(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】透明面状ヒーター
(51)【国際特許分類】
H05B 3/84 20060101AFI20240905BHJP
H05B 3/26 20060101ALI20240905BHJP
H05B 3/20 20060101ALI20240905BHJP
H05B 3/16 20060101ALI20240905BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H05B3/84
H05B3/26
H05B3/20 327A
H05B3/16
H05B3/10 C
(21)【出願番号】P 2020185007
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 寛至
(72)【発明者】
【氏名】野口 雄司
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10609769(US,B1)
【文献】特開2020-167047(JP,A)
【文献】特開2000-138093(JP,A)
【文献】特開平09-063754(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235266(WO,A1)
【文献】特表2003-534143(JP,A)
【文献】特開2020-126707(JP,A)
【文献】特開2005-019293(JP,A)
【文献】特表2017-520083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/84
H05B 3/16
H05B 3/10
H05B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材と、断熱層と、透明導電層とがこの順に積層され、
前記透明導電層に通電するための一対の電極を備え、
前記断熱層が150℃以上の耐熱温度を有する樹脂を含み、前記ガラス基材より小さい熱伝導率を有
し、
前記断熱層の熱伝導率が0.2W/m・K以下である、透明面状ヒーター。
【請求項2】
前記樹脂がシリコーン系樹脂またはフッ素系樹脂である、請求項1に記載の透明面状ヒーター。
【請求項3】
前記樹脂がジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリエステル変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、およびポリフェニルサルホン(PPSU)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の透明面状ヒーター。
【請求項4】
前記透明導電層の前記断熱層とは反対側の面に保護層を有さない、請求項1または2に記載の透明面状ヒーター。
【請求項5】
前記断熱層が無機粒子を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の透明面状ヒーター。
【請求項6】
前記無機粒子が中空シリカ粒子を含む、請求項
5に記載の透明面状ヒーター。
【請求項7】
前記断熱層における前記中空シリカ粒子の含有量が0質量%を超えて3質量%以下である、請求項
6に記載の透明面状ヒーター。
【請求項8】
前記中空シリカ粒子の平均粒子径が150nm以下である、請求項
6または
7に記載の透明面状ヒーター。
【請求項9】
前記断熱層の厚みが1.5~3.5μmである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の透明面状ヒーター。
【請求項10】
全光線透過率が70%以上であり、ヘーズが2.0%以下である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の透明面状ヒーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明面状ヒーターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明面状ヒーターとしては、液晶などのモニター基材の表面を加熱するための発熱層が基材(PET、ガラスなど)の表面に設けられた構造が検討されている。モニターは、主に室内で使用され、氷点下から室温程度まで加熱することが求められている。
【0003】
このような透明面状ヒーターとしては、例えば特許文献1では、接着層、透明基板、透明導電性薄膜、透明絶縁層、接着層、透明フィルムの順に積層され、透明導電性薄膜の両端に電極を有する透明面状ヒーターが開示されている。また、非特許文献1では、ガラス基材またはPET基材上に銀ナノワイヤとPEDOT:PSSとを積層した透明面状ヒーターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】S.Ji et al.,small,2014,10,No.23,4951-4960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車などの車両のフロントガラス、モニターカメラなどは室外に配置されるため、表面が結露したり水滴が生じたりすることがある。視界確保のために、結露、水滴などを効率よく除去することが求められている。