(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】感光性樹脂支持構造体、及び感光性樹脂レリーフ版の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/12 20060101AFI20240905BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20240905BHJP
G03F 7/09 20060101ALI20240905BHJP
B41C 1/00 20060101ALI20240905BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B41N1/12
G03F7/00 502
G03F7/09 501
B41C1/00
G03F7/20 511
(21)【出願番号】P 2021010249
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】玉野 孝一
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-331152(JP,A)
【文献】特開2012-57168(JP,A)
【文献】特開2020-79941(JP,A)
【文献】特開平5-246012(JP,A)
【文献】特開平11-254845(JP,A)
【文献】登録実用新案第3013189(JP,U)
【文献】特開平6-180503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00-3/08
G03F 7/00
G03F 7/09
B41C 1/00-3/08
G03F 7/20
B41F 27/04-27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に粘着剤層と、
を有する、感光性樹脂支持構造体であって、
前記粘着剤層は、前記支持体に接する第1の面とは反対側の第2の面上に開口した凹部を有し、
前記凹部の幅方向における断面積が0.003~0.008mm
2であり、
前記凹部の高さは、前記粘着剤層が被着体と接触した際に、30%以上減少する、
感光性樹脂支持構造体。
【請求項2】
前記凹部は、
前記粘着剤層の一の端部から他の端部に連続的に形成されている、
請求項1に記載の感光性樹脂支持構造体。
【請求項3】
前記粘着剤層の第2の面上に、凸部を有するライナーが積層されており、前記粘着剤層の凹部が、前記凸部により形成されている、
請求項1又は2に記載の感光性樹脂支持構造体。
【請求項4】
前記支持体の、前記粘着剤層に接する面とは反対側の面であって、感光性樹脂組成物層と接する面側に、接着剤層を有する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の感光性樹脂支持構造体。
【請求項5】
活性光線を感光性樹脂組成物層に照射する露光工程を含む感光性樹脂レリーフ版の製造に用いられる、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の感光性樹脂支持構造体。
【請求項6】
前記活性光線の有効波長領域が300~400nmである、請求項5に記載の感光性樹脂支持構造体。
【請求項7】
ネガフィルム、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の感光性樹脂支持構造体、感光性樹脂組成物層を、順に配置し、
前記ネガフィルム側の背面から、活性光線を照射する工程を有する、感光性樹脂レリーフ版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂支持構造体、及び感光性樹脂レリーフ版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂を用いたレリーフ版の製造の多くは、一定版厚に成型した感光性樹脂組成物層に活性光線を照射し、印刷版のレリーフ部分となる感光性樹脂組成物層のみを光重合反応により硬化させる露光工程を行った後、レリーフ部分以外の未硬化の感光性樹脂組成物を所定の洗浄液(現像液)で溶解除去し、あるいは膨潤分散させて機械的に除去することにより、硬化部分のみをレリーフとして版表面に出現させる現像工程を含む方法から成る。
