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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】非接触給電システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20240905BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20240905BHJP
【FI】
H02J50/12
H02J50/40
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020147660
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042294
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆男
(72)【発明者】
【氏名】岡野 靖久
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-179721(JP,A)
【文献】特開2017-220990(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0256988(US,A1)
【文献】特表2011-525099(JP,A)
【文献】特開平04-346278(JP,A)
【文献】特表2009-542177(JP,A)
【文献】特開2011-199975(JP,A)
【文献】特開2011-142708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/12
H02J 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー波を外部に送電する送電部を有する送電装置と、
前記送電部から供給される前記エネルギー波を非接触で受電し、前記エネルギー波を電気エネルギーに変換する受電部を有する受電装置と、を備え、
前記送電部が、第1固有周波数で弾性波振動する送電側振動子を少なくとも1つ有し、
前記受電部が、前記送電側振動子の前記弾性波振動により発生する前記エネルギー波によって誘起されて、第2固有周波数で弾性波振動する受電側振動子を、少なくとも1つ有し、
前記送電側振動子が、圧電体層と磁歪層とを有し、
前記受電側振動子が、圧電体層と磁歪層とを有する給電システム。
【請求項2】
前記送電側振動子の前記圧電体層と、前記受電側振動子の前記圧電体層とが、実質的に同一の材質で構成してあり、
前記送電側振動子の前記磁歪層と、前記受電側振動子の前記磁歪層とが、実質的に同一の材質で構成してある請求項1に記載の給電システム。
【請求項3】
エネルギー波を外部に送電する送電部を有する送電装置と、
前記送電部から供給される前記エネルギー波を非接触で受電し、前記エネルギー波を電気エネルギーに変換する受電部を有する受電装置と、を備え、
前記送電部が、第1固有周波数で弾性波振動する送電側振動子を少なくとも1つ有し、
前記受電部が、前記送電側振動子の前記弾性波振動により発生する前記エネルギー波によって誘起されて、第2固有周波数で弾性波振動する受電側振動子を、少なくとも1つ有し、
前記送電側振動子の前記弾性波振動、および、前記受電側振動子の前記弾性波振動が、いずれも、バルク弾性波振動である給電システム。
【請求項4】
エネルギー波を外部に送電する送電部を有する送電装置と、
前記送電部から供給される前記エネルギー波を非接触で受電し、前記エネルギー波を電気エネルギーに変換する受電部を有する受電装置と、を備え、
前記送電部が、第1固有周波数で弾性波振動する送電側振動子を少なくとも1つ有し、
前記受電部が、前記送電側振動子の前記弾性波振動により発生する前記エネルギー波によって誘起されて、第2固有周波数で弾性波振動する受電側振動子を、少なくとも1つ有し、
前記送電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態、および、前記受電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態が、いずれも、面内伸縮振動である給電システム。
【請求項5】
前記受電側振動子が有する前記第2固有周波数が、前記送電側振動子が有する前記第1固有周波数と実質的に同一である、請求項1~4のいずれかに記載の給電システム。
【請求項6】
前記送電部は、前記送電側振動子を複数有する送電用アンテナ素子を有する請求項1~のいずれかに記載の給電システム。
【請求項7】
前記送電装置は、前記送電部から送電する前記エネルギー波の指向性を制御する指向性制御手段を有する請求項1~のいずれかに記載の給電システム。
【請求項8】
前記送電装置は、前記指向性制御手段として、前記送電部の位相を制御する移相器を有する請求項に記載の給電システム。
【請求項9】
前記受電部は、前記受電側振動子を複数有する受電用アンテナ素子を有する請求項1~8のいずれかに記載の給電システム。
【請求項10】
前記送電側振動子の前記弾性波振動、および、前記受電側振動子の前記弾性波振動が、いずれも、バルク弾性波振動である請求項1、2または4のいずれかに記載の給電システム。
【請求項11】
前記送電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態、および、前記受電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態が、いずれも、面内伸縮振動である請求項1または2に記載の給電システム。
【請求項12】
前記送電部から送電される前記エネルギー波が、電磁波または交流磁場である請求項1~11のいずれかに記載の給電システム。
【請求項13】
前記受電装置が、移動体に装着してある電子機器の内部に存在する請求項1~12のいずれかに記載の給電システム。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の給電システムに適用される送電装置。
【請求項15】
請求項1~13のいずれかに記載の給電システムに適用される受電装置。
【請求項16】
エネルギー波を外部に送電する送電部を有し、
前記送電部が、固有周波数で弾性波振動する送電側振動子を少なくとも1つ有し、
前記送電側振動子が、圧電体層と磁歪層とを有する送電装置。
【請求項17】
エネルギー波を電気エネルギーに変換する受電部を有し、
前記受電部が、前記エネルギー波によって誘起されて、固有周波数で弾性波振動する受電側振動子を、少なくとも1つ有し、
前記受電側振動子が、圧電体層と磁歪層とを有する受電装置。
【請求項18】
エネルギー波を外部に送電する送電部を有し、
前記送電部が、固有周波数で弾性波振動する送電側振動子を少なくとも1つ有し、
前記送電側振動子の前記弾性波振動がバルク弾性波振動である送電装置。
【請求項19】
エネルギー波を電気エネルギーに変換する受電部を有し、
前記受電部が、前記エネルギー波によって誘起されて、固有周波数で弾性波振動する受電側振動子を、少なくとも1つ有し、
前記受電側振動子の前記弾性波振動がバルク弾性波振動である受電装置。
【請求項20】
エネルギー波を外部に送電する送電部を有し、
前記送電部が、固有周波数で弾性波振動する送電側振動子を少なくとも1つ有し、
前記送電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態が面内伸縮振動である送電装置。
【請求項21】
エネルギー波を電気エネルギーに変換する受電部を有し、
前記受電部が、前記エネルギー波によって誘起されて、固有周波数で弾性波振動する受電側振動子を、少なくとも1つ有し、
前記受電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態が面内伸縮振動である受電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤレスで電力の伝送が可能な非接触型の給電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非接触型の給電システムとして、特許文献1で開示されているような電磁誘導を利用した方式が知られている。電磁誘導方式は、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいており、電圧を印加した1次側コイル(送電コイル)に、2次側コイル(受電コイル)を近接させることで、2次側コイルに電力を発生させることができる。この電磁誘導方式の給電システムは、構造が簡素で、かつ、低コストで製造が可能である。そのため、電磁誘導方式の給電システムは、近年、電気シェーバやスマートフォンなどの各種電子機器への充電や、電気自動車への給電など、様々な分野で普及しつつある。
【0003】
ただし、電磁誘導方式の場合、電力の伝送が可能な距離が数cm程度で、非接触とはいえ、近距離給電にしか適さない。また、電力の伝送にあたって、2次側コイルを、1次側コイルに対して正確な位置で静置しておく必要がある。そのため、電磁誘導方式の給電システムは、移動体への給電や、移動体に設置してある機器等への給電に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-093429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、移動体または移動体に設置してある機器等に非接触で給電が可能な給電システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る給電システムは、
エネルギー波を外部に送電する送電部を有する送電装置と、
前記送電部から供給される前記エネルギー波を非接触で受電し、前記エネルギー波を電気エネルギーに変換する受電部を有する受電装置と、を備え、
前記送電部が、第1固有周波数で弾性波振動する送電側振動子を少なくとも1つ有し、
前記受電部が、前記送電側振動子の前記弾性波振動により発生する前記エネルギー波によって誘起されて、第2固有周波数で弾性波振動する受電側振動子を、少なくとも1つ有する。
【0007】
上記の本発明に係る給電システムは、送電部と受電部との間で起きる弾性波振動の共振により、非接触で電力を伝送する機構となっている。この弾性波振動の共振を利用した給電システムでは、中長距離(至近距離~数m程度)での電力伝送が可能である。そのため、本発明に係る給電システムは、移動体への給電、および、移動体に設置した機器等への給電に好適に用いることができる。
【0008】
