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特許7550045プレキャストパネルの連結構造及びプレキャストパネルの連結方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】プレキャストパネルの連結構造及びプレキャストパネルの連結方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/86 20060101AFI20240905BHJP
   E04B 1/16 20060101ALI20240905BHJP
   E04B 2/02 20060101ALI20240905BHJP
   E04B 2/40 20060101ALI20240905BHJP
   E04C 1/39 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
E04B2/86 601N
E04B1/16 D
E04B2/02 110
E04B2/02 135
E04B2/40
E04C1/39 104
E04C1/39 105
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020205904
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092914
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-102423(JP,A)
【文献】特開2000-160746(JP,A)
【文献】特開平05-230912(JP,A)
【文献】特開2002-121852(JP,A)
【文献】特開2001-55746(JP,A)
【文献】特開平11-280090(JP,A)
【文献】米国特許第05337530(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/00- 2/54
E04B 2/84- 2/86
E04B 1/16
E04C 1/39
E02B 3/04- 3/14
E02D 29/02
E04G 9/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組みしたプレキャストパネルの組立体を、設置済みのコンクリート構造物の上部に連結する際のプレキャストパネルの連結構造であって、
前記組立体及び前記コンクリート構造物の内面にそれぞれ、上下方向に沿って裏当て鋼材が配置され、
前記組立体に設けられた前記裏当て鋼材及び前記コンクリート構造物に設けられた前記裏当て鋼材にそれぞれ固定された一対の固定部と、一端がそれぞれ前記各固定部にピン接合されるとともに、他端が互いに連結された一対の連結材と、一端が前記連結材の他端にピン接合されるとともに、他端が前記プレキャストパネルから離れる方向に延びるセパレーターとからなり、前記セパレーターにプレキャストパネルから離れる方向への引張力が導入されることにより、前記固定部が固定された前記組立体及び前記コンクリート構造物に、相互に近づく方向に向けた力を作用させることを特徴とするプレキャストパネルの連結構造。
【請求項2】
前記固定部は、前記連結材の一端から前記組立体及び前記コンクリート構造物の接続部と反対側に延在している請求項1記載のプレキャストパネルの連結構造。
【請求項3】
前記固定部は、前記連結材の一端から前記組立体及び前記コンクリート構造物の接続部側に延在している請求項1記載のプレキャストパネルの連結構造。
【請求項4】
前記セパレーターの他端は、前記プレキャストパネルの内側に立設された支柱に固定されている請求項1~3いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造。
【請求項5】
前記裏当て鋼材は、前記組立体及び前記コンクリート構造物のそれぞれの上下方向端縁より外側に突出しない状態で配置されている請求項1~4いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造。
【請求項6】
前記セパレーターの中間部にターンバックルが備えられている請求項1~5いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造。
【請求項7】
上記請求項1~6いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造を用いたプレキャストパネルの連結方法であって、
