(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】バッテリー
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6554 20140101AFI20240905BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240905BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240905BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20240905BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20240905BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240905BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20240905BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M10/6554
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6568
H01M10/647
H01M50/204 401H
H01M50/209
H01M10/6556
(21)【出願番号】P 2021070752
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 均
(72)【発明者】
【氏名】中藤 登
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-79780(JP,A)
【文献】特開2013-246990(JP,A)
【文献】国際公開第2020/105377(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52-10/667
50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリーセルを筐体内に並べて収納するバッテリーであって、
前記バッテリーセルと前記筐体との間に、前記バッテリーセルから前記筐体への熱伝導を促進するための熱伝導部材を備え、
前記熱伝導部材は、
少なくとも厚さ方向に弾性変形可能な弾性シートと、
前記弾性シートの厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら前記弾性シートの前記厚さ方向と直角でシート面内の所定方向に蛇行して進行するように備えられる熱伝導フィルムと、
を備え、
前記熱伝導部材における前記熱伝導フィルムの進行方向が複数の前記バッテリーセルの並ぶ方向と交差する方向になるように、前記熱伝導部材を前記バッテリーセルの底部に配置していることを特徴とするバッテリー。
【請求項2】
前記熱伝導部材は、前記弾性シートの厚さ方向の少なくとも片面において前記熱伝導フィルムと重複しない領域に、前記バッテリーセルおよび前記筐体の少なくともいずれか一方の面と前記熱伝導部材とを保持するための保持層を、さらに備えることを特徴とする請求項1に記載のバッテリー。
【請求項3】
前記熱伝導フィルムは、前記弾性シートの幅方向略中央領域に、前記幅方向と直角の長さ方向に沿って進行するように備えられ、
前記保持層は、前記弾性シートの前記少なくとも片面において、前記熱伝導フィルムを挟んで両側に備えられていることを特徴とする請求項2に記載のバッテリー。
【請求項4】
前記熱伝導部材は、1つの前記バッテリーセルに対して1つ備えられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のバッテリー。
【請求項5】
前記熱伝導部材は、1つの前記バッテリーセルに対して2つ以上備えられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のバッテリー。
【請求項6】
前記バッテリーセルは、1つの前記熱伝導部材に対して1つ以上備えられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車の普及が進行してきている。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などが必要となる。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発は重要である。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。また、現在、バッテリーの高速かつ非接触での充電を実現する試験が進行しており、バッテリーの寿命を損なわないように、バッテリーの過充電に伴う発熱への対処も必要になる。