また、本発明に係る給電システムにおいて、エネルギー波を受電部に供給する最小単位である送電側振動子は、1mm四方以下のサイズとすることが可能である。同様に、送電部から供給されるエネルギー波を電気エネルギーに変換する最小単位である受電側振動子も、1mm四方以下のサイズとすることが可能である。そのため、本発明に係る給電システムでは、送電装置および受電装置を小型化することが容易であり、これらを小型化したとしても中長距離での電力伝送を実現することができる。
【0009】
また、上記において、送電部から供給するエネルギー波は、電磁波または交流磁場とすることができる。
【0010】
好ましくは、前記受電側振動子が有する前記第2固有周波数が、前記送電側振動子が有する前記第1固有周波数と実質的に同一である。このように、送電側振動子の固有周波数と、受電側振動子の固有周波数とを合わせることで、電力伝送の効率を向上させることができる。
【0011】
好ましくは、前記送電側振動子が、圧電体層と磁歪層とを有し、前記受電側振動子が、圧電体層と磁歪層とを有する。そして、好ましくは、前記送電側振動子の前記圧電体層と、前記受電側振動子の前記圧電体層とが、実質的に同一の材質で構成してあり、前記送電側振動子の前記磁歪層と、前記受電側振動子の前記磁歪層とが、実質的に同一の材質で構成してある。
【0012】
好ましくは、前記送電部は、前記送電側振動子を複数有する送電用アンテナ素子を含む。複数の送電側振動子が存在することで、送電部から受電部に送電する電力をより大きくすることができる。また、好ましくは、前記受電部は、前記受電側振動子を複数有する受電用アンテナ素子を有する。複数の受電側振動子が存在することで、受電部で発生する出力電力をより大きくすることができる。たとえば、上記の受電用アンテナ素子において、複数の受電側振動子を直列に配列した場合には、出力電流を大きくすることができる。一方、上記の受電用アンテナ素子において、複数の受電側振動子を並列に配列した場合には、出力電圧を高くすることができる。
【0013】
また、本発明に係る給電システムでは、上記のとおり、サイズが極微小な振動子(送電側振動子および受電側振動子)の個数を調整することで、伝送電力の大きさを調整することが可能である。換言すると、本発明に係る給電システムでは、受電部や送電部を複雑化したり大型化したりすることなく、極微小な振動子の個数によって伝送電力を容易に大きくすることができる。
【0014】
好ましくは、前記送電装置は、前記送電部から送電する前記エネルギー波の指向性を制御する指向性制御手段を有する。指向性制御手段によりエネルギー波の指向性を制御することで、電力伝送の効率をより向上させることができる。
また、好ましくは、前記送電装置は、前記指向性制御手段として、前記送電部の位相を制御する移相器を有する。送電装置が上記の構成を有する場合、本発明に係る給電システムでは、移相器を用いたビームフォーミングにより、エネルギー波の指向性をより効果的に制御することができ、電力伝送の効率をさらに向上させることができる。
【0015】
好ましくは、前記送電側振動子の前記弾性波振動、および、前記受電側振動子の前記弾性波振動が、いずれも、バルク弾性波である。
また、好ましくは、前記送電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態、および、前記受電側振動子における前記弾性波振動の振動姿態が、いずれも、面内伸縮振動である。
各振動子(送電側振動子および受電側振動子)が上記のような振動様態を有することで、電力伝送の効率をより向上させることができる。
【0016】
本発明に係る給電システムでは、給電対象物に組み込む受電装置を容易に小型化することができる。そのため、本発明に係る給電システムは、人体(移動体の一種)に装着するようなウェアラブル端末への給電や、人体の内部に装着される電子機器等に対する給電に、特に好適に用いることができる。本発明の受電装置を組み込む電子機器としては、たとえば、イヤホンや補聴器などのヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、ウェアラブル体温計、ウェアラブル脈波センサなどの各種ウェアラブル端末の他、人体の内部に装着される人口内耳や心臓ペースメーカ、筋肉や脳などへの電気刺激機器、ニューロRFID、マイクロロボットなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る給電システムを示すブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施形態における指向性制御手段を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の一実施形態におけるアンテナ素子を示す概略平面図である。
図4図4は、図3に示す領域IVを拡大した平面図である。
図5図5は、図4に示すV-V線に沿う断面図である。
図6図6は、図4に示すVI-VI線に沿う断面図である。
図7図7は、振動子の周波数特性を概略的に示すグラフである。
図8図8は、図1に示す給電システムの使用形態を示す概略図である。
図9図9は、振動子の変形例を示す平面図である。
図10図10は、振動子の変形例を示す平面図である。
図11図11は、振動子の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0019】
第1実施形態
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る給電システム1000は、送電装置300と、給電対象物である電子機器200と、当該電子機器の内部に搭載してある受電装置100と、を有する。送電装置300は、電子機器200から離間した場所に設置してあり、エネルギー波Eを外部に送電する送電部310が、送電装置300の内部に搭載してある。一方、受電創始100の内部には、受電部110が搭載してあり、この受電部110が、送電部310から供給されるエネルギー波Eを非接触で受電し、エネルギー波Eを電気エネルギーに変換する。
【0020】
本実施形態の給電システム1000では、上記の送電部310と受電部110との間で起きる弾性波振動の共振により、給電対象物である電子機器200に非接触で電力を伝送する機構となっている。以下、給電システム1000の各構成要素について説明する。
【0021】
送電装置300は、送電部310の他に、電源320を有しており、この電源320が、送電部310に対して、エネルギー波Eの放射に必要な電力を供給している。電源320は、マンガン乾電池やニッケルマンガン乾電池などの1次電池であってもよいが、Ni水素電池、リチウムイオン電池、全個体電池などの充電可能な二次電池であることが好ましい。
【0022】
図1に示すように、送電装置300の送電部310は、少なくとも1つの送電用アンテナ素子10aで構成してある。この送電用アンテナ素子10aは、平面視形状が略矩形である板形状を有している。ただし、送電用アンテナ素子10aの形状は、特に限定されず、円形や楕円形、その他多角形の平面視形状を有していてもよい。
【0023】
図1では、送電部310に複数の送電用アンテナ素子10aが存在しており、複数の送電用アンテナ素子10aが、同一平面上において2つの平面軸方向に沿って配列してある。ただし、送電用アンテナ素子10aの配列方式は、図1に示す様態に限定されず、複数の送電用アンテナ素子10aが、同一平面上において1つの平面軸方向に沿って配列してあってもよく、送電用アンテナ素子10aの厚み方向に沿って積層するように配列してあってもよい。なお、前述のとおり、送電部310を構成する送電用アンテナ素子10aは、単数であってもよく、素子10aの個数は特に限定されない。
【0024】
図3に示すように、送電用アンテナ素子10aは、基板6と、基板6の上に形成してある複数の送電側振動子4aとを有している。基板6は、X軸およびY軸を含む平面を有しており、基板6には、同一平面上(X-Y平面上)に複数の開口部61が形成してある。そして、各開口部61の上方に送電側振動子4aが形成してある。より具体的に、開口部61は、基板6の厚み方向(Z軸方向)に沿って基板6を貫通する穴であり、略矩形の平面視形状を有する。そして、送電側振動子4aは、開口部61の上方において、開口部61のX軸方向の両端を架け渡すようにして存在している。なお、図3において、X軸、Y軸、およびZ軸は、相互に略垂直である。
【0025】
また、基板6には、電源320と接続可能な電極8,9と、当該電極8,9と各送電側振動子4aとを繋ぐ配線80,90と、が形成してある。そして、図3に示す送電用アンテナ素子10aでは、複数の送電側振動子4aが、配線80,90を介して並列に接続してある。なお、複数の送電側振動子4aは、直列で配線することもできる。ただし、送電用アンテナ素子10aにおいては、各送電側振動子4aに印可する電圧を等しくするため、複数の送電側振動子4aを、並列で繋ぐことが好ましい。
【0026】
また、図3では、送電用アンテナ素子10aにおいて送電側振動子4aが複数存在する場合を例示しているが、1つの送電用アンテナ素子10aに含まれる送電側振動子4aの数は、単数であってもよく、特に限定されない。
【0027】
なお、送電部310において、送電側振動子4aの総数は、1つの送電用アンテナ素子10aに含まれる振動子4aの数、および、送電用アンテナ素子10aの数に依存する。本実施形態の図1および図3では、送電部310に複数の送電側振動子4aが存在するが、送電部310には、少なくとも1つの送電側振動子4aが含まれていればよい。送電側振動子4aは、受電部110に供給するエネルギー波Eを発生させる最小単位であり、送電側振動子4aの数を増やすほど、送電部310から受電部110に送電する電力量を増やすことができる。
【0028】
図4は、図3における領域IVを拡大した要部平面図であって、送電側振動子4aの平面図である。図4に示すように、送電側振動子4aは、X軸方向の略中央で開口部61の開口面の上方に位置している振動部41と、X軸方向の両端に位置する2つの固定部42a,42bと、振動部41と固定部42a,42bとを連結する2つの支持部43と、を有する。
【0029】
そして、図4~6に示すように、送電側振動子4aの振動部41には、機能膜として、圧電特性を有する圧電体層14と、磁歪特性を有する磁歪層16とが含まれている。この圧電体層14および磁歪層16は、X軸およびY軸を含むX-Y平面と実質的に平行であり、X-Y平面と略垂直な方向(すなわちZ軸方向)に沿って積層してある。なお、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行でない部分を有していてもよいことを意味し、圧電体層14と磁歪層16とは、多少、凹凸があったり、傾いていたりしてもよいという趣旨である。
【0030】
