(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】焼結磁石の製造方法及び焼結磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240905BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240905BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
H01F7/02 E
(21)【出願番号】P 2021117428
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】595181210
【氏名又は名称】株式会社ダイドー電子
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 通秀
(72)【発明者】
【氏名】板谷 修
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-109004(JP,A)
【文献】特開2016-032026(JP,A)
【文献】特開昭59-019303(JP,A)
【文献】特開2005-251772(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104788(WO,A1)
【文献】特開2006-238565(JP,A)
【文献】特開2008-130781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/032-1/117、7/02、41/02
H02K 15/03
B22F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のキャビティを有する金型のキャビティに、第1原料磁性粉末から成る第1原料磁性粉末層と該第1原料磁性粉末とは異なる第2原料磁性粉末から成る第2原料磁性粉末層を重ねるように、且つ該第1原料磁性粉末層よりも該第2原料磁性粉末層の方が前記平板状のキャビティに平行な方向に関する焼結時の収縮率が大きくなるように該第1原料磁性粉末及び該第2原料磁性粉末を充填する充填工程と、
前記キャビティに充填された前記第1原料磁性粉末及び前記第2原料磁性粉末に平行磁界を印加する磁界印加工程と、
前記磁界が印加された前記第1原料磁性粉末及び前記第2原料磁性粉末を加熱することにより焼結する焼結工程と
を有することを特徴とする焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記第2原料磁性粉末が前記第1原料磁性粉末よりも平均粒径が大きい粉末粒子から成り、
前記平行磁界が前記平板状のキャビティに平行である
ことを特徴とする請求項1に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記第2原料磁性粉末が前記第1原料磁性粉末よりも平均粒径が小さい粉末粒子から成り、
前記平行磁界が前記平板状のキャビティに垂直である
ことを特徴とする請求項1に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
圧縮成形を行うことなく焼結工程を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
平板を湾曲させた形状を有し、
該湾曲の内側の表面における結晶の平均粒径が、該湾曲の外側の表面における結晶の平均粒径よりも大きく、
該湾曲の湾曲面の各位置において該湾曲面に対して磁化が平行な方向を向いている
ことを特徴とする焼結磁石。
【請求項6】
平板を湾曲させた形状を有し、
該湾曲の内側の表面における結晶の平均粒径が、該湾曲の外側の表面における結晶の平均粒径よりも小さく、
該湾曲の湾曲面の各位置において該湾曲面に対して磁化が垂直な方向を向いている
ことを特徴とする焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転子等に用いられる焼結磁石を製造する方法、及び該方法により製造される焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、円筒の周方向の一部に相当する部分円筒形等のように、平板を湾曲させた形状を有する焼結磁石(湾曲焼結磁石)がモータの回転子等に用いられている。回転子に用いられる湾曲焼結磁石では、湾曲焼結磁石中の各位置において磁化が湾曲面に垂直な方向(例えば湾曲焼結磁石の形状が部分円筒形の場合には径方向)を向いている。
【0003】
このような磁石を製造するために、焼結磁石の原料を粒子(粉末粒子)の粒径が結晶の粒径に近く(例えば平均粒径が約3μmに)なるまで粉砕した原料磁性粉末を、湾曲した形状のキャビティを有する金型に充填したうえで、湾曲面に垂直な磁界を印加しつつ圧縮成形し、得られた圧粉体を加熱して焼結する、という方法が取られている。これにより、原料磁性粉末の粉末粒子のうちの多くが1個の結晶となった状態で、前記磁界により結晶の磁化容易軸が湾曲面に垂直な方向に向くように該粉末粒子が配向し、焼結磁石の磁化が湾曲面に垂直な方向を向く。
