(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】樹脂処理カーボン材料及びその製造方法、並びにカーボン材料複合組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20240905BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240905BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240905BHJP
C09C 1/46 20060101ALI20240905BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240905BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C09C3/10
C01B32/194
C01B32/168
C09C1/46
C09D17/00
C08F293/00
(21)【出願番号】P 2020176176
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】土居 誠司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 理沙
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-075660(JP,A)
【文献】特開2018-177926(JP,A)
【文献】特開2013-075795(JP,A)
【文献】特開2014-214207(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101104653(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/10
C01B 32/194
C01B 32/168
C09C 1/46
C09D 17/00
C08F 293/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種のカーボン材料と、
下記(1)~(4)の要件を満たす樹脂(1)と、を含有する樹脂処理カーボン材料
(但し、有機溶媒を含有するものを除く)。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA-Bブロックコポリマーである。
(2)前記ポリマー鎖Aが、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマー単位(a)を80質量%以上含む、アミン価が0mgKOH/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000~20,000のポリマーブロックである。
(3)前記ポリマー鎖Bが、下記一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)を含む、アミン価が0~200mgKOH/gのポリマーブロックである。
(4)前記メタクリレート系モノマー単位(b)の含有量が、前記樹脂(1)全体を基準として、30~85質量%である。
(前記一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、又はアリールメチル基を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【請求項2】
前記ポリマー鎖Aが、2-エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、及びメタクリロイルオキシエチルポリイプシロンカプロラクトンからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を50質量%以上含む請求項1に記載の樹脂処理カーボン材料。
【請求項3】
前記樹脂(1)の含有量が、前記カーボン材料100質量部に対して、1~300質量部である請求項1又は2に記載の樹脂処理カーボン材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂処理カーボン材料の製造方法であって、
前記カーボン材料及び下記(1)~(3)の要件を満たす樹脂(2)を水系媒体中に分散させた後、下記一般式(3)で表される無機塩を添加して前記樹脂(1)を析出させる工程を有する樹脂処理カーボン材料の製造方法。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA-Bブロックコポリマーである。
(2)前記ポリマー鎖Aが、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマー単位(a)を80質量%以上含む、アミン価が0mgKOH/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000~20,000のポリマーブロックである。
(3)前記ポリマー鎖Bが、下記一般式(2)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(c)を含む、アミン価が0~230mgKOH/gのポリマーブロックである。
(前記一般式(2)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、又はアリールメチル基を示し、Xは塩素又は臭素を示す)
(前記一般式(3)中、Mはリチウム、ナトリウム、又はカリウムを示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂処理カーボン材料及び分散媒体を含有し、
前記分散媒体が
、熱可塑性樹脂であり、
前記カーボン材料の含有量が、0.5~30質量%であるカーボン材料複合組成物
(但し、有機溶媒を含有するものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂処理カーボン材料、樹脂処理カーボン材料の製造方法、及びカーボン材料複合組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンファイバーやカーボンナノチューブ等の繊維状のカーボン類、及びグラフェンやグラファイト等の層状のカーボン類(以下、纏めて「カーボン材料」とも記す)は、炭素原子の共有結合によって形成される六員環グラファイト構造(グラフェンシート)を有する。このような特徴的な構造を有するカーボン材料は、導電性、伝熱性、及び強度等の特性を各種材料に付与する次世代の材料として注目されている。例えば、カーボン材料により付与される電気的性質や熱的性質に注目し、帯電防止剤、導電材料、半導体、燃料電池電極、ディスプレーの陰極線、電池材料、電磁波シールド材等の新規用途の開発が進められている。
【0003】
これらの用途には、有機溶剤や熱可塑性樹脂等の媒体中にカーボン材料を十分かつ安定的に分散させたカーボン材料複合組成物が必要とされる。但し、ナノサイズのカーボン材料は表面エネルギーが高く、強いファンデルワールス力が働くために、極めて凝集しやすく、分散させても直ちに凝集するといった特性を有する。また、熱可塑性樹脂等の樹脂にカーボン材料を分散させた場合、カーボン材料に対する樹脂の濡れ性や親和性が不足し、カーボン材料と樹脂の界面剥離が生じて、性能が十分に発揮されなくなることがあった。また、カーボン材料の電気的性質が樹脂によって阻害され、カーボン材料の導電性が十分発揮されなくなることもあった。
【0004】