本実施形態において、送電側振動子4a(特に振動部41)は、固有周波数Ftを有する弾性波振動子である。電源320から電気信号が供給されて、送電側振動子4aに電圧が印加されると、送電側振動子4aの圧電体層14では、逆圧電効果により歪みが発生する。送電側振動子4aの振動部41では、この圧電体層14の歪みに応じて、固有周波数Ftの弾性波振動が誘起される。
【0031】
一方、送電側振動子4aの磁歪層16では、弾性波振動によって逆磁歪効果が発現する。送電側振動子4aでは、この磁歪層16の逆磁歪効果により、電磁波または交流磁場が発生し、この電磁波または交流磁場が、エネルギー波Eとして、受電装置100に放射される。つまり、送電側振動子4aは、圧電体層14の逆圧電効果、および、磁歪層16の逆磁歪効果に基づいて、電源320から供給される電気エネルギーを、電磁波または交流磁場などのエネルギー波Eに変換する。
【0032】
なお、上記において、振動子が有する固有周波数とは、応答出力が最大となる場合の周波数である。送電側振動子4aの場合、「応答出力」とは、放射するエネルギー波Eの振幅を意味し、後述する受電側振動子4bの場合、「応答出力」とは、出力電力を意味する。
【0033】
本実施形態において、送電部310には、複数の送電側振動子4aが含まれ得るが、この場合、各送電側振動子4aの固有周波数Ftは、全て同程度の値であることが好ましい。具体的に、各送電側振動子4aの固有周波数Ftのばらつきは、±1%未満であることが好ましい。「固有周波数Ftのばらつき」とは、固有周波数Ftの平均値を基準とした場合の偏差を意味している。つまり、固有周波数Ftの平均値をFtとすると、各送電側振動子4aの固有周波数Ftは、それぞれ、Ft±1%未満の範囲内であることが好ましい。なお、複数の送電側振動子4aにおいて、固有周波数Ftを一致させるためには、たとえば、各送電側振動子4aの形状を揃えて、寸法誤差を小さくすればよい。
【0034】
このように、各送電側振動子4aの固有周波数Ftを揃えることで、放射するエネルギー波Eの振幅を大きくすることができ、送電部310から受電部110に送電する電力量を増やすことができる。
【0035】
上記のとおり、電力伝送効率を鑑みると、複数の送電側振動子4aの固有周波数Ftは、揃えておくことが好ましい。ただし、固有周波数Ftが異なる複数の送電側振動子4aで、送電部310を構成してもよい。この場合、単一の送電用アンテナ素子10aでは固有周波数Ftを一致させておいて、複数の送電用アンテナ素子10aの間で異なる固有周波数Ftを設定しておくことが考えられる。また、単一の送電用アンテナ素子10aにおいて、異なる固有周波数Ftを有する送電側振動子4aが存在する場合も考えられる。たとえば、送電部310において、固有周波数Ft1の振動子群と、固有周波数Ft2の振動子群とが存在する場合、このような送電装置は、固有周波数が異なる2種の給電対象物に対して電力の送電が可能となる。
【0036】
また、本実施形態において、送電装置300は、送電部310から供給するエネルギー波Eの指向性を制御する指向性制御手段を有していることが好ましい。この指向性制御手段とは、送電用アンテナ素子10aから供給される電磁波または交流磁場などのエネルギー波Eを、特定の方向に(すなわち、給電対象物である電子機器200が存在する方向に)、集中的に放射するための手段である。送電側振動子4aで発生したエネルギー波Eは、通常、全方位に放射されるため、放射されたエネルギー波Eの一部は、送電の過程で損失する。上記の指向性制御手段により特定方向に集中的にエネルギー波Eを送電することで、送電過程でのエネルギー波Eの損失が抑えられ、電力伝送効率が向上する。また、より遠くまでエネルギー波Eを放射することが可能となり、伝送可能距離を延ばすことができる。
【0037】
指向性制御手段としては、たとえば、送電用アンテナ素子10aの向きを調整する方法がある。送電側振動子4aで発生する電磁波または交流磁場は、全方位に放射されるが、特に、振動部41の平面方向と直行する方向(Z軸方向)において、最も電束密度や磁束密度が高くなる傾向となる。そのため、送電用アンテナ素子10aの平面(図3におけるX-Y平面)を、給電対象物の方向に向けることで、電磁波または交流磁場の指向性を高めることができる。なお、送電用アンテナ素子10aの向きは、単純に送電装置300の設置位置を調整することで制御可能である。また、位置情報探索手段によって給電対象物の位置を把握したうえで、電動で送電用アンテナ素子10aの向きを変更することも可能である。
【0038】
また、指向性制御手段としては、図2に示すようなビームフォーミング方式の指向性制御手段330が挙げられる。このビームフォーミング方式の指向性制御手段330では、電源320と各送電用アンテナ素子10aとの間の回路に、移相器331を介在させており、この移相器331により、送電用アンテナ素子10aから送電されるエネルギー波Eの位相を調整する。つまり、指向性制御手段330では、各送電用アンテナ素子10aの間に位相差を生じさせ、特定の方向においてのみ位相が強め合うように、各送電用アンテナ素子10aに入力する信号を調整している。
【0039】
また、指向性制御手段330において、電源320と各移相器331との間の回路には、各移相器331を管理する制御回路332が組み込まれていてもよい。さらにこの制御回路332には、給電対象物の位置情報を把握するための位置情報探査手段(たとえば、給電対象物に対して試験信号を送る手段など)が組み込まれていてもよい。また、制御回路332と各送電用アンテナ素子10aとの間の回路には、移相器331の他に、エネルギー波Eの振幅を増幅させるためのパワーアンプなどの振幅制御手段333が介在してあってもよい。
【0040】
次に、受電装置100について説明する。受電装置100は、受電部110と、整流回路などが搭載してあるパワーマネジメントIC(PMIC)120と、キャパシタ130と、を接続して一体化することで構成してある。なお、受電装置100には、上記以外に、補助電源として、リチウムポリマー電池や全個体電池などの小型な二次電池が搭載されていてもよい。
【0041】
上記の構成を有する受電装置100では、受電部110がエネルギー波Eを非接触で受電し、当該エネルギー波Eを電気エネルギーに変換すると、変換した電気エネルギーが、PMIC120を介してキャパシタ130に送られ、キャパシタ130に蓄えられる。そして、キャパシタ130に蓄積された電気エネルギーは、キャパシタ130からPMIC120を介して電子機器200の構成要素210に送られ、各構成要素210で消費される。なお、電子機器200の構成要素210とは、電気エネルギーを消費して電子機器200の駆動に寄与する部品である。たとえば、電子機器200が外耳装着式のカナル型イヤホンである場合、圧電式スピーカ、圧電式マイク、圧力センサ、増幅器を含む音響用IC、および記憶装置などが、構成要素210に該当する。
【0042】
図1に示すように、受電装置100の受電部110は、少なくとも1つの受電用アンテナ素子10bで構成してある。この受電用アンテナ素子10bも、送電用アンテナ素子10aと同様に、平面視形状が略矩形である板形状を有している。ただし、受電用アンテナ素子10bの形状は、上記に限定されない。また、図1では、受電部110に複数の受電用アンテナ素子10bが存在しているが、受電用アンテナ素子10bは、単数であってもよく、その個数は特に限定されない。さらに、受電用アンテナ素子10bが複数存在する場合、その配列方法も、特に限定されず、同一平面上に配列してもよいし、素子の厚み方向に沿って積層するように配列してもよい。
【0043】
本実施形態において、受電用アンテナ素子10bは、送電用アンテナ素子10aと異なる形態とすることも可能であるが、送電用アンテナ素子10aと同様の形態を有するアンテナ素子を用いることが好ましい。送電用アンテナ素子10aと、受電用アンテナ素子10bとを、同一形態のアンテナ素子で構成することで、後述する固有周波数の調整が容易となる。本実施形態では、説明を簡潔にするために、受電用アンテナ素子10bとして、送電用アンテナ素子10aと同じである図3および図4に示すアンテナ素子を用いることとする。
【0044】
本実施形態において、受電用アンテナ素子10bは、受電側振動子4bを有しており、当該受電側振動子4bが、固有周波数Frを有する弾性波振動子である。エネルギー波Eが、送電部310の送電側振動子4aから受電部110に対して放射されると、受電側振動子4b(特に振動部41)は、エネルギー波Eによって励振され、弾性波振動する。より具体的に、受電側振動子4bの振動部41がエネルギー波Eを受けると、振動部41の磁歪層16では、磁歪効果によって歪みが生じる。受電側振動子4bの振動部41では、この磁歪層16の歪みに応じて、固有周波数Frの弾性波振動が誘起される。換言すると、受電部110では、エネルギー波Eを発生させる送電側振動子4aの弾性波振動によって、受電側振動子4bが共振し弾性波振動する機構となっている。
【0045】
そして、受電側振動子4bで弾性波振動が誘起されると、受電側振動子4bの圧電体層14では、弾性波振動によって圧電効果が発現する。受電側振動子4bでは、この圧電体層14の圧電効果によって、圧電体層14の表面に電荷が発生し、この電荷を電気エネルギーとして取り出すことができる。つまり、受電側振動子4bは、磁歪層16の磁歪効果、および、圧電体層14の圧電効果により、送電装置300から供給されるエネルギー波Eを電気エネルギーに変換する。
【0046】
上記のとおり、受電部110の受電用アンテナ素子10bでは、受電側振動子4bが、エネルギー波Eを電気エネルギーに変換する最小単位となっている。受電部110では、当該受電側振動子4bが少なくとも1つ含まれていればよいが、複数存在することが好ましい。受電側振動子4bの数を増やすほど、より大きな電気エネルギーが得られ、電力伝送効率が向上する。また、受電用アンテナ素子10bにおいて複数の受電側振動子4bが存在する場合、当該受電側振動子4bは、並列に配列してもよいし、直列に配列してもよい。複数の受電側振動子4bを並列に繋いだ場合、出力電圧を高くすることができ、直列に繋いだ場合は、出力電流を高くすることができる。
【0047】
また、本実施形態において、受電側振動子4bが有する固有周波数Frは、送電側振動子4aが有する固有周波数Ftと実質的に同一であることが好ましい。受電側振動子4bが有する固有周波数Frと、送電側振動子4aが有する固有周波数Ftと、を一致させることで、電力伝送効率を向上させることができる。ここで「固有周波数が実質的に同一」とは、以下の(1)式で表される固有周波数Frと固有周波数FtのずれDが1%未満であることを意味する。
D=|Ft-Fr|/Ft×100(%)・・・・(1)
【0048】
