(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】複層型処理槽および汚水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20240905BHJP
【FI】
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
(21)【出願番号】P 2021135909
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】矢次 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】永江 信也
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-203699(JP,A)
【文献】特開昭58-055096(JP,A)
【文献】特開平08-010793(JP,A)
【文献】特開平07-204686(JP,A)
【文献】特開平08-001193(JP,A)
【文献】特開2020-054980(JP,A)
【文献】特開2017-006894(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133444(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105384259(CN,A)
【文献】国際公開第2008/046139(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0191382(US,A1)
【文献】特開平04-074594(JP,A)
【文献】特開平09-038683(JP,A)
【文献】特開2016-140783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C02F 3/28 - 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層に設けられた好気槽と、下層に設けられた無酸素槽と、を備える複層型処理槽であって、
前記好気槽と前記無酸素槽とにわたって設けられる第一連通路、
前記無酸素槽と、前記無酸素槽とは異なる槽と、にわたって設けられる第二連通路、
流体を付勢可能な付勢装置、
前記第二連通路を流通する流体の流量を測定可能な流量計、および、
前記流量計の測定値を入力可能であるとともに、前記付勢装置に対して制御信号を出力可能な制御装置、を有し、
前記第一連通路および前記付勢装置は、前記付勢装置を運転したときに、前記好気槽から前記第一連通路を通じて前記無酸素槽に流入する流れが形成されるように配置されており、
前記制御装置は、前記流量計の測定値に基づいて、前記付勢装置を制御する制御機能を実行可能に構成されている複層型処理槽。
【請求項2】
前記付勢装置は、当該付勢装置の出力を変更可能に構成されており、
前記制御機能において、前記付勢装置のそれぞれの運転モードを、第一の出力で運転させる第一運転モード、または、前記付勢装置を前記第一の出力より小さい第二の出力で運転させる第二運転モード、に設定可能である請求項1に記載の複層型処理槽。
【請求項3】
前記第二連通路の一端は、前記無酸素槽の上面に開口しており、
前記第一連通路の一端において、当該第一連通路を画定する壁面が前記無酸素槽の上面から前記無酸素槽の内部に突出している請求項1または2に記載の複層型処理槽。
【請求項4】
前記好気槽には、正常な運転状態における液位である標準液位が設定されており、
前記付勢装置は、前記標準液位より上方に設けられた動力部と、前記標準液位より下方に設けられ、前記動力部の動力によって駆動されて前記流体を付勢する付勢部と、を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の複層型処理槽。
【請求項5】
前記第一連通路は、前記好気槽の内部に延びる管状部分を有し、
前記付勢部は、前記管状部分に収容されている請求項4に記載の複層型処理槽。
【請求項6】
前記第一連通路は、前記管状部分を包囲する鞘管部分をさらに有し、
前記管状部分は、一端が、前記無酸素槽に開口しており、他端が、前記標準液位より上方に配置され、
前記鞘管部分は、一端が、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より低い位置に開口し、他端が、前記標準液位より上方に配置され、
前記管状部分の側面の、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より高い位置に、前記管状部分の内側と前記鞘管部分の内側とを連通する連通孔が設けられている請求項5に記載の複層型処理槽。
【請求項7】
前記第一連通路は、前記管状部分を包囲する鞘管部分をさらに有し、
前記管状部分は、一端が、前記無酸素槽に開口しており、他端が、前記標準液位より下方に配置され、
前記鞘管部分は、一端が、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より低い位置に開口し、他端が、前記標準液位より上方に配置されている請求項5に記載の複層型処理槽。
【請求項8】
前記第一連通路は、前記管状部分の側面から延び、前記管状部分の内側と連通している第二管状部分をさらに有し、
前記管状部分は、一端が、前記無酸素槽に開口しており、他端が、前記標準液位より上方に配置され、
前記第二管状部分は、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より高い位置において前記管状部分に接続された基端と、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より低い位置に開口している末端と、を有する請求項5に記載の複層型処理槽。
【請求項9】
