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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】腹水濾過濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020167573
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2021062209
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019186506
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森島 奈月
(72)【発明者】
【氏名】徳永 順子
(72)【発明者】
【氏名】秦 洋介
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-006916(JP,A)
【文献】特許第3295314(JP,B2)
【文献】実用新案登録第2543466(JP,Y2)
【文献】特開2012-125557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
B01D 61/00-71/82
D01F 2/00-2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹水を貯留する貯留容器と、
前記貯留容器内の腹水のタンパク質溶液中に存在する細胞成分を分離可能な中空糸膜型の濾過用フィルタと、
前記濾過用フィルタで濾過されたタンパク質溶液を濃縮可能で、限外濾過性能が86mL/分/200mmHg以上125mL/分/200mmHg以下であり、セルロース系の中空糸膜型の濃縮用フィルタと、
前記濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、
第1の端が前記貯留容器に接続され、第2の端が前記濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、
第1の端が前記濾過用フィルタの濾過側の出口に接続され、第2の端が前記濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、
第1の端が前記濃縮用フィルタの出口に接続され、第2の端が前記回収容器に接続された第3の流路と、
前記濃縮用フィルタの排水側の出口に接続された第4の流路と、を備え
前記濃縮用フィルタは、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の中空糸膜における線速度が1.0m/hr以上2.8m/hr以下になるように構成され、
前記濃縮用フィルタの中空糸膜の膜厚が10μm以上45μm以下であり、
前記濃縮用フィルタの中空糸膜の有効膜面積が0.3m 2 以上3.0m 2 以下である、腹水濾過濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹水濾過濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肝硬変や癌の患者に対し腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)を用いた治療が施されることが増えている。腹水濾過濃縮再静注法は、患者から腹水を採取し、当該腹水を濾過して腹水のタンパク質溶液中に存在する癌細胞や細菌などの細胞成分を除去し、次に、アルブミンなどの必要なタンパク質を含むそのタンパク質溶液を濃縮して回収し、その後患者の体内に再注入する治療法である。
【0003】
かかる治療法には、通常腹水濾過濃縮装置が用いられ、当該腹水濾過濃縮装置は、例えば腹水を貯留する貯留容器、濾過用フィルタ、濃縮用フィルタ及び回収容器をこの順番で直列的に接続した構成を備えている(特許文献1参照)。濾過用フィルタ及び濃縮用フィルタには、一般的に中空糸膜型のフィルタが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5856821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような腹水濾過濃縮装置では、高タンパクの大量の腹水を、アルブミンなどの必要なタンパク質を含む高濃度のタンパク質溶液に濃縮して回収する必要があるが、このとき濃縮用フィルタが目詰まりしやすい。特に癌患者の癌性腹水は、高タンパクで粘性が高いため、濃縮用フィルタにおいて目詰まりが生じやすく、大量の腹水を高濃度に濃縮することが難しい。
【0006】