【0003】
バッテリーの熱を効果的に除去する従来法の一つとしては、バッテリーセルの電極と反対側に位置する突出したケース密封部位に熱伝導部材を挿入あるいは接触させる手段により、バッテリーセルからの放熱を促進させる方法が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記公知の放熱方法は、ラミネートパックの封止形状に依存した方法であり、汎用性に欠ける。本出願人の発明者は、バッテリーセルの形態を問わない汎用性に優れた放熱部材を開発すべく、本発明に先立ち、バッテリーの筐体の底部と、筐体に装填するバッテリーセルとの間に放熱部材を挟む方法を検討してきた。その検討の中で、バッテリーセルの充電および放電の際、バッテリーセルの一部若しくは全部が過熱し、バッテリーセルがその並ぶ方向に膨張することがわかった。バッテリーセルが膨張すると、初期の位置から幾分ずれて、放熱部材との相対位置が変化する。また、これに起因して、バッテリーセルの放熱性が低下しやすいことがわかった。このような知見から、本発明者は、バッテリーセルの位置が多少変化しても放熱性が低下しにくいバッテリーを発明するに至った。このように、放熱性に優れたバッテリーの開発の成功は、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」という本出願人の持続可能な開発目標の達成にも資する。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、多くのバッテリーセルの形態に適応でき、バッテリーセルの位置ずれに対して高い放熱性を維持可能な熱伝導部材を備えるバッテリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係るバッテリーは、複数のバッテリーセルを筐体内に並べて収納するバッテリーであって、
前記バッテリーセルと前記筐体との間に、前記バッテリーセルから前記筐体への熱伝導を促進するための熱伝導部材を備え、
前記熱伝導部材は、
少なくとも厚さ方向に弾性変形可能な弾性シートと、
前記弾性シートの厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら前記弾性シートの前記厚さ方向と直角でシート面内の所定方向に蛇行して進行するように備えられる熱伝導フィルムと、
を備え、
前記熱伝導部材における前記熱伝導フィルムの進行方向が複数の前記バッテリーセルの並ぶ方向と交差する方向になるように、前記熱伝導部材は前記バッテリーセルの底部に配置されている。
(2)別の実施形態に係るバッテリーにおいて、好ましくは、前記熱伝導部材は、前記弾性シートの厚さ方向の少なくとも片面において前記熱伝導フィルムと重複しない領域に、前記バッテリーセルおよび前記筐体の少なくともいずれか一方の面と前記熱伝導部材とを保持するための保持層を、さらに備えても良い。
(3)別の実施形態に係るバッテリーにおいて、好ましくは、前記熱伝導フィルムは、前記弾性シートの幅方向略中央領域に、前記幅方向と直角の長さ方向に沿って進行するように備えられ、前記保持層は、前記弾性シートの前記少なくとも片面において、前記熱伝導フィルムを挟んで両側に備えられても良い。
(4)別の実施形態に係るバッテリーにおいて、好ましくは、前記熱伝導部材は、1つの前記バッテリーセルに対して1つ備えられていても良い。
(5)別の実施形態に係るバッテリーにおいて、好ましくは、前記熱伝導部材は、1つの前記バッテリーセルに対して2つ以上備えられても良い。
(6)別の実施形態に係るバッテリーにおいて、好ましくは、前記バッテリーセルは、1つの前記熱伝導部材に対して1つ以上備えられても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多くのバッテリーセルの形態に適応でき、バッテリーセルの位置ずれに対して高い放熱性を維持可能な熱伝導部材を備えるバッテリーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るバッテリーに備えられる熱伝導部材の平面図、右側面図および正面図を示す。
【
図2】
図2は、
図1の熱伝導部材のA-A線断面図(2A)と、当該熱伝導部材の斜視図(2B)とを示す。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るバッテリーの筐体の内底面に、
