(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】繊維補強コンクリート部材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240905BHJP
C04B 14/48 20060101ALI20240905BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20240905BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20240905BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20240905BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20240905BHJP
E04C 2/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/48 C
C04B16/06 A
C04B16/06 B
C04B16/06 Z
C04B14/42 B
C04B14/38 C
E01D19/12
E04C2/04 F
(21)【出願番号】P 2021107390
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕志
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-025183(JP,A)
【文献】特開平05-331959(JP,A)
【文献】特開2000-309011(JP,A)
【文献】特開2010-094914(JP,A)
【文献】特開2004-291579(JP,A)
【文献】特開昭52-001916(JP,A)
【文献】特開2020-172846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E01D 19/12
E04C 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含有する繊維補強コンクリートにて構成された板状部を有する繊維補強コンクリート部材において、
上下方向に延在する複数のウエブ部と上下のフランジ部とで区画された複数の中空部を備えた中空形状を呈しており、
前記板状部は、前記ウエブ部と前記フランジ部にて構成され、
前記ウエブ部の肉厚寸法と前記フランジ部の肉厚寸法は同じであり、
前記繊維の長さは、前記板状部の肉厚寸法の1.33倍以上である
ことを特徴とする繊維補強コンクリート部材。
【請求項2】
前記繊維の長さは、前記板状部の肉厚寸法の1.4倍よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維補強コンクリート部材。
【請求項3】
中空の床材または壁材として利用される
ことを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の繊維補強コンクリート部材。
【請求項4】
ワッフル型に形成された超高強度繊維補強コンクリート床版または高強度繊維補強コンクリート床版として利用される
ことを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の繊維補強コンクリート部材。
【請求項5】
前記繊維の長さは、80mm以下である
ことを特徴とする請求項
4に記載の繊維補強コンクリート部材。
【請求項6】
前記繊維の材質は、鋼、ステンレス鋼、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ガラス、カーボン、バサルトのいずれかである
ことを特徴とする請求項1乃至請求項
5のいずれか一項に記載の繊維補強コンクリート部材。
【請求項7】
前記板状部に沿って互いに直交する二方向は、鉄筋および繊維強化プラスチック製の引張補強材の少なくとも一方で補強されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の繊維補強コンクリート部材。
【請求項8】
前記板状部に沿って互いに直交する二方向の一方は、PC鋼線および繊維強化プラスチック製の緊張材の少なくとも一方でプレストレスが導入され、他方は、鉄筋および繊維強化プラスチック製の引張補強材の少なくとも一方で補強されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の繊維補強コンクリート部材。
【請求項9】
