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特許7550030精製された有機不純物吸着剤の製造方法および精製装置ならびに該有機不純物吸着剤の薬液精製装置への使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】精製された有機不純物吸着剤の製造方法および精製装置ならびに該有機不純物吸着剤の薬液精製装置への使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20240905BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240905BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/26 E
B01J20/26 G
B01D15/00 G
B01J20/26 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020189857
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078891
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸福
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534411(JP,A)
【文献】特開平05-126815(JP,A)
【文献】特表2005-528628(JP,A)
【文献】特表2014-507517(JP,A)
【文献】特開2016-040032(JP,A)
【文献】特開2010-022982(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/30
B01J 20/26
B01D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機不純物吸着剤に、任意の工程としてのアルカリ洗浄工程と、鉱酸洗浄工程と、非水液洗浄工程と、をこの順で実施することにより、前記有機不純物吸着剤を精製して、精製された有機不純物吸着剤を製造する方法であって、
前記有機不純物吸着剤は、有機不純物の吸着を目的とした精製に用いられる吸着剤であり、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤、およびフェノール系吸着剤、ならびにそれらの炭化物から選択され、
前記アルカリ洗浄工程は、濃度0.1~3mol/Lのアルカリ水溶液を空間速度(SV)1~20h -1 、BV(Bed Volume)1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する工程であり、
前記鉱酸洗浄工程は、濃度0.1~3mol/Lの鉱酸水溶液を空間速度1~20h -1 、BV1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する工程であり、
前記非水液洗浄工程は、非水液を用いて前記有機不純物吸着剤を洗浄する工程であり、
前記精製された有機不純物吸着剤は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下であることを特徴とする、精製された有機不純物吸着剤を製造する方法。
【請求項2】
前記非水液がアルコールである、請求項1に記載の精製された有機不純物吸着剤を製造する方法。
【請求項3】
前記アルコールとして特級グレード以上のアルコールを用いる、請求項2に記載の精製された有機不純物吸着剤を製造する方法。
【請求項4】
さらに、前記精製された有機不純物吸着剤を乾燥する乾燥工程を有し、該乾燥工程後の精製された有機不純物吸着剤の含液率が5%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の精製された有機不純物吸着剤を製造する方法。
【請求項5】
さらに、前記精製された有機不純物吸着剤を、有機不純物吸着を目的とした精製に使用する直前まで低酸素透過性容器に保管する保管工程を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の精製された有機不純物吸着剤を製造する方法。
【請求項6】
濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が4μg/mL-R以下である有機不純物吸着剤を用いた薬液精製装置であって、前記有機不純物吸着剤は、有機不純物の吸着を目的とした薬液の精製に用いられる吸着剤であり、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤およびフェノール系吸着剤、ならびにそれらの炭化物から選択されることを特徴とする、薬液精製装置
【請求項7】
任意に有機不純物吸着剤のアルカリ洗浄を行う手段と、任意にアルカリ洗浄した有機不純物吸着剤の鉱酸洗浄を行う手段と、鉱酸洗浄した有機不純物吸着剤の非水液洗浄を行う手段と、を有する、有機不純物吸着剤を精製する精製装置であって、
前記有機不純物吸着剤は、有機不純物の吸着を目的とした精製に用いられる吸着剤であり、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤およびフェノール系吸着剤、ならびにそれらの炭化物から選択され、
前記アルカリ洗浄を行う手段は、濃度0.1~3mol/Lのアルカリ水溶液を空間速度(SV)1~20h -1 、BV(Bed Volume)1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する手段であり、
前記鉱酸洗浄を行う手段は、濃度0.1~3mol/Lの鉱酸水溶液を空間速度1~20h -1 、BV1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する手段であり、
前記非水液洗浄を行う手段は、非水液を用いて前記有機不純物吸着剤を洗浄する手段であり、
精製された有機不純物吸着剤は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下であることを特徴とする、有機不純物吸着剤の精製装置。
【請求項8】
前記非水液として特級グレード以上のアルコールを用いる、請求項7に記載の有機不純物吸着剤の精製装置。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法により得られる精製された有機不純物吸着剤の薬液精製装置への使用。