結露、水滴などを速やかに除去するためには、高速で高温(例えば100℃以上)まで表面を加熱する必要がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1に記載の透明面状ヒーターは、このような要求を想定しておらず、昇温速度が遅く、高温まで表面を加熱することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、昇温速度が向上し、高温まで表面を加熱することができる透明面状ヒーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った。その結果、ガラス基材と透明導電層(発熱層)との間に断熱層を設けることにより、昇温速度を向上し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一形態に係る透明面状ヒーターは、ガラス基材と、断熱層と、透明導電層とがこの順に積層され、前記透明導電層に通電するための一対の電極を備える。ここで、前記断熱層が150℃以上の耐熱温度を有する樹脂を含み、前記ガラス基材より小さい熱伝導率を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一形態によれば、昇温速度が向上し、高温まで表面を加熱することができる透明面状ヒーターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る透明面状ヒーターを模式的に表した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一形態は、ガラス基材と、断熱層と、透明導電層とがこの順に積層され、前記透明導電層に通電するための一対の電極を備え、前記断熱層が150℃以上の耐熱温度を有する樹脂を含み、前記ガラス基材より小さい熱伝導率を有する、透明面状ヒーターである。
【0014】
本形態の透明面状ヒーターによれば、昇温速度が向上し、高温(例えば100℃以上)まで表面を加熱することができる。
【0015】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0016】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の一実施形態による透明面状ヒーターを説明する。但し、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る透明面状ヒーターの構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の透明面状ヒーター10は、ガラス基材11の一方の面上に、断熱層12と透明導電層13とがこの順に積層された積層構造を有する。また、透明導電層13に通電するために、ガラス基材11上の両端部に一対の電極20が設けられている。電極20に電圧を印加することにより、電極間の透明導電層13に熱を発生させることができる。
【0018】
特許文献1および非特許文献1に記載の透明面状ヒーターは、ガラス基材または透明プラスチック基材の上に直接発熱層(本実施形態に係る透明導電層13に相当)が設けられている。そのため、基材に熱を奪われることにより、昇温速度が遅くなると考えられる。
【0019】
一方、本実施形態の透明面状ヒーターは、ガラス基材11と透明導電層13との間に断熱層12を有する。断熱層12は、ガラス基材11自体に熱を奪われることを抑制でき、昇温速度を上げることができる。さらに、断熱層12は、ガラス基材11より小さい熱伝導率を有するため、断熱効果が高く、昇温速度の向上に寄与することができる。
【0020】
また、断熱層12は、150℃以上の耐熱温度を有する樹脂を含むことにより、高温に曝されても、物性の変化(透明性の低下、変形、曲がり、ひび割れなど)を抑えることができる。そのため、本実施形態の透明面状ヒーターは、結露、雨水などを加熱して蒸発させることができ、視界を確保することができる。
【0021】
なお、本明細書における「透明」とは、可視光が透過することを意味しており、光がある程度散乱してもよい。光の散乱度合いについては、透明面状ヒーターの用途によって要求されるレベルが異なる。
【0022】
以下、本実施形態の透明面状ヒーターの主要な構成部材について、さらに詳細に説明する。
【0023】
[ガラス基材]
本実施形態に係るガラス基材は単層構造でもよいし、2層以上の複層構造であってもよい。また、ガラス基材は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0024】
ガラス基材の材料は、1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。ガラス基材の材料としては、耐熱性、透明性等の観点から、ソーダライムガラス、白板ガラス、青板ガラス、石英ガラス、アルカリフリーガラス、サファイアガラス、ケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、フツリン酸塩ガラスなどが挙げられる。
【0025】
ガラス基材の厚み(複層構造の場合はその合計の厚み)は、用途に応じて適宜選択できるが、0.1mm以上が好ましく、ハンドリング性や機械的強度の観点から0.2~2mmが好ましい。
【0026】
[断熱層]
