(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】サイドハンドル及び作業機
(51)【国際特許分類】
B25F 5/02 20060101AFI20240905BHJP
B25D 17/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B25F5/02
B25D17/04
(21)【出願番号】P 2020125580
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水野 峻汰
(72)【発明者】
【氏名】河合 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】朴木 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】梅本 亮
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102008041003(DE,A1)
【文献】特開2015-139864(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0114345(US,A1)
【文献】特開2019-111166(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051892(WO,A1)
【文献】特開2017-080853(JP,A)
【文献】特開2000-134829(JP,A)
【文献】特開2018-051760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00 - 5/02
B25D 17/04
B24B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が使用することによって振動を生じる作業機に取り付けられるサイドハンドルであって、
前記作業機の振動により発電するよう構成された振動発電素子と、
前記振動発電素子からの出力により電源電圧を生成するよう構成された電源回路と、
前記電源回路にて生成された電源電圧を受けて動作するよう構成された電気回路と、
を備え
ると共に、
前記振動発電素子を少なくとも2つ備え、
前記少なくとも2つの振動発電素子は、最大電力を発生する振動方向が互いに直交するよう配置されることにより、前記作業機の主振動方向の振動を前記直交する2方向の振動に分けて発電するよう構成され、
前記少なくとも2つの振動発電素子は、それぞれ、振動により発生した交流電力を整流して直流電力に変換する整流回路に接続され、
前記整流回路は、互いに直列接続されることで、変換後の直流電力を加算して前記電源回路に出力するよう構成されている、作業機のサイドハンドル。
【請求項2】
使用者が使用することによって振動を生じる作業機に取り付けられるサイドハンドルであって、
前記作業機の振動により発電するよう構成された振動発電素子と、
前記振動発電素子からの出力により電源電圧を生成するよう構成された電源回路と、
前記電源回路にて生成された電源電圧を受けて動作するよう構成された電気回路と、
前記作業機の振動方向の加速度を検出する加速度センサと、
を備え、
前記電気回路は、無線通信機能を有し、前記加速度センサにて検出された加速度を、前記無線通信機能により前記作業機本体若しくは周囲の通信端末に送信するよう構成されている、作業機のサイドハンドル。
【請求項3】
使用者が使用することによって振動を生じる作業機に取り付けられるサイドハンドルであって、
前記作業機の振動により発電するよう構成された振動発電素子と、
前記振動発電素子からの出力により電源電圧を生成するよう構成された電源回路と、
前記電源回路にて生成された電源電圧を受けて動作するよう構成された電気回路と、
作業者が操作可能なスイッチと、
を備え、
前記電気回路は、無線通信機能を有し、前記無線通信機能により、前記スイッチの操作状態を前記作業機本体の制御部に送信するよう構成されている、作業機のサイドハンドル。
【請求項4】
前記サイドハンドルは、前記作業機の本体周囲を締め付け可能な環状の固定部を介して前記作業機に取り付けられ、
前記固定部は、前記サイドハンドルが前記サイドハンドルの中心軸周りに回転することにより前記作業機の本体周囲を締め付けるよう構成されている、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の作業機のサイドハンドル。
【請求項5】
前記固定部は、
前記作業機の本体周囲に配置される締付バンドと、
該締付バンドの両端を連結する連結部と、
