(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】複合粒子、成形体、中空糸膜の製造方法、イオン交換膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20240905BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240905BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20240905BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20240905BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20240905BHJP
B01D 71/82 20060101ALI20240905BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240905BHJP
C08L 101/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEW
B01D69/08
B01D71/26
B01D71/32
B01D71/36
B01D71/82 500
C08L27/18
C08L101/04
(21)【出願番号】P 2020087713
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390005407
【氏名又は名称】AGCエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 孝博
(72)【発明者】
【氏名】時田 昌治
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-517035(JP,A)
【文献】特開2017-213477(JP,A)
【文献】国際公開第2004/030132(WO,A1)
【文献】特開2015-034255(JP,A)
【文献】国際公開第2013/012036(WO,A1)
【文献】特開2019-108542(JP,A)
【文献】特公昭60-31328(JP,B2)
【文献】米国特許第4661218(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第0033354(EP,A1)
【文献】国際公開第2020/105600(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054777(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/046186(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/115072(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146851(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1513601(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22
61/00-71/82
C02F1/44
C08J3/00-5/02
5/12-5/22
99/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含むペレットと、
前記ペレットの表面に付着した粉体と、を有し、
前記粉体が、不飽和炭化水素に基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを含む共重合体を含有する、複合粒子
(ただし、前記ペレットおよび前記粉体の湿式混合物を除く。)。
【請求項2】
前記ペレットの粒子径に対する前記粉体の平均粒子径の粒径比が、1/10000~1/2である、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記ペレットの粒子径が、2~10mmである、請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記粉体の平均粒子径が、1~1000μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記粉体の含有量が、前記ペレット100質量部に対して0.01~10.0質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の複合粒子の加熱成形物である、成形体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の複合粒子を加熱成形してチューブ状の前駆体膜とし、前記チューブ状の前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基を、イオン交換基に変換する、中空糸膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の複合粒子を加熱成形してフィルム状の前駆体膜とし、前記フィルム状の前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基を、イオン交換基に変換する、イオン交換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子、成形体、中空糸膜の製造方法、イオン交換膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換基またはイオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのペレットが知られている(特許文献1)。特許文献1には、イオン交換基またはイオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのペレットをフィルム状に成形することが記載されている。
押出成形又は射出成形用の樹脂組成物として、エンジニアリングプラスチック及び含フッ素重合体を配合したものが知られている(特許文献2)。特許文献2には、エンジニアリングプラスチックの成形加工性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/189000号
【文献】国際公開第2003/044093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン交換基またはイオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのペレットは、例えば、チューブ状に加熱成形することで水蒸気を選択的に透過する中空糸膜の製造に利用でき、フィルム状に加熱成形することでイオン交換膜の製造に利用できる。
しかし、本発明者の検討によれば、イオン交換基またはイオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのペレットから得られる成形体にあっては、柔軟性に改善の余地がある。加えて、特許文献2に記載の樹脂組成物のようにペレットの表面に粉体を付着させると、成形体の表面に異物感が目立ち、外観不良が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、柔軟性に優れ、外観不良が少ない成形体が得られる複合粒子;柔軟性に優れ、外観不良が少ない成形体;柔軟性に優れ、外観不良が少ない中空糸膜の製造方法;柔軟性に優れ、外観不良が少ないイオン交換膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含むペレットと、前記ペレットの表面に付着した粉体と、を有し、前記粉体が、不飽和炭化水素に基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを含む共重合体を含有する、複合粒子。
[2] 前記ペレットの粒子径に対する前記粉体の平均粒子径の粒径比が、1/10000~1/2である、[1]の複合粒子。
[3] 前記ペレットの粒子径が、2~10mmである、[1]または[2]の複合粒子。
[4] 前記粉体の平均粒子径が、1~1000μmである、[1]~[3]のいずれかの複合粒子。
[5] 前記粉体の含有量が、前記ペレット100質量部に対して0.01~10.0質量部である、[1]~[4]のいずれかの複合粒子。
[6] [1]~[5]のいずれかの複合粒子の加熱成形物である、成形体。