本実施形態に係る断熱層は、150℃以上の耐熱温度を有する樹脂を含み、ガラス基材よりも小さい熱伝導率を有する。
【0027】
本明細書中、「150℃以上の耐熱温度」とは、アメリカ保険業者安全試験所規格UL746B(長期熱劣化試験)により規定される相対温度指数が150℃以上であることを意味する。
【0028】
150℃以上の耐熱温度を有する樹脂としては、シリコーン系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などのフッ素系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリフェニルサルホン(PPSU)などが挙げられる。
【0029】
シリコーン系樹脂としては、メチル系(例えば、ジメチルポリシロキサン)、メチル・フェニル系(例えば、メチルフェニルポリシロキサン)、ポリエステル変性、アクリル変性などのシリコーン樹脂が挙げられる。
【0030】
一実施形態では、150℃以上の耐熱温度を有する樹脂は、シリコーン系樹脂またはフッ素系樹脂であり、昇温速度をより向上できるとの観点から、好ましくはシリコーン系樹脂である。
【0031】
本実施形態に係る断熱層は、ガラス基材より小さい熱伝導率を有する。断熱層の熱伝導率がガラス基材よりも大きいと、昇温速度を向上することができない。
【0032】
断熱層の熱伝導率は、昇温速度をより向上できるとの観点から、好ましくは0.50W/m・K以下であり、より好ましくは0.35W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.25W/m・K以下である。熱伝導率の下限値は、特に制限はなく、低ければ低いほど好ましい。
【0033】
断熱層の熱伝導率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
本実施形態に係る断熱層は、無機粒子を含んでもよい。断熱層が無機粒子を含むことにより、昇温速度をより向上させることができる。
【0035】
無機粒子の材料としては、例えばシリカ、シリカエアロゲル、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、セシウムドープ酸化タングステン(CWO)、アルミニウム亜鉛複合酸化物(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)などが挙げられる。これらの中でも、シリカが好ましい。無機粒子の材料としては、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
無機粒子は、断熱効果をより高めるとの観点から、好ましくは多孔質粒子または中空粒子を含み、より好ましくは中空シリカ粒子を含む。
【0037】
断熱層中の無機粒子の含有量は、後述の全光線透過率およびヘーズを満たす限り、特に制限されない。
【0038】
断熱層が中空シリカ粒子を含む場合、断熱層中の中空シリカの含有量は、断熱性と透明性とを両立できるとの観点から、好ましくは0質量%を超えて5質量%以下であり、より好ましくは0質量%を超えて3質量%以下であり、さらに好ましくは0.1~3質量%である。
【0039】
無機粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、後述の全光線透過率およびヘーズを満たす限り、特に制限されない。
【0040】
断熱層が中空シリカ粒子を含む場合、中空シリカ粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)の上限は、透明性およびヘーズの観点から、好ましくは150nm以下であり、より好ましくは120nm以下である。平均粒子径の下限は、特に制限されないが、例えば2nm以上である。中空シリカ粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0041】
断熱層の厚みは、断熱性と透明性とを両立できるとの観点から、好ましくは1.0~5.0μmであり、よりこのましくは1.5~3.5μmである。
【0042】
本実施形態に係る断熱層の形成方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ガラス基材上に150℃以上の耐熱温度を有する樹脂と必要に応じて無機粒子とを含む塗布液を塗布することにより形成することができる。
【0043】
塗布方法としては、例えばスピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0044】
塗布液に用いられる溶媒は、特に制限されず、使用する樹脂に応じて適宜選択することができる。溶媒としては、例えば炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン等)、グリコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール、3-メトキシブチルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート等)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル等)が挙げられる。
【0045】
[透明導電層]