【0004】
通常の焼結磁石の製造装置では原料磁性粉末を特定の一方向に配向させるために平行な磁界を生成する電磁石が用いられており、それをそのまま湾曲面に垂直な方向の磁界を粉末に印加することに用いることはできない。そこで、特許文献1では、部分円筒形のキャビティと、該部分円筒の内側に設けられた、該内側の表面と同形状の円筒面状の表面を有する内側磁性コアと、該部分円筒の外側の表面に該部分円筒よりも周方向に広い範囲に亘って設けられた、該外側の表面と同形状の円筒面状の表面を有する外側磁性コアを組み込んだ金型が用いられている。このような金型のキャビティに原料磁性粉末を充填したうえで電磁石から平行な磁界を印加すると、部分円筒の周方向の両端付近では外側磁性コアによって磁界が周方向の外側に向けて曲げられるのに対して、部分円筒の周方向の中央付近ではほとんど磁界が曲げられない。そのため、電磁石から印加する平行な磁界の向きが部分円筒の周方向の中央において湾曲面に垂直となるように金型を配置することにより、磁界はキャビティ内の各位置において部分円筒の径方向(湾曲面に垂直な方向)を向く。これにより、結晶の磁化容易軸が湾曲面に垂直な方向を向くように原料磁性粉末の粒子が配向する。その状態で原料磁性粉末を圧縮成形したうえで焼結すると、磁化が湾曲面に垂直な方向に向いた焼結磁石が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-286081号公報
【文献】国際公開WO2006/004014号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では内側磁性コア及び外側磁性コアが組み込まれているという、通常の金型には無い特殊な構造を有する金型を使用しなければならず、金型の製作にコストを要し、それによって磁石の製造コストが高くなってしまう。
【0007】
ここでは湾曲焼結磁石の湾曲面に垂直な方向に磁化が向くように配向させる場合について説明したが、湾曲面に平行な方向(湾曲焼結磁石が部分円筒形の場合には周方向)等、湾曲面に対して他の方向に向くように配向させる場合にも同様の問題が生じる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、磁石の製造コストを押さえつつ、湾曲面に対する磁化の方向を設定することができる、湾曲した焼結磁石を製造する方法及び焼結磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る焼結磁石の製造方法は、
平板状のキャビティを有する金型のキャビティに、第1原料磁性粉末から成る第1原料磁性粉末層と該第1原料磁性粉末とは異なる第2原料磁性粉末から成る第2原料磁性粉末層を重ねるように、且つ該第1原料磁性粉末層よりも該第2原料磁性粉末層の方が前記平板状のキャビティに平行な方向に関する焼結時の収縮率が大きくなるように該第1原料磁性粉末及び該第2原料磁性粉末を充填する充填工程と、
前記キャビティに充填された前記第1原料磁性粉末及び前記第2原料磁性粉末に平行磁界を印加する磁界印加工程と、
前記磁界が印加された前記第1原料磁性粉末及び前記第2原料磁性粉末を加熱することにより焼結する焼結工程と
を有することを特徴とする。
【0010】
前記充填工程では、第1原料磁性粉末層の上に第2原料磁性粉末層を重ねてもよいし、第2原料磁性粉末層の上に第1原料磁性粉末層を重ねてもよい。
【0011】
なお、前記磁界印加工程と前記焼結工程の間、又は前記磁界印加工程と同時に、前記キャビティに充填された前記第1原料磁性粉末及び前記第2原料磁性粉末に圧力を印加する圧縮成形をおこなってもよいし、圧縮成形を行うことなく焼結工程を行ってもよい。後者の圧縮成形工程を行うことなく磁界印加工程の後に焼結工程を行うことにより焼結磁石を作製する方法は特許文献2に記載されており、プレスレスプロセス(Press-Less Process:PLP)法として知られている。以下では、前者の圧縮成形工程を伴う方法をプレス法と呼ぶ。
【0012】
本発明に係る焼結磁石の製造方法によれば、平板状のキャビティに、第1原料磁性粉末から成る第1原料磁性粉末層と、第2原料磁性粉末から成る第2原料磁性粉末層を重ねるように、且つ第1原料磁性粉末層よりも該第2原料磁性粉末層の方が平板状のキャビティに平行な方向に関する焼結時の収縮率が大きくなるように第1原料磁性粉末及び第2原料磁性粉末を充填する。これにより、焼結工程において、平板状のキャビティに平行な方向に関して、第2原料磁性粉末層の方が第1原料磁性粉末層よりも小さくなるように収縮する。これにより、第2原料磁性粉末層側が湾曲の内側、第1原料磁性粉末層側が湾曲の外側となる、平板を湾曲させた形状の湾曲焼結磁石が得られる。
【0013】
