(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】複合断熱材
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20240905BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20240905BHJP
H01M 50/262 20210101ALI20240905BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M50/204 401H
F16L59/02
H01M50/262 E
H01M50/293
(21)【出願番号】P 2020167597
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】391029509
【氏名又は名称】イソライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】小川 航平
(72)【発明者】
【氏名】青山 知弘
(72)【発明者】
【氏名】上道 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】末吉 篤
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敏昭
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148466(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207608(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第10203984(DE,A1)
【文献】特開2020-119840(JP,A)
【文献】特開2020-068101(JP,A)
【文献】特開2015-230764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の電池セルのうち互いに隣接するもの同士の間、又は該複数の電池セルが収容された複数の電池モジュールのうち互いに隣接するもの同士の間に配置される複合断熱材であって、無機繊維の集合体からなる
断熱材と、前記
断熱材の厚さ方向の変形を抑えるように支持する無機材料からなる支持材とが一体構造になっており、前記複合断熱材をその厚み方向に見たとき、全体の5~60%の面積を前記支持材が占めており、前記支持材は該厚み方向に10MPaの圧力がかけられた拘束状態において更に該厚み方向に1MPaの追加の圧力を加えた時の圧縮率が10%以下で
あり、
前記複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力がかけられた拘束状態において更に該厚み方向に1MPaの追加の圧力がかかる状態と該追加の圧力から解放された状態とからなるサイクルを100サイクル繰り返した後の圧縮復元率が80%以上の形状安定性を有し、且つ1000℃での熱伝導率が0.4W/(m・K)以下の断熱性を有していることを特徴とする複合断熱材。
【請求項2】
前記支持材は、前記
断熱材の厚み方向に貫通するか若しくは該
断熱材の厚みの半分以上に亘って延在するように埋設されており、該厚み方向から見たとき、該
断熱材の中央部又は周辺部に単一若しくは全体に複数個が均等に点在するように配置されていることを特徴とする、請求項
1に記載の複合断熱材。
【請求項3】
前記無機繊維が、アルミナ・シリケート繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、アルカリアースシリケート繊維、及びシリカ繊維のうちの1種以上であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の複合断熱材。
【請求項4】
前記
断熱材は1000℃での熱伝導率が0.15W/(m・K)以下であり、前記支持材は1000℃での熱伝導率が0.5W/(m・K)以下であることを特徴とする、請求項1から
3のいずれか1項に記載の複合断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数の二次電池や複数の電池モジュールのうち隣接するもの同士の間に配置され、緩衝材としての役割と熱伝導の抑制材としての役割を担う複合断熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充電することにより繰り返し使用可能な電池である二次電池は、携帯用電子機器や非常用の蓄電池など、様々な用途に用いられている。特に、電解質内をリチウムイオンが往復することで充放電が行われるリチウムイオン二次電池は、3Vを超える高電圧が得られるうえエネルギー密度が高い等の特徴を有しているので、高性能化が進むスマートフォンやノート型パソコン等の携帯用電子機器に搭載される二次電池として急速に普及しており、更には電動モーターで駆動するハイブリッド車や電気自動車のバッテリーとしても用いられている。
【0003】