【請求項10】
さらに、前記薬液精製装置がイオン性物質低減手段を有する、請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属不純物、有機不純物および水分の含有量を低減した精製された有機不純物吸着剤の製造方法および精製装置に関する。また、本発明は、該精製された有機不純物吸着剤の半導体製造工程等に用いられる薬液精製装置への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電子工業用製品の高集積化に伴い、製品の製造過程で使用される様々な電子工業用の薬液、溶媒および高分子ポリマー等(以下、これらをまとめて「薬液」ともいう)の非水液状物の高純度化の要求が一層高まっている。特に、これら非水液状物に含まれる金属イオンやその他のイオン性物質は、電子工業用製品に多大な悪影響を及ぼすことがある。そのため、電子工業用製品には、それらイオン性物質を極力含まないことが求められている。具体的には、金属イオン等の含有量が1μg/L以下というような高純度の非水液状物が要求されている。
【0003】
近年、電子工業用製品のさらなる高集積化に対応するため、半導体製造工程に用いられる薬液の精製において、イオン性物質以外にも、有機不純物のような非イオン性不純物の低減要求が高まっている。そのためには、有機不純物の低減に用いられる吸着剤自体を洗浄し、精製された吸着剤を得る必要がある。
【0004】
水溶液中の有機不純物の低減には、一般的に合成吸着剤が使用される。合成吸着剤からの着色成分等の初期の溶出を低減する目的で、特許文献1には、合成吸着剤を、アミン類を含有する溶液を用いて洗浄することにより精製する方法が開示されている。また、特許文献2には、合成吸着剤を、アルコール等の有機溶剤を用いて洗浄した後、40℃~80℃に加温した水酸化ナトリウムを用いて洗浄することにより、合成吸着剤中に含まれる初期溶出の原因となる不純物が除去されることが記載されている。また、非水液中から有機不純物を除去する方法として、特許文献3には、合成吸着剤を用いてt-ブチルアルコールからイソプロピルアルコールを除去する方法が開示されている。さらに、特許文献4には、非水液の中でもレジスト関連材料に使用される有機溶剤中の金属不純物除去に、活性炭などの有機不純物吸着剤と、微粒子除去および金属イオン除去を目的としたフィルターとを組み合わせて使用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-185335号公報
【文献】特開昭62-95139号公報
【文献】特開昭57-209237号公報
【文献】国際公開第2018-043697号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体製造工程における代表的な不純物は、微粒子等の原因となる金属と有機物、そして水分である。吸着剤の中でも、イオン交換樹脂は、超純水洗浄を始めとする微量金属低減工程で使用されるため、金属溶出を低減し、高度に精製された製品が販売されている。しかしながら、有機不純物の除去に使用される合成吸着剤や活性炭等の有機不純物吸着剤については、半導体レベルのクリーン度を有する製品はほとんど見られない。特に、合成吸着剤は、使用時に着色成分の溶出が起こることが知られており、活性炭も、材料や賦活工程における賦活炉に由来する金属のコンタミネーションが起こる。そのため、半導体製造工程で使用される薬液中の有機不純物を低減するためには、該薬液の精製に使用される有機不純物吸着剤中の金属不純物と有機不純物の両方を低減する必要がある。さらに、薬液が非水液である場合には、前記不純物に加え、水分も低減する必要がある。
【0007】
したがって、本発明は、合成吸着剤および活性炭等の有機不純物吸着剤に含まれる金属不純物、有機不純物および水分を低減することにより、精製された有機不純物吸着剤を製造する方法および有機不純物吸着剤を精製する精製装置を提供することを目的とする。また、本発明は、前記精製された有機不純物吸着剤を半導体製造工程等に用いられる薬液精製装置へ使用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題に鑑みて、本発明者らが鋭意検討した結果、任意にアルカリ洗浄と、鉱酸洗浄と、非水液洗浄と、をこの順で実施することにより、有機不純物吸着剤に含まれる金属不純物、有機不純物および水分を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、有機不純物吸着剤に、任意の工程としてのアルカリ洗浄工程と、鉱酸洗浄工程と、非水液洗浄工程と、をこの順で実施することにより、前記有機不純物吸着剤を精製して、精製された有機不純物吸着剤を製造する方法であって、前記有機不純物吸着剤は、有機不純物の吸着を目的とした精製に用いられる吸着剤であり、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤、およびフェノール系吸着剤、ならびにそれらの炭化物から選択され、前記アルカリ洗浄工程は、濃度0.1~3mol/Lのアルカリ水溶液を空間速度(SV)1~20h -1 、BV(Bed Volume)1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する工程であり、前記鉱酸洗浄工程は、濃度0.1~3mol/Lの鉱酸水溶液を空間速度1~20h -1 、BV1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する工程であり、前記非水液洗浄工程は、非水液を用いて前記有機不純物吸着剤を洗浄する工程であり、前記精製された有機不純物吸着剤は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下であることを特徴とする、精製された有機不純物吸着剤を製造する方法である。
【0010】
また、本発明は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が4μg/mL-R以下である有機不純物吸着剤を用いた薬液精製装置であって、前記有機不純物吸着剤は、有機不純物の吸着を目的とした薬液の精製に用いられる吸着剤であり、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤およびフェノール系吸着剤、ならびにそれらの炭化物から選択されることを特徴とする、薬液精製装置である。
【0011】