上層に設けられた好気槽と、下層に設けられた無酸素槽と、前記好気槽と前記無酸素槽とにわたって設けられる第一連通路と、前記好気槽から前記無酸素槽に向けて流体を付勢可能な付勢装置と、を有する複層型処理槽を複数備え、複数の前記複層型処理槽が、前記好気槽と前記無酸素槽とが交互に接続された循環系を形成する汚水処理システムであって、
前記循環系において隣接する二つの前記複層型処理槽のうちの一方の前記無酸素槽と、他方の前記好気槽と、を接続する第二連通路と、
前記第二連通路のそれぞれに設けられた、当該第二連通路を流通する流体の流量を測定可能な流量計と、
前記流量計のそれぞれによる測定値を入力可能であるとともに、前記付勢装置のそれぞれに対して制御信号を出力可能な制御装置と、を有し、
前記第一連通路および前記付勢装置は、前記付勢装置を運転したときに、前記好気槽から前記第一連通路を通じて前記無酸素槽に流入する流れが形成されるように配置されており、
前記制御装置は、前記流量計のそれぞれによる測定値に基づいて、前記付勢装置のそれぞれを制御する制御機能を実行可能に構成されている汚水処理システム。
【請求項10】
前記付勢装置のそれぞれは、当該付勢装置の出力を変更可能に構成されており、
前記制御機能において、
前記付勢装置のそれぞれの運転モードを、第一の出力で運転させる第一運転モード、または、前記付勢装置を前記第一の出力より小さい第二の出力で運転させる第二運転モード、に設定可能であり、
全ての前記付勢装置について同一の前記運転モードを設定する請求項9に記載の汚水処理システム。
【請求項11】
前記運転モードの設定は、全ての前記付勢装置について同じタイミングで行われる請求項10に記載の汚水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層型処理槽、および、当該複層型処理槽を複数備える汚水処理システム、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性汚泥を利用して生活排水などの被処理水を処理する方法として、複数の生物処理を複合して利用する方法が採用されている。この類の方法では、活性を発現する環境が異なる複数の微生物を利用するべく、環境が異なる複数の槽(好気槽、無酸素槽、嫌気槽など)を設け、これらの複数の槽の間で被処理水を循環させながら、各槽における生物処理を適用する、という手法が汎用される。すなわち、汚水の生物処理においては、複数の処理槽が設けられることが一般的である。
【0003】
複数の処理槽を設けるための必要面積を低減するための試みとして、特開2020-54980号公報(特許文献1)には、好気槽と無酸素槽とを上下に配置した有機性排水処理装置が開示されている。この技術では、好気槽と無酸素槽とを上下に配置することによって、これらの二つの処理槽を設置するための必要面積を低減することに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
好気槽と無酸素槽とを利用する生物処理を好適に実施するためには、これらの槽の間を循環する汚泥の流量を制御するとともに、無酸素槽において汚泥を適切に撹拌する必要がある。しかし、特許文献1の装置では、汚泥の循環および撹拌を制御することについて、十分に考慮されていなかった。
【0006】
そこで、好気槽と無酸素槽とを上下に配置しながら、これらの槽の間の汚泥の循環と、無酸素槽における汚泥の撹拌と、の双方を適切に制御しうる複層型処理槽および汚水処理システムの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複層型処理槽は、上層に設けられた好気槽と、下層に設けられた無酸素槽と、を備える複層型処理槽であって、前記好気槽と前記無酸素槽とにわたって設けられる第一連通路、前記無酸素槽と、前記無酸素槽とは異なる槽と、にわたって設けられる第二連通路、流体を付勢可能な付勢装置、前記第二連通路を流通する流体の流量を測定可能な流量計、および、前記流量計の測定値を入力可能であるとともに、前記付勢装置に対して制御信号を出力可能な制御装置、を有し、前記第一連通路および前記付勢装置は、前記付勢装置を運転したときに、前記好気槽から前記第一連通路を通じて前記無酸素槽に流入する流れが形成されるように配置されており、前記制御装置は、前記流量計の測定値に基づいて、前記付勢装置を制御する制御機能を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る汚水処理システムは、上層に設けられた好気槽と、下層に設けられた無酸素槽と、前記好気槽と前記無酸素槽とにわたって設けられる第一連通路と、前記好気槽から前記無酸素槽に向けて流体を付勢可能な付勢装置と、を有する複層型処理槽を複数備え、複数の前記複層型処理槽が、前記好気槽と前記無酸素槽とが交互に接続された循環系を形成する汚水処理システムであって、前記循環系において隣接する二つの前記複層型処理槽のうちの一方の前記無酸素槽と、他方の前記好気槽と、を接続する第二連通路と、前記第二連通路のそれぞれに設けられた、当該第二連通路を流通する流体の流量を測定可能な流量計と、前記流量計のそれぞれによる測定値を入力可能であるとともに、前記付勢装置のそれぞれに対して制御信号を出力可能な制御装置と、を有し、前記第一連通路および前記付勢装置は、前記付勢装置を運転したときに、前記好気槽から前記第一連通路を通じて前記無酸素槽に流入する流れが形成されるように配置されており、前記制御装置は、前記流量計のそれぞれによる測定値に基づいて、前記付勢装置のそれぞれを制御する制御機能を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、無酸素槽から流出する流体の流量に基づいて付勢装置を制御できるので、好気槽と無酸素槽との槽の間の汚泥の循環と、無酸素槽における汚泥の撹拌と、の双方を適切に制御しうる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記付勢装置は、当該付勢装置の出力を変更可能に構成されており、前記制御機能において、前記付勢装置のそれぞれの運転モードを、第一の出力で運転させる第一運転モード、または、前記付勢装置を前記第一の出力より小さい第二の出力で運転させる第二運転モード、に設定可能であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、たとえば、汚泥の循環に適した第一運転モードと、汚泥の撹拌に適した第二運転モードとを、切り替えて運用できる。