透明導電層を構成する材料としては、金属酸化物、金属などが挙げられる。透明導電層は、単層構造でもよく、2層以上の構造でもよい。例えば、透明導電層が2層構造である場合、透明導電層は、金属酸化物と金属との積層構造でもよい。
【0046】
金属酸化物としては、例えばインジウム-スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO(登録商標))、亜鉛-スズ酸化物(ZTO)、インジウム-ガリウム酸化物(IGO)、インジウム-亜鉛-スズ酸化物(IZTO(登録商標))、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO)、アルミニウムドープ亜鉛酸化物(AZO)、ガリウムドープ亜鉛酸化物(GZO)、アンチモンドープスズ酸化物(ATO)、フッ素ドープスズ酸化物(FTO)、ニオブドープ酸化チタン(NTO)、タンタルドープ酸化チタン(TTO)、バナジウムドープ酸化チタン(VTO)、酸化スズ、酸化インジウム、ハロゲン含有酸化スズ等が挙げられる。これらは1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
金属としては、例えば金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、クロム等の金属単体、またはこれらの金属を含む合金等が挙げられる。これらは1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
透明導電層を構成する材料としては、耐久性の観点から、好ましくは酸化スズ、インジウム-スズ酸化物(ITO)、フッ素ドープスズ酸化物(FTO)、ニオブドープ酸化チタン(NTO)、ならびに金、銀およびこれらを含む合金から選択される。
【0049】
透明導電層の厚さは、好ましくは30~300nmであり、より好ましくは50~200nmであり、さらに好ましくは70~150nmである。
【0050】
透明導電層の形成方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0051】
透明導電層を構成する材料として金属酸化物を使用する場合、非溶液中で膜を形成するドライプロセスが好ましく用いられる。ドライプロセスの例としては、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの物理蒸着法;熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法、エピタキシャルCVD法、原子層蒸着法、MO-CVD法などの化学蒸着法が挙げられる。
【0052】
透明導電層を構成する材料として金属を使用する場合、上記ドライプロセスが使用できる。また、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法などのウェットプロセスが使用できる。ウェットプロセスでは、金属の形状は、特に制限されず、粒子状であっても、ナノワイヤであってもよい。
【0053】
透明導電層は、断熱層の全面にわたって形成された構造でもよく、金属の網目状構造やメッシュ構造でもよい。
【0054】
[電極]
本実施形態の透明面状ヒーターは、透明導電層に通電するための一対の電極を備える。
【0055】
電極を構成する材料としては、導電性を有するものであれば如何なるものでも使用可能である。好ましい電極の例としては、金属ペースト、導電性樹脂、金属箔、金属テープ、金属めっき層が挙げられ、これらを単独あるいは積層、多層または混合層として使用することができる。接触抵抗の観点から、電極としてはより抵抗値が低いものを用いることが好ましい。具体的には、電極は、金、銀、銅、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、銀を含むことがより好ましい。
【0056】
電極の厚みは、本実施形態に係る発熱層が機能するために必要な通電が可能な程度の厚みがあればよいが、通常、0.1μm以上であり、好ましくは0.5μm~100μm、より好ましくは1~50μm、さらに好ましくは5~20μmである。
【0057】
電極の形成方法としては、特に制限されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法;熱CVD法、原子層蒸着法等の化学蒸着法;等のドライプロセスが挙げられる。また、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセスも用いることができる。さらに、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
【0058】
[保護層]
本実施形態の透明面状ヒーターは、透明導電層の断熱層とは反対側の面に保護層を有していてもよい。当該保護層は、透明面状ヒーターの耐久性を向上させうる。保護層の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等が挙げられる。また、公知のUV硬化型樹脂を塗布硬化せしめたもの、電子線硬化型樹脂を塗布硬化せしめたもの、熱硬化型樹脂を塗布硬化せしめたもの等も使用可能である。
【0059】
保護層を設ける場合の保護層の厚みは、通常1μm以下であり、好ましくは500nm以下である。ただし、本実施形態の透明面状ヒーターは、保護層を有しなくても耐久性に優れ、また、保護層を有しないほうが透明面状ヒーター最表面からの伝熱性に優れる。このような観点から、好ましい一実施形態による透明面状ヒーターは、保護層を有しない。