また、腹水にはサイトカインのような患者の体調に悪影響を与える可能性のある不要なタンパク質が含まれている。腹水濾過濃縮装置の濃縮用フィルタでは、このような不要なタンパク質を可能な限り除去して不要なタンパク質の回収容器への回収率を下げることが望まれている。しかし、これまでに知られているポリスルホン系中空糸膜型の濃縮用フィルタで高タンパクかつ大量の腹水を処理する場合、回収液に不要タンパク質も多く含んでしまう。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、高タンパクの大量の腹水を、必要なタンパク質を含む高濃度のタンパク質溶液に濃縮して回収可能であり、なおかつ腹水の不要なタンパク質の回収率を低減可能な腹水濾過濃縮装置を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、限外濾過性能が85mL/分/200mmHg以上300mL/分/200mmHg以下であり、セルロース系の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の態様は以下を含む。
(1)腹水を貯留する貯留容器と、前記貯留容器内の腹水のタンパク質溶液中に存在する細胞成分を分離可能な中空糸膜型の濾過用フィルタと、前記濾過用フィルタで濾過されたタンパク質溶液を濃縮可能で、限外濾過性能が85mL/分/200mmHg以上300mL/分/200mmHg以下であり、セルロース系の中空糸膜型の濃縮用フィルタと、前記濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、第1の端が前記貯留容器に接続され、第2の端が前記濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、第1の端が前記濾過用フィルタの濾過側の出口に接続され、第2の端が前記濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、第1の端が前記濃縮用フィルタの出口に接続され、第2の端が前記回収容器に接続された第3の流路と、前記濃縮用フィルタの排水側の出口に接続された第4の流路と、を備えた、腹水濾過濃縮装置。
(2)前記濃縮用フィルタは、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の中空糸膜における線速度が2.8m/hr以下になるように構成されている、(1)に記載の腹水濾過濃縮装置。
(3)前記濃縮用フィルタの中空糸膜の膜厚が45μm以下である、(1)又は(2)に記載の腹水濾過濃縮装置。
(4)前記濃縮用フィルタの中空糸膜の膜厚が30μm以下である、(1)又は(2)に記載の腹水濾過濃縮装置。
(5)前記濃縮用フィルタの中空糸膜の有効膜面積が0.3m2以上である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
(6)前記濃縮用フィルタの限外濾過性能が95mL/分/200mmHg以上300mL/分/200mmHg以下である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
(7)前記濃縮用フィルタの限外濾過性能が110mL/分/200mmHg以上300mL/分/200mmHg以下である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高タンパクの大量の腹水を、必要なタンパク質を含む高濃度のタンパク質溶液に濃縮して回収することができ、なおかつ腹水の不要なタンパク質の回収率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】腹水濾過濃縮装置の構成の一例を示す説明図である。
図2】中空糸膜の寸法を示す模式図である。
図3】実施例の実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、図面の上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る腹水濾過濃縮装置1の構成の一例を示す説明図である。腹水濾過濃縮装置1は、例えば貯留容器10と、濾過用フィルタ11と、濃縮用フィルタ12と、回収容器13と、第1の流路14と、第2の流路15と、第3の流路16と、第4の流路17と、第5の流路18と、制御装置19等を備えている。
【0013】
貯留容器10は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性の樹脂からなる容器であり、患者から採取された腹水を収容できる。貯留容器10は、例えば1L以上、好ましくは3L以上の容量を備えている。
【0014】
濾過用フィルタ11は、例えば中空糸膜型のフィルタである。例えば濾過用フィルタ11は、筒状容器20を有し、筒状容器20の内部には、その長手方向に沿って多数本の中空糸膜21が配置されている。中空糸膜21は、腹水のタンパク質溶液から癌細胞、細菌などの細胞成分を分離することができる。筒状容器20の上部及び下部には、中空糸膜21の管内空間に通じる出入口22、23が設けられ、筒状容器20の側面部には、中空糸膜21の管外空間に通じる2つの出入口24、25が設けられている。出入口22は、第5の流路18に通じ、出入口23は、第1の流路14に通じている。出入口24は、第2の流路15に通じ、出入口25は、閉鎖されている。
