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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
   B65H 54/28 20060101AFI20240905BHJP
   B65H 63/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B65H54/28 Z
B65H63/06 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020197423
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085641
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-224973(JP,A)
【文献】特開2019-214474(JP,A)
【文献】特開2012-158436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/28
B65H 63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取って複数のパッケージを形成する糸巻取機であって、
所定方向に延びるように配置され、前記複数のボビンを前記所定方向に並べて保持するボビンホルダと、
前記複数の糸をそれぞれ前記所定方向に沿って綾振りするための複数のトラバースガイドと、
前記複数のトラバースガイドのうち少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つのトラバースガイドを駆動するように構成されたトラバース装置と、
前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向に移動させる移動駆動部と、を備え
前記ボビンホルダは、少なくとも水平方向に延びるように片持ち支持されており、
少なくとも前記所定方向に延びるように配置され、前記複数のパッケージに接圧を付与するコンタクトローラと、
前記トラバース装置及び前記コンタクトローラの、水平方向に対する角度を調整可能に構成された角度調整部と、
前記トラバース装置及び前記コンタクトローラを支持し、前記角度調整部によって動かされることが可能に構成された支持部材と、を備え、
前記移動駆動部は、前記支持部材を少なくとも前記所定方向に移動駆動するように構成されていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
制御部を備え、
前記制御部は、
前記パッケージの巻き太りに伴う前記ボビンホルダの撓みと、当該撓みに対する前記支持部材の角度調整と、が考慮に入れられた、前記少なくとも1つのトラバースガイドのトラバース領域の前記所定方向における目標位置又は前記支持部材の移動量、に関する目標情報を取得し、
前記目標情報に基づいて、前記移動駆動部を制御することを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取って複数のパッケージを形成する糸巻取機であって、
所定方向に延びるように配置され、前記複数のボビンを前記所定方向に並べて保持するボビンホルダと、
前記複数の糸をそれぞれ前記所定方向に沿って綾振りするための複数のトラバースガイドと、
前記複数のトラバースガイドのうち少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つのトラバースガイドを駆動するように構成されたトラバース装置と、
前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向に移動させる移動駆動部と、
前記複数のボビンの所定部分の前記所定方向における位置に関する位置情報を取得する位置情報取得部と、を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項4】
第2制御部を備え、
前記第2制御部は、前記位置情報に基づいて、前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作の開始前に前記移動駆動部を制御することを特徴とする請求項に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記ボビンホルダは、少なくとも水平方向に延びるように片持ち支持されており、
少なくとも前記所定方向に延びるように配置され、前記複数のパッケージに接圧を付与するコンタクトローラと、
前記トラバース装置及び前記コンタクトローラの、水平方向に対する角度を調整可能に構成された角度調整部と、を備えることを特徴とする請求項3又は4に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記トラバース装置及び前記コンタクトローラを支持し、前記角度調整部によって動かされることが可能に構成された支持部材を備え、
前記移動駆動部は、前記支持部材を少なくとも前記所定方向に移動駆動するように構成されていることを特徴とする請求項に記載の糸巻取機。
【請求項7】
第3制御部を備え、
前記第3制御部は、
前記少なくとも1つのトラバースガイドのトラバース領域と前記ボビンとの前記所定方向における位置ずれを小さくするように前記移動駆動部を制御することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項8】
複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取って複数のパッケージを形成する糸巻取機であって、
所定方向に延びるように配置され、前記複数のボビンを前記所定方向に並べて保持するボビンホルダと、
前記複数の糸をそれぞれ前記所定方向に沿って綾振りするための複数のトラバースガイドと、
前記複数のトラバースガイドのうち少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つのトラバースガイドを駆動するように構成されたトラバース装置と、
前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向に移動させる移動駆動部と、
第3制御部と、を備え、
前記第3制御部は、
前記少なくとも1つのトラバースガイドのトラバース領域と前記ボビンとの前記所定方向における位置ずれを小さくするように前記移動駆動部を制御することを特徴とする糸巻取機。
【請求項9】
前記ボビンホルダは、少なくとも水平方向に延びるように片持ち支持されており、
少なくとも前記所定方向に延びるように配置され、前記複数のパッケージに接圧を付与するコンタクトローラと、
前記トラバース装置及び前記コンタクトローラの、水平方向に対する角度を調整可能に構成された角度調整部と、を備えることを特徴とする請求項に記載の糸巻取機。
【請求項10】
前記ボビンホルダによって保持される各ボビンには、前記所定方向における一方側の端部に前記糸が掛けられるスリットが形成されており、
第4制御部を備え、
前記第4制御部は、
前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作中に、前記移動駆動部を制御して前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向における前記一方側へ移動させることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項11】
前記第4制御部は、
前記巻取動作中に、前記トラバース装置を前記所定方向における前記一方側へ移動させた後に前記所定方向における他方側へ移動させることを特徴とする請求項10に記載の糸巻取機。
【請求項12】
複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取って複数のパッケージを形成する糸巻取機であって、
所定方向に延びるように配置され、前記複数のボビンを前記所定方向に並べて保持するボビンホルダと、
前記複数の糸をそれぞれ前記所定方向に沿って綾振りするための複数のトラバースガイドと、
前記複数のトラバースガイドのうち少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つのトラバースガイドを駆動するように構成されたトラバース装置と、
前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向に移動させる移動駆動部と、を備え、
前記ボビンホルダによって保持される各ボビンには、前記所定方向における一方側の端部に前記糸が掛けられるスリットが形成されており、
第4制御部を備え、
前記第4制御部は、
前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作中に、前記移動駆動部を制御して前記トラバース装置を前記所定方向における前記一方側へのみ移動させることを特徴とする糸巻取機。
【請求項13】
複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取って複数のパッケージを形成する糸巻取機であって、
所定方向に延びるように配置され、前記複数のボビンを前記所定方向に並べて保持するボビンホルダと、
