(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】給電装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
H02M7/12 B
H02M7/12 H
(21)【出願番号】P 2020188446
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中▲崎▼ 友喜
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-038531(JP,A)
【文献】特開2006-223051(JP,A)
【文献】特開2002-286769(JP,A)
【文献】特開2000-032761(JP,A)
【文献】特開2009-189200(JP,A)
【文献】特開平07-325636(JP,A)
【文献】特開2017-022800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流電源から出力される3相交流電圧が3つの電源線のそれぞれを介して入力され、入力された前記3相交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記直流電圧が出力される2本の電源線の間に接続されるコンデンサと、
前記コンバータから出力される電力をPWM制御により制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記3相交流電源のいずれかの相をモニタして、モニタした相の電圧の位相を示す位相角度を出力する位相角度検出部と、
前記3つの電源線の電圧の正負を示す相信号を出力する相信号生成部と、
前記
3つの電源線のうちの第1の電源線の相信号である第1の相信号が所定の位相となるタイミングと、前記
3つの電源線のうちの前記第1の電源線とは異なる第2の電源線の相信号である第2の相信号が所定の位相となるタイミングと、の間の時間を検出し、検出した時間に基づいて、前記第1の電源線の電圧及び前記第2の電源線の電圧が正相及び逆相のいずれで供給されているかを判定する正相逆相判定部と、
前記3つの電源線の電流と、正相の場合の前記位相角度又は逆相の場合の前記位相角度とを用いて、有効電流及び無効電流を算出する3相2相変換部と、
前記直流電圧を所定の値とするための有効電流の目標値を示す有効電流指令を出力する電圧制御部と、
逆相の場合に前記有効電流指令が示す電流値の符号を反転させる電流指令部と、
前記電流指令部から出力される前記有効電流指令と、前記3相2相変換部が算出した前記有効電流及び前記無効電流と、から有効電流及び無効電流の指令値を算出する電流制御部と、
前記有効電流及び無効電流の指令値に基づき、前記コンバータをPWM制御するための電圧値を算出する2相3相変換部と、
前記コンバータをPWM制御するための信号を出力するPWM信号出力部と、を備え、
正相の場合の前記位相角度は1サイクルの間の位相を0から2πへ向けてモニタして検出した位相角度であり、逆相の場合の前記位相角度は1サイクルの間の位相を2πから0へ向けてモニタして検出した位相角度である、
給電装置。
【請求項2】
前記位相角度検出部は、
正相の場合に前記モニタした相の1サイクル間で値が単調増加し、逆相の場合に前記モニタした相の1サイクル間で値が単調減少する信号を生成し、
前記生成した信号のレベルに応じて前記モニタした相の位相を検出する、
請求項1に記載の給電装置。
【請求項3】
前記位相角度検出部は、前記モニタした相の1サイクル間で値が単調変化する信号を生成して、前記生成した信号のレベルに応じて前記モニタした相の位相を検出し、
前記3相2相変換部及び前記2相3相変換部は、逆相の場合には2πから前記位相角度を減じた値を、前記位相角度の代わりに用いる、
請求項1に記載の給電装置。
【請求項4】
前記第1の相信号及び前記第2の相信号は、位相が前記所定の位相となった時に立ち上がる信号であり、
前記正相逆相判定部は、前記第1の相信号が立ち上がったタイミングと、前記第2の相信号が立ち上がったタイミングと、の間の時間を検出する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の給電装置。
【請求項5】
前記正相逆相判定部は、検出した前記時間が2π/3の位相差に対応する場合には正相、前記検出した時間が2π/3の位相差に対応しない場合には逆相と判定する、