【0003】
上記のような感光性樹脂を用いたレリーフ版は、フレキソ印刷用途や型取り用途に広く使用されている。
レリーフ形成には感光性樹脂組成物の光硬化物を固定する支持体が用いられ、前記のいずれの用途においても、得られたレリーフ版は着脱可能な粘着剤によりその支持体背面を用途に応じた対象物に貼り付け、固定して用いられ、その支持体はレリーフ版の易取り扱い性、機械的強度、或いは寸法精度を確保する役割も果たしている。
このような支持体として、特許文献1においては、支持体の感光性樹脂と接する面とは反対の面に、予め粘着剤層を有する支持構造体が開示されている。
【0004】
すなわち、特許文献1に開示されている支持構造体は、支持体上に粘着剤層(特許文献1には接着剤層と記載されているが本明細書では感光性樹脂組成物層に対する支持体の接着剤層との混同を避けるために粘着剤層と記載する。)、及びその保護膜が設けられている支持構造体であって、その粘着剤層が支持体と接している面とは反対の面上に保護膜を剥がした状態において開口した連通する空気の通過路を有していることを特徴とする印刷版製造用の感光性樹脂支持構造体である。
特許文献1に開示されている感光性樹脂支持構造体は、粘着剤層を有しない支持体と同じ装置を用いてレリーフ版の製造が可能であり、両面テープ等による貼り付け作業を簡略化するばかりか、貼り付け作業時の異物混入、空気溜まり発生によるレリーフ版の厚み精度低下が及ぼす最終製品の品質への悪影響も抑制する効果があり、連通する空気の通過路をストライプ状に形成させた商品として広く市場で普及している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている感光性樹脂支持構造体は、支持体の背面からの露光手段に依って支持体上に高精細なレリーフを形成させる用途において、例えば、特許文献2に開示されている型取り版の製版方法、特許文献3に開示されているフレキソ印刷版を目的の位置に貼りつける際の合マークの形成方法、特許文献4に開示されている印刷版の情報を支持体上に形成させる方法では、粘着剤層が有する空気の通過路部分とその他の部分とで感光性樹脂組成物の硬化性が異なることから目的のレリーフ形状が得られない場合がある、という問題点を有している。
【0006】
かかる問題点を解決するべく、特許文献5においては、粘着剤層が有する空気の通過路部分とその他の部分との紫外線透過率の差異を減じることにより、感光性樹脂組成物の硬化性を均一化した感光異性樹脂支持構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3094647号公報
【文献】特開2004-317978号公報
【文献】特開昭61-32058号公報
【文献】特開2000-181051号公報
【文献】特開2007-139911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に開示されている感光性樹脂支持構造体は、版胴に貼り付けた状態で洗浄剤液による洗浄を行う際、前記粘着剤層が有する空気の通過路部分に洗浄剤液が浸透してしまい、十分なシール性が得られず、感光性樹脂支持構造体が版胴から剥離するおそれがあるという問題点を有している。
【0009】
そこで、本発明においては、上述した従来の問題点に鑑み、粘着機能を有する感光性樹脂支持構造体が空気の通路部分を有している構成である場合において、空気溜まりの発生を抑制した十分なエアー抜け性を実現するとともに、十分なシール性も実現した感光性樹脂支持構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、支持体と、前記支持体上に粘着剤層とを有する、感光性樹脂支持構造体であって、前記粘着剤層は、前記支持体に接する第1の面とは反対側の第2の面上に開口した凹部を有し、前記凹部の幅方向における断面積が所定の数値範囲であり、前記凹部の高さは、前記粘着剤層が被着体と接触した際に所定の値以上減少するものに特定することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を解決させるに至った。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0011】