そこで、カーボン材料を媒体中に安定して分散させるために分散剤が使用される。例えば、アルカノールアミン塩等のカチオン性界面活性剤や、スチレン-アクリル系樹脂等の高分子分散剤を用いてカーボンナノチューブ等のカーボン材料を有機溶剤中に分散させた分散液が提案されている(特許文献1及び2)。
【0005】
なお、ナノサイズのカーボン材料を熱可塑性樹脂等の樹脂中にナノサイズの状態で分散させるのは一般的に困難である。このため、ナノサイズのカーボン材料を液媒体に分散させたカーボン材料分散液を予め用意するとともに、このカーボン材料分散液に樹脂を添加し、カーボン材料の表面を樹脂で被覆修飾して、分散性等を向上させる方法が提案されている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-174084号公報
【文献】特表2013-537570号公報
【文献】特許第5057513号公報
【文献】特許第5280016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、カチオン性界面活性剤等の界面活性剤をカーボン材料の分散剤として用いた場合、分散性が不十分になるとともに、再凝集しやすくなるといった課題があった。また、一般的な高分子分散剤をカーボン材料の分散剤として用いると、カーボン材料の導電性が阻害されることがあった。また、特許文献3及び4で提案された方法であっても、ナノサイズのカーボン材料を十分に分散させることは困難でるあとともに、カーボン材料の特性が損なわれやすい場合があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、液媒体や熱可塑性樹脂等の分散媒体と混合することで、分散性及び再分散性に優れたカーボン材料分散液等のカーボン材料複合組成物を容易に調製することが可能な樹脂処理カーボン材料を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、この樹脂処理カーボン材料の製造方法、及びこの樹脂処理カーボン材料を用いて得られるカーボン材料複合組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す樹脂処理カーボン材料が提供される。
[1]カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種のカーボン材料と、下記(1)~(4)の要件を満たす樹脂(1)と、を含有する樹脂処理カーボン材料。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA-Bブロックコポリマーである。
(2)前記ポリマー鎖Aが、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマー単位(a)を80質量%以上含む、アミン価が0mgKOH/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000~20,000のポリマーブロックである。
(3)前記ポリマー鎖Bが、下記一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)を含む、アミン価が0~200mgKOH/gのポリマーブロックである。
(4)前記メタクリレート系モノマー単位(b)の含有量が、前記樹脂(1)全体を基準として、30~85質量%である。
【0010】
(前記一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、又はアリールメチル基を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【0011】
[2]前記ポリマー鎖Aが、2-エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、及びメタクリロイルオキシエチルポリイプシロンカプロラクトンからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を50質量%以上含む前記[1]に記載の樹脂処理カーボン材料。
[3]前記樹脂(1)の含有量が、前記カーボン材料100質量部に対して、1~300質量部である前記[1]又は[2]に記載の樹脂処理カーボン材料。
【0012】
また、本発明によれば、以下に示す樹脂処理カーボン材料の製造方法が提供される。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂処理カーボン材料の製造方法であって、前記カーボン材料及び下記(1)~(3)の要件を満たす樹脂(2)を水系媒体中に分散させた後、下記一般式(3)で表される無機塩を添加して前記樹脂(1)を析出させる工程を有する樹脂処理カーボン材料の製造方法。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA-Bブロックコポリマーである。
(2)前記ポリマー鎖Aが、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマー単位(a)を80質量%以上含む、アミン価が0mgKOH/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000~20,000のポリマーブロックである。
(3)前記ポリマー鎖Bが、下記一般式(2)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(c)を含む、アミン価が0~230mgKOH/gのポリマーブロックである。
【0013】
(前記一般式(2)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、又はアリールメチル基を示し、Xは塩素又は臭素を示す)
【0014】
(前記一般式(3)中、Mはリチウム、ナトリウム、又はカリウムを示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【0015】
さらに、本発明によれば、以下に示すカーボン材料複合組成物が提供される。
[5]前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂処理カーボン材料及び分散媒体を含有し、前記分散媒体が、有機溶剤又は熱可塑性樹脂であり、前記カーボン材料の含有量が、0.5~30質量%であるカーボン材料複合組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液媒体や熱可塑性樹脂等の分散媒体と混合することで、分散性及び再分散性に優れたカーボン材料分散液等のカーボン材料複合組成物を容易に調製することが可能な樹脂処理カーボン材料を提供するができる。また、本発明によれば、この樹脂処理カーボン材料の製造方法、及びこの樹脂処理カーボン材料を用いて得られるカーボン材料複合組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0018】
<樹脂処理カーボン材料>
本発明の樹脂処理カーボン材料の一実施形態は、カーボン材料と、このカーボン材料の表面処理樹脂として機能しうる、所定の要件を満たす樹脂(1)と、を含有する組成物である。なお、この樹脂(1)は、有機溶剤や熱可塑性樹脂等の分散媒体中では、カーボン材料を分散媒体中に分散させる、いわゆる高分子分散剤としても機能しうる成分である。以下、本発明の一実施形態である樹脂処理カーボン材料の詳細について説明する。
【0019】
(カーボン材料)