前記複数の糸をそれぞれ前記所定方向に沿って綾振りするための複数のトラバースガイドと、
前記複数のトラバースガイドのうち少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つのトラバースガイドを駆動するように構成されたトラバース装置と、
前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向に移動させる移動駆動部と、を備え、
前記ボビンホルダによって保持される各ボビンには、前記所定方向における一方側の端部に前記糸が掛けられるスリットが形成されており、
第4制御部を備え、
前記第4制御部は、
前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作中に、前記移動駆動部を制御して前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向における前記一方側へ移動させ、
前記巻取動作中に、
前記複数のパッケージの各々の重量が目標重量の半分になるときの、前記少なくとも1つのトラバースガイドの各々のトラバース領域が、前記巻取動作の開始時の前記トラバース領域よりも前記所定方向における前記一方側にずれるように、前記移動駆動部を制御して前記トラバース装置を前記所定方向における前記一方側へ移動させ、
その後、前記複数のパッケージの各々の重量が前記目標重量に到達するときの前記トラバース領域の前記所定方向における位置が、前記巻取動作の開始時の前記トラバース領域の前記所定方向における位置と一致するように、前記移動駆動部を制御して前記トラバース装置を前記所定方向における他方側へ移動させることを特徴とする糸巻取機。
【請求項14】
前記少なくとも1つのトラバースガイドのトラバース領域は、前記トラバース装置に対して固定されていることを特徴とする請求項1~13のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項15】
前記複数のトラバースガイドの各々は、
互いに反対方向に回転駆動される2つの羽根ガイドによって前記複数の糸の各々を綾振りするように構成され、又は、揺動駆動されるアームに取り付けられていることを特徴とする請求項14に記載の糸巻取機。
【請求項16】
前記トラバース装置は、前記複数のトラバースガイドの全てを含むことを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項17】
前記移動駆動部は、前記トラバース装置の前記所定方向における位置を調節可能に構成されたリニアアクチュエータを有することを特徴とする請求項1~16のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項18】
第1制御部を備え、
前記第1制御部は、前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作中に前記移動駆動部を制御することを特徴とする請求項1~17のいずれかに記載の糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、複数のボビンに複数の糸をそれぞれ巻き取って複数のパッケージを形成する糸巻取機が開示されている。より具体的には、糸巻取機は、ボビンホルダと複数のトラバース装置(以下、トラバース装置)とを有する。ボビンホルダは、所定方向に沿って延びており、複数のボビンを所定方向に並べて保持する。複数のトラバース装置の各々は、糸を所定方向に沿って綾振りするためのトラバースガイドを有し、複数のボビンにそれぞれ対応して設けられている。ボビンホルダによって複数のボビンを一斉に回転させつつ、複数のトラバース装置によって複数の糸をそれぞれ所定方向に綾振りすることにより、複数のボビンに糸が一斉に巻き取られる。ここで、近年、より多くのボビンを一度に保持できるよう、ボビンホルダの長尺化が進められている。これに伴って種々の問題が発生し、それらの問題への対策が行われている。
【0003】
問題及び対策の、第1の例を以下に示す。上記糸巻取機は、ボビンホルダと略平行に延びたコンタクトローラによって、パッケージの外周面に接圧を付与してパッケージの形状を整えるように構成されている。また、ボビンホルダは略水平に片持ち支持されている。このような構成においては、糸の巻取中にパッケージが巻き太る(パッケージの重量が増加する)につれて、ボビンホルダがパッケージの重みにより徐々に下方へ撓む。ボビンホルダの撓み量は、所定方向における先端側ほど大きい。これに起因してボビンホルダとコンタクトローラとの平行度が変動すると、接圧が複数のボビン間でばらつき、パッケージ間で品質がばらつくおそれがある。そこで、特許文献1に記載の糸巻取機は、コンタクトローラを積極的に傾ける傾動機構(角度調整部)によって、コンタクトローラとボビンホルダとを略平行に維持するように構成されている。
【0004】
問題及び対策の、第2の例を以下に示す。特許文献2に示されるように、各ボビンの所定方向端部には、糸が掛けられるスリットが形成されている。また、特許文献2には、スリットに糸を掛けるためのガイドを有する糸掛機構が開示されている。ここで、ボビンホルダに一度に保持されるボビンの数が増えると、ボビンの長さの誤差に起因してスリットの位置が大きく変わる可能性があり、糸掛けミスが発生するおそれがある。そこで、糸掛機構は、所定方向におけるガイドの位置を調整できるように構成されている。これにより、糸掛けミスの発生の抑制が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-158436号公報
【文献】特開2019-214474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボビンホルダの長尺化に伴う上記問題への対策が行われる一方で、トラバースガイドの駆動に伴う糸の移動範囲(トラバース領域)とボビンとの位置関係の変動は、これまで問題視されておらず、対策も特に必要とされていなかった。しかしながら、ボビンホルダがさらに長尺化されると、トラバース領域がボビンに対して所定方向にずれることに起因する問題が顕在化しうることが、本願発明者によって知見された。すなわち、ボビンホルダの長尺化に起因して上記位置関係が変動すると、所定方向におけるボビン上の糸巻取位置が変動する。これに起因して、パッケージの形状乱れ等の問題が生じうる。
【0007】
本発明の目的は、ボビンホルダが延びる所定方向におけるトラバース領域とボビンとの相対位置の変動に起因するパッケージ形成の問題発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の糸巻取機は、複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取って複数のパッケージを形成する糸巻取機であって、所定方向に延びるように配置され、前記複数のボビンを前記所定方向に並べて保持するボビンホルダと、前記複数の糸をそれぞれ前記所定方向に沿って綾振りするための複数のトラバースガイドと、前記複数のトラバースガイドのうち少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つのトラバースガイドを駆動するように構成されたトラバース装置と、前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向に移動させる移動駆動部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明では、移動駆動部によってトラバース装置を少なくとも所定方向に移動させることにより、当該トラバース装置に含まれるトラバースガイドの駆動に伴う糸の移動範囲(トラバース領域)を所定方向において移動させることができる。これにより、所定方向において、トラバース領域とボビンとの相対位置の変動を抑制できる。したがって、トラバース領域とボビンとの相対位置の変動に起因するパッケージ形成の問題発生を抑制できる。
【0010】
第2の発明の糸巻取機は、前記第1の発明において、前記少なくとも1つのトラバースガイドのトラバース領域は、前記トラバース装置に対して固定されていることを特徴とする。
【0011】
トラバース領域がトラバース装置に対して固定された構成において、本発明のように移動駆動部が設けられていることは、特に有効である。
【0012】
第3の発明の糸巻取機は、前記第2の発明において、前記複数のトラバースガイドの各々は、互いに反対方向に回転駆動される2つの羽根ガイドによって前記複数の糸の各々を綾振りするように構成され、又は、揺動駆動されるアームに取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
トラバース領域がトラバース装置に対して固定されている構成の具体例として、各トラバースガイドが2つの羽根ガイドを有し(羽根式)、又はアームに取り付けられている(アーム式)。これらの構成において、本発明のように移動駆動部が設けられていることは、特に有効である。
【0014】
第4の発明の糸巻取機は、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記トラバース装置は、前記複数のトラバースガイドの全てを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明では、全てのトラバースガイドのトラバース領域を1つの移動駆動部によって移動させることができる。したがって、複数の移動駆動部が必要な構成と比べて、糸巻取機の構造を単純化できる。