請求項4に記載の給電装置。
【請求項6】
前記3つの電源線のそれぞれを通じて前記コンバータに入力される電流をI
U、I
V及びI
W、前記位相角度θとしたとき、前記3相2相変換部は、前記有効電流I
d及び前記無効電流I
qを以下の式[1]及び[2]を用いて算出する、
【数1】
【数2】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の給電装置。
【請求項7】
前記コンバータは、前記3つの電源線のそれぞれが入力に接続された、前記2本の電源線の間に挿入される3つのインバータ回路を有し、
前記2相3相変換部は、前記有効電流I
dに対応する電圧をV
d、前記無効電流I
qに対応する電圧をV
qとしたとき、前記3つのインバータ回路が出力すべき電圧V
U、V
V及びV
Wを、以下の式[3]~[5]を用いて算出する、
【数3】
【数4】
【数5】
請求項6に記載の給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電装置に関し、例えば樹脂を射出成形する射出成形機の給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、樹脂を溶融して金型内に射出する射出装置を有するものとして構成される(特許文献1)。射出装置は加熱シリンダや加熱シリンダ内に回転可能かつ軸方向に駆動可能なスクリュが設けられ、スクリュが回転しながら駆動することで、材料である樹脂を加熱シリンダ内に導入し、かつ、溶融した樹脂を金型内に射出することができる。射出装置の各部を駆動するには、モータが広く用いられている。3相交流電源が出力する3相交流電圧は、交流直流変換回路からなる給電装置によって直流電圧に変換され、変換された直流電圧は電圧変動を補償する電力貯蔵装置を経て、モータを駆動するサーボアンプに供給される。このような給電装置としては、PWM制御によって出力電力を制御するものが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-217836号公報
【文献】特開2004-312862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような射出成形機では、3相交流電源から3相交流電圧が供給される。3相交流電圧の受電端には内部電圧を所望の電圧に昇圧しつつ、3相交流電圧に対する3相交流電流の力率を1にすることを目的としたPWMコンバータが採用されることがしばしばある。このとき、3相交流電源のR相、S相及びT相が、給電装置の入力側のU相、V相及びW相に正しく対応して接続されていれば(この状態を正相と称する)、直流電圧は所望の電圧に制御され、力率は1に制御される。
【0005】
しかし、射出成形機の据え付け工事において3相交流電源を射出成形機に接続するときに、誤って、3相交流電源の各相を逆順で、すなわちR相、S相及びT相のそれぞれを給電装置の入力側のW相、V相及びU相に接続してしまう事態が生じ得る(この状態を逆相と称する)。この場合、逆相に接続されてことを検知できないままコンバータを駆動すると誤った電源位相に対する制御を行ってしまうため、装置の故障等の問題が発生するか、あるいは、アラーム機能により正常に動作せず停止してしまうため再度据え付け工事を行う必要がある。
【0006】
こうした問題を回避するため、給電装置にて3相交流電源が正相及び逆相のいずれで接続されているかを自律的に検知して、逆相で接続されている場合でも正相で接続されている場合と同様に直流電圧を出力できることが望ましい。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様である給電装置は、3相交流電圧が3つの電源線のそれぞれを介して入力され、入力された前記3相交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧が出力される2本の電源線の間に接続されるコンデンサと、前記コンバータから出力される電力をPWM制御により制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記3相交流電源のいずれかの相をモニタして、モニタした相の電圧位相角度を出力する位相角度検出部と、 