カーボン材料は、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種である。カーボンファイバー及びカーボンナノチューブは、繊維状のカーボン材料である。グラファイト及びグラフェンは、層状のカーボン材料である。カーボンファイバーとしては、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、ピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維、及びこれらの再生品等を挙げることができる。なかでも、繊維径がサブミクロンサイズであり、アスペクト比が大きく、六員環グラファイト構造を巻いて円筒状にした形状を有するカーボンナノファイバーや、その径がシングル~二桁のナノサイズであるカーボンナノチューブを用いることが好ましい。なお、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブとしては、多層のマルチウォールや単層のシングルウォール等を用いることができる。白金やパラジウム等の金属や金属塩がカーボン材料にドープされていてもよい。また、カーボン材料は、酸化処理、プラズマ処理、放射線処理、コロナ処理、及びカップリング処理等によって表面改質されていてもよい。
【0020】
その表面にカルボキシ基を有するカーボン材料を用いることが好ましい。カーボン材料と併用する樹脂(1)は、第4級アンモニウム塩基やアミノ基等の塩基性基を有する。すなわち、樹脂(1)中の塩基性基がカーボン材料表面のカルボキシ基とイオン結合することで、樹脂(1)がカーボン材料に吸着し、樹脂(1)とカーボン材料との親和性が向上する。これにより、分散媒体中におけるカーボン材料からの樹脂(1)の脱離が抑制され、分散安定性が向上するとともに、再凝集をより効果的に抑制することができる。表面酸化、シランカップリング剤等の処理剤による処理、及びカルボキシ基を有する芳香族ジアゾニウム塩等との表面カップリング等により、カーボン材料の表面にカルボシキ基を導入することができる。
【0021】
(樹脂(1))
樹脂(1)は、カーボン材料の表面を処理する表面処理樹脂として機能しうる樹脂である。樹脂(1)は、下記(1)~(4)の要件を満たす。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA-Bブロックコポリマーである。
(2)ポリマー鎖Aが、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマー単位(a)を80質量%以上含む、アミン価が0mgKOH/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000~20,000のポリマーブロックである。
(3)ポリマー鎖Bが、下記一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)を含む、アミン価が0~200mgKOH/gのポリマーブロックである。
(4)メタクリレート系モノマー単位(b)の含有量が、樹脂(1)全体を基準として、30~85質量%である。
【0022】
(前記一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、又はアリールメチル基を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【0023】
樹脂(1)は、メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA-Bブロックコポリマーである(要件(1))。A-Bブロックコポリマーのような構造が制御された樹脂は、リビング重合によって得ることができる。なかでも、リビングラジカル重合によって製造することが、重合条件や重合装置等の制限が少ないために好ましい。有機ヨウ化物を開始化合物として用いるリビングラジカル重合の場合、末端成長基であるヨウ素が第3級の炭素に結合していることが好ましい。このため、樹脂(1)は、メタクリレート系モノマー単位を主成分とするA-Bブロックコポリマーであることが好ましい。
【0024】
メタクリレート系モノマーを用いることで、樹脂(1)のガラス転移温度を高くすることができ、耐熱性等の熱的性質を向上させることができる。また、硬質から軟質までの広範な性質とすることができるために好ましい。したがって、樹脂(1)は、メタクリレート系モノマー単位のみで実質的に構成される(メタクリレート系モノマー単位の含有量が100質量%である)A-Bブロックコポリマーであることが好ましい。
【0025】
樹脂(1)は、ポリマー鎖A(以下、「A鎖」とも記す)及びポリマー鎖B(以下、「B鎖」とも記す)を有するA-Bブロックコポリマーである。A鎖は、分散媒体に溶解、親和、又は相溶するとともに、カーボン材料を分散媒体に親和させ、立体反発や電気的反発によってカーボン材料の凝集等を抑制するポリマーブロックである。一方、B鎖は、カーボン材料に吸着してカプセル化するポリマーブロックである。分子構造中で機能を分離させたA-Bブロックコポリマーとすることで、カーボン材料を分散媒体中に安定的に分散させることができる。
【0026】
樹脂(1)のポリマー鎖Aは、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマー単位(a)を80質量%以上含む、アミン価が0mgKOH/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000~20,000のポリマーブロックである(要件(2))。
【0027】
ポリマー鎖A(A鎖)は、分散媒体として用いる有機溶剤や熱可塑性樹脂への親和性を高めるため、非官能基性のモノマーに由来する構成単位を有することが好ましい。この非官能性のモノマーとして、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマーを用いる。
【0028】
非官能性のモノマーの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート等の炭素数1~22のアルキルメタクリレート;シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート等のシクロアルキルメタクリレート;ジシクロペンテニルメタクリレート等のシクロアルケニルメタクリレート;トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート等のアルキルシクロアルキルメタクリレート;ベンジルメタクリレート等のアリールアルキルメタクリレート;メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、ドデシルオキシエチルメタクリレート等のアルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素2~3)メタクリレート;フェノキシエチルメタクリレート等のフェノキシアルキレン(炭素数2~3)メタクリレート;ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート等のシクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)メタクリレート;ポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ12ヒドロキシステアリン酸等のポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)の片末端メタクリレート;等を挙げることができる。
【0029】
分散媒体として使用しうるポリオレフィン等の熱可塑性樹脂への溶解性や相溶性の観点から、好適な非官能性のモノマーとしては、2-エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルポリイプシロンカプロラクトンを挙げることができる。
【0030】