上記のリチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、電解質を挟んで対向する1対の正極及び負極で略矩形平板状又は直方体形状の電池セルが構成されており、一般的には複数の電池セルをケース内で積み重ねるか、あるいは長側面同士を対向させて水平方向に並べ、それらを直列に接続した電池モジュールの形態で用いられることが多い。更に、用途に応じて複数の電池モジュールを直列及び/又は並列に接続して使用される。なお、以降の説明では、上記の複数の電池セルを積み重ねた状態、及び長側面同士を対向させて水平方向に並べられた状態をまとめて積層状態と称する。上記の二次電池では、その充放電時に内部で生じる電気化学反応によって断続的に発熱し、電池セルのうち最も広い側面である長側面からの発熱が大きくなる。
【0004】
そこで、上記のように複数の電池セルが積層された構造のモジュールにおいては、上記の電池セルで発生した熱が隣接する電池セルに伝熱しないように、互いに隣接する電池セルの間にシート状等の断熱材が配置されている。また、複数の電池モジュールを並べて用いる場合は、互いに隣接する電池モジュール同士の間にシート状等の断熱材を配置することが多い。これにより、電池セルの熱が他の電池セルや電池モジュールに伝熱するのを抑えることが可能になる。
【0005】
特に、二次電池の場合は、過充電等により電解液が酸化分解したり、機械的な要因で短絡したりすることで電池セルが過度に昇温することがあり、このような場合でも隣接する電池セルに過度の昇温が連鎖する熱暴走の問題を防ぐことが可能な断熱性を有していることが望ましい。更に、上記の電池セル用の断熱材には耐熱性も要求される。すなわち、前述したように電池モジュールでは、熱暴走がすすむと発火に至り、この場合は約1000℃まで昇温するので、一般的にはその温度での耐熱性が求められる。
【0006】
また、電池モジュール内の電池セルは、厚み方向に高圧で押圧された拘束状態でケース内に収容されるため、上記の互いに隣接する電池セルによって挟み込まれている上記の断熱材は、その高圧に耐える強度を有することが望ましい。更に、上記の断続的な発熱によって電池セルには熱膨張及び熱収縮が繰り返し生ずるため、該断熱材には上記の押圧による応力に加えて圧縮応力が掛かる。このとき、断熱材が塑性変形すると、上記の高圧で押圧されている拘束状態が緩んで断熱性が低下してしまう。
【0007】
上記の対策として、断熱材が変形しないように機械的強度を高めることが考えられるが、この場合は該電池セルを構成する活物質に変性を生じさせたり物理的にダメージを与えたりするおそれがある。そこで、断熱材は、圧縮応力から開放されたときに元の形状にすぐに復元する弾性変形が可能な特性を有していることが望ましい。但し、一般的な部材の熱伝導は熱伝導率と厚さに依存し、断熱材の場合は厚さの効果が特に大きいが、上記のように高圧で拘束状態にある断熱材の厚さは通常は1~2mmと小さくなるので、熱膨張による圧縮応力が更に加わる条件下では断熱材の圧縮変位が大きすぎると厚さが極端に小さくなるので断熱性も大きく低下するおそれがある。従って、圧縮応力がかかる条件下でも所望の断熱性を確保できるように、適正な厚さを維持できるのが望ましい。
【0008】
上記の電池モジュール内に収容される複数の電池セル用の断熱材として、特許文献1には、互いに隣接する電池セルの間に設けたセパレーターに凹部を設け、この凹部内にシート状の断熱材を嵌装させる構造が提案されている。かかる構造により、断熱材の厚み方向に圧力が加わってもセパレーターに負荷がかかることで凹部内の断熱材自体には負荷がかからないので、上記の圧縮変形に伴う問題は生じにくいと考えられる。しかしながら、この特許文献1の構造は、断熱材の中央部には支えがないため、断熱材の該中央部で圧縮された場合は、所望の厚さを確保できなかったり、塑性変形が生じたりするおそれがある。
【0009】
また、特許文献2には、好適にはシリカやアルミナ等の微粒子からなる母材と、この母材が過度に圧縮されることで生じる問題を防ぐための支柱の役割を担う強化材とで構成される一体構造の複合断熱材が提案されている。この複合断熱材は、シリカやアルミナ等の微粒子を主材とすることで高い断熱性が得られると共に、強化材により高い圧縮強度を有すると記載されている。しかしながら、電池セルの熱膨張や熱収縮に応じて柔軟に断熱材を弾性変形させるのは困難であると考えられる。
【0010】
また、特許文献3には、電池セルの断熱材として例えば水酸化アルミニウム等の無機水和物を用いることで、該電池セルで生じた熱によって該無機水和物を熱分解させてその結晶水を放出させ、これにより吸熱作用を発揮させると共に、この結晶水の放出後に形成される多孔質構造によって断熱作用を発揮させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2018-542438号公報
【文献】特開2016-148466号公報
【文献】特開2020-119840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、特許文献1及び2の断熱材は、高圧で拘束状態にある断熱材に対して更に圧縮応力が働いたときに柔軟に弾性変形させるのは困難であると考えられる。また、特許文献3の断熱材は、保有する結晶水の量によるものの、熱分解してから数分乃至数十分で結晶水は消失すると考えられるので、当初の断熱性を継続させるのは困難であると考えられる。