前記3つの電源線の電圧の正負を示す相信号を出力する相信号生成部と、前記第1の相信号が所定の位相となるタイミングと、前記第2の相信号が所定の位相となるタイミングと、の間の時間を検出し、検出した時間に基づいて、前記第1の電源線の電圧及び前記第2の電源線の電圧が正相及び逆相のいずれであるかを判定する正相逆相判定部と、前記3つの電源線の電流と、前記位相角度とを用いて、有効電流及び無効電流を算出する3相2相変換部と、前記直流電圧を所定値とするための有効電流指令を出力する電圧制御部と、逆相の場合に前記有効電流指令が示す電流値の符号を反転させる電流指令部と、前記電流指令部から出力される前記有効電流指令と、前記3相2相変換部が算出した前記有効電流及び前記無効電流と、から有効電流及び無効電流の指令値を算出する電流制御部と、前記有効電流及び無効電流の指令値に基づき、前記コンバータをPWM制御するための電圧値を算出する2相3相変換部と、前記コンバータをPWM制御するための信号を出力するPWM信号出力部と、を有し、正相の場合の前記位相角度は1サイクルの間の位相を0から2πへ向けてモニタして検出した位相角度であり、逆相の場合の前記位相角度は1サイクルの間の位相を2πから0へ向けてモニタして検出した位相角度であるものである。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態によれば、出力する直流電圧の変動を抑制できる給電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1にかかる射出成形機の構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態1にかかる射出成形機の電源系統を示す図である。
【
図3】実施の形態1にかかる給電装置の構成を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態1にかかるPWM制御部の動作を示すフローチャートである。
【
図5】R相、S相及びT相が正相で接続されている場合の相信号を示す図である。
【
図6】R相、S相及びT相が逆相で接続されている場合の給電装置を模式的に示す図である。
【
図7】R相、S相及びT相が逆相で接続されている場合の相信号を示す図である。
【
図8】実施の形態2にかかる給電装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
実施の形態1
以下、実施の形態1について説明する。
図1に、実施の形態1にかかる射出成形機100の構成を模式的に示す。射出成形機100は、基台110上に各種の装置及び部品が配置されている。本構成では、基台110上に、型締装置120及び射出装置130が設けられている。
【0013】
型締装置120は、成形品の金型140を型締めする装置であり、型締めに用いられる型締モータM1と、成形品を金型から突き出すための突き出しモータM2と、が設けられる。型締装置120は、型締モータM1を駆動することで、例えば軸方向(X方向)に2つに分離している金型をX方向に締め付けて固定する。また、金型に樹脂を射出して成形された成形品は、突き出しモータM2を駆動することで、軸方向に駆動可能な突き出しピンを成形品に突き当てることで、例えばX+方向に成形品を突き出す。
【0014】
射出装置130は、ホッパ131から加熱筒132に投入された樹脂ペレットを可塑化し、可塑化した樹脂を金型に注入する装置として構成される。加熱筒132内に投入された樹脂ペレットは、加熱筒132内でスクリュ133が回転しながら軸方向(X+方向)に後退することで可塑化(溶融)され、その後、スクリュ133が回転しながら軸方向(X-方向)に前進することで、可塑化された材料が金型内に射出される。スクリュ133は、射出用モータM3によって軸方向に駆動され、可塑化用モータM4によって回転方向に駆動される。
【0015】
なお、
図1では、型締モータM1、突き出しモータM2、射出用モータM3及び可塑化用モータM4は、それぞれベルトB1~B4を介して駆動力を伝達するものとしているが、これは例示に過ぎず、適宜所望の駆動力伝達手段を用いてもよい。
【0016】
射出成形機100には、給電装置1から電源電圧が供給される複数のサーボアンプ150が設けられ、それぞれが型締モータM1、突き出しモータM2は、射出用モータM3及び可塑化用モータM4を含む複数のモータを駆動する。
【0017】
射出成形機100の電源系統について説明する。
図2に、射出成形機100の電源系統を示す。射出成形機100には、3相交流電源160から3相交流電圧が供給される。3相交流電圧は給電装置1によって直流電圧に変換されて、各サーボアンプ、すなわち