【0013】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記第二連通路の一端は、前記無酸素槽の上面に開口しており、前記第一連通路の一端において、当該第一連通路を画定する壁面が前記無酸素槽の上面から前記無酸素槽の内部に突出していることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、第一連通路の一端において、当該第一連通路を画定する壁面が無酸素槽の上面から無酸素槽の内部に突出していることに加えて、付勢装置が常に下向きの水流を発生させていることによって、無酸素槽内で発生したガスは第一連通路に流入しにくい。
【0015】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記好気槽には、正常な運転状態における液位である標準液位が設定されており、前記付勢装置は、前記標準液位より上方に設けられた動力部と、前記標準液位より下方に設けられ、前記動力部の動力によって駆動されて前記流体を付勢する付勢部と、を有することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、動力部が標準液位より上方に設けられているので、動力部のメンテナンスが容易になりうる。
【0017】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記第一連通路は、前記好気槽の内部に延びる管状部分を有し、前記付勢部は、前記管状部分に収容されていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、管状部分によって好気槽から無酸素槽に向かう流れが規制されるので、付勢装置の動力が被処理水の移動に効率よく消費されうる。
【0019】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記第一連通路は、前記管状部分を包囲する鞘管部分をさらに有し、前記管状部分は、一端が、前記無酸素槽に開口しており、他端が、前記標準液位より上方に配置され、前記鞘管部分は、一端が、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より低い位置に開口し、他端が、前記標準液位より上方に配置され、前記管状部分の側面の、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より高い位置に、前記管状部分の内側と前記鞘管部分の内側とを連通する連通孔が設けられていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、好気槽のうち溶存酸素量が比較的低い箇所から採取された液体を無酸素槽に供給できるので、無酸素槽の溶存酸素量の上昇を抑制できる。
【0021】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記第一連通路は、前記管状部分を包囲する鞘管部分をさらに有し、前記管状部分は、一端が、前記無酸素槽に開口しており、他端が、前記標準液位より下方に配置され、前記鞘管部分は、一端が、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より低い位置に開口し、他端が、前記標準液位より上方に配置されていることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、好気槽のうち溶存酸素量が比較的低い箇所から採取された液体を無酸素槽に供給できるので、無酸素槽の溶存酸素量の上昇を抑制できる。
【0023】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記第一連通路は、前記管状部分の側面から延び、前記管状部分の内側と連通している第二管状部分をさらに有し、前記管状部分は、一端が、前記無酸素槽に開口しており、他端が、前記標準液位より上方に配置され、前記第二管状部分は、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より高い位置において前記管状部分に接続された基端と、前記好気槽の底面からの高さが前記標準液位の3分の2より低い位置に開口している末端と、を有することが好ましい。
【0024】
この構成によれば、好気槽のうち溶存酸素量が比較的低い箇所から採取された液体を無酸素槽に供給できるので、無酸素槽の溶存酸素量の上昇を抑制できる。
【0025】
本発明に係る汚水処理システムは、一態様として、前記付勢装置のそれぞれは、当該付勢装置の出力を変更可能に構成されており、前記制御機能において、前記付勢装置のそれぞれの運転モードを、第一の出力で運転させる第一運転モード、または、前記付勢装置を前記第一の出力より小さい第二の出力で運転させる第二運転モード、に設定可能であり、全ての前記付勢装置について同一の前記運転モードを設定することが好ましい。
【0026】
この構成によれば、たとえば、汚泥の循環に適した第一運転モードと、汚泥の撹拌に適した第二運転モードとを、切り替えて運用できる。また、複数の複層型処理槽における運転モードを同一にするので、複数の複層型処理槽を均等に運転しやすい。
【0027】
本発明に係る汚水処理システムは、一態様として、前記運転モードの設定は、全ての前記付勢装置について同じタイミングで行われることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、複数の複層型処理槽における運転モードを同じタイミングで設定するので、複数の複層型処理槽を均等に運転しやすい。