【0015】
第1の流路14は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性のチューブである。第1の流路14の第1の端14aは、貯留容器10に接続され、第2の端14bは、濾過用フィルタ11に接続されている。本実施の形態では、第2の端14bは、濾過用フィルタ11の下部の中空糸膜21の管内空間に通じる出入口23に接続されている。第1の流路14には、例えばチューブポンプ30が設けられ、貯留容器10の腹水を、濾過用フィルタ11、濃縮用フィルタ12を通じて回収容器13に送ることができる。なお、第1の流路14にチューブポンプ30を設けずに、貯留容器10の腹水を重力落下により濾過用フィルタ11に供給するようにしてもよい。
【0016】
濃縮用フィルタ12は、例えばセルロース系の中空糸膜型のフィルタである。例えば濃縮用フィルタ12は、筒状容器50を有し、筒状容器50の内部には、その長手方向に沿って多数本の中空糸膜51が配置されている。筒状容器50の上部及び下部には、中空糸膜51の管内空間に通じる出入口52、53が設けられ、筒状容器50の側面部には、中空糸膜51の管外空間に通じる2つの出入口54、55が設けられている。出入口52は、第3の流路16に通じ、出入口53は、第2の流路15に通じている。出入口54は、第4の流路17に通じ、出入口55は、閉鎖されている。
【0017】
中空糸膜51は、セルロース系の材質で構成されている。中空糸膜51の材質には、例えばセルローストリアセテート、セルロースジアセテート等のセルロースアセテート、再生セルロース、表面改質セルロース、酢酸セルロースが用いられている。
【0018】
濃縮用フィルタ12(中空糸膜51)は、85mL/分/200mmHg以上、300mL/分/200mmHg以下の限外濾過性能を有している。濃縮用フィルタ12の限外濾過性能は、95mLmL/分/200mmHg以上、200mL/分/200mmH以下が好ましく、さらに110mL/分/200mmHg以上、200mL/分/200mmHg以下が好ましい。濃縮用フィルタ12の限外濾過性能が85mL/分/200mmHg以上、300mL/分/200mmHg以下であれば、高濃度の腹水を5倍濃縮で5L以上処理することができる。濃縮用フィルタ12の限外濾過性能が95mL/分/200mmHg以上であれば、さらに濃縮倍率を上げても高濃度の腹水を処理することができる。濃縮用フィルタ12の限外濾過性能が200mL/分/200mmHg以下であれば、タンパク質が漏出しない孔径を維持し、タンパク質の中空糸膜の内表面への堆積による目詰まりを防げる線速度の範囲で製品設計が可能となり、回収液のタンパク質濃度を10g/dL以上に濃縮することができる。加え、濃縮用フィルタ12の限外濾過性能は、85mL/分/200mmHg以上200mL/分/200mmHg以下、95mL/分/200mmHg以上300mL/分/200mmHg以下、110mL/分/200mmHg以上300mL/分/200mmHg以下であってもよい。
【0019】
限外濾過性能は、以下に示すような試験により規定される。タンパク質濃度を6g/dLに調整した牛血漿を用意し、ローラーポンプにより毎分200mLの定速で濃縮用フィルタに送液する。このとき、濃縮用フィルタの排水側(除去された除水液が排出される側)の出口(本実施の形態における出入口54)は開放状態とする。濃縮用フィルタの回収液排出側(水分が除去された回収液が排出される側)の出口(本実施の形態における出入口52)に接続した回路を圧迫し、濃縮用フィルタの図2に示すような中空糸膜51の管内空間R1と管外空間R2にかかる圧力差(以下、「TMP」とも言う)が200mmHgとなるよう調整する。このとき、排水側の出口から排出される除水液の単位時間当たり容積を測定する。TMPは以下のように算出する。
TMP=(フィルタの入口側(本実施の形態における出入口53)の圧力+フィルタの出口側(本実施の形態における出入口52)の圧力)/2-排水側(本実施の形態における出入口54)の圧力
【0020】
図2に示すように濃縮用フィルタ12は、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の中空糸膜51における線速度Vが2.8m/hr以下、好ましくは 2.5m/hr以下、より好ましくは1.0m/hr以上2.5m/hr以下になるように構成されるとよい。線速度Vは、次の式により算出される。
線速度V(m/hr)=(フィルタの入口(本実施の形態における出入り口53)から出口 (本実施の形態における出入口52)の流量(m3/hr))/(開孔面 積(m2))
開孔面積(m2)=(中空糸内径/2)^2×π×中空糸本数
【0021】
線速度Vが2.8m/hr以下の場合、中空糸膜51へのタンパク質の吸着性が上がり、不要なタンパク質の回収率を下げることができる。また、流速の影響により中空糸膜51のTMPが上昇することを抑えることができる。線速度Vが1.0m/hr以上の場合、タンパク質が中空糸膜51の内壁に堆積する量の増加を抑えることができ、細孔の閉塞による、中空糸膜51の目詰まりを抑制することができる。