〔1〕
支持体と、
前記支持体上に粘着剤層と、
を有する、感光性樹脂支持構造体であって、
前記粘着剤層は、前記支持体に接する第1の面とは反対側の第2の面上に開口した凹部を有し、
前記凹部の幅方向における断面積が0.003~0.008mm2であり、
前記凹部の高さは、前記粘着剤層が被着体と接触した際に、30%以上減少する、
感光性樹脂支持構造体。
〔2〕
前記凹部は、前記粘着剤層の一の端部から他の端部に連続的に形成されている、前記〔1〕に記載の感光性樹脂支持構造体。
〔3〕
前記粘着剤層の第2の面上に、凸部を有するライナーが積層されており、前記粘着剤層の凹部が、前記凸部により形成されている、前記〔1〕又は〔2〕に記載の感光性樹脂支持構造体。
〔4〕
前記支持体の、前記粘着剤層に接する面とは反対側の面であって、感光性樹脂組成物層と接する面側に、接着剤層を有する、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の感光性樹脂支持構造体。
〔5〕
活性光線を感光性樹脂組成物層に照射する露光工程を含む感光性樹脂レリーフ版の製造に用いられる、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の感光性樹脂支持構造体。
〔6〕
前記活性光線の有効波長領域が300~400nmである、前記〔5〕に記載の感光性樹脂支持構造体。
〔7〕
ネガフィルム、前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の感光性樹脂支持構造体、感光性樹脂組成物層を、順に配置し、前記ネガフィルム側の背面から、活性光線を照射する工程を有する、感光性樹脂レリーフ版の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粘着機能を有する感光性樹脂支持構造体が空気の通路部分を有している構成である場合において、空気溜まりの発生を抑制した十分なエアー抜け性を実現するとともに、十分なシール性も実現した感光性樹脂支持構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】感光性樹脂支持構造体の粘着剤層が被着体と接触した状態の概略断面図を示す。
【
図6】(A)被着体に接触前の感光性樹脂支持構造体の概略断面図を示す。(B)被着体に接触後の感光性樹脂支持構造体の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
〔感光性樹脂支持構造体〕
本実施形態の感光性樹脂支持構造体は、
図1の概略断面図に示すように、支持体2と、前記支持体2上に粘着剤層3とを有する感光性樹脂支持構造体1である。
前記粘着剤層3は、前記支持体2に接する第1の面3aとは反対側の第2の面3b上に開口した凹部3hを有し、前記凹部3hの幅方向における断面積が0.003~0.008mm
2である。
前記粘着層3の第2の面3b上には、凸部を有するライナー4が積層されていてもよく、前記粘着層3の凹部3hは、ライナー4の凸部により形成された状態となっている。
前記凹部3hの高さは、前記粘着剤層3がライナー4を剥がした状態で被着体と接触した際に、30%以上減少する。
上記構成を有することにより、空気溜まりの発生を抑制した十分なエアー抜け性が得られ、かつ、十分なシール性も実現できる。
【0016】
本実施形態の感光性樹脂支持構造体が使用されうる感光性樹脂は、活性光線の照射によりラジカル反応を起こし、重合・硬化する既知の感光性樹脂である。
このような感光性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステルや不飽和ポリウレタンなどからなるプレポリマーにエチレン性不飽和化合物及び光重合開始剤を混合した液状感光性樹脂、或いは例えばスチレンブタジエン共重合ゴム、スチレンイソプレン共重合ゴム、メタクリル酸メチル樹脂、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、水溶性ポリアミド、不飽和ポリウレタン、乳化重合で合成された親水性共重合体などから選ばれるポリマーをバインダーとしてこれにエチレン性不飽和化合物、光重合開始剤を加えてなる固体状感光性樹脂が挙げられる。
【0017】