前記コンクリート構造物の上部に前記組立体を設置した後、前記組立体に設けられた前記裏当て鋼材及び前記コンクリート構造物に設けられた前記裏当て鋼材にそれぞれ前記固定部を固定し、前記セパレーターの他端を前記プレキャストパネルの内側に固定し、前記セパレーターにプレキャストパネルから離れる方向に向けた引張力を導入することにより、前記固定部が固定された前記組立体及び前記コンクリート構造物に、相互に近づく方向に向けた力を作用させることを特徴とするプレキャストパネルの連結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の構築に当たり、地組みしたプレキャストパネルの組立体と、設置済みのコンクリート構造物との継目の開きを防止したプレキャストパネルの連結構造及びプレキャストパネルの連結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物の構築において、現場における鉄筋の組み立て作業や型枠の設置・撤去作業を大幅に軽減したプレキャストパネルからなる埋設型枠を用いた施工方法が知られている。前記埋設型枠は、コンクリート打設後も取り外すことなく構造物の一部として使用される型枠のことであり、高強度モルタルやコンクリート等で形成されている。
【0003】
前記埋設型枠は、通常、大型のプレキャストパネルを、クレーン等の重機で吊り下げて設置していたが、重機を不要とし、省力化を図ることなどを目的として、人力で運搬が可能な小型のプレキャストパネルが多用されつつある。
【0004】
小型のプレキャストパネルを複数設置して埋設型枠を組み立てる際のパネル同士の連結方法として、下記特許文献1には、下側の壁面構築用型枠パネルの上側に設けられたフックに、連結固定具の連結部材の下側部分を係合させ、上側の壁面構築用型枠パネルの下側に設けられたフックに連結固定具の連結部材の上側部分を係合させるとともに、連結固定具のセパレーターの他端側を構築される擁壁の内側に予め立設させた支柱アングルに固定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-220156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示される連結方法では、中詰めコンクリートの打設によって内圧がかかると、パネル同士の間に隙間が生じ、その隙間から中詰めコンクリートが漏れ出るおそれがあった。
【0007】
また、大型のプレキャストパネルを用いた場合、パネル同士の継目はボルト等で締結されているが、ボルト締結の場合でも、継目全体を密着させることは困難であり、隙間から中詰めコンクリートが漏れ出るおそれがあった。
【0008】
特に、地組みしたプレキャストパネルの組立体を、それまでに構築したコンクリート構造物に積層したときの継目に隙間が生じやすく、この隙間から中詰めコンクリートが漏れ出るおそれがあった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、地組みしたプレキャストパネルの組立体と、設置済みのコンクリート構造物との継目が開くことなく、継目からのコンクリートの漏れ出しを防止したプレキャストパネルの連結構造及びプレキャストパネルの連結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地組みしたプレキャストパネルの組立体を、設置済みのコンクリート構造物の上部に連結する際のプレキャストパネルの連結構造であって、
前記組立体及び前記コンクリート構造物の内面にそれぞれ、上下方向に沿って裏当て鋼材が配置され、
前記組立体に設けられた前記裏当て鋼材及び前記コンクリート構造物に設けられた前記裏当て鋼材にそれぞれ固定された一対の固定部と、一端がそれぞれ前記各固定部にピン接合されるとともに、他端が互いに連結された一対の連結材と、一端が前記連結材の他端にピン接合されるとともに、他端が前記プレキャストパネルから離れる方向に延びるセパレーターとからなり、前記セパレーターにプレキャストパネルから離れる方向への引張力が導入されることにより、前記固定部が固定された前記組立体及び前記コンクリート構造物に、相互に近づく方向に向けた力を作用させることを特徴とするプレキャストパネルの連結構造が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明は、地組みしたプレキャストパネルの組立体を、設置済みのコンクリート構造物の上部に連結する際、前記組立体のプレキャストパネルと前記コンクリート構造物のプレキャストパネルとを連結するための連結構造である。前記組立体及びコンクリート構造物の内面にはそれぞれ、上下方向に沿って裏当て鋼材が配置されている。前記連結構造は、前記組立体及び前記コンクリート構造物に設けられた各裏当て鋼材に固定された一対の固定部と、一端がそれぞれ前記各固定部にピン接合されるとともに、他端が互いに連結された一対の連結材と、一端が前記連結材の他端にピン接合されるとともに、他端が前記プレキャストパネルから離れる方向に延びるセパレーターとで構成されており、前記セパレーターにプレキャストパネルから離れる方向への引張力が導入されることにより、前記固定部が固定された前記組立体及び前記コンクリート構造物に、相互に近づく方向に向けた力を作用させるようになっている。