[7] [1]~[5]のいずれかの複合粒子を加熱成形してチューブ状の前駆体膜とし、前記チューブ状の前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基を、イオン交換基に変換する、中空糸膜の製造方法。
[8] [1]~[5]のいずれかの複合粒子を加熱成形してフィルム状の前駆体膜とし、前記フィルム状の前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基を、イオン交換基に変換する、イオン交換膜の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合粒子によれば、柔軟性に優れ、外観不良が少ない成形体が得られる。
本発明の成形体、本発明の製造方法で得られる中空糸膜、本発明の製造方法で得られるイオン交換膜は、柔軟性に優れ、外観不良が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】最小曲げ半径の測定方法を説明する図である。
【
図2】水圧破壊応力の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書においては、式1で表される化合物を、化合物1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式1Sで表される単位を、単位1Sと記す。他の式で表される単位も同様に記す。
【0010】
本明細書における用語の意味は以下の通りである。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーが重合して形成された、該モノマー1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを処理して該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(-COOH)、またはカルボン酸塩基(-COOM1。ただし、M1はアルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(-SO3H)、またはスルホン酸塩基(-SO3M2。ただし、M2はアルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)を意味する。
「前駆体膜」とは、イオン交換基に変換できる基を有するポリマーを含む膜である。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理、その他金属カチオンへの塩交換等の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
ペレットの「粒子径」とは、ペレットに外接する平行な二つの平面のうち、その距離が最大になる平面間の距離を意味し、デジタルノギス(ミツトヨ製)を用いて測定される。ここで、平面間の距離とは、平行な2つの平面に直交する線分の長さである。
粉体の「平均粒子径」は、粉体を液状媒体に分散させた分散液を、レーザー回折・散乱法を測定原理とした粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置またはこれに準じた装置)によって測定したときの粒度分布より体積平均を算出して求められる50%径の値である。
ポリマーの「イオン交換容量」は、実施例に記載の方法によって求める。
【0011】
<複合粒子>
本発明の複合粒子(以下、「本複合粒子」と記す。)は、イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマーI’」と記す。)を含むペレットと、前記ペレットの表面に付着した粉体とを有する。前記粉体は、不飽和炭化水素に基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを含む共重合体を含有する。
【0012】
本複合粒子において、粉体の含有量は、ペレット100質量部に対して0.01~10.00質量部が好ましく、0.01~5.00質量部がより好ましく、0.02~3.00質量部がさらに好ましい。
粉体の含有量が前記下限値以上であれば、複合粒子から得られる成形体の柔軟性がより優れる。また、成形時の内外径のバラつき、中空糸膜とした際の水蒸気透過性のバラつきが少なくなる傾向がある。
粉体の含有量が前記上限値以下であれば、成形体の外観がより優れる。また、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能が損なわれにくく、中空糸膜およびイオン交換膜の伸度も損なわれにくい。
【0013】
ペレットの粒子径に対する粉体の平均粒子径の粒径比(粉体の平均粒子径/ペレットの粒子径)は、中空糸膜およびイオン交換膜の膜厚変動等の欠陥が少なくなる点から、1/10000~1/2が好ましく、1/1600~1/6がより好ましく、1/25~5/7がさらに好ましい。前記粒径比が前記下限値以上であれば、チューブ状の前駆体膜を紡糸する時の内外径のバラつきが小さくなる傾向がある。また、中空糸膜およびイオン交換膜の膜厚変動等の欠陥が少なくなる。前記粒径比が前記上限値以下であれば、成形体の外観がより優れる。また、中空糸膜およびイオン交換膜の強度、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能がよくなる傾向がある。
【0014】
(ペレット)
ペレットの形状は、特に限定されない。例えば、球状(楕円体状も含む)、柱状(例えば、円柱状)等のいずれの形状でもよい。
ペレットの粒子径は、粉体の平均粒子径との粒径比を考慮して適宜設定してもよい。具体的には、ペレットの粒子径は、成膜時の製造条件が安定して、膜厚変動が小さくなる点から、2~10mmが好ましく、3~8mmがより好ましく、3~7mmがさらに好ましい。
【0015】
ペレットは含フッ素ポリマーI’を含む。含フッ素ポリマーI’は、イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーである。イオン交換基に変換できる基としては、カルボン酸型官能基に変換できる基、スルホン酸型官能基に変換できる基が挙げられる。
【0016】
含フッ素ポリマーI’のイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換して得られる含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマーI」と記す。)のイオン交換容量は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン電導性が向上する点から、1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂(以下、単に「ミリ当量/g」と記す。)以上が好ましく、1.20ミリ当量/g以上がより好ましい。また、含フッ素ポリマーIのイオン交換容量は、含フッ素ポリマーIの分子量を高くしやすく、含フッ素ポリマーIの膨潤を抑制しやすく、中空糸膜の強度、寸法安定性が向上する点から、2.00ミリ当量/g以下が好ましく、1.90ミリ当量/g以下がより好ましい。
【0017】
ここで、イオン交換容量を測定するための含フッ素ポリマーIは、次のようにして得られる。まず、240℃、-0.1MPaGで16時間真空熱処理した含フッ素ポリマーI’を、ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に95℃で30分間浸漬し、含フッ素ポリマーI’中のイオン交換基に変換できる基を加水分解して、K型のイオン交換基に変換した後、水洗する。その後、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、末端基をK型からNa型に変換して、イオン交換容量を測定するための含フッ素ポリマーIを得る。
【0018】
含フッ素ポリマーIのイオン交換容量が高い場合(例えば、1.1ミリ当量/g以上)、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン電導性が向上する利点があるが、含フッ素ポリマーI’の結晶性の低下に伴って、ポリマーの融点および軟化点が低下する。そのため、室温(23℃)でペレット同士が固着しやすくなり、ペレットを押出機に安定供給できず、中空糸膜およびイオン交換膜の膜厚変動等が起きやすくなる。
この問題に対して、本複合粒子を用いれば、イオン交換容量を高くできる含フッ素ポリマーI’をペレットが含んでいる場合であっても、ペレット同士の固着を抑制でき、本複合粒子を押出機に安定供給できる。その結果、高い水蒸気透過性能、イオン電導性を実現しながら、膜厚変動等の欠陥を抑制できる。
【0019】