また、本発明に係る焼結磁石の製造方法では、充填工程と焼結工程の間に、キャビティに充填された第1原料磁性粉末及び第2原料磁性粉末に平行磁界を印加することにより、焼結工程の直前の時点では、これら粉末が有する結晶の磁化容易軸が該平行磁界の方向を向く。例えば、平行磁界を平板面に平行に印加した場合には磁化容易軸も平板面に対して平行に配向し、平行磁界を平板面に垂直に印加した場合には磁化容易軸も平板面に対して垂直に配向する。その状態から焼結工程において平板面から湾曲して焼結することにより、結晶軸の向きは湾曲面に対して所定の方向を向くように変化する。例えば、焼結工程の直前の時点で磁化容易軸が平板面に対して平行に配向している場合には、焼結後には磁化容易軸は湾曲面(の接面)に対して平行である周方向に配向する。また、焼結工程の直前の時点で磁化容易軸が平板面に対して垂直に配向している場合には、焼結後には磁化容易軸は湾曲面(の接面)に対して垂直である径方向に配向する。このように、特殊な構造を有する金型を使用することなく、焼結体内の各位置において湾曲面に対する磁化の方向を設定することができる。
【0014】
第1原料磁性粉末及び第2原料磁性粉末には、R2Fe14B(Rは希土類元素)という組成を有するRFeB系磁石の粉末や、RCo5やR2Co17という組成を有するRCo系磁石の粉末等を用いることができる。
【0015】
「第1原料磁性粉末層よりも該第2原料磁性粉末層の方が平板状のキャビティに平行な方向に関する焼結時の収縮率が大きくなる」ようにするために、例えば、配向工程で用いる平行磁界の方向が平板状のキャビティに平行である場合には第1原料磁性粉末よりも平均粒径が大きい第2原料磁性粉末を用い、平行磁界の方向が平板状のキャビティに垂直である場合には第1原料磁性粉末よりも平均粒径が小さい第2原料磁性粉末を用いる、という手法を用いることができる。これは、本発明者が後述の実験で確かめたところ、磁性粉末の平均粒径が大きい方が、磁化容易軸に平行な方向に関する収縮率は大きくなるのに対して、磁化容易軸に垂直な方向に関する収縮率は小さくなることに基づいている。あるいは、原料磁性粉末を金型に充填する際に、第1原料磁性粉末に圧力を印加する(第2原料磁性粉末にも圧力を印加する場合には、より高い圧力を第1原料磁性粉末に印加する)ことにより、第1原料磁性粉末よりも第2原料磁性粉末の方が焼結時の収縮率が大きくなるようにすることができる。
【0016】
一般に、同じ第1原料磁性粉末と第2原料磁性粉末の組み合わせを用いる場合には、プレス法よりもPLP法の方が、第1原料磁性粉末と第2原料磁性粉末の収縮率の差が大きくなり、その結果、より湾曲した焼結磁石が得られる。
【0017】
本発明に係る焼結磁石の第1の態様は、
平板を湾曲させた形状を有し、
該湾曲の内側の表面における結晶の平均粒径が、該湾曲の外側の表面における結晶の平均粒径よりも大きく、
該湾曲の湾曲面の各位置において該湾曲面に対して磁化が平行な方向を向いている
ことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る焼結磁石の第2の態様は、
平板を湾曲させた形状を有し、
該湾曲の内側の表面における結晶の平均粒径が、該湾曲の外側の表面における結晶の平均粒径よりも小さく、
該湾曲の湾曲面の各位置において該湾曲面に対して磁化が垂直な方向を向いている
ことを特徴とする。
【0019】
第1の態様の焼結磁石は、本発明に係る焼結磁石製造方法において、第1原料磁性粉末よりも平均粒径が大きい第2原料磁性粉末を用い、配向工程の際にキャビティの平板面に対して平行に磁界を印加することにより作製することができる。また、第2の態様の焼結磁石は、本発明に係る焼結磁石製造方法において、第1原料磁性粉末よりも平均粒径が小さい第2原料磁性粉末を用い、配向工程の際にキャビティの平板面に対して垂直に磁界を印加することにより作製することができる。
【0020】
結晶の平均粒径は、湾曲の内側の表面と外側の表面で同じ方法(言い換えれば、それら2つの表面の平均粒径を対比可能な方法)で測定すればよく、その測定方法は特に問わない。例えば、それら2つの表面でそれぞれ顕微鏡写真を撮影し、該顕微鏡写真から画像解析の手法で複数の結晶を検出し、それら複数の結晶の各々について該顕微鏡写真における面積を求め、該面積を有する円の直径(面積基準の円相当径)を各結晶の粒径とみなし、それら結晶の粒径の平均値を平均粒径として求める、という測定方法を取ることができる。ここで平均値は、一般的な算術平均値を用いてもよいし、その代わりに、中央値(複数のデータのうち大小関係の順位が中央である値をいう。データ数が偶数個の場合には中央の順位にある2個の値の算術平均を取る。)を平均粒径とみなしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、磁石の製造コストを押さえつつ、湾曲面に対する磁化の方向を設定することができる、湾曲した焼結磁石を製造する方法及び焼結磁石が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る焼結磁石製造方法の第1実施形態を示す概略図。
【
図2】第1実施形態の焼結磁石製造方法の変形例における一部の工程を示す概略図。
【
図3】本実施形態の焼結磁石製造方法の第2実施形態を示す概略図。
【
図4】第2実施形態の焼結磁石製造方法の変形例における一部の工程を示す概略図。
【
図5】(a)磁化容易軸に平行な方向と(b)磁化容易軸に垂直な方向について、組成が同じであって平均粒径が異なる複数種の磁性粉末における焼結時の収縮率を実験で求めた結果を示すグラフ。
【
