(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】表面処理剤及び機能性材料
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20240905BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240905BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240905BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240905BHJP
【FI】
C09D1/00
C09K3/18 104
C09D5/00 Z
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2020209044
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 陸
(72)【発明者】
【氏名】織田 拡
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃司
(72)【発明者】
【氏名】吉野 豪
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-128991(JP,A)
【文献】特開2010-254734(JP,A)
【文献】特表2011-516646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D、C09K3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)疎水性シリカ微粒子と(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と
(c)多価アルコールと(d)揮発性溶媒とを含有
し、
前記(a)疎水性シリカ微粒子の平均一次粒子径が5~500nmであり、
前記金属アルコキシドが、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ホウ素アルコキシド及びケイ素アルコキシドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記(c)多価アルコールが、下記式(1):
【化1】
(前記式中、R
11
は炭素数1~8の炭化水素基を表し、R
12
は水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を表し、R
13
は水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基を表し、R
14
は水素原子又はメチル基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~2の整数である。)
で表されるジオールであり、
前記(a)成分100質量部に対して、
前記(b)成分の含有量が0.1~10質量部であり、
前記(c)成分の含有量が0.01~30質量部であることを特徴とする表面処理剤。
【請求項2】
被処理材と、請求項
1に記載の表面処理剤により前記被処理材上に形成された撥水性膜とを備えることを特徴とする機能性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤及び機能性材料に関し、より詳しくは、疎水性シリカ微粒子を含有する表面処理剤及びそれを用いて表面処理した機能性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からフッ素樹脂やシリコーン樹脂等を用いてコーティングするといった化学的処理により、金属、ガラス、紙、布、プラスチック等の基材表面に撥水性を付与することが行われており、例えば、フッ素樹脂を用いたコーティングによって水接触角が約120°の撥水性の基材表面が得られることが知られている。
【0003】
また、基材表面に微細な凹凸構造を形成する方法や、このような基材表面の微細な凹凸構造の形成と上記のコーティング処理とを組合せた方法によって、水接触角が150°以上となるような超撥水性を基材表面に付与することも行われている。
【0004】
例えば、特開2007-238931号公報(特許文献1)には、(A)ヘキサメチルジシラザンで改質させた疎水性微細シリカ化合物、(B)樹脂化合物、及び(C)揮発性溶媒の均一分散物を含有する疎水性コーティング膜形成組成物が開示されており、この疎水性コーティング膜形成組成物を用いて被処理材に疎水性コーティング膜を形成することにより、疎水性、防汚性及び耐久性に優れた機能性材料が得られることも記載されている。
【0005】
また、特開2006-002285号公報(特許文献2)には、実質的に、(a)疎水性シリカ微粒子、(b)前記疎水性シリカ微粒子を均一に分散させるためのビニルトリメトキシシラン等の常温揮発性分散剤、(c)前記疎水性シリカ微粒子を分散させるためのイソプロパノール等の分散媒体のみからなる繊維製品用撥水剤が開示されており、また、特開2007-231442号公報(特許文献3)には、実質的に、(a)疎水性シリカ微粒子、(b)皮膜形成性チタンアルコキシド又はその部分加水分解縮合物、(c)前記疎水性シリカ微粒子を分散させるためのイソヘキサン等の分散媒体のみからなる繊維製品用撥水剤が開示されており、これらの撥水剤を噴霧することにより、良好な撥水性が繊維製品に付与されることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-238931号公報
【文献】特開2006-002285号公報
