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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】固形接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/10 20060101AFI20240905BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C09J133/10
C09J11/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021117281
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2023013252
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-147683(JP,A)
【文献】特開2019-218458(JP,A)
【文献】特開平7-305036(JP,A)
【文献】特開昭48-13432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/00-133/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性成分、ゲル化剤、及び水を含有する固形接着剤組成物であって、
前記接着性成分は、テトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aと、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位Bと、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位Cとを有するポリマーを含み、
前記ポリマーの質量を基準として、前記ポリマー中の前記構成単位Aの含有率が15~70質量%、前記構成単位Bの含有率が10~30質量%、かつ、前記構成単位Cの含有率が5~30質量%である、固形接着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリマーのバイオマス度は、40%以上である請求項1に記載の固形接着剤組成物。
【請求項3】
前記ポリマーの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が、10,000~50,000である請求項1又は2に記載の固形接着剤組成物。
【請求項4】
前記ポリマーの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が、1.1~1.6である請求項1~3のいずれか1項に記載の固形接着剤組成物。
【請求項5】
前記ポリマーは、前記ポリマーの質量を基準として、前記ポリマー中の前記構成単位A:15~70質量%、前記構成単位B:10~30質量%、前記構成単位C:5~30質量%、及び前記構成単位A~Cを形成する各モノマー以外のモノマーに由来する構成単位D:0~30質量%からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の固形接着剤組成物。
【請求項6】
前記炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートは、ラウリルメタクリレート及びステアリルメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の固形接着剤組成物。
【請求項7】
前記ゲル化剤は、脂肪酸アルカリ金属塩及び脂肪酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の固形接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紙と紙を接着させる手段として、従来から、澱粉を使用した糊や酢酸ビニルの乳化重合品のようないわゆる糊状の接着剤が使用されている。しかし、糊付での作業は手指を汚す作業である。この作業を改善するため、糊を合成樹脂製などのチューブに入れた物品も存在するが、この物品の使用に当たっては手指を汚す場合もあることから、依然として作業性の改善の余地が残されている。また、これらの物は、紙用途の接着剤としては、乾燥後の接着力は充分であるが、乾燥前の粘着力は不十分である。合成ゴムを溶剤に溶かした接着剤は、乾燥前の接着力は良好であるが手指を汚すし、溶剤を使用しているため家庭や事務所での使用は敬遠される。
【0003】
作業性を改良した物に、接着剤を棒状に成型して使用される、いわゆるスティック糊などの固形接着剤がある。固形接着剤は、手指を汚すことなく糊付けができる。そして、この固形接着剤に要求される性質としては、棒状に成型できることや、棒状の接着剤を塗布するに当たって、滑らかに、均一に、塗布圧が一定に塗布できること、壊れにくいことなどが挙げられる。しかし、現行の固形接着剤においては接着力をさらに向上させることが求められており、塗布性も満足すべきものとは言い難かった。
【0004】
上述のような固形接着剤に関し、これまでにも、初期接着性と塗布性を改善することを目的とした固形接着剤が提案されている。例えば、特許文献1には、水と接着性成分とゲル化剤とからなり、接着性成分が、15~70%の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、3~30%の(メタ)アクリル酸及び残余量のこれらの単量体以外の単量体からなる付加重合体である固形接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-147683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の固形接着剤は、主に石油由来のポリマーが使用されている。昨今の環境問題への対応として、二酸化炭素削減、カーボンニュートラルが提言されており、脱炭素社会が求められている現在において、生物由来の有機性資源であるバイオマスの活用が望まれている。