【0016】
第5の発明の糸巻取機は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記移動駆動部は、前記トラバース装置の前記所定方向における位置を調節可能に構成されたリニアアクチュエータを有することを特徴とする。
【0017】
トラバース領域とボビンとの所定方向におけるずれ量は小さいため、トラバース装置の位置を微調整することが求められる。本発明では、単に推進力によってトラバース装置を移動させる構成(例えばエアシリンダ等)と比べて、トラバース装置の位置を精密に調整できる。
【0018】
第6の発明の糸巻取機は、前記第1~第5のいずれかの発明において、前記ボビンホルダは、少なくとも水平方向に延びるように片持ち支持されており、少なくとも前記所定方向に延びるように配置され、前記複数のパッケージに接圧を付与するコンタクトローラと、前記トラバース装置及び前記コンタクトローラの、水平方向に対する角度を調整可能に構成された角度調整部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本構成では、トラバース装置及びコンタクトローラの角度を角度調整部で調整することにより、複数のパッケージの巻き太りに伴うパッケージ間での接圧のばらつきが抑制される。しかしながら、単に角度調整を行うだけでは、トラバース領域がボビンに対して所定方向にずれるおそれがあり、パッケージ形状が崩れるおそれがある。この点、本発明では、トラバース領域がボビンに対して所定方向にずれることを移動駆動部によって抑制できるので、パッケージ形状が崩れることを効果的に抑制できる。
【0020】
第7の発明の糸巻取機は、前記第6の発明において、前記トラバース装置及び前記コンタクトローラを支持し、前記角度調整部によって動かされることが可能に構成された支持部材を備え、前記移動駆動部は、前記支持部材を少なくとも前記所定方向に移動駆動するように構成されていることを特徴とする。
【0021】
本発明では、移動駆動部は、角度調整部と同様に、支持部材を動かすように構成されている。したがって、トラバース装置を支持部材に対して移動させるように糸巻取機が構成されている場合と比べて、設計を単純化できる。
【0022】
第8の発明の糸巻取機は、前記第1~第7のいずれかの発明において、第1制御部を備え、前記第1制御部は、前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作中に前記移動駆動部を制御することを特徴とする。
【0023】
本発明では、巻取動作中にトラバース領域の位置調整が行われる。したがって、パッケージの形状を効果的に整え、又はパッケージの形状をある程度自由に変更できる。
【0024】
第9の発明の糸巻取機は、前記第1~第8のいずれかの発明において、前記複数のボビンの所定部分の前記所定方向における位置に関する位置情報を取得する位置情報取得部、を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明では、ボビン長の誤差に起因するトラバース領域の所定方向におけるずれ量を位置情報に基づいて知ることができる。したがって、当該位置情報を利用して、トラバース領域のボビンに対する所定方向におけるずれを補償できる。
【0026】
第10の発明の糸巻取機は、前記第9の発明において、第2制御部を備え、前記第2制御部は、前記位置情報に基づいて、前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作の開始前に前記移動駆動部を制御することを特徴とする。
【0027】
ボビン長の誤差に起因するトラバース領域のボビンに対する位置ずれは、巻取動作の開始前に予め知ることができる。したがって、本発明によって、上記のような位置ずれを効果的に補償できる。
【0028】
第11の発明の糸巻取機は、前記第1~第10のいずれかの発明において、第3制御部を備え、前記第3制御部は、前記少なくとも1つのトラバースガイドのトラバース領域と前記ボビンとの前記所定方向における位置ずれを小さくするように前記移動駆動部を制御することを特徴とする。
【0029】
本発明は、パッケージの形状を所定方向において対称にしたい場合に、特に有効である。
【0030】
第12の発明の糸巻取機は、前記第1~第11のいずれかの発明において、前記ボビンホルダによって保持される各ボビンには、前記所定方向における一方側の端部に前記糸が掛けられるスリットが形成されており、第4制御部を備え、前記第4制御部は、前記複数の糸を前記複数のボビンにそれぞれ巻き取る巻取動作中に、前記移動駆動部を制御して前記トラバース装置を少なくとも前記所定方向における前記一方側へ移動させることを特徴とする。
【0031】
一般的に、ボビンの外周面の、糸が巻かれる巻取領域は、所定方向において一方側(スリットが形成されている側)よりも他方側(スリットが形成されていない側)に寄っている。言い換えると、ボビンの外周面の、糸が巻き取られない領域(余白)は、所定方向他方側において狭い。つまり、ボビンの所定方向における一方側においては余白が比較的広く、ボビンの所定方向における他方側においては余白が比較的狭い。また、一般的に、パッケージが巻き太るにつれて、パッケージに巻き取られた糸の張力に起因して、パッケージの径方向内側へ力が加わる。これによって、パッケージの径方向内側部分が所定方向に膨らむ傾向にある。このため、ボビンの所定方向一方側よりも所定方向他方側において、糸がはみ出てしまいやすい等のリスクが大きい。
【0032】
本発明では、巻取動作中に、トラバース領域が敢えて所定方向一方側へ移動させられる。このようにして、パッケージの所定方向における一方側(ボビンの余白が広い側)の端面の膨らみ量の増大を許容することにより、その分、パッケージの所定方向における他方側(ボビンの余白が狭い側)の端面の膨らみ量を小さくすることができる。したがって、ボビンの所定方向他方側における余白が狭くなることを抑制できるので、糸がボビンからはみ出てしまう等のリスクを軽減できる。
【0033】
第13の発明の糸巻取機は、前記第12の発明において、前記第4制御部は、前記巻取動作中に、前記トラバース装置を前記所定方向における前記一方側へ移動させた後に前記所定方向における他方側へ移動させることを特徴とする。
【0034】
巻取動作中に、トラバース装置を所定方向における一方側へのみ移動させても良いが、この場合、パッケージの径方向外側部分が所定方向における一方側に大きく偏るおそれがある。これにより、パッケージの形状が崩れるおそれがある。本発明では、ボビンの所定方向他方側における余白が狭くなることを抑制しつつ、パッケージの径方向外側部分が所定方向における一方側に偏ることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本実施形態に係る紡糸引取機の側面図である。
図2】巻取装置の正面図である。
図3】(a)、(b)は、コンタクトローラの角度調整を示す説明図である。
図4】(a)~(d)は、トラバース領域とボビンとの所定方向におけるずれの原因を模式的に示した参考図である。
図5】ボビン長の誤差を示す説明図である。
図6】移動駆動部を示す説明図である。
図7】(a)~(c)は、移動駆動部の制御例を示す説明図である。
図8】(a)~(d)は、パッケージの形状を示す参考図である。
図9】(a)、(b)は、変形例に係る紡糸引取機を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1の紙面左右方向を前後方向とする。また、重力が作用する方向を上下方向(鉛直方向)とし、前後方向及び上下方向の両方と直交する方向(紙面垂直方向)を左右方向とする。
【0037】
(紡糸引取機の概略構成)
本実施形態に係る紡糸引取機1(本発明の糸巻取機)について、図1を参照しつつ説明する。図1は、紡糸引取機1の側面図である。紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出される糸Yを引き取る引取部3と、引取部3によって引き取られた糸Yを複数のボビンBに巻き取る巻取装置4とを備える。
【0038】
引取部3は、第1ゴデットローラ11と、第2ゴデットローラ12とを有する。引取部3は、紡糸装置2から紡出された糸Yを第1ゴデットローラ11及び第2ゴデットローラ12によって引き取り、巻取装置4へ送るように構成されている。第1ゴデットローラ11は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第1ゴデットローラ11は、紡糸装置2の下方且つ巻取装置4の前端部の上方に配置されている。第1ゴデットローラ11は、不図示のモータによって回転駆動される。第1ゴデットローラ11のすぐ上方には、糸規制ガイド13が配置されている。糸規制ガイド13は、例えば、公知の櫛歯状の糸ガイドである。糸規制ガイド13は、隣接する糸Y同士の間隔を所定の値に規定するように構成されている。
【0039】