【0013】
一般的に、二次電池の発熱初期は80℃以上になると電解液と負極が反応し、140℃を超えるとセパレーターがメルトダウンして全面短絡に至る。温度がこの程度に低く収まっている内に結晶水の放出により昇温を抑えることができればよいが、昇温が継続して結晶水が放出しきった場合は、再度熱暴走が生じることになる。そして、吸熱量より発熱量が多い状態が続いて約1000℃に至った場合は、発火して吸熱効果が数秒程度の短時間で消失する。また、結晶水の放出後に形成される多孔質構造は、熱膨張による圧縮応力がかかると塑性変形すると考えられる。
【0014】
本発明は、上記した従来の断熱材が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、耐熱性及び断熱性を有することに加えて充放電時において圧縮応力が繰り返し加わったときに弾性変形することで、継続的に断熱性を維持することが可能な複合断熱材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る複合断熱材は、積層された複数の電池セルのうち互いに隣接するもの同士の間、又は該複数の電池セルが収容された複数の電池モジュールのうち互いに隣接するもの同士の間に配置される複合断熱材であって、無機繊維の集合体からなる母材と、前記母材の厚さ方向の変形を抑えるように支持する無機材料からなる支持材とが一体構造になっており、前記複合断熱材をその厚み方向に見たとき、全体の5~60%の面積を前記支持材が占めており、前記支持材は該厚み方向に10MPaの圧力がかけられた拘束状態において更に該厚み方向に1MPaの追加の圧力を加えた時の圧縮率が10%以下であり、前記複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力がかけられた拘束状態において更に該厚み方向に1MPaの追加の圧力がかかる状態と該追加の圧力から解放された状態とからなるサイクルを100サイクル繰り返した後の圧縮復元率が80%以上の形状安定性を有し、且つ1000℃での熱伝導率が0.4W/(m・K)以下の断熱性を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性及び断熱性を有することに加えて、圧縮応力が繰り返し加わったときに弾性変形することで継続的に断熱性を維持できる断熱材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る複合断熱材が、電池モジュール内の隣接する電池セル同士の間に挟み込まれている例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る複合断熱材が、隣接する電池モジュール同士の間に挟み込まれている例を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る複合断熱材の一具体例を示す模式的な斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る複合断熱材の他の具体例を示す模式的な斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る複合断熱材の更に他の具体例を示す模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る複合断熱材について説明する。この本発明の実施形態の複合断熱材は、無機繊維の集合体からなる母材と、該母材の厚さ方向の変形を抑えるように該母材を支持する支持材とが一体構造になった複合断熱材であり、積層された複数の電池セルのうち互いに隣接するもの同士の間、又は該複数の電池セルが収容された複数の電池モジュールのうち互いに隣接するもの同士の間に配置され、該電池セルや電池モジュールの熱膨張時又は熱収縮時の緩衝材としての役割と、互いに隣接する電池セル又は電池モジュールの間の熱伝導の抑制材としての役割とを担っている。
【0020】
なお、一体構造とは、母材と支持材とが簡単に分離しない程度に固着した状態にあることをいう。また、
図1には、電池モジュールMのケース1内にリチウムイオン二次電池に代表される複数の略平板状の電池セル2が、矩形シート状の複合断熱材3を挟んで水平方向に並べて収容した例が示されている。また、
図2には、複数の電池モジュールMが矩形シート状の複合断熱材4を挟んで水平方向に並べられている例が示されている。
【0021】
上記の熱伝達の抑制材としての役割を担うため、本発明の実施形態の複合断熱材は1000℃での熱伝導率が0.4W/(m・K)以下の断熱性を有することが好ましい。この条件は、周辺温度が40℃、複合断熱材の厚さが1mmの場合、電池セルに発火が生じて複合断熱材の熱面側が1000℃となったときに、該複合断熱材の冷面側において隣接する電池セルの電解液と負極が反応しないように、該冷面側を80℃以下に維持するための条件である。この条件を満たすため、母材は1000℃での熱伝導率が0.15W/(m・K)以下であることが好ましい。一方、支持材は、1000℃での熱伝導率が0.5W/(m・K)以下であることが好ましい。
【0022】
