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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】有機ジテルリド化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 395/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
C07C395/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020178277
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022069214
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 和博
(72)【発明者】
【氏名】山本 実
(72)【発明者】
【氏名】林 直宏
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-019165(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119884(WO,A1)
【文献】特開2017-200961(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199000(WO,A1)
【文献】特開2017-200882(JP,A)
【文献】特開2004-323437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および下記式(2)で表される化合物を含有する溶液(a1)と、水酸化アルカリ金属と、還元剤(r1)と、水とを混合し、混合物を得る工程(A)と、
前記工程(A)で得られた前記混合物を有機相と水相とに相分離させ、前記水相を除去する工程(B)とを備え、
前記還元剤(r1)が、ホルムアミジンスルフィン酸、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、チオグリセロール、メトキシブチル-3-メルカプトプロピオネート、ブタンチオール、チオグリコール酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、およびトリブチルホスフィンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、有機ジテルリド化合物の精製方法。
11-Te-Te-R11 …式(1)
[式(1)において、R11は、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基または芳香族ヘテロ環基を表す。]
(R21-Y-Y-(R21 …式(2)
[式(2)において、nは1を示す。Yは硫黄原子を示す。R21炭素数1~5の直鎖状アルキル基、炭素数3~5の分岐鎖状アルキル基、炭素数6~10の環状アルキル基または炭素数6~8の芳香族基を表す。]
【請求項2】
前記溶液(a1)が、有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法により得られた重合溶液からテルルを回収する工程で得られたテルル回収溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【請求項3】
前記テルルを回収する工程が、有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法により得られたビニル重合体(P2)を含む重合溶液と、還元剤(r2)とを混合し、混合物を得る工程(C)と、
前記工程(C)で得られた前記混合物と、溶媒(a2)とを混合し、ビニル重合体(P1)を含有する溶液相と、前記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および前記式(2)で表される化合物を含有する溶液相とに相分離させ、前記ビニル重合体(P1)を含有する溶液相を除去する工程(D)とを備えることを特徴とする、請求項に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【請求項4】
前記還元剤(r2)が、有機硫黄系還元剤であることを特徴とする、請求項に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【請求項5】
前記溶媒(a2)が、脂肪族炭化水素類であることを特徴とする、請求項または請求項に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【請求項6】
前記ビニル重合体(P2)の成長末端が、-Te-R11(R11は前記式(1)中のR11と同じである。)で表されることを特徴とする、請求項~請求項のいずれか一項に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ジテルリド化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リビングラジカル重合法は、従来のラジカル重合法の簡便性と汎用性を保ちながら、分子構造の精密制御および均一な組成の重合体の製造を可能とする重合法で、新しい高分子材料の製造に大きな威力を発揮する。そのため、近年、リビングラジカル重合技術の発達はめざましく、様々な手法を用いたリビングラジカル重合法が報告されている。その中でも有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法であるTERP(organotellurium-mediated living radical polymerization)法は、様々な種類のビニルモノマーの重合に適用できる汎用性と、通常のラジカル重合と変わらぬ実用的な反応条件で重合体の分子量および分子量分布を高度に制御できる点とから、特に注目されている重合法である(特許文献1~4参照)。
【0003】
一般に、リビングラジカル重合法により得られる重合体の成長末端は、ラジカルが適当な保護基で可逆的に保護されたドーマント末端と称されており、TERP法により得られる重合体の成長末端はPolymer-Te-Rの形態である。このドーマント末端を化学的に除去した重合体が製品として用いられている。
【0004】
一方で、テルルはクラーク数2×10-7%の希少元素であることから、重合末端から除去したテルルを回収し、連鎖移動剤である有機テルル化合物に再生することが求められている。例えば、重合末端から除去したテルルを有機ジテルリド化合物として回収する方法(特許文献5参照)、有機ジテルリド化合物から有機テルル化合物を再生する方法(特許文献6参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2004/014848号
【文献】国際公開第2004/014962号
【文献】国際公開第2004/072126号
【文献】国際公開第2004/096870号
【文献】特開2017-200961号公報
【文献】特開2019-73503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献5のヒドリド還元剤を用いる方法は、還元性の高さから適用できる重合体が制限され、さらに水素ガス発生の問題がある。テルロール化合物を用いる方法は、重合で使用したテルルを回収するために、新たに別のテルル化合物を用いることが必要であることからテルルのリサイクル方法には適さない。
【0007】
一方で、重合体の成長末端のみに作用するように還元力が低い還元剤を用いた場合、有機ジテルリド化合物と副生物との混合物となり、副生物の除去が困難で有機ジテルリド化合物が再利用可能な形態ではない。
【0008】