該連結部から前記締付バンドとは反対側に延設されて、前記サイドハンドルに対し、前記サイドハンドルの中心軸方向に挿入されるねじ部と、
前記サイドハンドル内に固定され、前記ねじ部と螺合されるナット部と、
前記ねじ部及び前記連結部を囲み、前記締付バンドにて締め付けられる前記作業機の本体周囲に当接されるように、前記作業機と前記サイドハンドルとの間に設けられる受け部と、
を備えている、
請求項4に記載の作業機のサイドハンドル。
【請求項6】
前記締付バンドには、前記作業機の外周面に当接されて、前記固定部が前記作業機の本体周りに回動するのを阻止する凸部が設けられている、
請求項5に記載の作業機のサイドハンドル。
【請求項7】
使用者が使用することによって振動を生じる作業機であって、
本体ハウジングと、
前記本体ハウジングから突出されて、使用者が把持可能なサイドハンドルと、
を備え、前記サイドハンドルは、請求項1~
請求項6の何れか1項に記載のサイドハンドルである、作業機。
【請求項8】
前記本体ハウジングは、
先端工具が取り付けられる出力軸と、
前記出力軸を軸方向に往復動させることで、被加工材を前記先端工具にて打撃させる打撃機構と、
を備え、前記打撃機構の打撃により振動する、
請求項7に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、使用者が使用することによって振動を生じる作業機に取り付けられるサイドハンドル、及び、そのサイドハンドルを備えた作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工材を加工するのに用いられる作業機として、先端工具が取り付けられる出力軸を軸方向に往復動させることで、コンクリート等の被加工材を先端工具にて打撃し、被加工材のハツリ作業を行うことのできるハンマドリルが知られている。
【0003】
この種の作業機には、先端工具を往復動させる打撃機構が設けられており、作業機本体が出力軸の軸方向に大きく振動することから、作業機本体に、作業者が把持するためのサイドハンドルが取り付けられる。
【0004】
一方、特許文献1には、作業機のサイドハンドルに、使用者が操作可能なスイッチを設けて、そのスイッチの操作状態に応じて作業機の動作を制御することが開示されている。
従って、上記ハンマドリル等、使用者が使用することによって振動を生じる作業機においても、サイドハンドルに操作スイッチ等の各種電子部品を組み込むことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された作業機においては、サイドハンドルに設けられたスイッチの操作状態を作業機側で検出できるように、作業機からサイドハンドルへ、同軸コネクタを介して、検出用の電源を供給するようにされている。
【0007】
これは、サイドハンドルの固定軸を作業機本体の固定孔に螺合して装着する装着部分に、同軸コネクタを設けて、サイドハンドルの作業機本体への固定と同時に、サイドハンドルへの電源供給経路を確保できるようにするためである。
【0008】
しかし、このように作業機本体からサイドハンドルへ電源供給を行うようにすると、そのための構成が複雑になり、コストアップを招く。
また、使用者が使用することによって振動を生じる作業機においては、サイドハンドルの作業機本体への装着部分も振動するため、電源供給経路の接触不良や断線等が発生し易くなり、作業機の信頼性が低下することも考えられる。
【0009】
一方、この問題を防止するために、サイドハンドル内に二次電池を設け、この二次電池からサイドハンドル内の電気回路に電力供給し、電気回路から作業機本体に無線通信により検出信号を送信することも考えられる。
【0010】
しかし、このようにするには、サイドハンドルを、二次電池を交換可能で、しかも、二次電池の収容部分の防水性を確保できるように構成する必要があるため、サイドハンドルのコストアップを招く。
【0011】
また、使用者が使用することによって振動を生じる作業機においては、サイドハンドルの二次電池の収容部分も振動するため、その振動により防水性が低下することも考えられる。
【0012】
本開示の一局面は、使用者が使用することによって振動を生じる作業機において、作業機からサイドハンドルに電力供給したり、サイドハンドル内に二次電池を設けたりすることなく、サイドハンドル内の電気回路が動作可能となることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一局面のサイドハンドルは、使用者が使用することによって振動を生じる作業機に取り付けられるサイドハンドルである。
そして、サイドハンドルには、作業機の振動により発電するよう構成された振動発電素子と、振動発電素子からの出力により電源電圧を生成するよう構成された電源回路と、が備えられている。そして、電源回路にて生成された電源電圧は、サイドハンドル内の電気回路に供給される。