第2ゴデットローラ12は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第2ゴデットローラ12は、第1ゴデットローラ11よりも上方且つ後方に配置されている。第2ゴデットローラ12は、不図示のモータによって回転駆動される。第2ゴデットローラ12は、ガイドレール14に移動可能に支持されている。ガイドレール14は、上方且つ後方に向かって斜めに延びている。第2ゴデットローラ12は、不図示の移動機構によって、ガイドレール14に沿って移動可能に構成されている。これにより、第2ゴデットローラ12は、ボビンBへの糸Yの巻き取りが行われるときの位置(実線参照)と、第1ゴデットローラ11に近接して配置される、糸掛け作業が行われるときの位置(一点鎖線参照)との間で移動可能となっている。
【0040】
(巻取装置)
巻取装置4の構成について、図1及び図2を参照しつつ説明する。図2は、巻取装置4の正面図である。巻取装置4は、機台20と、複数の振支点ガイド21と、トラバース装置22と、ターレット23と、2つのボビンホルダ24と、コンタクトローラ25と、支持部材26と、角度調整部27と、制御部28とを有する。巻取装置4は、引取部3から送られてきた複数の糸Yをトラバース装置22によって前後方向に綾振りしつつ、ボビンホルダ24に保持された複数のボビンBに複数の糸Yをそれぞれ巻き取って、複数のパッケージPを形成するように構成されている。以下、ボビンBへの糸Yの巻き取りの動作を巻取動作と称する。
【0041】
図1に示すように、機台20は、巻取装置4の後部に立設配置された機台本体20aと、機台本体20aの上部に固定されて前方へ延びた枠体20bと、を有する。機台本体20aには、ターレット23等が支持されている。枠体20bは、例えば中空の柱状部材である。枠体20bには、前後方向に沿って延びたコンタクトローラ25が、支持部材26及び角度調整部27を介して支持されている(詳細については後述する)。
【0042】
複数の振支点ガイド21は、複数の糸Yがそれぞれ綾振りされる際の支点となる糸ガイドである。複数の振支点ガイド21は、複数の糸Yにそれぞれ対応して設けられている。複数の振支点ガイド21は、前後方向に沿って配列されている。
【0043】
トラバース装置22は、複数の糸Yを前後方向に沿って綾振りするように構成されている。トラバース装置22は、筐体31と、複数の糸Yにそれぞれ対応して配置された複数のトラバースガイド32と、トラバースモータ33(図2参照)とを有する。トラバース装置22は、例えば特開2019-214474号公報に記載された羽根式のトラバース装置である(上記公報に記載の羽根ガイドが、本実施形態のトラバースガイド32に相当する)。複数のトラバースガイド32の各々は、例えば、2つの羽根ガイド34(図1参照。図1には、各トラバースガイド32に対応して1つの羽根ガイド34のみ示されている)を有する。2つの羽根ガイド34は、所定の回転軸方向から見たときに、互いに反対向きに回転駆動されるように構成されている。各トラバースガイド32は、トラバースモータ33によって回転駆動される2つの羽根ガイド34によって、各糸Yを綾振りするように構成されている。このような構成において、複数のトラバースガイド32の駆動に伴う糸Yの前後方向における移動範囲(トラバース領域)は、筐体31に対して固定されている。言い換えると、各トラバースガイド32のトラバース領域の中心位置は、トラバース装置22に対して移動しない。また、トラバース領域の軸方向における長さは一定である。本実施形態では、全てのトラバースガイド32がトラバース装置22に含まれる。トラバースモータ33は、複数のトラバースガイド32の共通の駆動源である。複数のトラバースガイド32は、トラバースモータ33によって、少なくとも前後方向に一斉に駆動される。これにより、各トラバースガイド32に掛けられた糸Yが、各振支点ガイド21を支点にして一斉に綾振りされる。
【0044】
ターレット23は、軸方向が前後方向と略平行な円板状の部材である。ターレット23は、機台本体20aに回転可能に支持されている。ターレット23は、不図示のターレットモータによって回転駆動される。ターレット23は、2つのボビンホルダ24を片持ち支持している。ターレット23は、前後方向と略平行な回動軸を中心に回動することで、2つのボビンホルダ24を移動させる。ターレット23は、2つのボビンホルダ24の位置を入れ換えることが可能に構成されている。これにより、一方のボビンホルダ24に装着されたボビンBに糸の巻取が行われている間に、他方のボビンホルダ24に対してボビンBの交換を行うことが可能である。また、ターレット23は、巻取動作時に、巻き取られた糸Yの量の増加に伴って回動可能に構成されている(図2の矢印参照)。
【0045】
2つのボビンホルダ24は、それぞれに複数のボビンBが装着されることが可能に構成されている。2つのボビンホルダ24は、機台本体20aに支持されたターレット23に回転自在に支持されている。2つのボビンホルダ24は、ターレット23によって片持ち支持されている。2つのボビンホルダ24は、前後方向から見たときに、ターレット23の中心点を挟んで互いに点対称となるように配置されている。つまり、例えば、一方のボビンホルダ24が最も上側に位置しているとき、他方のボビンホルダ24は最も下側に位置している。2つのボビンホルダ24は、ターレット23から前方に延びている。2つのボビンホルダ24が延びる軸方向(以下、所定方向とする)は、前後方向と概ね平行である。所定方向は、後述するように、巻取動作時にわずかに変動する。各ボビンホルダ24には、複数の糸Yに対して個別に設けられた複数のボビンBが、軸方向に並んで装着されている。本実施形態においては、1つのボビンホルダ24に装着可能なボビンBの数は16個である(図1参照)が、これには限られない。2つのボビンホルダ24は、それぞれ、個別の巻取モータ(不図示)によって回転駆動される。2つのボビンホルダ24は、トラバース装置22よりも下側に位置している。
【0046】
一方のボビンホルダ24に装着されたボビンBに糸Yが巻き取られてパッケージPが形成されている間、糸Yの量の増加に伴ってパッケージPの重量が増加する(パッケージPが巻き太る)。また、上述したように、ボビンホルダ24は片持ち支持されている。このため、巻取動作の開始直後においてはボビンホルダ24の姿勢が略水平に維持されるが(図3(a)参照)、パッケージPが巻き太るにつれて、ボビンホルダ24がパッケージPの重みによって下方へ撓む(図3(b)参照)。このときのボビンホルダ24の撓み量は、ボビンホルダ24の軸方向先端側ほど大きい。
【0047】
コンタクトローラ25は、上側のボビンホルダ24のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ25の軸方向は、前後方向と略平行である。コンタクトローラ25は、上側のボビンホルダ24に支持された複数のパッケージPの表面に接圧を付与して、パッケージPの形状を整えるように構成されている。
【0048】
支持部材26は、コンタクトローラ25及びトラバース装置22を支持するように構成されている。図1及び図2に示すように、支持部材26は、例えば、枠体20bに揺動可能に取り付けられている。支持部材26は、例えば、揺動軸41と、一対のアーム部分42と、ローラ支持軸43とを有する。揺動軸41は、概ね前後方向に延びている。揺動軸41の前後方向における両端部には、アーム部分42がそれぞれ固定されている。揺動軸41は、揺動軸41の延在方向を揺動軸方向として、一対のアーム部分42及びローラ支持軸43を揺動させるように構成されている。揺動軸41は、枠体20bの前端部に取り付けられた取付部材44と、枠体20bの後端部近傍に配置された後述のスライダ46と、によって回転可能に支持されている。取付部材44は、揺動軸41を回転可能に支持している。また、取付部材44は、例えば不図示の軸部材によって、取付部材44を揺動軸中心として揺動軸41を上下方向に揺動可能に支持している。これにより、揺動軸41の水平方向に対する角度が、角度調整部27によって調整可能となっている(詳細は後述する)。一対のアーム部分42は、揺動軸41の前後方向における両端部に固定されている。一対のアーム部分42は、揺動軸41から、前後方向と略垂直な方向に延びている。一対のアーム部分42の途中部には、トラバース装置22の筐体31が固定されている。一対のアーム部分42の、揺動軸41とは反対側の端部には、ローラ支持軸43が固定されている。ローラ支持軸43は、揺動軸41と略平行に配置された軸である。ローラ支持軸43は、コンタクトローラ25を回転可能に支持する。
【0049】
角度調整部27は、支持部材26の水平方向に対する角度を変化させるように構成されている。角度調整部27は、例えばボールねじ機構45を有する。ボールねじ機構45は、スライダ46を含み、スライダ46を上下方向に移動させることが可能に構成されている。スライダ46は、揺動軸41の後端部を回転可能に支持している。このようなボールねじ機構45によって、揺動軸41の後端部を上下方向に沿って移動させることにより、揺動軸41の水平方向に対する角度を変化させることができる。これにより、支持部材26の水平方向に対する角度が変化し、結果としてコンタクトローラ25及びトラバース装置22の水平方向に対する角度が変化する。これにより、パッケージPの巻き太りに伴うボビンホルダ24の撓みに対して、コンタクトローラ25及びトラバース装置22の角度を追随させることができる。
【0050】
制御部28は、CPUと、ROMと、RAM等を備える。制御部28は、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUにより各部を制御する。具体的には、制御部28は、ターレットモータ(不図示)、トラバースモータ33、及び、ボールねじ機構45等を制御する。制御部28は、本発明の第1制御部、第2制御部、第3制御部及び第4制御部として機能する。