本発明の目的は、高純度の有機ジテルリド化合物を得ることを可能とする、有機ジテルリド化合物の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
項1 下記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および下記式(2)で表される化合物を含有する溶液(a1)と、塩基と、還元剤(r1)と、水とを混合し、混合物を得る工程(A)と、前記工程(A)で得られた前記混合物を有機相と水相とに相分離させ、前記水相を除去する工程(B)とを備え、前記還元剤(r1)が、硫黄系還元剤およびリン系還元剤のうち少なくとも一方であることを特徴とする、有機ジテルリド化合物の精製方法。
【0011】
11-Te-Te-R11 …式(1)
[式(1)において、R11は、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基または芳香族ヘテロ環基を表す。]
【0012】
(R21-Y-Y-(R21 …式(2)
[式(2)において、nは1~3を示す。Yは(n+1)価の連結基を示す。R21は脂肪族基または芳香族基を表す。]
【0013】
項2 前記塩基が、水酸化アルカリ金属であることを特徴とする、項1に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【0014】
項3 前記Yが、硫黄原子、ケイ素原子またはスズ原子であることを特徴とする、項1又は項2に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【0015】
項4 前記溶液(a1)が、有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法により得られた重合溶液からテルルを回収する工程で得られたテルル回収溶液であることを特徴とする、項1~項3のいずれか一項に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【0016】
項5 前記テルルを回収する工程が、有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法により得られたビニル重合体(P2)を含む重合溶液と、還元剤(r2)とを混合し、混合物を得る工程(C)と、前記工程(C)で得られた前記混合物と溶媒(a2)とを混合し、ビニル重合体(P1)を含有する溶液相と、前記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および前記式(2)で表される化合物を含有する溶液相とに相分離させ、前記ビニル重合体(P1)を含有する溶液相を除去する工程(D)とを備えることを特徴とする、項4に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【0017】
項6 前記還元剤(r2)が、有機硫黄系還元剤、有機ケイ素系還元剤および有機スズ系還元剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、項5に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【0018】
項7 前記溶媒(a2)が、脂肪族炭化水素類であることを特徴とする、項5または項6に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【0019】
項8 前記ビニル重合体(P2)の成長末端が、-Te-R11(R11は前記式(1)中のR11と同じである。)で表されることを特徴とする、項5~項7のいずれか一項に記載の有機ジテルリド化合物の精製方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高純度の有機ジテルリド化合物を得ることを可能とする、有機ジテルリド化合物の精製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は以下の実施形態に何ら限定されない。
【0022】
本発明に係る有機ジテルリド化合物の精製方法は、下記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および下記式(2)で表される化合物を含有する溶液(a1)と、塩基と、還元剤(r1)と、水とを混合し、混合物を得る工程(A)と、工程(A)で得られた混合物を有機相と水相とに相分離させ、水相を除去する工程(B)とを備える。また、本発明において、還元剤(r1)は、硫黄系還元剤およびリン系還元剤のうち少なくとも一方である。
【0023】
11-Te-Te-R11 …式(1)
[式(1)において、R11は、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基または芳香族ヘテロ環基を表す。]
【0024】
(R21-Y-Y-(R21 …式(2)
[式(2)において、nは1~3を示す。Yは(n+1)価の連結基を示す。R21は脂肪族基または芳香族基を表す。]
【0025】
本発明の有機ジテルリド化合物の精製方法によれば、高純度の有機ジテルリド化合物を得ることができる。なお、上記式(2)で表される化合物は、例えば、有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法における副生成物である。従って、本発明では、上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および上記式(2)で表される化合物を含有する溶液(a1)から、上記式(2)で表される化合物を効率良く除去することにより、高純度の有機ジテルリド化合物を得ることができる。具体的には、以下のように説明することができる。
【0026】
工程(A)で用いる溶液(a1)において、上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および上記式(2)で表される化合物は、下記式(3)に示すような平衡状態となりやすい。
【0027】
【化1】
【0028】
本発明においては、溶液(a1)と、塩基と、還元剤(r1)と、水とを混合するので、上記式(2)で表される化合物を還元剤(r1)により還元させ、さらに塩基と反応させることにより、塩を形成することができる。この塩は、混合物を有機相と水相とに相分離させる際に、水相側に抽出されることから、有機相における有機ジテルリド化合物の純度が高められることになる。そのため、水相を除去した後、最後に有機相における有機溶媒を留去することにより、高純度の有機ジテルリド化合物を得ることができる。
【0029】
具体的に、上記式(2)におけるYが、例えば硫黄原子(S)であるときは、下記式(4)に示すように、平衡混合物中におけるジスルフィドを、還元剤(r1)によりチオールに還元することができ、続いて塩基を溶解させた水溶液と混合することにより、チオールがチオール塩となり、水相に抽出される。これにより、有機相における有機ジテルリド化合物の濃度を高めることができ、高純度の有機ジテルリド化合物を得ることができる。
【0030】
【化2】
【0031】
上記式(4)において、Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。
【0032】
また、本発明の有機ジテルリド化合物の精製方法では、還元剤(r1)として、硫黄系還元剤およびリン系還元剤のうち少なくとも一方を用いるため、ヒドリド還元剤を使用しない。従って、例えば、TERP法により得られる多種多様なビニル重合体において、水素ガスの発生のおそれがなく、高収率かつ高純度でテルルを有機ジテルリド化合物として回収できることできる。また、新たなテルル化合物を必要としないことから、希少元素であるテルルの効率的なリサイクルも可能となる。
【0033】