前記板状部に沿って互いに直交する二方向は、PC鋼線および繊維強化プラスチック製の緊張材の少なくとも一方でプレストレスが導入されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の繊維補強コンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維補強コンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維補強コンクリートは、コンクリートに高強度の繊維を混入したものである(例えば特許文献1,2参照)。特許文献1には、コンクリート中に棒状の補強用鋼繊維を均一に分散させて、コンクリートの引張強度を高める構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-199052号公報
【文献】特開2004-168585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の繊維補強コンクリートにおいて、引張強度の特性値は、多数の曲げ試験の結果に基づいて安全側に定められた値に設定されている。特許文献1,2の繊維補強コンクリートでは、コンクリート内の棒状の鋼繊維の向きは規制されていないため、繊維補強の効果を発揮しない向き(コンクリートの肉厚方向に沿った向き)の鋼繊維も存在している。したがって、特許文献1,2の繊維補強コンクリートにおいても、前記したように引張強度の特性値が安全側に定められた値となっている。このような繊維補強コンクリートにおいて、繊維の配向性を制御できれば、引張強度の特性値を不必要に安全側の値とする必要がなくなる。
このような観点から、本発明は、コンクリート内での繊維の配向性を制御可能な繊維補強コンクリート部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するための本発明は、繊維を含有する繊維補強コンクリートにて構成された板状部を有する繊維補強コンクリート部材において、上下方向に延在する複数のウエブ部と、上下のフランジ部とを備えた中空形状を呈しており、前記板状部は、前記ウエブ部と前記フランジ部にて構成され、前記ウエブ部の肉厚寸法と前記フランジ部の肉厚寸法は同じであり、前記繊維の長さは、前記板状部の肉厚寸法の1.33倍以上であることを特徴とする繊維補強コンクリート部材である。
本発明において、繊維の長さとは、前記繊維を平坦面に置き、平坦面の法線方向から平坦面に投影した影の両端間の距離を言う。本発明の繊維補強コンクリート部材によれば、繊維が板状部の肉厚方向に対して必ず傾斜することになるので、繊維の配向性を制御することができる。これによって、板状部の肉厚方向へ向く繊維が少なくなり、多くの繊維が引張抵抗材として作用することとなるので、補強効率が向上する。
本発明の繊維補強コンクリート部材において、前記繊維の長さは、前記板状部の肉厚寸法の1.4倍よりも大きいものが好ましい。このような構成によれば、複数の繊維のうち、略半分が引張方向に対して45度以下の角度で傾斜するので、補強効率がより一層向上する。
本発明の繊維補強コンクリート部材は、中空の床材または壁材として利用されるものが好ましい。このような構成によれば、床材や壁材において、薄板および軽量化を図ることができるとともに、大型のパネル材を形成することができる。
本発明の繊維補強コンクリート部材は、ワッフル型に形成された超高強度繊維補強コンクリート床版または高強度繊維補強コンクリート床版として利用されるものが好ましい。このような構成によれば、ワッフル型の前記床版において、薄板および軽量化を図ることができるとともに、大型のパネル材を形成することができる。
本発明の繊維補強コンクリート部材において、前記繊維の長さは、80mm以下であるものが好ましい。繊維の長さを80mm以下とすれば、ワッフル型の前記床版内で繊維が絡まずに適宜分散される。
【0006】
本発明の繊維補強コンクリート部材において、前記繊維の材質は、鋼、ステンレス鋼、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ガラス、カーボン、バサルトのいずれかであるものが好ましい。
本発明の繊維補強コンクリート部材において、前記板状部に沿って互いに直交する二方向は、鉄筋および繊維強化プラスチック製の引張補強材の少なくとも一方で補強されているものが好ましい。
また、前記板状部に沿って互いに直交する二方向の一方は、PC鋼線および繊維強化プラスチック製の緊張材の少なくとも一方でプレストレスが導入され、他方は、鉄筋および繊維強化プラスチック製の引張補強材の少なくとも一方で補強されているものが好ましい。
さらに、前記板状部に沿って互いに直交する二方向は、PC鋼線および繊維強化プラスチック製の緊張材の少なくとも一方でプレストレスが導入されているものが好ましい。