図1の熱伝導部材を配置して、バッテリーセルを装填する状況の斜視図(3A)および熱伝導部材の平面図(3B)を示す。
【
図4】
図4は、
図3に示す熱伝導部材とバッテリーセルとを筐体にセットした状態において、バッテリーセルが充放電中に膨張したときのバッテリーセルと熱伝導部材の相対位置の変化を拡大平面視にて示す。
【
図5】
図5は、
図4における熱伝導部材とバッテリーセルとの大きさの関係の変形例(5A,5B)を示す。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係るバッテリーの筐体の内底面に、
図1の熱伝導部材とは異なる形態の熱伝導部材を配置して、バッテリーセルを装填する状況の斜視図(6A)および熱伝導部材の平面図(6B)を示す。
【
図7】
図7は、
図6における熱伝導部材とバッテリーセルとを筐体にセットした状態の一部拡大平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るバッテリーに備えられる熱伝導部材の平面図、右側面図および正面図を示す。
図2は、
図1の熱伝導部材のA-A線断面図(2A)と、当該熱伝導部材の斜視図(2B)とを示す。以後、厚さ方向、幅方向および長さ方向は、それぞれ、直方体の最も短い辺の方向、厚さ方向の次に長い辺の方向および最も長い辺の方向をいう。
【0012】
この実施形態に係るバッテリーは、複数のバッテリーセルを筐体内に並べて収納可能である。バッテリーに備えられる熱伝導部材1は、バッテリーセルと筐体との間に、バッテリーセルから筐体への熱伝導を促進するための部材である。熱伝導部材1は、弾性シート10と、熱伝導フィルム20と、を備える。弾性シート10は、少なくとも厚さ方向に弾性変形可能なシートである。弾性シート10は、厚さ方向に弾性変形可能であれば、幅方向および長さ方向にも弾性変形可能であっても良い。熱伝導フィルム20は、弾性シート10の厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら弾性シート10の厚さ方向と直角でシート面内の所定方向(ここでは、弾性シート10の長さ方向)に蛇行して進行するように備えられるフィルムである。
【0013】
弾性シート10は、好ましくは、その厚さ方向に熱伝導フィルム20を貫通させて凹凸を繰り返すよう配置させることにより熱伝導フィルム20を保持する。すなわち、弾性シート10は、熱源と対向する面および冷却部材と対向する面において、所定間隔を空けて熱伝導フィルム20が露出するように、熱伝導フィルム20を保持する。熱伝導部材1は、熱伝導部材1における熱伝導フィルム20の進行方向が複数のバッテリーセルの並ぶ方向と直角方向になるように、バッテリーセルの底部(底面と称しても良い)に配置されている。
【0014】
この実施形態では、弾性シート10は、好ましくは、幅方向および長さ方向に比べて厚さ方向の長さが極端に小さい薄いシートである。この実施形態に係る熱伝導フィルム20は、弾性シート10に比べて、熱伝導性が高くて伸縮性が低いフィルムである。熱伝導フィルム20は、表側の面において、弾性シート10の長さ方向に、好ましくは一定のピッチにて露出している。同様に、熱伝導フィルム20は、裏側の面においても、弾性シート10の長さ方向に、好ましくは一定のピッチにて露出している。ただし、ピッチは、一定ではなく、異なっていても良い。
【0015】
弾性シート10の重要な機能は、熱伝導部材1に、変形容易性と回復力を付与することである。回復力は、弾性シート10の弾性変形性に起因する。変形容易性は、弾性シート10の柔軟性に起因する。弾性シート10は、その厚さに制約はないが、好ましくは0.2~20mm、より好ましくは0.5~10mmの厚さを有する。また、弾性シート10の厚さは、熱伝導フィルム20の厚さより大きいのが好ましい。
【0016】
弾性シート10は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。弾性シート10は、熱伝導フィルム20を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、弾性シート10は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。この実施形態では、弾性シート10は、シリコーンゴムシートである。弾性シート10は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAl2O3、AlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。弾性シート10は、より好ましくは、その内部に気泡を含むクッション性の高いスポンジである。この実施形態では、弾性シート10は、発泡シートである。また、「弾性シート」は、柔軟性に富み、弾性変形可能な部材を意味し、かかる意味では「クッション部材」、「クッションシート」或いは「ゴム状弾性体」と読み替えることもできる。