感光性樹脂の感光特性は、露光工程で使用する活性光線の種類に応じ、公知の光開始剤(八代啓一、「光硬化技術データブック」、2000年テクノネット社発行、122~133頁)の中から材料を選択して調整することが可能であり、前記活性光線の有効波長領域とは、露光光源の照射光波長分布の内、その中心波長領域のことである。
本実施形態の感光性樹脂支持構造体が、フレキソ印刷版や型取り版においてその効果を充分に発揮するためには、これらのレリーフ版の製造に用いられる露光光源として挙げられる、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等に対して後述する光透過特性を有していることが好ましく、すなわち300~400nmの範囲に中心波長領域を示す活性光線に対する光透過特性を有していることが好ましい。
【0018】
(支持体)
本実施形態の感光性樹脂支持構造体1に用いる支持体2は、これに感光性樹脂組成物層を積層して硬化した後に最終的に得られるレリーフ版を補強し所定の形状に保つ機能を有しているものであり、一般に支持体として慣用されているもののなかから目的に応じて適宜選択できる。
支持体2の材質については特に制限されるものではないが、本実施形態の感光性樹脂支持構造体1が支持体2側からの露光により画像形成を行うためには、350nm波長の活性光線に対して後述する所定の透過性を有していることが好ましい。
好ましく適用可能な支持体は、材料自体の厚み精度が比較的良好なプラスチックフィルム又はシートであり、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられる。
プラスチックフィルム支持体の厚みは、通常10μm~500μmの範囲内であるが、レリーフ版を支持するために十分な強度を得る観点、及び経済性の観点から、厚さ50~250μmのポリエステルフィルムが好ましい。
【0019】
(接着剤層)
支持体2の、前記粘着剤層3が接する面とは反対側の面であって、感光性樹脂組成物層が積層される側の面には、感光性樹脂組成物層との接着性を高めるために接着剤層5が設けられていてもよい。
この接着剤層5は、支持体2に接着性材料を塗布したり、或いはコロナ処理等により支持体2の表面を変性したりする等して形成される。
上記接着性材料としては、感光性樹脂版用の支持体の接着剤として公知のものを用いることができ、例えば、特公昭48-6563号公報や、特公昭49-43561号公報などに記載のものの中から感光性樹脂の化学的性質などを勘案して適宜選択することができる。
この接着剤層5には、ハレーションの防止や紫外線透過波長域の調整を目的として染料や紫外線吸収剤を添加してもよい。
接着剤層5の厚みは、0.1~10μmの範囲内が好ましい。
【0020】
(粘着剤層)
本実施形態の感光性樹脂支持構造体1に用いる粘着剤層3は、支持体2の上に感光性樹脂組成物層の硬化物によるレリーフが積層された版を用途により異なる被着体の表面に貼着するためのものであり、支持体2の感光性樹脂組成物層を形成する側の面とは反対側の面上に配される。
粘着剤層3を構成する粘着剤は、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、酢酸ビニル系粘着剤などの公知の粘着剤(山口章三郎監修「接着・粘着の事典」、1986年朝倉書店発行、118~169頁)が挙げられ、これらの中から活性光線に対する透明性、支持体2やライナー4との粘着力・剥離強さ、現像液に対する耐溶剤性などを考慮して適宜選ばれる。
なかでも本実施形態の感光性樹脂支持構造体に好適に利用可能な粘着剤としては、印刷版の貼着位置の修正作業あるいはデザイン変更による差し替えを可能とするために永久粘着しない再剥離型感圧粘着剤が好ましく、アクリル系感圧粘着剤、ゴム系感圧粘着剤、シリコン系感圧粘着剤が好適である。
【0021】
<凹部>
粘着剤層3は、レリーフ版を被着体表面に貼着する際、粘着剤層3の表面と、被着体の面との間に空気溜まりを生じさせないために、支持体2と接する第1の面3aとは反対の面3b上に、ライナー4を剥がした状態において開口した連通する空気の通過路である凹部3hが設けられている。
凹部3hは、粘着剤層3の一の端部から他の端部に連続的に形成されているものであることが好ましい。これにより、被着体の面との間の空気溜まりの発生を効果的に防止できる。