【0029】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態に係る汚水処理システムの構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る複層型処理槽の構成を示す図である。
【
図3】実施形態に係る複層型処理槽の制御構成を示すブロック図である。
【
図4】実施形態に係る汚水処理システムの制御構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】実施形態に係る汚水処理システムの制御構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】複層型処理槽の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る複層型処理槽および汚水処理システムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、四基の複層型処理槽1(1A、1B、1C、1D)を備える汚水処理システム100(
図1)を例として説明する。
【0032】
〔汚水処理システムの構成〕
汚水処理システム100において、複層型処理槽1A、複層型処理槽1B、複層型処理槽1C、複層型処理槽1Dの順に接続され、さらに複層型処理槽1Dの下流に複層型処理槽1Aが接続されており、循環式硝化脱窒法による活性汚水処理に供される循環系が形成されている(
図1)。より詳細には、汚水処理システム100では、複層型処理槽1Aの好気槽2A、複層型処理槽1Aの無酸素槽3A、複層型処理槽1Bの好気槽2B、複層型処理槽1Bの無酸素槽3B、複層型処理槽1Cの好気槽2C、複層型処理槽1Cの無酸素槽3C、複層型処理槽1Dの好気槽2D、複層型処理槽1Dの無酸素槽3D、の順に被処理水が流通し、さらに複層型処理槽1Dの無酸素槽3Dの下流側に複層型処理槽1Aの好気槽2Aが接続されて、循環系が形成されている。
【0033】
〔複層型処理槽の構成〕
本実施形態に係る複層型処理槽1は、上層に設けられた好気槽2と、下層に設けられた無酸素槽3と、を備える二層型の汚水処理槽である(
図2)。好気槽2では、処理水が曝気されて、硝化菌によってアンモニア性窒素が硝酸性イオンに分解される。無酸素槽3では、脱窒菌によって硝酸性イオンが窒素ガスに分解される。このように、複層型処理槽1は、好気槽2におけるアンモニア性窒素の分解と、無酸素槽3における硝酸性イオンの分解と、を組み合わせて、原水W1(生活排水など)に含まれる有機性窒素を分解する設備である。なお、複層型処理槽1の各部の動作を制御するための制御装置20が設けられている(
図3)。制御装置20は、具体的にはコンピュータとして実装されている。
【0034】
詳細は後述するが、本実施形態では、複層型処理槽1において、ある複層型処理槽1(たとえば複層型処理槽1A)の無酸素槽3において脱窒処理を受けた脱窒水W3が、隣接する複層型処理槽1(たとえば複層型処理槽1B)の好気槽2に移送される。また複層型処理槽1(たとえば複層型処理槽1B)の好気槽2において硝化処理を受けた硝化液W4は、同じ複層型処理槽1(たとえば複層型処理槽1B)の無酸素槽3に移送される。
【0035】
(好気槽の構成)
好気槽2は、複層型処理槽1の上層部分に設けられた槽である。好気槽2には、複数の膜分離装置21が設けられている。したがって複層型処理槽1は、膜分離活性汚泥法(MBR)に供される。膜分離装置21を通過した処理水W2は、次工程に送られる。好気槽2には、複層型処理槽1の正常な運転状態における液位である標準液位が設定されており、膜分離装置21は標準液位より下側に設けられている。
図2では、標準液位を一点鎖線Hで表している。好気槽2には、上流側に配置される別の複層型処理槽1で処理された脱窒水W3が流入し、硝化菌によるアンモニア性窒素の分解が行われる。なお、好気槽2には、曝気装置(不図示)が設けられている。
【0036】
好気槽2の中央には、ドラフトチューブ4(第一連通路の例、管状部分の例である。)と、撹拌機5(付勢装置の例である。)と、が設けられている。
【0037】
ドラフトチューブ4は、好気槽2の中央部分において垂直方向に延びる筒状の部材であり、好気槽2と無酸素槽3とにわたって流体連通して設けられている。ドラフトチューブ4の上端41は、標準液位付近かつ標準液位より下(たとえば、好気槽2の底面22からの高さが標準液位の5分の4の位置)に開口している。ドラフトチューブ4の下端42は、無酸素槽3に開口している。
【0038】
撹拌機5は、モータ51(動力部の例である。)と、インペラ52(付勢部の例である。)と、軸部材53とを有する。モータ51はインバータを有しており、主力制御が可能である。制御装置20は撹拌機5(モータ51)に対して制御信号を出力可能に構成されており、当該制御信号によってモータ51の出力が制御される。モータ51は標準液位より上方に設けられており、したがって、複層型処理槽1の正常な運転状態においてモータ51は液面より上方に設けられている。そのため、モータ51は水中で駆動しうる装置である必要がなく、大気中で使用される一般的なモータであってよい。また、この種の処理槽で従来使用されている水中ポンプが、メンテナンス時に水中から引き上げる作業を必要としたのに対し、本実施形態ではモータ51が大気中に設置されているため、モータ51のメンテナンスが容易である。
【0039】
インペラ52は、標準液位より下方に設けられており、モータ51の動力によって駆動されたときに好気槽2中の液体を下方に付勢する姿勢で取り付けられている。軸部材53は、モータ51の動力をインペラ52に伝達する部材である。
【0040】
インペラ52は、ドラフトチューブ4に収容されている。そのため、撹拌機5を運転すると、ドラフトチューブ4の内側において、硝化液W4の下降流が形成される。これによって、好気槽2からドラフトチューブ4を通じて無酸素槽3に流入する硝化液W4の流れが形成される。
【0041】
(無酸素槽の構成)