本発明において、溶液(a1)と、塩基と、還元剤(r1)と、水とを混合することにより反応させる反応温度は、特に限定されず、例えば10℃以上、好ましくは30℃以上とすることができる。また、反応温度は、例えば60℃以下、好ましくは40℃以下とすることができる。反応時間は、例えば、2時間以上、30時間以下とすることができる。
【0034】
(式(1)で表される有機ジテルリド化合物)
式(1)は、以下の通りである。
【0035】
11-Te-Te-R11 …式(1)
【0036】
上記式(1)において、R11で表される基は、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基または芳香族ヘテロ環基であり、具体的には次の通りである。
【0037】
炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基や、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。炭素数1~8のアルキル基は、好ましくは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0038】
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0039】
芳香族ヘテロ環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。
【0040】
上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物の具体例としては、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ-n-プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ-n-ブチルジテルリド、ジ-s-ブチルジテルリド、ジ-t-ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス-(p-メトキシフェニル)ジテルリド、ビス-(p-アミノフェニル)ジテルリド、ビス-(p-ニトロフェニル)ジテルリド、ビス-(p-シアノフェニル)ジテルリド、ビス-(p-スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリドまたはジピリジルジテルリド等を例示することができる。
【0041】
(式(2)で表される化合物)
式(2)で表される化合物は、以下の通りである。
【0042】
(R21-Y-Y-(R21 …式(2)
【0043】
上記式(2)において、nは1~3を示す。Yは(n+1)価の連結基を表す。R21は脂肪族基または芳香族基を表す。
【0044】
上記式(2)において、nは、1~3であり、好ましくは1または3であり、より好ましくは1である。Yで示される基は、(n+1)価の連結基である。Yで示される基は、例えば、硫黄原子、ケイ素原子、スズ原子等を挙げることができ、好ましくは硫黄原子である。
【0045】
21で示される基は、脂肪族基または芳香族基である。R21で示される基は置換基を有していてもよい。具体的には次の通りである。
【0046】
脂肪族基としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基等が挙げられる。
【0047】
直鎖状アルキル基の炭素数としては、炭素数1~20が好ましく、炭素数1~10がより好ましく、炭素数1~5がさらに好ましい。直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ラウリル基等が挙げられる。
【0048】
分岐鎖状アルキル基の炭素数としては、炭素数3~20が好ましく、炭素数3~10がより好ましく、炭素数3~5がさらに好ましい。分岐鎖状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、ネオペンチル基、イソオクチル基等が挙げられる。
【0049】
環状アルキル基は、鎖状部分を有していてもよい。環状アルキル基の炭素数としては、炭素数4~18が好ましく、炭素数6~12がより好ましく、炭素数6~10がさらに好ましい。環状アルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。鎖状部分を有する環状アルキル基の鎖状部分の例としては、炭素数1~12のアルキレン基、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基が挙げられる。
【0050】
脂肪族基が置換基を有する場合、脂肪族基が有する置換基としては、ハロゲン基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0051】
芳香族基は、鎖状部分を有していてもよい。芳香族基の炭素数としては、炭素数6~18が好ましく、炭素数6~12がより好ましく、炭素数6~8がさらに好ましい。芳香族基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。鎖状部分を有する芳香族基の鎖状部分の例としては、炭素数1~12のアルキレン基、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基が挙げられる。脂肪族基が置換基を有する場合、芳香族基が有する置換基としては、ハロゲン基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0052】
上記式(2)で表される化合物の具体例としては、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジ-n-プロピルジスフルフィド、ジイソプロピルジスルフィド、ジ-n-ブチルジスルフィド、ジ-n-ペンチルジスルフィド、ジ-n-ヘキシルジスルフィド、シクロヘキシルジスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジ(p-トリル)ジスルフィド、4,4’-ジクロロジフェニルスルフィド、ジ(3,4-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ヘキサメチルジシラン、1、2-ジメチル-1,1,2,2-テトラフェニルジシラン、ヘキサフェニルジシラン、ヘキサメチルジスタンナン、ヘキサブチルジスタンナン等を例示することができる。
【0053】
(塩基)
塩基は、水溶性の塩基であることが好ましく、例えば水酸化アルカリ金属、テトラアルキルアンモニウムの水酸化物等を挙げることができ、好ましくは水酸化アルカリ金属である。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。なかでも、経済的に有利であることから、カリウム、ナトリウムが好ましい。
【0054】
水酸化アルカリ金属の具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。また、テトラアルキルアンモニウムの水酸化物の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0055】
塩基の添加量は、特に限定されず、例えば、Yで示される基を有する化合物に対して、0.5当量~10当量とすることができ、好ましくは1当量~5当量、より好ましくは1当量~3当量である。
【0056】
(還元剤(r1))
還元剤(r1)は、硫黄系還元剤およびリン系還元剤のうち少なくとも一方であり、好ましくは硫黄系還元剤である。還元剤(r1)を用いることでTe-Te結合を還元せず、Y-Y結合を還元することができる。
【0057】
硫黄系還元剤は、還元性の硫黄原子を有している化合物であればよく、無機化合物であっても、有機化合物であってもよい。すなわち、硫黄系還元剤としては、有機硫黄系還元剤および無機硫黄系還元剤を挙げることができ、有機溶媒への溶解性の観点から有機硫黄系還元剤であることが好ましい。硫黄原子の最も安定な酸化数は+6価であるが、一般にそれ未満の酸化数の硫黄原子は還元性を有している。還元性の観点から+2価の硫黄原子を有する化合物が好ましい。