固形接着剤に関しても、バイオマス由来の材料を使用した接着剤が求められるが、接着性が不十分である場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、初期接着性が良好であり、かつ、バイオマス由来の材料を使用することでさらに環境に優しくカーボンリサイクルに貢献しうる固形接着剤組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、接着性成分、ゲル化剤、及び水を含有する固形接着剤組成物であって、前記接着性成分は、テトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aと、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位Bと、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位Cとを有するポリマーを含み、前記ポリマーの質量を基準として、前記ポリマー中の前記構成単位Aの含有率が15~70質量%、前記構成単位Bの含有率が10~30質量%、かつ、前記構成単位Cの含有率が5~30質量%である、固形接着剤組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、初期接着性が良好であり、かつ、バイオマス由来の材料を使用することでさらに環境に優しくカーボンリサイクルに貢献しうる固形接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の一実施形態の固形接着剤組成物(以下、単に「固形接着剤組成物」と記載することがある。)は、接着性成分、ゲル化剤、及び水を含有する。固形接着剤組成物は、常温(5~35℃)の範囲内において、固形の形態をとり得る接着剤組成物であり、常温の範囲内のいずれかで固形の形態をとることが可能であればよい。固形接着剤組成物は、その一態様において、好ましくは50℃以下、より好ましくは60℃以下において、固形の形態をとることができる。
【0012】
固形接着剤組成物における接着性成分は、以下の特定のポリマーを含む。そのポリマーは、テトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aと、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位Bと、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位Cとを有する。また、そのポリマーは、そのポリマーの質量を基準として、ポリマー中の上記構成単位Aの含有率が15~70質量%、上記構成単位Bの含有率が10~30質量%、かつ、上記構成単位Cの含有率が5~30質量%である。以下、上記特定のポリマーについて、固形接着剤組成物に含有されてもよい他の高分子材料と区別するために、「ポリマーP」と表記することがある。
【0013】
ポリマーPが有する各構成単位の含有率は、ポリマーPを形成する全モノマーの総質量に対する各構成単位を形成するモノマーの使用量の割合に基づいて算出される値をとることができる。したがって、ポリマーPは、テトラヒドロフルフリルメタクリレートを15~70質量%、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを10~30質量%、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を5~30質量%含有するモノマー成分が重合した共重合体ともいえる。
【0014】
ポリマーPを形成するモノマーとして、バイオマス由来のモノマーを使用する。そのバイオマス由来のモノマーとして、テトラヒドロフルフリルメタクリレートを用いる。すなわち、ポリマーPは、テトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aを含む。テトラヒドロフルフリルメタクリレートは、例えばトウモロコシの芯(穂軸)、オート麦の籾殻、及びサトウキビのバガスなどのバイオマスから得られるフルフラールを水素化反応により水素還元して得られるテトラヒドロフルフリルアルコールのメタクリレートである。このようにテトラヒドロフルフリルメタクリレートは、バイオマス由来のアルコールであるテトラヒドロフルフリルアルコールとメタクリル酸とを反応させて得られるエステル化物であることから、バイオマス由来のメタクリレートである。
【0015】
ここで、バイオマスとは、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」である。動植物などの生物から生じたバイオマスは、その出発原料が動植物などの生物として特定できる材料(生物由来材料)であることから、石油から得られる材料(石油由来材料)と区別することができる。具体的には、石油由来材料は、炭素の放射性同位体である炭素14(C14;放射性炭素)を含有しないのに対して、生物由来材料は、C14を含有していることで、生物由来と特定することができる。植物は光合成によって大気中の放射性炭素を含んだ二酸化炭素を取り込み、動物も食物連鎖によって放射性炭素を取り込むことから、動植物などの生物はC14を含有することとなる。
【0016】
そこで、モノマーのC14を測定することで、モノマーが石油由来材料か生物由来材料かを区別することができる。モノマーがC14を含有することで生物由来材料と特定された場合、当該モノマーは、バイオマスから得られた材料、すなわち、バイオマス由来の材料であると判断することができる。C14の測定方法としては、放射性炭素分析である放射性炭素年代測定であり、ベータ線計測法、加速器質量分析(AMS)法などがある。特に環境材料としては、バイオベース濃度試験規格ASTM D6866、ヨーロッパ規格CEN16137、ISO国際標準規格ISO16620-2として、規定もされている。
【0017】
ポリマーPを形成するモノマーについて、上述のような測定方法によりC14の含有量を調べることで生物由来材料であること、すなわち、バイオマス由来のモノマーであることを確認できる。同様に、ポリマーPについて、バイオマス由来のモノマーに由来する構成単位を含むこと、すなわち、バイオマス由来のモノマーが原料として使用されたポリマー(バイオマス由来のポリマー)であることを検証することができる。なお、ポリマーPや、それを構成するモノマーについて、バイオマス由来の材料であることが明確であれば、上述のような測定をしなくてもよい。
【0018】
バイオマスを表す指標として、バイオマス度がある。モノマーのバイオマス度については、そのモノマーの全炭素原子数に対する、生物由来の基(例えばアルコール残基など)の炭素原子数の割合にて、当該モノマーの生物由来の割合を算出できる。上述の通り、生物由来の炭素は、C14を含み、モノマーの全炭素原子数に対する、生物由来の基の炭素原子数の割合から算出できるものであって、バイオマス度やバイオ原料比率として知られる。テトラヒドロフルフリルメタクリレートのバイオマス度は、テトラヒドロフルフリルメタクリレートの全炭素原子数が9であり、そのうち、テトラヒドロフルフリル基が生物由来であるフルフラール由来の基でその炭素原子数は5であることから、バイオマス度は5÷9×100≒55.5%となる。