また、上記の緩衝材としての役割を担うため、本発明の実施形態の複合断熱材は、圧縮応力が繰り返し加わっても弾性変形する性質を有しており、これにより圧縮復元率の低下が小さくなる。具体的には、電池モジュール内では、複数の電池セルと複合断熱材とは10MPa程度の高圧で厚み方向に押圧された拘束状態で積層されている。各電池セルは充放電時において生じる熱により膨張するため、厚み方向に更に1MPa程度の圧力がかかる状態と、この1MPa程度の圧力から解放された状態とが繰り返される。本発明の実施形態の複合断熱材は、この1MPaの追加の圧力がかかる負荷状態と、1MPaの追加の圧力がかからない解放状態とからなるサイクルが100サイクル繰り返された後の圧縮復元率が80%以上の形状安定性を有することが好ましい。
【0023】
更に、本発明の実施形態に係る複合断熱材は、発火に至った場合を想定して耐熱性が約1000℃であるのが望ましい。なお、1000℃の耐熱性とは、欧州規格のEN-1091に準拠して、雰囲気温度1000℃で24時間加熱したときの加熱線収縮率が3%を超えない場合と定義する。以下、構成要素ごとに詳細に説明する。
【0024】
本発明の実施形態の複合断熱材の一方の構成要素である母材は、無機繊維の集合体からなる断熱材である。この無機繊維は、アルミナ・シリケート繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、アルカリアースシリケート繊維、及びシリカ繊維等のうちの1種以上であるのが好ましい。これら繊維は、それぞれ最高使用温度や圧縮復元性が異なるため、用途等に応じて適宜いずれか1種類のみを選択するか、あるいは複数種類を選択する。
【0025】
上記の無機繊維の平均繊維径は1~10μmが好ましく、3~6μmがより好ましい。この平均繊維径が1μm未満では、無機繊維自体の機械的強度が小さくなりすぎる。更に、人体の健康への影響を考慮すると、平均繊維径は3μm以上が好ましい。一方、この平均繊維径が10μmより大きいと、無機繊維自体の伝導伝熱が増加して結果的に複合断熱材の断熱性の低下を招くおそれがある。なお、平均繊維径が6μm以下であれば、上記の伝導伝熱増加の問題がほとんど生じなくなるのでより好ましい。ここで、平均繊維径とは、測定対象となる繊維群を電子顕微鏡で撮像し、得られた画像上の任意の200本の繊維に対して、それらの任意の部分の幅を計測して算術平均したものである。
【0026】
上記の無機繊維の平均繊維長は0.1~50mmが好ましく、0.5~10mmがより好ましい。この平均繊維長が0.1mm未満では、無機繊維同士の絡み合いが小さくなり、所望の機械的強度が得られなくなる。一方、この平均繊維長が50mmを超えると、無機繊維同士が絡みやすくなって容易に塊が生じるため、密度が不均一になったり機械的強度が低下したりし、結果的に複合断熱材の断熱性の低下を招くおそれがある。ここで、平均繊維長とは、測定対象となる繊維群を電子顕微鏡で撮像し、得られた画像上の任意の100本の繊維に対して、それらの長手方向の端から端までの直線距離を計測して算術平均したものである。
【0027】
上記の無機繊維の集合体からなる母材の形状は、該無機繊維が実質的に折損しない程度の応力をかけた後の圧縮復元率が80%以上を確保できる形状であれば特に限定はない。このような形状としては、例えばシート状、ブランケット状、平板(ボード)状等を挙げることができる。上記の母材は、前述したように1000℃での熱伝導率が0.15W/(m・K)以下の断熱性を有していることが好ましい。なお、上記の母材にはシリカ等の無機バインダー、でんぷんやラテックス等の有機バインダー、シリカ、ムライト、アルミナ等の無機粒子が含まれていてもよい。
【0028】
本発明の実施形態の複合断熱材のもう一方の構成要素である支持材は、10MPaの圧力がかけられた拘束状態の下で更に1MPaの圧力が加えられた時の圧縮率が10%以下であり、好ましくは、1000℃での熱伝導率が0.5W/(m・K)以下の断熱性を有しているのが好ましい。また、支持材は母材に比べて例えば圧縮強さに代表される強度特性に優れており、使用する材料によるものの、例えば支持材は圧縮強さが4~12MPa程度であるのが好ましい。上記の条件を満たし且つその用途における最高使用温度での耐熱性を有する無機材料あれば、その材料には特に限定はない。このような材料としては、例えば高温でムライトとなり強度が向上するアルミナ・シリカ系の接着材である、イソライト工業株式会社製の無機接着剤(商品名:カオスティック)を挙げることができる。
【0029】
本発明の実施形態の複合断熱材は、上記の母材と支持材とが一体構造になっている。この一体構造の例としては、圧縮応力がかかる厚み方向における表面側から裏面側まで支持材が貫通しているか、又は母材の厚みの半分以上、好適には80%以上、より好適には90%以上の深さで該厚み方向に延在するように支持材が埋設されていることが好ましい。これにより、該複合断熱材にその厚み方向に外部から圧力が働いても、その負荷のほとんどを支持材で受け止めることができるので、母材自体には強い応力がかからないようにでき、無機繊維の折損を防ぐことができる。
【0030】
本発明の実施形態の複合断熱材は、その厚み方向から見たとき、母材の中央部又は周辺部に支持部が1又は複数個設けられていてもよいし、母材の全体に亘って複数個の支持部が均等に点在するように又は格子状に設けられていてもよい。例えば