【0051】
以上のような構成を有する巻取装置4において、上側のボビンホルダ24が回転駆動されると、トラバースガイド32によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される。パッケージPが形成されている間、コンタクトローラ25がパッケージPの表面に接触して接圧を付与することで、パッケージPの形状が整えられる。なお、ターレット23は、ボビンBに糸Yが巻き取られることでパッケージPの径が大きくなる(パッケージPが巻き太る)につれて、図2の矢印の方向に回転させられる。これにより、糸Yが巻き取られているボビンBが装着されたボビンホルダ24とコンタクトローラ25との距離が大きくなる。コンタクトローラ25は、揺動軸41を中心に揺動可能であるため、ボビンホルダ24及びパッケージPの動きに追従して揺動する。これにより、コンタクトローラ25とパッケージPとの接触が保たれる。
【0052】
また、上述したように、巻取動作の開始直後においてはボビンホルダ24の姿勢が略水平に維持される(図3(a)参照)。また、パッケージPが巻き太るにつれて、ボビンホルダ24がパッケージPの重みによって下方へ撓む(図3(b)参照)。言い換えると、巻取動作開始からの時間経過に伴い、ボビンホルダ24の軸方向(所定方向)が水平方向に対して変化する。このような状況において、ボビンホルダ24とコンタクトローラ25とのなす角度が変化すると、コンタクトローラ25による接圧が複数のパッケージP間でばらつき、結果として複数のパッケージP間で品質がばらつく。このような問題を解決するため、制御部28は、巻取動作中に角度調整部27を制御して、支持部材26の水平方向に対する角度を変化させる。これにより、ボビンホルダ24とコンタクトローラ25とが略平行に維持される。また、上述したように、支持部材26には、トラバース装置22がコンタクトローラ25と共に支持されている。このため、ボビンホルダ24が水平方向から傾いても、トラバースガイド32の駆動に伴う糸Yの移動方向を所定方向と略一致させることができる。このため、例えば、糸YがボビンBに巻き取られるときの巻取角度(綾角)が目標値からずれる等の問題も抑制できる。
【0053】
しかしながら、上記構成においても、ボビンホルダ24がより長尺化するにつれて、新たな問題が顕在化しつつあることが本願発明者によって知見された。以下、図4(a)~(d)及び図5を参照しつつ具体的に説明する。図4(a)は、巻取動作の開始前におけるボビンBと、トラバースガイド32の駆動に伴う糸Yの移動領域(トラバース領域R)との位置関係を示す説明図である。図4(b)は、巻取動作が開始されてから所定時間が経過した後の、ボビンBとトラバース領域Rとの位置関係を示す説明図である。図4(c)は、図4(a)における上記位置関係をより模式的に示した図である。図4(d)は、図4(b)における上記位置関係をより模式的に示した図である。図5は、ボビンホルダ24に装着されるボビンBの長さの誤差に関する説明図である。図4(a)~(d)において、前側に向かう側を所定方向における一方側とする。また、後側に向かう側を所定方向における他方側とする。
【0054】
まず、上述したようなボビンホルダ24の撓みに起因する問題について説明する。巻取動作の開始前においては、前後方向においてボビンBとトラバース領域Rとが所定の位置関係を有する(図4(a)参照)。これにより、巻取動作の開始直後には、所定方向において、ボビンBの外周面の所定領域に糸Yが巻かれる。しかし、パッケージPが巻き太ってボビンホルダ24が撓んだとき(所定方向が前後方向に対して傾いたとき)、コンタクトローラ25及びトラバース装置22の角度を調整しても、トラバース領域Rは、所定方向において、ボビンBに対して他方側へ徐々にずれていく。これにより、パッケージPの形状が、意図せず所定方向における他方側へ歪んでしまう(図4(b)参照)ことが、本願発明者によって知見された。
【0055】
このような現象について、図4(c)、(d)を参照しつつ、より模式的に説明する。以下、単純な例を挙げる。上述した揺動軸41が線分L1に沿って配置されているものとする。揺動軸41の前端部の所定点を点P1aとする。揺動軸41の後端部の所定点を線分L1の後端と仮定し、線分L1の後端の点を点P1bとする。また、ボビンホルダ24が、線分L1よりも下方に配置された線分L2に沿って配置されているものとする。ボビンホルダ24の前端部(先端部)の所定点を点P2aとする。ボビンホルダ24の後端部(基端部)の所定点を点P2bとする。説明の簡単化のため、線分L1の長さと線分L2の長さは同じであると仮定する。巻取開始前(図4(c)参照)には、前後方向において、線分L1と線分L2の位置が同じである。また、所定方向は前後方向と平行である。この場合、所定方向において、点P1aと点P2aの位置が一致している(図4(c)の二点鎖線参照)。次に、パッケージPが巻き太ってボビンホルダ24が撓んだとき、線分L2は、点P2bを中心として下方へ所定角度回転したものと考えることができる。このとき、所定方向は、前後方向に対して所定角度傾く。このような状態では、所定方向に着目したとき、点P2aが点P1aに対して一方側へずれる(図4(d)の二点鎖線参照)。このような場合、線分L2の角度変化に応じて線分L1の角度を変化させても、それだけでは、線分L1の所定方向における位置を線分L2の所定方向における位置に一致させることができない。仮に、点P1aを中心として線分L1を回転させた場合でも、点P1bを中心として線分L1を回転させた場合でも、このような位置ずれを解消することはできない。
【0056】
また、詳細な図示は省略するが、ボビンホルダ24に装着されるボビンBの向きによっては、より重大な問題が発生しうる。一般的に、ボビンBの軸方向において、ボビンBの一方の端部には、糸Yが掛けられるスリットSが形成されている(図4(a)、(b)の破線参照)。また、一般的に、トラバース領域Rは、ボビンBの軸方向において、スリットSが形成されていない側に寄せられるように設定される。つまり、ボビンBのうちスリットSが形成されていない側においては、糸が巻かれない余白部分が狭い。さらに、一般的に、パッケージPが巻き太るにつれて、パッケージPに巻き取られた糸Yの張力に起因してパッケージPの径方向内側へ力が加わる。これによって、パッケージPの径方向内側部分が所定方向に膨らむ傾向にある。このため、スリットSが所定方向における一方側に配置されるようにボビンBがボビンホルダ24に装着される場合、ボビンBの所定方向他方側において、糸YがボビンBからはみ出てしまいやすい等のリスクが大きくなる。
【0057】
次に、ボビンホルダ24に装着されるボビンBの軸方向長さの誤差に起因する問題について説明する。一般的に、1つ1つのボビンBにおいては、ボビンBの軸方向長さの誤差は小さい。しかしながら、ボビンホルダ24が長尺化され、ボビンホルダ24に一度に装着されるボビンBの数が増えると、その分誤差が大きくなる。例えば、図5の紙面上側に示すように、比較的短いボビンB(ボビンB1)がボビンホルダ24に装着された場合と、図5の紙面下側に示すように、比較的長いボビンB(ボビンB2)がボビンホルダ24に装着された場合とを想定する。この場合、複数のボビンB1の長さの合計値(全長)と複数のボビンB2の全長との差dLtは、ボビンホルダ24に一度に装着されるボビンBの数が増えるほど大きくなる。このような場合、ボビンBとトラバース領域R(図4(a)、(b)参照)との所定方向における位置関係が適切に維持できず、パッケージPの形成に不具合が発生するおそれがある。
【0058】
以上のような、所定方向におけるトラバース領域RとボビンBとの相対位置の変動に起因するパッケージPの形成の問題発生を抑制するため、本実施形態の紡糸引取機1の巻取装置4は、以下のような移動駆動部50を有する。
【0059】
(移動駆動部)
移動駆動部50の構成について、図6を参照しつつ説明する。図6においては、機台本体20aの中に収容された部材も見えるように図示している。移動駆動部50は、トラバース装置22全体を少なくとも所定方向に移動させるためのものである。以下、移動駆動部50の一例について説明する。移動駆動部50は、例えば、ボールねじ機構51(本発明のリニアアクチュエータ)を有する。ボールねじ機構51は、トラバース装置22の所定方向における位置を調節可能に構成されている。ボールねじ機構51は、支持部材26の揺動軸41の後端部に接続されている。ボールねじ機構51は、移動用モータ52と、ねじ軸53と、スライダ54とを有する。
【0060】
移動用モータ52は、ねじ軸53を回転駆動するように構成されている。移動用モータ52は、例えば、公知のサーボモータ又はステッピングモータである。移動用モータ52の回転軸には、ねじ軸53が固定されている。移動用モータ52は、例えば連結部材55によって、上述した角度調整部27のスライダ46と連結されている。これにより、移動用モータ52は、スライダ46に対して位置が固定されている。このため、移動用モータ52は、スライダ46の上下移動に追従して(つまり、揺動軸41の角度変化に追従して)動くことが可能である。移動用モータ52は、制御部28と電気的に接続されており、制御部によって駆動制御される。
【0061】