凹部3hにより形成される空気の通過路の断面形状は、例えば矩形状、くさび形状、半円形状のもの等があり、その深さは粘着剤層3の厚みより浅くてもよく、あるいは支持体2面上まで達していてもよい。
凹部3hにより形成される空気の通過路を有する構造としては、路が連通していることが重要であり、特に空気通過路の平面パターン等によって特に制限されるものではなく、例えば、ストライプ状、格子状、網目状、曲線状に形成してもよく、また粘着剤層3自体を連通多孔質体、繊維状粘着剤の積層体、或いはこれらの組み合わせとすることにより、目的の通気性を実現してもよい。
なお粘着剤層3のなかには補強を目的として薄いフィルム層を設けてもよい。
【0022】
<凹部の断面積>
前記凹部3hの幅方向における断面積は0.003~0.008mm
2であり、好ましくは0.004~0.007mm
2であり、より好ましくは0.005~0.006mm
2である。
断面積が0.003mm
2以上であることにより、空気溜まりの発生を抑制した十分なエアー抜け性が得られ、0.008mm
2以下であることにより、十分なシール性を発揮することができる。
凹部3hの幅方向とは、本実施形態の感光性樹脂支持体1を粘着剤層3形成面上から見たとき、凹部3hが最短幅となる方向をいう。例えば、
図2のように縦横において相互にストライプを組み合わせた格子状に凹部3hを形成した場合には、ストライプに垂直な線A-A´により切断した断面における面積が、凹部3hの断面積となる。
凹部3hの断面積は、
図1に示すように凹部3hの断面形状が矩形である場合には、ライナー4を貼り付けた状態において高さHと幅Wの積である。
図3のように曲線状に凹部3hを形成した場合には、曲線の接線に垂直な線B-B´により切断した断面における面積が、凹部3hの断面積となる。
図4のように、ストライプ状に凹部3hを形成した場合には、ストライプに垂直な線C-C´により切断した断面における面積が、凹部3hの断面積となる。
【0023】
<凹部の高さ>
本実施形態の感光性樹脂支持構造体は、前記凹部3hの高さ、すなわち
図1中のHが、前記粘着剤層3が所定の被着体と接触した際に、30%以上減少する。好ましくは50%以上減少し、より好ましくは70%以上減少する。
前記被着体とは、例えば、支持体2の上に感光性樹脂組成物層の硬化物によるレリーフが積層された印刷版を印刷工程に用いる際の、キャリアシートが挙げられる。
具体的な形態としては、
図5に示すように、感光性樹脂組成物層の硬化物による版が形成された、支持体2上に接着剤層3を有する本実施形態の感光性樹脂支持体の凹部3hの形成面側が、所定のキャリアシートを介して版胴と接触した状態が挙げられる。
前記凹部3hの高さが、粘着剤層3が所定の被着体と接触した際に、30%以上減少することにより、版胴に貼り付けた状態で洗浄剤液による洗浄を行う際、前記粘着剤層3が有する空気の通過路部分に洗浄剤液が浸透することを防止でき、十分なシール性を確保でき、感光性樹脂支持構造体が版胴から剥離することを効果的に防止できる。
粘着剤層3が所定の被着体と接触した際の前記凹部3hの高さは、粘着剤層の柔らかさ、粘着時の力、凹部の深さを調整することにより、30%以上減少するものに制御できる。
【0024】
<粘着剤層の形成方法>
本実施形態の感光性樹脂支持構造体のように、開口した連通する空気の通過路である凹部3hを有する粘着剤層3を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
例えば、空気の通過路のパターンとなるライナー賦形用ロールに所定のパターンを賦形加工し、ライナーを前記賦形ロールでパターン加工し、当該ライナーに粘着剤を塗布し、乾燥し、支持体2を貼り合わせて粘着剤層3を形成する方法が挙げられる。
なお、粘着剤を塗布する際には、粘着剤を揮発性の溶媒に溶解又は分散させた状態としてもよく、溶融した状態としてもよい。
また、粘着剤層3のその他の形成方法としては、例えば、支持体ロールの流れ方向に対して周期性のある紋様で粘着剤をノズル抽出する方法や、ノズルより打点式に突出させる方法や、一旦粘着剤を支持体の全面に塗布した後所望の断面形状とピッチを有する爪で粘着剤をかきとる方法や、所望の凸版形状とパターンを有するロールで粘着剤面にインプレスする方法や、粘着剤を発泡剤により発泡・多孔質化しこれを支持体に塗工する方法や、粘着剤を繊維状に押し出しこれを支持体2に積層する方法が挙げられる。