送電部310において複数の送電側振動子4aが含まれ、各送電側振動子4aの固有周波数Ftが同程度の値に揃えてある場合、上記(1)式におけるずれDは、固有周波数Ftの平均値Ftを基準として算出すればよい。つまり、受電部110における各受電側振動子4bは、平均値Ftに対する固有周波数FrのずれDが1%未満となるように設計すればよい。また、送電部310において、固有周波数Ftが異なる複数の送電側振動子4aが存在する場合、受電部110における各受電側振動子4bは、送電部310に含まれる複数の送電側振動子4aのうち、いずれか1つと実質的に同一な固有周波数となるように設計すればよい。
【0049】
なお、受電部110の受電側振動子4bと、送電部310の送電側振動子4aとの間で、固有周波数を一致させるためには、たとえば、受電用アンテナ素子10bの形態と、送電用アンテナ素子10aの形態とを一致させることが好ましい。すなわち、受電部110と送電部310とにおいて、それぞれ、同一のアンテナ素子を使用することが好ましい。弾性波振動子の固有周波数は、振動子の形状や寸法だけでなく、振動子を構成する機能膜の特性、および振動子の振動姿態などに影響されて定まる。そのため、アンテナ素子の形態が異なっていたとしても、固有周波数Ftと固有周波数Frとを一致させることは可能である。ただし、上記のように、受電部110と送電部310とで同一のアンテナ素子を使用する方法が、最も簡易的であり、製造効率も高い。
【0050】
また、前述した内容と一部重複するが、受電部110に複数の受電側振動子4bが存在する場合、各受電側振動子4bの固有周波数Frは、全て同程度の値であることが好ましい。具体的に、固有周波数Frの平均値Frを基準とした場合において、各受電側振動子4bの固有周波数Frのばらつきは、±1%未満であることが好ましい。このように各受電側振動子4bの固有周波数Frを一致させることで、より大きな電気エネルギーが得られ、電力伝送効率が向上する。
【0051】
上記のとおり、電力伝送効率を鑑みると、複数の受電側振動子4bの固有周波数Frは、揃えておくことが好ましいが、受電部110には、互いに固有周波数Frが異なる複数の受電側振動子4bが含まれていてもよい。この場合は、受電部110が応答可能な周波数帯域を広げることができる。たとえば、受電部が、固有周波数Fr1の振動子と、固有周波数Fr2の振動子とを有する場合、当該受電部は、固有周波数Fr1と同じ周波数のエネルギー波E1を受電してエネルギー変換することができるとともに、固有周波数Fr2と同じ周波数のエネルギー波E2を受電してエネルギー変換することもできる。
【0052】
また、本実施形態において、送電側振動子4aと受電側振動子4bとは、いずれも、以下に示すような特徴を有することが好ましい。なお、以降の段落において、送電側振動子4aと受電側振動子4bとで共通する特徴の説明では、送電側振動子4aと受電側振動子4bとを総称して、「振動子4」と記すこととする。
【0053】
まず、本実施形態において、弾性波振動する振動子4の振動部41は、Q値(単位なし)が、100以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。Q値とは、周波数特性におけるピークの鋭さを表す尺度である。
【0054】
ここで、図7に基づいて、振動部41の周波数特性について説明しておく。図7に示すグラフでは、横軸が、周波数であり、縦軸が、出力電圧である。前述したように、固有周波数Fでは、出力電圧が最大(最大出力V)となり、固有周波数Fがピークトップとなる。そして、高周波側において最大出力電圧Vの1/√2倍の出力電圧((1/√2)×V)が得られる周波数をfとして、低周波側において(1/√2)×Vとなる周波数をfとすると、Q値は以下の式で表される。
Q=F/(f-f
【0055】
従来、自動車や産業機械などで発生する機械的振動に共振する共振子が知られており、当該共振子では、幅の広い信号(振動)を受電できるように、Q値を低く設定する必要があった。これに対して、本実施形態の給電システム1000では、振動部41のQ値を100以上と高く設定することで、電力伝送効率をより向上させることができる。なお、振動部41のQ値は、高ければ高いほど好ましく、Q値の上限値は、特に限定されないが、たとえば、50000以下とすることができ、10000以下であることが好ましい。
【0056】
また、図7に示す振動子4の周波数特性において、固有周波数FからF×(1/100)だけ高周波側にシフトした周波数をfとし(すなわちf=F+F×(1/100))、固有周波数FからF×(1/100)だけ低周波側にシフトした周波数をfとして(すなわちf=F-F×(1/100))、周波数fおよび周波数fにおける出力をそれぞれV,Vとする。この場合、振動部41は、最大出力Vが、出力Vまたは出力Vに対して2倍以上となるように設計することが好ましい(すなわちV>2V,V>2V)。振動子4が上記のような条件を満足する周波数特性を有することで、振動子4のエネルギー変換効率が向上し、電力伝送効率も向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態において、振動子4は、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)などではなく、バルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)で振動するバルク弾性波振動子であることが好ましい。表面弾性波の振動子では、物体表面に伝播する波(振動)を利用するが、バルク弾性波の振動子では、表面ではなく物体自体が振動することを利用する。本実施形態の給電システムでは、振動子4をバルク弾性波振動子とすることで、電力伝送効率を向上させることができる。
【0058】
また、振動子4で発生する弾性波振動の振動姿態は、面外振動ではなく、面内伸縮振動であることが好ましい。ここで、面外振動とは、振動子が、回転や屈曲などの体積変化を伴わない動態で振動することを意味する。面外振動する振動子の場合(特に屈曲振動する振動子の場合)、当該振動子の固有周波数Fは、100kHz以下の低周波となる傾向がある。一方、面内伸縮振動とは、振動子がX-Y平面もしくはZ軸を含む平面に沿って伸縮することで振動することを意味する。本実施形態では、X-Y平面に沿って伸縮する面内伸縮振動を、拡がり振動と称し、Z軸を含む平面に沿って伸縮する面内伸縮振動を、厚み縦振動と称する。面内伸縮振動する振動子では、固有周波数Fが面外振動の振動子よりも高周波帯となる傾向があり、拡がり振動と厚み縦振動とでは、厚み縦振動の固有周波数Fのほうが高周波帯となる傾向がある。本実施形態の給電システムでは、振動子4を面内伸縮振動のバルク弾性波振動子とすることで、電力伝送効率をより向上させることができる。
【0059】
なお、上述したような振動子4の固有周波数F、Q値、周波数特性、および振動様態は、インピーダンスアナライザを用いて測定することができる。また、振動子4の振動様態は、機能膜(圧電体層14や磁歪層16など)の材質、機能膜の厚み、機能膜の結晶配向性、および振動子4の形状や寸法などに影響されて定まる。
【0060】
(給電システムの使用形態)
本実施形態に係る給電システム1000は、弾性波振動子の共振により非接触で電力を伝送する機構となっている。この弾性波振動の共振を利用した給電システム1000では、数cm程度の近距離での電力伝送だけでなく、10m程度まで離れた中長距離での電力伝送も可能である。そのため、本実施形態に係る給電システム1000は、移動体への給電、および、移動体に設置した機器等への給電に好適に用いることができる。
【0061】
なお、中距離での非接触給電方式として、磁界共鳴を利用した給電システムも知られている。ただし、磁界共鳴方式の給電システムでは、伝送可能な電力量や、電力伝送可能な距離が、コイルの直径や、コイルにおける導体の巻回数に依存する。そのため、磁界共鳴方式において、中距離で十分な伝送効率を確保するためには、1次コイルや2次コイルの寸法が大きくなり、小型化が困難である。
【0062】
これに対して、本実施形態に係る給電システム1000では、送電用アンテナ素子10aおよび受電用アンテナ素子10bを、半導体製造プロセスで用いられるような微細加工技術により製造することが可能である。そして、エネルギー変換の最小単位である振動子4は、1mm四方以下のサイズとすることができる。したがって、本実施形態の給電システム1000は、磁界共鳴方式の給電システムよりも、送電装置300および受電装置100を小型化することが容易である。そのうえ、本実施形態の給電システム1000では、送電側振動子4aの個数、および/または、受電側振動子4bの個数を増やすことで、容易に、伝送可能な距離を延ばすことができ、また、伝送する電力量を増やすこともできる。したがって、本実施形態の給電システム1000では、送電装置300や受電装置100(特に受電装置)を小型化したとしても、中長距離での電力伝送を実現することができる。
【0063】
図8は、給電システム1000の使用例を示す模式図である。具体的に、図8(a)は、人体の外耳に装着するイヤホンに、本実施形態の受電装置100を組み込んだ場合の使用例である。また、図8(b)は、人の体内に装着する心臓ペースメーカに、本実施形態の受電装置100を組み込んだ場合の使用例である。図8(a),(b)に示す使用例のように、受電装置100は、人の腕や頭部などに装着するウェアラブル端末や、人の体内に装着する医療機器などに組み込んで使用することが可能である。これらのウェアラブル端末や医療機器などの電子機器200は、小型でかつ軽量であることが望まれる。本実施形態の受電装置100は、エネルギー変換の最小単位が、ごく微小な受電側振動子4bであるため、受電側振動子4bの数、もしくは、受電用アンテナ素子10bの個数を、適宜調整することで上記電子機器の仕様に合わせて小型化することが容易である。
【0064】
一方、送電装置300は、図8(a)において、人の胴体部に位置するベルトに固定してあり、図8(b)においては、手提げかばんの中に入れてある。前述したように、給電システム1000は、中長距離の電力伝送が可能であるため、給電システム1000の運用にあたって、送電装置300は、設置個所の自由度が高く、比較的に動作が少ない人の胴体部や、袋物、運搬用具などの、電子機器200の設置個所に比べて安定な箇所に設置しておくことができる。そのため、送電装置300は、受電装置100に比べてサイズを大きくすることが可能であり、送電装置300に容積の大きい電源320を搭載しておくことができる。また、受電部310では、送電側振動子4aの数、および、送電用アンテナ素子10aの個数を増やすことが容易であり、送電部310から受電部110に送電する電力量を増やすことができる。
【0065】