含フッ素ポリマーI’は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能がより優れる点から、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマーS’」と記す。)、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマーC’」と記す。)が好ましく、含フッ素ポリマーS’がより好ましい。
含フッ素ポリマーI’は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
以下、含フッ素ポリマーS’、含フッ素ポリマーC’について詳述する。
【0020】
[含フッ素ポリマーS’]
含フッ素ポリマーS’は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能がより優れる点から、含フッ素オレフィンに基づく単位と、スルホン酸型官能基に変換できる基およびフッ素原子を有するモノマー(以下、「含フッ素モノマーS’」と記す。)に基づく単位と、を含む共重合体が好ましい。
【0021】
含フッ素モノマーS’としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつ、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する化合物が挙げられる。
含フッ素モノマーS’としては、モノマーの製造コスト、重合時の反応性、得られる含フッ素ポリマーS’の特性に優れる点から、化合物1が好ましい。
CF2=CF-L-(A1)n ・・・式1
【0022】
式1中、Lは、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基である。nは、1または2である。
n+1価のペルフルオロ炭化水素基が酸素原子を含む場合、酸素原子は、ペルフルオロ炭化水素基中の末端に位置していても、炭素原子-炭素原子間に位置していてもよい。n+1価のペルフルオロ炭化水素基の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0023】
Lとしては、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基が好ましく、n=1の態様である、酸素原子を含んでいてもよい2価のペルフルオロアルキレン基、n=2の態様である、酸素原子を含んでいてもよい3価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基がより好ましい。
2価のペルフルオロアルキレン基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0024】
式1中、A1は、スルホン酸型官能基に変換できる基である。スルホン酸型官能基に変換できる基は、加水分解によってスルホン酸型官能基に変換できる官能基が好ましい。スルホン酸型官能基に変換できる基の具体例としては、-SO2F、-SO2Cl、-SO2Brが挙げられる。
【0025】
化合物1としては、化合物1-1、化合物1-2、化合物1-3が好ましい。
CF2=CF-O-Rf1-A1 ・・・式1-1
CF2=CF-Rf1-A1 ・・・式1-2
【0026】
【0027】
式1-1~式1-3においてRf1は、炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
Rf2は、単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0028】
式1-3中、rは0または1である。
式1-3中のA1の定義は、前記式1と同様である。
【0029】
化合物1-1の具体例としては、化合物1-1-1、化合物1-1-2、化合物1-1-3が挙げられる。
CF2=CF-O-(CF2)w-SO2F ・・・式1-1-1
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-(CF2)w-SO2F ・・・式1-1-2
CF2=CF-[O-CF2CF(CF3)]x-SO2F ・・・式1-1-3
式1-1-1~式1-1-3において、wは1~8の整数であり、xは1~5の整数である。
【0030】
化合物1-2の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CF2=CF-(CF2)w-SO2F
CF2=CF-CF2-O-(CF2)w-SO2F
これらの化合物において、wは、1~8の整数である。
【0031】
化合物1-3としては、化合物1-3-1が好ましい。
【0032】
【0033】
式1-3-1中、Rf3は炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。Rf4は単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。式1-3-1中のrの定義は、前記式1-3と同様であり、A1の定義は、前記式1と同様である。
【0034】
化合物1-3-1の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0035】
【0036】
含フッ素モノマーS’は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
含フッ素オレフィンとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数が2~3のフルオロオレフィンが挙げられる。具体例としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と記す。)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。中でも、モノマーの製造コスト、共重合時の反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
含フッ素ポリマーS’は、含フッ素モノマーS’、含フッ素オレフィン以外の他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよい。他のモノマーの具体例としては、CF2=CFRf5(Rf5は炭素数2~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF2=CF-ORf6(Rf6は炭素数1~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF2=CFO(CF2)vCF=CF2(vは1~3の整数である。)が挙げられる。他のモノマーを共重合させれば、中空糸膜、イオン交換性能の柔軟性がさらに向上し、強度も向上する。
含フッ素ポリマーS’が他のモノマーに基づく単位を含む場合、他のモノマーに基づく単位の割合は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマーS’中の全単位に対して、30質量%以下が好ましい。
【0039】
含フッ素ポリマーS’は、例えば、含フッ素モノマーS、必要に応じて含フッ素オレフィン、他のモノマーを含むモノマー成分を重合して製造できる。重合法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法が挙げられる。
【0040】
[含フッ素ポリマーC’]
含フッ素ポリマーC’は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能がより優れる点から、含フッ素オレフィンに基づく単位と、カルボン酸型官能基に変換できる基およびフッ素原子を有するモノマー(以下、「含フッ素モノマーC’」と記す。)に基づく単位と、を含む共重合体が好ましい。
【0041】
含フッ素モノマーC’としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつカルボン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、種々の化合物が用いられる。
含フッ素モノマーC’は、モノマーの製造コスト、重合時の反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、化合物2が好ましい。
【0042】
CF2=CF-(O)p-(CF2)q-(CF2CFX)r-(O)s-(CF2)t-(CF2CFX’)u-A2 ・・・式2
【0043】
式2中、XおよびX’は、それぞれ独立して、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。
pは、0または1である。qは、0~12の整数である。rは、0~3の整数である。sは、0または1である。tは、0~12の整数である。uは、0~3の整数である。ただし、1≦p+sであり、1≦r+uである。