【0019】
上述の通り、テトラヒドロフルフリルメタクリレートは、バイオマス由来のモノマーであることから、接着性成分であるポリマーPは、テトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aとしてのバイオマス由来の構成単位を含む。このポリマーP中の構成単位Aは、テトラヒドロフルフリル基の構造から、環状であることによる高いガラス転移温度Tg(テトラヒドロフルフリルメタクリレートのホモポリマーのTg=60℃)とその環状のエーテル基による水素結合などによって、高接着性として作用しうる。
【0020】
ポリマーP中のテトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aの含有率は、ポリマーPの質量を基準として、15~70質量%である。ポリマー中の構成単位Aの含有率が15質量%未満であると、接着性が不足する場合がある。一方、ポリマー中の構成単位Aの含有率が70質量%を超えると、ポリマー中の他の構成単位が相対的に少なくなり、ポリマー自体が水に不溶であったり、固くなりすぎてしまったりして、十分な接着性が発現しない場合がある。こうした接着性の観点から、ポリマーP中の構成単位Aの含有率は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、また、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
ポリマーPは、構成単位Aとともに、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(以下、単に「アルキルメタクリレート」と記載することがある。)に由来する構成単位Bを含む。このアルキルメタクリレートは、構成単位BとしてポリマーPの一部を構成することで、ポリマーPを軟質化し、Tgを下げる働きをし、接着性、塗布性、及び乾燥性を相乗させる作用を期待できる。
【0022】
アルキルメタクリレートにおける炭素原子数8~22のアルキル基は、鎖状アルキル基であり、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでもよい。炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートの好適な具体例としては、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート(別名:ラウリルメタクリレート)、テトラデシルメタクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート(別名:ステアリルメタクリレート)、及びベヘニルメタクリレートなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのモノマーとしては、バイオマス由来の原料を用いて得られる、バイオマス由来のメタクリレートを用いることも可能である。具体的には、パーム油やヤシ油などから得られる、オクタノール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどを用いて得られるメタクリレートを用いることが好ましい。構成単位Bを形成するアルキルメタクリレートにもバイオマス由来のメタクリレートを用いることで、ポリマーPをより環境に配慮した接着性成分とすることができる。
【0023】
炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートのなかでも、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、及びステアリルメタクリレートのうちの1種又は2種以上がより好ましい。さらには、上記アルキルメタクリレートは、ラウリルメタクリレート及びステアリルメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらのアルキルメタクリレートのバイオマス度についても、上述したテトラヒドロフルフリルメタクリレートのバイオマス度と同様に算出すると、次のようになる。すなわち、アルキルメタクリレートのバイオマス度は、オクチルメタクリレートでは8÷12×100≒66.6%、ラウリルメタクリレートでは12÷16×100=75%、ステアリルメタクリレートでは18÷22×100≒81.8%などと算出できる。
【0024】
ポリマーP中の炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位Bの含有率は、ポリマーPの質量を基準として、10~30質量%である。ポリマー中の構成単位Bの含有率が10質量%未満であると、得られるポリマーが硬質であり、十分な接着性が発現しない場合がある。一方、ポリマー中の構成単位Bの含有率が30質量%を超えると、得られるポリマーが軟質過ぎてしまい、簡単に剥離してしまう場合がある。こうした接着性の観点から、ポリマーP中の構成単位Bの含有率は、12質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、また、25質量%以下であることが好ましい。
【0025】
上述の通り、ポリマーPには、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートの1種又は2種以上が用いられていてもよいことから、ポリマーPは、構成単位Bに該当する構成単位の1種又は2種以上を含むことができる。当該アルキルメタクリレートが2種以上用いられる場合、ポリマーP中の構成単位Bの含有率は、当該2種以上のアルキルメタクリレートに由来する各構成単位の含有率の合計を意味する。
【0026】
ポリマーPは、上述した構成単位A及びBとともに、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「酸モノマー」と記載することがある。)に由来する構成単位Cを含む。この構成単位Cを形成する酸モノマーは、酸性成分であり、それらに含まれる酸性基、すなわち、カルボキシ基を構成単位Cに含ませることができる。構成単位Cにおけるカルボキシ基の全部又は一部をアルカリで中和することによって、ポリマーPを水溶性とし、当該水溶性のポリマーPを含有する水性固形接着剤組成物として水に使用することができ、また、固形接着剤組成物のpHを調整することもできる。さらに、カルボキシ基の作用によって、基材との密着性、接着性を向上させる働きをする。