【0014】
このため、本開示のサイドハンドルによれば、サイドハンドルに設けられた電気回路を、振動発電素子による発電電力にて動作させることができ、作業機からサイドハンドルに電力供給するための電源供給経路を設けたり、二次電池を設けたりする必要がない。
【0015】
従って、本開示のサイドハンドルによれば、こうした電源供給経路や二次電池を設けた場合に比べて、低コストで実現でき、しかも、振動によって電源供給経路や二次電池の収納部分が故障することがないので、作業機の信頼性を向上することができる。
【0016】
ここで、サイドハンドルは、作業機の主振動方向と、振動発電素子が最大電力を発生する振動方向とが一致するように、作業機に取り付けられていてもよい。
このようにすれば、振動発電素子により、作業機の振動を効率良く電力に変換して、電源回路に供給することができるようになる。従って、電気回路の動作電力を確保するために、振動発電素子に発電可能電力が大きいものを使用する必要がなく、コストを低減することができる。
【0017】
また、この場合、サイドハンドルは、作業機の本体周囲を締め付け可能な環状の固定部を介して作業機に取り付けられ、固定部の環の内周面には、作業機の外周面に当接されて、固定部が環の中心軸周りに回動するのを阻止する凸部が設けられていてもよい。
【0018】
サイドハンドルの固定部をこのように構成すれば、環状の固定部が作業機の本体周囲に締め付け固定される前に、サイドハンドルの作業機からの突出方向を任意に設定することができるようになる。
【0019】
また、固定部を作業機の本体周囲に締め付けることで、固定部の間の内周面に設けられた凸部が作業機の外周面に当接されて、サイドハンドルが作業機に位置決め固定されることになる。
【0020】
よって、作業者は、作業機からのサイドハンドルの突出方向を、サイドハンドルを把持して作業し易い方向に調整することができる。
また次に、サイドハンドルには、少なくとも2つの振動発電素子が設けられていてもよい。
【0021】
そして、この場合、少なくとも2つの振動発電素子は、最大電力を発生する振動方向が互いに直交するよう配置されることにより、作業機の主振動方向の振動を、直交する2方向の振動に分けて発電するよう構成されていてもよい。
【0022】
このように2つの振動発電素子を配置すれば、2つの振動発電素子にて、振動方向が作業機の主振動方向と一致するように1つの振動発電素子をサイドハンドルに固定した場合と略同様の電力を発電することができるようになる。
【0023】
なお、このためには、少なくとも2つの振動発電素子は、それぞれ、振動により発生した交流電力を整流して直流電力に変換する整流回路に接続し、各整流回路を、変換後の直流電力を加算して電源回路に出力できるように、互いに直列接続するとよい。
【0024】
また、この場合、サイドハンドルの中心軸周りの作業機に対する取り付け角度が変化しても、作業機の振動により所望の発電電力が得られることになる。
従って、作業機の本体周囲を締め付け可能な環状の固定部を介して、サイドハンドルを作業機に取り付けるようにした場合に、固定部による作業機の本体周囲の締め付け作業を、サイドハンドルを中心軸周りに回転させることによって行うことができるようになる。
【0025】
この場合、固定部は、締付バンドと、締付バンドの両端を連結する連結部と、連結部から締付バンドとは反対側に延設されたねじ部と、ねじ部と螺合されるナット部と、作業機とサイドハンドルとの間に設けられる受け部と、により構成されていてもよい。
【0026】
そして、ねじ部を、サイドハンドルに対し中心軸方向に挿入し、ナット部を、サイドハンドル内に固定し、受け部を、ねじ部及び連結部を囲み、締付バンドにて締め付けられる作業機の本体周囲に当接されるように、作業機とサイドハンドルとの間に配置する。
【0027】
このように固定部を構成すれば、サイドハンドルを中心軸周りに回転させることで、ねじ部に螺合されたナット部を回転させることができる。そして、サイドハンドルの回転方向によって、ねじ部が延設されている連結部を、締付バンドによる作業機の本体周囲の締付方向、或いは、締付バンドによる締め付けを緩める方向に移動させることができる。
【0028】
従って、サイドハンドルを回転させることにより、固定部を介して、サイドハンドルを作業機にしっかりと固定することができ、しかも、締付バンドの締め付けを緩めることによって、サイドハンドルの作業機からの突出方向を任意に調整できるようになる。
【0029】
次に、サイドハンドル内の電気回路は、無線通信機能を備えているとよい。このようにすれば、電気回路への電力供給だけでなく、サイドハンドル内で得られる情報についても、信号線を利用することなく、作業機本体若しくは周囲の通信端末に送信することができるようになる。