A鎖中のメタクリレート系モノマー単位(a)の含有量は、A鎖全体を基準として、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。A鎖中のメタクリレート系モノマー単位(a)の含有量が80質量%未満であると、その他のモノマーの性質が顕在化しやすくなり、オレフィン系の熱可塑性樹脂に対する相溶性が低下する。A鎖中のメタクリレート系モノマー単位(a)に占める、上述の好適な非官能性のモノマーに由来する構成単位の含有量は、50質量%であることが好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
A鎖は、メタクリレート系モノマー単位(a)以外のその他の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成単位を構成するモノマー(その他のモノマー)としては、メタクリル酸;2-ヒドロキシエチルメタクリレートのフタル酸、コハク酸、シロクヘキサンジカルボン酸のモノエステル体であるカルボキシル基含有メタクリレート;2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有メタクリレート;ポリ(n=2以上)エチレングリコールモノメタクリレート、ポリ(n=2以上)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート等のグリコール系メタクリレート;グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、オキセタニルメチルメタクリレート等のエーテル環含有メタクリレート;トリフルオロメチルメタクリレート、ペンタフロロエチルメタクリレート等のハロゲン基含有メタクリレート;ポリシロキサンの末端メロタクリレート、ポリスチレンの末端メタクリレート等のマクロモノマー;等を挙げることができる。
【0032】
A鎖のアミン価は0mgKOH/gである。具体的には、A鎖は、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートに由来する構成単位を実質的に含まない。A鎖のアミン価を0mgKOH/gとすることで、B鎖との機能を明確に分離することが可能となり、分散媒体中へのカーボン材料の分散性を向上させることができる。
【0033】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定されるポリスチレン換算のA鎖の数平均分子量(Mn)は、3,000~20,000、好ましくは5,000~15,000である。A鎖のMnを上記の範囲とすることで、A鎖の立体反発等によってカーボン材料同士の凝集を抑制することができる。A鎖のMnが3,000未満であると、立体反発が不足し、分散安定性を向上させることができない。一方、A鎖のMnが20,000超であると、分散液等の粘度が過度に上昇したり、分散媒体に溶解しにくくなったりすることがある。また、樹脂処理カーボン材料の製造段階で、水系媒体中に分散しにくくなる場合がある。
【0034】
樹脂(1)のポリマー鎖Bは、下記一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)を含む、アミン価が0~200mgKOH/gのポリマーブロックである(要件(3))。具体的には、B鎖は、アミノ基や第4級アンモニウム塩基等の塩基性基を有するポリマーブロックである。これらの塩基性基がカーボン材料にイオン結合、電気的作用、水素結合、π-πスタッキング、又は疎水性相互作用等により吸着する。
【0035】
(前記一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、又はアリールメチル基を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【0036】
B鎖は、一般式(1)で表される官能基(第4級アンモニウム塩基)を有する。この官能基はイオン性基であることから、この官能基を有するB鎖を含むA-Bブロックコポリマー(樹脂(1))を用いることで、得られるカーボン材料複合組成物に導電性を付与することが期待される。B鎖は、一般式(1)で表される官能基を有することで、水に溶解しにくく、低極性溶媒等の有機溶剤に溶解しやすいといった特性を有する。一般式(1)中、X1及びX2で表されるフッ化アルキル基(パーフルオロアルキル基)の炭素数が8超であると、フッ化アルキル基の撥水性が高くなり過ぎてしまい、溶解しうる有機溶剤が制限されることがある。X1及びX2で表されるフッ化アルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましい。このB鎖は、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂に対する親和性を実質的に有しない。すなわち、カーボン材料に吸着したB鎖は熱可塑性樹脂に溶解しないため、カーボン材料からB鎖が脱離しにくく、カーボン材料を安定して分散させることができる。
【0037】
一般式(1)中のアニオンとしては、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホン)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドアニオン、ビス(2,2,2-トリフルオロエチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロプロピルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロブチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロオクチルスルホン)イミドアニオン、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオン等を挙げることができる。なかでも、溶剤溶解性、イオン導電性、及び市場での入手しやすさ等の観点から、それほど炭素数が大きくないビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロブチルスルホン)イミドアニオンが好ましい。
【0038】
ポリマー鎖Bは、一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマーを構成成分とするポリマーブロックである。一般式(1)で表される官能基は、任意の有機基に結合している。上記のメタクリレート系モノマーは、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレートやジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有メタクリレートのアミノ基に4級化剤を反応させ、アミノ基を第4級アンモニウム塩基とすることで形成される。例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレートに塩化ベンジルを反応させることで、ベンジルジメチル-2-メタクロイルオキシエチルアンモニウムの塩化物塩とすることができる。
【0039】
一般式(1)中、「-N+(-R1)(-R2)(-R3)」で表される第4級アンモニウムカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、ブチルジメチルアンモニウムカチオン、ジエチルメチルアンモニウムカチオン、ブチルジエチルアンモニウムカチオン、ジプロピルメチルアンモニウムカチオン、ジブチルメチルアンモニウムカチオン、ベンジルジメチルアンモニウムカチオン、ベンジルジエチルアンモニウムカチオン、ベンジルジプロピルアンモニウムカチオン、ベンジルジブチルアンモニウムカチオン、ジメチル(ナフチルメチル)アンモニウムカチオン、ジメチル(アントラセニルメチル)アンモニウムカチオン、ジメチル(ピレンメチル)アンモニウムカチオン等を挙げることができる。