【0022】
濃縮用フィルタ12の中空糸膜51の膜厚Dは、45μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以上25μm以下に設定されるとよい。中空糸膜51の膜厚Dが45μm以下の場合、中空糸膜51のTMPが小さくなり、中空糸膜51を通じた必要なタンパク質の漏出を減らすことができる。また、中空糸膜51の膜厚Dが45μm以下であれば、限外濾過性能を上げるために膜面積を大きくした場合に、容器サイズを許容範囲に収めることができる。中空糸膜51の膜厚Dが10μm以上の場合、中空糸膜51の強度を保つことができ、中空糸膜51の安定的な製造を行うことができる。
【0023】
濃縮用フィルタ12の中空糸膜51の有効膜面積Eは、0.3m2以上、好ましくは1.0m2以上、より好ましくは、1.5m2以上3.0m2以下に設定されるとよい。中空糸膜51の有効膜面積Eは、中空糸膜51の内周の長さ(中空糸膜51の内径d×π)×開口端面間距離L×中空糸膜の本数)の式により算出される。中空糸膜51の有効膜面積Eが0.3m2以上の場合、中空糸膜51の孔径を小さく維持した設計が可能であり、その結果必要なタンパク質の漏出を減らすことができる。また、中空糸膜51の有効膜面積Eが3.0m2以下である場合、目詰まりを起こさない線速度Vを維持することができる。
【0024】
さらに、中空糸膜51の内径は、100μm以上、好ましくは185μm以上、より好ましくは185μm以上300μm以下に設定されるとよい。中空糸膜51の内径が100μm以上、300μm以下の場合、好ましい線速度Vの範囲で濃縮を施行することができる。また、中空糸膜51の内径が300μm以下であれば、中空糸膜51の安定的な製造を行うことができる。
【0025】
中空糸膜51の有効長(全長L)は、10cm以上、好ましくは15cm以上、より好ましくは15cm以上28cm以下に設定されているとよい。中空糸膜51の有効長が10cm以上であれば、必要な限外濾過性能を得るための中空糸本数において、片流れが起きにくいヘッダー容量での製造が可能となる。また、中空糸膜51の有効長が10cm以上、28cm以下であれば、好ましい中空糸膜内の線速度が得られる。
【0026】
中空糸膜51には、クリンプ構造が付与されているとよい。クリンプとは、中空糸膜に付与される波状の形状をいう。中空糸膜51がクリンプ構造を有する場合、クリンプの振幅(長さ方向と垂直方向に振れている大きさ)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下、好ましくは0.4mm以上0.6mm以下に設定されている。クリンプの振幅が0.1mm以上であれば、中空糸膜51同士の接触を低減することができ、クリンプの付与を製造上安定的に行うことができる。クリンプの振幅が1.0mm以下であれば、製造時の中空糸膜51のつぶれを低減し、糸束を筒状容器50内へ挿入する際の挿入性を良好に保つことができるので、濃縮用フィルタ12を安定的に製造することができる。
【0027】
クリンプの波長(長さ方向の繰り返しの幅)は、例えば3.0mm以上16mm以下、好ましくは6.0mm以上に設定されている。クリンプの波長が3.0mm以上16mm以下であれば、中空糸膜51同士の接触を低減して中空糸膜51の性能の向上が図られる。クリンプ波長が3.0mm以上であれば、製造時の中空糸膜51のつぶれを回避して、中空糸膜51を安定的に製造することができる。
【0028】
中空糸膜51の充填率は、例えば30%以上95%以下、好ましくは50%以上70%以下に設定されるとよい。中空糸膜51の充填率が30%以上95%以下であれば、中空糸膜51同士の接触により流れが妨げられることを抑制することができ、必要な濾過能力を発揮することができる。
【0029】
図1に示す第2の流路15は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第2の流路15の第1の端15aは、濾過用フィルタ11の側部上側の中空糸膜21の管外空間に通じる出入口24に接続されている。第2の流路15の第2の端15bは、濃縮用フィルタ12の下部の中空糸膜51の管内空間R1に通じる出入口53に接続されている。
【0030】
回収容器13は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性の樹脂からなる容器であり、濃縮用フィルタ12で濃縮された、必要なタンパク質を含むタンパク質溶液(回収液)を収容できる。回収容器13は、例えば貯留容器10よりも小さい容量を備えている。
【0031】
第3の流路16は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第3の流路16の第1の端16aは、濃縮用フィルタ12の上部の中空糸膜51の管内空間R1に通じる出入口52に接続されている。第3の流路16の第2の端16bは、回収容器13に接続されている。
【0032】