【0060】
[全光線透過率およびヘーズ]
本実施形態の透明面状ヒーターの全光線透過率は、透明性の観点から、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。全光透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠した方法により測定した値を意味する。
【0061】
本実施形態の透明面状ヒーターのヘーズは、透明性の観点から、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは2%以下である。ヘーズは、JIS K7136:2000に準拠した方法により測定した値を意味する。
【0062】
一実施形態では、透明面状ヒーターの全光線透過率は、70%以上であり、透明面状ヒーターのヘーズは、2%以下である。
【0063】
[製造方法]
本実施形態の透明面状ヒーターは、ガラス基材上に、断熱層と透明導電層とをこの順に積層するように形成し、透明導電層に通電するための一対の電極を形成することにより製造することができる。
【0064】
断熱層の形成方法、透明導電層の形成方法および電極の形成方法は、上記で説明したとおりである。
【0065】
透明面状ヒーターの製造方法では、透明導電層が金属酸化物と金属との積層構造である場合、透明導電層を形成後、熱処理を行ってもよい。熱処理は、電極の形成前に行ってもよく、電極の形成後に行ってもよい。この熱処理によって、透明導電層に含まれる金属酸化物が結晶化し、透明導電層の比抵抗を低減することができる。
【0066】
熱処理の方法は特に制限されず、例えば、ホットプレート、レーザー、赤外線(マイクロ波)、ハロゲンランプ、熱風等を用いて加熱する方法、あるいは電極を利用して通電する方法等が例示できる。これらの方法は、1種単独でも、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0067】
中でも、より簡便な方法であり、熱処理温度を制御しやすい等の観点から、電極を利用して発熱層に通電する方法が好ましい。一例を挙げると、通電の際の印加電圧は1~10Vが好ましい。
【0068】
本工程における熱処理の温度は、150~300℃が好ましく、170~280℃がより好ましい。また、熱処理時間は、60~300秒が好ましく、100~250秒がより好ましい。
【0069】
[用途]
本実施形態の透明面状ヒーターは、例えば車両用部材の結露や水滴除去等に使用されうる。車両用部材としては、例えば、自動車、産業車両、パーソナルビークル、自走可能な車体、鉄道等の車両用外装部材、車両用樹脂ウィンドウ等を挙げることができる。
【0070】
上記車両用外装部材としては、例えば、ドアミラー、ウィンカーレンズ、ヘッドランプカバー等を挙げることができる。上記車両用樹脂ウィンドウとしては、サンルーフ、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、リアクウォーターガラス、リアドアクォーターガラス等を挙げることができる。
【0071】
本実施形態の透明面状ヒーターは、高速で高温まで加熱することができるため、アラウンドビューモニターシステム、バックモニターシステム等に用いられるカメラレンズの結露、水滴除去等に好適に使用される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0073】
(実施例1)
シリコーン含有塗布液1として、H-10(株式会社フェクト製)を使用した。ソーダライムガラス(ガラス基材、5cm×5cm、厚さ1.8mm)上に、シリコーン含有塗布液1をスピンコーター(株式会社共和理研製)により塗布(スピン速度1000rpm)し、100℃で2時間乾燥して、断熱層(厚さ2μm)を形成した。断熱層の厚さは、断熱層形成前後のガラス基材の厚さの差から計算した。
【0074】
続いて、断熱層上に、ITOターゲットを使用し、スパッタリング装置を用いて、基板加熱スパッタリング(約200℃)によって透明導電層(厚さ100nm)を形成して、積層体を得た。
【0075】
得られた積層体に対して、電極間距離10mm、電極幅10mmとなるように、銀ペースト(藤倉化成株式会社製、ドータイト(登録商標))を塗布して電極を形成して、透明面状ヒーターを作製した。
【0076】
(実施例2)
シリコーン含有塗布液1の代わりにポリフッ化ビニリデン(PVDF)含有塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、透明面状ヒーターを作製した。
【0077】
PVDF含有塗布液は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を20質量%の濃度となるようにアセトンに混合し、56℃で5分間保持し、その後室温(25℃)まで冷却して作製した。
【0078】
(実施例3)
シリコーン含有塗布液1の代わりにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)含有塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、透明面状ヒーターを作製した。
【0079】