【0030】
なお、サイドハンドルには、作業機の振動方向の加速度を検出する加速度センサが備えられていてもよく、或いは、作業者が操作可能なスイッチが備えられていてもよい。
そして、サイドハンドルに加速度センサが備えられている場合には、電気回路は、加速度センサにて検出された加速度を、無線通信機能により作業機本体若しくは周囲の通信端末に送信するよう構成されていてもよい。
【0031】
電気回路がこのように構成されている場合には、サイドハンドルを把持した作業者が作業機から受ける振動量(つまり暴露量)を、作業機本体若しくは周囲の通信端末に蓄積することができる。
【0032】
また、サイドハンドルにスイッチが備えられている場合には、電気回路は、無線通信機能により、スイッチの操作状態を作業機本体の制御部に送信するよう構成されていてもよい。
【0033】
電気回路がこのように構成されている場合には、作業機本体の制御部にスイッチの操作状態を送信することで、作業機本体の制御部が、スイッチの操作状態に応じて、作業機の制御を切り替えることができるようになる。
【0034】
次に、本開示の他の局面の作業機は、使用者が使用することによって振動を生じる作業機であって、本体ハウジングと、本体ハウジングから突出されて、使用者が把持可能なサイドハンドルと、を備える。
【0035】
そして、このサイドハンドルは、上述した本開示のサイドハンドルにて構成される。従って、本開示の作業機においても、上記と同様の効果を得ることができる。
なお、本体ハウジングは、先端工具が取り付けられる出力軸と、出力軸を軸方向に往復動させることで、被加工材を先端工具にて打撃させる打撃機構と、を備えていてもよい。
【0036】
本体ハウジングがこのように構成された作業機においては、打撃機構の打撃により本体ハウジングが振動することから、その振動により、サイドハンドル内の振動発電素子が発電するようになり、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】第1実施形態のハンマドリルの全体構成を表す斜視図である。
【
図2】ハンマドリルとサイドハンドルの固定部分の構成を表す概略構成図である。
【
図3】サイドハンドル内での振動発電素子の配置状態を説明する説明図である。
【
図4】サイドハンドル内の回路構成を表すブロック図である。
【
図5】サイドハンドル内の回路構成の変形例を表すブロック図である。
【
図6】第2実施形態のサイドハンドルの固定部の外観を表す説明図である。
【
図7】固定部の構成及びサイドハンドル内の2つの振動発電素子の配置を表す説明図である。
【
図8】2つの振動発電素子から電源回路への電力供給経路の構成を表す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
本実施形態のハンマドリル2は、ハンマビット等の先端工具を、長軸方向に打撃動作させたり、長軸周りに回転動作させたりすることで、被加工材(例えば、コンクリート)に対しハツリ作業や穴あけ作業を行うためのものである。
【0039】
図1に示すように、ハンマドリル2は、ハンマドリル2の外郭を形成する本体ハウジング10を主体として構成されている。そして、本体ハウジング10の先端領域には、先端工具4(
図2参照)が、出力軸としての筒状のツールホルダ6を介して、取り外し可能に取り付けられる。
【0040】
先端工具4は、ツールホルダ6のビット挿入孔に挿入され、ツールホルダ6に対して、長軸方向への相対的な往復動が可能で、且つ、長軸方向周りの周方向への相対的な回動が規制された状態で保持される。
【0041】
本体ハウジング10は、モータを収容するモータハウジング12と、ギヤハウジング14と、を主体として構成されている。そして、ギヤハウジング14には、運動変換機構、打撃機構としての打撃要素30(
図2参照)、回転伝達機構、モード切替機構等が設けられている。
【0042】
本体ハウジング10において、先端工具4が取り付けられるツールホルダ6とは反対側には、ハンドグリップ16が連接されている。ハンドグリップ16には、作業者が把持する把持部16Aが形成されている。この把持部16Aは、先端工具4の長軸(換言すればツールホルダ6の中心軸)に交差する方向(
図1の上下方向)に長くなっており、その把持部16Aの一部は、先端工具の長軸の延長線(長軸線)上に位置する。
【0043】
ハンドグリップ16において、把持部16Aの一端側(先端工具4の長軸線に近接した側)は、ギヤハウジング14に連接されており、把持部16Aの他端部(先端工具4の長軸線から離間した側)は、モータハウジング12に連接されている。
【0044】