上述した方法は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0025】
本実施形態の感光性樹脂支持構造体を、生産性に優れる長尺シートとして製造するためには、上記した何れかの方法によって、支持体シートに連続的に粘着剤層の空気通過路である凹部3hを形成することが好ましい。
本実施形態の感光性樹脂支持構造体は、粘着剤層3が支持体2と積層されており、必要に応じて粘着剤層3にライナー4が積層された構造である。このため、本実施形態の感光性樹脂支持構造体を積み重ねて保存した際に、粘着剤層3の凹凸形状の転写や、コールドフローによる構造体端部からの粘着剤のはみ出し、空気の通路の閉塞、といった問題を生じるおそれがある。そこで本実施形態の感光性樹脂支持構造体においては、粘着剤層3の厚み、空気通過路である凹部3hの開口幅、及び深さを、使用する粘着剤の粘着力、柔軟性に応じて、十分な強度を保ち、かつ上述した問題を生じないように適宜選択する。
【0026】
本実施形態の感光性樹脂支持構造体において、粘着剤層3が所定の被着体と接触していない状態における粘着剤層3の凹部3hの開口面積は、本実施形態の感光性樹脂支持構造体全体に対して50%を超えて大きいと粘着剤層3の厚みの段差の影響が版面まで伝わる可能性があり、また0.1%より小さいとコールドフローや圧着時に空気の通路が閉塞して粘着表面において空気溜まりが発生する可能性あるため、0.1%以上50%以下の範囲で設計することが好ましく、より好ましくは1~40%、さらに好ましくは5~25%である。
【0027】
(ライナー)
本実施形態の感光性樹脂支持構造体においては、前記粘着剤層3の第2の面3b上に、凸部を有するライナー4が積層されていてもよく、前記粘着剤層3の凹部は、前記凸部により形成されていることが好ましい。
ライナー4は、取扱い中或いは製版・版取り付けの工程で粘着剤層3を保護するために、粘着剤層3に積層される。
ライナー4は、製版工程で使われる水系、アルコール系、炭化水素系等の現像液に対して耐性を有しているものがよい。そのようなライナー4としては、以下に限定されるものではないが、例えば、厚さ5~200μmのポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレン-エチレンコポリマー、軟質ポリ塩化ビニル、ポリアミド、アクリル樹脂から作られる透明プラスチックフィルムが挙げられる。
【0028】
ライナー4の、粘着剤層3と接する面とは反対の面は、製版時の真空引きをよくするために均一に粗面化されていることが好ましい。粗面化は過度に施す必要はなく、例えばJIS規格による10点平均粗さ(Rz)で0.1μm程度あれば十分である。粗面化する方法としてはサンドブラスト法、ケミカルエッチング法が挙げられる。又、保護膜に用いるフィルム・シートを製膜する際に表面を粗面化する、樹脂マット法などを挙げることもできる。
【0029】
粘着剤層3の粘着力は、必要に応じ適宜調整されるが、支持体2との粘着力、すなわち
図1中の第1の面3aにおける粘着力は、幅25mmの試験片を温度20℃に1週間放置して粘着力を安定させた後、180度の方向に300mm/分の速度で剥離した場合の粘着力(180度粘着力)で好ましくは100g/25mm以上、より好ましくは200g/25mm以上である。180度粘着力が200g/25mm以上であれば、レリーフ厚が3mm以上の厚肉版においても実用上剥がれなどの問題は生じない。
粘着剤層3の、レリーフ版貼着対象面となる被貼着面に対する粘着力、すなわち
図1中の第2の面3bにおける粘着力は、一旦貼着したレリーフ版を剥がす場合、支持体側に対する粘着力の方が小さいと粘着剤層3が支持体2側から剥離して被貼着面に転写するおそれがあるため、支持体2に対する粘着力と同程度以下であることが好ましい。支持体2と被貼着面が同様の材質の場合、粘着剤層3と支持体2の粘着力を、粘着剤層3と被貼着面の粘着力より高く設定するために、支持体2の表面に予め公知のアンカーコート層を設けたり、或いは粘着剤を塗布した支持体をコロナ処理して粘着力を増大したりすることが好ましい。
【0030】