【0044】
式2中、A2は、カルボン酸型官能基に変換できる基である。具体的には、-CN、-COF、-COOR1(R1は炭素数1~10のアルキル基である。)、-COONR2R3(R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)が挙げられる。
【0045】
化合物2の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。製造が容易である点から、p=1、q=0、r=1、s=0~1、t=0~3、u=0~1である化合物が好ましい。
CF2=CF-O-CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF2CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF2-O-CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF2-O-CF2CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF2-O-CF2CF2CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF2CF2-O-CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2-COOCH3、
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2CF2-COOCH3。
含フッ素モノマーC’は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
含フッ素オレフィンとしては、含フッ素ポリマーS’の説明において例示したものが挙げられる。中でも、モノマーの製造コスト、共重合時の反応性、得られる含フッ素ポリマーC’の特性に優れる点から、TFEが好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
含フッ素ポリマーC’は、含フッ素モノマーC’、含フッ素オレフィン以外の他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよい。他のモノマーとしては、含フッ素ポリマーS’の説明において例示したものが挙げられる。
含フッ素ポリマーC’が他のモノマーに基づく単位を含む場合、他のモノマーに基づく単位の割合は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマーC’中の全単位に対して、30質量%以下が好ましい。
【0048】
含フッ素ポリマーC’は、例えば、含フッ素モノマーC、必要に応じて含フッ素オレフィン、他のモノマーを含むモノマー成分を重合して製造できる。重合法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法が挙げられる。
【0049】
ペレットの製造方法は特に限定されない。例えば、含フッ素ポリマーI’を含む溶融物を溶融押出機のダイスから押し出して、含フッ素ポリマーI’を含むストランドを得た後、ストランドを切断して含フッ素ポリマーI’を含むペレットを得る製造方法が挙げられる。
溶融押出機は、特に限定されない。例えば、単軸押出機、二軸押出機、タンデム押出機が挙げられる。溶融温度は、150~350℃が好ましく、200~300℃がより好ましい。
ペレットの切断方法は、特に限定されず、ストランドカット法でもよく、水中カット法でもよく、ホットカット法等でもよい。
【0050】
(粉体)
本複合粒子において、粉体はペレットの表面に付着している。粉体の平均粒子径は、中空糸膜、イオン交換膜の欠陥が少なくなる点から、1~1000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、5~120μmがさらに好ましい。
粉体の平均粒子径が前記下限値以上であれば、粉体同士の凝集を抑制できるため、ペレットの表面に対する粉体の付着が良好になる。その結果、中空糸膜、イオン交換膜の欠陥発生を抑制できると推測される。加えて、粉体の平均粒子径が前記下限値以上であれば、加熱成形時に粉体がペレットの表面で即座に溶融することを防ぎやすい。そのため、ペレット同士の固着を抑制することで本複合粒子を押出機に安定供給できる時間が長くなる。この場合、複合粒子を比較的多量の吐出量を要する成形体の製造に好適に適用できる。
粉体の平均粒子径が前記上限値以下であれば、成形体の表面に異物感が目立ちにくくなり、成形体の外観がより優れる。また、ペレットの表面に対する粉体の付着を充分に確保でき、粉体自体が中空糸膜、イオン交換膜の欠陥の原因となることを抑制できる。
【0051】
粉体は、特定の共重合体1を含有する。
共重合体1は、不飽和炭化水素に基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを含む。不飽和炭化水素としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、ペンテンが挙げられる。中でも、共重合時の反応性に優れる点、成形体の柔軟性がより優れる点から、エチレンが好ましい。
【0052】
不飽和炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、エチレンを1種単独で用いることが好ましい。そのため、共重合体1としては、エチレンに基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とからなる共重合体(以下、「エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体」と記す。)が好ましい。共重合体1がエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体であると、成形体の柔軟性がより優れ、成形体の外観がさらによくなる。
【0053】
共重合体1は、不飽和炭化水素に基づく単位、テトラフルオロエチレンに基づく単位に加えて、イオン交換基に変換できる基を有する単位をさらに含んでいてもよい。これにより、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能を維持しやすくなる。
イオン交換基に変換できる基を有する単位としては、イオン交換基に変換できる基を有するモノマーに基づく単位が好ましく、具体的には、先に例示した含フッ素モノマーC’に基づく単位、含フッ素モノマーS’に基づく単位が挙げられる。
【0054】
共重合体1は、不飽和炭化水素に基づく単位、テトラフルオロエチレンに基づく単位、イオン交換基に変換できる基を有する単位以外の他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよい。他のモノマーとしては、含フッ素ポリマーS’の説明において例示したものが挙げられる。
【0055】
粉体は、特定の共重合体1に加えて、共重合体1以外の他のポリマーをさらに含有してもよい。
共重合体1以外の他のポリマーは特に限定されない。ただし、他のポリマーとしては、中空糸膜、イオン交換膜の欠陥が少なくなる点から、含フッ素オレフィンに基づく単位を含むポリマーが好ましい。他のポリマーにおいても、含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
他のポリマーは、イオン交換基に変換できる基を有する単位をさらに含んでいてもよい。これにより、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能を維持しやすくなる。イオン交換基に変換できる基を有する単位としては、共重合体1の説明において例示したものが挙げられる。
【0057】
他のポリマーは、含フッ素オレフィンに基づく単位、イオン交換基に変換できる基を有するモノマーに基づく単位に加えて、他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよい。他のモノマーとしては、含フッ素ポリマーS’の説明において例示したものが挙げられる。
【0058】
他のポリマーの具体例としては、下記のポリマー1、ポリマー2が挙げられる。
ポリマー1:イオン交換基に変換できる基を有しないポリマー。
ポリマー2:イオン交換基に変換できる基を有するポリマー。
【0059】
ポリマー1としては、含フッ素オレフィンに基づく単位を含み、イオン交換基に変換できる基を有しないポリマーが好ましい。ポリマー1は、含フッ素オレフィン以外の他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよいが、含フッ素オレフィンの単独重合体が好ましい。