【0058】
有機硫黄系還元剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-スルフィナート酢酸、ホルムアミジンスルフィン酸等のスルフィン酸;ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム等のスルフィン酸塩;アルキルチオール(例えば、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール等の炭素数1~20のもの)、チオグリコール、チオグリセロール、チオール酸(例えば、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸)、チオール酸塩(例えば、チオグリコール酸アンモニウム)、チオール酸エステル(例えば、メトキシブチルー3-メルカプトプロピオネート)等の脂肪族チオール;シクロペンタチオール、シクロヘキサンチオール等の脂環式チオール;チオフェノール、ベンジルメルカプタン、チオサリチル酸等の芳香族チオール;多価チオール等がある。これらのなかでも、スルフィン酸、スルフィン酸塩、および脂肪族チオールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0059】
無機硫黄系還元剤としては、酸型でもよいが、好ましくは塩型である。塩としては1価又は多価の金属塩が好ましく、1価の金属塩がより好ましい。これらの無機硫黄系還元剤のうち、硫黄原子が酸素原子と結合した含酸素系還元性無機塩が好ましい。具体的には、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸亜鉛、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素カルシウム、亜硫酸水素アンモニウム等の亜硫酸水素塩;ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸アンモニウム等のピロ亜硫酸塩;亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、亜二チオン酸アンモニウム、亜二チオン酸カルシウム、亜二チオン酸亜鉛等の亜二チオン酸塩;三チオン酸カリウム、三チオン酸ナトリウム等の三チオン酸塩;四チオン酸カリウム、四チオン酸ナトリウム等の四チオン酸塩;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム等のチオ硫酸塩;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸亜鉛等の亜硝酸塩等が挙げられる。
【0060】
リン系還元剤は、還元性のリン原子を有している化合物であればよく、無機化合物であっても、有機化合物であってもよい。すなわち、リン系還元剤としては、有機リン系還元剤および無機リン系還元剤を挙げることができ、有機溶媒への溶解性の観点から有機リン系還元剤であることが好ましい。リン原子の最も安定な酸化数は+5価であるが、一般にそれ未満の酸化数のリン原子は還元性を有している。還元性の観点から+3価のリン原子を有する化合物が好ましい。
【0061】
有機リン系還元剤としては、例えば、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;トリメチルホスファイト等の亜リン酸エステル類;トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩等のホスフィン酸塩を挙げることができる。これらのなかでもホスフィン類が好ましい。
【0062】
無機リン系還元剤としては、酸型でもよいが、好ましくは塩型である。塩としては1価又は多価の金属塩が好ましく、1価の塩がより好ましい。これらの無機リン系還元剤のうち、リン原子が酸素原子と結合した含酸素系還元性無機塩が好ましい。具体的には、次リン酸塩;亜リン酸塩;ピロ亜リン酸塩;次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩等を挙げることができる。
【0063】
還元剤(r1)の添加量は、特に限定されず、例えば、Yで示される基を有する化合物に対して、0.1当量~5当量とすることができ、好ましくは0.3当量~4当量でありより好ましくは0.5当量~3当量である。
【0064】
(水)
水としては、特に限定されず、水道水、井水、イオン交換水、蒸留水等を使用することができるが、イオン交換水や蒸留水などのイオン性不純物を含まない水を用いることが好ましい。水の添加量は、特に限定されず、例えば、Yで示される基を有する化合物に対して、0.1部~50部とすることができ、好ましくは0.5部~30部であり、より好ましくは1部~15部である。
【0065】
(両親媒性溶媒)
工程(A)では、両親媒性溶媒をさらに添加して混合してもよい。両親媒性溶媒とは水にも有機溶媒にも溶解しやすい溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;N-メチルピロリドン等のピロリドン類を用いることができ、好ましくはアルコール類およびエーテル類である。両親媒性溶媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
両親媒性溶媒の添加量は、特に限定されず、例えば、Yで示される基を有する化合物に対して、0.1部~50部とすることができ、好ましくは0.5部~30部であり、より好ましくは0.5部~15部である。
【0067】
(有機溶媒)
有機相に用いられる相分離溶媒としての有機溶媒も、工程(A)においてさらに添加して混合することができる。有機相に用いられる相分離溶媒としての有機溶媒は、上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物を溶解することができ、水と相分離可能な有機溶媒であれば、特に限定されない。このような有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘキサン、へプタン等の脂肪族炭化水素類を用いることができ、好ましくは脂肪族炭化水素類である。有機溶媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
有機溶媒の添加量は、特に限定されず、例えば、溶液(a1)に含まれる溶媒と上記有機溶媒の合計量が、Yで示される基を有する化合物に対して、1部~500部とすることができ、好ましくは30部~200部である。
【0069】
[リビングラジカル重合]
本発明において、上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および上記式(2)で表される化合物を含有する溶液(a1)は、有機テルル化合物を用いたリビングラジカル重合法により得られた重合溶液からテルルを回収する工程で得られたテルル回収溶液であることが好ましい。
【0070】
特に、テルルを回収する工程が、有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法により得られたビニル重合体(P2)を含む重合溶液と、還元剤(r2)とを混合し、混合物を得る工程(C)と、工程(C)で得られた混合物と溶媒(a2)とを混合し、ビニル重合体(P1)を含有する溶液相と、上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および上記式(2)で表される化合物を含有する溶液相とに相分離させ、ビニル重合体(P1)を含有する溶液相を除去する工程(D)とを備えることが好ましい。
【0071】