図3には、矩形のシート状の母材11に全面に亘って複数の支持材12が水玉模様状(a)や千鳥模様状(b)に設けられた複合断熱材10の例が示されており、
図4には矩形のシート状の母材21に支持材22が格子模様状に設けられた複合断熱材20の例が示されており、
図5には、矩形のシート状の母材31の周囲に支持材32を枠状に配置した複合断熱材30の例が示されている。
【0031】
本発明の実施形態の複合断熱材は、その厚み方向から見たとき、全体の5~60%の面積を支持材が占めている。この支持材が占める割合が5%未満では、隣接する支持材同士の間に位置する母材の無機繊維が応力により折損しやすくなるため、複合断熱材の圧縮復元率が80%未満になる。逆に、この支持材が占める割合が60%を超えると、複合断熱材の1000℃における熱伝導率が0.4W/(m・K)を超え、断熱性が低下するおそれがある。
【0032】
本発明の実施形態の複合断熱材の厚さや形状は、該複合断熱材が挟み込まれる電池セルや電池モジュールに求められる熱伝導抑制の条件から適宜定められるが、一般的には厚さ1~5mm程度の平板状に成形するのが好ましい。なお、必要に応じてこの複合断熱材を2枚以上重ねて用いてもよい。
【0033】
上記のように、本発明の実施形態の複合断熱材は、母材と支持体とが一体化しているため、無機繊維の圧縮復元性を維持することができる。すなわち、上記母材を構成する無機繊維は、本来は高い圧縮復元性を有するが、無機繊維の種類、平均繊維長、平均繊維径、かさ密度によるものの、最大でも数十kPa程度を超えて応力がかかると繊維が折損し始め、1MPa程度の圧縮応力が繰り返し掛かる条件下では無機繊維の多くが折損し、結果的に応力弛緩による圧縮復元率の低下が生じていた。これに対して、上記のように母材と支持体とを一体化させることで繊維の折損を抑えることができ、よって10MPaの圧力がかけられた拘束状態の下で更に1MPa程度の追加の圧力がかかる負荷状態及び該追加の圧力のかからない解放状態からなるサイクルが100サイクル繰り返された後に圧縮復元率80%以上を確保することが可能になる。これにより電池モジュールのように積層された複数の電池セルのうちの互いに隣接するもの同士の間や、複数の電池モジュールのうち互いに隣接するもの同士の間に本発明の実施形態の複合断熱材を設けることで熱伝導の抑制としての役割のみならず、熱膨張や熱収縮時の緩衝材としての役割を担わせることができる。
【0034】
次に、上記した本発明の実施形態に係る複合断熱材の製造方法について説明する。先ず、型枠内に無機繊維の集合体からなる母材若しくはその原料(以下、母材等と称する)を配した後、その厚み方向に見たとき、該母材等の中央部又は周辺部に支持材が単一で存在するか若しくは全面に亘って複数個が均等に点在するように、且つ全体の5~60%の面積を占めるように支持材若しくはその原料(以下、支持材等)を配置する。この支持材の原料が接着剤である場合は、該母材等内に該接着剤を充填することになる。このようにしてレイアウトした母材等及び支持材等の表面を、必要に応じて、上記の母材と同種の若しくは異種の母材若しくはその原料を用いて全面的に覆った後、該母材等の厚み方向に圧縮成形する。その後、好適には雰囲気温度100~200℃で1~3時間程度かけて加熱処理を行なう。これにより、本発明の実施形態の複合断熱材を作製することができる。
【実施例】
【0035】
材料が異なる無機繊維からなる複数の母材を用意し、それらの各々を支持材と一体化させて下記に示す実施例及び比較例の複合断熱材を作製した。そして、各複合断熱材に対して、耐熱性、圧縮復元性、及び断熱性を評価した。耐熱性は、24時間加熱したときの下記式1に示す加熱線収縮率が3%以下の条件を満たす加熱温度として定義される耐熱温度で評価した。
[式1]
加熱線収縮率=(1-(加熱後寸法/加熱前寸法))×100
【0036】
圧縮復元性は、上記耐熱温度において10MPaの圧力がかけられた拘束状態の下、更に1MPaの追加の圧力がかかる負荷状態と該追加の圧力がかからない解放状態からなるサイクルを100サイクル繰り返した後における、下記式2に示す圧縮復元率で評価した。断熱性は、JISA1412-2(1999)付属書Aの平板比較法に準拠して測定した熱伝導率で評価した。
[式2]
圧縮復元率=復元後の厚さ/圧縮前の厚さ×100
【0037】
[実施例1]
無機繊維の集合体の形態を有するイソライト工業株式会社製のアルカリアースシリケート繊維質ペーパー(商品名:BSSRペーパー、厚さ2mm、平均繊維径3.5μm、平均繊維長4.5mm)を母材として用意した。この母材の断熱性を評価したところ、1000℃での熱伝導率が0.14W/(m・K)であった。一方、支持材の原料としてイソライト工業株式会社製の無機接着剤(商品名 カオスティック)を用意した。この無機接着剤は、乾燥することで10MPaの圧力がかけられた拘束状態において更に1MPaの追加の圧力を加えた時の圧縮率が10%、1000℃での熱伝導率が0.5W/(m・K)の断熱性を有する支持材になる。
【0038】