なお、本実施形態において、給電対象物である電子機器200の種類は特に限定されない。電子機器200としては、たとえば、上述したイヤホンや、心臓ペースメーカの他に、補聴器などのヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、ウェアラブル体温計、ウェアラブル脈波センサ、人口内耳、筋肉や脳などへの電気刺激機器、ニューロRFID、マイクロロボットなどが例示される。
【0066】
第2実施形態
第2実施形態では、振動子4(送電側振動子4aおよび受電側振動子4b)が面内伸縮振動のバルク弾性波振動子である場合について例示し、面内伸縮振動のバルク弾性波振動を得るために最適な構成を説明する。また、第2実施形態において、送電用アンテナ素子10aと受電用アンテナ素子10bとは、いずれも同一のアンテナ素子10で構成することとし、送電側振動子4aおよび受電側振動子4bが、同一の構成を有していることとする。なお、第2実施形態でも、図3~6を参照し、第1実施形態と共通の構成に関しては、同じ符号を使用する。
【0067】
まず、アンテナ素子10における振動子4の形態的特徴について、詳述する。
【0068】
図3に示すように、アンテナ素子10のZ軸方向における最下層には、平面視において略矩形の外縁形状を有する基板6が存在する。なお、基板6の平面視形状は、特に限定されず、円形、楕円形、角部が丸みを帯びた四角形、およびその他多角形であってもよい。また、基板6の厚みも、特に限定されず、十分な強度を確保できる厚みであればよい。この基板6は、X-Y平面において、複数の開口部61を有しており、各開口部61のZ軸方向の上方には、それぞれ振動子4が形成してある。つまり、振動子4の振動部41は、基板6の開口部61に対向して配置してある。開口部61の平面視形状および寸法は、振動子4における振動部41の形状や寸法に合わせて決定される。第2実施形態では、開口部61が略矩形の平面視形状を有する。
【0069】
振動子4は、機能膜を積層した積層構造体であり、第2実施形態における振動子4には、少なくとも下部電極層12と、前述した圧電体層14および磁歪層16とが含まれている。下部電極層12は、基板6のZ軸上方に位置し、当該下部電極層12の上に圧電体層14が積層してあり、当該圧電体層14の上に磁歪層16が積層してある。なお、各機能膜の構成に関しては、追って詳述する。
【0070】
図5に示すように、振動子4は、基板6のZ軸方向の上方において、開口部61の上部開口面を、X軸方向に架け渡すように存在している。そして、振動子4のX軸方向における一方の端部は、基板6の表面に面して接続してあり、固定部42aとなっている。また、X軸方向における振動子4の他方の端部も、基板6の表面に面して接続してあり、固定部42bとなっている。
【0071】
固定部42aでは、取出電極18aが下部電極層12に電気的に接続してあり、この取出電極18aを介して、図示しない外部回路が接続可能となっている。一方、固定部42bには、磁歪層16に電気的に接続してある取出電極18bが存在しており、この取出電極18bを介して図示しない外部回路が接続可能となっている。なお、固定部42bにおいて、取出電極18bと下部電極層12との間には絶縁層20が介在してあり、この絶縁層20によって、取出電極18bと下部電極層12とが、短絡しないように互いに絶縁されている。なお、以降の段落では、固定部42aおよび固定部42bを、総称して「固定部42」と記載する場合がある。
【0072】
振動子4の振動部41は、開口部61の上部開口面よりも寸法が小さい略矩形の平面視形状を有しており、X軸と平行な縁辺とY軸と平行な縁辺とを有している。第2実施形態では、X軸方向が、振動部41の長手方向となっており、Y軸方向が、振動部41の短手方向となっている。前述したように、振動部41は開口部61の上方に位置しており、図6に示す断面では、振動部41が、開口部61のZ軸上方において浮遊しているように見える。図6に示すように、X-Y平面と平行な振動部41の上面および下面は、基板6に直に接していない非拘束面であることが好ましい。なお、振動部41の上面および下面とは、開口部61と対向する面である。また、図6に示す断面とは、図4に示すVI-VI線に沿う断面であって、支持部43を含まないX-Z断面である。
【0073】
そして、発電体4の振動部41は、一対の支持部43を介して、各固定部42a,42bに一体的に接続してある。つまり、振動部41は、支持部43を介して基板6に連結してある。第2実施形態では、支持部43により振動部41と固定部42とが連結される方向を、連結方向(図1~3ではX軸方向)と称する。
【0074】
図4および図6に示すように、振動部41の外周縁と、開口部61の内周縁とは、互いに接触しておらず、振動部41の外周縁と開口部61の内周縁との間には、隙間46が存在する。ここで、上記における「振動部41の外周縁」とは、振動部41における下部電極層12の外周縁であり、より具体的に、振動部41における支持部43との連結部分を除く下部電極層12の外周縁を意味する。第2実施形態において、隙間46の平均幅Wgは、1μm~500μmであることが好ましい。なお、第2実施形態において、隙間46は、機能膜12~16や基板6が存在していない空間となっている。また、隙間46の幅Wgは、平面視における下部電極層12の外周縁から開口部61の内周縁までの間隔を意味する。
【0075】
また、振動部41において、連結方向と直交する方向の幅Wvy(図4~6ではY軸方向の幅)は、固有周波数Fと同じ周波数の電磁波の波長と比較して、1/100倍以下であることが好ましく、1/200倍以下であることがより好ましい。連結方向と直交する方向の幅Wvyの下限値は、特に限定されないが、たとえば、固有周波数Fと同じ周波数の電磁波の波長と比較して、1/200000倍以上とすることが好ましい。なお、上記において、「電磁波の波長」とは、伝送経路となる媒介中(例えば空気中)における電磁波の波長を意味する。たとえば、第2実施形態の発電素子1において、幅Wvy以外の構成を変えずに幅Wvyを広くした場合、振動子4が有する固有周波数Fは、低くなる傾向となる。逆に幅Wvyを狭くすると、振動子4が有する固有周波数Fは、高くなる傾向となる。
【0076】
一方、振動部41において、連結方向の幅Wvxは、特に限定されず、上記の幅Wvxよりも狭い幅とすることもできるが、幅Wvyよりも広い幅とすることが好ましい。
【0077】
また、振動部41の平均厚みTvは、各機能膜の厚みに依存し、特に限定されないが、たとえば、0.5μm~30μmとすることが好ましい。
【0078】
また、前述のとおり、振動部41は、X軸およびY軸を含む平面に沿った板状の形態を有するが、この板状の振動部41は、可能な限り平滑であることが好ましい。たとえば、振動部41の平面度は、幅Wvyよりも小さい値とすることが好ましい。また、X-Y平面と平行な振動部41の上面および下面は、表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)または二乗平均平方根粗さ(Rq:旧RMS)で、1μm以下であることが好ましい。もしくは、振動部41における上面の表面粗さ(RaまたはRq)、および、下面の表面粗さ(RaまたはRq)は、振動部41の弾性波振動の波長と比較して、1/10倍以下であることが好ましい。このように振動部41を平滑化することで、振動子4のバルク弾性波振動の振幅をより大きくすることができる。
【0079】
なお、平面度は、接触式で測定してもよいし、非接触式で測定してもよい。たとえば、CNC画像測定器やレーザ顕微鏡などにより平面度を測定することができる。また、表面粗さRa,Rqについても、接触式で測定してもよいし、非接触式で測定してもよく、JIS-B0601に準拠して測定すればよい。
【0080】
発電部4の支持部43は、振動部41のX軸方向における端部と、固定部42とを、X軸方向に沿って連結しており、第2実施形態では、支持部43が、固定部42の数に応じて2つ形成してある。この支持部43は、振動部41の弾性波振動を妨げないように、振動部41よりも剛性が低くなるような様態で形成してあることが好ましい。
【0081】
たとえば、支持部43において、連結方向と直交する方向(Y軸方向)の幅Wsyは、振動部41の幅Wvyよりも狭くすることが好ましい。より具体的に、振動部41の幅Wvyに対する支持部43の幅Wsyの比率(Wsy/Wvy)は、10%~90%とすることがより好ましい。あるいは、支持部43のZ軸方向の平均厚みTsは、振動部41のZ軸方向の平均厚みTvよりも薄いことが好ましい。より具体的には、振動部41の平均厚みTvに対する支持部43の平均厚みTsの比率(Ts/Tv)は、50%~95%であることがより好ましい。
【0082】
さらに、支持部43において、平均厚みTsと幅Wsyとの積(Ts×Wsy)は、振動部41における平均厚みTvと幅Wvyとの積と比較して、90%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。支持部43における平均厚みTsおよび幅Wsyを、上記条件の範囲内に制御することで、振動子4のバルク弾性波振動の振幅をより大きくすることができ、アンテナ素子10のエネルギー変換効率がより向上する。
【0083】
また、支持部43において、連結方向(X軸)の長さWsxは、振動部41の弾性波振動の波長と比較して、1/10倍~1/2倍程度の範囲内とすることが好ましい。支持部43の長さWsxを上記の範囲内とすることで、弾性波振動の振動エネルギーを振動部41に効率的に閉じ込めることができ、アンテナ素子10の出力をより大きくすることができる。また、複数の振動子4を有するアンテナ素子10では、支持部43の長さWsxを上記の範囲内とすることで、複数の振動子4の間で相互干渉が発生することを抑制することができる。
【0084】
次に、基板6、および、振動子4を構成する各機能膜の特徴について詳述する。
【0085】
(基板6)
第2実施形態において、基板6は、少なくとも振動子4を支持できる絶縁物であればよいが、単結晶の基板であることが好ましい。単結晶基板としては、Si、MgO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などが挙げられる。第2実施形態では、特に、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板を使用することがより好ましい。なお、Si(100)面の単結晶とは、シリコン基板において、立方晶の(100)面が、厚み方向に対して略平行となるように配向していることを意味する。
【0086】
(圧電体層14)
圧電体層14は、一方の固定部42aから他方の固定部42bにかけて延在している、単層の薄膜である。図4に示すように、圧電体層14の平面視形状は、振動子4の各部位41~43の形状に適合しており、X-Y平面における寸法が、後述する下部電極層12の平面寸法よりも小さくなっている。また、圧電体層14の平均厚みは、0.4μm~10μmの範囲内であることが好ましく、0.4μm~2μmであることがより好ましい。そして、圧電体層14の厚みのばらつきは、±5%以下であることが好ましい。