有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法(TERP法)とは、有機テルル化合物を連鎖移動剤として用い、ラジカル重合性化合物(ビニルモノマー)を重合させる方法であり、例えば、国際公開第2004/14848号、国際公開第2004/14962号、国際公開第2004/072126号、および国際公開第2004/096870号に記載された方法である。
【0072】
TERP法の具体的な重合法としては、下記(a)~(d)が挙げられる。
【0073】
(a)ビニルモノマーを、下記式(5)で表される有機テルル化合物を用いて重合する方法。
【0074】
(b)ビニルモノマーを、下記式(5)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤との混合物を用いて重合する方法。
【0075】
(c)ビニルモノマーを、下記式(5)で表される有機テルル化合物と上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物との混合物を用いて重合する方法。
【0076】
(d)ビニルモノマーを、下記式(5)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤と上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物との混合物を用いて重合する方法。
【0077】
【化3】
【0078】
上記式(5)において、R11は、上記式(1)におけるR11と同じである。R12およびR13は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。R14は、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基、置換芳香族基、芳香族ヘテロ環基、アルコキシ基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基、シアノ基、アリル基またはプロパルギル基を示す。
【0079】
11で表される基は、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基または芳香族ヘテロ環基であり、具体的には次の通りである。
【0080】
炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基や、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0081】
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0082】
芳香族ヘテロ環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。
【0083】
12およびR13で表される基は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり、各基は、具体的には次の通りである。
【0084】
炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基や、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0085】
14で表される基は、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基、置換芳香族基、芳香族ヘテロ環基、アルコキシ基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基、シアノ基、アリル基またはプロパルギル基であり、具体的には次の通りである。
【0086】
炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0087】
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。好ましくはフェニル基である。
【0088】
置換芳香族基としては、置換基を有しているフェニル基、置換基を有しているナフチル基等を挙げることができる。上記置換芳香族基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、-COR15で示されるカルボニル含有基(R15は炭素数1~8のアルキル基、アリール基、炭素数1~8のアルコキシ基またはアリールオキシ基)、スルホニル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。また、これらの置換基は、1個または2個置換していることが好ましい。
【0089】
芳香族ヘテロ環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。
【0090】
アルコキシ基としては、炭素数1~8のアルキル基が酸素原子に結合した基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等を挙げることができる。
【0091】
アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等を挙げることができる。
【0092】
アミド基としては、-CONR161162(R161、R162は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~8のアルキル基またはアリール基)を挙げることがきる。
【0093】
オキシカルボニル基としては、-COOR17(R17は水素原子、炭素数1~8のアルキル基または芳香族基)で表される基が好ましく、例えばカルボキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等を挙げることができる。好ましいオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0094】
アリル基としては、-CR171172-CR173=CR174175(R171、R172は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~8のアルキル基、R173、R174、R175は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~8のアルキル基または芳香族基であり、それぞれの置換基が環状構造で繋がっていてもよい)等を挙げることができる。
【0095】
プロパルギル基としては、-CR181182-C≡CR183(R181、R182は、水素原子または炭素数1~8のアルキル基、R183は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、芳香族基またはシリル基)等を挙げることができる。
【0096】
上記式(5)で表される有機テルル化合物は、具体的には(メチルテラニルメチル)ベンゼン、(メチルテラニルメチル)ナフタレン、エチル-2-メチル-2-メチルテラニル-プロピオネート、エチル-2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオネート、(2-トリメチルシロキシエチル)-2-メチル-2-メチルテラニル-プロピオネート、(2-ヒドロキシエチル)-2-メチル-2-メチルテラニル-プロピオネートまたは(3-トリメチルシリルプロパルギル)-2-メチル-2-メチルテラニル-プロピオネート等、国際公開第2004/14848号、国際公開第2004/14962号、国際公開第2004/072126号、および国際公開第2004/096870号に記載された有機テルル化合物の全てを例示することができる。
【0097】
アゾ系重合開始剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ系重合開始剤であれば特に制限なく使用することができる。例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70)、2,2’-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、または2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等を例示することができる。