なお、以下の説明では、説明の便宜上、先端工具4の長軸方向に関して、先端工具4側を前方、ハンドグリップ16側を後方、という。また、先端工具4の長軸方向に直交し、把持部16Aが延在する方向(上下方向)に関して、ハンドグリップ16とギヤハウジング14との連接部側を上方、ハンドグリップ16とモータハウジング12との連接部側を下方、という。
【0045】
また、ツールホルダ6に装着された先端工具4の長軸(換言すれば出力軸としてのツールホルダ6の中心軸)をZ軸、このZ軸に直交する上下方向をY軸、これら各軸に直交する左右方向(換言すれば本体ハウジング10の幅方向)をX軸、とする(
図2参照)。
【0046】
本体ハウジング10には、先端工具4の長軸方向に関して、前方側にギヤハウジング14が配置され、ギヤハウジング14の下方側にモータハウジング12が配置されている。そして、ギヤハウジング14の後方にハンドグリップ16が連結されている。
【0047】
モータハウジング12において、モータは、回転軸が先端工具4の長軸方向に延在する軸線(つまりZ軸)に交差するように配置されており、モータの回転軸は、ハンマドリル2の上下方向に延在する。
【0048】
また、モータハウジング12において、モータの収納領域よりも後方には、ハンマドリル2の電源となる2つのバッテリパック22、24が設けられている。この2つのバッテリパック22、24は、モータハウジング12の下方に設けられたバッテリ装着部20に着脱自在に装着されている。
【0049】
そして、バッテリ装着部20の上方(換言すればハンドグリップ16の下方)には、バッテリパック22、24から電力供給を受けて、モータを駆動制御するためのモータ制御部が設けられている。
【0050】
モータの回転軸の回転は、運動変換機構によって直線運動に変換された上で打撃要素30に伝達され、打撃要素30によって先端工具4の長軸(Z軸)方向の衝撃力が発生される。また、モータの回転軸の回転は、回転伝達機構によって減速された上で先端工具4に伝達され、先端工具4が長軸(Z軸)周りに回転駆動される。なお、モータは、ハンドグリップ16に配置されたトリガ18の引き操作に基づいて駆動される。
【0051】
本実施形態のハンマドリル2は、駆動モードとして、ハンマモード、ハンマドリルモード、及び、ドリルモードを備えている。
ハンマモードにおいては、先端工具4がZ軸方向の打撃動作を行い、被加工材に対し打撃作業が行われる。ハンマドリルモードにおいては、先端工具4がZ軸方向の打撃動作とZ軸周りの回転動作を行う。これにより、被加工材に対してハンマドリル作業が行われる。ドリルモードにおいては、先端工具4は打撃動作を行わず、Z軸周りの回転動作だけを行う。これにより、被加工材に対してドリル作業が行われる。そして、この駆動モードは、モード切替機構によって切り替えられる。
【0052】
なお、運動変換機構、打撃要素30、回転伝達機構等の構成については、例えば、特開2018-58190号公報等に記載されており、公知技術であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0053】
ところで、ハンマモード及びハンマドリルモードでは、ギヤハウジング14内の打撃要素30によって、ツールホルダ6に固定された先端工具4がZ軸方向に往復動して、被加工材を打撃することから、ハンマドリル2はZ軸方向を主振動方向として振動する。
【0054】
また、ハンマドリルモード及びドリルモードでは、ツールホルダ6に固定された先端工具4がZ軸回りに回転することから、先端工具4が被加工材に食い込んだ際に、ハンマドリル2が先端工具4の回転方向とは逆方向に振り回されることがある。
【0055】
このため、ギヤハウジング14において、先端工具4が突出される先端領域の外周部分には、環状の固定部40を介して、サイドハンドル50が取り付けられている。
サイドハンドル50は、ハンドグリップ16と同様、使用者が把持するためのものである。このため、使用者は、左右の手でハンドグリップ16の把持部16Aとサイドハンドル50の把持部50Aを把持することにより、ハンマドリル2をしっかり保持することができる。
【0056】
図2に示すように、固定部40は、環状で環の一部が開口している。そして、その開口された両端部分は、環の外側に屈曲されており、一方の屈曲部41には、ナット44が埋め込まれ、他方の屈曲部42には、ナット44に螺合可能なねじ46が挿通されている。このねじ46は、ナット44に螺合された状態で、使用者が指で締め付けることができるように、ナット44とは反対側が広がっている。
【0057】
また、固定部40の環の内周面には、周方向に所定間隔を空けて複数の凸部48が設けられている。この複数の凸部48は、ギヤハウジング14においてサイドハンドル取付用の外周面を構成するバレル部15に、周方向に所定間隔を空けて設けられた複数の凹部15Aと嵌合可能に構成されている。