【0060】
ポリマー2としては、含フッ素オレフィンに基づく単位と、イオン交換基に変換できる基を有するモノマーに基づく単位とを含むポリマーが好ましい。ポリマー2は、必要に応じて、他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよい。
ここで、中空糸膜、イオン交換膜等の成形体は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーからなる複数の層を有する積層構造を含む場合がある。積層構造を含む成形体の場合においては、粉体がポリマー2を含むと、ポリマー1を含む粉体を有する複合粒子から得られる積層体と比較して、層同士の密着性が向上し、層間剥離を抑制できる。加えて、ポリマー2がイオン交換基に変換できる基を有するため相溶性が向上し、成形体の表面における異物感がさらに抑制され、また、膜強度が安定化する。
【0061】
粉体の製造方法は、特に限定されない。例えば、ペレット化せずに固化した共重合体1を粉砕処理して粉体を得る製造方法;ペレットの製造方法と同様にしてペレットを得た後、ペレットを粉砕処理して粉体を得る製造方法;が挙げられる。
粉砕処理の具体例としては、ピンミル、ハンマーミル、ジェットミル等の粉砕機を用いる方法が挙げられる。粉砕処理後は、粉砕物を分級して、得られる粉体の粒子径を揃えるのが好ましい。
【0062】
本複合粒子は、前記ペレットと前記粉体とを混合して製造できる。ペレットと粉体の混合方法は、特に限定されず、任意の攪拌機を用いてドライブレンドによって行うのが好ましい。
【0063】
(作用機序)
以上説明した本複合粒子にあっては、ペレットの表面に付着した粉体が特定の共重合体1を含有する。特定の共重合体1は、テトラフルオロエチレンに基づく単位に加えて、不飽和炭化水素に基づく単位を含むため、テトラフルオロエチレンに基づく単位からなる重合体と比較して融点が相対的に低くなる。そのため、ペレットの表面に付着した粉体が溶融しやすい。その結果、本複合粒子から得られる成形体の異物感が少なくなり、外観不良が少なくなる。加えて、特定の共重合体1は不飽和炭化水素に基づく単位を含むため、成形体の柔軟性もよくなる。
【0064】
<成形体>
本発明の成形体(以下、「本成形体」と記す。)は、上述の本複合粒子の加熱成形物である。そのため、本成形体は、柔軟性に優れ、外観不良が少ない。
本成形体の形状は、特に限定されないが、チューブ状、フィルム状が好ましい。本複合粒子をチューブ状に成形した場合、チューブ状の成形体は中空糸膜の前駆体膜として利用できる。本複合粒子をフィルム状に成形した場合、フィルム状の成形体はイオン交換膜の前駆体膜として利用できる。
以下、中空糸膜、イオン交換膜について詳述する。ただし、本成形体の用途は、中空糸膜の製造、イオン交換膜の製造に限定されない。
【0065】
(中空糸膜)
本中空糸膜の外径は、0.2~20mmが好ましく、3~15mmがより好ましく、0.4~10mmがさらに好ましい。中空糸膜の外径が前記下限値以上であると、強度が向上する傾向がある。中空糸膜の外径が前記上限値以下であると、紡糸時の外径のバラつきがさらに少なくなる傾向がある。
【0066】
中空糸膜の膜厚は、一定の強度を保つ点から、70~2000μm以上が好ましく、90~1500μm以上がより好ましい。また、中空糸膜の膜厚は、水蒸気透過性能を高める点から、1500μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、750μm以下がさらに好ましい。
【0067】
中空糸膜は、単層であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の中空糸膜は、例えば、共押し出し法によって含フッ素ポリマーI’からなる複数の層を積層させて得られた前駆体膜を用いて製造できる。
【0068】
中空糸膜は、含フッ素ポリマーIを含む。
含フッ素ポリマーIは、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能がより優れる点から、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマーS」と記す。)、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマーC」と記す。)が好ましく、含フッ素ポリマーSがより好ましい。含フッ素ポリマーIは、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
以下、含フッ素ポリマーS、含フッ素ポリマーCについて詳述する。
【0069】
[含フッ素ポリマーS]
含フッ素ポリマーSは、含フッ素オレフィンに基づく単位と、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位とを含む共重合体が好ましい。
含フッ素オレフィンとしては、含フッ素ポリマーS’の説明において例示したものが挙げられる。含フッ素オレフィンに基づく単位は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
含フッ素ポリマーSは、上述の含フッ素ポリマーS’のスルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸基に変換して得るのが好ましい。
【0070】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位としては、単位1Sが好ましい。
-[CF2-CF(-L-(SO3MS)n)]- ・・・式1S
【0071】
式1S中、Lおよびnの定義は、前記式1と同様である。
MSは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
【0072】
単位1Sとしては、単位1S-1、単位1S-2、単位1S-3が好ましい。
-[CF2-CF(-O-Rf1-SO3MS)]- ・・・式1S-1
-[CF2-CF(-Rf1-SO3MS)]- ・・・式1S-2
【0073】
【0074】
式1S-1~式1S-3中、Rf1、Rf2およびrの定義は、前記式1-1~式1-3と同様である。
MSは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
【0075】
単位1S-1の具体例としては、以下の単位1S-1-1、単位1S-1-2、単位1S-1-3が挙げられる。
-[CF2-CF(-O-(CF2)w-SO3MS)]- ・・・式1S-1-1
-[CF2-CF(-O-CF2CF(CF3)-O-(CF2)w-SO3MS)]- ・・・式1S-1-2
-[CF2-CF(-(O-CF2CF(CF3))x-SO3MS)]- ・・・式1S-1-3
wは1~8の整数であり、xは1~5の整数であり、MSの定義は、前記式1Sと同様である。
【0076】
単位1S-2の具体例としては、以下の単位1S-2-1、単位1S-2-2が挙げられる。
-[CF2-CF(-(CF2)w-SO3MS)]- ・・・式1S-2-1
-[CF2-CF(-CF2-O-(CF2)w-SO3MS)]- ・・・式1S-2-2
wは1~8の整数であり、MSの定義は、前記式1Sと同様である。
【0077】
単位1S-3としては、単位1S-3-1が好ましい。
【0078】
【0079】
式1S-3-1中、Rf3、Rf4およびrの定義は、前記式1-3-1と同様であり、MSの定義は、前記式1Sと同様である。
【0080】
単位1S-3の具体例としては、以下の単位が挙げられる。
【0081】
【0082】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0083】
含フッ素ポリマーSは、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位、含フッ素オレフィンに基づく単位に加えて、他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよい。他のモノマーに基づく単位の割合は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマーS中の全単位に対して、30質量%以下が好ましい。
【0084】
[含フッ素ポリマーC]
含フッ素ポリマーCは、含フッ素オレフィンに基づく単位と、カルボン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位とを含む共重合体が好ましい。
含フッ素オレフィンとしては、含フッ素ポリマーS’の説明において例示したものが挙げられる。含フッ素オレフィンに基づく単位は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0085】