【0098】
ビニルモノマーは、ラジカル重合可能であれば特に制限はないが、具体的には下記のビニルモノマーを挙げることができる。
【0099】
また、本発明で得られるビニル重合体(P1)は、下記ビニルモノマーを含む複数のビニルモノマーからなる共重合体であってもよい。なお、本明細書において、「ビニルモノマー」とは分子中にラジカル重合可能な炭素-炭素二重結合を有するモノマーのことをいう。「(メタ)アクリル」とは「アクリルおよびメタクリルの少なくとも一方」をいい、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一方」をいい、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレートおよびメタクリレートの少なくとも一方」をいう。
【0100】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレート。
【0101】
(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環族アルキル基を有する(メタ)アクリレート。
【0102】
(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香環基を有する(メタ)アクリレート。
【0103】
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート。
【0104】
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール構造単位を有する(メタ)アクリレート。
【0105】
スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、2-ヒドロキシメチルスチレン、1-ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー。
【0106】
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等の酸無水物を反応させたモノマー等のカルボキシル基を有するビニルモノマー。
【0107】
スチレンスルホン酸、ジメチルプロピルスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート、スルホン酸エチル(メタ)アクリルアミド、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基を有するビニルモノマー。
【0108】
メタクリロイロキシエチルリン酸エステル等のリン酸基を有するビニルモノマー。
【0109】
(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド。
【0110】
N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の3級アミン含有不飽和モノマー。
【0111】
N-2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド、N-メタクリロイルアミノエチル-N,N,N-ジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩基含有不飽和モノマー。
【0112】
(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有不飽和モノマー。
【0113】
2-ビニルチオフェン、N-メチル-2-ビニルピロール、1-ビニル-2-ピロリドン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のヘテロ環含有不飽和モノマー。
【0114】
N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-ε―カプトラクタム等のビニルアミド。
【0115】
酢酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニルなどのカルボン酸ビニル。
【0116】
1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等のα-オレフィン。
【0117】
ブタジエン、イソプレン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等のジエン類。
【0118】
これらのなかでも、脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレート、脂環族アルキル基を有する(メタ)アクリレート、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリルアミド、3級アミン含有不飽和モノマー、ヘテロ環含有不飽和モノマー、ビニルアミドモノマーが好ましい。
【0119】
重合工程は、不活性ガスで置換した容器で、ビニルモノマーと上記式(5)の有機テルル化合物とに、ビニルモノマーの種類に応じて反応促進、分子量および分子量分布の制御等の目的で、さらにアゾ系重合開始剤および/または上記式(1)の有機ジテルリド化合物を混合する。このとき、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げられる。好ましくは、アルゴン、窒素が挙げられる。
【0120】
上記(a)、(b)、(c)および(d)におけるビニルモノマーの使用量は、目的とするビニル重合体(P1)の物性により適宜調節すればよい。上記式(5)の有機テルル化合物1molに対しビニルモノマーを30mol~30000molとすることが好ましい。
【0121】
上記(b)における上記式(5)の有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤とを併用する場合、上記式(5)の有機テルル化合物1molに対してアゾ系重合開始剤を0.01mol~10molとすることが好ましい。
【0122】
上記(c)における上記式(5)の有機テルル化合物と上記式(1)の有機ジテルリド化合物とを併用する場合、上記式(5)の有機テルル化合物1molに対して上記式(1)の有機ジテルリド化合物を0.01mol~100molとすることが好ましい。
【0123】
上記(d)における上記式(5)の有機テルル化合物と上記式(1)の有機ジテルリド化合物とアゾ系重合開始剤とを併用する場合、上記式(5)の有機テルル化合物1molに対して上記式(1)の有機ジテルリド化合物を0.01mol~100molとすることが好ましく、上記式(1)の有機ジテルリド化合物1molに対してアゾ系重合開始剤を0.01mol~10molとすることが好ましい。
【0124】
重合反応は、無溶媒でも行うことができるが、ラジカル重合で一般に使用される非プロトン性溶媒またはプロトン性溶媒を使用し、上記混合物を撹拌して行なってもよい。使用できる非プロトン性溶媒は、例えば、アニソール、ベンゼン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2-ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン等が挙げられる。また、プロトン性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1-メトキシ-2-プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0125】