ねじ軸53は、回転することによりスライダ54を少なくとも所定方向に移動させるためのものである。ねじ軸53の延在方向は、上述した支持部材26の揺動軸41の延在方向と略平行である。ねじ軸53には雄ネジが形成されている。ねじ軸53は、スライダ54と螺合されている。スライダ54は、ねじ軸53の延在方向に移動することで支持部材26を少なくとも所定方向に移動させるためのものである。スライダ54には雌ネジが形成されている。スライダ54は、ねじ軸53と螺合されている。スライダ54は、支持部材26の揺動軸41の後端部に取り付けられている。これにより、スライダ54は、揺動軸41の角度変化に追従して動くことが可能である。以上のように、ボールねじ機構51は、全体として揺動軸41の角度変化(つまり、支持部材26の角度変化)に追従する。このため、ボールねじ機構51に無理な力が加わることが回避される。
【0062】
さらに、巻取装置4は、支持部材26を少なくとも所定方向に移動可能にするために、以下のようにも構成されている。まず、角度調整部27のスライダ46は、揺動軸41の後端部を所定方向に摺動可能に支持している。具体例として、スライダ46には、揺動軸41の軸方向に貫通する貫通孔46aが形成されており、揺動軸41は貫通孔46aに挿通されている。同様に、上述した取付部材44(図1等参照)は、揺動軸41の前端部を所定方向に摺動可能に支持している。
【0063】
以上のような構成を有する移動駆動部50において、移動用モータ52によりねじ軸53が回転駆動されると、スライダ54がねじ軸53の延在方向に移動する(図6の矢印参照)。これにより、揺動軸41を含む支持部材26全体が、スライダ54と一体的に揺動軸41の延在方向に移動する。その結果、支持部材26に取り付けられたトラバース装置22全体が、少なくとも所定方向に移動する。ねじ軸53の延在方向及び揺動軸41の延在方向が、ボビンホルダ24の軸方向(所定方向)と略平行である場合、トラバース装置22は所定方向に沿って移動する。なお、本実施形態では、コンタクトローラ25も、支持部材26の移動に伴って、少なくとも所定方向に移動する。
【0064】
(トラバース領域の位置制御)
次に、制御部28による移動駆動部50の制御(すなわち、上述したトラバース領域Rの位置制御)について、図7(a)~(c)及び図8(a)~(d)を参照しつつ説明する。図7(a)~(c)は、制御部28による移動駆動部50の制御例(より具体的には、トラバース領域Rの移動)を示す説明図である。図8(a)は、パッケージPの側面図である。図8(b)は、図8(a)に記載のパッケージPの断面図である。図8(c)は、後述する第2の制御例(1)に係るパッケージPの断面図である。図8(d)は、後述する第2の制御例(2)に係るパッケージPの断面図である。
【0065】
まず、複数のボビンBへの糸Yの巻取開始前(巻取動作の開始前)に行われる制御について説明する。制御部28は、巻取動作の開始前に、複数のボビンBの全長の情報に基づいて移動駆動部50を制御し、トラバース領域Rの位置を少なくとも所定方向において調整する(図7(a)参照)。調整方法の一例は以下のとおりである。制御部28は、巻取動作の開始前に、複数のボビンBの全長に関する情報を何らかの手段又は方法により取得する。当該情報は、例えばオペレータによって制御部28に入力されても良い。或いは、例えば、制御部28と電気的に接続された上位コンピュータから、複数のボビンBの全長に関する情報が制御部28に送られても良い。このような全長の情報に基づき、制御部28は、複数のボビンBの所定部分(例えば、最も前側に配置されたボビンBの前端面)の所定方向における位置情報を取得できる。この場合、制御部28が本発明の位置情報取得部に相当する。或いは、巻取装置4は、複数のボビンBの所定部分の所定方向における位置を検知する不図示のセンサを有していても良い。当該センサが、当該位置の情報を制御部28に送信しても良い。この場合、当該センサが本発明の位置情報取得部に相当する。
【0066】
制御部28は、複数のボビンBの全長の情報を取得した後、当該情報に基づいて、トラバース領域Rの調整量を導出する。調整量は、例えば、上記全長と基準長との差分を2で割った値であっても良い。制御部28は、当該調整量の情報に基づいて、巻取動作の開始前に移動駆動部50を制御してトラバース装置22を移動させ、トラバース領域Rの位置を少なくとも所定方向において調整する。これにより、ボビンホルダ24の前後方向における中央部に装着されたボビンBに対して、トラバース領域Rの所定方向における位置を最適化できる。制御部28は、このように最適化されたトラバース領域Rの位置を、巻取動作開始時のトラバース領域Rの位置(基準位置)として記憶する。なお、この場合、最も前側に配置されたボビンB及び最も後側に配置されたボビンBに対してトラバース領域Rが所定方向にわずかにずれうる。しかしながら、調整を全く行わない場合と比べれば、例えば、最も前側に配置されたボビンBとトラバース領域Rとの所定方向における位置ずれを半減させることができる。このように、全体的に見れば、巻取動作の開始前におけるトラバース領域RとボビンBとの極端な位置ずれを抑制できる。このように、巻取動作の開始前に、トラバース領域RとボビンBとの所定方向における位置ずれを小さくするように移動駆動部50が制御される。なお、上記のような、巻取動作の開始前におけるトラバース領域Rの位置調整の具体的なタイミングは、例えば、各ボビンBのスリットSにそれぞれ糸Yが掛けられる直前であっても良い。或いは、当該位置調整は、例えば、スリットSへの糸掛けが完了してから巻取動作開始までの間に行われても良い。
【0067】
次に、巻取動作中におけるトラバース領域Rの所定方向における位置制御について説明する。制御部28は、巻取動作開始時のトラバース領域Rの位置(上述した基準位置)に対して、トラバース領域Rを巻取動作中に移動させる。当該位置制御は、巻取動作中に、例えば、コンタクトローラ25の角度調整の制御と同時に行われる。以下では、2通りの制御例について説明する。大まかには、第1の制御例(図7(b)参照)は、トラバース領域RとボビンBとの所定方向における位置関係を略同じに維持する制御例である。第2の制御例(図7(c)参照)は、巻取動作中にトラバース領域Rを所定方向においてスリットS側へ徐々に寄せる制御例である。
【0068】
第1の制御例と第2の制御例においては、制御の手順は共通している。まず、制御部28は、パッケージPの巻き太りに伴うボビンホルダ24の撓みと、当該撓みに対する支持部材26の角度調整とが考慮に入れられた、トラバース領域Rの所定方向における目標位置(或いは支持部材26の移動量)に関する目標情報を取得する。当該情報は、例えば、時間と位置(或いは移動量)とが関連付けられたテーブルとして、制御部28のRAMに予め記憶されていても良い。或いは、当該情報は、ボビンホルダ24の撓み量に関する情報を検知するセンサ(不図示)による検知結果、及び支持部材26の角度に関する情報を検知するセンサ(不図示)による検知結果を利用して、所定の計算式等に基づき導出されても良い。このような目標情報に基づき、制御部28が移動駆動部50を適宜制御することにより、巻取動作中におけるトラバース領域Rの所定方向における位置制御が行われる。
【0069】
上述した目標情報の具体的な内容は、第1の制御例と第2の制御例との間で互いに異なる。第1の制御例においては、目標情報は、あるトラバースガイド32のトラバース領域Rと、当該トラバースガイド32に対応するボビンBとの所定方向における位置関係が時間変化しないように(つまり、所定方向における相対位置が時間変化しないように)定められる。つまり、巻取動作の開始前に加えて、巻取動作中にも、トラバース領域RとボビンBとの所定方向における位置ずれを小さくするように移動駆動部50が制御される。これにより、パッケージPの所定方向における変形が抑制される(図7(b)参照)。より具体的には、例えば図8(a)に示されるように、パッケージPの所定方向一方側の端面E1の形状と所定方向他方側の端面E2の形状とを所定方向において対称にすることができる。
【0070】
一方、第2の制御例においては、目標情報は、トラバース領域RがボビンBに対して少なくとも所定方向における一方側(スリットSが形成されている側)に徐々にずれるように定められる(図7(c)の実線矢印参照)。これにより、パッケージPの外周面が、所定方向における一方側へ意図的にわずかにずらされる(図7(c)参照)。
【0071】