図2のサーボアンプ150A~150Dに供給される。サーボアンプ150A~150Dは、それぞれ、型締モータM1、突き出しモータM2、射出用モータM3及び可塑化用モータM4を駆動するものとして構成される。
【0018】
上述したように、射出成形機100では、樹脂を溶融して計量する計量工程や樹脂を射出する射出工程などが実行される。計量工程においてスクリュ133を回転方向に駆動する可塑化用モータM4は、長時間電力を消費するが瞬間的な電力の大きさは比較的小さい。これに対し、射出工程においてスクリュ133を軸方向に駆動する射出用モータM3は、駆動時間は短時間であるが大電力を消費する。つまり、射出成形機100が消費する電力は、工程により大きく変動する。従って、射出成形機100のモータに電力を供給する給電装置1は、消費される最大電力に対応可能な容量を有するものとして構成される。
【0019】
射出成形機100に設けられたモータを駆動するために、射出成形機100の給電装置1にはコンバータが設けられ、供給される3相交流電圧を直流電圧に変換して、各モータに対して設けられたインバータに供給する。インバータは、直流電圧を、所定の周波数及び電圧の3相交流電圧に変換して、モータに供給する。
【0020】
続いて、実施の形態1にかかる給電装置1について具体的に説明する。
図3に、実施の形態1にかかる給電装置1の構成を模式的に示す。給電装置1は、3相交流電源160から3相交流電圧が供給され、これを直流電圧に変換してモータなどの負荷に供給するものとして構成される。
【0021】
給電装置1は、PWM制御部10、PWMコンバータ20、交流リアクトル30及び平滑コンデンサ40を有する。
【0022】
PWMコンバータ20は、IGBTやSiC-MOSFET、MOSFETなどの半導体素子とダイオードとを逆並列し、これをブリッジ接続して構成される。以下、具体的に説明する。
【0023】
PWMコンバータ20は、3相交流電圧を直流電圧に変換する回路として構成される。
図3に示すように、PWMコンバータ20は、スイッチ素子TR1~TR6及びダイオードD1~D6を有する。スイッチ素子TR1~TR6のコレクタとエミッタとの間には、それぞれ、ダイオードD1~D6が逆の極性で接続されている。すなわち、スイッチ素子TR1~TR6のコレクタには、それぞれ、ダイオードD1~D6のカソードが接続されている。スイッチ素子TR1~TR6のエミッタには、それぞれ、ダイオードD1~D6のアノードが接続されている。スイッチ素子TR1~TR6は、例としてNPN型トランジスタを用いているが、スイッチ素子TR1~TR6の構成はこれに限定されない。
【0024】
スイッチ素子TR1、TR3及びTR5のコレクタは高電圧側の直流電源線SLPと接続される。スイッチ素子TR2、TR4及びTR6のエミッタは低電圧側の直流電源線SLLと接続される。スイッチ素子TR1のエミッタ及びスイッチ素子TR2のコレクタは、U相電源線と接続される。スイッチ素子TR3のエミッタ及びスイッチ素子TR4のコレクタは、V相電源線と接続される。スイッチ素子TR5のエミッタ及びスイッチ素子TR6のコレクタは、W相に接続される電源線と接続される。
【0025】
スイッチ素子TR1及びTR2とダイオードD1及びD2は、インバータ回路(第1のインバータ)を構成している。スイッチ素子TR1のベースにはU相のPWM信号SU1が印加され、スイッチ素子TR2のベースにはU相の逆相のPWM信号SU2が印加される。これにより、スイッチ素子TR1とスイッチ素子TR2とは、相補的に(択一的に)オン/オフされる。
【0026】
スイッチ素子TR3及びTR4とダイオードD3及びD4は、インバータ回路(第2のインバータ)を構成している。スイッチ素子TR3のベースにはV相のPWM信号SV1が印加され、スイッチ素子TR4のベースにはV相の逆相のPWM信号SV2が印加される。これにより、スイッチ素子TR3とスイッチ素子TR4とは、相補的に(択一的に)オン/オフされる。
【0027】
スイッチ素子TR5及びTR6とダイオードD5及びD6は、インバータ回路(第3のインバータ)を構成している。スイッチ素子TR5のベースにはW相のPWM信号SW1が印加され、スイッチ素子TR6のベースにはW相の逆相のPWM信号SW2が印加される。これにより、スイッチ素子TR5とスイッチ素子TR6とは、相補的に(択一的に)オン/オフされる。
【0028】