また、本発明は、任意に有機不純物吸着剤のアルカリ洗浄を行う手段と、任意にアルカリ洗浄した有機不純物吸着剤の鉱酸洗浄を行う手段と、鉱酸洗浄した有機不純物吸着剤の非水液洗浄を行う手段と、を有する、有機不純物吸着剤を精製する精製装置であって、前記有機不純物吸着剤は、有機不純物の吸着を目的とした精製に用いられる吸着剤であり、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤およびフェノール系吸着剤、ならびにそれらの炭化物から選択され、前記アルカリ洗浄を行う手段は、濃度0.1~3mol/Lのアルカリ水溶液を空間速度(SV)1~20h -1 、BV(Bed Volume)1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する手段であり、前記鉱酸洗浄を行う手段は、濃度0.1~3mol/Lの鉱酸水溶液を空間速度1~20h -1 、BV1~20の条件で用いて、前記有機不純物吸着剤を洗浄する手段であり、前記非水液洗浄を行う手段は、非水液を用いて前記有機不純物吸着剤を洗浄する手段であり、精製された有機不純物吸着剤は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下であることを特徴とする、有機不純物吸着剤の精製装置である。
【0012】
さらに、本発明は、上記製造方法により得られる精製された有機不純物吸着剤の薬液精製装置への使用である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、合成吸着剤および活性炭等の有機不純物吸着剤に含まれる金属不純物、有機不純物および水分を低減した、精製された有機不純物吸着剤を得ることができる。また、該精製された有機不純物吸着剤を、半導体製造工程等で用いられる薬液の精製に用いることにより、有機不純物の含有量を低減した高純度の薬液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る有機不純物吸着剤の精製装置を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る薬液精製装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[精製された有機不純物吸着剤の製造方法]
本発明に係る精製された有機不純物吸着剤を製造する方法は、任意の工程としてのアルカリ洗浄工程と、鉱酸洗浄工程と、非水液洗浄工程と、をこの順に有する。また、精製された有機不純物吸着剤は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である。以下、本発明に係る製造方法について、詳細に説明する。
【0016】
(有機不純物吸着剤)
本発明に係る製造方法における精製対象である有機不純物吸着剤としては、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤およびフェノール系吸着剤ならびにそれらの炭化物(活性炭)を挙げることができる。これらの有機不純物吸着剤は、特に限定されるものではないが、例えば、合成吸着剤XAD2000、XAD4、FPX66、XAD1180N、XAD7HP、XAD-2(いずれも商品名、オルガノ株式会社製)、AMBERLITE(登録商標、デュポン社製)、ダイヤイオン(登録商標)HP20、HP21、セパビーズ(登録商標)SP850、SP825L、SP700(いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製)、炭化フェノール樹脂(株式会社MET製)等が挙げられる。
【0017】
(アルカリ洗浄工程)
アルカリ洗浄工程は、任意の工程であり、必要に応じて実施することができる。アルカリ洗浄工程では、アルカリ水溶液を用いて有機不純物吸着剤を洗浄する。アルカリ水溶液には、有機不純物を分解する効果があるため、本工程において、有機不純物吸着剤中の有機不純物を分解し、除去することができる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリや、水酸化テトラメチルアンモニウム等の有機アルカリを用いることができる。これらの中でも、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリとして、例えば、40℃~80℃に加温したものを用いてもよい。用いるアルカリのグレードは特に限定されないが、コンタミネーションを防止する観点から、特級グレード以上のアルカリを用いることが好ましい。
【0018】
ここで、有機不純物吸着剤として、新品の吸着剤、すなわち、例えば、市販の吸着剤を、開封後に初めて使用する場合、当該吸着剤には、予めアルカリ成分が付いていることがある。そのように、アルカリ成分が付着している吸着剤を用いる場合には、該新品の吸着剤に対して、アルカリ洗浄工程を実施する必要はなく、鉱酸洗浄工程と、非水液洗浄工程とを、順次実施することにより、前記全金属不純物量が5μg/mL-R以下である、精製された有機不純物吸着剤を得ることができる。なお、アルカリ成分が付着している吸着剤を精製する場合であっても、アルカリ洗浄工程を実施してもよい。また、アルカリ成分が付着している吸着剤を超純水等により水洗した後に、後述する鉱酸洗浄工程を行ってもよい。
【0019】
一方で、有機不純物吸着剤として、アルカリ成分が付着していない吸着剤を用いる場合には、アルカリ洗浄工程を実施して、有機不純物を除去する。例えば、すでに有機不純物の吸着に使用した後に再生した吸着剤を精製する場合等は、該再生した吸着剤にはアルカリ成分が付着していないため、アルカリ洗浄工程が必要となる。
【0020】
アルカリ洗浄工程は、例えば、カラム等の充填容器に有機不純物吸着剤を充填して、そこへアルカリ水溶液を通液させることにより行う。充填容器の大きさは、吸着剤の使用量に応じて適宜設定すればよく、限定されるものではない。通液させるアルカリ水溶液の量は、適宜調整することができるが、例えば、濃度0.1~3mol/Lのアルカリ水溶液を用いて、SV1~20で1~20BVとすることができる。ここで、SV(Space velocity)は、空間速度を意味し、例えば、h-1(単位時間・単位吸着剤体積当たりの通過液体積)の単位で表される。また、BV(Bed volume)は、吸着剤量に対し通液する流量倍数を表す。アルカリ洗浄を行った後は、純水または超純水を用いて、カラム出口水が中性になるまで、アルカリ水溶液を洗い流す。なお、カラム出口水が中性であるか否かは、例えばpH計を用いて確認することができる。