【0040】
B鎖のアミン価は、0~200mgKOH/gであり、好ましくは170mgKOH/g以下、さらに好ましくは130mgKOH/g以下、特に好ましくは100mgKOH/g以下、最も好ましくは50mgKOH/g以下である。B鎖のアミン価が130mgKOH/g超であると、アミノ基の量が多すぎるので、B鎖が親水性になりやすい。また、樹脂(1)が隣接するカーボン材料にまたがって吸着しやすくなるので、凝集剤として機能してしまうことがあるとともに、着色等の問題が生ずる場合がある。
【0041】
B鎖は、メタクリレート系モノマー単位(b)のみで実質的に構成されていてもよく、メタクリレート系モノマー単位(b)以外の構成単位(その他の構成単位)をさらに有していてもよい。
【0042】
一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)の含有量は、樹脂(1)全体を基準として、30~85質量%、好ましくは35~75質量%である(要件(4))。樹脂(1)中のメタクリレート系モノマー単位(b)の含有量を上記の範囲内とすることで、カーボン材料への樹脂(1)の吸着性を高めることができるとともに、得られるカーボン材料複合組成物に導電性を付与することが期待される。
【0043】
B鎖の分子量は、B鎖中の第4級アンモニウム塩基の含有量や、A鎖の分子量等を勘案して設計すればよい。具体的には、GPCにより測定されるポリスチレン換算のポリマー鎖Bの数平均分子量Mnは、1,000~10,000であることが好ましい。また、GPCにより測定されるポリスチレン換算の樹脂(1)の数平均分子量Mnは、3,000~30,000であることが好ましい。
【0044】
樹脂処理カーボン材料中の樹脂(1)の含有量は、カーボン材料100質量部に対して、1~300質量部であることが好ましく、5~200質量部であることがさらに好ましく、10~100質量部であることが特に好ましい。樹脂(1)の量が少なすぎると、カーボン材料を十分に分散させることが困難になる場合がある。一方、樹脂(1)の量が多すぎると、カーボン材料の分散に寄与しない樹脂分が多くなるので、ブツ等の凝集物が生じたり、得られるカーボン材料複合組成物を用いて製造される物品等の機械的強度が低下したりする場合がある。
【0045】
<樹脂処理カーボン材料の製造方法>
樹脂処理カーボン材料は、例えば、カーボン材料と、カーボン材料の表面を処理するための樹脂(表面処理樹脂)として機能する樹脂(1)とを液媒体中で混合した後、液媒体を蒸発させることによって製造することができる。また、カーボン材料と、樹脂(1)とを液媒体中で混合して得た混合物を樹脂(1)の貧溶剤に添加し、樹脂(1)を析出させることによっても、樹脂処理カーボン材料を製造することができる。なかでも、樹脂処理カーボン材料は、以下の方法によって製造することが好ましい。すなわち、本発明の樹脂処理カーボン材料の製造方法の一実施形態は、カーボン材料及び下記(1)~(3)の要件を満たす樹脂(2)を水系媒体中に分散させた後、下記一般式(3)で表される無機塩を添加して樹脂(1)を析出させる工程を有する。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA-Bブロックコポリマーである。
(2)ポリマー鎖Aが、炭素数1~22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ(炭素数1~22)アルキレン(炭素数2~3)基、フェノキシアルキレン(炭素数2~3)基、シクロアルケニロキシ(炭素数6~18)アルキレン(炭素数2~3)基、又はポリ(n=1~20)ヒドロキシアルカン酸(炭素数2~18)を有するメタクリレート系モノマー単位(a)を80質量%以上含む、アミン価が0mgKOH/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000~20,000のポリマーブロックである。
(3)ポリマー鎖Bが、下記一般式(2)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(c)を含む、アミン価が0~230mgKOH/g、好ましくは200mgKOH/g以下、さらに好ましくは130mgKOH/g以下のポリマーブロックである。
【0046】
(前記一般式(2)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、又はアリールメチル基を示し、Xは塩素又は臭素を示す)
【0047】
(前記一般式(3)中、Mはリチウム、ナトリウム、又はカリウムを示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【0048】
カーボン材料及び樹脂(2)を水中に分散させた後、一般式(3)で表される無機塩を添加すると、一般式(2)中のアニオンと一般式(3)中のアニオンがイオン交換する。これにより、水不溶性又は難溶性となった樹脂(1)が析出してカーボン材料の表面に吸着し、カーボン材料が樹脂(1)により表面処理されて、目的とする樹脂処理カーボン材料を得ることができる。
【0049】
本実施形態の製造方法では、まず、水を主体とする水系媒体中にカーボン材料及び樹脂(2)を分散させる。水系媒体には、必要に応じて、水溶性の溶剤を含有させてもよい。水溶性の溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール類;グリセリン;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤;テトラメチル尿素等の尿素系溶媒;エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;等を挙げることができる。さらに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル等の界面活性剤を水系媒体に添加してもよい。
【0050】
カーボン材料の粒子1個1個の表面及び繊維1本1本の表面が比較的均一に樹脂(1)で処理されるようにすることが好ましい。このため、カーボン材料を水系媒体中に高度に分散した状態で含有させておくことが好ましい。カーボン材料を水系媒体中に分散させるには、例えば、ディスパー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ビーズミル等の撹拌機や分散機を使用することができる。水系媒体中に分散させるカーボン材料の量は、カーボン材料の形状、嵩比重、及び表面積等によって変動するが、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがさらに好ましく、1質量%以下とすることが特に好ましい。
【0051】