【0058】
従って、固定部40は、バレル部15の周囲でZ軸周りに回転させて、所望の回転位置で各凸部48をバレル部15の各凹部15Aに嵌合させ、更に、ねじ46をナット44に締め付けることで、ギヤハウジング14に固定することができる。そして、このように固定された状態では、固定部40は、ハンマドリル2に対し、Z軸周りに回動不能となるよう固定されることになる。
【0059】
また、固定部40において、ねじ46が挿通された屈曲部42の先端には、サイドハンドル50が固定されている。このため、サイドハンドル50をギヤハウジング14に固定する前には、固定部40の環を広げることで、ハンマドリル2からのサイドハンドル50の突出方向を、Z軸周りで任意に設定することができる。
【0060】
つまり、サイドハンドル50は、使用者が把持しやすいように、ハンマドリル2からの突出方向を、
図1に示す下方向から、左右の横方向、或いは上方向へと任意に設定することができる。
【0061】
次に、サイドハンドル50には、
図3に示すように、振動発電素子52が実装された回路基板54が設けられている。
振動発電素子52は、例えば、圧電素子を用いて振動により発電するよう構成されたデバイスであり、振動発電素子52は、回路基板54を介して、最大電力を発生する振動方向がZ軸方向となるように、サイドハンドル50内に固定されている。
【0062】
このため、振動発電素子52の振動方向は、打撃機構としての打撃要素30によるハンマドリル2の主振動方向と一致し、ハンマドリル2がハンマモード及びハンマドリルモードで駆動されているときには、振動発電素子52がハンマドリル2と同方向に振動する。そして、振動発電素子52は、この振動により発電し、振動周期に応じて交流電力を出力する。
【0063】
図4に示すように、振動発電素子52が実装された回路基板54には、蓄電素子56、電源回路58、加速度センサ60、及び無線通信回路62も設けられている。
ここで、蓄電素子56は、振動発電素子52から出力される交流電力を整流してコンデンサを充電することで、コンデンサに直流電力を蓄積するものである。また、電源回路58は、蓄電素子56に蓄電された直流電力にて、加速度センサ及び無線通信回路62を駆動するための電源電圧(直流定電圧)を生成し、これら各部に供給するものである。
【0064】
加速度センサ60は、回路基板54に固定され、加速度を検出する。そして、無線通信回路62は、加速度センサ60にて検出された加速度を、予め設定された送信先にアンテナ64を介して無線送信することで、取得した加速度情報を送信先に蓄積させる。
【0065】
なお、無線通信回路62からの送信先には、スマートフォン等の周囲の通信端末70や、ハンマドリル2のモータ制御部26に設けられた無線通信回路72、等を設定可能である。
【0066】
そして、例えば、モータ制御部26に設けられた無線通信回路72は、アンテナ74を介して、サイドハンドル50からの送信信号を受信すると、その受信信号をモータ制御部26内のMCU76に出力する。
【0067】
すると、MCU76は、受信信号から、サイドハンドル50における振動の暴露量を演算し、メモリ77に記憶する。この結果、メモリ77には、サイドハンドル50を把持した使用者による振動の暴露量が蓄積され、管理者は、メモリ77に記憶された暴露量を確認することで、作業者を振動障害から保護することができるようになる。
【0068】
また、無線通信回路62からの送信先にスマートフォン等の通信端末70が設定されている場合には、通信端末70側、或いは、通信端末70の上位サーバ側で、作業者の振動暴露量を監視し、安全対策を行うことができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態のサイドハンドル50には、ハンマドリル2の振動により発電する振動発電素子52と、振動発電素子52からの出力により電源電圧を生成する電源回路58が設けられている。そして、サイドハンドル50に設けられた電気回路としての加速度センサ60及び無線通信回路62は、電源回路58にて生成された電源電圧を受けて動作する。
【0070】
このため、加速度センサ60や無線通信回路62を動作させるために、ハンマドリル2の本体側からサイドハンドル50に電力供給するための電源線を設けたり、二次電池を設けたりする必要がない。よって、ハンマドリル2の振動によって、電源線が断線したり、二次電池の収納部分が故障したりすることがなく、ハンマドリル2の信頼性を高めることができる。
【0071】