無酸素槽3は、複層型処理槽1の下層部分に設けられた槽であり、複層型処理槽1に流入した原水W1を受け入れる槽である。無酸素槽3には、原水W1と、好気槽2から移送された硝化液W4と、が流入し、脱窒菌によって硝酸性イオンが分解されて窒素ガスが発生する。
【0042】
無酸素槽3の上面31には、ドラフトチューブ4の下端42と、脱窒水流路6(第二連通路の例である。)の下端61(第二連通路の一端の例である。)と、が配置されている。このうち、ドラフトチューブ4の下端42(第一連通路の一端の例である。)は、上面31から無酸素槽3の内部に突出している。すなわち、ドラフトチューブ4の下端42において、流路(ここではドラフトチューブ4の流路部分である。)を確定する壁面(ここではドラフトチューブ4の実体部分である。)が、無酸素槽3の上面31から無酸素槽3の内部に突出している。
【0043】
無酸素槽3の上面31は、水平方向に対して傾斜して設けられている。より具体的には、上面31の水平方向に対する斜度が1°以上20°以下であることが好ましい。脱窒水流路6の下端61は、かかる傾斜の上端部分に設けられている。これによって、無酸素槽3内で発生したガス(窒素ガスなど)は、上面31の傾斜に沿って上方に流れ、脱窒水流路6の下端61に至る。このとき、ドラフトチューブ4の下端42が上面31から無酸素槽3の内部に突出しているため、上面31の傾斜に沿って流れるガスがドラフトチューブ4の下端42に流入しにくい。さらに、上面31を、凹凸を有さない平面状に構成しておくと、スカムの滞留を抑制しうるため、好ましい。
【0044】
より詳細には、上面31の上端部分にピット7が設けられ、上面31の傾斜に沿って上方に流れたガスがピット7に集約される。ピット7には散気管8が接続されており、ピット7に集約されたガスは散気管8の細孔81を通じて脱窒水流路6に流入する。これによって、脱窒水流路6に放出されたガスによるエアリフト効果が生じて下流方向への流れが促進されるため、汚水処理システム100内において被処理水を循環させるために入力すべき動力(具体的にはモータ51の動力として入力される。)を抑制しうる。
【0045】
また、散気管8の他端側(ピット7と接続されている側の反対側)は、給水源(不図示)に接続されており、当該給水源から送水すると、散気管8の細孔81を洗浄できる。
【0046】
(脱窒水流路の構成)
脱窒水流路6は、無酸素槽3と、複層型処理槽1の外部とにわたって設けられた流路である。本実施形態では、脱窒水流路6の下流側は、汚水処理システム100において下流側に隣接する複層型処理槽1の好気槽2に接続されている。たとえば、複層型処理槽1Aの無酸素槽3と、複層型処理槽1Bの好気槽2と、にわたって脱窒水流路6が設けられている。脱窒水流路6を通じて、脱窒水W3が複層型処理槽1Aの無酸素槽3から複層型処理槽1Bの好気槽2に移送される。また、無酸素槽3内で発生したガスは脱窒水流路6に流入し、脱窒水W3とともに脱窒水流路6を流れる。
【0047】
脱窒水流路6は、無酸素槽3の上面から上向きに延びる上向部分62と、好気槽2の上端より上に突出している突出部分63と、突出部分63から接続先の好気槽2に沿って下向きに延びる下向部分64と、を有し、下向部分64の末端65は、接続先の好気槽2の側面に開口している。
【0048】
上向部分62は、断面がおよそ1m四方の正方形に形成されている。上向部分62には、上向部分62を流れる流体(脱窒水W3)の流量を測定可能な流量計66が設けられている。流量計66の測定値は、電気信号に変換されて制御装置20に入力される。なお、本実施形態では、四基の複層型処理槽1(1A、1B、1C、1D)の全てに、流量計66が設けられている。これによって、各複層型処理槽1における脱窒水W3の流量を独立に測定できる。
【0049】
突出部分63は、好気槽2の上端より上に突出しており、その上面は面体67により閉鎖されている。面体67には開口部68が設けられており、開口部68には排ガス路9が接続されている。突出部分63が、好気槽2の上端より上に突出して設けられていることによって、突出部分63の内側には、好気槽2の液位と略同一の高さに液面が生じ、その上側に気相が形成される。これによって、突出部分63において、無酸素槽3で発生したガスが脱窒水W3から分離する。
【0050】
排ガス路9は脱臭装置(不図示)に接続されており、その中途には、排ガス路9を流通する気体の流量(流出ガス量)を測定可能な流量計91が設けられている。流量計91の測定値は、電気信号に変換されて制御装置20に入力される。なお、本実施形態では、四基の複層型処理槽1(1A、1B、1C、1D)の全てに、排ガス路9および流量計91が設けられている。これによって、各複層型処理槽1における流出ガス量を独立に測定できる。
【0051】
また、突出部分63には、消泡ノズル69が設けられている。消泡ノズル69から脱窒水W3の液面に向けて水を噴射することによって、突出部分63にスカムが蓄積することを好適に防止しうる。
【0052】
下向部分64は、断面が、長辺がおよそ3m、短辺がおよそ1mの長方形に形成されており、下向部分64の断面積は上向部分62の断面積より大きい。これによって、下向部分64における脱窒水W3の流速は、上向部分62における脱窒水W3の流速より小さくなる。このように、下向部分64における脱窒水W3の流速が比較的小さくなるように構成することによって、突出部分63において分離されるべきガスが脱窒水W3の流れに巻き込まれにくくなり、当該ガスを分離しやすくなる。具体的には、撹拌機5(モータ51)が運転されている状態において、下向部分64における脱窒水W3(流体)の流速が毎秒0.8m以下となるようにすることが好ましく、0.5m以下となるようにすることがより好ましい。このような流速は、撹拌機5(モータ51)の出力と、下向部分64の断面積とを適切に設定することで実現される。
【0053】
〔複層型処理槽の制御〕