【0021】
(鉱酸洗浄工程)
鉱酸洗浄工程では、任意に前記アルカリ洗浄および純水または超純水による洗浄を行った有機不純物吸着剤を、鉱酸水溶液を用いて洗浄する。鉱酸水溶液で洗浄することにより、有機不純物吸着剤中の金属不純物を低減することができる。特に、前工程で使用した水酸化ナトリウムに由来するナトリウムが吸着剤中に残留する場合があるが、本発明においては、アルカリ洗浄工程の後に鉱酸洗浄工程を実施することにより、残留ナトリウムを含む金属不純物を除去することができる。鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸が好ましい。用いる鉱酸のグレードは特に限定されないが、コンタミネーションを防止する観点から、特級グレード以上の鉱酸を用いることが好ましい。
【0022】
鉱酸洗浄工程は、例えば、任意にアルカリ洗浄した後の有機不純物吸着剤が充填されたカラム等の充填容器に、鉱酸水溶液を通液させることにより行う。充填容器の大きさは、吸着剤の使用量に応じて適宜設定すればよく、限定されるものではない。通液させる鉱酸水溶液の量は、適宜調整することができるが、例えば、濃度0.1~3mol/Lの鉱酸水溶液を用いて、SV1~20で1~20BVとすることができる。鉱酸洗浄を行った後は、純水または超純水を用いて、カラム出口水が中性になるまで、鉱酸水溶液を洗い流す。なお、カラム出口水が中性であるか否かは、例えばpH計を用いて確認することができる。
【0023】
(非水液洗浄工程)
非水液洗浄工程では、前記鉱酸洗浄および純水または超純水による洗浄を行った後の有機不純物吸着剤を、非水液、好ましくはアルコールを用いて洗浄する。最終工程として、アルコール洗浄を行うことにより、吸着剤中に残存する有機不純物を洗い流し、かつ、水分をアルコールと置換することにより水分を除去することができる。アルコールとしては、水と混合可能であり、かつ、沸点が水よりも低いものであれば特に制限されない。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが挙げられる。これらの中でも、後の乾燥工程における乾燥のしやすさの観点から、メタノールまたはエタノールが好ましく、メタノールがより好ましい。なお、洗浄に使用するアルコール自体に金属不純物が多く含まれていると、コンタミネーションの要因となるため、アルコールとしては、特級グレード以上のものを用いることが好ましい。
なお、精製した有機不純物吸着剤をアルコール以外の非水液の精製に用いる場合には、水に可溶で、かつ水よりも沸点の低い非水液をアルコールの代わりに用いて非水液洗浄工程を行ってもよい。また、水に不溶の非水液を用いて洗浄する場合は、アルコール洗浄の後に、該水に不溶の非水液で洗浄してもよい。
【0024】
非水液洗浄工程は、例えば、鉱酸洗浄後の有機不純物吸着剤が充填されたカラム等の充填容器に、非水液を通液させることにより行う。充填容器の大きさは、吸着剤の使用量に応じて適宜設定すればよく、限定されるものではない。通液させる非水液の量は、適宜調整することができるが、例えば、特級グレードのアルコールを用いて、SV1~20で1~20BVとすることができる。非水液洗浄を行った後は、カラム上部と下部のコックを開けて重力により脱液してもよく、窒素ガス等を流して液体分を押し出すことにより脱液してもよい。
【0025】
(乾燥工程)
本発明に係る製造方法は、上記各洗浄工程を行った後、精製した有機不純物吸着剤を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。最後に乾燥を行うことにより、吸着剤の細孔にわずかに残った水分やアルコール分を除去することができる。また、乾燥した有機不純物吸着剤の形態の方が軽く、販売にも適するため好ましい。乾燥は、自然乾燥や減圧乾燥、熱風乾燥等の公知の方法を用いて行うことができるが、効率よく乾燥を行う観点から、非水液洗浄工程で用いたアルコールの沸点以下の温度において、減圧乾燥することが好ましい。乾燥工程は、例えば、減圧下、20℃~60℃において2時間~24時間乾燥することにより行うことができる。乾燥工程実施後の、精製された有機不純物吸着剤の含液率は、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。なお、含液とは、水分およびアルコール(非水液)分を含む意味である。
【0026】
なお、非水液洗浄工程後の精製した有機不純物吸着剤について、乾燥工程を実施せずに、該洗浄工程で用いた非水液、例えばアルコールと同じアルコールに浸漬した状態で、吸湿や酸化を防ぐために密閉し、有機不純物吸着を目的とした精製に使用するまで保管することも可能である。
【0027】
(有機不純物吸着剤の保管工程)
本発明に係る製造方法は、さらに、精製した有機不純物吸着剤を、有機不純物吸着を目的とした精製に使用する直前まで低酸素透過性容器に保管する保管工程を有していてもよい。精製した有機不純物吸着剤を低酸素透過性容器に保管しておくことにより、吸湿や酸素による劣化やコンタミネーションを防ぐことができる。低酸素透過性容器としては、例えば、防湿性やガスバリア性に優れたアルミ製袋(商品名:ラミジップ、株式会社生産日本社製)、(アルミ袋、三菱ガス化学株式会社製)等が挙げられる。酸素を重点的に低減する場合は、プラスチック製容器の内蓋等に酸素吸収剤(例えばアズワン株式会社製)を固定してもよい。その場合、酸素吸収剤からの金属コンタミを防ぐため、酸素吸収剤をPFA製メッシュ等で覆った後、内蓋に固定することが好ましい。
【0028】
本発明に係る製造方法によって得られる精製された有機不純物吸着剤は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である。ここで、金属不純物とは、金属不純物イオンをも含む概念であり、代表的なものとして、例えば、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)等が挙げられる。なお、前記金属不純物量が0.1μg/mL-R未満である金属については、該金属は含まれないものとして全金属不純物量を算出することができる。これらの金属を含む全金属不純物量を5μg/mL-R以下、好ましくは4μg/mL-R以下とすることにより、精製された有機不純物吸着剤を被処理液(薬液)の精製に用いた場合の、有機不純物吸着剤から被処理液中へのこれら金属不純物の溶出量を低減することができる。なお、本発明においては、濃度3質量%の塩酸を用いるが、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により測定できる鉱酸であればよく、例えば、塩酸の代わりに硝酸を用いることも可能である。