第4の流路17は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第4の流路17の第1の端17aは、濃縮用フィルタ12の側面上部の中空糸膜51の管外空間R2に通じる出入口54に接続されている。第4の流路17の第2の端17bは、タンパク質溶液から除水された除水液の廃液部(図示せず)に接続されている。
【0033】
第5の流路18は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第5の流路18の第1の端18aは、濾過用フィルタ11の上部の中空糸膜21の管内空間に通じる出入口22に接続されている。第5の流路18の第2の端18bは、タンパク質溶液から分離された細胞成分を含む廃液の廃液部(図示せず)に接続されている。
【0034】
制御装置19は、例えばコンピュータであり、例えば記録部に記録されたプログラムをCPUで実行することによって、チューブポンプ30の動作を制御して、濾過用フィルタ11のタンパク質溶液の流量や濃縮用フィルタ12のタンパク質溶液の流量などを調整することができる。
【0035】
次に、上述の腹水濾過濃縮装置1の作動方法について説明する。
【0036】
先ず、患者から採取した、例えば3L以上の腹水を収容した貯留容器10が第1の流路14に接続される。腹水は、例えば癌患者から採取した癌性腹水であり、癌細胞や細菌などの細胞成分を含む高濃度のタンパク質溶液である。タンパク質溶液には、アルブミンなどの必要なタンパク質、及びサイトカインなどの不要なタンパク質が含まれている。腹水は、例えば1.0mPa・s以上、さらには1.5mPa・s以上の粘性を有している。
【0037】
次に、チューブポンプ30が作動し、貯留容器10の腹水が、第1の流路14を通って濾過用フィルタ11の出入口23から中空糸膜21の管内空間に供給される。腹水は、中空糸膜21の管内空間から中空糸膜21を通って管外空間に流入し、この際に、タンパク質溶液に存在する癌細胞や細菌などの細胞成分が分離される。中空糸膜21を通過して濾過されたタンパク質溶液(濾液)は、濾過用フィルタ11の出入口24から流出し、第2の流路15を通って濃縮用フィルタ12の出入口53から中空糸膜51の管内空間R1に供給される。
【0038】
濃縮用フィルタ12の中空糸膜51の管内空間R1にタンパク質溶液が流入すると、タンパク質溶液の水分が中空糸膜51を通過して中空糸膜51の管外空間R2に流出する。この際、サイトカインなどの不要なタンパク質の一部が水分とともに流出され得る。不要なタンパク質の一部は、中空糸膜51に吸着され得る。中空糸膜51の管外空間R2に流出した水分やタンパク質(除水液)は、濃縮用フィルタ12の出入口54から流出し、第4の流路17を通って廃液部に排出される。
【0039】
濃縮用フィルタ12の中空糸膜51の管内空間R1で水分や不要なタンパク質の一部が除去されたタンパク質溶液(回収液)は、濃縮用フィルタ12の出入口52から流出し、第3の流路16を通じて回収容器13に回収される。このタンパク質溶液には、アルブミンなどの必要なタンパク質が多く含まれている。
【0040】
本実施の形態によれば、限外濾過性能が85mL~300mL/分/200mmHgであり、セルロース系の中空糸膜型の濃縮用フィルタ12を用いることにより濃縮用フィルタ12の濾過能力が上がり、高タンパクの大量の腹水を、アルブミンなどの必要なタンパク質を含む高濃度のタンパク質溶液に濃縮して回収することができる。また、セルロース系の材質はタンパク質を吸着する性質があるため、回収液における不要タンパク質の絶対量を低減することができる。これにより、不要タンパク質に起因するとされる発熱や腎障害等副作用を抑制することが可能となる。
【0041】
ところで、大量の腹水を高倍率に全量処理するためには限外濾過性能を上げる必要がある。限外濾過性能を上げる方法には、中空糸膜の本数を増やすこと、或いは中空糸膜の孔径を大きくすることがある。ポリスルホン系の中空糸膜を用いた場合、膜厚が厚くなるため、中空糸膜の本数を増やすとフィルタ容器が大きくなってしまい、流れの偏りが発生する可能性が高くなる。また、容器を小型化しようと充填率を上げると中空糸同士の接触により濾過能力が発揮できなくなってしまう。中空糸膜の孔径を大きくすると濾過側への漏出が増加し、必要なタンパク質の回収率が低下する。そして、孔径を維持したまま中空糸膜の本数を増やし、限外濾過性能の高くしたフィルタで処理すると、不要なタンパク質も多量に回収してしまう。本実施の形態によれば、セルロース系の中空糸膜型の濃縮用フィルタ12を用いることにより、ポリスルホン系の中空糸膜に比べて膜厚が薄いため、中空糸膜の本数を増やしても、ポリスルホンに比べて容器を小さく設計することができ、この結果中空糸膜の本数を増やすことで、限外濾過性能を上げることができる。
【0042】