また、サイドハンドル50は、ギヤハウジング14のバレル部15周囲を、ねじ46を用いて締め付け可能な環状の固定部40を介して、ハンマドリル2に取り付けられている。このため、サイドハンドル50は、ハンマドリル2からの突出方向は変更できるものの、サイドハンドル50の中心軸周りに回転することはできず、振動発電素子52が最大電力を発生する振動方向が、サイドハンドル50の回転により変化することはない。
【0072】
そして、振動発電素子52は、最大電力を発生する振動方向が、打撃要素30によるハンマドリル2の主振動方向と一致するように、サイドハンドル50内に設けられているので、ハンマドリル2の振動を効率よく電力に変換することができる。このため、加速度センサ60や無線通信回路62の動作電力を確保するために、振動発電素子52に発電可能電力が大きいものを使用する必要がなく、コストを低減することができる。
[変形例]
上記実施形態では、サイドハンドル50には、電源回路58から電力供給を受けて動作する電気回路として、加速度センサ60及び無線通信回路62が設けられるものとして説明した。
【0073】
これに対し、サイドハンドル50には、
図5に示すように、電気回路として、作業者が操作可能なスイッチ68と、無線通信回路62が設けられていてもよい。そして、この場合、無線通信回路62は、スイッチ68の操作状態を、ハンマドリル2のモータ制御部26に送信するようにするとよい。
【0074】
つまり、モータ制御部26において、MCU76は、例えば、ゲート駆動回路78及びインバータ79を介して、モータハウジング12内のモータ(ブラシレスモータ)13を駆動するよう構成される。この場合、無線通信回路62から、モータ制御部26の無線通信回路72にスイッチの操作状態を送信するようにすれば、MCU76に対し、スイッチ68の操作状態に応じて、モータ13の駆動を制御させることができるようになる。
【0075】
また、上記実施形態では、振動発電素子52は、一つであるものとして説明したが、サイドハンドル50内の電気回路の動作電力を確保するために、複数の振動発電素子52を設けるようにしてもよい。
【0076】
この場合、複数の振動発電素子52は、それぞれ、最大電力を発生する振動方向がハンマドリル2の主振動方向と一致するように配置する。そして、各振動発電素子52からの出力をそれぞれ蓄電素子56に蓄積して、その蓄積した電力を合成して電源回路58に入力するようにするとよい。
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について説明する。
【0077】
本実施形態のサイドハンドル50は、第1実施形態と同様、ハンマドリル2に装着して使用されるものであり、第1実施形態とは、ハンマドリル2のバレル部15に固定するための固定部80の構成、及び、振動発電素子52の数と配置、が異なる。
【0078】
図6に示すように、本実施形態の固定部80は、ハンマドリル2のバレル部15周囲に巻き付けられて、バレル部15を締め付けるための締付バンド82と、バレル部15とサイドハンドル50との間に設けられる受け部84とを備える。
【0079】
受け部84は、締付バンド82がバレル部15に締め付けられることにより、バレル部15に当接されて、サイドハンドル50をハンマドリル2に固定するためのものであり、バレル部15の外周面に当接される面には、複数の凸部85が設けられている。
【0080】
この凸部85は、第1実施形態の固定部40に設けられた凸部48と同様、バレル部15に設けられた凹部15Aに嵌合して、サイドハンドル50のハンマドリル2からの突出方向を規定するためのものである。
【0081】
なお、
図6において、左側の図面は、ハンマドリル2に取り付けられたサイドハンドル50をZ軸に直交する方向からみた側面図であり、右側の図面は、サイドハンドル50をZ軸方向からみた正面図である。
【0082】
次に、受け部84は、
図7に示すように、中空形状であり、バレル部15の外周面に当接される面の周方向両端側が開口している。そして、その両端の開口からは、バレル部15の周囲に巻き付けられた締付バンド82の両端が中空の内部空間に引き込まれている。
【0083】
また、受け部84の内部空間では、締付バンド82の両端が、連結部86にて連結されている。そして、連結部86には、締付バンド82とは反対側(つまり、サイドハンドル50側)に延設されたねじ部88が設けられている。
【0084】
ねじ部88は、棒状で、周囲にねじ山が形成されている。そして、ねじ部88は、受け部84及びサイドハンドル50に設けられた挿通孔を通って、サイドハンドル50の内部空間に、サイドハンドル50の中心軸P方向に挿入されている。
【0085】
一方、サイドハンドル50の内部空間には、その挿入されたねじ部88に螺合可能なナット部90が一体的に設けられている。