カルボン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位としては、単位2Cが好ましい。
-[CF2-CF((O)p-(CF2)q-(CF2CFX)r-(O)s-(CF2)t-(CF2CFX’)u-COOMC)]- ・・・式2C
MCは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。X、X’、p、q、r、s、tおよびuは、前記式2と同様である。
【0086】
単位2Cの具体例としては、下記の単位が挙げられる。p=1、q=0、r=1、s=0~1、t=0~3、u=0~1である化合物が好ましい。
-[CF2-CF(O-CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF2CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF2-O-CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF2-O-CF2CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF2-O-CF2CF2CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF2CF2-O-CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2-COOMC)]-、
-[CF2-CF(O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2CF2-COOMC)]-。
カルボン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0087】
含フッ素ポリマーCは、含フッ素オレフィンに基づく単位、カルボン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位以外の他のモノマーに基づく単位をさらに含んでいてもよい。
他のモノマーの具体例としては、含フッ素ポリマーS’の説明において例示したものが挙げられる。他のモノマーに基づく単位の割合は、中空糸膜とした際の水蒸気透過性能、イオン交換膜とした際のイオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマーC中の全単位に対して、30質量%以下が好ましい。
含フッ素ポリマーCは、上述の含フッ素ポリマーC’のカルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸基に変換して得るのが好ましい。
【0088】
[中空糸膜の製造方法]
中空糸膜は、本複合粒子を加熱成形してチューブ状の前駆体膜とし、チューブ状の前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基を、イオン交換基に変換して製造する。
前駆体膜は、例えば、押し出し法によって製造できる。具体的には、例えば、本複合粒子を任意のフィルム製造用の溶融押出機に供給し、本複合粒子の溶融物を溶融押出機のノズルから押し出して、チューブ状に成形する。本複合粒子の溶融温度は、150~350℃が好ましく、200~300℃がより好ましい。
【0089】
前駆体膜には、補強材が埋め込まれていてもよい。補強材を前駆体膜中に埋め込む方法は特に限定されない。例えば、多層構造の中空糸膜を形成する場合、前駆体膜で補強材を挟み込む方法が挙げられる。また、本複合粒子の溶融物を補強材の両面にコーティングする方法によっても、前駆体膜中に補強材を埋め込むことができる。
【0090】
補強材は、補強布(好ましくは、織布)に由来する部材が好ましい。補強布以外にも、フィブリル、多孔体が補強材として挙げられる。
補強布は、経糸と緯糸とからなり、経糸と緯糸とが直交しているのが好ましい。補強布は、補強糸と犠牲糸とからなるのが好ましい。犠牲糸は、中空糸膜を含む装置の運転環境下でその少なくとも一部が溶出する糸である。中空糸膜の製造時および中空糸膜の装置への装着時等においては、犠牲糸によって中空糸膜の強度が保たれるが、装置の運転環境下で犠牲糸が溶解するため中空糸膜の抵抗を低下させることができる。
補強糸としては、補強布をアルカリ性水溶液(例えば、濃度が32質量%の水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬しても溶出しない材料からなる糸が好ましい。具体的には、補強糸としては、ポリテトラフルオロエチレンからなる補強糸、ポリフェニレンサルファイドからなる補強糸、ナイロンからなる補強糸およびポリプロピレンからなる補強糸からなる群から選ばれる少なくとも1種の補強糸が好ましい。
犠牲糸としては、補強布をアルカリ性水溶液に浸漬したときに、アルカリ性水溶液に溶出する材料からなる糸が好ましい。犠牲糸は、1本のフィラメントからなるモノフィラメントでもよく、2本以上のフィラメントからなるマルチフィラメントでもよい。
【0091】
次いで、チューブ状の前駆体膜中の含フッ素ポリマーI’のイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換する。
前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換する方法の具体例としては、前駆体膜に加水分解処理、酸型化処理等の処理を施す方法が挙げられる。前駆体膜とアルカリ性水溶液とを接触させる方法が好ましい。
【0092】
前駆体膜とアルカリ性水溶液とを接触させる方法の具体例としては、前駆体膜をアルカリ性水溶液中に浸漬する方法、前駆体膜の表面にアルカリ性水溶液をスプレー塗布する方法が挙げられる。アルカリ性水溶液の温度は、中空糸膜の生産性の観点から30℃以上100℃未満が好ましい。前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触時間は、3~300分間が好ましい。
【0093】
アルカリ性水溶液は、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤および水を含むのが好ましい。
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられ、水酸化カリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
水溶性有機溶剤とは、水に容易に溶解する有機溶剤であり、具体的には、水1000ml(20℃)に対する溶解性が、0.1g以上の有機溶剤が好ましく、0.5g以上の有機溶剤がより好ましい。水溶性有機溶剤は、非プロトン性有機溶剤、アルコールおよびアミノアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含むのが好ましく、非プロトン性有機溶剤を含むのがより好ましい。水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
非プロトン性有機溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンが挙げられる。中でもジメチルスルホキシドが好ましい。
アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエトキシエタノール、ブトキシエタノール、ブチルカルビトール、ヘキシルオキシエタノール、オクタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールが挙げられる。
アミノアルコールの具体例としては、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、1-アミノ-3-プロパノール、2-アミノエトキシエタノール、2-アミノチオエトキシエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが挙げられる。
【0095】
アルカリ金属水酸化物の含有量は、アルカリ性水溶液100質量%に対して1~60質量%が好ましい。
水溶性有機溶剤の含有量は、アルカリ性水溶液100質量%に対して1~60質量%が好ましい。
アルカリ金属水酸化物の含有量、水溶性有機溶剤の含有量が前記範囲内であれば、加水分解処理が速やかに完了し、中空糸膜の生産性が向上する。
水の含有量は、アルカリ性水溶液100質量%に対して39~80質量%が好ましい。
【0096】
前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後に、アルカリ性水溶液を除去する処理を行ってもよい。アルカリ性水溶液を除去する方法としては、例えば、アルカリ性水溶液に接触させた中空糸膜を水洗する方法が挙げられる。