本実施の形態にかかる腹水濾過濃縮装置1は、特に癌性腹水を濃縮する際に有効である。 発明者らによる臨床データにおいて、肝性と癌性のTP(総たんぱく質)濃度は、肝性腹水TP濃度が平均1g/dL程度 (Max 2.5g/dL)であり、癌性腹水TP濃度が平均 3g/dL程度(Max 9g/dL)であったが、一般的に癌性腹水は、肝性腹水に比べてTP濃度が高く、濃縮が困難となる。そこで、発明者らは、本実施の形態のように限外濾過性能を85mL/分/200mmHg以上にすることで、癌性腹水でも5倍濃縮で3Lの腹水を処理することができることを見出した。また、癌性腹水は、肝性腹水に比べてTP濃度が高いだけでなく、不要なたんぱく質の含有量(絶対量)も多い。そこで、発明者らは、タンパク質を吸着する性質があるセルロース膜を癌性腹水の濃縮用フィルタとして使用することで、回収液における不要なタンパク質の絶対量を低減することを見出した。すなわち、これまで、肝性腹水においてセルロース膜はタンパク質の回収量が減少するため好まれなかったが、発明者らは、癌性腹水に対して濃縮用フィルタとしてセルロース膜を使用することで、タンパク質の回収量への影響は小さい範囲内で、肝性腹水に比べて癌性腹水に多く含まれている不要なタンパク質の絶対量を減少できるという新たな効果を見出した。
【0043】
濃縮用フィルタ12は、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の中空糸膜51における線速度が2.8m/hr以下になるように構成されているとよい。これにより、サイトカインなどの不要なタンパク質の中空糸膜51への吸着量を上げて、不要なタンパク質の回収率を下げることができる。
【0044】
濃縮用フィルタ12の中空糸膜51の膜厚Dは45μm以下であるとよい。これにより、中空糸膜51のTMPが小さくなり、中空糸膜51を通じた必要なタンパク質の漏出を減らすことができる。
【0045】
濃縮用フィルタ12の中空糸膜51の有効膜面積Eは0.3m2以上であるとよい。これにより、85mL~300mL/分/200mmHgの限外濾過性能を得ても、中空糸膜51の孔径を小さく維持することができ、この結果中空糸膜51を通じた必要なタンパク質の漏出を減らすことができる。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0047】
例えば上記実施の形態における腹水濾過濃縮装置1の構成は、これに限られず他の構成を有するものであってもよい。例えばポンプは、第1の流路14のみでなく、第2の流路15などの他の流路にも設けられていてもよい。また、ポンプは、第1の流路14ではなく、第2の流路15に設けられていてもよい。第4の流路17には、陰圧発生装置が設けられていてもよい。さらに、貯留容器10から回収容器13にタンパク質溶液を送るにあたり、ポンプを用いずに落差圧を用いてもよい。腹水濾過濃縮装置1の濾過方法は、外圧濾過法を用いてもよい。例えば第1の流路14を濾過用フィルタ11の出入口24に接続し、第2の流路15を濾過用フィルタ11の出入口23に接続し、腹水を中空糸膜21の外側から内側に通過させてもよい。濃縮用フィルタ12は、並列又は直列に複数本繋げて使用されてもよい。また、腹水濾過濃縮装置1や濃縮用フィルタ12などの製造方法は、公知の乾湿式製膜技術を用いて適宜選択されるものであり、特段限定されるものではない。
【実施例
【0048】
以下に、本発明が高タンパクの大量の腹水を高濃度に濃縮して回収可能であり、なおかつ腹水の不要なタンパク質の回収率を低減可能であることを確認する実験結果を示す。
【0049】
<濃縮用フィルタ>
濃縮用フィルタの限外濾過性能は、膜面積(中空糸膜束、有効長)もしくは孔径(製造条件:二重紡口から押し出す原液および内液の濃度、温度等)を制御して、製造することにより調整した。線速度については、膜面積(中空糸膜束)もしくは中空糸内径(製造条件:内液移送圧力等)を制御して、製造することにより調整した。
【0050】
<実験方法>
タンパク質濃度を3g/dLに調整した疑似腹水5Lを準備し、サイトカインの指標として、同じ低分子量領域のタンパク質であるα1-MG(α1-ミクログロブリン)を1mg/L添加した。本疑似腹水は濾過器を通過した細胞成分のないものとみなすことができるため、濾過用フィルタは省略した方法で実施した。擬似腹水5Lが濃縮用フィルタに毎分50mLで導入され、回収液が毎分10mLで回収容器に回収される(除水液が毎分40mLで除水される)ようにポンプの流量を調整して、疑似腹水を5倍濃縮した。回収容器に回収された回収液のタンパク質の濃度(回収液TP濃度)と、回収液中の、サイトカインと同じ低分子量領域のタンパク質(α1-MG)の回収率(貯留容器の腹水中のタンパク質(α1-MG)のうち、回収容器に回収されたタンパク質(α1-MG)の割合)と、除水液のタンパク質の濃度(除水液TP濃度)を測定した。実験の各種条件及び結果を図3の表に示す。
【0051】
(実施例1)
限外濾過性能が100mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が2m/hr、膜厚が15μm、有効膜面積が1.5m2のものを用いた。
【0052】
(実施例2)
限外濾過性能が100mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が3m/hrのものを用いた。中空糸膜の膜厚と有効膜面積は、実施例1と同じである。