第2の制御例のより詳細について説明する前に、第2の制御例を実施する目的について説明する。上述したように、一般的に、パッケージPが巻き太るにつれて、パッケージPの径方向内側部分が所定方向に膨らむ傾向にある。すなわち、パッケージPの径方向外側部分の糸張力により生じる圧縮力が糸層の径方向中間部(中層部)に作用し、バルジが発生する。これにより、端面E1、E2が所定方向に膨らむ(図8(a)等参照)。例えば、巻取動作の開始時から終了時まで、所定方向においてボビンBとトラバース領域Rとの位置関係が一定に維持される場合(図8(b)のパッケージP内の二点鎖線参照)、端面E1、E2は所定方向に同程度膨らむ(図8(a)、(b)参照)。この場合、トラバース領域Rの所定方向における長さをLrとし、バルジの所定方向における大きさ(端面E1、E2の膨らみ量)をdLrとし、且つ、パッケージPの糸層の所定方向における長さをLr2としたとき、「Lr2=Lr+2×dLr」となる。なお、図8(b)の断面図(図8(a)に記載のパッケージPの断面図)に示すように、糸層の径方向中間部(中層部)が所定方向に最も膨らむ傾向にある。このようなバルジが発生するため、スリットSが所定方向における一方側に配置されるようにボビンBがボビンホルダ24に装着される場合、ボビンBの所定方向他方側において、糸YがボビンBからはみ出てしまいやすい等のリスクが大きい。或いは、糸YがボビンBからはみ出すほどの重大な問題が生じない場合でも、ボビンBの所定方向他方側端部の余白部分が狭い場合、以下のような問題も発生しうる。一般的に、完成した複数のパッケージPは、複数のパッケージPが載置されることが可能なトレイ(不図示)に載置された状態で輸送される。ここで、トレイの載置面(不図示)には、複数のボビンBの所定方向他方側の端部がそれぞれ差し込まれることが可能な複数の穴(不図示)が形成されている。言い換えれば、トレイに載置された複数のパッケージPは、各ボビンBの軸方向が上下方向と略平行な状態、且つ、パッケージPの端面が水平方向と略平行な状態で輸送される。各ボビンBが各穴にしっかり差し込まれている場合には、複数のパッケージPは安定的に輸送される。しかしながら、上記余白部分が狭いと、上記穴にボビンBがしっかり差し込まれず、パッケージPが倒れやすくなってしまう。また、このようにボビンBが穴にしっかり差し込まれない場合、輸送中にパッケージPが載置面上で水平方向にずれてしまい、隣り合うパッケージPに接触し、パッケージPが破損してしまう虞がある。
【0072】
この点、巻取動作中に第2の制御例が実施されることにより、パッケージPの所定方向他方側の端面E2の膨らみを小さくすることが可能となる。第2の制御例において、制御部28は、巻取動作中に、(1)トラバース装置22を所定方向における一方側へのみ移動させ、又は(2)トラバース装置22を所定方向における一方側へ移動させた後に、所定方向における他方側へ移動させる。
【0073】
まず、上記(1)の制御について説明する。制御部28は、巻取動作の開始直後から、又は巻取動作が開始されてから所定時間経過後に、移動駆動部50を制御して、トラバース装置22を所定方向における一方側へ徐々に移動させる(図7(c)の実線矢印参照)。このときのトラバース装置22の移動量は、例えば第1の制御例におけるトラバース装置22の移動量よりも大きい。より具体的には、巻取動作終了直前のトラバース領域Rは、巻取動作開始時のトラバース領域Rに対して、所定方向における一方側に所定量ずらされている。所定量は、例えば上述したdLrでも良く(図8(c)のパッケージP内の二点鎖線参照)、他の値であっても良い。このような制御により、中間層の所定方向における位置を一方側にずらすことが可能となる。その結果、端面E1の膨らみ量が大きくなり、端面E2の膨らみ量は抑制される(図8(c)参照)。したがって、ボビンBをトレイの穴にしっかり差し込むことができるので、パッケージPを安定的に輸送できる。
【0074】
次に、上記(2)の制御について説明する。上記(1)の制御においては、パッケージPの径方向外側部分が所定方向における一方側に大きく偏るおそれがあり、これによってパッケージPの形状が崩れてしまう懸念がある。また、トラバース領域Rが所定方向における一方側に移動しすぎると、ボビンBの端面からパッケージPの糸層が所定方向一方側にはみ出してしまうおそれもある。そこで、上記(1)の制御の代わりに上記(2)の制御が行われても良い。例として、制御部28は、まず、巻取動作の開始直後から、又は巻取動作が開始されてから所定時間経過後に、移動駆動部50を制御して、トラバース装置22を所定方向における一方側へ徐々に移動させる(図7(c)の実線矢印参照)。さらにその後、制御部28は、トラバース装置22を所定方向における他方側へ徐々に移動させる(図7(c)の破線矢印参照)。例えば、制御部28は、パッケージPの重量が目標重量の概ね半分になるときのトラバース領域Rが、巻取動作開始時のトラバース領域Rよりも所定方向一方側にdLrずれるように移動駆動部50を制御する(図8(d)のパッケージP内の二点鎖線参照)。その後、制御部28は、パッケージPの重量が目標重量に到達するときのトラバース領域Rの所定方向における位置が、巻取動作開始時のトラバース領域Rの所定方向における位置と略一致するように移動駆動部50を制御する(図8(d)の二点鎖線参照)。これにより、端面E2の膨らみ量を抑制するとともに、上記(1)の制御と比べてパッケージPの径方向外側部分が所定方向一方側に偏ることを抑制できる。このような制御によって、理想的には、図8(d)に示すように、端面E1の所定方向における膨らみ量が2×dLrとなり、且つ、端面E2の所定方向における膨らみ量がゼロとなることが最も好ましい。しかしながら、これには限られず、当該膨らみ量が小さくなることにより、ボビンBの所定方向他方側端部の余白部分が狭くなることを抑制できる。
【0075】
以上のように、移動駆動部50によってトラバース装置22を少なくとも所定方向に移動させることにより、当該トラバース装置22に含まれるトラバースガイド32の駆動に伴う糸Yの移動範囲(トラバース領域R)を所定方向において移動させることができる。これにより、所定方向において、トラバース領域RとボビンBとの相対位置の変動を抑制できる。したがって、トラバース領域RとボビンBとの相対位置の変動に起因するパッケージPの形成の問題発生を抑制できる。
【0076】
また、本実施形態のように、トラバース領域Rがトラバース装置22に対して固定された構成(具体的には、羽根式のトラバース装置)において、移動駆動部50が設けられていることは、特に有効である。
【0077】
また、トラバース装置22は、複数のトラバースガイド32の全てを含む。これにより、全てのトラバースガイド32のトラバース領域Rを1つの移動駆動部50によって移動させることができる。したがって、複数の移動駆動部(不図示)が必要な構成と比べて、紡糸引取機1の構造を単純化できる。
【0078】
また、移動駆動部50は、トラバース装置22の所定方向における位置を調節可能なボールねじ機構51を有する。これにより、例えばエアシリンダ(不図示)のように、推進力によってトラバース装置22を移動させる構成と比べて、トラバース装置22の位置を精密に調整できる。
【0079】
また、トラバース装置22及びコンタクトローラ25の角度を角度調整部27で調整することにより、複数のパッケージPの巻き太りに伴うパッケージP間での接圧のばらつきが抑制される。しかしながら、単に角度調整を行うだけでは、トラバース領域RがボビンBに対して所定方向にずれるおそれがあり、パッケージPの形状が崩れるおそれがある。この点、本実施形態では、トラバース領域RがボビンBに対して所定方向にずれることを移動駆動部50によって抑制できるので、パッケージPの形状が崩れることを効果的に抑制できる。
【0080】
また、移動駆動部50は、角度調整部27と同様に、支持部材26を動かすように構成されている。したがって、トラバース装置22を支持部材26に対して移動させるように紡糸引取機1が構成されている場合と比べて、設計を単純化できる。
【0081】
また、巻取動作中にトラバース領域Rの位置調整が行われる。したがって、パッケージPの形状を効果的に整え、又はパッケージPの形状をある程度自由に変更できる。
【0082】
また、紡糸引取機1は、位置情報取得部(制御部28或いは不図示のセンサ)を有する。これにより、ボビンBの長さの誤差に起因するトラバース領域Rの所定方向におけるずれ量を位置情報に基づいて知ることができる。したがって、当該位置情報を利用して、トラバース領域RのボビンBに対する所定方向におけるずれを補償できる。
【0083】
また、ボビンBの長さの誤差に起因するトラバース領域RのボビンBに対する位置ずれは、巻取動作の開始前に、位置情報取得部によって予め知ることができる。制御部28は、位置情報に基づいて、巻取動作の開始前に移動駆動部50を制御する。したがって、上記のような位置ずれを効果的に補償できる。
【0084】
また、制御部28による上記第1の制御例として、制御部28は、トラバース領域RとボビンBとの所定方向における位置ずれを小さくするように移動駆動部50を制御する。このような制御は、パッケージPの形状を所定方向において対称にしたい場合に、特に有効である。
【0085】
また、制御部28による上記第2の制御例として、巻取動作中に、トラバース領域Rが敢えて所定方向一方側へ移動させられる。このようにして、パッケージPの所定方向における一方側(ボビンBの余白が広い側)の端面E1の膨らみ量の増大を許容することにより、その分、パッケージPの所定方向における他方側(ボビンBの余白が狭い側)の端面E2の膨らみ量を小さくすることができる。したがって、ボビンBの所定方向他方側における余白が狭くなることを抑制できるので、糸YがボビンBからはみ出てしまう等のリスクを軽減できる。
【0086】
また、上述したように、制御部28は、巻取動作中に、トラバース装置22を所定方向における一方側へ移動させた後に所定方向における他方側へ移動させても良い。これにより、ボビンBの所定方向他方側における余白が狭くなることを抑制しつつ、パッケージPの径方向外側部分が所定方向における一方側に偏ることを抑制できる。
【0087】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0088】