次に、複層型処理槽1を制御する方法について説明する。複層型処理槽1には、制御装置20が設けられている。制御装置20には、流量計66の測定値(脱窒水流路6の上向部分62を流れる流体の流量)、および、流量計91の測定値(排ガス路9を流通する気体の流量)が入力される。また、制御装置20は、撹拌機5(モータ51)に対して制御信号を出力可能に構成されており、当該制御信号によってモータ51の出力が制御される。すなわち、制御装置20は、撹拌機5を制御する制御機能を実行可能である。
【0054】
また、制御装置20には、無酸素槽3に流入する原水W1の流量である原水流入量、原水W1の水質に係る測定値である原水測定値(たとえば、pH、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、窒素含有量など)、好気槽2から流出する処理水W2の流量である処理水流出量、好気槽2から流出する処理水の品質に係る測定値である処理水測定値(たとえば、pH、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、窒素含有量など)、無酸素槽3の水温である無酸素槽水温、好気槽2の水温である好気槽水温などの各種測定値も入力される。これらの測定値は、複層型処理槽1に設置された不図示の測定機器を用いて測定されたものが直接入力されてもよいし、複層型処理槽1から採取した試料に対して実施された検査結果が人為操作により入力されてもよい。
【0055】
特に、流量計91の測定値(流出ガス量)は、無酸素槽3における脱窒処理の状況を端的に表す重要な指標である。本実施形態では、かかる流出ガス量を、流量計91を用いて常時監視できるので、脱窒処理の状況を常に把握できる。そして、脱窒処理の状況に応じて、撹拌機5(モータ51)の運転を制御することによって、複層型処理槽1全体の運転状態を制御しうる。
【0056】
また、本実施形態に係る複層型処理槽1では、動力要素として設けられている構成要素はモータ51のみであり、モータ51によって、複層型処理槽1(汚水処理システム100)において被処理水を循環させるためのエネルギーと、無酸素槽3において汚泥を均一に撹拌するためのエネルギーと、が供給される。ここで、被処理水の循環に最適化した出力でモータ51の運転を続けると、無酸素槽3における撹拌が過剰になり、脱窒処理が不十分になるおそれがある。一方、無酸素槽3における撹拌に最適化した出力でモータ51の運転を続けると、被処理水の循環が不十分になる恐れがある。
【0057】
そこで本実施形態では、制御装置20の制御機能において、撹拌機5(モータ51)の運転モードを、被処理水の循環に最適化した出力(第一の出力)でモータ51を運転する第一運転モード、または、無酸素槽3における撹拌に最適化した出力(第二の出力)でモータ51を運転する第二運転モード、に設定できるように構成されている。ここで、第二の出力は第一の出力より小さい。そして、第一運転モードと第二運転モードとを交互に実行することによって、被処理水の循環と無酸素槽3における撹拌とを、双方とも好適な水準で実施できる。
【0058】
また、制御装置20は、ある時刻における少なくとも一つのパラメータと、当該時刻における流量計91の測定値(流出ガス量)と、のデータ組を取得する取得処理、複数の時刻についてデータ組を蓄積してデータ群を構築するデータ群構築処理、および、少なくとも一つのパラメータが入力されたときに、当該パラメータに基づいて予測される流出ガス量の予測値を出力できる分類器を、データ群構築処理において構築したデータ群に基づいて構築する学習処理、を実行可能に構成されている。ここでいう「パラメータ」とは、制御装置20に入力されうるパラメータとして上述した各測定値から選択されるものであり、たとえば、流量計66の測定値(脱窒水流路6の上向部分62を流れる流体の流量)、無酸素槽3に流入する原水W1の流量である原水流入量、好気槽2から流出する処理水W2の流量である処理水流出量などである。
【0059】
取得処理、データ群構築処理、および学習処理を通じて分類器を構築することで、流量計66の測定値などの各種測定値に基づいて、流出ガス量を予測できるようになる。これによって、複層型処理槽1の運転状態の変化を予測できるようになるので、好ましくない変化の発生を抑制するための措置を早期に実施しうる。
【0060】
〔汚水処理システムの制御〕
上記の複層型処理槽1を制御する方法を前提として、汚水処理システム100を制御する方法をさらに説明する。汚水処理システム100の制御においては、四基の複層型処理槽1(1A、1B、1C、1D)の運転状態が均等になるように、各複層型処理槽1を制御することが要求される。本実施形態では、四基の複層型処理槽1を均等に制御するための制御方法が採用されている。
【0061】
まず、上述のように、本実施形態では四基の複層型処理槽1の全てについて、脱窒水W3の流量および流出ガス量を独立に測定できるように構成されている。これによって、各複層型処理槽1の状態を独立に把握できる。簡単に言えば、各複層型処理槽1の流出ガス量が均等であれば、四基の複層型処理槽1が均等に運転されているといえる。
【0062】
反対に、各複層型処理槽1の流出ガス量が不均等である場合は、四基の複層型処理槽1の運転状態が不均等である可能性がある。具体的には、いずれか一基の複層型処理槽1において不具合が生じているなどの事態が想定される。このような場合は、各複層型処理槽1のメンテナンスを実行するなどの対処を行う。具体的には、原水W1の流入の均等性、各好気槽2の溶存酸素量(DO)の均等性、各撹拌機5(モータ51)の電流値の均等性、および流量計66の測定流量の均等性を点検することにより異常の発生原因を推測する。
【0063】
また、四基の複層型処理槽1を均等に運転する観点から、各撹拌機5(モータ51)の運転モードの変更は、同期して行われることが好ましい。これは、一部の撹拌機5が第一運転モードで運転され、他の撹拌機5が第二運転モードで運転されると、第一運転モードで運転されている撹拌機5が属する複層型処理槽1からの被処理水の流出量が、第二運転モードで運転されている撹拌機5が属する複層型処理槽1からの被処理水の流出量よりも大きくなるため、各複層型処理槽1における被処理水の量に差が生じるためである。すなわち、全ての撹拌機5について、同一の運転モードを設定することが好ましい。より詳細には、全ての撹拌機5について、同じタイミングで、同一の運転モードの設定が行われることが好ましい。