【0087】
なお、圧電体層14の平均厚みは、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などによりX-Z断面もしくはY-Z断面を観察し、その際に得られる断面写真を画像解析することで求められる。この際、面内方向において少なくとも3点以上の箇所で計測を行い、その平均値を算出する。
【0088】
圧電体層14は、圧電材料で構成してあり、圧電効果または逆圧電効果を奏する。圧電体層14を構成する圧電材料としては、たとえば、水晶、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO)、ジルコン酸チタン酸バリウムカルシウム(BCZT:(Ba,Ca)(Zr,Ti)O)、などが例示される。
【0089】
第2実施形態では、上記の圧電材料のうち、特に、PZT、KNN、およびBCZTなどのペロブスカイト構造を有する圧電材料を用いることが好ましい。ペロブスカイト構造の圧電材料は、優れた圧電特性を有するため、圧電体層14をこれらの材質で構成することで、振動子4の圧電応答性がより向上する。なお、圧電体層14を構成する上記の圧電材料には、圧電特性をさらに改善するために、適宜他の元素や化合物が添加してあってもよい。
【0090】
また、ペロブスカイト構造の圧電材料を用いる場合、圧電体層14は、エピタキシャル成長した膜であることがより好ましい。ここで、エピタキシャル成長とは、成膜の際に、膜の結晶が、下地材料の結晶格子に整合する形で、膜厚方向(Z軸方向)および平面方向(X軸およびY軸方向)に揃いながら成長することをいう。そのため、より好ましい様態の場合、圧電体層14は、成膜中の高温状態において、結晶が、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の3軸すべての方向に揃って配向した状態(3軸配向)となる。圧電体層14における結晶の軸を揃えて配向性を向上させるほど、振動部41のQ値が高くなる傾向がある。また、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とすることで、振動子4が、面内伸縮振動で弾性波振動し易くなる。
【0091】
なお、3軸配向するようにエピタキシャル成長しているか否かは、薄膜形成過程において反射高速電子線回折評価(RHEED評価)を行うことで確認できる。成膜中の膜表面において、結晶配向に乱れがある場合には、RHEED像は、リング状に伸びたパターンを示す。一方で、上記のようにエピタキシャル成長している場合には、RHEED像は、スポット状またはストリーク状のシャープなパターンを示す。上記のようなRHEED像は、あくまでも成膜中の高温状態で観測される。
【0092】
また、エピタキシャル成長した場合、圧電体層14は、成膜後の室温状態において、結晶粒界がほとんど形成されず、単結晶に近い(完全な単結晶ではない)結晶構造を有する。より具体的に、成膜後における圧電体層14の結晶構造は、3軸配向したうえで、複数の結晶相を有することが好ましく、また、少なくとも3種のドメイン(域)を含むドメイン構造を有することが好ましい。圧電体層14がドメイン構造を有することで、圧電特性がより向上し、振動に対する圧電応答性が高まる。
【0093】
圧電体層14がドメイン構造を有する場合、ドメイン構造の具体的な構成は、使用する圧電材料によって異なる。たとえば、圧電体層14がPZTのエピタキシャル成長した膜である場合には、正方晶と菱面体晶の少なくとも2種の結晶相を有することができる。そして、この場合、正方晶は、c軸(直方体(結晶格子)の長手方向の軸)が膜厚方向を向いたドメインと、c軸が面内方向を向いたドメインと、を有する。また、菱面体晶の結晶相は、膜厚方向に対して(100)面が平行となるように配向している。すなわち、圧電体層14がPZTのエピタキシャル成長した膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、菱面体晶のドメインとの計3種のドメインを含むことが好ましい。
【0094】
一方、圧電体層14がKNNのエピタキシャル成長した膜である場合には、斜方晶の2種のドメインと、単斜晶の1種のドメインと(計3種のドメイン)を有することが好ましい。上記の場合、斜方晶の2種のドメインとは、斜方晶の(001)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(aドメイン)と、斜方晶の(010)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(cドメイン)とが存在し得る。また、単斜晶のドメインでは、(100)面または(010)面が膜厚方向に対して略平行となっていることが好ましい。
【0095】
また、圧電体層14がBCZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、斜方晶の2種のドメインと(計4種のドメイン)を有することが好ましい。
【0096】
上述したような複数のドメインは、共通のドメイン境界を挟んで接しているため、各ドメインの結晶軸の向きは、膜厚方向や面内方向から数度程度(具体的には、最大±3度程度)ずれていてもよい。また、上述したような複数のドメインは、少なくとも成膜時の高温状態においては、同じ結晶系の同じ方位に配向した等価なドメインであり、成膜後に室温や使用温度に冷却される過程で、より安定な結晶相やドメインに転移することで形成される。なお、複数のドメインが混在して存在する様子は、圧電体層14を、STEMもしくは透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折、または、X線回折(XRD)などで分析することにより確認できる。
【0097】
(下部電極層12)
下部電極層12も、圧電体層14と同様に、一方の固定部42aから他方の固定部42bにかけて延在している、単層の薄膜である。下部電極層12は、圧電体層14で発生した電荷を回収し取り出すための電極であり、下部電極層12のX軸方向における一方の端部が取出電極18aと電気的に接続してある。下部電極層12の平均厚みは、3nm~200nmとすることが好ましい。
【0098】
下部電極層12は、金属や酸化物導電体などの導電材料で構成される。特に、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12も、エピタキシャル成長した膜とすることが好ましい。この場合、下部電極層12は、たとえば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などの面心立方構造の金属薄膜か、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3:以下SROと略す)やニッケル酸リチウム(LiNiO3)などの酸化物導電体薄膜とすることが好ましい。このような金属薄膜および酸化物導電体薄膜は、単結晶の基板上にエピタキシャル成長させることができる。そして、エピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12では、膜厚方向(Z軸方向)において(001)面が配向していることが好ましい。また、面内方向(X軸方向またはY軸方向)においては、圧電体層14の(100)面と下部電極層12の(100)面とが略平行となっていることが好ましい。
【0099】
なお、下部電極層12もエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12は、上記の金属薄膜と上記の酸化物導電体薄膜とを積層して構成してもよい。その場合、下部電極層12における下方側(すなわち基板6側)には、金属薄膜を積層し、当該金属薄膜の上に酸化物導電体薄膜を積層することが好ましい。
【0100】
(磁歪層16)
図4に示すように、第2実施形態において、磁歪層16は、振動部41において積層してある単層の薄膜であり、固定部42および支持部43には、磁歪層16が形成されていない。このように、磁歪層16は、振動部41に積層してあればよく、必ずしも固定部42や支持部43に積層してある必要はない。ただし、支持部43や、固定部42の一部において磁歪層16が存在していてもよい。また、図4において磁歪層16は、略矩形の平面視形状を有している。磁歪層16の平面寸法は、圧電体層14の振動部41における平面寸法よりも小さくすることが好ましい。換言すると、X-Y平面において、磁歪層16の外周縁は、圧電体層14の外周縁よりも内側に位置することが好ましい。上記のように磁歪層16の平面寸法を制御することで、振動子4の耐久性を向上させることができる。
【0101】
磁歪層16の平均厚みは、0.1μm~5μmの範囲であることが好ましく、0.1μm~1μmであることがより好ましい。また、圧電体層14の平均厚みに対する磁歪層16の平均厚みの比は、1/10~10の範囲内であることが好ましく、1/10以上、1未満であることがより好ましい。そして、磁歪層16の厚みのばらつきも、圧電体層14の場合と同様、±5%以下であることが好ましい。なお、磁歪層16の平均厚みも、圧電体層14と同様にして測定可能である。
【0102】
磁歪層16は、磁歪特性を有する強磁性体で構成してある。強磁性体としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの純金属、または、上記金属元素のうち少なくとも1種を含む合金(たとえば、Fe-Co系、Fe-Ni系、Fe-Si系、Fe-Dy-Tb系、Fe-Ga系、Fe-Si-Al系の合金など)、もしくは、上記金属元素の酸化物を含む酸化物磁性体を用いることができる。また、磁歪層16は、上記の強磁性体を含む単一膜であってもよいし、複数の層からなる多層膜や、強磁性体と反強磁性体との積層膜であってもよい。
【0103】
磁歪層16は、上記の強磁性体薄膜の中でも、特に、軟磁性の高磁歪膜であることが好ましい。第2実施形態において、軟磁性の高磁歪膜とは、保持力Hやしきい磁場HTHが低い(好ましくは、Hが2500A/m未満、HTHが500A/m未満)軟磁性体で構成されており、かつ、飽和磁歪λMAXが5ppm以上の膜であることを意味する。具体的に軟磁性高磁歪膜の磁歪層16としては、Fe-Si-B系合金、Fe-Cr-Si-B系合金、Fe-Ni-Mo-B系合金、Fe-Co-B系合金、Fe-Ni-B系合金、Fe-Al-Si-B系合金、またはFe-Co-Si-B系合金などを主成分とする合金膜が例示される。強磁性体の多くは磁歪効果を示すが、特に上記の軟磁性高磁歪膜で磁歪層16を構成すると、より振幅が大きい弾性波振動を発生させることができる。