次いで、樹脂(1)の前駆体である樹脂(2)を水系媒体に添加する。樹脂(2)は、水系媒体中におけるカーボン材料の分散剤として機能しうる成分である。樹脂(2)はA-Bブロックコポリマーであり、従来公知の方法にしたがって製造することができる。なかでも、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、リビングラジカル重合によって製造することができ、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合によって製造することが好ましい。リビングラジカル重合には、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP法)、ニトロキサイドを介したラジカル重合(NMP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT法)、有機テルル系リビングラジカル重合(TERP法)、可逆的移動触媒重合(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合(RCMP法)等がある。なかでも、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法が好ましい。これらの方法は、比較的安全な市販の化合物を使用するが、重金属や特殊な化合物を使用しない方法であることから、コスト面で有利であるとともに、精製や処理の簡便さの面でも有利である。さらに、末端成長基であるヨウ素原子が第3級の炭素原子に結合しているため、特定のブロック構造を有するA-Bブロックコポリマーを一般的な設備で精度よく容易に製造することができるために好ましい。
【0052】
無溶剤、溶液重合、及び乳化重合等のいずれの重合形式によってA-Bブロックコポリマーを製造してもよい。なかでも、溶液重合が好ましい。溶液重合で用いる溶剤は、カーボン材料及び樹脂(2)を分散させる水系媒体に用いることが可能な前述の水溶性の溶剤を用いることが好ましい。重合後のA-Bブロックコポリマー溶液の状態で、A-Bブロックコポリマー(樹脂(2))を取り出すことなく、そのまま用いることができるためである。上記のRTCP法やRCMP法は、前述の水溶性の溶剤中で実施することができる。
【0053】
A鎖とB鎖のいずれのポリマーブロックを先に重合してもよいが、先にA鎖を重合し、後でB鎖を重合することが好ましい。先にB鎖を重合すると、重合率が100%未満であった場合に、残存したモノマーに由来する構成単位が、後で重合するA鎖に導入されてしまう可能性があるためである。第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを重合することで、B鎖に第4級アンモニウム塩基を導入することができる。また、アミノ基を有するメタクリレートを重合した後、4級化剤を反応させることでも、B鎖に第4級アンモニウム塩基を導入することができる。
【0054】
カーボン材料及び樹脂(2)を水系媒体中に分散させた後、一般式(3)で表される無機塩を添加する。イオン交換されて水不溶性又は難溶性となった樹脂(1)が析出してカーボン材料の表面に吸着し、細かく分散したカーボン材料の表面に樹脂(1)が堆積する。これにより、カーボン材料が樹脂(1)によりカプセル化され、目的とする樹脂処理カーボン材料を得ることができる。
【0055】
(前記一般式(3)中、Mはリチウム、ナトリウム、又はカリウムを示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1~8のフッ化アルキル基を示す)
【0056】
一般式(3)で表される無機塩としては、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホン)イミドリチウム塩、ビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドリチウム塩、ビス(2,2,2-トリフルオロエチルスルホン)イミドリチウム塩、ビス(パーフルオロエチルスルホン)イミドリチウム塩、ビス(パーフルオロプロピルスルホン)イミドリチウム塩、ビス(パーフルオロブチルスルホン)イミドリチウム塩、ビス(パーフルオロオクチルスルホン)イミドリチウム塩、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドリチウム塩、ビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドカリウム塩、ビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドカリウム塩等を挙げることができる。
【0057】
一般式(3)で表される無機塩の添加量は、得られる樹脂(1)のB鎖のアミン価が所定の範囲となるように適宜調整すればよい。一般式(3)で表される無機塩を添加して樹脂(1)を析出させた後は、常法にしたがってろ過及び洗浄等してもよい。ろ過及び洗浄等することで、樹脂処理カーボン材料を水ペーストの状態で得ることができる。また、必要に応じて乾燥及び粉砕等してもよい。
【0058】
<カーボン材料複合組成物>
本発明のカーボン材料複合組成物の一実施形態は、前述の樹脂処理カーボン材料及び分散媒体を含有する。この分散媒体は、有機溶剤又は熱可塑性樹脂である。そして、カーボン材料の含有量は、カーボン材料複合組成物の全体を基準として、0.5~30質量%である。
【0059】
(有機溶剤)
分散媒体として用いられる有機溶剤としては、従来公知の有機溶剤を挙げることができる。有機溶剤には、有機溶剤と水との混合溶媒も含まれる。有機溶剤としては、ヘキサン、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ドデカノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸ジメチル等のエステル系溶媒;ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶媒;テトラメチルウレア、ジメチルイミダゾリジノン等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールジエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルモノエーテルエステル系溶媒;等を挙げることができる。
【0060】
また、ビニル系モノマーである(メタ)アクリル系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、エポキシやオキセタン等の反応性モノマーを有機溶剤として用いてもよい。これらの反応性モノマーを用いるとともに、熱可塑性樹脂をバインダーとして用いることで、塗料、インク、コーティング剤、紫外線硬化性インク等とすることができる。
【0061】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂を分散媒体として使用し、熱可塑性樹脂に樹脂処理カーボン材料を添加して分散させることで、フィルム等の各種成形物の原料となるカーボン材料複合組成物とすることができる。樹脂(1)によって表面処理されたカーボン材料を用いるため、熱可塑性樹脂中のカーボン材料の分散性が良好であるとともに、容易に製造することができる。また、カーボン材料と熱可塑性樹脂の界面剥離が生じにくいカーボン材料複合組成物とすることができる。
【0062】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ハロゲン化ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリフェノール樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、セルロース系樹脂等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、オリゴマーや共重合体であってもよい。また、これらの熱可塑性樹脂の構造は、ブロック構造、グラフト構造、星型構造等であってもよく、微粒子状の熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0063】
カーボン材料複合組成物中のカーボン材料の含有量は、カーボン材料複合組成物の全体を基準として、0.5~30質量%、好ましくは1~20質量%である。カーボン材料の含有量が0.5質量%未満であると、カーボン材料の性能が十分に発揮されない。一方、カーボン材料の含有量が30質量%超であると、分散媒体として有機溶剤を用いた場合には粘度が高くなりすぎてしまい、分散媒体として熱可塑性樹脂を用いた場合には混合が困難になる。