【文献】特開2007-231442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の疎水性コーティング膜形成組成物や特許文献2~3に記載の撥水剤を用いた場合であっても、繊維製品等の被処理材に付与される撥水性は必ずしも十分なものではなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた撥水性を被処理材に付与することが可能な表面処理剤及びこの表面処理剤を用いて表面処理した機能性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、疎水性シリカ微粒子と揮発性溶媒とを含有する表面処理剤において、金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と両末端に水酸基が結合した炭化水素鎖に少なくとも1つの炭化水素基が結合した構造を有する多価アルコールとを併用して配合することによって、優れた撥水性を被処理材に付与することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の表面処理剤は、(a)疎水性シリカ微粒子と(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と
(c)多価アルコールと(d)揮発性溶媒とを含有
し、
前記(a)疎水性シリカ微粒子の平均一次粒子径が5~500nmであり、
前記金属アルコキシドが、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ホウ素アルコキシド及びケイ素アルコキシドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記(c)多価アルコールが、下記式(1):
【化1】
(前記式中、R
11
は炭素数1~8の炭化水素基を表し、R
12
は水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を表し、R
13
は水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基を表し、R
14
は水素原子又はメチル基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~2の整数である。)
で表されるジオールであり、
前記(a)成分100質量部に対して、
前記(b)成分の含有量が0.1~10質量部であり、
前記(c)成分の含有量が0.01~30質量部であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の機能性材料は、被処理材と、前記本発明の表面処理剤により前記被処理材上に形成された撥水性膜とを備えることを特徴とするものである。
【0018】
なお、本発明において、「撥水性」とは、「水をはじく」という性質だけでなく、「低濃度の基質を含む水溶液をはじく」という性質を包含するものである。
【0019】
また、本発明の表面処理剤によって、優れた撥水性を被処理材に付与することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の表面処理剤は、(a)疎水性シリカ微粒子と(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と(c)両末端に水酸基が結合した炭化水素鎖に少なくとも1つの炭化水素基が結合した構造を有する多価アルコールと(d)揮発性溶媒とを含有するものである。このような、前記(a)成分と前記(d)成分に加えて、前記(b)成分と前記(c)成分とを併用して配合した表面処理剤を用いて被処理材を表面処理することによって、被処理材上に形成される撥水性膜の塗装ムラが抑制され、被処理材表面における撥水性のばらつきが抑制されるため、優れた撥水性が被処理材に付与されると推察される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた撥水性を被処理材に付与することが可能な表面処理剤を得ることができる。また、このような表面処理剤を用いて被処理材を表面処理することによって、優れた撥水性を有する機能性材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
〔表面処理剤〕
先ず、本発明の表面処理剤について説明する。本発明の表面処理剤は、(a)疎水性シリカ微粒子と(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と(c)両末端に水酸基が結合した炭化水素鎖に少なくとも1つの炭化水素基が結合した構造を有する多価アルコールと(d)揮発性溶媒とを含有するものである。
【0023】
(a)疎水性シリカ微粒子
本発明に用いられる(a)疎水性シリカ微粒子は、被処理材の表面に撥水性を発現させる微細な凹凸構造を形成させるための成分(撥水成分)であり、シリカ微粒子を疎水化剤で改質させたものである。
【0024】
改質させる原料シリカ微粒子としては、シリカ微粒子の表面に水酸基(シラノール基)を有する親水性シリカ微粒子が挙げられる。このような原料シリカ微粒子は、例えば、ケイ素化合物(特に、四塩化ケイ素等のケイ素のハロゲン化物)を酸素・水素炎中で燃焼させる乾式法や、沈殿法、ゲル法、ゾルゲル法といった湿式法により調製することができる。
【0025】
本発明に用いられる疎水性シリカ微粒子は、このような原料シリカ微粒子を湿式法又は乾式法により疎水化剤と接触させることによって調製することができる。湿式法としては、原料シリカ微粒子を水中や有機溶媒中に分散させて疎水化剤と接触させる方法等が挙げられる。乾式法としては、窒素等のキャリアガスで搬送された疎水化剤の蒸気を流動状態の原料シリカ微粒子に接触させる方法や疎水化剤の原液や溶液を攪拌状態の原料シリカ微粒子に噴霧する方法等が挙げられる。