図6】本実施形態の焼結磁石製造方法により得られた湾曲焼結磁石の側面を撮影した写真。
【
図7】得られた湾曲焼結磁石においてX線回折測定を行った位置を示す図。
【
図8】得られた湾曲焼結磁石の周方向の中央付近(a)及び端部付近(b)でそれぞれX線回折測定により得られた<410>極点図。
【
図9】得られた湾曲焼結磁石における湾曲の外側の表面(a)及び内側の表面(b)を撮影した顕微鏡写真。
【
図10】得られた湾曲焼結磁石から切り出した磁石片を用いて室温でJ-H減磁曲線を測定した結果を示すグラフ(a)、並びにその第2象限及び第3象限を拡大したグラフ。
【
図11】得られた湾曲焼結磁石から切り出した磁石片を用いて150℃で測定したJ-H減磁曲線の第2象限を示すグラフ。
【
図12】収縮率が異なる3種の原料磁性粉末を、収縮率の大きい(又は小さい)順に積層するように金型のキャビティに充填した状態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~
図12を用いて、本発明に係る焼結磁石製造方法及び焼結磁石の実施形態を説明する。
【0024】
(1) 第1実施形態の焼結磁石製造方法及び焼結磁石
図1に、第1実施形態の焼結磁石製造方法を概略図で示す。
【0025】
まず、焼結磁石の原料となる原料磁性合金体11(
図1(a))を準備する。原料磁性合金体11には、RFeB系磁石の組成を有する合金や、RCo系磁石の組成を有する合金等を用いることができる。RFeB系磁石の組成を有する合金は、例えばストリップキャスト法により作製することができる。原料磁性合金体11は、1種類のみ用意してもよいし、組成の異なる2種類のものを用意してもよい。組成の異同については次段落で説明する。
【0026】
次に、原料磁性合金体11を粉砕することにより、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112を作製する(
図1(b))。原料磁性合金体11を1種類のみ用いる場合には、第1原料磁性粉末111よりも第2原料磁性粉末112の方が、平均粒径が大きくなるように粉砕する。このように平均粒径を設定することにより、後述の焼結工程において、第1原料磁性粉末111よりも第2原料磁性粉末112の方が、磁化容易軸方向に関する収縮率が大きく(焼結後の体積が小さく)なる。収縮率は組成によっても異なるため、組成の異なる2種類の原料磁性合金体11を用意した場合には、それら2種類の原料磁性合金体11を同じ平均粒径に粉砕し、それらのうち収縮率が大きい方の粉末を第2原料磁性粉末112として用い、他方の粉末を第1原料磁性粉末111として用いるようにしてもよい。例えば、RFeB系磁石の組成を有する粉末では、Dy(ジスプロシウム)やTb(テルビウム)等の重希土類元素の含有率が高くなるほど、収縮率は小さく(焼結後の体積は大きく)なる。さらには、2種類の原料磁性合金体11のうち収縮率が大きい方を、より平均粒径が大きくなるように粉砕して第2原料磁性粉末112とすることにより、第1原料磁性粉末111と第2原料磁性粉末112の収縮率の差をより大きくすることができる。
【0027】
第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112の平均粒径は、(原料磁性合金体11を1種類のみ用いる場合には前者よりも後者の方が大きいという要件を満たしつつ)個々の粒子の多くが1個の結晶のみから成るように、数μmのオーダーとすることが好ましい。例えば、第1原料磁性粉末111の平均粒径を3μm、第2原料磁性粉末112の平均粒径を4μmとすることができる。
【0028】
原料磁性合金体11の粉砕は、粗粉砕によって平均粒径が或る程度の大きさになるまで粉砕した後に、微粉砕によって、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112においてそれぞれ目標とする平均粒径となるように粉砕することにより行うとよい。粗粉砕の方法として、例えば、原料磁性合金体11に水素ガスの分子を吸蔵させることで原料磁性合金体11を脆化させたうえで、ボールミル等を用いて機械的に粉砕する、という水素解砕法を取ることができる。微粉砕には、例えばジェットミルを用いることができる。ジェットミルは、不活性ガスを噴射ノズルから噴射させることで生成される高速の気流によって粒子(この例では粗粉砕された原料磁性合金体11の粒子)を加速し、気流内で粒子同士を衝突させたり粒子を衝突板に衝突させることにより粒子を粉砕するものである。気流の速度や使用する不活性ガスの成分により、粉砕後の粉末の平均粒径を設定することができることから、前述のように平均粒径が相違する第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112をそれぞれ作製することができる。
【0029】
次に、以下のように第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112を金型19のキャビティ192に充填する。本実施形態では、直方体状の本体191内の上面寄りに平板状のキャビティ192を有すると共にキャビティ192を覆う蓋193を備える金型19(