【0029】
また、「体積比25倍量」とは、精製された有機不純物吸着剤の体積に対して25倍の体積の塩酸を通過させることを意味する。単位「/mL-R」は、「水湿潤状態における有機不純物吸着剤の体積1mL当たり」を意味する。なお、水湿潤状態とは、有機不純物吸着剤を、25℃で相対湿度100%の大気に30分間以上接触させることにより、飽和状態にした状態をいう。「塩酸に通過させ」るとは、有機不純物吸着剤に塩酸を通過させることのほか、有機不純物吸着剤を塩酸中に浸漬すること等も含む。有機不純物吸着剤の体積1mL当たりの全金属不純物量(μg/mL-R)は、溶出した各金属不純物量(μg/L)、溶出に用いた溶離液の体積(L)および有機不純物吸着剤の体積(mL)から、下式により算出することができる。
全金属不純物量(μg/mL-R)=(各金属不純物量(μg/L)×溶離液の体積(L))/有機不純物吸着剤の体積(mL)
【0030】
[有機不純物吸着剤の精製装置]
本発明に係る精製装置は、有機不純物吸着剤を精製する精製装置であって、任意に前記有機不純物吸着剤のアルカリ洗浄を行う手段と、任意にアルカリ洗浄した有機不純物吸着剤の鉱酸洗浄を行う手段と、鉱酸洗浄した有機不純物吸着剤の非水液洗浄を行う手段と、を有する。また、精製された有機不純物吸着剤は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である。本発明に係る精製装置は、非水液洗浄した後の精製した有機不純物吸着剤を乾燥する乾燥手段を有していてもよい。さらに、精製した有機不純物吸着剤を、有機不純物吸着を目的とした精製に使用される直前まで、低酸素透過性容器に保管してもよい。なお、アルカリ洗浄を行う手段は任意であり、該手段は有していても有さなくてもよい。また、各洗浄手段、乾燥手段、保管方法および全金属不純物量の詳細については、上述した各洗浄工程、乾燥工程、保管工程および全金属不純物量における説明と同様である。
【0031】
以下、図面を参照して、本発明に係る有機不純物吸着剤の精製装置について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る有機不純物吸着剤の精製装置の全体構成を示す概略図である。精製装置は、吸着剤充填容器1、該吸着剤充填容器1に接続された、アルカリ洗浄を行う手段としてのアルカリ水溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)を含む貯留槽3、鉱酸洗浄を行う手段としての鉱酸水溶液(例えば塩酸)を含む貯留槽4、および非水液洗浄を行う手段としての非水液(例えばメタノール)を含む貯留槽5を有する。さらに、該精製装置は、アルカリ洗浄後および鉱酸洗浄後に、超純水(または純水)による洗浄を行うための超純水ライン7を有する。吸着剤充填容器1は、上部および下部に、それぞれ目板およびメッシュ2を備え、内部に精製対象の有機不純物吸着剤が充填される。貯留槽中の洗浄液は、図1に示すように洗浄液ごとにポンプ6により吸着剤充填容器1に送液してもよく、弁で切り替えることにより1つのポンプを使用して吸着剤充填容器1に送液してもよい。通液は、下向流でも上向流でもよく、図1に示す通液の向きに限られない。ただし、超純水洗浄後、非水液洗浄を行うために水湿潤状態からアルコール通液に切り替える際には、吸着剤内部の水とアルコールが混合することで溶解度が変わり、気泡が発生する。そのため、水湿潤状態の吸着剤へアルコールを通液する場合は、図1に示すように上向流通液として、気泡をカラム外へ排出することが好ましい。
【0032】
アルカリ洗浄後および鉱酸洗浄後は、貯留槽9の手前に設置したpH計12によりpHを確認しながら、吸着剤充填容器1からの出口水が中性となるまで、超純水ライン7から超純水を通液して洗浄を行う。洗浄に用いた各洗浄液の廃液は、吸着剤充填容器1に接続された、アルコール廃液を回収する貯留槽8および酸アルカリ廃液を回収する貯留槽9によって回収する。貯留槽9内の酸アルカリ廃液は、該貯留槽内に設置したpH計12によりpHを確認し、必要に応じて中和した後に廃棄する。洗浄後の精製された吸着剤を乾燥するため、吸着剤充填容器1は、常圧または減圧の乾燥手段10を備えていてもよい。この場合、精製後の吸着剤を吸着剤充填容器1に充填したまま乾燥することができるため、作業効率の観点から好ましい。なお、乾燥は、吸着剤充填容器1から脱水(脱液)することにより行ってもよく、精製したスラリー状の吸着剤を、そのまま乾燥機へ移して乾燥してもよい。吸着剤から溶出する水分は、水分計11によって管理することができる。
【0033】
[精製された有機不純物吸着剤を用いた薬液精製装置]
本発明に係る製造方法により得られる精製された有機不純物吸着剤は、半導体製造工程等で用いられる薬液精製装置に使用することができる。すなわち、本発明に係る薬液精製装置は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下、好ましくは4μg/mL-R以下である有機不純物吸着剤を用いた薬液精製装置であり、該有機不純物吸着剤は、本発明に係る製造方法によって得られた精製された有機不純物吸着剤である。本発明に係る精製された有機不純物吸着剤を用いて薬液を精製することにより、薬液中の各金属不純物濃度を、1ppb以下とすることができる。また、本発明に係る薬液精製装置は、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が4μg/mL-R以下である有機不純物吸着剤を用いた薬液精製装置である。薬液精製装置に用いる精製された有機不純物吸着剤は、上述したように、スチレン-ジビニルベンゼン系吸着剤、アクリル系吸着剤、フェノール系吸着剤等から選択されるいずれかの合成吸着剤および/またはそれらの炭化物(活性炭)である。薬液精製装置は、前記合成吸着剤および/または活性炭を用いた有機不純物低減手段に加え、イオン性物質低減手段を組み合わせたものであってもよい。イオン性物質低減手段としては、脱メタルフィルターまたはイオン交換樹脂;微粒子除去フィルター;および蒸留から選択される1つ以上を用いることができる。
【0034】