【0026】
前記疎水化剤としては、下記式(2):
【0027】
【0028】
(前記式中、Bはハロゲンで置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は炭素数1~3のアルキル基(前記アルキル基はハロゲンで置換されていてもよい)若しくはハロゲンで置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基を表し、Yは炭素数1~3のアルコキシ基又はハロゲンを表し、iは1~3の整数であり、1分子中に複数存在するBは同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるケイ素化合物、下記式(3):
【0029】
【0030】
(前記式中、R31~R36はそれぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、又はフェニル基を表す。)
で表されるケイ素化合物が挙げられる。前記式(2)で表されるケイ素化合物としてはジアルキル(炭素数1~3)ジクロロシランが好ましく、前記式(3)で表されるケイ素化合物としてはヘキサアルキル(炭素数1~6)ジシラザンが好ましい。
【0031】
また、前記疎水化剤としては、前記式(2)で表されるケイ素化合物や前記式(3)で表されるケイ素化合物のほかに、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、クロロアルキル変性シリコーンオイル、クロロフェニル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル;ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等のシロキサン類も挙げられる。
【0032】
これらの疎水化剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの疎水化剤の中でも、優れた撥水性を被処理材に付与できるという観点から、ジアルキル(炭素数1~3)ジクロロシラン、ヘキサアルキル(炭素数1~6)ジシラザンが好ましい。
【0033】
本発明において、前記(a)疎水性シリカ微粒子としては、前記原料シリカ微粒子を前記疎水化剤で適宜改質して調製してもよいが、市販の疎水性シリカ微粒子を入手して使用してもよい。市販の疎水性シリカ微粒子としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンで改質されたレオロシールHM-20S、HM-30S(株式会社トクヤマ製、商品名)、AEROSIL NAX50、RX200、RX300(日本アエロジル株式会社製、商品名)、ジメチルジクロロシランで改質されたレオロシールDM-10、DM-20、DM-30(株式会社トクヤマ製、商品名)、AEROSIL R972、R974、R976(日本アエロジル株式会社製、商品名)、ヘキサメチルジシラザンとジメチルジクロロシランで改質されたレオロシールZD-30ST(株式会社トクヤマ製、商品名)等が挙げられる。
【0034】
本発明に用いられる(a)疎水性シリカ微粒子の平均一次粒子径としては、5~500nmが好ましく、5~300nmがより好ましい。(a)疎水性シリカ微粒子の平均一次粒子径が前記範囲内にあると、被処理材の表面に適正な微細凹凸構造を形成することができ、優れた撥水性を被処理材に付与することが可能となる。なお、(a)疎水性シリカ微粒子の平均一次粒子径は粒度分布計を用いて測定することができるが、市販の疎水性シリカ微粒子の場合には、カタログ値等を採用することもできる。
【0035】
本発明の表面処理剤においては、このような疎水性シリカ微粒子である(a)成分の含有量が、表面処理剤全体に対して、1~50質量%であることが好ましく、1~40質量%であることがより好ましい。(a)成分の含有量が前記範囲内にあると、表面処理剤によって形成される撥水性膜の塗装ムラが抑制され、優れた撥水性を被処理材に付与することができる。
【0036】
(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物
本発明に用いられる(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物は、(a)疎水性シリカ微粒子を含有する撥水性膜の塗装ムラを抑制するための成分であり、例えば、下記式(4):
【0037】
【0038】
(前記式中、Mはチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ホウ素又はケイ素を表し、R41は炭素数1~20(好ましくは炭素数2~10、より好ましくは炭素数2~8)の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基又は芳香族基を表し、kはMの原子価であり、nは1~4の整数である。)
で表される金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0039】