これらの構成によれば、繊維補強コンクリートをさらに補強することができる。中空型またはワッフル型の部材に鉄筋等を設置する場合には、ウエブとフランジの交点部に設置するのが好ましい。このようにすれば薄肉部材の中で鉄筋等のかぶりを確保することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維補強コンクリート部材によれば、コンクリート内での繊維の配向性を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材を示した断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材を用いた橋梁の断面図である。
【
図3】繊維の配向状態を示した図であって、(a)は配置角度を説明するための図、(b)は繊維の端部の移動軌跡を示した図、(c)は繊維の端部の移動軌跡を縦方向に切断した断面図、(d)は、繊維の端部の移動軌跡を横方向に切断した断面図である。
【
図4】(a)は本発明の実施形態の変形例に係る繊維補強コンクリート部材を設けた形態を示した断面図、(b)は他の変形例を示した断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材の製造方法で用いる型枠を示した斜視図である。
【
図6】従来の繊維補強コンクリート部材と本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材の引張軟化曲線を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材について、添付した図面を参照しながら説明する。本実施形態では、かかる繊維補強コンクリート部材を橋梁の床材として利用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材を示した断面図、
図2は、本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材を用いた橋梁の断面図である。
【0011】
図1に示すように、繊維補強コンクリート部材1は、繊維2を含有する繊維補強コンクリートにて構成された板状部3を有している。繊維補強コンクリートは、補強材として繊維を混入したプレキャストコンクリートである。繊維補強コンクリートに混入する繊維2は、例えば、合成繊維、鋼繊維、炭素繊維、ガラス繊維である。繊維2の材質は、鋼、ステンレス鋼、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ガラス、カーボン、バサルトのうちいずれか一つまたは複数を適宜選択可能である。本実施形態では、繊維2は、スチール製の鋼繊維にて構成されている。具体的には、繊維2は、クランク状を呈した棒状部材(例えば、ベカルト社製のドラミックス(登録商標)など)である。
繊維補強コンクリート部材1は、中空形状を呈しており、床材または壁材として利用可能である。本実施形態では、
図2に示すように、繊維補強コンクリート部材1は、橋梁5の床材として用いられており、主桁6上に設置された横桁7上に掛け渡されている。繊維補強コンクリート部材1の上には、アスファルト舗装8が施工され、繊維補強コンクリート部材1の幅方向両端部には、プレキャスト側壁9が設置されている。繊維補強コンクリート部材1は、上下方向に延在する複数のウエブ部11と上下のフランジ部12とを備えている。ウエブ部11と上下のフランジ部12が板状部3となる。横方向に隣り合うウエブ部11と上下のフランジ部12とで、中空部13が区画されている。
板状部(ウエブ部11またはフランジ部12)3の肉厚寸法L1は、繊維2の長さL2よりも小さい。本実施形態の板状部3の肉厚寸法L1とは、ウエブ部11の厚さ寸法、フランジ部12の厚さ寸法である。繊維2の長さL2とは、繊維2を平坦面に置き、平坦面の法線方向から平坦面に投影した影の両端間の距離を言う。
図3の(a)に示すように、本実施形態では、繊維2を配向させたい方向D(ウエブ部11またはフランジ部12の部材軸方向D)に対する繊維2の傾斜角度θ(以下「配向角度θ」という)を45度より小さくするために、繊維2の長さL2は、繊維補強コンクリートの肉厚寸法L1の1.4倍(2
0.5倍)よりも大きくしている。具体的には、肉厚寸法L1は42mmで、繊維2の長さL2は60mmである。また、繊維2の長さは、施工性を考慮して80mm以下となっている。これによって、繊維2が長すぎず適度な長さとなり、施工性が向上する。
なお、繊維2の材質を、バサルト等の天然素材とした場合は、繊維2の長さは、多少のバラツキが発生する。このときは、繊維2の長さは、カタログに記載された長さ(いわゆるカタログ値)とする。