PTFE含有塗布液として、POLYFLON D 1E(ダイキン工業株式会社製)を使用した。
【0080】
(実施例4)
シリコーン含有塗布液1の代わりにシリコーン含有塗布液2を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、透明面状ヒーターを作製した。
【0081】
シリコーン含有塗布液2は、断熱層形成後の中空シリカ粒子(日鉄鉱業株式会社製、シリナックス、平均一次粒子径100nm)の含有量が1.0質量%となるようにH-10(株式会社フェクト製)に混合分散して作製した。
【0082】
(実施例5)
シリコーン含有塗布液1の代わりにシリコーン含有塗布液3を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、透明面状ヒーターを作製した。
【0083】
シリコーン含有塗布液3は、断熱層形成後の中空シリカ粒子(日鉄鉱業株式会社製、シリナックス、平均一次粒子径100nm)の含有量が5.0質量%となるようにH-10(株式会社フェクト製)に混合分散して作製した。
【0084】
(実施例6)
断熱層の厚さを1μmとしたこと以外は、実施例5と同様にして、透明面状ヒーターを作製した。
【0085】
(比較例1)
ソーダライムガラス(ガラス基材、5cm×5cm、厚さ1.8mm)上に、ITOターゲットを使用し、スパッタリング装置を用いて、基板加熱スパッタリング(約200℃)によって透明導電層(厚さ100nm)を形成して、構造体を得た。
【0086】
得られた構造体に対して、電極間距離10mm、電極幅10mmとなるように、銀ペースト(藤倉化成株式会社製、ドータイト(登録商標))を塗布して電極を形成して、透明面状ヒーターを作製した。
【0087】
(比較例2)
ソーダライムガラス(ガラス基材、5cm×5cm、厚さ1.8mm)上に、断熱層としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ2μm、東レ株式会社製)を粘着剤(PAT1、リンテック株式会社製)を用いて貼付したこと以外は、実施例1と同様にして、透明面状ヒーターを作製した。
【0088】
(比較例3)
ソーダライムガラス(ガラス基材、5cm×5cm、厚さ1.8mm)上に、断熱層としてポリカーボネート(PC)フィルム(厚さ100μm、AGC株式会社製)を粘着剤(PAT1、リンテック株式会社製)を用いて貼付したこと以外は、実施例1と同様にして、透明面状ヒーターを作製した。
【0089】
[評価]
(熱伝導率)
実施例1~6および比較例2~3の断熱層、ならびにガラス基材の熱伝導率は、レーザフラッシュ法により以下の条件で測定した。結果を表1および2に示す。
【0090】
装置名:京都電子工業株式会社製 LFA-502
測定温度:室温
雰囲気:真空
密度測定:寸法密度。
【0091】
(耐熱試験)
実施例1~3および比較例2~3の透明面状ヒーターの電極を利用して、12Vの電圧を印加し、表面温度が150℃になるまで加熱した。150℃を1時間維持して、耐熱層の状態を以下の基準に従い目視にて評価した。結果を表1に示す。
【0092】
評価基準
〇:透明性の低下、変形、曲がり、ひび割れなどは確認されなかった
×:透明性の低下、変形、曲がり、ひび割れなどが確認された。
【0093】
(樹脂耐熱温度)
断熱層に含まれる樹脂の耐熱温度として、使用した樹脂をアメリカ保険業者安全試験所規格UL746B(長期熱劣化試験)に準拠して測定し、相対温度指数を求めた。結果を表1に示す。
【0094】
(昇温速度)
実施例1~6および比較例1の透明面状ヒーターの電極を利用して、12Vの電圧を30秒印加した。電圧印加開始から10秒後までの温度変化から昇温速度を算出した。結果を表1および2に示す。
【0095】
【0096】
表1に示すように、実施例1~3の透明面状ヒーターが断熱層を有し、断熱層の熱伝導率がガラス基材よりも小さいことにより、比較例1の透明面状ヒーターと比べて、昇温速度が上昇することが分かる。また、実施例1~3の透明面状ヒーターでは、150℃以上の耐熱温度を有する樹脂を使用することにより、耐熱性に優れるため、高温で加熱する用途で使用できることが分かる。
【0097】
(抵抗値)
透明導電層の抵抗値を、CDM-2000D(株式会社カスタム製)を用いて、2端子法にて値を測定した。結果を表2に示す。
【0098】
(ヘーズ)
透明面状ヒーターのヘーズは、ヘーズメーター(HM-65W、株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて、JIS K7136:2000(プラスチック-透明材料のヘーズの求め方)に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0099】
(全光線透過率)
透明面状ヒーターの全光線透過率は、ヘーズメーター(HM-65W、株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて、JIS K7361-1:1997(プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
表2に示すように、断熱層が無機粒子を含むことにより、昇温速度をより向上できることが分かる。
【符号の説明】
【0102】
10 透明面状ヒーター、
11 ガラス基材、
12 断熱層、
13 透明導電層、
20 電極。