【0064】
カーボン材料複合組成物には、各種の添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、染料、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、顔料分散剤、相溶化剤、滑材、ワックス、帯電防止剤、ガラスフィラー、シリカ、天然高分子、樹脂ビーズ、無機フィラー等を挙げることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0066】
<第4級アンモニウム塩基含有樹脂(樹脂(2))の合成>
(合成例1:樹脂C-1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)134.9部、ヨウ素1.4部、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フィルム和光純薬社製)(V-70)4.9部、ジフェニルメタン(DPM)0.2部、メタクリル酸メチル(MMA)20.0部、メタクリル酸ブチル(BMA)22.7部、及びメタクリル酸2-エチルへキシル(EHMA)21.1部を入れた。窒素をバブリングしながら撹拌し、45℃に加温して4.5時間重合し、樹脂(A鎖)を合成した。反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は28.8%であり、重合転化率は84.1%であった。テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPCにより測定したA鎖のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は4,500、分散度(PDI)は1.23であった。
【0067】
V-70 1.9部、及びメタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)62.7部を添加し、さらに45℃で4時間重合した。これにより、樹脂(B鎖)を形成し、ブロックコポリマーである樹脂B-1を含有する樹脂溶液を得た。反応液の一部をサンプリングして測定した固形分は48.7%であり、重合転化率は約100%であった。樹脂B-1のMnは5,100、PDIは1.36であった。なお、樹脂B-1のMnがそれほど増加しなかったのは、塩基性のアミノ基がカラムに吸着して厳密に測定できなかったためと考えられる。樹脂B-1のアミン価(実測値)は、176.1mgKOH/gであった。樹脂のアミン価(実測値)は、試料約0.5部をトルエン/2-プロパノール混合溶媒(3/2(v/v))20部で希釈して均一化した後、ブロモフェノールブルーを指示薬とし、0.1N塩酸エタノール溶液を滴定溶液として用いて滴定し、測定及び算出した。
【0068】
反応液を室温まで冷却した後、BDG116.4部を添加して希釈した。塩化ベンジル(BzCl)49.5部及びBDG49.5部の混合溶液を30分かけて滴下した後、80℃に昇温して5時間反応させた。これにより、DMAEMAに由来するアミノ基を第4級アンモニウム塩化して、固形分37.9%である樹脂C-1の溶液を得た。樹脂C-1のアミン価(実測値)は約0mgKOH/gであり、すべてのアミノ基が第4級アンモニウム塩基となったことを確認した。
【0069】
(合成例2~8:樹脂C-2~C-8)
表1及び2に示す組成としたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、第4級アンモニウム塩基含有樹脂である樹脂C-2~C-8の溶液を得た。表1及び2中の略号の意味は以下に示す通りである。
・TBCHMA:メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル
・LMA:メタクリル酸ラウリル
・CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
・BzMA:メタクリル酸ベンジル
・DMQ:メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチルのベンジルクロリド塩
・StMA:メタクリル酸ステアリル
・FA512M:ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(製品名「ファンクリルFA-512M」、日立化成社製)
・FA513M:ジシクロペンタニルメタクリレート(製品名「ファンクリルFA-513M」、日立化成社製)
・FM5:メタクロイルオキシエチルポリイプシロンカプロラクトン(製品名「プラクセルFM5」、ダイセル社製)
【0070】
【0071】
【0072】
(合成例9:樹脂C-9)
樹脂B-1 240部をBDG63.4部で希釈して撹拌した後、BzCl30.3部及びBDG30.3部の混合溶液を室温で30分間かけて滴下した。滴下後、80℃に昇温して5時間反応させた。これにより、DMAEMAに由来するアミノ基の75モル%(理論値)を第4級アンモニウム塩化して、固形分37.3%である樹脂C-9の溶液を得た。樹脂C-9のアミン価(実測値)は33.6mgKOH/gであった。
【0073】
(合成例10、11:樹脂C-10、C-11)
DMAEMAに由来するアミノ基の第4級アンモニウム塩化率が50モル%及び25モル%となる量のBzClを反応させたこと以外は、前述の合成例9と同様にして、樹脂C-10及びC-11の溶液を得た。得られた樹脂C-10及びC-11の詳細を表3に示す。
【0074】
【0075】
(合成例12:樹脂C-12)
B-2 50部をBDG18.6部で希釈して撹拌した後、1-クロロメチルナフタレン4.0部及びBDG4.0部の混合溶液を室温で30分間かけて滴下した。滴下後、80℃に昇温して5時間反応させた。これにより、DMAEMAに由来するアミノ基を第4級アンモニウム塩化して、固形分37.2%である樹脂C-12の溶液を得た。樹脂C-12のアミン価(実測値)は約0mgKOH/gであり、すべてのアミノ基が第4級アンモニウム塩化基となったことを確認した。
【0076】
(合成例13、14:樹脂C-13、C-14)
1-クロロメチルナフタレンに代えて、9-クロロメチルアントラセン及び1-クロロメチルピレンをそれぞれ用いたこと以外は、前述の合成例12と同様にして、樹脂C-13及びC-14の溶液を得た。得られた樹脂C-13及びC-14の詳細を表4に示す。表4中の略号の意味は以下に示す通りである。
・NQ:メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチルの1-クロロメチルナフタレン塩
・AQ:メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチルの9-クロロメチルアントラセン塩
・PQ:メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチルの1-クロロメチルピレン塩
【0077】
【0078】
<予備実験>
合成例1~14で調製した樹脂溶液1部をそれぞれ容器に入れ、イオン交換水100部で希釈した。樹脂C-5以外のすべての樹脂は水に溶解し、淡褐色で透明な水溶液となった。また、樹脂C-5については、黄味で乳白色の溶液となった。ビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドリチウム(TFSIL)1部を別容器に入れ、イオン交換水10部に溶解させてTFSIL溶液を調製した。調製したTFSIL溶液を各樹脂の水溶液に徐々に添加したところ、ある時点で顕著に増粘し、さらに添加すると流動性が出た。TFSIL溶液をさらに添加して、粘度のある黄味白色の若干透明感のある樹脂の析出液を得た。得られた樹脂の析出液を60℃に加熱した後にろ過し、イオン交換水でよく洗浄して、黄味白色のペーストを得た。塩化物イオン(Cl-)を対アニオンとする第4級アンモニウム塩基を有する樹脂(2)は水に溶解するが、対アニオンをイミドアニオンへとイオン交換した第4級アンモニウム塩基を有する樹脂は水に溶解せず、析出したと考えられる。