粘着剤層3とライナー4の粘着力は、ライナー4の剥離を可能とするため、前述の支持体2との粘着力より小さく調整することが好ましく、取扱い中或いは製版工程中にライナー4が剥離することのないようにする、及びライナー4の剥離を容易するという観点から、好ましくは180度粘着力で1~200g/25mm、より好ましくは5~100g/25mm、さらに好ましくは10~50g/25mmに調整する。
支持体2とライナー4が同様の材質の場合、粘着剤層3とライナー4の粘着力を粘着剤層3と支持体2の粘着力より低く設定するために、ライナー4の粘着剤層3と接する側の面に、離型剤層が設けることが有効である。
離型剤としては粘着テープなどに通常用いられる公知の、例えばシリコン系の離型剤やフッ素樹脂が用いられ得る。
【0031】
〔感光性樹脂レリーフ版の製造方法〕
本実施形態の感光性樹脂支持構造体は、活性光線を感光性樹脂組成物層に照射する露光工程を含む感光性樹脂レリーフ版の製造に用いられるものである。
本実施形態の感光性樹脂支持構造体を用いた感光性樹脂レリーフ版の製造方法について説明する。
感光性樹脂レリーフ版の製造方法としては、露光工程、現像工程、その後に必要に応じて後露光工程、乾燥工程を行うことが好ましく、その露光工程においては、ネガフィルム、本実施形態の感光性樹脂支持構造体、感光性樹脂組成物層を順に配置し、ネガフィルムの背面側から活性光線を照射する工程を含むことがより好ましく、照射する活性光線が300~400nmの領域に中心波長を有することがさらに好ましい。
【0032】
露光工程おけるその他の所作については何ら制限されるものではなく、例えば、露光工程で使用する活性光線の散乱光を減じて平行性を高めるための処置を施してもよく、感光性樹脂組成物層の支持体2と接する面とは反対の面に保護フィルムを密着させ、支持体側ネガフィルムとは異なる画像のネガフィルムを介して300~400nmの領域に中心波長を有する活性光線を照射する工程を含んでもよい。
【0033】
露光工程の後には、活性光線が照射されていない領域の感光性樹脂組成物を除去するために現像工程が行われることが好ましく、その現像方法は未硬化の感光性樹脂組成物を除去できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、感光性樹脂組成物の溶解、分散、膨潤を可能にする液体(現像液)を用いる方法、未硬化の感光性樹脂組成物が流動性を有する環境においては、高圧水、圧気で除去する方法、不織布などによって拭取る方法などを挙げることができる。
【0034】
本実施形態の感光性樹脂支持構造体を、液体を用いる現像工程に適用する場合、従来においては、その現像工程中に粘着剤層3に設けられた空気通過路である凹部3hに現像液が浸み込むという問題点を有していた。この場合、版を取り付けるためにライナー4をはがした際に、浸み込んだ現像液が異臭を放つなどして環境衛生上好ましくない状態になったり、粘着剤層3に作用して性能に変動をきたしたり、感光性樹脂支持構造体が被着体から剥離したりするという問題が生じるおそれがある。
本実施形態の感光性樹脂支持構造体は、凹部の幅方向の断面積を0.003~0.008mm2に特定し、かつ、凹部の高さが、前記粘着剤層3が被着体と接触した際に30%以上減少するものに特定したことにより、空気溜まりの発生を抑制した十分なエアー抜け性を実現するとともに、十分なシール性も実現できる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的な実施例及び比較例によって本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1~9〕、〔比較例1~7〕
図2(形状1)、
図3(形状2)、
図4(形状3)の凹部を有するポリエチレンテレフタレート(PET)製のライナー4をエンボス加工により作製した。
前記ライナー4に粘着剤を塗布し、乾燥させ、さらに支持体2に貼り付け、所定の凹部3hが形成された粘着剤層3を有する感光性樹脂支持構造体1を得た。
図6(A)は、ライナー4を有し、被着体と接触前の感光性樹脂支持構造体1の概略断面図を示す。
図6(B)は、ライナー4を剥離し、被着体10と接触させた状態の感光性樹脂支持構造体1の概略断面図を示す。
前記感光性樹脂支持構造体1に関し、下記の方法により測定を実施した。
【0037】
(被着体と接触前の凹部の高さ、及び凹部の断面積の測定)