【0017】
熱伝導フィルム20の材料は、特に制約はないが、好ましくは、金属、炭素若しくはセラミックスの少なくとも1つを含み、可撓性を有する部材である。熱伝導フィルム20は、より好ましくは、炭素フィルム若しくは炭素含有樹脂フィルムである。熱伝導フィルム20は、好ましくは、90質量%以上を炭素から構成されるフィルムである。例えば、熱伝導フィルム20に、樹脂を焼成して成るグラファイト製のフィルムを用いることもできる。ただし、熱伝導フィルム20は、炭素と樹脂とを含むフィルムであっても良い。その場合、樹脂は、合成繊維でも良く、その場合には、樹脂として好適にはアラミド繊維を用いることができる。本願でいう「炭素」は、グラファイト、グラファイトより結晶性の低いカーボンブラック、ダイヤモンド、ダイヤモンドに近い構造を持つダイヤモンドライクカーボン等の炭素(元素記号:C)から成る如何なる構造のものも含むように広義に解釈される。熱伝導フィルム20は、この実施形態では、樹脂に、グラファイト繊維やカーボン粒子を配合分散した材料を硬化させた薄いフィルムとすることができる。熱伝導フィルム20は、メッシュ状に編んだカーボンファイバーであっても良く、さらには混紡してあっても混編みしてあっても良い。なお、グラファイト繊維、カーボン粒子あるいはカーボンファイバーといった各種フィラーも、すべて、炭素フィラーの概念に含まれる。また、熱伝導フィルム20は、「熱伝導シート」と称しても良い。
【0018】
熱伝導フィルム20を炭素と樹脂とを備えるフィルムとする場合には、当該樹脂が熱伝導フィルム20の全質量に対して50質量%を超えていても、あるいは50質量%以下であっても良い。すなわち、熱伝導フィルム20は、熱伝導に大きな支障が無い限り、樹脂を主材とするか否かを問わない。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を好適に使用できる。熱可塑性樹脂としては、熱源からの熱を伝導する際に溶融しない程度の高融点を備える樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に挙げることができる。樹脂は、熱伝導フィルム20の成形前の状態において、炭素フィラーの隙間に、例えば粒子状あるいは繊維状に分散している。熱伝導フィルム20は、炭素フィラー、樹脂の他、熱伝導をより高めるためのフィラーとして、Al2O3、AlNあるいはダイヤモンドを分散していても良い。また、樹脂に代えて、樹脂よりも柔軟なゴムを用いても良い。熱伝導フィルム20は、また、上述のような炭素に代えて若しくは炭素と共に、金属および/またはセラミックスを含むフィルムとすることができる。金属としては、アルミニウム、銅、それらの内の少なくとも1つを含む合金などの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、セラミックスとしては、Al2O3、AlN、cBN、hBNなどの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。
【0019】
熱伝導フィルム20は、導電性に優れるか否かは問わない。熱伝導フィルム20の熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上である。この実施形態では、熱伝導フィルム20は、好ましくは、グラファイト製のフィルムであり、熱伝導性と導電性に優れる材料から成る。熱伝導フィルム20は、湾曲性(若しくは屈曲性)に優れるフィルムであるのが好ましく、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましい。この実施形態では、弾性シート10の表側の面および裏側の面における熱伝導フィルム20が覆う領域は、弾性シート10の表側の面および裏側の面から少なくとも熱伝導フィルム20の厚さだけ突出している。なお、弾性シート10の表側の面および裏側の面のいずれか1つの面における熱伝導フィルム20の領域を、弾性シート10の当該いずれか1つの面から少なくとも熱伝導フィルム20の厚さだけ突出させても良い。
【0020】