【0053】
(実施例3)
限外外濾過性能が86mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が3m/hr、膜厚が50μmのものを用いた。中空糸膜の有効膜面積は、実施例1と同じである。
【0054】
(実施例4)
限外外濾過性能が86mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、膜厚が50μmのものを用いた。中空糸膜の線速と有効膜面積は、実施例1と同じである。
【0055】
(実施例5)
限外外濾過性能が100mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が3m/hr、膜厚が50μm、有効膜面積が0.2m2のものを用いた。
【0056】
(実施例6)
限外濾過性能が100mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、有効膜面積が0.2m2のものを用いた。中空糸膜の線速と膜厚は、実施例1と同じである。
【0057】
(実施例7)
限外濾過性能が125mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜の有効膜面積、線速及び膜厚は、実施例1と同じである。
【0058】
(比較例1)
限外外濾過性能が107mL/分/200mmHgであり、ポリスルホン(PSF)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が2m/hr、膜厚が45μm、有効膜面積が1.5m2のものを用いた。
【0059】
(比較例2)
限外外濾過性能が350mL/分/200mmHgであり、ポリスルホン(PSF)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が1.1m/hr、膜厚が43μm、有効膜面積が2.6m2のものを用いた。
【0060】
(比較例3)
限外外濾過性能が40mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が5m/hr、膜厚が15μm、有効膜面積が0.7m2のものを用いた。
【0061】
(比較例4)
限外外濾過性能が330mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いた。濃縮用フィルタの中空糸膜には、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の線速度が1.0m/hr、膜厚が15μm、有効膜面積が3.0m2のものを用いた。
【0062】
例えば実施例1~6及び比較例1~4により、限外濾過性能が100mL/分/200mmHgであり、セルローストリアセテート(CTA)の中空糸膜型の濃縮用フィルタを用いると、タンパク質濃度が3g/dLの高タンパクの疑似腹水を途中で目詰まりを起こすことなく5L以上処理することができ、1回の濃縮処理で回収液のタンパク質溶液を5g/dL以上の高濃度に濃縮でき、サイトカイン分子領域のα1-MGの回収率を30%以下にすることを確認できた。
【0063】
例えば実施例1及び実施例2により、タンパク質溶液を50mL/分で5倍濃縮した際の中空糸膜の線速度が2.8m/hr以下であると、回収液のタンパク質溶液を5g/dL以上の高濃度に濃縮しつつ、サイトカイン分子領域のα1-MGの回収率が下がることが確認できた。
【0064】
例えば実施例1及び実施例4により、中空糸膜の膜厚Dが45μm以下であると、サイトカイン分子領域のα1-MGの回収率を30%以下にしつつ、回収液のタンパク質溶液の濃度が上がることを確認できた。また、除水液におけるタンパク質濃度が下がることを確認できた。すなわち、中空糸膜を通じた必要なタンパク質の漏出を抑制することや、サイトカイン分子領域のα1-MGの中空糸膜への吸着を促進することが確認できた。
【0065】
例えば実施例1及び実施例6により、膜面積が0.3m2以上であると、回収液のタンパク質溶液を5g/dL以上の高濃度に濃縮し、サイトカイン分子領域のα1-MGの回収率を30%以下にしつつ、除水液のタンパク質濃度が0.20g/dL以下になることを確認できた。すなわち、中空糸膜を通じた必要なタンパク質の漏出を抑制することや、サイトカイン分子領域のα1-MGの中空糸膜への吸着を促進することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、高タンパクの大量の腹水を、必要なタンパク質を含む高濃度のタンパク質溶液に濃縮して回収可能であり、なおかつ腹水の不要なタンパク質の回収率を低減可能な腹水濾過濃縮装置を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 腹水濾過濃縮装置
10 貯留容器
11 濾過用フィルタ
12 濃縮用フィルタ
13 回収容器
14 第1の流路
15 第2の流路
16 第3の流路
17 第4の流路
18 第5の流路
図1
図2
図3