また、本発明に係る精製された有機不純物吸着剤を用いた薬液精製装置は、既設の金属不純物低減手段および/または有機不純物低減手段を用いて精製した薬液の、仕上げ用のポリッシャーとして使用することもできる。ここで、ポリッシャーとは、一度精製された対象を、さらに精製して高純度化するものを意味する。すなわち、既知の金属不純物低減手段および/または有機不純物低減手段を用いて精製した薬液を、本発明に係る薬液精製装置を用いてさらに精製することにより、さらに高純度化された薬液を得ることができる。このようにして精製された高純度の薬液(好ましくは過酸化水素溶液)は、半導体製造工程における洗浄剤以外にも、例えば、医薬品・食品・漂白剤製造工程で使用される薬液として利用することができる。なお、この場合においても、本発明に係る薬液精製装置は、前記イオン性物質低減手段と組み合わせて用いることができる。本発明に係る薬液精製装置をポリッシャーとして用いる場合、該薬液精製装置は、本発明に係る精製した有機不純物吸着剤を用いた有機不純物低減手段と、イオン交換樹脂を用いたイオン性物質低減手段とを組み合わせた薬液精製装置であることが好ましい。
【0035】
(被処理液)
本発明において精製する対象である被処理液は、有機不純物吸着剤により精製される半導体製造工程や医薬品・食品・漂白剤製造工程で用いられる薬液であれば特に制限されない。なお、本発明において、薬液とは、有機溶媒等の液状有機化合物、液状高分子化合物および合成油といった非水液状物や過酸化水素溶液を含む意味である。具体的には、過酸化水素溶液、1-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリジノン、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸-n-ブチル、エタノール、メタノール、トルエン、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル1-メトキシ-2-プロパノール、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、キシレン、モノクロロベンゼン、酢酸-2-エトキシエチル、酢酸エチル、酢酸イソペンチル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、氷酢酸、乳酸エチル、フェノール化合物、ジメチルスルオキシド等の溶媒、感光剤であるジアゾナフトキノン化合物、シリコーンオイル、2塩基酸エステル等の合成潤滑油およびポジ型フォトレジスト材料であるクレゾールノボラック樹脂等の高分子化合物などが例示される。これらの薬液に、各種添加剤や他の化学薬液を溶かし込んだものも使用できる。これらの薬液の中でも、本発明は、過酸化水素溶液、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル1-メトキシ-2-プロパノールの精製に好適である。
【0036】
精製前の被処理液中の不揮発物濃度は、通常10ppm以下であり、全金属濃度は、通常、0.5ppb~50ppbである。
【0037】
(脱メタルフィルター)
脱メタルフィルターは、被処理液中の金属イオンを吸着し、除去する機能を有する。脱メタルフィルターとしては、公知のものを用いることができるが、イオン交換可能なフィルターであることが好ましい。ここで、吸着対象となる金属イオンとしては、特に限定されないが、半導体製造工程において、半導体デバイスの欠陥の原因になりやすいという点から、少なくともFe、Cr、NiおよびPbであることが好ましい。脱メタルフィルターは、金属イオンの吸着性能が向上するという観点から、表面に酸性基を有することが好ましい。酸性基としては、スルホ基およびカルボキシル基などが挙げられる。脱メタルフィルターを構成する基材(材質)としては、セルロース、ケイソウ土、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、フッ素樹脂、ポリイミドおよびポリアミドイミド、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0038】
脱メタルフィルターとしては、具体的に、フォトケミカル用フィルター(商品名:Optimizer(登録商標)、インテグリス製)等が挙げられる。脱メタルフィルターは、微粒子除去膜と一体型になっているものが好ましい。
【0039】
(イオン交換樹脂)
イオン交換樹脂も、脱メタルフィルターと同様、被処理液中の金属イオンを吸着し、除去する機能を有する。イオン交換樹脂としては、粒状の強酸性カチオン交換樹脂が挙げられる。H形強酸性カチオン交換樹脂の基体は、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である。H形強酸性カチオン交換樹脂は、ゲル形構造、マクロポーラス形構造、ポーラス形構造のいずれの構造でもよい。H形強酸性カチオン交換樹脂の湿潤状態におけるイオン交換容量は、好ましくは1.5~3.0(eq/L-R)、より好ましくは1.7~2.7(eq/L-R)である。H形強酸性カチオン交換樹脂の調和平均径は、好ましくは400~900μm、より好ましくは500~800μmである。H形強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製のアンバーライト(登録商標)IR120B、IR124、200CT252、アンバージェット(登録商標)1020、1024、1060、1220、三菱ケミカル株式会社製のダイヤイオン(登録商標)SK104、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212L、PK216、PK218、PK220、PK228、UBK08、UBK10、UBK12、オルガノ株式会社製のDS-1、DS-4、ピュロライト株式会社製のC100、C100E、C120E、C100x10、C100x12MB、C150、C160、SGC650、ランクセス社製のレバチット(登録商標)モノプラスS108H、SP112、S1668等が挙げられる。
【0040】
(微粒子除去フィルター)