【0027】
上記のアルカリとしては、従来公知の塩基性化合物を使用することができ、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムなどを挙げることができる。アルカリの1種又は2種以上を用いることができる。それらのなかでも、常温で乾燥することで、カルボキシ基を中和しているアルカリが脱離して、耐水性を向上させることができるため、アンモニアが好ましい。また、そのアルカリで中和させるカルボキシ基は、当モル量でもよいが、水に溶解させる分だけを中和させることもできる。その中和度はポリマーPに含まれるカルボキシ基の量に応じて適宜決定することができ、特に限定されない。
【0028】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との文言は、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。ポリマーPには、構成単位Cを形成するモノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、及びイタコン酸のうちの少なくとも1種の酸モノマーを用いうることから、ポリマーPは、構成単位Cに該当する構成単位の少なくとも1種を含むことができる。アクリル酸及びメタクリル酸は、通常、石油由来のモノマーである。一方、イタコン酸は、バイオマスを原料として発酵などで得られることからバイオマス由来のモノマーである。そのため、バイオマス由来のモノマーを用いることで、ポリマーPをより環境に配慮した接着性成分とすることができる点からは、酸モノマーとして、イタコン酸が好ましい。
【0029】
ポリマーP中の(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位Cの含有率は、ポリマーPの質量を基準として、5~30質量%である。上記特定の酸モノマーの2種以上が用いられる場合、ポリマーP中の構成単位Cの含有率は、当該2種以上の酸モノマーに由来する各構成単位の含有率の合計を意味する。ポリマー中の構成単位Cの含有率が5質量%未満であると、得られるポリマーをアルカリで中和しても水に不溶の場合がある。一方、ポリマー中の構成単位Cの含有率が30質量%を超えると、ポリマーを中和して得られるポリマー水溶液の粘度が高くなり過ぎる場合がある。ポリマーPの水溶性、及びポリマー水溶液の粘度を適度にする観点から、ポリマーP中の構成単位Cの含有率は、7質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
ポリマーPは、上述した構成単位A~Cとともに、構成単位A~Cを形成する各モノマー以外のモノマー(以下、「他のモノマー」と記載することある。)に由来する構成単位Dを含んでいてもよい。したがって、ポリマーPは、その一態様において、ポリマーPの質量を基準として、ポリマーP中の構成単位A:15~70質量%、構成単位B:10~30質量%、構成単位C:5~30質量%、並びに構成単位A~Cを形成する各モノマー以外のモノマーに由来する構成単位D:0~30質量%からなることが好ましい。換言すると、ポリマーPは、ポリマーPを形成するモノマー成分の全質量を基準として、テトラヒドロフルフリルメタクリレート:15~70質量%、上記特定のアルキルメタクリレート:10~30質量%、上記特定の酸モノマー:5~30質量%、並びに他のモノマー:0~30質量%からなるモノマー成分が重合した共重合体であることが好ましい。
【0031】
他のモノマーは、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、及びイタコン酸以外であって、それらとラジカル重合により共重合可能な重合性のモノマーである。他のモノマーは、構成単位A~Cを形成する各モノマーと共重合可能であれば特に限定されない。他のモノマーとしては、例えば、スチレン、及びビニルトルエンなどのビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレートの場合のメチルのように、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、t-ブチルシクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチル、グリシジル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリジメチルシロキサンなどの置換基を有する単官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。他のモノマーの1種又は2種以上を用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との文言は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。
【0032】
ポリマーP中の他のモノマーに由来する構成単位Dの含有率は、ポリマーPの質量を基準として、0~30質量%であることが好ましい。他のモノマーの2種以上が用いられる場合、ポリマーP中の構成単位Dの含有率は、当該2種以上の他のモノマーに由来する各構成単位の含有率の合計を意味する。ポリマーP中の構成単位Dの含有率は、構成単位A~Cの合計の含有率を高める観点から、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。他のモノマーを用いる場合、ポリマーP中の構成単位Dの含有率は、好ましく1質量%以上、より好ましくは5質量%以上とすることができる。
【0033】
一方、前述した構成単位A~Cの合計の含有率は、ポリマーPの質量を基準として、70質量%以上(70~100質量%)であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、構成単位Aを与えるテトラヒドロフルフリルメタクリレート、構成単位Bを与える好ましいアルキルメタクリレート、及び構成単位Cを与えるイタコン酸などのバイオマス由来のモノマーに由来する構成単位の合計の含有率は、ポリマーPの質量を基準として、65質量%以上(65~100質量%)であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。
【0034】