前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後に、得られた中空糸膜を乾燥する処理をしてもよい。乾燥処理としては加熱処理が好ましい。加熱温度は50~160℃が好ましい。加熱時間は、0.1~24時間が好ましい。
【0097】
前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換した後、中空糸膜をカリウムイオン、ナトリウムイオン、または水素イオンを含む水溶液に接触させ、イオン交換基の対イオン(カチオン)を置換してもよい。イオン交換基のカチオンを、アルカリ水中に存在するカチオンと同じカチオンに置換することによって、置換したカチオンが存在する環境下でのアルカリ水電解に供することができ、中空糸膜の寸法安定性が向上する。
【0098】
中空糸膜は、加湿、除湿のための水蒸気選択透過性チューブとして用いることができる。水蒸気選択透過性チューブは、例えば、分析計等に試料ガスを供給する配管の途中に設ける凝集水除去器に用いることができる。他にも、空気圧駆動機器に圧縮空気を供給する配管の途中に水蒸気選択透過性チューブからなる配管を接続し、周囲環境との湿度差を利用して、配管内の圧縮空気を調湿することができる。また、中空糸膜は、医療用ガスの除湿用チューブ、加湿用チューブ、調湿用チューブにも用いることができる。
【0099】
(イオン交換膜)
イオン交換膜は、含フッ素ポリマーIを含む。含フッ素ポリマーIの詳細及び好ましい態様は、中空糸膜について説明した内容と同様である。そのため、含フッ素ポリマーC、含フッ素ポリマーSの詳細及び好ましい態様は、中空糸膜について説明した内容と同様である。
【0100】
イオン交換膜の膜厚は、一定の強度を保つ点から、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。また、イオン交換膜の膜厚は、電流効率および電圧効率を高める点から、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、180μm以下がさらに好ましい。
【0101】
イオン交換膜は、単層であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造のイオン交換膜は、例えば、共押し出し法によって含フッ素ポリマーI’からなる複数の層を積層させて得られた前駆体膜を用いて製造できる。
【0102】
[イオン交換膜の製造方法]
イオン交換膜は、本複合粒子を加熱成形してフィルム状の前駆体膜とし、フィルム状の前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基を、イオン交換基に変換して製造する。
イオン交換膜の前駆体膜の詳細及び好ましい態様は、前駆体膜の製造の際にフィルム状に加熱成形する以外は、中空糸膜について説明した内容と同様である。
イオン交換膜は、フィルム状の前駆体膜に含まれる含フッ素ポリマーI’のイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換して得られる。
フィルム状の前駆体膜中のイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換する方法の詳細及び好ましい態様は、中空糸膜について説明した内容と同様である。そのため、前駆体膜に接触させるアルカリ性水溶液の詳細及び好ましい態様は、中空糸膜について説明した内容と同様である。
【0103】
フィルム状の前駆体膜またはイオン交換膜の表面に親水化層を形成してもよい。親水化層は、フィルム状の前駆体膜またはイオン交換膜の表面の少なくとも一方の面に形成すればよい。
親水化層の具体例としては、無機物粒子を含む無機物粒子層が挙げられる。無機物粒子は、酸、アルカリに対する耐食性に優れ、親水性を有するのが好ましい。具体的には、第4族元素または第14族元素の酸化物、窒化物および炭化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、SiO2、SiC、ZrO2およびZrCからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、ZrO2がさらに好ましい。
親水化層はバインダーを含んでいてもよい。バインダーとしては、任意の親水化層(ガス解放層)に用いられる種々のバインダーを採用できる。例えば、メチルセルロース、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマーが挙げられる。
親水化層の形成方法の具体例としては、無機物粒子およびバインダーを含む溶液をフィルム状の前駆体膜またはイオン交換膜に塗布する方法が挙げられる。
【0104】
イオン交換膜の用途の具体例としては、固体高分子型燃料電池、メタノール直接型燃料電池、レドックスフロー電池、空気電池等の各種電池用途、固体高分子型水電解、アルカリ水電解、オゾン水電解、食塩電解、有機物電解、塩化物または酸化物等の各種電気分解装置が挙げられる。上記用途以外にも様々なタイプの電気化学セルでのセパレーター、固体電極として、セルの結合部分での選択的なカチオン輸送に用いることができる。また、電気化学関連の用途以外にも、センサー用途として各種ガスセンサー、バイオセンサー、発光デバイス、光学デバイス、有機物センサー、カーボンナノチューブの可溶化、アクチュエーター、触媒用途等に用いることができる。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
例1~7、例9、10は実施例、例8、11は比較例である。
【0106】
<測定方法、評価方法>
(含フッ素ポリマーのイオン交換容量)
乾燥窒素を流したグローブボックス中にイオン交換基を有する含フッ素ポリマーを24時間置き、含フッ素ポリマーの乾燥質量を測定した。その後、含フッ素ポリマーを2モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に60℃で1時間浸漬した。含フッ素ポリマーを超純水で洗浄した後、取り出し、含フッ素ポリマーを浸漬していた液を0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、含フッ素ポリマーのイオン交換容量(ミリ当量/g)を求めた。
【0107】
(粉体の平均粒子径)
粉体をイソプロピルアルコールに分散させた分散液を用いて、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「MT3300EX II」)によって、粉体の平均粒子径(体積平均を算出して求められる50%径の値)を測定した。
【0108】
(ペレットの粒子径)
ペレットデジタルノギス(ミツトヨ製)を用い、20個のペレットの粒子径を測定し、20個の算術平均値をペレットの粒子径とした。
【0109】
(紡糸時の外径)
横型単軸溶融押出機で各例の複合粒子をチューブ状に成形する際、紡糸した前駆体膜の外径を、LDM-303H-XY(タキカワエンジニアリング株式会社製)を用いて測定した。
【0110】
(紡糸時の圧力)
各例の複合粒子をチューブ状に成形する際、横型単軸溶融押出機の押出ノズルの先端の圧力を、CZ-200P(理化工業株式会社製)を用いて測定した。
【0111】
(中空糸膜の寸法)
各例の複合粒子をチューブ状に成形した前駆体膜から得られた中空糸膜について、25℃,RH50%の条件下で、外径、内径をそれぞれ垂直に交わるX軸方向、Y軸方向から1回ずつ計2回測定し、2回分の平均値を算出した。
【0112】
(出口露点、測定容器内露点)
各例の中空糸膜(長さ200mm、RH50%にて切断)の両側に流入管と流出管を接続し、20~25℃に調整した測定容器内に静置した。測定容器内の大気圧下露点は、-45℃であった。
流入管に、大気圧下露点が-9~-8.4℃の空気(温度22~24℃)を0.7MPa(ゲージ圧)で供給し、0.5L/分の流量で中空糸膜内に流した。流出管側から排出される除湿された空気の大気圧下露点を測定し、出口露点とした。出口露点の測定時の測定容器内の大気圧下露点を測定し、測定容器内露点とした。
【0113】
(水蒸気透過量)
各例の中空糸膜について、水蒸気透過量[g]を3回測定し、3回の平均値、標準偏差を算出した。
【0114】
(柔軟性)
図1に示すように、温度20℃の条件下で、各例の中空糸膜T(長さ140mm、25℃、RH50%にて切断)をU字型に曲げた状態で平行に配置された固定板1と可動板2の間に挟み、可動板2を徐々に固定板1に近づけた。中空糸膜Tに折れ、またはつぶれが発生した際の固定板1側の中空糸膜Tと可動板2側の中空糸膜Tとの距離2Rを測定し、その1/2であるRを最小曲げ半径とした。ここで、つぶれの発生時点は、チューブ外径が元のチューブ外径に対し5%変化した時点とした。