感光性樹脂支持構造体1からライナー4を剥離し、露出した粘着剤層3に対し、形状解析レーザー顕微鏡((株)キーエンス製 VK-X1000)を用いて、被着体と接触前の凹部3hの高さ、及び凹部3hの断面積を測定した。解析はvk解析アプリケーションを用いて行った。
測定においては、粘着剤層3の端部から5cm以上内側の任意の3点を選択し、それらの測定値の平均値を算出し、凹部の高さ、及び断面積の測定値とした。
【0038】
(被着体と接触前の、支持体の厚み+粘着剤層の厚み+ライナーの厚みの測定)
上記のようにして作製した感光性樹脂支持構造体1に対し、リニアゲージを用いて、被着体と接触前の、支持体の厚みと粘着剤層の厚みとライナーの厚みの合計値を測定した。
図6(A)中、(1)が支持体の厚み、粘着剤層の厚み、及びライナーの厚みの合計に相当する。
【0039】
(凹凸の高さを含めたライナーの厚みの測定)
凹凸を形成したライナー4に対し、リニアゲージを用いて、凹凸の高さを含めたライナーの厚みを測定した。
図6(A)中、(2)がライナー4の凹凸の高さを含めた厚みに相当する。
【0040】
(被着体と接触後の、支持体の厚み+粘着剤層の厚みの測定)
感光性樹脂支持構造体1からライナー4を剥離し、粘着剤層3を露出させ、所定の被着体10に貼り付けた。
その後、支持体の厚みと粘着剤層の厚みの合計値をリニアゲージで測定した。
図6(B)中、(3)が、被着体と接触後の支持体の厚みと粘着剤層の厚みの合計に相当する。
【0041】
(被着体と接触後の、凹部の高さの測定)
被着体10に貼り付けた後の凹部の高さ(4)を、
図6(A)、(B)中、の(1)~(3)によって、下記の式により算出した。
(4)=(3)-((1)-(2))(μm)
【0042】
(被着体と接触前後における、凹部の高さの減少率)
感光性樹脂支持構造体1の粘着剤層3を、被着体10に接触する前後における凹部3bnの高さの減少率を、下記の式により算出した。
凹部の高さの減少率=((接触前の凹部の高さ-接触後の凹部の高さ)/接触前の凹部の高さ)×100(%)
【0043】
〔特性の評価〕
前記実施例及び比較例の感光性樹脂支持体の特性を下記のようにして評価した。
【0044】
(シール性)
50×150mmの感光性樹脂支持構造体1からライナー4を剥離し、PET製の被着体10に貼り付けた。
23±1℃の環境下で、3時間放置し、その後、水で2倍に希釈した版洗浄剤(サカタインクス製 IC-01)に5分間浸漬した。
その際、版洗浄剤に黒インキを少量添加しておき、浸透の状態を可視化した。
5分経過後、黒インキの侵入距離をレーザー顕微鏡又はノギスで測定した。
測定箇所は洗浄剤の侵入口から凹部に沿って洗浄剤の侵入が停止した箇所までとし、これを侵入長とした。
侵入口の判断が困難である場合には、侵入長が最も長くなる箇所から測定を行った。
2サンプルの平均値を測定値とした。
侵入長が3mm未満の場合は〇、3mm以上である場合を×として評価した。
【0045】
(エアー抜け性)
50mm×150mmの感光性樹脂支持構造体1からライナー4を剥離した。
まず、感光性樹脂支持構造体1の周辺部位を被着体10に貼り付け、その後、感光性樹脂支持構造体1の中心部位を被着体10に貼り付けた。
感光性樹脂支持構造体と被着体との境界で閉じ込められたエアーが、感光性樹脂支持構造体1の中心部位を被着体に貼り付けた際に抜けるか否かを、エアーが溜まっている箇所の厚みを測定することにより評価した。
前記エアーが溜まっている箇所の厚みが周辺部位よりも50μm以上高い場合は×とし、50μm未満である場合は〇として評価した。
【0046】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の感光性樹脂支持構造体は、粘着機能を有する支持構造体の利便性が求められ、かつ感光性樹脂支持構造体が空気の通路部分を有している構成である場合において、空気溜まりの発生を抑制、十分なシール性が求められる分野、例えば、フレキソ印刷版製造分野、型取り版製造分野において産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0048】
1 感光性樹脂支持構造体
2 支持体
3 粘着剤層
3a 第1の面
3b 第2の面
3h 凹部
4 ライナー
10 被着体