ポリマーPのバイオマス度についても、前述したテトラヒドロフルフリルメタクリレート、及び炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートの説明で述べた炭素原子数によるバイオマス度と同様に、求めることができる。具体的には、ポリマーPのバイオマス度は、後記実施例で述べる通り、ポリマーPを構成する各モノマーのモル数(モル比)における全炭素数及びバイオマス由来の炭素数に基づいて、算出することができる。ポリマーPのバイオマス度は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。
【0035】
ポリマーPの分子量は、固形接着剤組成物が用いられる対象及び用途、並びに固形接着剤組成物の粘性及び塗布性に応じて、適宜調整することができる。例えば、比較的低分子量のポリマーPとすれば、低粘度で速乾性の接着性成分としやすく、比較的高分子量のポリマーPとすれば、接着強度をより高めやすくなる。接着強度、並びに粘性及び塗布性のバランスを良好にしやすい観点から、ポリマーPの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(以下、「Mn」と表記する場合がある。)は、10,000~50,000であることが好ましい。接着強度を高めやすいことから、ポリマーPのMnは、12,000以上であることがより好ましく、15,000以上であることがさらに好ましい。一方、粘性を適度に抑えて、塗布性を高めやすいことから、ポリマーPのMnは、40,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また、ポリマーPの、GPCにより測定されるポリスチレン換算の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量;以下、「PDI」と記載することがある。)は、1.1~1.6であることが好ましい。このようにポリマーPの分子量分布が狭く、分子量が揃っていることにより、接着性や乾燥性をより均一にしやすく、接着性能をより良好にさせやすくなる。この観点から、ポリマーPのPDIは、1.5以下であることがより好ましく、1.4以下であることがさらに好ましい。一方、ポリマーPの製造上の観点から、ポリマーPのPDIは、1.1以上でよく、1.2以上でもよい。
【0037】
本明細書において、ポリマーPのGPCにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量、及び分子量分布は、後述する実施例で採られた以下に示す測定条件にて測定された値をとることができる。
装置:製品名「Shodex GPC104」(昭和電工株式会社製)
カラム:製品名「Shodex GPC LF-404」×2本(昭和電工株式会社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.3mL/min
温度:40℃
検出方法:示差屈折計による屈折率の差を検出
【0038】
ポリマーPは、上述したモノマー成分を重合させることで得ることができる。重合方法としては、溶液重合、乳化重合、及び懸濁重合などを挙げることができる。これらのなかでも、溶液重合が好ましい。溶液重合では、重合開始剤の存在下、溶媒中で上述したモノマー成分を重合させる。重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤や過酸化ベンゾイルなどの過酸化物などの公知の重合開始剤を用いることができる。
【0039】
溶液重合に用いる溶媒としては、水溶性有機溶剤、及び水不溶性有機溶剤を用いることができる。溶媒として水不溶性有機溶剤を用いる場合、ポリマーの合成後、溶液からポリマーを取り出して、上述したアルカリを用いた中和により水溶液化する工程を行い、水溶液化したポリマー溶液を得ることができる。一方、合成後の溶液からポリマーを取り出すことを要せずに、合成後の溶液に上述したアルカリを添加して中和することにより水溶液化したポリマー溶液が得られる点で製造コストを抑えられることから、溶媒として水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。また、溶媒として水溶性有機溶剤を用いる場合、その水溶性有機溶剤を固形接着剤組成物の成分として使用することができ、その固形接着剤組成物の乾燥性、塗布性、及び紙に塗布した場合の耐シワ性などの効果を発揮することが期待できる。上記の水溶液化したポリマー溶液の25℃でのpHは、6.0~11.0であることが好ましく、6.5~11.0であることがより好ましく、7.0~9.5であることがさらに好ましい。
【0040】
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、揮発性のある水溶性有機溶剤が好ましく、また、人体や環境に対して負荷の小さい水溶性有機溶剤が好ましい。好ましい水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、及びグリセリンなどを挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることがより好ましい。
【0041】
また、上述した分子量分布が狭いポリマーPを合成することが可能であることから、リビングラジカル重合により、ポリマーPを合成することがより好ましい。リビングラジカル重合には、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP法)、ニトロキサイドを介したラジカル重合(NMP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT法)、有機テルル系リビングラジカル重合(TERP法)、可逆的移動触媒重合(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合(RCMP法)などがある。それらのなかでも、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ素化合物を開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法がさらに好ましい。当該RTCP法やRCMP法は、重金属や特殊な化合物を使用しない方法であることから、コスト面で有利であるとともに、精製や処理の簡便さの面でも有利であり、すなわち、省資源、省エネルギーであり、環境に優しいリビングラジカル重合である。
【0042】
以上に述べたポリマーPが、固形接着剤組成物の接着性成分として十分に機能するように、ポリマーPの含有量は、固形接着剤組成物の固形分の質量を基準として、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることがさらに好ましい。固形接着剤組成物の固形分(不揮発分)は、当該固形接着剤組成物に含有されているポリマーPを含む接着性成分、及びゲル化剤などの固形分の総含有量である。固形接着剤組成物の全質量から、固形接着剤組成物中の水や任意に含有されうる水溶性有機溶剤などの液分(揮発分)の質量を除くことで、固形接着剤組成物の固形分の質量を求めることもできる。