上記母材を縦20mm×幅20mmの複数枚の正方形シート片に裁断し、これら複数枚のシート片を隣同士が幅8.5mmの隙間をあけて離間するようにマトリックス状に配し、その隙間部分に上記無機接着剤を充填した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は60%となった。このようにしてレイアウトした複数枚の正方形シート片及び支持材を全面的に覆うように、同じ種類の厚さ2mmの母材で表面側を覆った。これにより、母材の厚みの半分の深さまで該厚み方向に支持材を延在させた。このようにして配置した母材及び支持材を圧縮成形した後、雰囲気温度120℃で3時間かけて乾燥処理を施すことで上記無機接着剤を乾燥させた。得られた複合断熱材は、耐熱温度が1200℃であった。また、隣接する電池セルの間に挟み込むことを想定して厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.2mmとなった。この状態で厚み方向に更に1MPaの追加の圧力がかかる負荷状態とこの追加の圧力がかからない解放状態とからなるサイクルを100サイクル繰り返した後の圧縮復元率が83%であった。また、1000℃での熱伝導率が0.4W/(m・K)であった。
【0039】
[実施例2]
実施例1の母材を用い、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて0.4mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は5%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.1mmとなった。また、耐熱温度が1200℃、圧縮復元率が80%、1000℃での熱伝導率が0.38W/(m・K)であった。
【0040】
[実施例3]
母材としてイソライト工業株式会社製のアルミナ繊維質ペーパー(商品名:1600ペーパー、厚さ2mm、平均繊維径5μm、平均繊維長3.0mm)を用いた以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。なお、この母材の断熱性を評価したところ、1000℃での熱伝導率が0.14W/(m・K)であった。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は60%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.2mmとなった。また、耐熱温度が1400℃であった。また、圧縮復元率が81%、1000℃での熱伝導率が0.39W/(m・K)であった。
【0041】
[実施例4]
実施例3の母材を用い、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて0.4mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は5%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.1mmとなった。また、耐熱温度が1400℃、圧縮復元率が80%、1000℃での熱伝導率が0.37W/(m・K)であった。
【0042】
[実施例5]
母材としてイソライト工業株式会社製のアルミナ・シリケート繊維(商品名:RCF1260ペーパー、厚さ2mm、平均繊維径3μm、平均繊維長4.2mm)を用いた以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。なお、この母材の断熱性を評価したところ、1000℃での熱伝導率が0.14W/(m・K)であった。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は60%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.2mmとなった。また、耐熱温度が1260℃、圧縮復元率が81%、1000℃での熱伝導率が0.40W/(m・K)であった。
【0043】
[実施例6]
実施例5の母材を用い、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて0.4mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は5%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.1mmとなった。また、耐熱温度が1260℃、圧縮復元率が80%、1000℃での熱伝導率が0.38W/(m・K)であった。
【0044】
[実施例7]
母材としてITM社製のムライト繊維質ペーパー(商品名:ファイバーマックス、厚さ2mm、平均繊維径5μm、平均繊維長3.0mm)を用いた以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。なお、この母材の断熱性を評価したところ、1000℃での熱伝導率が0.14W/(m・K)であった。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は60%であった。得られた複合断熱材は、耐熱温度が1400℃、圧縮復元率が81%、1000℃での熱伝導率が0.39W/(m・K)であった。
【0045】
[実施例8]