このような金属アルコキシドとして、具体的には、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラt-ブトキシド、チタン2-エチルヘキシルオキシド、ヘキサブトキシ-μ-オキソ二チタニウム、チタンテトラブトキシド(テトラマー)等のチタンアルコキシド化合物;ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラt-ブトキシド等のジルコニウムアルコキシド化合物;アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムトリsec-ブトキシド、アルミニウムトリt-ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド化合物;トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリイソプロピルボラン、トリブチルボラン、トリヘキシルボラン、トリオクチルボラン、トリデシルボラン、トリテトラデシルボラン、トリオクタデシルボラン、トリフェニルボラン等のホウ素アルコキシド化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(トリメチルシリルオキシ)シラン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)シラン、テトラデシルオキシシラン、テトラフェノキシシラン等のケイ素アルコキシド化合物;ジ-s-ブトキシアルミノオキシトリエトキシシラン等のアルミニウム-ケイ素複合アルコキシド化合物等が挙げられる。
【0040】
これらの金属アルコキシドは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの金属アルコキシドの中でも、(a)疎水性シリカ微粒子を含有する撥水性膜の塗装ムラがより抑制され、より優れた撥水性を被処理材に付与できるという観点から、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ホウ素アルコキシド、ケイ素アルコキシドが好ましく、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドがより好ましい。
【0041】
このような金属アルコキシドは、表面処理剤中で、そのままの状態で存在していてもよいし、一部又は全部が部分加水分解縮合物を形成していてもよい。
【0042】
本発明の表面処理剤においては、このような金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種である(b)成分の含有量が、前記(a)成分100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~8質量部であることがより好ましい。(b)成分の含有量が前記範囲内にあると、表面処理剤によって形成される撥水性膜の塗装ムラが抑制され、優れた撥水性を被処理材に付与することができる。
【0043】
(c)両末端に水酸基が結合した炭化水素鎖に少なくとも1つの炭化水素基が結合した構造を有する多価アルコール
本発明に用いられる(c)多価アルコールは、(a)疎水性シリカ微粒子を含有する撥水性膜の塗装ムラを抑制するための成分であり、両末端に水酸基が結合した炭化水素鎖に少なくとも1つの炭化水素基が結合した構造を有するものである。このような(c)多価アルコールとしては、例えば、下記式(1):
【0044】
【0045】
(前記式中、R11は炭素数1~8(好ましくは炭素数1~5、より好ましくは炭素数1~3)の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を表し、R12は水素原子又は炭素数1~8(好ましくは炭素数1~5、より好ましくは炭素数1~3)の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を表し、R13及びR14はそれぞれ独立に水素原子又は直鎖状又は分岐状の炭素数1~3の炭化水素基(好ましくは水素原子又はメチル基)を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~2の整数である。)
で表されるジオールが挙げられる。
【0046】
このような(c)多価アルコールとして、具体的には、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-ペンチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジイソアミル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-オクチル-1,3-プロパンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘプタンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、(3R,6R)-3,6-オクタンジオール等が挙げられる。
【0047】
このような(c)多価アルコールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの多価アルコールの中でも、(a)疎水性シリカ微粒子を含有する撥水性膜の塗装ムラがより抑制され、より優れた撥水性を被処理材に付与できるという観点から、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1、3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオールが好ましい。
【0048】
本発明の表面処理剤においては、このような両末端に水酸基が結合した炭化水素鎖に少なくとも1つの炭化水素基が結合した構造を有する多価アルコールである(c)成分の含有量が、前記(a)成分100質量部に対して、0.01~30質量部であることが好ましく、0.05~25質量部であることがより好ましい。(c)成分の含有量が前記範囲内にあると、表面処理剤によって形成される撥水性膜の塗装ムラが抑制され、優れた撥水性を被処理材に付与することができる。