溶媒の使用量としては、適宜調節すればよく、例えば、ビニルモノマー1gに対して、0.01mL以上が好ましく、より好ましくは0.05mL以上、さらに好ましくは0.1mL以上であり、50mL以下が好ましく、より好ましくは10mL以下、さらに好ましくは1mL以下である。
【0126】
反応温度、反応時間は、得られるビニル重合体(P1)の分子量あるいは分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、0℃~150℃で、1分~100時間撹拌する。TERP法は、低い重合温度および短い重合時間であっても高い収率と精密な分子量分布を得ることができる。このとき、圧力は、通常、常圧で行われるが、加圧または減圧しても構わない。
【0127】
上記重合反応の終了後の重合溶液からテルルを回収する工程で得られたテルル回収溶液を、溶液(a1)とすることができる。
【0128】
重合反応により得られるビニル重合体(P2)の成長末端は、テルル化合物由来の-TeR11(式中、R11は上記式(1)中のR11と同じである。)の形態であり、重合反応終了後に還元剤(r2)を作用させることで、ビニル重合体からテルル原子が除去され、ビニル重合体(P1)と、R11-Te-Y-(R21とを得ることができる。R11-Te-Y-(R21は、上記式(1)で表される有機ジテルリド化合物および上記式(2)で表される化合物との平衡混合物となるため、有機ジテルリド化合物を高収率で回収することは容易ではない。
【0129】
しかしながら、本発明においては、上記のようにこの平衡混合物と、塩基と、還元剤(r1)と、水とを混合することにより工程(A)を行った後、工程(B)を行うので、有機ジテルリド化合物を高収率で回収することができる。
【0130】
(還元剤(r2))
還元剤(r2)は、Te原子を有さず、ビニル重合体(P2)の成長末端のテルル化合物に由来する基に対し還元性を示す化合物であれば、特に制限なく使用できる。
【0131】
還元剤(r2)としては、例えば、有機硫黄系還元剤、有機ケイ素系還元剤および有機スズ系還元剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは下記式(6)で表される化合物である。還元剤(r2)を用いることで、重合体の成長末端のみに作用させることができる。
【0132】
(R21-Y-H …式(6)
上記式(6)において、n、Y、R21は、上記式(2)のn、Y、R21と同じである。
【0133】
nは、1~3であり、好ましくは1または3であり、より好ましくは1である。
【0134】
Yで表される基は、(n+1)価の連結基であり、硫黄原子、ケイ素原子、スズ原子等を挙げることができ、好ましくは硫黄原子である。
【0135】
21で表される基は、脂肪族基または芳香族基であり、R21で示される基は置換基を有していてもよい。具体的には次の通りである。
【0136】
脂肪族基としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基等が挙げられる。
【0137】
直鎖状アルキル基の炭素数としては、炭素数1~20が好ましく、炭素数1~10がより好ましく、炭素数1~5がさらに好ましい。上記直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ラウリル基等が挙げられる。
【0138】
分岐鎖状アルキル基の炭素数としては、炭素数3~20が好ましく、炭素数3~10がより好ましく、炭素数3~5がさらに好ましい。上記分岐鎖状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、ネオペンチル基、イソオクチル基等が挙げられる。
【0139】
環状アルキル基は、鎖状部分を有していてもよい。環状アルキル基の炭素数としては、炭素数4~18が好ましく、炭素数6~12がより好ましく、炭素数6~10がさらに好ましい。上記環状アルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。鎖状部分を有する環状アルキル基の鎖状部分の例としては、炭素数1~12のアルキレン基、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基が挙げられる。上記脂肪族基が有する置換基としては、ハロゲン基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0140】
芳香族基は、鎖状部分を有していてもよい。芳香族基の炭素数としては、炭素数6~18が好ましく、炭素数6~12がより好ましく、炭素数6~8がさらに好ましい。上記芳香族基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。鎖状部分を有する芳香族基の鎖状部分の例としては、炭素数1~12のアルキレン基、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基が挙げられる。上記芳香族基が有する置換基としては、ハロゲン基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0141】
上記式(6)で表される化合物の具体例としては、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール等のアルキルチオール;チオグリコール;チオグリセロール;チオフェノール、ベンジルメルカプタン、チオサリチル酸等の芳香族チオール;トリス(トリメチルシリル)シラン等のトリアルキルケイ素;トリブチルスズ等のトリアルキルスズ等が挙げられ、好ましくは芳香族チオールである。
【0142】
このような還元剤(r2)を用いる場合、全工程において、ヒドリド還元剤を使用しないことから、TERP法により得られる多種多様なビニル重合体において、水素ガスの発生のおそれがなく、高収率かつ高純度でテルルを有機ジテルリド化合物として回収することできる。
【0143】
なお、本発明において、ビニル重合体(P2)を含む重合溶液と、還元剤(r2)とを混合することにより反応させる反応温度は、特に限定されず、例えば、0℃以上、好ましくは30℃以上、80℃以下、好ましくは70℃以下とすることができる。また、反応時間は、例えば、2時間以上、30時間以下とすることができる。
【0144】
(溶媒(a2))
溶媒(a2)は、ビニル重合体(P1)が溶解している溶媒と相分離可能であり、式(1)で表される有機ジテルリド化合物を溶解することができる溶媒であればよく、好ましくはビニル重合体(P1)が溶解している溶媒よりも疎水性の高い溶媒である。そのような溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類があり、好ましくは脂肪族炭化水素類である。溶媒(a2)は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0145】
溶媒(a2)の添加量は、ビニル重合体(P1)に対して、0.5部~10部とすることができ、好ましくは2部~5部である。
【0146】
工程(D)において、ビニル重合体(P1)を含有する溶液相を親水性とするため、メタノール、エタノール等の低級アルコール、又はアセトニトリル等を含む混合溶媒をさらに混合することができる。低級アルコール、アセトニトリル等を混合する場合、ビニル重合体(P1)に対して、0.1部~6部とすることができ、好ましくは0.3部~2部である。
【実施例
【0147】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0148】
(実施例1)