交流リアクトル30は、3相交流電源160とPWMコンバータ20との間の各相に挿入されたリアクトル(インダクタ)により構成される。
【0029】
平滑コンデンサ40は、PWMコンバータ20が出力する直流電圧を平滑化するコンデンサであり、直流電圧の入力部に配置されることからDCリンクコンデンサとも呼ばれる。平滑コンデンサ40は、高電圧側の直流電源線SLPと低電圧側の直流電源線SLLとの間に接続される。
【0030】
次いで、PWM制御部10の構成及び動作について説明する。
図4は、PWM制御部の動作を示すフローチャートである。
【0031】
PWM制御部10は、相信号生成部11、正相逆相判定部12、位相角度検出部13、3相2相変換部14、電圧制御部15、電流指令部16、電流制御部17、2相3相変換部18及びPWM信号出力部19を有する。
【0032】
相信号生成部11は、R相、S相及びT相の電圧をモニタし、電圧が正の値の場合にHIGH、電圧が負の値の場合にLOWとなる相信号を生成する。相信号は、正弦波状に変動する相電圧が増加してゼロになるタイミングで立ち上がり、相電圧が減少してゼロになるタイミングで立ち下がる方形波として観測される。言うまでもないが、R相、S相及びT相の相信号は、2/3π(120°)ずつ位相が異なる信号として観測される。
【0033】
正相逆相判定部12は、R相、S相及びT相の相信号から、3相交流信号が正相で入力されているか、逆相で入力されているかを判定し、判定結果を示す正相逆相判定信号DETを出力する(
図4のステップS1)。以下、具体的に説明する。
【0034】
正相逆相判定部12は、隣接する2つの相、例えば3相電源線SL1、SL2及びSL3のうちの隣接する2つに対応する相信号をモニタし、両者の立ち上がりエッジ間の時間をカウントする。この例では、3相電源線SL1及びSL2に対応する相信号をモニタする例について説明する。
【0035】
まず、R相、S相及びT相が正相で接続されている場合について説明する。ここで言う正相とは、
図3に示すように、R相、S相及びT相のそれぞれが接続されるものとして設けられている給電装置1の3相電源線SL1、SL2及びSL3に、規定通りにR相、S相及びT相が接続されている状態を指す。
図5に、R相、S相及びT相が正相で接続されている場合の相信号を示す。この場合には、相回転は右回り(時計回り)となるので、正相逆相判定部12は、3相電源線SL1及びSL2に対して規定通りに接続されたR相の相信号及びS相の相信号をモニタしていることが理解できる。正相の場合には、R相の相信号とS相の相信号の立ち上がりエッジ間には2π/3(120°)の位相差が存在するので、それに見合う期間T1において正相逆相判定信号のカウントが行われる。なお、3相電源線SL2の電圧(S相)と3相電源線SL3(T相)の電圧とを比較した場合、及び、3相電源線SL3の電圧(T相)と3相電源線SL1(R相)の電圧とを比較した場合でも、相信号の立ち上がりエッジ間には2π/3(120°)の位相差が存在することは、いうまでもない。
【0036】
次いで、R相、S相及びT相が逆相で接続されている場合について説明する。
図6に、R相、S相及びT相が逆相で接続されている場合の給電装置1を模式的に示す。ここで言う逆相とは、R相、S相及びT相のそれぞれが接続されるものとして設けられている給電装置1の3相電源線SL1、SL2及びSL3に、規定とは逆の順序でT相、S相及びR相が接続されている状態を指す。
図7に、R相、S相及びT相が逆相で接続されている場合の相信号を示す。この場合には、相回転は左回り(反時計回り)となるので、正相逆相判定部13は、3相電源線SL1及びSL2に対して誤って接続されたT相の相信号及びS相の相信号をモニタしていることが理解できる。逆相の場合には、T相の相信号とS相の相信号の立ち上がりエッジ間には2π-2π/3=4π/3(360°-120°=240°)の位相差が存在するので、それに見合う期間T2において正相逆相判定信号のカウントが行われる。つまり、逆相の場合のカウント期間T2は、正相の場合のカウント期間T1の期間の2倍になり、両者の差異を容易に判別することができる。なお、3相電源線SL2の電圧(S相)と3相電源線SL3(R相)の電圧とを比較した場合、及び、3相電源線SL3の電圧(R相)と3相電源線SL1(T相)の電圧とを比較した場合でも、相信号の立ち上がりエッジ間には4π/3(240°)の位相差が存在することは、いうまでもない。
【0037】