図1(c))を用意する。この金型19のキャビティ192に第2原料磁性粉末112を供給し、キャビティ192の下寄りに該第2原料磁性粉末112から成る第2原料磁性粉末層122を形成する。続いて、この第2原料磁性粉末層122の上に、キャビティ192の残りの部分を満たすように第1原料磁性粉末111を供給し、該第1原料磁性粉末111から成る第1原料磁性粉末層121を形成する。その後、蓋193でキャビティ192を覆う(
図1(d))。ここまでの操作により充填工程が完了する。なお、この例では第2原料磁性粉末層122の上に第1原料磁性粉末層121を形成したが、第1原料磁性粉末層121の上に第2原料磁性粉末層122を形成してもよい(
図2(a))。
【0030】
次に、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112が収容された状態の金型19に、平板状のキャビティ192に平行な方向の磁界を印加する(
図1(e)、
図2(b):磁界印加工程)。この磁界は、キャビティ192内では位置に依らず平行になっている。このように磁界を印加することにより、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112の粒子は、結晶の磁化容易軸xが該磁界の方向、すなわち平板状のキャビティ192に平行な方向を向くように配向する。
【0031】
このように磁界の印加を行った後、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112を圧縮成形することなく(PLP法)、それら原料磁性粉末がキャビティ192に収容されたままの状態で加熱することにより、それら粉末を焼結させる(
図1(f):焼結工程)。なお、磁界印加工程と焼結工程の間に、又は磁界印加工程と同時並行で、キャビティ192内の第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112に圧力を印加することにより圧縮成形を行ってもよい(プレス法)。圧縮成形を行う場合には、圧縮成形の終了後に圧粉体を金型19から取り出したうえで焼結工程を行えばよい。
【0032】
後述の実験で示すように、磁化容易軸xが平板状のキャビティ192に平行な方向を向くように配向していることにより、第1原料磁性粉末111よりも粒径が大きい第2原料磁性粉末112の方が、該方向に関する収縮率が大きくなる。これにより、PLP法、プレス法のいずれを用いた場合にも、焼結工程中に、第1原料磁性粉末層121よりも第2原料磁性粉末層122の方が層に平行な方向に縮む。その結果、焼結前に第2原料磁性粉末層122であった部分142が湾曲の内側、第1原料磁性粉末層121であった部分141が湾曲の外側となるように湾曲した湾曲焼結磁石14が得られる(
図1(g)、
図2(c))。
【0033】
このように焼結工程中に湾曲が生じることにより、磁化容易軸xの向きも変化する。その結果、湾曲焼結磁石14における磁化容易軸xは、湾曲面の各位置において湾曲面に平行な方向に配向する(
図1(g))。このように、本実施形態では、特殊な構造を有する(磁性コアが組み込まれた)金型を使用することなく、湾曲面の各位置において該湾曲面に対して磁化が平行な方向を向いた湾曲焼結磁石が得られる。
【0034】
このように第1原料磁性粉末111と、該第1原料磁性粉末111よりも平均粒径が大きい第2原料磁性粉末112を用いて本実施形態の方法により作製した湾曲焼結磁石14は、湾曲の内側の表面144(
図1(g)参照)における結晶の平均粒径が、湾曲の外側の表面143(同上)の表面における結晶の平均粒径よりも大きい、という微細構造上の特徴を有する。このような磁化の方向及び結晶の平均粒径を有する湾曲焼結磁石14は、上記第1の態様の焼結磁石に該当する。また、このような特徴を有する湾曲焼結磁石14は、本実施形態の方法で作製された湾曲焼結磁石であると推認することができる。
【0035】
(2) 第2実施形態の焼結磁石製造方法及び焼結磁石
次に、
図2を用いて、本発明に係る焼結磁石製造方法の他の実施形態を示す。
【0036】
まず、第1実施形態と同様の方法により、原料磁性合金体11を準備し、該原料磁性合金体11を粉砕することにより、第1原料磁性粉末111A及び第2原料磁性粉末112Aを作製する(
図3(a))。第2実施形態では、原料磁性合金体11を1種類のみ用いる場合には、第1原料磁性粉末111Aよりも第2原料磁性粉末112Aの方が、平均粒径が小さくなるように粉砕する。従って、第1原料磁性粉末111Aよりも第2原料磁性粉末112Aの平均粒径の大小関係が第1実施形態の場合と逆になっている。組成の異なる2種類の原料磁性合金体11を用意した場合には、それら2種類の原料磁性合金体11を同じ平均粒径に粉砕し、第1実施形態の場合と同様に、それらのうち収縮率が大きい方の粉末を第2原料磁性粉末112として用い、他方の粉末を第1原料磁性粉末111として用いるようにしてもよい。
【0037】