【0049】
(d)揮発性溶媒
本発明に用いられる(d)揮発性溶媒は、(a)疎水性シリカ微粒子と、(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と、(c)両末端に水酸基が結合した炭化水素鎖に少なくとも1つの炭化水素基が結合した構造を有する多価アルコールとを分散させるための分散媒として機能するものである。
【0050】
このような揮発性溶媒としては特に制限はないが、常温で揮発するものが好ましく、例えば、その蒸気圧が、20℃において、0.01~106.66kPaの範囲内にあるものが好ましく、0.13~66.66kPaの範囲内にあるものがより好ましく、0.67~40.00kPaの範囲内にあるものが更に好ましく、1.33~40.00kPaの範囲内にあるものが特に好ましい。
【0051】
このような揮発性溶媒として、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール等の炭素数1~8の脂肪族アルコール類;n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン、n-デカン、ミネラルターペン、テレピン油、イソパラフィン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール等のエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類が挙げられる。このような揮発性溶媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0052】
(表面処理剤)
本発明の表面処理剤は、(a)疎水性シリカ微粒子と、(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と、(c)多価アルコールと、(d)揮発性溶媒とを含有するものであり、(a)疎水性シリカ微粒子と、(b)金属アルコキシド及びその部分加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種と、(c)多価アルコールとを、(d)揮発性溶媒に分散させることによって得ることができる。分散方法としては、例えば、ホモジナイザー、コロイドミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、三本ロールミル、ニーダー、エクストルーダー、超音波分散機、高圧ジェットミル等を用いる方法が挙げられる。
【0053】
また、本発明の表面処理剤には、被処理材への(a)疎水性シリカ微粒子の定着度を向上させ、(a)疎水性シリカ微粒子を含有する撥水性膜の耐摩耗性を向上させるために、バインダー樹脂を配合してもよい。このようなバインダー樹脂としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂等が挙げられる。
【0054】
また、本発明の表面処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、硬化剤、触媒等の各種添加剤を配合してもよい。
【0055】
〔機能性材料〕
次に、本発明の機能性材料について説明する。本発明の機能性材料は、被処理材と、この被処理材上に前記表面処理剤を用いて形成した撥水性膜とを備えるものである。
【0056】
前記被処理材としては、撥水処理や防汚処理を必要とする材料であれば特に制限はなく、例えば、金属材、ガラス、セメント、コンクリート、石材、天然樹脂又は合成樹脂等の樹脂成型品、木材、紙、皮革、繊維製品等が挙げられる。
【0057】
このような被処理材上に前記表面処理剤を用いて撥水性膜を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、刷毛やロールコート等を用いたコーティングや噴霧、浸漬等により、前記表面処理剤を被処理材上に付着させ、常温又は50℃以下の温度下で乾燥させて(d)揮発性溶媒を除去することによって、被処理材上に撥水性膜を形成することができる。形成する撥水性膜の厚さとしては特に制限はなく、要求される撥水性の程度により適宜調整することができる。
【0058】
本発明の表面処理材を用いて形成される撥水性膜は、様々な基材(被処理材)に対して撥水性を付与できるため、本発明の機能性材料は、水性汚れに対して優れた防汚性を示す。また、本発明の表面処理材を用いて形成される撥水性膜は、塗装ムラが抑制されたものであるため、本発明の機能性材料は、良好な外観品質を有する。特に、被処理材としてガラス等の透明基材を用いた場合には、透明な機能性材料を得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
(a)成分として疎水性乾式シリカ微粒子(株式会社トクヤマ製「レオロシールZD-30ST」、平均一次粒子径:7nm)3.5質量部と(b)成分としてテトライソプロポキシチタン0.007質量部と(c)成分として2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.002質量部との混合物に(d)成分としてイソオクタンを、(a)成分~(d)成分の総量が100質量部となるように添加した。得られた組成物に超音波乳化機(株式会社日本精機製作所製「US-600E」)を用いて超音波処理を20分間施して、前記疎水性乾式シリカ微粒子を分散させた後、冷却し、安定な青白色の表面処理剤を得た。
【0061】
(実施例2~19)