弾性シート10は、好ましくは、熱伝導フィルムと20接する縁にテーパー部位を備えていても良い。弾性シート10は、テーパー部位に代えて、カーブ部位を備えても良い。ここで、テーパー部位とは、略直角の縁の角を平面状に除して傾斜面とした部位をいう。カーブ部位とは、略直角の縁の角を弧状、すなわちカーブを描くようにした部位をいう。熱伝導フィルム20は、弾性シート10のテーパー部材(若しくはカーブ部位)を覆っている。ここでは、熱伝導フィルム20は、テーパー部位の箇所にて、テーパー部位を備える。弾性シート10にカーブ部位を備える場合にも、熱伝導フィルム20は、当該カーブ部位の箇所にてカーブ部位を備える。このように、熱伝導部材1において、弾性シート10が熱伝導フィルム20と接する縁にテーパー部位若しくはカーブ部位を備え、熱伝導フィルム20が弾性シート10のテーパー部材若しくはカーブ部位を覆う形態とすると、熱伝導部材1の厚さ方向を熱源と冷却部材とで挟んで圧縮しても、熱伝導フィルム20が弾性シート10の縁で破損するリスクを低減できる。
【0021】
図3は、第1実施形態に係るバッテリーの筐体の内底面に、
図1の熱伝導部材を配置して、バッテリーセルを装填する状況の斜視図(3A)および熱伝導部材の平面図(3B)を示す。
【0022】
この実施形態において、バッテリー40は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、多数のバッテリーセル30を備える。バッテリー40の好適な例としては、リチウムイオンバッテリーを挙げることができる。バッテリー40は、一方に開口する有底型の筐体41を備える。筐体41は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。バッテリーセル30は、筐体41の内部44に配置される。この実施形態では、12個のバッテリーセル30が、その厚さ方向に並べられて筐体41の内部44に配置されている。バッテリーセル30は、筐体41の内壁に規制されていて、その幅方向(
図3の紙面の表裏方向または奥行き方向ともいう)にはほとんど移動できない。バッテリーセル30の上方には、電極が突出して設けられている。複数のバッテリーセル30は、好ましくは、筐体41内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられて、互いに密着するようになっている(不図示)。筐体41の底部42には、冷却水45を流すために、1または複数の水冷パイプ43が備えられている。バッテリーセル30は、筐体41の一部を構成する底部42(冷却部材の一例)との間に、熱伝導部材1を挟むようにして、筐体41内に配置される。
【0023】
上記構造のバッテリー40では、バッテリーセル30は、熱伝導部材1を通じて筐体41に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。なお、冷却水45は、「冷却媒体」あるいは「冷却剤」と読み替えても良い。冷却水45に代えて、液体窒素、エタノール等の有機溶剤を用いても良い。
【0024】
バッテリーセル30を筐体41内にセットすると、熱伝導部材1は、バッテリーセル30と、水冷パイプ43を備える底部42(筐体41の一部)との間において、熱伝導部材1の厚さ方向に圧縮される。この結果、バッテリーセル30からの熱は、熱伝導フィルム20を通じて、底部42、水冷パイプ43、冷却水45へと伝わりやすくなる。
【0025】
熱伝導部材1は、熱伝導部材1における熱伝導フィルム20の進行方向(
図3中のS方向)が複数のバッテリーセル30の並ぶ方向(
図3中のR方向)と直角方向になるように、バッテリーセル30の底部に配置されている。ここで、S方向およびR方向は、図中の両矢印方向を意味する。この実施形態では、熱伝導部材1は、好ましくは、1つのバッテリーセル30に対して1つ備えられている。熱伝導部材1は、筐体41の内底面に、R方向に沿って12個配置されている。バッテリーセル30も、当該内底面に、R方向に沿って12個配置される。熱伝導部材1の幅(R方向に沿った辺)は、好ましくは、バッテリーセル30の厚さ(R方向に沿った辺)に対して同一若しくは少し小さい。ただし、熱伝導部材1の幅は、バッテリーセル30の厚さに対して大きくても良い。熱伝導部材1の長さ(S方向に沿った辺)は、好ましくは、バッテリーセル30の幅(S方向に沿った辺)に対して同一若しくは少し小さい。ただし、熱伝導部材1の長さは、バッテリーセル30の幅に対して大きくても良い。
【0026】
熱伝導部材1は、好ましくは、弾性シート10の厚さ方向の少なくとも片面において熱伝導フィルム20と重複しない領域に、バッテリーセル30および筐体41の少なくともいずれか一方の面と熱伝導部材1とを保持するための保持層25を、さらに備える。この実施形態では、