次に、金型19の平板状のキャビティ192に第2原料磁性粉末112Aを供給し、キャビティ192の下寄りに該第2原料磁性粉末112Aから成る第2原料磁性粉末層122Aを形成する。続いて、この第2原料磁性粉末層122Aの上に、キャビティ192の残りの部分を満たすように第1原料磁性粉末111Aを供給し、該第1原料磁性粉末111から成る第1原料磁性粉末層121Aを形成する。その後、蓋193でキャビティ192を覆う(
図3(b))。この例では第2原料磁性粉末層122Aの上に第1原料磁性粉末層121Aを形成したが、第1原料磁性粉末層121Aの上に第2原料磁性粉末層122Aを形成してもよい(
図4(a))。
【0038】
次に、第1原料磁性粉末111A及び第2原料磁性粉末112Aが収容された状態の金型19に、平板状のキャビティ192に垂直な方向の磁界を印加する(
図3(c)、
図4(b))。この磁界は、キャビティ192内では位置に依らず平行になっている。このように磁界を印加することにより、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112の粒子は、結晶の磁化容易軸xが該磁界の方向、すなわち平板状のキャビティ192に垂直な方向を向くように配向する。
【0039】
このように磁界の印加を行った後、第1原料磁性粉末111A及び第2原料磁性粉末112Aを圧縮成形することなく(PLP法)、それら原料磁性粉末がキャビティ192に収容されたままの状態で加熱することにより、それら粉末を焼結させる(
図3(d))。なお、第1実施形態の場合と同様に圧縮成形を行ってもよい(プレス法)。
【0040】
磁化容易軸xが平板状のキャビティ192に垂直な方向を向くように配向している場合には、第1原料磁性粉末111Aよりも粒径が小さい第2原料磁性粉末112Aの方が、該方向に関しては収縮率が小さくなり、平板状のキャビティ192に平行な方向に関しては収縮率が大きくなる。これにより、PLP法、プレス法のいずれを用いた場合にも、焼結工程中に、第1原料磁性粉末層121Aよりも第2原料磁性粉末層122Aの方が層に平行な方向に縮む。その結果、焼結前に第2原料磁性粉末層122Aであった部分142Aが湾曲の内側、第1原料磁性粉末層121Aであった部分141Aが湾曲の外側となるように湾曲した湾曲焼結磁石14Aが得られる(
図3(e)、
図4(c))。このように焼結工程中に湾曲が生じた湾曲焼結磁石14Aでは、磁化容易軸xは、湾曲面の各位置において湾曲面に垂直な方向に配向する(
図3(e))。
【0041】
このように第1原料磁性粉末111Aと、該第1原料磁性粉末111Aよりも平均粒径が小さい第2原料磁性粉末112Aを用いて本実施形態の方法により作製した湾曲焼結磁石14Aは、湾曲の内側の表面144A(
図3(e)参照)における結晶の平均粒径が、湾曲の外側の表面143A(同上)の表面における結晶の平均粒径よりも小さい、という微細構造上の特徴を有する。このような磁化の方向及び結晶の平均粒径を有する湾曲焼結磁石14Aは、上記第2の態様の焼結磁石に該当する。また、このような特徴を有する湾曲焼結磁石14Aは、本実施形態の方法で作製された湾曲焼結磁石であると推認することができる。
【0042】
(3) 磁化容易軸の方向と焼結時の収縮率の関係を求めた実験
次に、
図5を用いて、磁化容易軸の方向と焼結時の収縮率の関係を求めた実験の結果を説明する。この実験では、Ndを25.2質量%、Prを4.7質量%(総希土類量29.9質量%)、Bを1.00質量%、Alを0.2質量%、Cuを0.1質量%含有し、残部がFeである原料磁性合金体を用いた。この原料磁性合金体を粉砕した磁性合金粉末を、面積基準の円相当径の中央値D50が異なる複数種類用意し、それら磁性合金粉末の各々に対して4.0Tの磁界を1方向に印加することで配向させた後、圧縮成形を行うことなく1030℃に加熱することにより、原料の磁性合金粉末の粒径が異なる複数種類の焼結体を作製した。それらの焼結体につき、配向時の磁界に平行な方向、及び磁界に垂直な1方向に関する収縮率を測定した。
【0043】
配向時の磁界に平行な方向の収縮率を
図5(a)に、該磁界に垂直な1方向の収縮率を
図5(b)に、それぞれ示す。これら収縮率の測定結果より、該磁界に平行な方向に関しては面積基準の円相当径の中央値D50(これを平均粒径とみなす)が大きいほど収縮率が大きくなるのに対して、該磁界に垂直な1方向に関してはD50が大きいほど収縮率が小さくなる、といえる。
【0044】
これら収縮率の測定結果より、本発明において第1原料磁性粉末層よりも第2原料磁性粉末層の方が平板状のキャビティに平行な方向に関する焼結時の収縮率が大きくなるようにするためには、磁界の印加方向と磁性粉末の平均粒径を以下のように設定すればよい。まず、磁化容易軸xが平板状のキャビティ192に平行な方向を向くように磁界を印加する場合には、平均粒径が大きいほど平板状のキャビティ192に平行な方向に関する収縮率が大きくなるため、第1原料磁性粉末111よりも粒径が大きい第2原料磁性粉末112を用いればよい。一方、磁化容易軸xが平板状のキャビティ192に垂直な方向を向くように磁界を印加する場合には、平均粒径が小さいほど平板状のキャビティ192に平行な方向に関する収縮率が大きくなるため、第1原料磁性粉末111よりも粒径が小さい第2原料磁性粉末112を用いればよい。これら磁界の方向と平均粒径の関係は、第1実施形態及び第2実施形態の説明で述べた通りである。