ガラス管に、ジブチルジテルリド(DBDT)0.5g(1.35mmol)、ジフェニルジスルフィド0.1g(0.46mmol)、ヘプタン(Hep)6.2g、ホルムアミジンスルフィン酸0.109g(1.01mmol)、水酸化カリウム(KOH)51mg(0.91mmol)、イオン交換水(HO)1.0g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(MP)0.9gを加え、35℃にて20時間撹拌した。撹拌後、2相が分離するまで静置した後、水相を取り除いた。残ったヘプタン相をH-NMR(ブルカージャパン株式会社製、型番「AVANCE500」)により分析したところ、DBDTであることを確認した。また、その純度は96%であった。
【0149】
(実施例2~10)
ホルムアミジンスルフィン酸の代わりに、下記の表1に示す還元剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジブチルジテルリドの精製を行った。また、残ったヘプタン相を実施例1と同様にしてH-NMR(ブルカージャパン株式会社製、型番「AVANCE500」)により分析して、DBDTであることを確認し、その純度を求めた。
【0150】
(比較例1)
ガラス管に、ジブチルジテルリド(DBDT)0.5g(1.35mmol)、ジフェニルジスルフィド0.1g(0.46mmol)、ヘプタン(Hep)6.2g、ヒドラジン一水和物0.051g(1.02mmol)、水酸化カリウム(KOH)51mg(0.91mmol)、イオン交換水(HO)1.0g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MP)0.9gを加え、35℃にて23時間撹拌した。撹拌後、2相が分離するまで静置した後、水相を取り除いた。残ったヘプタン相をH-NMR(ブルカージャパン株式会社製、型番「AVANCE500」)により分析したところ、DBDTであることを確認した。また、その純度は76%であった。
【0151】
(比較例2)
ガラス管に、ジブチルジテルリド(DBDT)0.5g(1.35mmol)、ジフェニルジスルフィド0.1g(0.46mmol)、ヘプタン(Hep)6.2g、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム二水和物0.157g(1.02mmol)、イオン交換水(HO)2.0g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MP)1.8gを加え、35℃にて26時間撹拌した。撹拌後、2相が分離するまで静置した後、水相を取り除いた。残ったヘプタン相をH-NMR(ブルカージャパン株式会社製、型番「AVANCE500」)により分析したところ、DBDTであることを確認した。また、その純度は77%であった。
【0152】
結果を下記の表1に示す。
【0153】
【表1】
【0154】
表1より、硫黄系還元剤およびリン系還元剤のうち少なくとも一方の還元剤と、塩基との双方を用いた実施例1~10では、有機ジテルリド化合物と副生物との混合物から、高純度の有機ジテルリド化合物が得られることが確認できた。他方、硫黄系還元剤およびリン系還元剤とは異なる還元剤を用いた比較例1や、塩基を用いなかった比較例2では、高純度の有機ジテルリド化合物が得られなかった。
【0155】
(実施例11)
ガラス管に、エチル-2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオネート(BTEE)1.20g(4.0mmol)、ジブチルジテルリド(DBDT)0.74g(2.0mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.13g(0.8mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)19.4g、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)20.12g(128.0mmol)を加えた。この溶液を窒素雰囲気で60℃にて14時間撹拌し、有機テルル基を末端にもつポリ2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを得た。得られたポリマーのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、型番「HLC-8320」、ポリスチレン標準)により測定した分子量は、数平均分子量(Mn)=4700であり、またその分子量分布は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=1.31であった。
【0156】
次に、得られたポリマーにチオフェノール0.48g(4.4mmol)を加え、60℃で6時間撹拌した。
【0157】
この溶液にヘプタン82.1g及びメタノール23.8gを加え、撹拌した。撹拌後、2相が分離するまで静置した後、ヘプタン相を取り除いた。この分液洗浄操作を6回繰り返した。
【0158】
次に、集めたヘプタン相にホルムアミジンスルフィン酸0.30g(2.8mmol)、水酸化カリウム(KOH)0.47g(8.4mmol)、イオン交換水1.1g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MP)1.0gを加え、35℃にて4時間撹拌した。撹拌後、2相が分離するまで静置した後、水相を取り除き、ヘプタン相を減圧下にて濃縮した。残渣はH-NMR(ブルカージャパン株式会社製、型番「AVANCE500」)により分析したところ、DBDTであることを確認した。また、その純度は97%であった。重量測定によるテルル化合物の回収率は88%であった。
【0159】
(比較例3)
ガラス管に、エチル-2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオネート(BTEE)1.20g(4.0mmol)、ジブチルジテルリド(DBDT)0.74g(2.0mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.13g(0.8mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)19.4g、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)20.12g(128.0mmol)を加えた。この溶液を窒素雰囲気で60℃にて14時間撹拌し、有機テルル基を末端にもつポリ2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを得た。得られたポリマーのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、型番「HLC-8320」、ポリスチレン標準)により測定した分子量は、Mn=5400であり、またその分子量分布は、Mw/Mn(PDI)=1.32であった。
【0160】
次に、得られたポリマーにチオフェノール0.48g(4.4mmol)を加え、60℃で6時間撹拌した。
【0161】
この溶液にヘプタン82.1g及びメタノール23.8gを加え、撹拌した。撹拌後、2層が分離するまで静置した後、ヘプタン層を取り除いた。この分液洗浄操作を6回繰り返した。
【0162】
次に、集めたヘプタン層を減圧下にて濃縮した。残渣はH-NMR(ブルカージャパン株式会社製、型番「AVANCE500」)により分析したところ、DBDTであることを確認した。また、純度は69%であった。重量測定よりテルル化合物の回収率は61%であった。
【0163】
結果を下記の表2に示す。
【0164】
【表2】
【0165】
表2より、有機テルル化合物を用いたリビングラジカル重合法により得られた重合溶液からテルルを回収する工程で得られたテルル回収溶液を用いた場合であっても、硫黄系還元剤およびリン系還元剤のうち少なくとも一方の還元剤と、塩基との双方を用いた実施例11では、有機ジテルリド化合物と副生物との混合物から、高純度の有機ジテルリド化合物が得られることが確認できた。他方、上記還元剤及び塩基を用いた精製を行わなかった比較例3では、高純度の有機ジテルリド化合物が得られなかった。