【0104】
また、磁歪層16の結晶構造は、非晶質であってもよいし、多結晶であってもよいが、磁歪層16が軟磁性高磁歪膜である場合には、非晶質相と結晶相とを、混在して有することが好ましい。強磁性体薄膜16が非晶質相と結晶相とを混在して含むことで、入力信号に対する応答性を向上させることができるとともに、磁歪変化率(dλ/dH)を大きくすることができる。
【0105】
なお、Feを含む合金は、体心立法構造で結晶化されることが通常である。第2実施形態においては、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを有する場合、磁歪層16に含まれる結晶相のほとんどが、面心立法構造を有することが好ましい。磁歪層16が上記のような結晶構造を有することで、アンテナ素子10のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
【0106】
磁歪層16の結晶構造は、圧電体層14と同様に、TEMの電子線回折またはXRDなどで分析することで確認できる。たとえば、磁歪層16が非晶質相のみで構成される場合、XRDを用いてCu-Kα線によるθ-2θ測定を行うと、ブロードで幅が広いハローパターンのみが検出される。一方、磁歪層16が結晶相のみで構成された場合には、半値幅が狭い極めてシャープな反射ピークのみが検出される。また、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを混在して有する場合、非晶質相の存在を示すブロードな盛り上がり(ハロー)部分と、結晶相の存在を示すシャープなピーク部分とを共に有する反射ピークが検出される。
【0107】
また、非晶質相と結晶相との割合は、電子線回折もしくはXRDで得られた反射ピークに対して、プロファイルフィッティングを行い、結晶化度を算出することで確認できる。具体的には、結晶相部分(ピーク部分)と非晶質相部分(ハロー部分)のフィッティングを行い、各部分の積分強度(面積)を測定する。そして、結晶化度(%)は、結晶相部分の積分強度(Ic)と非晶質相部分の積分強度(Ia)との和(すなわち全ピーク面積)に対する、結晶相部分の積分強度(Ic)の比(Ic/(Ic+Ia)×100)で表される。第2実施形態において、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを混在して有する場合、結晶化度は、1%~50%であることが好ましく、5%~20%であることがより好ましい。
【0108】
磁歪層16は、前述したように、エネルギー波Eの発生や弾性波振動の発生に寄与する。また、図4~6に示す振動子4の場合、磁歪層16は、圧電体層14で発生した電荷を回収し取り出すための電極としても機能する。
【0109】
(取出電極18)
取出電極18は、導電性を有していればよく、その材質や寸法は特に制限されない。たとえば、取出電極18は、Pt、Ag、Cu、Au、Alなどの導電性金属を含むことができ、導電性金属の他にガラス成分などが含まれていてもよい。なお、図4および図5において、取出電極18は、薄膜状の電極としているが、ビアホール電極としてもよい。
【0110】
(絶縁層20)
絶縁層20は、電気絶縁性を有していればよく、その材質や厚みは特に制限されない。たとえば、絶縁層20は、SiO、Al、ポリイミドなどで構成することができる。
【0111】
(その他の機能膜)
なお、図4~6では図示していないが、振動子4には、上述した下部電極層12、圧電体層14、および磁歪層16の他に、その他の機能膜が含まれていてもよい。
【0112】
たとえば、振動子4のZ軸方向の最下層(すなわち下部電極層12の下方)には、下部電極層12の結晶性および圧電体層14の結晶性を制御するバッファ層が形成してあってもよい。特に圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合には、バッファ層を形成することが好ましい。バッファ層は、酸化ジルコニウム(ZrO)、もしくは、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とすることが好ましい。
【0113】
このバッファ層も、成膜用基板の結晶格子に整合する形で、結晶が膜厚方向(Z軸方向)および面内方向(X軸およびY軸方向)に揃いながらエピタキシャル成長した膜であることが好ましい。バッファ層は、下部電極層12と同様に、膜厚方向において、(001)面が配向していることが好ましく、面内方向(X軸方向またはY軸方向)においては、圧電体層14の(100)面と、下部電極層12の(100)面と、バッファ層の(100)面とが略平行となっていることがより好ましい。具体的に、バッファ層がZrOで、下部電極層12がPtで、圧電体層14がPZTの場合、各層の好ましい配向関係は、膜厚方向が、ZrO(001)//Pt(001)//PZT(001)であって、面内方向が、ZrO(100)//Pt(100)//PZT(100)である。
【0114】
バッファ層が形成してあることで、下部電極層12および圧電体層14をエピタキシャル成長させ易くすることができ、これらの層12,14の結晶性がより良好となる。また、バッファ層は、エッチングにより開口部61を形成する際に、エッチングストッパ層としても機能する。バッファ層を形成する場合、その平均厚みは、5nm~100nmとすることが好ましい。
【0115】
また、圧電体層14と磁歪層16との間には、上部電極層が形成してあってもよい。上部電極層を形成することで、圧電体層14で発生する電荷をより効率よく取り出すことができる。上部電極層は、下部電極層12と同様の構成(厚みや材質)とすることができる。なお、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12もエピタキシャル成長した膜とすることが好ましいが、上部電極層については必ずしもエピタキシャル成長させる必要はない。一方、磁歪層16において非晶質相と結晶相とを混在させる場合は、上部電極層の結晶構造は、面心立方の多結晶構造、もしくは、非晶質相と面心立法の結晶相とが混在した結晶構造とすることが好ましい。
【0116】
さらに、振動子4において、下面を除く最外層には、保護層が形成してあってもよい。保護層としては、Ti,Ta,またはPtなどの金属を含む保護層や、SiO、Al、またはポリイミドなどで構成する絶縁性の保護層が例示され、金属製の保護層と絶縁性の保護層とを両方形成してもよい。なお、保護層の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm~50nmとすることができる。
【0117】
図4~6に示す振動子4では、上述したような内部構造(各機能膜の構成)を有し、上述したような形態的特徴(振動子4の各部位の形状や寸法など)を有することで、振動部41が面内伸縮振動のバルク弾性波振動子となる。特に、内部構造や形態的特徴が、前述したような好適な条件を満たす場合、振動部41の振動姿態は、拡がり振動となる傾向がある。
【0118】
なお、第2実施形態のアンテナ素子10は、半導体プロセスで用いられるような微細加工技術を用いて製造することができる。たとえば、まず、各機能膜を、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CDV法、PLD法などの方法(好ましくはスパッタリング法)により基板6の上に成膜する。そして、フォトエッチング法、レーザドライエッチング法、またはリフトオフ法などの各種微細加工技術を用いて、成膜した各機能膜にパターニング加工を施し、基板6の上に複数の振動子4を形成する。最後に、Deep-RIE法などのドライエッチングや、異方性ウェットエッチングなど各種エッチング法により、基板6の一部を除去して、基板6に複数の開口部61を形成する。上記のような工程により、図3~6に示すアンテナ素子10が得られる。
【0119】
(振動子4の変形例)
振動子4の形態は、上述した図4~6の形態に限定されず、たとえば、図9および図10に示すような形態とすることもできる。以下、振動子4の変形例について説明する。
【0120】
図9では、基板6に平面視形状が円形の開口部61bが形成してある。また、振動子4の振動部41bが、円形の断面視形状を有している。なお図9でも、振動部41bは、開口部61bの上方に存在しており、振動部41bの上面および下面が非拘束面となっている。また、振動部41bの外周縁と開口部61bとの内周縁との間には隙間46が存在する。
【0121】
図9に示すような、円板状の振動部41bの場合、各機能膜(特に圧電体層14および磁歪層16)の結晶性などを最適化することで、厚み縦振動(面内伸縮)でのバルク弾性波振動を発生させることができる。厚み縦振動のバルク弾性波振動子は、拡がり振動のバルク弾性波振動子よりも固有周波数Fが高くなる傾向となる。
【0122】
一方、図10では、振動子4の振動部41cが、カンチレバー型の構造となっている。具体的に、図10の振動子4は、X軸方向の一端でのみ基板6に固定してあり、振動子4のX軸方向の他端(すなわち、振動部41cの先端)は、自由端となっている。また、図10の振動子4では、支持部43cのY軸方向の幅が、振動部41cのY軸方向の幅と略同一となっている。
【0123】
このようなカンチレバー型の振動部41cの場合、屈曲振動(面外振動)でのバルク弾性波振動を発生させやすい。振動子4の振動部41cが屈曲振動となる場合は、アンテナ素子10が搭載してある送電部310または受電部110の内部を、粘性の低いガスで充填することが好ましい。もしくは、送電部310の真空度または受電部110の真空度を高くする(容器の内圧を下げる)ことが好ましい。このように、素子周囲の雰囲気を制御することで、振動部41cにかかる空気抵抗を低減することができ、エネルギー変換効率を向上させることができる。
【0124】
なお、弾性波振動子である振動子4の振動姿態は、振動部の形状のみに依存して決まるわけではなく、その他、振動子4の厚み、支持部の形態、各機能膜の構成などの影響も受ける。そのため、図10に示す振動部の形状であっても、面内伸縮振動のバルク弾性波振動を発生させることができる場合もある。同様に、図4~6に示す振動部の形状および図9に示す振動部の形状でも、屈曲振動などの面外振動の振動姿態となる場合があり得る。
【0125】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、上記の実施形態では、振動部41において圧電体層14と磁歪層16とを積層していたが、圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える材料で機能膜を構成してもよい。このような圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える材料としては、たとえば、BiFeOや、Biの一部をLaなど他の元素で置き換えた(Bi,La)FeOなどが例示される。