(1)移動駆動部50(図6参照)は、図9(a)に示すような紡糸引取機1aに設けられても良い。紡糸引取機1aにおいては、紡糸引取機1の巻取装置4と同様の機能を備える2つの巻取装置4A、4Bが、左右方向に関して略対称に配置されている。例えば、巻取装置4Aが、上述した巻取装置4と同一の構造を有する。巻取装置4Bは、巻取装置4Aと左右方向に関して略対称の構造を有する。巻取装置4Aはボビンホルダ24Aを有し、巻取装置4Bはボビンホルダ24Bを有する。ボビンホルダ24A、24Bは、ともに後端部が片持ち支持されている。また、図9(b)に示すように、ボビンホルダ24Aに装着される複数のボビンB(ボビンBA)と、ボビンホルダ24Bに装着される複数のボビン(ボビンBB)は、前後方向において互いに逆向きに配置されている。すなわち、ボビンBAのスリットSが前側に位置し、ボビンBBのスリットSが後側に位置する。このような構成において、ボビンホルダ24Aとボビンホルダ24Bとが互いに逆向きに回転駆動されることにより、ボビンBAに巻かれる糸Yの巻かれる向きとボビンBBに巻かれる糸Yの巻かれる向きとを同じにすることができる。これにより、巻取装置4A及び巻取装置4Bの両方によって、上述したパッケージPを形成できる。ここで、移動駆動部50(図6参照)が設けられていない場合、パッケージPの巻き太りに伴いボビンホルダ24A、24Bが下方に撓むと、ボビンBAの向きとボビンBBの向きが互いに逆向きであることに起因して、以下の問題が生じうる。すなわち、巻取装置4Aにおいては、パッケージPが所定方向においてスリットSとは逆側に歪みうる。一方、巻取装置4Bにおいては、パッケージPが所定方向においてスリットS側に歪みうる。このように、巻取装置4Aと巻取装置4Bとで互いに異なる形状のパッケージPが形成されるおそれがある。この点、紡糸引取機1aの巻取装置4A及び巻取装置4Bの両方に移動駆動部50がそれぞれ設けられることにより、上述した問題を回避できる。紡糸引取機1aにおいて、上述した第1の制御例が実施されても良い。或いは、第2の制御例が実施されても良い。なお、紡糸引取機1aにおいて第2の制御例が実施される場合、ボビンBAの向きとボビンBBの向きが互いに逆向きであることを考慮し、巻取装置4Aと巻取装置4Bとの間で、移動駆動部50によるトラバース領域Rの移動量を互いに異ならせても良い。
【0089】
(2)前記までの実施形態において、移動駆動部50がボールねじ機構51を有するものとしたが、これには限られない。例えば、移動駆動部50は、ラックアンドピニオン機構(不図示)を有していても良い。或いは、移動駆動部50は、エアシリンダ(不図示)等、流体の圧力によってトラバース装置22を移動させるように構成されていても良い。
【0090】
(3)前記までの実施形態において、巻取装置4が角度調整部27を有するものとしたが、これには限られない。巻取装置4が角度調整部27を有していない構成においても、ボビンホルダ24がパッケージPの巻き太りに伴って撓むことにより、トラバース領域RとボビンBとの位置関係がずれうる。このような構成において、移動駆動部50によってトラバース装置22を少なくとも所定方向に移動させることは有効である。
【0091】
(4)前記までの実施形態において、ボビンホルダ24が片持ち支持されているものとしたが、これには限られない。ボビンホルダ24は、両持ちされていても良い(つまり、ボビンホルダ24がパッケージPの巻き太りに伴って撓むことが抑制されていても良い)。このような構成においても、複数のボビンBの全長の誤差に起因して、トラバース領域RとボビンBとの所定方向における位置関係がずれうる。このような構成において、移動駆動部50によってトラバース装置22を少なくとも所定方向に移動させることは有効である。
【0092】
(5)前記までの実施形態において、制御部28が、巻取動作の開始前及び巻取動作中の両方において、移動駆動部50を制御してトラバース装置22を移動させるものとしたが、これには限られない。制御部28は、巻取動作の開始前及び巻取動作中のうち、一方のタイミングにおいてのみ移動駆動部50を制御しても良い。
【0093】
(6)前記までの実施形態において、制御部28が種々の情報に基づいて移動駆動部50を制御するものとしたが、これには限られない。例えば、複数のボビンBの全長の誤差に起因するトラバース領域RとボビンBとの所定方向における位置ずれは、以下に示すように、オペレータを介して補償されても良い。すなわち、オペレータは、何らかの方法によって複数のボビンBの全長に関する情報を予め取得しても良い。オペレータは、当該情報に基づいて、移動駆動部50によるトラバース装置22の移動量に関する情報を導出し、当該情報を不図示の操作部に入力しても良い。操作部に入力された情報に基づき、移動駆動部50がトラバース装置22を移動させても良い。
【0094】
(7)前記までの実施形態において、角度調整部27が支持部材26の後端部を上下方向に移動させるものとしたが、これには限られない。例えば、支持部材26の後端部の上下方向における位置が固定されており、角度調整部27が支持部材26の前端部を上下方向に移動させるように構成されていても良い。或いは、支持部材26の前端部及び後端部の両方が個別に上下方向に移動可能に構成されていても良い。また、支持部材26は枠体20bに揺動可能に支持されているものとしたが、これには限られない。支持部材26は、例えば、前後方向と垂直な方向に直線的に移動駆動されるように構成されていても良い。
【0095】
(8)前記までの実施形態において、トラバース装置22が支持部材26に取り付けられているものとした。つまり、支持部材26が移動駆動部50によって移動させられることで、トラバース装置22も支持部材26と一体的に移動するものとした。しかしながら、トラバース装置22は、必ずしも支持部材26と一体的に移動するように構成されていなくても良い。つまり、例えば、支持部材26が不図示のレール部材を有しており、トラバース装置22が当該レールに沿って支持部材26に対して移動可能に構成されていても良い。そして、トラバース装置22を支持部材26に対して移動させるように構成された移動駆動部(不図示)が設けられていても良い。
【0096】
(9)前記までの実施形態において、巻取装置4に属する全てのトラバースガイド32がトラバース装置22に含まれているものとした。言い換えれば、前記までの実施形態において、全てのトラバースガイド32が、共通の駆動源であるトラバースモータ33によって駆動されるものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、トラバースガイド32の数と同じ数のトラバース装置(不図示)が設けられていても良い。つまり、複数のトラバース装置が、各々に設けられたトラバースモータ(不図示)によって、複数のトラバースガイド32を個別に駆動しても良い。或いは、例えば、各々が複数のトラバースガイド32を有する複数のトラバース装置が設けられていても良い。この場合も、各トラバース装置がトラバースモータ(不図示)を有していても良い。このように、複数のトラバース装置が設けられた構成において、各トラバース装置を個別に所定方向に移動駆動する移動駆動部(不図示)が設けられていても良い。或いは、必ずしも複数のトラバース装置の全てが所定方向に移動駆動されなくても良い。複数のトラバース装置の一部のみが移動駆動部によって移動駆動されても良い。
【0097】
(10)前記までの実施形態において、トラバース装置22は、羽根式のトラバース装置であるものとした。しかしながら、トラバース装置22の形式はこれに限られない。例えば、トラバース装置22は、トラバースガイド32を揺動させるためのアーム61(図9に例示)と、アームを揺動駆動するモータ(不図示)と、を有するアーム式のトラバース装置であっても良い。つまり、トラバースガイド32が、揺動駆動されるアーム61の先端部に取り付けられており、揺動することによって糸Yを綾振りするように構成されていても良い。このような構成においても、トラバース領域Rが筐体31に対して固定されている。或いは、トラバース装置22は、トラバースガイド32が固定される無端ベルト(不図示)と、無端ベルトを往復駆動するためのモータ(不図示)と、無端ベルトが巻き掛けられる複数のプーリ(不図示)とを有していても良い。このような構成では、巻取動作中にトラバース領域Rの所定方向における位置(及び/又は長さ)を変更することも可能であるが、移動駆動部50によってトラバース装置22全体が移動させられても良い。
【0098】
(11)前記までの実施形態において、トラバース領域Rは筐体31に対して固定されている(つまり、トラバース装置22に対して固定されている)ものとしたが、これには限られない。例えば、トラバース領域Rの中心位置を筐体31に対して所定方向に移動させる移動駆動部が設けられていても良い。
【0099】
(12)本発明は、上述した紡糸引取機1、1aに限られず、所定方向に並べて配置された複数のボビンBに複数の糸Yをそれぞれ巻き取る糸巻取機に適用可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 紡糸引取機(糸巻取機)
22 トラバース装置
24 ボビンホルダ
25 コンタクトローラ
26 支持部材
27 角度調整部
28 制御部(位置情報取得部、第1制御部、第2制御部、第3制御部、第4制御部)
32 トラバースガイド
34 羽根ガイド
50 移動駆動部
51 ボールねじ機構(リニアアクチュエータ)
61 アーム
B ボビン
P パッケージ
R トラバース領域
S スリット
Y 糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9