このため、設置済みのコンクリート構造物と地組みしたプレキャストパネルの組立体とが密着して隙間がなくなり、このプレキャストパネルを埋設型枠として用いた場合におけるプレキャストパネル同士の継目からの中詰めコンクリートの漏れ出しが防止できるようになる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記固定部は、前記連結材の一端から前記組立体及び前記コンクリート構造物の接続部と反対側に延在している請求項1記載のプレキャストパネルの連結構造が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明は、前記固定部の一実施形態例であり、前記固定部が、前記連結材の一端から外側に延びるように配置されたものである。この形態例では、セパレーターにプレキャストパネルから離れる方向に向かう引張力が作用したとき、このセパレーターに前記連結材を介して連結された前記固定部は、前記組立体をコンクリート構造物の方に引き寄せるように作用する。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記固定部は、前記連結材の一端から前記組立体及び前記コンクリート構造物の接続部側に延在している請求項1記載のプレキャストパネルの連結構造が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明は、前記固定部の変形例であり、前記固定部が、前記連結材の一端から内側に向けて延びるように配置されたものである。この形態例では、セパレーターにプレキャストパネルから離れる方向への引張力が導入されたとき、このセパレーターに前記連結材を介して連結された前記固定部は、前記組立体をコンクリート構造物との接続部側に押し寄せるように作用する。
【0016】
請求項4に係る本発明として、前記セパレーターの他端は、前記プレキャストパネルの内側に立設された支柱に固定されている請求項1~3いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、プレキャストパネルの内側に予め支柱を立設しておき、この支柱に前記セパレーターの他端を固定している。これによって、セパレーターがしっかりと固定でき、セパレーターに確実に引張力が導入でき、プレキャストパネル同士の継目の開きが防止できる。
【0018】
請求項5に係る本発明として、前記裏当て鋼材は、前記組立体及び前記コンクリート構造物のそれぞれの上下方向端縁より外側に突出しない状態で配置されている請求項1~4いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造が提供される。
【0019】
上記請求項5記載の発明では、前記裏当て鋼材を、組立体及びコンクリート構造物のそれぞれの上下方向端縁より外側に突出させないことにより、組立体とコンクリート構造物との間でプレキャストパネルの端縁同士が確実に密着でき、これらの間に隙間が生じにくくなる。
【0020】
請求項6に係る本発明として、前記セパレーターの中間部にターンバックルが備えられている請求項1~5いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造が提供される。
【0021】
上記請求項6記載の発明では、前記セパレーターの中間部にターンバックルを備えることにより、前記ターンバックルの回動操作によって、前記組立体とコンクリート構造物との間の開きが生じない引張力を前記セパレーターに予め作用させることができる。
【0022】
請求項7に係る本発明として、上記請求項1~6いずれかに記載のプレキャストパネルの連結構造を用いたプレキャストパネルの連結方法であって、
前記コンクリート構造物の上部に前記組立体を設置した後、前記組立体に設けられた前記裏当て鋼材及び前記コンクリート構造物に設けられた前記裏当て鋼材にそれぞれ前記固定部を固定し、前記セパレーターの他端を前記プレキャストパネルの内側に固定し、前記セパレーターにプレキャストパネルから離れる方向に向けた引張力を導入することにより、前記固定部が固定された前記組立体及び前記コンクリート構造物に、相互に近づく方向に向けた力を作用させることを特徴とするプレキャストパネルの連結方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上詳説のとおり本発明によれば、地組みしたプレキャストパネルの組立体と、設置済みのコンクリート構造物との継目が開くことなく、継目からのコンクリートの漏れ出しが防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】地組みしたプレキャストパネル2の組立体1Bを、設置済みのコンクリート構造物1Aに連結する状態を示す斜視図である。
図2】組立体1Bとコンクリート構造物1Aとの継目部分の裏面図である。
図3図2のIII-III線矢視図である。
図4】接合構造Sを示す、(A)は平面図、(B)は(A)のB-B線矢視図である。
図5】変形例に係る接合構造Sを示す平面図である。
図6】隅部のプレキャストパネル2の接合構造を示す平面図である。
図7】コンクリート構造物1Aを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0026】