図3(3B)に示すように、熱伝導フィルム20は、弾性シート10の幅方向(いわゆる短辺方向)の略中央領域に、当該幅方向と直角の長さ方向に沿って進行するように備えられている。保持層25は、弾性シート10の少なくとも片面において、熱伝導フィルム20を挟んで両側に備えられている。この実施形態では、保持層25は、弾性シート10の厚さ方向の両面に備えられている。このため、熱伝導部材1は、筐体41とバッテリーセル30の両方に保持される。しかし、保持層25は、弾性シート10の厚さ方向の片面のみに備えて、バッテリーセル30または筐体41のいずれか一方のみに保持されても良い。
【0027】
保持層25は、熱伝導部材1をバッテリーセル30および/または筐体41に固定可能な層であれば、特に制約はない。保持層25の好適な例は、複数回の貼付を可能とする粘着層である。粘着層としては、両面テープ、ジェル状の柔らかい層などを例示できる。保持層25は、弾性シート10の表面に貼り付けられており、弾性シート10と反対側の面にセパレータを備えていても良い。熱伝導部材1を使用する際には、セパレータを剥がして、保持層25を露出できる。
【0028】
図4は、
図3に示す熱伝導部材とバッテリーセルとを筐体にセットした状態において、バッテリーセルが充放電中に膨張したときのバッテリーセルと熱伝導部材の相対位置の変化を拡大平面視にて示す。
【0029】
図4では、1つの熱伝導部材1上にバッテリーセル30(図中、点線で示されている)が保持されている状況を示す。当該熱伝導部材1の隣には、別の熱伝導部材1が存在している。
図4の上方は、バッテリーセル30が膨張前の正規の状態を示す。
図4の下方は、バッテリーセル30が膨張して、あるいは膨張した別のバッテリーセル30からの力を受けて正規の位置からずれる状況を示す。熱伝導部材1は、バッテリーセル30と保持層25にて固定されていると、熱伝導部材1とバッテリーセル30との相対的な位置ズレは生じにくい。
【0030】
しかし、バッテリーセル30の並ぶ列の方向(いわゆる厚さ方向)に大きな力が加わると、保持層25が存在していても、バッテリーセル30が熱伝導部材1に対して移動する可能性がある。そのような場合でも、熱伝導部材1の熱伝導フィルム20の進行方向(
図3のS方向)がバッテリーセル30の並ぶ列の方向(
図3のR方向)に対して直角の場合、移動後のバッテリーセル30は、
図4のX方向にずれても、依然として、弾性シート10から露出している複数の熱伝導フィルム20の領域に接触している(
図4の一点鎖線の状態を参照)。また、バッテリーセル30がさらに大きく
図4のY方向にずれても、バッテリーセル30は、依然として、弾性シート10から露出している複数の熱伝導フィルム20の領域に接触している(
図4の二点鎖線の状態を参照)。
【0031】
このように、バッテリーセル30の移動方向は、バッテリーセル30の並ぶ列の方向であり、熱伝導部材1の熱伝導フィルム20の露出領域は、バッテリーセル30の底面と同じ平面内にあって上記列の方向と直角の方向である。このため、バッテリーセル30が移動しても、露出する熱伝導フィルム20に接触する数が減らない。この結果、バッテリーセル30から熱伝導部材1への熱伝導性が大きく減少しない。
【0032】
図5は、
図4における熱伝導部材とバッテリーセルとの大きさの関係の変形例(5A,5B)を示す。
【0033】
図5(5A)は、1つのバッテリーセル30に対して2つの熱伝導部材1を配置した状態の平面図を示す。バッテリーセル30は、図中、点線で示されている。バッテリーセル30の厚さは、熱伝導部材1の幅の2つ分にほぼ等しい。このような配置において、バッテリーセル30の位置ズレが生じたとしても、バッテリーセル30は、複数の熱伝導フィルム20の領域に接触を維持できる。このため、バッテリーセル30の放熱性を高く維持できる。
【0034】
図5(5B)は、2つのバッテリーセル30に対して1つの熱伝導部材1を配置した状態の平面図を示す。2つのバッテリーセル30の厚さの合計は、1つの熱伝導部材1の幅にほぼ等しい。このような配置において、バッテリーセル30の位置ズレが生じたとしても、バッテリーセル30は、複数の熱伝導フィルム20の領域に接触を維持できる。このため、バッテリーセル30の放熱性を高く維持できる。
【0035】
なお、1つのバッテリーセル30に対して2つを超える熱伝導部材1を配置し、あるいは2つを超えるバッテリーセル30に対して1つの熱伝導部材1を配置しても良い。
【0036】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るバッテリーについて説明する。第2実施形態において、第1実施形態と共通する構成については、その説明を省略する。
【0037】
図6は、第2実施形態に係るバッテリーの筐体の内底面に、