被処理液を微粒子除去フィルターに通過させることにより、被処理液から粒子状の不純物を除去することができる。ここで、粒子状の不純物とは、例えば、被処理液としての有機溶剤の製造時に使用される原料に不純物として含まれる塵、埃、有機固形物および無機固形物等の粒子、ならびに、有機溶剤の精製時に汚染物として持ち込まれる塵、埃、有機固形物および無機固形物の粒子などが挙げられ、最終的に被処理液中で溶解せずに粒子として存在するものが該当する。また、粒子状の不純物には、金属原子を含有するコロイド化した不純物も含まれる。金属原子としては、特に限定されないが、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、および、Pb(特に、Cr、Fe、NiおよびPb)からなる群より選択される少なくとも1種の金属原子の含有量が特に低い場合、これらの金属原子を含有する不純物がコロイド化しやすい。上記脱メタルフィルターでは、コロイド化した不純物の除去は困難であるが、除粒子径が20nm以下である微粒子除去フィルター、例えば、孔径が20nm以下の精密ろ過膜を用いることにより、コロイド化した不純物の除去を効果的に行うことができる。ここで、除粒子径とは、フィルターが除去可能な粒子の最小サイズを意味する。例えば、フィルターの除粒子径が20nmである場合には、直径20nm以上の粒子を除去可能である。粒子状の不純物は、除粒子径が20nm以下である微粒子除去フィルターで除去されるサイズを有し、具体的には、その直径が20nm以上の粒子である。本発明で用いる微粒子除去フィルターは、除粒子径が20nm以下のものであり、除粒子径は1~15nmであることが好ましく、1~12nmであることがより好ましい。除粒子径が15nm以下であることで、より微細な粒子状の不純物を除去できる。また、除粒子径が1nm以上であることで、被処理液のろ過効率が向上する。微粒子除去フィルターとして、具体的には、Optimizer(登録商標、インテグリス製)等が挙げられる。
【0041】
(蒸留)
蒸留は、公知の蒸留手段を用いて行うことができる。
【0042】
図2は、本発明の一実施形態に係る薬液精製装置の全体構成を示す概略図である。図2に示す薬液精製装置は、本発明に係る精製された有機不純物吸着剤を充填するための吸着剤充填容器21と、イオン性物質低減手段としてのイオン交換樹脂を充填するイオン交換樹脂充填容器22および微粒子除去フィルター23を有する。薬液精製装置は、さらに蒸留装置(不図示)と組み合わせてもよい。この薬液精製装置において、精製前の薬液(例えば過酸化水素溶液)を含む貯留槽24から、ポンプ25を用いて精製前の薬液を吸着剤充填容器21へと通液させることにより、薬液中の有機不純物が低減される。続いて、薬液をイオン交換樹脂(例えばカチオン交換樹脂)充填容器22および微粒子除去フィルター23へ通液(通過)させることにより、薬液中の金属等のイオン性物質が低減される。なお、樹脂の破過を確認するため、イオン交換樹脂充填容器22の後段にpH計27を設置している。精製された薬液は、貯留槽26にて回収される。
【0043】
また、図2に示す薬液精製装置を、過酸化水素溶液ではなく非水液の精製に用いる場合には、上記27として、pH計の代わりに水分計を用いて、溶媒置換の確認を行うことができる。なお、溶媒置換とは、未使用の陽イオン交換樹脂の内部に少量含まれている水分(非水液の精製においては不純物となる)を、精製前に、溶媒へ置換する操作であり、水分計により水分濃度の低下を確認することにより、溶媒置換の進行具合を確認することができる。
【0044】
(薬液精製に使用した有機不純物吸着剤の再生)
本発明に係る薬液精製装置に用いた、使用後の有機不純物吸着剤は、前述した本発明に係る精製された有機不純物吸着剤を製造する方法を用いて精製することにより、再生することができる。すなわち、薬液精製に使用した有機不純物吸着剤に対して、前述したアルカリ洗浄工程と鉱酸洗浄工程と非水液洗浄工程とをこの順で有する再生工程を実施することにより、有機不純物吸着剤が再生される。なお、再生工程は、吸着剤を薬液精製装置に設けた状態で実施してもよいし、吸着剤を薬液精製装置から取り出して実施してもよい。再生された有機不純物吸着剤は、繰り返し、薬液の精製に用いることができる。
【0045】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【実施例
【0046】
<分析方法>
(1)金属不純物量(μg/mL-R)
精製後の有機不純物吸着剤を、25℃で相対湿度100%の大気に30分間以上接触させて、飽和状態にさせることにより、水湿潤状態とした。そして、水湿潤状態とした吸着剤を、円筒形のPFA樹脂製カラム(内径:16mm、高さ300mm)に20ml充填し、3質量%塩酸(関東化学株式会社製超高純度塩酸を超純水により希釈したもの)を、SV4で25BV(500ml)通液し、溶出した塩酸中の各金属元素濃度を、誘導結合プラズマ質量分析装置(商品名:Agilent8900、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。測定した各金属元素濃度(μg/L)から、吸着剤に含有される各金属不純物量(μg/mL-R)を算出した。
【0047】
(2)含水(液)率(%)
含水(液)率(%)は、精製後の有機不純物吸着剤を5g以上量り取り(乾燥前の質量)、量り取った吸着剤を、恒温乾燥器中、105℃で16時間乾燥させ、乾燥後の吸着剤の質量を量り、下式より求めた。
含水(液)率(%)=((乾燥前の質量-乾燥後の質量)/乾燥前の質量)×100
【0048】
[実施例1~2]
図1に示す精製装置を用いて、以下の方法により、精製した有機不純物吸着剤を製造した。表1に示す各吸着剤200mlを、円筒形のPFA樹脂製カラム(内径:22mm、高さ600mm)に充填し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(特級グレード)を、SV4で4BV通液した後、超純水(SV10)を用いて、カラム出口水が中性を示すまで洗浄した。次いで、1mol/L塩酸(特級グレード)を、SV4で4BV通液した後、超純水(SV10)を用いて、カラム出口水が中性を示すまで洗浄した。次いで、メタノール(特級グレード、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、SV4で4BV通液した。カラム上部と下部のコックを開けて重力により脱液した後、50℃にて24時間減圧乾燥して、乾燥した精製品を得た。
【0049】
水湿潤状態で20mlの体積となる乾燥した精製品の体積を事前に求め、その体積分の乾燥した精製品をPFA樹脂製カラムに充填し、上記の方法で、精製した吸着剤中の金属不純物量を求めた。また、上記の方法により、精製した吸着剤の含液率を求めた。結果を表1に示す。
なお、水湿潤状態で20mlの体積となる乾燥した精製品の体積は、以下のように求めることができる。各吸着剤について、上記の精製方法を実施したサンプルを別途作製し、25℃で相対湿度100%の大気に30分間以上接触させて、飽和状態にさせることにより、水湿潤状態とする。この水湿潤状態において各サンプルを20ml量り取り、量り取った吸着剤を恒温乾燥器中、105℃で16時間乾燥させ、乾燥後の吸着剤の体積を量ることにより、目的の体積を求めることができる。