【0064】
なお、以上の制御を実施するための制御装置の構成として、各複層型処理槽1の制御装置20と通信可能に構成された統括制御装置110が設けられ、統括制御装置110が四基の制御装置20を統括する構成(
図4)を採用してもよいし、各複層型処理槽1に制御装置20を設けることに替えて一基の制御装置120が四基の複層型処理槽1を一括して制御する構成(
図5)を採用してもよい。
【0065】
〔第一連通路の変形例〕
上記の実施形態では、好気槽2と無酸素槽3にわたって設けられる第一連通路としてドラフトチューブ4が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明における第一連通路は、上記の構成に限定されない。
【0066】
(第一の変形例)
第一連通路の第一の変形例(
図6)では、好気槽2の底面22と無酸素槽3の上面31とにわたって設けられた貫通孔4aの態様で第一連通路が実装されている。なお、この場合、第一連通路を画定する壁面4bを、無酸素槽3の上面31から無酸素槽3の内部に突出する態様で設けると、ドラフトチューブ4の下端42を無酸素槽3側に突出させた態様(
図2)と同様の効果が得られうる。なお、壁面4bは、貫通孔4aの縁に沿って設けられていてもよいし、貫通孔4aの縁から離れた位置に設けられていてもよい。ただし、貫通孔4aの縁と壁面4bとが離れすぎていると、貫通孔4aからガスが逆流する可能性が高くなるため、貫通孔4aの縁と壁面4bとを離間して設けるとしても、壁面4bによって貫通孔4aから連続する第一連通路が画定されると技術的に理解されうる限度であるべきである。
【0067】
(第二の変形例)
第一連通路の第二の変形例(
図7)では、ドラフトチューブ4c(管状部分の例である。)と、ドラフトチューブ4c包囲する鞘管部分4dと、が設けられている。ドラフトチューブ4cの下端42a(一端)は無酸素槽3に開口しており、上端41a(他端)は標準液位より上方に配置されている。また、ドラフトチューブ4cの標準液位に近い位置に、ドラフトチューブ4cの内側と鞘管部分4dの内側とを連通する連通孔43が設けられている。鞘管部分4dの下端44(一端)は、好気槽2の底面22近くに開口しており、上端45(他端)は、標準液位より上方に配置されている。連通孔43は、好気槽2の底面22からの高さが、標準液位の3分の2より高い位置に設けられていることが好ましく、標準液位の5分の4より高い位置に設けられていることがより好ましい。また、鞘管部分4dの下端44は、好気槽2の底面22からの高さが、標準液位の3分の2より低い位置に開口していることが好ましく、標準液位の2分の1より低い位置に開口していることがより好ましく、標準液位の3分の1より低い位置に開口していることがさらに好ましい。
【0068】
第二の変形例では、上記の構成によって、撹拌機5を運転したときに、好気槽2中の液体が、鞘管部分4dの下端44から鞘管部分4dに進入し、連通孔43、ドラフトチューブ4cの順で通って、無酸素槽3に流入する。無酸素槽3では、脱窒菌の活性を維持するため、溶存酸素量(DO)を一定水準以下に保つ必要があるが、好気槽2における溶存酸素量には水面からの深さによってばらつきがあるので、溶存酸素量が比較的低い箇所から採取した硝化液W4を無酸素槽3に供給することが好ましい。第二の変形例では、溶存酸素量が比較的低い、好気槽2の池底付近から採取した硝化液W4を無酸素槽3に供給するので、無酸素槽3における溶存酸素量の上昇を防止しうる。
【0069】
(第三の変形例)
第一連通路の第三の変形例(
図8)では、ドラフトチューブ4e(管状部分の例である。)と、ドラフトチューブ4c包囲する鞘管部分4dと、が設けられている。なお、鞘管部分4dの構成は第二の変形例(
図7)と同様であり、同じ符号で表している。第三の変形例では、ドラフトチューブ4eの上端41b(他端)が標準液位より下方に配置されている点で第二の変形例と異なる。また、第二の変形例では、ドラフトチューブ4cの内側と鞘管部分4dの内側とを連通する連通孔43が設けられているのに対し、第三の変形例では、ドラフトチューブ4eの上端41bにおいてドラフトチューブ4eの内側と鞘管部分4dの内側とが連通している。
【0070】
(第四の変形例)
第一連通路の第四の変形例(
図9)では、ドラフトチューブ4f(管状部分の例である。)と、ドラフトチューブ4fの側面から延び、ドラフトチューブ4fの内側と連通している吸引管4g(第二管状部分の例である。)と、が設けられている。ドラフトチューブ4fの下端42c(一端)は無酸素槽3に開口しており、上端41c(他端)は標準液位より上方に配置されている。吸引管4gは、標準液位に近い位置でドラフトチューブ4fに接続された基端46と、好気槽2の底面22近くに開口している末端47と、を有する。吸引管4gの基端46は、好気槽2の底面22からの高さが、標準液位の3分の2より高い位置に設けられていることが好ましく、標準液位の5分の4より高い位置に設けられていることがより好ましい。また、吸引管4gの末端47は、好気槽2の底面22からの高さが、標準液位の3分の2より低い位置に開口していることが好ましく、標準液位の2分の1より低い位置に開口していることがより好ましく、標準液位の3分の1より低い位置に開口していることがさらに好ましい。
【0071】
なお、吸引管4gは、形状が一定の管状部材であってもよいし、変形可能な管状部材(いわゆるフレキシブルチューブ)であってもよい。また、吸引管4gの数は、一つでも複数でもよい。
【0072】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る複層型処理槽および汚水処理システムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0073】