また、薄肉部への局所的な荷重に対する耐荷重性を確保する必要がある場合は、板状部3の肉厚寸法L1を45mmまたは50mmとする。肉厚寸法L1が45mmのときは、繊維2の長さL2は、L1の略1.33倍となり、肉厚寸法L1が50mmのときは、繊維2の長さL2は、L1の1.2倍となる。これらの場合でも、繊維2の長さL2よりも肉厚寸法L1のほうが小さいため、繊維2は傾斜し易く、配向制御の効果が表れる。これと合わせて、局所的な荷重に対する耐荷重性を確保することができる。但し、繊維2の配向制御における効果は、繊維2の長さL2を、L1の略1.4倍より大きくすることがより好ましい。
【0012】
繊維2の配向角度θは、0°に近い(繊維2の長手方向がウエブ部11またはフランジ部12の部材軸方向Dに沿う)ほど、繊維補強コンクリート部材1の曲げ強度が大きくなり、効果的な補強効果を得られる。ここで配向角度θを、30°,45°,60°,90°とする試験体をそれぞれ製作し、曲げ強度を計測したところ、配向角度θ=30°で曲げ強度が28.1(N/mm2)、配向角度θ=45°で曲げ強度27.1が(N/mm2)、配向角度θ=60°で曲げ強度が17.4(N/mm2)、配向角度θ=90°で曲げ強度が15.8(N/mm2)という試験結果が得られた。これらの試験結果より、配向角度θが45°を越えて60°になると、急激に曲げ強度が低下していることが分かる。以上のことより、本実施形態では、繊維2の配向角度θは、45°以下とすることを目標としている。
【0013】
次に、本実施形態の繊維補強コンクリート部材1における繊維2の配向状態について説明する。繊維2の長さを規制しない場合には、
図3の(b)に示すように、長さ方向の中心が部材軸方向Dを示す線上にある繊維2は、部材軸方向Dを示す線上の点を中心にしてXYZ方向の全ての方向に配向可能であり、繊維2の端部の移動軌跡は球面20となる。球面20を、X軸方向とY軸方向とZ軸方向を中心として90°の範囲で分割し、それぞれをX軸領域21、Y軸領域23、Z軸領域22とする。X軸は部材軸方向Dに延在し、Y軸は肉厚方向に延在する。X軸領域21は、球面20とX軸とが交差する点を中心として広がる曲面で、一対となり互いに対向している。Y軸領域23は、球面20とY軸(縦軸)とが交差する点を中心として広がる曲面で、一対となり互いに対向している。Z軸領域22は、球面20とZ軸とが交差する点を中心として広がる曲面で、一対となり互いに対向している。
ここで、繊維2の長さL2を、繊維補強コンクリートの肉厚寸法L1の1.4倍(2
0.5倍)よりも大きくしたことで、肉厚方向(Y軸方向)を縦方向とした場合、
図3の(c)の縦断面に示すように、長さ方向の中心が部材軸方向Dを示す線上にある繊維2が縦方向に45°以上で立ち上がることを阻止できる。これによって、繊維2は、上方に向かう中心角90°の範囲と、下方に向かう中心角90°の範囲に繊維2が配置されることはないので、繊維2の端部の移動軌跡は、球面20の3分の1を占めるY軸領域23が除外される。
図3の(d)の横断面に示すように、繊維2は、横方向においては、360°の範囲で配向されることになる。この中で、部材軸方向Dから45°以内の範囲(部材軸方向Dの両側を合わせて90°の範囲となる)は、繊維2の端部がX軸領域21になる部分であって、繊維2が部材軸方向Dから45°以内の範囲に配向される確率は2分の1になる。
つまり、繊維2の配向性を制御しない場合に、繊維2が部材軸方向Dから45°以内の範囲に配向される確率は3分の1であったところを、本実施形態においては、2分の1に高めることができる。
【0014】
本実施形態の繊維補強コンクリート部材1によれは、板状部3の肉厚寸法L1が、繊維2の長さL2よりも小さいので、繊維2が板状部3の肉厚方向に対して必ず傾斜することになる。つまり、本実施形態の繊維補強コンクリート部材1によれば、繊維2の配向性を制御することができる。これによって、板状部3の肉厚方向に近い方向へ向く繊維2が少なくなり、多くの繊維2を部材軸方向Dに近い方向に向けることができる。これにより、多くの繊維2が引張抵抗材として作用することとなるので、補強効率が向上する。
特に、本実施形態では、繊維2の長さL2を、繊維補強コンクリートの肉厚寸法L1の1.4倍よりも大きくしているので、複数の繊維2のうち、略半分が部材軸方向Dに対して45°以下の角度で配向する。これによって、繊維2が部材軸方向Dから45°以内の範囲に配向される確率を2分の1まで高めることができるので、維補強コンクリートの補強効率がより一層向上する。また、繊維2の長さL2は、80mm以下となっているので、繊維2が長すぎず適度な長さとなり、製造時に型枠等に引っかかるのを抑制できる。
【0015】