【0043】
固形接着剤組成物は、ポリマーPとともに、ポリマーP以外の接着性成分をさらに含有することが好ましい。ポリマーP以外の接着性成分としては、例えば、デンプン、ゼラチン、コーンスターチ、及びセルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなど)などの天然由来材料、並びにポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸などの石油由来材料などを挙げることができる。接着性成分として必須のポリマーPがバイオマス由来のポリマーであることから、これと併用する接着性成分は、デンプン、ゼラチン、コーンスターチ、及びセルロース誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0044】
固形接着剤組成物中のポリマーP以外の接着性成分の含有量は、固形接着剤組成物の固形分の質量を基準として、40~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましく、60~85質量%であることがさらに好ましい。また、固形接着剤組成物中の接着性成分の含有量は、固形接着剤組成物の全質量を基準として、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
固形接着剤組成物は、上述したポリマーPを含む接着性成分とともに、ゲル化剤を含有する。ゲル化剤としては、例えば、ベンズアルデヒド縮合系化合物、ラウロイルグルタミン酸ブチルアミド、デキストリン、デキストリン脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、有機ベントナイト、シリカ、クレー、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、脂肪酸アルカリ金属塩、及び脂肪酸アンモニウム塩などを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、脂肪酸アルカリ金属塩及び脂肪酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。なかでも、ゲル化効率がよく、水溶性であり、また、パーム油などの分解物であるバイオマス由来のアルカン酸から得られることから、炭素原子数8~36の脂肪酸のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩がより好ましい。それらの具体例としては、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸アンモニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸アンモニウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸アンモニウム、ベヘン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0046】
固形接着剤組成物中のゲル化剤の含有量は、固形接着剤組成物の固形分の質量を基準として、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~18質量%であることがより好ましく、1~15質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
固形接着剤組成物は、水を含有する。また、固形接着剤組成物は、水とともに、前述した水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。水溶性有機溶剤は、前述の通り、ポリマーPの合成に使用されたことで、固形接着剤組成物に配合されるポリマー溶液に含有されている形態で固形接着剤組成物の成分として使用されてもよいし、上記ポリマー溶液とは別に固形接着剤組成物に配合されてもよい。水及び任意成分である水溶性有機溶剤を含めた液状媒体の含有量(水及び水溶性有機溶剤の合計の含有量)は、固形接着剤組成物の全質量を基準として、40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。
【0048】
固形接着剤組成物は、前述の接着性成分、ゲル化剤、及び水のほか、添加剤の1種又は2種以上を含有してもよい。添加剤としては、例えば、湿潤剤、老化防止剤、染料などの着色剤、pH指示薬、香料、防カビ剤、防腐剤、可塑剤、増粘剤、蛍光漂白剤、蛍光色素、紫外線吸収剤、紫外線発色剤、及び酸化防止剤などを挙げることができる。
【0049】
固形接着剤組成物の用途は、特に限定されない。固形接着剤組成物を塗布する対象としては、例えば、普通紙、写真紙、及びインクジェット紙などの紙類、並びに木材、及び布地などを挙げることができる。それらの接着に固形接着剤組成物を好適に用いることができる。
【0050】
以上詳述した固形接着剤組成物は、接着性成分として、上記特定のポリマーPを含有するため、固形接着剤組成物を対象物に塗布後、貼り合わせてすぐの接着性、すなわち、初期接着性が良好であり、また、塗布性及び接着力の性能も良好とすることができる。よって、固形接着剤組成物を、家庭やオフィス、学校などにおいて糊や接着剤として好適に使用することができる。また、上記特定のポリマーPは、テトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aを15~70質量%含むことから、本実施形態の固形接着剤組成物は、バイオマス由来の材料が使用されていることで環境に優しく、昨今の環境問題として、二酸化炭素削減、カーボンニュートラル、カーボリサイクルに貢献しうる。
【0051】
なお、上述した通り、本発明の一実施形態の固形接着剤組成物は、以下の構成をとり得る。
[1]接着性成分、ゲル化剤、及び水を含有する固形接着剤組成物であって、
前記接着性成分は、テトラヒドロフルフリルメタクリレートに由来する構成単位Aと、炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位Bと、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位Cとを有するポリマーを含み、