上記の実施形態では、好気槽2に複数の膜分離装置21が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明における好気槽は、膜分離装置を用いる構成に限定されず、当分野で公知の方式の好気槽が採用されうる。
【0074】
上記の実施形態では、四基の複層型処理槽1(1A、1B、1C、1D)を備える汚水処理システム100を例として説明した。しかし、本発明に係る汚水処理システムにおいて設置される複層型処理槽1の数は限定されず、単数であっても複数であってもよい。一基の複層型処理槽が単独で使用される例を
図10に示す。この例では、脱窒水流路6の末端65が、同じ複層型処理槽1に属する好気槽2に開口しており、単一の複層型処理槽1内で完結する循環系が形成される。
【0075】
上記の実施形態では、複層型処理槽1が好気槽2と無酸素槽3を備え、循環式硝化脱窒法による活性汚水処理に供される構成を例として説明した。しかし、複層型処理槽1が適用される汚水処理方式は特に限定されない。なお、他の汚水処理方式に適用される場合、当該汚水処理方式において必要とされる他の槽(たとえば嫌気槽)が、本発明に係る複層型処理槽と一体に、または別個に、設けられうる。
【0076】
上記の実施形態では、好気槽2に複数の膜分離装置21が設けられ、複層型処理槽1が膜分離活性汚泥法(MBR)に供される構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽が供される汚水処理方式は特に限定されない。なお、他の汚水処理方式に適用される場合、当該汚水処理方式において必要とされる機器や設備などが、本発明に係る複層型処理槽と一体に、または別個に、設けられうる。
【0077】
上記の実施形態では、好気槽2に、モータ51、インペラ52、および軸部材53を有する撹拌機5が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、付勢装置の装置構成および設置位置は、当該付勢装置を運転したときに、好気槽から第一連通路を通じて無酸素槽に流入する流れが形成されるように配置されている限りにおいて限定されない。たとえば、撹拌機は、水中ポンプであってもよい。
【0078】
上記の実施形態では、無酸素槽3の上面31が傾斜している構成を例として説明した。しかし、本発明に係る無酸素槽の上面は、水平であってもよい。
【0079】
上記の実施形態では、無酸素槽3にピット7および散気管8が設けられており、無酸素槽3内で発生したガスが、ピット7および散気管8を経て脱窒水流路6に流入する構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、無酸素槽3内で発生したガスが、脱窒水流路6に直接流入するように構成されていてもよい。また、上記の実施形態では散気管8が給水源に接続されている構成を例として説明したが、散気管を設ける場合に、必ずしも給水源に接続しなくてもよい。
【0080】
上記の実施形態では、脱窒水流路6が突出部分63を有する構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、脱窒水流路が突出部分を有さない構造であってもよい。また、脱窒水流路に突出部分を設ける場合、当該突出部分の上面を開放しておいてもよい。
【0081】
上記の実施形態では、排ガス路9に流量計91が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、当該流量計は必須ではない。
【0082】
上記の実施形態では、脱窒水流路6の突出部分63に消泡ノズル69が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽は、消泡ノズルを有さなくてもよい。
【0083】
上記の実施形態では、制御装置20に流量計66の測定値および流量計91の測定値が入力され、制御装置20が撹拌機5(モータ51)に対して制御信号を出力可能に構成されている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、制御装置の構成および制御方法は任意であり、選択される制御方法に適合した構成の制御装置が採用されうる。また、制御装置と他の構成要素との接続や、各種測定機器の仕様および設置場所などについても、選択される制御方法に適合するように適宜選択されうる。
【0084】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、たとえば、循環式硝化脱窒法による活性汚水処理に供される処理槽および汚水処理システムに利用できる。
【符号の説明】
【0086】
1 :複層型処理槽
2 :好気槽
21 :膜分離装置
22 :好気槽の底面
3 :無酸素槽
31 :無酸素槽の上面
4 :ドラフトチューブ
41 :ドラフトチューブの上端
42 :ドラフトチューブの下端
5 :撹拌機
51 :モータ
52 :インペラ
53 :軸部材
6 :脱窒水流路
61 :脱窒水流路の下端
62 :上向部分
63 :突出部分
64 :下向部分
65 :脱窒水流路の末端
66 :流量計
67 :面体
68 :開口部
69 :消泡ノズル
7 :ピット
8 :散気管
81 :細孔
9 :第三連通路
91 :流量計
20 :制御装置
100 :汚水処理システム
110 :統括制御装置
120 :制御装置
W1 :原水
W2 :処理水
W3 :脱窒水
W4 :硝化液
H :標準液位を表す破線
(第一の変形例)
4a :貫通孔
4b :壁面
(第二の変形例)
4c :ドラフトチューブ
4d :鞘管部分
41a :ドラフトチューブの上端
42a :ドラフトチューブの下端
43 :連通孔
44 :鞘管部分の下端
45 :鞘管部分の上端
(第三の変形例)
4e :ドラフトチューブ
41b :ドラフトチューブの上端
42b :ドラフトチューブの下端
(第四の変形例)
4f :ドラフトチューブ
4g :吸引管
41c :ドラフトチューブの上端
42c :ドラフトチューブの下端
46 :吸引管の基端
47 :吸引管の末端