また、繊維補強コンクリート部材1を、中空の床材または壁材(本実施形態では床材)として利用することで、床材や壁材において薄板および軽量化を図ることができるとともに、大型のパネル材を形成することができる。
なお、本実施形態では、繊維補強コンクリート部材1を中空の床材として利用したが、これに限定されるものではない。例えば繊維補強コンクリート部材1を、ワッフル型に形成された超高強度繊維補強コンクリート床版または高強度繊維補強コンクリート床版として利用してもよい。ワッフル型の繊維補強コンクリート部材は、格子状のウエブ部と、ウエブ部の上端に設けられたフランジ部とを備えている。ウエブ部とフランジ部とで板状部が構成されている。板状部の肉厚寸法は、繊維の長さよりも小さい。さらに、繊維の長さは、前記実施形態と同様に、板状部の肉厚寸法の1.4倍よりも大きいものが好ましい。このような構成によれば、ワッフル型の超高強度繊維補強コンクリート床版または高強度繊維補強コンクリート床版においても、前記実施形態と同様の作用効果を得られ、床版の薄板および軽量化を図ることができるとともに、大型の床版を形成することができる。
【0016】
次に、
図4を参照しながら、本実施形態の変形例に係る繊維補強コンクリート部材について説明する。
図4の(a)は本発明の実施形態の変形例に係る繊維補強コンクリート部材を示した断面図、(b)は他の変形例を示した断面図である。
図4の(a)に示すように、変形例に係る繊維補強コンクリート部材1aは、ボイドスラブ等に用いられるものであって、前記実施形態の繊維補強コンクリート部材1に引張補強材15が追加されている。引張補強材15は、繊維補強プラスチックにて構成されており、板状部3に沿って互いに直交する二方向に沿って配置されている(
図4では、一方向に沿った引張補強材15のみ図示している)。引張補強材15は、中空部13に沿って延在している。引張補強材15は、ウエブ部11の上下に位置するフランジ部12,12内(ウエブ部11とフランジ部12との交点、)に配置されている。
このような繊維補強コンクリート部材1aによれば、補強性能がより一層向上する。さらに、ウエブ部11とフランジ部12との交点に引張補強材15を配置しているので、薄肉部材の中で引張補強材15のかぶりを確保することができる。
【0017】
図4の(b)に示すように、他の変形例に係る繊維補強コンクリート部材1bは、ウエブ部11bが
図4の(a)のウエブ部11bより厚く、引張補強材15が、ウエブ部11bの内側(ウエブ部11bの上端部と下端部)に配置されている。繊維2の長さは、ウエブ部11bの肉厚寸法を元に決められており、
図4の(a)の繊維2の長さよりも大きい。
このような繊維補強コンクリート部材1bによれば、補強性能がより一層向上する上に、ウエブ部11a内においてもかぶりを十分に確保することができる。
図4の繊維補強コンクリート部材1a,1bにおいては、繊維補強プラスチック製の引張補強材15を設けているがこれに限定されるものではない。引張補強材15に変えて鉄筋を用いてもよいし、鉄筋と繊維補強プラスチック製の引張補強材15とを組み合わせて用いてもよい。また、引張補強材15に変えてPC鋼線および繊維強化プラスチック製の緊張材を用いて、繊維補強コンクリート部材1aにプレストレスを導入してもよい。さらに、引張補強材と緊張材を組み合わせて用いてもよい。この場合、二方向のうち一方に沿って引張補強材を設け、他方に緊張材を設けるのがよい。これらの構成によっても、補強性能をより一層向上させることができる。
【0018】
次に、
図5を参照しながら、本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材の製造方法を説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材の製造方法で用いる型枠を示した斜視図である。
まず、かかる繊維補強コンクリート部材の製造方法に用いる型枠30は、矩形板状のコンクリート部材を形成するものであって、内側に仕切板31が挿入されている。仕切板31は、型枠30内に打設される繊維補強コンクリートの繊維の向きを規制するものである。仕切板31は間隔をあけて複数並設されている。隣り合う仕切板31の離間距離、および端部の仕切板31と型枠30の側壁30aとの離間距離は、コンクリートに混入される繊維の長さより短く、繊維の長さの0.71(1/1.4)倍より小さいことが好ましい。
仕切板31は、仕切部32と係止部33とを備えている。仕切部32は、型枠30の内部の断面と同形状の矩形板状を呈しており、型枠30の内部に挿入される。仕切板31は、型枠30の板厚方向(製造される繊維補強コンクリート部材の肉厚方向)に直交する向きに挿入される。仕切部32の下端部は、型枠30の底部に当接する。係止部33は、型枠30の上端部に配置され、仕切部32に連続して上方に広がっている。係止部33の両端部は、型枠30の外側に張り出しており、型枠30の端壁30bの上端に載置される。隣り合う係止部33の張り出し部分には、長尺ボルト34が挿通され、ナット35で係止部33を両側から挟持している。これにより、複数の仕切板31は、所定間隔で一体的に固定される。