図1は、本発明に係るプレキャストパネル2の接合構造Sが適用されたコンクリート構造物1の一例を示すものである。図1に示されるコンクリート構造物1は、鉛直方向に立設した主鋼材3と、構造物の外殻を構成し、埋設型枠として使用される複数のプレキャストパネル2、2…と、前記プレキャストパネル2…の型枠内部に現場打ちされる中詰めコンクリート4とで主に構成された橋脚構造である。本発明に係るプレキャストパネル2の接合構造Sは、複数のプレキャストパネル2、2…を平面方向(上下方向及び幅方向)に並べて地組みしたプレキャストパネル2の組立体1Bを、設置済みのコンクリート構造物1Aの上部に連結する際、前記組立体1Bとコンクリート構造物1Aとの間の継目の開きを防止しながら、両者を接合するのに用いられるものである。
【0027】
本発明に係る接合構造Sが適用可能な構造物は、図1に示される橋脚構造などの柱構造の他に、擁壁構造、護岸構造、岸壁構造など、プレキャストパネル2が平面方向に複数並べて配置される幅広い構造物に及ぶ。
【0028】
設置済みのコンクリート構造物1Aは、それまでに構築したコンクリート構造物であり、プレキャストパネル2…を埋設型枠とし、この埋設型枠の内部に中詰めコンクリート4が所定の高さまで充填されたものである。
【0029】
プレキャストパネル2…の組立体1Bは、地上で、ある程度の高さまで複数のプレキャストパネル2…を組み立てた枠体であり、図1に示されるように、この組立体1Bをクレーン等の重機で揚重して、設置済みのコンクリート構造物1Aの上部に吊り下ろすことにより設置する。前記組立体1Bは、前記プレキャストパネル2が上下方向に2~5段程度、図示例では2段並べて配置している。
【0030】
前記プレキャストパネル2は、図1に示されるように、コンクリート構造物1の周方向(幅方向)に長い横長に向けて配置するとともに、上下段で幅方向に半分ずつずらして配置するのが好ましい。なお、プレキャストパネル2の配置は、図示例の配置に特に限定されるものではなく、公知の配置構造を制限なく採用することができる。
【0031】
前記プレキャストパネル2の裏面には、図2に示されるように、ステンレス形鋼などからなる複数の裏当て鋼材5、5…が、上下方向に沿うとともに、幅方向に間隔をあけて配置されている。前記裏当て鋼材5は、部材長手方向に沿って所定の間隔で配置された複数のボルト6、6…によってプレキャストパネル2の裏面に固定されている。この裏当て鋼材5によって、前記組立体1Bを構成する複数のプレキャストパネル2、2…が一体化されている。前記裏当て鋼材5は、好ましくは図示例のように、各プレキャストパネル2に2本の割合で配置されており、幅方向に隣り合うプレキャストパネル2、2間の上下方向に沿う継目と、その上下段側において隣接する幅方向に隣り合うプレキャストパネル2、2間の上下方向に沿う継目との中間位置、好ましくはこれらの継目間の中央部にそれぞれ配置されている。
【0032】
前記裏当て鋼材5は、前記組立体1B及びコンクリート構造物1Aのそれぞれの上下方向端縁より外側に突出しない状態で配置されている。すなわち、裏当て鋼材5の端縁が前記組立体1B及びコンクリート構造物1Aのそれぞれの上下端に配置されたプレキャストパネル2の端縁より外側に突出しておらず、プレキャストパネル2の端縁とほぼ同等か、プレキャストパネル2の端縁より若干内側に凹んだ位置に配置されている。これにより、後段で詳述するように、連結構造Sで連結した際、組立体1Bとコンクリート構造物1Aのそれぞれのプレキャストパネル2、2の端縁同士が確実に密着し、これらの継目からコンクリートが漏れ出るのが効果的に防止できる。
【0033】
前記主鋼材3は、図示例では断面H形の鋼材が用いられているが、T形やI形のものを用いてもよく、チャンネルやアングルを用いてもよい。前記主鋼材3は、プレキャストパネル2の裏面から所定の距離を開けて配置されている。前記主鋼材3の配設位置は、前記裏当て鋼材5に対応する位置に配置するのが好ましい。
【0034】
前記プレキャストパネル2は、少なくとも上下方向に隣り合うプレキャストパネル2、2のうち一方のプレキャストパネル2に、内側に突出するとともに、相対するプレキャストパネル2の端部と若干の重なり代を有し、プレキャストパネル2、2間の裏面側の継目を塞ぐように延出する凸部7が設けられるようにするのがよい(図2参照。)。
【0035】
前記プレキャストパネル2は、人力で持ち運びできる程度に小型化するのが好ましい。人力で持ち運び可能な最大重量は、およそ20kg前後であり、プレキャストパネルの場合は、例えば900×300×35mm程度の寸法となる。
【0036】
本発明に係るプレキャストパネル2の接合構造Sは、図2図4に示されるように、前記組立体1Bに設けられた裏当て鋼材5及び前記コンクリート構造物1Aに設けられた裏当て鋼材5にそれぞれ固定された一対の固定部10、10と、一端がそれぞれ前記各固定部10にピン接合されるとともに、他端が互いに連結された一対の連結材11、11と、一端が前記連結材11の他端にピン接合されるとともに、他端が前記プレキャストパネル2から離れる方向に延びるセパレーター12とで構成されている。本接合構造Sは、図4に示されるように、前記セパレーター12にプレキャストパネル背面側への引張力が導入されることにより、前記固定部10が固定された前記組立体1B及び前記コンクリート構造物1Aに、相互に近づく方向に向けた力を作用させている。