図1の熱伝導部材とは異なる形態の熱伝導部材を配置して、バッテリーセルを装填する状況の斜視図(6A)および熱伝導部材の平面図(6B)を示す。
図7は、
図6における熱伝導部材とバッテリーセルとを筐体にセットした状態の一部拡大平面図を示す。
図7では、バッテリーセルは点線で示されている。
【0038】
第2実施形態に係るバッテリー40aは、第1実施形態に係るバッテリー40の熱伝導部材1と異なる熱伝導部材1aを、異なる形態で配置している。バッテリー40aの筐体41およびバッテリーセル30は、バッテリー40と同一である。
【0039】
熱伝導部材1aは、熱伝導フィルム20を、弾性シート10の厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら弾性シート10の厚さ方向と直角でシート面内の所定方向に蛇行して進行するように備える。また、熱伝導部材1aは、その長さ方向(
図6のR方向と同じ)に、熱伝導フィルム20を2列に並べた形態を有する。熱伝導フィルム20は、バッテリーセル30の底面と接する面において、熱伝導部材1aの短辺方向(
図6のS方向と同じ)に4つ、長辺方向(
図6のR方向と同じ)に2つずつ露出している。保持層25は、熱伝導フィルム20に接触しない領域であって、熱伝導シート1aの長辺方向の両側と中央の合計3箇所に備えられている。この実施形態では、保持層25は、弾性シート10の厚さ方向両面に備えられている。ただし、保持層25は、弾性シート10のバッテリーセル30側または筐体41側のいずれか片面に備えられていても良い。
【0040】
熱伝導部材1aは、その長辺をバッテリーセル30の並ぶ列方向に合わせて6個、その短辺をバッテリーセル30の幅方向に合わせて4個の合計24個を筐体41の内底面に配置されている。2つのバッテリーセル30の底面は、バッテリーセル30の幅方向に配置される4個の熱伝導部材1aに接触している(
図7を参照)。
【0041】
第2実施形態においても、バッテリーセル30の膨張に起因する移動方向は、バッテリーセル30の並ぶ列の方向(R方向)であり、熱伝導部材1aの熱伝導フィルム20の露出領域は、バッテリーセル30の底面と同じ平面内にあって当該列の方向と直角の方向(S方向)である。このため、バッテリーセル30がR方向に移動しても、露出する熱伝導フィルム20に接触する数が減らない。この結果、バッテリーセル30から熱伝導部材1aへの熱伝導性が大きく減少しない。
【0042】
(その他実施形態)
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0043】
熱伝導部材1,1aは、熱伝導フィルム20と弾性シート10との間に、例えば接着層を介在させて製造され、あるいは接着層を介さずに製造されていても良い。また、弾性シート10は、その形状に特に制約はなく、少なくともバッテリーセル30と対向する面および底部42と対向する面において、所定間隔を空けて熱伝導フィルム20が露出するように熱伝導フィルム20を保持可能な形状であれば良い。
【0044】
上述の各実施形態では、熱伝導部材1,1aにおける熱伝導フィルム20の進行方向(S方向)が複数のバッテリーセル30の並ぶ方向(R方向)と直角方向になるように、熱伝導部材1,1aがバッテリーセル30の底部に配置されている。しかし、上述の「直角方向」は、必須ではない。直角方向に代えて、上記並ぶ方向と交差する方向を採用しても良い。交差する方向は、R方向に対して90度以下、例えば、20度、30度、45度、60度、80度を成す方向を含む。ただし、交差する方向は、90度、あるいは90度になるべく近い角度、例えば、80~89度である方が好ましい。
【0045】
第2実施形態に係るバッテリー40aにおいて、熱伝導部材1aは、1つのバッテリーセル30に対して4つ備えられているが、1~3個または5個以上備えられても良い。また、第2実施形態では、バッテリーセル30は、1つの熱伝導部材に対して2つ備えられているが、1個または3個以上備えられても良い。
【0046】
保持層25は、必須の構成要素ではない。ただし、保持層25を弾性シート10のバッテリーセル30側の面に備えると、バッテリーセル30と熱伝導部材1,1aとの相対移動を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、バッテリーにて利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1,1a・・・熱伝導部材、10・・・弾性シート,20・・・熱伝導フィルム、25・・・保持層、30・・・バッテリーセル、40,40a・・・バッテリー、41・・・筐体。