【0019】
繊維補強コンクリート部材の製造方法は、型枠30を用いて、繊維を含有する繊維補強コンクリートにて構成された繊維補強コンクリート部材を製造する方法であって、工場と施工現場のいずれでも製造することができる。本実施形態では、所定厚さの板状の繊維補強コンクリートの部材を製造する。繊維補強コンクリート部材の製造方法は、仕切板一体化工程と、仕切板設置工程と、打設工程と、仕切板引抜工程とを備えている。
仕切板一体化工程は、複数の仕切板31を連結して一体化する工程である。仕切板一体化工程では、仕切板31の係止部33に長尺ボルト34を挿通し、長尺ボルト34の所定位置で仕切板31をナット35で挟持して固定する。長尺ボルト34とナット35は、スペーサの役目を果たし、仕切板31が繊維の長さの0.71倍のピッチで配置されている。
仕切板設置工程は、一体化された仕切板31を型枠30の内側に設置する工程である。仕切板設置工程では、仕切板31を型枠30の上方から吊り下げて、型枠30内に挿入する。このとき、隣り合う仕切板31同士を互いに平行にした状態で挿入する。
打設工程は、繊維を含有した繊維補強コンクリートを、型枠30内に打設する工程である。型枠30は、テーブルバイブレータ上にセットされており、テーブルバイブレータを作動させた状態でコンクリートを打設する。このとき、型枠30内は、仕切板31にて複数の薄板状空間に区画されているので、繊維が仕切板31に沿う方向に近くなる。したがって、繊維の配向性を制御することができる。具体的には、部材軸方向から45°以内の角度で傾斜する繊維が多くなる。
【0020】
仕切板引抜工程は、コンクリートが打設された型枠30内から仕切板31を引き抜く工程である。仕切板引抜工程では、テーブルバイブレータを作動させてコンクリートに振動を与えた状態で仕切板31を引き抜く。このとき、コンクリートが振動しているので、仕切板31を円滑に引き抜くことができる。よって、コンクリートが大きくかき混ぜられないので、配向方向が制御された繊維が大きく移動されない。よって、繊維の配向性を確保することができるので補強効率が向上する。
その後、一定時間、コンクリートを養生し、型枠30を解体することで、繊維補強コンクリート部材が完成する。
【0021】
前記製造方法にて製造した繊維補強コンクリート部材について試験を行った。繊維として「ベカルト社製のドラミックス(登録商標)5D 65/60(アスペクト比65、長さ60mm)」の鋼繊維を0.4体積%混入した繊維補強コンクリートの試験体を作成した。仕切板31の間隔は30mmである。この試験体と、繊維の配向制御を行わない従来構造の試験体とを用いて、圧縮強度35N/mm
2の圧縮試験を行い、引張軟化曲線を計測した。
図6は、従来の繊維補強コンクリート部材と本発明の実施形態に係る繊維補強コンクリート部材の引張軟化曲線を比較したグラフである。
図6において、前記製造方法にて製造し配向制御を行った繊維補強コンクリートでは、曲線R1に示すように、一度引張応力が低下した後に、再度上昇したときのピーク値は、2.22N/mm
2であった。これに対し、従来の繊維補強コンクリートでは、曲線R2に示すように、前記ピーク値は、1.90N/mm
2であった。なお、曲線R1,R2は、それぞれの試験体4体の平均曲線である。以上の結果より、本発明の繊維補強コンクリート部材の製造方法によれば、17%程度の補強性能の改善効果が得られることがわかった。
【0022】
本実施形態の繊維補強コンクリート部材の製造方法によれば、肉厚が大きい繊維補強コンクリート部材であっても、コンクリート内での繊維の配向性を制御することができるので、補強効率を向上させることができる。
【0023】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、型枠30内に仕切板31を設置して繊維の配向方向を規制したが、これに限定されるものではない。コンクリートを打設するためのポッパーやチューブの先端に仕切板を複数設けたスリットを取り付けて、コンクリートを打設してもよい。このような構成によれば、コンクリートが流れ込む際に、繊維の向きが規制されるので、スリットを設けずに打設する従来の方法よりも、配向性が制御される。
【符号の説明】
【0024】
1 繊維補強コンクリート部材
2 繊維
3 板状部
5 橋梁
11 ウエブ部
12 フランジ部
13 中空部
15 引張補強材
30 型枠
31 仕切板
L1 肉厚寸法
L2 繊維の長さ