【0037】
このように、本接合構造Sでは、セパレーター12に引張力が導入されることにより、組立体1Bが設置済みのコンクリート構造物1Aに近づく方向に向けた力を生じさせることができるため、これら組立体1Bとコンクリート構造物1Aとの間に隙間が生じなくなり、これらの継目から中詰めコンクリートが漏れ出るのが防止できる。前記セパレーター12に導入される引張力は、セパレーター12を取り付ける際のボルトの締め付けなどにより予め生じさせることもできるが、予め導入しなくても、中詰めコンクリート4の充填により、プレキャストパネル2が外面側に押圧されるのに伴って、自然と生じるようになる。また、中詰めコンクリート4の充填量が増し内圧が増加するのに伴って、プレキャストパネル2、2同士の引き付け力が更に大きくなる構造となっているため、中詰めコンクリート4の漏れがより確実に防止できるようになる。
【0038】
本接合構造Sでは、図4に示されるように組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部と直交する断面視で(縦断面視で)、対の連結材11、11が略二等辺三角形状に配置されているため、その頂点に連結されたセパレーター12に引っ張りの軸力が作用することにより、各連結材11、11にほぼ均等の軸力が作用し、固定部10、10が固定された裏当て鋼材5を介してプレキャストパネル2、2の端縁同士が強固に密着できるようになっている。また、前記一対の固定部10、10は、前記組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部からほぼ均等の距離にそれぞれ配置されており、前記対の連結材11、11が略二等辺三角形状に配置されることから、前記セパレーター12は、プレキャストパネル2、2の接続部とほぼ一致する位置において、プレキャストパネル2の裏面と直交する方向に延びている。
【0039】
前記固定部10と連結材11との連結部及び前記セパレーター12と連結材11との連結部はそれぞれ、蝶番などのヒンジによるピン接合とするのが好ましい。これらの連結部をピン接合とすることにより、各部材に曲げモーメントが発生せず、軸力のみが作用して、力が効率的に伝達できるようになる。
【0040】
図4に示される形態例では、前記固定部10は、前記連結材11の一端から前記組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部と反対側に延在している。すなわち、前記固定部10と連結材11との連結部は、前記固定部10における組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部側の端部に設けられている。この形態では、セパレーター12にプレキャストパネル2から離れる方向への引張力が作用したとき、このセパレーター12に前記連結材11を介して連結された固定部10は、各固定部10が固定された組立体1Bの裏当て鋼材5及びコンクリート構造物1Aの裏当て鋼材5を、組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部側に引き寄せるように作用する。これによって、前記裏当て鋼材5によって一体化された組立体1Bのプレキャストパネル2の端縁がコンクリート構造物1Aのプレキャストパネル2の端縁に密着する。
【0041】
前記固定部10の変形例として、図5に示されるように、前記固定部10は、前記連結材11の一端から前記組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部側に延在させてもよい。すなわち、前記固定部10と連結材11との連結部が、前記固定部10における組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部と反対側の端部に設けられている。この形態では、セパレーター12にプレキャストパネルから離れる方向への引張力が作用したとき、このセパレーター12に前記連結材11を介して連結された固定部10は、各固定部10が固定された組立体1Bの裏当て鋼材5及びコンクリート構造物1Aの裏当て鋼材5を、組立体1B及びコンクリート構造物1Aの接続部側に押し寄せるように作用する。これによって、前記裏当て鋼材5によって一体化された組立体1Bのプレキャストパネル2の端縁がコンクリート構造物1Aのプレキャストパネル2の端縁に密着する。
【0042】
前記固定部10を前記裏当て鋼材5に固定するには、溶接やボルト締結など、公知の固定手段を制限なく用いることができる。
【0043】
前記連結材11は、前記固定部10とセパレーター12とを連結する棒材又は板材であり、両端がそれぞれ、プレキャストパネル2、2の接続端縁が延びる方向(幅方向)と平行する軸を回動軸とする蝶番などのヒンジによって回動自在に支持されている。