実施例7の母材を用い、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて0.4mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は5%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.1mmとなった。また、耐熱温度が1400℃、圧縮復元率が80%、1000℃での熱伝導率が0.37W/(m・K)であった。
【0046】
[実施例9]
母材として日本グラスファイバー株式会社製のシリカ繊維(平均繊維径8μm、平均繊維長3.0mm)を用いて抄造したペーパーを用いた以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。なお、この母材の断熱性を評価したところ、1000℃での熱伝導率が0.14W/(m・K)であった。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は60%であった。得られた複合断熱材は、耐熱温度が1000℃、圧縮復元率が81%、1000℃での熱伝導率が0.40W/(m・K)であった。
【0047】
[実施例10]
実施例9の母材を用い、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて0.4mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は5%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.1mmとなった。また、耐熱温度が1000℃、圧縮復元率が80%、1000℃での熱伝導率が0.38W/(m・K)であった。
【0048】
[実施例11]
母材として上記のイソライト工業株式会社製のアルミナ・シリケート繊維と上記のシリカ繊維とを混紡して抄造したペーパーを用いた以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。なお、この母材の断熱性を評価したところ、1000℃での熱伝導率が0.15W/(m・K)であった。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は60%であった。得られた複合断熱材は、耐熱温度が1000℃、圧縮復元率が81%、1000℃での熱伝導率が0.40W/(m・K)であった。
【0049】
[実施例12]
実施例11の母材を用い、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて0.4mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は5%であった。得られた複合断熱材は、厚み方向に10MPaの圧力をかけたときの厚さは1.1mmとなった。また、耐熱温度が1000℃、圧縮復元率が80%、1000℃での熱伝導率が0.38W/(m・K)であった。
【0050】
[実施例13]
支持材の原料にイソライト工業株式会社製の無機接着剤(商品名 カオスティックC)を用いた以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この無機接着剤は、乾燥すると10MPaの圧力がかけられた拘束状態において更に1MPaの追加の圧力を加えた時の圧縮率が10%の支持材になる。また、1000℃での熱伝導率が0.51W/(m・K)の断熱性を有する支持材になる。得られた複合断熱材は、耐熱温度が1000℃、圧縮復元率が81%、1000℃での熱伝導率が0.41W/(m・K)であった。
【0051】
[比較例1]
実施例1の母材を用いて、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて0.3mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は4%であった。この複合断熱材は、無機繊維に応力が掛かりすぎて折損したため、圧縮復元率は60%と小さくなった。
【0052】
[比較例2]
実施例1の母材を用いて、隣接するシート片同士の隙間の幅を8.5mmに代えて9.5mmとした以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この複合断熱材をその厚み方向から見たとき、複合断熱材の全面積に対する支持材の占める面積の割合は62%であった。支持材を伝わる熱伝達が大きいため1000℃での熱伝導率が0.42W/(m・K)と大きくなった。
【0053】
[比較例3]
支持材の原料にイソライト工業株式会社製の無機接着剤(商品名 カオスティックW)を用いた以外は実施例1と同様にして複合断熱材を作製した。この無機接着剤は、乾燥することで10MPaの圧力がかけられた拘束状態において更に1MPaの追加の圧力を加えた時の圧縮率が15%、1000℃での熱伝導率が0.45W/(m・K)の断熱性を有する支持材になる。この複合断熱材の母材は圧縮率が大きいために無機繊維に応力が掛かりすぎて折損したため、圧縮復元率は50%で小さくなった。
【符号の説明】
【0054】
M 電池モジュール
1 ケース
2 電池セル
3、4、10、20、30 複合断熱材
11、21、31 母材
12、22、32 支持材