従って、本実施形態の固定部80によれば、受け部84に対し、サイドハンドル50を、その中心軸P周りに回動させることにより、ナット部90をねじ部88の中心軸方向に移動させることができる。
【0086】
そして、ナット部90の移動により、締付バンド82の両端がサイドハンドル50側に引っ張られて、締付バンド82がバレル部15に締め付けられるか、或いは、締付バンド82によるバレル部15の締め付けが緩められる。
【0087】
このため、本実施形態のサイドハンドル50は、中心軸P周りに回転させることで、サイドハンドル50をハンマドリル2に固定することができる。また、サイドハンドル50を締め付け時とは逆方向に回転させれば、締付バンド82による締め付けを緩めて、サイドハンドル50のハンマドリル2からの突出方向を調整することができる。
【0088】
ところで、固定部80を上記のように構成した場合、サイドハンドル50をハンマドリル2に固定したときの、サイドハンドル50の中心軸P周りの回転角度は、
図7の右側に示すように、ハンマドリル2の主振動方向となるZ軸に対し変化する。
【0089】
このため、本実施形態のサイドハンドル50は、第1実施形態のように、把持部50Aの内部に設けられる振動発電素子52の振動方向を、ハンマドリル2の主振動方向と一致させることができない。
【0090】
そこで、本実施形態では、サイドハンドル50の把持部50A内に、2つの振動発電素子52A,52Bが設けられている。そして、この2つの振動発電素子52A,52Bは、最大電力を発生する振動方向が、サイドハンドル50の中心軸P周りで、互いに直交するように配置されている。
【0091】
この結果、振動発電素子52A,52Bは、ハンマドリル2の主振動方向の振動を、直交する2方向の振動に分けて発電することができるようになる。従って、例えば、振動発電素子52A,52Bを、第1実施形態の振動発電素子52と同じ仕様にすれば、ハンマドリル2の振動により2つの振動発電素子52A,52Bから出力される電力の総和は、第1実施形態の振動発電素子52からの出力と略同様になる。
【0092】
よって、本実施形態のサイドハンドル50において、ハンマドリル2へ固定された際の中心軸P周りの回転角度が変化しても、サイドハンドル50内の電気回路を動作させるのに要する電力を安定して得ることができるようになる。
【0093】
なお、このように安定した電力を得るために、2つの振動発電素子52A,52Bから電源回路58への電力供給経路は、
図8に示すように構成されている。
図8に示すように、振動発電素子52A,52Bからの出力は、4つのダイオードにて構成された全波整流回路53A,53Bにて全波整流される。そして、その全波整流された直流電力は、蓄電素子を構成するコンデンサ56A,56Bにそれぞれ出力されて、各コンデンサ56A,56Bが充電される。
【0094】
また、全波整流回路53A,53B及びコンデンサ56A,56Bは、直流電力を加算して電源回路に出力できるように、互いに直列接続されている。
つまり、全波整流回路53A及びコンデンサ56Aの負極側端子と、全波整流回路53B及びコンデンサ56Bの正極側端子とが接続され、電源回路58には、コンデンサ56Aの正極側端子とコンデンサ56Bの負極側端子との間の直流電圧が供給される。
【0095】
この結果、電源回路58には、各振動発電素子52A,52Bにて発電された電力を合成した電力が供給されることになり、電源回路58は、ハンマドリル2の振動に応じて電源電圧を生成することができるようになる。
[他の実施形態]
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0096】
例えば、上記実施形態では、作業機として、駆動モードをハンマモード、ハンマドリルモード、及び、ドリルモードの何れかに切り替え可能なハンマドリル2を例にとり説明した。しかし、本開示は、使用者が使用することによって振動を生じる作業機であれば、適用することができる。
【0097】
つまり、本開示のサイドハンドルは、出力軸を回転させる機能を備えておらず、打撃要素30等の打撃機構だけを備えた作業機であっても、上記実施形態と同様に適用することができる。また、動力源としてエンジンを備えた作業機や、エア釘打ち機のように、ピストン運動により振動する作業機であっても、或いは、レシプロ機構により切断若しくは研磨用の先端工具を往復動させる作業機であっても、上記実施形態と同様に適用することができる。
【0098】
また、上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【符号の説明】
【0099】
2…ハンマドリル、30…打撃要素、50…サイドハンドル、52…振動発電素子、58…電源回路、60…加速度センサ、62…無線通信回路、68…スイッチ。