(b)成分として表1~表2に記載の種類及び量の金属アルコキシドを用い、(c)成分として表1~表2に記載の種類及び量のジオールを用い、(d)成分として表1~表2に記載の種類及び量の揮発性溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、安定な青白色の表面処理剤を得た。
【0062】
(比較例1)
(b)成分(金属アルコキシド)及び(c)成分(分子内に分岐鎖構造を有する多価アルコール)を用いなかった以外は実施例1と同様にして、表面処理剤を得た。
【0063】
(比較例2)
(c)成分(分子内に分岐鎖構造を有する多価アルコール)を用いなかった以外は実施例3と同様にして、表面処理剤を得た。
【0064】
(比較例3)
(b)成分(金属アルコキシド)を用いなかった以外は実施例3と同様にして、表面処理剤を得た。
【0065】
(比較例4~5)
(c)成分(分子内に分岐鎖構造を有する多価アルコール)の代わりに、1,3-プロパンジオール(直鎖状ジオール)又はイソプロパノール(分子内に分岐鎖構造を有するモノオール)を0.024質量部用いた以外は実施例3と同様にして、表面処理剤を得た。
【0066】
〔評価用試料の作製〕
先ず、市販のガラス板(12cm×7.5cm)の表面を、アセトンを用いて洗浄し、ガラス板表面の残留物を除去した。このガラス板(被処理材)の表面に実施例及び比較例で得られた表面処理剤5mlを塗布した後、室温で乾燥して前記ガラス板表面にコーティング膜を形成して評価用試料を作製した。
【0067】
〔塗装ムラ〕
<目視観察>
前記評価用試料を目視により観察し、コーティング膜の塗装ムラを下記基準で評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0068】
(目視による塗装ムラ評価基準)
A:塗工表面にムラなし。
B:塗工表面に一部ムラあり。
C:塗工表面に全体にムラあり。
【0069】
<ヘーズ測定>
前記評価用試料の全光線透過率及び拡散光線透過率を、ヘーズメータ(日本電色工業株式会社製「NDH7000SPII」)を用いて、JIS K7136:2000に準拠して測定し、得られた全光線透過率τt及び拡散光線透過率τdを用いて下記式:
H=τd/τt×100
によりヘーズ値Hを求めた。また、得られたヘーズ値に基づいて、コーティング膜の塗装ムラを下記基準で評価した。これらの結果を表1~表3に示す。
【0070】
(ヘーズ値による塗装ムラ評価基準)
A:ヘーズ値0.00以上2.00未満。
B:ヘーズ値2.00以上4.00未満。
C:ヘーズ値4.00以上。
【0071】
〔撥水性〕
<転落角測定>
試薬用イソプロパノールとイオン交換水とを質量比10:90で混合して試験液を調製した。簡易自動接触角計・転落角モデル(KRUSS社製「DSA25T」)を用いて、前記試験液20μlを前記評価用試料のコーティング膜表面に滴下し、前記コーティング膜表面において液滴が滑り出す角度(転落角)を計測した。この計測を任意の3点の測定点について行い、その平均値(n=3)を求めた。また、得られた転落角の値に基づいて、コーティング膜表面の撥水性を下記基準で評価した。これらの結果を表1~表3に示す。
【0072】
(撥水性評価基準)
A:転落角0°以上20°未満。
B:転落角20°以上50°未満。
C:転落角50°以上90°未満。
D:転落角90°以上。
【0073】
〔防汚性〕
<着色試験>
AATCC TM175-2013(耐酸耐染色性)を参照して。1Lのイオン交換水に着色料アルラレッドACを0.1g混合し、得られた水溶液のpHをクエン酸を用いてpH2.8に調整し、試料液を調製した。この試料液に前記評価用試料を浸漬した後、乾燥し、コーティング膜表面の防汚性を下記基準で評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0074】
(防汚性評価基準)
A:着色なし。
B:わずかに着色。
C:着色。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表1~表3に示したように、疎水性シリカ微粒子と金属アルコキシドと分子内に分岐鎖構造を有する多価アルコールと揮発性溶媒とを含有する表面処理剤(実施例1~19)により形成されたコーティング膜は、塗装ムラが抑制されており、撥水性及び防汚性に優れていることがわかった。一方、金属アルコキシド及び分子内に分岐鎖構造を有する多価アルコールのうちの少なくとも一方を含まない表面処理剤(比較例1~3)、分子内に分岐鎖構造を有する多価アルコールの代わりに直鎖状ジオールを含む表面処理剤(比較例4)及び分子内に分岐鎖構造を有するモノオールを含む表面処理剤(比較例5)により形成されたコーティング膜は、塗装ムラが発生し、実施例1~19で得られた表面処理剤により形成されたコーティング膜に比べて、撥水性及び防汚性に劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明によれば、様々な材質の被処理材に、優れた撥水性を付与することが可能な表面処理剤を得ることが可能となる。また、本発明の表面処理剤を用いることによって、塗装ムラが抑制された撥水性膜を形成することが可能となる。
【0080】
したがって、本発明の機能性材料は、水性汚れに対する防汚性に優れるため、建築物外壁材や建築物内壁材等の各種建築材や建装材、屋根材、碍子、パイプ、配管、電線管、電線用ケーブル、電線ダクト、道路標識等の掲示板、レドーム、アルミフィン、アンテナ、各種素材のフェンスや塀、テント、防水コンクリート、農業用フィルム、工業用フィルム、光学用フィルム、食品用フィルム、信号機、カーブミラー等の鏡面、自動車や鉄道車両等の車用構造材、船舶用構造材、航空機用構造物、風車ブレード、タンク等に使用する機能性材料として有用である。