【0050】
【表1】
【0051】
なお、表1中、炭化フェノール樹脂は、株式会社MET製、アンバーライト(登録商標)XAD4(商品名)は、デュポン社製である。
【0052】
[比較例1~2]
表2に示す各吸着剤200mlを、実施例1と同じカラムに充填し、超純水(5BV)を加えて18時間浸漬し、振とうした。その後、洗浄した吸着剤を重力により脱水し、上記の方法で、精製した吸着剤中の各金属不純物量を求めた。結果を表2に示す。
【0053】
[比較例3~4]
表2に示す各吸着剤200mlを、実施例1と同じカラムに充填し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(特級グレード)を、SV4で4BV通液した後、超純水(SV10)を用いて、カラム出口水が中性を示すまで洗浄した。その後、洗浄した吸着剤を重力により脱水し、上記の方法で、精製した吸着剤中の各金属不純物量を求めた。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表1および表2から分かるように、実施例では、全ての金属不純物量が比較例と同等あるいは比較例よりも低い値を示した。また、実施例において、洗浄に使用した水酸化ナトリウム由来のNa溶出量の増加は見られなかった。また、比較例について、超純水洗浄のみを行った比較例1および2と、超純水洗浄に加え、アルカリ洗浄を行った比較例3および4とを比較すると、Fe溶出量は水酸化ナトリウム洗浄を行うことにより低減したが、洗浄に用いた水酸化ナトリウム由来のNaによって、Na溶出量が増加した。この結果から、水酸化ナトリウム洗浄後は、Naの低減措置が必要であることが確認された。
【0056】
(有機不純物溶出:超純水)
[実施例3~4]
それぞれ実施例1~2と同じ方法により精製した吸着剤2gをガラス瓶に量り取り、超純水100mlを加えて18時間浸漬し、振とうした。その後、上澄み液を採取して、Sievers900 TOC計(商品名、SUEZ社製)を用いて、TOC(全有機体炭素)濃度(ppm)を分析した。結果を表3に示す。
【0057】
[比較例5~6]
それぞれ比較例1~2と同じ方法により精製した吸着剤について、実施例3と同様にTOC濃度を分析した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
(有機不純物溶出:IPA)
[実施例5~6]
それぞれ実施例1~2と同じ方法により精製した各吸着剤2gをガラス瓶に量り取り、イソプロピルアルコール(IPA)100mlを加えて18時間浸漬した。その後、上澄み液を採取して、ガスクロマトグラフィー(商品名:GC-2014A、株式会社島津製作所製)を用いて分析した。また、比較として、浸漬に使用したものと同じIPAを同様の方法で分析した。その結果、表4に示すように、いずれのサンプルにおいても、浸漬前後で増加したピークは見られなかった。
【0060】
なお、比較例1~2と同じ方法により精製した各吸着剤についても、実施例5と同様に上澄み液を採取したが、不純物が非常に多く、ガスクロマトグラフィー(GC)による測定は不能であった。
【0061】
【表4】
【0062】
(有機不純物溶出:メタノール)
[実施例7~8]
それぞれ実施例1~2と同じ方法により精製した表4に示す炭化フェノール樹脂、及びアンバーライト(登録商標)XAD4を、メタノール(関東化学株式会社製、特級)を使用して20mL目盛り付きガラス製カラムへ流し入れ、1晩浸漬した。浸漬液をガスクロマトグラフィー(商品名:GC-2014A、株式会社島津製作所製)を用いて分析した。また、比較として、浸漬に使用したものと同じメタノールを同様の方法で分析した。
その結果、いずれのサンプルにおいても、浸漬前後で検出されたピークの種類や面積は変わらなかった。
【0063】
(精製した有機不純物吸着剤を用いたIPAの精製)
[実施例9~11]
それぞれ実施例1と同じ方法により精製した表5に示す各吸着剤5gをガラス製三角フラスコに移し、有機不純物を添加したIPA模擬液50mlと混合し、4時間振とうした後、上澄み液に含まれる各不純物の濃度を、ガスクロマトグラフィー(商品名:GC-2014A、株式会社島津製作所製)を用いて分析するバッチ試験を実施した。なお、IPA模擬液の組成は以下のとおりである。
IPA模擬液:
トクソーIPA(登録商標) SE(商品名、株式会社トクヤマ製)に、3-デカノン、ペンタデカン、トリヘキシルアミン、オクタデカンおよび1-フェニルドデカンをそれぞれ30ppm添加したものをIPA模擬液とした。
【0064】
【表5】
【0065】
表5に示すように、いずれの吸着剤もIPA中の有機不純物を低減することができた。特に、炭化フェノール樹脂は高い吸着性を示した。なお、実施例11で用いたアンバーライト(登録商標)XAD1180N(商品名)は、ダウケミカル社製であり、精製後の該吸着剤について、前記全金属不純物量が4μg/mL-R以下であることは確認している。
【0066】
[実施例12]
実施例1と同じ方法により精製した炭化フェノール樹脂と、強酸性カチオン交換樹脂DS-4(商品名、オルガノ株式会社製)とを、体積比1:4でIPAスラリーとして混合し、PFA製カラムへ充填した。さらに、ポンプを用いてIPAを樹脂体積の50倍量通液した。なお、IPAは、トクソーIPA(登録商標) SE(商品名、株式会社トクヤマ製)を使用した。次いで、被処理液として、IPAにICP-MS用金属標準液(商品名:Conostan-S21、米国SPEX社製)を各金属元素濃度が1ppbになるよう添加した溶液を、前記カラムへ通液した。精製前の被処理液および流出した精製後の被処理液について、各金属元素濃度を、誘導結合プラズマ質量分析装置(商品名:Agilent8900、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
表6に示すように、精製前は、各金属濃度が約1ppbであった被処理液中の各金属濃度は0.1ppb以下まで低減された。
【符号の説明】
【0069】
1:吸着剤充填容器
2:目板およびメッシュ
3:貯留槽(アルカリ水溶液)
4:貯留槽(鉱酸水溶液)
5:貯留槽(非水液)
6:ポンプ
7:超純水ライン
8:貯留槽(アルコール廃液)
9:貯留槽(酸アルカリ廃液)
10:乾燥手段
11:水分計
12:pH計
21:吸着剤充填容器
22:イオン交換樹脂充填容器
23:微粒子除去フィルター
24:貯留槽(精製前の薬液)
25:ポンプ
26:貯留槽(精製後の薬液)
27:pH計(水分計)
28:廃液ライン
図1
図2