2/s)(以上、出光興産(株)製)
《過酸化物系架橋剤(D)》
・DCP-40C(ジクミルパーオキサイド(濃度:40%))
《加硫促進剤》
・META-Z 102(商品名)(活性亜鉛華、井上石灰工業(株)製)
・PEG#4000(商品名)(ポリエチレングリコール、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)
《加工助剤》
・ステアリン酸
【0080】
[比較例1]
三井EPT 3070を100質量部、META-Z 102を5質量部、ステアリン酸を1質量部、PEG#4000を1質量部、アエロジル200を30質量部、およびPW-100を40質量部、1.7リットル容量のバンバリーミキサーで5分間混練した。
【0081】
さらに、この配合物を表面温度が50℃の6インチロールに巻き付けた後、この配合物236質量部に対し、DCP-40Cを6.8質量部加えて8分間混練し、得られた配合物を放冷し、EPDM組成物(未加硫ゴム)を得た。
この組成物およびその架橋体について、上記方法により諸物性を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例1~5、比較例2~5]
配合成分の種類または量を表1に記載のとおり変更したこと以外は比較例1と同様にして、EPDM組成物(未加硫ゴム)を得た。各組成物およびその架橋体について、上記方法により諸物性を測定した。結果を表1に示す。
【0083】