前記ポリマーの質量を基準として、前記ポリマー中の前記構成単位Aの含有率が15~70質量%、前記構成単位Bの含有率が10~30質量%、かつ、前記構成単位Cの含有率が5~30質量%である、固形接着剤組成物。
[2]前記ポリマーのバイオマス度は、40%以上である上記[1]に記載の固形接着剤組成物。
[3]前記ポリマーの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が、10,000~50,000である上記[1]又は[2]に記載の固形接着剤組成物。
[4]前記ポリマーの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が、1.1~1.6である上記[1]~[3]のいずれかに記載の固形接着剤組成物。
[5]前記ポリマーは、前記ポリマーの質量を基準として、前記ポリマー中の前記構成単位A:15~70質量%、前記構成単位B:10~30質量%、前記構成単位C:5~30質量%、及び前記構成単位A~Cを形成する各モノマー以外のモノマーに由来する構成単位D:0~30質量%からなる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の固形接着剤組成物。
[6]前記炭素原子数8~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートは、ラウリルメタクリレート及びステアリルメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[5]のいずれかに記載の固形接着剤組成物。
[7]前記ゲル化剤は、脂肪酸アルカリ金属塩及び脂肪酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[6]のいずれかに記載の固形接着剤組成物。
【実施例
【0052】
以下、本発明の一実施形態の固形接着剤組成物について、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<合成例1>
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置、及び窒素導入管を付けた容量1Lのセパラブルフラスコに、窒素をバブリングしながら、エタノール50質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、MPG)50質量部を仕込んで70℃に加温した。
一方、別容器にテトラヒドロフルフリルメタクリレート(以下、THFMA)70質量部、ステアリルメタクリレート(以下、StMA)20質量部、メタクリル酸(以下、MAA;石油由来)10質量部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-65」、富士フイルム和光純薬株式会社製;以下、V-65)0.67質量部を均一化してモノマー混合液を調製した。使用したTHFMAは、トウモロコシの芯(穂軸)などから得られたフルフラールを水素化して得られたテトラヒドロフルフリルアルコールとメタクリル酸とのエステル化物であって、生物材料由来(バイオマス由来)のアルコールのメタクリレートであり、そのバイオマス度は55.5%である。また、使用したStMAは、パーム核油やヤシ油などの油脂を加水分解して得られた脂肪酸を分留してステアリン酸を分取し、水素還元して得られたステアリルアルコールとメタクリル酸とのエステル化物であって、生物材料由来(バイオマス由来)のアルコールのメタクリレートであり、そのバイオマス度は81.8%である。
【0054】
調製したモノマー混合液を滴下装置に装填し、モノマー混合液の1/3(質量比)をセパラブルフラスコ内の溶液に2時間かけて滴下し、70℃で8時間重合させた。その重合後、得られたポリマーの一部をサンプリングしてGPCで分子量を測定したところ、Mnが27,000、PDIが3.49であった。
【0055】
次いで、合成後の溶液に、28質量%アンモニア水7.7質量部、及び水42.3質量部の混合物を添加して、ポリマーを水溶液化し、淡黄色透明のポリマー溶液を得た。このポリマー溶液の固形分は40.3質量%、25℃でのpHは9.4であった。得られたポリマーを、ポリマーP1と称する。このポリマーP1中のバイオマス由来のモノマーは、THFMAとStMAであり、それらのバイオマス由来のモノマーに由来する構成単位の合計の含有率は、ポリマーの質量を基準として、90質量%である。また、このポリマーP1のバイオマス度は、57.0%である。
【0056】
<合成例2~5>
合成例2~5では、合成例1において使用したモノマーの種類及び量、並びに重合開始剤の量を表1に示す通りに変更したこと以外は、合成例1と同様の操作にて、それぞれポリマーP2~P5を合成した。
【0057】
以上の合成例1~5においてポリマーの合成に使用した原料の種類及び使用量を表1に示す。表1には、合成したポリマーP1~P5のMn、PDI、及びバイオマス度、並びに得られたポリマー溶液の25℃でのpHも示した。なお、表1中のLMAは、ラウリルメタクリレートを表す。このLMAは、パーム核油やヤシ油などの油脂を加水分解して得られた脂肪酸を分留してラウリン酸を分取し、水素還元して得られたラウリルアルコールとメタクリル酸とのエステル化物であって、生物材料由来(バイオマス由来)のアルコールのメタクリレートであり、そのバイオマス度は75.0%である。また、表1中のHEMAは、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(石油由来のモノマー)を表す。合成例3及び5で使用されたイタコン酸は、バイオマス由来のモノマーである。
【0058】
ポリマーのバイオマス度は、次のように求めた。まず、ポリマーを形成する各モノマーの使用量(配合比)及び分子量から、使用された各モノマーのモル数(モル比)を算出する。その各モノマーについてのモル数及び全炭素原子数から、ポリマーの合成に使用された全炭素数を、ポリマーに含まれる炭素数として算出する。次いで、各モノマーについてのモル数及びバイオマス由来の炭素原子数から、ポリマーの合成に使用されたバイオマス由来の炭素数を、ポリマーに含まれるバイオマス由来の炭素数として算出する。そして、上記のポリマーに含まれるバイオマス由来の炭素数を、上記のポリマーに含まれる全炭素数で割った値を、ポリマーのバイオマス度として算出する。例えば、合成例1のポリマーP1では、そのポリマーP1を形成するモノマーの総量100質量部(100gと仮定)中に、THFMA(分子量170.21;全炭素原子9個、うちバイオマス由来の炭素原子5個)は約0.411mol、StMA(分子量338.57;全炭素原子22個、うちバイオマス由来の炭素原子18個)は約0.059mol、MAA(分子量86.09;全炭素原子4個、うちバイオマス由来の炭素原子0個)は約0.116mol使用された。そのことから、ポリマーに含まれる全炭素数は、9×0.411+22×0.059+4×0.116≒5.46個である。また、ポリマーに含まれるバイオマス由来の炭素数は、5×0.411+18×0.059+0×0.116≒3.11個である。これらから、ポリマーP1のバイオマス度は、3.11÷5.46×100≒57.0%と算出した。