【0044】
前記セパレーター12は、対の連結材11、11の他端同士が互いに連結された連結部を基端として、プレキャストパネル2から離れる方向に延びている。更に、その先端は、プレキャストパネル2の内側に立設された支柱に固定するのが好ましい。図示例の橋脚構造の場合、図3及び図4に示されるように、前記支柱として、主鋼材3を用いるのが好適である。これによって、セパレーター12に確実に引張力が作用し、組立体1B及びコンクリート構造物1Aの継目をしっかりと閉塞することができるようになる。
【0045】
前記セパレーター12の先端を主鋼材3に固定する方法は特に限定しないが、一例として、図3及び図4に示されるように、セパレーター12の先端に固定金具20を取り付け、この固定金具20によって、H形鋼からなる主鋼材3のフランジ部に固定する方法を挙げることができる。前記固定金具20は、略C形のフレームに、該フレームで囲まれた空間内部に向けて突出するボルトが螺入された構造を成し、フレームの空間内部に主鋼材3のフランジ部の側縁を挟み込んだ状態で、前記ボルトを締め付けることにより、主鋼材3に固定できるようになっている。このとき、前記主鋼材3として、図4に示されるように、フランジ部の外面に直交する線状の凸部3aと各格子部の凹部3bとからなる格子模様などの凹凸が設けられた縞H形鋼を使用することによって、固定金具20に備えられた締め付け用のボルトの先端が前記凹部3bに嵌まり込むため、外面が平坦な通常のH形鋼やフランジ部の外面に幅方向のみに沿って多数のストライプ状の凹凸が設けられたH形鋼などに比べて、H形鋼の軸方向と直交する方向に引張力が作用したときにボルトの先端が主鋼材3の軸方向に延びる凸部3aに係止して固定金具20がずれにくくなるのでよい。
【0046】
また、前記セパレーター12の先端を固定金具20に固定するには、固定金具20のフレームに備えられたナット部にセパレーター12を螺合してもよいし、固定金具20のフレームに溶接してもよい。
【0047】
一方、前記セパレーター12の先端の固定は、前記主鋼材3に固定する構造に代えて、アンカーなどに固定してもよいし、図示例の橋脚構造などのように、プレキャストパネル2の裏面同士が対面して配置される構造物の場合、対面するプレキャストパネル2、2の連結構造S、Sからそれぞれ延びるセパレーター12、12同士を連結させてもよい。
【0048】
図4及び図5に示されるように、前記セパレーター12の中間部には、ターンバックル15を設けるのが好ましい。前記ターンバックル15の回動操作によって、組立体1Bとコンクリート構造物1Aとの間の開きが生じない引張力を前記セパレーター12に予め作用させることができるようになる。
【0049】
ところで、隅部では、図6に示されるように、隅部のプレキャストパネル2、2を蝶番などのヒンジ16によって結合して折り重ねておき、パネルを設置する際に、直角に広げて、角部内側に三角形状の角部用金具17を設置し、各パネル2にボルト18で固定する構造とするのがよい。予め隅部のプレキャストパネル2、2をヒンジ16で連結しておくことにより、プレキャストパネル2を設置する際、90°より大きく開くことなく固定することができる。
【0050】
次に、前記プレキャストパネル2の連結方法について説明する。地上から高さ1500~1800mmまでは、各プレキャストパネル2を所定の位置に人力で設置し、組み立てるのがよく、その後、所定の高さ以上になったら、図1に示されるように、地組みした数段のプレキャストパネル2からなる組立体1Bを、クレーン等の重機で揚重して、設置済みのコンクリート構造物1Aの上部に設置する。
【0051】
地組みしたプレキャストパネル2…の組立体1Bを、設置済みのコンクリート構造物1Aの上部に設置したならば、本発明に係る連結構造Sを取り付ける。本連結構造Sの取り付けは、前記組立体1Bに設けられた裏当て鋼材5及び設置済みのコンクリート構造物1Aに設けられた裏当て鋼材5にそれぞれ前記固定部10を固定し、この固定部10に連結材11を介してセパレーター2を取り付け、前記セパレーター12の他端を前記主鋼材3に固定する。そして、前記セパレーター12にプレキャストパネルから離れる方向に向けた引張力を導入することにより、前記固定部10が固定された前記組立体1B及びコンクリート構造物1Aに、相互に近づく方向に向けた力を作用させる。
【0052】
前記連結構造Sを取り付けた後、プレキャストパネル2…の内部に中詰めコンクリート4を打設し、図7に示されるコンクリート構造物1Aが設置される。
【符号の説明】
【0053】
1…コンクリート構造物、2…プレキャストパネル、3…主鋼材、4…中詰めコンクリート、5…裏当て鋼材、6…ボルト、7…凸部、10…固定部、11…連結材、12…セパレーター、13…被固定部、14…凸部、15…ターンバックル、16…ヒンジ、17…角部用金具、18…ボルト、20…固定金具、S…連結構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7