【0045】
(4) 本実施形態の焼結磁石製造方法及び焼結磁石の実施例
以下、本実施形態の焼結磁石製造方法を用いて実際に湾曲焼結磁石を作製した実施例を説明する。この実施例では、表1に示す組成を有しストリップキャスト法で作製された第1原料磁性合金体及び第2原料磁性合金体を用いた。これらの原料磁性合金体はいずれも、RFeB系の合金である。
【表1】
【0046】
第1原料磁性粉末111は、平均粒径が3.1μmとなるように第1原料磁性合金体を粉砕することにより作製した。第2原料磁性粉末112は、平均粒径が4.0μmとなるように第2原料磁性合金体を粉砕することにより作製した。これら第1原料磁性合金体及び第2原料磁性合金体の粉砕は、水素解砕法による粗粉砕とジェットミルを用いた微粉砕を組み合わせて行った。得られた原料磁性粉末を、第1原料磁性粉末111が下側の層、第2原料磁性粉末112が上側の層となるように金型19のキャビティ192に充填したうえで、キャビティ192の平板面に平行に3.5Tの磁界を印加した(
図4(a))。そのうえで、圧縮成形を行うこと無く金型19と共に第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112を990℃に加熱することにより、湾曲焼結磁石14が得られた。
【0047】
図6に、得られた湾曲焼結磁石14の側面を撮影した写真を示す。この写真では、湾曲焼結磁石14は、直定規90と共に方眼紙上に載置されている。湾曲焼結磁石14のうち、この写真の上寄りの部分では第2原料磁性粉末112が焼結し、下寄りの部分では第1原料磁性粉末111が焼結している。方眼紙や直定規と対比して明らかなように、湾曲焼結磁石14は、下に凸になるように湾曲している(
図6中の破線の矢印参照)。この湾曲は、第1原料磁性粉末111よりも第2原料磁性粉末112の方が平均粒径が大きく、且つ、重希土類元素であるDyの含有率が低いことにより、第2原料磁性粉末112の方が、収縮率が大きくなり、焼結収縮によって焼結後の体積が小さくなったことによると考えられる。なお、この写真中の湾曲の外側の表面143の直下に写されている黒い部分は、湾曲焼結磁石14により生じた影である。
【0048】
次に、得られた湾曲焼結磁石14内における結晶軸の配向方向を調べるために、X線回折測定を行った。この測定では、
図7に示すように、湾曲焼結磁石14を部分円筒とみなしたときの周方向の中央付近の位置(実際には、中央よりも
図7の横方向に1mmだけ測定点146寄りにずれた位置)における測定点145、及び周方向の一方の端部付近(周方向の中央から
図7の横方向に36mmずれた位置)の測定点146において極点図を求めた。極点図は、特定の結晶面が試料内でどの方向を向いているかを示す分布を色の相違や等高線等を用いて表した図である。この実験では、<410>方向((410)面に垂直なベクトルが向く方向であり、c軸方向に一致する)について極点図を求めた。その結果を、測定点145について
図8(a)に、測定点146について
図8(b)に、それぞれ示す。
【0049】
図8(a)では、方位角φが90°及び270°付近に該当する横方向に延びる領域内にX線回折のピークが見られる。これは、測定点145において、RFeB系の結晶のc軸が
図7の横方向に延びていることを示している。それに対して
図8(b)では、X線回折のピークは、
図8(a)よりも方位角φが約-3°傾斜した領域内に見られる。これは、測定点146において、c軸が
図7の左上から右下に向かって、横方向から3°傾斜して延びていることを示している。測定点145と測定点146における、3°というc軸の方向の差は、湾曲焼結磁石14における周方向の中央と端部における湾曲面の接面同士の成す角度に対応している。
【0050】
このX線回折測定の結果は、c軸が湾曲焼結磁石14の周方向に配向していることを示している。このようにc軸が周方向に配向した湾曲焼結磁石14に磁界を印加することにより着磁させると、湾曲焼結磁石14内の各位置において磁化は周方向を向く。
【0051】
次に、得られた湾曲焼結磁石14につき、湾曲の外側の表面143及び内側の表面144をそれぞれ無作為に3箇所ずつ、光学顕微鏡で拡大して撮影した。得られた顕微鏡写真を
図9に示す。なお、撮影時の倍率は1000倍であったが、
図9では図を引き延ばしているため倍率の情報は失われている。これらの顕微鏡写真に基づいて、湾曲焼結磁石14が有する結晶の平均粒径を求めた。具体的には、倍率1000倍の顕微鏡写真を画像解析することによって個々の結晶を抽出し、これらの結晶のうち、写真の端に掛かっていることで部分的にしか撮影されていないものを除外し、全体が撮影されている結晶を抽出した。次に、抽出した各結晶の面積を求め、その面積を有する円の直径(面積基準の円相当径)を各結晶の粒径とみなし、1つの画像中に含まれる各結晶の粒径を小さい方から順に積算し、積算値が50%となるときの直径の値(D50値)を該画像中の結晶の平均粒径とした。その結果、結晶の平均粒径は、湾曲の外側の表面143では3箇所の平均で3.42μm(各箇所ではそれぞれ3.45μm、3.59μm、3.35μm)、湾曲の内側の表面144では3箇所の平均で4.45μm(各箇所ではそれぞれ4.30μm、4.55μm、4.47μm)であった。このように、得られた湾曲焼結磁石14では、作製時の第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112の粒径に対応して、湾曲の内側の表面144における結晶の平均粒径は、湾曲の外側の表面143における結晶の平均粒径よりも大きいことがわかる。