正相の場合の位相差2π/3(120°)に対応するカウント期間T1は、3相交流電圧の周期から求めることができる。よって、正相逆相判定部13は、正相逆相判定信号のカウント期間がT1の場合には正相、T1以外の値の場合には逆相であると判定することができる。正相逆相判定部13は、判定結果を示す正相逆相判定信号DETを出力する。
【0038】
位相角度検出部13は、3相交流電圧をモニタし、3相電源線SL1に接続される相を1サイクル分の間で固定時間ごとにカウントし、正相逆相判定信号DETに応じて位相角度θを出力する。位相角度θは、例えば、ゼロクロス検出によって生成される。以下、正相の場合と逆相の場合とに分けて、位相角度検出部13における位相角度θの取得について説明する
【0039】
正相の場合(
図4のステップS2)、3相電源線SL1はR相が接続されているので、位相角度カウント信号は、R相の電圧が増加してゼロになるタイミングから上昇を開始してから1カウントごとに値が所定値だけ増加し、その後再び電圧が増加してゼロになるタイミングで立ち下がる、のこぎり波状の信号として取得される。よって、位相が0から2πへ変化する1サイクルの間に一定時間ごとにカウントを行い、カウントされた値(縦軸の値)を参照することで、交流電源1サイクル(2π)間の任意のタイミングにおける位相角度を判別することができる。
【0040】
これに対し、
図6に示す例の逆相の場合(
図4のステップS4)、3相電源線SL1はT相が接続されているので、角度カウント信号は、T相の電圧が増加してゼロになるタイミングで立ち上ってから1カウントごとに値が所定値だけ減少し、その後再び電圧が増加したタイミングで値が0となる、のこぎり波状の信号となる。したがって、逆相の場合に得られる1サイクル分の波形は、正相の場合に得られる1サイクル分の波形を左右反転した波形となっている。よって、位相が2πから0へ変化する1サイクルの間に一定時間ごとにカウントを行い、カウントされた値(縦軸の値)を参照することで、逆相の場合においても、交流電源1サイクル(2π)間の任意のタイミングにおける位相角度を判別することができる。
【0041】
このように、正相の場合と逆相の場合とで、位相角度カウント信号の波形を左右反転させることで、3送電源線SL1の相の位相角度を正確に検出することが可能となる。
【0042】
3相2相変換部14(
図4のステップS6)は、3相のそれぞれの電流値及び位相角度θを一般的な3相2相変換であるdq変換を示す以下の式[1]及び[2]に代入することで、有効電流I
d及び無効電流I
qを算出する(
図4のステップS3)。以下、正相接続の場合に3相電源線SL1~SL3を通じてPWMコンバータ20に入力される電流を、それぞれI
U、I
V及びI
Wと表記する。
【数1】
【数2】
なお、3相2相変換部14は、3相のそれぞれの電流値を電流センサによって直接検出してもよいし、3相の電流の合計がゼロ(I
U+I
V+I
W=0)となることを利用して、2相の電流のみを電流センサによって検出して計算によって他の1相の電流を算出してもよい。計算を利用して3相の電流を取得する場合には、3相の電流を直接検出する場合と比べて、電流センサを1つ削減することが可能となる。
【0043】
正相及び逆相のいずれの場合でも、位相角度θは、位相角度検出部13において正相及び逆相の違いを反映した値として取得されているので、位相角度検出部13から出力された位相角度θを、そのまま式[1]及び[2]に代入すればよい。その後、3相2相変換部14は、算出した有効電流Id及び無効電流Iqを示す信号を出力する。
【0044】
電圧制御部15は、直流電圧Vをモニタし、直流電圧Vを目標電圧VTとするために必要な有効電流の目標値を指令する有効電流指令Sdを出力する。有効電流指令Sdは、サーボアンプがモータに電力を供給する場合は力行方向に出力され、モータの減速時など電力がSLPラインへ回生してくる場合はSLP-SLL間の電圧が上昇するため電源への回生方向へ出力される。
【0045】
電流指令部16は、正相逆相判定信号DETに基づき、有効電流指令信号S
dの符号を決定する(
図4のステップS3及びS5)。このとき、正相逆相判定信号DETが逆相を示している場合には、正相に対応する有効電流指令信号S
dの符号を反転させて、逆相に対応する有効電流指令値を算出し(
図4のステップS5)、逆相に対応した符号判定後有効電流指令信号S
d’を出力する。
【0046】
電流制御部17は、検出された有効電流I