【0079】
<樹脂処理カーボン材料の製造>
(実施例1:樹脂処理カーボン材料PC-1)
イオン交換水1,000部及びナノグラフェン(厚さ6~8nm、平面平均径5μm、顆粒状)10部をビーカーに入れた。樹脂C-1の溶液2.64部(樹脂C-1 1部)及びイオン交換水10部の混合物を添加し、ホモミキサーを使用して3,000回転で30分間撹拌した。次いで、ディスパーを使用して撹拌しながら、TFSIL 0.712部(第4級アンモニウム塩基と等モル以上の量)及びイオン交換水2部の混合物を徐々に滴下した。途中で増粘したが、混合物の全量を添加したところで流動性が出た。ろ過及びイオン交換水で洗浄後、100℃で24時間乾燥して、黒色の粉末塊状物である樹脂処理カーボン材料PC-1 11.5部を得た。150℃に加熱して測定した不揮発分は99.1%であった。
【0080】
イオン交換によって生成する樹脂処理カーボン材料PC-1の理論収量は、1.552部である。そして、用いたグラフェンの量が10部であり、樹脂処理カーボン材料PC-1の収量が11.5部であることから、樹脂処理カーボン材料PC-1中の樹脂(1)の含有量は、グラフェン100部に対して15部である。
【0081】
また、得られた樹脂処理カーボン材料PC-1中の樹脂(1)は、Mnが4,500、アミン価が0mgKOH/gであるA鎖と、Mnが600、アミン価が0mgKOH/gであるB鎖とを有し、イミドアニオンを対イオンとする第4級アンモニウム塩基を有するモノマー単位の含有量が76.7%であるA-Bブロックコポリマーである。
【0082】
(実施例2~8:樹脂処理カーボン材料PC-2~PC-8)
樹脂(2)の種類及びグラフェン10部に対する樹脂(2)の量を表5及び6に示すようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、樹脂処理カーボン材料PC-2~PC-8を得た。得られた樹脂処理カーボン材料PC-2~PC-8の詳細を表5及び6に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
(実施例9~15:樹脂処理カーボン材料PC-9~PC-15)
ナノグラフェンに代えてカーボンナノチューブ(平均径:15nm、平均長:3.0μm、多層カーボンナノチューブ、顆粒状)(CNT)を用いたこと、並びに表7及び8に示す種類の樹脂(2)を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、樹脂処理カーボン材料PC-9~PC-15を得た。得られた樹脂処理カーボン材料PC-9~PC-15の詳細を表7及び8に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
<カーボン材料複合組成物の製造(1)>
(実施例16~20:ナノグラフェン分散液)
実施例1、2、4、5、及び8で得た樹脂処理カーボン材料PC-1、PC-2、PC-4、PC-5、及びPC-8をそれぞれ使用し、以下に示す手順でカーボン材料複合組成物(ナノグラフェン分散液)を製造した。各樹脂処理カーボン材料に、ナノグラフェンの含有量が5%となる量のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMAc)を分散媒体として添加した。分散媒体を添加するにしたがって樹脂処理カーボン材料が分散して、黒色の分散液となった。出力300Wの超音波分散機を使用して超音波を60分間照射し、ナノグラフェン分散液を得た。得られたナノグラフェン分散液にはブツなどの凝集物が含まれていなかった。E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度(分散直後の粘度)を表9に示す。得られたナノグラフェン分散液を70℃で7日間放置したところ、ナノグラフェンが沈降した。但し、振とうすることで速やかに元の黒色の分散液となり、ブツなどの凝集物は生じていなかった。
【0089】
【0090】
(比較例1)
ナノグラフェンの含有量が5%となるように、ナノグラフェンとPGMAcを混合した。顆粒状のナノグラフェンは、そのままの状態でまったく分散しなかった。さらに超音波を照射したところ、若干黒くなったがブツなどの凝集物が多く、分散液としては不適であった。
【0091】
(比較例2)
ナノグラフェンの含有量が5%になるように、ナノグラフェンとPGMAcを混合した。次いで、合成例1で得た樹脂C-1の溶液を、ナノグラフェンに対する樹脂C-1の量が50%となるように添加した。その結果、ナノグラフェンが容易に分散することはなかった。次いで、超音波を照射したところ、黒色の分散液を得ることができた。
【0092】
<カーボン材料複合組成物の製造(2)>
(実施例21~23:ナノグラフェン分散樹脂ペレット)
実施例3、5、及び8で得た樹脂処理カーボン材料PC-3、PC-4、及びPC-8をそれぞれ使用し、以下に示す手順でカーボン材料複合組成物(ナノグラフェン分散樹脂ペレット)を製造した。各樹脂処理カーボン材料に、ナノグラフェンの含有量が5%となる量のポリエチレン(商品名「フロービーズHE3040」、住友精化社製)を添加した後、小型混合機を使用して混合し、混練前組成物を得た。二軸押出混練機を使用して得られた混練前組成物を140℃で混練した。ストランド状に吐出して冷却するとともに、ペレタイザーでカッティングして、ナノグラフェン分散樹脂ペレットを得た。なお、二軸押出混練機のパス回数は1回のみとした。得られたナノグラフェン分散樹脂ペレットを細かく切断した後、少量をガラスプレート上に置き、ホットプレートを使用して加熱しながらガラスプレートを被せて熱プレスして、フィルムを得た。得られたフィルムは、いずれも若干の黒い半透明であった。
【0093】
また、樹脂処理カーボン材料に代えてナノグラフェンをそのまま用いたこと以外は、上述の実施例21~23と同様にしてフィルムを製造した。しかし、得られたフィルムにはブツなどの凝集物が大量に含まれていた。
【0094】
<カーボン材料複合組成物の製造(3)>
(実施例24~30:CNT分散液)
実施例9~15で得られた樹脂処理カーボン材料PC-9~PC-15をそれぞれ使用し、以下に示す手順でカーボン材料複合組成物(CNT分散液)を製造した。各樹脂処理カーボン材料に、CNTの含有量が5%となる量のN-メチルピロリドン(NMP)を分散媒体として添加した。この段階でCNTがほぐれ、上澄みのない黒色の分散液となった。但し、ブツなどの若干の凝集物が底に存在し、完全な分散状態ではなかった。次いで、マグネチックスターラーで撹拌するとともに超音波を照射して、CNT分散液を得た。得られたCNT分散液の底にはブツなどの凝集物はなかった。得られたCNT分散液の分散直後の粘度及び70℃で7日間放置後の粘度の測定結果を表10に示す。また、得られたCNT分散液を70℃で7日間放置後の外観の観察結果を表10に示す。
【0095】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の樹脂処理カーボン材料は、塗料やインキ等の他、電池材料、電子部品トレイ、ICチップ用カバー、電磁波シールド、自動車用部材、及びロボット用部品等の各種プラスチック成形物を製造するカーボン材料複合組成物を得るための材料として有用である。