【0052】
次に、得られた湾曲焼結磁石14の磁気特性を測定した結果を示す。ここでは、湾曲焼結磁石14の周方向の端部付近において、縦7.0mm、横4.5mm、厚さ7.0mmの磁石片を3個切り出し、それら磁石片の磁気特性を測定した。厚さ方向には、第1原料磁性粉末111が焼結した部分と、第2原料磁性粉末112が焼結した部分がほぼ半分ずつ含まれるように磁石片を切り出した。
【0053】
表2に、上記3個の磁石片についてそれぞれ室温で測定した磁気特性値、それら3個の平均値を示す。測定した磁気特性は、残留磁束密度B
r、飽和磁化J
s、B-H減磁曲線における保磁力(B-H減磁曲線上で磁束密度がゼロに対応する磁場の強さ)H
cB、J-H減磁曲線における保磁力(J-H減磁曲線上で磁束密度がゼロに対応する磁場の強さ)H
cJ、最大エネルギー積BH
max、B
r/J
s、J-H減磁曲線において磁化が最大値から10%低下したときの磁界の絶対値H
k、及び角型比SQ(=H
k/H
cJ)である。また、
図10に、これら3個の磁石片についてそれぞれ室温でJ-H減磁曲線を測定した結果、及びその第2象限及び第3象限を拡大した図を示す。
【表2】
【0054】
これら室温での測定結果には試料片毎にばらつきが見られる。例えば、残留磁束密度Brは磁石片1及び2よりも磁石片3の方が高いのに対して、保磁力HcJは磁石片3よりも磁石片1及び2の方が高くなっている。このようなばらつきは、第1原料磁性粉末111が焼結した部分と第2原料磁性粉末112が焼結した部分の間で磁気特性に差異が生じており、試料片を切り出した際に両部分がそれぞれ含まれる割合に相違が生じたことによると考えられる。これら2つの部分の磁気特性の差は、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112がそれぞれ含有する重希土類元素の含有率を調整することにより、小さくすることができる。具体的には、重希土類元素の量が多くなるほど、残留磁束密度Brが小さくなり、保磁力HcJが大きくなるため、仮に作製した試料で上記2つの部分の残留磁束密度及びBr及び保磁力HcJを測定したうえで、残留磁束密度Brが大きく、保磁力HcJが小さくなった方の部分に用いた原料磁性粉末における重希土類元素の含有率を増加させればよい。但し、重希土類元素の含有率は焼結時の原料磁性粉末の収縮率にも影響を及ぼすため、併せて、重希土類元素の含有率よりも収縮率の相違に顕著に寄与する原料磁性粉末の平均粒径を適宜変更するとよい。
【0055】
次に、磁石片1~3を厚さ方向に重ねた状態で150℃に加熱し、磁気測定を行った。この150℃という温度は、自動車用モータの使用時に、回転子に用いられている磁石が達する温度である。測定結果を表3及び
図11(J-H磁化曲線の第2象限)に示す。通常のRFeB系焼結磁石と同様に、室温の場合よりも磁気特性は低下しているが、強磁性は維持されている。
【表3】
【0056】
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では第1原料磁性粉末111から成る第1原料磁性粉末層121と、第1原料磁性粉末111よりも焼結時の収縮率が大きい第2原料磁性粉末112から成る第2原料磁性粉末層122の2層を重ねるように金型の19のキャビティ192に充填したが、焼結時の収縮率が異なる3種以上の原料磁性粉末を、収縮率が下から(又は上から)順に大きくなるように積層してもよい。
図12に示した例では、第1原料磁性粉末層121と、第2原料磁性粉末層122と、第1原料磁性粉末111及び第2原料磁性粉末112よりも焼結時の収縮率が大きい第3原料磁性粉末113から成る第3原料磁性粉末層123を、それらが上から順に並ぶように積層している。積層順は、
図12とは逆に下から第1原料磁性粉末層121、第2原料磁性粉末層122、第3原料磁性粉末層123の順としてもよい。焼結時の収縮率が異なる4種以上の原料磁性粉末を用いる場合も同様である。
【符号の説明】
【0057】
11…原料磁性合金体
111、111A…第1原料磁性粉末
112、112A…第2原料磁性粉末
113…第3原料磁性粉末
121、121A…第1原料磁性粉末層
122、122A…第2原料磁性粉末層
123…第3原料磁性粉末層
14、14A…湾曲焼結磁石
141、141A…湾曲焼結磁石のうち焼結前に第1原料磁性粉末層であった部分
142、142A…湾曲焼結磁石のうち焼結前に第2原料磁性粉末層であった部分
143、143A…湾曲焼結磁石における湾曲の外側の表面
144、144A…湾曲焼結磁石における湾曲の内側の表面
145…周方向の中央付近の測定点
146…周方向の一方の端部付近の測定点
19…金型
191…金型の本体
192…金型のキャビティ
193…金型の蓋