【0126】
また、上記の実施形態(特に第2実施形態)では、基板6として単結晶のシリコン基板を例示したが、基板6として図11(a)に示すようなSOI基材60(Silicon on Insulator)を使用してもよい。SOI基材60は、表面がSi(100)面となるように配向した単結晶のSi層60αと、SiOからなる絶縁層60βと、Siからなる基板6dとで構成してあり、単結晶のSi層60αが、絶縁層60βを介して基板6dの表面に積層してある。Si層60αの平均厚み、および、絶縁層60βの平均厚みは、特に限定されないが、たとえば、いずれも1μm~10μm程度とすることができる。また、SOI基材60における基板6dの平均厚みも、特に限定されないが、たとえば、100μm~700μm程度とすることができる。
【0127】
このSOI基材60を使用した場合、振動子4の固定部42は、Si層60αおよび絶縁層60βを介して、基板6dの上に接続される。また、SOI基材60を用いてアンテナ素子10を製造した場合、図11(b)に示すような構造の振動子4が得られることがある。なお、図11(b)は、図6と同様の箇所を示す断面図である。第2実施形態で説明したように、開口部61は、基板をエッチングして基板の一部を除去することで形成されるが、SOI基材60を使用した場合、エッチング後に、振動部41の下面側にSi層60αと絶縁層60βとが残存することがある。この場合、Si層60αおよび絶縁層60βは、振動部41の下面の全面に残存していてもよいし、当該下面の一部において部分的に残存していてもよい。
【0128】
ただし、図11(b)に示すように、隙間46では、Si層60αおよび絶縁層60βも除去され、開口部61と対向する振動部41の下面および上面は、基板6dに拘束されていない非拘束面であることが好ましい。つまり、SOI基材60を使用する場合であっても、振動部41の外周縁と開口部61の内周縁とは、Z軸方向からの平面視において、互いに接触していないことが好ましい。なお、振動部41の下面にSi層60αおよび絶縁層60βが残存した場合であっても、振動部41の外周縁は、平面視における下部電極層12の外周縁を基準として、判別する。
【0129】
SOI基材60を使用した場合において、Si層60αおよび絶縁層60βが残存したとしても、これらの残存層の厚みは、数μm程度であり、振動部41の弾性波振動を阻害しない。そのため、図11(b)に示すアンテナ素子においても、振動部41は、面内伸縮で弾性波振動するバルク弾性波振動子として機能する。
【実施例
【0130】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0131】
(実施例1)
実施例1では、図4に示す形状の振動子を複数有するアンテナ素子を作製した。アンテナ素子に含まれる複数の振動子は、全て同じ形状であり、各振動子において、振動部の連結方向の幅Wvxを500μmとし、振動部の連結方向と直交する方向の幅Wvyを120μmとした。また、各振動子の振動部には、エピタキシャル成長させて成膜したPZTからなる圧電体層と、結晶相と非晶質相とを有するFe-Co-Si-B合金からなる磁歪層と、を積層した。なお、積層した圧電体層の平均厚みは、1μmであり、磁歪層の平均厚みは0.5μmであった。
【0132】
1つのアンテナ素子において、形成した振動子4の個数は、合計45個とした。また、図3に示すように、これら振動子を、同一平面上の2つの軸方向に沿って配列し、並列に配線した。なお、得られたアンテナ素子の寸法は、1cm×1cmであった。
【0133】
また、上記のアンテナ素子に含まれる各振動子の振動特性を、インピーダンスアナライザにより測定した。その結果、各振動子は、いずれも、固有周波数Fが14MHzであり、拡がり振動で弾性波振動するバルク弾性波振動子であることが確認できた。
【0134】
次に、上記のアンテナ素子を用いて、送電装置と、受電装置とを作製した。
【0135】
送電装置300は、複数のアンテナ素子を含む送電部と、電源とを、整流回路を介して接続し、一体化することで得た。実施例1において、送電部は、合計100個のアンテナ素子を、同一平面上の2つの軸方向に沿って配列し、並列に配線することで構成した。すなわち、複数のアンテナ素子を配列した状態の基板のサイズは、10cm×10cmとした。また、実施例1では、電源として、単3型のニッケル水素電池(1.2V,1900mAh)を用い、このニッケル水素電池を合計4本搭載した。
【0136】
一方、受電装置は、送電装置と同じアンテナ素子で構成される受電部に、整流回路を含むPMICと、キャパシタとを接続して一体化することで得た。なお、実施例1において、受電部には、アンテナ素子を1個搭載した。
【0137】
(実施例1の評価)
次に、上記の送電装置と受電装置とを用いて、電子機器への非接触給電が可能であるかを、確認した。当該評価にあたり、受電装置を、外耳装着式のカナル型イヤホンに搭載し、イヤホン内の各構成要素(音響用IC、記憶装置、圧電スピーカなど)に接続させた。一方、送電装置は、給電対象物であるイヤホンから約0.6m離れた位置に設置した。この際、送電部に含まれる各アンテナ素子の平面が、給電対象物であるイヤホンの方向に対して交差するように、送電装置の向きを調整した。つまり、図3におけるZ軸方向(アンテナ素子10の厚み方向)を、送電装置とイヤホンとを結ぶ方位に一致させた。
【0138】
上記のように、各装置を配置したうえで、送電装置内の電源を起動して、イヤホンが駆動するかを確認した。その結果、送電装置からは、周波数が14MHzの交流磁場が発生していることが確認できた。また、イヤホン側では、当該交流磁場を受けて、受電部に電力が発生し、当該電力により、イヤホンが駆動することが確認できた。
【0139】
(実施例2)
実施例2では、図9に示す円板状の振動子を複数有するアンテナ素子を作製した。実施例2においても、実施例1と同様に、振動子の振動部には、エピタキシャル成長させて成膜したPZTからなる圧電体層と、結晶相と非晶質相とを有するFe-Co-Si-B合金からなる磁歪層と、を積層した。ただし、実施例2では、各層の平均厚みを実施例1から変更しており、圧電体層の平均厚みを0.4μmとし、磁歪層の平均厚みを0.2μmとした。また、振動部の直径は、500μmとした。なお、実施例2において、上記以外の構成は、実施例1と同様にして、実施例2に係るアンテナ素子を得た。
【0140】
実施例2のアンテナ素子についても、実施例1と同様にして、各振動子の振動特性を確認した。その結果、実施例2における各振動子は、いずれも、固有周波数Fが2.5GHzであり、厚み縦振動で弾性波振動するバルク弾性波振動子であることが確認できた。
【0141】
次に、実施例2のアンテナ素子を用いて、送電装置と、受電装置とを作製した。実施例2では、送電装置の作製にあたり、送電装置内に、図2に示すビームフォーミング方式の指向性制御手段330を搭載した。当該指向性制御手段330を搭載したこと以外は、実施例1と同様として、実施例2に係る送電装置を得た。また、受電装置についても、実施例1と同様に構成し、実施例2のアンテナ素子を含む受電部に、PMICとキャパシタとを接続して一体化することで得た。
【0142】
(実施例2の評価)
実施例2においても、実施例1と同様にして、実施例2の送電装置と受電装置とを用いて、イヤホンへの非接触給電が可能であるかを確認した。なお、実施例2では、上記の評価にあたり、送電装置の設置向きの調整は行っておらず、指向性制御手段330に基づくビームフォーミングにより送電部から照射する交流磁場の指向性を制御した。
【0143】
評価の結果、実施例2の送電装置からは、周波数が2.5GHzの交流磁場が発生していることが確認できた。また、発生した交流磁場は、送電装置とイヤホンとを結ぶ方位において、位相が強められていることが確認でき、上記以外の他の方位では、位相が弱められていることが確認できた。そして、実施例2でも、送電部から供給される交流磁場を受けて、受電部に電力が発生し、当該電力により、イヤホンが駆動することが確認できた。
【0144】
(実施例3)
実施例3でも、実施例2と同様に、図9に示す円板状の振動子を複数有するアンテナ素子を作製した。ただし、実施例3では、圧電体層の材質を変更しており、振動部に、窒化アルミ(AlN)からなる圧電体層を積層した。なお、このAlN圧電体層も、エピタキシャル成長させて成膜した。このとき、各層の膜厚方向における配向関係は、ZrO(111)//Pt(111)//AlN(001)とした。また、実施例3では、磁歪層の材質は実施例2と同様であるが、磁歪層の平均厚みを変更しており、0.5μmとした。実施例3において、上記以外の構成は、実施例2と同様にして、実施例3に係るアンテナ素子を得た。
【0145】
実施例3のアンテナ素子についても、実施例1,2と同様にして、各振動子の振動特性を確認した。その結果、実施例3における各振動子は、いずれも、固有周波数Fが2.5GHzであり、厚み縦振動で弾性波振動するバルク弾性波振動子であることが確認できた。
【0146】
(実施例3の評価)
実施例3でも、実施例2と同様にして、送電装置と受電装置とを作製したうえで、実施例3の送電装置と受電装置とを用いて、イヤホンへの非接触給電が可能であるかを確認した。
【0147】
その結果、実施例3の送電装置から、周波数が2.5GHzで、かつ、指向性の高い交流磁場が発生していることが確認できた。そして、実施例3でも、送電部から供給される交流磁場を受けて、受電部に電力が発生し、当該電力により、イヤホンが駆動することが確認できた。
【符号の説明】
【0148】
1000 … 給電システム
200 … 電子機器
210 … 構成要素
100 … 受電装置
110 … 受電部
120 … パワーマネジメントIC(PMIC)
130 … キャパシタ
300 … 送電装置
310 … 送電部
320 … 電源
330 … 指向性制御手段
331 … 移相器
332 … 制御回路
333 … 振幅制御手段
10 … アンテナ素子
10a … 送電用アンテナ素子
10b … 受電用アンテナ素子
4 … 振動子
4a … 送電側振動子
4b … 受電側振動子
41,41b,41c … 振動部
12 … 下部電極層
14 … 圧電体層
16 … 磁歪層
18,18a,18b … 取出電極
20 … 絶縁層
42,42a,42b … 固定部
43 … 支持部
46 … 隙間
6 … 基板
61 … 開口部
8,9 … 電極
80,90 … 配線
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図9
図10
図11