【0059】
【0060】
<合成例6>
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置、及び窒素導入管を付けた容量1Lのセパラブルフラスコに、エタノールを59.5質量部、MPGを119.0質量部、ヨウ素を0.5質量部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フイルム和光純薬株式会社製;以下、V-70)を1.8質量部、THFMAを57.1質量部、StMAを24.0質量部、HEMAを27.1質量部、MAAを10.8質量部、N-アイオドスクシンイミド(以下、NIS)を0.01質量部仕込み、窒素を流しながら42℃に加温した。その温度で10時間重合させた。その重合後、得られたポリマーの一部をサンプリングして測定したところ、重合率はほぼ100%であり、また、GPCで分子量を測定したところ、Mnが19,200、PDIが1.36であった。
【0061】
次いで、合成後の溶液に、28質量%アンモニア水3.8質量部、及び水115.5質量部の混合物を添加して、ポリマーを水溶液化し、淡黄色透明の低粘度ポリマー溶液を得た。このポリマー溶液の固形分は28.6質量%であり、25℃でのpHは6.9であった。得られたポリマーを、ポリマーP6と称する。このポリマーP6は、上記のヨウ素及びV-70とから得られるヨウ化物を重合開始化合物とし、触媒としてN-アイオドスクシンイミド(有機ヨウ素化合物)を使用する、ヨウ素原子を開始化合物から引き抜きラジカルを生成する有機化合物を触媒とするリビングラジカル重合(可逆的移動触媒重合;RTCP法)であり、分子量が比較的そろったポリマーである。
【0062】
また、合成例6で得られたポリマーP6は、ポリマーP6の質量を基準として、THFMAに由来する構成単位を48.0質量%、StMAに由来する構成単位を20.1質量%、HEMAに由来する構成単位を22.7質量%、及びMAAに由来する構成単位を9.2質量%含む。これらの構成モノマーのうち、バイオマス由来のモノマーは、THFMAとStMAであり、このポリマーP6のバイオマス度は、46.5%である。
【0063】
<参考合成例1>
参考合成例1では、合成例1において使用したモノマーを、以下に述べるように、全て石油由来のモノマーに変更したこと以外は、合成例1と同様にして、参考ポリマーRP1を得た。参考ポリマーRP1の合成に使用したモノマーは、メチルメタクリレート20質量部、2-エチルヘキシルメタクリレート40質量部、HEMA30質量部、及びMAA10質量部である。参考ポリマーRP1のMnは25,000、PDIは2.31であった。また、28質量%アンモニア水で中和して水溶液化して得られたポリマー溶液の固形分は40.3質量%、25℃でのpHは9.6であった。
【0064】
<実施例1>
撹拌機を備えた三ツ口フラスコに水40質量部、湿潤剤として3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール10質量部及びエチレングリコール15質量部、ミリスチレン酸ナトリウム5質量部、デンプン25質量部を還流下に80~90℃で撹拌溶解した。この溶液に、合成例1で得たポリマーP1溶液(固形分40.3質量%)を15質量部(固形分で約6質量部)添加して撹拌すると、系全体が流動性のある透明のゾル状態となった。この透明な液体を室温(25℃)まで冷却して固形接着剤が得られた。これを固形接着剤G1とする。
【0065】
<実施例2~6>
実施例2~6では、実施例1で使用したポリマーP1溶液を、それぞれ、合成例2~6で得たポリマーP2~P6溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、固形接着剤G2~G6を得た。
【0066】
<参考例1>
参考例1では、実施例1で使用したポリマーP1溶液を、参考合成例1で得た参考ポリマーRP1に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、参考固形接着剤RG1を得た。
【0067】
<比較例1>
比較例1では、実施例1におけるポリマーP1溶液を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較固形接着剤CG1を得た。
【0068】
<初期接着性の評価>
実施例1~6で得た固形接着剤G1~G6、参考例1で得た参考固形接着剤RG1、及び比較例1で得た比較固形接着剤CG1を用いて、初期接着性の評価を行った。具体的には、25℃において、固形接着剤を、1cm×5cmの短冊状に切った1枚の試験紙(普通紙;商品名「4024ペーパー」、ゼロックス社製、216mm×279mm、75g/m)に塗布し、もう1枚の同様の試験紙に貼り付け、その貼り付けた2枚の試験紙を互いに反対方向へ引き剥がす試験を行った。そして、その貼り付いた試験紙が破れるに至るまでの接着に要する時間を調べた。例えば、実施例1の場合、貼り付けてから30秒後では、試験紙はそのまま剥がれたが、貼り付けてから1分後には試験紙が接着しており、試験紙が破れた。数値が小さいほど初期接着性が良いことを表す。結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
表2の結果から明らかなように、実施例1~6の固形接着剤G1~G6は、従来から使用されている石油由来の参考ポリマーRP1を配合した参考固形接着剤RG1と同等の初期接着性、さらには紙が破損することから強力な接着力を有していることが認められた。また、実施例1~6の固形接着剤G1~G6において、接着性成分の1種として配合したポリマーP1~P6は、バイオマス由来のモノマーが使用されたバイオマス由来のポリマーである。そのため、初期接着性が良好であり、かつ、バイオマス由来の材料を使用することで環境に優しくカーボンリサイクルに貢献しうる固形接着剤組成物を提供できることが認められた。さらに、実施例6の固形接着剤G6の接着性成分として使用されたポリマーP6は、その分子量分布が狭いことから、低分子量物の量が抑えられているために、塗布後の乾燥性が良好であった。