【0115】
(水圧破壊応力)
図2に示すように、各例の中空糸膜T(長さ140mm、RH50%にて切断)の両端にワンタッチ継手11、12を接続し、水槽10中の20℃に調整した純水Wに浸漬して、中空糸膜T内にも純水を導入した。その後、継手11には、水圧器13に接続された外径6mmの配管14を接続した。また、継手12にはプラグ15を嵌めて閉塞した。
この状態で、水圧器13により中空糸膜Tの内側の水圧を徐々に上げていった。中空糸膜Tが破裂した時点の中空糸膜内外の圧力差を3回測定し、3回の平均値を水圧破壊応力とした。
【0116】
(引張伸度)
各例の中空糸膜について、引張伸度を以下の手順にて測定した。
手順:測定はMCT-2150(株式会社エー・アンド・デイ製)を使用した。各例の中空糸膜を100mmに切断し、片方の端部を上部チャックで挟み固定し、もう片方の端部を下部チャックで挟んで固定した。その後、測定スイッチを押し数値を記録した。測定は各例の中空糸膜について5サンプル分行い、平均値を記録した。
【0117】
(引張破壊/断面積)
各例の中空糸膜について、引張破壊/断面積を以下の手順にて算出した。
手順:測定はMCT-2150(株式会社エー・アンド・デイ製)を使用した。各例の中空糸膜を100mmに切断し、片方の端部を上部チャックで挟み固定し、もう片方の端部を下部チャックで挟んで固定した。その後、測定スイッチを押し数値を記録した。測定は各例の中空糸膜について5サンプル分行い、平均値を記録した。
ここで、断面積は、中空糸を長手方向と直角に切断した際の膜の断面の面積である。
【0118】
(外観)
中空糸膜の外観を目視で観察し、以下の基準に基づいて評価した。
〇:中空糸膜の表面が均一であり、異物感がない。
△:中空糸膜の表面にすりガラス状の濁りがあるが、異物感はない。
×:中空糸膜の表面に粒状の塊が見え、異物感がある。
【0119】
<原料>
(ペレット)
CF2=CF2と化合物X1とを共重合して、含フッ素ポリマーS’-1(イオン交換容量:1.1ミリ当量/g)を得た。各モノマーの配合比は、含フッ素ポリマーS’-1のイオン交換容量が1.1ミリ当量/gとなるように調節した。
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2-SO2F ・・・式X1
【0120】
含フッ素ポリマーS’-1のイオン交換容量は、含フッ素ポリマーS’-1を下記の手順で処理した際に得られる、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーのイオン交換容量である。
手順:まず、240℃、-0.1MPaGで16時間真空熱処理したイオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを、ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に95℃で30分間浸漬し、含フッ素ポリマー中のイオン交換基に変換できる基を加水分解して、K型のイオン交換基に変換した後、水洗する。その後、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、末端基をK型からNa型に変換して、イオン交換容量を測定するためのイオン交換基を有する含フッ素ポリマーを得る。
【0121】
含フッ素ポリマーS’-1をペレット製造用の溶融押出機に供給して、含フッ素ポリマーS’-1の溶融物を得た。得られた溶融物をダイスから押し出し、冷却して、ストランドを得た。続いて、ストランドを切断して、含フッ素ポリマーS’-1のペレットを得た。含フッ素ポリマーS’-1のペレットは、円柱状のストランドであり、断面の直径が2.40mm、長さが2.50mmであった。ペレットの長さをペレットの粒子径とした。
【0122】
(粉体)
ETFE1:エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体からなり、平均粒子径が30μmである粉体。
ETFE2:エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体からなり、平均粒子径が50μmである粉体。
ETFE3:エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体からなり、平均粒子径が120μmである粉体。
【0123】
<例1>
ETFE1をペレット製造用の溶融押出機に供給して、ETFE1の溶融物を得た。得られた溶融物をダイスから押し出し、冷却して、ストランドを得た。次いで、ストランドを切断して、ETFE1のペレットを得た。ETFE1のペレットを粉砕機で粉砕した後、粉砕物を分級して、平均粒子径が18μmのETFE1の粉体を得た。
攪拌機を使用して、含フッ素ポリマーS’-1のペレット:600gと、ETFE1の粉体:0.06gとを混合し、ペレットの表面に粉体が付着した複合粒子を得た。
得られた複合粒子を、横型単軸溶融押出機を用いて270℃前後で押し出し、外径がφ0.58mmとなるようにチューブ状の前駆体膜を得た。紡糸数量は700mとした。
次いで、チューブ状の前駆体膜をジメチルスルホキシドと水酸化カリウムの混合水溶液により加水分解処理し、さらに塩酸水溶液により酸型化処理を行い、例1の中空糸膜を得た。
【0124】
<例2~8>
表1に示すように粉体の材料、粉体の平均粒子径、粉体の含有量を変更した以外は、例1と同様にして各例の複合粒子を得た。次いで、紡糸数量を表1に示すように変更した以外は、例1と同様にして、得られた各例の複合粒子を用いて各例の中空糸膜を得た。ここで、例8においては、粉体を添加せずに含フッ素ポリマーS’-1をそのまま中空糸膜の製造に使用した。
【0125】
<例9~11>
表1に示すように粉体の材料、粉体の平均粒子径、粉体の配合部数を変更した以外は、例1と同様にして各例の複合粒子を得た。次いで、前駆体膜の外径がφ4.0mmとなるように変更し、かつ、紡糸数量を20mに変更した以外は例1と同様にして、各例の中空糸膜を得た。ここで、例11においては、粉体を添加せずに含フッ素ポリマーS’-1をそのまま中空糸膜の製造に使用した。
【0126】
【0127】
例1~11について、前駆体膜の紡糸時の外径、押出時の圧力、中空糸膜の寸法、出口露点、測定容器内露点、中空糸膜の水圧破壊応力、引張伸度、引張破壊/断面積を測定した。また、上述の評価基準にしたがって各例の中空糸膜の外観を評価した。結果を表2、3に示す。
【0128】
【0129】
【0130】
表3中、「データ個数」とは、前駆体膜の紡糸時の内外径および紡糸時の圧力の平均値、標準偏差、中空糸膜の寸法の算出に使用したデータ個数である。また、「ドロー比」とは、ダイス径に対する紡糸時の中空糸膜の外径の比である。
【0131】
表2に示すように、例1~7の中空糸膜では、ペレットに粉体を配合していない例8と同等の外観であり、外観不良がなかった。また、例9の中空糸膜では、ペレットに粉体を配合していない例11と同等の外観であり、外観不良がなかった。例10の中空糸膜でも、異物感はなく、外観の不良が少なかった。
加えて、例9、10の中空糸膜では、ペレットに粉体を配合していない例11と比較して、曲げ半径Rが小さく、柔軟性が向上していた。
【0132】
表2に示すように、例1~3、例5~7では、例8と比較して水蒸気透過量の標準偏差が小さく、水蒸気透過性能のバラつきが少ない中空糸膜を形成できた。加えて、例1~3、例4、5では、例8と比較して水蒸気透過量が多く、水蒸気透過性能が向上していることが示唆された。
例1~3では、出口露点が供給した空気の大気圧下露点(-9~-8.4℃)より充分に低下しており、実用上充分な水蒸気透過性を具備する中空糸膜を成形できた。
例1、2、4、7では、水圧破壊応力が例8と比較して同等以上であり、強度が充分であった。
例4、6では、引張伸度が例8と比較して同等以上であった。
例1、6では、引張破壊/断面積が例8と比較して同等以上であり、強度が充分であった。
【0133】
表3に示すように、例1、2、5、7では、例8と比較して紡糸時の外径の標準偏差が小さく、内外径のバラつきが少なかった。また、例10では、例11と比較して紡糸時の外径の標準偏差が小さく、内外径のバラつきが少なかった。
また、例1、2、4、5、7では、例8と比較して紡糸時の圧力の標準偏差が小さく、複合粒子を溶融押出機に安定供給でき、良好な結果であった。また、例10では、例11と比較して紡糸時の圧力の標準偏差が小さく、複合粒子を溶融押出機に安定供給でき、良好な結果であった。
【符号の説明】
【0134】
1…固定板、2…可動板、T…中空糸膜、10…水槽、11…継手、12…継手、13…水圧器、14…配管、15…プラグ