dと無効電流I
qとを受けとり、有効電流が符号判定後有効電流指令信号S
d’で指令された値になるように、かつ、無効電流が無効電流指令信号S
qで指令された値となるように調整した有効電圧指令信号V
d及び無効電圧指令信号V
qを出力する(
図4のステップS7)。なお無効電流はゼロであることが望ましいので、ここでは無効電流指令信号S
qが示す値はゼロとなっている。無効電流指令信号S
qは、PWM制御部10内に設けられた図示しない記憶装置等から与えられてもよいし、PWM制御部10の外部から与えられてもよい。
【0047】
2相3相変換部18は、位相角度θ及び有効電圧指令信号V
d及び無効電圧指令信号V
qに基づいて、R相、S相及びT相に対応するPWMコンバータ20の3つのインバータが出力すべき電圧を算出する(
図4のステップS8)。
【0048】
2相について求めた有効電流I
dに対応する電圧V
d及び無効電流I
qに対応する電圧V
qを用いて、3つのインバータが出力すべき電圧の電圧V
U、V
V及びV
Wは、以下の式[3]~[5]で表される。
【数3】
【数4】
【数5】
【0049】
正相及び逆相のいずれの場合でも、位相角度θは、位相角度検出部13において相の違いを反映した値として取得されているので、位相角度検出部13から出力された位相角度θを、そのまま式[3]~[5]に代入すればよい。
【0050】
2相3相変換部18は、算出した3相(u相、v相及びw相)の電圧Vu、Vv及びVwを示す信号を、PWM信号出力部19へ出力する。
【0051】
PWM信号出力部19は、3相(u相、v相及びw相)の電圧Vu、Vv及びVwに基づいて、各電圧を実現できるデューティ比(トランジスタがオンとなる時間幅)を有するPWM信号を出力する(
図4のステップS9)。すなわち、適切なデューティ比を有するPWM信号SU1、SU2、SV1、SV、SW1及びSW2をPWMコンバータ20へ出力して各スイッチ素子のオン/オフを制御することで、PWMコンバータ20をPWM制御する。
【0052】
以上、本構成によれば、これにより、据え付け時の誤配線を自動的に検出して、誤配線の影響を補償することが可能となる。これにより、3相交流電源が逆相で接続されても、正相で接続された場合と同様に、直流電圧を出力することができる給電装置を提供することができる。
【0053】
また、本構成では、給電装置の制御を変更するだけでよいので、誤配線の復旧作業などの作業が発生することを防止できる。また、据え付け時に自動的に誤配線対策が行われるので、据え付け時の作業の軽減の観点からも有利である。
【0054】
実施の形態2
実施の形態2にかかる給電装置2について説明する。給電装置2は、実施の形態1にかかる給電装置1の変形例であり、PWM制御部での位相角度θにかかる演算方法が異なるものである。
図8に、実施の形態2にかかる給電装置2の構成を模式的に示す。給電装置2は、実施の形態1にかかる給電装置1のPWM制御部10を、PWM制御部50に置換した構成を有する。
【0055】
PWM制御部50の構成及び動作について説明する。PWM制御部50は、実施の形態1にかかるPWM制御部10の位相角度検出部13、3相2相変換部14及び2相3相変換部18を、それぞれ位相角度検出部53、3相2相変換部54及び2相3相変換部58に置換した構成を有する。PWM制御部50のその他の構成は、PWM制御部10と同様であるので、重複する説明については省略する。
【0056】
なお、本構成では、正相逆相判定部12は、正相逆相判定信号DETを、電流指令部16、3相2相変換部54及び2相3相変換部58へ出力する。
【0057】
位相角度検出部53は、位相角度検出部13と同様に、3相交流電圧をモニタし、3相電源線SL1に接続される相を1サイクル分の間で固定時間ごとにカウントして、位相角度θを出力する。但し、位相角度検出部53は、位相角度検出部13における正相時の角度カウント信号に基づいて、位相角度θを出力する。
【0058】
つまり、正相の場合には位相角度θが示す位相は正しい。これに対し、逆相の場合には、位相角度θが示す位相は正しくなく、正しい位相は2π-θとなる。
【0059】
3相2相変換部54は、まず、正相逆相判定信号DETに基づいて3相交流が正相で供給されているか、逆相で供給されているかを判定する。
【0060】
正相と判定した場合、3相2相変換部54は、位相角度検出部53から出力された位相角度θをそのまま式[1]及び[2]に代入して、有効電流Id及び無効電流Iqを算出する。
【0061】
そして、3相2相変換部54は、逆相における位相角度θ’を、位相角度検出部53から出力された位相角度θの代わりに式[1]及び[2]に代入することで、有効電流Id及び無効電流Iqを算出する。
【0062】
逆相と判定した場合、3相2相変換部54は、位相角度検出部53から出力された位相角度θの補正処理を行う。上述のように、逆相の場合には、位相角度検出部53から出力された位相角度θは、交流電圧の位相を正しく示していない。そこで、位相角度検出部53は、以下の式[6]に示す様に、位相角度検出部53から出力された位相角度θを、逆相における位相角度θ’に補正する。
【数6】
【0063】
以上の処理を行うことで、3相2相変換部54は、3相2相変換部14と同様に、有効電流Id及び無効電流Iqを算出することができる。
【0064】
2相3相変換部58は、まず、正相逆相判定信号DETに基づいて3相交流が正相で供給されているか、逆相で供給されているかを判定する。
【0065】
正相と判定した場合、2相3相変換部58は、位相角度検出部53から出力された位相角度θをそのまま式[3]~[5]に代入して、R相、S相及びT相に対応するPWMコンバータ20の3つのインバータが出力すべき電圧を算出する。
【0066】
逆相と判定した場合、2相3相変換部58は、3相2相変換部54と同様に、式[6]に基づき、位相角度検出部53から出力された位相角度θの補正処理を行う。そして、2相3相変換部58は、逆相における位相角度θ’を、位相角度検出部53から出力された位相角度θの代わりに式[3]~[5]に代入することで、R相、S相及びT相に対応するPWMコンバータ20の3つのインバータが出力すべき電圧を算出する。
【0067】
以上の処理を行うことで、2相3相変換部58は、2相3相変換部18と同様に、R相、S相及びT相に対応するPWMコンバータ20の3つのインバータが出力すべき電圧を算出することができる。
【0068】
以上、本構成によれば、実施の形態1にかかる給電装置1と同様に、据え付け時の誤配線を自動的に検出して、誤配線の影響を補償することが可能となる。これにより、3相交流電源が逆相で接続されても、正相で接続された場合と同様に、直流電圧を出力することができる給電装置を提供することができる。
【0069】
また、本構成では、実施の形態1にかかる給電装置1と同様に、給電装置の制御を変更するだけでよいので、誤配線の復旧作業などの作業が発生することを防止できる。また、据え付け時に自動的に誤配線対策が行われるので、据え付け時の作業の軽減の観点からも有利である。
【0070】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、給電装置の構成は例示に過ぎず、同様の演算を行える限り、適宜、他の構成としてもよい。
【0071】
上述の実施の形態では、PWM制御部10は3相電源線の電圧及びPWMコンバータ20が出力する電圧をモニタしているが、電源系統とPWM制御部10との間の絶縁を確保するため、例えばフォトカプラを介して電圧をモニタしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 給電装置
10、50 PWM制御部
11 相信号生成部
12 正相逆相判定部
13、53 位相角度検出部
14、54 3相2相変換部
15 電圧制御部
16 電流指令部
17 電流制御部
18、58 2相3相変換部
19 PWM信号出力部
20 PWMコンバータ
30 交流リアクトル
40 平滑コンデンサ
100 射出成形機
110 基台
120 型締装置
130 射出装置
131 ホッパ
132 加熱筒
133 スクリュ
140 金型
150、150A~150D サーボアンプ
160 3相交流電源
B1~B4 ベルト
D1~D6 ダイオード
M1 型締モータ
M2 突き出しモータ
M3 射出用モータ
M4 可塑化用モータ
DET 正相逆相判定信号
Id 有効電流
Iq 無効電流
SL1~SL3 3相電源線
Sd 有効電流指令信号
Sd’ 符号判定後有効電流指令信号
Sq 無効電流指令信号
SLP、SLL 直流電源線
SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2 PWM信号
TR1~TR6 スイッチ素子
T1、T2 カウント期間
V 直流電圧
VT 目標電圧
Vd 有効電圧指令信号
Vq 無効電圧指令信号
θ 位相角度